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特許7167913ウイルスの検査方法およびウイルスの検査用キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】ウイルスの検査方法およびウイルスの検査用キット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6806 20180101AFI20221101BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20221101BHJP
   C12Q 1/6888 20180101ALI20221101BHJP
   C12Q 1/6848 20180101ALI20221101BHJP
【FI】
C12Q1/6806 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6888 Z
C12Q1/6848 Z
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019515186
(86)(22)【出願日】2018-04-02
(86)【国際出願番号】 JP2018014068
(87)【国際公開番号】W WO2018198682
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2017087293
(32)【優先日】2017-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018021711
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】寺内 謙太
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-182112(JP,A)
【文献】国際公開第2012/020759(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/037099(WO,A1)
【文献】特開2011-019505(JP,A)
【文献】特開2002-238565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糞便試料中のエンベロープを持たないRNAウイルスの検査方法であって、糞便試料からのRNA精製、または糞便試料の事前の熱処理のない、以下の工程を含むことを特徴とする糞便試料中のウイルスの存在の有無を検査するためのウイルスの検査方法。
(1)糞便試料と、メタノール、アセトン、トリエチルアミン、及びジメチルスルホキシドよりなる群から選択される少なくとも一種の極性有機溶媒を含む試薬とを混合する工程であって、混合液中における前記極性有機溶媒の有効濃度が40%以上100%未満となるように混合する、工程、
(2)前記混合液に逆転写酵素およびDNAポリメラーゼ、または逆転写活性を有するDNAポリメラーゼを含む1ステップRT-PCR反応液を添加する工程、
(3)反応容器を密閉後、1ステップRT-PCR反応を実施する工程。
【請求項2】
前記工程(1)の混合液中における前記極性有機溶媒の有効濃度が50%以上85%以下である請求項1に記載のウイルスの検査方法。
【請求項3】
前記工程(1)、(2)が同一容器で行われることを特徴とする請求項1又は2に記載のウイルスの検査方法。
【請求項4】
工程(3)において反応容器を密閉後、一度もフタを開閉することなく1ステップRT-PCR反応を実施することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のウイルスの検査方法。
【請求項5】
糞便試料が水、生理食塩水または緩衝液に懸濁された糞便懸濁液である請求項1からのいずれかに記載のウイルスの検査方法。
【請求項6】
糞便試料が糞便懸濁液の遠心上清である請求項1からのいずれかに記載のウイルスの検査方法。
【請求項7】
エンベロープを持たないRNAウイルスがノロウイルスである請求項1からのいずれかに記載のウイルスの検査方法。
【請求項8】
ノロウイルスがG1型かG2型であるかの判別を行うことを特徴とする請求項に記載のウイルスの検査方法。
【請求項9】
DNAポリメラーゼが、TaqおよびTthよりなる群から選択されるいずれかであることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のウイルスの検査方法。
【請求項10】
逆転写酵素の由来が、モロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)およびトリ骨髄芽球症ウイルス(AMV)からなる群より選択されるいずれかであることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のウイルスの検査方法。
【請求項11】
工程(3)における1ステップRT-PCR反応液が、アミノ酸におけるアミノ基に3個のメチル基を付加した構造を有する第4級アンモニウム塩(以下、「ベタイン様4級アンモニウム」という)、0.5mg/ml以上のウシ血清アルブミン、グリセロール、グリコールおよびゼラチンよりなる群から選択された少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
ベタイン様4級アンモニウム塩が、ベタインまたはL-カルニチンである請求項11に記載のウイルスの検査方法。
【請求項13】
試料の処理から1ステップRT-PCR反応が完了するまでの所要時間が1時間以内である請求項1から12のいずれかに記載のウイルスの検査方法。
【請求項14】
前記工程(2)の1ステップRT-PCR反応液に持ち込まれる前記極性有機溶媒の最終濃度が8%以下である請求項1から13のいずれかに記載のウイルスの検査方法。
【請求項15】
メタノール、アセトン、トリエチルアミン、及びジメチルスルホキシドよりなる群から選択される少なくとも一種の極性有機溶媒を含む試薬と、逆転写酵素およびDNAポリメラーゼ、または逆転写活性を有するDNAポリメラーゼと、1ステップRT-PCR反応液とを含み、請求項1から14のいずれかに記載のウイルスの検査方法に用いるための、エンベロープを持たないウイルスの検査用キット。
【請求項16】
前記1ステップRT-PCR反応液が、ベタイン様4級アンモニウム塩、0.5mg/ml以上のウシ血清アルブミン、グリセロール、グリコールおよびゼラチンよりなる群から選択された少なくとも1つを含む請求項15に記載のウイルスの検査用キット。
【請求項17】
検出対象のRNAウイルスの検出領域に対応するプライマー対をさらに含むことを特徴とする請求項15または16に記載のウイルスの検査用キット。
【請求項18】
検出対象のRNAウイルスの検出領域に対応するハイブリダイゼーションプローブをさらに含むことを特徴とする請求項15から17のいずれかに記載のウイルスの検査用キット。
【請求項19】
エンべロープを持たないRNAウイルスがノロウイルスである請求項15から18のいずれかに記載のウイルスの検査用キット。
【請求項20】
ノロウイルスがG1型かG2型であるかの判別を行うことを特徴とする請求項19に記載のウイルスの検査用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸増幅によるウイルスの検出法に関する。より具体的には、試料から核酸の単離や加熱処理をすることなく、試料を極性有機溶媒と混合後、リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)の反応液を加えることによる、例えば糞便試料または環境拭き取り試料などに含まれている、エンベロープを持たないRNAウイルスの検出に関する。本発明は、生命科学研究、臨床診断や食品衛生検査、環境検査等にも利用できる。
