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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】質量分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20221101BHJP
【FI】
G01N27/62 Y
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018242540
(22)【出願日】2018-12-26
(65)【公開番号】P2020106293
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100093056
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 勉
(72)【発明者】
【氏名】松尾 英一
(72)【発明者】
【氏名】山本 卓志
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2017/195271(JP,A1)
【文献】国際公開第2018/037570(WO,A1)
【文献】再公表特許第2010/116409(JP,A1)
【文献】再公表特許第2018/011861(JP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0141719(US,A1)
【文献】国際公開第2014/140628(WO,A2)
【文献】GARRETT, Timothy J. et al,Imaging of small molecules in tissue sections with a new intermediate-pressure MALDI linear ion trap mass spectrometer,International Journal of Mass Spectrometry,2007年01月04日,260,166-176
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60-27/70
H01J 49/00ー49/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料上の複数の位置において前記試料をイオン化することと、
イオン化された前記試料を質量分析し、前記試料に由来するプリカーサーイオンが解離されて生成したフラグメントイオンを検出することと、
前記試料上の複数の位置と、前記フラグメントイオンの強度とが対応付けられた強度データを取得することと、
過去の測定で得られたデータに基づいて設定された、同一の前記プリカーサーイオンから生成した複数の異なるフラグメントイオンの強度の比に基づいて、補正パラメータを定めることと、
前記複数の位置のそれぞれに対応する画像上の位置において、 同一の前記プリカーサーイオンから生成した複数の異なる前記フラグメントイオンについて取得された前記強度データに対して前記補正パラメータを用いて重み付け補正を行い、重み付け補正が行われた前記強度データの各々を統合して統合強度を算出し、算出された前記統合強度を前記統合強度の大きさに応じた画素値又は画素の色彩に変換して統合強度画像データを生成することと、
前記統合強度画像データに基づく画像を表示することと、
を備える、質量分析イメージング法による質量分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イメージング質量分析装置、質量分析方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析イメージング法は、試料上の複数の位置における成分を質量分析することにより、試料における所定の質量の分子の分布を取得する方法である。試料として生物から採取された組織切片等を用いた場合、目的の分子を放射性同位元素等で標識しなくても、この分子が当該生物においてどのように局在しているかを調べることができる。このように質量分析イメージング法は、分子の位置情報を利用した様々な解析に用いることができる(非特許文献1参照)。
【0003】
MS/MS測定による質量分析イメージング法では、フラグメントイオンごとに質量分布を示す画像が生成される。これにより、所望の分子の位置情報を視覚的に把握することができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開第2014-206389号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Pierre Chaurand, Sarah A. Schwartz, Richard M. Caprioli. "Profiling and Imaging Proteins in Tissue Sections by MS" Analytical Chemistry,(米国), ACS Publications, 2004年3月1日、Volume 76, Issue 5, pp.86A-93A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、検出された複数のフラグメントイオンに対応する分子の分布をわかりやすく可視化することができるイメージング質量分析装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の好ましい実施形態によるイメージング質量分析装置は、試料上の複数の位置において前記試料をイオン化するイオン化部と、イオン化された前記試料を質量分析し、前記試料に由来するプリカーサーイオンが解離されて生成したフラグメントイオンを検出する質量分析部と、前記試料上の複数の位置と、前記フラグメントイオンの強度とが対応付けられた強度データを取得するデータ取得部と、前記複数の位置のそれぞれに対応する画像上の位置において、同一の前記プリカーサーイオンから生成した複数の異なる前記フラグメントイオンに対応する前記強度データを統合した値を画素値又は画素の色彩とした画像データを作成する画像作成部と、前記画像データに対応する画像を表示する表示部と、を備える。
さらに好ましい実施形態では、前記画像作成部は、同一の前記プリカーサーイオンに対応する前記値を、色相、彩度および明度の少なくとも一つが同一の色で表示する前記画像に対応する前記画像データを作成する。
さらに好ましい実施形態では、前記表示部は、同一の前記プリカーサーイオンから生成した複数の異なる前記フラグメントイオンに対応する強度を前記フラグメントイオン同士を区別して表示する画面から前記画像を表示する画面に切り替えるための第1画面構成要素を表示する。
さらに好ましい実施形態では、前記画像作成部は、同一の前記プリカーサーイオンから生成した複数の異なる前記フラグメントイオンの前記強度データと、補正パラメータとに基づいて、前記複数の位置のそれぞれに対応する画像上の位置における画素値を算出して前記画像データを作成する。
