(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】排ガス浄化装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/28 20060101AFI20221101BHJP
F01N 3/035 20060101ALI20221101BHJP
F01N 3/022 20060101ALI20221101BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20221101BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20221101BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20221101BHJP
B01J 35/04 20060101ALI20221101BHJP
B01J 23/46 20060101ALI20221101BHJP
B01J 23/63 20060101ALI20221101BHJP
B01J 23/58 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
F01N3/28 301Q
F01N3/035 A ZAB
F01N3/022 C
F01N3/08 A
F01N3/10 A
B01D53/94 241
B01D53/94 222
B01J35/04 301E
B01J35/04 301L
B01J23/46 311A
B01J23/63 A
B01J23/58 A
(21)【出願番号】P 2018188915
(22)【出願日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】小川 誠
(72)【発明者】
【氏名】岩知道 均一
【審査官】菅野 京一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-269205(JP,A)
【文献】特開2013-099748(JP,A)
【文献】特開2001-000863(JP,A)
【文献】国際公開第2016/133086(WO,A1)
【文献】特開2017-185467(JP,A)
【文献】特開2012-055842(JP,A)
【文献】特開2018-051442(JP,A)
【文献】特開2006-116431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00-3/38
B01D 53/94,46/42
B01J 35/00,23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排ガスに含まれる粒子状物質を捕集して燃焼させる排ガス浄化装置において、
担体の隔壁を備え、
前記隔壁は、前記隔壁の表面に形成される層と、前記隔壁の内部に形成される層とを有し、
前記隔壁の内部に形成される層に貴金属が担持され、
前記隔壁の表面に形成される層に、前記粒子状物質の燃焼を促進し、前記貴金属よりも低温で前記粒子状物質を燃焼させうる燃焼促進触媒が担持され、
前記燃焼促進触媒が前記隔壁の表面に形成される層において下流側よりも上流側で高密度に担持され
る
ことを特徴とする排ガス浄化装置。
【請求項2】
前記燃焼促進触媒が前記隔壁の内部に形成される層にも担持される
ことを特徴とする請求項1記載の排ガス浄化装置。
【請求項3】
前記担体が入口セル及び出口セルを有するウォールフロー型担体であって、
前記燃焼促進触媒が、前記隔壁の内部に形成される層において前記入口セルまでの距離が所定値以下となる範囲内に担持される
ことを特徴とする請求項2記載の排ガス浄化装置。
【請求項4】
前記隔壁の表面に形成される層は、前記隔壁の表面のうち前記入口セルに面する側の上流側に設けられ前記燃焼促進触媒が担持される入口上流部を備える
ことを特徴とする請求項3記載の排ガス浄化装置。
【請求項5】
前記隔壁の表面に形成される層は、前記隔壁の表面のうち前記出口セルに面する側かつ下流側に設けられ前記貴金属が担持される出口下流部を備える
ことを特徴とする請求項3または4記載の排ガス浄化装置。
【請求項6】
前記入口上流部と前記出口下流部とが側面視で上下方向にオーバーラップして配置される
