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特許7167979水性インクジェットインク、印刷物及びインクジェット記録方法
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  • 特許-水性インクジェットインク、印刷物及びインクジェット記録方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】水性インクジェットインク、印刷物及びインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20221101BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20221101BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
C09D11/322
B41J2/01 501
B41M5/00 120
B41M5/00 112
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020507239
(86)(22)【出願日】2018-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2018011630
(87)【国際公開番号】W WO2019180907
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2020-12-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸枝 孝由
(72)【発明者】
【氏名】森山 晴加
(72)【発明者】
【氏名】田郡 大隆
【審査官】岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-101125(JP,A)
【文献】国際公開第2017/159685(WO,A1)
【文献】特表2015-515510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D11
B41J2
B41M5
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水、顔料、顔料分散剤、有機溶媒、樹脂及び界面活性剤を含有する水性インクジェットインクであって、
前記顔料分散剤として、塩基で中和されたカルボキシ基を有するアクリル系分散剤を含有し、
前記有機溶媒として、モノアルコール、ジオール又はトリオールを含有し、
前記樹脂が、ポリエステル骨格、ポリオレフィン骨格又はポリウレタン骨格の少なくともいずれかを含む水不溶性樹脂であり、かつ、
前記界面活性剤として、下記一般式(1)で表される構造を有するシリコーン系界面活性剤を含有することを特徴とする水性インクジェットインク。
【化1】

[式中Xは、炭素数2~6のアルキレン基であり、分岐構造を有していてもよい。EOは、ポリエチレンオキシドの繰り返し単位構造を表す。POは、ポリプロピレンオキシドの繰り返し単位構造を表す。なお、[EO]と[PO]の順序はどちらでもよい。n及びmは、繰り返し単位構造の数を表し、Rが水素原子で、かつ、nが0のとき、mは33であり、Rがメチル基で、かつ、nが0のとき、mは9であり、Rが水素原子又はブチル基で、かつ、nが3~16の整数のとき、mは12~25の整数である。
【請求項2】
前記シリコーン系界面活性剤の含有量が、インク全体に対して0.1~3質量%の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の水性インクジェットインク。
【請求項3】
前記シリコーン系界面活性剤が、前記一般式(1)におけるRが、メチル基を表すシリコーン系界面活性剤であることを特徴とする請求項1又は請求項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項4】
前記樹脂が、ポリエステル樹脂又はポリウレタン樹脂であることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項5】
前記有機溶媒として、1,2-エタンジオール、3-オキサペンタン-1,5-ジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、又は1,6-ヘキサンジオールの少なくともいずれかを含有することを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項6】
前記有機溶媒の含有量が、インク全体に対して、10~50質量%の範囲内であること
を特徴とする請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項7】
非吸収性のフィルム基材上の画像記録に用いられることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項8】
非吸収性のフィルム基材上に、請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の水性インクジェットインクを用いて形成された印刷層を有することを特徴とする印刷物。
【請求項9】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の水性インクジェットインクを用いて、非吸収性のフィルム基材に画像の記録を行うことを特徴とするインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インクジェットインク、印刷物及びインクジェット記録方法に関し、特に、基材に対する濡れ性、インクの保存安定性及び耐水性に優れた水性インクジェットインク等に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット法は、簡便かつ安価に画像を作製できるため、写真、各種印刷、マーキング、カラーフィルター等の特殊印刷を含む様々な印刷分野に応用されてきている。特に、インクジェット法は、版を用いずデジタル印刷が可能であるため、多様な画像を少量ずつ形成するような用途に特に好適である。
【0003】
インクジェット法で用いられるインクジェットインクには、水と少量の有機溶媒からなる水性インク、有機溶媒を含むが実質的に水を含まない非水性インク、室温では固体のインクを加熱溶融して印字するホットメルトインク、印字後に活性光線を照射されることにより硬化する活性光線硬化性インク等、複数の種類があり、これらのインクは用途に応じて使い分けられている。この中で、水性インクは一般に臭気が少なく安全性が高い点から家庭用プリンタなどに広く用いられる。
【0004】
このような水性インクジェットインクを塩化ビニルのような難吸収性基材に印字するために、シリコーン系界面活性剤や有機溶媒を使用してインクの濡れ性を向上させ、印字適性を持たせることが知られている(例えば、特許文献1及び2参照。)特に、シリコーン系活性剤は、インクの表面張力を下げるために好適に用いられているが、ポリプロピレンに代表される非吸収性基材に対しては濡れ性が十分ではなかった。
また、シリコーン系界面活性剤の安定性に起因して、一つの活性剤を多量に添加できないために、特定のシリコーン系界面活性剤を併用して、基材への濡れ性とインクの保存安定性を両立することが開示されている(特許文献3参照。)
しかしながら、意図している濡れ性及び安定性を満足できない。さらに、塗膜自身の耐水性を向上させることも要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5928028号公報
【文献】特許第5817027号公報
【文献】特許第5928027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、基材に対する濡れ性、インクの保存安定性及び耐水性に優れた水性インクジェットインク、印刷物及びインクジェット記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、特定のシリコーン系界面活性剤と特定の有機溶媒を含有させることにより、基材に対する濡れ性、インクの保存安定性及び耐水性が向上することを見いだし本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0008】
1.少なくとも水、顔料、顔料分散剤、有機溶媒、樹脂及び界面活性剤を含有する水性インクジェットインクであって、
前記顔料分散剤として、塩基で中和されたカルボキシ基を有するアクリル系分散剤を含有し、
前記有機溶媒として、モノアルコール、ジオール又はトリオールを含有し、
前記樹脂が、ポリエステル骨格、ポリオレフィン骨格又はポリウレタン骨格の少なくともいずれかを含む水不溶性樹脂であり、かつ、
