(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】超音波疲労試験用試験片及び超音波疲労試験方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/34 20060101AFI20221101BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20221101BHJP
C21D 1/06 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
G01N3/34 K
G01N1/28 A
C21D1/06 A
(21)【出願番号】P 2019020157
(22)【出願日】2019-02-06
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】樋口 成起
(72)【発明者】
【氏名】根本 健史
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩平
(72)【発明者】
【氏名】石倉 亮平
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-073059(JP,A)
【文献】特開2010-271248(JP,A)
【文献】特開2010-217076(JP,A)
【文献】米国特許第9389155(US,B1)
【文献】古谷 佳之,平行部を有するダンベル型試験片による超音波疲労試験,日本機械学会論文集(A編),2007年08月25日,Vol.73/No.732,p.957-964
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00- 3/62
G01N 1/00- 1/44
C21D 1/02- 1/84
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた超音波疲労試験用試験片。
(1)前記超音波疲労試験用試験片は、
基端側に設けられた大径のつかみ部と、
先端側に設けられた大径の重錘部と、
前記つかみ部と前記重錘部との間に設けられた、小径の平行部と
を備え、
前記つかみ部の端面には、前記超音波疲労試験用試験片を試験装置に固定するための雌ねじ部が形成されている。
(2)前記超音波疲労試験用試験片は、次の式(1)及び式(2)を満たす。
(d
2
2-d
3
2)/d
1
2>6.1 …(1)
22.5×d
1/(L
1×d
2)≧1 …(2)
但し、
d
1は、前記平行部の直径、
d
2(>d
1)は、前記つかみ部の直径、
d
3(<d
2)は、前記雌ねじ部の内径、
L
1は、前記平行部の長さ。
(3)前記重錘部は、共振条件を満たす形状を持つ。
【請求項2】
次の式(3)をさらに満たす請求項1に記載の超音波疲労試験用試験片。
最大応力部体積(πd
1
2×L
1/4)≧98mm
3 …(3)
【請求項3】
次の式(4)をさらに満たす請求項1又は2に記載の超音波疲労試験用試験片。
5mm≦d
1≦8mm …(4)
【請求項4】
次の式(5)をさらに満たす請求項1から3までのいずれか1項に記載の超音波疲労試験用試験片。
d
1<d
2≦20mm …(5)
【請求項5】
C量が0.4mass%未満である鉄基合金からなる請求項1から4までのいずれか1項に記載の超音波疲労試験用試験片。
【請求項6】
C量が0.4mass%未満である鉄基合金を用いて請求項1から4までのいずれか1項に記載の超音波疲労試験用試験片を作製する工程と、
C量が0.4mass%以上1.0mass%以下となるように、前記超音波疲労試験用試験片を全面浸炭する工程と、
全面浸炭された前記超音波疲労試験用試験片を用いて超音波疲労試験を行う工程と
を備えた超音波疲労試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波疲労試験用試験片及び超音波疲労試験方法に関し、さらに詳しくは、介在物の有無を正確、かつ、迅速に評価することが可能な超音波疲労試験用試験片、及びこのような試験片を用いた超音波疲労試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「疲労試験」とは、材料にねじり、曲げ、引張、圧縮などの変動負荷を繰り返し印加し、破壊に至るまでの負荷回数、及び、負荷を無限回繰り返しても破壊に至らない応力値(疲労限)を求める試験をいう。
「超音波疲労試験」とは、超音波振動子を用いて15~25kHz程度の正弦波振動を試験片に印加し、試験片を共振させる疲労試験をいう。
【0003】
