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  • 特許-鉛蓄電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/12 20060101AFI20221101BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20221101BHJP
   H01M 50/463 20210101ALI20221101BHJP
   H01M 4/14 20060101ALI20221101BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20221101BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20221101BHJP
   H01M 50/466 20210101ALI20221101BHJP
   H01M 50/44 20210101ALI20221101BHJP
   H01M 50/454 20210101ALI20221101BHJP
【FI】
H01M10/12 K
H01M50/46
H01M50/463 B
H01M4/14 Q
H01M4/62 B
H01M50/489
H01M50/466
H01M50/44
H01M50/454
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019550930
(86)(22)【出願日】2018-10-05
(86)【国際出願番号】 JP2018037299
(87)【国際公開番号】W WO2019087680
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2017211359
(32)【優先日】2017-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】京 真観
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 賢
(72)【発明者】
【氏名】和田 秀俊
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-203678(JP,A)
【文献】国際公開第2012/120999(WO,A1)
【文献】特開2017-195100(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121510(WO,A1)
【文献】特開2015-88379(JP,A)
【文献】特開2006-114313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-62
H01M10/00-04、06-34
H01M50/40-497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板の間に介在するセパレータと、電解液とを備え、
前記セパレータは、少なくとも前記負極板側に第1リブを備え、
前記負極板は、負極電極材料を含み、
前記負極電極材料は、炭素粒子を含み、
前記炭素粒子は、粒子径が32μm未満の第1炭素粒子を含み、
前記第1炭素粒子は、前記セパレータの平均細孔径(d2)よりも粒子径が小さい第2炭素粒子を含み、
前記負極電極材料中の前記第1炭素粒子の含有量は、0.2質量%以上2質量%以下であり、
前記第1炭素粒子は、JIS Z8815:1994に規定される湿式のふるい分けに準じて、目開き32μmのふるいを通過する炭素粒子であり、前記第1炭素粒子の粒子径は、前記ふるいの前記目開き32μmより小さく、
前記ふるいは、JIS Z 8801-1:2006に規定される、公称目開きが32μmであるふるい網を備えるふるいであり、
前記第2炭素粒子の粒子径は、一次粒子径であり、前記一次粒子径は、前記第1炭素粒子の電子顕微鏡写真から、前記セパレータの前記平均細孔径d2よりも一次粒子径が小さい一次粒子を選択し、選択した前記一次粒子について測定される最大径であり、
前記セパレータの前記平均細孔径d2は、前記セパレータの水銀圧入法による細孔分布から求められる平均細孔径である、鉛蓄電池。
【請求項2】
前記第2炭素粒子の平均粒子径d1の前記セパレータの平均細孔径d2に対する比R(=d1/d2)は、0.8以下であり、
前記平均粒子径d1は、前記第1炭素粒子の前記電子顕微鏡写真から、前記セパレータの前記平均細孔径d2よりも一次粒子径が小さい一次粒子をランダムに100個選択し、選択した前記一次粒子のそれぞれの最大径を測定し、平均化することによって求められる、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記第2炭素粒子の平均粒子径d1は、10nm以上100nm以下であり、
前記平均粒子径d1は、前記第1炭素粒子の前記電子顕微鏡写真から、前記セパレータの前記平均細孔径d2よりも一次粒子径が小さい一次粒子をランダムに100個選択し、選択した前記一次粒子のそれぞれの最大径を測定し、平均化することによって求められる、請求項1または2に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記第2炭素粒子は、カーボンブラックを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
前記セパレータは、袋状である、請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項6】
前記セパレータは、前記負極板を収容している、請求項5に記載の鉛蓄電池。
【請求項7】
前記セパレータは、前記正極板を収容している、請求項5に記載の鉛蓄電池。
【請求項8】
前記第1リブは、前記負極板の高さ方向に沿って形成されており、
前記負極板は、一端部に耳部を有し、
前記負極板の高さ方向は、前記耳部を上にした状態における前記負極板の鉛直方向である、請求項1~7のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項9】
前記正極板と前記負極板との間に、繊維マットが介在する、請求項1~8のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項10】
前記負極電極材料は、黒鉛を含まない、請求項1~9のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項11】