前記界面活性剤として、下記一般式(1)で表される構造を有するシリコーン系界面活性剤を含有することを特徴とする水性インクジェットインク。
【化1】

[式中Xは、炭素数2~6のアルキレン基であり、分岐構造を有していてもよい。EOは、ポリエチレンオキシドの繰り返し単位構造を表す。POは、ポリプロピレンオキシドの繰り返し単位構造を表す。なお、[EO]と[PO]の順序はどちらでもよい。n
及びmは、繰り返し単位構造の数を表し、Rが水素原子で、かつ、nが0のとき、mは33であり、Rがメチル基で、かつ、nが0のとき、mは9であり、Rが水素原子又はブチル基で、かつ、nが3~16の整数のとき、mは12~25の整数である。
【0009】
2.前記シリコーン系界面活性剤の含有量が、インク全体に対して0.1~3質量%の範囲内であることを特徴とする第1項に記載の水性インクジェットインク。
【0010】
3.前記シリコーン系界面活性剤が、前記一般式(1)におけるRが、メチル基を表すシリコーン系界面活性剤であることを特徴とする第1項又は項に記載の水性インクジェットインク。
.前記樹脂が、ポリエステル樹脂又はポリウレタン樹脂であることを特徴とする第1項から第項までのいずれか一項に記載の水性インクジェットインク。
【0011】
.前記有機溶媒として、1,2-エタンジオール、3-オキサペンタン-1,5-ジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、又は1,6-ヘキサンジオールの少なくともいずれかを含有することを特徴とする第1項から第項までのいずれか一項に記載の水性インクジェットインク。
【0012】
.前記有機溶媒の含有量が、インク全体に対して、10~50質量%の範囲内であることを特徴とする第1項から第項までのいずれか一項に記載の水性インクジェットインク。
.非吸収性のフィルム基材上の画像記録に用いられることを特徴とする第1項から第項までのいずれか一項に記載の水性インクジェットインク。
【0013】
.非吸収性のフィルム基材上に、第1項から第項までのいずれか一項に記載の水性インクジェットインクを用いて形成された印刷層を有することを特徴とする印刷物。
【0014】
.第1項から第項までのいずれか一項に記載の水性インクジェットインクを用いて、非吸収性のフィルム基材に画像の記録を行うことを特徴とするインクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の上記手段により、基材に対する濡れ性、インクの保存安定性及び耐水性に優れた水性インクジェットインク、印刷物及びインクジェット記録方法を提供することができる。
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
(シリコーン系界面活性剤の作用効果)
シリコーン系界面活性剤は、ポリシロキサン骨格を有する界面活性剤であり、その特性はポリシロキサンの構造に由来する。一般的に、シロキサンユニット(-Si-O-)で形成される主鎖の長さにより、表面張力の低下能を制御することが知られている。すなわち、シロキサン主鎖が短くなるほど、インク中の相溶性が向上し、表面張力を低下させることが可能となる。本発明における前記一般式(1)で表される構造を有するポリシロキサン構造を備えたシリコーン系界面活性剤は、これらを両立するための最短鎖のユニットを有しており、非吸収性基材への効果的なインク濡れ性付与が可能となる。
また、用途に合わせてシリコーン系界面活性剤の相溶性を制御する際に、シロキサンユニット(-Si-O-)に対し、側鎖又は末端に相当する部位を有機変性させることが可能である。水性インクに使用する場合には、シリコーン系界面活性剤自体を高極性にする必要があり、一般的には、ポリエチレンオキサイド又はポリプロピレンオキサイドを用いたポリエーテル変性が用いられる。シリコーン部分は疎水性なのでポリエーテル部分が水や含有させる有機溶媒に配向することになり、相溶性が向上するため、保存安定性と濡れ性の付与が両立できる。
【0016】
(有機溶媒の作用効果)
また、上記保存安定性及び濡れ性の付与に加えて、特定有機溶媒であるジオール系溶媒(グリコール系溶媒を含む。)、モノアルコール系溶媒等のアルコール類を共存させることによって、より保存安定性が向上することが分かった。これは、ヒドロキシ基を持ち、適度な分子量の構造が顔料分散体と樹脂微粒子の間の凝集を抑えることで安定化したことが考えられる。
【0017】
(水不溶性樹脂の作用効果)
さらに、本来、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂及びポリウレタン樹脂等の水不溶性樹脂は、ポリプロピレン(PP)やポリエチレンテレフタレート(PET)などの非吸収性基材に対して優れた密着性を有することが知られている。しかしながら、水性インクのような親水性媒体に含有された水不溶性樹脂では、特にポリプロピレン基材に対して塗膜上に均一に濡れ広がることが難しく、塗布ムラが発生するため密着性が低下する。そこで、本発明における前記一般式(1)で表される構造を有するシリコーン系界面活性剤と組み合わせることにより、上記水不溶性樹脂が好適に濡れ広がることが可能となり、非吸収性基材に対する密着性を確保することが可能となる。
【0018】
(耐水性について)
さらに驚くべきことに、本発明における前記一般式(1)で表される構造を有する特定のシリコーン系界面活性剤と、前記特定の水不溶性樹脂とを併用することで塗膜化した際のインク膜の耐水性が向上することが分かった。これは、前記シリコーン系界面活性剤で基材への濡れ性を担保し、さらにインク乾燥過程においてヒドロキシ基を持つ前記有機溶媒が、顔料分散体粒子と樹脂微粒子の間に入ることで、これら粒子間に水素結合が生じ、この水素結合によって粒子が規則的に配向したまま乾燥することで、最終的な塗膜は各粒子が隙間なく均一に整列した状態となり、耐水性が向上したものと推定している。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に好ましいインクジェット記録装置の一例を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の水性インクジェットインクは、少なくとも水、顔料、有機溶媒、樹脂及び界面活性剤を含有する水性インクジェットインクであって、前記有機溶媒として、アルコール(類)を含有し、前記樹脂が、ポリエステル骨格、ポリオレフィン骨格又はポリウレタン骨格の少なくともいずれかを含む水不溶性樹脂であり、かつ、前記界面活性剤として、下記一般式(1)で表される構造を有するシリコーン系界面活性剤を含有することを特徴とする。
この特徴は、下記各実施形態に共通又は対応する技術的特徴である。
【0021】
本発明の実施態様としては、前記シリコーン系界面活性剤の含有量が、インク全体に対して0.1~3質量%の範囲内であることが、保存安定性に優れ、かつ、効果的なインク濡れ性付与が可能となる点で好ましい。
【0022】
また、前記有機溶媒として、ヒドロキシ基を1~3個有するアルコール(類)を含有することが、保存安定性が向上する点で好ましい。すなわち、前記有機溶媒の持つヒドロキシ基と、適度な分子量の構造が、顔料分散体と樹脂微粒子の間の凝集を抑え、保存安定性が向上する。
【0023】
特に、前記有機溶媒としては、1,2-エタンジオール(エチレングリコール)、3-オキサペンタン-1,5-ジオール(ジエチレングリコール)、1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、又は1,6-ヘキサンジオールの少なくともいずれかを含有することが、保存安定性により優れる点で好ましい。
【0024】
前記有機溶媒の含有量が、インク全体に対して、10~50質量%の範囲内であることが、保存安定性により優れる点で好ましい。
【0025】
本発明の印刷物は、非吸収性のフィルム基材上に、前記水性インクジェットインクを用いて形成された印刷層を有することを特徴とする。当該印刷物によれば、基材との密着性に優れ、かつ、保存安定性及び耐水性に優れた高画質な印刷物を得ることができる。
【0026】
本発明のインクジェット記録方法は、前記水性インクジェットインクを用いて、非吸収性のフィルム基材に画像の記録を行うことを特徴とする。当該インクジェット記録方法によれば、基材との密着性に優れ、かつ、保存安定性及び耐水性に優れた高画質な印刷物を得ることができる。
【0027】
以下、本発明とその構成要素及び本発明を実施するための形態・態様について説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0028】
〔1〕水性インクジェットインク
