(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】導電性シームレスベルトおよび画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/00 20060101AFI20221101BHJP
G03G 15/16 20060101ALI20221101BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20221101BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20221101BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20221101BHJP
【FI】
G03G15/00 552
G03G15/00 654
G03G15/16
C08L77/00
C08K3/04
C08K3/01
(21)【出願番号】P 2018166134
(22)【出願日】2018-09-05
【審査請求日】2021-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】393032125
【氏名又は名称】MCCアドバンスドモールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 恭資
(72)【発明者】
【氏名】森越 誠
【審査官】飯野 修司
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-053319(JP,A)
【文献】特開2005-200634(JP,A)
【文献】特開2003-005521(JP,A)
【文献】特開2015-175931(JP,A)
【文献】特開2010-025992(JP,A)
【文献】特開平10-034763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/00
G03G 15/16
C08L 77/00
C08K 3/04
C08K 3/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックおよび導電性無機フィラーを含有し、ポリアミド樹脂を主成分とする組成物からなる導電性シームレスベルトであって、該導電性無機フィラーの平均粒子径が3.5μm以下であり、
かつ、該導電性無機フィラーの体積抵抗率が10
4
Ω・cm以下であり、該組成物中の導電性無機フィラーの含有量が5~12重量%であることを特徴とする導電性シームレスベルト。
【請求項2】
前記導電性無機フィラーの平均粒子径が0.5μm以上2.0μm以下である請求項1に記載の導電性シームレスベルト。
【請求項3】
印加電圧1000V、10秒の条件で測定した表面抵抗率(Ω/□)と、印加電圧500V、10秒の条件で測定した体積抵抗率(Ω・cm)との比が、500~50000の範囲であり、表面粗さ(Ra)が0.15μm以下、JIS P-8115(R=0.38mm)の耐折回数が50000回以上である請求項1または2に記載の導電性シームレスベルト。
【請求項4】
前記導電性無機フィラーが酸化亜鉛系無機化合物よりなる請求項1~
3のいずれかに記載の導電性シームレスベルト。
【請求項5】
前記カーボンブラックのDBP吸油量が50~300cm
3/100g、比表面積が35~500m
2/g、揮発分が0~20%、平均一次粒径が20~50nmである請求項1~
4のいずれかに記載の導電性シームレスベルト。
【請求項6】
前記ポリアミド樹脂が、炭素数10以上の原料モノマーを主成分とするポリアミド樹脂である請求項1~
5のいずれかに記載の導電性シームレスベルト。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれかに記載の導電性シームレスベルトよりなる画像形成装置用ベルト。
【請求項8】
請求項
7に記載の画像形成装置用ベルトを構成部材として含むことを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂が有する特徴の一つである強靱性を維持しつつ、高電圧印加時の除電性に優れ、かつ、表面平滑性を有する導電性シームレスベルト、この導電性シームレスベルトよりなる、電子写真式複写機、レーザービームプリンター、ファクシミリ機等に利用される中間転写ベルト、搬送転写ベルト、感光体ベルト等の画像形成装置用ベルト、並びにこの画像形成装置用ベルトを構成部材として含む画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真式複写機等の画像形成方式には、感光体からなる像担持体表面に形成したトナー像を、紙などの記録媒体へ転写する前に転写部材に一次転写し、その後記録媒体に二次転写する中間転写方式や、紙などの記録媒体を転写部材により搬送し、記録媒体に転写する紙搬送方式などが知られている。ここで使用される転写部材としてはシームレスベルト(エンドレスベルト)が多用されている。
【0003】
例えば、電子写真方式に用いられる中間転写装置は、中間転写体上にトナー像を一旦形成し、次に紙等へトナーを転写させるように構成されている。この中間転写体の表層におけるトナーへの帯電、除電のためにシームレスベルトよりなるエンドレスベルトが用いられている。このシームレスベルトは、マシーンの機種毎に異なった表面電気抵抗や厚み方向電気抵抗(以下、「体積電気抵抗」という)に設定され、導電、半導電、又は絶縁性に調整されている。
【0004】
また、紙搬送転写装置は、紙を一旦搬送転写体上に保持した上で感光体からのトナーを搬送転写体上に保持した紙上へ転写させ、更に除電により紙を搬送転写体より離すように構成されている。この搬送転写体表層においては紙への帯電、除電のためにシーム有りまたは無しのエンドレスベルトが用いられている。このエンドレスベルトは、上記中間転写ベルトと同様にマシーン機種毎に異なった表面電気抵抗や体積電気抵抗に設定されている。
【0005】
中間転写方式、紙搬送転写方式いずれの場合も、これらの画像形成装置に用いられる導電性シームレスベルトは、機能上2本以上のロールにより高張力で高電圧にて長時間駆動されるため、十分な機械的、電気的耐久性が要求される。
【0006】
現在、ポリエステル、フッ素系樹脂、ポリイミド、ポリカーボネート等を主成分とする導電性シームレスベルトベルトが、画像形成装置に使用されているが、コスト、性能の点で満足いく部品とは言い難い状況である。
【0007】
特に、機械強度の点においては、ロールで張架された状態で、屈曲動作が繰り返されることで、機械的にダメージを受け、割れてしまうという問題があり、より高速処理で、かつマシンライフの長い画像形成装置が求められる近年においては、このシームレスベルトの材料を構成する主成分としては強靭な機械的特性をもった樹脂である必要がある。