ことを特徴とする請求項4に従属する請求項5に記載の排ガス浄化装置。
【請求項7】
前記隔壁の内部に形成される層に窒素酸化物をトラップする窒素酸化物トラップ触媒を含む
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の排ガス浄化装置。
【請求項8】
前記窒素酸化物トラップ触媒が上流側よりも下流側で高密度に担持される
ことを特徴とする請求項7記載の排ガス浄化装置。
【請求項9】
前記窒素酸化物トラップ触媒がバリウム及びカリウムを含み、前記窒素酸化物トラップ触媒の全体に対する前記カリウムの含有割合が上流側よりも下流側で高く設定される
ことを特徴とする請求項7または8記載の排ガス浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排ガスに含まれる粒子状物質(PM)を捕集して燃焼させる排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の排ガス(排気ガス)を浄化するための排ガス浄化装置として、触媒が担持された担体を用いて有害成分を除去するものが知られている。すなわち、多数の微細孔が貫通形成された担体(キャリア)の内部に触媒成分を固定して排ガスを流通させ、排ガス中に含まれる一酸化炭素,未燃燃焼成分,窒素酸化物,粒子状物質(Particulate Matter;以下PM)などを浄化するものである。担体の種類としては、セラミックス成形品や金属製品(メタル担体)などが存在する。また、担体に担持される触媒の種類は、浄化の対象となる物質に応じて多様に選択される(特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/133086号
【文献】国際公開第2017/119101号
【文献】特開2010-269205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、担体上に捕集されるPMの分布は必ずしも均一ではなく、担体の形状や排ガスの流れ方などに応じた偏りが生じる。例えば、ウォールフロー型の担体では、入口セルに面した担体表面や、担体内部における排ガス流路の入口付近にPMが堆積しやすい。そのため、担体の上流側と下流側とでPMを均一に燃焼させることが難しいという課題がある。なお、PMの堆積量が増大しやすい上流側ほど焼却時間が長引きやすく、過昇温による性能低下のリスクがある。
【0005】
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑みて創案されたものであり、PMを均一に燃焼させることができるようにした排ガス浄化装置を提供することである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)開示の排ガス浄化装置は、内燃機関の排ガスに含まれる粒子状物質を捕集して燃焼させる排ガス浄化装置において、担体の隔壁を備える。前記隔壁は、前記隔壁の表面に形成される層と、前記隔壁の内部に形成される層とを有する。前記隔壁の内部に形成される層に貴金属が担持される。また、前記隔壁の表面に形成される層に、前記粒子状物質の燃焼を促進し、前記貴金属よりも低温で前記粒子状物質を燃焼させうる燃焼促進触媒が担持される。さらに、前記燃焼促進触媒が前記隔壁の表面に形成される層において下流側よりも上流側で高密度に担持される。前記燃焼促進触媒の具体例としては、銀(Ag),酸化セリウム(CeO2),銀セリア(Ag/CeO2),錫セリア(Sn/CeO2),セリアジルコニア(CeO2/ZrO2)などが挙げられる。
【0007】
前記隔壁内部に担持される貴金属の具体例としては、金(Au),銀(Ag),白金族元素〔ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh),パラジウム(Pd),オスミウム(Os),イリジウム(Ir),白金(Pt)〕などが挙げられる。これらの少なくとも一つ以上が、前記隔壁内部に担持される。好ましくは、白金(Pt)よりも触媒性能の高いロジウム(Rh)またはパラジウム(Pd)が前記隔壁内部に担持される。
【0008】
(2)前記燃焼促進触媒が前記隔壁の内部に形成される層にも担持されることが好ましい。つまり、前記燃焼促進触媒が前記隔壁内部の上流側に高密度で担持されることが好ましい。
