(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】ロボットハンド、ロボット装置及び電子機器の製造方法
(51)【国際特許分類】
B25J 15/08 20060101AFI20221101BHJP
【FI】
B25J15/08 D
(21)【出願番号】P 2019540862
(86)(22)【出願日】2018-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2018030599
(87)【国際公開番号】W WO2019049639
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2021-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2017172618
(32)【優先日】2017-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】松崎 庸介
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 武一
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-015197(JP,A)
【文献】米国特許第04589817(US,A)
【文献】国際公開第2016/208339(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/046975(WO,A1)
【文献】特開昭62-068229(JP,A)
【文献】特開2016-097471(JP,A)
【文献】特開2000-343164(JP,A)
【文献】米国特許第05253911(US,A)
【文献】特開2010-069587(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00703646(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 15/00 - 15/12
B23P 19/04
H05K 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が固定された柔軟性のある線状部材を
前記線状部材の長手方向にスライド可能に把持することが可能なフィンガユニットと、
前記フィンガユニットに取り付けられ、前記線状部材を所定の位置に導くガイド部を有するガイド部材と
、
前記フィンガユニットと前記ガイド部材との間に取り付けられた弾性部材と
を具備するロボットハンド。
【請求項2】
請求項
1に記載のロボットハンドであって、
前記弾性部材の変形量を検出するセンサと、
前記センサの出力に基づいて、前記線状部材に対する把持力を制御する制御信号を前記フィンガユニットへ出力する制御部と、をさらに具備する
ロボットハンド。
【請求項3】
請求項
1に記載のロボットハンドであって、
前記弾性部材は、板バネで構成される
ロボットハンド。
【請求項4】
請求項
1に記載のロボットハンドであって、
前記弾性部材を支持し、前記フィンガユニットと前記ガイド部材との間の相対距離を変化させることが可能なスライドユニットをさらに具備する
ロボットハンド。
【請求項5】
ロボットアームと、
前記ロボットアームに取り付けられ、一端が固定された柔軟性のある線状部材を
前記線状部材の長手方向にスライド可能に把持することが可能なフィンガユニットと、
前記フィンガユニットに取り付けられ、前記線状部材を所定の位置に導くガイド部を有するガイド部材と、
前記フィンガユニットと前記ガイド部材との間に取り付けられた弾性部材と、
前記
フィンガユニットの移動方向に応じて、前記線状部材に対する把持力を制御する制御信号を前記フィンガユニットへ出力する制御部と
を具備するロボット装置。
【請求項6】
一端が固定された柔軟性のある線状部材と、前記線状部材の配線経路に沿って設けられ前記線状部材を係止する複数の係止部とを有する電子機器の製造方法であって、
ロボットハンドのフィンガユニットによって、前記線状部材を把持し、
前記フィンガユニットに弾性部材を介して取り付けられたガイド部材に支持された線状部材の一部を前記電子機器の表面に接触させ、
前記フィンガユニットの把持力を前記線状部材が
前記線状部材の長手方向にスライド可能な第1の把持力に調整し、前記線状部材を送り出しながら前記ガイド部材を移動させ、