通常の鋼材は疲労限を示すため、通常の鋼材に対して疲労試験を行う場合、負荷回数は107回程度で十分である。一方、1200MPaを超える高強度鋼に対して疲労試験を行う場合、介在物を基点とする内部破壊が生じ、疲労限を示さない。そのため、高強度鋼の疲労特性を評価するためには、109回を超えるギガサイクル領域での疲労試験が必要となる。超音波疲労試験法を用いると、このようなギガサイクル領域での疲労試験を、十数分~数日程度の短時間で行うことができ、かつ、介在物評価を行うことができる(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
このような超音波疲労試験法に関し、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、
(a)液中に浸漬した所定の固有振動数を有する試験片にたて振動を継続的に生起させ、
(b)試験片の表層に腐食疲れき裂が発生し、固有振動数の変化が検出された時に、試験片に与えるたて振動を停止させる
長寿命腐食疲れ試験方法が開示されている。
【0005】
同文献には、
(A)試験片は循環している液中に浸漬されているので、試験中における試験片の温度の上昇を抑えることができる点、及び、
(B)試験片にき裂が発生したことによる固有振動数の変化を振幅の変化としてとらえ、振幅の変化をインピーダンスの変化により検出し、インピーダンスの変化を検出した時に振動を停止させるので、寿命を容易に求めることができる点
が記載されている。
【0006】
特許文献2には、試験片の内部発熱を抑えるために、超音波振動を試験片に加える加振と休止とを周期的に繰り返す超音波疲労試験方法において、
(a)試験片を所定の時間だけ加振した後に加振を停止させる予備試験を少なくとも1回実行し、予備試験において取得された試験片の温度の時間的変化を記憶し、
(b)試験片の温度が許容される温度範囲に維持されるように、記憶された試験片の温度の時間的変化に基づいて、間欠運転時の加振時間と休止時間を推定する
超音波疲労試験方法が開示されている。
同文献には、このような方法により、間欠運転時の加振時間と休止時間を、試験実行前に適切に設定することが可能となる点が記載されている。
【0007】
特許文献3には、高強度鋼の試験片に超音波領域の軸荷重を負荷する超音波軸荷重疲労試験において、試験片に拡散性水素をチャージし、常温大気中で放置して拡散性水素を散逸させ、その後に軸荷重を負荷する方法が開示されている。
同文献には、
(a)アルミナ系介在物は周囲の母地との熱膨張率の違いにより、焼入後にアルミナ系介在物の周囲の母地には引張応力場が形成されるために、水素チャージ後に24時間放置すると、拡散性水素が大きなアルミナ系介在物の周囲の母地に偏在し、そこが局所的に脆化する点、
(b)このような状態で軸加重を負荷すると、アルミナ系介在物が起点となって疲労破壊を起こす点、及び、
(c)これによって、任意の予測体積中に存在し得るアルミナ系介在物の最大サイズを、精度よく、かつ効率良く推定することができる点
が記載されている。
【0008】
特許文献4には、線材の表層部が残るように、線材を塑性加工して縮径する超音波疲労試験片の製造方法が開示されている。同文献には、このよにして得られた試験片は、切削加工により表層部分が除去されていないので、これを用いて疲労試験を行うと、線材の表層部分の疲労特性を評価することができる点が記載されている。
特許文献5には、周期的な断続負荷を加える超音波疲労試験において、電流帰還を用いて負荷荷重を矩形状に近づける方法が開示されている。
さらに、特許文献6には、超音波振動を増幅するためのホーンの先端に薄板状の試験片の一端を取り付け、試験片の長手方向に対して垂直方向に超音波振動を印加する超音波疲労試験方法が開示されている。
【0009】
超音波疲労試験により介在物評価を行う場合、危険体積が重要となる。「危険体積」とは、最大応力の90%以上の応力が作用する領域の体積をいう。通常、高硬度な試験片は、この危険体積部中に存在する最大介在物を起点として破断する。そのため、危険体積がより大きいほど、より正確な介在物サイズの予測が可能である。
【0010】
これまでに、超音波疲労試験を用いた介在物評価は、焼入れで深部まで硬化する強靱鋼、調質鋼、軸受鋼などで既に行われている。しかし、例えば、肌焼き鋼の場合、内部硬さが低く、介在物起点の破壊とならない。そのため、肌焼き鋼の介在物評価を行う場合には、試験片を表面から内部まで浸炭させる必要がある。
【0011】
