(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】蒸気発生設備及びアンモニア気化システム
(51)【国際特許分類】
F23K 5/00 20060101AFI20221101BHJP
F23J 15/00 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
F23K5/00 302
F23J15/00 A
(21)【出願番号】P 2019033259
(22)【出願日】2019-02-26
【審査請求日】2021-10-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】新田 省吾
(72)【発明者】
【氏名】澤永 佳那
(72)【発明者】
【氏名】香取 孝太郎
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-200029(JP,A)
【文献】中国実用新案第203724788(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第105084313(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0249251(US,A1)
【文献】特開2009-138958(JP,A)
【文献】特開2015-147508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23K 5/00
F23J 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体状態のアンモニアを供給する供給部と、前記供給部と接続され、液体状態のアンモニアを気化させる熱交換器とを有するアンモニア気化システムと、気体状態のアンモニアを燃焼させるボイラとを備える蒸気発生設備であって、
前記熱交換器が並列に複数設けられ、
複数の前記熱交換器のうち少なくとも一つの下段に設けられると共に気体状態のアンモニアを一時的に貯留するバッファタンクを備え
、
前記熱交換器の下段に設けられると共に、前記ボイラと前記バッファタンクとに気体状態のアンモニアを振り分け可能とする弁装置を備える
ことを特徴とする蒸気発生設備。
【請求項2】
複数の前記熱交換器のうち少なくとも一つは、他の熱交換器よりも制御可能流量の下限値が小さいことを特徴とする請求項1記載の蒸気発生設備。
【請求項3】
前記ボイラの排気設備に接続されると共に前記熱交換器のうち少なくとも一つから気体状態のアンモニアが供給される脱硝装置を備えることを特徴とする請求項1または2記載の蒸気発生設備。
【請求項4】
液体状態のアンモニアを供給する供給部と、前記供給部と接続され、液体状態のアンモニアを気化させる熱交換器とを備えるアンモニア気化システムであって、
前記熱交換器が並列に複数設けられ、
複数の前記熱交換器のうち少なくとも一つの下段に設けられると共に気体状態のアンモニアを一時的に貯留するバッファタンクを備え、
前記熱交換器の下段に設けられると共に、前記気体状態のアンモニアの供給先と前記バッファタンクとに気体状態のアンモニアを振り分け可能とする弁装置を備えることを特徴とするアンモニア気化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気発生設備及びアンモニア気化システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、アンモニアを燃料として燃焼させる燃焼器と、上記燃焼器に供給されるアンモニアを気化させるアンモニア気化器とを備える発電設備が開示されている。このような発電設備においては、例えば、アンモニアと石炭等を混焼させることにより、蒸気を発生させて発電を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような発電設備においては、石炭等をボイラにおいて先に燃焼させ、火炎が安定した後に気体状態のアンモニアを火炉に供給することで、アンモニアと石炭とを混焼状態とする。しかしながら、混焼開始時において、ボイラが要求する最適なアンモニアの流量は、一般的にアンモニア気化器として用いられる熱交換器の制御可能流量の下限よりも小さく、混焼開始時において気体状態のアンモニアの流量を制御することが難しい。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、気体アンモニアについて、ボイラからの要求量に追従して幅広い流量を制御可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するための蒸気発生設備に係る第1の手段として、液体状態のアンモニアを供給する供給部と、前記供給部と接続され、液体状態のアンモニアを気化させる熱交換器とを有するアンモニア気化システムと、気体状態のアンモニアを燃焼させるボイラとを備える蒸気発生設備であって、前記熱交換器が並列に複数設けられ、複数の前記熱交換器のうち少なくとも一つの下段に設けられると共に気体状態のアンモニアを一時的に貯留するバッファタンクを備える、という構成を採用する。