さらに好ましい実施形態では、前記表示部は、前記補正パラメータを変更するための第2画面構成要素を表示する。
さらに好ましい実施形態では、前記補正パラメータは、過去の測定で得られたデータに基づいて予め設定された前記複数のフラグメントイオンの強度の比に基づいて定められる。
さらに好ましい実施形態では、前記表示部は、前記複数の位置のそれぞれに対応する画像上の位置において、同一の前記プリカーサーイオンから生成した複数の異なる前記フラグメントイオンの少なくとも一つが検出されない場合、前記位置において前記プリカーサーイオンに対応する分子は検出されなかったものとして表示する。
本発明の好ましい実施形態による質量分析方法は、質量分析イメージング法による質量分析方法であって、試料上の複数の位置において前記試料をイオン化することと、イオン化された前記試料を質量分析し、 前記試料に由来するプリカーサーイオンが解離されて生成したフラグメントイオンを検出することと、前記試料上の複数の位置と、前記フラグメントイオンの強度とが対応付けられた強度データを取得することと、過去の測定で得られたデータに基づいて設定された、同一の前記プリカーサーイオンから生成した複数の異なるフラグメントイオンの強度の比に基づいて、補正パラメータを定めることと、前記複数の位置のそれぞれに対応する画像上の位置において、 同一の前記プリカーサーイオンから生成した複数の異なる前記フラグメントイオンについて取得された前記強度データに対して前記補正パラメータを用いて重み付け補正を行い、重み付け補正が行われた前記強度データの各々を統合して統合強度を算出し、算出された前記統合強度を前記統合強度の大きさに応じた画素値又は画素の色彩に変換して統合強度画像データを生成することと、前記統合強度画像データに基づく画像を表示することと、を備える。
本発明の好ましい実施形態によるプログラムは、試料上の複数の位置と、前記試料に由来するプリカーサーイオンが解離されて生成したフラグメントイオンの強度とが対応付けられた強度データを取得するデータ取得処理と、前記複数の位置のそれぞれに対応する画像上の位置において、同一の前記プリカーサーイオンから生成した複数の異なる前記フラグメントイオンに対応する前記強度データを統合した値を画素値又は画素の色彩として表示装置に表示させる表示制御処理と、を処理装置に行わせるためのものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、各フラグメントイオン強度が弱い場合にも、検出された複数のフラグメントイオンに対応する分子の分布をわかりやすく可視化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一実施形態のイメージング質量分析装置の構成を示す概念図である。
図2図2(A)は、試料の対象領域を示す概念図であり、図2(B)は、フラグメントイオンAの強度画像を示す概念図であり、図2(C)は、フラグメントイオンBの強度画像を示す概念図である。
図3図3は、フラグメントイオンAの強度とフラグメントイオンBの強度とを区別せずに示す強度画像を示す概念図である。
図4図4は、イメージング質量分析装置の表示画面の一例を示す概念図である。
図5図5は、イメージング質量分析装置の表示画面の画面構成要素の一例を示す概念図である。
図6図6は、イメージング質量分析装置の表示画面の一例を示す概念図である。
図7図7は、イメージング質量分析装置の表示画面の一例を示す概念図である。
図8図8は、一実施形態に係る質量分析方法の流れを示すフローチャートである。
図9図9は、フラグメントイオンAの強度とフラグメントイオンBの強度とを区別せずに示す強度画像を示す概念図である。
図10図10は、プログラムを説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。以下の実施形態では、質量分析イメージング法に用いることができる質量分析装置(イメージング質量分析装置)が説明される。
【0011】
-第1実施形態-
図1は、本実施形態のイメージング質量分析装置を説明するための概念図である。イメージング質量分析装置1は、測定部100と、情報処理部40とを備える。測定部100は、試料チャンバ9、試料画像撮像部10と、イオン化部20と、質量分析部30とを備える。
【0012】
試料画像撮像部10は、撮像部11と、観察用窓12とを備える。イオン化部20は、レーザー照射部21と、集光光学系22と、照射用窓23と、試料Sが配置される試料台24と、試料台駆動部25と、イオン輸送管26とを備える。質量分析部30は、真空チャンバ300と、イオン輸送光学系31と、第1質量分離部32と、第2質量分離部33とを備える。第1質量分離部32は、イオントラップ320を備える。イオントラップ320は、エンドキャップ電極321と、リング電極322とを備える。第2質量分離部33は、加速電極331と、フライトチューブ332と、リフレクトロン電極333と、検出部334とを備える。
【0013】
情報処理部40は、入力部41と、通信部42と、記憶部43と、表示部44と、制御部50とを備える。制御部50は、装置制御部51と、解析部52と、表示制御部53とを備える。解析部52は、強度算出部521と、画像作成部522とを備える。
【0014】
測定部100は、試料Sの質量分析イメージング法に関する測定を行う。
【0015】
試料チャンバ9は、内部が略大気圧に維持されるチャンバである。試料チャンバ9の内部には、試料台24と、モーターおよび減速機構等を備える試料台駆動部25が配置されている。試料台24は、試料台駆動部25により駆動され、撮像部11により試料Sを撮像可能な位置である撮像位置Paと、レーザー照射部21により試料SへレーザーLが照射可能な位置であるイオン化位置Pbとの間を移動可能に構成されている。試料チャンバ9には、観察用窓12と照射用窓23とが設けられている。試料台24において、試料Sを配置する面はxy平面に沿って配置されているものとし、試料画像撮像部10の光軸Axはz軸に沿って配置されているものとする(座標軸8参照)。y軸は後述する質量分析部30のイオン光軸A2と平行に取り、y軸およびz軸に垂直にx軸をとった。
【0016】
試料画像撮像部10は、試料Sの画像(以下、試料画像と呼ぶ)を撮像する。試料画像撮像部10は、試料Sからの光を光電変換して得られた信号を制御部50に出力する(矢印A1)。
【0017】
試料画像は、試料Sにおいて分析対象となる部分にある複数の位置と、当該位置からの光の強度または波長とが対応して示された画像であれば特に限定されない。例えば、試料画像は、不図示の透過照明部からの光が照射された試料Sの透過光の像を撮像部11が撮像した画像である。試料画像の撮像に際し、試料Sの特定の構造や分子を、染色用試薬で染色したり、抗体反応または遺伝子組換えにより導入された蛍光体等で標識することができる。その後、撮像部11は、染色された部分または蛍光体等からの光を光電変換して得られた信号を制御部50に出力することができる。
【0018】
