(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】波長変換素子、波長変換素子の製造方法、光源装置及びプロジェクター
(51)【国際特許分類】
G03B 21/14 20060101AFI20221101BHJP
G03B 21/00 20060101ALI20221101BHJP
F21V 7/30 20180101ALI20221101BHJP
F21V 9/32 20180101ALI20221101BHJP
F21S 2/00 20160101ALI20221101BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20221101BHJP
F21Y 115/30 20160101ALN20221101BHJP
【FI】
G03B21/14 A
G03B21/00 D
F21V7/30
F21V9/32
F21S2/00 311
F21S2/00 390
G02B5/20
F21Y115:30
(21)【出願番号】P 2019220158
(22)【出願日】2019-12-05
(62)【分割の表示】P 2017247872の分割
【原出願日】2017-12-25
【審査請求日】2020-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2017150599
(32)【優先日】2017-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】高城 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】矢野 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】横尾 友博
(72)【発明者】
【氏名】安松 航
(72)【発明者】
【氏名】清水 鉄雄
(72)【発明者】
【氏名】四谷 真一
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 幸也
【審査官】新井 重雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-058638(JP,A)
【文献】国際公開第2016/161557(WO,A1)
【文献】再公表特許第2014/021027(JP,A1)
【文献】特開2015-095284(JP,A)
【文献】特開2009-259792(JP,A)
【文献】特開2016-061852(JP,A)
【文献】特開2015-143824(JP,A)
【文献】再公表特許第2015/166764(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 21/14
F21V 7/30
F21V 9/32
F21S 2/00
G02B 5/20
F21Y 115/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光が入射する第1面と、前記第1面に対向する第2面を有する波長変換層と、
前記第2面に対向して設けられ、
少なくともSiO
2
を含む第1の無機酸化物を含有す
る第1層と、
前記第1層に対向して設けられ、前記第1の無機酸化物とは異なる第2の無機酸化物を
含有する第2層と、
前記第2層に対向して設けられ、銀またはアルミニウムのいずれか一方を含有し、前記
励起光が前記波長変換層により波長変換された光または前記励起光を反射する第3層と、
を備え、
前記波長変換層は、内部に気孔を含み、
前記第2面は、凹部を有し、
前記第1層の一部は、前記凹部に設けられることを特徴とする波長変換素子。
【請求項2】
請求項1に記載の波長変換素子であって、
前記第3層に対向して設けられ、
金属を含有する第4層と、
前記第4層に対向して設けられ、
無機酸化物を含有する第5層と、
をさらに備えることを特徴とする波長変換素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の波長変換素子であって、
基材をさらに備え、
前記第3層と前記基材との間に設けられる接合材により、前記波長変換層、前記第1層
、前記第2層および前記第3層の積層体と前記基材とが固定されることを特徴とする波長
変換素子。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の波長変換素子であって、
前記第2層の前記第2の無機酸化物は、酸化物導電体材料またはアモルファス導電性酸
化物であることを特徴とする波長変換素子。
【請求項5】
請求項
2に記載の波長変換素子であって、
前記第3層と前記第4層との間に、
金属または
無機酸化物を含有する第6層をさらに備
えることを特徴とする波長変換素子。
【請求項6】
請求項
5に記載の波長変換素子であって、
前記第6層の前記
金属は、Al、Ni、Ti、W、Nbから選択される少なくとも1種
の金属を含有することを特徴とする波長変換素子。
【請求項7】
請求項
5に記載の波長変換素子であって、
前記第6層の前記
無機酸化物は、酸化物導電体材料またはアモルファス導電性酸化物で
あることを特徴とする波長変換素子。
【請求項8】
励起光が入射する第1面と、前記第1面に対向する第2面を有する波長変換層と、
前記第2面に対向して設けられ、第1の無機酸化物を含有する第1層と、
前記第1層に対向して設けられ、第1の金属または前記第1の無機酸化物とは異なる第
2の無機酸化物を含有する第2層と、
前記第2層に対向して設けられ、銀またはアルミニウムのいずれか一方を含有し、前記
励起光が前記波長変換層により波長変換された光または前記励起光を反射する第3層と、
前記第3層に対向して設けられ、前記第1の金属または前記第1の金属とは異なる第2
の金属を含有する第4層と、
前記第4層に対向して設けられ、
無機酸化物を含有する第5層と、
を備え、
前記波長変換層は、内部に気孔を含み、
前記第2面は、凹部を有し、
前記第1層の一部は、前記凹部に設けられることを特徴とする波長変換素子。
【請求項9】
請求項
8に記載の波長変換素子であって、
基材をさらに備え、
前記第3層と前記基材との間に設けられる接合材により、前記波長変換層、前記第1層
、前記第2層および前記第3層の積層体と前記基材とが固定されることを特徴とする波長
変換素子。
【請求項10】
請求項
8または
9に記載の波長変換素子であって、
前記第2層の前記第1の金属は、Al、Ni、Ti、W、Nbから選択される少なくと
も1種の金属を含有することを特徴とする波長変換素子。
【請求項11】
請求項
8または
9に記載の波長変換素子であって、
前記第2層の前記第2の無機酸化物は、酸化物導電体材料またはアモルファス導電性酸
化物であることを特徴とする波長変換素子。
【請求項12】
請求項
8から11のいずれか一項に記載の波長変換素子であって、
前記第3層と前記第4層との間に、前記第1の金属または
無機酸化物を含有する第6層
をさらに備えることを特徴とする波長変換素子。
【請求項13】
請求項
12に記載の波長変換素子であって、
前記第6層の前記第1の金属は、Al、Ni、Ti、W、Nbから選択される少なくと
も1種の金属を含有することを特徴とする波長変換素子。
【請求項14】
請求項
12に記載の波長変換素子であって、
前記第6層の前記
無機酸化物は、酸化物導電体材料またはアモルファス導電性酸化物で
あることを特徴とする波長変換素子。
【請求項15】
励起光が入射する第1面と、前記第1面に対向する第2面を有する波長変換層と、
前記第2面に対向して設けられ、第1の無機酸化物を含有する第1層と、
前記第1層に対向して設けられ、第1の金属または前記第1の無機酸化物とは異なる第
2の無機酸化物を含有する第2層と、
前記第2層に対向して設けられ、銀またはアルミニウムのいずれか一方を含有し、前記
励起光が前記波長変換層により波長変換された光または前記励起光を反射する第3層と、
を備え、
前記波長変換層は、内部に気孔を含み、
前記第2面は、凹部を有し、
