(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】ワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
H01B 7/00 20060101AFI20221101BHJP
H01B 7/282 20060101ALI20221101BHJP
H02G 15/18 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
H01B7/00 301
H01B7/282
H02G15/18 006
(21)【出願番号】P 2019056974
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2021-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 一雄
(72)【発明者】
【氏名】良知 宏伸
(72)【発明者】
【氏名】伊澤 克俊
(72)【発明者】
【氏名】黒石 亮
(72)【発明者】
【氏名】安達 喬
【審査官】鈴木 圭一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-058137(JP,A)
【文献】特開2014-139932(JP,A)
【文献】特開2009-230998(JP,A)
【文献】特表2014-500335(JP,A)
【文献】山崎智,他5人,ナノコンポジット熱収縮チューブ,SEIテクニカルレビュー・第184号,第184号,日本,2014年01月
【文献】山崎智,他5人,自動車用ホットメルト内層付き熱収縮チューブ,SEIテクニカルレビュー・第192号,第192号,日本,2018年01月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B7/00-7/02
7/38-7/40
H02G 15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯線と前記芯線を被覆する被覆材とを備える第1電線及び第2電線と、チューブとを備えるワイヤーハーネスであって、
前記チューブは、前記第1電線の前記芯線と前記第2電線の前記芯線との接続部を覆い、
前記被覆材は、架橋ポリエチレンを含み、
前記チューブは、架橋ポリエチレンを含み、
前記チューブと前記被覆材とが直接接合されており、
前記チューブの母材部分から前記被覆材の母材部分までにわたってラメラ相を備えており、
前記チューブと前記被覆材との接合部を含む引張試験用の試験片を用い、JIS K6850:1999に規定された方法で引張試験を行うことにより得られる前記チューブと前記被覆材との引張せん断強さは350kPa以上である、ワイヤーハーネス。
【請求項2】
前記各芯線の公称断面積は4mm
2以上である、
請求項1に記載のワイヤーハーネス。
【請求項3】
前記チューブは、電子線によって架橋された架橋ポリエチレンを含む、
請求項1または請求項2に記載のワイヤーハーネス。
【請求項4】
前記被覆材は、電子線によって架橋された架橋ポリエチレン、または、シランカップリング剤によって架橋された架橋ポリエチレンを含む、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス。
【請求項5】
前記第1電線の前記芯線は銅からなる撚線であり、前記第2電線の前記芯線はアルミニウムからなる単芯線または撚線である、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス。
【請求項6】
前記ワイヤーハーネスはパイプを有しており、前記パイプの筒内に前記チューブが配置されている、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載のワイヤーハーネスと、高圧バッテリーと、インバータとを備え、
前記第1電線の前記芯線は前記高圧バッテリーに接続されており、
前記第2電線の前記芯線は前記インバータに接続されている、アーキテクチャ。
【請求項8】
前記ワイヤーハーネスは、車両の床下に配置されている、
請求項7に記載のアーキテクチャ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電線同士の接続部をチューブで被覆することにより、接続部から電線内部への液体の進入を防止する電線の止水構造が知られている。例えば、特許文献1には、熱収縮チューブによって電線端末の止水を行うアース用電線の止水構造の例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
