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特許7167932防食端子材及び防食端子並びに電線端末部構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】防食端子材及び防食端子並びに電線端末部構造
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/00 20060101AFI20221101BHJP
   C25D 5/02 20060101ALI20221101BHJP
   C25D 5/10 20060101ALI20221101BHJP
   C25D 5/12 20060101ALI20221101BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20221101BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20221101BHJP
   H01R 4/62 20060101ALI20221101BHJP
   H01R 4/18 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
C25D7/00 H
C25D5/02 H
C25D5/10
C25D5/12
C25D5/50
H01R13/03 D
H01R4/62 A
H01R4/18 A
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019550279
(86)(22)【出願日】2018-10-25
(86)【国際出願番号】 JP2018039680
(87)【国際公開番号】W WO2019087926
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2017208844
(32)【優先日】2017-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】久保田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】樽谷 圭栄
(72)【発明者】
【氏名】玉川 隆士
(72)【発明者】
【氏名】中矢 清隆
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-134869(JP,A)
【文献】国際公開第2017/090638(WO,A1)
【文献】特表2016-518528(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0342571(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00-7/12
H01R 13/03
H01R 3/00-4/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金からなる基材と、前記基材の上に積層された皮膜とを有する防食端子材であって、
前記皮膜は、亜鉛合金からなる亜鉛層と錫又は錫合金からなる錫層とがこの順に積層されてなり端子に成形されたときに電線の心線が接触される心線接触予定部に設けられた第1皮膜と、前記錫層を有し前記亜鉛層を有せず前記端子に成形されたときに接点部となる接点予定部に設けられた第2皮膜とを有し、
前記亜鉛層は、厚みが0.1μm以上5.0μm以下で、亜鉛濃度が30質量%以上95質量%以下であり、残部としてニッケル、鉄、マンガン、モリブデン、コバルト、カドミウム、鉛、錫のいずれかを1種以上含み、
前記心線接触予定部における前記錫層の上に表面金属亜鉛層が形成されている
ことを特徴とする防食端子材。
【請求項2】
前記亜鉛層は、前記端子として成形された後の表面に対する面積率が30%以上80%以下であることを特徴とする請求項1記載の防食端子材。
【請求項3】
前記第1皮膜の前記錫層中の錫又は錫合金の平均結晶粒径が0.5μm以上8.0μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の防食端子材。
【請求項4】
前記第1皮膜における前記錫層は、前記心線接触予定部において厚みが0.8μm以上6.0μm以下で亜鉛濃度が0.4質量%以上15質量%以下である錫合金からなることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の防食端子材。
【請求項5】
前記基材と前記皮膜との間に、ニッケル又はニッケル合金からなる下地層を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の防食端子材。
【請求項6】
帯板状のキャリア部と、
前記キャリア部の長さ方向に間隔をおいて複数連結され、前記心線接触予定部及び前記接点予定部を有する端子用部材と
を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載の防食端子材。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項記載の防食端子材からなることを特徴とする防食端子。
【請求項8】
請求項7記載の防食端子がアルミニウム又はアルミニウム合金のアルミニウム線材からなる電線の端末に圧着されていることを特徴とする電線端末部構造。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか一項記載の防食端子材であって、前記亜鉛層の前記厚みが0.3μm以上2.0μm以下であることを特徴とする防食端子材。
【請求項10】