【背景技術】
【0002】
核酸増幅法は数コピーの標的核酸を可視化可能なレベル、すなわち数億コピー以上に増幅する技術であり、生命科学研究分野のみならず、遺伝子診断、臨床検査といった医療分野、あるいは、食品や環境中の微生物検査等においても、広く用いられている。
代表的な核酸増幅法は、PCR(Polymerase Chain Reaction)である。PCRは、(1)熱処理によるDNA変性(2本鎖DNAから1本鎖DNAへの解離)、(2)鋳型1本鎖DNAへのプライマーのアニーリング、(3)DNAポリメラーゼを用いた前記プライマーの伸長、という3ステップを1サイクルとし、このサイクルを繰り返すことによって、試料中の標的核酸を増幅する方法である。アニーリングと伸長を同温度で、2ステップで行う場合もある。
【0003】
RNAを分析する場合、このPCRの前段として、鋳型RNAをcDNAに変換する逆転写(Reverse Transcription;RT)を実施する。これをRT-PCRという。このRT-PCRは、(1)RT、PCRを非連続に実施する2ステップRT-PCR、(2)RT、PCRを、単一酵素を利用して連続して実施する一酵素系1ステップRT-PCR、(3)逆転写酵素とDNAポリメラーゼの2種類の酵素を利用して、RT、PCRを連続的に実施する二酵素系1ステップRT-PCRの3つに大別される。
【0004】
RT-PCRのうち、遺伝子検査では、処理能力の高さや、反応途中での反応容器の開閉によるコンタミネーションを回避するため、1ステップRT-PCRが好まれる。一酵素系1ステップRT-PCRでは、Tth DNAポリメラーゼやTaq DNAポリメラーゼなどの逆転写活性を併せ持つDNAポリメラーゼが利用される。一方、二酵素1ステップRT-PCRでは、逆転写酵素とDNAポリメラーゼの少なくとも2種類の酵素が使用される。
【0005】
逆転写酵素としては、レトロウイルスあるいは細菌由来の逆転写酵素(例えば、MMLV(Moloney Murine Leukemia Virus;モロニーマウス白血病ウイルス)-RT (Reverse Transcriptase)、AMV(Avian Myeloblastosis Virus;トリ骨髄芽球症ウイルス)-RT、HIV(Human Immunodeficiency Virus)-RT、RAV(Rous-associated virus)2-RT、EIAV(Equine Infectious Anemia Virus)-RT、カルボキシドサーマス・ハイドロゲノフォルマン(Carboxydothermus hydrogenoformam)DNAポリメラーゼなど)やこれらの変異体が利用される。また、DNAポリメラーゼとしては。Taq、Tth,Bst,KOD,Pfu,Pwo、Tbr,Tfi,Tfl,Tma,Tne、Vent,DEEPVENTやこれらの変異体などが利用される。
【0006】
一酵素系1ステップRT-PCR法は、2ステップRT-PCRよりも感度が低いことが知られる(非特許文献1)。これに対し、二酵素系1ステップRT-PCRは、DNAポリメラーゼの逆転写酵素活性と比べ、レトロウイルス由来の逆転写酵素の逆転写効率が高いことから、単一酵素共役RT-PCRよりも感度が高いとされる(非特許文献2)。しかし、二酵素系1ステップRT-PCRは、2ステップRT-PCRよりも感度が高いが、逆転写酵素とDNAポリメラーゼが干渉し、反応効率を低下させることが報告されている(非特許文献3)。この干渉を抑えるため、鋳型RNAの増加、非ホモログtRNA、T4遺伝子32タンパク質、あるいは逆転写酵素に対するDNAポリメラーゼ比率の増加などの使用が行われてきた。
【0007】
例えば、病原性RNAウイルスの一つであるノロウイルスは、急性胃腸炎の原因となる1本鎖RNAウイルスである。感染力が強く、集団食中毒や集団感染を引き起こすことから、公衆衛生上関心の高いウイルスである。ノロウイルスはGenogroupI(G1)及びGenogroupII(G2)の2つの遺伝子群に分類される。ノロウイルスの病原体検査では、組織培養法が確立できておらず、電子顕微鏡法、ELISAによる免疫学的抗原検出法、または核酸増幅技術を利用したウイルス遺伝子の検出法が開発されてきた。このうち、厚生労働省医薬食品局安全部監視安全課の通知(食安監1105001号)に基づくRT-PCR法が公定法として普及している。
【0008】
ノロウイルスの感染の原因として主にノロウイルスに汚染された食品を飲食することによるが、ヒトの手を介した感染が多いため、調理施設、医療現場、老人介護施設及び保育園などでは定期的な検便検査が求められている。大量調理施設衛生管理マニュアルには、調理従事者等の検便検査に、必要に応じてノロウイルスの流行期である10月から3月についてノロウイルスの検査を含めることが追加されている。これはウイルスに感染していても症状がでない人(健康保因者)が少なからず存在し、これらの人たちが知らず知らずのうちに感染を広げる可能性があるためである。さらに、下痢や嘔吐などの症状がある調理従事者は医療機関を受診し、ノロウイルスに感染していることが判明した場合はリアルタイムPCR等の高感度検査を実施し、ノロウイルスを保有していないことが確認されるまでは食品に直接触れる調理作業を控えるなどの適切な処置をとることが望まれている。
【0009】
ノロウイルスは、エンベロープを持たない、約30nmのキャプシドタンパク質からなる正二十面体構造を持ったウイルスである。このキャプシド構造にウイルスRNAゲノムが封入される。そこで、従来、糞便試料からのノロウイルスの検出は、例えば糞便の10%乳剤を作製し、遠心上清から市販のウイルスRNA抽出キットを用いてRNAを抽出・精製し、このRNA抽出液を用いてノロウイルスの検出が行われてきた(食安監1105001号)。しかし、短時間で多数の検体を検査するには、このRNA抽出作業は煩雑である。そこで、近年、糞便試料から熱処理でキャプシドを破壊し、ウイルスRNAを露出させた処理液をRT-PCRに供することでウイルスの有無を検出する手法がとられるようになった(非特許文献4)。この際、RNAの抽出を省略することで、糞便試料中には含まれる、多糖類などのPCR反応阻害物質が持ち込まれる。
【0010】
これらの影響を低減するような工夫が前処理剤やPCR反応液になされている(特許文献1)。便によるPCR阻害は、ベタイン、BSA、T4遺伝子32タンパク質、タンパク質分解酵素阻害剤の添加により改善されることが報告されているが、便試料にスパイクされたDNAを検出したものでRNAのRT-PCRによる検出を改善できるか不明であった(非特許文献5)。本発明者らは、既にアミノ酸における3個のメチル基を付加した構造を有する第4級アンモニウム塩(ベタイン、L-カルニチン、など)、ウシ血清アルブミン、グリセロール、グリコール、及びゼラチンの全部または一部を組み合わせることによって、便によるPCR阻害を解消できることを見出している。
【0011】
一方で、前記糞便試料の熱処理は、逆転写酵素を失活させてしまうことから、熱処理後にRT-PCR反応液を添加する必要がある。ここで反応容器の開閉や試薬の添加が非常に手間と労力を要する。さらに、サンプル間のコンタミネーションのリスクもある。K.Kangらは、高病原性北米産豚生殖器呼吸器症候群ウイルスRNAを豚血清サンプルから直接RT-PCRにより検出できることを報告している(非特許文献6)。この報告では、試料を直接RT-PCR反応液と混合して反応するだけで、ウイルスのエンベロープ構造が破壊され、ウイルスRNAが検出される。しかし、ノロウイルスのような消化管に感染しうるエンベロープを持たないウイルスは、胃酸による不活性化や胆汁酸の界面活性作用等に耐性のある、堅いキャプシド構造にRNAが保持されている。そのため、未処理の試料を直接RT-PCRに供するだけではこのキャプシド構造が保持され、RNAの検出を十分に行えないケースがある。非特許文献7には、ウイルスに対する極性有機溶媒によるキャプシド構造の不安定化効果は、ウイルスの種類によっても異なることが報告されており、よりRNAの検出を困難なものとしている。
