IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-溶鋼への合金添加方法 図1
  • 特許-溶鋼への合金添加方法 図2
  • 特許-溶鋼への合金添加方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】溶鋼への合金添加方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/108 20060101AFI20221101BHJP
   B22D 1/00 20060101ALI20221101BHJP
   B22D 11/11 20060101ALI20221101BHJP
   B22D 11/10 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
B22D11/108 D
B22D11/108 A
B22D1/00 E
B22D11/11 B
B22D11/10 310D
B22D11/10 360E
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018211360
(22)【出願日】2018-11-09
(65)【公開番号】P2020075279
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 圭太
(72)【発明者】
【氏名】原田 寛
(72)【発明者】
【氏名】高山 拓也
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-155599(JP,A)
【文献】特開平09-300050(JP,A)
【文献】特開2018-114549(JP,A)
【文献】特開平08-332551(JP,A)
【文献】特開2016-198787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/10-11/22
B22D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンディッシュを経由して溶鋼を連続鋳造するに際し、
タンディッシュ内にArガスを供給し、タンディッシュ内容積V(m3)あたりのArガス供給速度を600~3700NL/min/m3とし、
タンディッシュ内溶鋼に対してプラズマ加熱を行い、
タンディッシュ内の溶鋼中に合金ワイヤーを連続的に供給することによって溶鋼に合金を添加することを特徴とする溶鋼への合金添加方法。
ここでタンディッシュ内容積Vとは、タンディッシュに溶鋼を受けた際の溶鋼湯面から上蓋までの溶鋼が入っていない空間の体積を意味する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼への合金添加方法に関するものであり、特にタンディッシュを経由して溶鋼を連続鋳造するに際してタンディッシュ内の溶鋼中に金属ワイヤーを連続的に供給する、溶鋼への合金添加方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶鋼の連続鋳造においては、精錬を行って成分を調整した溶鋼を取鍋に収容し、取鍋からタンディッシュに移注し、さらにタンディッシュから鋳型内に溶鋼を注入して鋳片とすることにより、連続鋳造を行っている。
【0003】
鋼成分は基本的に取鍋内の溶鋼段階で調整を行う。特許文献1には、溶鋼へのCaワイヤー添加方法が記載されている。また、必要に応じて、タンディッシュ内溶鋼に対してワイヤー状の金属を連続的に供給し、これによってタンディッシュ内溶鋼の成分調整を行うことがある。Tiを始めとして、Si、Mn、C、Crなどの成分を添加する場合には、これら金属からなるワイヤーを用意し、タンディッシュ内溶鋼に供給する。Ca、Mg、Alなどの酸化しやすい金属を添加する場合には、これら金属又は金属粉を鉄被覆したワイヤーを用意し、同じくタンディッシュ内溶鋼に供給する。
【0004】