高い強靭性とコストのバランスがとれたベルトとして、ポリアミド樹脂を主成分としたシームレスベルトが提案されている。
【0008】
また、電気的な耐久性の点において、長時間、高電圧の電気的負荷が印加される状況に対応して、シームレスベルトは、電気的安定性と除電性を持つ必要があり、その為、樹脂成分以外の構成物質も電気的特性を考慮に入れた選定が必要となる。
【0009】
このようなことから、従来、画像形成装置に用いる導電性シームレスベルトに、強靭性、電気的負荷に対する安定性、除電性を付与するために、例えば以下のような技術が提案されている。
【0010】
特許文献1には、電気的安定性が高い特徴を持つポリアミド系材料の導電性シームレスベルトが、また、特許文献2には、良好な耐屈曲性を有するポリアミド系導電性シームレスベルトが提案されているが、これらはいずれも除電性に関しては不十分な点がある。
【0011】
また、特許文献3には、ポリアミド系樹脂を主成分として、特定の最大径、厚さ、およびアスペクト比の板状無機フィラーを配合した、強靭性、高弾性率を備え、温湿度変化、電圧印加に対する電気特性が安定した半導電性シームレスベルトが提案されている。しかし、ここで用いられている板状無機フィラーは、雲母、マイカ、セリライト、タルク、二酸化チタンなどの導電性が低い絶縁性物質であるため、導電性を付与するためにカーボンブラックなどの導電性物質を含有させて画像形成装置に使用した場合、マシーン機種に最適な表面抵抗率を設定した場合の体積抵抗率の値が大きくなり、除電性が低く、ベルト自体、およびその周辺部品、トナー、紙を帯電させる可能性がある。
【0012】
特許文献4には、フッ素系重合体を主成分として、カーボンブラックと導電性フィラーを含有する半導電性シームレスベルトが提案されているが、フッ素系樹脂特有の、おそらくは無機フィラーとの親和性の低さのために、長時間電圧を印加した時の抵抗値の安定性が十分でなく、最適な表面抵抗率を設定した場合の体積抵抗率は小さいが、電流がリークしやすい問題がある。また、耐クラック性についても不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開平11-352796号公報
【文献】特開2001-350347号公報
【文献】特開2012-58471号公報
【文献】特開平10-34763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、各種画像形成装置の長期の繰り返し使用に対する耐久性の向上のニーズに対し、高い強靱性と高電圧印加時の高い除電性とを両立した導電性シームレスベルト、この導電性シームレスベルトよりなる画像形成装置用ベルト、並びにこの画像形成装置用ベルトを用いた画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、ポリアミド樹脂にカーボンブラックと共に特定の平均粒子径の導電性無機フィラーを特定の割合で配合したポリアミド樹脂組成物を用いることにより、上記課題を容易に解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0016】
[1] カーボンブラックおよび導電性無機フィラーを含有し、ポリアミド樹脂を主成分とする組成物からなる導電性シームレスベルトであって、該導電性無機フィラーの平均粒子径が3.5μm以下であり、該組成物中の導電性無機フィラーの含有量が5~20重量%であることを特徴とする導電性シームレスベルト。
【0017】
[2] 印加電圧1000V、10秒の条件で測定した表面抵抗率(Ω/□)と、印加電圧500V、10秒の条件で測定した体積抵抗率(Ω・cm)との比が、500~50000の範囲であり、表面粗さ(Ra)が0.15μm以下、JIS P-8115(R=0.38mm)の耐折回数が50000回以上である[1]に記載の導電性シームレスベルト。
【0018】
[3] 前記導電性無機フィラーの体積抵抗率が104Ω・cm以下である[1]または[2]に記載の導電性シームレスベルト。
【0019】
[4] 前記導電性無機フィラーが酸化亜鉛系無機化合物よりなる[1]~[3]のいずれかに記載の導電性シームレスベルト。
【0020】
[5] 前記カーボンブラックのDBP吸油量が50~300cm3/100g、比表面積が35~500m2/g、揮発分が0~20%、平均一次粒径が20~50nmである[1]~[4]のいずれかに記載の導電性シームレスベルト。
【0021】
[6] 前記ポリアミド樹脂が、炭素数10以上の原料モノマーを主成分とするポリアミド樹脂である[1]~[5]のいずれかに記載の導電性シームレスベルト。
【0022】
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の導電性シームレスベルトよりなる画像形成装置用ベルト。
【0023】
[8] [7]に記載の画像形成装置用ベルトを構成部材として含むことを特徴とする画像形成装置。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、種画像形成装置の長期の繰り返し使用に対する耐久性の向上のニーズに対し、高い強靱性と高電圧印加時の高い除電性とを両立した導電性シームレスベルトおよび画像形成装置用ベルトと、それを使用した画像形成装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0026】
なお、以下において、印加電圧500V、10秒にて測定した体積抵抗率(Ω・cm)を「VR(500V)」、印加電圧1000V、10秒にて測定した表面抵抗率(Ω/口)を「SR(1000V)」、と表記する。
また、本発明において、主成分」とは複数の成分を配合してなる材料において、当該配合材料中で最も多く含まれている成分をさす。
【0027】
本発明の導電性シームレスベルトは、カーボンブラックおよび導電性無機フィラーを含有し、ポリアミド樹脂を主成分とする組成物(以下、「本発明のポリアミド樹脂組成物」と称す場合がある。)からなる導電性シームレスベルトであって、該導電性無機フィラーの平均粒子径が3.5μm以下であり、該組成物中の導電性無機フィラーの含有量が5~15重量%であることを特徴とする。
【0028】
なお、本発明の導電性シームレスベルトは、表面抵抗率SR(1000V)が103~108Ω/□である高い導電性を有するものだけでなく、表面抵抗率SR(1000V)108~1015Ω/□である比較的低い導電性を有し、一般的に「半導電性シームレスベルト」と呼称される導電性シームレスベルトをも包含するものである。
【0029】
[ポリアミド樹脂]
ポリアミド樹脂は、主鎖に-CO-NH-(アミド)結合を有する高分子化合物であり、ポリアミド樹脂としては以下のようなものが挙げられる。