しかしながら、表層から内部まで浸炭を実施する場合、試験片の形状により、炭素の濃度差が生じる。特に、つかみ部が平行部より太いダンベル型の試験片の場合、つかみ部の方が平行部よりも低炭素となり、焼入れ後の硬さが低くなる。つかみ部の焼入れ後の硬さが低い場合、つかみ部に形成される雌ねじ部の底部から早期に破断してしまい、介在物の評価が困難となる場合がある。
【0012】
一方、雌ねじ部の底部における亀裂の発生を抑制するために、平行部の径を小さくすることも考えられる。しかしながら、平行部の径を小さくすると、危険体積が小さくなるために、正確な介在物評価が難しくなる。また、平行部の径が小さくなるほど平行部の強度が低下するために、超音波疲労試験中に平行部が座屈を起こす場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開昭56-104234号公報
【文献】特開2015-210094号公報
【文献】特開2012-073059号公報
【文献】特開2009-115707号公報
【文献】特開2007-017288号公報
【文献】特開2015-132569号公報
【非特許文献】
【0014】
【文献】村上 宣敬 著、「金属疲労:微小欠陥と介在物の影響」、養賢堂、1993年、p133
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、介在物の有無を正確、かつ、迅速に評価することが可能な超音波疲労試験用試験片、及びこのような試験片を用いた超音波疲労試験方法を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、低炭素の鉄基合金(例えば、肌焼き鋼)であっても介在物の有無を正確、かつ、迅速に評価することが可能な超音波疲労試験用試験片、及びこのような試験片を用いた超音波疲労試験方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために本発明に係る超音波疲労試験用試験片は、以下の構成を備えていることを要旨とする。
(1)前記超音波疲労試験用試験片は、
基端側に設けられた大径のつかみ部と、
先端側に設けられた大径の重錘部と、
前記つかみ部と前記重錘部との間に設けられた、小径の平行部と
を備え、
前記つかみ部の端面には、前記超音波疲労試験用試験片を試験装置に固定するための雌ねじ部が形成されている。
(2)前記超音波疲労試験用試験片は、次の式(1)及び式(2)を満たす。
(d2
2-d3
2)/d1
2>6.1 …(1)
22.5×d1/(L1×d2)≧1 …(2)
但し、
d1は、前記平行部の直径、
d2(>d1)は、前記つかみ部の直径、
d3(<d2)は、前記雌ねじ部の内径、
L1は、前記平行部の長さ。
(3)前記重錘部は、共振条件を満たす形状を持つ。
【0017】
本発明に係る超音波疲労試験方法は、
C量が0.4mass%未満である鉄基合金を用いて本発明に係る超音波疲労試験用試験片を作製する工程と、
C量が0.4mass%以上1.0mass%以下となるように、前記超音波疲労試験用試験片を全面浸炭する工程と、
全面浸炭された前記超音波疲労試験用試験片を用いて超音波疲労試験を行う工程と
を備えている。
【発明の効果】
【0018】
式(1)は、雌ねじ部の底部において亀裂を発生させないための条件を表す経験式である。式(2)は、超音波疲労試験中に平行部が座屈を起こさないための条件を表す経験式である。すなわち、式(1)及び式(2)を満たす試験片は、超音波疲労試験中に雌ねじ部の底部において亀裂が発生しにくく、かつ、平行部の座屈も起きにくい。そのため、これを用いて超音波疲労試験を行うと、介在物の有無を正確、かつ、迅速に評価することができる。
さらに、平行部の直径d1を最適化すると、全面浸炭がさらに容易化する。そのため、試験片の作製後に全面浸炭すれば、低炭素の鉄基合金(例えば、肌焼き鋼)であっても介在物の有無を正確、かつ、迅速に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る超音波疲労試験用試験片の模式図である。
【
図2】本発明の第2の実施の形態に係る超音波疲労試験用試験片の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 超音波疲労試験用試験片(1)]
図1に、本発明の第1の実施の形態に係る超音波疲労試験用試験片の模式図を示す。
図1において、超音波疲労試験用試験片(以下、単に「試験片」ともいう)10は、
基端側に設けられた大径のつかみ部12と、
先端側に設けられた大径の重錘部14と、
つかみ部12と重錘部14との間に設けられた、小径の平行部16と
を備えている。
つかみ部12の端面には、超音波疲労試験用試験片10を試験装置に固定するための雌ねじ部18が形成されている。
【0021】
