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特許7167691ウォーム減速機及び電動パワーステアリング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】ウォーム減速機及び電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/16 20060101AFI20221101BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20221101BHJP
   F16C 35/077 20060101ALI20221101BHJP
   F16C 27/06 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
F16H1/16 Z
B62D5/04
F16C35/077
F16C27/06 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018237281
(22)【出願日】2018-12-19
(65)【公開番号】P2020098017
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】川村 尚史
(72)【発明者】
【氏名】城下 要
(72)【発明者】
【氏名】辻 政範
(72)【発明者】
【氏名】上田 浩央
(72)【発明者】
【氏名】阿部 諭
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-179237(JP,A)
【文献】特開2015-182597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/16
B62D 5/04
F16C 35/077
F16C 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングの内部に配置されたウォームシャフトであって、電動モータに連結される第1の端部と、前記第1の端部とは反対側の第2の端部と、を有するウォームシャフトと、
前記ハウジングの内部に回転可能に支持され、前記ウォームシャフトと噛み合うウォームホイールと、
前記ウォームシャフトの前記第2の端部を回転可能に支持する軸受と、
前記ウォームシャフトの前記第2の端部を前記ウォームホイール側に付勢する付勢部材と、
前記ハウジングと前記軸受の外周面との間に介在され、前記軸受の前記外周面と対向する接触面を有する緩衝部材と、を備え、
前記緩衝部材の前記接触面には、前記ウォームシャフトの前記第2の端部が前記ウォームホイールに対して変位することにより、前記軸受の前記外周面が当該接触面に接触した際に、当該接触面と前記軸受の前記外周面との間の空気を外部に逃がすための粗面部が形成されており、
前記粗面部の表面粗さRaは、2.5μm以上50μm以下である
ウォーム減速機。
【請求項2】
前記緩衝部材の前記接触面には、さらに、前記軸受の前記外周面が当該接触面に接触した際に、当該接触面と前記軸受の前記外周面との間の空気を外部に逃がすための突部が形成されている
請求項1に記載のウォーム減速機。
【請求項3】
前記緩衝部材の前記接触面には、さらに、前記軸受の前記外周面が当該接触面に接触した際に、当該接触面と前記軸受の前記外周面との間の空気を外部に逃がすための凹部が形成されている
請求項1に記載のウォーム減速機。
【請求項4】
前記緩衝部材には、さらに、前記接触面から当該接触面とは反対側の面まで貫通するスリットであって、前記軸受の前記外周面が前記接触面に接触した際に、当該接触面と前記軸受の前記外周面との間の空気を外部に逃がすためのスリットが形成されている
請求項1に記載のウォーム減速機。
【請求項5】
前記緩衝部材は、
内周面が前記軸受の前記外周面と対向するように配置された半筒状の緩衝部であって、前記内周面に前記接触面が形成された緩衝部と、
前記緩衝部の周方向における両端部間を連結し、前記ウォームシャフトの前記第2の端部の端面と対向するように配置された連結部と、を有する
請求項1~4のいずれか1項に記載のウォーム減速機。
【請求項6】
ハウジングと、
前記ハウジングの内部に配置されたウォームシャフトであって、電動モータに連結される第1の端部と、前記第1の端部とは反対側の第2の端部と、を有するウォームシャフトと、
前記ハウジングの内部に回転可能に支持され、前記ウォームシャフトと噛み合うウォームホイールと、
前記ウォームシャフトの前記第2の端部を回転可能に支持する軸受と、
