(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】金属膜付樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
B32B 15/09 20060101AFI20221101BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20221101BHJP
C23C 14/02 20060101ALI20221101BHJP
C23C 14/20 20060101ALI20221101BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20221101BHJP
C08G 64/04 20060101ALN20221101BHJP
【FI】
B32B15/09 Z
B32B27/36 102
C23C14/02 A
C23C14/20 A
H05K9/00 W
C08G64/04
(21)【出願番号】P 2018170369
(22)【出願日】2018-09-12
【審査請求日】2021-04-02
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 哲也
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 尚規
(72)【発明者】
【氏名】西原 涼平
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特表平07-504944(JP,A)
【文献】特開平04-325941(JP,A)
【文献】国際公開第2004/000940(WO,A1)
【文献】特開平08-073724(JP,A)
【文献】特開2004-277703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
C08J 7/00-7/02,7/12-7/18
B29C 71/04
C23C 14/00-14/58
H05K 9/00
C08G 64/00-64/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)を含有するポリカーボネート樹脂組成物よりなる成形品の表面に金属膜を有する金属膜付樹脂成形品であって、該ポリカーボネート樹脂(A)の末端水酸基濃度が200ppm以上であり、該金属膜について、JIS H8630:2006の付属書1(規定)密着力試験方法に従って測定されたピール強度が2.0N/cm以上であり、
前記ポリカーボネート樹脂(A)を加水分解した後に測定された、下記一般式(1)~(5)で表されるジヒドロキシ化合物の総量が、ポリカーボネート樹脂(A)全体に対して、100ppm以上であることを特徴とする金属膜付樹脂成形品。
【化1】
(R
1~R
6は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を示す。)
【請求項2】
前記ポリカーボネート樹脂組成物の3mm厚みで測定した全光線透過率が50%以上であることを特徴とする請求項1に記載の金属膜付樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリカーボネート樹脂組成物よりなる樹脂成形品の表面に金属膜が形成された金属膜付樹脂成形品と、この金属膜付樹脂成形品を製造する方法に関する。
なお、本発明において、「金属膜」は、単一の金属からなる膜に限らず、2種以上の金属からなる合金膜を包含する広義の金属膜をさす。
【背景技術】
【0002】
近年、IT化社会の急速な発展に伴い、電子機器の高速処理化が進み、LSIやマイクロプロセッサーなどICの動作周波数は上昇している。例えば、通信分野では光ファイバーを用いた高速通信網が使用され、次世代マルチメディヤ移動通信では2GHz;ITS(Intelligent Tranport System)の分野ではETS(自動料金収受システム)における5.8GHz;車間距離を測定して運転者に伝える走行支援道路システム(AHS)の自動車搭載レーダーでは76GHz;といった周波数の電磁波が使用され、今後は、更に高周波の電磁波の利用範囲が拡大することが予想される。電磁波は周波数の上昇に伴いノイズを放出しやすく、一方において、電子機器の小型化、高密度化による電子機器内部のノイズ環境の悪化による誤動作が生じ、このような高周波の電磁波の利用状況において、人体へ及ぼす悪影響も問題となってきている。
【0003】
従来、かかる電磁波を防止するための電磁波シールド材(電磁波遮断材)としては、一般的に金属材料が使用されてきたが、近年では、高比重の金属材料に代えて、樹脂成形品の表面に電解めっきにより金属膜を形成したものが広く用いられている。
【0004】
樹脂成形品の表面に金属めっき膜を形成する場合、電解めっき処理に先立ち、無電解めっき処理が行われる。
即ち、樹脂は非導電体であるため、前処理として六価クロム酸エッチングを行って樹脂成形品の表面上に凸凹を形成することで、金属めっき膜に対する物理的密着性を高め、また、シード層の形成としてパラジウム触媒を塗布して触媒活性化して無電解めっき処理することが行われている。
【0005】
しかし、エッチング処理に使用される六価クロム酸は、環境に対する負荷が大きく、規制対象となっており、2023年には使用制限となる。また、シード層に使用されるパラジウムは希少金属でありコストの増加に繋がっている。
しかも、これらの工程は、水洗、中和等のためにも、多数の処理槽を必要とし、設備数が多く、廃液の処理等の問題もあり、設備面積、製造コスト、生産性等の観点からも好ましくない。このため、無電解めっきに代わる乾式処理で電解めっき膜の下地となる金属皮膜を形成することが望まれる。
【0006】
このような状況において、本出願人は、樹脂等の絶縁体の表面に乾式処理で密着性に優れた金属膜を形成する方法として、ホローカソード電極を使用したプラズマCVDとスパッタリングにより樹脂等の絶縁体の表面にシード層を形成し、その後電解めっきを行う方法を特許出願した(特願2018-97358)。
【0007】
一方で、ポリカーボネート樹脂は、透明性、耐熱性、機械的強度、耐衝撃性などに優れているために、近年、電気機器部品、機械部品、自動車部品などの分野に広く使用されているエンジニアリングプラスチックであり、このようなポリカーボネート樹脂を電磁波シールド材等に適用するべく、ポリカーボネート樹脂成形品表面への乾式処理による金属膜の形成方法の開発が望まれる。さらには透明なポリカーボネート樹脂成形品表面への乾式処理による金属膜の形成方法の開発が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、無電解めっきに代わる乾式処理でポリカーボネート樹脂成形品の表面に密着性に優れた金属膜を形成した金属膜付樹脂成形品及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の金属膜付樹脂成形品は、ポリカーボネート樹脂(A)を含有するポリカーボネート樹脂組成物よりなる成形品の表面に金属膜を有する金属膜付樹脂成形品であって、該ポリカーボネート樹脂(A)の末端水酸基濃度が50ppm以上であり、該金属膜について、JIS H8630:2006の付属書1(規定)密着力試験方法に従って測定されたピール強度が2.0N/cm以上であることを特徴とする。