請求項1に記載の防食端子材であって、前記亜鉛層の前記亜鉛濃度が65質量%以上であることを特徴とする防食端子材。
【請求項11】
請求項1に記載の防食端子材であって、前記亜鉛層に含まれるニッケル、鉄、マンガン、モリブデン、コバルト、カドミウム、鉛、錫のいずれかの1種以上が合計で5質量%以上であることを特徴とする防食端子材。
【請求項12】
請求項3に記載の防食端子材であって、前記錫層中の錫又は錫合金の平均結晶粒径が1.2μm以上3.0μm以下であることを特徴とする防食端子材。
【請求項13】
請求項4に記載の防食端子材であって、前記錫層の前記亜鉛濃度が0.6質量%以上6.0質量%以下であることを特徴とする防食端子材。
【請求項14】
請求項4に記載の防食端子材であって、前記錫層の前記亜鉛濃度が0.6質量%以上6.0質量%以下であることを特徴とする防食端子材。
【請求項15】
請求項5に記載の防食端子材であって、前記下地層の厚さが0.1μm以上5.0μm以下であることを特徴とする防食端子材。
【請求項16】
請求項15に記載の防食端子材であって、前記下地層の厚さが0.3μm以上2.0μm以下であることを特徴とする防食端子材。
【請求項17】
請求項5に記載の防食端子材であって、前記下地層におけるニッケル含有率が80質量%以上であることを特徴とする防食端子材。
【請求項18】
請求項14に記載の防食端子材であって、前記下地層における前記ニッケル含有率が90質量%以上であることを特徴とする防食端子材。
【請求項19】
請求項7に記載の防食端子であって、
電線の心線がかしめられる心線圧着部と、前記電線の被覆部がかしめられる被覆圧着部と、別の端子が接続される接続部とを備えることを特徴とする防食端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム線材からなる電線の端末に圧着される端子として用いられ、腐食防止効果の高い防食端子材及びその防食端子材からなる防食端子、並びにその防食端子を用いた電線端末部構造に関する。
【0002】
本願は、2017年10月30日に出願された特願2017-208844号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0003】
従来、銅又は銅合金で構成されている電線の端末部に、銅又は銅合金で構成された端子を圧着し、この端子を機器に設けられた端子に接続することにより、その電線を機器に接続することが行われている。電線の心線は、電線の軽量化等のために、銅又は銅合金に代えてアルミニウム又はアルミニウム合金で構成される場合がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、アルミニウム製又はアルミニウム合金製の素線を複数本撚り合わせた撚り線からなる芯線が絶縁被覆で覆われている電線と、この電線の端末において絶縁被膜の剥離により露出した露出芯線が電気的に接続されている接続部とを有する端子と、を備える端子付き電線が開示されている。
【0005】
電線(導線)をアルミニウム又はアルミニウム合金で構成し、端子を銅又は銅合金で構成すると、水が端子と電線との圧着部に入ったときに、異金属の電位差による異種金属接触腐食が発生することがある。そして、その電線の腐食に伴い、圧着部での電気抵抗値の上昇や圧着力の低下が生ずるおそれがある。
【0006】
例えば特許文献1~3に、このような異種金属間の腐食の防止方法が記載されている。
【0007】
特許文献1には、鉄又は鉄合金からなる基材層と最も外側に形成されたスズ層との間に、基材層に対して犠牲防食作用を有する金属からなる防食層が形成された端子が開示されている。また、特許文献1には、防食層が、亜鉛または亜鉛合金からなる層であることが記載されている。
【0008】
特許文献2には、金属材料よりなる基材と、基材上に形成された合金層と、合金層の表面に形成された導電性皮膜層とを有するコネクタ用電気接点材料が開示されている。特許文献2のコネクタ用電気接点材料は、合金層がSnを必須に含有するとともに、さらにCu、Zn、Co、Ni及びPdから選択される1種または2種以上の添加元素を含んでおり、導電性皮膜層がSn(OH)(水酸化酸化物)を含んでいる。特許文献2には、Sn(OH)を含む導電性皮膜層により、高温環境下での耐久性が向上し、長期間にわたって低い接触抵抗を維持することができると記載されている。
【0009】
特許文献3には、銅又は銅合金の表面に、下地Niめっき層、中間Sn-Cuめっき層及び表面Snめっき層を順に有するSnめっき材が開示されている。このSnめっき材において、下地Niめっき層はNi又はNi合金で構成され、中間Sn-Cuめっき層は少なくとも表面Snめっき層に接する側にSn-Cu-Zn合金層が形成されたSn-Cu系合金で構成され、表面Snめっき層はZnを5~1000質量ppm含有するSn合金で構成され、さらに最表面にZn濃度が0.1質量%を超えて10質量%までのZn高濃度層を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2013‐218866号公報
【文献】特開2015‐133306号公報
【文献】特開2008‐285729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載のように、下地に亜鉛または亜鉛合金からなる防食層を設けた場合には、防食層上にSnめっきを実施してスズ層を形成する際に、Sn置換が生じて防食層とスズ層との密着性が悪くなるという問題があった。特許文献2に記載のように、Sn(OH)を含む導電性皮膜層を設けた場合でも、腐食環境や加熱環境に曝された際に、水酸化酸化物の欠損が生じるため、持続性が低いという問題があった。特許文献3に記載のように、Sn‐Cu系合金層上にSn‐Zn合金を積層し、最表層にZn高濃度層を持つものは、Sn‐Zn合金めっきの生産性が悪く、Sn‐Cu合金層の銅(Cu)が表層に露出した場合にアルミニウム線材に対する防食効果がなくなるという問題があった。
