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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】通信用シールド電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/00 20060101AFI20221101BHJP
   H01B 11/10 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
H01B11/00 J
H01B11/10
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020566388
(86)(22)【出願日】2020-01-09
(86)【国際出願番号】 JP2020000407
(87)【国際公開番号】W WO2020149202
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2021-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2019004099
(32)【優先日】2019-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 亨
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 崇樹
(72)【発明者】
【氏名】上柿 亮真
(72)【発明者】
【氏名】岩間 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】田口 欣司
(72)【発明者】
【氏名】岡野 聡
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-154092(JP,A)
【文献】特開2001-195924(JP,A)
【文献】特開2011-198677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/00
H01B 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する一対の絶縁電線が、相互に並列に配列された平行電線を有し、
素線を編み込んでなる編組シールドと、金属膜を有するフィルム状シールドと、を前記平行電線の外周に、内側からこの順で有し、
前記一対の絶縁電線は、架橋された絶縁材料から構成された前記絶縁被覆のそれぞれの外周に、熱により溶融可能な融着層を有し、
前記一対の絶縁電線の前記融着層が互いに接した状態で加熱されることで、前記一対の絶縁電線が、前記融着層を介して、相互に融着されており、
前記平行電線の幅方向の長さが、厚さ方向の長さに対して1.7~1.9倍であり、
前記絶縁被覆が、前記融着層を介した融着によって変形していない、通信用シールド電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、通信用シールド電線に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の分野において高速通信の需要が増している。高速通信の形態の1つとして、一対の絶縁電線からなる通信用電線を用いて、差動信号により通信する形態が多用されている。このような差動信号の通信に用いられる通信用電線としては、例えば、特許文献1に開示されるように、導体と、該導体の外周を被覆する絶縁被覆とからなる一対の絶縁電線が撚り合わせられた対撚線が公知である。対撚線を用いると、外部からのコモンモードノイズを打消しやすく、通信が安定しやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-032583号公報
【0004】
しかしながら、近年の高速通信においては、GHz帯のような高周波域での通信が求められており、特許文献1のような、対撚線を用いた場合、周期的な撚り構造に起因する高周波域での信号の減衰が課題となる。
【0005】
一方、絶縁電線対を撚り合わせずに並列に配置して用いた場合、高周波域においても信号の減衰が小さい。しかし、各々の絶縁電線が撚り合わされていないため、例えば通信用電線を屈曲させた際などに、相互の位置が変化することにより、外部ノイズの影響を受けやすくなったり、信号に伝搬時間差が発生しやすくなったりする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、上記の課題に鑑み、一対の絶縁電線を、互いに撚り合わせずに並列に配置した平行電線を用いた通信用電線において、外部ノイズの影響を受けにくく、信号に伝搬時間差が発生しにくい通信用シールド電線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示にかかる通信用シールド電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する一対の絶縁電線が、相互に並列に配列された平行電線を有し、素線を編み込んでなる編組シールドと、金属膜を有するフィルム状シールドと、を前記平行電線の外周に有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示にかかる通信用シールド電線は、一対の絶縁電線を、互いに撚り合わせずに並列に配置した平行電線を用いた通信用電線において、外部ノイズの影響を受けにくく、信号に伝搬時間差が発生しにくい通信用シールド電線となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の第1の実施形態にかかる通信用シールド電線の外観を示す斜視図である。