【0011】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A)を加水分解した後に測定された、下記一般式(1)~(5)で表されるジヒドロキシ化合物の総量は、ポリカーボネート樹脂(A)全体に対して100ppm以上であることが好ましい。
【0012】
【0013】
(R1~R6は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を示す。)
【0014】
また、本発明に係るポリカーボネート樹脂組成物の3mm厚みで測定した全光線透過率は50%以上であることが好ましい。
【0015】
本発明の金属膜付樹脂成形品の製造方法は、真空雰囲気下でポリカーボネート樹脂成形品の表面をプラズマ処理した後、該プラズマ処理面にスパッタリングにより金属膜を成膜することで、上記金属膜付樹脂成形品を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、無電解めっきに代わる乾式処理でポリカーボネート樹脂成形品の表面に密着性に優れた金属膜を形成した金属膜付樹脂成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0018】
[金属膜付樹脂成形品]
本発明の金属膜付樹脂成形品は、ポリカーボネート樹脂(A)を含有するポリカーボネート樹脂組成物よりなる成形品の表面に金属膜を有する金属膜付樹脂成形品であって、該ポリカーボネート樹脂(A)の末端水酸基濃度が50ppm以上であり、該金属膜について、JIS H8630:2006の付属書1(規定)密着力試験方法に従って測定されたピール強度が2.0N/cm以上であることを特徴とする。
このような本発明の金属膜付樹脂成形品の製造方法は限定されないが、真空雰囲気下でポリカーボネート樹脂成形品の表面をプラズマ処理した後、該プラズマ処理面にスパッタリングにより金属膜を成膜する本発明の金属膜付樹脂成形品の製造方法により製造することができる。なお、このプラズマ処理に先立ち、加熱処理を行ってもよい。
【0019】
以下において、本発明で用いるポリカーボネート樹脂組成物を「本発明のポリカーボネート樹脂組成物」と称し、このような本発明のポリカーボネート樹脂組成物よりなる成形品を「本発明の成形品」と称す場合がある。本発明のポリカーボネート樹脂組成物の成分組成、製造方法及び成形方法については後述する。
【0020】
以下に、本発明の金属膜付樹脂成形品の製造方法に従って、本発明の金属膜付樹脂成形品について説明する。
【0021】
[加熱工程]
本発明においては、後述のプラズマ工程に先立ち、本発明の成形品を加熱する加熱工程を行ってもよく、加熱工程を行うことで、プラズマ工程における本発明の成形品からの水分やガスの揮散を防止して、より密着性に優れた金属膜を形成することができる。
【0022】
加熱工程における加熱温度は、本発明の成形品を構成する樹脂の軟化温度未満であって、本発明の成形品から水分やガスを予め放出させて、プラズマ工程でのこれらの成分の揮散を防止することができる程度の温度であればよく、本発明のポリカーボネート樹脂組成物よりなる成形品では、通常80~200℃、とりわけ80~120℃の範囲とすることが好ましい。加熱時間は、加熱温度によっても異なるが、短か過ぎると加熱工程を行うことによる効果を十分に得ることができず、長過ぎると生産性が損なわれるため、1~10時間程度、特に1~3時間程度とすることが好ましい。
なお、加熱工程の雰囲気や圧力には特に制限はなく、大気圧下で行ってもよいが、例えばN2雰囲気中133Pa以下の減圧条件としたり、10-1Pa以下の真空条件としたりすることで、加熱温度を下げ、また加熱時間を短くした上で、常圧下での加熱と同等の効果を得ることができる場合がある。
【0023】
このような加熱工程を行った後は、水分等の揮散成分が再び本発明の成形品に吸収されないように、直ちに、例えば0~30分以内に次のプラズマ工程に移行することが好ましい。
【0024】
[プラズマ工程]
プラズマ工程は、本発明の成形品の表面に反応性官能基を発生させることで、金属原子との結合性を高め、その後のスパッタリングで成膜された金属膜との密着性を向上させるための活性化処理工程である。
【0025】
このプラズマ工程は、好ましくはホローカソード電極を用いて真空条件下で行われる。特に、プラズマ工程は、前述の特願2018-97358に記載の装置を用いて後述のスパッタリング工程と真空条件下での連続処理で行うことが好ましい。
また、プラズマ処理でより効率的に本発明の成形品の表面に反応性官能基を発生させるために、後述の通り、本発明のポリカーボネート樹脂組成物に用いるポリカーボネート樹脂(A)の末端水酸基濃度が、50ppm以上であることが好ましく、また、このポリカーボネート樹脂(A)を加水分解した後に測定された、後述の一般式(1)~(5)で表されるジヒドロキシ化合物の総量が、ポリカーボネート樹脂(A)全体に対して、100ppm以上であることが好ましい。
【0026】
ホローカソード電極を用いたプラズマ処理であれば、高い電子密度(1011cm-3オーダー)のラジカル放電を行えるため、処理対象物の高温下による温度ダメージを低減することができる。また、解離に高エネルギーが必要なO2を使用したプラズマCVDが可能となり、放電を安定化させてO2処理効果を高め、本発明の成形品の表面上に反応性官能基を効率的に形成して、後段のスパッタリングによる金属膜の密着性をより一層高めることができる。
また、特に、プラズマ工程と後述のスパッタリング工程とを真空雰囲気下での連続処理を行うことで、プラズマ処理後に本発明の成形品を大気に曝すことなくスパッタリング成膜に供することができ、本発明の成形品のプラズマ処理面の変質等を防止して処理面を安定化させることができる。
【0027】
プラズマCVD処理は、耐圧チャンバー内に、好ましくは、ホローカソード電極と対向電極とを間隔をあけて一体化させたプラズマ発生源と、本発明の成形品とを、本発明の成形品の被プラズマ処理面とホローカソード電極とが対向するように、かつ本発明の成形品をホローカソード電極から離隔した位置に配置して、このチャンバー内を減圧し、プラズマ発生源のホローカソード電極と対向電極との間に反応ガスを供給すると共に、プラズマ発生源に電圧を印加することにより行うことができる。
【0028】
このようにすることで、本発明の成形品の温度ダメージを低減できる理由は以下の通りである。
即ち、プラズマ発生源から放出された段階ではプラズマは高温であるが、チャンバー内をドリフト中に、チャンバー内に存在する反応ガスとの衝突などにより熱エネルギーを失うため、プラズマ発生源から離隔して配置された処理対象物である本発明の成形品に達した時点ではプラズマの温度は低下している。
また、反応ガスとの衝突などにより、プラズマの一部は、プラズマ(帯電状態)から活性化状態(ラジカル状態)に変化している。よって、本発明の成形品は、反応ガスのプラズマのみではなく、活性化状態(ラジカル状態)の反応ガスにも晒されることになる。本明細書では、プラズマ状態の反応ガスと活性化状態(ラジカル状態)の反応ガスを、高反応性化された反応ガスと呼ぶ。また、プラズマ状態の反応ガスとラジカル状態の反応ガスにより、処理対象物である本発明の成形品の表面を活性化することをプラズマ処理と呼ぶ。
【0029】