本発明の水性インクジェットインク(以下、「インクジェットインク」又は「インク」ともいう。)は、少なくとも水、顔料、有機溶媒、樹脂及び界面活性剤を含有する水性インクジェットインクであって、前記有機溶媒として、アルコール(類)を含有し、
前記樹脂が、ポリエステル骨格、ポリオレフィン骨格又はポリウレタン骨格の少なくともいずれかを含む水不溶性樹脂であり、かつ、前記界面活性剤として、下記一般式(1)で表される構造を有するシリコーン系界面活性剤を含有することを特徴とする。
【化2】
[式中、Rは、水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基を表す。Xは、炭素数2~6のアルキレン基であり、分岐構造を有していてもよい。EOは、ポリエチレンオキシドの繰り返し単位構造を表す。POは、ポリプロピレンオキシドの繰り返し単位構造を表す。なお、[EO]と[PO]の順序はどちらでもよい。n及びmは、繰り返し単位構造の数を表し、mは2~50の整数、nは0~20の整数である。]
本願において、「EO」は、ポリエチレンオキシドの繰り返し単位構造、すなわち、三員環の環状エーテルであるエチレンオキシドが開環した構造を表す。また、「PO」は、ポリプロピレンオキシドの繰返し単位構造、すなわち、三員環の環状エーテルであるプロピレンオキシドが開環した構造を表す。
ここで、「[EO]と[PO]の順序はどちらでもよい」とは、一般式(1)で表される化合物分子において、母体となるシロキサン骨格に対する結合位置の順序は適宜変えて良いことをいう。
【0029】
〔1.1〕シリコーン系界面活性剤
前記一般式(1)において、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがより好ましい。
また、前記一般式(1)において、Xは、炭素数3のアルキレン基(すなわち、プロピレン基)であることが好ましい。
また、前記一般式(1)において、mが5から20の整数であり、nが0から6の整数であることが好ましい。
【0030】
前記一般式(1)で表される構造を有するシリコーン系界面活性剤の具体例として、S-1~S-8を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
(S-1):前記一般式(1)において、R=メチル基、X=炭素数3のアルキレン基、m=9、n=0
(S-2):前記一般式(1)において、R=ブチル基、X=炭素数3のアルキレン基、m=25、n=6
(S-3):前記一般式(1)において、R=水素原子、X=炭素数3のアルキレン基、m=3、n=0
(S-4):前記一般式(1)において、R=水素原子、X=炭素数3のアルキレン基、m=33、n=0
(S-5):前記一般式(1)において、R=水素原子、X=炭素数3のアルキレン基、m=22、n=16
(S-6):前記一般式(1)において、R=水素原子、X=炭素数3のアルキレン基、m=9、n=0
(S-7):前記一般式(1)において、R=水素原子、X=炭素数3のアルキレン基、m=12、n=3
(S-8):前記一般式(1)において、R=水素原子、X=炭素数3のアルキレン基、m=1、n=0
【0031】
前記一般式(1)で表される構造を有するシリコーン系界面活性剤は、インク全体に対して0.1~3質量%の範囲内であることが、保存安定性に優れ、かつ、効果的なインク濡れ性付与が可能となる点で好ましい。
【0032】
本発明に係るシリコーン系界面活性剤は、例えば、下記合成例に従って合成することができる。
【0033】
〔1.2〕有機溶媒
本発明に係る有機溶媒として、アルコール類を含有する。好ましくは、ヒドロキシ基を1~3個有するアルコール(類)を含有する。
【0034】
前記ヒドロキシ基を1個有するモノアルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール等を好ましく例示できる。
前記ヒドロキシ基を2個有するジオール類としては、1,2-エタンジオール(エチレングリコール)、3-オキサペンタン-1,5-ジオール(ジエチレングリコール)、1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられる。
前記ヒドロキシ基を3個有するトリオール類としては、1,2,3-プロパントリオール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等が挙げられる。
【0035】
特に、前記有機溶媒として、1,2-エタンジオール(エチレングリコール)、3-オキサペンタン-1,5-ジオール(ジエチレングリコール)、1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、又は1,6-ヘキサンジオールの少なくともいずれかを含有することが、保存安定性により優れる点で好ましい。
【0036】
本発明に係る有機溶媒として、前記ヒドロキシ基を1~3個有するアルコール類以外の、他の有機溶媒をさらに用いてもよい。
前記他の有機溶媒としては、水溶性の有機溶媒が好適であり、例えば、アミン類、アミド類、グリコールエーテル類などが好ましく例示できる。
【0037】
アミン類としては、例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルフォリン、N-エチルモルフォリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン等を好ましく例示できる。
【0038】
アミド類としては、例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等を好ましく例示できる。
【0039】
グリコールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノメチルエーテル等を好ましく例示できる。
【0040】
また、インクジェットインクが2種以上の有機溶媒を含有するとき、有機溶媒全体の質量に対する前記グリコール類及びジオール類の質量比率は50%以上であることが好ましい。
【0041】
また、本発明に係る有機溶媒の、インクジェットインクに対する含有量は、10~50質量%の範囲内であることが、保存安定性により優れる点で好ましい。
【0042】
〔1.3〕樹脂
本発明に係る樹脂は、ポリエステル骨格、ポリオレフィン骨格又はポリウレタン骨格の少なくともいずれかを含む水不溶性樹脂である。
本発明において、水不溶性樹脂とは、弱酸性又は弱塩基性の範囲の水に対して不溶な樹脂であり、好ましくは、pH4~10(25℃)の水溶液に対する溶解度が0.5%以下の樹脂をいう。
【0043】
本発明に係る水不溶性樹脂として、好ましくは、ポリウレタン骨格を含む水不溶性樹脂である。
水不溶性樹脂の数分子量としては、3000~500000の範囲内のものを用いることができ、好ましくは、7000~200000の範囲内のものを用いることができる。
【0044】
〔1.3.1〕ポリエステル樹脂
水不溶性樹脂に含有されるポリエステル骨格を有するポリエステル樹脂は、多価アルコール成分と多価カルボン酸、多価カルボン酸無水物、多価カルボン酸エステル等の多価カルボン酸成分とを用いて得ることができる。
前記多価アルコール成分としては、2価のアルコール(ジオール)、具体的には炭素数2~36の範囲内のアルキレングリコール(エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール等)、炭素数4~36の範囲内のアルキレンエーテルグリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等)、炭素数6~36の範囲内の脂環式ジオール(1,4-シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA等)、前記脂環式ジオールの炭素数2~4の範囲内のアルキレンオキシド(エチレンオキシド(以下、EOと略記する。)、プロピレンオキシド(以下、POと略記する。)、ブチレンオキシド(以下、BOと略記する。))付加物(付加モル数1~30の範囲)又はビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等)の炭素数2~4の範囲内のアルキレンオキシド(EO、PO、BO等)付加物(付加モル数2~30の範囲)等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
前記多価カルボン酸成分としては、2価のカルボン酸(ジカルボン酸)、具体的には炭素数4~36の範囲内のアルカンジカルボン酸(コハク酸、アピジン酸、セバシン酸等)、アルケニルコハク酸(ドデセニルコハク酸等)、炭素数4~36の範囲内の脂環式ジカルボン酸(ダイマー酸(2量化リノール酸)等)、炭素数4~36の範囲内のアルケンジカルボン酸(マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸等)、又は炭素数8~36の範囲内の芳香族ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸又はこれらの誘導体、ナフタレンジカルボン酸等)等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
