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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】車両用ドアビーム取付構造
(51)【国際特許分類】
   B60J 5/00 20060101AFI20221101BHJP
   B60J 5/04 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
B60J5/00 P
B60J5/04 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019008020
(22)【出願日】2019-01-21
(65)【公開番号】P2020117002
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正義
(72)【発明者】
【氏名】中島 和也
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-044503(JP,A)
【文献】特開2005-319915(JP,A)
【文献】特開2007-253637(JP,A)
【文献】特開2008-105450(JP,A)
【文献】特開平08-156588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 5/00
B60J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用サイドドアの車内側を構成するインナパネルと、該インナパネルの車外側に設けられる車両前後方向に長手のドアビームと、該ドアビームの後端と該インナパネルとをつなぐブラケットとを備える車両用ドアビーム取付構造において、
前記ブラケットは、
前記ドアビームの後端が接合されるビーム接合部と、
前記ビーム接合部の車両後側に設けられていて前記インナパネルに接合されるフランジと、を有し、
前記フランジは、前記インナパネル側に稜線が形成された断面山形の形状を有し、
前記稜線は、前記ドアビームの延長線に沿っていて、
前記インナパネルは、前記フランジの稜線に沿った第1の谷筋を形成して車内側に窪んでいて該フランジが面接触し接合されるブラケット設置領域を含むことを特徴とする車両用ドアビーム取付構造。
【請求項2】
前記ブラケットのビーム接合部は、前記インナパネルから離間していて、
前記ブラケットはさらに、前記ビーム接合部から前記フランジに向かって屈曲し前記断面山形のフランジの山形の前縁につながっている縦壁部を有することを特徴とする請求項1に記載の車両用ドアビーム取付構造。
【請求項3】
前記ブラケットのビーム接合部は、前記ドアビームの形状に沿って窪んだ溝部を有していることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用ドアビーム取付構造。
【請求項4】
前記ブラケット設置領域にはさらに、
前記第1の谷筋の後端から上方へ延びる第2の谷筋と、
前記第1の谷筋の後端から下方へ延びる第3の谷筋と、が形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車両用ドアビーム取付構造。
【請求項5】
前記インナパネルは、
所定の外周部分と、
前記外周部分に囲われるよう形成されていて該外周部分よりも車内側に膨出している中央部分と、を含んでいて、
前記ブラケット設置領域は、前記外周部分のうち前記中央部分よりも車両後側の箇所に設けられていて、
前記ブラケット設置領域の前記第1の谷筋は、前記外周部分と前記中央部分との間の稜線に到達していることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の車両用ドアビーム取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用ドアビーム取付構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くの車両において、サイドドアの内部には補強材としてドアビームが設けられている。一般的なドアビームは、車両前後方向に長手の棒状の部材であり、ブラケット等を介してサイドドアのドアパネルに取り付けられる。例えば、特許文献1の図1では、ドアビームであるインパクトビーム36が、結合部材30、32を介してドアインナパネル18に取り付けられている。特許文献1の技術では、インパクトビーム36に加えて補強部18B等を設けることで、側突時の衝突エネルギーの吸収を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-229443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、ドアビームに対してさらなる性能向上が望まれている。例えば、サイドドアは乗員によってある程度の勢いをつけて閉められるため、ドアビームを支えるブラケットには相応の荷重が日常的にかかる。ブラケットは、ドアパネルに溶接等によって接合されるが、荷重を繰り返し受けても接合箇所に亀裂や剥離を生じさせることのない耐久性が求められる。特に、サイドドアは後側から開くため、ブラケットもドアビームの後端側を支えるものほど高い耐久性が求められる。
