(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】積層フィルム、積層体、及び、積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20221101BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20221101BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20221101BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20221101BHJP
C09J 7/25 20180101ALI20221101BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20221101BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20221101BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20221101BHJP
B23K 26/38 20140101ALI20221101BHJP
B23K 26/18 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
B32B27/00 M
B32B27/18 A
B32B27/36
B32B27/34
C09J7/25
C09J7/38
C09J11/06
C09J201/00
B23K26/38 Z
B23K26/18
(21)【出願番号】P 2018238374
(22)【出願日】2018-12-20
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥山 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】土屋 俊之
(72)【発明者】
【氏名】林 美唯妃
(72)【発明者】
【氏名】山下 全広
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-035270(JP,A)
【文献】特開2015-021065(JP,A)
【文献】特開2013-021105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09J 7/25
C09J 7/38
C09J 11/06
C09J 201/00
B23K 26/38
B23K 26/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱高分子フィルムと、
前記耐熱高分子フィルムの一方の面に積層された第1保護フィルムと、
前記耐熱高分子フィルムの他方の面に積層された第2保護フィルムと
を備え、
前記第1保護フィルムは、ポリエステル系フィルムからなる第1基材と、前記第1基材上に設けられた第1粘着剤層とを有し、
前記第1粘着剤層は、紫外線吸収剤を含有し、
前記紫外線吸収剤は、環状イミノエステル系であり、
前記耐熱高分子フィルムは、融点が400℃以上であり、ガラス転移温度が250℃以上であり、
紫外線レーザーで切断されて使用されることを特徴とする積層フィルム。
【請求項2】
耐熱高分子フィルムと、
前記耐熱高分子フィルムの一方の面に積層された第1保護フィルムと、
前記耐熱高分子フィルムの他方の面に積層された第2保護フィルムと
を備え、
前記第1保護フィルムは、ポリエステル系フィルムからなる第1基材と、前記第1基材上に設けられた第1粘着剤層とを有し、
前記第1粘着剤層は、紫外線吸収剤を含有し、
前記紫外線吸収剤は、環状イミノエステル系であり、
前記耐熱高分子フィルムは、ポリイミド系樹脂フィルムであり、
紫外線レーザーで切断されて使用されることを特徴とする積層フィルム。
【請求項3】
前記耐熱高分子フィルムと前記第1保護フィルムとの90°剥離強度が、0.002N/cm以上0.3N/cm以下であることを特徴とする請求項1
又は2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記第1基材は、ポリエチレンテレフタレートフィルムであることを特徴とする
請求項1
~3のいずれか1に記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記耐熱高分子フィルムは、ポリイミドフィルムであることを特徴とする請求項1~
4のいずれか1に記載の積層フィルム。
【請求項6】
無機基板と、シランカップリング剤層と、耐熱高分子フィルムと、第1保護フィルムとがこの順で積層されており、
前記第1保護フィルムは、ポリエステル系フィルムからなる第1基材と、前記第1基材上に設けられた第1粘着剤層とを有し、
前記第1粘着剤層は、紫外線吸収剤を含有
し、
前記耐熱高分子フィルムは、融点が400℃以上であり、ガラス転移温度が250℃以上であることを特徴とする積層体。
【請求項7】
無機基板と、シランカップリング剤層と、耐熱高分子フィルムと、第1保護フィルムとがこの順で積層されており、
前記第1保護フィルムは、ポリエステル系フィルムからなる第1基材と、前記第1基材上に設けられた第1粘着剤層とを有し、
前記第1粘着剤層は、紫外線吸収剤を含有し、
前記耐熱高分子フィルムは、ポリイミド系樹脂フィルムであることを特徴とする積層体。
【請求項8】
無機基板とシランカップリング剤層とを有する第1積層体を準備する工程Aと、
請求項1~
5のいずれか1に記載の積層フィルムを準備する工程Bと、
前記積層フィルムに、前記第1保護フィルム側から紫外線レーザーを照射して、前記第1保護フィルムと前記耐熱高分子フィルムとを所定形状となるように切断する工程Cと、
前記工程Cの後、前記耐熱高分子フィルムから、前記第2保護フィルムを剥離する工程Dと、
前記工程Dの後、前記第1積層体の前記シランカップリング剤層と前記耐熱高分子フィルムとを貼り合わせて、前記無機基板と、前記シランカップリング剤層と、前記耐熱高分子フィルムと、前記第1保護フィルムとがこの順で積層された積層体を得る工程Eとを有することを特徴とする積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルム、積層体、及び、積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体素子、MEMS素子、ディスプレイ素子など機能素子の軽量化、小型・薄型化、フレキシビリティ化を目的として、高分子フィルム上にこれらの素子を形成する技術開発が活発に行われている。すなわち、情報通信機器(放送機器、移動体無線、携帯通信機器等)、レーダーや高速情報処理装置などといった電子部品の基材の材料としては、従来、耐熱性を有し且つ情報通信機器の信号帯域の高周波数化(GHz帯に達する)にも対応し得るセラミックが用いられていたが、セラミックはフレキシブルではなく薄型化もしにくいので、適用可能な分野が限定されるという欠点があったため、最近は高分子フィルムが基板として用いられている。
【0003】
半導体素子、MEMS素子、ディスプレイ素子などの機能素子を高分子フィルム表面に形成するにあたっては、高分子フィルムの特性であるフレキシビリティを利用した、いわゆるロール・ツー・ロールプロセスにて加工することが理想とされている。しかしながら、半導体産業、MEMS産業、ディスプレイ産業等の業界では、これまでウエハベースまたはガラス基板ベース等のリジッドな平面基板を対象としたプロセス技術が構築されてきた。そこで、既存インフラを利用して機能素子を高分子フィルム上に形成するために、高分子フィルムを、例えばガラス板、セラミック板、シリコンウエハ、金属板などの無機物からなるリジッドな支持体に貼り合わせ、その上に所望の素子を形成した後に支持体から剥離するというプロセスが用いられている。
【0004】
ところで、高分子フィルムと無機物からなる支持体とを貼り合わせた積層体に所望の機能素子を形成するプロセスにおいては、該積層体は高温に曝されることが多い。例えば、ポリシリコンや酸化物半導体などの機能素子の形成においては200℃~600℃程度の温度域での工程が必要である。また、水素化アモルファスシリコン薄膜の作製においては200~300℃程度の温度がフィルムに加わる場合あり、さらにアモルファスシリコンを加熱、脱水素化して低温ポリシリコンとするためには450℃~600℃程度の加熱が必要になる場合がある。したがって、積層体を構成する高分子フィルムには耐熱性が求められるが、現実問題としてかかる高温域にて実用に耐える高分子フィルムは限られている。
【0005】
上記の用途で使用される高分子フィルムは、支持体に貼り合わせる際に支持体と高分子フィルムとの間にゴミ等が入り込まないようにするために、使用する直前まで両面又は片面が保護フィルムで覆われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した高分子フィルムは、両面に保護フィルムが貼り付けられた状態で、ロール状に巻き取られた形態で供給される。この高分子フィルムを支持体に貼り合わせる際には、まず、高分子フィルムを保護フィルムが貼り付けられた状態のまま、トムソン型等の刃物を用いて、所望の大きさ、形状に切断する。その後、保護フィルムを剥離し、支持体に貼り合わせる。
【0008】
上述したような刃物による切断では、押切加工であるため、切断部分が変形する。しかしながら、保護フィルムの剥離後に、高分子フィルムに糊残りが生じないようにするため、高分子フィルムと保護フィルムとの間の剥離強度は、小さく設定されている。そのため、刃物による切断により生じる変形により、保護フィルムと高分子フィルムとの間で剥がれ生じることになるといった問題があった。
また、大面積の高分子フィルムを切り出して、大面積の支持体に貼り付けたいという要請があるが、大面積の高分子フィルムを切り出すためのトムソン刃(トムソン型)の製造にコストがかかるといった問題もある。
【0009】
そこで、本発明者らは、レーザーにより保護フィルムと高分子フィルムとの積層フィルムを切断することを検討した。しかしながら、保護フィルムと高分子フィルムとの界面にスミア(樹脂等の残渣)が発生し、剥がれの原因となる場合があった。また、切断面が焦げてしまい、おおよそ整った断面とはいえない状態となる場合があった。
【0010】
この点につき、本発明者らは鋭意研究を行った。その結果、ポリエステル系フィルムからなる基材上に紫外線吸収剤を含有する第1粘着剤層が設けられた保護フィルムを用い、紫外線レーザーにより切断すれば、保護フィルムと高分子フィルムとを好適に切断でき、切断面における保護フィルムと高分子フィルムとの剥離を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明に係る積層フィルムは、
耐熱高分子フィルムと、
前記耐熱高分子フィルムの一方の面に積層された第1保護フィルムと、
前記耐熱高分子フィルムの他方の面に積層された第2保護フィルムと
を備え、
前記第1保護フィルムは、ポリエステル系フィルムからなる第1基材と、前記第1基材上に設けられた第1粘着剤層とを有し、
前記第1粘着剤層は、紫外線吸収剤を含有し、
紫外線レーザーで切断されて使用されることを特徴とする。
【0012】
前記構成によれば、前記第1保護フィルム側から紫外線レーザーを照射すれば、第1保護フィルムと耐熱高分子フィルムとを好適に切断でき、切断面における第1保護フィルムと耐熱高分子フィルムとの剥離を抑制することができる。このことは、実施例からも明らかである。
本発明者らは、この理由を以下のように推察している。
第1保護フィルム側から紫外線レーザーを照射すると、紫外線レーザーは、第1基材を透過するが、紫外線吸収剤を含有する第1粘着剤層は透過しないため、まず、第1粘着剤層の第1基材との界面部分において紫外線が吸収され、局所的に高温となる。その後、まず、前記第1基材に穴が開く。すなわち、高温となった前記界面から前記第1基材方向に向けて、先に穴が開く。これは、第1基材と第1粘着剤層とは比較的強固に接着している(第1基材と第1粘着剤層との剥離強度が大きい)ために、紫外線レーザーによる熱により第1基材と第1粘着剤層とが剥がれることがないまま、第1基材が蒸発するためである。そして、その後、第1粘着剤層と耐熱高分子フィルムとが順次に高温となり蒸発する。これにより、第1保護フィルムと耐熱高分子フィルムとが切断される。なお、蒸発、飛散したスミアは、切断面側面に残らず、第1基材側の面から、第1基材よりも外側に飛散することになる。
以上により、保護フィルムと高分子フィルムとが変形したり焦げたりすることなく好適に切断される。また、切断面における保護フィルムと高分子フィルムとの剥離が抑制される。
【0013】
前記構成においては、前記耐熱高分子フィルムと前記第1保護フィルムとの90°剥離強度が、0.002N/cm以上0.3N/cm以下であることが好ましい。
【0014】
前記90°剥離強度が、0.3N/cm以下であると、耐熱高分子フィルムを使用する際に、好適に第1保護フィルムを剥離することができる。また、前記90°剥離強度が、0.002N/cm以上であると、耐熱高分子フィルムを使用する前段階(例えば、搬送中等)において、意図せずに耐熱高分子フィルムから第1保護フィルムが剥離してしまうことを抑制することができる。
【0015】
前記構成において、前記第1基材は、ポリエチレンテレフタレートフィルムであることが好ましい。
【0016】
前記第1基材が、ポリエチレンテレフタレートフィルムであると、耐熱高分子フィルムを保護するための適度な硬さと可撓性とを有し、第1保護フィルムの基材として好適である。また、ポリエチレンテレフタレートフィルムは、紫外線を透過する(大きく吸収しない)のではあるが、紫外線吸収剤入りの粘着剤層と組み合わせることにより、耐熱高分子フィルムの切断に好適な紫外線レーザーによって第1基材も含めて良好な切断ができる。このメカニズムについては上記で説明した通りである。第1基材が、紫外線透過しない材質であると、紫外線レーザーのエネルギーを第1基材が多く吸収することになり、切断により多くの時間を要し、保護フィルムと高分子フィルムとを短時間で経済的に切断できない場合がある。
【0017】