【0012】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたものであって、アルミニウム線材からなる電線の端末に圧着される端子として、銅又は銅合金基材を用いた腐食防止効果の高い防食端子材、その防食端子材からなる防食端子、並びにその防食端子を用いた電線端末部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の防食端子材は、銅又は銅合金からなる基材と、前記基材の上に積層された皮膜とを有する防食端子材であって、前記皮膜は、亜鉛合金からなる亜鉛層と錫又は錫合金からなる錫層とがこの順に積層されてなり端子に成形されたときに電線の心線が接触される心線接触予定部に設けられた第1皮膜と、前記錫層を有し前記亜鉛層を有せず前記端子に成形されたときに接点部となる接点予定部に設けられた第2皮膜とを有し、前記亜鉛層は、厚みが0.1μm以上5.0μm以下で、亜鉛濃度が30質量%以上95質量%以下であり、残部としてニッケル、鉄、マンガン、モリブデン、コバルト、カドミウム、鉛、錫のいずれかを1種以上含み、前記心線接触予定部における前記錫層の上に表面金属亜鉛層が形成されている
【0014】
この防食端子材は、心線接触予定部の第1皮膜が、亜鉛層と錫層とが積層して形成されており、亜鉛層の亜鉛が錫層中に拡散している。このため、心線接触予定部における錫層の腐食電位がアルミニウムに近くなっており、アルミニウム線材と接触した場合の異種金属接触腐食の発生を抑えることができる。しかも、第1皮膜は錫層の下地に亜鉛層を有しており、万一、摩耗等により錫層の全部又は一部が消失した場合でも、その下の亜鉛層により異種金属接触腐食の発生を抑えることができ、電気抵抗値の上昇やアルミニウム線材への圧着力の低下を抑制できる。
【0015】
亜鉛層がニッケル、鉄、マンガン、モリブデン、コバルト、カドミウム、鉛、錫のいずれか1種以上を含む亜鉛合金であることにより、過剰な亜鉛拡散を防ぎながら亜鉛層自体の耐食性を向上させることができる。このため、腐食環境に晒され錫層が消失した際も、長く亜鉛層を保ち続け腐食電流の増大を防ぐことができる。ニッケル亜鉛合金又は錫亜鉛合金は、亜鉛層の耐食性を向上させる効果が高く、特に好ましい。
【0016】
亜鉛層の亜鉛濃度が30質量%未満では、亜鉛層の耐食性が悪化し、塩水等の腐食環境に晒された際に亜鉛層が速やかに腐食消失して基材が露出し、アルミニウム線材との間で腐食を生じ易い。一方、亜鉛層の亜鉛濃度が95質量%を超えると、錫層への亜鉛の拡散が過剰になり、アルミニウム線材と端子との接触抵抗が上昇する。
【0017】
亜鉛層は、その厚みが0.1μm未満では、第1皮膜(錫層)の表面の腐食電位を卑化する効果がなく、厚みが5.0μmを超えるとプレス加工性が悪化するため、端子へのプレス加工時に割れが発生するおそれがある。亜鉛層の厚みは、0.3μm以上2.0μm以下がより好ましい。
【0018】
一方で、接点予定部の第2皮膜においては、錫層の下に亜鉛層を有しない。亜鉛が錫層の表面に存在すると、高温高湿環境下において接点としての接続信頼性が損なわれることがある。このため、接点予定部の第2皮膜は、亜鉛層を有しない構造とすることで、高温高湿環境に曝された際も接触抵抗の上昇を抑えることができる。
【0019】
本発明の防食端子材において、前記亜鉛層は前記端子として成形された後の表面に対する面積率が30%以上80%以下であるとよい。
【0020】
亜鉛層は、接点予定部には存在せず、心線接触予定部には存在している必要がある。これら接点予定部及び心線接触予定部以外の部分では、亜鉛層は必ずしも存在している必要はないが、亜鉛層が存在している部位の比率が高い方が望ましく、基材表面全体の30%以上80%以下の面積率で存在すると良い。
【0021】
本発明の防食端子材において、前記第1皮膜の前記錫層中の錫又は錫合金の平均結晶粒径が0.5μm以上8.0μm以下であるとよい。
【0022】
第1皮膜の錫層中の亜鉛は、基材の上に亜鉛合金めっきを施して亜鉛層を形成した後に錫めっきを施して拡散処理する等の方法によって錫層を形成することにより、亜鉛層から錫層中に分散される。この際、亜鉛は錫の結晶粒界を経由して錫層中に拡散するため、錫層中の錫又は錫合金の平均結晶粒径が微細であると、亜鉛の拡散量が増し、防食効果が高められるとともに、腐食環境に晒されて錫中の亜鉛濃度が低下した際も亜鉛が継続的に供給されて高い持続力を有する。
【0023】
しかし、錫層中の錫又は錫合金の平均結晶粒径が0.5μm未満では、粒界密度が高すぎて亜鉛の拡散が過剰となり、錫層の耐食性が低下する。このため、腐食環境に曝された際に錫層が腐食され、アルミニウム線材との接触抵抗が悪化(上昇)するおそれがある。一方、錫層中の錫又は錫合金の平均結晶粒径が8.0μmを超えると、亜鉛の拡散が不足して、アルミニウム線材を防食する効果が乏しくなる。第1皮膜の錫層中の錫又は錫合金の平均結晶粒径は、1.2μm以上3.0μm以下がより好ましい。
【0024】
本発明の防食端子材において、前記第1皮膜における前記錫層は、前記心線接触予定部において厚みが0.8μm以上6.0μm以下で亜鉛濃度が0.4質量%以上15質量%以下である錫合金からなるとよい。
【0025】
第1皮膜の錫層の厚みが0.8μm未満では、錫層の厚みが薄すぎて、はんだ濡れ性が低下し、接触抵抗の増大を招くおそれがある。一方、第1皮膜の錫層の厚みが6.0μmを超えると、錫層の厚みが厚すぎて、表面の動摩擦係数の増大を招き、コネクタ等での使用時の着脱抵抗が大きくなる傾向にある。