【0005】
上記のブラケットは、緊急時に衝突荷重を受けてもドアビームを保持し続けることが求められる。例えば、車両に前突が発生した場合には、車両前方から伝わった荷重がドアビームを通じて上記後端側のブラケットに集まる。また、車両に側突が発生した場合には、ドアビームが車内側に湾曲することで、ブラケットにはインナパネルから剥離させる方向に荷重がかかる。これらのことから、ドアビームを支えるブラケットには、単体での高い剛性が求められるだけでなく、インナパネルに対しての高い接合剛性も求められていて、特に後端側のブラケットほどその要請がある。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑み、ドアビームの後端側をより高い剛性でドアパネルに取り付けることが可能な車両用ドアビーム取付構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車両用ドアビーム取付構造の代表的な構成は、車両用サイドドアの車内側を構成するインナパネルと、インナパネルの車外側に設けられる車両前後方向に長手のドアビームと、ドアビームの後端とインナパネルとをつなぐブラケットとを備える車両用ドアビーム取付構造において、ブラケットは、ドアビームの後端が接合されるビーム接合部と、ビーム接合部の車両後側に設けられていてインナパネルに接合されるフランジと、を有し、フランジは、インナパネル側に稜線が形成された断面山形の形状を有し、稜線は、ドアビームの延長線に沿っていて、インナパネルは、フランジの稜線に沿った第1の谷筋を形成して車内側に窪んでいてフランジが面接触し接合されるブラケット設置領域を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ドアビームの後端側をより高い剛性でドアパネルに取り付けることが可能な車両用ドアビーム取付構造を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例に係る車両用ドアビーム取付構造の概要を示す図である。
図2図1のドアビームの後端付近の拡大図である。
図3図2のブラケットを単独で示した図である。
図4図3(a)のブラケットの各断面図である。
図5図2のインナパネルからブラケットを省略した図である。
図6図5のインナパネルの各断面図である。
図7図2の車両用ドアビーム取付構造のE-E断面図である。
図8図2の車両用ドアビーム取付構造のF-F断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施の形態に係る車両用ドアビーム取付構造は、車両用サイドドアの車内側を構成するインナパネルと、インナパネルの車外側に設けられる車両前後方向に長手のドアビームと、ドアビームの後端とインナパネルとをつなぐブラケットとを備える車両用ドアビーム取付構造において、ブラケットは、ドアビームの後端が接合されるビーム接合部と、ビーム接合部の車両後側に設けられていてインナパネルに接合されるフランジと、を有し、フランジは、インナパネル側に稜線が形成された断面山形の形状を有し、稜線は、ドアビームの延長線に沿っていて、インナパネルは、フランジの稜線に沿った第1の谷筋を形成して車内側に窪んでいてフランジが面接触し接合されるブラケット設置領域を含むことを特徴とする。
【0011】
上記ブラケットはフランジが断面山形の形状になっていて、フランジは1つの平面ではなく角度の異なる2面でインナパネルのブラケット設置領域に面接触し接合される構成となっている。この構成によれば、ブラケットは、振動等による荷重を繰り返し受けた場合にも、フランジからブラケット設置領域に荷重を効率よく分散させることができる。したがって、フランジとブラケット設置領域との接合箇所への局所的な応力集中を抑え、接合箇所の亀裂や剥離の発生を防ぐことができる。
【0012】