撮像部11は、CCDやCMOS等の撮像素子を備える。観察位置Paに配置された試料台24に配置された試料Sからの光は、観察用窓12を透過して撮像部11に入射する。撮像部11は、試料Sからの光を撮像素子の各画素の光電変換素子により光電変換する。撮像部11は、光電変換により得られた信号をA/D変換し、試料画像上の位置に対応する各画素と、A/D変換により得られたデジタル信号とが対応した試料画像データを生成して制御部50に出力する。
【0019】
イオン化部20は、試料Sにおいて分析対象となる部分にある複数の位置にレーザーLを照射し、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization;MALDI)により試料Sをイオン化する。試料Sにおいてイオン化のためにレーザーLが照射された位置を照射位置と呼ぶ。イオン化部20は、各照射位置に順次レーザーLを照射し、各照射位置に対応する照射範囲にある試料成分を順次イオン化する。
【0020】
レーザー照射部21は、レーザー光源を備える。レーザー光源の種類は、試料Sの各照射位置にレーザーLを照射し、試料成分のイオン化を起こすことができれば特に限定されない。例えば、このレーザー光源は、紫外~赤外領域に対応する波長のレーザーLを発振する装置とすることができる。
【0021】
集光光学系22は、レンズ等を備え、試料SにおけるレーザーLの照射範囲を調節する。集光光学系22を通過したレーザーLは、照射用窓23を透過して試料Sに入射する。
【0022】
試料Sの照射位置にレーザーLが照射されると、照射範囲にある試料成分が脱離しイオン化され、試料由来イオンSiが生成する。以下では、試料由来イオンSiは、イオン化された試料Sの他、イオン化された試料Sの解離、分解により生じたイオンや、イオン化された試料Sへの原子や原子団の付着等により得られたイオンも指す。試料Sから放出されて生成した試料由来イオンSiは、イオン輸送管26の内部を通過して質量分析部30の真空チャンバ300に導入される。
【0023】
イオン化位置Pbにある試料台24は、試料台駆動部25によりx方向およびy方向に移動可能に構成されている。試料Sにおける、ある照射位置にレーザーLが照射された後、試料台24が移動し、次の照射位置にレーザーLが照射される。このように、レーザーLの光路に対して試料台24が相対的に移動することによりレーザーLが試料S上を走査する。従って、イオン化位置Pbの語には、レーザー照射の際に移動される複数の位置が含まれる。
なお、試料台24が移動するのではなく、レーザーLの光路が変化することにより照射位置を変化させてもよい。
【0024】
質量分析部30は、試料由来イオンSiを質量分離して検出する。質量分析部30における試料由来イオンSiの経路(イオン光軸A2およびイオンの飛行経路A3)を、一点鎖線の矢印により模式的に示した。真空チャンバ300に導入された試料由来イオンSiは、イオン輸送光学系31に入射する。
【0025】
イオン輸送光学系31は、静電的な電磁レンズや高周波イオンガイド等のイオンの移動を制御する要素を備え、試料由来イオンSiの軌道を収束させつつ試料由来イオンSiを第1質量分離部32に輸送する。真空チャンバ300は、真空度の異なる複数の真空室に分かれており、イオン輸送光学系31の各要素は、第1質量分離部32に近づくにつれて適宜段階的に真空度が高められた複数の真空室にそれぞれ配置される。各真空室は不図示の真空ポンプにより排気される。
【0026】
第1質量分離部32は、質量分析器としてイオントラップ320を備え、試料由来イオンSiの質量分離および解離を行う。第1質量分離部32および後述する第2質量分離部33では、配置された質量分析器に応じた真空度まで、ターボ分子ポンプ等の真空ポンプにより排気される。
【0027】
第1質量分離部32は、入力部41への入力に基づいて設定されたm/z(質量電荷比に対応)を有する試料由来イオンSiを、プリカーサーイオンとして分離する。試料Sに由来するプリカーサーイオン(以下、単にプリカーサーイオンと呼ぶ)は、イオントラップ320に配置されたエンドキャップ電極321およびリング電極322に印加される電圧に基づく電磁気学的作用により分離される。
【0028】
第1質量分離部32は、分離され、トラップされているプリカーサーイオンを衝突誘起解離(Collision Induced Dissociation;CID)により解離し、試料Sに由来するフラグメントイオン(以下、単にフラグメントイオンと呼ぶ)を生成する。第1質量分離部32は、不図示のCIDガス導入口からヘリウム等の不活性ガスを含むCIDガスを導入し、所定のコリジョンエネルギーでプリカーサーイオンとCIDガスとを衝突させる。第1質量分離部32は、解離により生成されたフラグメントイオンを第2質量分離部33に向けて出射する。
【0029】
第2質量分離部33は、飛行時間型質量分析器を備える。第2質量分離部33は、第1質量分離部32で生成されたフラグメントイオンを、飛行時間の違いにより質量分離を行う。加速電極331に印加されたパルス電圧により加速されたフラグメントイオンは、イオンの飛行経路を規定するフライトチューブ332の内部を飛行し、リフレクトロン電極333に印加された電圧に基づく電磁気学的作用により進行方向を変えた後、検出部334に入射する。
【0030】
検出部334は、マイクロチャンネルプレート等のイオン検出器を備え、入射したフラグメントイオンを検出する。検出モードは正イオンを検出する正イオンモードと、負イオンを検出する負イオンモードとのいずれでもよい。フラグメントイオンを検出して得られた検出信号はA/D変換され、デジタル信号となって情報処理部40に入力され(矢印A4)、測定データとして記憶部43に記憶される。
【0031】
情報処理部40は、電子計算機等の情報処理装置を備え、適宜イメージング質量分析装置1のユーザー(以下、単に「ユーザー」と呼ぶ)とのインターフェースとなる他、様々なデータに関する通信、記憶、演算等の処理を行う。情報処理部40は、測定部100の制御や、解析、表示の処理を行う情報処理装置となる。
なお、情報処理部40は、測定部100と一体になった一つの装置として構成してもよい。また、イメージング質量分析装置1が用いるデータの一部は遠隔のサーバ等に保存してもよく、イメージング質量分析装置1で行う演算処理の一部は遠隔のサーバ等で行ってもよい。測定部100の各部の動作の制御は、情報処理部40が行ってもよいし、各部を構成する装置がそれぞれ行ってもよい。
【0032】
情報処理部40の入力部41は、マウス、キーボード、各種ボタンおよび/またはタッチパネル等の入力装置を含んで構成される。入力部41は、測定部100が行う測定や制御部50が行う処理に必要な情報等を、ユーザーから受け付ける。
【0033】
情報処理部40の通信部42は、インターネット等のネットワークを介して無線や有線の接続により通信可能な通信装置を含んで構成される。通信部42は、測定部100の測定に必要なデータを受信したり、制御部50が処理したデータを送信したり、適宜必要なデータを送受信する。
【0034】