(A-1)ラクタムの開環重合で得られるポリアミド樹脂
(A-2)ω-アミノカルボン酸の自己縮合で得られるポリアミド樹脂
(A-3)ジアミンおよびジカルボン酸を縮合することで得られるポリアミド樹脂
(A-4)上記(A-1)~(A-3)のいずれかの共重合物
本発明において、ポリアミド樹脂は、これらの1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0030】
(A-1)ポリアミド樹脂の原料となるラクタムとしては、特に限定されないが、例えば、ピロリドン、カプロラクタム、ウンデカラクタム、ドデカラクタムなどが挙げられる。
【0031】
(A-2)ポリアミド樹脂の原料となるω-アミノカルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、上記ラクタムの水による開環化合物であるω-アミノ脂肪酸などが挙げられる。
なお、(A-1)ポリアミド樹脂、(A-2)ポリアミド樹脂は、それぞれ2種以上のラクタム又はω-アミノカルボン酸を併用して縮合させたものであってもよい。
【0032】
(A-3)ポリアミド樹脂の原料となるジアミン(単量体)としては、特に限定されないが、例えば、ヘキサメチレンジアミンやペンタメチレンジアミン等の直鎖状の脂肪族ジアミン;2-メチルペンタンジアミンや2-エチルヘキサメチレンジアミン等の分岐型の脂肪族ジアミン;p-フェニレンジアミンやm-フェニレンジアミン等の芳香族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、シクロペンタンジアミンやシクロオクタンジアミン等の脂環式ジアミンなどが挙げられる。
(A-3)ポリアミド樹脂の原料となるジカルボン酸(単量体)としては、特に限定されないが、例えば、アジピン酸、ピメリン酸やセバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸;フタル酸やイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸などが挙げられる。
(A-3)ポリアミド樹脂は、それぞれ1種又は2種以上のジアミンおよびジカルボン酸を併用して縮合させたものであってもよい。
【0033】
本発明で用いるポリアミド樹脂としては、特に限定されないが、脂肪族ポリアミド樹脂として例えば、ポリアミド4(ポリα-ピロリドン)、ポリアミド6(ポリカプロアミド)、ポリアミド11(ポリウンデカンアミド)、ポリアミド12(ポリドデカンアミド)、ポリアミド46(ポリテトラメチレンアジパミド)、ポリアミド56(ポリペンタメチレンアジパミド)、ポリアミド66(ポリヘキサメチレンアジパミド)、ポリアミド610(ポリヘキサメチレンセバカミド)、ポリアミド612(ポリヘキサメチレンドデカミド)、ポリアミド1010(ポリデカメチレンセバカミド)、ポリアミド1012(ポリデカメチレンドデカミド)などが挙げられる。また、環状構造を有するものとして、ポリアミド6T(ポリヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド9T(ポリノナンメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド10T(ポリデカメチレンテレフタルアミド)、およびポリアミド6I(ポリヘキサメチレンイソフタルアミド)、MXDナイロンなどが挙げられる。
【0034】
また、ソフトセグメントとしてポリエーテル構造などを導入したポリアミド12主骨格のポリアミドエラストマーのようなアミド結合を有するエラストマーを用いてもよい。
【0035】
本発明で用いるポリアミド樹脂は、ポリアミド樹脂を構成するモノマー、即ち、ポリアミド樹脂の製造原料モノマーが炭素数10以上のモノマーを主成分とするものが、吸水による寸法変化、抵抗値変化などが少ない点で好ましい。このような観点から、ポリアミド樹脂としては、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド1010、ポリアミド1012等が好ましく、特にポリアミド12、ポリアミド11等が好ましい。
【0036】
本発明で用いるポリアミド樹脂の物性については特に制限はないが、ISO1133に基づくMFR(235℃、2.16kgf荷重)は0.5~25g/10分、特に3~15g/10分であることが好ましい。MFRが上記下限以上であれば、本発明のポリアミド樹脂組成物に良好な流動性を確保できるため、成形時、シート表面の均一性が得られやすく、上記上限以下であれば、十分な機械的強度を確保できる。
また、ISO11357-3に基づく結晶融点は130~310℃、特に170~230℃であることが好ましい。結晶融点が上記下限以上であれば、画像形成装置内の温度上昇によるシートの変形を抑制でき、上記上限以下であれば、加工温度が高すぎることによる樹脂劣化による機械的物性の低下、または劣化物の混入を防止できる。
【0037】
ポリアミド樹脂のMFRは、樹脂の分子量により調整することができる。また、結晶融点はポリアミド樹脂の構成するモノマーの種類、また複数のモノマーからなるポリマーの場合はその重合比率により調整することができる。
【0038】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、このようなポリアミド樹脂を主成分として60重量%以上、特に70~90重量%含有することが好ましい。
【0039】
[その他の樹脂]
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂を主成分とするものであるが、本発明の効果を損なわない範囲であれば、ポリアミド樹脂以外のその他の樹脂を含有していてもよい。
【0040】
本発明のポリアミド樹脂組成物が含有し得るその他の樹脂としては、具体的には、ポリプロピレン、ポリエチレン(高密度,中密度,低密度,直鎖状低密度)、プロピレン・エチレンブロック又はランダム共重合体、ゴム又はラテックス成分、例えばエチレン・プロピレン共重合体ゴム、スチレン・ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加誘導体、ポリブタジエン、ポリイソブチレン、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリアルキレンテレフタレート(PAT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフェニレンオキシド(PPE)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリメチルペンテン(TPX)、ポリオキシベンジレン(POB)、ポリイミド、液晶性ポリエステル、ポリスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリビスアミドトリアゾール、ポリアミノビスマレイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、アクリル、ポリフッ素化ビニリデン、ポリフッ素化ビニル、クロロトリフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、アクリル酸アルキルエステル共重合体、ポリエステルエステル共重合体、ポリエーテルエステル共重合体、ポリエーテルアミド共重合体、ポリウレタン共重合体等の熱可塑性樹脂の1種又は2種以上が挙げられる。