前記ポリエステル樹脂の数平均分子量としては、1000~50000の範囲内が好ましく、2000~20000の範囲内がより好ましい。
【0047】
前記ポリエステル樹脂としては、市販品を使用してもよく、前記市販品としては、例えば、商品名:エリーテルKA-5034(ユニチカ社製、数平均分子量:8500)、エリーテルKA-5071S(ユニチカ社製、数平均分子量:8500)、エリーテルKA-1449(ユニチカ社製、数平均分子量:7000)、エリーテルKA-0134(ユニチカ社製、数平均分子量:8500)、エリーテルKA-3556(ユニチカ社製、数平均分子量:8000)、エリーテルKA-6137(ユニチカ社製、数平均分子量:5000)、エリーテルKZA-6034(ユニチカ社製、数平均分子量:6500)、エリーテルKT-8803(ユニチカ社製、数平均分子量:15000)、エリーテルKT-8701(ユニチカ社製、数平均分子量:13000)、エリーテルKT-9204(ユニチカ社製、数平均分子量:17000)、エリーテルKT-8904(ユニチカ社製、数平均分子量:17000)、エリーテルKT-0507(ユニチカ社製、数平均分子量:17000)、エリーテルKT-9511(ユニチカ社製、数平均分子量:17000)、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
〔1.3.2〕ポリオレフィン樹脂
水不溶性樹脂に含有されるポリオレフィン骨格を有するポリオレフィン樹脂としては、不飽和カルボン酸及び/又は酸無水物で変性されたポリオレフィン等の変性ポリオレフィンでもよい。
【0049】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体の他、エチレン及び/又はプロピレンと、他のコモノマー、例えば1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネンなどの炭素数2以上、好ましくは2~6のα-オレフィンコモノマーとのランダム共重合体又はブロック共重合体(例えば、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体など)が挙げられる。また、これらの他のコモノマーを2種類以上共重合したものでもよい。また、これらのポリマーを2種以上混合して用いることもできる。
【0050】
変性ポリオレフィンとしては、不飽和カルボン酸及び/又は酸無水物及び/又は1分子当り1個以上の二重結合を有する化合物で変性されたポリオレフィンが好ましく用いられる。
【0051】
不飽和カルボン酸及び酸無水物としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸などの、α,β-不飽和カルボン酸及びその無水物が挙げられる。これらはそれぞれ単独で使用してもよく、また2種以上併用してもよく、2種以上併用した場合、塗膜物性が良好になることが多い。
【0052】
上記1分子当り1個以上の二重結合を有する化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸系モノマ-として、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-4-ヒドロキブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸、ジ(メタ)アクリル酸(ジ)エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸-1,4-ブタンジオ-ル、ジ(メタ)アクリル酸-1,6-ヘキサンジオ-ル、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロ-ルプロパン、ジ(メタ)アクリル酸グリセリン、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、アクリルアミド等が挙げられる。また、スチレン系モノマ-として、スチレン、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、クロロメチルスチレン等が挙げられる。さらに、この他に併用し得るモノマ-としては、ジビニルベンゼン、酢酸ビニル、バ-サチック酸のビニルエステル等のビニル系モノマ-が挙げられる。ここで、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸とメタクリル酸を示す。
【0053】
ポリオレフィンの変性は、ポリオレフィンを一旦トルエン又はキシレンのような有機溶媒に溶解せしめ、ラジカル発生剤の存在下にα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその酸無水物及び/又は1分子当り1個以上の二重結合を有する化合物で行うか、又は、ポリオレフィンの軟化温度又は融点以上まで昇温できる溶融状態で反応させうるオートクレーブ、又は1軸又は2軸以上の多軸エクストルーダー中で、ラジカル発生剤の存在下又は不存在下にα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその酸無水物及び/又は1分子当り1個以上の二重結合を有する化合物を用いて行う。
【0054】
該変性反応に用いられるラジカル発生剤としては、例えば、ジ-tert-ブチルパーフタレート、tert-ブチルヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシエチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシピバレート、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイドのようなパーオキサイド類や、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソプロピオニトリル等のアゾニトリル類が挙げられる。これらの過酸化物を使用してグラフト共重合せしめる場合、その過酸化物量はポリオレフィンに対して0.1~50質量部の範囲が望ましく、特に好ましくは0.5~30質量部の範囲である。
【0055】
以上のポリオレフィン樹脂は、公知の方法で製造されたものでよく、それぞれの製造方法や変性度合については特に限定されない。
【0056】
本発明に用いられるポリオレフィン樹脂は、重量平均分子量が20000~100000の範囲内であることが好ましい。20000以上であると、塗膜の凝集力が強くなり、密着性や耐溶剤性(耐ガソホール性)のような塗膜物性が向上する。100000以下であると、有機溶媒に対する溶解性が良く、乳化分散体の粒子径の微小化が促進される。重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定される値であり、例えば、株式会社島津製作所製「RID-6A」(カラム:東ソー株式会社製「TSK-GEL」、溶媒:テトラヒドロフラン(THF)、カラム温度:40℃)を用いて、ポリスチレン標準試料で作成した検量線から求めることができる。
【0057】
また、本発明では市販のポリオレフィン樹脂を用いることもでき、ポリオレフィン骨格を有する樹脂からなる樹脂微粒子として、日本製紙社製「アウローレン150A」(ポリオレフィン樹脂微粒子)、日本製紙社製「スーパークロンE-415」(ポリプロピレン樹脂微粒子)、日本製紙社製「アウローレンAE-301」(ポリオレフィン樹脂微粒子)、東洋化成社製「ハードレンNa-1001」等の市販品を用いることができる。
【0058】
〔1.3.3〕ポリウレタン樹脂
水不溶性樹脂に含有されるポリウレタン骨格を有するポリウレタン樹脂としては、親水基を有するものが用いられる。
かかる親水基としては、カルボキシ基(-COOH)及びその塩、スルホン酸基(-SOH)及びその塩などが挙げられる。上記塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、アミン塩などが挙げられる。これらの中でも、親水基としては、カルボキシ基又はその塩が好ましい。
【0059】
本発明に係る水不溶性樹脂に含有されるポリウレタン樹脂は、分子内に水溶性官能基を有する自己乳化型ポリウレタンを分散させた水分散体、又は界面活性剤を併用して強力な機械剪断力の下で乳化した強制乳化型ポリウレタンの水分散体であることが好ましい。上記水分散体におけるポリウレタン樹脂は、ポリオールと有機ポリイソシアネート及び親水基含有化合物との反応により得られるものである。