前記セパレータは、前記正極板側に第2リブを備える、請求項1~10のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項12】
前記第1リブの平均高さは、0.05mm以上0.40mm以下であり、
前記第2リブの平均高さは、0.3mm以上1.0mm以下である、請求項11に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、負極板および正極板の間に介在するセパレータと、電解液とを含む。負極板は、集電体と、負極電極材料とを含む。負極電極材料は、負極活物質、炭素材料などを含む。
【0003】
特許文献1では、負極活物質中にカーボンブラックを0.1~3質量%添加することが提案されている。
一方、セパレータとしては、リブを有するものが使用されることがある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2015/087749号パンフレット
【文献】特開2014-203678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉛蓄電池は、部分充電状態(PSOC)と呼ばれる充電不足状態で使用されることがある。例えば、充電制御車やアイドリングストップ(IS)車では、鉛蓄電池がPSOCで使用されることになる。そのため、鉛蓄電池には、PSOC条件下でのサイクル試験において寿命性能(以下、PSOC寿命性能と言う)に優れることが求められる。
【0006】
負極電極材料にカーボンを添加すると、サルフェーションが抑制されることでPSOC寿命性能がある程度向上する。しかし、電解液中に流出したカーボンがセパレータの細孔を閉塞して、低温ハイレート性能が低下することがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板の間に介在するセパレータと、電解液とを備え、
前記セパレータは、少なくとも前記負極板側にリブを備え、
前記負極板は、負極電極材料を含み、前記負極電極材料は、炭素粒子を含み、
前記炭素粒子は、粒子径が32μm未満の第1炭素粒子を含み、
前記第1炭素粒子は、前記セパレータの平均細孔径よりも粒子径が小さい第2炭素粒子を含み、
前記負極電極材料中の前記第1炭素粒子の含有量は、0.2質量%以上2質量%以下である、鉛蓄電池に関する。
【発明の効果】
【0008】
鉛蓄電池において、優れたPSOC寿命性能を確保できるとともに、低温ハイレート性能の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一側面に係る鉛蓄電池の外観と内部構造を示す、一部を切り欠いた分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る鉛蓄電池は、正極板と、負極板と、正極板および負極板の間に介在するセパレータと、電解液とを備える。セパレータは、少なくとも負極板側にリブ(第1リブ)を備える。負極板は、負極電極材料を含み、負極電極材料は、炭素粒子を含む。炭素粒子は、粒子径が32μm未満の第1炭素粒子を含み、第1炭素粒子は、セパレータの平均細孔径よりも粒子径が小さい第2炭素粒子を含む。負極電極材料中の第1炭素粒子の含有量は、0.2質量%以上2質量%以下である。
【0011】
負極電極材料が第1炭素粒子を含有する場合、PSOC寿命性能はある程度向上するものの、低温ハイレート性能(より具体的には、低温ハイレート性能の維持率)が低下することが分かった。これは、第1炭素粒子にセパレータの平均細孔径よりも粒子径(一次粒子径)が小さい第2炭素粒子が含まれると、この第2炭素粒子が、電解液中に流出してセパレータの細孔を塞ぐためと考えられる。また、鉛蓄電池では、充電時には負極板および正極板から硫酸が放出されるが、負極板近傍の電解液の拡散性が低いと、負極板近傍で硫酸が滞留して硫酸濃度が高くなる。
【0012】
本発明の上記側面によれば、セパレータの負極板側に第1リブを設けることで、負極板近傍の電解液の拡散性が向上するため、電解液の成層化が低減される。この拡散性の向上により、第1炭素粒子によるPSOC寿命性能の向上効果に加えて、PSOC寿命性能をさらに向上することができる。また、第1炭素粒子に含まれる第2炭素粒子が電解液中に流出しても、セパレータに第1リブを設けることで、セパレータと負極板とが密着することが抑制されるため、セパレータの細孔が第2炭素粒子で閉塞されることが抑制される。よって、低温ハイレート性能(より具体的には、低温ハイレート性能の維持率)の低下を抑制できる。さらに、長寿命化されても電解液の成層化が低減されることで、電解液上部の比重低下を抑制し、寿命末期でも浸透短絡の発生を抑制できる。第1リブにより負極板近傍における電解液の拡散性が向上すると、負極板近傍に硫酸が滞留することが抑制されるため、負極板近傍の電解液の比重の上昇が抑制されることで、充電効率が向上する。よって、充電による電解液の減液を抑制できる。
【0013】
負極電極材料中の第1炭素粒子の含有量が、0.2質量%以上(2質量%まで)の場合、第1炭素粒子に含まれるサイズの小さな第2炭素粒子が、充放電時に電解液中に流出し易い。しかし、本発明の上記側面によれば、第1リブを備えるセパレータを用いるため、第1炭素粒子に含まれる第2炭素粒子が流出しても、第2炭素粒子でセパレータの細孔が閉塞されることが抑制される。よって、低温ハイレート性能の低下を抑制することができる。また、第1リブの存在により、負極板近傍の電解液の拡散性が高まるため、高いPSOC寿命性能を確保できるとともに、長寿命化することで浸透短絡が起こり易い条件でも、成層化を低減して、浸透短絡を抑制できる。
【0014】
第2炭素粒子の平均粒子径d1のセパレータの平均細孔径d2に対する比R(=d1/d2)は、0.8以下であることが好ましい。比Rがこのような範囲である場合、第2炭素粒子が電解液中に流出してセパレータの細孔を閉塞し易い。本発明の上記側面によれば、セパレータに第1リブを設けるため、第1炭素粒子に含まれる第2炭素粒子が電解液中に流出しても、第1リブの作用により、セパレータの細孔が第2炭素粒子で閉塞されるのを抑制できる。よって、比Rが上記の範囲でも、低温ハイレート性能の維持率が低下することをより効果的に抑制できる。
【0015】
第2炭素粒子の平均粒子径d1は、例えば、10nm以上100nm以下である。第1炭素粒子に含まれる第2炭素粒子がこのような平均粒子径を有する場合、負極板から第2炭素粒子が電解液中に流出し易い。本発明の上記側面によれば、セパレータに第1リブを設けるため、第2炭素粒子が電解液中に流出しても、第1リブの作用により、セパレータの細孔を第2炭素粒子が塞ぐことを抑制できる。よって、低温ハイレート性能の低下をより効果的に抑制できる。
