(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】消毒剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/045 20060101AFI20221101BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20221101BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20221101BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20221101BHJP
A61K 31/19 20060101ALI20221101BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20221101BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20221101BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20221101BHJP
A01N 25/02 20060101ALI20221101BHJP
A01N 31/02 20060101ALI20221101BHJP
A01N 57/12 20060101ALI20221101BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20221101BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20221101BHJP
A61K 8/81 20060101ALI20221101BHJP
A61K 8/84 20060101ALI20221101BHJP
A61K 8/24 20060101ALI20221101BHJP
A61K 8/365 20060101ALI20221101BHJP
A61K 8/44 20060101ALI20221101BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
A61K31/045
A61K47/32
A61K47/34
A61K47/04
A61K31/19
A61K31/198
A61P31/12
A01N25/00 101
A01N25/02
A01N31/02
A01N57/12 F
A01P3/00
A61K8/34
A61K8/81
A61K8/84
A61K8/24
A61K8/365
A61K8/44
A61Q19/10
(21)【出願番号】P 2018200449
(22)【出願日】2018-10-24
【審査請求日】2021-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2017239394
(32)【優先日】2017-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001564
【氏名又は名称】フェリシテ弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100081514
【氏名又は名称】酒井 一
(74)【代理人】
【識別番号】100082692
【氏名又は名称】蔵合 正博
(72)【発明者】
【氏名】宮本 幸治
(72)【発明者】
【氏名】坂元 伸行
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭
(72)【発明者】
【氏名】川崎 寛子
【審査官】一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-084479(JP,A)
【文献】特開2007-211012(JP,A)
【文献】特開2002-114616(JP,A)
【文献】特開2009-209116(JP,A)
【文献】特開2008-115125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61K 31/00-33/44
A61K 47/00-47/69
A01N 1/00-65/48
A61Q 19/00-19/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)エタノール、イソプロパノール、またはその両者の混合物、
(b)式(1)で表される2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン70~90モル%とメタクリル酸ブチル30~10モル%とを共重合させた、重量平均分子量50,000~1,000,000の共重合体、
(c)無水マレイン酸を含む2種以上の単量体を共重合させた共重合体、および
(d)リン酸、を含む透明な液状組成物であり、
該組成物全量基準で、成分(a)を40~95質量%、成分(b)を0.001~0.1質量%、成分(c)を0.005~0.5質量%、および成分(d)を0.05~3.0質量%含有し、