このように、処理対象物である本発明の成形品に到達する際にはプラズマの温度が低下し、ラジカル状態の反応ガスも到達するという効果は、本発明の成形品が、ホローカソード電極から対向電極とは反対側に離れた位置に設けられていることによるものである。換言すると、プラズマ発生源は、ホローカソード電極と本発明の成形品との距離が、ホローカソード電極と対向電極との距離よりも長く設定されるように、ホローカソード電極を挟んで本発明の成形品と対向電極とが配置されるように設計される。
【0030】
このように、プラズマ発生源と処理対象物の本発明の成形品の距離を離すことにより、本発明の成形品に到達する高反応性化された反応ガスの濃度が低下してしまう恐れがある。
しかし、プラズマ発生源と本発明の成形品を設けたチャンバー内を減圧して真空雰囲気下とすることで、プラズマ発生源で発生したプラズマが必要以上に気体分子(反応ガスの分子)と衝突することを防ぎ、高反応性化された反応ガスの濃度の低下を防止することができる。
【0031】
本発明において、プラズマ処理は、具体的には、以下の手順と条件で行うことが好ましい。
【0032】
即ち、まず、プラズマ発生源に第1圧力P1の反応ガスを供給し第1出力E1の電力を印加して第1プラズマ状態を形成した後に、プラズマ発生源に、第1圧力P1より高い第2圧力P2の反応ガスを供給し第1出力E1の電力より低い第2出力E2の電力を印加して第2プラズマ状態を形成する。即ち、プラズマ処理の開始時には、プラズマ発生源内の反応ガスの圧力が高いと、ホローカソード電極と対向電極との間での放電が発生しにくいため、プラズマを生成することができない。そこで、プラズマ処理の開始時には、プラズマ発生源内の反応ガスの圧力を比較的低圧の第1圧力P1とすることで放電を発生させ、プラズマを生成させる。プラズマが発生した後は、電荷を有するプラズマや電子により放電が継続し易くなるため、プラズマ発生源内の反応ガスの圧力を第1圧力P1より高い第2圧力P2とする。これにより、プラズマ発生源から高濃度のプラズマを発生させて、処理対象物である本発明の成形品を、より多量の高反応性化された反応ガスに晒すことができ、処理能力をさらに向上することができる。
【0033】
上記の第1圧力P1は、例えば、0.5Pa以上、3Pa以下の圧力であることが好ましい。第1圧力P1が0.5Paより低圧であると、初期のプラズマの濃度が薄くなり、安定した放電を維持することが難しくなる。一方、第1圧力P1が3Paより高圧であると、放電を行うことが難しくなる。
【0034】
また、上記の第2圧力P2は、例えば、10Pa以上、50Pa以下の圧力であることが好ましい。第2圧力P2が10Paより低圧であると、プラズマの濃度が薄くなり高い処理能力を発揮することが難しくなる。一方、第2圧力P2が50Paより高圧であると、放電を維持することが難しくなる。
【0035】
なお、第1プラズマ状態の形成時にホローカソード電極に印加する電力である第1出力E1は、ホローカソード電極の単位面積当たり、2W/cm2以上、5W/cm2以下であることが好ましい。第1出力E1が2W/cm2より小さいと、プラズマ発生源内で放電を発生させてプラズマを形成することが困難になる。一方、第1出力E1が5W/cm2より大きいと、プラズマ発生源内で異常放電が発生する恐れがある。
【0036】
また、第2プラズマ状態の形成時にホローカソード電極に印加する電力である第2出力E2は、ホローカソード電極の単位面積当たり、0.5W/cm2以上、2W/cm2以下であることが好ましい。第2出力E2が0.5W/cm2より小さいと、プラズマ発生源内での放電およびプラズマ形成を維持することが困難になる。一方、第2出力E2が2W/cm2より大きいと、プラズマ発生源内で異常放電が発生する恐れがある。
【0037】
上記の処理条件において、第1プラズマ状態の継続時間t1は、0~5秒であることが好ましく、第2プラズマ状態の継続時間t2は、第1プラズマ状態の継続時間t1の、10倍以上、例えば10~100倍であることが好ましい。第2プラズマ状態は、第1プラズマ状態よりも、高い濃度の高反応性化された反応ガスを生成することができるので、上記の通り、第2プラズマ状態の継続時間t2を長くすることで、より効率の良い処理を行える。
【0038】
なお、このようなプラズマ条件において、ホローカソード電極から本発明の成形品までの距離は、100mm以上、250mm以下であることが好ましい。この距離が、100mmより短いと本発明の成形品が高温化してしまう恐れがあり、250mmより長いとプラズマの濃度が薄くなり高い処理能力を発揮することが難しくなる。
【0039】
本発明におけるプラズマ処理は、プラズマ状態の反応ガスのみでなく、活性化状態(ラジカル状態)の反応ガスをも使用するプラズマ処理で行うことが好ましく、反応ガスとして、ラジカル状態において強力な反応性を有する酸素(O2)を使用することが、プラズマ処理の効率をより一層向上させることができることから好ましい。なお、反応ガスは窒素とすることもできるが、プラズマ処理効率の面から、酸素、或いは酸素とアルゴン等の不活性ガスとの混合ガスとすることが好ましい。酸素と不活性ガスとの混合ガスを用いる場合、混合ガス中の酸素濃度は99.9%以上とすることが好ましい。
【0040】
[スパッタリング工程]
上記のプラズマ工程により表面を活性化した本発明の成形品のプラズマ処理面に、次いでスパッタリングにより金属膜を成膜する。
前述の通り、このスパッタリング工程は、プラズマ処理後の本発明の成形品を大気に晒すことなく行うことが、より密着性の高い金属膜を成膜する上で重要である。
【0041】
スパッタリング工程は減圧チャンバー内にプラズマ処理された本発明の成形品をターゲット材料と電極部とからなるスパッタ電極に対向して設け、常法に従って行うことができるが、スパッタ電極への投入電力は10kW以上、特に30kW以上の高電力とすることが好ましい。
通常、スパッタ装置では、成膜する膜の純度を高めるために、スパッタ装置内の圧力を0.1Pa程度に減圧して成膜を行うのが一般的である。スパッタ装置内の圧力がこれより高いと、スパッタ装置内に残留する、あるいは処理対象物から放出される水等の不純物の除去が困難であり、その結果、不純物が膜に混入し膜の品質が低下するためである。しかし、特に処理対象物が樹脂である場合には、処理対象物から放出される不純物の量が多く、かつ、長時間にわたって不純物を放出し続けるため、従来のスパッタ装置のように、0.1Pa程度に減圧して成膜を行うことは困難である。
【0042】
そこで、本発明では、処理対象物である本発明の成形品から放出される不純物の量が多くても高性能な膜を成膜可能とするために、スパッタ用電源として、スパッタ電極に対し10kW以上、さらに望ましくは30kW以上、例えば10~40kWの電力を投入することができるものを用いて、高電力条件下で成膜を行うことが好ましい。
【0043】
スパッタ電極に投入される電力が大電力であると、通常の電力が投入される場合に比べて、ターゲット材料から放出される銅等の金属原子の量が増大するとともに、金属原子の持つ運動エネルギーも増大する。この結果、処理系内の不純物の濃度が金属原子の濃度に対して相対的に低下することで、処理対象物に成膜される膜の純度が向上する。さらに、処理対象物に衝突する金属原子の運動エネルギーが大きいことにより、処理対象物を構成する分子と金属原子とが安定的に結合するため、処理対象物に対する密着性が高い膜を成膜することができる。
【0044】