【0016】
本発明の上記側面において、第2炭素粒子は、カーボンブラックを含むことが好ましい。カーボンブラックは、負極板から電解液中に流出し易い。本発明の上記側面によれば、セパレータに第1リブを設けるため、カーボンブラックが電解液中に流出しても、第1リブの作用により、セパレータの細孔がカーボンブラックで閉塞されるのを抑制できる。よって、低温ハイレート性能の低下をより効果的に抑制できる。
【0017】
セパレータは、さらに正極板側にもリブ(第2リブ)を備えることが好ましい。この場合、セパレータの酸化劣化を抑制することができる。
【0018】
セパレータは、袋状であってもよい。袋状のセパレータを用いる場合、電解液が滞留し易くなるが、第1リブや第2リブを設けることで、電解液の拡散性が高まり、PSOC寿命性能をさらに向上できる。また、浸透短絡を抑制する効果もさらに高まる。袋状のセパレータが、正極板を収容している場合には、電解液の成層化を抑制し易くなる。袋状のセパレータが、負極板を収容している場合には、袋内に第1リブが形成されることで、袋内における電解液の拡散性を高め易くなる。また、正極集電体とは異なり、充放電時の負極集電体の伸びは小さいため、負極板を袋状セパレータに収容する場合には、集電体の伸びに伴うセパレータ破れが抑制されることで短絡を抑制できる。
【0019】
鉛蓄電池は、正極板と負極板との間に介在する繊維マットを備えていてもよい。繊維マットを設ける場合、電極板が繊維マットで圧迫されて、電極板の周囲の電解液が少なくなる。本発明の上記側面では、少なくともセパレータの負極板側に第1リブを設けることで、繊維マットを設ける場合でも、負極板近傍に電解液を保持することができるとともに、電解液の拡散性を向上できる。
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池について、主要な構成要件ごとに説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0021】
(正極板)
鉛蓄電池の正極板には、ペースト式とクラッド式がある。
ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。正極電極材料は、正極集電体に保持されている。ペースト式正極板では、正極電極材料は、正極板から正極集電体を除いたものである。正極集電体は、負極集電体と同様に形成すればよく、鉛または鉛合金の鋳造や、鉛または鉛合金シートの加工により形成することができる。
【0022】
クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金と、芯金が挿入されたチューブ内に充填される正極電極材料と、複数のチューブを連結する連座とを具備する。クラッド式正極板では、正極電極材料は、正極板から、チューブ、芯金、および連座を除いたものである。
【0023】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、合金層は複数でもよい。芯金には、Pb-Ca系合金やPb-Sb系合金を用いることが好ましい。
正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0024】
未化成のペースト式正極板は、負極板の場合に準じて、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。その後、未化成の正極板を化成する。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、硫酸を練合することで調製される。
クラッド式正極板は、芯金が挿入されたチューブに鉛粉または、スラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座で結合することにより形成される。
【0025】
(負極板)
鉛蓄電池の負極板は、負極電極材料を含む。通常、負極板は、負極集電体と負極電極材料とで構成されている。なお、負極電極材料は、負極板から負極集電体を除いたものである。負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛または鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。負極集電体として負極格子を用いると、負極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0026】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。
【0027】
負極電極材料は、炭素粒子を含む。炭素粒子は、通常、導電性を有している。さらに、負極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛もしくは硫酸鉛)を含んでいる。負極電極材料は、防縮剤、硫酸バリウムなどを含んでもよく、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0028】
充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
【0029】
炭素粒子としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどが挙げられる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ランプブラックなどが例示される。黒鉛としては、黒鉛型の結晶構造を含む炭素材料であればよく、人造黒鉛、天然黒鉛のいずれであってもよい。負極電極材料は、これらの炭素粒子を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0030】
炭素粒子には、粒子径が32μm未満の第1炭素粒子が含まれており、第1炭素粒子には、セパレータの平均細孔径よりも小さい粒子径を有する第2炭素粒子が含まれている。負極電極材料に含まれる炭素粒子は、少なくとも第1炭素粒子を含んでいればよく、第1炭素粒子のみを含んでいてもよく、第1炭素粒子と、粒子径が32μm以上の炭素粒子(第3炭素粒子)を含んでいてもよい。
【0031】
