(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】弾性波デバイスおよびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/145 20060101AFI20221101BHJP
H03H 9/25 20060101ALI20221101BHJP
H03H 9/64 20060101ALI20221101BHJP
H03H 9/72 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
H03H9/145 C
H03H9/25 C
H03H9/64 Z
H03H9/72
(21)【出願番号】P 2020569617
(86)(22)【出願日】2020-01-27
(86)【国際出願番号】 JP2020002804
(87)【国際公開番号】W WO2020158673
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】P 2019015718
(32)【優先日】2019-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100189430
【氏名又は名称】吉川 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100190805
【氏名又は名称】傍島 正朗
(72)【発明者】
【氏名】道上 彰
【審査官】▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-145930(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003657(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/087836(WO,A1)
【文献】特開2018-093487(JP,A)
【文献】国際公開第2018/221427(WO,A1)
【文献】特開2009-118369(JP,A)
【文献】特開2011-135468(JP,A)
【文献】国際公開第02/035702(WO,A1)
【文献】国際公開第03/088483(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/120879(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007-H03H3/10
H03H9/00-H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SH波をメインモードとして利用する弾性波デバイスは、
基板と、
前記基板の主面上に形成された複数の電極指を有するIDT(InterDigital Transducer)電極と、
前記基板の前記主面、前記複数の電極指の側面および上面を途切れなく覆う保護膜と、を備え、
前記基板の前記主面を覆う前記保護膜の部分のうち、隣接する前記電極指間の中間部が、前記電極指の近傍部より厚
く、
前記保護膜の最大の厚みが、前記IDT電極の厚みの半分以下である、
弾性波デバイス。
【請求項2】
前記電極指の前記上面を覆う前記保護膜の部分のうち、前記上面の中央部を覆う部分が、前記上面の端部を覆う部分より厚い、
請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記電極指の前記上面を覆う前記保護膜の部分のうち、前記上面の中央部を覆う部分が、前記上面の端部を覆う部分より薄い、
請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記電極指の前記側面を覆う前記保護膜の部分のうち、前記側面の下部を覆う部分が、前記側面の上部を覆う部分より厚い、
請求項1から3のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記電極指の前記側面を覆う前記保護膜の部分のうち、前記側面の下部を覆う部分が、前記側面の上部を覆う部分より薄い、
請求項1から3のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記基板は、タンタル酸リチウムを含有する圧電材料で構成され、前記IDT電極が一方の主面上に形成された圧電体層からなる、