成分(b)と成分(c)の配合割合が、質量比で(b)/(c)=1/30~1/5であり、
室温下でのpHが2.0~5.0である、
皮膚消毒剤。
【化1】
【請求項2】
(e)クエン酸、リンゴ酸、および乳酸から選択される少なくとも1種の酸を、前記組成物全量基準で0.05~1.5質量%含有する、
請求項1に記載の皮膚消毒剤。
【請求項3】
(f)グリシンを、前記組成物全量基準で0.01~0.3質量%含有する、
請求項1または2に記載の皮膚消毒剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人等の動物に使用する消毒剤に関する。より具体的にはウイルス不活化効果が高く、かつ良好な即効性を有し、さらに透明性に優れた皮膚消毒剤に関する。
【背景技術】
【0002】
人等の動物に対する消毒剤としては、エタノール、またはイソプロパノールなどの低級アルコールが汎用的に使用されている。これらの低級アルコールを主成分とする消毒剤は速乾性に優れるものの、脱脂力が強いため、敏感肌の人など場合によっては肌荒れを生じるおそれがあった。
【0003】
そこで、特許文献1は、低級アルコールに、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンのホモ重合体あるいは共重合体を配合することで、低級アルコールによる肌荒れを抑制することができる消毒用速乾性透明ローションの技術を開示している。
また、特許文献2は、クエン酸、およびポリクオタニウム-37といった陽イオン系ポリマーを組み合わせることで、pHを低下させて殺菌効果を高め、かつ即効性を付与できる消毒剤の技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-115125号公報
【文献】特開2007-211012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に係る消毒剤はウイルス不活化効果を十分には有しておらず、ウイルス不活化効果を向上させるために、pHを低下させると透明性が損なわれる場合があった。
また、特許文献2に係る消毒剤は、手の常在菌を殺菌するのに1分間のスクラブがまだ必要であり、特に殺菌効果が得られ難い非エンベロープウイルスの不活化効果に対する即効性の点では十分ではなかった。さらに、pHを低下させると、やはり透明性が損なわれる場合があった。
皮膚消毒剤、例えば手指消毒剤は、不特定多数が出入りする施設で使用されることも多いので、消毒性能に優れるだけではなく、消毒剤に異物が混入されていないことを視認可能なように外観が透明であることが好ましい。
【0006】
そこで、本発明の課題は、ウイルス不活化効果および該効果の即効性に優れ、かつ製品外観の透明性にも優れた皮膚消毒剤を提供することである。ここで、ウイルス不活化とは、ウイルスの感染力や毒性等の活性を失わせることをいう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の共重合体、および特定の酸を組み合わせることにより、ウイルス不活化効果、即効性、および製品外観の透明性、全てを満足しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は下記の[1]~[3]である。
[1]
(a)エタノール、イソプロパノール、またはその両者の混合物、
(b)式(1)で表される2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン70~90モル%とメタクリル酸ブチル30~10モル%とを共重合させた、重量平均分子量50,000~1,000,000の共重合体、
(c)無水マレイン酸を含む2種以上の単量体を共重合させた共重合体、および
(d)リン酸、を含む透明な組成物であり、
該組成物全量基準で、成分(a)を40~95質量%、成分(b)を0.001~0.1質量%、成分(c)を0.005~0.5質量%、および成分(d)を0.05~3.0質量%含有し、
成分(b)と成分(c)の配合割合が、質量比で(b)/(c)=1/30~1/5であり、
室温下でのpHが2.0~5.0である、
皮膚消毒剤。
【化1】
[2]
[1]に、さらに、(e)クエン酸、リンゴ酸、および乳酸から選択される少なくとも1種の酸を、組成物全量基準で0.05~1.5質量%含有する皮膚消毒剤。
[3]
[1]または[2]に、さらに、(f)グリシンを、組成物全量基準で0.01~0.3質量%を含有する皮膚消毒剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明の皮膚消毒剤は、ウイルス不活化効果および該効果の即効性に優れているので、きわめて良好な皮膚消毒効果を発揮でき、皮膚の殺菌消毒に好適に使用できる。さらに、透明性に優れているので、異物混入の有無が容易に判断できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の皮膚消毒剤は、(a)エタノール、イソプロパノール、またはその両者の混合物、(b)2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以後、MPCと称する)とメタクリル酸ブチル(以後、BMAと称する)との共重合体、(c)無水マレイン酸を含む2種以上の単量体を共重合させた共重合体、および(d)リン酸(H3PO4)を含有する、透明な組成物である。該組成物は、任意成分として(e)クエン酸、リンゴ酸、および乳酸から選択される少なくとも1種の酸、および(f)グリシン、のいずれか一方または両方の成分を含有してもよい。以後、皮膚消毒剤と称した場合は、特に断りがない限り、本発明の皮膚消毒剤を指すものとする。