架橋ポリエチレンからなる被覆材を有する電線を止水する場合、一般的に、架橋ポリエチレンとチューブとの間に接着剤が配置されている。しかし、架橋ポリエチレンに対して用いられる接着剤は、熱が加わると軟化しやすい特性を有している。そのため、使用環境等によっては接着剤が軟化し、チューブと絶縁電線との間からチューブの外部へ押し出されるおそれがある。また、接着剤の使用は、止水構造の体積の増大やコスト増大を招いていた。
【0005】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、接着剤を用いずに電線の被覆材とチューブとを接合することができ、止水性が良好なワイヤーハーネスを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、芯線と前記芯線を被覆する被覆材とを備える第1電線及び第2電線と、チューブとを備えるワイヤーハーネスであって、
前記チューブは、前記第1電線の前記芯線と前記第2電線の前記芯線との接続部を覆い、
前記被覆材は、架橋ポリエチレンを含み、
前記チューブは、架橋ポリエチレンを含み、
前記チューブと前記被覆材とが直接接合されており、
前記チューブの母材部分から前記被覆材の母材部分までにわたってラメラ相を備えており、
前記チューブと前記被覆材との接合部を含む引張試験用の試験片を用い、JIS K6850:1999に規定された方法で引張試験を行うことにより得られる前記チューブと前記被覆材との引張せん断強さは350kPa以上である、ワイヤーハーネスにある。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、接着剤を用いずに電線の被覆材とチューブとを接合することによって止水構造の体積の増大、コスト増大を抑制しつつ、止水性が良好なワイヤーハーネスを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態1にかかるワイヤーハーネスの平面図である。
【
図3】
図3は、実施形態1にかかるチューブと被覆材との界面の模式図である。
【
図4】
図4は、実施形態1にかかる引張せん断強さの測定に用いる試験片の作製方法を示す模式図である。
【
図5】
図5は、実験例にかかる試験体T1のTEM像である。
【
図6】
図6は、実験例にかかる試験体T10のTEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
本開示のワイヤーハーネスは、芯線と芯線を被覆する被覆材とを備える第1電線及び第2電線と、チューブとを有している。チューブは、第1電線の芯線と第2電線の芯線との接続部を覆っている。被覆材は、架橋ポリエチレン(XLPE)を含んでいる。チューブは、架橋ポリエチレンを含んでいる。チューブと被覆材とは直接接合されている。チューブと被覆材との引張せん断強さは350kPa以上である。
【0010】
本開示のワイヤーハーネスにおいては、第1電線の被覆材、第2電線の被覆材及びチューブのいずれにも架橋ポリエチレンが含まれている。これにより、被覆材とチューブとの界面において、被覆材中の架橋ポリエチレンとチューブ中の架橋ポリエチレンとを相溶させることができる。その結果、接着剤を用いることなく被覆材とチューブとを直接接合し、被覆材とチューブとの引張せん断強さを350kPa以上とすることができる。また、本開示のワイヤーハーネスにおける被覆材とチューブとの引張せん断強さは350kPa以上であるため、被覆材とチューブとの間の止水性(水の侵入を防ぐだけでなく、オイル等の液体の侵入を防ぐことも含む、以下説明を省略する。)が良好である。
【0011】
よって、本開示のワイヤーハーネスによれば、接着剤を用いずに電線の被覆材とチューブとを接合することができ、止水性が良好なワイヤーハーネスを提供することができる。
【0012】
本開示のワイヤーハーネスは、少なくとも1本の前記第1電線と、少なくとも1本の前記第2電線と、少なくとも1個の前記チューブとを有していればよい。つまり、ワイヤーハーネスは、1本の第1電線と1本の第2電線とが前記接続部を介して接続され、この接続部がチューブに覆われた構成であってもよいし、複数本の第1電線と複数本の第2電線とが接続部を介して交互に接続され、これらの接続部がチューブに覆われた構成であってもよい。また、ワイヤーハーネスは、第1電線及び第2電線とは異なる電線を更に含んでいてもよい。
【0013】
本開示のワイヤーハーネスにおいて、第1電線と第2電線とは、同一の構成を有していてもよいし、芯線及び被覆材の少なくとも一方が異なる構成を有していてもよい。
【0014】