請求項1から5のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記基板は、
タンタル酸リチウムを含有する圧電材料で構成され、前記IDT電極が一方の主面上に形成された圧電体層と、
前記圧電体層を伝搬する弾性波音速よりも、伝搬するバルク波音速が高速である高音速支持基板と、
前記高音速支持基板と前記圧電体層との間に配置され、前記圧電体層を伝搬する弾性波音速よりも、伝搬するバルク波音速が低速である低音速膜と、を有する、
請求項1から5のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
一端同士が互いに接続された複数のフィルタを備え、
前記複数のフィルタのうち少なくとも1つのフィルタは、請求項
1から7のいずれか1項に記載の弾性波デバイスを用いて構成されている、
マルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波装置に関し、特には、SH波をメインモードとした弾性波デバイス、および、マルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基板と、この基板の上面に設けた櫛型電極と、この櫛型電極を覆う保護膜とを備え、櫛型電極を構成する電極指の上面の保護膜の厚さと、電極指の側面の保護膜の厚さとをほぼ等しくした構造が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、保護膜としての耐湿性を考えると、その厚さが重要となってくる。すなわち、一定の耐湿基準を満たそうとすると、もっとも薄いところでも一定の膜厚を確保する必要がある、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
SH波をメインモードとして利用する弾性波デバイスでは、メインモードに対して0.75倍付近の周波数に、レイリー波レスポンスが発生する。例えば、複数のフィルタを共通接続したマルチプレクサにおいて、共通接続された相手側フィルタの通過帯域と、レイリー波レスポンスの周波数とが一致すると、相手側フィルタの通過特性が劣化する。
【0006】
そこで、本発明は、メインモードの周波数特性を実質的に変えることなく、レイリー波レスポンスが発生する周波数を変えることができる弾性波デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る弾性波デバイスは、SH波をメインモードとして利用する弾性波デバイスであって、基板と、前記基板の主面上に形成された複数の電極指を有するIDT電極と、前記基板の前記主面、前記複数の電極指の側面および上面を途切れなく覆う保護膜と、を備え、前記基板の前記主面を覆う前記保護膜の部分のうち、隣接する前記電極指間の中間部が、前記電極指の近傍部より厚く、前記保護膜の最大の厚みが、前記IDT電極の厚みの半分以下である。
【発明の効果】
【0008】
これにより、保護膜を不均一な厚みで設けることで、保護膜の厚みが均一な場合と比べて、レイリー波レスポンスが発生する周波数を変化させることができる。このとき、IDT電極の設計パラメータを変化させなければ、メインモードの周波数特性は実質的に変化しない。したがって、メインモードの周波数特性を実質的に変えることなく、レイリー波レスポンスが発生する周波数を変えることができる弾性波デバイスが得られる。
【0009】
例えば、レイリー波レスポンスが他のフィルタの通過特性に悪影響を与える場合など、保護膜を不均一な厚みで設けることで、メインモードの周波数特性を維持しながら、レイリー波レスポンスの周波数を他のフィルタの通過帯域からずらすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、SAW共振子の一般的な構造の一例を模式的に示す平面図である。
【
図2】
図2は、SAW共振子の一般的な構造の一例を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、参考例1に係る保護膜の形状を示す断面図である。
【
図4】
図4は、実施例1に係る保護膜の形状を示す断面図である。
【
図5】
図5は、参考例1、実施例1に係るSAW共振子の周波数特性を示すグラフである。
【
図6】
図6は、参考例1、実施例1に係るSAW共振子の周波数特性を示すグラフである。
【
図7】
図7は、参考例2に係る保護膜の形状を示す断面図である。
【
図8】