前記第1層の一部は、前記凹部に設けられ、
前記第2層の前記第2の無機酸化物は、酸化物導電体材料またはアモルファス導電性酸
化物であることを特徴とする波長変換素子。
【請求項16】
請求項1から
15のいずれか一項に記載の波長変換素子と、
前記励起光を射出する光源と、
を備えることを特徴とする光源装置。
【請求項17】
請求項
16に記載の光源装置と、
前記光源装置からの光を画像情報に応じて変調することにより画像光を形成する光変調
装置と、
前記画像光を投写する投写光学系と、
を備えることを特徴とするプロジェクター。
【請求項18】
互いに対向する第1面及び第2面を有する波長変換層の前記第2面に、
少なくともSi
O
2
を含む第1の無機酸化物を含有する第1層を、直接接触して形成する第2工程と、
前記第1層に、第1の金属、または、前記第1の無機酸化物とは異なり且つ前記第1の
無機酸化物を含まない第2の無機酸化物を含有する第2層を、直接接触して形成する第3
工程と、
前記第2層に、銀またはアルミニウムのいずれか一方を含有し、励起光が前記波長変換
層により波長変換された光または前記励起光を反射する第3層を、直接接触して形成する
第4工程と、
を備えることを特徴とする波長変換素子の製造方法。
【請求項19】
互いに対向する第1面及び第2面を有する波長変換層の前記第2面に、第1の無機酸化
物を含有する第1層を、直接接触して形成する第2工程と、
前記第1層に、第1の金属または前記第1の無機酸化物とは異なる第2の無機酸化物を
含有する第2層を、直接接触して形成する第3工程と、
前記第2層に、銀またはアルミニウムのいずれか一方を含有し、励起光が前記波長変換
層により波長変換された光または前記励起光を反射する第3層を、直接接触して形成する
第4工程と、
を備え、
前記第1層は、第1無機酸化物層及び第2無機酸化物層を含み、
前記第2工程は、前記第2面上に化学蒸着法を用いて前記第1無機酸化物層を形成する
第1形成工程と、前記第1無機酸化物層上に物理蒸着法を用いて前記第2無機酸化物層を
形成する第2形成工程とを含むことを特徴とする波長変換素子の製造方法。
【請求項20】
請求項
19に記載の波長変換素子の製造方法であって、
前記第1無機酸化物層及び前記第2無機酸化物層の材料としてSiO
2を用いることを
特徴とする波長変換素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換素子、波長変換素子の製造方法、光源装置及びプロジェクターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プロジェクター用の照明装置として照明光として蛍光を利用するものがある。例えば、下記特許文献1には、レーザー光を射出する光源と、レーザー光の入射によって蛍光を発光する蛍光発光部とを備えた発光装置が開示されている。この発光装置において、蛍光発光部は、蛍光体層と、該蛍光体層を支持する基板と、基板と蛍光体層との間に設けられた反射層とを備えている。そして、蛍光発光部は、蛍光体層で生成した蛍光を反射層で反射することで照明光として取り出している。
【0003】
上述のような反射層としては耐久性に優れたものが望ましい。例えば、下記特許文献2には、熱や光に強い反射層としてAg膜を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-119046号公報
【文献】国際公開第2015/194455号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、蛍光体層で生成した蛍光を反射する反射層としてAg膜を用いることも考えられる。しかしながら、蛍光の反射膜としてAg膜を用いた場合、蛍光体内の熱や光によってAgが凝集し、膜が不均一となり、反射率が低下することで蛍光の取り出し効率が低下してしまう。また、反射膜の耐久性も低下してしまう。
【0006】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであり、蛍光の取り出し効率の低下を抑制した、波長変換素子及び波長変換素子の製造方法を提供することを目的の1つとする。また、当該波長変換素子を備えた光源装置を提供することを目的の1つとする。また、当該光源装置を備えたプロジェクターを提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1態様に従えば、励起光が入射する第1面と、前記第1面に対向する第2面を有する波長変換層と、前記第2面に対向して設けられ、第1の無機酸化物を含有する第1層と、前記第1層に対向して設けられ、第1の金属または前記第1の無機酸化物とは異なる第2の無機酸化物を含有する第2層と、前記第2層に対向して設けられ、銀またはアルミニウムのいずれか一方を含有し、前記励起光が前記波長変換層により波長変換された光または前記励起光を反射する第3層と、を備え、前記波長変換層は、内部に気孔を含み、前記第2面は、凹部を有し、前記第1層の一部は、前記凹部に設けられる波長変換素子が提供される。
【0008】
第1態様に係る波長変換素子によれば、第3層における励起光の入射側の面に第2層が設けられるため、第2層によって第3層の劣化が低減される。そのため、第3層は劣化に伴う反射率の低下が起こり難いので、波長変換された光のうち第3層に入射した成分を良好に反射して波長変換層から射出させることができる。よって、波長変換した光の取り出し効率の低下を抑制できる。
【0009】
上記第1態様において、前記第3層に対向して設けられ、前記第1の金属または前記第1の金属とは異なる第2の金属を含有する第4層と、前記第4層に対向して設けられ、前記第1の無機酸化物または前記第2の無機酸化物を含有する第5層と、をさらに備えるのが好ましい。
【0010】
この構成によれば、第3層の保護性能が向上させることができる。
【0011】
上記第1態様において、基材をさらに備え、前記第3層と前記基材との間に設けられる接合材により、前記波長変換層、前記第1層、前記第2層および前記第3層の積層体と前記基材とが固定されるのが好ましい。
【0012】
この構成によれば、波長変換層で発生した熱は、第3層を介して基材側へと伝達される。よって、波長変換素子の放熱性が高くなるので、波長変換素子の発光効率の低下を低減できる。
【0013】
上記第1態様において、前記第2層の前記第1の金属は、Al、Ni、Ti、W、Nbから選択される少なくとも1種の金属を含有するのが好ましい。
【0014】
この構成によれば、第3層の劣化を抑制する構成を実現できる。
【0015】
上記第1態様において、前記第2層の前記第2の無機酸化物は、酸化物導電体材料またはアモルファス導電性酸化物であることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、第2層が光透過性を有するので、第3層に励起光を効率よく入射させつつ、第3層の劣化を抑制する構成を実現できる。
【0017】
上記第1態様において、前記第3層と前記第4層との間に、前記第1の金属または前記第2の無機酸化物を含有する第6層をさらに備えるのが好ましい。
【0018】
この構成によれば、第6層を備えることで、第3層の劣化をより低減できる。
【0019】
上記第1態様において、前記第6層の前記第1の金属は、Al、Ni、Ti、W、Nbから選択される少なくとも1種の金属を含有するのが好ましい。
【0020】
この構成によれば、第1の金属によって第3層の劣化をより低減させる構成を実現できる。
【0021】
上記第1態様において、前記第6層の前記第2の無機酸化物は、酸化物導電体材料またはアモルファス導電性酸化物であることが好ましい。
【0022】
この構成によれば、第2の無機酸化物によって第3層の劣化をより低減させる構成を実現できる。
【0023】
本発明の第2態様に従えば、上記第1態様に係る波長変換素子と、前記励起光を射出する光源と、を備える光源装置が提供される。
【0024】
第2態様に係る光源装置によれば、蛍光YLの取り出し効率の低下を抑制した光源装置を提供することができる。