情報処理部40の記憶部43は、不揮発性の記憶媒体を備える。記憶部43は、後述するフラグメントイオン強度比データ、検出部334から出力された検出信号に基づく測定データ(以下、単に測定データと呼ぶ)、および制御部50が処理を実行するためのプログラム等を記憶する。
【0035】
情報処理部40の表示部44は、液晶モニタ等の表示装置を備える。表示部44は、表示制御部53により制御され、測定部100の測定の分析条件に関する情報や、解析部52の解析により得られたデータ等を、表示装置に表示する。
【0036】
情報処理部40の制御部50は、CPU等のプロセッサを含んで構成される。制御部50は、測定部100の制御や、測定データの解析およびこの解析に得られたデータの表示等、記憶部43等に記憶されたプログラムを実行することにより各種処理を行う。
【0037】
装置制御部51は、測定部100の各部の動作を制御する。装置制御部51は、入力部41からの入力等により設定された分析条件に基づいて、試料SへのレーザーLの照射を制御したり、質量分離、解離、検出等を制御する。
【0038】
解析部52は、後述する強度画像の作成を含む、測定データの解析を行う。
【0039】
解析部52の強度算出部521は、測定データから、検出されたフラグメントイオンのm/zと検出強度とを対応させ、フラグメントイオンに対応する強度を算出する。
【0040】
強度算出部521は、飛行時間を予め取得した較正データを用いてm/zに変換し、m/zと検出されたイオンの強度とを対応させたマススペクトルに対応するデータ(以下、マススペクトルデータと呼ぶ)を作成する。強度算出部521は、バックグラウンドの除去等のノイズを低減する処理を行った後、マススペクトルにおけるピークのピーク強度またはピーク面積を、当該ピークに対応するフラグメントイオンの強度を示す値として算出する。さらに、強度算出部521は、同一のフラグメントイオンに対応する、各照射位置でのマススペクトルのピークを質量分析部30の質量分離の精度に基づいて同定する。
【0041】
強度算出部521は、各フラグメントイオン毎に、照射位置と、当該照射位置にレーザーLを照射して得られたフラグメントイオンの強度とを対応付けた強度データを記憶部43に記憶させる。例えば、照射位置が正方格子状に並んだ縦100か所×横100か所の総計10000か所とした場合、横方向に並ぶ100か所を行列の行に対応させ縦方向に並ぶ100か所を行列の列に対応させることができる。この場合、強度算出部531は、算出したフラグメントイオンの強度を要素とする100×100の行列に対応する二次元配列データを強度データとして生成、取得し、記憶部43に記憶させることができる。
なお、強度データの表現の方法は、解析部52による解析が可能であれば特に限定されない。
【0042】
解析部52の画像作成部522は、強度データに基づいて、強度画像に対応するデータ(以下、強度画像データと呼ぶ)を作成する。強度画像は、試料Sの複数の位置にそれぞれ対応する複数の画素と、所定のm/zに対応するフラグメントイオンの強度とが対応して示された画像である。画像作成部522は、各照射位置をそれぞれ一画素に対応させ、各照射位置に対応する上記フラグメントイオンの強度を画素値に変換し、強度画像データを作成し、記憶部43に記憶させる。
【0043】
画像作成部522は、プリカーサーイオンから解離された個々のフラグメントイオンの強度を示す強度画像(以下、個別強度画像と呼ぶ)に対応するデータ(以下、個別強度画像データと呼ぶ)と、プリカーサーイオンから解離された複数のフラグメントイオンに対応する強度を、異なるフラグメントイオン同士を区別せずに示す強度画像(以下、統合強度画像と呼ぶ)に対応するデータ(以下、統合強度画像データと呼ぶ)とを作成する。
【0044】
(個別強度画像データの作成)
画像作成部522は、記憶部43に記憶された、各フラグメントイオンについての強度データを取得し、強度データにおける各照射位置のフラグメントイオンの強度を画素値に変換して個別強度画像データを作成する。画像作成部522は、個別強度画像において、フラグメントイオンの強度が区別して表示されるように個別強度画像データを作成する。画像作成部522は、フラグメントイオンの強度に応じて色相、彩度および明度のいずれか一つを異ならせることにより、個別強度画像において、当該強度が区別して表示されるようにすることが好ましい。
【0045】
画像作成部522が、強度から個別強度画像の画素値を算出する方法は特に限定されないが、例えば、以下のように行うことができる。画像作成部522は、各フラグメントイオンについて、全ての照射位置の強度を比較し、最大強度および最小強度を取得し、この最大強度および最小強度の少なくとも一つに基づいて各照射位置における強度を画素値に変換することができる。より具体的な例として、全ての照射位置のうち最大強度が10000(A.U.)、最小強度が100(A.U.)であり、同色、例えば赤色(R)の256段階の画素値に変換する場合には、強度値10000(A.U.)を画素値255、強度値100(A.U.)を0とすることができる。最大強度値と最小強度値の間の強度値は、強度値の変化と画素値の変化が1次等の所定の関係になるように変換することができる。
【0046】
図2(A)は、試料Sにおける分析対象となる部分(以下、対象領域S1と呼ぶ)を示す概念図である。ここでは、試料Sは生物から採取した組織切片等を想定しているが、試料Sの種類は特にこれに限定されない。以下の例では、イメージング質量分析装置1が、試料S上の対象領域S1において、正方格子の格子点上に配置された縦5か所×横5か所の計25カ所の照射位置CにレーザーLを照射し、各照射位置Cにおけるフラグメントイオンのマススペクトルを取得したものとして説明する。
【0047】
図2(B)および図2(C)は、対象領域S1についての、同一のプリカーサーイオンから生成された2つの異なるm/zのフラグメントイオンであるフラグメントイオンAおよびフラグメントイオンBの個別強度画像Mk1、Mk2をそれぞれ示す概念図である。縦5マス×横5マスの計25の画素Pxのそれぞれが、対象領域S1の各照射位置Cに対応している。図2(B)および図2(C)では、各画素Pxに対応するフラグメントイオンの強度が高い程、ハッチングを濃くすることにより示した(以下の強度画像でも同様)。画素Pxのうちでハッチングがされていないものは、当該画素Pxに対応する照射位置CにレーザーLを照射して質量分析した際に、フラグメントイオンAまたはBの検出された強度が、測定精度等に基づいた検出閾値未満だったことを示す(以下の強度画像でも同様)。
【0048】
図2(B)および図2(C)の例では、同一のプリカーサーイオンから生成されたフラグメントイオンAおよびBの分布を示しているにもかかわらず、強度の分布の態様は異なっている。例えば、第1画素P1に対応する照射位置での質量分析では、フラグメントイオンAは検出されているが、フラグメントイオンBは検出されていない。第2画素P2および第4画素P4に対応する照射位置での質量分析では、フラグメントイオンBは検出されているが、フラグメントイオンAは検出されていない。第3画素P3に対応する照射位置での質量分析では、フラグメントイオンAおよびBは共に検出されているが強度の傾向は異なっている。