図8は、実施例2に係る保護膜の形状を示す断面図である。
【
図9】
図9は、実施例3に係る保護膜の形状を示す断面図である。
【
図10】
図10は、実施例4に係る保護膜の形状を示す断面図である。
【
図11】
図11は、実施例5に係る保護膜の形状を示す断面図である。
【
図12】
図12は、実施例6に係る保護膜の形状を示す断面図である。
【
図13】
図13は、参考例2、実施例2~6に係るSAW共振子の周波数特性を示すグラフである。
【
図14】
図14は、マルチプレクサの一般的な構成の一例を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態について、実施例及び図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置及び接続形態などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。
【0012】
以下では、実施の形態に係る弾性波デバイスについて説明する前に、弾性波デバイスの一般的な構造について、弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)共振子の例を挙げて説明する。
【0013】
図1は、SAW共振子(以下、単に共振子とも言う)の一般的な構造の一例を模式的に示す平面図である。
図1に示されるように、共振子1は、基板2と、基板2上に配置された1対の櫛歯状電極3a、3bとからなる。1対の櫛歯状電極3a、3bは、IDT電極3を構成する。
【0014】
櫛歯状電極3aは、櫛歯形状に配置され、互いに平行な複数の電極指4aと、複数の電極指4aのそれぞれの一端同士を接続するバスバー電極5aとで構成されている。また、櫛歯状電極3bは、櫛歯形状に配置され、互いに平行な複数の電極指4bと、複数の電極指4bのそれぞれの一端同士を接続するバスバー電極5bとで構成されている。複数の電極指4a、4bは、弾性波伝搬方向Xと直交する方向に延びるように形成されている。
【0015】
なお、
図1に示された共振子1は、SAW共振子の一般的な構造を説明するためのものであって、櫛歯状電極3a、3bを構成する電極指4a、4bの本数や長さなどは、これに限定されない。
【0016】
図2は、SAW共振子の一般的な構造の一例を模式的に示す断面図であり、
図1のII-II線における断面に対応する。
図2に示されるように、基板2は、圧電体層23、低音速膜22、高音速支持基板21からなる積層体で構成されている。IDT電極3(つまり、電極指4a、4b、バスバー電極5a、5b)は、密着層31、主電極層32、および密着層33からなる積層体で構成されている。
【0017】
基板2は、高音速支持基板21、低音速膜22、および圧電体層23がこの順に積層された積層体で構成されている。
【0018】
高音速支持基板21は、低音速膜22、圧電体層23、IDT電極3、および保護膜6を支持する基板である。高音速支持基板21は、圧電体層23を伝搬する弾性波(表面波)の音速よりも、高音速支持基板21中のバルク波の音速が高速となる基板であり、例えばSi(シリコン)で構成される。高音速支持基板21の厚みは、特には限定されない。
【0019】
低音速膜22は、圧電体層23を伝搬する弾性波の音速よりも、低音速膜22中のバルク波の音速が低速となる膜であり、例えば、SiO2(二酸化ケイ素)を主成分とする材料で構成される。低音速膜22の厚みは、例えば673nmである。
【0020】
圧電体層23は、IDT電極3によって励振される弾性表面波が伝搬する層であり、例えば、50°YカットX伝搬LiTaO3圧電単結晶または圧電セラミックス(X軸を中心軸としてY軸から50°回転した軸を法線とする面で切断したタンタル酸リチウム単結晶またはセラミックス)で構成される。圧電体層23の厚みは、例えば、600nmである。
【0021】
上述の積層構造の基板2によれば、基板2の厚み方向における弾性波エネルギーの閉じ込め効率が高くなるので、共振周波数及び反共振周波数におけるQ値を高めることができる。ただし、基板2を積層構造とすることは必須ではなく、基板2を単層の圧電基板により構成しても構わない。
【0022】
IDT電極3は、基板2上に形成され、密着層31、主電極層32、および密着層33からなる積層体で構成されている。
図2に示されるIDT電極3の積層構造は、電極指4a、4bおよびバスバー電極5a、5bに適用される。
【0023】