前記フィンガユニットの把持力を前記第1の把持力よりも大きい第2の把持力に調整し、前記線状部材が係止部に係止される方向へ前記ガイド部材を移動させる
電子機器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、例えば、電子機器の製造に用いられるロボットハンド、ロボット装置及び電子機器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、電子機器の製造においては電子部品の組み立てに産業用ロボットが広く用いられている。例えば、ケーブル等の線状部材とコネクタ部品との接続工程を自動で行う技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ケーブル等の柔軟性のある線状部材をワーク表面に設けられた複数の係止爪に順に係止させながら所定の経路で引き回す際、ロボットハンドの把持部でケーブルを把持しながら上記所定の経路にケーブルをガイドする必要がある。しかしながら、フィンガユニットはワークの表面より上方の位置で移動するため、ケーブルをワーク表面に引き回すことが容易でなく、ケーブルの弛みや局所的な浮き上がりが生じやすい。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本技術の目的は、柔軟性のある線状部材をワーク表面に適切にガイドすることができるロボットハンド、ロボット装置及び電子機器の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本技術の一形態に係るロボットハンドは、フィンガユニットと、ガイド部材とを具備する。
上記フィンガユニットは、一端が固定された柔軟性のある線状部材をその長手方向にスライド可能に把持することが可能に構成される。
上記ガイド部材は、上記フィンガユニットに取り付けられ、上記線状部材を所定の位置に導くガイド部を有する。
【0007】
上記ロボットハンドはガイド部材を備えているため、フィンガユニットに把持された線状部材を、ガイド部を介してワーク表面等の所定位置に適切にガイドすることができる。
【0008】
上記ロボットハンドは、上記フィンガユニットと上記ガイド部材との間に取り付けられた弾性部材をさらに具備してもよい。
弾性部材の弾性力を利用して線状部材をワーク表面に押し付けながら、弛みや局所的な浮き上がりを生じさせることなく線状部材を引き回すことができる。
【0009】
上記ロボットハンドは、上記弾性部材の変形量を検出するセンサと、上記センサの出力に基づいて、上記線状部材に対する把持力を制御する制御信号を上記フィンガユニットへ出力する制御部とをさらに具備してもよい。
これにより、線状部材に加わる張力が所定の範囲内となるように線状部材に対する把持力を制御することができる。
【0010】
上記弾性部材は、板バネで構成されてもよい。
板バネの厚み方向に変形しやすく幅方向に変形しにくいという特性を利用して、線状部材を適切に引き回すことができる。
【0011】
上記ロボットハンドは、スライドユニットをさらに具備してもよい。上記スライドユニットは、上記弾性部材を支持し、上記フィンガユニットと上記ガイド部材との間の相対距離を変化させることが可能に構成される。
フィンガユニットとガイド部材との相対距離で弾性部材の弾性変形量を調整することができる。
【0012】
本技術の一形態に係るロボット装置は、ロボットアームと、フィンガユニットと、ガイド部材と、制御部とを具備する。
上記フィンガユニットは、上記ロボットアームに取り付けられ、一端が固定された柔軟性のある線状部材をその長手方向にスライド可能に把持することが可能に構成される。
上記ガイド部材は、上記フィンガユニットに取り付けられ、上記線状部材を所定の位置に導くガイド部を有する。
上記制御部は、上記ガイド部材の移動方向に応じて、上記線状部材に対する把持力を制御する制御信号を上記フィンガユニットへ出力する。
【0013】
本技術の一形態に係る電子機器の製造方法は、一端が固定された柔軟性のある線状部材と、上記線状部材の配線経路に沿って設けられ上記線状部材を係止する複数の係止部とを有する電子機器の製造方法であって、ロボットハンドのフィンガユニットによって、上記線状部材を把持することを含む。
上記ロボットハンドのガイド部材に支持された線状部材の一部が上記電子機器の表面に接触する。