[1.1. 概要]
図1に示す試験片10は、いわゆる「ダンベル型」の試験片である。試験片10は、長手方向が鉛直方向となるように、試験装置に取り付けられる。雌ねじ部18を介して試験片10を試験装置に固定し、超音波振動子を介してつかみ部12の端面に縦振動を加えると、試験片10が長手方向に伸縮する。その際、重錘部14が試験片10に荷重を加える錘の役割を果たす。各部の寸法は、少なくとも超音波振動子から印加される超音波により試験片10が共振するように設定される。
【0022】
つかみ部12の長さL2は、雌ねじ部18の長さL4よりも長くすることが好ましい。これは、つかみ部12の長さL2を雌ねじ部18の長さL4と同等の長さとすると、ねじ底が応力集中するR部に近いことから、ねじ底破壊を起こすためである。よって、つかみ部12の長さL2は、雌ねじ部18の長さL4+5mm以上が好ましい。また、つかみ部12の直径d2は、後述する式(1)及び式(2)を満たしている必要がある。
【0023】
次に、重錘部14の直径d4は、共振条件を満たす大きさであることが必要である。これは、重錘部14の直径d4及び長さL5が変わっても共振条件を満たせば共振するためである。共振条件を満たす限りにおいて、重錘部14の直径d4及び長さL5は、それぞれ、つかみ部12の直径d2及び長さL2と同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。
平行部16の直径d1及び長さL1は、後述する条件を満たしているのが好ましい。
さらに、つかみ部12と平行部16との境界、及び、重錘部14と平行部16との境界には、R加工を施す。Rの大きさは、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な大きさを選択することができる。
【0024】
なお、試験片10は、平行部16において正確、かつ、迅速に破壊することを目的として、R加工を施すことが必要であるため、重錘部14の直径d4は、平行部16の直径d1との関係において、d4>d1であることが望ましい。
また、これに関係して、重錘部14は大径であることが望ましい。さらに、試験片10は、平行部16の直径d1に対して、中心部に応力を集中させて破壊させることが望ましいことから、試験片10の形状は、軸線Tに対して対象な形状とすることが望ましい。
【0025】
[1.2. 各部の形状]
[1.2.1. 断面積比および耐座屈性]
試験片10は、少なくとも次の式(1)および式(2)を満たしている必要がある。
(d2
2-d3
2)/d1
2>6.1 …(1)
22.5×d1/(L1×d2)≧1 …(2)
但し、
d1は、平行部16の直径、
d2(>d1)は、つかみ部12の直径、
d3(<d2)は、雌ねじ部18の内径、
L1は、平行部16の長さ。
【0026】
式(1)は、雌ねじ部18の底部において亀裂を発生させないための条件を表す経験式である。式(1)中、「(d2
2-d3
2)/d1
2」は、平行部16の断面積に対するつかみ部12の断面積の比(以下、「断面積比」ともいう)を表す。一般に、つかみ部12の断面積が大きくなるほど、つかみ部12に作用する応力が小さくなるので、雌ねじ部18の底部において亀裂が発生しにくくなる。式(1)は、この断面積比がある臨界値を超えると、超音波疲労試験中に雌ねじ部18の底部において亀裂が発生しにくくなることを表す。
【0027】
式(2)は、超音波疲労試験中に平行部16が座屈を起こさないための条件を表す経験式である。式(2)中、「d1/d2」は、座屈のしにくさを表す尺度であり、平行部16の直径d1が相対的に大きくなるほど、座屈しにくくなることを表す。同様に、「1/L1」もまた、座屈のしにくさを表す尺度であり、平行部の長さL1が相対的に短くなるほど、座屈しにくくなることを表す。さらに、式(2)は、これらの積がある臨界値を超えると、超音波疲労試験中に平行部16が座屈を起こしにくくなることを表す。
【0028】
[1.2.2. 最大応力部体積]
試験片10は、次の式(3)をさらに満たしているのが好ましい。
最大応力部体積(πd1
2×L1/4)≧98mm3 …(3)
ここで、「最大応力部体積」とは、最大の応力が作用する部分の体積をいう。円柱状の平行部16を持つ試験片10の長手方向に沿って引張-圧縮の縦振動を加える場合、最大応力部体積は、平行部16の体積(=πd1
2×L1/4)に等しくなる。
なお、最大応力部体積は、厳密には、いわゆる危険体積とは異なるが、本発明においては、便宜上、最大応力部体積で規定する。
【0029】