皮膚消毒剤は、成分(b)~(d)、ならびに任意成分の(e)および(f)が成分(a)に溶解した組成物であるが、透明性の点で、溶媒として水を含有することが好ましい。水としては、精製水、純水、またはイオン交換水等を使用することが好ましい。
【0011】
皮膚消毒剤は上記組成物であり、組成物全量基準で成分(a)を40~95質量%、成分(b)を0.001~0.1質量%、成分(c)を0.005~0.5質量%、および成分(d)を0.05~3.0質量%含有している。さらに、任意に、組成物全量基準で成分(e)を0.05~1.5質量%、成分(f)を0.01~0.3質量%含有してもよい。
皮膚消毒剤は、成分(a)~(d)、ならびに任意成分の(e)および(f)以外に、溶媒としての水、および後述のその他の任意成分を含有する組成であってもよい。上記の通り、透明性の点で水を含有することが好ましい。
【0012】
皮膚消毒剤は、その室温下のpHが2.0~5.0であり、より好ましくは2.5~4.0である。pHがこの範囲であれば、ウイルス不活化効果の即効性が良好となるからである。pHは、第十七改正日本薬局方 一般試験法2.54に準拠して測定する。
【0013】
成分(a)の皮膚消毒剤中の含有量は、40~95質量%である。この範囲であればウイルス不活化能を充分に発揮できるからである。
【0014】
成分(b)は、式(1)で示されるMPCと、BMAとの共重合体であり、MPCとBMAの共重合比は、モル比でMPC/BMA=70/30~90/10である。また、その重量平均分子量(Mw)は50,000~1,000,000である。
【化2】
【0015】
皮膚消毒剤中の成分(b)の含有量は、0.001~0.1質量%であり、0.001~0.05質量%が好ましい。0.001質量%以上であれば、皮膚刺激の良好な緩和効果を示す。しかし、0.1質量%を超えても緩和効果の向上は少なく、費用対効果の点で利点がない。
【0016】
成分(c)は、無水マレイン酸を含む2種以上の単量体を共重合させた共重合体(以後、無水マレイン酸系共重合体と称する)であり、無水マレイン酸と共重合させるコモノマーとしてはメチルビニルエーテル系コモノマーが好ましい。具体的には、メチルビニルエーテルを例示することが出来る。無水マレイン酸系共重合体を調製するためのモノマー組成中の無水マレイン酸量としては、40~50モル%が好ましく、50モル%が特に好ましい。また、Mwは100,000~2,500,000が好ましい。
【0017】
成分(c)の無水マレイン酸系共重合体は、皮膚消毒剤が水を含むような場合、その無水マレイン酸由来部の全部または一部が、加水分解により開環していると考えられる。また、皮膚消毒剤が水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリを含む場合、無水マレイン酸由来部が部分あるいは全部中和されて、その一部または全部がNa塩、K塩等の塩となっている。またさらに、無水マレイン酸由来部が無水状態、酸状態、塩状態のうちの2つ以上の混合状態の場合もあり得る。
【0018】
皮膚消毒剤中の成分(c)の含有量は、0.005~0.5質量%であり、好ましくは0.005~0.25質量%である。0.005質量%以上であれば、皮膚消毒剤が適度な粘性を持ち、使用時に皮膚消毒剤が手指からこぼれ落ちることを防止する効果が良好である。しかし、0.5質量%を超えると皮膚消毒剤の使用時にべたつき等が出て、使用感が悪くなるおそれがある。
【0019】
成分(b)と(c)の配合割合は、質量比で(b)/(c)=1/30~1/5である。この範囲であれば、pH2.0~5.0において良好となる成分(a)のウイルス不活化効果の即効性を低下させることなく、透明性の高い皮膚消毒剤が得られるからである。
【0020】
皮膚消毒剤中の成分(d)のリン酸(H3PO4)の含有量は、0.05~3.0質量%であり、0.2~2.5質量%がより好ましく、0.5~2.0質量%が特に好ましい。中でも、ウイルス不活効果の即効性の観点では、1.6~2.0質量%が特に好ましい。皮膚消毒剤のpHは成分(d)の含有量のみに依存するわけではないが、当該範囲であれば目標とするpHに制御し易いからである。
【0021】
皮膚消毒剤は、成分(a)~(d)に加えて、(e)クエン酸、リンゴ酸、および乳酸から選択される少なくとも1種の酸を含有してもよい。成分(e)を含有することにより、ウイルス不活化効果をより向上させることができる。なお、リンゴ酸、乳酸はD体,L体およびDL体いずれであってもよい。