上記フィンガユニットの把持力は上記線状部材がその長手方向にスライド可能な第1の把持力に調整され、上記線状部材を送り出しながら上記ガイド部材は移動する。
上記フィンガユニットの把持力は上記第1の把持力よりも大きい第2の把持力に調整され、上記線状部材が係止部に係止される方向へ上記ガイド部材は移動する。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本技術によれば、柔軟性のある線状部材をワーク表面に適切にガイドすることができる。
なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本技術の一実施形態に係るロボット装置を示す概略正面図である。
【
図2】上記ロボット装置におけるハンド部の構成を示す概略側面図である。
【
図3】上記ハンド部におけるフィンガユニットの閉塞状態を示す要部の拡大斜視図である。
【
図4】
図3に示すフィンガユニットの閉塞状態を示す要部斜視図である。
【
図5】
図3に示すフィンガユニット20による線状部材Cのクランプ状態を示す要部斜視図である。
【
図6】上記ハンド部の一作用を説明する概略側面図である。
【
図7A】上記ロボット装置を用いた線状部材の引き回し作業を模式的に示す平面図である。
【
図7B】上記ロボット装置を用いた線状部材の引き回し作業を模式的に示す側面図である。
【
図8】上記ロボット装置におけるコントローラにおいて実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図9】上記コントローラによるフィンガユニットの把持力調整の一例を示すタイミングチャートである。
【
図10A】本技術の第2の実施形態に係るハンド部の一形態例を示す要部の概略側面図である。
【
図12A】本技術の実施形態に係るハンド部の構成の変形例を示す概略側面図である。
【
図12B】本技術の実施形態に係るハンド部の構成の他の変形例を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本技術に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0017】
<第1の実施形態>
図1は、本技術の一実施形態に係るロボット装置を示す概略正面図である。本実施形態では、電子機器の製造工程に用いられる組立ロボットへの本技術の適用例について説明する。
【0018】
[ロボット装置の概略構成]
本実施形態のロボット装置1は、組立ロボット100と、電子機器の半完成品(以下、ワークWともいう)を支持する作業台2と、組立ロボット100の駆動を制御するコントローラ3(制御部)とを備える。
【0019】
組立ロボット100は、ハンド部101(ロボットハンド)と、ハンド部101を6軸自由度で任意の座標位置へ移動させることが可能な多関節アーム102(ロボットアーム)とを有する。
【0020】
ハンド部101は、ワークWに、ケーブル、ハーネス、FFC(Flexible Flat Cable)、FPC(Flexible Printed Circuit)等の柔軟性を有する線状部材(あるいは帯状部材。以下同じ)Cを組み付けることが可能に構成される。ここでは、線状部材Cの一端はワークW上の電子機器に接続されており、他端側がハンド部101で把持されながら、ワークWの表面上を所定の経路で引き回される。
【0021】
多関節アーム102は、作業台2又は作業台2に近接して配置された図示しない駆動ユニットに接続される。多関節アーム102は、ハンド部101を移動させ、あるいはその姿勢を変換する搬送機構として構成される。多関節アーム102は、典型的には、垂直多関節アーム、水平多関節アーム等で構成されるが、XYZ直交ロボット(3軸ロボット)等で構成されてもよい。
【0022】
コントローラ3は、典型的には、CPU(Central Processing Unit)やメモリを有するコンピュータで構成され、組立ロボット100の駆動を上記メモリに格納されたプログラムに従って制御するように構成される。
【0023】
[組立ロボット]
図2は組立ロボット100のハンド部101の構成を示す概略側面図である。各図においてX軸、Y軸及びZ軸は、相互に直交する3軸方向をそれぞれ示している。
【0024】
図2に示すように、ハンド部101は、フィンガユニット20と、ガイド部材30と、弾性部材40とを有する。
【0025】
フィンガユニット20は、X軸方向に相互に対向しZ軸方向に延びる金属製の第1及び第2のフィンガ部21,22と、機構部23とを有する。フィンガユニット20は、線状部材Cを把持することが可能に構成される。