前記ウォームシャフトの前記第2の端部を前記ウォームホイール側に付勢する付勢部材と、
前記ハウジングと前記軸受の外周面との間に介在された緩衝部材と、を備え、
前記緩衝部材は、
前記軸受の前記外周面と対向する内周面を有する半筒状の緩衝部と、
前記緩衝部の周方向における両端部間を連結し、前記ウォームシャフトの前記第2の端部の端面と対向するように配置された連結部と、を有し、
前記緩衝部には、前記内周面から当該内周面とは反対側の面まで貫通するスリットであって、前記ウォームシャフトの前記第2の端部が前記ウォームホイールに対して変位することにより、前記軸受の前記外周面が前記緩衝部の前記内周面に接触した際に、当該内周面と前記軸受の前記外周面との間の空気を外部に逃がすためのスリットが形成されている
ウォーム減速機。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のウォーム減速機を備える
電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォーム減速機及びこれを備えた電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置には、ウォーム減速機が搭載されている。ウォーム減速機は、ハウジングと、ハウジングに支持された電動モータと、電動モータに連結されたウォームシャフトと、ウォームシャフトと噛み合うウォームホイールと、ウォームシャフトの先端部を支持する軸受と、ウォームシャフトの先端部をウォームホイール側に付勢するコイルバネとを備えている。なお、コイルバネは、ウォームシャフトとウォームホイールとの間におけるバックラッシを除去するためのものである。
【0003】
上述した軸受は、ハウジングに対して固定されていない。そのため、ウォームシャフト及びウォームホイールの各々が回転した際に、ウォームホイールからウォームシャフトの先端部に荷重が作用することにより、ウォームシャフトの先端部がウォームホイールから離れる方向に変位する。この時、ハウジングと軸受の外周面とが衝突することにより、ハウジングと軸受の外周面との間で打音が発生する。この打音を軽減するために、特許文献1に開示されたウォーム減速機では、ハウジングと軸受の外周面との間にゴム等で形成された緩衝部材が介在されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-182597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来のウォーム減速機では、ウォームシャフトの先端部がウォームホイールから離れる方向に変位した際に、緩衝部材と軸受の外周面との間に存在する空気が破裂することにより、異音(空気の破裂音)が発生するという課題がある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決しようとするものであり、その目的は、緩衝部材と軸受の外周面との間で異音が発生するのを抑制することができるウォーム減速機及びこれを備えた電動パワーステアリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係るウォーム減速機は、ハウジングと、前記ハウジングの内部に配置されたウォームシャフトであって、電動モータに連結される第1の端部と、前記第1の端部とは反対側の第2の端部と、を有するウォームシャフトと、前記ハウジングの内部に回転可能に支持され、前記ウォームシャフトと噛み合うウォームホイールと、前記ウォームシャフトの前記第2の端部を回転可能に支持する軸受と、前記ウォームシャフトの前記第2の端部を前記ウォームホイール側に付勢する付勢部材と、前記ハウジングと前記軸受の外周面との間に介在され、前記軸受の前記外周面と対向する接触面を有する緩衝部材と、を備え、前記緩衝部材の前記接触面には、前記ウォームシャフトの前記第2の端部が前記ウォームホイールに対して変位することにより、前記軸受の前記外周面が当該接触面に接触した際に、当該接触面と前記軸受の前記外周面との間の空気を外部に逃がすための粗面部が形成されており、前記粗面部の表面粗さRaは、2.5μm以上50μm以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様に係るウォーム減速機等によれば、緩衝部材と軸受の外周面との間で異音が発生するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る電動パワーステアリング装置の構成を示す概略図である。
図2】実施の形態1に係るウォーム減速機の構成を示す断面図である。