タンディッシュから鋳型に供給する溶鋼の温度は、操業の安定性や鋳片の品質に大きな影響を与えることから、連続鋳造において非常に重要な因子である。取鍋に収容された溶鋼をタンディッシュを経由して連続鋳造するに際し、取鍋からの供給初期から供給末期にかけて溶鋼温度が低下するので、取鍋からの供給全期間を通じて溶鋼温度を一定に保持するためには、タンディッシュ内での溶鋼加熱が有効である。また、取鍋毎の溶鋼温度もばらつきを有しているため、取鍋溶鋼温度実績が低い場合には、同じくタンディッシュ内で溶鋼加熱を行うことが有効である。タンディッシュ内の溶鋼加熱手段として、プラズマ加熱が有効に用いられている。特許文献2、3には、プラズマ加熱を用いたタンディッシュ溶鋼加熱方法が開示されている。特許文献3に記載のものは、タンディッシュの蓋部に設けた側壁部によって加熱室を画成し、加熱室の上部に円筒状の黒鉛電極を配置し、黒鉛電極の中空部がガス流路を形成している。容量30tのタンディッシュを用い、ガス流路に供給するArガスの流量を400NL/minとしている。
【0005】
また、特許文献4には、タンディッシュにおいて、プラズマ加熱装置の作動ガスを用いて、等軸晶化促進剤を溶鋼に吹きつける方法が開示されている。特許文献5には、タンディッシュ内溶鋼をプラズマ加熱しつつ、プラズマ加熱の中空カーボン電極の中空部を経由して、タンディッシュ内にMgワイヤーを添加する方法が開示されている。
【0006】
タンディッシュ内での溶鋼再酸化を防止するため、タンディッシュは蓋を設けて極力外気から遮断するように処置し、さらにはタンディッシュ内にArガスを供給してタンディッシュ内雰囲気のArパージが行われている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-023342号公報
【文献】特開2015-199083号公報
【文献】特開2018-034180号公報
【文献】特開2001-225153号公報
【文献】特開2016-198787号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】第5版鉄鋼便覧第1巻製銑・製鋼第440頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
溶鋼の合金成分を金属ワイヤーとしてタンディッシュ内溶鋼に添加する場合、添加する金属がTiのように酸化性が高い金属であると、溶鋼に侵入する直前において、タンディッシュ内雰囲気中の酸素によってワイヤー表面金属が酸化されて金属酸化物となり、金属成分としての合金添加歩留まりを低下させる要因となる。また、生成した金属酸化物が溶鋼中に侵入するため、金属成分によっては鋳造した鋳片の品質を低下させることとなる。金属ワイヤーを鉄被覆ワイヤーとすれば酸化を抑制することができるが、コストアップ要因となるため鉄被覆は避けたい。さらに酸化性が高いCaなどを添加する場合には鉄被覆ワイヤーが用いられるが、鉄被覆を行ったとしてもCaの酸化ロスを避けることができない。
【0010】
前述のように、タンディッシュは蓋を設けて極力外気から遮断するように処置し、さらにはタンディッシュ内にArガスを供給してタンディッシュ内雰囲気のArパージが行われているものの、連続鋳造の作業性を確保するためには完全密閉構造とすることは困難であり、通常のArパージではタンディッシュ内雰囲気を十分に非酸化性の雰囲気とすることが困難である。
【0011】
本発明は、通常用いられる程度の密閉性を有しているタンディッシュを用い、溶鋼の合金成分を金属ワイヤーとしてタンディッシュ内溶鋼に添加するに際し、添加する金属ワイヤーの酸化に起因する問題を発生させることのない、溶鋼への合金添加方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述のように、通常用いられる程度の密閉性を有しているタンディッシュを用いた場合、従来から行われていたようなタンディッシュ内雰囲気のArパージを行ったとしても、タンディッシュ内溶鋼に供給する金属ワイヤーの酸化を十分に防止することができなかった。それに対して、タンディッシュ内に供給するArガス量を従来に比較して大幅に増大することにより、タンディッシュ内雰囲気を十分に非酸化性とすることができ、タンディッシュ内への金属添加歩留まりを十分に確保できることがわかった。
【0013】