最大応力部体積が小さくなりすぎると、それに応じて危険体積も小さくなる。そのため、評価が局所的となり、正確な極値統計解析ができなくなる。正確な介在物評価を行うためには、最大応力部体積は、98mm3以上が好ましい。最大応力部体積は、より好ましくは、100mm3以上、更に好ましくは、150mm3以上である。
【0030】
[1.2.3. 平行部の直径]
試験片10は、次の式(4)をさらに満たしているのが好ましい。
5mm≦d1≦8mm …(4)
【0031】
式(4)は、平行部16の直径d1の許容範囲を表す。d1が小さくなりすぎると、危険体積が小さくなりすぎ、正確な極値統計解析ができなくなる。従って、d1は、5mm以上が好ましい。d1は、好ましくは、5.5mm以上である。
一方、内部硬さが低い材料を用いて介在物評価を行う場合において、介在物起点の破壊を生じさせるためには、平行部16の全面浸炭を行い、平行部16を硬化させる必要がある。この場合、d1が大きくなりすぎると、現実的な時間内に平行部16を全面浸炭することが難しくなる。従って、d1は、8mm以下が好ましい。d1は、好ましくは、7mm以下である。
【0032】
[1.2.4. つかみ部の直径]
試験片10は、次の式(5)をさらに満たしているのが好ましい。
d1<d2≦20mm …(5)
【0033】
d2が大きくなりすぎると、断面積が大きくなり、深部まで十分に浸炭されず、深部硬さが不十分となり、ねじ底破壊となってしまう。従って、d2は、20mm以下が好ましい。d2は、好ましくは、18mm以下である。
【0034】
[1.3. 材料]
試験片10の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。一般に、強靱鋼は、焼入れ・焼戻し後の状態で十分な強度を有しているため、疲労試験時に介在物起点の破壊を起こしやすい。そのため、強靱鋼については、焼入れ・焼戻し後の状態で直ちに疲労試験を行うことができる。
一方、C量が0.4mass%未満である鉄基合金は、焼入れ・焼戻し後の内部硬さが低いために、焼入れ・焼戻し後の状態で疲労試験を行っても、介在物起点の破壊とならないことが多い。
【0035】
これに対し、本発明に係る試験片10は、形状が最適化されているために、雌ねじ部18の底部からの破壊が抑制されるだけでなく、十分な大きさの危険体積を有し、かつ、実用的な時間内で全面浸炭させることができる。そのため、C量が0.4mass%未満である鉄基合金であっても、試験片作製後に全面浸炭すれば、介在物起点の破壊を起こさせることができる。すなわち、低炭素の鉄基合金に対して本発明を適用すると、従来の方法では困難であった精度の高い介在物評価を行うことができる。
このような低炭素の鉄基合金としては、例えば、肌焼き鋼、機械構造用鋼などがある。
【0036】
[2. 超音波疲労試験用試験片(2)]
図2に、本発明の第2の実施の形態に係る超音波疲労試験用試験片の模式図を示す。
図2において、超音波疲労試験用試験片(以下、単に「試験片」ともいう)10’は、
基端側に設けられた大径のつかみ部12と、
先端側に設けられた大径の重錘部14’と、
つかみ部12と重錘部14’との間に設けられた、小径の平行部16と
を備えている。
つかみ部12の端面には、超音波疲労試験用試験片10を試験装置に固定するための雌ねじ部18が形成されている。また、試験片10’の形状は、軸線Tに対して対称な形状になっている。
【0037】
図2において、試験片10’は、つかみ部12の直径d
2よりも、重錘部14’の直径d
4’の方が大径になっている。ここで、重錘部14’は、共振条件を満たすことが必要であることから、前述した
図1に示す試験片10に対して、重錘部14’の直径d
4’を大径とし、長さL
5’を試験片10の長さL
5よりも短くすることで、当該共振条件を満たしている。その他の点については、
図1と同様であるので説明を省略する。
【0038】
[3. 超音波疲労試験方法]
本発明に係る超音波疲労試験方法は、
C量が0.4mass%未満である鉄基合金を用いて本発明に係る超音波疲労試験用試験片10を作製する工程と、
C量が0.4mass%以上1.0mass%以下となるように、超音波疲労試験用試験片10を全面浸炭する工程と、
全面浸炭された超音波疲労試験用試験片10を用いて超音波疲労試験を行う工程と
を備えている。
【0039】
[3.1. 試験片作製工程]
まず、C量が0.4mass%未満である鉄基合金を用いて本発明に係る超音波疲労試験用試験片10、10’を作製する。試験片形状及び低炭素の鉄基合金の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0040】
[3.2. 全面浸炭工程]