第2炭素粒子は、カーボンブラックを含むことが好ましい。第1炭素粒子に含まれるカーボンブラックなどの第2炭素粒子は、電解液中に流出し易いが、電解液中に流出しても第1リブの作用によりセパレータの細孔がカーボンブラックなどの第2炭素粒子で閉塞されるのを抑制できる。また、第1炭素粒子がカーボンブラックなどの第2炭素粒子を含むことで、負極電極材料中に、より均一な導電ネットワークが形成され易くなる。
【0032】
負極電極材料に含まれる炭素粒子の含有量は、例えば、0.2質量%以上3.0質量%以下であり、0.3質量%以上2.5質量%以下であることが好ましい。炭素粒子の含有量がこのような範囲である場合、高容量を確保しながら導電ネットワークが広がり易い。
【0033】
負極電極材料に含まれる炭素粒子(炭素粒子の総量)に占める第1炭素粒子の比率は、例えば、10質量%以上であり、30質量%以上であることが好ましい。負極電極材料に含まれる炭素粒子(炭素粒子の総量)に占める第1炭素粒子の比率は、100質量%以下であり、90質量%以下であってもよい。これらの下限値と上限値は任意に組み合わせることができる。
【0034】
負極電極材料中の第1炭素粒子の含有量は、0.2質量%以上2質量%以下である。第1炭素粒子の含有量がこのような範囲である負極電極材料を備える負極板と第1リブを備えるセパレータとを併用することで、負極板近傍の電解液の拡散性が高まり、高いPSOC寿命性能を確保できる。また、負極電極材料中の第1炭素粒子の含有量が0.2質量%以上(2質量%まで)の場合、第1炭素粒子に含まれる第2炭素粒子が充放電時に電解液中に流出し易いが、第1リブの存在により、流出した第2炭素粒子でセパレータの細孔が閉塞されることが抑制される。よって、低温ハイレート性能の低下を抑制できる。また、負極電極材料中の第1炭素粒子の含有量を2質量%以下とすることで、負極ペーストが硬くなるのを抑制して、集電体への塗布性や充填性の低下を抑制できる。さらに、長寿命化することで浸透短絡が起こり易い条件でも、電解液の拡散性が高いことで成層化が低減されるため、浸透短絡の発生を抑制することができる。第1リブによる低温ハイレート性能の低下抑制効果が顕著に現れる観点からは、負極電極材料中の第1炭素粒子の含有量が0.3質量%以上2質量%以下であることが好ましい。負極電極材料中の第1炭素粒子の含有量が多くなると、充電時の減液量は多くなる傾向があるが、このような場合(例えば、含有量が1質量%以上2質量%以下である場合)でも、第1リブを備えるセパレータを用いることで、減液量を低減できる。充電時の減液量を低く抑える観点からは、負極電極材料中の第1炭素粒子の含有量を1質量%以下(例えば、0.2質量%以上1質量%以下、または0.3質量%以上1質量%以下)とすることも好ましい。
【0035】
第1炭素粒子に含まれる第2炭素粒子(例えば、カーボンブラックなど)の平均粒子径d1は、100nm以下であることが好ましく、60nm以下であることがより好ましく、下限は特に制限されないが、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であってもよい。これらの上限値と下限値とは任意に組み合わせることができる。第2炭素粒子の平均粒子径がこのような範囲である場合、第1炭素粒子に含まれる第2炭素粒子が電解液中に流出し易く、セパレータの細孔を閉塞し易くなる。しかし、第1リブを備えるセパレータを用いることにより、セパレータの細孔の閉塞を抑制して、低温ハイレート性能の低下を抑制できる。
【0036】
第1炭素粒子に含まれる第2炭素粒子の比率は、60体積%以上が好ましい。第2炭素粒子の比率がこのような範囲である場合、より高いPSOC寿命性能を確保できるとともに、高い低温ハイレート性能の確保がさらに容易になる。さらに、第1炭素粒子に含まれる第2炭素粒子の比率は、80体積%以上が好ましい。第2炭素粒子の比率がこのような範囲である場合、PSOC寿命性能および低温ハイレート性能の向上効果をさらに高めることができる。
【0037】
第3炭素粒子は、上記の炭素粒子のうち、カーボンブラック以外の炭素粒子を含むことが好ましく、特に、黒鉛を含むことが好ましい。
【0038】
第2炭素粒子の平均粒子径(d1)のセパレータの平均細孔径(d2)に対する比R(=d1/d2)は、0.8以下であることが好ましく、0.5以下であることがさらに好ましい。比Rがこのような範囲である場合、第2炭素粒子が、セパレータの細孔を閉塞し易いが、セパレータの第1リブにより、負極板近傍の電解液の拡散性を確保することができるとともに、セパレータの細孔の閉塞を抑制することができる。よって、高いPSOC寿命性能を確保できるとともに、低温ハイレート性能の低下をさらに抑制できる。
【0039】
負極電極材料に含まれる炭素粒子および第1炭素粒子の含有量、ならびに第2炭素粒子の平均粒子径および第2炭素粒子の比率は、次のようにして求めることができる。
【0040】
既化成で満充電後の鉛蓄電池を解体し、負極板を水洗及び乾燥して硫酸分を除去した後、真空乾燥(大気圧より低い圧力下で乾燥)する。次に、負極板から電極材料を採取し、粉砕する。粉砕試料5gに60質量%濃度の硝酸水溶液を30mL加え、70℃で加熱し、鉛を硝酸鉛として溶解させる。この混合物に、さらに、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを10g、28質量%濃度のアンモニア水を30mL、及び水100mLを加えて、加熱を続け、可溶分を溶解させる。次いで濾過により回収した試料を、目開き500μmのふるいにかけて補強材などのサイズが大きな成分を除去して、ふるいを通過した成分を炭素粒子として回収する。
【0041】
回収した炭素粒子を、目開き32μmのふるいを用いて湿式にて篩ったときに、ふるいの目を通過せずに、ふるい上に残るものがあればこれを第3炭素粒子とし、ふるいの目を通過するものを第1炭素粒子とする。なお、湿式のふるい分けについては、JIS Z8815:1994を参照できる。
【0042】
具体的には、炭素粒子を、目開き32μmのふるい上に載せ、イオン交換水を散水しながら、5分間ふるいを軽く揺らして篩い分けする。ふるい上に残った第3炭素粒子は、イオン交換水を流しかけてふるいから回収し、ろ過によりイオン交換水から分離する。ふるいを通過した第1炭素粒子は、ニトロセルロース製のメンブランフィルター(目開き0.1μm)を用いてろ過により回収する。回収された第1炭素粒子および第3炭素粒子は、それぞれ、110℃の温度で2時間乾燥させる。目開き32μmのふるいとしては、JIS Z 8801-1:2006に規定される、公称目開きが32μmであるふるい網を備えるものを使用する。
【0043】