前記構成において、前記耐熱高分子フィルムは、ポリイミドフィルムであることが好ましい。前記耐熱高分子フィルムが、ポリイミドフィルムであると、耐熱性に優れる。また、前記耐熱高分子フィルムが、ポリイミドフィルムであると、好適に紫外線レーザーに切断することができる。
【0018】
また、本発明に係る積層体は、
無機基板と、シランカップリング剤層と、耐熱高分子フィルムと、第1保護フィルムとがこの順で積層されており、
前記第1保護フィルムは、ポリエステル系フィルムからなる第1基材と、前記第1基材上に設けられた第1粘着剤層とを有し、
前記第1粘着剤層は、紫外線吸収剤を含有することを特徴とする。
【0019】
前記構成によれば、前記第1保護フィルムは、ポリエステル系フィルムからなる第1基材と、前記ポリエステル系フィルム上に設けられた第1粘着剤層とを少なくとも有し、前記第1粘着剤層は、紫外線吸収剤を含有している。前記耐熱高分子フィルムと前記第1保護フィルムとは、紫外線レーザーを用いることにより、変形したり焦げたりすることなく、所望の大きさに好適に切断することができる。また、切断面における第1保護フィルムと耐熱高分子フィルムとの剥離を、抑制することができる。従って、前記耐熱高分子フィルムと前記第1保護フィルムとを有する前記積層体においても、前記第1保護フィルムと前記耐熱高分子フィルムとの剥離を、抑制することができる。
【0020】
また、本発明に係る積層体の製造方法は、
無機基板とシランカップリング剤層とを有する第1積層体を準備する工程Aと、
前記積層フィルムを準備する工程Bと、
前記積層フィルムに、前記第1保護フィルム側から紫外線レーザーを照射して、前記第1保護フィルムと前記耐熱高分子フィルムとを所定形状となるように切断する工程Cと、
前記工程Cの後、前記耐熱高分子フィルムから、前記第2保護フィルムを剥離する工程Dと、
前記工程Dの後、前記第1積層体の前記シランカップリング剤層と前記耐熱高分子フィルムとを貼り合わせて、前記無機基板と、前記シランカップリング剤層と、前記耐熱高分子フィルムと、前記第1保護フィルムとがこの順で積層された積層体を得る工程Eとを有することを特徴とする。
【0021】
前記構成によれば、前記積層フィルムに、前記第1保護フィルム側から紫外線レーザーを照射して、前記第1保護フィルムと前記耐熱高分子フィルムとを所定形状となるように切断する(工程C)。前記第1保護フィルムは、ポリエステル系フィルムからなる第1基材と、前記ポリエステル系フィルム上に設けられた第1粘着剤層とを有し、前記第1粘着剤層は、紫外線吸収剤を含有しているため、紫外線レーザーにより、第1保護フィルムと耐熱高分子フィルムとは好適に切断され、切断面における第1保護フィルムと耐熱高分子フィルムとの剥離を抑制することができる。
そして、前記工程Cの後、前記耐熱高分子フィルムから、前記第2保護フィルムを剥離し(工程D)、前記第1積層体の前記シランカップリング剤層と前記耐熱高分子フィルムとを貼り合わせて、前記無機基板と、前記シランカップリング剤層と、前記耐熱高分子フィルムと、前記第1保護フィルムとがこの順で積層された積層体を得る(工程E)。このようにして得られた積層体は、前記第1保護フィルムと前記耐熱高分子フィルムとの剥離が抑制されている。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、第1保護フィルムと耐熱高分子フィルムとを紫外線レーザーにより好適に切断でき、切断面における第1保護フィルムと耐熱高分子フィルムとの剥離とスミアの付着を抑制することが可能な積層フィルムを提供することができる。また、切断面における第1保護フィルムと耐熱高分子フィルムとの剥離が抑制された積層体を提供することができる。また、当該積層体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】ガラス基板にシランカップリング剤を塗布する実験装置の模式図である。
【
図2A】本実施形態に係る積層体の製造方法を説明するための平面図である。
【
図3】本実施形態に係る積層体の製造方法を説明するための側面断面図である。
【
図4】本実施形態に係る積層体の製造方法を説明するための側面断面図である。
【
図5】本実施形態に係る積層体の製造方法を説明するための側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0025】
<積層フィルム>
本実施形態に係る積層フィルムは、耐熱高分子フィルムと、前記耐熱高分子フィルムの一方の面に積層された第1保護フィルムと、前記耐熱高分子フィルムの他方の面に積層された第2保護フィルムとを備える。
【0026】
<耐熱高分子フィルム>
本明細書において、耐熱高分子とは、融点が400℃以上、好ましくは500℃以上であり、ガラス転移温度が250℃以上、好ましくは320℃以上、さらに好ましくは380℃以上の高分子である。以下、煩雑さを避けるために単に高分子とも称する。本明細書において、融点、及び、ガラス転移温度は、示差熱分析(DSC)により求めるものである。なお、融点が500℃を越える場合には、該当温度にて加熱した際の熱変形挙動を目視観察することで融点に達しているか否かを判断して良い。
【0027】
前記耐熱高分子フィルム(以下、単に高分子フィルムとも称する)としては、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、フッ素化ポリイミドといったポリイミド系樹脂(例えば、芳香族ポリイミド樹脂、脂環族ポリイミド樹脂);ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレートといった共重合ポリエステル(例えば、全芳香族ポリエステル、半芳香族ポリエステル);ポリメチルメタクリレートに代表される共重合(メタ)アクリレート;ポリカーボネート;ポリアミド;ポリスルフォン;ポリエーテルスルフォン;ポリエーテルケトン;酢酸セルロース;硝酸セルロース;芳香族ポリアミド;ポリ塩化ビニル;ポリフェノール;ポリアリレート;ポリフェニレンスルフィド;ポリフェニレンオキシド;ポリスチレン等のフィルムを例示できる。
ただし、前記高分子フィルムは、300℃以上の熱処理を伴うプロセスに用いられることが前提であるため、例示された高分子フィルムの中から実際に適用できる物は限られる。前記高分子フィルムのなかでも好ましくは、所謂スーパーエンジニアリングプラスチックを用いたフィルムであり、より具体的には、芳香族ポリイミドフィルム、芳香族アミドフィルム、芳香族アミドイミドフィルム、芳香族ベンゾオキサゾールフィルム、芳香族ベンゾチアゾールフィルム、芳香族ベンゾイミダゾールフィルム等が挙げられる。
【0028】
以下に前記高分子フィルムの一例であるポリイミド系樹脂フィルム(ポリイミドフィルムと称する場合もある)についての詳細を説明する。一般にポリイミド系樹脂フィルムは、溶媒中でジアミン類とテトラカルボン酸類とを反応させて得られるポリアミド酸(ポリイミド前駆体)溶液を、ポリイミドフィルム作製用支持体に塗布、乾燥してグリーンフィルム(以下では「ポリアミド酸フィルム」ともいう)とし、さらにポリイミドフィルム作製用支持体上で、あるいは該支持体から剥がした状態でグリーンフィルムを高温熱処理して脱水閉環反応を行わせることによって得られる。
【0029】
ポリアミド酸(ポリイミド前駆体)溶液の塗布は、例えば、スピンコート、ドクターブレード、アプリケーター、コンマコーター、スクリーン印刷法、スリットコート、リバースコート、ディップコート、カーテンコート、スリットダイコート等従来公知の溶液の塗布手段を適宜用いることができる。
【0030】
ポリアミド酸を構成するジアミン類としては、特に制限はなく、ポリイミド合成に通常用いられる芳香族ジアミン類、脂肪族ジアミン類、脂環式ジアミン類等を用いることができる。耐熱性の観点からは、芳香族ジアミン類が好ましく、芳香族ジアミン類の中では、ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類がより好ましい。ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類を用いると、高い耐熱性とともに、高弾性率、低熱収縮性、低線膨張係数を発現させることが可能になる。ジアミン類は、単独で用いてもよいし二種以上を併用してもよい。
【0031】
ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類としては、特に限定はなく、例えば、5-アミノ-2-(p-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、6-アミノ-2-(p-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、5-アミノ-2-(m-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、6-アミノ-2-(m-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、2,2’-p-フェニレンビス(5-アミノベンゾオキサゾール)、2,2’-p-フェニレンビス(6-アミノベンゾオキサゾール)、1-(5-アミノベンゾオキサゾロ)-4-(6-アミノベンゾオキサゾロ)ベンゼン、2,6-(4,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:5,4-d’]ビスオキサゾール、2,6-(4,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:4,5-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:5,4-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:4,5-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,3’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:5,4-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,3’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:4,5-d’]ビスオキサゾール等が挙げられる。
【0032】
上述したベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類以外の芳香族ジアミン類としては、例えば、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン(ビスアニリン)、1,4-ビス(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)ベンゼン、2,2’-ジトリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、m-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、m-アミノベンジルアミン、p-アミノベンジルアミン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,1-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-2-[4-(4-アミノフェノキシ)-3-メチルフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-3-メチルフェニル]プロパン、2-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-2-[4-(4-アミノフェノキシ)-3,5-ジメチルフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-3,5-ジメチルフェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4’-ビス[(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,1-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、2,2-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、4,4’-ビス[3-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、ビス[4-{4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル]スルホン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-トリフルオロメチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-フルオロフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-メチルフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノ-6-シアノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジフェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5,5’-ジフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4,5’-ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-フェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5-フェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4-フェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