成分(e)を含有する場合、皮膚消毒剤中の成分(e)の含有量は、0.05~1.5質量%が好ましい。当該範囲であれば皮膚消毒剤のpHを目標とする範囲に制御し易いからである。
【0022】
皮膚消毒剤は、成分(a)~(d)、または(a)~(e)に加えて、(f)グリシンを含有してもよい。成分(f)を含有することにより、皮膚への刺激性が強くなることなく、ウイルス不活化効果をより向上させることができる。
成分(f)を含有する場合、皮膚消毒剤中の成分(f)の含有量は、0.01~0.3質量%が好ましく、0.05~0.15質量%がより好ましい。当該範囲であれば皮膚への刺激性が強くなることを防止できるからである。
【0023】
皮膚消毒剤は、成分(a)~(d)、ならびに任意成分の(e)および(f)以外に、塩化ナトリウムなどの無機塩、パラオキシ安息香酸エチルなどの防腐剤、およびエデト酸ナトリウムなどのキレート剤から選択される1種以上を含有してもよい。これらを含有する場合、皮膚消毒剤中の各々の含有量は、無機塩0.05~1.0質量%、防腐剤0.05~0.3質量%、キレート剤0.01~0.5質量%が好ましい。当該範囲であれば、皮膚消毒剤の透明性を維持しつつ、ウイルス不活化効果をより向上させることができる。
【0024】
皮膚消毒剤は、本発明の効果を阻害しない限り、上記説明した成分以外に、必要に応じて一般に消毒剤に使用できる保湿剤、エモリエント剤、増粘剤、殺菌剤、pH調整剤、香料、および色素等を含有してもよい。
【0025】
保湿剤としては、例えば、グリセリン、ソルビトール、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、ピロリドンカルボン酸およびその塩、乳酸ナトリウム、ヒアルロン酸およびその塩、N-ココイル-L-アルギニンエチルエステルDL-ピロリドンカルボン酸塩、ならびに尿素等を挙げることができ、これらの1種以上を含むことができる。
【0026】
エモリエント剤としては、例えば、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸イソプロピル、オレイン酸イソブチル、およびマレイン酸イソブチル等の脂肪酸エステルを挙げることができ、これらの1種以上を含むことができる。
【0027】
増粘剤としては、例えば天然多糖類、およびその誘導体、例えば、カルボキシメチルデンプン、ジアルデヒドデンプン、プルラン、マンナン、アミロペクチン、アミロース、デキストラン、ヒドロキシエチルデキストラン、レバン、イヌリン、キチン、キトサン、キシログルカン、アルギン酸、アラビアゴム、グアーガム、トラガントガム、ヒアルロン酸、ヘパリン、メチルセルロース、エチルセルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、およびヒドロキシプロピルメチルセルロース等を挙げることができ、これらの1種以上を含むことができる。中でもメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、およびヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系水溶性化合物を好ましい増粘剤として例示できる。
【0028】
殺菌剤としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等の逆性石鹸系化合物;グルコン酸クロルヘキシジンに代表されるクロルヘキシジン塩等のビグアナイド化合物;クレゾール等のフェノール系化合物;ヨウ素イオン、ヨウドホルム、ヨードホア等のヨウ素化合物;およびアクリノール等の色素系化合物等を挙げることができ、これらの1種以上を含むことができる。
【0029】
pH調整剤としては、塩酸、グルコン酸、第一級アミン、第二級アミン、水酸化ナトリウム、および水酸化カリウム等を挙げることができ、これらの1種以上を含むことができる。
【0030】
上記説明した組成を有する皮膚消毒剤の製品形態(外観)は、透明であれば特に限定されず、液状、ジェル状、およびペースト状などの形態を例示できる。中でも、液状、特に粘性を有する液状、すなわち粘性液体状が使用性の点で好ましい。
本発明における透明とは、後述する透明性の評価において、「〇」と判定される場合を指すものとする。
【0031】
皮膚消毒剤の使用方法は特に限定されないが、例えば、適当なボトルに充填し、適量を手に取り、直接手指などの皮膚に適用したり、不織布等に含浸させて皮膚に適用したりすることができる。
このようにして皮膚消毒剤を使用することにより、手指等の皮膚を殺菌、消毒、洗浄することができる。
【0032】
上記説明した組成、および製品形態を有する皮膚消毒剤は、上記例示した使用方法で使用することにより、通常の生活環境に生息するウイルスに対して消毒効果を発揮し、その種類には特に制限はない。具体的にウイルスとしてエンベロープを有するウイルスに加えて、ノロウイルス、ポリオウイルス、アデノウイルスに代表されるノンエンベロープウイルスを例示することができる。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、以下の実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0034】