【0012】
そこで、RT-PCR反応液にカオトロピック剤を加えることで、糞便試料や拭き取り検査の濃縮試料から事前にRNAの単離や熱処理をせずに、効率よくウイルスRNAの有無を検出できる方法もある。しかしながら、過剰なカオトロピック剤の添加はPCR反応を阻害してしまうことが知られており、PCR反応時間の短縮化が困難であった。また、PCR反応時間の短縮化に伴い、従来の加熱処理方法においてもノロウイルスの検出感度が低下するケースがある。そこで、更に効率的で且つPCR反応を阻害しにくいウイルスRNA含有検体の前処理方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2015―119656号公報
【非特許文献】
【0014】
【文献】BioTechniques,第17巻,1994年、第1034-1036頁
【文献】BioTechniques,第25巻,1998年、第230-234頁
【文献】Nucl.Acids Res.,第20巻,1992年、第1487-1490頁
【文献】J.Virol.Methods,第163巻,2010年、第282-286頁
【文献】J.Virol.Microbiol.,第38巻、2000年、第4463-4470頁
【文献】J.Animal Science And Biotechnology,第5巻、2014年、第45頁
【文献】Bull,Natl.Inst.Health Sci.,第129巻、2011年、第37-54頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、試料から非エンベロープウイルスのRNAの単離や、試料の事前の加熱処理を行うことなく、1ステップRT-PCRにより、従来知られている手法以上の精度でウイルスRNAの有無の検出を可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記事情に鑑み、鋭意研究を行った結果、ウイルスRNAの精製や事前の熱処理を行っていない試料を極性有機溶媒と混合後、1ステップRT-PCRに供することで、非エンベロープウイルスRNAの検出が可能であることを見出した。
さらに本発明者らは、ウイルスキャプシド構造の変性に必要な濃度の極性有機溶媒と1ステップRT-PCR反応に許容される極性有機溶媒濃度を見極め、同一反応容器に極性有機溶媒、試料、1ステップRT-PCR反応液を順次添加して反応容器を密閉後、RT-PCRのための温度サイクルで反応を行うだけでウイルスRNAを検出可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
代表的な本願発明は、以下の通りである。
項1.試料中のエンベロープを持たないRNAウイルスの検査方法であって、試料からのRNA精製、または試料の事前の熱処理のない、以下の工程を含むことを特徴とする試料中のウイルスの存在の有無を検査するためのウイルスの検査方法。
(1)試料と極性有機溶媒を含む試薬を混合する工程、
(2)前記混合液に逆転写酵素およびDNAポリメラーゼ、または逆転写活性を有するDNAポリメラーゼを含む1ステップRT-PCR反応液を添加する工程、
(3)反応容器を密閉後、1ステップRT-PCR反応を実施する工程。
項2.前記工程(1)、(2)が同一容器で行われることを特徴とする項1に記載のウイルスの検査方法。
項3.工程(3)において反応容器を密閉後、一度もフタを開閉することなく1ステップRT-PCR反応を実施することを特徴とする項1又は2に記載のウイルスの検査方法。
項4.試料が糞便である項1から3のいずれかに記載のウイルスの検査方法。
項5.試料が水、生理食塩水または緩衝液に懸濁された懸濁液である項1から3のいずれかに記載のウイルスの検査方法。
項6.試料が懸濁液の遠心上清である項1から3のいずれかに記載のウイルスの検査方法。
項7.試料が環境中の拭き取り検査試料を水、生理食塩水または緩衝液に懸濁し、かつ、懸濁液を濃縮した試料であることを特徴とする項1から3のいずれかに記載の方法。
項8.エンベロープを持たないRNAウイルスがノロウイルスである項1から7のいずれかに記載のウイルスの検査方法。
項9.ノロウイルスがG1型かG2型であるかの判別を行うことを特徴とする項8に記載のウイルスの検査方法。
項10.極性有機溶媒が、エタノール、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ピリジン、トリエチルアミンジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、およびアセトニトリルよりなる群から選択されるいずれかであることを特徴とする項1から9のいずれかに記載のウイルスの検査方法。
項11.DNAポリメラーゼが、Taq、Tthおよびそれらの変異体よりなる群から選択されるいずれかであることを特徴とする項1から10のいずれかに記載のウイルスの検査方法。
項12.逆転写酵素の由来が、モロニーマウス白血病ウイルス(MMRV)、トリ骨髄芽球症ウイルス(AMV)およびこれらの変異体からなる群より選択されるいずれかであることを特徴とする項1から11のいずれかに記載のウイルスの検査方法。
項13.工程(3)における1ステップRT-PCR反応液が、アミノ酸におけるアミノ基に3個のメチル基を付加した構造を有する第4級アンモニウム塩(以下、「ベタイン様4級アンモニウム」という)、0.5mg/ml以上のウシ血清アルブミン、グリセロール、グリコールおよびゼラチンよりなる群から選択された少なくとも1つを含むことを特徴とする項1から12のいずれかに記載のウイルスの検査方法。
項14.ベタイン様4級アンモニウム塩が、ベタインまたはL-カルニチンである項13に記載のウイルスの検査方法。
項15.試料の処理から1ステップRT-PCR反応が完了するまでの所要時間が1時間以内である請求項1から14のいずれかに記載のウイルスの検査方法。
項16.極性有機溶媒を含む試薬、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、および1ステップRT-PCR反応液を含むことを特徴とするエンベロープを持たないウイルスの検査用キット。
項17.工程(3)における1ステップRT-PCR反応液が、ベタイン様4級アンモニウム塩、0.5mg/ml以上のウシ血清アルブミン、グリセロール、グリコールおよびゼラチンよりなる群から選択された少なくとも1つを含む項16に記載のウイルスの検査用キット。
項18.検出対象のRNAウイルスの検出領域に対応するプライマー対をさらに含むことを特徴とする項16または17に記載のウイルスの検査用キット。
項19.検出対象のRNAウイルスの検出領域に対応するハイブリダイゼーションプローブをさらに含むことを特徴とする項16から18のいずれかに記載のウイルスの検査用キット。
項20.エンべロープを持たないRNAウイルスがノロウイルスである項16から19のいずれかに記載のウイルスの検査用キット。
項21.ノロウイルスがG1型かG2型であるかの判別を行うことを特徴とする項20に記載のウイルスの検査用キット。
【発明の効果】
【0018】
本発明によって、試料からウイルスRNAの単離や事前の試料の熱処理を必要とせず、試料を極性有機溶媒と混合後、1ステップRT-PCR反応液に添加するだけで、試料中のノロウイルスのような非エンベロープウイルスの有無を検出することが可能になる。この結果、検査業務がさらに効率化することから、ウイルス感染しても症状のない被験者の検査量を増やすことができ、感染症予防にも寄与する。また、熱処理工程の省略化により反応容器の蓋の開閉作業も省略される。この結果、蓋の開閉時におけるウイルス含有サンプルの飛散リスクをなくすことができ、他のサンプルへのコンタミリスクも低減することができる。これにより、偽陽性発生リスクも抑えることができ、検査業務の精度を更に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】各溶媒におけるPCR反応阻害効果を検討した結果を示す図である。