【0025】
本発明の第3態様に従えば、上記第2態様に係る光源装置と、前記光源装置からの光を画像情報に応じて変調することにより画像光を形成する光変調装置と、前記画像光を投写する投写光学系と、を備えるプロジェクターが提供される。
【0026】
第3態様に係るプロジェクターは上記第2態様に係る光源装置を備えるので、高輝度な画像を形成することができる。
【0027】
本発明の第4態様に従えば、互いに対向する第1面及び第2面を有する波長変換層の前記第2面に、第1の無機酸化物を含有する第1層を、直接接触して形成する第2工程と、
前記第1層に、第1の金属または前記第1の無機酸化物とは異なる第2の無機酸化物を含有する第2層を、直接接触して形成する第3工程と、
前記第2層に、銀またはアルミニウムのいずれか一方を含有し、励起光が前記波長変換層により波長変換された光または前記励起光を反射する第3層を、直接接触して形成する第4工程と、を備える波長変換素子の製造方法が提供される。
【0028】
第4態様に係る波長変換素子の製造方法によれば、波長変換した光の取り出し効率の低下を抑制した波長変換素子を製造できる。
【0029】
上記第4態様において、前記第1層は、第1無機酸化物層及び第2無機酸化物層を含み、前記第2工程は、前記第2面上に化学蒸着法を用いて前記第1無機酸化物層を形成する第1形成工程と、前記第1無機酸化物層上に物理蒸着法を用いて前記第2無機酸化物層を形成する第2形成工程とを含むのが好ましい。
【0030】
この構成によれば、化学蒸着法を用いて第1無機酸化物層を形成することで、例えば、第2面に凹部が形成されている場合でも、該凹部内に第1無機酸化物層を形成することができる。これにより、凹部の凹凸の影響が小さくなるので、第2面上に形成された第1無機酸化物層の表面をフラットな面にすることができる。また、第1全反射層上に、金属膜、酸化物膜などの種々の成膜に適用可能な物理蒸着法を用いて第2無機酸化物層を形成するので、第2無機酸化物層の成膜に続けて第1層を構成する他の膜の成膜を効率的に行うことができる。
【0031】
また、前記第1無機酸化物層及び前記第2無機酸化物層の材料としてSiO2を用いるのがより望ましい。
このようにすれば、第1無機酸化物層及び第2無機酸化物層が同じ材料で形成されるので、第1無機酸化物層及び第2無機酸化物層間の密着力をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】第一実施形態に係るプロジェクターの概略構成を示す図である。
【
図3】波長変換素子の要部構成を示す断面図である。
【
図5A】第一実施形態の変形例に係る波長変換素子の製造工程を示す図である。
【
図5B】第一実施形態の変形例に係る波長変換素子の製造工程を示す図である。
【
図6】第二実施形態の波長変換素子の要部構成を示す断面図である。
【
図7】第三実施形態の波長変換素子の要部構成を示す断面図である。
【
図8】第四実施形態の波長変換素子の要部構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0034】
(第一実施形態)
まず、本実施形態に係るプロジェクターの一例について説明する。
図1は、本実施形態に係るプロジェクターの概略構成を示す図である。
図1に示すように、本実施形態のプロジェクター1は、スクリーンSCR上にカラー映像を表示する投射型画像表示装置である。プロジェクター1は、照明装置2と、色分離光学系3と、光変調装置4R,光変調装置4G,光変調装置4Bと、合成光学系5と、投写光学系6とを備えている。
【0035】
色分離光学系3は、照明光WLを赤色光LRと、緑色光LGと、青色光LBとに分離する。色分離光学系3は、第1のダイクロイックミラー7a及び第2のダイクロイックミラー7bと、第1の全反射ミラー8a、第2の全反射ミラー8b及び第3の全反射ミラー8cと、第1のリレーレンズ9a及び第2のリレーレンズ9bとを概略備えている。
【0036】
第1のダイクロイックミラー7aは、照明装置2からの照明光WLを赤色光LRと、その他の光(緑色光LG及び青色光LB)とに分離する。第1のダイクロイックミラー7aは、分離された赤色光LRを透過すると共に、その他の光(緑色光LG及び青色光LB)を反射する。一方、第2のダイクロイックミラー7bは、緑色光LGを反射すると共に青色光LBを透過することによって、その他の光を緑色光LGと青色光LBとに分離する。
【0037】
第1の全反射ミラー8aは、赤色光LRの光路中に配置されて、第1のダイクロイックミラー7aを透過した赤色光LRを光変調装置4Rに向けて反射する。一方、第2の全反射ミラー8b及び第3の全反射ミラー8cは、青色光LBの光路中に配置されて、第2のダイクロイックミラー7bを透過した青色光LBを光変調装置4Bに導く。緑色光LGは、第2のダイクロイックミラー7bから光変調装置4Gに向けて反射される。
【0038】
第1のリレーレンズ9a及び第2のリレーレンズ9bは、青色光LBの光路中における第2のダイクロイックミラー7bの後段に配置されている。
【0039】
光変調装置4Rは、赤色光LRを画像情報に応じて変調し、赤色光LRに対応した画像光を形成する。光変調装置4Gは、緑色光LGを画像情報に応じて変調し、緑色光LGに対応した画像光を形成する。光変調装置4Bは、青色光LBを画像情報に応じて変調し、青色光LBに対応した画像光を形成する。
【0040】
光変調装置4R,光変調装置4G,光変調装置4Bには、例えば透過型の液晶パネルが用いられている。また、液晶パネルの入射側及び射出側各々には、偏光板(図示せず。)が配置されている。
【0041】
また、光変調装置4R,光変調装置4G,光変調装置4Bの入射側には、それぞれフィールドレンズ10R,フィールドレンズ10G,フィールドレンズ10Bが配置されている。フィールドレンズ10R,フィールドレンズ10G,フィールドレンズ10Bは、光変調装置4R,光変調装置4G,光変調装置4Bそれぞれに入射する赤色光LR,緑色光LG,青色光LBそれぞれを平行化する。
【0042】
合成光学系5には、光変調装置4R,光変調装置4G,光変調装置4Bからの画像光が入射する。合成光学系5は、各々が赤色光LR,緑色光LG,青色光LBに対応した画像光を合成し、この合成された画像光を投写光学系6に向けて射出する。合成光学系5には、例えばクロスダイクロイックプリズムが用いられている。
【0043】
投写光学系6は、投射レンズ群からなり、合成光学系5により合成された画像光をスクリーンSCRに向けて拡大投射する。これにより、スクリーンSCR上には、拡大されたカラー映像が表示される。
【0044】
(照明装置)
続いて、本発明の一実施形態に係る照明装置2について説明する。
図2は照明装置2の概略構成を示す図である。
図2に示すように、照明装置2は、光源装置2Aと、インテグレーター光学系31と、偏光変換素子32と、重畳レンズ33aとを備えている。本実施形態において、インテグレーター光学系31と重畳レンズ33aとは重畳光学系33を構成している。
【0045】
光源装置2Aは、アレイ光源21Aと、コリメーター光学系22と、アフォーカル光学系23と、第1の位相差板28aと、偏光分離素子25と、第1の集光光学系26と、波長変換素子40と、第2の位相差板28bと、第2の集光光学系29と、拡散反射素子30とを備える。
【0046】
アレイ光源21Aと、コリメーター光学系22と、アフォーカル光学系23と、第1の位相差板28aと、偏光分離素子25と、第2の位相差板28bと、第2の集光光学系29と、拡散反射素子30とは、光軸ax1上に順次並んで配置されている。一方、波長変換素子40と、第1の集光光学系26と、偏光分離素子25と、インテグレーター光学系31と、偏光変換素子32と、重畳レンズ33aとは、照明光軸ax2上に順次並んで配置されている。光軸ax1と照明光軸ax2とは、同一面内にあり、互いに直交する。
【0047】
