(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】積層セラミック電子部品
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20221101BHJP
【FI】
H01G4/30 201L
H01G4/30 201K
H01G4/30 201D
H01G4/30 512
H01G4/30 515
H01G4/30 516
(21)【出願番号】P 2020052459
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 英之
(72)【発明者】
【氏名】上野 健之
【審査官】北原 昂
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-277393(JP,A)
【文献】国際公開第2015/040881(WO,A1)
【文献】特開2004-189588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された誘電体層と内部電極層とを含む積層体を備え、
前記誘電体層は、Ba、Tiを含む複数の誘電体粒子を備え、
前記誘電体粒子の界面に第1の元素による第1の濃縮領域があり、前記第1の濃縮領域から50nm以内の界面に前記第1の元素による第2の濃縮領域が存在する、積層セラミック電子部品。
【請求項2】
前記第1の濃縮領域と前記第2の濃縮領域の間には、第2の元素による第3の濃縮領域が存在する、請求項1に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項3】
前記第1の濃縮領域と前記第3の濃縮領域とは隣り合っている、請求項2に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項4】
前記第1の元素には、希土類が少なくとも1つ含まれる、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項5】
前記第2の元素には、Ni、Cu、Pd、Agから選ばれる金属が少なくとも1つ含まれている、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項6】
前記内部電極層は、前記第2の元素を含む、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項7】
前記誘電体粒子は、コアおよびシェルを持つコアシェル構造である、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項8】
前記誘電体層の厚さは、0.3μm以上1.5μm以下である、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、積層セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、積層セラミックコンデンサなどの積層セラミック電子部品は、車載機器など高い信頼性が要求される電子機器への適用が進められている。
【0003】
積層セラミック電子部品の一例として、特開2017-228590号公報(特許文献1)に記載された積層セラミックコンデンサが挙げられる。特許文献1に記載されている積層セラミックコンデンサは、セラミック材料とNiとを含む誘電体層と、Niを含む内部電極層とを備えている。
【0004】
高温負荷試験のように積層セラミックコンデンサの誘電体層に高電界が印加された場合の絶縁抵抗は、誘電体層を構成する誘電体粒子の粒界により支配される傾向がある。特許文献1には、内部電極層から拡散し、粒界に不均一に存在していたNiを誘電体粒子内に取り込むことにより、絶縁抵抗のばらつきを抑える技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
BaTiO3を含む誘電体層を備える積層セラミックコンデンサの信頼性向上のためには、上記の内部電極層から拡散したNiの誘電体粒子内の取り込みに加えて、直流電圧が印加された場合の誘電体層中の酸素空孔の移動を抑える必要がある。信頼性向上のためには、BaTiO3の結晶格子中のBaの正2価のイオンであるBa2+を、希土類元素REの正3価のイオンであるRE3+により置換することが効果的であるとされている(以後、イオンの表記は上記に倣うことがある)。