-5’-フェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジビフェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5,5’-ジビフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4,5’-ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-ビフェノキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノ-5-ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-4-ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’-ジアミノ-5’-ビフェノキシベンゾフェノン、1,3-ビス(3-アミノ-4-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-4-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-5-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-5-フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-4-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-4-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-5-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-5-ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、2,6-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾニトリル、および前記芳香族ジアミンの芳香環上の水素原子の一部もしくは全てが、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基またはアルコキシル基、シアノ基、またはアルキル基またはアルコキシル基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換された炭素数1~3のハロゲン化アルキル基またはアルコキシル基で置換された芳香族ジアミン等が挙げられる。
【0033】
前記脂肪族ジアミン類としては、例えば、1,2-ジアミノエタン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,8-ジアミノオタン等が挙げられる。
前記脂環式ジアミン類としては、例えば、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルシクロヘキシルアミン)等が挙げられる。
芳香族ジアミン類以外のジアミン(脂肪族ジアミン類および脂環式ジアミン類)の合計量は、全ジアミン類の20質量%以下が好ましく、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。換言すれば、芳香族ジアミン類は全ジアミン類の80質量%以上が好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
【0034】
ポリアミド酸を構成するテトラカルボン酸類としては、ポリイミド合成に通常用いられる芳香族テトラカルボン酸類(その酸無水物を含む)、脂肪族テトラカルボン酸類(その酸無水物を含む)、脂環族テトラカルボン酸類(その酸無水物を含む)を用いることができる。中でも、芳香族テトラカルボン酸無水物類、脂環族テトラカルボン酸無水物類が好ましく、耐熱性の観点からは芳香族テトラカルボン酸無水物類がより好ましく、光透過性の観点からは脂環族テトラカルボン酸類がより好ましい。これらが酸無水物である場合、分子内に無水物構造は1個であってもよいし2個であってもよいが、好ましくは2個の無水物構造を有するもの(二無水物)がよい。テトラカルボン酸類は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0035】
脂環族テトラカルボン酸類としては、例えば、シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ビシクロヘキシルテトラカルボン酸等の脂環族テトラカルボン酸、およびこれらの酸無水物が挙げられる。これらの中でも、2個の無水物構造を有する二無水物(例えば、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物等)が好適である。なお、脂環族テトラカルボン酸類は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
脂環式テトラカルボン酸類は、透明性を重視する場合には、例えば、全テトラカルボン酸類の80質量%以上が好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
【0036】
芳香族テトラカルボン酸類としては、特に限定されないが、ピロメリット酸残基(すなわちピロメリット酸由来の構造を有するもの)であることが好ましく、その酸無水物であることがより好ましい。このような芳香族テトラカルボン酸類としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4'-オキシジフタル酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン酸無水物等が挙げられる。
芳香族テトラカルボン酸類は、耐熱性を重視する場合には、例えば、全テトラカルボン酸類の80質量%以上が好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
【0037】
本実施形態においては、前記高分子フィルムが、ポリイミドフィルムであることが好ましい。前記高分子フィルムが、ポリイミドフィルムであると、耐熱性に優れる。また、前記高分子フィルムが、ポリイミドフィルムであると、好適に紫外線レーザーに切断することができる。
【0038】
前記高分子フィルムの厚さは3μm以上が好ましく、より好ましくは7μm以上であり、さらに好ましくは14μm以上であり、より一層好ましくは20μm以上である。前記高分子フィルムの厚さの上限は特に制限されないが、フレキシブル電子デバイスとして用いるためには250μm以下であることが好ましく、より好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは50μm以下である。
【0039】
前記高分子フィルムの30℃から300℃の間の平均のCTEは、好ましくは、-5ppm/℃~+20ppm/℃であり、より好ましくは-5ppm/℃~+15ppm/℃であり、さらに好ましくは1ppm/℃~+10ppm/℃である。CTEが前記範囲であると、一般的な支持体(無機基板)との線膨張係数の差を小さく保つことができ、熱を加えるプロセスに供しても高分子フィルムと無機基板とが剥がれることを回避できる。ここにCTEとは温度に対して可逆的な伸縮を表すファクターである。なお、前記高分子フィルムのCTEとは、高分子フィルムの流れ方向(MD方向)のCTE及び幅方向(TD方向)のCTEの平均値を指す。前記高分子フィルムのCTEの測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0040】
前記高分子フィルムの30℃から500℃の間の熱収縮率は、±0.9%であることが好ましく、さらに好ましくは±0.6%である。熱収縮率は温度に対して非可逆的な伸縮を表すファクターである。
【0041】
前記高分子フィルムの引張破断強度は、60MPa以上が好ましく、より好ましくは120MP以上であり、さらに好ましくは240MPa以上である。引張破断強度の上限は特に制限されないが、事実上1000MPa程度未満である。前記引張破断強度が60MPa以上であると、無機基板から剥離する際に前記高分子フィルムが破断してしまうことを防止することができる。なお、前記高分子フィルムの引張破断強度とは、高分子フィルムの流れ方向(MD方向)の引張破断強度及び幅方向(TD方向)の引張破断強度の平均値を指す。前記高分子フィルムの引張破断強度の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0042】
前記高分子フィルムの引張破断伸度は、1%以上が好ましく、より好ましくは5%以上であり、さらに好ましくは20%以上である。前記引張破断伸度が、1%以上であると、取り扱い性に優れる。なお、前記高分子フィルムの引張破断伸度とは、高分子フィルムの流れ方向(MD方向)の引張破断伸度及び幅方向(TD方向)の引張破断伸度の平均値を指す。前記高分子フィルムの引張破断伸度の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0043】
前記高分子フィルムの引張弾性率は、3GPa以上が好ましく、より好ましくは6GPa以上であり、さらに好ましくは8GPa以上である。前記引張弾性率が、3GPa以上であると、無機基板から剥離する際の前記高分子フィルムの伸び変形が少なく、取り扱い性に優れる。前記引張弾性率は、20GPa以下が好ましく、より好ましくは12GPa以下であり、さらに好ましくは10GPa以下である。前記引張弾性率が、20GPa以下であると、前記高分子フィルムをフレキシブルなフィルムとして使用できる。なお、前記高分子フィルムの引張弾性率とは、高分子フィルムの流れ方向(MD方向)の引張弾性率及び幅方向(TD方向)の引張弾性率の平均値を指す。前記高分子フィルムの引張弾性率の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0044】
前記高分子フィルムの厚さ斑は、20%以下であることが好ましく、より好ましくは12%以下、さらに好ましくは7%以下、特に好ましくは4%以下である。厚さ斑が20%を超えると、狭小部へ適用し難くなる傾向がある。なお、フィルムの厚さ斑は、例えば接触式の膜厚計にて被測定フィルムから無作為に10点程度の位置を抽出してフィルム厚を測定し、下記式に基づき求めることができる。
フィルムの厚さ斑(%)
=100×(最大フィルム厚-最小フィルム厚)÷平均フィルム厚
【0045】
前記高分子フィルムは、その製造時において幅が300mm以上、長さが10m以上の長尺高分子フィルムとして巻き取られた形態で得られるものが好ましく、巻取りコアに巻き取られたロール状高分子フィルムの形態のものがより好ましい。前記高分子フィルムがロール状に巻かれていると、ロール状に巻かれた耐熱高分子フィルムという形態での輸送が容易となる。
【0046】
前記高分子フィルムにおいては、ハンドリング性および生産性を確保する為、高分子フィルム中に粒子径が10~1000nm程度の滑材(粒子)を、0.03~3質量%程度、添加・含有させて、高分子フィルム表面に微細な凹凸を付与して滑り性を確保することが好ましい。
【0047】
<第1保護フィルム>
前記第1保護フィルムは、ポリエステル系フィルムからなる第1基材と、前記ポリエステル系フィルム上に設けられた第1粘着剤層とを有する。
【0048】
(第1基材)
前記第1基材は、ポリエステル系フィルムからなる。本明細書において、ポリエステル系フィルムとは、ポリエステル樹脂を主たる成分として形成されたフィルムをいう。
【0049】
前記ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリメチレンテレフタレート等が挙げられる。また、共重合成分としては、例えば、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール等のジオール成分や、アジピン酸、セバチン酸、フタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸成分等が挙げられる。
【0050】
前記ポリエステル樹脂の中でも、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。つまり、前記第1基材は、ポリエチレンテレフタレートフィルムであることが好ましい。前記第1基材が、ポリエチレンテレフタレートフィルムであると、耐熱高分子フィルムを保護するための適度な硬さと可撓性とを有し、第1保護フィルムの基材として好適である。また、ポリエチレンテレフタレートフィルムは、紫外線を透過する(大きく吸収しない)のではあるが、紫外線吸収剤入りの粘着剤層と組み合わせることにより、耐熱高分子フィルムの切断に好適な紫外線レーザーによって第1基材も含めて良好な切断ができる。このメカニズムについては上記で説明した通りである。第1基材が、紫外線透過しない材質であると、紫外線レーザーのエネルギーを第1基材が多く吸収することになり、切断により多くの時間を要し、保護フィルムと高分子フィルムとを短時間で経済的に切断できない場合がある。
【0051】
前記第1基材は、単層であってもよく、組成が同一である複数の層が積層されたものであってもよく、組成が異なる複数の層が積層されたものであってもよい。それぞれの層は帯電防止、密着防止など公知の各機能を持つ層であってよい。
【0052】
前記第1基材は、必要に応じて、ポリエステル樹脂中に各種添加剤を含有させてもよい。前記添加剤としては、例えば、充填材、酸化防止剤、耐光剤、ゲル化防止剤、有機湿潤剤、帯電防止剤、界面活性剤などが挙げられる。ただし、前記第1基材が紫外線透過率測定において、下記数値範囲を満たす範囲内とすることが好ましい。前記第1基材は、紫外線吸収剤を含有しないことが好ましい。紫外線吸収剤としては、後述するものが挙げられる。
【0053】