【0026】
機構部23は、多関節アーム102に取り付けられ、第1及び第2のフィンガ部21,22をX軸方向に開閉する駆動機構を有する。機構部23は、第1及び第2のフィンガ部21,22を各々同期して駆動させるように構成されてもよいし、一方のフィンガ部に対して他方のフィンガ部を相対移動させるように構成されてもよい。
【0027】
駆動機構としては、典型的には、エアシリンダが採用される。エアシリンダへ導入されるエア圧に応じて、フィンガユニット20の把持力をほぼ直線的に変化させることができる。駆動機構としては、エアシリンダ以外に、油圧シリンダ等の他の流体圧シリンダのほか、電動モータやバネ機構等が採用可能である。
【0028】
図3はフィンガユニット20の閉塞状態を示す要部の拡大斜視図、
図4は、
図3に示すフィンガユニット20の閉塞状態を示す要部斜視図、
図5は、
図3に示すフィンガユニット20による線状部材Cのクランプ状態を示す要部斜視図である。
【0029】
フィンガユニット20は、一対のパッド部210,220を有する。一方のパッド部210は、一方のフィンガ部21の先端部内面に一体的に固定され、他方のパッド部220は、他方のフィンガ部22の先端部内面に一体的に固定される。パッド部210,220は、耐摩耗性に優れたフッ素樹脂等の合成樹脂材料で構成される。
【0030】
一対のパッド部210,220は、YZ平面に平行な平面で形成され線状部材CをX軸方向に挟んで挟持(把持)する挟持面211,221を有する。フィンガユニット20は、コントローラ3の出力に基づいて、挟持面211,221に対して線状部材Cがその長手方向にスライド可能な第1の把持力と、当該第1の把持力よりも大きい第2の把持力とに調整することが可能に構成される。
ここで、長手方向にスライド可能な第1の把持力とは、引き回し作業中に作用する張力で線状部材Cをフィンガユニット20から繰り出すことが可能な把持力を意味する。一方、第2の把持力とは、典型的には、上記張力に抗して線状部材Cのスライドを禁止することができる把持力を意味する。
【0031】
一対のパッド部210,220は、フィンガ部21,22の先端側に、フィンガユニット20の閉塞時にY軸方向に相互に対向する嵌合部212,222を有する。嵌合部212,222は、Y軸方向の一方側にのみ設けられているが、これに限られず、Y軸方向の他方側にも設けられていてもよい。
【0032】
ガイド部材30は、弾性部材40を介してフィンガユニット20の先端部に取り付けられる。本実施形態においてガイド部材30は、弾性部材40を介して第1のフィンガ部21の先端部に取り付けられる。
【0033】
ガイド部材30は、線状部材Cを所定の位置に導くガイド部31を有する。ガイド部31は、フィンガユニット20に把持された線状部材Cの一部を収容することが可能な溝形状を有する。
ここで、所定の位置とは、典型的には、ワークW上における線状部材Cの引き回し位置や組み付け位置をいい、例えば、ワークW上において線状部材Cを係止する係止溝Wb(
図6)や係止爪Wc(
図7A)等の係止部の位置あるいはその近傍に相当する。
【0034】
ガイド部31は、第1のフィンガ部21から第2のフィンガ部22に向かって開口する。これにより、フィンガユニット20の軸方向が鉛直方向に向いたときに、挟持面211,221垂れ下がる線状部材Cの一部を効率よくガイド部31内に収容することができる。ガイド部31は角溝形状を有するが、これに限られず、丸溝あるいは三角溝等の他の形状で形成されてもよい。
【0035】
ガイド部材30は、ワークWの表面に対向するガイド面32をさらに有する。
図6に示すように、フィンガユニットと20は、線状部材Cの引き回し作業時にワーク表面Wに対して進行方向に所定角度(例えば10~15°)傾斜した姿勢に保持される。ガイド面32は、当該傾斜姿勢においてワークWの表面と対向することが可能なテーパ面で構成される。
【0036】
ガイド部材30は、耐摩耗性に優れ、線状部材Cに対して低摩擦係数を有するPOM(ポリアセタール)等の合成樹脂材料で構成される。ガイド部材30は、フィンガユニット20により上記第1の把持力で把持されつつ、ガイド部31に収容された線状部材CをワークWの表面に所定の圧力で押し付けながら、ハンド部101(フィンガユニット20)の移動方向にガイドする。
【0037】