【0026】
前述したように、第1皮膜の錫層が亜鉛を含有していると、腐食電位を卑化してアルミニウム線材を防食する効果があるが、その亜鉛濃度が0.4質量%未満では腐食電位を卑化してアルミニウム線材を防食する効果に乏しく、15質量%を超えると錫層の耐食性が著しく低下し、腐食環境に曝されると錫層が腐食され、第1皮膜とアルミニウム線材との間の接触抵抗が悪化するおそれがある。第1皮膜の錫層の厚みが0.8μm以上6.0μm以下の場合において、第1皮膜の錫層の亜鉛濃度は0.6質量%以上6.0質量%以下がより好ましい。
【0027】
本発明の防食端子材において、前記基材と前記皮膜との間に、ニッケル又はニッケル合金からなる下地層を備えるとよい。
【0028】
基材と皮膜との間の下地層は、熱負荷がかかった際に基材から皮膜表面へ銅が拡散し、接触抵抗が上がることを抑制する効果がある。
【0029】
本発明の防食端子材は、帯板状のキャリア部と、前記キャリア部の長さ方向に間隔をおいて複数連結され前記心線接触予定部及び前記接点予定部を有する端子用部材を備える形状であるとよい。
【0030】
本発明の防食端子は、上記の防食端子材からなる端子である。本発明の電線端末部構造は、その防食端子がアルミニウム又はアルミニウム合金のアルミニウム線材からなる電線の端末に圧着されている。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、心線接触予定部において第1皮膜の錫層に亜鉛を含有させたことにより、アルミニウム製電線に対する防食効果が高められる。また、第1皮膜の錫層の下の亜鉛層から亜鉛が錫層の表面部分に拡散してくるので、亜鉛層を高濃度に維持することができ、長期的に耐食性に優れている。さらに、万一、摩耗等により錫層の全部又は一部が消失した場合でも、その下の亜鉛層により異種金属接触腐食の発生を抑えることができ、電気抵抗値の上昇やアルミニウム線材への圧着力の低下を抑制することができる。一方、接点予定部は、亜鉛層を有しないため、高温高湿環境に曝された際も亜鉛の腐食生成物の堆積による接点の接触抵抗の上昇を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の実施形態に係る防食端子材を模式的に示す要部断面図である。
図2】実施形態の防食端子材の平面図である。
図3】実施形態の防食端子材が適用される防食端子の例を示す斜視図である。
図4図3の防食端子が電線の端末部に圧着されてなる電線端末部構造を示す正面図である。
図5】本発明の他の実施形態を模式的に示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の実施形態に係る防食端子材、防食端子及び電線端末部構造を説明する。
【0034】
本実施形態の防食端子材1は、図2に全体を示したように、複数の端子を成形するための帯板状に形成されたストリップ材であり、平行に延びる一対の帯状のキャリア部21の間に、端子として成形される複数の端子用部材22がキャリア部21の長さ方向に間隔をおいて配置され、各端子用部材22が細幅の連結部23を介して両キャリア部21に連結されている。各端子用部材22は例えば図3に示すような形状に成形され、連結部23から切断されることにより、防食端子10として完成する(図4参照)。
【0035】
この防食端子10(図3の例ではメス端子)は、先端から、オス端子15(図4参照)が嵌合される接続部11、電線12の露出した心線(アルミニウム線材)12aがかしめられる心線圧着部13、電線12の被覆部12bがかしめられる被覆圧着部14がこの順で並び、一体に形成されている。接続部11は角筒状に形成され、その先端に連続するばね片11aが折り込まれるように内部に挿入されている(図4参照)。
【0036】
図4は電線12に防食端子10をかしめた端末部構造を示している。この電線端末部構造において、心線圧着部13の付近が電線12の心線12aに直接接触する。
【0037】
図2に示すストリップ材において、防食端子10に成形されたときに接続部11を形成してオス端子15に接触し接点となる部分を接点予定部25、心線圧着部13付近において心線12aが接触する部分の表面を心線接触予定部26とする。
【0038】
この場合、接点予定部25は、実施形態のメス端子10に形成されると、角筒状に形成される接続部11の内面、およびその接続部11内に折り込まれているばね片11aとの対向面となる。図2に示すように、接続部11を展開した状態においては、接続部11の両側部の表面、ばね片11aの裏面が接点予定部25である。
【0039】
防食端子材1は、図1に断面(図2のA-A線に沿う断面に相当する)を模式的に示したように、銅又は銅合金からなる基材2上に皮膜8が形成されており、基材2と皮膜8との間にはニッケル又はニッケル合金からなる下地層3が形成されている。
【0040】
皮膜8は、心線接触予定部26の表面に形成された第1皮膜81と、心線接触予定部26を除く部分(接点予定部25を含む)の表面に形成された第2皮膜82とからなる。このうち第1皮膜81は、亜鉛合金からなる亜鉛層4と、錫又は錫合金からなる錫層5とがこの順に基材2上に積層されている。
【0041】
接点予定部25の表面に形成された第2皮膜82においては、錫層5のみが積層されており、亜鉛層4は設けられていない。亜鉛層4は、端子10として成形された後の表面(端子用部材22の表面)の30%以上80%以下の面積率で存在するのが望ましい。
【0042】
基材2は、銅又は銅合金からなるものであれば、特に、その組成が限定されるものではない。
【0043】