前記第1基材は、紫外線透過率測定(UV透過率測定)において、波長355nmにおける透過率が、70%以上であることが好ましく、80%以上であることよりが好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、95%以上であることが 特に好ましい。前記第1基材の波長355nmにおける透過率が、70%以上であると、第1保護フィルムと耐熱高分子フィルムとを紫外線レーザーにより、より好適に切断できる。
【0054】
前記第1基材の厚さは、特に限定されないが、例えば、12μm以上500μm以下の範囲で使用する規格に応じて任意に決めることができる。前記第1基材の厚さは、25μm以上350μm以下がより好ましい。前記第1基材の厚さが500μm以下であれば、生産性やハンドリング性の低下を抑制できる。また、前記第1基材の厚さが12μm以上であれば、前記第1基材の機械的な強度不足を低減でき、剥離時に破断することを防止することができる。
【0055】
前記第1基材は、従来公知の製膜方法により製膜することができる。前記製膜方法としては、例えばカレンダー製膜法、有機溶媒中でのキャスティング法、密閉系でのインフレーション押出法、Tダイ押出法、共押出し法、ドライラミネート法等が例示できる。
【0056】
(第1粘着剤層)
前記第1粘着剤層としては、アクリル系、シリコーン系、ゴム系、ポリエステル系など、特に制限されるものではなく公知のものが用いることができる。取り扱い性の観点で好ましくはアクリル系樹脂、シリコーン系樹脂である。
【0057】
前記アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル等の単量体を重合することにより得られる。前記単量体の具体的な例として、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、iso-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、iso-オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。これらは、必要に応じて複数を共重合することもできる。
【0058】
前記第1粘着剤層は、紫外線吸収剤を含有する。前記紫外線吸収剤としては、公知の紫外線吸収剤を使用することができる。紫外線吸収剤としては、有機系紫外線吸収剤と無機系紫外線吸収剤が挙げられるが、透明性の観点から有機系紫外線吸収剤が好ましい。
【0059】
前記有機系紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、環状イミノエステル系等、及びその組み合わせが挙げられる。なかでも、耐久性の観点からはベンゾトリアゾール系、環状イミノエステル系が特に好ましい。
【0060】
前記ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、2-[2′-ヒドロキシ-5′-(メタクリロイルオキシメチル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2′-ヒドロキシ-5′-(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2′-ヒドロキシ-5′-(メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2′-ヒドロキシ-5′-(メタクリロイルオキシヘキシル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2′-ヒドロキシ-3′-tert-ブチル-5′-(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2′-ヒドロキシ-5′-tert-ブチル-3′-(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2′-ヒドロキシ-5′-(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]-5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2′-ヒドロキシ-5′-(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]-5-メトキシ-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2′-ヒドロキシ-5′-(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]-5-シアノ-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2′-ヒドロキシ-5′-(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]-5-tert-ブチル-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2′-ヒドロキシ-5′-(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]-5-ニトロ-2H-ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0061】
前記ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、2,2′,4,4′-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2′-ジヒドロキシ-4,4′-ジメトキシベンゾフェノン、2,2′-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-アセトキシエトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2′-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2′-ジヒドロキシ-4,4′-ジメトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2,2′-ジヒドロキシ-4,4′-ジメトキシ-5,5′-ジスルホベンゾフェノン・2ナトリウム塩などが挙げられる。
【0062】
前記環状イミノエステル系紫外線吸収剤としては、2,2′-(1,4-フェニレン)ビス(4H-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、2-メチル-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン、2-ブチル-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン、2-フェニル-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン、2-(1-又は2-ナフチル)-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン、2-(4-ビフェニル)-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン、2-p-ニトロフェニル-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン、2-m-ニトロフェニル-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン、2-p-ベンゾイルフェニル-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン、2-p-メトキシフェニル-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン、2-o-メトキシフェニル-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン、2-シクロヘキシル-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン、2-p-(又はm-)フタルイミドフェニル-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン、2,2′-(1,4-フェニレン)ビス(4H-3,1-ベンズオキサジノン-4-オン)2,2′-ビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、2,2′-エチレンビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、2,2′-テトラメチレンビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、2,2′-デカメチレンビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、2,2′-p-フェニレンビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、2,2′-m-フェニレンビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、2,2′-(4,4′-ジフェニレン)ビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、2,2′-(2,6-又は1,5-ナフタレン)ビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、2,2′-(2-メチル-p-フェニレン)ビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、2,2′-(2-ニトロ-p-フェニレン)ビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、2,2′-(2-クロロ-p-フェニレン)ビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、2,2′-(1,4-シクロヘキシレン)ビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、1,3,5-トリ(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン-2-イル)ベンゼン等が挙げられる。
【0063】
また、1,3,5-トリ(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン-2-イル)ナフタレン、および2,4,6-トリ(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン-2-イル)ナフタレン、2,8-ジメチル-4H,6H-ベンゾ(1,2-d;5,4-d′)ビス-(1,3)-オキサジン-4,6-ジオン、2,7-ジメチル-4H,9H-ベンゾ(1,2-d;5,4-d′)ビス-(1,3)-オキサジン-4,9-ジオン、2,8-ジフェニル-4H,8H-ベンゾ(1,2-d;5,4-d′)ビス-(1,3)-オキサジン-4,6-ジオン、2,7-ジフェニル-4H,9H-ベンゾ(1,2-d;5,4-d′)ビス-(1,3)-オキサジン-4,6-ジオン、6,6′-ビス(2-メチル-4H,3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、6,6′-ビス(2-エチル-4H,3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、6,6′-ビス(2-フェニル-4H,3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、6,6′-メチレンビス(2-メチル-4H,3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、6,6′-メチレンビス(2-フェニル-4H,3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、6,6′-エチレンビス(2-メチル-4H,3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、6,6′-エチレンビス(2-フェニル-4H,3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、6,6′-ブチレンビス(2-メチル-4H,3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、6,6′-ブチレンビス(2-フェニル-4H,3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、6,6′-オキシビス(2-メチル-4H,3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、6,6′-オキシビス(2-フェニル-4H,3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、6,6′-スルホニルビス(2-メチル-4H,3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、6,6′-スルホニルビス(2-フェニル-4H,3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、6,6′-カルボニルビス(2-メチル-4H,3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、6,6′-カルボニルビス(2-フェニル-4H,3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、7,7′-メチレンビス(2-メチル-4H,3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、7,7′-メチレンビス(2-フェニル-4H,3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、7,7′-ビス(2-メチル-4H,3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、7,7′-エチレンビス(2-メチル-4H,3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、7,7′-オキシビス(2-メチル-4H,3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、7,7′-スルホニルビス(2-メチル-4H,3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、7,7′-カルボニルビス(2-メチル-4H,3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、6,7′-ビス(2-メチル-4H,3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、6,7′-ビス(2-フェニル-4H,3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、6,7′-メチレンビス(2-メチル-4H,3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、6,7′-メチレンビス(2-フェニル-4H,3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)なども、環状イミノエステル系紫外線吸収剤として使用可能である。