前記第1電線の被覆材には、架橋ポリエチレンが含まれている。第1電線の被覆材は、架橋ポリエチレンの他に、難燃剤や充填材、着色剤等の添加剤を含んでいてもよい。前記第1電線の芯線は、単芯線、つまり、一本の導体からなる線材であってもよいし、撚線、つまり、複数本の導体素線が互いに撚り合わされてなる線材であってもよいし、パイプであってもよい。また、第1電線の芯線は、銅(純銅及び銅合金を含む。以下同様とする。)やアルミニウム(純アルミニウム及びアルミニウム合金を含む。以下同様とする。)等の電気伝導性の高い金属から構成されていてもよい。
【0015】
前記第2電線の被覆材には、第1電線と同様に、架橋ポリエチレンが含まれている。第2電線の被覆材は、架橋ポリエチレンの他に、難燃剤や充填材、着色剤等の添加剤を含んでいてもよい。前記第2電線の芯線は、第1電線の芯線と同様に、単芯線、つまり、一本の導体からなる線材であってもよいし、撚線、つまり、複数本の導体素線が互いに撚り合わされてなる線材であってもよいし、パイプであってもよい。また、第2電線の芯線は、銅やアルミニウム等の電気伝導性の高い金属から構成されていてもよい。
【0016】
本開示のワイヤーハーネスにおけるチューブには、架橋ポリエチレンが含まれている。チューブは、架橋ポリエチレンの他に、難燃剤や充填材、着色剤等の添加剤を含んでいてもよい。チューブとしては、例えば架橋ポリエチレンを含む熱収縮チューブを使用することができる。
【0017】
本開示のワイヤーハーネスにおいて、チューブと被覆材とを直接接合する方法は、特に限定されることはない。チューブと被覆材とを直接接合する方法としては、例えば、チューブと被覆材とを重ね合わせた状態でチューブを加熱しつつ被覆材に押し付ける方法を採用することができる。この際、加熱温度は、チューブ中の架橋ポリエチレンの融点及び被覆材中の架橋ポリエチレンの融点よりも高い温度とすることが好ましい。チューブと被覆材との界面に熱と圧力とを加えることにより、チューブ中の架橋ポリエチレンと被覆材の架橋ポリエチレンとを相溶させることができる。その結果、チューブと被覆材とを直接接合することができる。
【0018】
本開示のワイヤーハーネスにおいて、チューブと被覆材との引張せん断強さは、350kPa以上である。これにより、チューブと被覆材との間からチューブ内への液体の進入を防止することができる。ワイヤーハーネスの止水性をより高める観点からは、チューブと被覆材との引張せん断強さは、450kPa以上であることが好ましい。
【0019】
チューブと被覆材との引張せん断強さは、以下の方法により測定される。まず、ワイヤーハーネスから、チューブと被覆材との接合部を含む引張試験用の試験片を採取する。試験片は、長方形状の被覆材の小片と長方形状のチューブの小片とを含んでおり、被覆材の小片の端部とチューブの小片の端部とが接合されている形状とする。この試験片を用いてJIS K6850:1999の規定に準じた方法で引張試験を行うことにより、得られた破断応力を引張せん断強さとする。試験片の幅は、例えば25mmとする。また、試験片におけるチューブと被覆材との接合部の長さ、つまり、被覆材とチューブとがラップしている部分の、電線の軸方向における長さは、例えば12.5mmとする。この場合、チューブと被覆材との接合面積は、312.5mm2となる。ただし、引張試験においてチューブまたは被覆材が母材部分で破壊する場合には、接合面積が312.5mm2より狭い試験片を用いて測定を行っても良い。
【0020】
本開示のワイヤーハーネスは、前記チューブの母材部分から前記被覆材の母材部分までにわたってラメラ相を備える構成を有している。この構成によれば、チューブと被覆材とをより強固に接合し、ワイヤーハーネスの止水性をより高めることができる。
【0021】
ここで、「ラメラ相」とは、ポリエチレンの分子鎖が折りたたまれてなる結晶性の相をいう。架橋ポリエチレン中のラメラ相は、透過型電子顕微鏡を用いて観察した際に、例えば筋状の模様として観察される。なお、ラメラ相の例は、後述する実験例において示す。
【0022】
本開示のワイヤーハーネスにおいて、前記各芯線の公称断面積は4mm2以上であることが好ましく、8mm2以上であることがより好ましく、12mm2以上であることがさらに好ましく、15mm2以上であることが一層好ましい。本開示のワイヤーハーネスによれば、芯線の公称断面積が大きい場合においても、チューブと被覆材との間からチューブ内への液体の進入を防ぐことができる。
【0023】