図2図2は、図1の構成を示すA-A断面図である。
図3図3は、本開示の第2の実施形態にかかる通信用シールド電線の構成を示す断面図である。
図4図4は、本開示の第3の実施形態にかかる通信用シールド電線の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施態様を説明する。
本開示にかかる通信用シールド電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する一対の絶縁電線が、相互に並列に配列された平行電線を有し、
素線を編み込んでなる編組シールドと、金属膜を有するフィルム状シールドと、を前記平行電線の外周に有する。
【0011】
上記通信用シールド電線によれば、一対の絶縁電線は、互いに撚り合わされず、並列に配置される。撚り合わせ構造を有さないことから、対撚線を使用した場合に比較して、高周波域においても、共振等、周期構造に起因する信号の減衰を小さくすることができる。
【0012】
また、上記通信用シールド電線は、編組シールドとフィルム状シールドとを有することにより、編組シールドやフィルム状シールドをそれぞれ単独で用いた場合と比較して、高いノイズ遮蔽性を有する。平行電線は、一対の絶縁電線を撚り合わせた対撚線と比較して、ノイズの影響を受けやすいが、編組シールドとフィルム状シールドとを、併用することにより、平行電線においても、通信の安定性を高めることができる。
【0013】
さらに、平行電線の外周に設けられる編組シールドとフィルム状シールドの二重構造により、平行電線を構成する絶縁電線対が相互に結束され、相互間の距離がずれにくく、対をなす絶縁電線の対称性が維持されやすい。その結果、絶縁電線間の線長差による伝搬時間差が生じにくく、また、外部からのノイズが対をなす絶縁電線の双方に等しく作用しやすいため、外部ノイズの影響を受けにくく、その影響を小さくすることができる。その結果、誘導ノイズや共振の発生を抑制することができる。
【0014】
一の実施形態として、本開示にかかる通信用シールド電線は、前記編組シールドと、前記フィルム状シールドとを、前記平行電線の外周に、内側からこの順で有することが好ましい。すると、編組シールドによる、絶縁電線対の締め付け効果に特に優れ、相対位置がずれにくく、絶縁電線間の線長差による伝搬時間差を抑制する効果や、外部ノイズの影響を小さくする効果に特に優れる。また、ノイズ遮蔽効果を有する編組シールドにより、平行電線を結束することで、例えば、絶縁テープ材等の他の結束部材を用いて平行電線を結束する場合と比較して、通信用シールド電線の小径化、および構造の簡素化を達成でき、生産性に優れる。
【0015】
前記平行電線においては、対をなす絶縁電線が、相互に融着または接着されていることが好ましい。すると、対をなす絶縁電線の相対位置がずれにくく、絶縁電線間の線長差による伝搬時間差を抑制する効果や、外部ノイズの影響を小さくする効果に特に優れる。
【0016】
前記絶縁電線は、前記絶縁被覆の外周に、熱により溶融可能な融着層を有し、前記融着層を介して、相互に融着されていることが好ましい。特に、前記融着層は、熱可塑性樹脂を含んでいるとよい。これらの場合には、絶縁電線を融着する際に、絶縁被覆の変形を抑制でき、絶縁電線の対称性に優れる。その結果、絶縁電線間の線長差による伝搬時間差を抑制する効果や、外部ノイズの影響を小さくする効果に特に優れる。
【0017】
別の実施形態として、本開示にかかる通信用シールド電線は、前記フィルム状シールドと、前記編組シールドとを、前記平行電線の外周に、内側からこの順で有し、前記絶縁電線は、前記フィルム状シールドの内側において、相互に、相対位置を移動可能であることが好ましい。すると、通信用シールド電線が屈曲された際等に、絶縁電線がフィルム状シールドの内側において、相対位置を移動することで、負荷を吸収することができ、絶縁電線対の相互間の距離がずれにくくなる。その結果、絶縁電線が対称性に優れたものとなり、絶縁電線間の線長差による伝搬時間差を抑制する効果や、外部ノイズの影響を小さくする効果に特に優れる。このとき、ノイズ遮蔽効果を有するフィルム状シールドにより、平行電線を適度に結束することで、例えば、絶縁テープ等の他の結束部材を用いて平行電線を結束する場合と比較して、通信用シールド電線の構造を小径化、簡素化することができ、生産性に優れる。
【0018】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面を用いて、本開示の実施形態にかかる通信用シールド電線について、詳細に説明する。以下では、本開示の第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態にかかる通信用シールド電線について、順に説明する。