ふるいの目を通過した第1炭素粒子には、一次粒子の粒子径が小さな第2炭素粒子が多く含まれている。このような一次粒子の平均粒子径は、後述のように、第2炭素粒子の平均粒子径d1に相当する。第1炭素粒子に含まれるこのような第2炭素粒子は、粒子径がセパレータの平均細孔径d2よりも小さいため、電解液に流出して、セパレータの細孔を閉塞する原因となる。
【0044】
負極電極材料中の第1炭素粒子の含有量は、上記の手順で分離した第1炭素粒子の質量を測り、この質量の5gの粉砕試料中に占める比率(質量%)を算出することにより求める。負極電極材料中の炭素粒子の含有量(質量%)は、第1炭素粒子の場合に準じて求めた第3炭素粒子の比率と第1炭素粒子の比率とを足し合わせることで求められる。
第2炭素粒子の平均粒子径d1は、第1炭素粒子の電子顕微鏡写真から、セパレータの平均細孔径d2よりも一次粒子径が小さい一次粒子をランダムに100個選択し、各一次粒子の最大径(長軸径)を測定し、平均値を算出することにより求める。
【0045】
本明細書中、鉛蓄電池の満充電状態とは、液式の電池の場合、25℃の水槽中で、0.2CAの電流で2.5V/セルに達するまで定電流充電を行った後、さらに0.2CAで2時間、定電流充電を行った状態である。また、制御弁式の電池の場合、満充電状態とは、25℃の気槽中で、0.2CAで、2.23V/セルの定電流定電圧充電を行い、定電圧充電時の充電電流が1mCA以下になった時点で充電を終了した状態である。
なお、本明細書中、1CAとは電池の公称容量(Ah)と同じ数値の電流値(A)である。例えば、公称容量が30Ahの電池であれば、1CAは30Aであり、1mCAは30mAである。
【0046】
第1炭素粒子に含まれる第2炭素粒子の比率(体積%)は、上記で分離した第1炭素粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真から、次のようにして求めることができる。まず、SEM写真において、縦100μm×横100μmの任意の領域を選択する。この領域に含まれ、かつ粒子の外縁が明確な炭素粒子について、セパレータの平均細孔径d2よりも一次粒子径が小さな粒子を第2炭素粒子とし、平均細孔径d2以上の一次粒子径を有する粒子を第2炭素粒子以外の第1炭素粒子とする。そして、各炭素粒子について、粒子の外縁で囲まれる領域の面積を算出し、第2炭素粒子の面積の合計(総面積)と、第2炭素粒子以外の第1炭素粒子の面積の合計(総面積)とを求める。第2炭素粒子の総面積と、第2炭素粒子以外の第1炭素粒子の総面積との合計に占める第2炭素粒子の総面積の比率(面積%)を算出する。この面積基準の比率を、第1炭素粒子に含まれる第2炭素粒子の体積基準の比率(体積%)とみなす。
【0047】
負極板は、負極集電体に、負極ペーストを充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、鉛粉と有機防縮剤および必要に応じて各種添加剤に、水と硫酸を加えて混練することで作製する。熟成工程では、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0048】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成する。
【0049】
(セパレータ)
セパレータは、微多孔膜で構成されたベース部と、ベース部の少なくとも一方の主面から突出するリブとを備えている。セパレータは、ベース部の一方の主面から突出するリブと、ベース部の他方の主面から突出するリブとを備えていてもよい。セパレータは、一方の主面から突出するリブを少なくとも備えており、このリブが負極板側に位置するように配置される。この負極板側に位置するリブを第1リブと呼ぶ。セパレータがベース部の他方の主面から突出するリブを備える場合には、このリブは、正極板側(つまり、正極板に対向するよう)に配置される。この正極板側に位置するリブを第2リブと呼ぶ。第1リブにより負極板近傍における電解液の拡散性を高めることができるため、PSOC寿命性能をさらに向上することができるとともに、浸透短絡を抑制できる。また、負極板近傍の電解液の比重の上昇が抑制されることで、充電効率が向上するため、充電時の減液を抑制できる。
【0050】
セパレータは、ポリマー材料(ただし、繊維とは異なる)で形成される。少なくともベース部は、多孔性のシートであり、多孔性のフィルムと呼ぶこともできる。ベース部の平均細孔径をセパレータの平均細孔径と見なしてもよい。セパレータは、ポリマー材料で形成されたマトリックス中に分散した充填剤(例えば、シリカなどの粒子状充填剤、および/または繊維状充填剤)を含んでもよい。セパレータは、耐酸性を有するポリマー材料で構成することが好ましい。このようなポリマー材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが好ましい。
【0051】
なお、以下に説明するセパレータの平均細孔径、ベース部の平均厚み、リブの平均高さ、およびリブの平均ピッチは、上記と同様に、電池から取り出して洗浄、乾燥処理したセパレータについて求めるものとする。
【0052】
セパレータの平均細孔径d2は、例えば、0.03μm以上0.5μm以下であり、0.05μm以上0.3μm以下であることが好ましく、0.07μm以上0.3μm以下であることがさらに好ましい。平均細孔径がこのような範囲である場合、低い電気抵抗と優れた耐短絡性能とを両立することができるため、有利である。
【0053】
平均細孔径d2は、水銀圧入法により求めることができる。より具体的には、セパレータを、測定容器に投入し、真空排気した後、圧力を加えて水銀を満たし、この時の圧力およびセパレータに押し込まれた水銀容積との関係から細孔分布を求め、この細孔分布から平均細孔径d2を求める。平均細孔径の測定には、島津製作所(株)製の自動ポロシメータ(オートポアIV9505)を使用する。
【0054】
ベース部の平均厚みは、例えば、100μm以上300μm以下であり、150μm以上250μm以下であることが好ましい。ベース部の平均厚みがこのような範囲である場合、高容量を確保しながら、第1リブおよび必要に応じて第2リブの高さを確保し易くなる。
ベース部の平均厚みは、セパレータの断面写真において、任意に選択した5箇所についてベース部の厚みを計測し、平均化することにより求められる。
【0055】