(3)前記担体が入口セル及び出口セルを有するウォールフロー型担体であって、前記燃焼促進触媒が、前記隔壁の内部に形成される層において前記入口セルまでの距離が所定値以下となる範囲内に担持されることが好ましい。例えば、前記隔壁の内部を厚み方向の中央で区画したときに、前記入口セルに近い側に前記燃焼促進触媒を担持させることが考えられる。
【0009】
(4)前記隔壁の表面に形成される層は、前記隔壁の表面のうち前記入口セルに面する側の上流側に設けられ前記燃焼促進触媒が担持される入口上流部を備えることが好ましい。
(5)前記隔壁の表面に形成される層は、前記隔壁の表面のうち前記出口セルに面する側かつ下流側に設けられ前記貴金属が担持される出口下流部を備えることが好ましい。
(6)前記入口上流部と前記出口下流部とが側面視で上下方向にオーバーラップして配置されることが好ましい。
【0010】
(7)前記隔壁の内部に形成される層に窒素酸化物をトラップする窒素酸化物トラップ触媒を含むことが好ましい。前記窒素酸化物トラップ触媒の具体例としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属が挙げられる。例えば、バリウム(Ba),カリウム(K),ルビジウム(Rb),ストロンチウム(Sr),セシウム(Cs),フランシウム(Fr),ラジウム(Ra)などである。
【0011】
(8)前記窒素酸化物トラップ触媒が上流側よりも下流側で高密度に担持されることが好ましい。
(9)前記窒素酸化物トラップ触媒がバリウム及びカリウムを含み、前記窒素酸化物トラップ触媒の全体に対する前記カリウムの含有割合が上流側よりも下流側で高く設定されることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
燃焼促進触媒を上流側で高密度に担持させることで、PM(粒子状物質)を効率的に燃焼させることができ、排ガス浄化性能を効率的に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】排ガス浄化装置が適用された車両の内部を示す図である。
【
図2】排ガス浄化装置の担体の構造を示す断面図である。
【
図3】担体の内部構造(
図2のA部)を拡大して示す断面図である。
【
図4】貴金属の担持密度と炭化水素成分の浄化効率との関係を示すグラフである。
【
図5】バリウム及びカリウムのNOx浄化効率を説明するためのグラフである。
【
図6】PM燃焼促進触媒の担持密度の分布を説明するためのグラフである。
【
図7】NOxトラップ触媒の担持密度の分布を説明するためのグラフである。
【
図8】バリウム及びカリウムの含有割合を説明するためのグラフである。
【
図9】(A)~(C)は出口セル側の触媒カバー率を変化させたときの圧力損失,浄化性能,PM捕集効率の変化を説明するためのグラフである。
【
図10】(A)~(C)は入口セル側の触媒カバー率を変化させたときの圧力損失,浄化性能,PM捕集効率の変化を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[1.構成]
以下、図面を参照して、実施形態としての排ガス浄化装置について説明する。
図1に示すように、本件の排ガス浄化装置3は、エンジン1(内燃機関)を搭載した車両10に適用される。エンジン1の種類はディーゼルエンジンであってもよいし、ガソリンエンジンであってもよい。なお、本件の排ガス浄化装置3は、リーンバーン運転が可能なガソリンエンジンに好適である。
【0015】
排ガス浄化装置3は、エンジン1の排気通路2に介装される。排ガス浄化装置3は、排ガスに含まれる各種有害成分を効率よく浄化するための触媒装置であり、三元触媒としての機能と、窒素酸化物(NOx)吸蔵還元触媒としての機能と、PM除去フィルターとしての機能とを併せ持つ。排ガス浄化装置3の配設位置は、例えば
図1中に示すように、エンジン1に近接した位置(エキゾーストマニホールドの直下流側や過給機の直下流側など)に設定してもよいし、エンジン1から離れた位置に設定してもよい。また、排ガス浄化装置3の上流側や下流側に三元触媒コンバーターを別設し、排ガス浄化性能を向上させてもよい。
【0016】