【0019】
(全体構成)
最初に、各実施形態にかかる通信用シールド電線に共通の構成を説明する。
【0020】
図1~4に示すように、通信用シールド電線1(または1A,1B;以下、全体構成の項において同様)は、一対の絶縁電線11を互いに並列に配置した平行電線10を有する。各絶縁電線11は、導体12と、導体12の外周を被覆する絶縁被覆13を有している。
【0021】
平行電線10の外周には、シールド体40が設けられる。シールド体40においては、素線を編み込んでなる編組シールド20と、金属膜を有するフィルム状シールド30とが、相互に積層されている。シールド体40を構成する編組シールド20またはフィルム状シールド30の一方は、平行電線10の外周を直接被覆する。
【0022】
通信用シールド電線1は、さらに、シールド体40の外周を被覆するジャケット50を有する。ジャケット50は絶縁材料より構成され、内部の平行電線10を、保護する。
【0023】
(平行電線の構成)
平行電線10を構成する各絶縁電線11の材料や寸法等の詳細は、互いに同じものであれば、特に限定されるものではない。絶縁電線11を構成する導体12は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属材料を用いて、適宜構成すればよく、絶縁被覆13は、絶縁性の高分子材料を用いて、適宜構成すればよい。
【0024】
導体12は、上記の金属材料の単線として構成されてもよいが、屈曲性を高める等の観点から複数の素線が撚り合わされた撚線として構成されることが好ましい。撚線を構成する素線は、すべて同じ素線であってもよいし、2種以上の素線を含んでいてもよい。
【0025】
導体12は、導体断面積が、0.22mm未満、さらには、0.15mm以下、0.13mm以下であることが好ましい。導体12の外径としては、0.55mm以下、さらには0.50mm以下、0.45mm以下であることがこのましい。導体12を細径化することで、平行電線10において、導体12の間の距離(各導体12の中心を結ぶ距離)が近くなり、通信用シールド電線1の特性インピーダンスが大きくなる。つまり、導体12の外周を被覆する絶縁被覆13の厚さを小さくしても、導体12の距離が小さくなることにより、通信用シールド電線1に要求される特性インピーダンスを確保しやすくなる。
【0026】
導体12は、400MPa以上の引張強さを有することが好ましい。導体12が、高い引張強さを有することで、導体12を細径化しても、電線として求められる引張強さを維持することができる。上記のように、導体12を細径化することで、平行電線10を構成する絶縁電線11の導体12の間の距離(各導体12の中心を結ぶ距離)が近くなり、通信用シールド電線1の特性インピーダンスが大きくなる。つまり、導体12の外周を被覆する絶縁被覆13の厚さを小さくしても、導体12の距離が小さくなることにより、通信用シールド電線1に要求される特性インピーダンスを確保しやすくなる。
【0027】
導体12は、7%以上の高い破断伸びを有することが好ましい。導体12が高い破断伸びを有することで、平行電線10を屈曲させた際等においても、平行電線10を構成する一対の絶縁電線11の対称性を維持しやすくなる。その結果、絶縁電線11間の線長差による伝搬時間差を抑制し、外部ノイズの影響を小さくすることができる。
【0028】
導体12の引張強さや破断伸びは、導体12の成分組成による影響が大きい。また、伸線後の熱処理によっても、引張強さや破断伸びを高めることができる。上記のように、高い引張強さと、高い破断伸びとを有する導体12としては、例えば、以下のような成分組成を有する第一の銅合金や第二の銅合金を例示することができる。
【0029】
第一の銅合金は、以下の各成分元素を含有し、残部がCuおよび不可避的不純物よりなる。
・Fe:0.05質量%以上、2.0質量%以下
・Ti:0.02質量%以上、1.0質量%以下
・Mg:0質量%以上、0.6質量%以下(Mgが含有されない形態も含む)
【0030】
第二の銅合金は、以下の各成分元素を含有し、残部がCuおよび不可避的不純物よりなる。
・Fe:0.1質量%以上、0.8質量%以下
・P:0.03質量%以上、0.3質量%以下
・Sn:0.1質量%以上、0.4質量%以下
【0031】
絶縁被覆13を構成する絶縁性の高分子材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド等を挙げることができる。絶縁被覆13は、適宜、充填材や難燃剤等の添加剤を含有してもよい。また、絶縁被覆13を構成する絶縁性の高分子材料は、架橋されてもよいし、架橋されなくてもよい。架橋された高分子材料を用いることにより、絶縁被覆13の耐熱性を高めることができる。
【0032】
絶縁被覆13は、上記の高分子材料を発泡させて成形しても、発泡させなくてもよい。絶縁被覆13を軽量化する等の観点からは、発泡させた方が好ましく、絶縁被覆13の製造工程を簡素化する等の観点からは、発泡させない方が好ましい。
【0033】
絶縁被覆13の厚さは、絶縁電線11の細径化や、屈曲させやすさ等の観点から、0.30mm以下、さらには0.25mm以下、0.20mm以下であることが好ましい。なお、絶縁被覆13を薄くしすぎると、通信用シールド電線1に要求される特性インピーダンスを確保することが困難になるため、絶縁被覆13の厚さは、0.15mm以上としておくことが好ましい。