密着層31は、圧電体層23と主電極層32との密着性を向上させるための層であり、例えば、Ti(チタニウム)で構成される。密着層31の厚みは、例えば、6nmである。
【0024】
主電極層32は、例えば、Al(アルミニウム)またはAl合金で構成される。主電極層32の厚みは、例えば130nmである。
【0025】
密着層33は、主電極層32と保護膜6との密着性を向上させるための層であり、例えば、Ti(チタニウム)で構成される。密着層33の厚みは、例えば、12nmである。
【0026】
IDT電極3(特には、電極指4a、4b)の線幅wは0.5μmであり、配置間隔Lは、1μmである。配置間隔Lは、圧電体層23を伝搬する弾性表面波の波長λである2.0μmの半分に対応する。
【0027】
保護膜6は、IDT電極3の耐久性を向上させる層であり、例えば、SiO2(二酸化ケイ素)を主成分とする材料で構成される。保護膜6は、基板2のIDT電極3が形成された主面、およびIDT電極3の側面および上面を途切れなく覆っている。
【0028】
以上のように構成される共振子1は、SH波をメインモードとして利用する弾性波デバイスの一例であり、メインモードに対して0.75倍付近の周波数に、レイリー波レスポンスが発生する。
【0029】
共振子1は、例えば、共通接続されてマルチプレクサを構成する複数のフィルタに用いることができる。このとき、共通接続された相手側フィルタの通過帯域と、レイリー波レスポンスの周波数とが一致すると、相手側フィルタの通過特性が劣化する。そこで、レイリー波レスポンスの周波数を共通接続された相手側フィルタの通過帯域からずらす必要が生じる。
【0030】
例えば、IDT電極3の設計パラメータ(上述の線幅w、配置間隔Lなど)を変更することによってレイリー波レスポンスの周波数を変更することはできるが、この場合、メインモードの周波数特性も変わってしまうため、現実的な対策としては有効ではない。
【0031】
そこで、本発明者らは、SH波とレイリー波のうち、特にレイリー波が依存する設計パラメータに着目することにより、保護膜の膜厚を不均一に設ける構造に想到した。以下、実施の形態に係る共振子における保護膜の膜厚の特徴について、詳細に説明する。なお、以下の説明では、電極指4a、4bは、まとめて電極指4として参照される。
【0032】
(実施の形態)
図3は、参考例1に係る保護膜6の形状を示す断面図である。
図3では、IDT電極3の1つの電極指4を中心として、電極指4から電極指4の両側に隣接する電極指(図示せず)の各々との中間点までの範囲が示されている。
図3の形状の保護膜6を有する共振子を、共振子70として参照する。
【0033】
共振子70では、基板2の主面を覆う保護膜6の第1部分の厚みが30nmで均一であり、電極指4の上面を覆う保護膜6の第2部分の厚みが50nmで均一であり、電極指4の側面を覆う保護膜6の第3部分の厚みが50nmで均一である。
図3に示される断面構造は、共振子70において、各電極指4を中心として設けられている。
【0034】
図4は、実施例1に係る保護膜6の形状を示す断面図である。
図4の(a)には、IDT電極3の1つの電極指4を中心として、電極指4から電極指4の両側に隣接する電極指(図示せず)の各々との中間点までの範囲が示されている。
図4の(b)には、隣接する2つの電極指4a、4bが示されている。なお、「隣接する電極指」とは、隣り合って配置される電極指4a及び電極指4bのことであり、複数の電極指4aのうち隣り合う電極指4a同士、及び、複数の電極指4bのうち隣り合う電極指4b同士のことではない。
図4の形状の保護膜6を有する共振子を、共振子71として参照する。
【0035】
共振子71では、基板2の主面を覆う保護膜6の第1部分のうち、隣接する電極指4間の中間部の厚みが50nmであり、電極指4の近傍部の厚みが10nmである。また、電極指4の上面を覆う保護膜6の第2部分の厚みが50nmで均一であり、電極指4の側面を覆う保護膜6の第3部分の厚みが50nmで均一である。つまり、共振子71では、基板2の主面を覆う保護膜6の第1部分のうち、隣接する電極指4間の中間部が、電極指4の近傍部より厚い。例えば、電極指4a、4bの各側面を覆って互いに対向する2つの保護
膜6の間隔(ギャップ)をGとした場合、隣接する電極指間の中間部は、上記2つの保護
膜6の中間点を含み、当該中間点を基準として電極指4a側および電極指4b側のそれぞれに0G以上0.1G以下離れた範囲である。また、電極指の近傍部は、電極指4aの側面を覆う保護
膜6から0G以上0.1G以下離れた範囲、または、電極指4bの側面を覆う保護