【0064】
前記紫外線吸収剤の含有量は、特に限定されないが、前記第1保護フィルムの紫外線透過率測定(UV透過率測定)において、測定値が下記数値範囲内となる程度であることが好ましい。例えば、前記紫外線吸収剤の含有量は、前記第1粘着剤層全体を100重量%としたときに、0.1~10重量%であることが好ましく、0.3~3重量%であることがより好ましい。
【0065】
前記第1粘着剤層の厚みは、特に限定されないが、通常3~200μmであればよく、好ましくは5~30μmである。
【0066】
前記第1粘着剤層は、前記第1基材上に粘着剤組成物溶液を塗布して塗布膜を形成した後、該塗布膜を所定条件下で乾燥させることにより得られる。前記塗布方法としては特に限定されず、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工等が挙げられる。また、乾燥条件としては、例えば乾燥温度80~150℃、乾燥時間0.5~5分間の範囲内で行われる。また、セパレータ上に粘着剤組成物を塗布して塗布膜を形成した後、前記乾燥条件で塗布膜を乾燥させて第1粘着剤層を形成してもよい。その後、前記第1基材上に前記第1粘着剤層をセパレータと共に貼り合わせる。以上により、第1保護フィルムが得られる。
【0067】
前記第1保護フィルムは、紫外線透過率測定(UV透過率測定)において、波長355nmにおける透過率が、30%以下であることが好ましく、20%以下であることよりが好ましく、15%以下であることがさらに好ましい。前記第1保護フィルムの波長355nmにおける透過率が、30%以下であると、第1保護フィルムと耐熱高分子フィルムとを紫外線レーザーにより、より好適に切断できる。
【0068】
前記耐熱高分子フィルムと前記第1保護フィルムとの90°剥離強度は、0.002N/cm以上0.3N/cm以下であることが好ましく、0.003N/cm以上0.2N/cm以下であることがより好ましい。前記90°剥離強度が、0.3N/cm以下であると、耐熱高分子フィルムを使用する際に、好適に第1保護フィルムを剥離することができる。また、前記90°剥離強度が、0.002N/cm以上であると、耐熱高分子フィルムを使用する前段階(例えば、搬送中等)において、意図せずに耐熱高分子フィルムから第1保護フィルムが剥離してしまうことを抑制することができる。
【0069】
<第2保護フィルム>
前記第2保護フィルムは、耐熱高分子フィルムが使用されるまでの間、耐熱高分子フィルムの他方の面に貼り付けられるものである。前記第2保護フィルムは、耐熱高分子フィルムを使用する際に耐熱高分子フィルムから剥離することができるものであれば、その構成は、特に限定されない。前記第2保護フィルムとしては、例えば、第2基材と、前記第2基材上に設けられた第2粘着剤層とを有する構成が挙げられる。
【0070】
(第2基材)
前記第2基材の材料としては、前記第1基材の項で説明したポリエステル樹脂の他、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド樹脂等が挙げられる。これらは、混用使用しても構わない。
【0071】
前記第2基材は、前記第1基材と同様、必要に応じて、樹脂中に各種添加剤を含有させてもよい。前記添加剤としては、前記第1基材の項で説明したものが挙げられる。なお、前記第2基材においては、紫外線吸収剤を含有していても構わない。紫外線吸収剤としては、第1粘着剤層の項で説明したものが挙げられる。
【0072】
(第2粘着剤層)
前記第2粘着剤層としては、前記第1粘着剤層と同様のものを採用することができる。ただし、前記第2粘着剤層は、紫外線吸収剤が含有されていなくても構わない。
【0073】
前記積層フィルムの製造方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、第1保護フィルム、第2保護フィルム、高分子フィルムをそれぞれ別々に作製し、高分子フィルムの一方の面に第1保護フィルムを貼り合わせ、他方の面に第2保護フィルムを貼り合わせることにより前記積層フィルムを得ることができる。
【0074】
前記耐熱高分子フィルムと前記第2保護フィルムとの90°剥離強度は、0.002N/cm以上0.3N/cm以下であることが好ましく、0.003N/cm以上0.2N/cm以下であることがより好ましい。前記90°剥離強度が、0.3N/cm以下であると、耐熱高分子フィルムを使用する際に、好適に第2保護フィルムを剥離することができる。また、前記90°剥離強度が、0.002N/cm以上であると、耐熱高分子フィルムを使用する前段階(例えば、搬送中等)において、意図せずに耐熱高分子フィルムから第2保護フィルムが剥離してしまうことを抑制することができる。
【0075】
以上、本実施形態に係る積層フィルムについて説明した。
【0076】
次に、本実施形態に係る積層体について説明する。
【0077】
<積層体>
本実施形態に係る積層体は、無機基板と、シランカップリング剤層と、耐熱高分子フィルムと、第1保護フィルムとがこの順で積層されており、
前記第1保護フィルムは、ポリエステル系フィルムからなる第1基材と、前記第1基材上に設けられた第1粘着剤層とを有し、
前記第1粘着剤層は、紫外線吸収剤を含有する。
【0078】
耐熱高分子フィルム、及び、第1保護フィルムについては、積層フィルムの項で説明したのでここでの説明は省略することとする。
【0079】
<無機基板>
前記無機基板としては無機物からなる基板として用いることのできる板状のものであればよく、例えば、ガラス板、セラミック板、半導体ウエハ、金属等を主体としているもの、および、これらガラス板、セラミック板、半導体ウエハ、金属の複合体として、これらを積層したもの、これらが分散されているもの、これらの繊維が含有されているものなどが挙げられる。
【0080】
前記ガラス板としては、石英ガラス、高ケイ酸ガラス(96%シリカ)、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス(パイレックス(登録商標))、ホウケイ酸ガラス(無アルカリ)、ホウケイ酸ガラス(マイクロシート)、アルミノケイ酸塩ガラス等が含まれる。これらの中でも、線膨張係数が5ppm/K以下のものが望ましく、市販品であれば、液晶用ガラスであるコーニング社製の「コーニング(登録商標)7059」や「コーニング(登録商標)1737」、「EAGLE」、旭硝子社製の「AN100」、日本電気硝子社製の「OA10」、SCHOTT社製の「AF32」などが望ましい。
【0081】
前記半導体ウエハとしては、特に限定されないが、シリコンウエハ、ゲルマニウム、シリコン-ゲルマニウム、ガリウム-ヒ素、アルミニウム-ガリウム-インジウム、窒素-リン-ヒ素-アンチモン、SiC、InP(インジウム燐)、InGaAs、GaInNAs、LT、LN、ZnO(酸化亜鉛)やCdTe(カドミウムテルル)、ZnSe(セレン化亜鉛)などのウエハが挙げられる。なかでも、好ましく用いられるウエハはシリコンウエハであり、特に好ましくは8インチ以上のサイズの鏡面研磨シリコンウエハである。
【0082】
前記金属としては、W、Mo、Pt、Fe、Ni、Auといった単一元素金属や、インコネル、モネル、ニモニック、炭素銅、Fe-Ni系インバー合金、スーパーインバー合金、といった合金等が含まれる。また、これら金属に、他の金属層、セラミック層を付加してなる多層金属板も含まれる。この場合、付加層との全体の線膨張係数(CTE)が低ければ、主金属層にCu、Alなども用いられる。付加金属層として使用される金属としては、高分子フィルムとの密着性を強固にするもの、拡散がないこと、耐薬品性や耐熱性が良いこと等の特性を有するものであれば限定されるものではないが、Cr、Ni、TiN、Mo含有Cuなどが好適な例として挙げられる。
【0083】
前記無機基板の平面部分は、充分に平坦である事が望ましい。具体的には、表面粗さのP-V値が50nm以下、より好ましくは20nm以下、さらに好ましくは5nm以下である。これより粗いと、高分子フィルム層と無機基板との剥離強度が不充分となる場合がある。
【0084】
前記無機基板の厚さは特に制限されないが、取り扱い性の観点より10mm以下の厚さが好ましく、3mm以下がより好ましく、1.3mm以下がさらに好ましい。厚さの下限については特に制限されないが、好ましくは0.07mm以上、より好ましくは0.15mm以上、さらに好ましくは0.3mm以上である。
【0085】
<シランカップリング剤層>
前記無機基板上には、シランカプッリング剤を含有するシランカプッリング剤層が設けられている。
【0086】
前記シランカップリング剤は、無機基板と高分子フィルムとの間に物理的ないし化学的に介在し、無機基板と高分子フィルムとの間の接着力を高める作用を有する。
前記カップリング剤は、特に限定されるものではないが、アミノ基あるいはエポキシ基を持ったシランカップリング剤が好ましい。シランカップリング剤の好ましい具体例としては、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、2-(3,4-エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、トリス-(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、クロロメチルフェネチルトリメトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、アミノフェネチルトリメトキシシラン、アミノフェニルアミノメチルフェネチルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0087】
前記シランカップリング剤としては、前記のほかに、n-プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリクロロシラン、2-シアノエチルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリクロロシラン、デシルトリクロロシラン、ジアセトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジメトキシメチルフェニルシラン、ドデシルリクロロシラン、ドデシルトリメトキシラン、エチルトリクロロシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、n-オクチルトリクロロシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン、トリエトキシエチルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリメトキシメチルシラン、トリメトキシフェニルシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ペンチルトリクロロシラン、トリアセトキシメチルシラン、トリクロロヘキシルシラン、トリクロロメチルシラン、トリクロロオクタデシルシラン、トリクロロプロピルシラン、トリクロロテトラデシルシラン、トリメトキシプロピルシラン、アリルトリクロロシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、トリクロロビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、トリクロロ-2-シアノエチルシラン、ジエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、3-グリシジルオキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランなどを使用することもできる。
【0088】
前記シランカップリング剤のなかでも、1つの分子中に1個のケイ素原子を有するシランカップリング剤が特に好ましく、例えば、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、2-(3,4-エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、アミノフェネチルトリメトキシシラン、アミノフェニルアミノメチルフェネチルトリメトキシシランなどが挙げられる。プロセスで特に高い耐熱性が要求される場合、Siとアミノ基の間を芳香族基でつないだものが望ましい。