更に、本発明の効果を著しく損なわない範囲で上記以外の各種熱可塑性樹脂や各種エラストマー、熱硬化性樹脂を含有させてもよい。
【0041】
本発明のポリアミド樹脂が、これらのその他の樹脂を含有することで、耐熱性、剛性、柔軟性の向上といった効果を得ることができる場合があるが、その他の樹脂の含有量が多過ぎると、ポリアミド樹脂を主成分として用いることによる本発明の効果を十分に得ることができないおそれがある。このため、本発明のポリアミド樹脂組成物が、ポリアミド樹脂以外のその他の樹脂を含有する場合、その含有量は、20重量%以下、例えば5~15重量%であることが好ましい。
【0042】
[カーボンブラック]
本発明において、カーボンブラックは、シームレスベルトにした際の機械特性、電気特性、寸法特性、化学特性を考慮して配合されるものであり、粉体品、もしくは粒状品であることが好ましく、また粉体は均一であることが好ましい。
【0043】
本発明のポリアミド樹脂組成物中のカーボンブラックの含有量は用いるカーボンブラックの種類や要求特性などによっても異なるが、5~20重量%、特に12~18重量%の範囲とすることが好ましい。この範囲よりも少なすぎると、導電性が発現されない場合があり、シームレスベルト中のカーボンブラックの分散状態が粗くなり電気抵抗率がばらつきやすくなる。また、接触抵抗が大きく環境に左右されるようになり、画像形成装置にシームレスベルトとして搭載した場合、環境によっては画像異常を発生させる場合がある。また、この範囲よりも多すぎるとシームレスベルトの剛性が上がり、耐久性が損なわれたり、成形性が損なわれたりするおそれがある。
【0044】
また、本発明では、以下の理由から、用いるカーボンブラックは、pH4以上、特に4~10で、DBP吸油量50~300cm3/100g、比表面積35~500m2/g、揮発分0~20%、平均一次粒径20~50nmを満たすことが好ましい。
【0045】
カーボンブラックのpHが4未満であっても、10を超えても、樹脂成分および各種添加剤成分を加水分解させる可能性があるため、カーボンブラックのpHは、4以上、特に4~10が好ましい。
カーボンブラックのpHは、ビーカーにカーボンブラック1gにつき水10mgを加え、15分間煮沸したものを室温まで冷却した後、傾斜法または遠心分離法にて上澄み液を除去したのちの泥状物にガラス電極pH計の電極を挿入してJIS 2882に従って計測される。
【0046】
カーボンブラックのDBP吸油量が大きいほど、カーボンは数珠状に連なった連鎖を形成しやすく、少量で導電性を発現しやすいため低コストな利点があるが、前述の通り、ポリアミド樹脂組成物中のカーボンブラックの含有量が少なくなると、材料全体の電気抵抗率の均一性が悪化し、帯電量が多くなる不具合がある。反対にカーボンブラックのDBP吸油量が少なすぎると、カーボン連鎖を形成しにくいため導電性を発現させるためのカーボンブラックの必要量が多くなりすぎ、材料の耐屈曲性を損なうこととなる。
上記の電気的特性と機械強度のバランスを考慮に入れると、カーボンブラックのDBP吸油量は、50~300cm3/100gの範囲が好ましい。
【0047】
カーボンブラックの比表面積が大きいほど、少量で導電性が発現するため、機械的強度が高いという点で有利となるが、比表面積が大きいカーボンブラックは一般に粒径が小さいため、樹脂中に分散させる場合にカーボンブラック粒子が、いわゆる、だまになりやすく、その結果、カーボン凝集体が得られるシームレスベルト中に混在するようになり、カーボン凝集体の箇所に電気が集中し部分的な絶縁破壊を発生させやすい。また、カーボンブラックの比表面積が小さすぎる(カーボン粒子が大きすぎる)と、カーボン凝集体を形成しにくいため、得られるシームレスベルトの外観は平滑な反面、カーボン粒子間の接触により導電性発現が左右されやすく電気抵抗率がばらつきやすい傾向がある。
上記のカーボンの凝集のしやすさと、機械強度、電気抵抗率の均一性の点から、カーボンブラックの平均一次粒径は20~50nmであり、比表面積は35~500m2/gの範囲であることが好ましい。
【0048】
カーボンブラックの揮発分が多いほど、その表面特性によりカーボンの分散性は良好になる反面、加熱混練中にガスを発生させるため、成形上不利である。逆に、カーボンブラックの揮発分が少ないほど、加熱混練中のガスが発生しにくいため成形性は良好である反面、分散性は悪化する傾向にある。
従って、好ましいカーボンブラックの揮発分は0~20%である。
【0049】
カーボンブラックは、上記pH、DBP吸油量、比表面積、揮発分、平均一次粒径を満たすものであれば、その種類には特に制限はなく、また、使用するカーボンブラックは1種類であっても2種類以上であってもよい。
【0050】
カーボンブラックの種類としては、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどが好適に使用できるものとして例示でき、これらの中でもカリウム、カルシウム、ナトリウムなどの灰分とよばれる不純物が少なく外観不良を発生しにくいアセチレンブラックが特に好適に使用できる。また、樹脂を被覆したカーボンブラックや、加熱処理したカーボンブラックや黒鉛化処理したカーボンブラック等の後処理工程を施したカーボンブラックも使用することもできる。
更に、分散性を向上させる目的、ガス発生を抑制させる目的でシラン系、アルミネート系、チタネート系、およびジルコネート系等のカップリング剤で処理したカーボンブラックを用いてもよい。
【0051】
[導電性無機フィラー]
本発明で使用される導電性無機フィラーは、平均粒子径が3.5μm以下の導電性無機フィラーであればよく、その材質等は特に限定されるものではないが、例えば、金属系導電性フィラー、金属酸化物系導電性フィラー等が挙げられる。
【0052】
金属系導電性フィラーとしては、銀、ニッケル、亜鉛などの粉状のものが挙げられる。また、フレーク状のものとしてはアルミフレーク、銀フレーク、ニッケルフレークなどが挙げられる。
金属繊維状のものとしては、鉄、銅、ステンレスなどがある。
【0053】