加えて、上記構成であれば、ブラケットによって高い剛性でドアビームを保持し、緊急時においても車室側の保護を十全に図ることが可能である。例えば、上記の断面山形のフランジは、ドアビームの延長線に沿って屈曲ラインが延びているため、例えば前突時にドアビームを介して前方から衝撃荷重を受けた場合、その荷重を剛性の高い方向に受ける。したがって、ブラケットは、変形を抑えてドアビームを十全に保持することができる。また、側突時においても、上記ブラケットであれば、断面山形のフランジを利用してインナパネルに高い剛性で接合されているため、ドアビームを十全に保持して車室内を保護することができる。
【0013】
上記ブラケットのビーム接合部は、インナパネルから離間していて、ブラケットはさらに、ビーム接合部からフランジに向かって屈曲し断面山形のフランジの山形の前縁につながっている縦壁部を有するとよい。
【0014】
上記ブラケットは、縦壁部とフランジとが、三角錐状に交わった剛性の高い形状になっている。この構成によって、ブラケットは単体でも高い剛性を発揮して、日常的な荷重に耐えることができる。また、上記ブラケットは、ビーム接合部と縦壁部との間に屈曲箇所が形成されている。この構成によると、緊急時にドアビームから衝撃荷重を受けた場合、ビーム接合部は縦壁部との間の屈曲箇所である程度に変形し、ドアビームの変形にも追従して荷重を吸収することができる。したがって、ブラケットは、ドアビームを十全に保持して車室内を保護することができる。
【0015】
上記のブラケットのビーム接合部は、ドアビームの形状に沿って窪んだ溝部を有しているとよい。上記構成によれば、ドアビームとの接触面積を広く確保し、ドアビームとより高い剛性で接合することができる。
【0016】
上記のブラケット設置領域にはさらに、第1の谷筋の後端から上方へ延びる第2の谷筋と、第1の谷筋の後端から下方へ延びる第3の谷筋と、が形成されているとよい。この構成によれば、第1の谷筋は、後端側が第2の谷筋および第3の谷筋で支えられた状態となる。したがって、これら第1~第3の谷筋を有するブラケット設置領域は、ドアビームおよびブラケットのフランジを通じて車両前方からかかる荷重に対して、高い剛性を発揮することができる。したがって、上記構成であれば、ブラケットの変位を好適に防ぐことが可能になる。
【0017】
上記のインナパネルは、所定の外周部分と、外周部分に囲われるよう形成されていて外周部分よりも車内側に膨出している中央部分と、を含んでいて、ブラケット設置領域は、外周部分のうち中央部分よりも車両後側の箇所に設けられていて、ブラケット設置領域の第1の谷筋は、外周部分と中央部分との間の稜線に到達しているとよい。
【0018】
上記構成によっても、ドアビームおよびブラケットを通じて車両前方からかかる荷重に対するブラケット設置領域の剛性を高め、ブラケットの変位を好適に防ぐことが可能になる。
【実施例
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。かかる実施例に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0020】
図1は、本発明の実施例に係る車両用ドアビーム取付構造(以下、ビーム取付構造100)の概要を示す図である。以下、図1その他の本願のすべての図面において、車両前後方向をそれぞれ矢印F(Forward)、B(Backward)、車幅方向の左右をそれぞれ矢印L(Leftward)、R(Rightward)、車両上下方向をそれぞれ矢印U(Upward)、D(Downward)で例示する。
【0021】
ビーム取付構造100は、サイドドアのドアパネルとして、インナパネル102を含んでいる。インナパネル102は、車両右側のサイドドア用のものを想定していて、車外側のアウタパネル(図示省略)と共に、サイドドアのおおまかな外装を形成する。当該ビーム取付構造100では、インナパネル102にドアビーム104を取り付けることで、サイドドアの補強を行っている。
【0022】
ドアビーム104は、車両前後方向に長手の棒状の部材であり、後端側を下げてやや傾斜した姿勢でインナパネル102の車外側に取り付けられる。ドアビーム104は、車両前後方向の両端それぞれが、ブラケット106、108によってインナパネル102につながれる。
【0023】
図2は、図1のドアビーム104の後端付近の拡大図である。ドアビーム104の後端は、ブラケット108によってインナパネル102につながれる。当該ビーム取付構造100は、主にブラケット108およびインナパネル102の形状を工夫することで、ドアビーム104の後端側をより高い剛性でインナパネル102に接合させている。
【0024】
図3は、図2のブラケット108を単独で示した図である。図3(a)は、図2のブラケット108を拡大して示している。ブラケット108は、ドアビーム104の後端と接合するビーム接合部110と、インナパネル102と接合するフランジ112とを含んで構成されている。