【0007】
上記のようにBa2+がRE3+で置換されると、正電荷が過剰になる。そのため、電気的中性条件を満たすように、相対的に負2価に帯電していると見なされるBa空孔が生成する。このBa空孔と、相対的に正2価に帯電していると見なすことができる酸素空孔とは安定な欠陥対を形成する。Ba空孔は直流電圧が印加された場合でも移動し難いため、Ba空孔に繋ぎ止められることにより、酸素空孔の移動が抑えられる。
【0008】
上記の酸素空孔の移動は、誘電体粒子の粒界近傍の構造により抑制されることが知られている。例えば、格子静力学法を用いたBaTiO3を含む誘電体の対応粒界の安定構造の計算では、酸素空孔にとって安定な位置が粒界近傍に多く存在していることが示される。上記のBa2+のRE3+による置換によるBa空孔の存在は、この酸素空孔の粒界近傍における安定性における重要な要因である。
【0009】
BaTiO3を含む誘電体層を備える積層セラミックコンデンサの信頼性を向上させるためには、誘電体層を構成する結晶粒内における酸素空孔の移動の抑制が必要であるが、特許文献1には記載がない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この開示に従う積層セラミック電子部品は、積層された誘電体層と内部電極層とを含む積層体を備える。誘電体層は、Ba、Tiを含む複数の誘電体粒子を備える。そして、誘電体粒子の界面に第1の元素による第1の濃縮領域があり、第1の濃縮領域から50nm以内の界面に第1の元素による第2の濃縮領域が存在する。
【発明の効果】
【0011】
酸素空孔の移動を抑制しうる元素を界面に配置することで積層セラミック電子部品は、高い信頼性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】この開示に従う積層セラミック電子部品の第1の実施形態である積層セラミックコンデンサ100の断面図である。
【
図2】積層セラミックコンデンサ100の誘電体層11の微細構造を調べるために準備した試料を説明するための断面図である。
【
図3】
図2の中央領域における、透過型電子顕微鏡(以後、TEMと略称することがある)観察像の模式図である。
【
図4】
図3に示された領域における、エネルギー分散型X線分析(以後、EDXと略称することがある)によるDyおよびNiの分布の分析結果の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この開示の特徴とするところを、図面を参照しながら説明する。なお、以下に示す積層セラミック電子部品の実施形態では、同一のまたは共通する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さないことがある。
【0014】
-積層セラミック電子部品の実施形態-
この開示に従う積層セラミック電子部品の第1の実施形態を示す積層セラミックコンデンサ100について、
図1ないし
図4を用いて説明する。
【0015】
<積層セラミックコンデンサの構造>
図1は、積層セラミックコンデンサ100の断面図である。積層セラミックコンデンサ100は、積層体10を備えている。積層体10は、積層された複数の誘電体層11と複数の内部電極層12とを含む。複数の誘電体層11は、外層部と内層部とを有する。外層部は、積層体10の第1の主面と第1の主面に最も近い内部電極層12との間、および第2の主面と第2の主面に最も近い内部電極層12との間に配置されている。内層部は、それら2つの外層部に挟まれた領域に配置されている。
【0016】
複数の内部電極層12は、第1の内部電極層12aと第2の内部電極層12bとを有する。積層体10は、積層方向に相対する第1の主面および第2の主面と、積層方向に直交する幅方向に相対する第1の側面および第2の側面と、積層方向および幅方向に直交する長さ方向に相対する第1の端面13aおよび第2の端面13bとを有する。
【0017】
誘電体層11は、後述するように、化合物としてBaTiO3系のペロブスカイト型化合物を含み、かつ元素として希土類元素REである第1の元素M1を含む、複数の誘電体粒子を有する。
【0018】