一方、タンディッシュ内へのAr吹き込み量を増大すると、それによってタンディッシュ内溶鋼温度が大幅に低下することも判明した。タンディッシュ内の溶鋼に対してプラズマ加熱を行えば、溶鋼温度低下を補償することができる。ただし、Ar吹き込みによる温度低下の度合いがプラズマ加熱での温度補償範囲を超えてしまうと、溶鋼温度を維持することができない。本発明においては、タンディッシュ内へのAr吹き込み量範囲として、金属添加歩留まりを十分に確保しつつ、プラズマ加熱による温度補償範囲内とすることのできる、Ar吹き込み量範囲が存在することを明らかにした。
【0014】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨とするところは、
タンディッシュを経由して溶鋼を連続鋳造するに際し、
タンディッシュ内にArガスを供給し、タンディッシュ内容積V(m3)あたりのArガス供給速度を600~3700NL/min/m3とし、
タンディッシュ内溶鋼に対してプラズマ加熱を行い、
タンディッシュ内の溶鋼中に合金ワイヤーを連続的に供給することによって溶鋼に合金を添加することを特徴とする溶鋼への合金添加方法にある。
ここでタンディッシュの内容積Vとは、タンディッシュに溶鋼を受けた際の溶鋼湯面から上蓋までの溶鋼が入っていない空間の体積を意味する。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、タンディッシュを経由して溶鋼を連続鋳造するに際し、タンディッシュ内にArガスを供給し、タンディッシュ内容積V(m3)あたりのArガス供給速度を600~3700NL/min/m3とし、タンディッシュ内溶鋼に対してプラズマ加熱を行い、タンディッシュ内の溶鋼中に合金ワイヤーを連続的に供給することによって溶鋼に合金を添加することにより、タンディッシュ内溶鋼へのワイヤー添加による添加歩留まりを高くすることができ、鋳造した鋳片の表面性状を良好なものとしつつ、Arガス供給による熱ロスをプラズマ加熱によって十分に補償することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明を適用する連続鋳造装置を示す模式図である。
図2】模擬タンディッシュ実験における、Arガス供給速度の影響を示す図であり、(A)は縦軸が溶鋼温度降下量、(B)は縦軸が添加Ti歩留まりである。
図3】実機連続鋳造装置における、Arガス供給速度の影響を示す図であり、(A)は縦軸が溶鋼温度降下量、(B)は縦軸が添加Ti歩留まりである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
4.8tの溶鋼を収容することのできる、模擬のタンディッシュを準備した。タンディッシュの内容積Vは0.449m3であり、蓋を有する。タンディッシュと蓋の内張り耐火物については、通常用いられる連続鋳造用タンディッシュと蓋の構造を模しており、密閉性についても通常の連続鋳造用タンディッシュと同様とした。ただし、収容した溶鋼を連続鋳造することはしない。
タンディッシュ内溶鋼に金属ワイヤーを連続供給する金属ワイヤー供給装置を配置した。添加用のワイヤーとしてφ5mmの金属Tiワイヤーを用いた。当該ワイヤーを100mm/秒の供給速度で4.8tの溶鋼に歩留まり100%で添加したとき、5分後に溶鋼中Ti濃度を0.05質量%まで上昇させることができる。
タンディッシュにはタンディッシュ内溶鋼を加熱するプラズマ加熱装置を配置している。電極には黒鉛電極を用いている。プラズマ加熱装置の最大加熱能力は、4000A、300Vにおいて、4.8tの溶鋼の温度を5分間で60℃上昇させる能力を有している。
タンディシュ内にArガスを吹き込むArガス供給装置を配置している。タンディッシュ内容積V(m3)あたりのArガス供給速度を0~4013NL/min/m3の範囲で調整することができる。
【0018】
【表1】
【0019】
最初に、タンディッシュ内に、表1に示す成分を有し、所定温度の溶鋼4.8tを収容し、金属ワイヤー供給は行わず、プラズマ加熱も行わず、0~4013NL/min/m3の範囲内のArガス供給速度でArガスのみを5分間供給する試験を行い、5分間での溶鋼温度低下量(℃)を評価した。結果を図2(A)に示す。図2(A)の横軸はタンディッシュ内容積V(m3)あたりのArガス供給速度、縦軸は溶鋼温度低下量である。Arガス供給速度が増大するほど、溶鋼温度低下量が増大することが判明した。