図3図2のIII-III線による、実施の形態1に係るウォーム減速機の断面図である。
図4】実施の形態1に係る緩衝部材を示す斜視図である。
図5図4とは異なる角度から見た状態での、実施の形態1に係る緩衝部材を示す斜視図である。
図6】実施の形態1に係るウォーム減速機により得られる効果を確認するための官能評価試験の結果を示すグラフである。
図7】実施の形態2に係る緩衝部材を示す斜視図である。
図8】実施の形態3に係る緩衝部材を示す斜視図である。
図9】実施の形態4に係る緩衝部材を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明に係るウォーム減速機及び電動パワーステアリング装置の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序等は、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0011】
また、図面は、本発明を示すために適宜強調や省略、比率の調整を行った模式的な図となっており、実際の形状や位置関係、比率とは異なる場合がある。
【0012】
(実施の形態1)
まず、図1を参照しながら、実施の形態1に係る電動パワーステアリング装置2の構成について説明する。図1は、実施の形態1に係る電動パワーステアリング装置2の構成を示す概略図である。
【0013】
実施の形態1に係る電動パワーステアリング装置2は、例えば自動車等の車両に搭載されている。図1に示すように、電動パワーステアリング装置2は、ステアリングホイール4に連結されたステアリングシャフト6と、ステアリングシャフト6に自在継手8を介して連結された中間軸10と、中間軸10に自在継手12を介して連結されたピニオン軸14と、ピニオン軸14と噛み合うラックバー16とを備えている。
【0014】
ステアリングシャフト6は、ステアリングホイール4に連結された第1の操舵軸18と、自在継手8を介して中間軸10に連結された第2の操舵軸20と、第1の操舵軸18と第2の操舵軸20とを同一直線上で相対的に回転可能に連結するトーションバー22とを有している。
【0015】
ラックバー16は、車体(図示せず)に対して左右方向に往復移動可能に配置されている。ラックバー16の両端部はそれぞれ、一対のタイロッド24を介して一対の転舵輪26と連結されている。ピニオン軸14の端部にはピニオン28が設けられ、ラックバー16にはピニオン28と噛み合うラック30が設けられている。これらのピニオン28及びラック30により、一対の転舵輪26を転舵するための転舵機構が構成される。
【0016】
運転者がステアリングホイール4を操舵することにより、ステアリングシャフト6が回転する。ステアリングシャフト6の回転は、中間軸10を介してピニオン軸14に伝達された後に、ピニオン28及びラック30により、ラックバー16の左右方向の直線運動に変換される。これにより、一対の転舵輪26が転舵される。
【0017】
電動パワーステアリング装置2は、さらに、トルクセンサ32と、ECU(Electronic Control Unit)34と、駆動回路36と、電動モータ38と、ウォーム減速機40とを備えている。
【0018】
トルクセンサ32は、第1の操舵軸18と第2の操舵軸20との間の相対的な回転変位量に基づいて、ステアリングホイール4の操舵トルクを検出する。トルクセンサ32は、検出した操舵トルクをECU34に出力する。
【0019】
ECU34は、駆動回路36を制御するための電子制御ユニットである。ECU34は、トルクセンサ32からの操舵トルクに基づいて制御信号を生成し、生成した制御信号を駆動回路36に出力する。
【0020】
駆動回路36は、電動モータ38を駆動するための回路である。駆動回路36は、ECU34からの制御信号に基づいて電動モータ38を駆動することにより、電動モータ38の回転量及び回転方向等を制御する。
【0021】
電動モータ38は、ステアリングホイール4の操舵を補助するための駆動力を発生させる駆動源である。
【0022】
ウォーム減速機40は、電動モータ38の回転を減速させる。電動モータ38の回転は、ウォーム減速機40により減速された後に、ステアリングシャフト6の第2の操舵軸20及び中間軸10を介してピニオン軸14に伝達され、ラックバー16の左右方向の直線運動に変換される。これにより、運転者によるステアリングホイール4の操舵が補助される。
【0023】
次に、図2及び図3を参照しながら、実施の形態1に係るウォーム減速機40の構成について説明する。図2は、実施の形態1に係るウォーム減速機40の構成を示す断面図である。図3は、図2のIII-III線による、実施の形態1に係るウォーム減速機40の断面図である。