金属酸化物系導電性フィラーの金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化錫、酸化インジウム、酸化チタンなどがある。これらの中でも、酸化亜鉛が最も好ましく、ポリアミド樹脂とカーボンブラックに酸化亜鉛を組み合わせることによって、本発明の効果をより一層顕著に得ることができる。
【0054】
金属酸化物系導電性フィラーの中には、格子欠陥の存在により余剰電子が生成して、導電性を示すものがある。この性質を利用して、ドーパントを添加し、空孔の形成を促進して導電性を増加させたフィラーである。酸化亜鉛のドーパントとしてはアルミニウムなど、酸化錫のドーパントとしてはアンチモンなど、酸化インジウムのドーパントとしては錫などが使用されている。
【0055】
また、導電性無機フィラーは、導電性被覆フィラーであってもよい。導電性被覆フィラーは、各種フィラーを導電性の素材でコートした導電性フィラーである。特に、導電性酸化錫でコートしたものが広く使用されており、例えばチタン酸カリ系白色導電性フィラーなどがある。
これらの中でも、特に外観不良や強度の問題を防ぐために、金属イオンをドープした導電性被覆をもつ金属酸化物系である導電性酸化チタン(TiO2、被覆部SnO2(Snドープ))、導電性酸化亜鉛(ZnO、被覆部SnO2(Al3+ドープ))などが好ましい。
【0056】
本発明で使用する導電性無機フィラーの体積抵抗率は、104Ω・cm以下、特に103Ω・cm以下であることが、導電性の観点から好ましい。
【0057】
上記の体積抵抗率、樹脂への分散性の観点から、本発明で用いる導電性無機フィラーは、酸化亜鉛系無機化合物よりなることが好ましい。
【0058】
本発明で使用する導電性無機フィラーの大きさとしては、シームレスベルトの機械的強度低下、表面粗さの増大を抑制する点から、平均粒子径で3.5μm以下である必要があり、好ましくは2.0μm以下である。導電性無機フィラーの平均粒子径の下限については特に制限はないが、凝集物によるシート表面の欠陥発生の観点から0.5μm以上であることが好ましい。
また、導電性無機フィラーの最大粒子径については、同じく、シームレスベルトの機械的強度低下、表面粗さの増大を抑制する観点から7.0以下であることが好ましい。
【0059】
これらの導電性無機フィラーは、分散性の向上、機械強度低下の抑制のために、シラン系、アルミネート系、チタネート系、ジルコネート系等のカップリング剤で表面処理することが好ましい。
特に、ポリアミド樹脂との相性を考慮にすると、エポキシ変性シランカップリング剤、アミノ変性シランカップリング剤で表面処理して用いることが好ましい。
【0060】
導電性無機フィラーの表面処理方法としては、直接、導電性無機フィラーに表面処理剤を添加または吹き付けながら、ミキサーで攪拌する方法や、表面処理剤を溶媒で希釈して同様な処理を施す方法がある。
【0061】
これらの導電性無機フィラーは、1種のみを用いてもよく、材質や粒径、物性、表面処理剤の種類等の異なるものを2種以上混合して用いてもよい。
【0062】
本発明のポリアミド樹脂組成物中の導電性無機フィラーの含有量は、5~20重量%であり、好ましくは6~15重量%であり、より好ましくは7~12重量%である。導電性無機フィラーの含有量が5重量%未満であると、表面抵抗率に対する体積抵抗率の値が低くなって、後述の好ましいSR(1000)/VR(500V)を満たすことができなくなり、20重量%を超えると、シームレスベルトの機械的強度の低下、表面粗さの増大を招き、好ましくない。
【0063】
[その他の配合成分]
本発明のポリアミド樹脂組成物は、各種目的に応じて、上述のポリアミド樹脂、必要に応じて配合されるポリアミド樹脂以外のその他の樹脂、カーボンブラックおよび導電性無機フィラー以外のその他の任意の配合成分を含有することができる。ただし、耐熱エンプラなどには加熱混練時に揮発しないよう、付加的成分の耐熱性に考慮する必要があり、配合の必要が無い場合もある。
【0064】
本発明のポリアミド樹脂組成物が含有し得るその他の配合成分としては、具体的には、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤などの酸化防止剤、熱安定剤、各種可塑剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、滑剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、架橋剤、架橋助剤、着色剤、難燃剤、分散剤等の各種添加剤の1種又は2種以上が挙げられる。
更に、本発明の効果を著しく損なわない範囲内で、上記導電性無機フィラー以外の各種フィラー等の配合材を配合することができる。
【0065】
[導電性シームレスベルトの製造]
本発明の導電性シームレスベルトは、ポリアミド樹脂、カーボンブラック、導電性無機フィラー、および必要に応じて用いられるその他の樹脂や各種添加剤等を加熱混練して本発明のポリアミド樹脂組成物を製造した後、シームレスベルトに成形することで製造される。
【0066】
この場合、本発明のポリアミド樹脂組成物を得る段階での加熱混練、本発明のポリアミド樹脂組成物をシームレスベルトに成形する段階での加熱混練のいずれかで、所望の表面抵抗率が得られるような混練条件を調節する。いずれの場合でも、溶融状態でないと十分な分散ができないので、加熱温度はある程度は高い方が好ましく、具体的にはポリアミド樹脂の結晶融点を目安に用いて、ポリアミド樹脂の結晶融点以上とすることが好ましく、結晶融点+10℃以上であると更に好ましい。また、加熱温度が高すぎると熱分解を引き起こして物性劣化を招くことがあるので、このような物性劣化を引き起こすことのない温度とする。具体的にはポリアミド樹脂の結晶融点を目安に用いて、ポリアミド樹脂の結晶融点+80℃以下が好ましく、結晶融点+60℃以下であることが更に好ましい。
【0067】
また、加熱混練前には原料を乾燥することにより、より良い物性のシームレスベルトが得られることがあるので乾燥を行うことが好ましい。また、場合によっては、加熱混練して本発明のポリアミド樹脂組成物とした後に、ポリアミド樹脂の結晶融点以下で熱処理を施して、シームレスベルトに成形することもできる。
【0068】
また、上記の加熱混合前にポリアミド樹脂とカーボンブラック、導電性無機フィラー、各種添加剤等をミキサーなどで予備混合してもよい。ポリアミド樹脂はペレット状、フレーク状、粉末状のものが選択でき、予備混合する場合は、カーボンブラック、導電性無機フィラーと同様の嵩密度のものを選定するとよい。
【0069】
また、加熱混合時に減圧(脱揮)することにより、分解により発生する低分子量のオリゴマーや、水分などを除くことができ、シームレスベルトにした際に発泡やブツといった外観不良を低減でき、且つブリードによるサージング発生を抑制することができる。
【0070】