【0034】
絶縁電線11においては、導体12の全周囲にわたって、絶縁被覆の厚さの均一性が高いことが好ましい。すなわち、偏肉が小さいことが好ましい。偏肉を小さくすることで、導体12の偏芯が小さくなり、一対の絶縁電線11を並列に配置して平行電線10を構成した際に、対となる絶縁電線11の導体12の対称性が高くなる。その結果、信号に伝搬時間差が発生しにくく、また、外部からのノイズの影響を受けにくくなり、通信用シールド電線1の伝送特性を高めることができる。偏芯率の範囲としては、例えば、65%以上であることが好ましい。ここで、偏芯率は、絶縁被覆13の厚さの最小値を最大値に対する百分率で表したもの([最小絶縁厚さ]/[最大絶縁厚さ]×100%)である。
【0035】
平行電線10は、一対の絶縁電線11を、互いに撚り合わせずに並列に配置してなる。ここでいう「平行」や「並列」とは、幾何学的な「平行」の概念に限定するものではなく、ある程度のずれは許容される。理想的には、対をなす絶縁電線11の相互間の距離を、小さな値、例えば実質的に0mmで一定に維持し、対称的に配置された状態である。許容されるずれとしては、例えば、平行電線10を90度屈曲させた際に、対をなす絶縁電線11の相互間の間隙が、0.5mm以下に維持されるとよい。このように、絶縁電線11が、高い対称性で並列に配置されることにより、一対の絶縁電線を撚り合わせた対撚線に比較して、高周波域においても、共振現象等による信号の減衰を小さくすることができる。また、絶縁電線間の線長差による伝搬時間差が生じにくく、また、外部ノイズの影響を小さくすることができる。絶縁電線11の相互間の距離を、小さく、一定に維持する方法としては、後に詳しく説明するが、平行電線10の外周を被覆する編組シールド20またはフィルム状シート30によって、平行電線10を構成する絶縁電線11を結束する方法や、並列に配置した絶縁電線11を、相互に融着または接着させる方法などが挙げられる。
【0036】
(シールド体の構成)
本開示の各実施形態にかかる通信用シールド電線1は、平行電線10の外周に、編組シールド20と金属膜を有するフィルム状シールド30とを含むシールド体40を有する。
【0037】
本開示の各実施形態にかかる通信用シールド電線1は、平行電線10の外周に、シールド体40として、編組シールド20とフィルム状シールド30の2種のシールドの双方を有する。2種のシールドを有することにより、平行電線10の外周を包囲する導電性材料の体積が大きくなり、いずれか1種のシールドを単独で用いた場合と比較して、高いノイズ遮蔽効果を達成することができる。すなわち、平行電線10に対して、外部からのノイズの侵入および外部へのノイズの放出を効果的に遮蔽することができる。その結果、一対の絶縁電線を撚り合わせた対撚線に比較してノイズの影響を受けやすい平行電線においても、ノイズによる伝送信号への影響を低減し、高速通信が可能となる。
【0038】
シールド体40を構成する編組シールド20は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属材料よりなる金属素線、あるいは糸状の基材の表面に、スズめっき等の金属めっきを施した材料よりなる金属素線を、編み込んで中空筒状に成形したものである。編組シールド20は、平行電線10に対して、外部からのノイズの侵入および外部へのノイズの放出を遮蔽する役割を果たす。また、編組シールド20は、金属素線が網目状に編み込まれていることから、十分な伸縮性を有し、平行電線10を構成する絶縁電線11を中心部に向かって締め付ける役割も有する。編組シールド20の構成(打数、持数、ピッチ等)は、所望されるノイズ遮蔽性等に応じて適宜選択すればよい。例えば、素線径が0.12mm、打数12打、持数8本、ピッチ15~25mmの編組シールド20などを用いることができる。
【0039】
シールド体40を構成するフィルム状シールド30は、金属膜を有するフィルム状の材料であり、金属膜の存在により、平行電線10に対して、外部からのノイズの侵入および外部へのノイズの放出を遮蔽する役割を果たす。フィルム状シールド30は、金属膜を有していれば、どのようなものであってもよく、金属膜のみからなる形態、あるいは金属膜と、基材等の材料とを複合した形態のいずれであってもよい。複合材としては、金属膜と基材として高分子フィルムとが複合された高分子-金属複合フィルムを、好適な例として挙げることができる。金属膜と高分子フィルムとを複合することで、金属膜を単体で用いる場合よりも、フィルム状シールド30全体としての機械的強度および取扱い性を高めることができる。
【0040】
フィルム状シールド30に用いられる金属種は特に限定されるものではないが、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属材料を例示することができる。金属膜は、1種を単独で用いてもよいし、2以上の金属膜を積層して用いてもよい。また、フィルム状シールド30は、そのノイズ遮蔽性を損なわない範囲において、表面保護膜や接着層等の金属や基材以外の材料を複合して用いてもよい。
【0041】