前記カップリング剤としては、前記のほかに、1-メルカプト-2-プロパノール、3-メルカプトプロピオン酸メチル、3-メルカプト-2-ブタノール、3-メルカプトプロピオン酸ブチル、3-(ジメトキシメチルシリル)-1-プロパンチオール、4-(6-メルカプトヘキサロイル)ベンジルアルコール、11-アミノ-1-ウンデセンチオール、11-メルカプトウンデシルホスホン酸、11-メルカプトウンデシルトリフルオロ酢酸、2,2’-(エチレンジオキシ)ジエタンチオール、11-メルカプトウンデシトリ(エチレングリコール)、(1-メルカプトウンデイック-11-イル)テトラ(エチレングリコール)、1-(メチルカルボキシ)ウンデック-11-イル)ヘキサ(エチレングリコール)、ヒドロキシウンデシルジスルフィド、カルボキシウンデシルジスルフィド、ヒドロキシヘキサドデシルジスルフィド、カルボキシヘキサデシルジスルフィド、テトラキス(2-エチルヘキシルオキシ)チタン、チタンジオクチロキシビス(オクチレングリコレート)、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムトリブトキシモノステアレート、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、2,3-ブタンジチオール、1-ブタンチオール、2-ブタンチオール、シクロヘキサンチオール、シクロペンタンチオール、1-デカンチオール、1-ドデカンチオール、3-メルカプトプロピオン酸-2-エチルヘキシル、3-メルカプトプロピオン酸エチル、1-ヘプタンチオール、1-ヘキサデカンチオール、ヘキシルメルカプタン、イソアミルメルカプタン、イソブチルメルカプタン、3-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸-3-メトキシブチル、2-メチル-1-ブタンチオール、1-オクタデカンチオール、1-オクタンチオール、1-ペンタデカンチオール、1-ペンタンチオール、1-プロパンチオール、1-テトラデカンチオール、1-ウンデカンチオール、1-(12-メルカプトドデシル)イミダゾール、1-(11-メルカプトウンデシル)イミダゾール、1-(10-メルカプトデシル)イミダゾール、1-(16-メルカプトヘキサデシル)イミダゾール、1-(17-メルカプトヘプタデシル)イミダゾール、1-(15-メルカプト)ドデカン酸、1-(11-メルカプト)ウンデカン酸、1-(10-メルカプト)デカン酸などを使用することもできる。
【0089】
<シランカップリング剤層の形成方法>
シランカップリング剤層の形成方法としては、シランカップリング剤溶液を前記無機基板に塗布する方法や蒸着法などを用いることができる。なお、シランカップリング剤層の形成は、前記金属含有層の表面に行ってもよい。
【0090】
シランカップリング剤溶液を塗布する方法としては、シランカップリング剤をアルコールなどの溶媒で希釈した溶液を用いて、スピンコート法、カーテンコート法、ディップコート法、スリットダイコート法、グラビアコート法、バーコート法、コンマコート法、アプリケーター法、スクリーン印刷法、スプレーコート法等の従来公知の溶液の塗布手段を適宜用いることができる。
【0091】
また、シランカップリング剤層を蒸着法によって形成することもでき、具体的には、前記無機基板をシランカップリング剤の蒸気、すなわち実質的に気体状態のシランカップリング剤に暴露して形成する。シランカップリング剤の蒸気は、液体状態のシランカップリング剤を40℃~シランカップリング剤の沸点程度までの温度に加温することによって得ることができる。シランカップリング剤の沸点は、化学構造によって異なるが、概ね100~250℃の範囲である。
シランカップリング剤を加温する環境は、加圧下、常圧下、減圧下のいずれでも構わないが、シランカップリング剤の気化を促進する場合には常圧下ないし減圧下が好ましい。多くのシランカップリング剤は可燃性液体であるため、密閉容器内にて、好ましくは容器内を不活性ガスで置換した後に気化作業を行うことが好ましい。
前記無機基板をシランカップリング剤に暴露する時間は特に制限されないが、20時間以内が好ましく、より好ましくは60分以内、さらに好ましくは15分以内、最も好ましくは1分以内である。
前記無機基板をシランカップリング剤に暴露する間の前記無機基板の温度は、シランカップリング剤の種類と、求めるシランカップリング剤層の厚さにより-50℃から200℃の間の適正な温度に制御することが好ましい。
【0092】
シランカップリング剤層の膜厚は、無機基板、高分子フィルム等と比較しても極めて薄く、機械設計的な観点からは無視される程度の厚さであり、原理的には最低限、単分子層オーダーの厚さがあれば十分である。一般には400nm未満であり、200nm以下が好ましく、さらに実用上は100nm以下が好ましく、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは10nm以下である。ただし、計算上5nm以下の領域になるとシランカップリング剤層が均一な塗膜としてではなく、クラスター状に存在するおそれがある。なお、シランカップリング剤層の膜厚は、エリプソメトリー法または塗布時のシランカップリング剤溶液の濃度と塗布量から計算して求めることができる。
【0093】
前記積層体は、前記耐熱高分子フィルムと前記無機基板との90°初期剥離強度が、0.05N/cm以上であることが好ましく、0.09N/cm以上であることがより好ましく、0.1N/cm以上であることがさらに好ましい。また、前記90°初期剥離強度は、0.25N/cm以下であることが好ましく、0.2N/cm以下であることがより好ましい。前記90°初期剥離強度が0.05N/cm以上であると、デバイス形成前や形成中に耐熱高分子フィルムが無機基板から剥がれてしまうことを防止することができる。また、前記90°初期剥離強度が0.25N/cm以下であると、デバイス形成後、無機基板と耐熱高分子フィルムとを剥離しやすい。つまり、前記90°初期剥離強度が0.25N/cm以下であると、デバイス形成中に、無機基板と耐熱高分子フィルムとの間の剥離強度が多少上昇したとしても、両者を容易に剥離しやすい。
本明細書において、前記90°初期剥離強度は、前記積層体を、大気雰囲気下、200℃1時間熱処理した後の無機基板と耐熱高分子フィルムとの間の90°剥離強度をいう。
【0094】
前記90°初期剥離強度の測定条件は、下記の通りである。
無機基板に対して耐熱高分子フィルムを90°の角度で引き剥がす。
5回測定を行い、平均値を測定値とする。
測定温度 ; 室温(25℃)
剥離速度 ; 100mm/min
雰囲気 ; 大気
測定サンプル幅 ; 2.5cm
より詳細には、実施例に記載の方法による。
【0095】
本実施形態に係る積層体によれば、前記第1保護フィルムは、ポリエステル系フィルムからなる第1基材と、前記ポリエステル系フィルム上に設けられた第1粘着剤層とを有し、前記第1粘着剤層は、紫外線吸収剤を含有している。従って、前記耐熱高分子フィルムと前記第1保護フィルムとを有する前記積層体は、前記第1保護フィルムと前記耐熱高分子フィルムとの剥離が、抑制されている。
【0096】
<積層体の製造方法>
以下、本実施形態に係る積層体の製造方法について説明する。
本実施形態に係る積層体の製造方法は、
無機基板とシランカップリング剤層とを有する第1積層体を準備する工程Aと、
積層フィルムを準備する工程Bと、
前記積層フィルムに、前記第1保護フィルム側から紫外線レーザーを照射して、前記第1保護フィルムと前記耐熱高分子フィルムとを所定形状となるように切断する工程Cと、
前記工程Cの後、前記耐熱高分子フィルムから、前記第2保護フィルムを剥離する工程Dと、
前記工程Dの後、前記第1積層体の前記シランカップリング剤層と前記耐熱高分子フィルムとを貼り合わせて、前記無機基板と、前記シランカップリング剤層と、前記耐熱高分子フィルムと、前記第1保護フィルムとがこの順で積層された積層体を得る工程Eとを少なくとも有する。
【0097】
以下、本実施形態に係る積層体の製造方法につき、図面を参照しつつ説明する。
図2Aは、本実施形態に係る積層体の製造方法を説明するための平面図であり、
図2Bは、その側面断面図である。
図3~
図5は、本実施形態に係る積層体の製造方法を説明するための側面断面図である。
【0098】
<工程A>
工程Aにおいては、無機基板122とシランカップリング剤層124とを有する第1積層体120を準備する(
図5参照)。前記第1積層体を準備する方法は特に限定されないが、無機基板に、シランカップリング剤層を形成して第1積層体を得ることができる。無機基板に、シランカップリング剤層を形成する方法の詳細についてはすでに説明したのでここでの説明は省略する。
【0099】
<工程B>
工程Bにおいては、積層フィルム100を準備する(
図2A、
図2B参照)。積層フィルム100は、高分子フィルム102と、高分子フィルム102の一方の面に積層された第1保護フィルム104と、高分子フィルム102の他方の面に積層された第2保護フィルム106とを備える。積層フィルム100は、例えば、上記積層フィルムの製造方法の項で説明した方法により得ることができる。
【0100】
<工程C>
工程Cにおいては、積層フィルム100に、第1保護フィルム104側から紫外線レーザーを照射して、第1保護フィルム104と高分子フィルム102とを所定形状となるように切断する。紫外線レーザーの照射は、第2保護フィルム106を高分子フィルム102から剥離しない状態で行うことが好ましい。本実施形態のように、第2保護フィルム106を高分子フィルム102から剥離しない状態で紫外線レーザーの照射を行えば、紫外線レーザーで切断された第1保護フィルム104及び高分子フィルム102の外周部分を、第2保護フィルム106とともに容易に剥離することができる(
図4参照)。また、紫外線レーザーの照射後、無機基板への貼り合わせの直前まで高分子フィルム102の面(他方の面)を保護することができる。
【0101】
前記紫外線レーザーとしては、波長310nm~450nmの範囲内が好ましく、波長340nm~380nmの範囲内より好ましい。波長450nm以下とすることにより好適に第1保護フィルムと高分子フィルムとを切断することが可能となる。また、波長310nm以上とすることにより、紫外線吸収剤が紫外線レーザーを好適に吸収することができ、好適に第1保護フィルムと高分子フィルムとを切断することが可能となる。
紫外線レーザーにより切断する形状(所定形状)としては、特に制限されず、矩形状や円形状等が挙げられる。また、無機基板の規格に合わせたオリフラやノッチを含む形状とすることもできる。前記所定形状は、前記高分子フィルム上に形成するデバイスの配置や形状に応じて適宜設定することができる。
前記所定形状の大きさとしては、無機基板に貼り合わせることを前提としていることから、無機基板よりも小さいことが好ましい。例えば、無機基板からはみ出ないことを前提として、無機基板の面積の70~98%程度とすることが好ましい。ただし、無機基板に、前記高分子フィルムを複数枚貼り合わせて使用する方法もある。無機基板に、前記高分子フィルムを2枚貼り合わせて使用する場合、例えば、無機基板の面積の35~49%程度とすればよい。
【0102】
紫外線レーザーによる切断痕は、テーパー形状となっている。なお、トムソン型のような刃物による押切加工では、切断部分が変形し、テーパー形状とはならない。従って、第1保護フィルム104及び高分子フィルム102の外周部分の切断痕がテーパー形状となっていれば、紫外線レーザーにより切断されたものといえる。
【0103】
<工程D>
工程Dにおいては、高分子フィルム102から、第2保護フィルム106を剥離する。高分子フィルム102から、第2保護フィルム106を剥離する方法は特に限定されないが、例えば、
図3、
図4に示すように、紫外線レーザーにより切断された第1保護フィルム104と高分子フィルム104の積層物を、バキュームパッド130により第2保護フィルム106から持ち上げて剥離する方法が挙げられる。
【0104】
<工程E>
工程Eにおいては、第1積層体120のシランカップリング剤層124と前記積層物の高分子フィルム102とを貼り合わせて、無機基板122と、シランカップリング剤層124と、高分子フィルム102と、第1保護フィルム104とがこの順で積層された積層体を得る。具体的には、無機基板122上に形成されたシランカップリング剤層124と、高分子フィルム122とを貼り合わせ面として、加圧加熱して、貼り合わせる。
【0105】
加圧加熱処理は、例えば、大気圧雰囲気下あるいは真空中で、プレス、ラミネート、ロールラミネート等を、加熱しながら行えばよい。またフレキシブルなバッグに入れた状態で加圧加熱する方法も応用できる。生産性の向上や、高い生産性によりもたらされる低加工コスト化の観点からは、大気雰囲気下でのプレスまたはロールラミネートが好ましく、特にロールを用いて行う方法(ロールラミネート等)が好ましい。
【0106】
加圧加熱処理の際の圧力としては、1MPa~20MPaが好ましく、さらに好ましくは3MPa~10MPaである。20MPa以下であると、無機基板を破損することを抑制できる。また、1MPa以上であると、密着しない部分が生じることや、接着が不充分になることを防止できる。加圧加熱処理の際の温度としては、好ましくは150℃~400℃、より好ましくは250℃~350℃である。高分子フィルムがポリイミドフィルムである場合には、温度が高すぎると、ポリイミドフィルムにダメージを与える虞があり、温度が低すぎると、密着力が弱くなる傾向がある。
また加圧加熱処理は、上述のように大気圧雰囲気中で行うこともできるが、全面の安定した剥離強度を得る為には、真空下で行うことが好ましい。このとき真空度は、通常の油回転ポンプによる真空度で充分であり、10Torr以下程度あれば充分である。
加圧加熱処理に使用することができる装置としては、真空中でのプレスを行うには、例えば井元製作所製の「11FD」等を使用でき、真空中でのロール式のフィルムラミネーターあるいは真空にした後に薄いゴム膜によりガラス全面に一度に圧力を加えるフィルムラミネーター等の真空ラミネートを行うには、例えば名機製作所製の「MVLP」等を使用できる。
【0107】
前記加圧加熱処理は加圧プロセスと加熱プロセスとに分離して行うことが可能である。この場合、まず、比較的低温(例えば150℃未満、より好ましくは室温(35℃以下5℃以上))で高分子フィルムと無機基板とを加圧(好ましくは0.2~50MPa程度)して両者の密着確保し、その後、低圧(好ましくは0.2MPa未満、より好ましくは0.1MPa以下)もしくは常圧にて比較的高温(例えば80℃以上、より好ましくは100~250℃、さらに好ましくは110~230℃)で加熱することにより、密着界面の化学反応が促進されて高分子フィルムと無機基板とを積層できる。