【0049】
解離を行わない場合と比べ、タンデム質量分析では検出強度が低下するため、このようなフラグメントイオンの分布の不一致が起きやすく、ユーザー等がこれらの個別強度画像Mkを見ても、プリカーサーイオンに対応する分子の分布の傾向が捉えづらいという問題があった。
【0050】
(統合強度画像の作成)
画像作成部522は、同一のプリカーサーイオンから生成した複数のフラグメントイオンに対応する強度を、異なるフラグメントイオン同士を区別せずに示す統合強度画像に対応する統合強度画像データを作成する。画像作成部522は、同一のプリカーサーイオンから生成した複数のフラグメントイオンの強度と、補正パラメータとに基づいて、統合強度画像データにおける各照射位置Cに対応する画素値を算出する。
【0051】
画像作成部522は、記憶部43に記憶された、同一のプリカーサーイオンから生成した複数のフラグメントイオンについての複数の強度データを取得する。画像作成部522は、複数の強度データにおける、各照射位置C(各画素に対応)に対応する複数のフラグメントイオンの強度と、補正パラメータとから、各照射位置Cに対応する統合強度を算出し、この統合強度から画素値を算出する。
【0052】
補正パラメータは、フラグメントイオンにより検出効率が異なることに基づき補正するためのパラメータである。以下では、補正パラメータを0から1までの値をとるスカラーとする例を用いて説明する。複数のフラグメントイオンから統合強度画像データの画素値を算出する際に、各フラグメントイオンからの寄与を変更するものであれば、補正パラメータの表現形式やこれを用いて補正を行うアルゴリズムは特に限定されない。
【0053】
補正パラメータの値は、入力部41からの入力等に基づいて設定される。画像作成部522は、設定された補正パラメータが0の場合、各画素に対応する統合強度を、複数のフラグメントイオンの強度の和により算出する。画像作成部522は、補正パラメータが0ではない場合、記憶部43に記憶されたフラグメントイオン強度比データを用いて各画素に対応する統合強度を算出する。
【0054】
フラグメントイオン強度比データには、過去の測定で得られたデータに基づいて予め設定された、同一のプリカーサーイオン由来の複数のフラグメントイオンの強度の比が格納されている。フラグメントイオン強度比データは、コリジョンエネルギー等が定められた所定の分析条件の下で、プリカーサーイオンを解離してタンデム質量分析した場合に検出されるフラグメントイオンの強度の比の統計値または予測値を示している。従って、フラグメントイオン強度比データに基づいて統合強度画像の各画素に対応する画素値を算出することで、各フラグメントイオンの検出効率を反映した強度画像を得ることができる。
【0055】
画像作成部522は、補正パラメータが1の場合、フラグメントイオン強度比データから算出される、フラグメントイオンの検出量に対応するプリカーサーイオンの量に基づいて統合強度画像の各画素に対応する統合強度を算出する。例えば、フラグメントイオン強度比データにおいてフラグメントイオンAおよびBの比が2:3となっていたとする。この場合、フラグメントイオンAおよびBが同じ強度で検出されたとすると、フラグメントイオンAを基準に想定する場合のプリカーサーイオンの量は、フラグメントイオンBを基準に想定する場合のプリカーサーイオンの量の1.5倍となる。画像作成部522は、フラグメントイオンAおよびBに関する統合強度画像データを作成する場合、フラグメントイオン強度比データに示されたフラグメントイオンAおよびBの強度の比の逆数を、強度データのフラグメントAおよびBの強度に重み付け係数として掛けあわせて統合強度を算出する。
【0056】
画像作成部522は、補正パラメータが0と1との間の値をとる場合、上記重み付け係数の値を上記逆数と1との間で連続的にまたは段階的に変化させて統合強度を算出することができる。
【0057】
画像作成部522は、こうして得られた統合強度を各画素について算出し、上述の個別強度画像の作成の場合と同様に所定の範囲の画素値(例えば、赤色の256段階の輝度値)に変換する。
なお、統合強度から画素値への変換の方法は特に限定されず、画像作成部522は、同一のプリカーサーイオンから生成された複数の異なるフラグメントイオンに対応する統合強度を、色相、彩度および明度の少なくとも一つが同一の色で表示することができる。
【0058】
図3は、フラグメントイオンAおよびBに関する統合強度画像Mtを示す概念図である。統合強度画像Mtでは、画素Pxのうち、フラグメントイオンAおよびBの両方が検出されていた第3画素P3の部分がより強調されて示され、プリカーサーイオンに対応する分析対象となる分子(以下、対象分子と呼ぶ)の分布の全体的な傾向がわかりやすくなっている。さらに、統合強度画像Mtでは、フラグメントイオンAまたはBの一方が検出されていた第1画素P1、第2画素P2および第4画素についてもフラグメントイオンが検出されたことが示されているため、細部の情報も比較的維持されることになる。
【0059】
表示制御部53は、統合強度画像Mt、個別強度画像Mk、試料画像、および、測定部100の測定条件またはマススペクトル等の解析部52の解析結果についての情報等を含む表示画像を作成し、表示部44に表示させる。
【0060】
図4は、表示制御部53の制御により表示部44の表示画面200に表示された画像の一例を示す概念図である。図4~7は、記憶部43に記憶されている、質量分析イメージング法により得られた強度画像を表示する解析プログラムにより表示される画面の一例である。
なお、図4~7の表示画面は例示であり、画面構成要素の位置若しくはデザイン、または画面遷移の態様等は本発明を限定するものではない。
【0061】
図4の表示画面200において、画面構成要素SE1は、プリカーサーイオンを表示するパネルである。画面構成要素SE1は、強度画像を意味する「MSイメージ」の文字と並んで、対象分子に対応するプリカーサーイオンのm/zの値が文字で表示されている。
【0062】
画面構成要素SE2は、強度画像を表示するパネルである。図4では、フラグメントイオンがまだ選択されていないため、画面構成要素SE2に強度画像は表示されておらず、その点をユーザーに伝えるため「フラグメントイオンが選択されていません」との文字が表示されている。
【0063】
画面構成要素SE3は、フラグメントイオンを選択するためのボタンである。ユーザーがマウス等によりカーソルを操作し、画面構成要素SE3をクリックすると、表示画面には、プリカーサーイオン(表示されたm/z 180.14のもの)から生成されたフラグメントイオンのリスト(図5)が表示される。
【0064】
図5は、表示画面200に表示されるフラグメントイオンのリストを示す画面構成要素SE4を示す概念図である。画面構成要素SE4は、フラグメントイオンのm/zと、強度算出部521が算出したフラグメントイオンの強度(Int.)が対応付けられて表示されている。ここでの強度はいずれかの画素についてのものでもよいし、画素全体の算術平均等でもよい。また、当該リストの最も左側の列には画面構成要素SE4aが表示されている。画面構成要素SE4aは、複数のフラグメントイオンにそれぞれ対応付けられた複数のラジオボタンであり、0または1個以上のフラグメントイオンの選択/非選択を、ユーザーが当該ラジオボタンをクリックすることで切り替えることができるように構成されている。