フィルム状シールド30を高分子-金属複合フィルムより構成する場合に、基材となる高分子フィルムの高分子種としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)等のビニル樹脂等を挙げることができる。高分子種としては、機械的強度と柔軟性に優れる等の観点から、PETを用いることが好ましく、PETフィルムにアルミニウム膜を複合したAl-PETフィルムを特に好適なフィルム状シールド30として挙げることができる。
【0042】
高分子-金属フィルムにおいて高分子フィルムと金属膜とを複合する方法としては、別々に成形した高分子フィルと金属膜とを積層し、接着剤等によって固定する方法や、高分子フィルムの表面にめっきや蒸着等によって金属膜を形成する方法等を挙げることができる。金属膜は、高分子フィルムの片面に設けてもよいし、両面に設けてもよい。
【0043】
フィルム状シールド30は、平行電線10の外周を、直接、あるいは編組シールド20を介して被覆していれば、どのような形態で配置されてもよい。例えば、平行電線10の軸線方向に沿って、縦添え状に配置する形態や、横巻き状に配置する形態が挙げられる。縦添え状の配置においては、フィルム状シールド30を形成するフィルム材の長手方向が、平行電線10の軸線方向に添うように配置され、フィルム材で平行電線10を周方向に包み込むようにフィルム状シールド30が形成される。平行電線10の外周を一周にわたって包み込んだフィルム材は、両端部が相互に重ね合わせられ、適宜接着されることで、平行電線10の外周を隙間なく被覆することができる。一方、横巻き状の配置においては、テープ状に成形されたフィルム材が、平行電線10を軸とした螺旋状に、平行電線10の外周に巻きつけられ、フィルム状シールド30が形成される。螺旋の各ターンの間でフィルム状シールド30が重畳され、適宜接着されることで、平行電線10の外周を隙間なく被覆することができる。フィルム状シールド30の形成が容易である点や、平行電線10の軸方向に対して、均一に被覆できるなどの点から、フィルム状シールド30は、縦添え状に配置されることが好ましい。フィルム状シールド30を縦添え状とすると、長尺状の平行電線10に対して、編組シールド20と、フィルム状シールド30と、ジャケット50とを連続した工程によって形成することができ、工程数を増加させたり、工程を複雑化させたりすることがなく、生産性に優れる。また、フィルム状シールド30が、平行電線10の軸方向に沿って、重なることが実質的になく、均一に平行電線10を被覆できることから、共振等、周期構造に起因する信号の減衰を防ぐことができる。
【0044】
(ジャケットの構成)
シールド体40の外周にジャケット50を設けることにより、シールド体40を構成するフィルム状シールド30および編組シールド20や、内部の平行電線10を、保護することができる。特に通信用シールド電線1が自動車において用いられる場合に、通信用シールド電線1を水の影響から保護することが求められるが、ジャケット50は、水との接触により、通信用シールド電線1の特性インピーダンス等の各種特性が影響を受けることを防止する役割も果たす。また、シールド体40の外周にジャケット50を設けることより、内側のシールド体40の形状が安定し、シールド体40による、ノイズ遮蔽効果や、平行電線10を結束する効果が安定に維持されやすくなる。
【0045】
ジャケット50は、絶縁材料より構成されている。ジャケット50を構成する絶縁材料は、高分子材料を主成分としてなり、その高分子材料は特に限定されるものではない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド等を挙げることができる。ジャケット50は、適宜、充填材や難燃剤等の添加剤を含有してもよい。また、ジャケット50を構成する絶縁性の高分子材料は、架橋されてもよいし、架橋されなくてもよい。架橋された高分子材料を用いることにより、ジャケット50の耐熱性等を高めることができる。
【0046】
ジャケト50の厚さは、所望される保護性能等を考慮して、適宜選択されればよい。例えば、十分な保護性能を得る観点から、0.2mm以上とすることが好ましい。一方、通信用シールド電線1が過度に大径化するのを避ける観点や、十分な柔軟性を得る観点から、1.0mm以下とすることが好ましい。また、ジャケット50は、構成を簡素にする観点から、1層の絶縁材料よりなることが好ましいが、2以上の層を含んでいてもよい。
【0047】
(第1実施形態)
本開示の第1の実施形態について詳細に説明する。図1は、第1の実施形態にかかる通信用シールド電線1の外観を示す斜視図であり、図2は、その構成を示すA-A断面図である。本実施形態においては、平行電線10の外周に、編組シールド20と、フィルム状シールド30とを内側から順に有し、編組シールド20の伸縮性により、平行電線10を構成する一対の絶縁電線11が互いに結束される。
【0048】
本実施形態にかかる通信用シールド電線1は、編組シールド20により、平行電線10を構成する一対の絶縁電線11を結束することにより、容易に絶縁電線11が相互に対して移動するのを制限することができる。移動の制限により、絶縁電線11の相対位置のずれが抑制され、また絶縁電線11の対称性が維持されやすくなる。すると、絶縁電線11間の線長差による伝搬時間差を抑制し、また、外部ノイズの影響を小さくすることができる。その結果、誘導ノイズの発生や共振を、効果的に抑制することができる。ノイズを遮蔽する編組シールド20により、平行電線10を結束することで、例えば、絶縁テープ等の他の結束部材を用いて平行電線10を結束する場合と比較して、通信用シールド電線1の小径化、構造の簡素化が可能であり、生産性に優れる。