【0060】
ポリウレタン樹脂水分散体の調製に使用し得るポリオールとして、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィン系ポリオールのいずれも使用することができる。中でも、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールを用いて、ウレタン系樹脂中に、カーボネート基又はエーテル基を有する構造とすることが好ましい。
【0061】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-及び1,3-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-及び1,4-ブタンジオール、3-メチルペンタンジオール、ヘキサメチレングリコール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、トリメチロールプロパン、シクロヘキサンジメタノール等の低分子ポリオールと、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、テトラヒドロフラン酸、エンドメチンテトラヒドロフラン酸、ヘキサヒドロフタル酸などの多価カルボン酸との縮合物を挙げることができる。
【0062】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレンポリテトレメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールのような各種のポリエーテルポリオールを挙げることができる。
【0063】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート又はホスゲン等の炭酸誘導体と、ジオールとの反応により得ることができる。そのようなジオールの適当な例として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-及び1,3-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-及び1,4-ブタンジオール、3-メチルペンタンジオール、ヘキサメチレングリコール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、トリメチロールプロパン、シクロヘキサンジメタノールを挙げることができる。これらのうちで、1,6-ヘキサンジオールを用いたポリカーボネートポリオールが、耐候性及び耐溶剤性の観点から好ましい。
【0064】
次に有機ポリイソシアネート化合物としては、ウレタン工業の分野において公知のものを使用することができ、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメリックMDI、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などの芳香族イソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)などの脂肪族イソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4′-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI、H12MDI)などの脂環族イソシアネートなどを挙げることができ、これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、脂肪族イソシアネート及び/又は脂環族イソシアネートを用いることが好ましい。また、無黄変性を要求される場合には、脂肪族イソシアネートではHMDI、脂環族イソシアネートではIPDI、H12MDI、芳香族イソシアネートではXDI、TMXDIを使用することが好ましい。
【0065】
親水基含有化合物としては、分子内に1個以上の活性水素原子と上記親水基とを有する化合物が挙げられる。例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロール吉草酸、グリシンなどのカルボン酸含有化合物、及び、そのナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩などの誘導体;タウリン(即ち、アミノエチルスルホン酸)、エトキシポリエチレングリコールスルホン酸などのスルホン酸含有化合物、及び、そのナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩などの誘導体などを挙げることができる。
【0066】
本発明に係るポリウレタン樹脂は、ポリオールと有機ポリイソシアネート及び親水基含有化合物とを混合し、公知の方法により、30~130℃で30分~50時間反応させることにより、まずウレタンプレポリマーが得られる。
【0067】
得られたウレタンプレポリマーは、鎖伸長剤により伸長してポリマー化することで、親水基を有するポリウレタン系樹脂が得られる。鎖伸長剤としては、水及び/又はアミン化合物が好ましく用いられる。鎖伸張剤として水やアミン化合物を用いることにより、遊離イソシアネートと短時間で反応して、イソシアネート末端プレポリマーを効率よく伸長させることができる。
【0068】
鎖伸長剤としてのアミン化合物としては、ポリアミン、例えば、エチレンジアミン、トリエチレンジアミンなどの脂肪族ポリアミン、メタキシレンジアミン、トルイレンジアミンなどの芳香族ポリアミン、ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジドのようなポリヒドラジノ化合物などが用いられる。アミン化合物には、上記ポリアミンとともに、ポリマー化を大きく阻害しない程度で、ジブチルアミンなどの1価のアミンやメチルエチルケトオキシム等を反応停止剤として含んでいてもよい。
【0069】
なお、ウレタンプレポリマーの合成においては、イソシアネートと不活性で、かつ、ウレタンプレポリマーを溶解しうる溶剤を用いてもよい。これらの溶剤として、ジオキサン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが挙げられる。反応段階で使用されるこれらの親水性有機溶媒は、最終的に除去されるのが好ましい。
【0070】
また、ウレタンプレポリマーの合成においては、反応を促進させるために、アミン触媒(例えば、トリエチルアミン、N-エチルモルフォリン、トリエチルジアミン等)、スズ系触媒(例えば、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、オクチル酸スズ等)、チタン系触媒(例えば、テトラブチルチタネート等)などの触媒を添加してもよい。
【0071】
ポリウレタン樹脂の分子量は、分岐構造や内部架橋構造を導入して可能な限り大きくすることが好ましく、分子量50000~10000000であることが好ましい。分子量を大きくして溶剤に不溶とした方が、耐候性、耐水性に優れた塗膜が得られるからである。
【0072】
また、本発明では市販のポリウレタン樹脂を用いることもでき、例えば、カチオン性又はノニオン性のポリウレタン樹脂微粒子を好ましく用いることができる。
【0073】
以下に、カチオン性又はノニオン性のポリウレタン樹脂微粒子の具体例を挙げる。カチオン性のポリウレタン樹脂微粒子としては、例えば、第一工業製薬株式会社製の「スーパーフレックス620」及び「スーパーフレックス650」(「スーパーフレックス」は同社の登録商標)、三洋化成工業株式会社製の「パーマリンUC-20」(「パーマリン」は同社の登録商標)、大原パラヂウム化学株式会社製の「パラサーフUP-22」などを挙げることができる。ノニオン性のポリウレタン樹脂微粒子としては、例えば、第一工業製薬株式会社製の「スーパーフレックス500M」及び「スーパーフレックスE-2000」などを挙げることができる。
【0074】
〔1.4〕顔料
本発明に係る顔料としては、アニオン性の分散顔料、例えば、アニオン性の自己分散性顔料や、アニオン性の高分子分散剤により顔料を分散したものを用いることができ、特に、アニオン性の高分子分散剤により顔料を分散したものが好適である。
【0075】
顔料としては、従来公知のものを特に制限なく使用でき、例えば、不溶性顔料、レーキ顔料等の有機顔料及び、酸化チタン等の無機顔料を好ましく用いることができる。
【0076】
不溶性顔料としては、特に限定するものではないが、例えば、アゾ、アゾメチン、メチン、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、キナクリドン、アントラキノン、ペリレン、インジゴ、キノフタロン、イソインドリノン、イソインドリン、アジン、オキサジン、チアジン、ジオキサジン、チアゾール、フタロシアニン、ジケトピロロピロール等が好ましい。