アレイ光源21Aは、固体光源としての複数の半導体レーザー211を備える。複数の半導体レーザー211は光軸ax1と直交する面内において、アレイ状に並んで配置されている。半導体レーザー211は、例えば青色の光線BL(例えばピーク波長が460nmのレーザー光)を射出する。アレイ光源21Aは、複数の光線BLからなる光線束を射出する。本実施形態において、アレイ光源21Aは特許請求の範囲の「光源」に相当する。
【0048】
アレイ光源21Aから射出された光線BLは、コリメーター光学系22に入射する。コリメーター光学系22は、アレイ光源21Aから射出された光線BLを平行光に変換する。コリメーター光学系22は、例えばアレイ状に並んで配置された複数のコリメーターレンズ22aから構成されている。複数のコリメーターレンズ22aは、複数の半導体レーザー211に対応して配置されている。
【0049】
コリメーター光学系22を通過した光線BLは、アフォーカル光学系23に入射する。アフォーカル光学系23は、光線BLの光束径を調整する。アフォーカル光学系23は、例えば凸レンズ23a,凹レンズ23bから構成されている。
【0050】
アフォーカル光学系23を通過した光線BLは第1の位相差板28aに入射する。第1の位相差板28aは、例えば回転可能とされた1/2波長板である。半導体レーザー211から射出された光線BLは直線偏光である。第1の位相差板28aの回転角度を適切に設定することにより、第1の位相差板28aを透過する光線BLを、偏光分離素子25に対するS偏光成分とP偏光成分とを所定の比率で含む光線とすることができる。第1の位相差板28aを回転させることにより、S偏光成分とP偏光成分との比率を変化させることができる。
【0051】
第1の位相差板28aを通過することで生成されたS偏光成分とP偏光成分とを含む光線BLは偏光分離素子25に入射する。偏光分離素子25は、例えば波長選択性を有する偏向ビームスプリッターから構成されている。偏光分離素子25は、光軸ax1及び照明光軸ax2に対しても45°の角度をなしている。
【0052】
偏光分離素子25は、光線BLを、偏光分離素子25に対するS偏光成分の光線BLsとP偏光成分の光線BLpとに分離する偏光分離機能を有している。具体的に、偏光分離素子25は、S偏光成分の光線BLsを反射させ、P偏光成分の光線BLpを透過させる。
【0053】
また、偏光分離素子25は光線BLとは波長帯が異なる蛍光YLを、その偏光状態にかかわらず透過させる色分離機能を有している。
【0054】
偏光分離素子25から射出されたS偏光の光線BLsは、第1の集光光学系26に入射する。第1の集光光学系26は、光線BLsを波長変換素子40に向けて集光させる。
【0055】
本実施形態において、第1の集光光学系26は、例えば第1レンズ26a及び第2レンズ26bから構成されている。第1の集光光学系26から射出された光線BLsは、波長変換素子40に集光した状態で入射する。
【0056】
波長変換素子40で生成された蛍光YLは、第1の集光光学系26で平行化された後、偏光分離素子25に入射する。蛍光YLは、偏光分離素子25を透過する。
【0057】
一方、偏光分離素子25から射出されたP偏光の光線BLpは、第2の位相差板28bに入射する。第2の位相差板28bは、偏光分離素子25と拡散反射素子30との間の光路中に配置された1/4波長板から構成されている。したがって、偏光分離素子25から射出されたP偏光の光線BLpは、この第2の位相差板28bによって、例えば、右回り円偏光の青色光BLc1に変換された後、第2の集光光学系29に入射する。
第2の集光光学系29は、例えば凸レンズ29a,29bから構成され、青色光BLc1を集光させた状態で拡散反射素子30に入射させる。
【0058】
拡散反射素子30は、偏光分離素子25における蛍光体層42の反対側に配置され、第2の集光光学系29から射出された青色光BLc1を偏光分離素子25に向けて拡散反射させる。拡散反射素子30としては、青色光BLc1をランバート反射させつつ、且つ、偏光状態を乱さないものを用いることが好ましい。
【0059】
以下、拡散反射素子30によって拡散反射された光を青色光BLc2と称する。本実施形態によれば、青色光BLc1を拡散反射させることで略均一な照度分布の青色光BLc2が得られる。例えば、右回り円偏光の青色光BLc1は左回り円偏光の青色光BLc2として反射される。
【0060】
青色光BLc2は第2の集光光学系29によって平行光に変換された後に再び第2の位相差板28bに入射する。
【0061】
左回り円偏光の青色光BLc2は、第2の位相差板28bによってS偏光の青色光BLs1に変換される。S偏光の青色光BLs1は、偏光分離素子25によってインテグレーター光学系31に向けて反射される。
【0062】
これにより、青色光BLs1は、偏光分離素子25を透過した蛍光YLと共に、照明光WLとして利用される。すなわち、青色光BLs1及び蛍光YLは、偏光分離素子25から互いに同一方向に向けて射出され、青色光BLs1と蛍光(黄色光)YLとが混ざった白色の照明光WLが生成される。
【0063】
照明光WLは、インテグレーター光学系31に向けて射出される。インテグレーター光学系31は、例えば、レンズアレイ31a,レンズアレイ31bから構成されている。レンズアレイ31a,31bは、複数の小レンズがアレイ状に配列されたものからなる。
【0064】
インテグレーター光学系31を透過した照明光WLは、偏光変換素子32に入射する。偏光変換素子32は、偏光分離膜と位相差板とから構成されている。偏光変換素子32は、非偏光の蛍光YLを含む照明光WLを直線偏光に変換する。
【0065】
偏光変換素子32を透過した照明光WLは、重畳レンズ33aに入射する。重畳レンズ33aはインテグレーター光学系31と協同して、被照明領域における照明光WLによる照度の分布を均一化する。このようにして、照明装置2は照明光WLを生成する。
【0066】
(波長変換素子)
波長変換素子40は、
図2に示すように、基材41及び蛍光体層42を備え、回転しない固定型の構成となっている。基材41は、第1の集光光学系26側となる第1面41aと、第1面41aとは反対側となる第2面41bとを有している。波長変換素子40は、第1面41aと蛍光体層42との間に設けられた反射部材43と、第2面41bに設けられた放熱部材44と、をさらに備える。本実施形態において、蛍光体層42は特許請求の範囲に記載の「波長変換層」に相当する。
【0067】
基材41の材料としては、熱伝導性が高く放熱性に優れた材料を用いることが好ましく、例えば、アルミニウム、銅等の金属、窒化アルミ、アルミナ、サファイア、ダイヤモンド等のセラミクスが挙げられる。本実施形態では、銅を用いて基材41を形成した。
【0068】
本実施形態において、蛍光体層42は、基材41の第1面41a上に後述する接合材を介して保持される。蛍光体層42は、入射された光の一部を蛍光YLに変換して射出する。また、反射部材43は、蛍光体層42から入射した光を第1の集光光学系26に向けて反射させる。
【0069】
放熱部材44は、例えば、ヒートシンクから構成され、複数のフィンを有した構造からなる。放熱部材44は、基材41における蛍光体層42と反対側の第2面41bに設けられている。なお、放熱部材44は例えば金属ろうによる接合(金属接合)によって基材41に固定される。波長変換素子40では、この放熱部材44を介して放熱できるため、蛍光体層42の熱劣化を防ぐことができる。
【0070】
本実施形態において、反射部材43は複数の膜を積層した多層膜から構成されている。
図3は波長変換素子40の要部構成を示す断面図である。具体的に、
図3は反射部材43の断面を示す図である。なお、
図3では放熱部材44の図示を省略した。以下、第1の集光光学系26から射出され、蛍光体層42に入射する光線BLsを励起光BLsと称す。
【0071】
図3に示すように、蛍光体層42は、励起光BLsが入射されるとともに、蛍光YLが射出される光入射面42Aと、当該光入射面42Aに対向する面、すなわち、反射部材43が設けられる底面42Bとを備える。本実施形態において、蛍光体層42は特許請求の範囲に記載の「波長変換層」に相当し、光入射面42Aは特許請求の範囲に記載の「第1面」に相当し、底面42Bは特許請求の範囲に記載の「第2面」に相当する。