【0024】
図2に示すように、ウォーム減速機40は、ハウジング42と、ウォームシャフト44と、第1の軸受46と、第2の軸受48(軸受の一例)と、ウォームホイール50と、付勢部材52と、緩衝部材54とを備えている。
【0025】
ハウジング42は、中空状に形成されており、車体に固定されている。ハウジング42の内部には、上述した電動モータ38が支持されている。
【0026】
ウォームシャフト44は、第1の軸方向(X軸方向)に沿って直線状に延び、ハウジング42の内部に配置されている。ウォームシャフト44は、第1の端部56と、第1の軸方向において第1の端部56とは反対側の第2の端部58と、第1の端部56と第2の端部58との間における外周面に形成された噛合部60とを有している。噛合部60は、第1の軸方向に沿って螺旋状に延びる複数の歯(図示せず)を有している。ウォームシャフト44の第1の端部56は、電動モータ38に連結され、且つ、第1の軸受46を介してハウジング42の内部に固定されている。ウォームシャフト44の第2の端部58は、第2の軸受48を介してハウジング42の内部に固定されておらず、ウォームホイール50に対して径方向に変位可能である。すなわち、ウォームシャフト44は、電動モータ38から片持ち梁状に張り出している。ウォームシャフト44は、電動モータ38の駆動力により、第1の軸方向周りに回転する。
【0027】
第1の軸受46及び第2の軸受48の各々は、例えば玉軸受で構成されており、環状に形成されている。第1の軸受46は、ハウジング42の内部に固定されており、ウォームシャフト44の第1の端部56を回転可能に支持している。第2の軸受48は、ハウジング42の内部に固定されておらず、ウォームシャフト44の第2の端部58を回転可能に支持している。図3に示すように、第2の軸受48の外周面48aとハウジング42の内面42aとの間には、隙間62が形成されている。これにより、ウォームシャフト44の第2の端部58は、ウォームホイール50に対して、ウォームホイール50から離れる方向及びウォームホイール50に近付く方向に変位可能である。
【0028】
ウォームホイール50は、環状に形成されており、ハウジング42の内部に回転可能に支持されている。ウォームホイール50は、ステアリングシャフト6の第2の操舵軸20(図1参照)と一体的に回転可能に連結されている。ウォームホイール50の外周面には、複数の歯(図示せず)を有する歯部64が形成されている。歯部64の複数の歯は、ウォームシャフト44の噛合部60の複数の歯と噛み合っている。電動モータ38の回転は、ウォームシャフト44を介してウォームホイール50に伝達される。これにより、ウォームホイール50が第2の軸線方向(Y軸方向)周りに回転し、ステアリングシャフト6の第2の操舵軸20がウォームホイール50と一体的に回転する。なお、電動モータ38の回転は、ウォームシャフト44からウォームホイール50に伝達される際に減速される。
【0029】
付勢部材52は、ウォームシャフト44の噛合部60とウォームホイール50の歯部64との間におけるバックラッシを除去するためのものであり、いわゆるABLS(Anti-Backlash System)構造を構成する。付勢部材52は、例えばコイルバネで構成され、第2の軸受48の外周面48aとハウジング42の内面42aとの間に配置されている。図2の矢印Pで示すように、付勢部材52は、第2の軸受48を介して、ウォームシャフト44の第2の端部58をウォームホイール50側に付勢する。これにより、ウォームシャフト44の噛合部60が付勢部材52の付勢力によってウォームホイール50の歯部64に押し当てられるので、ウォームシャフト44の噛合部60とウォームホイール50の歯部64との間におけるバックラッシを除去することができる。
【0030】
緩衝部材54は、ハウジング42の内面42aと第2の軸受48の外周面48aとの衝突を抑制するためのダンパーであり、例えばゴム又はエラストマー等の弾性材料で形成されている。図3に示すように、緩衝部材54は、ハウジング42の内面42aと第2の軸受48の外周面48aとの間の隙間62に介在されている。
【0031】
ここで、図2図5を参照しながら、緩衝部材54の構成について詳細に説明する。図4は、実施の形態1に係る緩衝部材54を示す斜視図である。図5は、図4とは異なる角度から見た状態での、実施の形態1に係る緩衝部材54を示す斜視図である。
【0032】
図4及び図5に示すように、緩衝部材54は、緩衝部66と、連結部68とを有している。緩衝部66及び連結部68は、一体的に形成されている。
【0033】