【0108】
以上により、無機基板122と高分子フィルム102とが貼り合わされた積層体126を得ることができる。
ただし、本発明に係る積層体の製造方法は、この例に限定されない。他の例として、例えば、耐熱高分子フィルム上に、シランカップリング剤層を形成し、その後、シランカップリング剤層に、無機基板を貼り合わせることとしてもよい。
【0109】
本実施形態に係る積層体の製造方法によれば、前記第1保護フィルムは、ポリエステル系フィルムからなる第1基材と、前記ポリエステル系フィルム上に設けられた第1粘着剤層とを有し、前記第1粘着剤層は、紫外線吸収剤を含有しているため、紫外線レーザーにより、第1保護フィルムと耐熱高分子フィルムとは好適に切断され、切断面における第1保護フィルムと耐熱高分子フィルムとの剥離を抑制することができる。
また、本実施形態に係る積層体の製造方法により得られた積層体は、前記第1保護フィルムと前記耐熱高分子フィルムとの剥離が抑制されている。
【0110】
以上、本実施形態に係る積層体の製造方法について説明した。
【0111】
<フレキシブル電子デバイスの製造方法>
前記積層体を用いると、既存の電子デバイス製造用の設備、プロセスを用いて積層体の高分子フィルム上に電子デバイスを形成し、積層体から高分子フィルムごと剥離することで、フレキシブルな電子デバイスを作製することができる。
本明細書において電子デバイスとは、電気配線を担う片面、両面、あるいは多層構造を有する配線基板、トランジスタ、ダイオードなどの能動素子や、抵抗、キャパシタ、インダクタなどの受動デバイスを含む電子回路、他、圧力、温度、光、湿度などをセンシングするセンサー素子、バイオセンサー素子、発光素子、液晶表示、電気泳動表示、自発光表示などの画像表示素子、無線、有線による通信素子、演算素子、記憶素子、MEMS素子、太陽電池、薄膜トランジスタなどをいう。
【0112】
本明細書におけるデバイス構造体の製造方法では、上述した方法で作製された積層体から第1保護フィルムを剥離した後、高分子フィルム上にデバイスを形成し、その後、該高分子フィルムを前記無機基板から剥離する。
【0113】
デバイス付きの高分子フィルムを無機基板から剥離する方法としては、特に制限されないが、ピンセットなどで端から捲る方法、無機基板と高分子フィルムの間にきっかけとなる剥離部を形成し、この剥離部に粘着テープを貼着させた後にそのテープ部分から捲る方法、高分子フィルムの切り込み部分の1辺を真空吸着した後にその部分から捲る方法等が採用できる。なお、剥離の際に、高分子フィルムの切り込み部分に曲率が小さい曲がりが生じると、その部分のデバイスに応力が加わることになりデバイスを破壊するおそれがあるため、極力曲率の大きな状態で剥がすことが望ましい。例えば、曲率の大きなロールに巻き取りながら捲るか、あるいは曲率の大きなロールが剥離部分に位置するような構成の機械を使って捲ることが望ましい。
前記高分子フィルムに切り込みを入れる方法としては、刃物などの切削具によって高分子フィルムを切断する方法や、レーザーと積層体を相対的にスキャンさせることにより高分子フィルムを切断する方法、ウォータージェットと積層体を相対的にスキャンさせることにより高分子フィルムを切断する方法、半導体チップのダイシング装置により若干ガラス層まで切り込みつつ高分子フィルムを切断する方法などがあるが、特に方法は限定されるものではない。例えば、上述した方法を採用するにあたり、切削具に超音波を重畳させたり、往復動作や上下動作などを付け加えて切削性能を向上させる等の手法を適宜採用することもできる。
また、剥離する部分に予め別の補強基材を貼りつけて、補強基材ごと剥離する方法も有用である。剥離するフレキシブル電子デバイスが、表示デバイスのバックプレーンである場合、あらかじめ表示デバイスのフロントプレーンを貼りつけて、無機基板上で一体化した後に両者を同時に剥がし、フレキシブルな表示デバイスを得ることも可能である。
【実施例】
【0114】
以下、本発明に関し実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0115】
<ポリイミドフィルムの作製>
〔製造例1(ポリアミド酸溶液Aの製造)〕
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、前記反応容器内に5-アミノ-2-(p-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール(DAMBO)223質量部と、N,N-ジメチルアセトアミド4416質量部とを加えて完全に溶解させた。次に、ピロメリット酸二無水物(PMDA)217質量部とともに、コロイダルシリカ(平均粒径:0.08μm)をジメチルアセトアミドに分散させたスノーテックス(DMAC-ST30、日産化学工業製)をコロイダルシリカがポリアミド酸溶液A中のポリマー固形分総量に対して0.7質量%になるように加え、25℃の反応温度で24時間攪拌して、
褐色で粘調なポリアミド酸溶液Aを得た。
【0116】
〔製造例2(ポリアミド酸溶液Bの製造)〕
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、前記反応容器内に3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)398質量部と、N,N-ジメチルアセトアミド4600質量部とを加えて均一になるようによく攪拌した。次に、パラジアニリン(PDA)147質量部とともに、コロイダルシリカ(平均粒径:0.08μm)をジメチルアセトアミドに分散させたスノーテックス(DMAC-ST30、日産化学工業製)をコロイダルシリカがポリアミド酸溶液B中のポリマー固形分総量に対して0.7質量%になるように加え、25℃の反応温度で24時間攪拌して、褐色で粘調なポリアミド酸溶液Bを得た。
【0117】
〔製造例3(ポリアミド酸溶液Cの製造)〕
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、前記反応容器内にピロメリット酸無水物(PMDA)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)を当量で入れ、N、N-ジメチルアセトアミドに溶解し、コロイダルシリカ(平均粒径:0.08μm)をジメチルアセトアミドに分散させたスノーテックス(DMAC-ST30、日産化学工業製)をコロイダルシリカがポリアミド酸溶液C中のポリマー固形分総量に対して0.7質量になるよう加え、25℃の反応温度で24時間攪拌して、褐色で粘調なポリアミド酸溶液Cが得られた。
【0118】
〔製造例4(ポリイミドフィルム1の作製)〕
製造例1で得たポリアミド酸溶液Aを、ダイコーターを用いて、鏡面仕上げしたステンレススチール製の無端連続ベルト上に塗布し(塗工幅1240mm)、90~115℃にて10分間乾燥した。乾燥後に自己支持性となったポリアミド酸フィルムを支持体から剥離して両端をカットし、グリーンフィルムを得た。
得られたグリーンフィルムをピンテンターによって、最終ピンシート間隔が1140mmとなるように搬送し、1段目170℃で2分間、2段目230℃で2分間、3段目465℃で6分間として熱処理を施し、イミド化反応を進行させた。その後、2分間で室温にまで冷却し、フィルムの両端部の平面性が悪い部分をスリッターにて切り落とし、ロール状に巻き上げ、褐色を呈するポリイミドフィルム1を得た。
【0119】
〔製造例5(ポリイミドフィルム2の作製)〕
製造例2で得たポリアミド酸溶液Bを用いたこと以外は、製造例4と同様にしてポリイミドフィルム2を得た。
【0120】
〔製造例6(ポリイミドフィルム3の作製)〕
製造例3で得たポリアミド酸溶液Cを用い3段目の熱処理温度を440℃としたこと以外は、製造例4と同様にしてポリイミドフィルム3を得た。
【0121】
<ポリイミドフィルムの厚さ測定>
ポリイミドフィルム1~3の厚さを、マイクロメーター(ファインリューフ社製、ミリトロン1245D)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0122】
<ポリイミドフィルムの引張弾性率、引張破断強度、及び、引張破断伸度>
ポリイミドフィルム1~3を、流れ方向(MD方向)および幅方向(TD方向)にそれぞれ100mm×10mmの短冊状に切り出したものを試験片とした。試験片は、幅方向中央部分から切り出した。引張試験機(島津製作所製、オートグラフ(R)、機種名AG-5000A)を用い、温度25℃、引張速度50mm/分、チャック間距離40mmの条件で、MD方向、TD方向それぞれについて、引張弾性率、引張破断強度及び引張破断伸度を測定した。結果を表1に示す。
【0123】
<ポリイミドフィルムの線膨張係数(CTE)>
ポリイミドフィルム1~3を、流れ方向(MD方向)および幅方向(TD方向)において、下記条件にて伸縮率を測定し、30℃~45℃、45℃~60℃のように15℃の間隔での伸縮率/温度を測定し、この測定を300℃まで行い、全測定値の平均値をCTEとして算出した。結果を表1に示す。
機器名 ; MACサイエンス社製TMA4000S
試料長さ ; 20mm
試料幅 ; 2mm
昇温開始温度 ; 25℃
昇温終了温度 ; 400℃
昇温速度 ; 5℃/min
雰囲気 ; アルゴン
【0124】
【0125】
<保護フィルムの作製>
[ポリエチレンテレフタレートフィルム]
以下のポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETフィルムともいう)を準備した。
PETフィルム1:東洋紡社製、A4100
PETフィルム2:東洋紡社製、E4100
PETフィルム3:PETフィルム1に染色処理で紫外線吸収剤(Cyasorb UV-3638(CYTEC社製))を添加したもの(トチセン社より入手)
【0126】
<PETフィルムのUV透過率測定>
PETフィルム1~3につき、UV透過率測定を行った。具体的に、UV透過率測定は、島津製作所製のUV-3150を用い、透過法にて行った。その際の波長355nmにおける透過率(%)は、PETフィルム1が73%、PETフィルム2が71%、PETフィルム3が74%であった。
【0127】
[粘着剤組成物]
以下のようにして粘着剤組成物を準備した。
【0128】
〔製造例7(粘着剤組成物A1の作製)〕
冷却管、温度計、および攪拌装置を備えた反応容器に、アクリルモノマーとしてアクリル酸イソノニル70部と、光重合開始剤(商品名:イルガキュア2020、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)0.07部と、ジオールとしてポリテトラメチレンエーテルグリコール(商品名:PTMG1000、三菱化学(株)製)24.4部と、ウレタン反応触媒としてジブチルチンジラウリレート0.05部と、紫外線吸収剤(Cyasorb UV-3638(CYTEC社製))1部とを添加した後、イソシアネートとして1,3-ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン(商品名:タケネート600、三井武田ケミカル(株)製)5.60部を撹拌しながら滴下し、65℃で2時間反応させた。さらに、2-ヒドロキシエチルアクリレート0.30部を添加して、粘着剤組成物A1(ポリウレタン-アクリルモノマー混合物)を得た。なお、ポリイソシアネート成分とポリオール成分の使用量は、当量比で、[NCO]/[OH]=1.25であった。また、前記光重合開始剤は、80重量%の2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェミル-1-プロパノンと、20重量%のフェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイドとの混合物である。
【0129】
〔製造例8(粘着剤組成物A2の作製)〕
紫外線吸収剤の添加量を0.3部としたこと以外は、粘着剤組成物A1の作製と同様にして粘着剤組成物A2(ポリウレタン-アクリルモノマー混合物)を得た。
【0130】
〔製造例9(粘着剤組成物Bの作製)〕
下記を混合し、粘着剤組成物Bを得た。
両末端にのみビニル基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサン(無溶剤型、Mw:80,000):68.30部
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(無溶剤型、Mw:2,000):0.41部
白金触媒(信越化学工業製、PL-56):1.00部
紫外線吸収剤(Cyasorb UV-3638(CYTEC社製)):0.3部
反応制御剤(3-メチル-1-ブチン-3-オール):0.10部
トルエン:30.19部
【0131】
〔製造例10(粘着剤組成物Cの作製)〕
紫外線吸収剤を添加しなかったこと以外は、粘着剤組成物A1の作製と同様にして粘着剤組成物Cを得た。
【0132】
〔製造例11(粘着剤組成物Dの作製)〕
紫外線吸収剤を添加しなかったこと以外は、粘着剤組成物Bの作製と同様にして粘着剤組成物Dを得た。
【0133】
<保護フィルムの作製>
〔保護フィルム1の作製〕
PETフィルム1に下地処理としてコロナ処理を行い、コロナ処理の直後に、PETフィルム1に粘着剤組成物A1を塗布した。塗布は、25℃85%RHの環境下で行い、乾燥後の厚さが15μmとなるように行った。その後、オーブンにて150℃、100秒で加熱し、架橋させて、粘着剤層を得た。以上により、保護フィルム1を得た。
【0134】
〔保護フィルム2、3、7の作製〕
PETフィルムと粘着剤組成物との組み合わせを、表2に示す組み合わせに変更したこと以外は、上記保護フィルム1の作製と同様にして保護フィルム2、3、7を得た。
【0135】
〔保護フィルム4の作製〕
前記粘着剤組成物Bにイソシアネート架橋剤(商品名:コロネートL)を3.5部添加した塗工液Bを作成した。PETフィルム1に下地処理としてコロナ処理を行い、コロナ処理の直後に、前記塗工液Bを塗布した。塗布は、25℃85%RHの環境下で行い、乾燥後の厚さが15μmとなるように行った。その後、紫外線硬化装置(アイグラフィックス株式会社製、製品名:US2-0401、出力:150mW/cm2)を5分間照射し、粘着剤層を得た。以上により、保護フィルム4を得た。