【0072】
本実施形態において、蛍光体層42は、蛍光体粒子を焼成することで形成されたセラミックス蛍光体である。蛍光体層42を構成する蛍光体粒子として、Ceイオンを含んだYAG(Yttrium Aluminum Garnet)蛍光体が用いられる。
【0073】
なお、蛍光体粒子の形成材料は、1種であってもよいし、2種以上の材料を用いて形成された粒子が混合されたものが用いられてもよい。蛍光体層42として、アルミナ等の無機バインダー中に蛍光体粒子を分散させた蛍光体層、無機材料であるガラスバインダーと蛍光体粒子とを焼成することで形成された蛍光体層などが好適に用いられる。また、バインダーを用いることなく蛍光体粒子を焼成することにより、蛍光体層を形成しても良い。
【0074】
反射部材43は、蛍光体層42の底面42B側に設けられる。反射部材43が形成された蛍光体層42は接合材55を介して基材41に接合されている。接合材55としては、例えば、ナノ銀ペーストが用いられる。なお、接合材55としては、例えば、金属ろうによる金属接合を用いても良い。
【0075】
本実施形態の反射部材43は、蛍光体層42の底面42B側から順に、多層膜50と、劣化防止膜51と、反射層52と、第1保護層53aと、第2保護層53bと、接合補助層54とを積層して構成される。
【0076】
多層膜50は、無機酸化物(第1の無機酸化物)を含有する層であり、蛍光体層42で生成された蛍光YLの臨界角以上の角度の光を全反射する全反射層50aと、増反射層50b、50c、50dとを含む。増反射層50b、50c、50dは、増反射効果を奏するためのものであり、蛍光YLの取り出し効率を向上させる。多層膜50は特許請求の範囲に記載の「第1層」に相当する。多層膜50(全反射層50a)は、蛍光体層42の底面42Bに当接または積層して設けられる。
【0077】
本実施形態において、全反射層50aとして、例えばSiO2を用いた。SiO2を用いることで蛍光YLを良好に全反射させることができる。
【0078】
また、増反射層50bとしてはTiO2、増反射層50cとしてはSiO2、増反射層50dとしてはAl2O3を用いた。
【0079】
本実施形態において、劣化防止膜51は金属を含有する層からなる。劣化防止膜51は、後述するように反射層52の劣化を抑制するためのものである。劣化防止膜51は特許請求の範囲に記載の「第2層」に相当する。
【0080】
本実施形態において、劣化防止膜51は、例えば、Al、Ni、Ti、W、Nbから選択される少なくとも1種の金属(第1の金属)を含有する。本実施形態では、劣化防止膜51の材料としてTiを用いた。膜厚としては、例えば0.1nm~5nm程度に設定される。膜厚が0.1nmより薄いと、反射層52の劣化抑制効果が低下し、膜厚が5nmより厚くなると透過率が低下するためである。
【0081】
反射層52は、蛍光体層42で生成され、底面42B側に向かう蛍光YLの一部を光入射面42A側に向けて反射する。また、反射層52は、蛍光体層42に入射し蛍光YLに変換されずに反射部材43に入射した励起光BLsを反射して蛍光体層42内に戻す。これにより、蛍光YLを効率良く生成できる。反射層52は特許請求の範囲に記載の「第3層」に相当する。
【0082】
反射層52の材料としては、AgまたはAlを用いた。本実施形態では、より高い反射率を得るAgを反射層52の材料として用いた。なお、反射層52にAgを用いる場合には、劣化防止膜51は、例えば、Al、Ni、Ti、W、Nbから選択される少なくとも1種の金属を含有する。また、反射層52にAlを用いる場合には、劣化防止膜51は、例えば、Ni、Ti、W、Nbから選択される少なくとも1種の金属を含有する。
【0083】
本実施形態において、劣化防止膜51を構成する元素(Ti)の凝集エネルギーは、反射層52を構成する元素(Ag)の凝集エネルギーよりも大きくなっている。ここで、凝集エネルギーが大きいとは、凝集を生じさせるためにより大きなエネルギーが必要になることを意味する。
【0084】
凝集エネルギーの大きいTiが光入射側に形成された反射層52は、Tiの作用によって熱によるAg原子のマイグレーションが起こり難くなるので、マイグレーションによる凝集の発生が低減される。すなわち、反射層52は、凝集の発生に伴う反射率の低下及び耐久性の低下が抑制されたものとなる。本実施形態の反射部材43によれば、劣化防止膜51を備えるので、反射層52の劣化を低減することができる。
【0085】
第1保護層53a及び第2保護層53bは反射層52の保護機能を有する。第1保護層53aは、金属を含有する膜からなる。第1保護層53aは、例えば、Ni膜からなり、反射層52(Ag膜)の結晶化を促進し、耐久性を向上させることができる。
なお、第1保護層53aは、劣化防止膜51と同じ金属を含有する膜から形成されていても良い。すなわち、劣化防止膜51の材料としてTiを用いる場合、第1保護層53aの材料としてTiを用いていてもよい。
【0086】
また、第2保護層53bは、無機酸化物を含有する層からなる。第2保護層53bは、例えば、Al2O3からなり、反射層52(Ag膜)の酸化抑制と後述する接合補助層54との密着性を向上させることができる。
なお、第2保護層53bは、多層膜50の材料として、SiO2、TiO2、Al2O3を用いた場合に、これらの材料とは異なる材料を用いて構成してもよい。
本実施形態において、第1保護層53aは特許請求の範囲に記載の「第4層」に相当し、第2保護層53bは特許請求の範囲に記載の「第5層」に相当する。
【0087】
接合補助層54は、接合材55による反射部材43及び基材41の接合に対する信頼性を向上させる。接合補助層54としては、例えば、Ag層を用いることで、反射部材43と基材41との間における熱伝導性を向上させることができる。
【0088】
図4は蛍光体層42の要部構成を示す断面図である。
図4に示すように、本実施形態において、蛍光体層42は、内部に設けられた複数の気孔42cを有している。これにより、蛍光体層42は、複数の気孔42cにより光散乱特性を有したものとなっている。
【0089】
複数の気孔42cの一部は、蛍光体層42の表面(底面42B)に形成されるため、蛍光体層42の底面42Bには気孔42cによる凹部42dが生じる。本実施形態の波長変換装置20は、凹部42dを封孔する透明部材45を有している。
【0090】
透明部材45の材料としては、透光性を有する無機材料、例えば、アルミナ、Y3Al5O12、YAlO3、二酸化ジルコニア、Lu3Al5O12、SiO2(ガラスペースト)や嫌気性の接着剤が用いられる。本実施形態では、透明部材45の材料として、蛍光体層42の底面22Bに形成される反射部材43と同一の材料を用いることが望ましい。
【0091】
具体的に、透明部材45の材料として、例えば、全反射層50aと同一のSiO2を用いることができる。このようにすれば、透明部材45と全反射層50a(反射部材43の第1層)とを同一のプロセスで形成することができる。
【0092】
上述したように反射部材43は蛍光体層42の底面42Bに複数の層を成膜することで構成される。ここで、仮に底面42Bの平坦度が低い場合、反射部材43を構成する各層を良好に成膜することが難しくなる。底面42Bに対して反射部材43を良好に成膜できないと、蛍光YLを光入射面42Aに向けて反射できず、蛍光YLの取り出し効率が低下してしまう。
【0093】
これに対し、本実施形態の波長変換素子40では、透明部材45により凹部42dを封孔することで底面42B上を略平坦化な面としている。ここで、略平坦な面とは、蒸着等によって反射部材43が底面42B上に良好に成膜できる程度の平面度を意味し、反射部材43を成膜可能な程度の凹凸については許容される。
【0094】
本実施形態において、透明部材45は全反射層50aと同一の材料から構成される。そのため、透明部材45と全反射層50a(反射部材43)とは一体に形成される。
【0095】
本実施形態の波長変換素子40は、例えば以下に示す製造方法により製造される。