【0077】
好ましく用いることのできる具体的な有機顔料としては、以下の顔料が挙げられる。
【0078】
マゼンタ又はレッド用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド222、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
【0079】
オレンジ又はイエロー用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー15:3、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー155等が挙げられる。特に色調と耐光性のバランスにおいて、C.I.ピグメントイエロー155が好ましい。
【0080】
グリーン又はシアン用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
【0081】
また、ブラック用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、C.I.ピグメントブラック6、C.I.ピグメントブラック7等が挙げられる。
【0082】
〔1.5〕分散剤
顔料を分散させるために用いる分散剤は、格別限定されないがアニオン性基を有する高分子分散剤が好ましく、分子量が5000~200000の範囲内のものを好適に用いることができる。
【0083】
高分子分散剤としては、例えば、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン誘導体、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマル酸、フマル酸誘導体から選ばれた2種以上の単量体に由来する構造を有するブロック共重合体、ランダム共重合体及びこれらの塩、ポリオキシアルキレン、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等を挙げることができる。
【0084】
高分子分散剤は、アクリロイル基を有することが好ましく中和塩基で中和して添加することが好ましい。ここで中和塩基は特に限定されないが、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルフォリン等の有機塩基であることが好ましい。特に、顔料が酸化チタンであるとき、酸化チタンは、アクリロイル基を有する高分子分散剤で分散されていることが好ましい。
【0085】
また、高分子分散剤の添加量は、顔料に対して、10~100質量%の範囲内であることが好ましく、10~40質量%の範囲内がより好ましい。
【0086】
顔料は、顔料を上記高分子分散剤で被覆した、いわゆるカプセル顔料の形態を有することが特に好ましい。顔料を高分子分散剤で被覆する方法としては、公知の種々の方法を用いることができるが、例えば、転相乳化法、酸析法、又は、顔料を重合性界面活性剤により分散し、そこへモノマーを供給し、重合しながら被覆する方法などを好ましく例示できる。
【0087】
特に好ましい方法として、水不溶性樹脂を、メチルエチルケトンなどの有機溶媒に溶解し、さらに塩基にて樹脂中の酸性基を部分的、若しくは完全に中和後、顔料及びイオン交換水を添加し、分散したのち、有機溶媒を除去し、必要に応じて加水して調製する方法を挙げることができる。
【0088】
インクジェットインク中における顔料の分散状態の平均粒子径は、50~200nmの範囲内であることが好ましい。これにより、顔料の分散安定性を向上でき、記録インクの保存安定性を向上できる。顔料の粒子径測定は、動的光散乱法、電気泳動法等を用いた市販の粒径測定機器により求めることができるが、動的光散乱法による測定が簡便で、かつ、該粒子径領域を精度よく測定できる。
【0089】
顔料は、分散剤及びその他所望する諸目的に応じて必要な添加物とともに、分散機により分散して用いることができる。
【0090】
分散機としては、従来公知のボールミル、サンドミル、ラインミル、高圧ホモジナイザー等を使用できる。中でもサンドミルによって顔料を分散させると、粒度分布がシャープとなるため好ましい。また、サンドミル分散に使用するビーズの材質は、格別限定されないが、ビーズ破片の生成やイオン成分のコンタミネーションを防止する観点から、ジルコニア又はジルコンであることが好ましい。さらに、このビーズ径は、0.3~3mmの範囲内であることが好ましい。
【0091】
インクジェットインクにおける顔料の含有量は格別限定されないが、酸化チタンについては、7~18質量%の範囲内が好ましく、有機顔料については0.5~7質量%の範囲内が好ましい。
【0092】
〔1.6〕水
本発明の水性インクジェットインクに含まれる水については、特に限定されるものではなく、イオン交換水、蒸留水、又は純水であり得る。
【0093】
〔1.7〕その他の成分
本発明に用いられるインクジェットインクでは、必要に応じて、出射安定性、プリントヘッドやインクカートリッジ適合性、保存安定性、画像保存性、その他の諸性能向上の目的に応じて、公知の各種添加剤、例えば、多糖類、粘度調整剤、比抵抗調整剤、皮膜形成剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、防ばい剤、防錆剤等を適宜選択して用いることができ、例えば、流動パラフィン、ジオクチルフタレート、トリクレジルホスフェート、シリコーンオイル等の油滴微粒子、特開昭57-74193号公報、同57-87988号公報及び同62-261476号公報に記載の紫外線吸収剤、特開昭57-74192号公報、同57-87989号公報、同60-72785号公報、同61-146591号公報、特開平1-95091号公報及び同3-13376号公報等に記載されている退色防止剤、特開昭59-42993号公報、同59-52689号公報、同62-280069号公報、同61-242871号公報及び特開平4-219266号公報等に記載されている蛍光増白剤等を挙げることができる。
【0094】
〔1.8〕物性
本発明のインクジェットインクの粘度としては、25℃で1~40mPa・sの範囲内であることが好ましく、より好ましくは2~10mPa・sの範囲内である。
【0095】
〔2〕水性インクジェットインクの製造方法
本発明に係る水性インクジェットインクの製造方法は、少なくとも水、顔料、有機溶媒、樹脂及び界面活性剤を混合する工程を備えることが好ましい。
【0096】
〔2.1〕混合する工程
この工程では、少なくとも水、顔料、上述した特定の有機溶媒、前記水不溶性樹脂及び一般式(1)で表される構造を有するシリコーン系界面活性剤と、任意の各成分とを、常温下、又は必要に応じて加熱下において混合する。
その後、得られた混合液を所定のフィルターで濾過することが好ましい。このとき、顔料及び分散剤を含む分散体をあらかじめ調製しておき、これに残りの成分を添加して混合してもよい。
【0097】
〔3〕印刷物
本発明の印刷物は、非吸収性のフィルム基材上に、前記水性インクジェットインクを用いて形成された印刷層を有することを特徴とする。
【0098】
本発明の印刷物は、基材上に、水性インクジェットインクをインクジェットヘッドから吐出して塗布、定着して印刷層を形成したものである。また、基材上に、あらかじめ、インクジェット記録用前処理液をインクジェットヘッドから吐出して前処理層を形成し、当該前処理層を塗布、定着した位置に前記印刷層を形成したものであることが好ましい。
【0099】
また、基材と前処理層との層間に他の機能性層を形成してもよく、また、印刷層の上層に、例えばラミネート接着層を介して非吸収性のフィルム基材等を貼合してもよい。
【0100】
本発明でいう「インクジェット記録用前処理液」とは、基材にインクジェットプリント法によって画像を記録する際に、インクの画像形成を速めたり、画質を向上させる機能を有する、あらかじめ基材上に付与するインクの1種である。具体的には、インクジェット記録用前処理液は、画像を形成する色インクが記録媒体に滲まないよう、前処理液を記録媒体に塗布した位置にインクを定着させるためのインクである。このようなインクジェット記録用前処理液は、少なくとも樹脂微粒子、凝集剤及び水を含有することが好ましい。
【0101】
〔3.1〕基材
前記基材としては、特に限定されず、吸水性の高い紙基材でもよいし、グラビア又はオフセット印刷用のコート紙など吸水性の低い基材でもよいし、フィルム、プラスチックボード(軟質塩化ビニル、硬質塩化ビニル、アクリル板、ポリオレフィン系など)、ガラス、タイル及びゴムなどの非吸水性の基材であってもよい。
【0102】
これらのうち、吸水性の低い基材及び非吸水性の基材としては、特に好ましくはフィルムである(本発明では、非吸収性のフィルム基材という。)。このような基材において、本発明のインクジェット記録用前処理液を塗布することによって、水性インクを十分にピニングさせて、滲みの少ない高画質な画像を形成することができる。