膜6から0G以上0.1G以下離れた範囲である。
図4に示される断面構造は、共振子71において、各電極指4を中心として設けられている。
【0036】
図3、
図4に示す寸法条件に従って共振子70、71のモデルを設定し、シミュレーションによりインピーダンスの周波数特性を求めた。IDT電極3の設計パラメータは、共振子70、71で同一とした。
【0037】
図5は、共振子70、71のインピーダンスの周波数特性の一例を示すグラフである。
図5に見られるように、1900MHz~2000MHz付近で生じるメインモードのレスポンスは、共振子70、71においてほぼ同一である。つまり、保護膜6を均一とするか不均一とするかは、メインモードの周波数特性に実質的に影響しないことが分かる。これに対し、1420MHz~1440MHz付近で生じるレイリー波レスポンスの周波数は、共振子70、71で差があることが分かる。
【0038】
図6は、レイリー波レスポンスを拡大して示すグラフである。
図6に見られるように、レイリー波レスポンスの周波数は、共振子70、71で、約5MHzの差がある。
【0039】
この結果から、保護膜を不均一な厚みで設けることで、保護膜の厚みが均一な場合と比べて、メインモードの周波数特性を実質的に変えることなく、レイリー波レスポンスが発生する周波数を変えられることが分かる。
【0040】
以下では、保護膜6の形状が異なる他の実施例に係る共振子について説明する。
【0041】
図7は、参考例2に係る保護膜6の形状を示す断面図である。
図7では、IDT電極3の1つの電極指4を中心として、電極指4から電極指4の両側に隣接する電極指(図示せず)の各々との中間点までの範囲が示されている。
図7の形状の保護膜6を有する共振子を、共振子80として参照する。
【0042】
共振子80では、基板2の主面を覆う保護膜6の第1部分の厚みが30nmで均一であり、電極指4の上面を覆う保護膜6の第2部分の厚みが30nmで均一であり、電極指4の側面を覆う保護膜6の第3部分の厚みが30nmで均一である。
図7に示される断面構造は、共振子80において、各電極指4を中心として設けられている。
【0043】
図8は、実施例2に係る保護膜6の形状を示す断面図である。
図8では、IDT電極3の1つの電極指4を中心として、電極指4から電極指4の両側に隣接する電極指(図示せず)の各々との中間点までの範囲が示されている。
図8の形状の保護膜6を有する共振子を、共振子81として参照する。
【0044】
共振子81では、基板2の主面を覆う保護膜6の第1部分のうち、隣接する電極指4間の中間部の厚みが50nmであり、電極指4の近傍部の厚みが10nmである。また、電極指4の上面を覆う保護膜6の第2部分のうち、上面の中央部を覆う部分の厚みが50nmであり、上面の端部を覆う部分の厚みが10nmである。また、電極指4の側面を覆う保護膜6の第3部分の厚みが30nmで均一である。つまり、共振子81では、基板2の主面を覆う保護膜6の第1部分のうち、隣接する電極指4間の中間部が、電極指4の近傍部より厚いことに加えて、電極指4の上面を覆う保護膜6の第2部分のうち、上面の中央部を覆う部分が、上面の端部を覆う部分より厚い。
図8に示される断面構造は、共振子81において、各電極指4を中心として設けられている。
【0045】
図9は、実施例3に係る保護膜6の形状を示す断面図である。
図9では、IDT電極3の1つの電極指4を中心として、電極指4から電極指4の両側に隣接する電極指(図示せず)の各々との中間点までの範囲が示されている。
図9の形状の保護膜6を有する共振子を、共振子82として参照する。
【0046】
共振子82では、基板2の主面を覆う保護膜6の第1部分のうち、隣接する電極指4間の中間部の厚みが50nmであり、電極指4の近傍部の厚みが10nmである。また、電極指4の上面を覆う保護膜6の第2部分のうち、上面の中央部を覆う部分の厚みが10nmであり、上面の端部を覆う部分の厚みが50nmである。また、電極指4の側面を覆う保護膜6の第3部分の厚みが30nmで均一である。つまり、共振子82では、基板2の主面を覆う保護膜6の第1部分のうち、隣接する電極指4間の中間部が、電極指4の近傍部より厚いことに加えて、電極指4の上面を覆う保護膜6の第2部分のうち、上面の中央部を覆う部分が、上面の端部を覆う部分より薄い。
図9に示される断面構造は、共振子82において、各電極指4を中心として設けられている。
【0047】
図10は、実施例4に係る保護膜6の形状を示す断面図である。