上記の誘電体材料としては、例えばBaTiO3系のペロブスカイト型化合物の結晶格子中のBa2+の一部が、RE3+により置換されたものが挙げられる。希土類元素REとしては、例えばNd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYbなどとすることができる。また、BaTiO3系のペロブスカイト型化合物としては、BaTiO3、ならびにBaTiO3のBa2+およびTi4+の少なくとも一方が、Ca2+およびZr4+などの他のイオンにより置換されたものなどが挙げられる。以後、これらを総称してBaTiO3系誘電体材料と呼称することがある。
【0019】
第1の内部電極層12aは、誘電体層11を介して第2の内部電極層12bと互いに対向している対向電極部と、対向電極部から積層体10の第1の端面13aまでの引き出し電極部とを備えている。第2の内部電極層12bは、誘電体層11を介して第1の内部電極層12aと互いに対向している対向電極部と、対向電極部から積層体10の第2の端面13bまでの引き出し電極部とを備えている。
【0020】
第1の内部電極層12aと第2の内部電極層12bとが誘電体層11を介して互いに対向することにより、1つのコンデンサが形成される。積層セラミックコンデンサ100は、複数個のコンデンサが後述する第1の外部電極14aおよび第2の外部電極14bを介して並列接続されたものと言える。
【0021】
内部電極層12を構成する導電性材料としては、第2の元素群としてNi、Cu、AgおよびPdなどから選ばれる少なくとも第2の元素または当該元素を含む合金を用いることができる。内部電極層12は、後述するように共材と呼ばれる誘電体物をさらに含んでいてもよい。共材は、積層体10の焼成時において、内部電極層12の焼結収縮特性を誘電体層11の焼結収縮特性に近づけるため、内部電極層12の形成に用いられる内部電極層用ペーストに添加されている。
【0022】
積層セラミックコンデンサ100は、第1の外部電極14aと第2の外部電極14bとをさらに備えている。第1の外部電極14aは、第1の内部電極層12aと電気的に接続されるように積層体10の第1の端面13aに形成され、第1の端面13aから第1の主面および第2の主面ならびに第1の側面および第2の側面に延びている。第2の外部電極14bは、第2の内部電極層12bと電気的に接続されるように積層体10の第2の端面13bに形成され、第2の端面13bから第1の主面および第2の主面ならびに第1の側面および第2の側面に延びている。
【0023】
第1の外部電極14aおよび第2の外部電極14bは、下地電極層と下地電極層上に配置されためっき層とを有する。下地電極層は、焼結体層、導電性樹脂層、金属薄膜層およびめっき層から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0024】
焼結体層は、金属粉末とガラス粉末とを含むペーストが焼き付けられたものであり、導電体領域と酸化物領域とを含む。導電体領域は、上記の金属粉末が焼結した金属焼結体を含んでいる。金属粉末としては、Ni、CuおよびAgなどから選ばれる少なくとも一種または当該金属を含む合金を用いることができる。酸化物領域は、上記のガラス粉末に由来するガラス成分を含んでいる。ガラス粉末としては、B2O3-SiO2-BaO系のガラス材料などを用いることができる。なお、焼結体層は、異なる成分で複数層形成されていてもよい。また、焼結体層は、積層体10と同時焼成されてもよく、積層体10が焼成された後に焼き付けられてもよい。
【0025】
導電性樹脂層は、例えば金属微粒子のような導電性粒子と樹脂部とを含む。導電性粒子を構成する金属としては、Ni、CuおよびAgなどから選ばれる少なくとも一種または当該金属を含む合金を用いることができる。樹脂部を構成する樹脂としては、エポキシ系の熱硬化性樹脂などを用いることができる。導電性樹脂層は、異なる成分で複数層形成されていてもよい。
【0026】
金属薄膜層は、スパッタリングまたは蒸着などの薄膜形成法により形成され、金属微粒子が堆積された厚さ1μm以下の層である。金属薄膜層を構成する金属としては、Ni、Cu、AgおよびAuなどから選ばれる少なくとも一種または当該金属を含む合金を用いることができる。金属薄膜層は、異なる成分で複数層形成されていてもよい。
【0027】