また、一般に、芯線の公称断面積が大きくなるとワイヤーハーネス全体の質量の増大や屈曲性の低下などの問題が生じやすくなる。これらの問題を抑制するため、例えば、比較的軽量な電線と比較的質量の大きい電線とを接続して質量の増大を抑制する、あるいは、屈曲性に優れた電線と屈曲性の低い電線とを接続して部分的に屈曲性を向上させる等、複数種の電線を接続する方法が考えられる。本開示のワイヤーハーネスによれば、複数種の電線を接続する場合においても、チューブによって止水性を向上させることができる。それ故、本開示のワイヤーハーネスの構成は、芯線の公称断面積が大きい電線を使用する場合に特に有効である。
【0024】
本開示のワイヤーハーネスにおける前記チューブは、電子線によって架橋された架橋ポリエチレンを含む構成とすることができる。この場合には、ワイヤーハーネスの止水性をより高めることができる。また、電子線によって架橋された架橋ポリエチレンを含むチューブは、耐熱性が高い。更に、電子線によって架橋された架橋ポリエチレンを含むチューブは、熱を加えることによって収縮することができるため、チューブに第1電線及び第2電線を通す作業を容易に行うことができる。
【0025】
本開示のワイヤーハーネスにおける前記被覆材は、電子線によって架橋された架橋ポリエチレン、または、シランカップリング剤によって架橋された架橋ポリエチレンを含む構成とすることができる。この場合には、ワイヤーハーネスの止水性をより高めることができる。また、これらの架橋ポリエチレンを含む被覆材は、耐熱性が高い。
【0026】
本開示のワイヤーハーネスにおいて、前記第1電線の前記芯線は銅からなる撚線であり、前記第2電線の前記芯線はアルミニウムからなる単芯線または撚線であることが好ましい。銅からなる撚線は、高い電気伝導性と、優れた屈曲性とを兼ね備えている。そのため、第1電線の芯線を銅からなる撚線とすることにより、第1電線においてワイヤーハーネスを容易に屈曲させることができる。その結果、ワイヤーハーネスの配策作業における作業性をより向上させることができる。
【0027】
また、アルミニウムは、銅には劣るものの、金属の中では比較的高い電気伝導性を有している。更に、アルミニウムは銅に比べて比重が小さい。それ故、第2電線の芯線をアルミニウムからなる単芯線または撚線とすることにより、ワイヤーハーネスの電気抵抗の増大を抑制しつつ、質量をより低減することができる。
【0028】
従って、前記特定の芯線を備えた第1電線と第2電線とを備えたワイヤーハーネスは、電気伝導性及び屈曲性が良好であり、かつ、軽量化をより容易に行うことができる。
【0029】
本開示のワイヤーハーネスにおいて、前記第1電線の前記芯線は銅からなる撚線であり、前記第2電線の前記芯線はアルミニウムからなる単芯線であることがより好ましい。この場合には、撚線の場合に比べて第2電線のコストをより低減するとともに、公称断面積をより大きくすることができる。それ故、ワイヤーハーネスの電気抵抗の増大を抑制しつつ、コストをより低減することができる。
【0030】
本開示のワイヤーハーネスは、パイプを有しており、前記パイプの筒内に前記チューブが配置されている構成とすることができる。かかる構成によれば、チューブ及びチューブ内の接続部をパイプによって保護し、ワイヤーハーネスの止水性をより長期間にわたって維持することができる。
【0031】
本開示のワイヤーハーネスは、高圧バッテリーとインバータとを備えたアーキテクチャ(構造物と称することもできる。以下同様とする。)において、高圧バッテリーとインバータとの間を接続するように構成されていてもよい。
【0032】
本開示のアーキテクチャは、前記ワイヤーハーネスと、高圧バッテリーと、インバータとを備え、
前記第1電線の前記芯線は前記高圧バッテリーに接続されており、
前記第2電線の前記芯線は前記インバータに接続されている構成とすることができる。
【0033】
また、本開示のアーキテクチャは、前記ワイヤーハーネスが車両の床下に配置されている構成とすることができる。
【0034】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示のワイヤーハーネスの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0035】
(実施形態1)
実施形態1のワイヤーハーネス1について、
図1から
図4を用いて説明する。
図1に示すように、本形態のワイヤーハーネス1は、芯線21(21a、21b)と芯線21を被覆する被覆材22(22a、22b)とを備える第1電線2a及び第2電線2bと、チューブ3とを有している。
図2に示すように、チューブ3は、第1電線2aの芯線21aと第2電線2bの芯線21bとの接続部23を覆っている。被覆材22は、架橋ポリエチレンを含んでいる。チューブ3は、架橋ポリエチレンを含んでいる。チューブ3と被覆材22とが直接接合されている。チューブ3と被覆材22との引張せん断強さは350kPa以上である。
【0036】
本形態のワイヤーハーネス1は、