下地層3は、厚さが0.1μm以上5.0μm以下で、ニッケル含有率は80質量%以上である。この下地層3は、基材2から亜鉛層4や錫層5への銅の拡散を防止する機能がある。下地層3の厚みが0.1μm未満では銅の拡散を防止する効果に乏しく、5.0μmを超えるとプレス加工時に割れが生じ易い。下地層3の厚さは、0.3μm以上2.0μm以下がより好ましい。
【0044】
下地層3のニッケル含有率が80質量%未満では、銅が亜鉛層4や錫層5へ拡散することを防止する効果が小さい。このニッケル含有率は90質量%以上とするのがより好ましい。
【0045】
次に、接点予定部25を除く部分(心線接触予定部26を含む)の表面に形成される第1皮膜81について説明する。
【0046】
前述したように、第1皮膜81は、亜鉛層4と錫層5とが積層して形成されており、亜鉛層4の亜鉛が錫層5中に拡散している。このため、第1皮膜81の錫層5は、腐食電位がアルミニウムに近く、アルミニウム線材と接触した場合の腐食の発生を抑えることができる。
【0047】
亜鉛層4は、厚みが0.1μm以上5.0μm以下であり、亜鉛を含有する亜鉛合金からなる。この亜鉛層4は、亜鉛濃度が30質量%以上95%質量%以下であり、残部としてニッケル、鉄、マンガン、モリブデン、コバルト、カドミウム、鉛、錫のいずれかを1種以上含む。
【0048】
これらニッケル、鉄、マンガン、モリブデン、コバルト、カドミウム、鉛、錫は、亜鉛層4自体の耐食性を向上させるために好適であり、亜鉛層4をこれらのいずれか1種以上を含む亜鉛合金で形成することにより、過剰な腐食環境に晒され錫層5が消失した際も、長く亜鉛層を保ち続け腐食電流の増大を防ぐことができる。
【0049】
なお、ニッケル亜鉛合金又は錫亜鉛合金は亜鉛層4の耐食性を向上させる効果が高く、亜鉛層4は、ニッケル、錫のいずれか1種以上を含む亜鉛合金で形成することが特に好ましい。前述したように、亜鉛層4の亜鉛濃度は30質量%以上95質量%以下であり、ニッケル、鉄、マンガン、モリブデン、コバルト、カドミウム、鉛、錫のいずれか1種以上からなる添加物は、亜鉛層4中に5質量%以上含まれる。
【0050】
この亜鉛層4の亜鉛濃度が30質量%未満では、亜鉛層4の耐食性が悪化し、塩水等の腐食環境に晒された際に亜鉛層4が速やかに腐食消失して基材2が露出し、心線(アルミニウム線材)12aとの間で腐食を生じ易い。より好ましくは、亜鉛層4の亜鉛濃度は65質量%以上である。一方、亜鉛層4の亜鉛濃度が95質量%を超えると、錫層5への亜鉛の拡散が過剰になり、心線12aと端子10との接触抵抗が上昇する。
【0051】
この亜鉛層4の厚みが0.1μm未満では第1皮膜81(錫層5)の表面の腐食電位を卑化する効果が乏しく、5.0μmを超えるとプレス加工性が低下するため、端子10へのプレス加工時に割れが発生するおそれがある。亜鉛層4の厚さは、0.3μm以上2.0μm以下がより好ましい。
【0052】
第1皮膜81の錫層5は、亜鉛濃度が0.4質量%以上15質量%以下である。前述したように、第1皮膜81の錫層5が亜鉛を含有していると、腐食電位を卑化してアルミニウム製の心線12aを防食する効果があるが、この錫層5の亜鉛濃度が0.4質量%未満では腐食電位を卑化して心線12aを防食する効果が乏しく、15質量%を超えると錫層5の耐食性が著しく低下するため腐食環境に曝されると錫層5が腐食され、第1皮膜81と心線12aとの接触抵抗が悪化するおそれがある。この第1皮膜81の錫層5は、厚みが0.8μm以上6.0μm以下の場合において、亜鉛濃度が0.6質量%以上6.0質量%以下とすることがより好ましい。
【0053】
第1皮膜81の錫層5の厚みは0.8μm以上6.0μm以下が好ましい。この錫層5の厚みが0.8μm未満では、錫層5の厚みは薄過ぎて、はんだ濡れ性が低下し、接触抵抗の低下を招くおそれがある。一方、錫層5の厚みが6.0μmを超えると、錫層5の厚みが厚過ぎて、第1皮膜81の表面の動摩擦係数の増大を招き、心線接触予定部26においてコネクタ等での使用時の着脱抵抗が大きくなる傾向にある。
【0054】
第1皮膜81の錫層5中の錫又は錫合金の平均結晶粒径は、0.5μm以上8.0μm以下が好ましく、1.2μm以上3.0μm以下が特に好ましい。第1皮膜81の錫層5中の亜鉛は亜鉛層4から錫結晶粒界を経由して錫層5中に分散(拡散)されるが、錫層5中の錫又は錫合金の平均結晶粒径が微細(平均結晶粒径0.5μm以上8.0μm以下)であると、亜鉛の拡散量が増すため、防食効果を高められる。また、腐食環境に晒されて錫層5中の亜鉛濃度が低下した際も亜鉛が継続的に供給されるため、防食効果の持続力も高めることができる。
【0055】
錫層5中の錫又は錫合金の平均結晶粒径が0.5μm未満では、粒界密度が高すぎて亜鉛の拡散が過剰となり、錫層5の耐食性が低下する。このため、腐食環境に曝された際に錫層5が腐食され、心線12aとの接触抵抗が悪化(上昇)するおそれがある。一方、錫層5中の錫又は錫合金の平均結晶粒径が8.0μmを超えると、亜鉛の拡散が不足して、心線12aを防食する効果が乏しくなる。
【0056】
以上の層構成を有する第1皮膜81は、前述したように、接点予定部25を除く部分の表面に存在している。前述したように、この亜鉛層4を有する第1皮膜81は、アルミニウム製の心線12aと接触する心線接触予定部26に存在している必要があるが、これら以外の部分では、必ずしも亜鉛層4が存在している必要はない。しかし、異種金属接触腐食では離れた部位からも腐食電流が回りこんでくるため、亜鉛層4が存在している部位の比率が高い方が望ましく、端子10として成形されたときの表面全体の30%以上80%以下の面積率で、亜鉛層4が存在するのが望ましい。
【0057】