下地電極としてのめっき層は、積層体10上に直接設けられ、前述の内部電極層と直接接続される。当該めっき層には、Cu、Ni、Sn、Au、Ag、PdおよびZnなどから選ばれる少なくとも一種または当該金属を含む合金を用いることができる。例えば、内部電極層12を構成する金属としてNiを用いた場合、当該めっき層としては、内部電極層12との接合性がよいCuを用いることが好ましい。
【0028】
下地電極層上に配置されためっき層を構成する金属としては、Ni、Cu、Ag、AuおよびSnなどから選ばれる少なくとも一種または当該金属を含む合金を用いることができる。当該めっき層は、異なる成分で複数層形成されていてもよい。好ましくは、Niめっき層およびSnめっき層の2層である。
【0029】
Niめっき層は、下地電極層上に配置され、積層セラミック電子部品をはんだを用いて回路基板などに実装する際に、下地電極層がはんだによって侵食されることを防止することができる。Snめっき層は、Niめっき層上に配置される。Snめっき層は、Snを含むはんだとの濡れ性がよいため、積層セラミック電子部品を実装する際に、実装性を向上させることができる。なお、これらのめっき層は、必須ではない。
【0030】
<誘電体層の微細構造>
この開示に係る積層セラミックコンデンサ100の誘電体層11が含む誘電体粒子の微細構造を調べるため、TEM観察およびTEMに付属のEDXによる元素マッピングを行なった。
【0031】
この調査において、誘電体層11の材質としては、BaTiO3を基本的な構造とし、第1の元素M1としてDyと、その他の添加元素とを含む複数の誘電体粒子を有するように設計されたBaTiO3系誘電体材料が用いられた。また、内部電極層12の材質としては、Niが用いられた。
【0032】
TEM観察およびEDXマッピングのための試料作製について、
図2を用いて説明する。
図2は、積層セラミックコンデンサ100の誘電体層11の微細構造を調べるために準備した試料を説明するための断面図である。
【0033】
後述する製造方法により、積層セラミックコンデンサ100の積層体10を得た。積層体10の幅方向の中央部が残るように、積層体10を第1の側面側および第2の側面側から研磨して研磨体を得た。
図2に示されるように、長さ方向の中央部近傍において内部電極層12と直交するような仮想線OLを想定した。そして、仮想線OLに沿って研磨体の静電容量の取得に係る誘電体層11と第1の内部電極層12aと第2の内部電極層12bとが積層された領域を積層方向に3等分し、上部領域、中央領域および下部領域の3つの領域に分けた。
【0034】
研磨体から上部領域、中央領域および下部領域を切り出し、それぞれをArイオンミリングなどにより薄膜化して、各領域からそれぞれ3つの薄膜試料を得た。以上のようにして得られた積層体10の上部領域、中央領域および下部領域の3つの薄膜試料について、TEM観察およびTEMに付属しているEDXによる元素マッピングを行なった。
【0035】
TEM観察およびEDXによる元素マッピング結果の模式図が
図3および
図4に示される。
図3は、
図2の中央領域における、TEM観察像の模式図である。
図4は、
図3に示された領域における、EDXによるDyおよびNiの分布の分析結果の模式図である。ここでは、誘電体粒子の重心を算出し、誘電体粒子の界面と重心を線で結び、この線分上の界面から40%重心側へ移動した位置の元素のTi100モルに対するモル比に対して、1.5倍以上のモル比を有する領域を濃縮領域と規定している。なお、重心側の元素のTi100モルに対するモル比が検出限界以下の場合は、検出限界以下の値の1.5倍以上のモル比を有する領域を濃縮領域と規定している。本実施例においては、これらの濃縮領域が界面に接した誘電体粒子内に配されている。第1の元素による濃縮領域を第1の濃縮領域R1と第2の濃縮領域R2とし、第2の元素による濃縮領域を第3の濃縮領域R3としている。第1の濃縮領域R1と第2の濃縮領域R2とは界面に接した領域で50nm以内に存在している。
【0036】
また、第3の濃縮領域R3が第1の濃縮領域R1と第2の濃縮領域R2の間に存在していてもよい。第3の濃縮領域R3は第1の濃縮領域R1および第2の濃縮領域R2と隣り合っていることが好ましい。隙間なく隣り合っていることで誘電体粒子間の酸素空孔の移動が効果的に抑制できる。また、第1の濃縮領域R1と第2の濃縮領域R2の間にはさらに第1の元素群および第2の元素群から選ばれる第4の濃縮領域があってもよい。したがって、誘電体粒子の第1の濃縮領域R1あるいは第2の濃縮領域R2が界面上に接している線分が長ければ長いほど誘電体粒子を囲み、信頼性が向上する。一方、線分が長すぎると、必然的に誘電体粒子の中で第1の濃縮領域R1あるいは第2の濃縮領域R2が占める領域が大きくなり、誘電率εが低下するという問題がある。