図4及び図5に示すように、緩衝部66は、半円筒状(半筒状の一例)に形成されている。図3に示すように、緩衝部66は、ハウジング42の内面42aと第2の軸受48の外周面48aとの間の隙間62に介在される。緩衝部66の内周面66a(接触面の一例)は、第2の軸受48に対してウォームホイール50とは反対側に配置され、第2の軸受48の外周面48aと対向するように配置される。なお、図3に示すように、ウォームシャフト44の第2の端部58がウォームホイール50に対してウォームホイール50から離れる方向に変位していない状態では、緩衝部66の内周面66aと第2の軸受48の外周面48aとの間には空気層70が形成される。
【0034】
図4に示すように、緩衝部66の内周面66aには、微小な凹凸が多数形成された粗面部72が形成されている。粗面部72は、ウォームシャフト44の第2の端部58がウォームホイール50に対してウォームホイール50から離れる方向に変位することにより、第2の軸受48の外周面48aが緩衝部66の内周面66aに接触した際に、空気層70に存在する空気を外部に逃がすためのものである。粗面部72の表面粗さRaは、2.5μm以上50μm以下である。説明の都合上、図4及び図5において、粗面部72を網掛け模様で表してある。なお、本実施の形態では、緩衝部66の内周面66aに粗面部72を形成したが、緩衝部材54の全表面に粗面部を形成してもよい。
【0035】
図4及び図5に示すように、緩衝部66の周方向における中央部の側縁には、付勢部材52と緩衝部66との干渉を避けるための半円状の切り欠き部74が形成されている。図2及び図3に示すように、付勢部材52は、切り欠き部74に逃がされた状態で配置される。また、緩衝部66の外周面66b(緩衝部66の厚み方向において内周面66aとは反対側の面)には、径方向外側に突出する回転規制用突部76が形成されている。図2に示すように、回転規制用突部76は、ハウジング42の内面42aに形成された回転規制用凹部78と係合される。これにより、緩衝部材54のハウジング42に対する周方向の回転が規制される。
【0036】
図4及び図5に示すように、連結部68は、緩衝部66の周方向における両端部間を連結する。図2に示すように、連結部68は、ウォームシャフト44の第2の端部58の端面58aと対向するように配置される。なお、図2に示すように、連結部68は、ハウジング42の開口部に取り付けられたエンドカバー80と、ウォームシャフト44の第2の端部58の端面58aとの間に挟持される。これにより、緩衝部材54のハウジング42に対する第1の軸方向(X軸方向)の移動が規制される。
【0037】
以下、実施の形態1に係るウォーム減速機40により得られる効果について説明する。図3の矢印Qで示すように、ウォームシャフト44及びウォームホイール50の各々が回転した際に、ウォームホイール50からウォームシャフト44の第2の端部58に荷重が作用することにより、ウォームシャフト44の第2の端部58がウォームホイール50に対してウォームホイール50から離れる方向に変位する。これにより、第2の軸受48の外周面48aが緩衝部66の内周面66aに接触して、緩衝部66の内周面66aと第2の軸受48の外周面48aとの間の空気層70が押し潰される。
【0038】
この時、上述したように、緩衝部66の内周面66aには、表面粗さRaが2.5μm以上50μm以下である粗面部72が形成されているので、緩衝部66の内周面66aと第2の軸受48の外周面48aとの間には、微小な隙間が多数形成される。これにより、緩衝部66の内周面66aと第2の軸受48の外周面48aとの間の空気層70に存在する空気は、破裂することなく、上述した多数の微小な隙間を通して外部に逃がされるようになる。その結果、緩衝部66の内周面66aと第2の軸受48の外周面48aとの間で異音(空気の破裂音)が発生するのを抑制することができる。
【0039】
なお、粗面部72の表面粗さRaが2.5μm未満である場合には、ウォームシャフト44の第2の端部58がウォームホイール50に対してウォームホイール50から離れる方向に変位した際に、第2の軸受48の外周面48aと緩衝部66の内周面66aとの間には微小な隙間がほとんど形成されない。その結果、緩衝部66の内周面66aと第2の軸受48の外周面48aとの間の空気層70に存在する空気は、外部に逃がされずに破裂し、異音が発生してしまう。また、粗面部72の表面粗さRaが50μmを超える場合には、後述するように緩衝部66の内周面66a(粗面部72)に対する第2の軸部48の接触位置にバラツキが生じた際に、異音のノイズレベルにバラツキが生じてしまう。なお、粗面部72の表面粗さRaは、2.5μm以上50μm以下であるのが好ましく、4.5μm以上16μm以下であるのがより好ましい。