接点予定部25に形成された第2皮膜82においては、亜鉛層4を有さず、錫層5のみが存在する。第2皮膜82の錫層5の表面に亜鉛が存在すると、高温高湿環境下において亜鉛の腐食生成物が堆積し、接点としての接続信頼性が損なわれることがある。このため、接点予定部25の第2皮膜82においては、亜鉛層4を有しない構造とすることで、高温高湿環境下に曝された際も接触抵抗の上昇を備えることができる。なお、基材2と第2皮膜82との間に設けられた下地層3の組成や膜厚等は、接点予定部25を除く部分の表面に存在する基材2と第1皮膜81との間に形成される下地層3を構成するものと同じである。
【0058】
第1皮膜81及び第2皮膜82の錫層5は、純錫が最も好ましいが、亜鉛、ニッケル、銅等を含む錫合金としてもよい。
【0059】
なお、第1皮膜81と第2皮膜82の表面、すなわち錫層5の表面には、亜鉛や錫の酸化物層が形成される。
【0060】
次に、この防食端子材1の製造方法について説明する。
【0061】
基材2として、銅又は銅合金からなる板材を用意する。この板材に裁断、穴明け等の加工を施すことにより、図2に示すような、キャリア部21に複数の端子用部材22を連結部23を介して連結されてなるストリップ材に成形する。
【0062】
そして、このストリップ材に脱脂、酸洗等の処理をすることによって表面を清浄にした後、その全面に下地層3を形成するためのニッケル又はニッケル合金めっきを施す。さらにその後、接点予定部25をマスク(図示略)によって覆い、その状態で亜鉛層4を形成するための亜鉛合金めっきを施し、マスクを外して、全面に錫層5を形成するための錫又は錫合金めっきを施す。
【0063】
基材2の表面に下地層3を形成するためのニッケル又はニッケル合金めっきは緻密なニッケル主体の膜が得られるものであれば特に限定されず、公知のワット浴やスルファミン酸浴、クエン酸浴などを用いて電気めっきにより形成することができる。ニッケル合金めっきとしてはニッケルタングステン(Ni-W)合金、ニッケルリン(Ni-P)合金、ニッケルコバルト(Ni-Co)合金、ニッケルクロム(Ni-Cr)合金、ニッケル鉄(Ni-Fe)合金、ニッケル亜鉛(Ni-Zn)合金、ニッケルボロン(Ni-B)合金などを利用することができる。
【0064】
防食端子10へのプレス曲げ性と銅に対するバリア性を勘案すると、スルファミン酸浴から得られる純ニッケルめっきが望ましい。
【0065】
亜鉛層4を形成する方法は特に限定されないが、生産性の観点からは電解めっき法を用いることが好ましい。亜鉛合金めっきは、緻密な膜を所望の組成で得られるものであれば特に限定されず、公知の硫酸塩浴や塩化物浴、ジンケート浴などを用いることができる。亜鉛合金めっきとしては、亜鉛錫合金めっきであればクエン酸などを含む錯化剤浴を用いることができ、亜鉛ニッケル合金めっきであれば硫酸塩浴、塩化物浴、アルカリ浴を用いることができ、亜鉛コバルト合金めっきであれば硫酸塩浴を用いることができ、亜鉛マンガン合金めっきであればクエン酸含有硫酸塩浴を用いることができ、亜鉛モリブデンめっきであれば硫酸塩浴を用いて成膜できる。これらのめっきは、図示は省略するが、接点予定部25をマスキングテープ等のマスクで予め覆っておき、接点予定部25を除く部分に形成する。また、めっき法の他にも、蒸着法を用いることも可能である。
【0066】
錫層5を形成するための錫又は錫合金めっきは、公知の方法により行うことができるが、錫層5中の錫又は錫合金の平均結晶粒径を最適な値に制御するため、例えば有機酸浴(例えばフェノールスルホン酸浴、アルカンスルホン酸浴又はアルカノールスルホン酸浴)、硼フッ酸浴、ハロゲン浴、硫酸浴、ピロリン酸浴等の酸性浴、或いはカリウム浴やナトリウム浴等のアルカリ浴を用いて電気めっきすることができる。図示は省略するが、錫又は錫合金めっきは、接点予定部25からマスクを外して、接点予定部25及び心線接触予定部26を含む全面に施す。
【0067】
錫層5中の錫又は錫合金の平均結晶粒径を0.8μm以下に制御する場合、平均結晶粒径を微細化する添加剤としてホルマリン、ベンズアルデヒド、ナフトアルデヒドなどのアルデヒド類や、メタクリル酸、アクリル酸といった不飽和炭化水素化合物を添加するとよい。
【0068】
常温(25℃)で亜鉛層4と錫層5の相互拡散を進行させるためには、亜鉛めっき層の表面を清浄な状態にしてから錫めっき層を積層することが肝要である。亜鉛めっき層の表面には水酸化物や酸化物が速やかに形成されるため、めっき処理により連続成膜する場合には、水酸化物や酸化物を除くために、水酸化ナトリウム水溶液や塩化アンモニウム水溶液で洗浄してから直ちに錫めっき層を成膜するとよい。なお、蒸着等の乾式法で錫層を成膜する際には、亜鉛層表面をアルゴンスパッタ処理によりエッチングしてから錫層を成膜するとよい。
【0069】
このようにして、基材2の上にニッケル又はニッケル合金めっき、亜鉛合金めっき、錫又は錫合金めっきをこの順序で施した後、熱処理を施す。
【0070】
この熱処理は、素材の表面温度が30℃以上190℃以下となる温度で加熱する。この熱処理により、接点予定部25以外の部分では、亜鉛めっき層中の亜鉛が錫めっき層内および錫めっき層上に拡散する。亜鉛の拡散は速やかに起こるため、30℃以上の温度に24時間以上晒すとよい。ただし、亜鉛合金は溶融錫をはじき、錫層5に錫はじき箇所を形成するため、190℃を超える温度には加熱しない。また、160℃を超えて長時間晒すと逆に錫が亜鉛層4側に拡散し、錫層5への亜鉛の拡散を阻害するおそれがある。このため、より好ましい条件としては、加熱温度が30℃以上160℃以下、保温時間が30分以上60分以下である。
【0071】