ターゲット材料から放出された金属原子はチャンバー内を直進するが、チャンバー内の不活性ガスとの衝突により、その進行方向が拡散(散乱)される。従来のスパッタ装置では、金属原子の運動エネルギーが低いため、不活性ガスと衝突し散乱して運動エネルギーを失った金属原子は、処理対象物に十分な強度で密着することができず、処理対象物に凹凸形状があると、その凹凸形状の側面部分には散乱されて運動エネルギーを失った金属原子しか照射されないため、凹凸形状を有する処理対象物に均一な成膜を行うことは困難であったが、上記の通り、高電力条件で行うと、ターゲット材料から放出される際の金属原子の運動エネルギーが大きいため、不活性ガスによる散乱後も金属原子は十分な運動エネルギーを有する。従って、処理対象物には、散乱により種々の進行方向を有し、かつ運動エネルギーの大きな金属原子が照射されるため、凹凸形状を有する処理対象物に対しても、均一な膜を成膜させることが可能となる。
【0045】
上記効果を得るために、スパッタリング時のチャンバー内の圧力は、0.5Paから5Pa程度とすることが望ましい。スパッタリング時のチャンバー内の圧力が0.5Pa以上であれば、ターゲット材料から放出される際の金属原子を十分に散乱させることができ、5Pa以下であれば、チャンバー内の不純物の濃度を下げて膜質を確保することができる。
【0046】
本発明において、スパッタリングにより形成する金属膜としては、銅、アルミニウム、クロム、ニッケル等の金属や、これらの2種以上を含む合金が挙げられる。
また、スパッタリングに形成する金属膜の厚さは、100~500nm程度であることが好ましい。この膜厚が上記下限以上であれば、電気抵抗を下げてシード層としての機能を十分に得ることができる。この膜厚が上記上限以下であれば、成膜時間を徒に長くすることなく、製造コストを抑えることができる。
【0047】
[金属膜のピール強度]
上記の通り、プラズマ処理面に金属膜をスパッタリング成膜してなる本発明の金属膜付樹脂成形品の金属膜は、JIS H8630:2006の付属書1(規定)密着力試験方法に従って測定されたピール強度が2.0N/cm以上の高い密着強度を示す。このピール強度は好ましくは3.0N/cm以上であり、さらに好ましくは5.0N/cm以上である。
なお、金属膜のピール強度は、具体的には後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0048】
〔ポリカーボネート樹脂組成物〕
以下に本発明のポリカーボネート樹脂組成物について説明する。
【0049】
[ポリカーボネート樹脂組成物の全光線透過率]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、3mm厚みで測定した全光線透過率が50%以上であることが好ましい。該全光線透過率は70%以上がさらに好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上が最も好ましい。全光線透過率が高いことで、成形品の透明性が高くなり、良好な外観や意匠性を有する成形品を得ることができる。全光線透過率が低すぎると成形品が不透明となり、良好な外観や意匠性が保てなくなる場合がある。
尚、全光線透過率はJIS K7105に準じた方法で測定される。具体的な測定方法は、後述の実施例の項に示す。
【0050】
[ポリカーボネート樹脂(A)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、樹脂成分としてポリカーボネート樹脂(A)(以下、「本発明のポリカーボネート樹脂(A)」と称す場合がある)を主成分として含むものである。ここで「主成分」とは、樹脂成分中に最も多く含まれている成分をさし、通常、ポリカーボネート樹脂組成物中に50質量%以上、好ましくは60~100質量%含まれる成分である。
【0051】
本発明では、ポリカーボネート樹脂(A)は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0052】
ポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物を、ホスゲン又は炭酸ジエステルと反応させることによって得られる、熱可塑性重合体又は共重合体である。ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のホスゲン法(界面重合法)や、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを原料としエステル交換触媒の存在下で重縮合する溶融法(エステル交換法)を用いることができるが、溶融法により製造したものがより好ましい。
【0053】
ポリカーボネート樹脂を溶融法で製造する場合について説明する。
ポリカーボネート樹脂の一方の原料である炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート(以下、「DPC」と称する場合がある。)、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-t-ブチルカーボネート等のジアルキルカーボネートが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0054】
また、炭酸ジエステルは、好ましくはその50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量を、ジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換してもよい。代表的なジカルボン酸又はジカルボン酸エステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。このようなジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換した場合には、ポリエステルカーボネートが得られる。
【0055】
炭酸ジエステル(前記の置換したジカルボン酸又はジカルボン酸エステルを含む。以下同じ。)は、前記ジヒドロキシ化合物に対して過剰に用いられる。すなわち、炭酸ジエステルは、ジヒドロキシ化合物に対して、1.01~1.30倍量(モル比)、好ましくは1.02~1.20倍量(モル比)で用いられる。このモル比が小さすぎると、得られるポリカーボネート樹脂の末端水酸基が多くなりすぎ、ポリカーボネート樹脂の熱安定性が悪化する場合がある。また、モル比が大きすぎると、得られるポリカーボネート樹脂の末端水酸基が少なくなり、前記金属膜の密着力が低下する場合がある。
【0056】
ポリカーボネート樹脂のもう一方の原料であるジヒドロキシ化合物は、分子内に二つの水酸基を有する化合物であり、本発明においては、ジヒドロキシ化合物の中でも、分子内に一つ以上の芳香環を有し、二つの水酸基がそれぞれ芳香環に結合された芳香族ジヒドロキシ化合物を用いるのが好ましい。
【0057】
芳香族ジヒドロキシ化合物の具体例としては、例えば、ビス(4-ヒドロキシジフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-t-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビスフェノール類;4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニル等のビフェノ-ル類;ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。これらの中でも、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(すなわち、ビスフェノールA(以下、「BPA」と称する場合がある。))が好ましい。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0058】