【0037】
誘電体層11の厚さは、前述の仮想線OL上の各領域中央部で、走査型電子顕微鏡(以後、SEMと略称することがある)観察像の画像解析を行なうことにより求められた。ただし、誘電体層11の厚さの測定は、各領域において最外の誘電体層11、および内部電極層12が欠損していることにより2層以上の誘電体層11が繋がって観察される部分を除いて行なった。誘電体層11の平均厚さは、誘電体層11の複数箇所(10箇所以上)での厚さの算術平均を求めることにより得られた。その結果、誘電体層11の平均厚さは、1.5μmであることが確認された。ただし誘電体層11の平均厚さはこれにとらわれず、0.3μm以上1.5μm以下が好ましい。
【0038】
図3のTEM観察像における誘電体粒子Gの粒界GBは、目視により決定された。TEM観察像の画像解析による等価円直径のメジアン径として求めた誘電体粒子Gの平均粒径は、0.13μmであった。誘電体粒子Gの粒界GBは、この開示の特徴を理解しやすくするため、
図4のDyおよびNiの分布の分析結果の模式図にも併せて示されている。
【0039】
図3および
図4に示されているように、複数の誘電体粒子Gは、誘電体粒子Gの粒界GBに沿って位置する第1の部分P1と、誘電体粒子Gの中央部に位置する第2の部分P2とに大別することができる。
【0040】
第1の部分P1は、BaTiO3に第1の元素M1であるDy、第2の元素M2であるNi、および任意で添加されたその他の添加元素が固溶した部分である。また、第2の部分P2は、上記の各元素の固溶量が第1の部分P1より少なく、純粋なBaTiO3に近い部分である。第2の部分P2に含まれるDyの量およびNiの量は、バックグラウンドノイズを除くEDXの検出感度以下の量であることが好ましい。すなわち、複数の誘電体粒子Gの少なくとも一部は、いわゆるコアシェル構造を有している。なお、コアシェル構造にとどまらず第1の元素および第2の元素が均質に分布していてもよい。
【0041】
Dyは、BaTiO3系のペロブスカイト型化合物の結晶格子中のBa2+の一部がDy3+で置換されることにより、誘電体粒子Gに固溶する。また、Niは、BaTiO3系のペロブスカイト型化合物の結晶格子中のTi4+の一部がNi2+で置換されることにより、誘電体粒子Gに固溶する。
【0042】
図4に示されているように、内部電極層(不図示)を構成する金属元素である第2の元素M2、すなわちNiを含む誘電体粒子Gは、粒界GBに沿って位置する複数の第1の濃縮領域R1と複数の第2の濃縮領域R2と複数の第3の濃縮領域R3とを有している。第1の濃縮領域R1および第2の濃縮領域R2には、第3の濃縮領域R3より多くのDyが偏在し、かつ第3の濃縮領域R3には、第1の濃縮領域R1および第2の濃縮領域R2より多くのNiが偏在している。そして、第3の濃縮領域R3は第1の濃縮領域R1と第2の濃縮領域R2の間に存在している。
【0043】
DyおよびNiは、上記の構造により、誘電体粒子Gの粒界GBに沿って安定して存在することができると推察される。例えば、BaTiO3のBaサイトにDyが固溶した第1の濃縮領域R1および第2の濃縮領域R2と、TiサイトにNiが固溶した第3の濃縮領域R3とが形成されることにより、誘電体粒子G内には歪みが発生することが考えられる。上記の構造は、この歪みを緩和するために形成されたと推察される。ただし、上記の構造の形成メカニズムは、まだ理解されていない。上記の構造は、特定の形成メカニズムに依存するものではないことに注意すべきである。
【0044】
前述したように、BaTiO3を含む誘電体層を備える積層セラミックコンデンサの信頼性向上のためには、内部電極層から拡散した金属元素の誘電体粒子内の取り込みに加えて、直流電圧が印加された場合の誘電体層中の酸素空孔の移動を抑える必要がある。この開示に係る積層セラミックコンデンサ100では、誘電体粒子Gの粒界GBに沿って上記の構造が形成されている。そのため、Ni(第2の元素M2)が粒界近傍の誘電体粒子G内に取り込まれ、絶縁抵抗の低下が抑制される。