図1に示すように、複数本の第1電線2aと、複数本の第2電線2bとを有している。ワイヤーハーネス1の一端には第1電線2aが配置されており、他端には第2電線2bが配置されている。なお、図には示さないが、ワイヤーハーネス1の端末には、コネクタや端子などの接続部材が取り付けられていてもよい。
【0037】
第1電線2aと第2電線2bとは、接続部23を介して交互に接続されている。より具体的には、
図2に示すように、第1電線2aの芯線21aは、第1電線2aの端末において被覆材22aの外部に露出している。同様に、第2電線2bの芯線21bは、第2電線2bの端末において被覆材22bの外部に露出している。そして、第1電線2aの端末において露出した芯線21aと第2電線2bの端末において露出した芯線21bとが互いに接続されることにより接続部23が構成されている。
【0038】
本形態における第1電線2aの被覆材22aは、具体的には、電子線によって架橋された架橋ポリエチレンである。また、第1電線2aの芯線21aは、具体的には、銅からなる撚線である。
【0039】
第2電線2bの被覆材22bは、具体的には、電子線によって架橋された架橋ポリエチレンである。また、第2電線2bの芯線21bは、具体的には、アルミニウムからなる単芯線である。
【0040】
図2に示すように、本形態のワイヤーハーネス1において、チューブ3は、第1電線2aの端末における被覆材22a、接続部23及び第2電線2bの端末における被覆材22bを覆っている。本形態のチューブ3は、具体的には、電子線によって架橋された架橋ポリエチレンを含む熱収縮チューブである。また、本形態のチューブ3は、各電線2(2a、2b)の被覆材22を電線2の径方向の内側に押圧している。
【0041】
被覆材22とチューブ3との接合部24の長さ、つまり、被覆材22とチューブ3とがラップしている部分の、電線2の軸方向における長さは2.5mm以上であることが好ましく、5.0mm以上であることがより好ましい。この場合には、電線にチューブを装着する作業において、チューブが外れる、チューブの位置ずれが起こるなどのトラブルをより抑制することができる。
【0042】
図3に、チューブ3と被覆材22との接合の態様を模式的に示す。チューブ3及び被覆材22に含まれる架橋ポリエチレンは、複数のポリエチレン分子鎖4が架橋点41において架橋された構造を有している。また、架橋ポリエチレンには、ポリエチレン分子鎖が無秩序に配置された非晶相42と、ポリエチレン分子鎖が規則的に折りたたまれたラメラ相43とが含まれる。
【0043】
図3に示す態様においては、チューブ3内の架橋ポリエチレンと被覆材22内の架橋ポリエチレンとがチューブ3と被覆材22との界面241を超えて互いに絡み合う構造が形成されている。また、
図3に示す態様においては、チューブ3の母材部分30から被覆材22の母材部分220までにわたってラメラ相43を備える構造が形成されている。このように、チューブ3内の架橋ポリエチレンと、被覆材22内の架橋ポリエチレンとを相溶させることにより、チューブ3と被覆材22とを直接接合することができる。
【0044】
本形態のワイヤーハーネス1におけるチューブ3と被覆材22との引張せん断強さは、以下の方法により測定される。まず、ワイヤーハーネス1を電線2の被覆材22と、芯線21同士の接続部23との2か所で切断し、
図4に示す、チューブ3と被覆材22との接合部24を含む小片を作製する。なお、
図4においては、第1電線2aの被覆材22aと接続部23との2か所で切断した例を示したが、第2電線2bの被覆材22bと接続部23との2か所で切断してもよい。
【0045】
この小片の被覆部及びチューブ3をワイヤーハーネス1の軸方向に沿って切り開くことにより、長方形状の被覆部と、長方形状のチューブ3とを含み、被覆部の一端とチューブ3の一端とが重ね合わされたシート状の試験片Sを得ることができる。この試験片Sを用いてJIS K6850:1999に準じた方法により引張試験を行い、得られた破断力を引張せん断強さとする。なお、引張試験には、試験片S全体を用いてもよいし、シート状の試験片Sの一部を用いてもよい。試験片Sにおける被覆材22とチューブ3との接合部24の面積は、例えば、電線2の周長×2.5mm以上であることが好ましい。ただし、チューブ3または被覆材22が母材部分において破壊する場合には、試験片Sにおける接合部24の面積をより狭くしてもよい。
【0046】
なお、図には示さないが、本形態のワイヤーハーネス1は、更にパイプを有していてもよい。この場合、少なくとも、パイプの筒内にチューブ3が配置されていることが好ましい。
【0047】