溶融交換法によりポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒は任意のものを使用できる。なかでも、例えばアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いることが好ましい。また補助的に、例えば塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物などの塩基性化合物を併用してもよい。なお、エステル交換触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。エステル交換触媒の使用量は、通常、原料ジヒドロキシ化合物1molに対して0.1~1.0μmol、特に0.3~0.8μmolとすることが好ましい。
【0059】
溶融交換法において、反応温度は通常100~320℃である。また、反応時の圧力は、通常常圧未満の減圧下で行われ、反応の進行に応じて減圧の状態を調整し、最終的には0.1kPa以下の条件とすることが好ましい。具体的操作としては、前記の条件で、芳香族ヒドロキシ化合物等の副生成物を除去しながら、溶融重縮合反応を行えばよい。
【0060】
溶融重縮合反応は、バッチ式、連続式の何れの方法でも行うことができる。バッチ式で行う場合、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望の芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。ただし、ポリカーボネート樹脂の安定性等を考慮すると、溶融重縮合反応は連続式で行うことが好ましい。
【0061】
溶融交換法においては、必要に応じて、触媒失活剤を用いてもよい。触媒失活剤としてはエステル交換触媒を中和する化合物を任意に用いることができる。その例を挙げると、イオウ含有酸性化合物及びその誘導体などが挙げられる。なお、触媒失活剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0062】
触媒失活剤の使用量は、前記のエステル交換触媒が含有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属に対して、通常0.5当量以上、好ましくは1当量以上であり、また、通常10当量以下、好ましくは5当量以下である。更には、ポリカーボネート樹脂に対して、通常1ppm以上であり、また、通常100ppm以下、好ましくは20ppm以下である。
【0063】
[ポリカーボネート樹脂(A)の物性]
本発明のポリカーボネート樹脂(A)の末端水酸基濃度は、50ppm以上が好ましく、100ppm以上がより好ましく、200ppm以上がさらに好ましく、500ppm以上が最も好ましい。また、2000ppm以下が好ましく、1500ppm以下がより好ましく、1300ppm以下がさらに好ましく、1000ppm以下が最も好ましい。プラズマ処理により、高いプラズマ処理効果を得るために効果的であり、末端水酸基量が多い程、前記金属膜の密着強度が向上する傾向がある。但し、末端水酸基量が多すぎると、長時間紫外線や可視光に曝露される場所で使用した際の、色相や透明性、機械的強度の悪化抑制が不十分となる場合がある。
なお、末端水酸基濃度の単位は、ポリカーボネート樹脂質量に対する、末端水酸基の質量をppmで表示したものである。ポリカーボネート樹脂の末端水酸基量の測定方法については、後述の実施例の項に具体的に記載する。
【0064】
本発明のポリカーボネート樹脂(A)は、加水分解すると、下記一般式(1)~(5)に示されるようなジヒドロキシ化合物を生成する。即ち、これらのジヒドロキシ化合物に由来する構成単位或いはこれらのジヒドロキシ化合物がポリカーボネート樹脂(A)中に含有されている。
【0065】
【0066】
(R1~R6は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を示す。)
【0067】
加水分解により生成するこれらのジヒドロキシ化合物の含有量の合計量は、前記ポリカーボネート樹脂(A)全体に対して、100ppm以上が好ましく、200ppm以上がより好ましく、400ppm以上がさらに好ましい。一方、4000ppm以下が好ましく、3000ppm以下がより好ましく、1500ppm以下がさらに好ましく、1000ppm以下が最も好ましい。これらのジヒドロキシ化合物は前述のプラズマ処理により、高いプラズマ処理効果を得るために効果的であり、これらのジヒドロキシ化合物の合計量が多い程前記金属膜の密着強度が向上する傾向がある。
なお、これらのジヒドロキシ化合物は、本発明のポリカーボネート樹脂(A)を加水分解した後に定量分析することにより、その含有量を測定することができる。具体的な測定方法は、後述の実施例の項に示す。
【0068】
本発明のポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、25,000以下が好ましく、24,000以下がより好ましく、23,000以下がさらに好ましい。また、粘度平均分子量は12,000以上が好ましく、14,000以上がより好ましい。粘度平均分子量が25,000より大きいと、粘度が高くなり過ぎ、成形不良となるおそれがある。また、粘度平均分子量が12,000未満では機械的強度が低下するおそれがある。
ここで粘度平均分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、20℃の温度で測定した溶液粘度より換算して求めたものであり、その具体的な測定方法は、後述の実施例の項に記載する通りである。
【0069】
[その他の成分]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、本発明のポリカーボネート樹脂(A)を主成分として含むものであれば、特に限定されないが、必要に応じて添加剤やポリカーボネート樹脂(A)以外の樹脂を配合することもできる。添加剤としては、安定剤、離型剤、紫外線吸収剤、難燃剤、滴下防止剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、可塑剤、分散剤、流動性改良剤、抗菌剤、着色剤等が挙げられる。
【0070】
<安定剤>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、安定剤を含有することが、熱安定性改良や、機械的強度、透明性及び色相の悪化を防止する効果を有するという点で好ましい。安定剤としては、リン系安定剤およびフェノール系安定剤が好ましい。
【0071】
リン系安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル(ホスファイト)、3価のリン酸エステル(ホスホナイト)、5価のリン酸エステル(ホスフェート)等が挙げられ、中でもホスファイト、ホスホナイト、ホスフェートが好ましい。