【0045】
さらに、積層セラミックコンデンサ100では、Dy(第1の元素M1)が誘電体粒子Gの粒界近傍に分布している。そのため、粒界近傍でDy3+とBa2+との置換による、十分な量のBa空孔が生成していると推察される。すなわち、酸素空孔にとって安定な位置が、粒界近傍に多く存在している。その結果、誘電体層11内において、Ba空孔に繋ぎ止められることにより、酸素空孔の移動が抑えられると推察される。以上で説明した絶縁抵抗の低下の抑制と、酸素空孔の移動の抑制とにより、積層セラミックコンデンサ100の信頼性を向上させることができる。
【0046】
<積層セラミックコンデンサの製造方法>
次に、この開示に従う積層セラミック電子部品の実施形態を示す積層セラミックコンデンサ100の製造方法について、製造工程順に説明する。積層セラミックコンデンサ100の製造方法は、以下の各工程を備える。また、構成要素に付けられた符号は、
図1に示された構成要素に付けられた符号に対応している。
【0047】
この積層セラミックコンデンサ100の製造方法は、プラズマ処理されたBaTiO3粉末にさらにSi、Mg、Mnを適量加えて調合を行ない、Dy化合物、第2の元素M2に相当するNi粉末およびその他の任意の添加元素の化合物が付与された粉末(誘電体原料粉末)を用いて、複数のセラミックグリーンシートを得る工程を備える。ここで、Dyは、希土類元素REである第1の元素M1に相当する。希土類元素REとしては、例えばNd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYbなどとすることができる。
【0048】
なお、「グリーン」という文言は、「焼結前」を表す表現であり、以後もその意味で用いられる。セラミックグリーンシート中には、誘電体原料粉末以外に、バインダー成分が含まれている。バインダー成分については、特に限定されない。
【0049】
BaTiO3粉末は、例えばBaCO3粉末とTiO2粉末との混合物を仮焼してBaTiO3粉末として得ることができる。一方、既に蓚酸法または水熱合成法など既知の方法により作成されているBaTiO3粉末が用いられてもよい。
【0050】
この積層セラミックコンデンサ100の製造方法は、内部電極層用ペーストを用いて、セラミックグリーンシートに内部電極層パターンを印刷する工程を備える。内部電極層用ペーストは、Ni粉末と、BaTiO3粉末の表面に種々の添加元素の化合物が付与された粉末(共材)と、バインダー成分とを含む。
【0051】
上記の共材は、例えばBaTiO3粉末の表面に種々の添加元素の有機化合物を付与し、仮焼して有機成分を燃焼させることにより、添加元素が酸化物の状態でBaTiO3粉末の表面に付与された状態となるようにして作製することができる。ただし、これに限らず、有機化合物の状態でも、または酸化物と有機化合物とが混在した状態でもよい。また、BaTiO3粉末に限らず、BaTiO3固溶体粉末であってもよい。
【0052】
その場合、セラミックグリーンシートに用いられるBaTiO3固溶体と内部電極層用ペーストに用いられるBaTiO3固溶体とは、同じ種類のものであっても、異なる種類のものであってもよい。
【0053】
この積層セラミックコンデンサ100の製造方法は、内部電極層パターンが形成されたセラミックグリーンシートを含む複数のセラミックグリーンシートを積層し、グリーン積層体を得る工程を備える。
【0054】
この積層セラミックコンデンサ100の製造方法は、グリーン積層体を焼結させ、積層された複数の誘電体層11と、複数の内部電極層12とを含む積層体10を得る工程を備える。
【0055】
上記で説明したBaTiO3粉末、Dy化合物、第2の元素M2に相当するNi粉末を用い、それぞれの粉末にプラズマ処理を行なうことで、積層セラミックコンデンサ100は、Ni(第2の元素M2)が粒界近傍の誘電体粒子G内に取り込まれ、絶縁抵抗の低下が抑制されると推察される。また、Dy(第1の元素M1)が誘電体粒子Gの粒界GB近傍に分布しているため、粒界GB近傍に十分な量のBa空孔が生成しており、誘電体層11内において、Ba空孔に繋ぎ止められることにより、酸素空孔の移動が抑えられると推察される。以上で説明した絶縁抵抗の低下の抑制と、酸素空孔の移動の抑制とにより、表1に示されるように、積層セラミックコンデンサ100の信頼性を向上させることができる。