1.成分(b);MPC共重合体の合成
成分(b)として、MPC/BMA=80/20(モル比)のMPC共重合体を常法に従って合成した。
MPC共重合体をリン酸生理緩衝食塩水に溶解した溶液を調製し、ゲルろ過クロマトグラフィー(以下GFCと記載)分析によりMwを算出した。その結果、MPC共重合体のMwは、ポリエチレングリコール換算で600,000であった。当該MPC共重合体を共重合体Aとする。
【0035】
GFCは、以下の条件で測定した。
<測定条件>
システム:高速液体クロマトグラフィーシステム;CCPS8020シリーズ(東ソー株式会社製)
カラム:SB-802.5 HQおよびSB-806MN HQを直列に接続
溶離液:20mMリン酸バッファー
検出器:RI,およびUV(波長210nm)
流速:0.5mL/分
測定時間:70分
注入量:100μL
ポリマー濃度:0.1重量%
カラムオーブン温度:45℃
【0036】
2.成分(c);無水マレイン酸系共重合体
成分(c)の無水マレイン酸系共重合体として、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体(Gantrez AN119BF、アシュランドジャパン株式会社製)を使用した。当該成分(c)の無水マレイン酸系共重合体を共重合体Bとする。
【0037】
3.ウイルス不活化効果の評価
皮膚消毒剤、および本発明の範囲外の比較例用皮膚消毒剤について、次に示す方法でウイルス不活化効果を評価した。なお、以後、実施例および比較例とも単に皮膚消毒剤と称する。
実施例1~17および比較例1の各皮膚消毒剤について、皮膚消毒剤9mLに、ネコ腎由来株化細胞で感染培養したネコカリシウイルス(Feline Calicivirus: FCV) ATCC VR-782のウイルス懸濁液1mLを加えた混合液1を調製し、25℃で30秒間放置した。つづいて、混合液1の0.5mLを薬剤不活性化剤(ウシ胎児血清を10%としたSCDLP培地)4.5mLに加え、混合して混合液2を調製した。混合液2の0.1mLをEMEM(Eagle's minimal essential medium)0.9mLに加え、混合して混合液3を調製した。この混合液3についてプラーク測定法にてウイルス感染価を測定し、対数値で示した。比較例1のウイルス感染価の対数値より2.00以上減少したときウイルス不活化効果良好(合格)と判断した。
また、実施例1、3、6~8、14~17、及び比較例1について、上記混合液1の25℃での放置時間を15秒間とした場合のウイルス不活化効果も同様に評価した。
【0038】
4.透明性の評価
次のようにして皮膚消毒剤の透明性を評価した。
調整した皮膚消毒剤を内径15mmの無色の試験管に高さ30mmまで入れ、白色光源を用い3,000~5,000lxの明るさの位置で、肉眼で観察した。試験管の反対側を観察できるとき「○」、不透明で観察できないときを「×」とした。本願における透明とは、本評価において「○」と判定されるものを指すものとする。
【0039】
(実施例1)
共重合体B0.10g、および1mol/L水酸化ナトリウム水溶液0.2gを精製水15gに溶解した後、共重合体A0.005gを添加して溶解し、溶液を得た。該溶液に日局エタノール78gを添加して混合撹拌し、さらに、リン酸0.8gと精製水5.895gを混和したものを加え合計量を100gとして皮膚消毒剤を調製した。調製した皮膚消毒剤の室温下のpHは3.0であった。実施例1の皮膚消毒剤の組成およびpHを表1に示す。
実施例1の皮膚消毒剤について、ウイルス不活化効果および透明性を、上記方法で評価した。結果を表2に示す。
【0040】
(実施例2~17、比較例1)(ただし、実施例7は補正により削除)
皮膚消毒剤の組成を表1とした以外は実施例1と同様にして各皮膚消毒剤を調製した。成分(a)~(d)以外の成分は、成分(b)である共重合体Aと共に、共重合体Bを溶解した溶液に添加して溶解した。実施例13~17のイソプロパノールは日局エタノールと共に添加した。各実施例および比較例の皮膚消毒剤の組成およびpHを表1に示す。
各皮膚消毒剤について、ウイルス不活化効果および透明性を、実施例1と同様、上記方法で評価した。結果を表2に示す。
【0041】
【0042】
【0043】
表2から明らかなように、本願発明の実施形態である各実施例は、ウイルス不活化効果と透明性を高度に両立している。ウイルスと皮膚消毒剤との接触時間が30秒間と短いが、各実施例のウイルス感染価の対数値は、比較例1のウイルス感染価の対数値より3.00以上小さな値となっている。すなわち、各実施例は比較例1に対して不活化効果が1000倍以上高く、かつ即効性に優れていることが分かる。さらに、ウイルスと皮膚消毒剤との接触時間がさらに短い15秒間の結果から分かるように、成分(e)、(f)またはその両者をさらに含有する皮膚消毒剤は、ウイルス不活化効果がより良好である。また、塩化ナトリウムを含有する皮膚消毒剤も、ウイルス不活化効果がより良好であった。なお、比較例1は、透明性は合格であるが、そのウイルス感染価の対数値の値では消毒効果はほとんど期待できない。