加熱混合手段にも特に制限はなく公知の技術を用いることができる。例えば、まずポリアミド樹脂、カーボンブラック、導電性無機フィラー、および必要に応じて配合されるその他の添加成分を加熱混合して本発明のポリアミド樹脂組成物とするのであれば、一軸押出機、二軸混練押出機、バンバリーミキサー、ロール、ニーダーなどを用いることができる。
【0071】
特に、ポリアミド樹脂、カーボンブラック、導電性無機フィラー、および必要に応じて配合されるその他の添加成分を、例えば二軸混練押出機により混合し、ペレット化した後にシームレスベルトとなるように成形する手法が好ましく用いられる。
【0072】
成形方法については、特に限定されるものではなく、連続溶融押出成形法、射出成形法、ブロー成形法、あるいはインフレーション成形法など公知の方法を採用して得ることができるが、特に望ましいのは、連続溶融押出成形法である。特に押し出したチューブの内径を高精度で制御可能な下方押出方式の内部冷却マンドレル方式あるいはバキュームサイジング方式が好ましく、内部冷却マンドレル方式が最も好ましい。
【0073】
また、この成形時の温度、滞留時間の適正化により、より良好な物性のシームレスベルトを得ることができるので各配合にあわせて条件を調整することが好ましい。
【0074】
[導電性シームレスベルトの物性]
本発明の導電性シームレスベルトは、以下の物性を有することが好ましい。
【0075】
<表面粗さ(Ra)>
シームレスベルトの表面粗さが大きいとクリーニングブレードによるクリーニング性が低下しトナーがすり抜けるため好ましくない。このような観点から、本発明の導電性シームレスベルトの表面粗さ(Ra)は、0.15μm以下であることが好ましい。一方、表面粗さ(Ra)が0.02μm未満であると、トナーの一次転写効率が悪化してしまうことがある。したがって、本発明の導電性シームレスベルトの表面粗さ(Ra)は0.15μm以下、特に0.02~0.15μmの範囲であることが好ましく、0.02~0.10μmの範囲であることがとりわけ好ましい。
【0076】
シームレスベルトの表面粗さ(Ra)は例えば(株)キーエンス製VK8500などの非接触式共焦点レーザー顕微鏡などで測定できる。具体的には100倍のレンズ倍率を使用し、任意の単位面積あたりの表面粗さ(Ra)を測定することができ、例えば面積40μm2においての表面粗さを測定し、その平均値をとることができる。
実際の測定は、シームレスベルトを約50mm×50mmのサンプルにカットし、(株)キーエン製VK8500(非接触式共焦点レーザー顕微鏡)を用い、レンズ倍率100倍、ピッチ0.01μm、AUTO測定モードで40μm×40μmのエリアの表面粗さを4回測定したときの平均値を表面粗さ(Ra)の測定値とする。
【0077】
<耐屈曲性>
シームレスベルトを例えば中間転写ベルトとして画像形成装置に用いる場合、耐屈曲性が悪いとクラックが発生して画像が得られなくなるので耐屈曲性の良好なシームレスベルトが好ましい。
耐屈曲性の程度は、JIS P-8115の耐折回数の測定方法に従うことで定量的に評価でき、耐折回数の大きいシームレスベルトほどクラックが入りにくく、耐屈曲性に優れていると判断することができる。
本発明の導電性シームレスベルトの耐折回数の具体的な数値としては、R=0.38の測定で、500回以上あれば一応シームレスベルトとして機能を発揮して使用することができるが、実用的には50000回以上が好ましく、70,000回以上であれば更に好ましく、100,000回以上であれば、特にクラックが発生しにくくなるので特に好ましい。
【0078】
<表面抵抗率・体積抵抗率>
本発明の導電性シームレスベルトの抵抗領域は目的により異なるが、表面抵抗率SR(1000V)1~1×1016Ω/□の範囲から選定することが好ましい。表面抵抗率の更に好ましい範囲は用途により異なるが、例えば感光体ベルトとして用いる場合には必要に応じて外表面の電荷を内表面に逃がせるように、1~1×109Ω/□と低い表面抵抗率が好ましく、中間転写ベルトとして用いる場合には、帯電-転写が容易にできる1×106~1×1013Ω/□が好ましく、搬送転写ベルトとして用いる場合には、帯電しやすく高電圧でも破損しにくい1×1010~1×1016Ω/□と高い領域が好ましい。
また、体積抵抗率VR(500V)に関しては、いずれの用途のケースでも、除電性、耐電圧の点から、1×107~1×1013Ω・cmの範囲が好ましい。
【0079】
また、導電性シームレスベルト1本中の表面抵抗率の分布は狭い方が好ましく、それぞれの好ましい表面抵抗率領域において、1本中の最大値と最小値の差が1桁以内であることが好ましい。
【0080】
本発明の導電性シームレスベルトは、表面抵抗率SR(1000V)(Ω/□)を体積抵抗率VR(500V)(Ω・cm)で除した値SR(1000)/VR(500V)が500~50000の範囲であることが好ましい。SR(1000)/VR(500V)が500未満では、除電性の不足により、シートが帯電しやすく、画質に悪影響を与える。逆にSR(1000)/VR(500V)が50000を超えると絶縁性不足のため、電圧的負荷により短絡してしまう。SR(1000)/VR(500V)は特に1000~10000の範囲であることが好ましく、500~5000の範囲であることがより好ましい。
【0081】
本発明の導電性シームレスベルトの表面抵抗率および体積抵抗率は例えば三菱ケミカルアナリテック(株)製ハイレスタUX-MCP-HT800,ロレスタMCPT-700や(株)エーディーシー製R8340Aなどにより容易に測定することができる。
実際の表面抵抗率が109~1×1014Ω/□となるサンプルはダイヤインスツルメント(株)製 ハイレスタ(UR端子)を使用し、1000V、10秒の条件にて20mmピッチでベルト円周方向を測定し、得られた表面抵抗率の平均値をSR(1000V)とした。
また、体積抵抗率は、ダイヤインスツルメント(株)製ハイレスタ(UR端子)を使用し、500V、10秒の条件にて20mmピッチにてベルト円周方向を測定し、得られた体積抵抗率の平均値をVR(500V)とした。
【0082】
<厚み>
本発明の導電性シームレスベルトの厚みは好ましくは50~1000μmであり、さらに80~500μm、特に100~200μmの範囲であることが好ましい。
【0083】
[導電性シームレスベルトの用途]
本発明の導電性シームレスベルトの用途に特に制限はないが、画像形成装置用ベルト、例えば電子写真式複写機、レーザービームプリンター、ファクシミリ機等の画像形成装置の、特に中間転写ベルト、搬送転写ベルト、感光体ベルトなどとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0084】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0085】
[原料]
シームレスベルトの製造原料としては以下のものを用いた。
【0086】
<ポリアミド樹脂>