第1リブは、セパレータの、負極板と対向する側の面に形成されている。第1リブの平均高さは、例えば、0.05mm以上であり、0.07mm以上であることが好ましい。第1リブの平均高さがこのような範囲である場合、電解液をより拡散し易くなる。高容量を確保する観点から、第1リブの平均高さは、例えば、0.40mm以下であり、0.20mm以下であることが好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。セパレータにおいては、少なくとも負極板と対向する領域(好ましくは負極電極材料が存在する領域)にこのような平均高さで第1リブが形成されていることが好ましい。例えば、セパレータの負極板と対向する領域の面積の70%以上にこのような平均高さの第1リブが形成されていることが好ましい。
【0056】
なお、第1リブの高さとは、第1リブの所定の位置におけるベース部の一方の主面から第1リブの頂部までの距離を言う。ベース部の主面が平面でない場合には、セパレータを、第1リブ側を上にして平置きしたときに、ベース部の一方の主面の最も高い位置から、第1リブの所定の位置における第1リブの頂部までの距離を第1リブの高さとする。第1リブの平均高さは、ベース部の一方の主面において、第1リブの任意に選択される10箇所において計測した第1リブの高さを平均化することにより求められる。
【0057】
ベース部の一方の主面において第1リブのパターンは特に制限されず、第1リブは、ランダムに形成されていてもよく、ストライプ状、曲線状、格子状などに形成されていてもよい。電解液をより拡散し易くする観点からは、ベース部の一方の主面において、複数の第1リブがストライプ状に並ぶように形成することが好ましい。ストライプ状の第1リブの向きは特に制限されず、例えば、複数の第1リブは、負極板の高さ方向や幅方向に沿って形成してもよい。電解液の比重は、電極板の上下で差が生じ易いため、電解液の拡散性をより高める観点からは、複数の第1リブを、負極板の高さ方向に沿ってストライプ状に形成することが好ましい。
【0058】
なお、負極板および正極板の一端部には、通常、極板群から電流を取り出すための耳部が形成されている。この耳部を上にした状態における負極板や正極板の鉛直方向を、負極板や正極板の高さ方向と言うものとする。負極板や正極板の幅方向とは、高さ方向と直交し、負極板や正極板の主面を横切る方向である。
【0059】
ストライプ状や格子状の第1リブの平均ピッチは、例えば、0.3mm以上10mm以下であり、0.5mm以上5mm以下であることが好ましい。セパレータが、このような範囲の平均ピッチで第1リブが形成されている領域を含む場合、負極板近傍の電解液の拡散性を向上する効果が得られ易い。セパレータにおいて、負極板(好ましくは負極電極材料が存在する領域)と対向する領域にこのような平均ピッチで第1リブが形成されていることが好ましい。例えば、セパレータの負極板と対向する領域の面積の70%以上にこのような平均ピッチの第1リブが形成されていることが好ましい。セパレータの端部などの、負極板と対向しない領域や負極電極材料が存在しない領域には、第1リブを形成しても形成しなくてもよく、複数の第1リブを密に(例えば、0.5mm以上5mm以下の平均ピッチで)形成してもよい。
【0060】
なお、第1リブのピッチとは、隣接する第1リブの頂部間距離(より具体的には、第1リブを横切る方向における隣接する第1リブの中心間距離)である。
第1リブの平均ピッチは、任意に選択される10箇所において計測した第1リブのピッチを平均化することにより求められる。なお、セパレータの負極板と対向しない領域または負極板の負極電極材料が存在しない領域と対向する領域に第1リブが密に形成されている場合には、この領域を除いて平均ピッチを算出すればよい。このような部分的に密に形成された第1リブの平均ピッチは、この領域について上記と同様に算出できる。
【0061】
第2リブは、セパレータの、正極板と対向する側の面に形成されている。第2リブの平均高さは、例えば、0.3mm以上であり、0.4mm以上であることが好ましい。第2リブの平均高さがこのような範囲である場合、セパレータの酸化劣化を抑制し易くなる。高容量を確保する観点から、第2リブの平均高さは、例えば、1.0mm以下であり、0.7mm以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。セパレータにおいて、少なくとも正極板と対向する領域(好ましくは正極電極材料が存在する領域)にこのような平均高さで第2リブが形成されていることが好ましい。例えば、セパレータの正極板と対向する領域の面積の70%以上にこのような平均高さの第2リブが形成されていることが好ましい。
【0062】
なお、第2リブの平均高さは、第1リブの場合に準じて求められる。第2リブの高さは、第1リブの場合に準じて、第2リブの所定の位置におけるベース部の他方の主面から第2リブの頂部までの距離を言う。
【0063】
第2リブのパターンや向きは、特に制限されず、例えば、第1リブについて記載したものから選択すればよい。ストライプ状や格子状の第2リブの平均ピッチは、例えば、1mm以上15mm以下であり、5mm以上10mm以下であることが好ましい。セパレータが、このような範囲の平均ピッチで第2リブが形成されている領域を含む場合、セパレータの酸化劣化を抑制する効果がさらに高まる。セパレータにおいて、正極板(好ましくは正極電極材料が存在する領域)と対向する領域にこのような平均ピッチで第2リブが形成されていることが好ましい。例えば、セパレータの正極板と対向する領域の面積の70%以上にこのような平均ピッチの第2リブが形成されていることが好ましい。セパレータの端部など、正極板と対向しない領域や正極板の正極電極材料が存在しない領域と対向する領域には、第2リブを形成しても形成しなくてもよく、複数の第2リブを密に(例えば、0.5mm以上5mm以下の平均ピッチで)形成してもよい。
【0064】
なお、第2リブのピッチとは、隣接する第2リブの頂部間距離(より具体的には、第2リブを横切る方向における隣接する第2リブの中心間距離)である。第2リブの平均ピッチは、第1リブの平均ピッチに準じて算出できる。
【0065】
シート状のセパレータを、負極板と正極板との間に挟んでもよく、袋状のセパレータに負極板または正極板を収容することで、負極板と正極板との間にセパレータを介在させてもよい。袋状のセパレータを用いる場合には電解液が拡散しにくくなるが、第1リブや第2リブを設けることで拡散性が向上する。袋状のセパレータで負極板を収容する場合には、第1リブにより、負極板近傍の電解液の拡散性を高め易くなるとともに、集電体の伸びに伴うセパレータ破れが抑制されるため、これによる短絡を抑制できる。袋状のセパレータで正極板を収容する場合には、電解液の成層化を抑制することができる。
【0066】