【0065】
例えば、ユーザーは、図5の例のように、強度の大きいものから所定の個数(図5では2個)のフラグメントイオンを選択することができる。強度の大きいフラグメントイオンの分布を見た方が、より定量性の高い対象分子の分布を確認できるため好適である。他の例としては、他のプリカーサーイオンとの比較のために、現在対象としているプリカーサーイオンにおいて特徴的なピークを選んだりすることもできる。フラグメントイオンの選択の仕方は、特に限定されない。フラグメントイオンが選択されたら、表示画面200に表示されている不図示の確定ボタンをクリックして図6の画面に遷移することができる。
なお、表示画面200に表示されたマススペクトルにおいて対応するピークをクリックすることによりフラグメントイオンを選択するようにしてもよい。
【0066】
図6は、表示制御部53の制御により表示画面200に表示された個別強度画像Mk1およびMk2の一例を示す概念図である。画面構成要素SE1および画面構成要素SE3については上述と同様であるため説明を省略する。
【0067】
画面構成要素SE2aおよび画面構成要素SE2bは、フラグメントイオンAについての個別強度画像Mk1およびフラグメントイオンBについての個別強度画像Mk2をそれぞれ表示するパネルである。画面構成要素SE2aは、フラグメントイオンAのm/zの値が文字で示された下に、個別強度画像Mk1が表示されている。画面構成要素SE2bは、フラグメントイオンBのm/zの値が文字で示された下に、個別強度画像Mk2が表示されている。
【0068】
画面構成要素SE5aは、フラグメントイオンAおよびBに対応する強度をフラグメントイオン同士を区別して表示する画面から、区別せずに表示する画面に切り替えるためのボタンである。ユーザーは、マウス等を操作し、画面構成要素SE5aをクリックすることにより、統合強度画像Mtを表示する画面(図7)へと遷移させることができる。
なお、画面構成要素SE5aは、ボタンに限らず、アイコン等の任意の画像部分とすることができる。また、この例のように1クリックで個別強度画像Mkを表示する画面から統合強度画像Mtを表示する画面に切り替えられることが好ましいが、特に限定されない。例えば、画面構成要素SE5aをクリックすると改めて画面構成要素SE4(図5)が表示され、統合強度画像Mtを作成する際のフラグメントイオンを選択する構成にしてもよい。
【0069】
図7は、表示制御部53の制御により表示画面200に表示された統合強度画像Mtの一例を示す概念図である。画面構成要素SE1および画面構成要素SE3については上述と同様であるため説明を省略する。
【0070】
画面構成要素SE2cは、フラグメントイオンAおよびBについての統合強度画像Mtをそれぞれ表示するパネルである。画面構成要素SE2cは、フラグメントイオンAおよびBの各m/zの値が文字で示された下に、統合強度画像Mtが表示されている。
【0071】
画面構成要素SE5bは、フラグメントイオンAおよびBに対応する強度を、フラグメントイオン同士を区別せずに表示する画面から区別して表示する画面に切り替えるためのボタンである。ユーザーは、マウス等を操作し、画面構成要素SE5bをクリックすることにより、個別強度画像Mkを表示する画面(図6)へと遷移させることができる。
【0072】
画面構成要素SE6aは、補正パラメータを変更するためのスライダーである。ユーザーは、マウスを操作してインジケータIrをドラッグし、バーBr上を動かすことで補正パラメータの値を変化させることができる。補正パラメータの値が変化したら、画像作成部522は、変化後の補正パラメータの値に基づいて、適宜リアルタイムで統合強度画像Mtの再作成を行う。表示制御部53は、適宜リアルタイムで再作成された統合強度画像Mtを表示する。
【0073】
画面構成要素SE6bは、補正パラメータを変更するためのテキストボックスである。ユーザーは、画面構成要素SE6bをクリックした後、キーボードを用いて数値を入力し、確定ボタン等を押すことにより、補正パラメータの値を変化させることができる。補正パラメータの値が変化したら、画面構成要素SE6aの場合と同様、変化後の補正パラメータの値に基づいて、統合強度画像Mtの再作成、表示が行われる。
【0074】
統合強度画像データを作成する際、どのフラグメントイオンの強度をどの程度統合強度に寄与させるかについては、任意に選ぶことができる。従って、画面構成要素SE6a、SE6bを用いて、容易に補正パラメータを変更することができる構成にすることで、適切な補正パラメータにより対象分子に関するよりわかりやすいイオンの分布を得ることができる。
【0075】
図8は、本実施形態に係る質量分析方法の流れを示すフローチャートである。ステップS1001において、ユーザー等により、生物等から試料が採取され、試料Sが用意される。ステップS1001が終了したら、ステップS1003が開始される。ステップS1003において、撮像部11は、試料Sの画像(試料画像)を撮像する。この際、位置合わせのため、試料Sの表面に可視化マーカーを付しておくことが好ましい。ステップS1003が終了したらステップS1005が開始される。
【0076】
ステップS1005において、ユーザー等により、試料Sの表面にMALDI用のマトリックスが分注や噴霧等により付着され、当該試料Sが試料台24に配置される。マトリックスの種類は特に限定されず、シナピン酸、α‐CHCA、2,5-DHB等を適宜用いることができる。位置合わせを行う場合、撮像位置Paにおいて、マトリックスが付着された試料Sを可視化するマーカーが写るように再度撮像し、試料Sを試料台24に固定したまま、試料台駆動部25によりイオン化位置Pbへと移動させる。この移動は、マーカーによる試料画像とマトリックスが付着された試料Sの画像との対応付けにより、ユーザーが試料画像で指定した照射位置へレーザーLを照射可能な位置に試料Sが配置されるように行われる。ステップS1005が終了したら、ステップS1007が開始される。ステップS1007において、測定部100は、試料Sの複数の位置(照射位置C)に順次レーザーLを照射し、各位置へのレーザー照射によりイオン化された試料Sのタンデム質量分析を順次行い、試料Sに由来するプリカーサーイオンが解離されて生成したフラグメントイオンを検出する。ステップS1007が終了したら、ステップS1009が開始される。
【0077】
ステップS1009において、強度算出部531は、検出された各フラグメントイオンに対応する強度を算出する。ステップS1009が終了したら、ステップS1011が開始される。ステップS1011において、解析部52は、試料Sの複数の位置と、各フラグメントイオンの強度とが対応付けられた強度データを取得する。ステップS1011が終了したら、ステップS1013が開始される。