【0007】
蒸気発生設備に係る第2の手段として、上記第1の手段において、複数の前記熱交換器のうち少なくとも一つは、他の熱交換器よりも制御可能流量の下限値が小さい、という構成を採用する。
【0008】
蒸気発生設備に係る第3の手段として、上記第1または第2の手段において、前記熱交換器の下段に設けられると共に、前記ボイラと前記バッファタンクとに気体状態のアンモニアを振り分け可能とする弁装置を備える、という構成を採用する。
【0009】
蒸気発生設備に係る第4の手段として、上記第1~3のいずれかの手段において、前記ボイラの排気設備に接続されると共に前記熱交換器のうち少なくとも一つから気体状態のアンモニアが供給される脱硝装置を備える、という構成を採用する。
【0010】
アンモニカ気化システムに係る第1の手段として、液体状態のアンモニアを供給する供給部と、前記供給部と接続され、液体状態のアンモニアを気化させる熱交換器とを備えるアンモニア気化システムであって、前記熱交換器が並列に複数設けられ、複数の前記熱交換器のうち少なくとも一つの下段に設けられると共に気体状態のアンモニアを一時的に貯留するバッファタンクを備える、という構成を採用する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数の熱交換器を並列に設けると共に、少なくとも一つの熱交換器の下流側にバッファタンクを設けている。これにより、バッファタンクと接続された熱交換器においては、生成された気体状態のアンモニアの流量を細かく制御することが可能となる。したがって、気体アンモニアについて、ボイラからの要求量に追従して幅広い流量を制御可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る蒸気発生設備を示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る蒸気発生設備の変形例を示す模式図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る蒸気発生設備の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明に係る蒸気発生設備の一実施形態について説明する。
本実施形態に係る蒸気発生設備1は、
図1に示すように、アンモニア気化システム2と、ボイラ3と、脱硝装置4とを備えている。アンモニア気化システム2は、アンモニア供給部2aと、メイン気化器2bと、スタートアップ気化器2cと、バッファタンク2dと、調節弁2e(弁装置)とを備えている。
【0014】
アンモニア供給部2aは、本図面においては不図示であるが、液体状態のアンモニア(液体アンモニア)を貯留するタンクと、タンク内のアンモニアを圧送するポンプとにより構成される。アンモニア供給部2aは、制御装置等により、供給するアンモニアの流量が調整されている。なお、アンモニア供給部2aの上段においては、液体アンモニア中に含まれる水分を低減させる脱水設備を備えていてもよい。
【0015】
メイン気化器2bは、例えば、複数のアンモニアを流通させる伝熱管を有しているシェルアンドチューブ型の熱交換器であり、アンモニア供給部2aから供給される液体アンモニアを加熱することにより気化させて気体状態のアンモニア(気体アンモニア)を生成する装置である。このメイン気化器2bは、アンモニアを温水と熱交換させることにより気化温度以上に加熱することにより気体アンモニアを生成し、当該気体アンモニアを燃料としてボイラ3に供給する。なお、メイン気化器2bは、制御可能流量の下限が、当該メイン気化器2bの最大流量の20%程度とされている。なお、熱交換器については、シェルアンドチューブ型に限定されず、プレート型、フィン型、などを用いてもよい。
【0016】