図2】各溶媒における検体前処理効果を検討した結果を示す図である。
図3】反応時間短縮化時における各前処理方法の比較を検討した結果を示す図である。
図4】各前処理方法の作業工程を示す図である。
図5】各前処理方法の作業時間の比較を検討した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を示しつつ、本発明についてさらに詳説する。
【0021】
本発明の一態様は、試料中のノロウイルスなどの非エンベロープRNAウイルスの検査であって、試料からウイルスRNAの精製や試料の事前の熱処理を行うことなく、試料と極性有機溶媒を含む試薬を混合し、逆転写酵素およびDNAポリメラーゼ、または逆転写活性を有するDNAポリメラーゼを含む1ステップRT-PCR試薬を添加することからなるウイルスの存在の有無を検査するための方法である。
【0022】
本発明の試料中のウイルスの存在の有無を検査するための方法は、少なくとも以下の工程が含まれることを特徴とするウイルスの存在の有無を検査するための方法である。
(1)試料と極性有機溶媒を含む試薬を混合する工程、
(2)前記混合液に逆転写酵素およびDNAポリメラーゼ、または逆転写活性を有するDNAポリメラーゼを含む1ステップRT-PCR反応液を添加する工程、
(3)反応容器を密閉後、1ステップRT-PCR反応を実施する工程。
前記工程(1)および(2)は、同一容器で行われることが好ましい。すなわち、工程(1)および(2)の間においては、混合液の全部または一部を別容器へ移し替えないことが好ましい。工程(1)により混合液の全量を工程(2)に供してもよいし、その一部を別の容器に移し替えて工程(2)を実施しても良い。更には、工程(3)においては、反応容器を密閉後、反応容器の蓋の開閉を行わないことが好ましい。
【0023】
本発明において検査対象となるRNAウイルスは、脂質二重膜に由来するエンベロープを持たない、非エンベロープ性のRNAウイルスであれば、特に限定されるものではない。このような非エンベロープRNAウイルスとしては、アストロウイルス科アストロウイルス、カリシウイルス科サポウイルス、ノロウイルス、ピコルナウイルス科A型肝炎ウイルス、エコーウイルス、エンテロウイルス、コクサッキ―ウイルス、ポリオウイルス、ライノウイルス、へぺウイルス科E型肝炎ウイルス、レオウイルス科ロタウイルスなどが挙げられるが、特に限定されるものではなく、特にノロウイルスの検出に有用である。非エンベロープウイルスの多くが糞口感染などによって消化管に感染可能で、胃酸による不活性化や胆汁酸の界面活性作用等に耐性のある、堅いキャプシド構造にRNAが保持されている。このため非エンベロープ性ウイルスは、エンベロープ性ウイルス(例えばインフルエンザウイルス等)が不活化する条件においても、不活化されない場合がある。
【0024】
本発明において用いられる試料として、例えば糞便(排泄便、直腸便)、嘔吐物、唾液などが挙げられるが、特に限定されるものではなく、生体に由来するもの全般に用いることが可能である。特には、糞便(排泄便、直腸便)からの検出に有用である。糞便には、夾雑物として、プロテアーゼ及び核酸分解酵素等が含まれている他、大腸菌由来のタンパク質及び核酸が多量含まれていることが特徴として挙げられる。RT-PCR反応に用いる酵素やプライマー及び核酸プローブ等の反応液構成物は、糞便に含まれる夾雑物の影響により、消化または失活してしまい、検出感度が低下することが知られている。本発明においては、これら試料を市販のRNA精製キットでRNAを単離したり、あるいは熱処理でRNAをウイルス構造から露出させるための事前の熱処理を行う必要がないことを特徴とするものである。前記試料は直接検出に供してもよいし、夾雑物の反応への影響を低減し、より安定した検査結果を得るために、水、生理食塩水または緩衝液に前記試料を懸濁した試料であってもよい。さらに、糞便など特に夾雑物の多い試料では、遠心分離し、その上清を使用してもよい。あるいは、フィルターろ過を実施してもよい。前記緩衝液としては、特に限定されるものではないが、ハンクス緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、HEPES緩衝液、トリシン緩衝液などが挙げられる。
【0025】
本発明における別の態様の試料としては、拭き取り検査試料である。汚染経路の解明や施設環境等の汚染状況の把握には、ふき取り検査が有用である。本発明において、拭き取り検査とは、特に限定されるものでないが、例えば綿棒等で該当区画や設備等を拭き取り、水や緩衝液に溶出し、ポリエチレングリコール(PEG)沈澱などで濃縮した試料である。具体的な拭き取り検査の要領としては、「ふきとり検体のノロウイルス検査法の改良」(http://idsc.nih.go.jp/iasr/32/382/dj3824.html)などが例示されるが、特に限定はされるものではなく、これに準ずる方法が広く含まれる。拭き取り箇所の例としては、まな板や包丁、ふきん、食器などの調理器具類、冷蔵庫の取手やトイレ、浴室のドアノブ、洗面所、厨房、トイレ、浴室などの蛇口、調理者の手や指、浴室、トイレ、洗面、手すり、居室などの施設などが挙げられる。また、拭き取り検査ではないが、環境検査として、下水試料の濃縮試料にも適用できる。
【0026】
本発明において、極性とは分子内に存在する電子的な偏りを指し、分子内の正電荷と負電荷の重心が一致しない分子を極性分子という。極性分子により構成された溶媒を極性溶媒という。極性溶媒の中でも、有機化合物により構成された極性有機溶媒を用いることにより、核酸やタンパク質のような生体分子の高次構造を不安定化することができる。この性質を利用することで、ウイルスのキャプシドタンパク質の疎水結合などを弱め、キャプシド構造を不安定化するような効果を奏するものである。上述した通り、ウイルスに対する極性有機溶媒によるキャプシド構造の不安定化効果は、ウイルスの種類によっても異なることが知られている(非特許文献7)。これはウイルスが保有するキャプシドタンパク質の性質の違いにより、疎水性結合などの強さが異なるからであると考えられる。
【0027】
前記極性有機溶媒として、具体的にはエタノール、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、トリエチルアミン、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、ピリジン等が挙げられるがこれに限られるものではない。好ましくは、メタノール、トリエチルアミン、ジメチルスルホキシド、アセトンである。また、これら極性有機溶媒を2つ以上含む混合溶液であっても良い。該極性有機溶媒のキャプシドタンパク質の変性剤としての下限の濃度としては、極性有機溶媒や他の添加剤の種類にもよるが、キャプシドタンパク質が変性される濃度であれば特に限定されるものではなく、また、ウイルスの種類によりキャプシドタンパク質が異なるため、極性溶媒の実効濃度は各ウイルス毎に異なっているが、通常は検体量に対する極性溶媒の実効濃度が10%以上100%未満、より好ましくは30%以上90%以下、さらに好ましくは50%以上85%以下である。
【0028】
前記極性有機溶媒は、1種以上の界面活性剤、還元剤、キレート剤、金属塩と組み合わせて用いてもよい、
【0029】