セパレータは、例えば、造孔剤(ポリマー粉末などの固形造孔剤、および/またはオイルなどの液状造孔剤など)とポリマー材料などとを含む樹脂組成物を、シート状に押し出し成形した後、造孔剤を除去して、ポリマー材料のマトリックス中に細孔を形成することにより得られる。リブは、例えば、押出成形する際に形成してもよく、シート状に成形した後または造孔剤を除去した後に、リブに対応する溝を有するローラで押圧することにより形成してもよい。充填剤を用いる場合には、樹脂組成物に添加することが好ましい。
【0067】
(電解液)
電解液としては、硫酸を含む水溶液が使用される。電解液は、必要に応じてゲル化させてもよい。
【0068】
負極電極材料には、第1炭素粒子が含まれており、第1炭素粒子に含まれる粒子径の小さな第2炭素粒子が電解液中に流出することで、電解液中に第2炭素粒子が含まれるようになる。第2炭素粒子は、初期状態(例えば、既化成で満充電状態)の電池でも電解液に含まれることがあるが、第2炭素粒子の流出は、充放電を繰り返すことにより顕著になる。
【0069】
電解液は、必要に応じて、鉛蓄電池に利用される添加剤を含むことができる。
化成後で満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば、1.10g/cm3以上1.35g/cm3以下である。
【0070】
(繊維マット)
鉛蓄電池は、さらに、正極板と負極板との間に介在する繊維マットを備えていてもよい。繊維マットを配置する場合には、電極板が繊維マットで圧迫されて、電極板の周囲に電解液を保持し難くなる。本発明の上記側面では、セパレータに第1リブを設けるため、負極板近傍に電解液を確保し易くなり、電解液の高い拡散性を確保することができる。
【0071】
繊維マットは、セパレータとは異なり、シート状の繊維集合体で構成される。このような繊維集合体としては、電解液に不溶な繊維が絡み合ったシートが使用される。このようなシートには、例えば、不織布、織布、編み物などがある。
【0072】
繊維としては、ガラス繊維、ポリマー繊維(ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などのポリエステル繊維など)、パルプ繊維などを用いることができる。ポリマー繊維の中では、ポリオレフィン繊維が好ましい。
【0073】
繊維マットは、繊維以外の成分、例えば、耐酸性の無機粉体、結着剤としてのポリマーなどを含んでもよい。無機粉体としては、シリカ粉末、ガラス粉末、珪藻土などを用いることができる。ただし、繊維マットは、繊維を主体とする。例えば、繊維マットの60質量%以上が繊維で形成されている。
【0074】
繊維マットは、負極板と正極板との間に配置すればよい。負極板と正極板との間には、セパレータも配置されるため、繊維マットは、負極板と正極板との間において、例えば、負極板とセパレータとの間、および/またはセパレータと正極板との間に配置してもよい。電解液の成層化を抑制する観点からは、繊維マットは負極板と接するように配置することが好ましい。また、正極活物質の軟化および脱落を抑制する観点からは、繊維マットは正極板と接するように配置することが好ましい。軟化および脱落の抑制効果が高まる観点からは、繊維マットは、正極板に圧迫した状態で配置することが好ましいが、この場合、負極板近傍の電解液が不足し易くなる。本実施形態では、セパレータの負極板側に第1リブを設けるため、繊維マットを正極板側に配置する場合でも、負極板近傍に電解液を確保することができる。
【0075】
図1に、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で閉じられる。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0076】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0077】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0078】
《鉛蓄電池A1~A6およびC1》
(1)負極板の作製
鉛粉、水、希硫酸、カーボンブラック、および有機防縮剤を混合して、負極ペーストを得た。負極ペーストを、負極集電体としてのPb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成、乾燥し、未化成の負極板を得た。有機防縮剤には、リグニンスルホン酸ナトリウムを用いた。カーボンブラックは、負極電極材料100質量%に含まれる含有量が表1に示す値となるように添加量を調節した。有機防縮剤は、それぞれ、負極電極材料100質量%に含まれる含有量が0.2質量%となるように、添加量を調節して、負極ペーストに配合した。
【0079】
(2)正極板の作製
鉛粉と、水と、硫酸とを混練させて、正極ペーストを作製した。正極ペーストを、正極集電体としてのPb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成、乾燥し、未化成の正極板を得た。
【0080】
(3)鉛蓄電池の作製
未化成の各負極板を、ポリエチレン製の微多孔膜で形成された袋状セパレータに収容し、セル当たり未化成の負極板7枚と未化成の正極板6枚とで極板群を形成した。セパレータは、袋の内側に第1リブを、袋の外側に第2リブを有していた。セパレータは、ストライプ状の複数の第1リブおよび複数の第2リブを備えており、複数の第1リブおよび複数の第2リブは、それぞれ、負極板および正極板の高さ方向に沿って形成されていた。第1リブの平均高さは、0.1mmであり、負極板に対向する領域において第1リブのピッチは、1mmであった。第2リブの平均高さは、0.4mmであり、正極板に対向する領域において第2リブの平均ピッチは、10mmであった。また、セパレータのベース部の平均厚みは、0.2mmであった。なお、セパレータのリブの平均高さ、ベース部の平均厚み、リブの平均ピッチは、鉛蓄電池作製前のセパレータについて求めた値であるが、作製後の鉛蓄電池から取り出したセパレータについて既述の手順で測定した値とほぼ同じであった。
【0081】
極板群をポリプロピレン製の電槽に挿入し、電解液を注液して、電槽内で化成を施して、公称電圧12Vおよび公称容量が40Ah(20時間率)の液式の鉛蓄電池A1~A6およびC1を組み立てた。電解液としては、20℃における比重が1.28である、硫酸を含む水溶液を用いた。
【0082】