次に、C量が0.4mass%以上1.0mass%以下となるように、超音波疲労試験用試験片10、10’を全面浸炭する。
「全面浸炭」とは、平行部16の断面全域において浸炭が行われている状態をいい、具体的には、有効硬化層550Hv以上(JIS G0557:2006)、若しくは、未浸炭時硬さよりも50Hv以上高い硬さとなる領域が平行部全断面で得られた状態をいう。C量が0.4mass%未満である鉄基合金は、内部硬さが低いために、疲労試験を行っても介在物起点の破壊とならないことが多い。これに対し、全面浸炭により内部硬さを上昇させると、疲労試験時に介在物起点の破壊を起こさせることができる。
【0041】
浸炭後のC量が少なすぎると、介在物起点の破壊を生じさせることができない。従って、浸炭後のC量は、0.4mass%以上が好ましい。C量は、好ましくは、0.6mass%以上である。
一方、浸炭後のC量が過剰になると、炭化物が析出し、介在物評価が困難となる。従って、浸炭後のC量は、1.0mass%以下が好ましい。C量は、好ましくは、0.8mass%以下である。
【0042】
[3.3. 疲労試験工程]
次に、全面浸炭された超音波疲労試験用試験片10、10’を用いて超音波疲労試験を行う。具体的には、試験片10、10’の長手方向が鉛直方向となるように、雌ねじ部18を介して試験片10、10’を試験装置に固定する。次いで、超音波振動子を介してつかみ部12の端面に縦振動を加える。これにより、試験片10、10’の長手方向に沿って、所定の周期で引張応力及び圧縮応力が繰り返し印加される。
【0043】
試験片10、10’は、その形状に対応する固有振動数を持っている。超音波により試験片10、10’を共振させている場合において、試験片10、10’に亀裂が発生すると、固有振動数が変化する。固有振動数の変化が検出された時には、超音波の印加を停止させる。
【0044】
[4. 作用]
式(1)は、雌ねじ部18の底部において亀裂を発生させないための条件を表す経験式である。式(2)は、超音波疲労試験中に平行部16が座屈を起こさないための条件を表す経験式である。すなわち、式(1)及び式(2)を満たす試験片10、10’は、超音波疲労試験中に雌ねじ部18の底部において亀裂が発生しにくく、かつ、平行部16の座屈も起きにくい。そのため、これを用いて超音波疲労試験を行うと、介在物の有無を正確、かつ、迅速に評価することができる。
さらに、平行部16の直径d1を最適化すると、全面浸炭がさらに容易化する。そのため、試験片10、10’の作製後に全面浸炭すれば、低炭素の鉄基合金(例えば、肌焼き鋼)であっても介在物の有無を正確、かつ、迅速に評価することができる。
【実施例】
【0045】
(実施例1~11、比較例1~9)
[1. 試料の作製]
図1に示す形状を備え、各部の寸法が異なる種々の試験片10を作製した。試験片10の材料には、肌焼き鋼(SCR420)を用いた。平行部16の直径d
1は5~8mmとし、つかみ部12の直径d
2は14~20mmとし、平行部16の長さL
1は5~14mmとし、雌ねじ部18の内径d
3は6mmとした。
次に、試験片10に対して、浸炭を行った。浸炭は、ガス浸炭、又は、真空浸炭で行った。なお、ガス浸炭は、950~1000℃程度で実施し、24H以上の時間を要するが、真空浸炭では1000℃以上の加熱が可能なため、ガス浸炭よりも処理時間の短縮が可能である。
【0046】
[2. 試験方法]
得られた試験片10を超音波疲労試験機((株)島津製作所製、型式:346-71595)に装着し、試験片10の長手方向に沿って縦振動を印加した。試験条件は、周波数:206Hz、負荷応力:900MPa、応力比:-1(完全両振り)、間欠負荷条件とした。
【0047】
[3. 結果]
表1に、結果を示す。なお、表1中、「断面積比」とは、式(1)の左辺の数値、すなわち、(d2
2-d3
2)/d1
2を表す。また、「耐座屈性」とは、式(2)の左辺の数値、すなわち、22.5×d1/(L1×d2)を表す。表1より、以下のことが分かる。
【0048】
【0049】
(1)比較例1~5、7、9は、いずれも、雌ねじ部18で破損した。これは、断面積比が小さすぎるために、雌ねじ部18の底部に応力集中が起きたためと考えられる。
(2)比較例6、8は、いずれも寿命が短くなった。これは、座屈による曲げ応力が発生したためと考えられる。
(3)実施例1~11は、いずれも、雌ねじ部18で破損することはなく、すべて介在物起点の平行部破壊となった。
【0050】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係る超音波疲労試験用試験片及び超音波疲労試験方法は、肌焼き鋼などの低Cの鉄基合金の介在物評価に用いることができる。