前記極性有機溶媒は、通常はPCRの阻害剤としても知られる。そのため、前記極性有機溶媒の中でも、タンパク質の変性に必要な濃度とPCRへの持込み許容濃度の相違が小さいものを選択することで、極性有機溶媒、試料、1ステップRT-PCR反応液と順次添加することで、キャプシドタンパク質の変性から1ステップRT-PCR反応まで同一容器で、途中で容器を開閉することなく簡便に検出操作が進められる。このような極性有機溶媒の例として、特に好ましくはジメチルスルホキシドが挙げられる。例えば、ジメチルスルホキシド1μLと試料1μLを混合し、1ステップRT-PCR液48μLを加えた場合、反応液中に持ち込まれるジメチルスルホキシドの濃度は2%である。2%のジメチルスルホキシドはRT-PCR液の持ち込まれても許容される濃度である。
【0030】
試料の移し替えまたは加熱処理工程の際には、反応容器の開閉作業が生じる。反応容器の開閉作業は煩雑化かつ作業時間を伸ばす原因となる。これに加えて、ウイルス含有検体の入った反応容器の開閉には、ウイルス及びウイルス由来RNAの飛散リスクが生じる。ウイルスの飛散は作業者の安全及び健康を脅かすものであると同時に、検査作業環境の汚染を意味する。飛散したRNAウイルスは作業場においてエアロゾル化するため、同時に検査している他のサンプルの汚染リスクが問題となっている。このため、蓋の開閉工程のないRT-PCRを用いたウイルスの存在の有無を検査方法は、作業の単純化以上の意義を持っている。
【0031】
前記混合液に添加される1ステップRT-PCR溶液は、逆転写酵素およびDNAポリメラーゼを含む。逆転写酵素活性を併せ持つDNAポリメラーゼである、Tth DNAポリメラーゼやTaq DNAポリメラーゼなどを使用することが好ましい。より好ましくは、二種の酵素の使用、逆転写酵素とDNAポリメラーゼの少なくとも2種類の酵素の使用である。
【0032】
前記1ステップRT-PCR反応液に含まれる逆転写酵素の由来としては、RNAをDNAに変換できれば特に限定されないが、MMLV(Moloney Murine Leukemia Virus)-RT、AMV-RT(Avian Myeloblastosis Virus)、HIV-RT、RAV2-RT、EIAV-RT、カルボキシドサーマス・ハイドロゲノフォルマン(Carboxydothermus hydrogenoformam)DNAポリメラーゼ)やその変異体が例示される。特に好ましい例としては、MMLV-RT、AMV-RT、またはそれらの変異体が挙げられる。
【0033】
前記1ステップRT-PCR反応液に含まれるDNAポリメラーゼとしては、Taq、Tth,Bst,KOD,Pfu,Pwo、Tbr,Tfi,Tfl,Tma,Tne、Vent,DEEPVENTやこれらの変異体が挙げられるが、特に限定されない。より好ましくは、Taq、Tth又はこれらの変異体の使用である。特に好ましくはTth又はその変異体の使用である。さらに、非特異的反応抑制の効果を高めるため、抗DNAポリメラーゼ抗体との併用、あるいは化学修飾により熱不安定ブロック基のDNAポリメラーゼへ導入することで、逆転写反応の間、DNAポリメラーゼの酵素活性を抑制され、ホットスタートPCRへの適用ができることが好ましい。
【0034】
本発明に用いられる1ステップRT-PCR反応液には、逆転写酵素およびDNAポリメラーゼの他、緩衝剤、適当な塩として、マグネシウム塩又はマンガン塩、デオキシヌクレオチド三リン酸、検出対象のウイルスRNAの検出対象領域に対応するプライマー対を含み、さらに必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。
【0035】
本発明で使用される緩衝剤としては、特に限定されないが、トリス(Tris),トリシン(Tricine),ビスートリシン(Bis-Tricine),ビシン(Bicine)などが挙げられる。硫酸、塩酸、酢酸、リン酸などでpHを6~9、より好ましくはpH7~8に調整されたものである。また、添加する緩衝剤の濃度としては、10~200mM,より好ましくは20~150mMで使用される。この際、反応に適当なイオン条件とするために、塩溶液が加えられる。塩溶液としては、塩化カリウム、酢酸カリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0036】
本発明で使用されるdNTPとしては、dATP,dCTP,dGTP,dTTPがそれぞれ0.1~0.5mM、最も一般的には0.2mM程度加えられる。dTTPの代わり及び/又は一部としてdUTPを使用することによって、クロスコンタミネーションに対する予防処置をとってもよい。マグネシウム塩としては、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、マンガン塩としては、塩化マンガン、硫酸マンガン、酢酸マンガンなどが例示され、1~10mM程度加えられることが好ましい。
【0037】
さらに1ステップRT-PCR反応液に含まれる添加剤としては、アミノ酸におけるアミノ基に3個のメチル基を付加した構造を有する第4級アンモニウム塩(以下、「ベタイン様4級アンモニウム」という)、0,5mg/ml以上のウシ血清アルブミン、グリセロール、グリコールおよびゼラチンよりなる群から選択された少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0038】
前記ベタイン様4級アンモニウム塩としては、ベタイン(トリメチルグリシン)、L-カルニチンなどが挙げられるが、アミノ酸におけるアミノ基に3個のメチル基を付加した構造を有する第4級アンモニウム塩であれば、特に限定されるものではない。ベタイン様4級アンモニウム塩が有する構造は分子内に安定な正、負の両電荷を持つ化合物で、界面活性剤のような性質を示し、ウイルス構造の不安定化を引き起こすものと考えられる。さらに、DNAポリメラーゼの核酸増幅を促進することが知られる。好ましい前記ベタイン様4級アンモニウム塩濃度は0.1M~2Mであり、より好ましくは0.2M~1.2Mである。
【0039】
前記1ステップRT-PCR反応液に含まれるウシ血清アルブミンとしては、好ましくは少なくとも0.5mg/ml以上、より好ましくは少なくとも1mg/ml以上である。夾雑物の多い試料では、ウシ血清アルブミンの濃度が好ましくは2mg/ml以上、さらに好ましくは3mg/mg以上で、良好な検出が可能となる。
【0040】
前記1ステップRT-PCR反応液に含まれるゼラチンは、ウシや豚などの動物の皮膚や骨、腱、あるいは魚の鱗や皮に由来し、PCR酵素の安定化に寄与すると考えられている。使用濃度としては、PCR増幅を安定化する一方で、蛍光検出を妨げない程度が好ましい。好ましくは1~5%、さらに好ましくは1~2%である。特にゼラチンの由来については限定されるものではないが、ウシや豚由来よりも魚由来のものの方が、ゼリー強度が低く、反応液のハンドリングがよい点で好ましい。
【0041】
さらには、当該技術分野でRT-PCRを促進することが知られる物質と組み合わせて使用することもできる。本発明において有用な促進物質とは、例えば、グリセロール、ポリオール、プロテアーゼインヒビター、シングルストランド結合タンパク質(SSB)、T4遺伝子32タンパク質、tRNA、硫黄または酢酸含有化合物類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ホルムアミド、アセトアミド、ベタイン、エクトイン、トレハロース、デキストラン、ポリビニルピロリドン(PVP),塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、酢酸テトラメチルアンモニウム(TMAA)、ポリエチレングリコール、トリトンX-100(TritonX-100)、トリトンX-114(TritonX-114)、ツイーン20(Tween20),ノニデットP40、Briji58などが挙げられるが、これらに限定されない。さらに反応阻害を低減するように、エチレングリコール-ビス(2-アミノエチルエーテル)-N,N,N',N'-四酢酸(EGTA)、1,2-ビス(o-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-四酢酸(BAPTA)のようなキレート剤を含んでいてもよい。