ポリアミド樹脂1:ポリアミド12
MFR(230℃、2.16kgf荷重):8g/10分[ISO1133]
結晶融点:175~180℃[ISO11357-3]
ポリアミド樹脂2:下記ポリアミド12Aとポリアミド12Bのポリアミド12A/ポリアミド12B=70/30(重量%)のブレンド物
ポリアミド12A:
MFR(235℃、2.16kgf荷重):3.0g/10分[ISO1133]
結晶融点:178℃[ISO11357-3]
ポリアミド12B:
MFR(235℃、2.16kgf荷重):12g/10分[ISO1133]
結晶融点:175~180℃ [ISO11357-3]
ポリアミド樹脂3:ポリアミド12
MFR(235℃、2.16kgf荷重):10g/10分[ISO1133]
結晶融点:175~180℃ [ISO11357-3]
【0087】
<その他の樹脂>
ETFE:テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体
MFR(300℃、2.16kgf荷重):1.4~2.0g/10分[ISO1133]
【0088】
<カーボンブラック>
デンカ社製アセチレンブラック「デンカブラック」
pH:9
DBP吸油量:180cm3/100g
比表面積:65m2/g
揮発分:0%
平均一次粒径:39nm
【0089】
<導電性無機フィラー>
導電性酸化亜鉛A:アルミニウムドープ酸化亜鉛
体積抵抗率:100~500Ω・cm
(必要に応じて粉砕及び/又は分級を行って表1に示す平均粒子径および
最大粒子径に調整したもの)
【0090】
<絶縁性無機フィラー>
マイカA :体積抵抗率:1012~1015Ω・cm
平均粒子径:24μm
最大粒子径:88μm
マイカB :体積抵抗率:1012~1015Ω・cm
平均粒子径:3.8μm
最大粒子径:11μm
ハードクレイ :体積抵抗率:1012~1015Ω・cm
平均粒子径:0.7μm
最大粒子径:3.7μm
【0091】
<シランカップリング剤>
3-アミノプロピルトリエトキシシラン
【0092】
<酸化防止剤>
BASF(株)製 フェノール系酸化防止剤 「IRGANOX1098」
【0093】
[無機フィラーの粒子径の測定]
無機フィラーの平均粒子径及び最大粒子径は、(株)堀場製作所製 HORIBAレーザー粒度測定機「HORIBALA-30」を用い、試料0.01~0.1gをエタノール10mL中で5分間超音波分散処理した分散液について測定を行った。
【0094】
[導電性無機フィラーの表面処理]
(株)カワタ製のスーパーミキサーSMV-Ba(容量=20L)に、導電性酸化亜鉛A:10kgを投入し、回転数:500rpmで回転させながら、20g/minでシランカップリング剤を、導電性酸化亜鉛A:100重量部に対するシランカップリング剤:0.5重量部となるように投入し、投入完了後5分間攪拌混合した。
ただし、比較例7では、表面処理を行わずに導電性酸化亜鉛Aを用いた。
【0095】
[絶縁性無機フィラーの表面処理]
マイカA,Bおよびハードクレイの表面処理は、表面処理剤としてステアリン酸を用いたこと以外は、上記の導電性無機フィラーの表面処理と同様に行った。
【0096】
[樹脂組成物の製造・シームレスベルトの成形]
以下の実施例及び比較例では、いずれも以下の方法で樹脂組成物(材料ペレット)の製造とシームレスベルトの成形を行った。
まず、各原料を、二軸混練押出機(IKG(株)製 PMT32)を用いて材料ペレット化した。
該押出機はL/D=32、2ベント式、各々のベントより原料投入側にニーディングを配し、原料投入側のベントは開放するのみ、溶融樹脂吐出側は真空ポンプにて-760mmHgまで減圧した。樹脂の吐出量は14kg/hとし、シリンダーの温度はホッパーに一番近いシリンダーから原料投入側のベントがついたシリンダーまでを250℃、それ以外を200℃とし、回転数は140rpmとした。吐出された溶融樹脂をストランド状にして水槽を通過させた後、ペレタイズして所定の大きさの材料ペレットを作成した。
【0097】
得られた材料ペレットを130℃で12時間乾燥し、φ190mm、ダイスリップ幅1.5mmの6条スパイラル型環状ダイつき40mmφの押出機により、環状ダイ下方に溶融チューブ状態で押し出し、押出した溶融チューブを、環状ダイと同一軸線上に支持棒を介して装着した外径184mmの冷却マンドレルの外表面(温度110℃)に接しめて冷却固化させつつ、次に、シームレスベルトの中に設置されている円筒形の中子と外側に設置されている4点式ベルト引取機により、シームレスベルトを円筒形に保持した状態で引き取り、300mm長の長さで輪切りにして、厚み140μm、内径182mmのシームレスベルトとした。このシームレスベルトの引き取り時には、厚みと共に、表面抵抗が所定範囲となるように押出し量と引き取り速度、押出温度を調整した。
【0098】
[シームレスベルトの評価]
得られたシームレスベルトの評価方法は以下の通りである。
【0099】
<抵抗値>
(表面抵抗率)
表面抵抗率が109~1×1014Ω/□となるサンプルはダイヤインスツルメント(株)製 ハイレスタ(UR端子)を使用し、1000V、10秒の条件にて20mmピッチでベルト円周方向を測定し、得られた表面抵抗率の平均値をSR(1000V)とした。
【0100】
(体積抵抗率)
ダイヤインスツルメント(株)製ハイレスタ(UR端子)を使用し、500V、10秒の条件にて20mmピッチにてベルト円周方向を測定し、得られた体積抵抗率の平均値をVR(500V)とした。
【0101】
<耐折回数>
JIS P-8115に準拠し、シームレスベルトから幅15mm、長さ100mmの大きさの試験片を切断し、この試験片に対して、MIT試験機にて折り曲げ速度175回/分、回転角度135°左右、引張荷重1.0kgfの条件にて、先端部の曲率半径R=0.38mmの折り曲げ治具を用い、それぞれの破壊に至る折り曲げ回数を測定した。数値は3点の平均値を用いた。
【0102】
<表面粗さ(Ra)>
シームレスベルトを約50mm×50mmのサンプルにカットし、(株)キーエンス製VK8500(非接触式共焦点レーザー顕微鏡)を用い、レンズ倍率100倍、ピッチ0.01μm、AUTO測定モードで40μm×40μmのエリアの表面粗さを4回測定したときの平均値を表面粗さ(Ra)の測定値とした。
【0103】
[実施例1]
ベース樹脂としてポリアミド樹脂1を用いた。
導電性無機フィラーとして、表1に示す最大粒子径及び平均粒子径の導電性酸化亜鉛Aを表面処理したものを使用した。
ベース樹脂/カーボンブラック/導電性無機フィラー=76/14/10の重量組成比となるように配合し、これらの合計100重量部に対して酸化防止剤を0.2重量部添加し、加熱混練後、シームレスベルトを成形した。
【0104】
[実施例2]
ベース樹脂としてポリアミド樹脂2を用いた。