【0078】
ステップS1013において、画像作成部522は、個別強度画像データを作成し、表示部44は個別強度画像Mkを表示する。ステップS1013が終了したら、ステップS1015が開始される。ステップS1015において、画像作成部522は、同一のプリカーサーイオンから生成した複数のフラグメントイオンの強度と、補正パラメータとに基づいて、試料Sの複数の位置のそれぞれに対応する画像上の位置における画素値を算出し、統合強度画像データを作成する。ステップS1015が終了したら、ステップS1017が開始される。
【0079】
ステップS1017において、表示部44は、統合強度画像Mtの表示により、試料Sの複数の位置のそれぞれに対応する画像上の位置において、同一のプリカーサーイオンから生成した複数のフラグメントイオンに対応する強度を、異なるフラグメントイオン同士を区別せずに表示する。ステップS1017が終了したら、処理が終了される。
【0080】
上述の実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)本実施形態のイメージング質量分析装置1では、解析部52が、試料S上の複数の位置と、試料Sに由来するプリカーサーイオンが解離されて生成したフラグメントイオンの強度とが対応付けられた強度データを取得し、画像作成部522は、試料S上の複数の位置のそれぞれに対応する画像上の位置において、同一のプリカーサーイオンから生成した複数の異なるフラグメントイオンに対応する強度を統合した値を画素値又は画素の色彩とした統合強度画像データを生成し、表示部44は統合強度画像データに基づく統合強度画像Mtを表示する。これにより、タンデム質量分析や多段階の質量分析を行う質量分析イメージング法において、検出された複数のフラグメントイオンに対応する分子の分布をわかりやすく可視化することができる。具体的には、MS/MSにより検出するイオンの特異性を確保しつつ、MS/MSにおける検出感度および得られた強度分布における信号強度の低減を補うことができる。
【0081】
(2)本実施形態のイメージング質量分析装置1において、画像作成部522は、同一のプリカーサーイオンから生成した複数の異なるフラグメントイオンに対応する強度を、色相、彩度および明度の少なくとも一つが同一の色で表示する統合強度画像Mtに対応する統合強度画像データを生成し、表示部44はその画像データに基づく画面表示を行うことができる。これにより、検出された複数の異なるフラグメントイオンに対応する分子の分布を、色覚を利用してさらにわかりやすく可視化することができる。
【0082】
(3)本実施形態のイメージング質量分析装置1において、表示部44は、同一のプリカーサーイオンから生成した複数の異なるフラグメントイオンに対応する強度をフラグメントイオン同士を区別して表示する画面から統合強度画像Mtを表示する画面に切り替えるための画面構成要素SE5aを表示する。これにより、簡便に個別強度画像Mkと統合強度画像Mtとを切り替えることができ、より迅速に対象分子の分布に関する情報を提供することができる。
【0083】
(4)本実施形態のイメージング質量分析装置1において、画像作成部522は、同一のプリカーサーイオンから生成した複数の異なるフラグメントイオンの強度データと、補正パラメータとに基づいて、試料Sの複数の位置のそれぞれに対応する画像上の位置における画素値を算出して統合強度画像データを生成する。これにより、表示する統合強度画像Mtへの各フラグメントイオンの寄与を調整することができ、対象分子についてのよりわかりやすい分布を提供することができる。
【0084】
(5)本実施形態のイメージング質量分析装置1において、表示部44は、補正パラメータを変更するための画面構成要素SE6aおよびSE6bを表示する。これにより、表示する統合強度画像Mtへの各フラグメントイオンの寄与を簡便に調整することができ、対象分子についてのよりわかりやすい分布を迅速に提供することができる。
【0085】
(6)本実施形態のイメージング質量分析装置1において、補正パラメータは、過去の測定で得られたデータに基づいて予め設定された複数のフラグメントイオンの強度の比に基づいて定められる。これにより、過去に得られたデータに基づいて、より適切に統合強度画像Mtへの各フラグメントイオンの寄与を調整することができる。
【0086】
次のような変形も本発明の範囲内であり、上述の実施形態と組み合わせることが可能である。以下の変形例において、上述の実施形態と同様の構造、機能を示す部位に関しては、同一の符号で参照し、適宜説明を省略する。
(変形例1)
上述の実施形態のイメージング質量分析装置1はイオントラップおよび飛行時間型質量分離部を備えるものとしたが、タンデム質量分析または多段階の質量分析を行うことができれば質量分析部30の構成は特に限定されない。質量分析部30は、上述の実施形態とは異なる組合せの2以上の質量分析器からなる質量分離部を備えてもよい。例えば、イメージング質量分析装置1は、四重極飛行時間型質量分析計、タンデム飛行時間型質量分析計またはトリプル四重極質量分析計として構成することができる。また、質量分析部30の飛行時間型質量分析器は、図1に示したように飛行時間型質量分析器への入射方向に沿った方向に加速する方式の他、直交加速型でもよく、また、図1に示したリフレクトロン型の他、リニア型やマルチターン型でもよい。
【0087】
イメージング質量分析装置1がタンデム質量分析計または多段階質量分析計を構成する場合、解離の方法は特に限定されない。例えば、上述のCIDの他、赤外多光子解離、光誘起解離、およびラジカルを用いた解離法等を適宜用いることができる。
【0088】
また、上述の実施形態では、MALDIによりイオン化を行ったが、試料の複数の位置に対応して分析対象のフラグメントイオンの強度が得られれば、イオン化の方法は特に限定されない。例えば、探針エレクトロスプレーイオン化法(Probe Electrospray Ionization;PESI)を用いてもよいし、試料の各位置から成分を採取してそれぞれ質量分析用試料を調製し、各質量分析用試料についてエレクトロスプレー法を利用した液体クロマトグラフィ/質量分析(LC/MS)を行ってもよい。
【0089】
(変形例2)
上述の実施形態では、画像作成部522は、補正パラメータを用いず(補正パラメータが0の場合に相当)複数のフラグメントイオンの強度の和を算出するか、または当該強度の補正パラメータに基づく重み付き和を算出して、統合強度を算出した。さらに、画像作成部522は、算出された統合強度から統合強度画像Mtの画素値を算出した。しかし、画像作成部522は、複数のフラグメントイオンのそれぞれの個別強度画像Mkの画素値から、四則演算等の任意の演算により、統合強度画像Mtの画素値を算出してもよい。言い換えれば、画像作成部522は、各フラグメントイオンの強度からの統合強度の算出を介さず、個別強度画像Mkの画素値から直接、統合強度画像Mtの画素値を算出することができる。これにより、計算量を低減させたり、元の強度データが無く、画像データによる画素値しかない場合にも統合強度画像Mtを作成することができる。