【0040】
上述した効果を確認するために、次のような官能評価試験を行った。ウォーム減速機において表面粗さRaが異なる複数種類の緩衝部材を順次交換しながら、ウォーム減速機を作動させた。その際、ウォーム減速機の近傍に被験者を配置し、「異音の発生あり」、「異音の発生無し」の基準で被験者により官能評価した。
【0041】
官能評価試験の結果は、図6に示す通りであった。図6は、実施の形態1に係るウォーム減速機40により得られる効果を確認するための官能評価試験の結果を示すグラフである。図6において、横軸は緩衝部材の表面粗さRa(μm)を表し、縦軸はウォーム減速機から発生する音のノイズレベル(dB(A))を表している。
【0042】
図6に示すように、表面粗さRaが2.5μm未満ではウォーム減速機から異音が発生したが、表面粗さRaが2.5μm以上ではウォーム減速機から異音が発生しなかった。このことから、緩衝部材の表面粗さRaを2.5μm以上50μm以下とすることにより、ウォーム減速機から異音が発生するのを抑制することができることが確認できた。
【0043】
ここで、上記特許文献1に開示されたウォーム減速機と比較した場合の、実施の形態1に係るウォーム減速機40により得られる有利な効果について説明する。
【0044】
上記特許文献1に開示されたウォーム減速機では、緩衝部材の内周面に比較的大きな突起が複数形成されている(特許文献1の図11の(d)参照)。しかしながら、このような構成では、次のような問題が生じる。緩衝部材をハウジングに組み付ける際には、周方向(回転方向)における緩衝部材の組み付け誤差が発生する。また、緩衝部材の内周面に複数の突起を加工する際にも、加工誤差が発生する。さらに、ウォームホイールからウォームシャフトの第2の端部に荷重が作用した際に、ウォームシャフトの第2の端部がウォームホイールに対して変位する方向は一定ではない。これにより、緩衝部材に対する第2の軸部の接触位置にはバラツキが生じるため、第2の軸部は、例えば緩衝部材の突起の位置に接触したり、隣接する2つの突起の間の位置に接触したりする。その結果、ウォーム減速機から発生する異音のノイズレベルにバラツキが生じるとともに、緩衝部材の耐久性が安定しないという問題が生じる。
【0045】
これに対して、実施の形態1に係るウォーム減速機40では、上述したように、緩衝部66の内周面66aには、表面粗さRaが2.5μm以上50μm以下である粗面部72が形成されている。これにより、緩衝部66の内周面66a(粗面部72)に対する第2の軸部48の接触位置にバラツキが生じた場合であっても、緩衝部66の内周面66aと第2の軸受48の外周面48aとの間に形成される多数の微小な隙間はほぼ一定となる。その結果、ウォーム減速機40から異音が発生するのを効果的に抑制することができるとともに、緩衝部材54の耐久性を安定させることができる。
【0046】
(実施の形態2)
次に、図7を参照しながら、実施の形態2に係る緩衝部材54Aの構成について説明する。図7は、実施の形態2に係る緩衝部材54Aを示す斜視図である。なお、以下の各実施の形態において、上記実施の形態1と同一の構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0047】
図7に示すように、実施の形態2に係る緩衝部材54Aでは、緩衝部66Aの内周面66aには、上記実施の形態1で説明した粗面部72に加えて、複数の突部82が形成されている。
【0048】
複数の突部82は、緩衝部66Aの周方向に沿って間隔を置いて配置されている。また、複数の突部82の各々は、緩衝部66Aの幅方向(X軸方向)に沿って直線状に延びている。なお、複数の突部82の各々の表面粗さRaは、粗面部72と同様に2.5μm以上50μm以下である。
【0049】
ウォームシャフト44の第2の端部58(図2参照)がウォームホイール50(図2参照)に対してウォームホイール50から離れる方向に変位した際に、第2の軸受48の外周面48a(図2参照)が緩衝部66Aの内周面66aに接触する。この時、第2の軸受48の外周面48aは複数の突部82に接触するので、緩衝部66Aの内周面66aと第2の軸受48の外周面48aとの間には、空気層70(図3参照)に存在する空気を外部に逃がすための隙間が形成されるようになる。その結果、緩衝部66Aの内周面66aと第2の軸受48の外周面48aとの間で異音が発生するのを抑制することができる。
【0050】
(実施の形態3)