このようにして製造された防食端子材1は、全体としては基材2の上にニッケル又はニッケル合金からなる下地層3が形成され、マスクにより覆っておいた接点予定部25においては下地層3の上に錫層5が形成されており、接点予定部25以外の部分では下地層3の上に亜鉛層4、錫層5が形成される。また、これらの皮膜8の錫層5の表面に酸化物層が薄く形成されている。
【0072】
そして、プレス加工等によりストリップ材のまま図3に示す端子の形状に加工され、連結部23が切断されることにより、防食端子10に形成される。
【0073】
図4は電線12に防食端子10をかしめた端末部構造を示しており、心線かしめ部13付近が電線12の心線12aに直接接触する。
【0074】
この防食端子10は、心線接触予定部26においては、錫層5中に、錫よりもアルミニウムと腐食電位が近い亜鉛を含有していることから、この心線接触予定部26における錫層5の腐食電位がアルミニウムに近くなっている。このため、アルミニウム製の心線(アルミニウム線材)12aの腐食を防止する効果が高く、心線接触予定部26が心線12aに圧着された状態であっても、異種金属接触腐食の発生を有効に防止することができる。この場合、図2のストリップ材の状態でめっき処理し、熱処理したことから、防食端子10の端面も連結部23で連結されていたわずかな部分を除き基材2が露出していないので、優れた防食効果を発揮することができる。
【0075】
しかも、錫層5の下に亜鉛層4が形成されているので、万一、摩耗等により錫層5の全部又は一部が消失した場合でも、その下の亜鉛層4はアルミニウムと腐食電位が近いので、異種金属接触腐食の発生を確実に抑えることができる。
【0076】
一方で、接点予定部25の第2皮膜82においては、錫層5の下に亜鉛層4を有しないので、高温高湿環境に曝された際も接触抵抗の上昇を抑えることができる。
【0077】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0078】
例えば、先の実施形態では、接点予定部25に亜鉛層4を形成しない方法として、実施形態では接点予定部25をマスクで覆った状態で亜鉛合金めっきを施したが、接点予定部25を含む全面に亜鉛合金めっきを施し、部分エッチングにより接点予定部25の亜鉛合金めっき層を除去する方法としてもよい。
【0079】
先の実施形態では、皮膜8の最表面が錫層5により形成されているが、図5に示すように、接点予定部25以外の部分において、錫層5の上に表面金属亜鉛層6が形成されていてもよい。この表面金属亜鉛層6は、前述した熱処理によって、亜鉛合金めっき層中の亜鉛が錫めっき層を経由して表面に拡散することにより錫層5の表面に形成される層であり、錫層5の下に設けられて第1皮膜81を構成する亜鉛層4とは異なる。したがって、前述した亜鉛層4の面積率には、この表面金属亜鉛層6の面積による比率は含まれない。第1皮膜81の表面が表面金属亜鉛層6により形成されるので、アルミニウム製の心線12aとの接触による腐食の発生をより確実に抑えることができる。なお、表面金属亜鉛層6の上には薄く酸化物層7が形成される。
【0080】
表面金属亜鉛層6は、亜鉛合金めっき層からの拡散によって形成される他、錫層5の表面に亜鉛めっきを施すことにより形成してもよい。この亜鉛めっきは公知の方法により行うことができるが、例えばジンケート浴、硫酸塩浴、塩化亜鉛浴、シアン浴を用いて電気めっきすることができる。
【実施例
【0081】
基材としてC1020の銅板を用い、この銅板を図2に示すストリップ材に打抜いて、脱脂、酸洗した後、下地層を形成する場合にはニッケルめっきを行い、その後、図2の接点予定部25を除き、亜鉛合金めっきを施した。さらに、その後、全面に錫めっきを施した。そして、そのめっき層付銅板に30℃~190℃の温度で1時間以上36時間以下の範囲内で熱処理をして、表1に示す防食端子材の試料1~16を得た。
【0082】
比較例として、心線接触予定部に亜鉛めっきを施す際に、短時間、低電流密度で亜鉛層を形成した試料18、接点予定部をマスクで覆うことなく、全面に亜鉛めっきを施して、接点予定部にも亜鉛層を形成した試料19、及び、接点予定部以外の部分も含めて亜鉛めっきを実施せず、銅板を脱脂、酸洗した後、ニッケルめっき、錫めっきの順に施した試料17も作製した。
【0083】
主なめっきの条件は以下のとおりとし、亜鉛層の亜鉛濃度(亜鉛含有率)はめっき液中の亜鉛イオンと添加金属元素イオンの比率を変量して調整した。なお、各添加金属元素の含有量は、表1において各添加金属元素の末尾の欄括弧内に比率(質量%)を記載した。
【0084】
下記の亜鉛ニッケル合金めっき条件は、ニッケル含有率が15質量%となる例である。また、試料1~13,17~19は下地層3としてのニッケルめっきを施さなかったが、試料14~16はニッケルめっきを施して下地層3を形成した。
【0085】
<ニッケルめっき条件>
・めっき浴組成
スルファミン酸ニッケル:300g/L
塩化ニッケル:5g/L
ホウ酸:30g/L
・浴温:45℃
・電流密度:5A/dm
【0086】
<亜鉛めっき条件>
・めっき浴組成
硫酸亜鉛七水和物:250g/L
硫酸ナトリウム:150g/L
・pH=1.2
・浴温:45℃
・電流密度:5A/dm
【0087】
<亜鉛ニッケル合金めっき条件>
・めっき浴組成
硫酸亜鉛七水和物:75g/L
硫酸ニッケル六水和物:180g/L
硫酸ナトリウム:140g/L
・pH=2.0
・浴温:45℃
・電流密度:5A/dm
【0088】
<錫亜鉛合金めっき条件>
・めっき浴組成
硫酸錫(II):40g/L
硫酸亜鉛七水和物:5g/L
クエン酸三ナトリウム:65g/L
非イオン性界面活性剤:1g/L
・pH=5.0
・浴温:25℃
・電流密度:3A/dm
【0089】
<亜鉛マンガン合金めっき条件>
・めっき浴組成
硫酸マンガン一水和物:110g/L
硫酸亜鉛七水和物:50g/L