【0072】
ホスファイトとしては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、トリエチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(2-エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、モノフェニルジデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、水添ビスフェノールAフェノールホスファイトポリマー、ジフェニルハイドロジェンホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニルジ(トリデシル)ホスファイト)、テトラ(トリデシル)4,4’-イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジラウリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(4-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、水添ビスフェノールAペンタエリスリトールホスファイトポリマー、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0073】
また、ホスホナイトとしては、テトラキス(2,4-ジ-iso-プロピルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-n-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-iso-プロピルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-n-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、およびテトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイトなどが挙げられる。
【0074】
また、ホスフェートとしては、例えば、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、プロピルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェート、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、デシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ベヘニルアシッドホスフェート、フェニルアシッドホスフェート、ノニルフェニルアシッドホスフェート、シクロヘキシルアシッドホスフェート、フェノキシエチルアシッドホスフェート、アルコキシポリエチレングリコールアシッドホスフェート、ビスフェノールAアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジプロピルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジ-2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジラウリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ジフェニルアシッドホスフェート、ビスノニルフェニルアシッドホスフェート等が挙げられる。
ホスフェートとしては、モノステアリルアシッドホスフェートとジステアリルアシッドホスフェートの混合物などを好ましく用いることができる。
【0075】
リン系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0076】
フェノール系安定剤の具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナミド]、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3’’,5,5’,5’’-ヘキサ-tert-ブチル-a,a’,a’’-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン,2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール等が挙げられる。
【0077】
なかでも、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。
【0078】
フェノール系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0079】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物が安定剤を含有する場合、その含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.3質量部以下である。熱安定剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、熱安定効果が不十分となる可能性があり、熱安定剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなるだけでなく、長期耐湿熱性が低下する場合がある。
【0080】
<離型剤>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、離型剤を含有することも好ましい。離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0081】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の脂肪族一価、二価または三価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で好ましい脂肪族カルボン酸は炭素数6~36の一価または二価カルボン酸であり、炭素数6~36の脂肪族飽和一価カルボン酸がさらに好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0082】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、例えば、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、例えば、飽和または不飽和の一価または多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の一価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和一価アルコールまたは脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。なお、ここで脂肪族とは、脂環式化合物も含有する。
【0083】
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2-ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0084】