【0103】
上記フィルムの例には、公知のプラスチックフィルムが含まれる。上記プラスチックフィルムの具体例には、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルフィルム(PET)、高密度ポリエチレンフィルム及び低密度ポリエチレンフィルムなどを含むポリエチレンフィルム(PE)、ポリプロピレンフィルム(PP)、ナイロン(NY)などのポリアミド系フィルム、ポリスチレンフィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)フィルム、ポリ塩化ビニル(PVC)フィルム、ポリビニルアルコール(PVA)フィルム、ポリアクリル酸(PAA)フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、及びポリ乳酸フィルムなどの生分解性フィルムなどが含まれる。ガスバリアー性、防湿性、及び保香性などを付与するために、フィルムの片面又は両面にポリ塩化ビニリデンがコートされていてもよいし、金属酸化物が蒸着されていてもよい。また、フィルムには防曇加工が施されていてもよい。また、フィルムにはコロナ放電及びオゾン処理などが施されていてもよい。
【0104】
上記フィルムは、未延伸フィルムでも延伸フィルムでもよい。
【0105】
また、上記フィルムは、紙などの吸収性の基材の表面にPVAコートなどの層を設けて、記録をすべき領域を非吸収性とした、多層性の基材でもよい。
【0106】
また、一般に記録インクの密着性を得るのが困難である防曇加工が施された非吸水性のフィルムに対して記録を行う際に、本発明の効果が顕著になる。
【0107】
防曇加工が施されたフィルムとしては、一般的に、界面活性剤を含有させたフィルムが用いられているが、この界面活性剤が記録インクの密着性に悪影響を及ぼすことが知られている。このようなフィルムに本発明の前処理液をプレコートすると、前処理液に界面活性剤が溶解、拡散して、記録インク層との界面に界面活性剤が高濃度に配向することを抑制する結果、密着性を阻害しないものと推定している。
【0108】
また、透明性の高い記録媒体に対して記録を行う際に、透明性が損なわれにくいという本発明の効果は顕著である。
【0109】
上記フィルムの厚さは、250μm未満であることが好ましい。
【0110】
〔4〕インクジェット記録方法
本発明のインクジェット記録方法は、前記水性インクジェットインクを用いて、非吸収性のフィルム基材に画像の記録を行うことを特徴とする。
【0111】
本発明のインクジェット記録方法は、あらかじめ非吸収性のフィルム基材の表面をインクジェット記録用前処理液によりプレコートした後、インクジェットインクにより画像の記録を行うことが好ましい。
【0112】
前処理液をプレコートする方法は特に限定されないが、良好な記録インクの密着性を得るために、前処理液に含む本発明に係る複合樹脂微粒子の付与量を、記録媒体に対して0.3g/m以上、より好ましくは0.8g/m以上とすることが好ましい。フィルム基材上への前処理液の塗布方法は格別限定されないが、例えば、ローラー塗布法、カーテン塗布法、スプレー塗布法、インクジェット法等を好ましく挙げることができる。
【0113】
本発明において使用できるインクジェットヘッドはオンデマンド方式でもコンティニュアス方式でもかまわない。また、吐出方式としては電気-機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気-熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)等などいずれの吐出方式を用いてもかまわない。
【0114】
特に、電気-機械変換方式に用いられる電気-機械変換素子として圧電素子を用いたインクジェットヘッド(ピエゾ型インクジェットヘッドともいう)が好適である。
【0115】
一般的なフィルムの多くがロール形態で流通していることに鑑みて、シングルパス方式のインクジェット記録方法を用いることが好ましい。本発明の効果は、特にシングルパス方式のインクジェット記録方法において特に顕著になる。即ち、シングルパス方式のインクジェット記録方法を用いた場合、高精細な画像を形成できる。
【0116】
シングルパス方式のインクジェット記録方法とは、記録媒体が一つのインクジェットヘッドユニットの下を通過した際に、一度の通過でドットの形成されるべき全ての画素にインク滴を付与するものである。
【0117】
シングルパス方式のインクジェット記録方法を達成する手段として、ラインヘッド型のインクジェットヘッドを使用することが好ましい。
【0118】
ラインヘッド型のインクジェットヘッドとは、印字範囲の幅以上の長さを持つインクジェットヘッドのことを指す。ラインヘッド型のインクジェットヘッドとしては、一つのヘッドで印字範囲の幅以上であるものを用いてもよいし、複数のヘッドを組み合わせて印字範囲の幅以上となるように構成してもよい。
【0119】
また、複数のヘッドを、互いのノズルが千鳥配列となるように並設して、これらヘッド全体としての解像度を高くすることも好ましい。
【0120】
記録媒体の搬送速度は、例えば1~120m/minの範囲内で設定することができる。搬送速度が速いほど画像形成速度が速まる。本発明によれば、シングルパスのインクジェット画像形成方法で適用可能な、線速50~120m/minの範囲内という非常に速い線速でもインク滲みの発生をより抑制し、かつ、インク密着性の高い画像を得ることができる。
【0121】
前処理液又はインクジェットインクの付与後には、基材を乾燥させてもよい。乾燥は、赤外線ランプ乾燥、熱風乾燥、バックヒート乾燥、及び減圧乾燥などの公知の方法で行うことができる。乾燥の効率をより高める観点からは、これらの乾燥方法のうち2種以上を組み合わせて基材を乾燥させることが好ましい。
【0122】
以下、本発明のインクジェット記録方法及び記録装置について好ましい一例を下記に示す。
【0123】
図1は、本発明に好ましいインクジェット記録装置(10)の模式図である。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、第1乾燥部は省略することも可能である。
【0124】
送り出しローラーから繰り出される非吸収性である基材(F)は、ロールコーター(2)によって、ノズル(3)から吐出された前処理液滴(4)が塗布されて、前処理層(P)が形成される。この時に、第1乾燥部によって前処理層(P)は乾燥される。
次いで、当該前処理層(P)上に、インクジェットヘッド(6)から吐出されるインク液滴(7)が印刷されて、インク印刷層(R)が形成されて、第2乾燥部(8)によって乾燥後巻取りローラー(9)によって、巻き取られる。
【実施例
【0125】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
【0126】
[インク材料]
<樹脂>
下記表Iに記載の樹脂を用いた。
【0127】
【表1】
【0128】
<有機溶媒>
下記表IIに記載の有機溶媒を用いた。
【0129】
【表2】
【0130】
<シリコーン系界面活性剤>
シリコーン系界面活性剤として、下記合成例で合成した界面活性剤S-1~S-8、及び、市販品の界面活性剤S-9~S-11を用いた。
【0131】
(界面活性剤S-1の合成例)
撹拌機、還流冷却管、滴下ロート、温度計及び窒素吹き込み管を備えた5つ口フラスコに、アリル化ポリエーテル(ユニオックスPKA-5008 日油株式会社製)を450質量部と、HPt16・6HOヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(東京化成工業(株)製)を0.01質量部とを仕込み、窒素置換を行った。70℃に加熱し、ヘプタメチルトリシロキサン(アルドリッチ社製)220質量部を1時間かけて滴下したのち、反応容器を110℃まで昇温させて4時間反応させた。反応後に未反応材料を減圧留去することで、目的のシリコーン活性剤である、シリコーン系界面活性剤S-1を得た。得られたシリコーン活性剤S-1は、一般式(1)中のR=メチル基、X=炭素数3のアルキレン基、m=9、n=0に相当するシリコーン系界面活性剤である。
【0132】
(界面活性剤S-2の合成例)
前記界面活性剤S-1の合成例において、アリル化ポリエーテル(ユニオックスPKA-5008 日油株式会社製)450質量部の代わりに、アリル化ポリエーテル(ユニセーフPKA-5015 日油株式会社製)1600質量部を用いた以外は、前記界面活性剤S-1の合成例と同様の方法でシリコーン系界面活性剤S-2を得た。得られたシリコーン系界面活性剤S-2は、一般式(1)中のR=ブチル基、X=炭素数3のアルキレン基、m=25、n=6に相当するシリコーン系界面活性剤である。