スタートアップ気化器2cは、例えば、複数のアンモニアを流通させる伝熱管を有しているシェルアンドチューブ型の熱交換器であり、メイン気化器2bと同様にアンモニア供給部2aから供給される液体アンモニアを加熱することにより気化させて気体アンモニアを生成する装置である。また、スタートアップ気化器2cは、下流側においてボイラ3とバッファタンク2dに接続されている。なお、スタートアップ気化器2cは、メイン気化器2bよりも最大流量が小さく、制御可能流量の下限が、当該スタートアップ気化器2cの最大流量の20%とされている。すなわち、スタートアップ気化器2cは、メイン気化器2bよりも、制御可能流量の下限が小さい熱交換器である。なお、熱交換器については、シェルアンドチューブ型に限定されず、プレート型、フィン型、などを用いてもよい。
【0017】
バッファタンク2dは、スタートアップ気化器2cと接続され、スタートアップ気化器2cにおいて生成された気体アンモニアを一時的に貯留するタンクである。バッファタンク2dは、下段に脱硝装置4が接続されている。
【0018】
調節弁2eは、スタートアップ気化器2cの下流側に設けられ、スタートアップ気化器2cにおいて生成された気体アンモニアの流路を、バッファタンク2dとボイラ3とで切り替える流量調節弁である。調節弁2eは、弁開度が不図示の制御装置により制御されることで、ボイラ3側に供給する流量を調節可能としている。なお、上記制御装置は、ボイラ3における気体アンモニアの要求量に基づいて調節弁2eの弁開度を制御する。
【0019】
ボイラ3は、微粉炭と気体アンモニアとを混焼させる炉体を備え、当該炉体に設けられた水熱管内を流通する水を燃焼熱で加熱することにより水蒸気を発生させる。上記炉体において、微粉炭を内部に噴射するノズル、気体アンモニアを内部に噴射するノズル、また燃焼用空気を内部に供給するノズル等が設けられるボイラ3の下部は、微粉炭と気体アンモニアとを混焼させる燃焼空間である。また、上記炉体において、炉壁等に複数の水熱管が設けられた上部は、燃焼によって発生した燃焼ガスが水熱管内の水と熱交換する熱交換領域である。なお、ボイラ3の排ガスを案内する煙道中には、脱硝装置4と、硫化物及び粉塵を除去する不図示の処理装置が設けられている。
【0020】
脱硝装置4は、ボイラ3の排ガス中に含まれる窒素酸化物(NOx)を除去するものである。この脱硝装置4は、触媒の存在下で排ガスに所定の還元剤を作用させることにより窒素酸化物(NOx)を窒素(N2)と水(H2O)に分解する。この脱硝装置4は、バッファタンク2dを介してスタートアップ気化器2cと接続されており、窒素酸化物の還元時に、スタートアップ気化器2cにおいて生成された気体アンモニアを用いて脱硝処理を行う形式としてもよい。
【0021】
この蒸気発生設備1では、微粉炭と気体アンモニアとがボイラ3で混焼することによって高温の燃焼ガスが発生し、当該燃焼ガスの熱を利用して水蒸気が発生する。一方、ボイラ3で発生した燃焼ガスは、煙道を介して不図示の煙突から大気中に排ガスとして放出されるが、煙道を通過する間に脱硝装置4によって脱硝されると共に、不図示の処理装置により硫化物及び粉塵が除去される。すなわち、燃焼ガス(排ガス)に含まれる窒素酸化物NOxは、煙道を通過する間に脱硝装置4によって燃焼ガス(排ガス)から分離除去される。そして、十分に浄化された排ガスが、煙突から大気中に放出される。
【0022】
本実施形態に係るアンモニア気化システム2は、このような排ガスの温度と液体アンモニアの気化温度との関係を利用して液体アンモニアを気化させて気体アンモニア(燃料)を生成する。すなわち、不図示の熱交換器において、例えば、100℃以上の排ガスと水とを熱交換させることにより、水を100℃程度まで加熱して、メイン気化器2b及びスタートアップ気化器2cに供給する。これにより、メイン気化器2bとスタートアップ気化器2cとにおいて、液体アンモニアが加熱され、気体アンモニアとしてボイラ3へと供給される。メイン気化器2bとスタートアップ気化器2cとに供給する熱源としては、上記形態に限られず、液体アンモニアが気化できる温度の熱源であればよい。
【0023】
具体的には、通常、ボイラ3の燃焼開始時においては、微粉炭を主燃料として燃焼させることで火炎を安定させる。そして、アンモニアの混焼開始時においては、気体アンモニアを徐々に上昇させ、アンモニアの混焼率を高めていくことで安定的に混焼率を遷移させる必要がある。このため、アンモニアの混焼開始時には、ボイラ3における気体アンモニアの必要量は少量であり、スタートアップ気化器2cにのみ液体アンモニアが供給される。スタートアップ気化器2cにおいて気化された気体アンモニアは、調節弁2eにより、一部のみがボイラ3へと供給され、残りがバッファタンク2dへと貯留される。そして、混焼開始から時間が経過するごとに徐々に調節弁2eの弁開度が変更されることで、スタートアップ気化器2cにおいて生成された気体アンモニアのボイラ3への供給量が増加され、アンモニア混焼率が上昇する。さらに、スタートアップ気化器2cの最大流量の全てがボイラ3へと供給されるようになると、メイン気化器2bが稼働開始し、気体アンモニアの供給源がメイン気化器2bへと切り替えられる。