なお、上記のエステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/またはアルコールを含有していてもよい。また、上記のエステルは、純物質であってもよいが、複数の化合物の混合物であってもよい。さらに、結合して一つのエステルを構成する脂肪族カルボン酸及びアルコールは、それぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0085】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0086】
数平均分子量200~15,000の脂肪族炭化水素としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ-トロプシュワックス、炭素数3~12のα―オレフィンオリゴマー等が挙げられる。尚、ここで脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。また、これらの炭化水素は部分酸化されていてもよい。また、数平均分子量は、好ましくは5,000以下である。脂肪族炭化水素は単一物質であってもよいが、構成成分や分子量が様々なものの混合物であっても、主成分が上記の範囲内であれば使用できる。
【0087】
これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスがさらに好ましく、ポリエチレンワックスが特に好ましい。
【0088】
なお、離型剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0089】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物が離型剤を含有する場合、その含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常2質量部以下、好ましくは1質量部以下である。離型剤の含有量が上記範囲の下限値未満の場合は、離型性の効果が十分でない場合があり、離型剤の含有量が上記範囲の上限値を超える場合は、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などが生じる可能性がある。
【0090】
<その他の樹脂>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない限りにおいて、樹脂成分として、ポリカーボネート樹脂(A)以外の他の樹脂を含有していてもよい。配合し得る他の樹脂としては、例えば、ポリスチレン樹脂、ハイインパクトポリスチレン樹脂、水添ポリスチレン樹脂、ポリアクリルスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、SMA樹脂、ポリアルキルメタクリレート樹脂、ポリメタクリルメタクリレート樹脂、ポリフェニルエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂(A)以外のポリカーボネート樹脂、非晶性ポリアルキレンテレフタレート樹脂、ポリエステル樹脂、非晶性ポリアミド樹脂、ポリ-4-メチルペンテン-1、環状ポリオレフィン樹脂、非晶性ポリアリレート樹脂、ポリエーテルサルフォン、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマーが挙られる。
【0091】
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよいが、ポリカーボネート樹脂(A)を用いることによる本発明の効果を確実に得るために、これらの他の樹脂を含む場合、その含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して100質量部以下とすることが好ましい。
【0092】
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用でき、ポリカーボネート樹脂(A)及び必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
【0093】
溶融混練の温度は特に制限されないが、240~320℃の範囲であることが好ましく、特に240~300℃が好ましい。
【0094】
[成形品]
上記したポリカーボネート樹脂組成物(ペレット)は、各種の成形法で成形して本発明の成形品とされる。本発明の成形品の形状としては、特に制限はなく、用途、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、板状、プレート状、ロッド状、シート状、フィルム状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状のもの等が挙げられる。
【0095】
本発明の成形品を成形する方法としては、特に制限されず、従来公知の成形法を採用でき、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、異形押出法、トランスファー成形法、中空成形法、ガスアシスト中空成形法、ブロー成形法、押出ブロー成形、IMC(インモールドコ-ティング成形)成形法、回転成形法、多層成形法、2色成形法、インサート成形法、サンドイッチ成形法、発泡成形法、加圧成形法等が挙げられる。
【0096】
中でも、成形は射出成形法により行われることが好ましく、例えば、射出成形機、超高速射出成形機、射出圧縮成形機等の公知の射出成形機を用いて射出成形される。射出成形時における射出成形機のシリンダー温度は、好ましくは240~320℃であり、より好ましくは250~300℃、さらに好ましくは260~280℃である。また、射出成形時の射出速度は、好ましくは10~1,000mm/秒であり、より好ましくは10~500mm/秒である。
【0097】
上記の通り、本発明の成形品の形状は特に制限はなく、用途に応じて適宜設計される。
また、本発明により金属膜を形成する成形面は平面であってもよく曲面であってもよい。
【0098】
[用途]
本発明の金属膜付樹脂成形品の用途としては特に制限はないが、本発明の金属膜付樹脂成形品に形成された金属膜をシード層として、更に通常の電解めっきにより1~50μm程度の金属膜を形成して、樹脂成形品に、装飾性、耐食性、耐摩耗性、はんだ付け性、電気伝導性、電磁波シールド性、磁気特性、耐熱性などの様々な機能を付与する目的で有効に利用することができ、得られためっき製品は、例えば、携帯電子機器部品、具体的には、電子手帳、携帯用コンピューター等の携帯情報端末、ポケットベル、携帯電話、PHSなどの内部構造物及び筐体などとして有用である。
【実施例】
【0099】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
なお、以下の説明において[部]とは、特に断りのない限り、質量基準に基づく「質量部」を表す。
【0100】
以下の実施例及び比較例で用いたポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量、末端水酸基量、加水分解により生成する特定のジヒドロキシ化合物の合計量、全光線透過率の測定方法は以下の通りである。
【0101】
[粘度平均分子量(Mv)]