本形態のワイヤーハーネス1は、例えば、ハイブリッド車などの車両に搭載される高圧バッテリー(不図示)と、インバータ(不図示)との間を接続するために用いられる。具体的には、ワイヤーハーネス1の一端に配置された第1電線2aの芯線21aが高圧バッテリーに接続され、他端に配置された第2電線2bの芯線21bがインバータに接続される。また、本形態のワイヤーハーネス1は、車両の床下に配置されていてもよい。
【0048】
本形態のワイヤーハーネス1は、例えば以下の方法によって作製することができる。まず、第1電線2aと第2電線2bとが接続部23を介して交互に接続されてなる、接合体を準備する。第1電線2aの芯線21aと第2電線2bの芯線21bとの接続には、抵抗溶接や超音波溶接などの公知の溶接方法等を採用することができる。
【0049】
次に、未収縮状態のチューブ3内に接合体を挿通し、第1電線2aの端末における被覆材22aと、接続部23と、第2電線2bの端末における被覆材22bとを覆うようにチューブ3を配置する。その後、チューブ3を加熱して収縮させる。この時に、熱とチューブ3の収縮による圧縮応力とが加わることにより、チューブ3と被覆材22との界面において架橋ポリエチレン同士を相溶させることができる。その結果、チューブ3と被覆材22とを直接接合することができる。以上の結果、ワイヤーハーネス1を得ることができる。
【0050】
[実験例]
ワイヤーハーネス1の止水性を評価するため、以下の試験を実施した。
【0051】
・シール性評価
電線2として、電線Aおよび電線Bの2種類の電線を準備した。電線Aの被覆材22には、電子線によって架橋された架橋ポリエチレンが含まれている。また、電線Aの芯線の公称断面積は15mm2である。電線Bは、被覆材22にシランカップリング剤によって架橋された架橋ポリエチレンが含まれている以外は、電線Aと同様の構成を有している。
【0052】
チューブ3としては、電子線によって架橋された架橋ポリエチレンを含む熱収縮チューブを準備した。
【0053】
まず、2本の電線2の端末同士を接合して接合体を作製した。次に、一方の電線2の端末における被覆材22と、接続部23と、他方の電線2の端末における被覆材22とをチューブ3で被覆した。その後、表1に示す加熱温度及び加熱時間でチューブ3を加熱した。以上により、11種の試験体(試験体T1から試験体T11という。)を作製した。
【0054】
次に、試験体の両端を密閉した状態で、試験体を水槽内に水没させた。この状態で被覆材22の内側に230kPaの圧縮空気を供給し、被覆材22とチューブ3との間からのリークの有無を確認した。表1の「初期シール性」欄には、圧縮空気のリークがない場合には記号「A」、リークがあった場合には記号「B」を記載した。
【0055】
次に、初期シール性の評価においてリークがなかった試験体に冷熱サイクル試験を行った。具体的には、試験体を100℃の温度に1時間保持し、次いで-40℃の温度に1時間保持するサイクルを2000回繰り返し実施した。冷熱サイクル試験後の試験体を用い、前述の方法と同様にして被覆材22とチューブ3との間からのリークの有無を確認した。表1の「冷熱後シール性」欄には、圧縮空気のリークがない場合には記号「A」、リークがあった場合には記号「B」、冷熱サイクル試験を行わなかった場合には記号「-」を記載した。
【0056】
・引張せん断強さ
各試験体を模擬した試験片を作製した後、この試験片を用いて引張せん断強さの測定を行った。試験片の作製は、具体的には以下の方法により行った。まず、各試験体において使用されている被覆材22と同一の材質からなる第1シートと、チューブ3と同一の材質からなる第2シートとを準備した。第1シートの端部と第2シートの端部とを重ね合わせた後、第1シートと第2シートとの積層部分を0.5kPaの圧力で積層方向に圧縮しつつ、表1に示す条件で加熱した。以上により、試験片を得た。なお、第1シートと第2シートとの積層部分の面積は60mm2とした。
【0057】
得られた試験片を用い、JIS K6850:1999に規定された方法により引張試験を行った。そして、引張試験によって得られた破断力を引張せん断強さとした。表1に各試験体を模擬した試験片の引張せん断強さを示す。
【0058】
【0059】
表1に示したように、引張せん断強さが350kPa以上である試験体T1から試験体T7は、初期シール性及び冷熱後シール性のいずれも良好であり、チューブ3と被覆材22との間からの圧縮空気のリークが発生しなかった。これらの試験体におけるチューブ3と被覆材22との界面の一例として、
図5に試験体T1のチューブ3と被覆材22との界面のTEM(つまり、透過型電子顕微鏡:Transmission Electron Microscope)像を示す。
【0060】