弾性部材40は、フィンガユニット20(第1のフィンガ部21)とガイド部材30との間に取り付けられ、ガイド部材30をフィンガユニット20に対して相対変位可能に支持する。
【0038】
弾性部材40は、
図6に示すように線状部材CをワークWの表面に沿って引き回す際、ガイド部材30に上記所定の圧力を付与する弾性力を発生する。これにより、線状部材Cに一定の張力が加わるため、線状部材Cの弛み等を抑制することができる。さらに、例えばワークWの表面に設けられた係止溝Wb(
図6参照)の間に、線状部材Cを適切に埋め込むことができる。
【0039】
本実施形態において弾性部材40は、Y軸方向に幅方向を有する板バネ部材で構成される。これにより、ガイド部材30をフィンガユニット20に対してY軸方向の移動を規制しつつ、X軸方向への相対変位が可能となる。このようにフィンガユニット20に対するガイド部材30の相対変位方向に異方性をもたせることで、ガイド部材30による線状部材Cのガイド機能が高められ、後述するように、ワークWの表面に設けられた係止溝Wbや係止爪(
図7A,B参照)等の係止部への線状部材Cの係止作業を高精度に行うことが可能となる。
【0040】
図2に示すように、ハンド部101は、弾性部材40の変形量を検出するセンサ41をさらに有する。センサ41は、弾性部材40の変形領域に取り付けられた歪センサで構成される。センサ41の出力は、コントローラ3へ出力される。コントローラ3は、センサ41の出力に基づいて、線状部材Cに対する把持力を制御する制御信号をフィンガユニット20(機構部23)へ出力するように構成される。
【0041】
[コントローラ]
コントローラ3は、弾性部材40の変形量をセンサ41によってリアルタイムで検出し、弾性部材40の変形量が所定の値(又は範囲)となるようにフィンガユニット20の把持力を調整する。例えば、弾性部材40の変形量が上記所定の値(又は範囲)より大きいとき、コントローラ3は、線状部材Cに作用する張力が高いと判断し、把持力を弱める制御信号をフィンガユニット20へ出力する。一方、弾性部材40の変形量が上記所定の値(又は範囲)より小さいとき、コントローラ3は、線状部材Cに作用する張力が低いと判断し、把持力を強める制御信号をフィンガユニット20へ出力する。
【0042】
特に、線状部材Cの種類やロットの違いにより、パッド部210,220の接触面211,221と線状部材Cとの摩擦力に違いがある場合、線状部材Cに作用する張力にバラツキが発生し、作業品質にばらつきが発生する。本実施形態によれば、センサ41の出力を利用して線状部材Cの張力が一定となるようにフィンガユニット20の把持力を調整することで、作業のバラツキをなくし、品質を一定にすることができる。さらに、作業時のセンサ41の出力を解析することで、線状部材Cの引き回しや係止部への係止作業に関する成否確認が可能となり、後工程での作業可否の検査工程が不要となるという利点がある。
【0043】
さらに、コントローラ3は、フィンガユニット20の移動方向に応じて線状部材Cに対する把持力を調整する制御信号をフィンガユニット20へ出力するように構成される。例えば、線状部材Cを送り出しながらワークWの表面に引き回す際には、線状部材Cがスライド可能な把持力(第1の把持力)にフィンガユニット20の把持力を調整し、線状部材Cを係止爪へ係止させる際には、線状部材Cのスライドを禁止できる把持力(第2の把持力)にフィンガユニット20の把持力を調整する。
【0044】
[ロボット装置の動作]
続いて、以上のように構成されるロボット装置1の典型的な動作について説明する。
【0045】
本実施形態のロボット装置1は、上述のように、一端が固定された線状部材Cの他端をハンド部101で把持しながら、ワークWの表面上を所定の経路で引き回す作業を行う。例えば
図7A,Bに、ワークWの表面に設けられた複数の係止爪Wcに左から右へ順に引っ掛けながら線状部材Cを引き回す作業を模式的に示す。
【0046】
ワークWの表面は、ワークWの上面でもよいし側面であってもよい。係止爪Wcは、長手方向の一端部に開口溝Wc1が設けられており、開口溝Wc1側からワークWの表面に平行に移動させることで線状部材Cを係止させる。開口溝Wc1は、各係止爪Wcに対して交互に逆向きに設けられる。
【0047】
図8は、コントローラ3において実行される処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0048】