【0020】
次に、同じ成分と温度の溶鋼4.8tをタンディッシュ内に収容し、プラズマ加熱を実施し、φ5mmの金属Tiワイヤーを100mm/秒の供給速度で供給しつつ、0~4013NL/min/m3の範囲内のArガス供給速度でArガスを5分間供給する試験を行った。ワイヤー供給とArガス供給によって溶鋼から熱が奪われるので、溶鋼温度を一定に保持するよう、プラズマ加熱出力を調整した。ただし、Arガス供給速度が高すぎると、プラズマ加熱では温度を補償しきれず、5分経過後において溶鋼温度が低下することとなるが、Arガス供給速度が3700NL/min/m3以下であれば、プラズマ加熱で温度を補償できる。
【0021】
以上のように、金属Tiワイヤーを溶鋼中に5分間供給し、溶鋼サンプルを採取し、溶鋼サンプルにおける固溶Ti量を分析した。固溶Ti量の増加量と添加したTi量との比から、Ti添加歩留まりを算出した。結果を図2(B)に示す。図2(B)の横軸はタンディッシュ内容積V(m3)あたりのArガス供給速度、縦軸はTi歩留まりである。Arガスを供給しない場合にはTi歩留まりが70%に留まっているのに対し、Arガス供給速度を増大するほどTi歩留まりが向上し、Arガス供給速度が600NL/min/m3以上であれば、Ti歩留まりが80%以上となることがわかった。Ti歩留りが80%未満となると、合金コストが高くなることに加えて、介在物が多くなりスラブ割れの原因となるので望ましくない。
【0022】
以上の結果より、タンディッシュ内の溶鋼中に合金ワイヤー(特に、Ti、Ca、Mg、Alなどの酸化しやすい金属の合金ワイヤー)を連続的に供給するに際し、タンディッシュ内にArガスを供給し、タンディッシュ内容積V(m3)あたりのArガス供給速度を600~3700NL/min/m3とすることにより、ワイヤー添加した合金の添加歩留まりを高い値に維持しつつ、Arガス供給によって奪われた溶鋼の熱を、プラズマ加熱によって補償可能であることがわかった。
【実施例
【0023】
次に、図1に示すような実際の連続鋳造装置を用い、本発明の効果を確認した。
取鍋5の溶鋼量は300tである。タンディッシュ1の内容積は2.96m3であり、タンディッシュ内の溶鋼収容量は30tであり、蓋9を有する。タンディッシュ1と蓋9の内張り耐火物については、通常用いられる連続鋳造用タンディッシュ1と蓋9の構造を有しており、密閉性についても通常の連続鋳造用タンディッシュのままである。取鍋5の溶鋼はロングノズル6を経由してタンディッシュ1に移注され、タンディッシュ内の溶鋼は浸漬ノズル8を経由して1ストランドの鋳型7に注入され、1.0m/minの鋳造速度で鋳造する。溶鋼12のスループットは2.5t/minである。
【0024】
タンディッシュ内溶鋼に金属ワイヤー11を連続供給する金属ワイヤー供給装置3を配置した。添加用の金属ワイヤーとしてφ12mmの金属Tiワイヤーを用いた。2.5t/minのスループットで溶鋼を連続鋳造中に、当該ワイヤーを40mm/秒の供給速度で歩留まり100%で添加したとき、溶鋼中Ti濃度を0.05質量%まで上昇させることができる。鋳造開始時においては、鋳造開始前に100mm/秒の供給速度でワイヤーをタンディッシュ内に5分間供給し、その後、取鍋からタンディッシュへの溶鋼移注を開始した。これにより、タンディッシュ内溶鋼量が30tになったとき、溶鋼中Ti濃度を0.05質量%とすることができる。
【0025】
タンディッシュにはタンディッシュ内溶鋼を加熱するプラズマ加熱装置4を配置している。電極には黒鉛電極を用いている。プラズマ加熱装置4の最大加熱能力は、4000A、300Vにおいて、2.5t/minのスループットで連続鋳造中に溶鋼温度を23.0℃上昇させる能力を有している。
【0026】
タンディシュ内にArガスを吹き込むArガス供給装置2を配置している。タンディッシュ内容積V(m3)あたりのArガス供給速度を0~4054NL/min/m3の範囲で調整することができる。
【0027】