排ガス浄化装置3の内部には、排ガスが通過しうる多数の流路が形成された多孔質体が設けられる。多孔質体とは、多孔質の担体7に触媒9を担持させたものであり、円筒状や楕円筒状,直方体状に形成される。担体7の材料は、炭化ケイ素やコーディエライト(コージライト)などのセラミックスであってもよいし金属であってもよい。担体7の空孔率は高いほど好ましい。本実施形態の担体7は空孔率が50[%]を超え、かつ直径が1[μm]以上の細孔についての細孔容積が0.2[mL/g]を超えるものとする。
【0017】
触媒9を担体7に担持させるための母材例としては、酸化アルミニウム(アルミナ,Al2O3)や酸化セリウム(セリア,CeO2)や酸化ジルコニウム(ジルコニア,ZrO2)などが挙げられる。なお、還元環境下で酸素を吸蔵する酸素吸蔵材料を母材に含ませてもよい。酸素吸蔵材料の例としては、セリア・ジルコニア複合固溶体(CeO2-ZrO2系物質)や希土類オキシ硫酸塩(Ln2O2SO4)などが挙げられる。
【0018】
排ガス浄化装置3に内装される多孔質体の構造は、ウォールフロー型であってもよいし、ストレート型であってもよい。本実施形態では、
図2に示すようなウォールフロー型について詳述する。担体7の内部は、排ガスの流通方向に沿って複数のセル(小部屋状の通路)に分割され、各セルは多孔質の隔壁6(リブ)によって区画される。また、各セルは入口側か出口側のいずれかの端が目封じ8によって閉塞される。出口側の端部が閉塞されたセルは入口セル4と呼ばれ、入口側の端部が閉塞されたセルは出口セル5と呼ばれる。
【0019】
それぞれの入口セル4は、少なくとも一つ以上の出口セル5に隣接するように配置され、好ましくは多数の出口セル5に隣接するように配置される。これにより、担体7の入口端面11から流入した排ガスは、まず入口セル4へと進入し、隔壁6の中を通過したのちに出口セル5へと進入して、担体7の出口端面12から流出する。つまり、すべての排ガスが隔壁6の内部を通過することになり、PM捕集効率が向上する。
【0020】
担体7には、その部位に応じた種類の触媒9が担持される。まず、隔壁6の内部と表面とで異なる触媒9が担持される。ここで隔壁6の内部のことを「隔壁内部13」と呼ぶ。
図3に示すように、隔壁内部13は、入口セル4に近い側と出口セル5に近い側との二領域に分類される。前者は入口セル4側の隔壁表面(または入口セル4)までの距離が所定値T以下となる部分であり、後者は入口セル4までの距離が所定値Tを超える部分である。所定値Tの値は任意であり、例えば隔壁6の厚みをT
WALLとして「T≦0.5T
WALL」の関係を満たすように設定される。以下、隔壁内部13のうち入口セル4に近い側を「内部入口側14」と呼び、出口セル5に近い側を「内部出口側15」と呼ぶ。
【0021】
隔壁6の表面には、入口セル4側と出口セル5側とで異なる触媒層が形成される。
図2,
図3に示すように、担体7の隔壁表面のうち、入口セル4に面する側の上流側には、入口上流部16が設けられる。入口上流部16は、入口端面11から入口セル4の最奥部よりも手前までの範囲をカバーするように設けられる。つまり、入口セル4に面する隔壁表面のうち、入口上流部16よりも出口端面12側には触媒9が担持されない。側面視での入口上流部16の長さL
1は、入口セルの全長L
UPに対して少なくとも「0<L
1<L
UP」の関係を満たし、好ましくは「0.5L
UP≦L
1<0.75L
UP」の関係を満たすように設定される。
【0022】
図3に示すように、入口上流部16は基層17と表層18とを含む多層構造にしてもよい。この場合、表層18は入口セル4に接触している入口上流部16の表面、あるいはその表面に近い部分(その表面までの距離が第二所定値以下となる部分)である。基層17は、表層18よりも担体7側に位置する部分であって、好ましくは担体7に接触するように設けられる。
図3に示す例では、表層18以外の部分が基層17になっている。このような多層構造では、基層17と表層18とに異なる触媒9を担持させることが好ましい。
【0023】
また、担体7の隔壁表面のうち、出口セル5に面する側の下流側には、出口下流部19が設けられる。出口下流部19は、出口端面12から出口セル5の最奥部よりも手前までの範囲をカバーするように設けられる。つまり、出口セル5に面する隔壁表面のうち、出口下流部19よりも入口端面11側には触媒9が担持されない。側面視での出口下流部19の長さL2は、出口セルの全長LDOWNに対して少なくとも「0<L2<LDOWN」の関係を満たし、好ましくは「0.5LDOWN≦L2<0.75LDOWN」の関係を満たすように設定される。
【0024】
より好ましくは、