なお、画像作成部522は、各照射位置Cに対応する画素Pxについて、複数のフラグメントイオンのそれぞれの個別強度画像Mkの画素値から、最も大きい値を、統合強度画像Mtの画素値として設定してもよい。これにより、強度値の加算により最大強度が増加し、統合強度画像Mtのコントラストが低減することを防止することができる。このように、強度データまたは強度を統合する際に、各フラグメントイオンの強度を個別強度画像としてそれぞれ表示する場合と比べてコントラストがより強調されるような統合強度画像Mtの画素値が得られれば、その算出の方法は特に限定されず、種々の演算を行うことができる。
【0090】
(変形例3)
画像作成部522は、各照射位置Cに対応する画素について、統合強度画像Mtを作成する際に用いたフラグメントイオンのうちいずれか一つが検出されなかった場合(検出強度が検出閾値以下の場合)には、統合強度画像Mtで当該画素Pxにおいて統合強度が検出閾値以下だったものとすることができる。
【0091】
図9は、本変形例の統合強度画像Mt1を示す概念図である。統合強度画像Mt1は、フラグメントイオンAおよびBのそれぞれについての強度データ(個別強度画像Mk1、Mk2(図2(B)および2(C)に対応)から作成したものである。第1画素P1、第2画素P2および第4画素は、フラグメントイオンAまたはBのいずれか一方が検出されていないため、統合強度画像Mt1ではフラグメントイオンが検出されなかったものとして表示されている。
【0092】
本変形例のイメージング質量分析装置において、表示部44は、試料Sの複数の位置のそれぞれに対応する画像上の位置において、同一のプリカーサーイオンから生成した複数のフラグメントイオンの少なくとも一つが検出されない場合、当該位置においてプリカーサーイオンに対応する対象分子は検出されなかったものとして表示する。これにより、対象分子のフラグメントイオンとは異なる分子が意図せず検出されることによるノイズを低減することができる。
【0093】
(変形例4)
ある照射位置Cについて、強度データにおける複数のフラグメントイオンの強度の比が、記憶部43に予め記憶されていたフラグメントイオン強度比データにおける比と20%または50%等の所定の割合以上異なっていたとする。この場合、画像作成部522は、これらの比が所定の割合以上異なっていなかった場合と比べ、より信頼性の高いフラグメントイオンの強度の値を高く重み付けする等して、統合強度画像Mtの対応する画素値の算出方法を異ならせることができる。これにより、対象分子のフラグメントイオンとは異なる分子が混じったピークが意図せず検出されることによるノイズを低減することができ、質量分析部30におけるm/zの分解能が低い場合に有用である。
【0094】
(変形例5)
上述の実施形態において、情報処理部40は、上記強度画像データを生成するプログラムを実装した汎用のパーソナルコンピュータ等の情報処理装置に配置され、当該情報処理装置を解析装置として構成してもよい。この場合、情報処理部40は装置制御部51を含まなくてもよい。
【0095】
(変形例6)
イメージング質量分析装置1の情報処理機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録された、上述した画像作成部522や表示制御部53による処理を含む測定、解析および表示の処理およびそれに関連する処理の制御に関するプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行させてもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、光ディスク、メモリカード等の可搬型記録媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持するものを含んでもよい。また上記のプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせにより実現するものであってもよい。
【0096】
また、パーソナルコンピュータ(以下、PCと記載)等に適用する場合、上述した制御に関するプログラムは、CD-ROM等の記録媒体やインターネット等のデータ信号を通じて提供することができる。図10はその様子を示す図である。PC950は、CD-ROM953を介してプログラムの提供を受ける。また、PC950は通信回線951との接続機能を有する。コンピュータ952は上記プログラムを提供するサーバーコンピュータであり、ハードディスク等の記録媒体にプログラムを格納する。通信回線951は、インターネット、パソコン通信などの通信回線、あるいは専用通信回線などである。コンピュータ952はハードディスクを使用してプログラムを読み出し、通信回線951を介してプログラムをPC950に送信する。すなわち、プログラムをデータ信号として搬送波により搬送して、通信回線951を介して送信する。このように、プログラムは、記録媒体や搬送波などの種々の形態のコンピュータ読み込み可能なコンピュータプログラム製品として供給できる。
【0097】
上述した情報処理機能を実現するためのプログラムとして、試料S上の複数の位置と、試料Sに由来するプリカーサーイオンが解離されて生成したフラグメントイオンの強度とが対応付けられた強度データを取得するデータ取得処理(図8のステップS1011に対応)と、試料Sの複数の位置のそれぞれに対応する画像上の位置において、同一のプリカーサーイオンから生成した複数の異なるフラグメントイオンに対応する強度データを統合した値を画素値又は画素の色彩として表示装置に表示させる表示制御処理(ステップS1015に対応)とを処理装置に行わせるためのプログラムが含まれる。これにより、タンデム質量分析や多段階の質量分析を行う質量分析イメージング法で得られたデータを用いて、検出された複数のフラグメントイオンに対応する分子の分布をわかりやすく可視化することができる。
【0098】
本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0099】
1…イメージング質量分析装置、10…試料画像撮像部、11…撮像部、20…イオン化部、21…レーザー照射部、22…集光光学系、24…試料台、25…試料台駆動部、30…質量分析部、32…第1質量分離部、33…第2質量分離部、40…情報処理部、43…記憶部、50…制御部、51…装置制御部、52…解析部、53…表示制御部、100…測定部、200…表示画面、300…真空チャンバ、334…検出部、521…強度算出部、522…画像作成部、C…照射位置、Mk,Mk1,Mk2…個別強度画像、Mt,Mt1…統合強度画像、P1…第1画素、P2…第2画素、P3…第3画素、P4…第4画素、Px…画素、S…試料、S1…対象領域、SE1,SE2,SE2a,SE2b,SE2c,SE3,SE4,SE4a,SE5a,SE5b,SE6a,SE6b…画面構成要素、Si…試料由来イオン。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10