図10では、IDT電極3の1つの電極指4を中心として、電極指4から電極指4の両側に隣接する電極指(図示せず)の各々との中間点までの範囲が示されている。
図10の形状の保護膜6を有する共振子を、共振子83として参照する。
【0048】
共振子83では、基板2の主面を覆う保護膜6の第1部分のうち、隣接する電極指4間の中間部の厚みが50nmであり、電極指4の近傍部の厚みが10nmである。また、電極指4の上面を覆う保護膜6の第2部分の厚みが30nmで均一である。また、電極指4の側面を覆う保護膜6の第3部分のうち、側面の下部を覆う部分の厚みが50nmであり、側面の上部を覆う部分の厚みが10nmである。つまり、共振子83では、基板2の主面を覆う保護膜6の第1部分のうち、隣接する電極指4間の中間部が、電極指4の近傍部より厚いことに加えて、電極指4の側面を覆う保護膜6の第3部分のうち、側面の下部を覆う部分が、側面の上部を覆う部分より厚い。
図10に示される断面構造は、共振子83において、各電極指4を中心として設けられている。
【0049】
図11は、実施例5に係る保護膜6の形状を示す断面図である。
図11では、IDT電極3の1つの電極指4を中心として、電極指4から電極指4の両側に隣接する電極指(図示せず)の各々との中間点までの範囲が示されている。
図11の形状の保護膜6を有する共振子を、共振子84として参照する。
【0050】
共振子84では、基板2の主面を覆う保護膜6の第1部分のうち、隣接する電極指4間の中間部の厚みが50nmであり、電極指4の近傍部の厚みが10nmである。また、電極指4の上面を覆う保護膜6の第2部分の厚みが30nmで均一である。また、電極指4の側面を覆う保護膜6の第3部分のうち、側面の下部を覆う部分の厚みが10nmであり、側面の上部を覆う部分の厚みが50nmである。つまり、共振子84では、基板2の主面を覆う保護膜6の第1部分のうち、隣接する電極指4間の中間部が、電極指4の近傍部より厚いことに加えて、電極指4の側面を覆う保護膜6の第3部分のうち、側面の下部を覆う部分が、側面の上部を覆う部分より薄い。
図11に示される断面構造は、共振子84において、各電極指4を中心として設けられている。
【0051】
図12は、実施例6に係る保護膜6の形状を示す断面図である。
図12では、IDT電極3の1つの電極指4を中心として、電極指4から電極指4の両側に隣接する電極指(図示せず)の各々との中間点までの範囲が示されている。
図12の形状の保護膜6を有する共振子を、共振子85として参照する。
【0052】
共振子85では、基板2の主面を覆う保護膜6の第1部分のうち、隣接する電極指4間の中間部の厚みが50nmであり、電極指4の近傍部の厚みが10nmである。また、電極指4の上面を覆う保護膜6の第2部分のうち、上面の中央部を覆う部分の厚みが50nmであり、上面の端部を覆う部分の厚みが10nmである。また、電極指4の側面を覆う保護膜6の第3部分のうち、側面の下部を覆う部分の厚みが50nmであり、側面の上部を覆う部分の厚みが10nmである。つまり、共振子
85では、基板2の主面を覆う保護膜6の第1部分のうち、隣接する電極指4間の中間部が、電極指4の近傍部より厚いことに加えて、電極指4の上面を覆う保護膜6の第2部分のうち、上面の中央部を覆う部分が、上面の端部を覆う部分より厚い。さらには、電極指4の側面を覆う保護膜6の第3部分のうち、側面の下部を覆う部分が、側面の上部を覆う部分より厚い。
図12に示される断面構造は、共振子85において、各電極指4を中心として設けられている。
【0053】
図7~12に示す寸法条件に従って共振子80~85のモデルを設定し、シミュレーションによりインピーダンスの周波数特性を求めた。IDT電極3の設計パラメータは、共振子80~85で同一とした。メインモードのレスポンスは、共振子80~85においてほぼ同一であった(図示せず)。
【0054】
図13は、共振子80~85のレイリー波レスポンスを拡大して示すグラフである。
図13に見られるように、レイリー波レスポンスの周波数は、共振子80と、共振子81~85の各々とで約3MHz~9MHzの差がある。
【0055】
この結果から、保護膜を不均一な厚みで設けることで、保護膜の厚みが均一な場合と比べて、メインモードの周波数特性を実質的に変えることなく、レイリー波レスポンスが発生する周波数を変えられることが分かる。
【0056】
以上説明した、保護膜を不均一な厚みで設けた共振子は、例えば、共通接続され、マルチプレクサを構成する複数のフィルタに用いることができる。