【0136】
〔保護フィルム5、6、8、9の作製〕
PETフィルムと粘着剤組成物との組み合わせを、表2に示す組み合わせに変更したこと以外は、上記保護フィルム4の作製と同様にして保護フィルム5、6、8、9を得た。なお、前記粘着剤組成物Dを使用する場合は、前記粘着剤組成物Dにイソシアネート架橋剤(商品名:コロネートL)を3.5部添加した塗工液Dを作成し、この塗工液DをPETフィルムに塗布した。
【0137】
<保護フィルムのUV透過率測定>
作製した保護フィルム1~9の粘着剤層が表出している側の面に、セパレータ(ポリエチレンテレフタレートフィルム(紫外線吸収剤の添加ナシ、厚み:50μm)を貼り合わせた後、前記セパレータ付きの保護フィルムについて、UV透過率測定を行った。なお、前記セパレータは、UV透過率測定を実施する際の取り扱い性向上のために貼り付けたものであり、本発明の第1基材及び第2基材のいずれに該当するものでもない。具体的に、UV透過率測定は、「PETフィルムのUV透過率測定」と同様のようにして行った。結果を表2に示す。
【0138】
【0139】
<積層フィルムの作製>
〔積層フィルム1の作製〕
(実施例1)
製造例4で得たポリイミドフィルム1の両方の面に、製造例12で得た保護フィルム1を貼り合わせて、実施例1に係る積層フィルム1を得た。貼り合わせは、具体的には、クリーン環境中でのラミネートによって実施した。ラミネートは、金属ロールとゴムロールの間でラミネートを行い、ラミネート時の温度は常温22℃、52%RHであり、1枚ずつ逐次に貼り合わせた。また、この時の巻出し張力は、ポリイミドフィルムが120N、保護フィルムが160Nとした。巻き取り側もほぼ同一張力とした。
【0140】
〔積層フィルム2~15の作製〕
第1保護フィルムとして使用する保護フィルム、第2保護フィルムとして使用する保護フィルム、及び、ポリイミドフィルムの組み合わせを、表3に示す組み合わせに変更したこと以外は、上記積層フィルム1の作製と同様にして積層フィルム2~15を得た。貼り合わせ方法、及び、条件は、実施例1と同様とした。
【0141】
【0142】
<ポリイミドフィルムと第1保護フィルムとの90°剥離強度の測定>
上記積層フィルムの作製で得られた積層フィルムについて、ポリイミドフィルムと第1保護フィルムとの間の90°剥離強度を測定した。結果を表3に示す。
前記90°剥離強度の測定条件は、下記の通りである。
第1保護フィルムに対してポリイミドフィルムを90°の角度で引き剥がす。
5回測定を行い、平均値を測定値とする。
測定装置 ; 島津製作所社製 オートグラフAG-IS
測定温度 ; 室温(25℃)
剥離速度 ; 100mm/min
雰囲気 ; 大気
測定サンプル幅 ; 5cm
【0143】
<積層体の作製>
(実施例1)
まず、ガラス基板を準備した。前記ガラス基板は、100mm×100mmサイズに切断した厚さ0.7mmのOA10Gガラス(NEG社製)である。前記ガラス基板は、純水洗浄、乾燥後にUV/O
3照射器(LANテクニカル製SKR1102N-03)で1分間照射して洗浄したものを用いた。次に、前記ガラス基板上に、シランカップリング剤(SCA)を気相塗布法により塗布してシランカップリング剤層を形成し、第1積層体を得た(工程A)。具体的に、ガラス基板へのシランカップリング剤の塗布は、
図1に示す実験装置を用いて行った。
図1は、ガラス基板にシランカップリング剤を塗布する実験装置の模式図である。容量1Lの薬液タンクの中に、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM-903)を130g入れて、この外側の湯煎を42℃に温めた。そして出てくる蒸気をクリーンドライエアとともにチャンバーに送った。ガス流量は22L/min、基板温度は21℃とした。クリーンドライエアの温度は23℃、1.2%RHであった。排気は負圧の排気口に接続したため、チャンバーは10Pa程度の負圧となっていることを差圧計によって確認している。
【0144】
一方、上記で作製した積層フィルム1に対して、70mm×70mmサイズとなるように、第1保護フィルム側から紫外線レーザーを照射した。紫外線レーザーの照射は、第1保護フィルム、及び、第2保護フィルムをポリイミドフィルムから剥離しない状態で行った。使用した紫外線レーザーは、武井電機製の波長355nmのパルスレーザーである。電力8.5W、パルス周波数100kHz、スキャン速度500mm/secで同じ場所を3度スキャンした。これにより、第1保護フィルムとポリイミドフィルムとを70mm×70mmサイズとなるように切断した(工程C)。
【0145】
ここで、紫外線レーザー照射後のスミア幅を測定した。具体的に、積層フィルム1のレーザー照射面(第1保護フィルム面)を光学顕微鏡で観察した。黒い粉状のものが観察されたので、黒い粉状部分のレーザー切断部から直交方向の距離を求め、この最大値をスミア幅とした。結果を表4~表7に示す。
また、第1保護フィルムとポリイミドフィルムとの間の剥がれ幅を測定した。具体的に、積層フィルム1のレーザー照射面(第1保護フィルム面)を光学顕微鏡で観察した。第1保護フィルムとポリイミドフィルムとの間に剥がれが観測されたので、剥がれ部分のレーザー切断部から直交方向の距離を求め、この幅の最大値を第1保護フィルムとポリイミドフィルムとの間の剥がれ幅とした。結果を表4~表7に示す。
【0146】
上記紫外線レーザーの照射より、積層フィルム1の少なくとも第1保護フィルムとポリイミドフィルムとが70mm×70mmサイズに切断されたので、ポリイミドフィルムから第2保護フィルムを剥離した(工程D)。
【0147】
次に、前記第1積層体の前記シランカップリング剤層と前記ポリイミドフィルムとを貼り合わせて、ガラス基板と、シランカップリング剤層と、ポリイミドフィルムと、第1保護フィルムとがこの順で積層された積層体を得た(工程E)。貼り合わせには、ラミネーター(MCK社製MRK-1000)を用い、貼合条件は、エアー元圧力:0.7MPa、温度:22℃、湿度:55%RH、ラミネート速度:50mm/秒とした。
【0148】
(実施例2)
積層フィルム1の代わりに積層フィルム2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0149】
(実施例3)
積層フィルム1の代わりに積層フィルム3を用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0150】
(実施例4)
ガラス基板の代わりにシリコンウエハを用いたこと、及び、シランカップリング剤(SCA)の塗布方法をスピンコートに変更したこと以外は、実施例3と同様にして積層体を得た。
スピンコートは、具体的には、次のようにして行った。
まず、シランカップリング剤(SCA)としての3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM-903)を1.2質量%を含むようにイソプロパノールで希釈した溶液を調製した。
次に、前記シリコンウエハをスピンコーター(ジャパンクリエイト社製、MSC-500S)に設置し、イソプロピルアルコールを滴下させてから、1000rpmにてシリコンウエハを回転させると全面に広がった後に乾燥したので、これを最終洗浄とした。
その後、前記シリコンウエハに前記溶液を5mL滴下し、500rpmにてシリコンウエハを回転させることでシリコンウエハ全面に広げた後、2000rpmで回転させることで、前記溶液を前記シリコンウエハに塗布し、シランカップリング剤層を形成した。
【0151】
(実施例5)
積層フィルム1の代わりに積層フィルム4を用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0152】
(実施例6)
紫外線レーザーのレーザー発振周期をピコ秒(具体的には、発信周波数1000kHz、15psec)に変えたこと以外は実施例3と同様にして積層体を得た。
【0153】
(実施例7)
積層フィルム1の代わりに積層フィルム5を用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0154】
(実施例8)
積層フィルム1の代わりに積層フィルム6を用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0155】
(実施例9)
紫外線レーザーのレーザー発振周期をピコ秒(具体的には、発信周波数1000kHz、15psec)に変えたこと以外は実施例7と同様にして積層体を得た。
【0156】
(実施例10)
積層フィルム1の代わりに積層フィルム7を用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0157】
(実施例11)
ガラス基板の代わりにシリコンウエハを用いたこと以外は、実施例10と同様にして積層体を得た。
【0158】
(実施例12)
積層フィルム1の代わりに積層フィルム8を用いたこと、及び、紫外線レーザーのレーザー発振周期をピコ秒(具体的には、発信周波数1000kHz、15psec)に変えたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0159】
(実施例13)
積層フィルム1の代わりに積層フィルム9を用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0160】
(実施例14)
積層フィルム1の代わりに積層フィルム10を用いたこと、及び、ガラス基板の代わりにシリコンウエハを用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0161】
(実施例15)
積層フィルム1の代わりに積層フィルム11を用いたこと、及び、紫外線レーザーのレーザー発振周期をピコ秒(具体的には、発信周波数1000kHz、15psec)に変えたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0162】
(比較例1)
積層フィルム1の代わりに積層フィルム12を用いたこと、及び、紫外線レーザー切断の代わりにトムソン刃による機械切断としたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0163】
(比較例2)
積層フィルム1の代わりに積層フィルム13を用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0164】
(比較例3)
積層フィルム1の代わりに積層フィルム14を用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0165】
(比較例4)
積層フィルム1の代わりに積層フィルム15を用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0166】
上記実施例、比較例で得られた積層体が備えるシランカップリング剤層の厚さは、いずれも、4nm~8nmの範囲内であった。
【0167】
<無機基板とポリイミドフィルムとの間の剥がれ幅>
作製した積層体について、無機基板とポリイミドフィルムとの間の剥がれ幅を測定した(無機基板がガラス基板である実施例、比較例のみ)。具体的に、作製した積層体を無機基板側から光学顕微鏡で観察した。無機基板とポリイミドフィルムとの間に剥がれが観測されたので、剥がれ部分の幅(レーザー切断部から直交方向の幅)を求め、この幅の最大値を第1保護フィルムとポリイミドフィルムとの間の剥がれ幅とした。結果を表4~表7に示す。
【0168】
<90°初期剥離強度の測定>
上記積層体の作製で得られた積層体を、大気雰囲気下、200℃1時間熱処理した。その後、無機基板(ガラス基板、又は、シリコンウエハ)とポリイミドフィルムとの間の90°初期剥離強度を測定した。結果を表4~表7に示す。
90°初期剥離強度の測定条件は、下記の通りである。
無機基板に対してフィルムを90°の角度で引き剥がす。
5回測定を行い、平均値を測定値とする。
測定装置 ; 島津製作所社製 オートグラフAG-IS
測定温度 ; 室温(25℃)
剥離速度 ; 100mm/min
雰囲気 ; 大気
測定サンプル幅 ; 2.5cm
【0169】
【0170】
【0171】
【0172】
【0173】
(結果)
粘着剤層(第1粘着剤層)に、紫外線吸収剤を含有する保護フィルムを第1保護フィルムに用いた積層フィルム1~11においては、紫外線レーザーにより、第1保護フィルムとポリイミドフィルムとを好適に切断することができた。すなわち、切断部分のスミア幅は、狭く、断面の形状も整っていた。また、切断面における第1保護フィルムとポリイミドフィルムとの剥がれ幅は狭く、剥離を抑制できることが確認できた。
【0174】
(参考例1)
積層フィルム1を、70mm×70mmサイズとなるように、トムソン刃により機械切断した。上記と同様にして、第1保護フィルムとポリイミドフィルムとの間の剥がれ幅を測定したところ、300μmであった。
【0175】
(参考例2)
積層フィルム1に対して、70mm×70mmサイズとなるように、第1保護フィルム側からCO2レーザーを照射した。CO2レーザーの照射は、第1保護フィルム、及び、第2保護フィルムをポリイミドフィルムから剥離しない状態で行った。使用したCO2レーザーは、コヒーレント社製の波長10.6μmである。発振周波数100kHz、15kW、スキャンスピード300mm/secの条件で、1回スキャンした。これにより、上記と同様にして、第1保護フィルムとポリイミドフィルムとを70mm×70mmサイズとなるように切断した。第1保護フィルムとポリイミドフィルムとの間の剥がれ幅を測定したところ、1900μmであった。また、上記と同様にして、CO2レーザー照射後のスミア幅を測定したところ、2450μmであった。
【符号の説明】
【0176】
100 積層フィルム
102 高分子フィルム
104 第1保護フィルム
106 第2保護フィルム
120 第1積層体
122 無機基板
124 シランカップリング剤層
126 積層体
130 バキュームパッド