【0049】
シールド体40は、編組シールド20と、フィルム状シールド30とを有し、これら2種のシールドは、平行電線10を構成する絶縁電線11の対が、相互に移動するのを十分に制限できる程度の締め付け力で、平行電線10の外周に設けられる。
【0050】
編組シールド20により、平行電線10を結束する場合、例えば、下記のように、適切な伸縮性を有する編組シールド20を、対をなす絶縁電線11の外周に被せることにより、容易に絶縁電線11の動きを制限することができる。一方、フィルム状シールド30により、平行電線10を結束する場合、例えば、フィルム状シールド30を構成するフィルム材に十分な張力を持たせた状態で、対をなす絶縁電線11の外周を縦添え状または横巻き状に被覆することで、絶縁電線11の動きを制限することができる。
【0051】
編組シールド20と、フィルム状シールド30とは、平行電線10を構成する絶縁電線11の対を十分に結束できれば、その順を入れ替えてもよい。ただし、内側に位置するシールドよりも外側に位置するシールドの方が平行電線10を締め付ける力が大きい場合、内側のシールドに弛みやしわが生じやすく、シールド体40のノイズ遮蔽性を損なう虞があるため、平行電線10を締め付ける力が大きいシールドを内側に設けることが好ましい。編組シールド20は、伸縮性を有する中空筒状に成形されることから、編組シールド20により、平行電線10を結束する方が、容易に強い力で結束するこができる。このような観点から、シールド体40において、内側に編組シールド20を設けることが好ましい。
【0052】
編組シールド20は、平行電線10を構成する一対の絶縁電線11の動きを制限するのに十分な伸縮性を有することが好ましい。編組シールド20が十分な伸縮性を有することにより、平行電線10を中心部に向かって十分に締め付けることができ、平行電線10において、対をなす絶縁電線11の間で位置のずれを抑制し、平行電線10を構成する絶縁電線11の対称性が維持されやすくなる。その結果、通信用シールド電線1が振動を受けた際等にも、絶縁電線間の線長差による伝搬時間差を抑制し、また、外部ノイズの影響を小さくすることから、伝送特性を安定に維持することができる。
【0053】
本実施形態にかかる通信用シールド電線1を構成する絶縁電線11は、ある程度大きな表面粗さを有する面を外周に備えていることが好ましい。すると、平行電線10において、対をなす絶縁電線11の間で位置のずれが起こりにくくなり、平行電線10を構成する絶縁電線11の対称性が維持されやすくなる。その結果、通信用シールド電線1が振動を受けた際等にも、伝送特性を安定に維持することができる。表面粗さとしては、例えば、絶縁被覆13を相互に擦り合わせた際の動摩擦係数が、0.1以上であるとよい。絶縁被覆13の表面粗さは、例えば、絶縁被覆13を形成する際の、絶縁材料の押出温度の調整や、絶縁被覆13を形成した後の表面処理等によって、付与することができる。
【0054】
(第2実施形態)
本開示の第2の実施形態について詳細に説明する。図3は、第2の実施形態にかかる通信用シールド電線1Aの構成を示す断面図である。本実施形態は、対をなす絶縁電線11が、互い融着または接着されて一体となった平行電線10を有する。
【0055】
上記第1実施形態では、1対の絶縁電線11が相互に対して固着されていなかったのに対し、本第2実施形態にかかる通信用シールド電線1Aにおいては、平行電線10を構成する一対の絶縁電線11が相互に融着または接着されている。よって、平行電線10において、対をなす絶縁電線11の間で位置のずれが実質的に起こらず、平行電線10を構成する絶縁電線11の対称性が維持されやすくなる。その結果、通信用シールド電線1Aが振動や屈曲を受けた際等にも、絶縁電線間の相対位置を強固に維持することで線長差による伝搬時間差を抑制し、また、外部ノイズの影響を小さくすることができる。このように、絶縁電線11を相互に固定することにより、誘導ノイズの発生や共振を抑えるなど、特に通信用シールド電線1Aの伝送特性を高めることができる。
【0056】
絶縁電線11同士を融着または接着させる方法としては、例えば、絶縁被覆13を構成する絶縁材料を、熱可塑性樹脂とする、あるいは、熱可塑性樹脂を含む材料とする方法、絶縁被覆13の外周に、熱可塑性樹脂など、熱により溶融可能な材料を含んだ融着層14を設ける方法、並列に配置された絶縁電線11の間を接着剤により接着する方法などが挙げられる。熱可塑性樹脂など、熱により溶融可能な材料を絶縁被覆13または融着層14に用いた場合、絶縁電線11を並列に配置し、絶縁被覆13または融着層14が互いに接した状態で加熱した後、冷却することで、絶縁電線11同士を容易に融着させることができる。絶縁被覆13の外周に融着層14を備える構成とすると、絶縁被覆13自体を融着可能な材料より構成する場合と比較して、融着時に絶縁被覆13の変形を抑制しつつ、絶縁電線11を融着させることができる。その結果、平行電線10の全長にわたって、対をなす絶縁電線11の相互間距離を一定に保ちやすくなり、絶縁電線11の対称性に優れる。このとき、絶縁被覆13を架橋された絶縁材料から構成すると、融着時に絶縁被覆13の変形を抑制する効果に特に優れ、絶縁電線11の対称性を特に維持しやすくなる。