【0025】
図3(b)は、図3(a)ブラケット108を車両後方側から見て示している。図3(b)では、車両外側が図中上側となっている。ビーム接合部110には、ドアビーム104(図2参照)がはまる箇所として、溝部114が設けられている。溝部114は、盛り上がった膨出部116a、116bの間に形成されていて、丸棒状のドアビーム104の断面形状に沿って半円状に窪んだ状態になっている。溝部114によれば、ドアビーム104との接触面積を広く確保し、ドアビーム104とより高い剛性で接合することができる。
【0026】
図3(a)に示すように、フランジ112は、ビーム接合部110の車両後側に設けられていて、ビーム接合部110に比べて幅広に形成されている。図3(b)に示すように、フランジ112は、平板の途中を屈曲させた状態になっている。このときの屈曲は、車内側、すなわちインナパネル側に凸の山折りである。
【0027】
フランジ112には、ビーム接合部110とフランジ112との間に、縦壁部118が形成されている。縦壁部118は、ビーム接合部110から車内側に屈曲した後、フランジ112の前壁につながっている。
【0028】
図4は、図3(a)のブラケット108の各断面図である。図4(a)は、図3(a)のブラケット108のA-A断面図である。縦壁部118によって、ビーム接合部110とフランジ112との間には段差が形成されている。この構成によって、フランジ112はビーム接合部110よりも車内側に下がった状態になっていて、フランジ112をインナパネル102に接合させるとビーム接合部110はインナパネル102から離間した状態になる。
【0029】
図4(b)は、図3(a)のブラケット108のフランジ112のB-B断面図である。本実施例では、フランジ112は、車内側、すなわちインナパネル側に、ドアビーム104(図2参照)の延長線に沿って稜線L1が形成された断面山形の形状になっている。フランジ112は、板厚がほぼ一定の平板状であり、車内側に稜線L1(すなわち、車内側に出隅を形成する屈曲ライン)を形成することで、上側の上側平面部112aと下側の下側平面部112bの、角度の異なる2つの部位が形成された状態になっている。図3(a)に示すように、稜線L1を形成する屈曲ラインは、溝部114の延長方向にも沿って設けられていて、ドアビーム104の直線状に位置する構成となっている。
【0030】
図3(b)に示すように、縦壁部118は、ビーム接合部110からフランジ112に向かって屈曲し、フランジ112の山形の前縁につながっている。これによって、ブラケット108には、縦壁部118とフランジ112とがつながった屈曲ラインとして、車内側に突出した稜線L2、L3が形成されている。稜線L2は中央の稜線L1に対して上側に形成されている屈曲ラインであり、稜線L3は中央の稜線L1に対して下側に形成されている屈曲ラインである。そして、ブラケット108には、縦壁部118とフランジ112の上側平面部112aおよび下側平面部112bの3面によって、三角錐状の剛性の高い構造が具現化されている。この3面構造であれば、インナパネル102(図2参照)やドアビーム104から振動が伝わった場合などにも変形することなく、荷重をインナパネル102に好適に分散させることができる。
【0031】
図5は、図2のインナパネル102からブラケット108を省略した図である。インナパネル102には、ブラケット108が接合する部位として、車内側に窪んだブラケット設置領域120が形成されている。ここで、図2に示すように、インナパネル102には、大きく分けて、外縁に沿って形成される外周部分102aと、外周部分102aに囲われるよう形成されていて外周部分102aよりも車内側に膨出している中央部分102bとが形成されている。図5のブラケット設置領域120は、外周部分102aのうち中央部分102bよりも車両後側の箇所に設けられている。
【0032】
図6は、図5のインナパネル102の各断面図である。図6(a)は、図5のインナパネル102のC-C断面図である。ブラケット設置領域120は、ブラケット108(図4(a)参照)のフランジ112が接合できるよう、外周部分102aを車内側に窪ませて形成されている。
【0033】