【0042】
本発明に用いられるプライマー対としては、検出対象のRNAウイルスの検出領域に対応するプライマー対であり、一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に互いに相補的である2種一対のプライマーが挙げられる。また、別の態様として、上記プライマーが2対以上含まれる、いわゆるマルチプレックスPCRも挙げられる。さらに、ターゲットとする核酸が亜型からなる場合、縮重プライマーを含んでもよい。本発明でエンベロープを持たないRNAウイルスの1種であるノロウイルスを検出する場合、プライマー対の例としては、ノロウイルス検出用のプライマーとしては、厚生労働省医薬食品局安全部監視安全課の通知(食安監1105001号)に記載のプライマーが挙げられるが、これに限るものではない。
【0043】
本発明は、別の態様としては、さらに、少なくとも1種類の標識されたハイブリダイゼーションプローブまたは2本鎖DNA結合蛍光化合物を含む検出方法である。これによって、増幅産物の分析を通常の電気泳動ではなく、蛍光シグナルのモニタリングで監視することができ、解析労力が低減される。さらには、反応容器を開放する必要がなく、コンタミネーションのリスク低減が可能である。ウイルスのサブタイプに対応する、それぞれのハイブリダイゼーションプローブを異なる蛍光色素で標識することによって、ウイルスのサブタイプを識別することも可能である。
【0044】
2本鎖DNA結合蛍光化合物としては、例えば、SYBR(登録商標) Green I,SYBR(登録商標) Gold、SYTO-9、SYTP-13、SYTO-82(Life Technologies),EvaGreen(登録商標;Biotium)、LCGreen(Idaho),LightCycler(登録商標) 480 ResoLight(Roche Applied Science)などが挙げられる。
【0045】
本発明において用いられるハイブリダイゼーションプローブとしては、例えば、TaqMan加水分解プローブ(米国特許第5,210,015号公報、米国特許第5,538,848号公報、米国特許第5,487,972号公報、米国特許第5,804,375号公報)、モレキュラービーコン(米国特許第5,118,801号公報)、FRETハイブリダイゼーションプローブ(国際公開第97/46707号パンフレット,国際公開第97/46712号パンフレット,国際公開第97/46714号パンフレット)などが挙げられる。ノロウイルス検出用のプローブの塩基配列としては、厚生労働省医薬食品局安全部監視安全課の通知(食安監1105001号)に記載の配列が挙げられるが、これに限るものではない。さらに、ターゲットとする核酸が亜型からなる場合、縮重配列を含んでもよい。
【0046】
本発明の別の一態様は、試料中のウイルスRNAの検査用キットであって、カオトロピック剤、並びに逆転写酵素およびDNAポリメラーゼ(あるいは逆転写活性を有するDNAポリメラーゼ)、1ステップRT-PCR反応液を含むことを特徴とするエンベロープを持たないRNAウイルスの検査用キットである。本発明のウイルスの検査用キットは、少なくとも極性有機溶媒を含む試薬、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、および1ステップRT-PCR反応液を含む。1ステップRT-PCR反応液には、ベタイン様4級アンモニウム塩、0.5mg/ml以上のウシ血清アルブミン、グリセロール、グリコールおよびゼラチンのうちの少なくとも1つを含むことが好ましい。検出対象のRNAウイルスの検出領域に対応するプライマー対、さらには検出対象のRNAウイルスの検出領域に対応するハイブリダイゼーションプローブを含むことが好ましい。
【実施例
【0047】
以下、実施例をもって、本発明を具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0048】
実施例1.加熱処理必要検体のスクリーニング
(1)RT-PCR反応液
以下に示される組成の反応液を基本組成とし、有機溶媒の影響を評価した。
反応液 30μL
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)
プライマー液 5μL
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)
プローブ液 5μL
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)
酵素液 5μL
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)
前処理液 4μL
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)
【0049】
(2)試料の調製方法
ノロウイルスG2陽性のヒト糞便15検体を滅菌水0.5mlに10%(重量%)となるように懸濁した。この懸濁液を12,000rpmで5分間遠心し、上清を使用した。
【0050】
(3)反応
前処理を実施する条件では、前処理液 4μLに調製した試料をそれぞれ1μL添加した。前処理液との混合液をApplied Bioscience製サーマルサイクラー(Gene Amp(登録商標)PCR System 9700)にて、85℃、1分間の加熱処理を行った。加熱処理後の前処理済液に前記RT-PCR反応液45μL(反応液+プライマー液+プローブ液+酵素液)を添加し、PCR反応液とした。前処理を実施しない条件では、前記RT-PCR反応液45μLに、前処理液4μLを添加し、調製した試料をそれぞれ1μL添加し、加熱処理を行わずPCR反応液とした。これをBioRad製CFX96WELL DEEPを使用して、以下の温度サイクルでリアルタイムPCR反応を実施した。後半30サイクルの54℃の伸長ステップにおいて蛍光値の読取りを行った。
42℃ 5分(逆転写反応)、
95℃ 10秒、
95℃ 1秒-54℃ 22秒 10サイクル(PCR)
95℃ 1秒-54℃ 22秒 30サイクル(PCR)
【0051】
(4)結果
プローブ液(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)ではFAMチャネルで内部コントロール遺伝子、Cy5チャネルでノロウイルスG1、ROXチャネルでノロウイルスG2を検出する。ここでは、G1、G2 RNAのCq値を示す。この結果、熱処理を実施した条件では、全てのG2陽性の検体の検出が確認された(表1)。これに対して、前処理を実施しなかった検体においては、11検体において検出を確認できなかった(表2)。これは加熱処理を行わなかったことで、検体中のウイルスのキャプシド構造が壊れず、ウイルス粒子の中からRNA分子が出てこなかったことに起因すると考えられる。本検討において、G2陽性シグナルを確認できなかった検体を加熱処理必要検体とした。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
実施例2.1ステップRT-PCR反応に利用できる溶媒のスクリーニング
(1)RT-PCR反応液
以下に示される組成の反応液を基本組成とし、各溶媒のRT―PCRへ与える影響を評価した。
反応液 30μL
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)
プライマー液 5μL
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)