【0057】
平行電線20を融着により接合させる場合には、融着後の平行電線20の幅方向の長さが、厚さ方向の長さに対して1.7~1.9倍であることが好ましい。すなわち、平行電線を構成する絶縁電線は、互いに電線半径の5~15%程度の領域において融着することが好ましい。この範囲内で融着すると、対をなす絶縁電線が十分強固に融着され、厚さ方向に対する屈曲性にも優れる。
【0058】
本実施形態においては、シールド体40は、ノイズを十分に遮蔽するものであればよい。平行電線20を構成する絶縁電線11が、互いに十分強固に融着または接着されていれば、編組シールド20およびフィルム状シールド30による絶縁電線11の締め付け効果は必ずしも必要ではない。ただし、絶縁電線11の接合部が外れた際等の補助として、先の第1の実施形態と同様に、シールド体40によって、締め付けておくことが好ましい。
【0059】
(第3実施形態)
本開示の第3の実施形態について詳細に説明する。図4は、第3の実施形態にかかる通信用シールド電線1Bの構成を示す断面図である。本実施形態は、平行電線10の外周をフィルム状シールド30で被覆し、そのさらに外周に、編組シールド20およびジャケット50を有する。絶縁電線11は、フィルム状シールド30の内側で、相互に、相対位置を移動可能であるが、対をなす絶縁電線11が互いに離散しない程度に結束される。
【0060】
本実施形態にかかる通信用シールド電線1Bは、フィルム状シールドによって、絶縁電線11がフィルム状シールド30の内側において、相互に、相対位置を移動可能な程度に結束されることにより、通信用シールド電線1Bが屈曲された際等に、絶縁電線11がフィルム状シールド30の内側において、相互に、相対位置を移動し、また、絶縁電線11がその周方向に回転することにより、屈曲に適した配置に転換され、負荷を吸収することができる。このとき、平行電線10の外周は、フィルム状シールド30によって、互いに離散しない程度に結束されているため、絶縁電線11の相対位置が変化したとしても、相互間の距離はずれにくい。その結果、絶縁電線11の対称性に優れ、絶縁電線間の線長差による伝搬時間差を抑制し、また、外部ノイズの影響を小さくすることができる。このように、絶縁電線11の相互位置の変化を許容することにより、誘導ノイズの発生や共振を抑えるなど、効果的に通信用シールド電線1Bの伝送特性を高めることができる。
【0061】
絶縁電線11が相互に、相対位置を移動可能であるが、対をなす絶縁電線11が互いに離散しない程度に結束する場合、伸縮性を有する編組シールド20では、平行電線10を締め付ける力を、絶縁電線11が相互に相対位置を移動可能である程度に弱い水準に調整することは、困難である。一方、フィルム状シールド30は、伸縮性を有さない、あるいは伸縮性が小さいことから、編組シールド20よりも、フィルム状シールド30によって、締め付ける力を調整することが好ましい。締め付ける力は、フィルム状シールド30を構成するフィルム材を、平行電線10の外周に巻きつける際に、フィルム材にかける張力などにより、調整することができる。
【0062】
よって、シールド体40の、編組シールド20と、フィルム状シールド30との順は、特に限定されないものの、内側にフィルム状シールド30を設けることが好ましい。フィルム状シールド30を内側に設けると、編組シールド20を内側に設けた場合と比較して、平行電線10を締め付ける強さの調整が容易であり、また、平行電線10に接する面の摩擦抵抗が小さいことから、シールド体40の内側において、絶縁電線11が移動しやすくなる。
【0063】
フィルム状シールド30の外側に設けられる編組シールド20は、フィルム状シールド30の外周に、ジャケット50と独立した状態で設けられてもよいし、そのさらに外周に設けられるジャケット50と一体に設けられてもよい。ジャケット50と一体に設ける場合、ジャケット50の内側に、接着剤等を用いて編組シールド20を設ける方法や、ジャケット50を成形する際に、編組シールド20を埋没させる方法などが挙げられる。編組シールド20をジャケット50と一体とすると、編組シールド20に弛みやしわが生じにくく、シールド体40のノイズ遮蔽性が安定する。また、編組シールド20が、フィルム状シールド30で平行電線20を被覆した集合体の外周を、緊密に被覆しすぎると、フィルム状シールド30の内側での絶縁電線11の回転運動を妨げる可能性がある。よって、編組シールド20とフィルム状シールド30との間に空隙を残す程度に、編組シールド20で、フィルム状シールド30の外周を緩く被覆する方が好ましい。
【0064】
先の第1、2の実施形態においては、平行電線10を構成する一対の絶縁電線11が、互いに位置がずれないように、動きを制限することにより、絶縁電線11の対称性を維持し、信号の伝送性能を高めていたのに対し、本実施形態においては、絶縁電線11が離散することは防ぎつつ、その範囲内での、絶縁電線11の動きを許容し、屈曲時の応力を吸収することで、絶縁電線11の対称性を維持するものである。このような観点から、本実施形態においては、一対の絶縁電線11を先の第2の実施形態のように、相互に融着または接着させない方が好ましい。