ハンド部101は、フィンガユニット20によって線状部材Cの所定部位を把持する。ワークWの表面からの線状部材Cのピックアップは、ハンド部101(フィンガユニット20)が自ら行ってもよいし、図示しない補助ロボットからの受け渡しであってもよい。
【0049】
作業開始に際して、コントローラ3は、フィンガユニット20の軸方向が鉛直方向となるようにハンド部101を起立させる。これにより、フィンガユニット20から垂れ下がる線状部材Cの上記一端側の一部がガイド部材30のガイド部31に収容される。
【0050】
コントローラCは、ハンド部101によって実行される作業の種別を決定する(ステップ101)。作業の種別としては、ここでは、線状部材Cを把持しながらフィンガユニット20から送り出す引き回し作業と、線状部材Cを係止爪Wcへ係止させるフッキング作業の2種類を例に挙げて説明する。
【0051】
(引き回し作業)
引き回し作業においては、一端がワークW上に固定された線状部材Cに所定の張力を付与しながら、線状部材Cが所定の経路に沿ってワークWの表面に引き回される。引き回し作業に先立って、ハンド部101は、フィンガユニット20で線状部材Cに所定の張力を付与した状態で、ガイド部31に収容された線状部材CがワークWの表面に接触する位置まで下降する。このとき、弾性部材40の弾性力によって、ガイド部材30とワークWとの衝突から線状部材Cが保護される。
【0052】
コントローラ3は、線状部材Cの引き回し作業として設定された把持力にフィンガユニット20を調整するための制御信号を出力する(ステップ102)。フィンガユニット20は、コントローラ3からの制御信号を受信して線状部材Cに対する把持力を、パッド部210,220に対して線状部材Cが長手方向にスライド自在な把持力である第1の把持力(F1)に設定する。
【0053】
コントローラ3は、ガイド部材30のガイド部31が開口する方向にハンド部101を所定角度前傾させ、弾性部材40をその厚み方向に弾性変形させながら、ワークWの表面に沿って移動を開始させる。これにより線状部材Cは、フィンガユニット20に把持された状態で、パッド部210,220に対して長さ方向にスライドすることで、後方へ送り出される。
【0054】
線状部材Cには、フィンガユニット20の把持力と弾性部材40の変形量に応じた張力が作用する。そこで、コントローラ3は、弾性部材40に取り付けられたセンサ41の出力に基づいて、フィンガユニット20の線状部材Cに対する把持力に補正が必要かどうか判定する(ステップ103)。コントローラ3は、補正が必要ないと判定したときはそのまま作業を継続し、補正が必要と判定したときは把持力を補正する(ステップ105)。把持力の補正は、ハンド部101を移動させながら行ってもよいし、ハンド部101の移動を停止させてから行ってもよい。
【0055】
線状部材Cの張力の調整は、フィンガユニット20の把持力を調整する方法に限られず、ワークWの表面への線状部材Cの押し付け力を調整する方法が採用されてもよい。すなわち、弾性部材40の変形量に応じた弾性力を調整することで、線状部材Cの張力を調整することも可能である。
【0056】
コントローラ3は、フィンガユニット20の把持力の補正によって線状部材Cの所望とする張力が得られたときはそのまま作業を継続し、把持力の補正によっても線状部材Cの所望とする張力が得られないときは、線状部材Cの断線やハンド部101の不具合が生じた可能性があるため、作業の継続を中断する(ステップ106)。
【0057】
(フッキング作業)
線状部材Cを係止部Wcの近傍にまでガイドした後、コントローラ3は、作業モードを引き回し作業からフッキング作業へ切り替え、線状部材Cのフッキング作業として設定された把持力にフィンガユニット20を調整するための制御信号を出力する(ステップ104,102)。フィンガユニット20は、コントローラ3からの制御信号を受信して線状部材Cに対する把持力を、第1の把持力(F1)よりも大きい第2の把持力(F2)に設定する。
【0058】
フッキング作業においては、線状部材Cに所定の張力を付与しながら、線状部材Cが係止爪Wcの係止溝に係止される方向にハンド部101を移動させる(
図7A参照)。線状部材Cは、フィンガユニット20に対するスライドが禁止されるため、線状部材Cの所定部位を係止爪Wcの係止溝Wc1へ高精度にガイドすることができる。
【0059】
さらに、ハンド部101を板バネ部材で構成された弾性部材40の幅方向に移動させることにより、弾性部材40の幅方向への弾性変形が規制される。これによりハンド部101の位置制御のみで線状部材Cを一定の押し込み力で係止溝Wc1へ挿し込むことができる。例えば、線径0.7mmのケーブルを高さ2mmの係止爪へ安定に係止させることができる。