図6(b)は、図5のインナパネル102のD-D断面図である。ブラケット設置領域120は、図4(b)の断面山形のブラケット108に対応して、谷折れに窪んだ領域として形成されている。より詳しくは、ブラケット設置領域120は、フランジ112の上側平面部112aに沿った角度の上側領域120aと、フランジ112の下側平面部112bに沿った角度の下側領域120bとを含んでいる。そして、ブラケット設置領域120には、上側領域120aと下側領域120bとの間の車内側に、フランジ112の稜線L1に沿って第1の谷筋M1が形成されている。この構成によって、ブラケット設置領域120は、屈曲したフランジ112と好適に面接触することが可能になっている。
【0034】
ここで、図6(a)に示すように、インナパネル102には、ブラケット108(図3(a)参照)のフランジ112の山形の後縁に沿うように、谷折り状に屈曲した第2の谷筋M2(および図5の第3の谷筋M3)が形成されている。また、インナパネル102には、外周部分102aと中央部分102bとの間で角度が変化し、稜線M4(および図5の稜線M5)が形成されている。
【0035】
図5に示すように、第2の谷筋M2は、第1の谷筋M1の後端から上方へ延びている。そして、第3の谷筋M3は、第1の谷筋M1の後端から下方へ延びている。これら上側の第2の谷筋M2および下側の第3の谷筋M3は、第1の谷筋M1と交わる谷折れの線となっていて、ブラケット設置領域120の後縁を形成している。
【0036】
ブラケット設置領域120の中央に形成された第1の谷筋M1は、インナパネル102の外周部分102aと中央部分102bとの間の稜線に到達している。この稜線は第1の谷筋M1に向かって窪むように傾斜していて、第1の谷筋M1に対して上側の稜線が稜線M4、第1の谷筋M1に対して下側の稜線が稜線M5となっている。これら稜線M4、M5は、ブラケット設置領域120の前縁を形成している。
【0037】
上記構成によって、ブラケット設置領域120の上側領域120aは、第1の谷筋M1、第2の谷筋M2および上側の稜線M4に囲われた領域として形成されている。そして、ブラケット設置領域102の下側領域120bは、第1の谷筋M1、第3の谷筋M3および下側の稜線M5に囲われた領域として形成されている。これら稜線および谷筋は、面の角度が変わる屈曲ラインである。ブラケット設置領域120は、これら各稜線および谷筋に囲われることで断面二次モーメントが大きくなっていて、剛性が高められ、ブラケット108(図2参照)の変位を防ぐことが可能になっている。
【0038】
図7は、図2の車両用ドアビーム取付構造(ビーム取付構造100)のE-E断面図である。図7は、図4(a)のブラケット108を、図6(a)のインナパネル102に接合させた様子を表している。図7に示すように、インナパネル102のブラケット設置領域120にはブラケット108のフランジ112が面接触し、これらはスポット溶接等によって好適に接合される。接合の例として、図7ではフランジ112とブラケット設置領域120との間に、接合箇所124を例示している。
【0039】
当該ビーム取付構造100は、上記説明した構成によって、インナパネル102およびドアビーム104から荷重を受けた場合に、接合箇所124を保護することが可能になっている。例えば、図5のインナパネル102の下部の角の付近には、クッション設置部122が設けられている。クッション設置部122の車内側(図5の裏側)には、サイドドアを閉めたときの衝撃を吸収するクッションゴム(図示省略)が取り付けられる。そして、サイドドアを閉めたとき、上記クッションゴムの反発なども受け、インナパネル102は車幅方向に振動が発生する。このような振動から接合箇所を守るために、本実施例ではブラケット108のフランジ112を断面山形に具現化している。
【0040】
図8は、図2の車両用ドアビーム取付構造(ビーム取付構造100)のF-F断面図である。図8は、図4(b)のブラケット108のB-B断面図、および図6(b)のインナパネル102のD-D断面図に対応している。
【0041】
断面山形のフランジ112は、角度の異なる上側平面部112aおよび下側平面部112bでブラケット設置領域120に面接触し接合されている。この構成によって、振動等を受けた場合にも、接合箇所124に局所的な応力集中が生じることを防ぎ、接合箇所124の亀裂や剥離の発生を抑えることが可能になっている。また、サイドドアを車内側に閉めるときのドアビーム104(図7参照)の加速度によって、ブラケット108には車外側に向かう荷重がかかる。この荷重に対しても、共に屈曲ラインであるフランジ112の稜線L1およびブラケット設置領域120の第1の谷筋M1は剛性を発揮し、これら稜線L1および第1の谷筋M1が突っ張ることで変形が抑えられる。
【0042】