【0024】
また、バッファタンク2dに貯留された気体アンモニアは、ボイラ3の燃焼状態に合わせて脱硝装置4へと送られ、脱硝時の還元剤として用いられる。
【0025】
このような本実施形態に係る蒸気発生設備1によれば、スタートアップ気化器2cと、スタートアップ気化器2cに接続されるバッファタンク2dとにより、メイン気化器2bの制御可能流量の下限を下回る極小流量をボイラ3に対して供給することが可能である。したがって、アンモニア気化システム2は、微粉炭の専焼状態から気体アンモニアとの混焼状態へと切り替える際に、ボイラ3からの気体アンモニアの幅広い要求量に追従することが可能である。
【0026】
さらに、スタートアップ気化器2cがメイン気化器2bよりも最大流量が小さい熱交換器であるため、スタートアップ気化器2cの制御可能流量の下限がメイン気化器2bの制御可能流量の下限よりも小さい。したがって、スタートアップ気化器2cは、メイン気化器2bよりも小流量における制御が可能であり、極小流量をボイラ3に対して供給することが容易である。
【0027】
また、本実施形態に係る蒸気発生設備1によれば、調節弁2eによりスタートアップ気化器2cにおいて生成された気体アンモニアのボイラ3への供給量を調節可能としている。これにより、ボイラ3に対して供給される気体アンモニアの流量の制御において応答性を高めることが可能である。
【0028】
また、本実施形態に係る蒸気発生設備1によれば、スタートアップ気化器2cにおいて生成された気体アンモニアのうち、ボイラ3に供給する必要のない気体アンモニアは、脱硝装置4へと供給される。これにより、スタートアップ気化器2cにおいて生成されるアンモニアを有効活用することが可能であると共に、脱硝装置4に対して別途アンモニア気化装置を設ける必要がない。
【0029】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0030】
上記実施形態においては、スタートアップ気化器2cは、ボイラ3とバッファタンク2dとに接続されるものとしたが、本発明はこれに限定されない。スタートアップ気化器2cは、
図2に示すように、バッファタンク2dのみに接続されるものとしてもよい。また、バッファタンク2dの下流側には流量調節弁が設けられる。この場合、スタートアップ気化器2cにおいて生成された気体アンモニアは、全量バッファタンク2dに一時的に貯留される。そして、バッファタンク2dに貯留された気体アンモニアは、ボイラ3へと少量ずつ供給される。これにより、ボイラ3には、混焼開始時において極小流量の気体アンモニアの供給が可能である。
【0031】
また、例えば、既存のボイラ装置に対してアンモニア気化システム2のみを取り付ける場合には、構造上、脱硝装置4に対してスタートアップ気化器2cから気体アンモニアを供給することができない場合がある。このような場合には、
図2に示すように、スタートアップ気化器2cにおいて生成された気体アンモニアは、脱硝装置4に供給されないものとしてもよい。
【0032】
また、上記実施形態においては、アンモニア気化システム2は、メイン気化器2bとスタートアップ気化器2cとを備えるものとしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、アンモニア気化システム2は、3以上の熱交換器を備えるものとしてもよい。なお、このとき、一つの熱交換器が低流量の熱交換器であることで、極小流量をボイラ3に対して供給することが容易である。
【0033】
また、アンモニア気化システム2は、
図3に示すように、メイン気化器2bよりも低流量の熱交換器を、メイン気化器2b及びスタートアップ気化器2cに代わり複数並列に備えるものとしてもよい。この場合、アンモニア気化システム2は、上記熱交換器を同時に稼働させることにより、メイン気化器2bの最大流量に相当する流量の気体アンモニアをボイラ3へと供給することが可能である。このような構造としても、極小流量をボイラ3に対して供給することが容易である。
【符号の説明】
【0034】
1 蒸気発生設備
2 アンモニア気化システム
2a アンモニア供給部
2b メイン気化器
2c スタートアップ気化器
2d バッファタンク
2e 調節弁
3 ボイラ
4 脱硝装置