【0056】
下記の表1に示された本発明の実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100である実施例1ないし22の試料は、プラズマ処理を施されて誘電体粒子G内に第1の元素M1が取り込まれて第1の濃縮領域R1および第2の濃縮領域R2が形成されるようにし、同様に誘電体粒子G内にプラズマ処理により第2の元素M2が取り込まれて第3の濃縮領域R3が形成されるようにしたものである。なお、第1の濃縮領域R1および第2の濃縮領域R2は、プラズマ処理で添加された第1の元素M1の1.5倍以上のTi100モルに対する濃度を有する領域である。また、第3の濃縮領域R3は、プラズマ処理で添加された第2の元素M2の1.5倍以上のTi100モルに対する濃度を有する領域である。そして、誘電体粒子界面に偏析している第1の濃縮領域R1および第3の濃縮領域R3の界面上の線分長とは、それぞれ10個の平均値として示されている。
【0057】
表1の高温負荷信頼性を判定する指標である平均故障時間は、それぞれ10個の試料に120℃の高温雰囲気の中で6.3Vの電圧を印加したときの、ショートもしくは絶縁抵抗劣化などによる故障が発生する時間の平均値である。また、誘電率εも10個の試料の測定値の平均値である。ここで、故障時間が10時間以上で、かつ誘電率εが2000以上である場合の判定は、〇で表されている。特に、故障時間が30時間を超える場合の判定は、◎で表されている。一方、故障時間が10時間以下で、かつ誘電率εが2000を下回った場合の判定は、×で表されている。後述するように、比較例は判定が×となった試料である。
【0058】
表1に示されるように、実施例1~3では誘電体層の厚みが1.0μmで第1の濃縮領域R1のみ存在し、実施例4、実施例5、実施例9では誘電体層の厚みが1.0μmで、第1の濃縮領域R1および第3の濃縮領域R3が存在し、実施例6~8では誘電体層の厚みが1.0μmで、第1の濃縮領域R1および第3の濃縮領域R3が存在し、第3の濃縮領域R3内に複数の元素からなる合金が存在している。また、実施例10~12では誘電体層の厚みが0.5μmで第1の濃縮領域R1のみ存在し、実施例13、実施例14、実施例18では誘電体層の厚みが0.5μmで、第1の濃縮領域R1と第3の濃縮領域R3が存在し、実施例15~17では誘電体層の厚みが0.5μmで、第1の濃縮領域R1と第3の濃縮領域R3が存在し、第3の濃縮領域R3内に複数の元素からなる合金が存在している。
【0059】
それぞれの実施例では、濃縮領域が存在するため、平均故障時間が長くなる。また、境界上の線分も長過ぎないため、誘電率εの低下も抑制できている。比較例1、比較例4では、濃縮領域がないため高温信頼性において平均故障時間が10時間を下回り、評価を「×」としている。また、比較例2、比較例3、比較例5、比較例6においては、故障時間が10時間を上回るものの、誘電率εが低下しており、評価を「×」としている。
【0060】
【0061】
この明細書に開示された実施形態は、例示的なものであって、この開示に係る発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。すなわち、この開示に係る発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、上記の範囲内において、種々の応用、変形を加えることができる。
【0062】
例えば、積層体を構成する誘電体層および内部電極層の層数、誘電体層および内部電極層の材質などに関し、この発明の範囲内において種々の応用、変形を加えることができる。また、積層セラミック電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、この開示に係る発明はそれに限らず、多層基板の内部に形成されたコンデンサ要素などにも適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
100 積層セラミックコンデンサ
10 積層体
11 誘電体層
12 内部電極層
M1 第1の元素
M2 第2の元素
G 誘電体粒子
GB 粒界
R1 第1の濃縮領域
R2 第2の濃縮領域
R3 第3の濃縮領域
P1 第1の部分
P2 第2の部分