次に、図8を参照しながら、実施の形態3に係る緩衝部材54Bの構成について説明する。図8は、実施の形態3に係る緩衝部材54Bを示す斜視図である。
【0051】
図8に示すように、実施の形態3に係る緩衝部材54Bでは、緩衝部66Bの内周面66aには、上記実施の形態1で説明した粗面部72に加えて、複数の凹部84が形成されている。
【0052】
複数の凹部84は、緩衝部66Bの周方向に沿って間隔を置いて配置されている。また、複数の凹部84の各々は、緩衝部66Bの幅方向(X軸方向)に沿って直線状に延びている。なお、複数の凹部84の各々の表面粗さRaは、粗面部72と同様に2.5μm以上50μm以下である。
【0053】
ウォームシャフト44の第2の端部58(図2参照)がウォームホイール50(図2参照)に対してウォームホイール50から離れる方向に変位した際に、第2の軸受48の外周面48a(図2参照)が緩衝部66Bの内周面66aに接触する。この時、緩衝部66Bの内周面66aと第2の軸受48の外周面48aとの間の空気層70(図3参照)に存在する空気は、複数の凹部84を通して外部に逃がされるようになる。その結果、緩衝部66Bの内周面66aと第2の軸受48の外周面48aとの間で異音が発生するのを抑制することができる。
【0054】
(実施の形態4)
次に、図9を参照しながら、実施の形態4に係る緩衝部材54Cの構成について説明する。図9は、実施の形態4に係る緩衝部材54Cを示す斜視図である。
【0055】
図9に示すように、実施の形態4に係る緩衝部材54Cの緩衝部66Cには、複数のスリット86が形成されている。なお、緩衝部66Cの内周面66aには、上記実施の形態1で説明した粗面部72が形成されている。
【0056】
複数のスリット86は、緩衝部66Cの周方向に沿って間隔を置いて配置されている。また、複数のスリット86の各々は、緩衝部66Cの内周面66aから外周面66bまで貫通し、緩衝部66Cの幅方向(X軸方向)に沿って直線状に延びている。
【0057】
ウォームシャフト44の第2の端部58(図2参照)がウォームホイール50(図2参照)に対してウォームホイール50から離れる方向に変位した際に、第2の軸受48の外周面48a(図2参照)が緩衝部66Cの内周面66aに接触する。この時、緩衝部66Cの内周面66aと第2の軸受48の外周面48aとの間の空気層70(図3参照)に存在する空気は、複数のスリット86を通して外部に逃がされるようになる。その結果、緩衝部66Cの内周面66aと第2の軸受48の外周面48aとの間で異音が発生するのを抑制することができる。
【0058】
なお、本実施の形態では、緩衝部66Cの内周面66aに粗面部72を形成したが、この粗面部72を省略してもよい。このように構成した場合であっても、上述と同様の効果を得ることができる。
【0059】
(変形例等)
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて、また、構成要素のいくつかを除外して実現される別の実施の形態を本発明の実施の形態としてもよい。また、上記各実施の形態に対して本発明の主旨、すなわち、特許請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思い付く各種変形を施して得られる変形例も本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係るウォーム減速機は、例えば電動パワーステアリング装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0061】
2:電動パワーステアリング装置、4:ステアリングホイール、6:ステアリングシャフト、8,12:自在継手、10:中間継手、14:ピニオン軸、16:ラックバー、18:第1の操舵軸、20:第2の操舵軸、22:トーションバー、24:タイロッド、26:転舵輪、28:ピニオン、30:ラック、32:トルクセンサ、34:ECU、36:駆動回路、38:電動モータ、40:ウォーム減速機、42:ハウジング、42a:内面、44:ウォームシャフト、46:第1の軸受、48:第2の軸受、48a,66b:外周面、50:ウォームホイール、52:付勢部材、54,54A,54B,54C:緩衝部材、56:第1の端部、58:第2の端部、58a:端面、60:噛合部、62:隙間、64:歯部、66,66A,66B,66C:緩衝部、66a:内周面、68:連結部、70:空気層、72:粗面部、74:切り欠き部、76:回転規制用突部、78:回転規制用凹部、80:エンドカバー、82:突部、84:凹部、86:スリット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9