プローブ液 5μL
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)
酵素液 5μL
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)
前処理液 4μL
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)
【0055】
(2)溶媒条件
条件1 蒸留水
条件2 8Mウレア
条件3 エタノール
条件4 メタノール
条件5 1―プロパノール
条件6 2-プロパノール
条件7 1-ブタノール
条件8 アセトン
条件9 1,4-ジオキサン
条件10 ピリジン
条件11 ジメチルスルホキシド
条件12 トリエチルアミン
条件13 酢酸-3-メチルブチル
条件14 アニソール
条件15 ヘキサン
条件16 ベンジン
【0056】
(3)反応
反応チューブに前記溶媒を各2μLずつ添加し、前記RT-PCR反応液49μL(反応液+プライマー液+プローブ液+酵素液+前処理液)を添加した。これにノロウイルスG2の合成RNA250コピーを添加した。これをBioRad製CFX96WELL DEEPを使用して、以下の温度サイクルでリアルタイムPCR反応を実施した。後半30サイクルの54℃の伸長ステップにおいて蛍光値の読取りを行った。
42℃ 5分(逆転写反応)、
95℃ 10秒、
95℃ 1秒-54℃ 22秒 10サイクル(PCR)
95℃ 1秒-54℃ 22秒 30サイクル(PCR)
【0057】
(4)結果
この結果のG2 RNAのCq値を図1に示す。この結果、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、1,4-ジオキサン、ピリジンではRT-PCR反応を完全に阻害し、G2のシグナルが確認されなかった。また、アニソールでは蒸留水添加条件と比較し、Cq値が顕著に上昇し、PCR阻害が起こっていることが確認された。
【0058】
実施例3.ウイルス含有検体に対する前処理効果を持つ溶媒のスクリーニング
(1)RT-PCR反応液
以下に示される組成の反応液を基本組成とし、各溶媒の検体の前処理効果を評価した。
反応液 30μL
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)
プライマー液 5μL
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)
プローブ液 5μL
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)
酵素液 5μL
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)
前処理液 4μL
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)
【0059】
(2)溶媒条件
条件1 蒸留水
条件2 8Mウレア
条件3 エタノール
条件4 メタノール
条件5 アセトン
条件6 ジメチルスルホキシド
条件7 トリエチルアミン
条件8 酢酸-3-メチルブチル
条件9 アニソール
条件10 ヘキサン
条件11 ベンジン
【0060】
(3)試料の調製方法
加熱処理必要検体であるノロウイルスG2陽性のヒト糞便検体a1を、滅菌水0.5mlに10%(重量%)となるように懸濁した。この懸濁液を12,000rpmで5分間遠心し、上清を使用した。
【0061】
(4)反応
反応チューブに前記の各溶媒を各2μLずつ添加し、チューブの底に落ちていることを確認した。調製した試料1μLを添加し、各溶媒と混合した。これに前記RT-PCR反応液49μL(反応液+プライマー液+プローブ液+酵素液+前処理液)を添加した。これをBioRad製CFX96WELL DEEPを使用して、以下の温度サイクルでリアルタイムPCR反応を実施した。後半30サイクルの54℃の伸長ステップにおいて蛍光値の読取りを行った。
42℃ 5分(逆転写反応)、
95℃ 10秒、
95℃ 1秒-54℃ 22秒 10サイクル(PCR)
95℃ 1秒-54℃ 22秒 30サイクル(PCR)
【0062】
(5)結果
この結果のG2 RNAのCq値を図2に示す。この結果、エタノール、酢酸-3-メチルブチル、アニソール、ヘキサン、ベンジンでは検出が確認されず、ウイルス含有検体に対する前処理効果は確認されなかった。これに対し、メタノール、アセトン、トリエチルアミン、ジメチルスルホキシドではG2シグナルの検出を確認した。特にジメチルスルホキシドにおいては、前処理効果のある尿素と比較し、Cq値が3以上低いことから、ウイルス含有検体に対する前処理効果が高いことが確認された。
【0063】
実施例4.ジメチルスルホキシドの有効濃度の検討
(1)RT-PCR反応液
以下に示される組成の反応液を基本組成とし、ウイルス含有検体に対する前処理効果のジメチルスルホキシドの有効濃度を評価した。
反応液 30μL
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)
プライマー液 5μL
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)
プローブ液 5μL
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)
酵素液 5μL
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)
前処理液 4μL
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)
【0064】
(2)試料の調製方法
加熱処理必要検体であるノロウイルスG2陽性のヒト糞便検体e1、f1、h2を、滅菌水0.5mlに10%(重量%)となるように懸濁した。この懸濁液を12,000rpmで5分間遠心し、上清を使用した。
【0065】
(3)ジメチルスルホキシドとの混合方法
蒸留水にて100%、90%、80%、70%、60%、50%、40%ジメチルスルホキシド水溶液を調製し、以下の条件において試料e1、f1、h2と混合した。
条件1 各試料1μL、100%ジメチルスルホキシド2μL(有効濃度67%)
条件2 各試料1μL、90%ジメチルスルホキシド2μL(有効濃度60%)
条件3 各試料1μL、80%ジメチルスルホキシド2μL(有効濃度53%)
条件4 各試料1μL、70%ジメチルスルホキシド2μL(有効濃度47%)
条件5 各試料1μL、60%ジメチルスルホキシド2μL(有効濃度40%)
条件6 各試料1μL、50%ジメチルスルホキシド2μL(有効濃度33%)
条件7 各試料1μL、40%ジメチルスルホキシド2μL(有効濃度27%)
条件8 各試料1μL、蒸留水2μL
【0066】
(4)反応
反応チューブに前記条件の各ジメチルスルホキシド水溶液2μLずつ添加し、チューブの底に落ちていることを確認した。調製した試料1μLを添加し、混合した。これに前記RT-PCR反応液49μL(反応液+プライマー液+プローブ液+酵素液+前処理液)を添加した。これをBioRad製CFX96WELL DEEPを使用して、以下の温度サイクルでリアルタイムPCR反応を実施した。後半30サイクルの54℃の伸長ステップにおいて蛍光値の読取りを行った。
42℃ 5分(逆転写反応)、
95℃ 10秒、
95℃ 1秒-54℃ 22秒 10サイクル(PCR)
95℃ 1秒-54℃ 22秒 30サイクル(PCR)
【0067】
(5)結果
この結果、各条件におけるG2シグナルのCq値を表3に示す。試料によって有効濃度は異なるが、試料とジメチルスルホキシドの混合液において、ジメチルスルホキシドの有効濃度が40%以上、さらに好ましくは50%以上で、混合しなかった条件に比べ、有意な検出感度の改善が認められた。この際、RT-PCR反応液中のジメチルスルホキシド濃度は2.4%~4%である。