ブラケット設置領域120の下方には、車内側に膨出するように形成されたビード部126が設けられている。図5に示すように、ビード部126は、ブラケット設置領域120とクッション設置部122との間にて、インナパネル102の外周部分102aを横断するように設けられている。ビード部126は、上方のブラケット設置領域120に比べて変形を生じやすいため、インナパネル102を閉めるときの振動を誘導および吸収し、振動がブラケット設置領域120に伝わることを防ぎ、接合箇所124を保護することができる。
【0043】
当該ビーム取付構造100であれば、緊急時においても車室側の保護を十全に図ることが可能である。例えば、図3(a)に示したフランジ112の中央の屈曲ライン(稜線L1)、およびその下方のブラケット設置領域120の中央の屈曲ライン(図5の第1の谷筋M1)は、共に図2のドアビーム104の延長線に沿って延びている。したがって、フランジ112およびブラケット設置領域120は、例えば前突時にドアビーム104を介して前方から衝突荷重を受けた場合、その荷重を剛性の高い方向に受ける。
【0044】
詳しくは、図3(a)に示したように、ブラケット108には、フランジ112と縦壁部118とによって、溝部114の延長線上に計3つの屈曲ラインの交点(稜線L1~L3の交点P1)が存在している。また、図5に示すように、ブラケット設置領域120では、第1の谷筋M1は、後端が第2の谷筋M2および第3の谷筋M3によって支えられた状態となっている。すなわち、ブラケット設置領域120においても、ドアビーム104の延長線上に、第1の谷筋M1、第2の谷筋M2および第3の谷筋M3の交点が存在している。これら構成によって、ブラケット108およびブラケット設置領域120は、前突時にドアビーム104からかかる車両前方からの衝撃荷重に対して高い剛性を発揮し、ドアビーム104を脱落させることなく十全に保持することができる。
【0045】
当該ビーム取付構造100であれば、側突時においてもドアビーム104を十全に保持することができる。例えば、図7において、側突が起きると、ドアビーム104は車内側に弧を描くように変形する。このとき、ブラケット108は、ビーム接合部110と縦壁部118との間に屈曲箇所が形成されていることで、ドアビーム104に追従するように変形して荷重を吸収することができる。また、本実施例では、ブラケット108およびドアビーム104が、ブラケット設置領域120の前縁である稜線M4(または図5の稜線M5)に重なるよう設置されている。この構成によって、ドアビーム104が車内側に変形した場合に、ドアビーム104およびブラケット108を稜線M4、M5で受け止め、フランジ112の接合箇所124に過度の負荷がかかることを防いでいる。
【0046】
縦壁部118の前後の屈曲箇所は、前突時にも機能する。前方から強い衝突荷重がかかった場合、縦壁部118の前後の屈曲箇所を起点に、ビーム接合部110はフランジ112の車内側に近づくように変位する。この方向への変位であれば、荷重はフランジ112の接合箇所124に対して圧縮方向にかかるので、せん断方向や剥離方向にかかる場合に比べて、接合箇所124に与える負担が小さい。これらによって、当該ビーム取付構造100であれば、緊急時においてドアビーム104を十全に保持して車室内を保護することができる。
【0047】
以上説明した本実施例によれば、ドアパネルの板厚を増やしたり、専用のリンフォース等の新たな部材を追加したりすることなく、サイドドアの荷重吸収性能を高めることができる。本実施例であれば、コスト削減および車両の軽量小型化の面においても有益である。
【0048】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、車両用ドアビーム取付構造に利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
100…ビーム取付構造、102…インナパネル、102a…インナパネルの外周部分、102b…インナパネルの中央部分、104…ドアビーム、106…前側のブラケット、108…後側のブラケット、110…ビーム接合部、112…フランジ、112a…上側平面部、112b…下側平面部、114…溝部、116a、116b…膨出部、118…縦壁部、120…ブラケット設置領域、120a…上側領域、120b…下側領域、122…クッション設置部、124…接合箇所、126…ビード部、L1…フランジの稜線、L2…縦壁部とフランジとの間の上側の稜線、L3…縦壁部とフランジとの間の下側の稜線、M1…ブラケット設置領域の第1の谷筋、M2…ブラケット設置領域の第2の谷筋、M3…ブラケット設置領域の第3の谷筋、M4…外周部分と中央部分との間の上側の稜線、M5…外周部分と中央部分との間の下側の稜線、P1…ブラケットの稜線の交点、
図1
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図7
図8