まず、蛍光体層42を構成する蛍光体粒子及び有機物からなる混合物を調整し、当該混合物を所定の温度にて焼成する。
【0096】
焼成によって、有機物が蒸発し、
図4に示すように、複数の気孔42cを含み、蛍光体からなる蛍光体層42が形成される。なお、気孔42cの大きさ或いは数は、焼成温度や有機物の材質等で調整可能である。
【0097】
続いて、蛍光体層42の両面を研削研磨し、光入射面42Aと底面42Bとを有した蛍光体層42を形成する。研削研磨により気孔42cの一部が外部に露出し、蛍光体層42の底面42Bには凹部42dが形成される。
【0098】
続いて、底面42Bにスピンコート法によりガラスペースト(SiO2)を塗布する。これにより、ガラスペーストは、凹部42dを埋め込んだ状態で底面42Bの全面に塗布される。
【0099】
そして、ガラスペーストを焼成することで、
図4に示すように底面42B上に、凹部42dを封孔する透明部材45および該透明部材45と一体形成された全反射層50aが成膜される。なお、底面42B上にガラスペーストを塗布する方法はスピンコート法に限定されることはなく、ドクターブレード法を用いてもよい。
【0100】
このように透明部材45により凹部42dを封孔することで底面42B(全反射層50a)の表面を略平坦な面とすることができる。なお、ガラスペーストを焼成させる際の温度は、蛍光体粒子及び有機物からなる混合物を焼成させる際の温度よりも低い。
【0101】
続いて、全反射層50a上に蒸着やスパッタリング等によって各層を順次成膜することで反射部材43を形成する。なお、全反射層50aは上述のように略平坦面となっているため、底面42B上に反射部材43を均一に成膜することができる。
【0102】
続いて、反射部材43及び蛍光体層42の積層体と基材41とを接合材55を介して固定する。最後に、基材41における蛍光体層42と反対側の面に放熱部材44を固定することで波長変換素子40が製造される。
なお、上記製造方法においては、蛍光体層42を構成する蛍光体粒子及び無機物からなる混合物を調整し、当該混合物を所定の温度にて焼成しても良いし、蛍光体層42を構成する蛍光体粒子のみを所定の温度にて焼成しても良い。
【0103】
以上説明したように、本実施形態の波長変換素子40によれば、劣化防止膜51によってAg膜からなる反射層52の凝集による劣化が抑制される。そのため、反射層52は劣化に伴う反射率の低下が起こり難いので、蛍光体層42で生成された蛍光YLのうち底面42B側に入射した成分を良好に反射して光入射面42Aから射出させることができる。よって、蛍光YLの取り出し効率の低下を抑制することができる。
【0104】
また、本実施形態では、反射層52を保護する第1保護層53aを構成する金属膜としてNi膜を用いることで、反射層52(Ag膜)の結晶化を促進し、耐久性を向上させることができる。
【0105】
また、本実施形態では、反射層52を保護する第2保護層53bを構成する無機酸化物としてAl2O3を用いることで、反射層52(Ag膜)の酸化抑制と後述する接合補助層54との密着性を向上させることができる。
【0106】
また、本実施形態では、蛍光体層42の凹部42dを透明部材45で埋めることで底面42Bの全域に亘って反射部材43が均一に形成されている。そのため、蛍光体層42で生成された蛍光YLのうち底面42B側に入射した成分は反射部材43によって良好に反射されて光入射面42Aから射出される。よって、蛍光YLの取り出し効率を高くすることができる。
【0107】
また、底面42Bが略平坦面となるため、蛍光体層42と反射部材43との接触面積を増加させることができる。これにより、蛍光体層42で発生した熱は反射部材43へと効率良く伝達される。また、蛍光体層42で発生した熱は、反射部材43を介して基材41及び放熱部材44側へと伝達される。よって、蛍光体層42の放熱性が高くなる。
【0108】
このように蛍光体層42の放熱性が高くなることによって、放熱部材44を小型化できるため、波長変換素子40を小型化できる。
【0109】
また、本実施形態の波長変換素子40によれば、蛍光体層42の放熱性を高めることで、蛍光体層42の温度上昇が低減され、蛍光体層42の発光効率の低下を低減できる。
よって、この波長変換素子40を備えた光源装置2Aは、蛍光YLの取り出し効率の低下を抑制した光源装置を提供することができる。
また、本実施形態のプロジェクター1によれば、上記光源装置2Aを用いた照明装置2を備えるため、当該プロジェクター1は高輝度な画像を形成できる。
【0110】
(第一実施形態の変形例)
続いて、第一実施形態の波長変換素子40の製造方法の変形例について説明する。上記実施形態と共通の部材については同じ符号を付し、詳細な説明については省略する。
【0111】
まず、蛍光体層42(波長変換層)を形成する(第1工程)。
具体的に、蛍光体層42を構成する蛍光体粒子及び有機物からなる混合物を調整し、当該混合物を所定の温度にて焼成する。
【0112】
焼成によって、有機物が蒸発し、
図4に示したように、複数の気孔42cを含み、蛍光体からなる蛍光体層42が形成される。なお、気孔42cの大きさ或いは数は、焼成温度や有機物の材質等で調整可能である。
【0113】
続いて、蛍光体層42の両面を研削研磨し、光入射面42Aと底面42Bとを有した蛍光体層42を形成する。研削研磨により気孔42cの一部が外部に露出し、蛍光体層42の底面42Bには凹部42dが形成される。以上により、蛍光体層42の形成工程が終了する。
【0114】
続いて、多層膜50(第1層)を形成する(第2工程)。
本変形例において、第2工程は、蛍光体層42の底面42B上に化学蒸着法を用いて第1無機酸化物層を形成する第1形成工程と、第1全反射層上に物理蒸着法を用いて第2無機酸化物層を形成する第2形成工程とを含む。
【0115】
具体的に、第1形成工程において、蛍光体層42の底面42B上に化学蒸着(Chemical Vapor Deposition;CVD)によって、SiO2を成膜する。CVD装置では、チャンバー内の圧力に応じて原料密度を高くできるため、適度にチャンバー内の圧力を高めることで成膜速度を向上させることができる。また、CVDによる成膜では、気相中での衝突によって原料分子の方向性が無くなる。
【0116】
これにより、CVDによって成膜されたSiO
2は、
図5Aに示したように、底面42B上に、凹部42d内に入り込むとともに底面42Bを覆うように形成された第1全反射層50a1(SiO
2)を形成する。このようにCVDによる成膜を行うことで凹部42d内に第1全反射層50a1が設けられて、凹部42dの凹凸の影響が小さくなる。よって、底面42B上に形成される第1全反射層50a1の表面を略平坦な面(フラットな面)とすることができる。
【0117】
本変形例において、第1全反射層50a1の膜厚は600nm以上とするのが好ましい。このように膜厚を600nm以上とすることで、第1全反射層50a1は全反射により蛍光YLを光入射面42Aから効率良く射出させることができる。また、第1全反射層50a1が凹部42dに入り込むことで、凹部42dの影響を低減することができる。
【0118】
続いて、第2形成工程において、
図5Bに示すように、第1全反射層50a1上に、物理蒸着(Physical Vapor Deposition;PVD)によって、第2全反射層50a2(SiO
2)を成膜することで全反射層50aが形成される。
【0119】
なお、第2全反射層50a2の膜厚は、第2全反射層50a2に当接する多層膜50の他の層(増反射層50b,50c,50d)によって適宜調整される。
【0120】
本変形例において、全反射層50aは、第1全反射層50a1及び第2全反射層50a2を含む。第1全反射層50a1は特許請求の範囲に記載の「第1無機酸化物層」に相当し、第2全反射層50a2は特許請求の範囲に記載の「第2無機酸化物層」に相当する。
【0121】
本変形例において、第1全反射層50a1の表面が略平坦面となっているため、第2全反射層50a2の表面も略平坦面とすることができる。