【0068】
【表3】
【0069】
実施例5.ジメチルスルホキシドのRT-PCR反応液への持ち込み許容量検討
(1)RT-PCR反応液
以下に示される組成の反応液を基本組成とし、ジメチルスルホキシド持ち込み量がRT―PCRへ与える影響を評価した。
反応液 30μL
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)
プライマー液 5μL
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)
プローブ液 5μL
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)
酵素液 5μL
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)
【0070】
(2)ジメチルスルホキシドの添加量
条件1 0μL ジメチルスルホキシド、5μL蒸留水 (最終濃度0%)
条件2 1μL ジメチルスルホキシド、4μL蒸留水(最終濃度2%)
条件3 2μL ジメチルスルホキシド、3μL蒸留水(最終濃度4%)
条件4 3μL ジメチルスルホキシド、2μL蒸留水(最終濃度6%)
条件5 4μL ジメチルスルホキシド、1μL蒸留水(最終濃度8%)
条件6 5μL ジメチルスルホキシド、0μL蒸留水(最終濃度10%)
【0071】
(3)反応
反応チューブにジメチルスルホキシドと蒸留水を前記条件に記載した容量ずつ添加し、前記RT-PCR反応液45μL(反応液+プライマー液+プローブ液+酵素液)を添加した。これにノロウイルスG2およびG1の合成RNAを250コピー、50コピー、10コピーを添加した。これをBioRad製CFX96WELL DEEPを使用して、以下の温度サイクルでリアルタイムPCR反応を実施した。後半30サイクルの54℃の伸長ステップにおいて蛍光値の読取りを行った。
42℃ 5分(逆転写反応)、
95℃ 10秒、
95℃ 1秒-54℃ 22秒 10サイクル(PCR)
95℃ 1秒-54℃ 22秒 30サイクル(PCR)
【0072】
(4)結果
この結果、各試料のG1およびG2シグナルのCq値を表4に示す。ジメチルスルホキシドの最終濃度が10%で、G1およびG2シグナルは250コピーでのCq値の増大が確認され、50コピー及び10コピーにおいてはシグナルが確認されなくなった。この結果より、50コピー前後の検出を目的としたRT-PCRを実施する際、ジメチルスルホキシドの反応液への持ち込み許容量としては、10%以下と考えられ、更に好ましくは8%以下である。しかしながら、250コピー以上のノロウイルスG1及びG2RNAを検出する際には10%以上の持ち込みも許容される。
【0073】
【表4】
【0074】
実施例6.ジメチルスルホキシド処理と従来型前処理法の比較
(1)RT-PCR反応液
以下に示される組成の反応液を基本組成とし、PCR反応時間を短縮した条件において、ジメチルスルホキシドによるウイルス含有検体の前処理効果と、従来型の前処理方法を比較評価した。
反応液 30μL
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)
プライマー液 5μL
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)
プローブ液 5μL
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)
酵素液 5μL
0.8unit/μL rTth変異体 DNA polymerase
0.24μg/μL 抗Tth抗体(東洋紡)
1unit/μl RevertraAce(東洋紡)
前処理液 4μL
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出―(東洋紡)添付品)
【0075】
(2)試料の調製方法
加熱処理必要検体であるノロウイルスG2陽性のヒト糞便検体e2、g2を、滅菌水0.5mlに10%(重量%)となるように懸濁した。この懸濁液を12,000rpmで5分間遠心し、上清を使用した。
【0076】
(3)ジメチルスルホキシド処理による検出
ジメチルスルホキシド2μLと試料1μLを混合後、前記RT-PCR反応液45μL(反応液+プライマー液+プローブ液+酵素液)を加え、BioRad社CFX96WELL DEEPを使用して、(6)に記載の温度サイクルでリアルタイムPCR反応を実施し、後半30サイクルの54℃の伸長ステップにおいて蛍光値の読取を行った。
【0077】
(4)カオトロピック処理による検出
8M尿素水溶液 2μLと試料1μLを混合後、前記RT-PCR反応液45μL(反応液+プライマー液+プローブ液+酵素液)を加え、BioRad製CFX96WELL
DEEPを使用して、(6)に記載の温度サイクルでリアルタイムPCR反応を実施し、後半30サイクルの54℃の伸長ステップにおいて蛍光値の読取を行った。
【0078】
(5)熱処理法による検出
試料1μLに前処理液4μLを添加し、85℃、1分間の熱処理を実施した。前記RT-PCR反応液45μL(反応液+プライマー液+プローブ液+酵素液)を混合後、BioRad製CFX96WELL DEEPを使用して、(6)に記載の温度サイクルでリアルタイムPCR反応を実施し、後半30サイクルの54℃の伸長ステップにおいて蛍光値の読取りを行った。
【0079】
(6)反応サイクル
42℃ 3分(逆転写反応)、
95℃ 10秒、
95℃ 1秒-54℃ 5秒 10サイクル(PCR)
95℃ 1秒-54℃ 5秒 30サイクル(PCR)
【0080】
(7)結果
各前処理方法を実施した際のG2シグナルのCq値を図3に示す。本検討において、G2シグナルが得られた前処理方法はジメチルスルホキシドにおける処理のみであった。これはRT-PCR反応時間の短縮化に伴って、ウイルスのキャプシド構造の破砕効率が低く、反応液中へのRNAの漏洩が少ない条件では、鋳型となるRNA量が不足し、RT-PCRが十分に反応しなかった事が原因として考えられる。よって、従来より知られる加熱処理法およびカオトロピック剤処理法と比較し、本発明のジメチルスルホキシド処理法では、検体中のウイルスのカプシド破砕効率が高いことが示された。
【0081】
実施例7.ジメチルスルホキシド処理と従来型加熱処理法の作業時間の比較
(1)作業工程
ジメチルスルホキシド処理と加熱処理工程を含む前処理方法の主な作業工程を図4に示した。加熱処理工程を含む方法における反応容器の蓋の開閉には、日本ジェネティクス株式会社の専用冶具(Fast Gene Cap easy)を利用した。
【0082】
(2)比較方法
図4に示した作業フローにおいて、RT-PCR反応の96サンプル分の調製に要する時間を測定した。測定は5回実施し、平均値を算出し比較した。
【0083】
(3)結果
加熱処理工程を含む従来法では、21分30秒程度時間を要するのに対し、本発明のジメチルスルホキシド処理では14分程度であり、作業時間が36%短縮される結果となった(図5)。
RT-PCR反応時間はBioRad製CFX96WELL DEEPにて以下の反応サイクルにて実施した場合、45分となる。
42℃ 3分(逆転写反応)、
95℃ 10秒、
95℃ 1秒-54℃ 5秒 10サイクル(PCR)
95℃ 1秒-54℃ 5秒 30サイクル(PCR)
ジメチルスルホキシド処理を利用した前処理法の所要時間と合わせると59分となり、検体の処理から、測定までの所要時間は1時間以内で達成できる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、分子生物学研究、さらに臨床検査や食品衛生管理などを目的とした検査において、好適に用いられる。
図1
図2
図3
図4
図5