【0060】
以上の動作を繰り返し実行することにより、線状部材Cは、複数の係止爪Wcへ順次係止させながら線状部材CをワークWの表面に引き回される。
図9は、コントローラ3によるフィンガユニット20の把持力調整の一例を示すタイミングチャートである。図において時間T0~T1およびT1~T2が把持力F1(引き回し作業工程)、時間T1~T2が把持力F2(フッキング作業工程)である。
一連の作業が完了した後、コントローラ3は、センサ41の出力に基づいて、作業の成否確認結果を出力する(ステップ107)。
【0061】
以上のように本実施形態によれば、ハンド部101がガイド部材30を備えているため、フィンガユニット20に把持された線状部材Cを、ガイド部材30を介してワークW上の所定位置に適切にガイドすることができる。したがって、単一ハンドで柔軟物の挙動を抑制しながら、狭小領域でも柔軟物の引き回し作業を簡単に行うことができる。
【0062】
ハンド部101は、フィンガユニット20とガイド部材30との間に取り付けられた弾性部材40を備えているため、弾性部材40の弾性力を利用して柔軟性のある線状部材CをワークWの表面に押し付けながら作業することができる。これにより、弛みや局所的な浮き上がりを生じさせることなく線状部材Cを引き回すことができる。さらに、セットの位置ずれやロボットの動作ずれを弾性部材40の弾性変形で補償することができ、高速動作にも対応することが可能となる。
【0063】
さらに、弾性部材40の変形量を検出するセンサの出力に基づいてフィンガユニット20の把持力を調整することができるため、線状部材Cの張力を一定に保ちながら、所定の経路に沿って線状部材Cを引き回すことができる。さらに、作業内容ごとに作業時の応力調整と送り出し量を調整することができるため、作業の自由度と確度とを向上させることができる。
【0064】
<第2の実施形態>
図12A,Bは、本技術の他の実施形態に係るハンド部の構成を示す概略側面図である。以下、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、第1の実施形態と同様の構成については同様の符号を付しその説明を省略または簡略化する。
【0065】
本実施形態のハンド部201は、フィンガユニット20と、ガイド部材30と、弾性部材40と、スライドユニット50とを有する。スライドユニット50は、弾性部材40を支持し、フィンガユニット20とガイド部材30との間の相対距離を変化させることが可能に構成される。
【0066】
スライドユニット50は、フィンガユニット20(図示の例では第1のフィンガ部21)に取り付けられる。弾性部材40は板バネ部材で構成され、その一端がスライドユニット50に固定され、他端がガイド部材30に固定される。スライドユニット50は、弾性部材40をフィンガユニット20の軸方向に往復移動させることが可能なリニアアクチュエータで構成される。リニアアクチュエータの種類は特に限定されず、流体圧アクチュエータであってもよいし、電動アクチュエータであってもよい。
【0067】
スライドユニット50は、
図12Aに示すようにガイド部材30をフィンガユニット20から離間させた第1の状態と、
図12Bに示すようにガイド部材30をフィンガユニット20に近接させた第2の状態とを切替可能に構成される。スライドユニット50は、上記第1の状態と第2の状態との間の任意の位置にガイド部材30を停止させることが可能に構成されてもよい。
【0068】
第1の状態におけるフィンガユニット20とガイド部材30との間の相対距離は特に限定されず、例えば、第1の実施形態と同様な距離に設定される。これにより、第1の実施形態と同様に、線状部材Cに適度な張力を付与することができるとともに、弾性部材40の弾性変形を利用してセットの位置ずれやロボットの動作ずれを補償することが可能となる。
【0069】
一方、第2の状態におけるフィンガユニット20とガイド部材30との間の相対距離も特に限定されず、典型的には、線状部材Cの引き回し作業時に弾性部材40の弾性変形を生じさせない距離(例えば、ゼロまたはその近傍の値)に設定される。これにより、弾性部材40の弾性力を利用せずにハンド部101からの押し付け力を線状部材Cに直接作用させることができるので、例えば