導電性無機フィラーとして、表1に示す最大粒子径及び平均粒子径の導電性酸化亜鉛Aを表面処理したものを使用した。
ベース樹脂/カーボンブラック/導電性無機フィラー=72.5/12.5/15の重量組成比となるように配合し、これらの合計100重量部に対して酸化防止剤を0.2重量部添加し、加熱混練後、シームレスベルトを成形した。
【0105】
[実施例3]
ベース樹脂としてポリアミド樹脂3を用いた。
導電性無機フィラーとして、表1に示す最大粒子径及び平均粒子径の導電性酸化亜鉛Aを表面処理したものを使用した。
ベース樹脂/カーボンブラック/導電性無機フィラー=76/14/10の重量組成比となるように配合し、これらの合計100重量部に対して酸化防止剤を0.2重量部添加し、加熱混練後、シームレスベルトを成形した。
【0106】
[実施例4]
ベース樹脂としてポリアミド樹脂3を用いた。
導電性無機フィラーとして、表1に示す最大粒子径及び平均粒子径の導電性酸化亜鉛Aを表面処理したものを使用した。
ベース樹脂/カーボンブラック/導電性無機フィラー=79/16/5の重量組成比となるように配合し、これらの合計100重量部に対して酸化防止剤を0.2重量部添加し、加熱混練後、シームレスベルトを成形した。
【0107】
[比較例1]
ベース樹脂としてポリアミド樹脂1を用いた。
ベース樹脂/カーボンブラック=82.5/17.5の重量組成比となるように配合し、これらの合計100重量部に対して酸化防止剤を0.2重量部添加し、加熱混練後、シームレスベルトを成形した。
【0108】
[比較例2]
ベース樹脂としてポリアミド樹脂1を用いた。
導電性無機フィラーとして、表1に示す最大粒子径及び平均粒子径の導電性酸化亜鉛Aを表面処理したものを使用した。
ベース樹脂/カーボンブラック/導電性無機フィラー=69/10/21の重量組成比となるように配合し、これらの合計100重量部に対して酸化防止剤を0.2重量部添加し、加熱混練後、シームレスベルトを成形した。
【0109】
[比較例3]
ベース樹脂としてポリアミド樹脂2を用いた。
導電性無機フィラーとして、表1に示す最大粒子径及び平均粒子径の導電性酸化亜鉛Aを表面処理したものを使用した。
ベース樹脂/カーボンブラック/導電性無機フィラー=76/14/10の重量組成比となるように配合し、これらの合計100重量部に対して酸化防止剤を0.2重量部添加し、加熱混練後、シームレスベルトを成形した。
【0110】
[比較例4]
ベース樹脂としてポリアミド樹脂3を用いた。
絶縁性無機フィラーとして、ハードクレイの表面処理品を用いた。
ベース樹脂/カーボンブラック/絶縁性無機フィラー=71.5/16/12.5の重量組成比となるように配合し、これらの合計100重量部に対して酸化防止剤を0.2重量部添加し、加熱混練後、シームレスベルトを成形した。
本比較例4では、導電性無機フィラーでなく、絶縁性無機フィラーを用いたことで、SR(1000V)/VR(500V)の比率が6.5×10と低すぎるため、除電性が不充分で画質に悪影響を出ると推測される。
【0111】
[比較例5]
ベース樹脂としてポリアミド樹脂3を用いた。
絶縁性無機フィラーとして、マイカAの表面処理品を用いた。
ベース樹脂/カーボンブラック/絶縁性無機フィラー=71.5/16.5/12の重量組成比となるように配合し、これらの合計100重量部に対して酸化防止剤を0.2重量部添加し、加熱混練後、シームレスベルトを成形した。
本比較例5では、比較例4と同様、絶縁性無機フィラーを用いたが、粒子径が大きいフィラーを選択したことで、構造に不均一性が生じた結果、SR(1000V)/VR(500V)の比率は許容範囲内ではあったが、表面の外観が悪く、表面粗さ(Ra)も許容範囲外(Ra=0.18μm)であった。
【0112】
[比較例6]
ベース樹脂としてポリアミド樹脂1を用いた。
絶縁性無機フィラーとして、マイカBの表面処理品を用いた。
ベース樹脂/カーボンブラック/絶縁性無機フィラー=70.5/17.5/12の重量組成比となるように配合し、これらの合計100重量部に対して酸化防止剤を0.2重量部添加し、加熱混練後、シームレスベルトを成形した。
本比較例6では、比較例4同様、絶縁性無機フィラーを用いたことで、SR(1000V)/VR(500V)の比率が4.8×10と低すぎるため、除電性が不充分で画質に悪影響を出ると推測される。
【0113】
[比較例7]
ベース樹脂としてETFEを用いた。
導電性無機フィラーとして、表1に示す最大粒子径及び平均粒子径の導電性酸化亜鉛Aを使用した。
ベース樹脂/カーボンブラック/導電性無機フィラー=78/12/10の重量組成比となるように配合し、加熱混練後、シームレスベルトを成形した。
【0114】
表1に実施例1~4および比較例1~7でシームレスベルトの製造に用いた樹脂組成物の原料組成を示す。また、実施例1~4および比較例1~7で得られたシームレスベルトの評価結果を表2に示す。
【0115】
【0116】
【0117】
以上の結果から、次のことが分かる。
実施例1~4の本発明の導電性シームレスベルトは、SR(1000V)/VR(500V)が500~50000の範囲となり、高電圧印加時にも高い除電性を示すと共に、耐折回数が高く、各種画像形成装置の長期の繰り返し使用に対する耐久性にも優れる。
一方、比較例1のシームレスベルトは、導電性無機フィラーを用いていないために、SR(1000V)/VR(500V)が49となり、高電圧印加時の除電性に劣る。
比較例2のシームレスベルトは、導電性無機フィラーの配合量が多過ぎるために、耐折回数が低く、耐久性に劣る。
比較例3のシームレスベルトは、用いた導電性無機フィラーの平均粒子径が大きすぎるために、耐折回数が低く、耐久性に劣ると共に、表面粗さ(Ra)が若干大きい。
比較例4~6のシームレスベルトは、導電性無機フィラーではなく絶縁性無機フィラーを用いており、表面抵抗率/体積抵抗率の比率が小さくなり、表面抵抗率を最適な値に
設定した場合の体積抵抗率の値が低くなり、除電性が悪化する傾向がある。
また、平均粒子径の大きいマイカAを用いた比較例5では、表面粗さ(Ra)が大きすぎ、マイカBを用いた比較例6では、マイカとポリアミド樹脂の親和性が良くないために、耐折回数が低く、耐久性にも劣る。
ポリアミド樹脂ではなくフッ素系樹脂を用いた比較例7では、ポリアミド系樹脂と比較すると強靭性が低くかつ無機フィラーとの親和性が低いため、耐折回数が低く、耐久性に劣ると共に、無機フィラーの分散性が不充分であるために表面粗さ(Ra)も大き過ぎる結果となる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の導電性シームレスベルトは、電子写真式複写機、レーザービームプリンター、ファクシミリ機等に利用される中間転写ベルト、搬送転写ベルト、感光体ベルト等の画像形成装置用ベルト並びにこの画像形成装置用ベルトを構成部材として含む画像形成装置に好適に利用することができる。