ポリカーボネート樹脂の塩化メチレン溶液(濃度(C)は0.6g/dl)を調製し、ウベローデ粘度計を用いて、この溶液の温度20℃における比粘度(ηsp)を測定し、下記の式により粘度平均分子量(Mv)を算出した。
ηsp/C=[η](1+0.28ηsp)
[η]=1.23×10-4Mv0.83
【0102】
[末端水酸基濃度]
ポリカーボネート樹脂0.1gを塩化メチレン10mlに溶解し、これに酢酸(和光純薬工業社製、試薬特級)の5%塩化メチレン溶液5mlと、四塩化チタン(和光純薬工業社製、試薬特級)の2.5%塩化メチレン溶液10mlを加えて発色させ、分光光度計(島津製作所社製、「UV160型」)を使用し、546nmの波長での吸光度を測定した。別に、樹脂製造時に使用した二価フェノールの塩化メチレン溶液を使用して吸光係数を求め、サンプル中の末端水酸基濃度を定量した。
【0103】
[加水分解により生成する特定のジヒドロキシ化合物の合計量]
ポリカーボネート樹脂0.5gを塩化メチレン5mlに溶解した後、メタノール45ml及び25重量%水酸化ナトリウム水溶液5mlを加え、70℃で30分間撹拌して加水分解した(塩化メチレン溶液)。その後、この塩化メチレン溶液に6規定の塩酸を加え、溶液のpHを2程度とし、純水にて100mlとなるように調整した。
次に、調製した塩化メチレン溶液20μlを液体クロマトグラフィーに注入し、前記一般式(1)、(2)、(3)、(4)及び(5)で表されるジヒドロキシ化合物の含有量(以下、「一般式(1)~(5)の合計量」と記載する。)を測定した(単位:ppm)。
用いた液体クロマトグラフィー及び測定条件は以下の通りである。
液体クロマトグラフィー:島津製作所社製、LC-10AD
カラム:YMC PACK ODS-AM M-307-3
4.6mmID×75mmL
検出器:UV280nm
溶離液:(a)0.05%トリフルオロ酢酸水溶液及び(b)メタノール
グラジェント条件:0分((b)が40%)、25分((b)が95%)
一般式(1)~(5)の合計量は、ビスフェノールAにより作成した検量線に基づき、各々のピーク面積より算出した。
【0104】
[全光線透過率]
ポリカーボネート樹脂成形品について、JIS K7105に順じ、日本電色工業社製のNDH-2000型ヘイズメーターを使用し、D65光源、10°視野にて、全光線透過率(単位:%)を測定した。
【0105】
[ポリカーボネート樹脂(A1)の製造]
竪型撹拌反応器3基及び横型撹拌反応器1基を有する連続製造装置を用いて製造した。第1竪型撹拌反応器は温度220℃、圧力13kPa、第2竪型撹拌反応器は温度260℃、圧力4kPa、第3竪型撹拌反応器は温度270℃、圧力0.4kPa、第4横型撹拌反応器は温度280℃、圧力0.07kPaに設定した。次に別途、原料調製工程にて窒素ガス雰囲気下、BPA(三菱ケミカル社製)とDPC(三菱ケミカル社製)とを一定のモル比(BPA/DPC=1.025)で混合し、155℃に加熱して、原料混合溶融液を得た。
【0106】
続いて、この原料混合溶融液を、155℃に加熱した原料導入管を介して、前述した反応液温度、及び器内圧力に制御した第1竪型攪拌反応器内に連続供給した。また、上記原料混合溶融液の供給開始と同時に、第1竪型攪拌反応器内に触媒として炭酸セシウム水溶液をジヒドロキシ化合物1molに対し、炭酸セシウム0.5μmolの割合で連続供給した。
【0107】
第1竪型攪拌反応器の器底から排出された重合反応液は、引き続き、第2竪型攪拌反応器、第3横型攪拌反応器、第4横型攪拌反応器に、逐次、連続供給された。
第4横型攪拌反応器から抜き出された溶融ポリカーボネート樹脂は、ギヤポンプにより二軸押出機に移送された。二軸押出機は3つのベント口を有し、真空ポンプを用いてベント口より脱揮し、また第2ベント口と第3ベント口の間に触媒失活剤添加口を有し、触媒失活剤(p-トルエンスルホン酸ブチル)をポリカーボネート樹脂に対し、5ppmとなるように添加した。二軸押出機の排出側にはギヤポンプとポリマーフィルターを設置し、溶融ポリカーボネート樹脂を供給した。
【0108】
該ギヤポンプとポリマーフィルターの後に、樹脂をストランド化するためのダイを装着した。排出される樹脂は、ストランドの形態で水冷、固化させた後、回転式カッターでペレット化し、芳香族ポリカーボネート樹脂A1を得た。
【0109】
別に芳香族ポリカーボネート樹脂A2として下記表1に示す市販品を用いた。
表1に、以下の実施例及び比較例において使用したポリカーボネート樹脂A1,A2の分析結果を示す。
【0110】
【0111】
[ポリカーボネート樹脂成形品の製造]
表1に示したポリカーボネート樹脂A1,A2のペレットを、それぞれ、120℃で5時間乾燥させた後、射出成形機(日本製鋼所社製「J180AD」)を用い、シリンダー温度280℃、金型温度80℃の条件で射出成形し、それぞれ100mm×150mm×3mm厚みの板状の成形品を得た。
ポリカーボネート樹脂A1成形品について測定した全光線透過率は89.3%、ポリカーボネート樹脂A2成形品について測定した全光線透過率は89.4%であった。
【0112】
[実施例1,2]
得られたポリカーボネート樹脂A1,A2成形品を120℃で、1時間から3時間、大気・N2・真空雰囲気下、圧力大気:大気圧、N2:133Pa以下、真空:10-1Pa以下にて1~3時間加熱する加熱処理を行った後、ただちに(0~30分以内)、ホローカソード電極を用いたプラズマ処理とスパッタリング処理とを真空条件下の連続処理で行える成膜装置により、真空雰囲気下でプラズマCVD処理とスパッタリング処理を、処理中の樹脂成形品を大気に晒すことなく連続的に行い、膜厚200nm以上のCu膜を形成した。プラズマCVD条件、スパッタリング条件は以下の通りとした。
【0113】
<プラズマCVD条件>
樹脂成形品とホローカソード電極との距離を100から200mmとし、前述の好適プラズマCVD条件で行った。
反応ガスとしては、酸素濃度:99.9%%以上の酸素/アルゴン混合ガスを用いた。
【0114】
<スパッタリング条件>
電力:10~40kW
圧力:1.0~10Pa
【0115】
[比較例1]
実施例1において、プラズマCVD処理を行わず、樹脂成形品を直接スパッタリング処理に供したこと以外は同様にCu膜の形成を行った。
【0116】
[ピール強度の測定]
実施例及び比較例で得られた金属膜付樹脂成形品の金属膜面に、常法に従って電解めっき処理により厚さ15~30μmのCu膜を形成し、試験片とした。
ピール強度は、得られた試験片のCu膜について、JIS H8630:2006の付属書1(規定)密着力試験方法に従って、次の条件で測定した。
・試験片形状:100mm×100mm×3mm厚み平板
・試料調整:めっき後48時間以上放置
・測定機:株式会社エー・アンド・ディ社製 万能試験機「テンシロンRTF2350」
【0117】
各試験片のピール強度を表2に示す。
【0118】
【0119】
実施例1~2及び比較例1の結果から、プラズマ処理を行わない場合、スパッタリングによる金属膜は殆どポリカーボネート樹脂成形品に対して密着性を示さない(比較例1)が、スパッタリングによる成膜に先立ちプラズマ処理を行うことで、密着性の高い金属膜を形成することができる(実施例1,2)ことが分かる。
また、実施例1と実施例2の対比から、ポリカーボネート樹脂の末端水酸基量が高く、一般式(1)~(5)の合計量が多いと、金属膜の密着性をより一層高めることができることが分かる。