また、本変形例においては、主成分が同じ材料を用いて、第1全反射層50a1及び第2全反射層50a2を形成するようにしている。具体的に、第1全反射層50a1及び第2全反射層50a2の材料としてSiO2を用いた。このように第1全反射層50a1と第2全反射層50a2とを同じ材料(SiO2)で形成することで、第1全反射層50a1および第2全反射層50a2間の密着力を高めることができる。
【0122】
そして、第2全反射層50a2上に、PVD(例えば、蒸着やスパッタリング等)によって各層(
図3に示した、劣化防止膜51、反射層52、第1保護層53a、第2保護層53b及び接合補助層54)を順次成膜することで反射部材43を形成する(第3工程、第4工程)。なお、第2全反射層50a2は上述のように略平坦面となっているため、底面42B上に反射部材43を均一に成膜することができる。
【0123】
続いて、反射部材43及び蛍光体層42の積層体と基材41とを接合材55を介して固定する。最後に、基材41における蛍光体層42と反対側の面に放熱部材44を固定することで波長変換素子40が製造される。
なお、上記製造方法においては、蛍光体層42を構成する蛍光体粒子及び無機物からなる混合物を調整し、当該混合物を所定の温度にて焼成しても良いし、蛍光体層42を構成する蛍光体粒子のみを所定の温度にて焼成しても良い。
【0124】
以上説明したように、本変形例に係る波長変換素子40の製造方法によれば、CVDを用いて第1全反射層50a1を形成することで、凹部42d内に透明部材45(SiO2)を形成することができる。
【0125】
また、本変形例において、全反射層50a(第1全反射層50a1および第2全反射層50a2)を同じ材料(SiO2)で形成することで、第1全反射層50a1および第2全反射層50a2間の密着力を高めることができる。よって、第1実施形態に記載した効果をより一層高めることができる。
【0126】
また、第1全反射層50a1を成膜した後、PVDによって第2全反射層50a2(SiO2)を形成するので、第2全反射層50a2の成膜に続いて反射部材43を構成する各層の成膜を効率的に行うことができる。これは、PVDによれば、SiO2のほか、Ag反射膜を含む金属膜、酸化物膜などの種々の成膜が可能であるためである。
【0127】
なお、第1全反射層50a1の材料はSiO2でなくとも良い。例えば、第1全反射層50a1の材料にSiNやSiONを用いても良い。この場合において、第1全反射層50a1及び第2全反射層50a2には、主成分が同じ材料を用いるのが望ましい。例えば、第1全反射層50a1の材料としてSiNを用いる場合、第2全反射層50a2の材料にはSiO2を用いればよい。
【0128】
(第二実施形態)
続いて、本発明の第二実施形態に係る波長変換素子について説明する。上記実施形態と共通の部材については同じ符号を付し、詳細な説明については省略する。
【0129】
図6は本実施形態の波長変換素子140の要部構成を示す断面図である。具体的に、
図6は反射部材143の断面を示す図である。
図6に示すように、波長変換素子140は、基材41の第1面41aと蛍光体層42との間に設けられた反射部材143を備えている。
【0130】
本実施形態の反射部材143は、蛍光体層42の底面42B側から順に、多層膜50と、劣化防止膜151と、反射層52と、第1保護層53aと、第2保護層53bと、接合補助層54とを積層して構成される。
【0131】
本実施形態において、劣化防止膜151は透光性を有する無機酸化物(第2の無機酸化物)として、酸化物導電体材料またはアモルファス導電性酸化物を含有する層からなる。劣化防止膜151は、後述するように反射層52の劣化を抑制するためのものである。劣化防止膜151は特許請求の範囲に記載の「第2層」に相当する。
【0132】
本実施形態において、劣化防止膜151は、酸化物導電体材料またはアモルファス導電性酸化物として、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ;SnO2:F)、ATO(アンチモンドープ酸化錫;SnO2:Sb)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛;ZnO:Al)、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛;ZnO:Ga)、IZO(インジウムドープ酸化亜鉛)、IGO(ガリウムドープ酸化インジウム)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(SnO2)から選択される少なくとも1種の金属を含有する。本実施形態では、劣化防止膜151の材料としてITOを用いた。ITOの膜厚としては、例えば1nm~20nm程度、より好ましくは3~15nm程度に設定される。膜厚が1nmより薄いと、反射層52の劣化抑制効果が低下し、膜厚が20nmより厚くなると透過率が低下するためである。
【0133】
すなわち、本実施形態によれば、劣化防止膜151の光透過性を確保した範囲内で厚さの大きい劣化防止膜151を反射層52上に形成することができる。反射層52は、劣化防止膜151に覆われるため、熱によるAg原子のマイグレーションが起こり難くなる。
【0134】
したがって、反射層52は、マイグレーションによる凝集の発生が低減される。すなわち、反射層52は、凝集の発生に伴う反射率の低下及び耐久性の低下が抑制されたものとなる。本実施形態の反射部材143によれば、劣化防止膜151を備えるため、反射層52の劣化を低減できる。
【0135】
本実施形態の波長変換素子140によれば、劣化に伴う反射層52の反射率低下が起こり難いので、蛍光体層42で生成された蛍光YLを光入射面42Aから良好に射出させることができる。よって、蛍光YLの取り出し効率の低下を抑制できる。
【0136】
本実施形態の劣化防止膜151は、第一実施形態の劣化防止膜51よりも透光性が高いため、劣化防止膜の膜厚範囲を広くできる。すなわち、膜厚を厚くしつつ、反射層52の劣化の低減を図ることができる。
【0137】
(第三実施形態)
続いて、本発明の第三実施形態に係る波長変換素子について説明する。第一実施形態と共通の部材については同じ符号を付し、詳細な説明については省略する。
【0138】
図7は本実施形態の波長変換素子240の要部構成を示す断面図である。具体的に、
図7は反射部材243の断面を示す図である。
図7に示すように、波長変換素子240は、基材41の第1面41aと蛍光体層42との間に設けられた反射部材243を備えている。
【0139】
本実施形態の反射部材243は、蛍光体層42の底面42B側から順に、多層膜50と、第1劣化防止膜251と、反射層52と、第2劣化防止膜252と、第1保護層53aと、第2保護層53bと、接合補助層54とを積層して構成される。
【0140】
本実施形態において、第1劣化防止膜251および第2劣化防止膜252はそれぞれ金属を含有する層からなる。第1劣化防止膜251は特許請求の範囲に記載の「第2層」に相当し、第2劣化防止膜252は特許請求の範囲に記載の「第6層」に相当する。
【0141】
本実施形態において、第1劣化防止膜251および第2劣化防止膜252は、例えば、Al、Ni、Ti、W、Nbから選択される少なくとも1種の金属を含有する。本実施形態では、第1劣化防止膜251および第2劣化防止膜252の材料としてそれぞれTiを用いた。なお、第1劣化防止膜251および第2劣化防止膜252としての材料は互いに異なっていてもよい。
【0142】
本実施形態において、第1劣化防止膜251および第2劣化防止膜252各々を構成する元素(Ti)の凝集エネルギーは、反射層52を構成する元素(Ag)の凝集エネルギーよりも大きくなっている。
【0143】
本実施形態において、反射層52は、光入射側および光射出側に凝集エネルギーの大きいTiが設けられるため、Ag原子のマイグレーションがより起こり難くなる。したがって、第一実施形態の構成に比べて、マイグレーションによる凝集の発生がより低減される。