【0133】
(界面活性剤S-3の合成例)
前記界面活性剤S-1の合成例において、アリル化ポリエーテル(ユニオックスPKA-5008 日油株式会社製)450質量部の代わりに、アリル化ポリエーテル(ユニオックスPKA-5001 日油株式会社製)200質量部を用いた以外は、前記界面活性剤S-1の合成例と同様の方法でシリコーン系界面活性剤3を得た。得られたシリコーン系界面活性剤は、一般式(1)中のR=水素原子、X=炭素数3のアルキレン基、m=3、n=0に相当するシリコーン系界面活性剤である。
【0134】
(界面活性剤S-4の合成例)
前記界面活性剤S-1の合成例において、アリル化ポリエーテル(ユニオックスPKA-5008 日油株式会社製)450質量部の代わりに、アリル化ポリエーテル(ユニオックスPKA-5005 日油株式会社製)1500質量部を用いた以外は、前記界面活性剤S-1の合成例と同様の方法でシリコーン系界面活性剤S-4を得た。得られたシリコーン系界面活性剤は、一般式(1)中のR=水素原子、X=炭素数3のアルキレン基、m=33、n=0に相当するシリコーン系界面活性剤である。
【0135】
(界面活性剤S-5の合成例)
前記界面活性剤S-1の合成例において、アリル化ポリエーテル(ユニオックスPKA-5008 日油株式会社製)450質量部の代わりに、アリル化ポリエーテル(ユニルーブPKA-5013 日油株式会社製)2000質量部を用いた以外は、前記界面活性剤S-1の合成例と同様の方法でシリコーン系界面活性剤5を得た。得られたシリコーン系界面活性剤は、一般式(1)中のR=水素原子、X=炭素数3のアルキレン基、m=22、n=16に相当するシリコーン系界面活性剤である。
【0136】
(界面活性剤S-6の合成例)
前記界面活性剤S-1の合成例において、アリル化ポリエーテル(ユニオックスPKA-5008 日油株式会社製)450質量部の代わりに、アリル化ポリエーテル(ユニオックスPKA-5003 日油株式会社製)450質量部を用いた以外は、前記界面活性剤S-1の合成例と同様の方法でシリコーン系界面活性剤6を得た。得られたシリコーン系界面活性剤は、一般式(1)中のR=水素原子、X=炭素数3のアルキレン基、m=9、n=0に相当するシリコーン系界面活性剤である。
【0137】
(界面活性剤S-7の合成例)
前記界面活性剤S-1の合成例において、アリル化ポリエーテル(ユニオックスPKA-5008 日油株式会社製)450質量部の代わりに、アリル化ポリエーテル(ユニセーフPKA-5011 日油株式会社製)750質量部を用いた以外は、前記界面活性剤S-1の合成例と同様の方法でシリコーン系界面活性剤7を得た。得られたシリコーン系界面活性剤は、一般式(1)中のR=水素原子、X=炭素数3のアルキレン基、m=12、n=3に相当するシリコーン系界面活性剤である。
【0138】
(界面活性剤S-8の合成例)
前記界面活性剤S-1の合成例において、アリル化ポリエーテル(ユニオックスPKA-5008 日油株式会社製)450質量部の代わりに、エチレングリコールモノアリルエーテル(東京化成工業株式会社製)105質量部を用いた以外は、前記界面活性剤S-1の合成例と同様の方法でシリコーン系界面活性剤8を得た。得られたシリコーン系界面活性剤は、一般式(1)中のR=水素原子、X=炭素数3のアルキレン基、m=1、n=0に相当するシリコーン系界面活性剤である。
【0139】
シリコーン系界面活性剤S-9は、下記の市販品を用いた。
シリコーン系界面活性剤S-9:BYK-333(BYK社製
【0140】
<水性インクジェットインク1の調製>
顔料(ピグメントブルー15:3)を18質量%に、顔料分散剤(水酸化ナトリウム中和されたカルボキシ基を有するアクリル系分散剤(BASF社製「ジョンクリル819」、酸価75mgKOH/g、固形分20質量%)を31.5質量%と、エチレングリコール20質量%と、イオン交換水(残量;全量が100質量%となる量)を加えた混合液をプレミックスした後、0.5mmのジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、顔料の含有量が18質量%の顔料分散液を調製した。この顔料分散液に含まれる顔料粒子の平均粒子径は109nmであった。なお、平均粒子径の測定はマルバルーン社製「ゼータサイザ1000HS」により行った。
上記顔料分散液17.0質量部に、樹脂(R-1)5.0質量部、有機溶媒(A-1)5.0質量部、界面活性剤(S-1)0.05質量部及びイオン交換水(残量;72.95質量部)を撹拌しながら添加し、得られた混合液を1μmのフィルターにより濾過して水性インクジェットインク1を得た。濾過前後で実質的な組成変化はなかった。
【0141】
<水性インクジェットインク2~29の調製>
前記水性インクジェットインク1の調製において、樹脂、有機溶媒及び界面活性剤の種類と、各インク成分(樹脂、有機溶媒、顔料分散液、界面活性剤及び水)の質量部を下記表IIIに示すとおりに変更した以外は、同様にして水性インクジェットインク2~29を調製した。
【0142】
[評価]
<インクジェット記録方法>
コニカミノルタ社製ピエゾ型インクジェットヘッド(360dpi、吐出量14pL)の独立駆動ヘッド二つをノズルが互い違いになるように配置し、720dpi×720dpiのヘッドモジュールを作成し、ステージ搬送機上に、搬送方向にノズル列が直交するように設置した。
ヘッドモジュールのインクジェットに、上記により得られた水性インクジェットインクを充填し、ステージ搬送機によって搬送されるフィルム基材の被膜上にシングルパス方式でベタ画像を記録できるようにインクジェット記録装置を構成した。
基材としてOPPフィルム、FOS(フタムラ化学株式会社製)を用いた。上記ヘッドを用いて、インク付量が11.2mL/mである720dpi×720dpiのベタ画像が形成されるように、水性インクジェットインク1の液滴を吐出した。
【0143】
(画質)
上記作成した画像のベタ画像にて、画像全体のベタ品質に関して目視にて評価を行った。
◎:インクの濡れ性が非常に良好で、濃度ムラがなく均一な画像で、インクの抜けが観察されない良好な画像
○:インクの濡れ性が良好で、濃淡が異なる箇所があるが、インクの抜けが観察されない実用上許容可能な画像
△:インクの濡れ性が僅かに足りず、インクの抜け落ちている箇所があり、僅かに白抜けが発生している画像
×:インクの濡れ性が十分でなく、画像中にインクが抜け落ちている箇所が多く存在し、白抜けが目立つ画像
【0144】
(密着性)
上記形成した画像のベタ画像にて、画像に1mm間隔で5×5の碁盤目状にカッターで切れ込みを入れたクロスカット法によるテープ剥離試験を行い、下記の基準で評価した。
◎:テープによるはがれなく良好
○:碁盤目状の切れ込み1マス以上3マス以下剥がれるが、良好なレベル
△:碁盤目状の切れ込み4マス以上6マス以下剥がれるが、実用状許容できるレベル
×:碁盤目状の切れ込み7マス以上が剥がれ実用上許容できないレベル
【0145】
(保存安定性)
上記調製したインクジェットインクを60℃、1週間の条件でサーモ保存した後に、マルバルーン社製「ゼータサイザ1000HS」を用いて平均粒子径を測定した。得られた平均粒子径と保存前の平均粒子径から粒径増加率を算出し、下記の基準に基づいて評価した。
◎:平均粒子径の増加率が120%未満
○:平均粒子径の増加率が120%以上140%未満
△:平均粒子径の増加率が140%以上160%未満
×:平均粒子径の増加率が160%以上
【0146】
(耐水性)
上記形成した画像を40℃で3日保管したのち、ベタ部分が切断端面となるようにして10cm×1cmの短冊状に切断して試験片とした。試験片を熱水30分処理し、処理後の試験片の様子を目視で確認し、各インクによる画像の耐水性を以下の基準で評価した。
◎:試験片に全く剥がれがない
○:試験片に一部剥がれが生じているが、大きな剥がれはない
△:試験片に大きな剥がれが生じている
×:試験片フィルムから画像部分が全て剥がれ落ちている
【0147】
【表3】
【0148】
上記結果に示されるように、本発明のインクは、比較例のインクに比べて、高画質で、基材との密着性が良好で、保存安定性及び耐水性に優れることが認められる。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明の水性インクジェットインクは、基材に対する濡れ性、インクの保存安定性及び耐水性に優れた水性インクジェットインク、印刷物及びインクジェット記録方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0150】
F 基材
P 前処理層
R 印刷層
1 送り出しローラー
2 ロールコーター
3 ノズル
4 前処理液滴
5 第1乾燥部
6 インクジェットヘッド
7 インク液滴
8 第2乾燥部
9 巻取りローラー
10 インクジェット記録装置
図1