図2,
図3に示すように、入口上流部16と出口下流部19とが側面視で上下方向にオーバーラップして配置される。例えば、側面視での入口セル4の全長L
UPに対して、入口上流部16の長さL
1を60%とする。また、出口セル5の全長L
DOWNに対して、出口下流部19の長さL
2も60%とする。この場合、入口上流部16の下流端部と出口下流部19の上流端部とが
図2,
図3中で上下方向にオーバーラップした状態となる。これにより、入口上流部16や出口下流部19の近傍を通過せずに流出する排ガスの量が減少し、PM捕集効率や排ガス浄化効率が向上する。
【0025】
ここで、担体7に担持される触媒9の種類について詳述する。
隔壁内部13には、貴金属触媒が担持される。貴金属の具体例としては、白金族元素〔白金(Pt),パラジウム(Pd),ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh),オスミウム(Os),イリジウム(Ir)〕や金(Au),銀(Ag)などが挙げられる。好ましくは、白金よりも触媒性能の高いロジウムやパラジウムが用いられる。
図4に示すように、ロジウムやパラジウムは白金よりも担持量あたりの触媒活性(全炭化水素に対する変換効率)が高い。したがって、ロジウムやパラジウムを用いることで、効率的に排ガス浄化性能を高めることができる。なお、ロジウムを用いる場合にはその担持密度を1.0[g/L]程度とする。
【0026】
入口上流部16には、銀(Ag),酸化セリウム(CeO2),銀セリア(Ag/CeO2),希土類元素(Rare-Earth Elements,REE)などを担持させることが好ましい。銀や酸化セリウムはPM燃焼促進材(燃焼促進触媒)として機能し、隔壁内部13に担持される貴金属よりも低温でPMを燃焼させうる。その他の燃焼促進材の具体例としては、錫セリア(Sn/CeO2)やセリアジルコニア(CeO2/ZrO2)などが挙げられる。一方、希土類元素は、P/Znトラップ(リン及び亜鉛トラップ)として機能し、排ガス中に含まれるリンや亜鉛による被毒を抑制する。なお、銀を用いる場合にはその担持密度を2.0[g/L]程度とする。
【0027】
前者(銀,酸化セリウム,銀セリア)と後者(希土類)とをともに入口上流部16に担持させる場合には、前者が含まれる部位を入口セル4側に露出させることが好ましい。例えば
図3に示す図中において、希土類元素を含む部位を基層17とし、銀,酸化セリウム,銀セリアを含む部位を表層18とすることが好ましい。この場合、希土類元素を含む基層17をウォッシュコート法で形成した後に、銀,酸化セリウム,銀セリアを含む表層18を再びウォッシュコート法で形成すればよい。入口セル4側に銀,酸化セリウムを露出させることで、PMの燃焼性が向上する。なお、前者(銀,酸化セリウム,銀セリア)と後者(希土類)とのいずれか一方を入口上流部16に担持させる場合には、入口上流部16を多層構造にせずに単層構造とすればよい。
【0028】
ここでいう希土類元素の具体例としては、スカンジウム(Sc),イットリウム(Y),ランタノイド〔ランタン(La),セリウム(Ce),プラセオジム(Pr),ネオジム(Nd),プロメチウム(Pm),サマリウム(Sm),ユウロピウム(Eu),ガドリニウム(Gd),テルビウム(Tb),ジスプロシウム(Dy),ホルミウム(Ho),エルビウム(Er),ツリウム(Tm),イッテルビウム(Yb),ルテチウム(Lu)〕が挙げられる。これらの少なくとも一つ以上を入口上流部16に担持させることで、P/Znトラップ性能が向上する。
【0029】
出口下流部19には、貴金属を担持させることが好ましい。出口下流部19に担持される貴金属の具体例としては、白金族元素〔白金,パラジウム,ルテニウム,ロジウム,オスミウム,イリジウム〕,金,銀などが挙げられる。ここで担持される貴金属の種類は、隔壁内部13に担持されるものと同一であってもよいし、相違してもよい。好ましくは、ロジウムまたはパラジウムが用いられる。なお、ロジウムを用いる場合にはその担持密度を0.4[g/L]程度とする。
【0030】
なお、隔壁内部13にNOxを一時的に吸蔵・吸着するNOxトラップ触媒(窒素酸化物トラップ触媒)を含ませてもよい。NOxトラップ触媒の具体例としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属が挙げられる。例えば、バリウム(Ba),カリウム(K),ルビジウム(Rb),ストロンチウム(Sr),セシウム(Cs),フランシウム(Fr),ラジウム(Ra)などであり、好ましくはバリウム及びカリウムが併用される。