クエン酸三ナトリウム:250g/L
・pH=5.3
・浴温:30℃
・電流密度:5A/dm
【0090】
<亜鉛モリブデン合金めっき条件>
・めっき浴組成
七モリブデン酸六アンモニウム(VI):1g/L
硫酸亜鉛七水和物:250g/L
クエン酸三ナトリウム:250g/L
・pH=5.3
・浴温:30℃
・電流密度:5A/dm
【0091】
<錫めっき条件>
・めっき浴組成
メタンスルホン酸錫:200g/L
メタンスルホン酸:100g/L
光沢剤
・浴温:25℃
・電流密度:5A/dm
【0092】
得られた各試料について、亜鉛層及び錫層のそれぞれの厚み、亜鉛層及び錫層中の亜鉛濃度、錫層の平均結晶粒径、亜鉛層の面積率をそれぞれ測定した。
【0093】
亜鉛層の厚みは、走査イオン顕微鏡により断面を観察することにより測定した。また、亜鉛層の亜鉛濃度は、セイコーインスツル株式会社製の集束イオンビーム装置:FIB(型番:SMI3050TB)を用いて、試料を100nm以下に薄化した観察試料を作製し、この観察試料を日本電子株式会社製の走査透過型電子顕微鏡:STEM(型番:JEM-2010F)を用いて、加速電圧200kVで観察を行い、STEMに付属するエネルギー分散型X線分析装置:EDS(Thermo社製)を用いて測定した。膜厚方向に等間隔に5点測定した値の平均値を亜鉛濃度とした。
【0094】
錫層中の亜鉛濃度は日本電子株式会社製の電子線マイクロアナライザー:EPMA(型番JXA-8530F)を用いて、加速電圧6.5V、ビーム径φ30μmとし、試料表面を測定した。
【0095】
錫層中の錫及び錫合金の平均結晶粒径については、集束イオンビーム(FIB)により断面加工し、測定した走査イオン顕微鏡(SIM)像を用いて表面と平行に5μm分の長さになる線を引き、その線が結晶粒界と交わった数を用いて線分法により求めた。
【0096】
【表1】
【0097】
得られた試料1~19を090型(自動車業界で慣用されている端子の規格による呼称)のメス端子に成形し、純アルミニウム線材をかしめ、各端子について、腐食環境放置後および高温高湿環境放置後の純アルミニウム線材とメス端子間の接触抵抗、高熱環境放置後のメス端子に別途用意したオス端子を嵌合接続した際の端子間の接触抵抗を測定した。
【0098】
<腐食環境放置試験>
純アルミニウム線材をかしめた090型のメス端子を、23℃の5%塩化ナトリウム水溶液に24時間浸漬後、85℃、85%RHの高温高湿下に24時間放置した。その後、純アルミニウム線材と端子間の接触抵抗を四端子法により測定した。電流値は10mAとした。
【0099】
<高温高湿環境試験>
純アルミニウム線材をかしめた090型のメス端子を、85℃、85%RHに96時間放置した。その後、純アルミニウム線材と端子間の接触抵抗を四端子法により測定した。電流値は10mAとした。
【0100】
<高熱環境放置試験>
純アルミニウム線をかしめた090型のメス端子を150℃に500時間放置した。その後、錫めっきを有する090型のオス端子を嵌合し、端子間の接触抵抗(抵抗値)を四端子法により測定した。
【0101】
これらの結果を表2に示す。
【0102】
【表2】
【0103】
表2の結果から、アルミニウム製の心線(アルミニウム線材)が接触する部分(心線接触予定部)に、亜鉛合金からなる亜鉛層の厚みが0.1μm以上5.0μm以下、亜鉛濃度が30質量%以上95質量%以下で形成された試料1~16は、試料17~19と比べて、優れた防食性を有することがわかる。基材と皮膜との間にニッケルの下地層を有する試料14~16は試料1~16のなかで最も優れた防食性を有している。
【0104】
亜鉛層の端子として成形された後の表面に対する面積率が30%以上であった試料9~16は、試料1~8と比較して腐食環境放置試験後の抵抗値が低く抑えられた。このうち、心線接触予定部の錫層中の錫又は錫合金の平均結晶粒径が0.5μm以上8.0μm以下の範囲であった試料10~16は、錫の結晶粒径を最適な大きさに制御したため、錫層中への亜鉛の拡散量が最適に制御され、腐食環境放置試験における抵抗値の上昇がより抑えられている。心線接触予定部の錫層の厚みが0.8μm以上6.0μm以下であり、亜鉛濃度が0.4質量%以上15質量%以下であった試料12~16は、腐食環境放置試験における抵抗値の上昇が試料1~11と比較してより一層抑えられている。基材と亜鉛層との間にニッケルまたはニッケル合金からなる下地層が形成された試料14~16は高熱環境放置後の抵抗値の上昇が他の試料と比較して抑えられている。
【0105】
これに対して、比較例の試料17は、心線接触予定部に亜鉛層を有していなかったため、腐食環境放置試験で激しい腐食が認められ、抵抗値が著しく増加した。また、試料18は、心線接触予定部の亜鉛層の膜厚との亜鉛濃度が適切でなかったため、高温高湿環境放置、高熱環境放置、腐食環境放置試験後で抵抗値が増大した。試料19は、接点予定部に亜鉛層を有し、亜鉛層の膜厚との亜鉛濃度が適切でなかったため、高温高湿環境放置、高熱環境放置、腐食環境放置試験後で抵抗値が増大した。
【産業上の利用可能性】
【0106】
アルミニウム線材からなる電線の端末に圧着される端子として、銅又は銅合金基材を用いた腐食防止効果の高い防食端子材、その防食端子材からなる防食端子、並びにその防食端子を用いた電線端末部構造を提供できる。
【符号の説明】
【0107】
1 防食端子材
2 基材
3 下地層
4 亜鉛層
5 錫層
6 表面金属亜鉛層
7 酸化物層
8 皮膜
81 第1皮膜
82 第2皮膜
10 防食端子
11 接続部
11a ばね片
12 電線
12a 心線(アルミニウム線材)
12b 被覆部
13 心線圧着部
14 被覆圧着部
25 接点予定部
26 心線接触予定部

図1
図2
図3
図4
図5