【0144】
本実施形態の波長変換素子240によれば、蛍光YLの取り出し効率の低下をより抑制し易くなる。
【0145】
(第四実施形態)
続いて、本発明の第四実施形態に係る波長変換素子について説明する。第二実施形態と共通の部材については同じ符号を付し、詳細な説明については省略する。
【0146】
図8は本実施形態の波長変換素子340の要部構成を示す断面図である。具体的に、
図8は反射部材343の断面を示す図である。
図8に示すように、波長変換素子340は、基材41の第1面41aと蛍光体層42との間に設けられた反射部材343を備えている。
【0147】
本実施形態の反射部材343は、蛍光体層42の底面42B側から順に、多層膜50と、第1劣化防止膜351と、反射層52と、第2劣化防止膜352と、第1保護層53aと、第2保護層53bと、接合補助層54とを積層して構成される。
【0148】
本実施形態において、第1劣化防止膜351および第2劣化防止膜352はそれぞれ金属を含有する層からなる。第1劣化防止膜351は特許請求の範囲に記載の「第2層」に相当し、第2劣化防止膜352は特許請求の範囲に記載の「第6層」に相当する。
【0149】
本実施形態において、第1劣化防止膜351および第2劣化防止膜352は、酸化物導電体材料またはアモルファス導電性酸化物として、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ;SnO2:F)、ATO(アンチモンドープ酸化錫;SnO2:Sb)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛;ZnO:Al)、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛;ZnO:Ga)、IZO(インジウムドープ酸化亜鉛)、IGO(ガリウムドープ酸化インジウム)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(SnO2)から選択される少なくとも1種の金属を含有する。
本実施形態では、第1劣化防止膜351および第2劣化防止膜352の材料としてそれぞれITOを用いた。なお、第1劣化防止膜351および第2劣化防止膜352としての材料は互いに異なっていてもよい。
【0150】
本実施形態において、反射層52は、光入射側および光射出側にITO膜が設けられるため、Ag原子のマイグレーションがより起こり難くなる。したがって、第二実施形態の構成に比べて、マイグレーションによる凝集の発生がより低減される。
【0151】
本実施形態の波長変換素子340によれば、蛍光YLの取り出し効率の低下をより抑制し易くなる。
【0152】
なお、本発明は上記実施形態の内容に限定されることはなく、発明の主旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0153】
例えば、上記実施形態では、金属を含有する劣化防止膜51、第1劣化防止膜251および第2劣化防止膜252として、Al、Ni、Ti、W、Nbから選択される少なくとも1種の金属を含有するものを例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、劣化防止膜51、第1劣化防止膜251および第2劣化防止膜252として、Zn-Ag合金、Sn-Ag合金から選択される少なくとも1種の金属(合金)を含有するものを用いてもよい。
【0154】
上記第一実施形態において、第2保護層53bとAg層からなる接合補助層54との間に劣化防止膜51と同様の材料からなる層を配置するようにしてもよい。
上記第二実施形態において、第2保護層53bとAg層からなる接合補助層54との間に劣化防止膜151と同様の材料からなる層を配置するようにしてもよい。
上記第三実施形態において、第2保護層53bとAg層からなる接合補助層54との間に第1劣化防止膜251および第2劣化防止膜252のいずれか一方と同様の材料からなる層を配置するようにしてもよい。
上記第四実施形態において、第2保護層53bとAg層からなる接合補助層54との間に第1劣化防止膜351および第2劣化防止膜352のいずれか一方と同様の材料からなる層を配置するようにしてもよい。
【0155】
また、上記実施形態では本発明による光源装置をプロジェクターに搭載した例を示したが、これに限られない。本発明による光源装置は、照明器具や自動車のヘッドライト等にも適用することができる。
【0156】
(実施例)
本発明者は、実施例と比較例とを比較し、本発明の有効性について確認する実験を行った。実施例1では、蛍光体の代わりにガラス基板を用い、ガラス基板上の一方面に反射部材を形成したものをサンプルとして用いて実験を行った。
【0157】
サンプルとして、反射部材を構成する反射層をAg膜とし、劣化防止膜をAlからなる層とし、その他の層(多層膜、第1保護層、第2保護層および接合補助層)を上記実施形態と同じものとした構成のものを用いた。なお、劣化防止膜の厚さが1nm程度となるように成膜した。
【0158】
また、実施例2では、劣化防止膜をTiとする以外は実施例1と同じ構成のものをサンプルとして用いた。
また、比較例では、上記実施例1、2の構成から劣化抑制膜を省略したものをサンプルとして用いた。
【0159】
そして、実施例1,2および比較例の各サンプルに対し、ガラス基板の他方面側(反射部材を設けた面と反対側)から励起光と同じ波長帯の光を40W/mm2の条件で15時間照射した後、反射部材(反射層)による反射率をそれぞれ測定し、下記表1に結果を示した。なお、3つの波長(青色:465nm、緑色:530nm、赤色:615nm)について反射率をそれぞれ測定し、反射率維持率を算出した。なお、反射率維持率とは、実験開始時における反射率と、実験終了時(15時間経過時)における反射率との比率である。すなわち、反射率維持率が100%とは、反射層が全く劣化していないことを意味する。
【0160】
【0161】
表1に示されるように、比較例では、反射率維持率がいずれの波長においても100%を下回ることが確認できた。これに対し、実施例1,2では、反射率維持率がいずれの波長においても100%を維持できることが確認できた。すなわち、劣化抑制層を用いた実施例1、2によれば、比較例に比べて、反射層の反射性能を維持できることが確認された。これにより、劣化抑制層を用いることで励起光による反射層の劣化を抑制できることが確認された。
【0162】
また、実施例1,2および比較例の各サンプルを、350℃の環境下に72時間放置した後、反射部材(反射層)による反射率をそれぞれ測定し、反射率維持率を算出した結果を下記表2に示した。なお、3つの波長(青色:465nm、緑色:530nm、赤色:615nm)について反射率維持率をそれぞれ算出した。
【0163】
【0164】
表2に示されるように、比較例では、反射率維持率がいずれの波長においても実施例1、2を下回ることが確認できた。また、実施例2は、反射率維持率がいずれの波長においても100%を維持できることが確認できた。
【0165】
すなわち、劣化抑制層を用いた実施例1、2によれば、比較例に比べて、反射層の反射性能を維持できることが確認された。これにより、劣化抑制層を用いることで熱による反射層の劣化を抑制できることが確認された。また、劣化抑制層としてTiを用いれば、反射層の耐熱性がより向上することを確認できた。
【符号の説明】
【0166】
1…プロジェクター、2A…光源装置、4B,4G,4R…光変調装置、6…投写光学系、40,140,240,340…波長変換素子、41…基材、42…蛍光体層(波長変換層)、42A…光入射面(第1面)、42B…底面(第2面)、50…多層膜(第1層)、50a1…第1全反射層50(第1無機酸化物層)、50a2…第2全反射層50(第2無機酸化物層)、51…劣化防止膜(第2層)、52…反射層(第3層)、53a…第1保護層(第4層)、53b…第2保護層(第5層)、55…接合材、251,351…第1劣化防止膜(第2層)、252,352…第2劣化防止膜(第6層)、BLs…励起光。