【0031】
図5に示すように、カリウムはバリウムよりも高温でのNOx浄化に適しており、燃焼温度の高いガソリンエンジンでの排ガス浄化に適している。また、カリウムはバリウムよりもNO
2のトラップ性能が高く、NOx浄化効率が高い。一方、カリウムは熱的に不安定であり、担持位置から落下,飛散することがある。この場合、飛散したカリウムが他の触媒や貴金属の触媒作用(三元活性,特にTHC浄化性能)を阻害しうる。したがって、バリウムとカリウムとを併用することが好ましい。
【0032】
触媒9の種類と担持位置との組み合わせを、以下の表1~表8に例示する。ここでは、64種類の実施例(No.1~No.64)を示す。表中の「Pd/Rh」はパラジウム及びロジウムを含むことを意味する。すべての実施例において、隔壁内部13に貴金属が含まれている。また、表中の「Ag/CeO2」はPM燃焼促進触媒である銀セリアを含むことを意味する。銀セリアは隔壁内部13や入口上流部16に担持される(No.2~16,18~32,34~48,50~64)。
【0033】
表中の「Ba/K」はバリウム及びカリウムを含むことを意味する。バリウム及びカリウムは隔壁内部13に担持され、好ましくは少なくとも内部出口側15に担持される(No.33~64)。また、表中の「REE」は希土類元素を含むことを意味する。希土類元素は、入口上流部16に担持される(No.3~4,7~8,11~12,15~16,19~20,22~24,27~28,31~32,35~36,39~40,43~44,47~48,51~52,55~56,59~60,63~64)。入口上流部16に銀セリアと希土類元素とがともに含まれないものについては、二層構造にする(基層17及び表層18を形成する)必要はない。
【0034】
表1~表8中の空欄は、触媒非担持としてもよいし、何らかの触媒(例えば白金,遷移金属硫酸塩,アルカリ金属硫酸塩など)を担持させてもよい。ただし、少なくともNo.1,No.17,No.33,No.49の入口上流部16については、何らかのPM燃焼促進触媒〔例えば、銀(Ag),酸化セリウム(CeO2),錫セリア(Sn/CeO2),セリアジルコニア(CeO2/ZrO2)など〕が担持されているものとする。したがって、すべての実施例は担体7上に何らかのPM燃焼促進触媒を含む。
【0035】
バリウム及びカリウムを含まない実施例は表1~表4に記載されており、バリウム及びカリウムを含む実施例は表5~表8に記載されている。また、出口下流部19に貴金属を含まない実施例は表1~表2に記載されており、出口下流部19に貴金属を含む実施例は表3~表8に記載されている。また、内部出口側15に銀セリアを含まない実施例は表1,表3,表5,表7に記載されており、内部出口側15に銀セリアを含む実施例は表2,表4,表6,表8に記載されている。
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
上記のすべての実施例(No.1~64)において、PM燃焼促進触媒が下流側よりも上流側で高密度に担持される。ここでいう上流側及び下流側とは、排ガスの流れ方向を基準とした上流(流通元)及び下流(流通先)である。PM燃焼促進触媒の担持密度を設定するための具体的な手法としては、例えば以下の(A)~(G)が考えられる。
【0045】
(A) 入口上流部16において、基層17(下流側)よりも表層18(上流側)で高密度に担持する。
(B) 隔壁内部13において、内部出口側15(下流側)よりも内部入口側14(上流側)で高密度に担持する。
(C) 入口上流部16及び隔壁内部13において、表層18,基層17,内部入口側14,内部出口側15の順に担持密度が低くなるように担持する。
【0046】
(D) 表層18において、基層17に近い部分(下流側)よりも表面(上流側)で高密度に担持する。
(E) 基層17において、表層18から遠い部分(下流側)よりも表層18に近い部分(上流側)で高密度に担持する。
(F) 内部入口側14において、入口セル4から遠い部分(下流側)よりも入口セル4に近い部分(上流側)で高密度に担持する。
(G) 内部出口側15において、出口セル5に近い部分(下流側)よりも出口セル5から遠い部分(上流側)で高密度に担持する。