図5に示すように、試験体T1のTEM像においては、チューブ3と被覆材22との界面においてチューブ3の母材部分30と被覆材22の母材部分220とが混在しており、両者の界面が不明瞭となっていた。また、試験体T1のTEM像においては、チューブ3の母材部分30から、チューブ3と被覆材22との界面を超えて被覆材22の母材部分220まで延びる筋状の模様が観察された。つまり、試験体T1は、チューブ3の母材部分から被覆材22の母材部分にわたってラメラ相43を有していた。
【0061】
一方、表1に示したように、試験体T8は、チューブ3と被覆材22とが接合されなかった。これは、加熱温度が低かったためと考えられる。
【0062】
試験体T9から試験体T11は、引張せん断強さが350kPa未満であったため、冷熱サイクル試験後にチューブ3と被覆材22との間から圧縮空気がリークした。これらの試験体におけるチューブ3と被覆材22との界面の一例として、
図6に試験体T10のチューブ3と被覆材22との界面のTEM像を示す。
【0063】
図6に示すように、試験体T10のTEM像においては、チューブ3と被覆材22との界面241を境界としてチューブ3の母材部分30と被覆材22の母材部分220とが明瞭に分離していた。また、試験体T10は、チューブ3の母材部分30内にラメラ相43が観察された。しかし、試験体T10のラメラ相43は、ラメラ相43はチューブ3の母材部分30内に留まっており、界面241を超えて被覆材22の母材部分220まで進入していなかった。
【0064】
[付記]
なお、本開示のワイヤーハーネスは、別の観点から視れば、以下のように把握することも可能である。
[項1]芯線と前記芯線を被覆する被覆材とを備える第1電線及び第2電線と、チューブとを備えるワイヤーハーネスであって、
前記チューブは、前記第1電線の前記芯線と前記第2電線の前記芯線との接続部を覆い、
前記被覆材は、架橋ポリエチレンを含み、
前記チューブは、架橋ポリエチレンを含み、
前記チューブと前記被覆材とが直接接合されており、
前記チューブの母材部分から前記被覆材の母材部分までにわたってラメラ相を備えている、ワイヤーハーネス。
[項2]芯線と前記芯線を被覆する被覆材とを備える第1電線及び第2電線と、チューブとを備えるワイヤーハーネスであって、
前記チューブは、前記第1電線の前記芯線と前記第2電線の前記芯線との接続部を覆い、
前記被覆材は、架橋ポリエチレンを含み、
前記チューブは、架橋ポリエチレンを含み、
前記チューブと前記被覆材とが直接接合されており、
前記チューブと前記被覆材との引張せん断強さは350kPa以上である、ワイヤーハーネス。
[項3]前記チューブの母材部分から前記被覆材の母材部分までにわたってラメラ相を備える、[項2]に記載のワイヤーハーネス。
[項4]前記各芯線の公称断面積は4mm
2
以上である、[項2]または[項3]に記載のワイヤーハーネス。
[項5]前記チューブは、電子線によって架橋された架橋ポリエチレンを含む、[項2]から[項4]のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス。
[項6]前記被覆材は、電子線によって架橋された架橋ポリエチレン、または、シランカップリング剤によって架橋された架橋ポリエチレンを含む、[項2]から[項5]のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス。
[項7]前記第1電線の前記芯線は銅からなる撚線であり、前記第2電線の前記芯線はアルミニウムからなる単芯線または撚線である、[項2]から[項6]のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス。
[項8]前記ワイヤーハーネスはパイプを有しており、前記パイプの筒内に前記チューブが配置されている、[項2]から[項7]のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス。
[項9][項7]または[項8]に記載のワイヤーハーネスと、高圧バッテリーと、インバータとを備え、
前記第1電線の前記芯線は前記高圧バッテリーに接続されており、
前記第2電線の前記芯線は前記インバータに接続されている、アーキテクチャ。
[項10]前記ワイヤーハーネスは、車両の床下に配置されている、[項9]に記載のアーキテクチャ。
【符号の説明】
【0065】
1 ワイヤーハーネス
2 電線
2a 第1電線
2b 第2電線
21、21a、21b 芯線
22、22a、22b 被覆材
220 母材部分
23 接続部
24 接合部
241 界面
3 チューブ
30 母材部分
4 ポリエチレン分子鎖
41 架橋点
42 非晶相
43 ラメラ相
S 試験片
T1~T11 試験体