最初に、表1に示す成分の溶鋼を2.5t/minのスループットで連続鋳造しつつ、定常状態において、タンディッシュ内に0~4054NL/min/m3の範囲内のArガス供給速度でArを供給した。供給開始から5分経過後において、Ar供給開始前に対する溶鋼温度低下量を計測した。結果を表2と図3(A)に示す。図3(A)の横軸はタンディッシュ内容積V(m3)あたりのArガス供給速度、縦軸は溶鋼温度低下量である。前述の模擬タンディッシュを用いた実験と同様、Arガス供給速度が増大するほど、溶鋼温度低下量が増大することが判明した。
【0028】
次に、同じ成分と温度の溶鋼を同じスループットで連続鋳造するに際し、プラズマ加熱を実施し、φ12mmの金属Tiワイヤーを40mm/秒の供給速度で供給しつつ、タンディッシュ内に0~4054NL/min/m3の範囲内のArガス供給速度でArを供給した。ワイヤー供給とArガス供給によって溶鋼から熱が奪われるので、溶鋼温度を一定に保持するよう、プラズマ加熱出力を調整した。実機実験においても、Arガス供給速度が高すぎると、プラズマ加熱では温度を補償しきれず、溶鋼温度が低下することとなるが、Arガス供給速度が3700NL/min/m3以下であれば、プラズマ加熱によって温度低下を補償することができた。
【0029】
鋼成分サンプルは、同じArガス供給速度で5分間の鋳造を行った時点において、鋳造後の鋳片から採取し、固溶Ti量を分析した。前記と同様にTi歩留まりを算出した。結果を表2と図3(B)に示す。図3(B)の横軸はタンディッシュ内容積V(m3)あたりのArガス供給速度、縦軸はTi歩留まりである。Arガスを供給しない場合にはTi歩留まりが71%に留まっているのに対し、Arガス供給速度を増大するほどTi歩留まりが向上し、Arガス供給速度が600NL/min/m3以上であれば、Ti歩留まりが80%以上となることがわかった。
【0030】
鋳造した鋳片について表面性状を検査し、表面割れの有無を確認した。表面割れが確認できたときは表面手入れを実施した。Arガス供給速度の水準ごとに、表面手入れがほとんど必要ない状況であれば「○」、表面割れが存在するものの表面手入れによって品質水準を満たすものを「△」、表面割れが存在し表面手入れによっても品質水準を満たさないものを「×」と判定した。結果を表2に示す。表2から明らかなように、Ti歩留まりが80%以上となる水準(Arガス供給速度が600NL/min/m3以上)においてはいずれも、表面性状が「○」であることが判明した。
【0031】
【表2】
【0032】
以上の結果に鑑み、本発明においては、タンディッシュを経由して溶鋼を連続鋳造するに際し、タンディッシュ内にArガスを供給し、タンディッシュ内容積V(m3)あたりのArガス供給速度を600~3700NL/min/m3とし、タンディッシュ内溶鋼に対してプラズマ加熱を行い、タンディッシュ内の溶鋼中に合金ワイヤーを連続的に供給することによって溶鋼に合金を添加することとした。これにより、タンディッシュ内溶鋼へのワイヤー添加による添加歩留まりを80%以上とし、鋳造した鋳片の表面性状を良好なものとしつつ、Arガス供給による熱ロスをプラズマ加熱によって十分に補償することができる。
【0033】
なお、プラズマ加熱を行う際、プラズマを発生させるために溶鋼とプラズマ電極間の雰囲気にArガスを用いる。さらにプラズマ加熱電極に黒鉛を用いると、黒鉛電極が加熱中に酸化して消耗するため、COガスが発生する。このような、プラズマ加熱に付随してタンディッシュ内に供給されるArガスやCOガスなどの非酸化性ガスも、本発明でArガス供給装置から供給するArガスに加算することとする。タンディッシュ内雰囲気を非酸化雰囲気とするためのガスとしてカウントすることができるからである。
【0034】
タンディッシュ内に供給する金属ワイヤーの種類としては、Tiに限定されず、以下のような金属を用いることができる。Si、Mn、C、Crなどの成分を添加する場合には、これら金属からなるワイヤーを用意し、タンディッシュ内溶鋼に供給する。Ca、Mg、Alなどの酸化しやすい金属を添加する場合には、これら金属又は金属粉を鉄被覆したワイヤーを用意し、同じくタンディッシュ内溶鋼に供給する。
【符号の説明】
【0035】
1 タンディッシュ
2 Arガス供給装置
3 金属ワイヤー供給装置
4 プラズマ加熱装置
5 取鍋
6 ロングノズル
7 鋳型
8 浸漬ノズル
9 蓋
11 金属ワイヤー
12 溶鋼
図1
図2
図3