図11に示すように、係止部として比較的強い押し込み力が必要とされる係止溝Wbに対して線状部材Cを適切に係止させることができる。
【0070】
以上、本技術の実施形態について説明したが、本技術は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、種々変更を加え得ることは勿論である。
【0071】
例えば以上の実施形態では、弾性部材40を備えたロボット装置を例に挙げて説明したが、弾性部材40の設置が省略されてもよい。この場合、ガイド部材30は、フィンガユニット20(第1のフィンガ部21)の先端部に直接あるいは比較的剛性の高い支持プレートを介して取り付けられる。
図12Aに、フィンガユニット20(第1のフィンガ部21)の先端部にガイド部材30が直接取り付けられたハンド部301の構成を概略的に示す。この場合、ガイド部材30は、合成ゴム等の弾性材料で構成されてもよい。
【0072】
以上の実施形態では、フィンガユニット20の各フィンガ部21,22がパッド部210,220を介して線状部材Cを把持するように構成されたが、パッド部210,220を省略して各フィンガ部21,22で直接、線状部材Cを把持するように構成されてもよい。
【0073】
以上の実施形態では、弾性部材40が板バネ部材で構成された例について説明したが、これに限られず、例えば
図12Bに示すように、弾性部材44がコイルバネで構成されてもよい。
【0074】
さらに以上の実施形態では、ロボット装置として、線状部材の引き回し作業用ロボットを例に挙げて説明したが、これに限られず、例えば、コネクタへの配線の接続作業やラベルシール、テープ等の貼り付け作業等の他の用途にも適用可能である。また、ロボット装置は、産業用ロボットに限られず、家庭用ロボットや医療用ロボットにも適用可能である。
【0075】
なお、本技術は以下のような構成もとることができる。
(1) 一端が固定された柔軟性のある線状部材をその長手方向にスライド可能に把持することが可能なフィンガユニットと、
前記フィンガユニットに取り付けられ、前記線状部材を所定の位置に導くガイド部を有するガイド部材と
を具備するロボットハンド。
(2)上記(1)に記載のロボットハンドであって、
前記フィンガユニットと前記ガイド部材との間に取り付けられた弾性部材をさらに具備する
ロボットハンド。
(3)上記(2)に記載のロボットハンドであって、
前記弾性部材の変形量を検出するセンサと、
前記センサの出力に基づいて、前記線状部材に対する把持力を制御する制御信号を前記フィンガユニットへ出力する制御部と、をさらに具備する
ロボットハンド。
(4)上記(2)又は(3)に記載のロボットハンドであって、
前記弾性部材は、板バネで構成される
ロボットハンド。
(5)上記(2)~(4)のいずれか1つに記載のロボットハンドであって、
前記弾性部材を支持し、前記フィンガユニットと前記ガイド部材との間の相対距離を変化させることが可能なスライドユニットをさらに具備する
ロボットハンド。
(6) ロボットアームと、
前記ロボットアームに取り付けられ、一端が固定された柔軟性のある線状部材をその長手方向にスライド可能に把持することが可能なフィンガユニットと、
前記フィンガユニットに取り付けられ、前記線状部材を所定の位置に導くガイド部を有するガイド部材と、
前記ガイド部材の移動方向に応じて、前記線状部材に対する把持力を制御する制御信号を前記フィンガユニットへ出力する制御部と
を具備するロボット装置。
(7) 一端が固定された柔軟性のある線状部材と、前記線状部材の配線経路に沿って設けられ前記線状部材を係止する複数の係止部とを有する電子機器の製造方法であって、
ロボットハンドのフィンガユニットによって、前記線状部材を把持し、
前記ロボットハンドのガイド部材に支持された線状部材の一部を前記電子機器の表面に接触させ、
前記フィンガユニットの把持力を前記線状部材がその長手方向にスライド可能な第1の把持力に調整し、前記線状部材を送り出しながら前記ガイド部材を移動させ、
前記フィンガユニットの把持力を前記第1の把持力よりも大きい第2の把持力に調整し、前記線状部材が係止部に係止される方向へ前記ガイド部材を移動させる
電子機器の製造方法。
【符号の説明】
【0076】
1…ロボット装置
3…コントローラ
20…フィンガユニット
21…第1のフィンガ部
22…第2のフィンガ部
30…ガイド部材
31…ガイド部
40,44…弾性部材
41…センサ
50…スライドユニット
101…ハンド部
102…多関節アーム
C…線状部材
W…ワーク