【実施例
【0065】
以下に本開示の実施例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0066】
[試料A1]
(絶縁電線の作製)
絶縁電線を構成する導体を作製した。具体的には、純度99.99%以上の電気銅と、FeおよびTiの各元素を含有する母合金を、カーボン製坩堝に投入して、真空溶解させ、Feを1.0質量%、Tiを0.4質量%含有する混合溶湯を作製した。得られた混合溶湯を、連続鋳造により、φ12.5mmの鋳造材に成形した。得られた鋳造材に対して、押出し加工、圧延加工を行うことにより、φ0.165mmの素線を得た。得られた素線を7本用い、撚りピッチ14mmにて、撚線加工を行うとともに、圧縮加工を行った。得られた導体は、導体断面積が0.13mm、外径が0.45mmの電線導体を得た。
【0067】
上記で作製した銅合金導体の外周に、ポリプロピレン樹脂の押出により、絶縁被覆を成形した。絶縁被覆の厚さは0.4mm、偏芯率は80%であった。
【0068】
(通信用シールド電線の作製)
上記で作製した絶縁電線2本を並列に配置し、平行電線とした。その外周を囲むように編組シールドを形成し、さらにその外周を囲むようにフィルム状シールドを形成した。
【0069】
編組シールドは、φ0.12mmのスズめっき軟銅線(0.12TA)を用い、打数を12打、持数を8本、ピッチを20mmとした。また、フィルム状シールドは、PETフィルムの片面にアルミニウム膜を形成したもの(Al-PETフィルム)を用い、縦添え状とした。
【0070】
さらに、編組シールドとフィルム状シールドの外周に、ポリプロピレン樹脂の押出によりジャケットを形成した。ジャケットの厚さは、0.4mmとした。この試料A1は、上記第1の形態に対応している。
【0071】
[試料A2]
上記の絶縁電線の外周に、ポリアミド樹脂の押出により、厚さ50μmの融着層を成形した。この融着層付き絶縁電線2本を並列に配置し、160℃に加熱し、2本の絶縁電線を融着させた。それ以外は、試料A1と同様として、試料A2を作製した。この試料A2は、上記第2の形態に対応している。
【0072】
[試料A3]
試料A1と同様に作製した平行電線の外周を囲むようにフィルム状シールドを形成し、さらにその外周を囲むように編組シールドを形成した。それ以外は、試料A1と同様として、試料A3を作製した。フィルム状シールドと編組シールドの間には、空隙を残した。この試料A3は、上記第3の形態に対応している。
【0073】
[試料B1]
平行電線に代えて、上記の絶縁電線2本を、撚りピッチ25mmにて撚り合わせた対撚線を用いた。それ以外は、試料A1と同様として、試料B1を作製した。
【0074】
[試料B2,B3]
表1に記載の編組シールド(試料B2)、またはフィルム状シールド(試料B3)の1層のみをシールド体として設けた。それ以外は、試料A1と同様として、試料B2,B3をそれぞれ作製した。
【0075】
[評価]
各通信用シールド電線について、ノイズ遮蔽性の指標として、誘導ノイズ量の測定と、共振の有無を確認した。その結果を表1に示す。
【0076】
(誘導ノイズ量)
各通信用シールド電線と、ノイズ誘導電線(自動車用薄肉低圧電線 AVSS3sq)を、1mにわたって7mm間隔で並走させた。ノイズ誘導電線に、周波数100MHzの信号を入力し、ネットワークアナライザを用いて、ノイズカップリング量を測定し、通信用シールド電線に発生するノイズの強度を誘導ノイズ量とした。誘導ノイズ量が-80dB以下のものを合格「A」とし、-90dB以下のものを特に優れる「A+」とし、誘導ノイズ量が-80dBを超えるものを不合格「B」とした。
【0077】
(共振)
各通信用シールド電線について、0~20GHzの範囲で信号の減衰量を測定した。減衰量がある周波数で急激に落ち込み、さらにその落ち込みよりも高周波で減衰量が向上する挙動が観察されなければ合格「A」とした。一方、減衰量がある周波数で急激に落ち込み、さらにその落ち込みよりも高周波で減衰量が向上する挙動が観察された場合には、共振が起こっていると判定し、不合格「B」とした。
【0078】
【表1】
【0079】
試料B1は、一対の絶縁電線を撚り合わせた対撚線であって、外部ノイズによる影響は受けにくい。しかし、撚り合わせの周期構造により、1GHzを超えたところで共振が発生した。試料B2,B3は、シールド体として、編組シールドまたはフィルム状シールドの1層のみしか有さず、外部ノイズによる影響を受けやすい。また、平行電線の締め付け力に劣り、一対の絶縁電線に線長差が生じやすく、共振が発生した。一方、本開示の構成を満たす試料A1~A3は、ノイズ遮断性に優れるとともに、絶縁電線に線長差が生じにくいことから、誘導ノイズ量が抑えられ、共振も発生しなかった。
【0080】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0081】
1,1A,1B 通信用シールド電線
10 平行電線
11 絶縁電線
12 導体
13 絶縁被覆
14 融着層
20 編組シールド
30 フィルム状シールド
40 シールド体
50 ジャケット
図1
図2
図3
図4