【0047】
図6は、PM燃焼促進触媒の担持密度の設定例を示すグラフである。
図6中の破線は、上記の(A)及び(D)に従った設定に対応する。また、
図6中の一点鎖線は、上記の(B)及び(F)に従った設定に対応し、太実線は上記の(C)~(G)に従った設定に対応する。このように、PMの堆積しやすい上流側に担持されるPM燃焼促進触媒の担持密度を下流側よりも高密度にすることで、担体7の上流側と下流側とでPMが均一に燃焼しやすくなる。これにより、同程度の焼却時間で担体7の各所に堆積していたPMが焼却されやすくなり、局所的な過昇温の発生が防止される。
【0048】
また、NOxトラップ触媒としてバリウム及びカリウムを含む上記の実施例(No.33~64)において、NOxトラップ触媒を上流側よりも下流側で高密度に担持させてもよい。NOxトラップ触媒の担持密度を設定するための具体的な手法としては、例えば以下の(H)~(J)が考えられる。
【0049】
(H) 隔壁内部13において、内部入口側14(上流側)よりも内部出口側15(下流側)で高密度に担持する。
(I) 内部出口側15において、出口セル5から遠い部分(上流側)よりも出口セル5に近い部分(下流側)で高密度に担持する。
(J) 内部入口側14において、入口セル4に近い部分(上流側)よりも入口セル4から遠い部分(下流側)で高密度に担持する。
【0050】
図7は、NOxトラップ触媒の担持密度の設定例を示すグラフである。
図7中の破線は上記の(H)に従った設定に対応し、一点鎖線は上記の(H)~(I)に従った設定に対応し、実線は上記の(H)~(J)に従った設定に対応する。このように、隔壁内部13に担持されるNOxトラップ触媒の担持密度を上流側よりも下流側で高密度に設定することで、NOxスリップが効果的に抑制される。
【0051】
なお、バリウム及びカリウムの含有割合は、
図8に示すように担体7の部位ごとに相違させてもよい。すなわち、バリウムの含有割合を上流側で高く設定するとともに下流側で低く設定してもよい。言い換えれば、カリウムの含有割合を上流側で低く設定するとともに下流側で高く設定してもよい。このような設定により、カリウムの飛散による他の触媒作用の低下が抑制される。
【0052】
[2.作用・効果]
図9(A)~(C)は、入口上流部16の長さL
1を入口セル4の全長L
UPの半分(50%)に固定し、出口下流部19の長さL
2をゼロから出口セル5の全長L
DOWNまで(0%から100%まで)変化させたときに、圧力損失,排ガスの浄化性能,PM捕集効率のそれぞれがどのように変化するかを示すグラフである。
【0053】
圧力損失は、出口下流部19の長さL
2を全長L
DOWNの7~8割以下にすることで比較的小さな値に抑えることが可能である。また、浄化性能及びPM捕集効率は、出口下流部19の長さL
2を全長L
DOWNの半分以上にすることで急激に上昇する。したがって、出口下流部19の好ましい長さL
2の範囲はおよそ0.5L
DOWN≦L
2<0.75L
DOWNと考えられる。なお、
図9(A)~(C)中の破線は、隔壁内部13に担持される貴金属の担持量を増加させた場合の圧力損失,排ガスの浄化性能,PM捕集効率を示す。このように、出口下流部19が出口セル5の全長L
DOWNにわたるような広範囲に形成されない場合であっても、隔壁内部13の貴金属担持量を増加させることで良好な排ガス浄化性能が維持されうる。
【0054】
図10(A)~(C)は、出口下流部19の長さL
2を出口セル5の全長L
DOWNの半分(50%)に固定し、入口上流部16の長さL
1をゼロから入口セル4の全長L
UPまで(0%から100%まで)変化させたときに、圧力損失,排ガスの浄化性能,PM捕集効率のそれぞれがどのように変化するかを示すグラフである。入口上流部16の長さL
1を全長L
DOWNの7~8割以下にすることで圧力損失を小さく抑えることが可能である。また、浄化性能及びPM捕集効率は、入口上流部16の長さL
1を全長L
UPの半分以上にすることで急激に上昇する。したがって、入口上流部16の好ましい長さL
1の範囲はおよそ0.5L
UP≦L
1<0.75L
UPと考えられる。
【0055】
(1)