既化成の満充電後の鉛蓄電池について、負極電極材料に含まれる第2炭素粒子(カーボンブラック)の平均粒子径d1、ならびにセパレータの平均細孔径d2を、既述の手順で求めたところ、それぞれ、50nm、および0.1μmであり、比R=d1/d2は、0.5であった。既述の手順で求められる負極電極材料中の第1炭素粒子の含有量については、負極ペーストを調製する際のカーボンブラックの添加量とほぼ同じであった。また、セパレータの平均細孔径d2についても、電池を組み立てる前のセパレータの平均細孔径とほぼ同じであった。既述の手順で求められる第1炭素粒子中の第2炭素粒子の比率は、約100体積%であった。
【0083】
《鉛蓄電池B1~B7》
第1リブを有さない袋状のセパレータを用いた。これ以外は、鉛蓄電池C1およびA1~A6と同様にして鉛蓄電池B1~B7を組み立てた。
【0084】
[評価1:PSOC寿命性能]
SBA S 0101:2014に準拠して、アイドリングストップ条件で、鉛蓄電池の充放電を行った。具体的には、25℃において、下記の(a)~(c)を1サイクルとして、放電末電圧が7.2V以下になるまで繰り返し、このときのサイクル数を求めた。ただし、途中、サイクル数が18000回のときに充放電サイクルを一旦停止し、後述の低温ハイレート性能放電試験を行なった後、定電圧14.5Vで16時間充電し、再び、下記の(a)~(c)の充放電を繰り返した。鉛蓄電池B1におけるサイクル数を100としたときの比率でPSOC寿命性能を評価した。なお、充放電時には、3600サイクル毎に40時間~48時間休止した。
(a)放電1:32Aの電流値で59秒放電する。
(b)放電2:300Aの電流値で1秒間放電する。
(c)充電:制限電流100Aおよび14.0Vの電圧で60秒間充電する。
【0085】
[評価2:低温ハイレート放電試験]
評価1の充放電サイクルの試験前及び試験途中で、JIS D 5301:2006に準拠して、-15℃における高率放電試験を行なった。高率放電試験では、具体的には、鉛蓄電池を、-15℃±1℃の温度の冷却室に、少なくとも16時間静置した。次いで、JIS D5301:2006に規定される放電電流(150A)にて、-15℃で端子電圧が単セル当たり1.0Vに到達するまで放電し、このときの放電時間(秒)を求めた。PSOC寿命試験前後の放電時間をそれぞれt0、t1とし、比t1/t0を算出することで低温ハイレート性能の維持率を求めた。鉛蓄電池B1の維持率を100としたときの維持率の比率を算出し、この比率に基づいて低温ハイレート性能の維持率を評価した。
【0086】
[評価3:浸透短絡]
評価1で評価した後の鉛蓄電池を分解し、セパレータを取り出して、鉛の浸透痕の有無を確認した。
【0087】
[評価4:減液量]
JIS D 5301:2006に準拠して、軽負荷寿命試験を行い、試験前に比較した試験後の電解液の減液量を求めた。ただし、試験温度は、75℃とした。具体的には、鉛蓄電池を、JIS D 5301:2006に規定される放電電流(25A)にて、75℃で4分間放電し、次いで75℃にて14.8Vの電圧で10分間充電した。この放電と充電のサイクルを480回繰り返して、56時間放置した後、上記の放電と充電のサイクルをさらに480回繰り返して、56時間放置した。試験後の鉛蓄電池の質量を測定し、試験前の質量から差し引くことで、電解液の減液量を求めた。減液量は、鉛蓄電池B1における減液量を100としたときの比率で表した。
鉛蓄電池A1~A6、C1およびB1~B7の結果を表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
表1に示されるように、負極電極材料中の第1炭素粒子の含有量が0.1質量%であり、第1リブを備えるセパレータを用いた鉛蓄電池C1では、鉛蓄電池B1と比較すると、第1リブの存在によるPSOC寿命性能の向上効果は低く、低温ハイレート性能の向上効果は全く得られない。
【0090】
それに対し、負極電極材料中の第1炭素粒子の含有量が0.2質量%以上2質量%以下であり、第1リブを備えるセパレータを用いた鉛蓄電池A1~A6では、鉛蓄電池B2~B7との比較から、第1リブの存在により、PSOC寿命性能が大きく向上している。特に、鉛蓄電池A2~A7では、第1炭素粒子の含有量が少ない鉛蓄電池A1に比べてPSOC寿命性能がさらに高くなっている。
【0091】
負極電極材料中の第1炭素粒子の含有量が0.2質量%以上(~2質量%まで)になると、低温ハイレート性能の維持率が低下する傾向が見られる(鉛蓄電池B2~B7)。これは、第1炭素粒子の含有量が0.2質量%以上になると、第1炭素粒子に含まれる粒子径が小さな第2炭素粒子の電解液への流出が顕著になるためと考えられる。それに対し、第1リブを設けることで、第1炭素粒子がこのような含有量でも、低温ハイレート性能の維持率の低下が抑制される(鉛蓄電池A1~A6)。これは、第2炭素粒子によるセパレータ細孔の閉塞が第1リブにより抑制されるためと考えられる。低温ハイレート性能の維持率の低下抑制効果は、特に、負極電極材料中の第1炭素粒子の含有量が0.3質量%以上で顕著である。
【0092】
また、鉛蓄電池C1およびB1では、浸透痕は確認されず、第1リブによる浸透短絡の抑制効果は、第1炭素粒子の含有量が0.1質量%の場合には得られない。一方、負極電極材料中の第1炭素粒子の含有量が0.2質量%以上になると、第1リブを有さないセパレータを用いた場合には、浸透痕が確認される(鉛蓄電池B2~B7)。これに対し、鉛蓄電池A1~A6では、第1炭素粒子の含有量が同じ範囲でも、第1リブを設けることで、セパレータへの鉛の浸透、析出が抑制されている。
【0093】
さらに、鉛蓄電池A1~A6では、鉛蓄電池B2~B7に比較して、充電時の減液量が大幅に低減されている。特に、負極電極材料中の第1炭素粒子の含有量が1質量%以下である場合には、減液量を100未満に低減できる。また、表1に示されるように、減液量は、負極電極材料中の第1炭素粒子の含有量が多くなると、増加する傾向がある。しかし、第1炭素粒子の含有量が多い(例えば、1質量%以上の)場合でも、第1リブの存在により充電時の減液量を低減できる(鉛蓄電池B5~B7とA4~A6との比較)。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池は、制御弁式および液式の鉛蓄電池に適用可能であり、自動車もしくはバイクなどの始動用の電源として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0095】
1:鉛蓄電池
2:負極板
3:正極板
4:セパレータ
5:正極棚部
6:負極棚部
7:正極柱
8:貫通接続体
9:負極柱
11:極板群
12:電槽
13:隔壁
14:セル室
15:蓋
16:負極端子
17:正極端子
18:液口栓
図1