図6に示すように、PM燃焼促進触媒を上流側で高密度に担持させることで、PMを効率的に燃焼させることができ、排ガス浄化性能を効率的に高めることができる。特に、PMが堆積しやすい上流側での迅速な着火を促すことができ、燃焼のきっかけを生じやすくすることができる。これにより、担体7の上流側と下流側とでPMを均一に燃焼させることができ、焼却時間を上流側と下流側とでほぼ同程度にすることができる。これにより、局所的な過昇温の発生を防止することができ、排ガス浄化性能を効率的に高めることができる。
【0056】
(2)表1~表8のNo.5~16,21~32,37~48,53~64に示すように、隔壁内部13にPM燃焼促進触媒を担持させることで、隔壁内部13に堆積したPMをより低温な状態で燃焼させることができる。したがって、PM燃焼効率を高めることができるとともに、PMによる目詰まりや圧損上昇を防止することができる。
(3)隔壁内部13でPMが堆積しやすい内部入口側14にPM燃焼促進触媒を担持させることで、PM燃焼効率をさらに高めることができる。
【0057】
(4)排ガス中のPMとの接触確率が最も高い入口上流部16にPM燃焼促進触媒を担持させることで、PM燃焼効率をさらに高めることができるとともに、例えば冷態始動直後の担体7を早期に昇温させることができる。また、PMが隔壁内部13に進入する前に燃焼させることが可能となり、排気通路2の圧力損失を低減させることができる。したがって、総合的な排ガス浄化性能を高めることができる。
【0058】
(5)表3~表8のNo.17~64に示すように、出口下流部19に貴金属触媒を含ませることで、出口セル5側でのNOx還元効率を高めることができる。これにより、排ガス浄化装置3からのNOxのスリップ量を減少させることができ、排ガス浄化性能を効率的に高めることができる。
【0059】
(6)
図2,
図3に示すように、入口上流部16と出口下流部19とを側面視で上下方向にオーバーラップさせることで、PM捕集効率や排ガス浄化効率を高めることができる。なお、入口上流部16の長さL
1を0.5L
UP≦L
1<0.75L
UPの範囲内で設定するとともに、出口下流部19の長さL
2を0.5L
DOWN≦L
2<0.75L
DOWNの範囲内で設定すれば、
図9~
図10に示すように、圧力損失を過度に上昇させることなく浄化性能とPM捕集効率とを高い水準に維持することができる。
【0060】
(7)表5~表8のNo.33~64に示すように、隔壁内部13にNOxトラップ触媒(バリウム及びカリウム)を含ませることで、隔壁内部13のNOx吸蔵量を増加させることができる。また、隔壁内部13には貴金属も含まれているため、バリウムやカリウムに吸蔵されたNOxをその場で還元することが容易であり、NOx浄化効率を高めることができる。
【0061】
(8)
図7に示すように、NOxトラップ触媒を下流側で高密度に担持させることで、排ガス浄化装置3からスリップしようとしたNOxをより確実に捕獲することができ、NOxスリップを効果的に抑制することができる。したがって、排ガス浄化装置3からのNOxのスリップ量を減少させることができ、排ガス浄化性能を効率的に高めることができる。
【0062】
(9)
図8に示すように、カリウムの担持割合を下流側で高く設定することで、カリウムの飛散を抑制することができるとともに、飛散による他の触媒作用の低下を防ぐことができる。したがって、排ガス浄化性能を効率的に高めることができる。また、バリウムがカリウムよりも上流側に担持されることから、低温時のNOxトラップ性能を向上させることができる。
【0063】
[3.変形例]
上記の実施形態はあくまでも例示に過ぎず、本実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0064】
上述の実施形態ではエンジン1を搭載した車両10を例示したが、本件の適用対象は車両10に限定されない。上記の排ガス浄化装置3は、例えば船舶や航空機などに搭載されるエンジン1の排気通路2に介装させることが可能である。あるいは、発電機や産業用機械に内蔵されるエンジン1の排ガス浄化装置3として利用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 エンジン(内燃機関)
2 排気通路
3 排ガス浄化装置
4 入口セル
5 出口セル
6 隔壁
7 担体
8 目封じ
9 触媒
10 車両
11 入口端面
12 出口端面
13 隔壁内部
14 内部入口側
15 内部出口側
16 入口上流部
17 基層
18 表層
19 出口下流部