【0057】
図14は、マルチプレクサの一般的な構成の例を示す機能ブロック図である。
図14に示されるように、マルチプレクサ90は、一端同士が共通接続されたフィルタ91、92を備え、フィルタ91、92のうち少なくとも1つのフィルタは、保護膜の厚みが不均一な弾性波デバイス(例えば、共振子71、81~85のうちのいずれかの共振子)を用いて構成されている。
【0058】
マルチプレクサ90において、例えば、フィルタ91のレイリー波レスポンスの周波数がフィルタ92の通過帯域と一致したとする。この場合、フィルタ91を保護膜の厚みが不均一な共振子で構成することで、フィルタ91の通過特性を維持しながら、フィルタ91のレイリー波レスポンスの周波数をフィルタ92の通過帯域からずらすことができる。
【0059】
以上、本発明の実施の形態に係る弾性波デバイスおよびマルチプレクサについて、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、個々の実施の形態には限定されない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の一つ又は複数の態様の範囲内に含まれてもよい。
【0060】
厚みが不均一な保護膜の形成方法は、特には限定されないが、一例として、保護膜の形成時のスパッタ条件や、保護膜を削り周波数調整する工程でのエッチングやミリングの条件によって形成することができる。つまり、厚みが不均一な保護膜は、既存の複数の工程を利用して低コストに形成することができる。
【0061】
具体的に、保護膜の特定の形状への加工は、周波数調整時(保護膜を削る時)にコントロールすることで、周波数調整前の波形を確認後、メインモードの周波数を合わせることと同時に行ってもよい。
【0062】
また、保護膜形成前や、周波数調整前で、メインモードとレイリー波レスポンスの位置を把握し、必要に応じてスパッタやエッチング、ミリングの条件をサンプル毎に変えるといった適応的な方法を採ることもできる。
【0063】
(まとめ)
以上説明したように、本発明の一態様に係る弾性波デバイスは、SH波をメインモードとして利用する弾性波デバイスであって、基板と、前記基板の主面上に形成された複数の電極指を有するIDT電極と、前記基板の前記主面、前記複数の電極指の側面および上面を途切れなく覆う保護膜と、を備え、前記基板の前記主面を覆う前記保護膜の部分のうち、隣接する前記電極指の中間部が、前記電極指の近傍部より厚い。
【0064】
また、前記電極指の前記上面を覆う前記保護膜の部分のうち、前記上面の中央部を覆う部分が、前記上面の端部を覆う部分より厚くてもよい。
【0065】
また、前記電極指の前記上面を覆う前記保護膜の部分のうち、前記上面の中央部を覆う部分が、前記上面の端部を覆う部分より薄くてもよい。
【0066】
また、前記電極指の前記側面を覆う前記保護膜の部分のうち、前記側面の下部を覆う部分が、前記側面の上部を覆う部分より厚くてもよい。
【0067】
また、前記電極指の前記側面を覆う前記保護膜の部分のうち、前記側面の下部を覆う部分が、前記側面の上部を覆う部分より薄くてもよい。
【0068】
これにより、保護膜を不均一な厚みで設けることで、保護膜の厚みが均一な場合と比べて、レイリー波レスポンスが発生する周波数を変化させることができる。このとき、IDT電極の設計パラメータを変化させなければ、メインモードの周波数特性は実質的に変化しない。したがって、メインモードの周波数特性を実質的に変えることなく、レイリー波レスポンスが発生する周波数を変えることができる弾性波デバイスが得られる。
【0069】
例えば、レイリー波レスポンスが他のフィルタの通過特性に悪影響を与える場合など、保護膜を不均一な厚みで設けることで、メインモードの周波数特性を維持しながら、レイリー波レスポンスの周波数を他のフィルタの通過帯域からずらすことができる。
【0070】
また、前記基板は、タンタル酸リチウムを含有する圧電材料で構成され、前記IDT電極が一方の主面上に形成された圧電体層からなっていてもよい。
【0071】
また、前記基板は、タンタル酸リチウムを含有する圧電材料で構成され、前記IDT電極が一方の主面上に形成された圧電体層と、前記圧電体層を伝搬する弾性波音速よりも、伝搬するバルク波音速が高速である高音速支持基板と、前記高音速支持基板と前記圧電体層との間に配置され、前記圧電体層を伝搬する弾性波音速よりも、伝搬するバルク波音速が低速である低音速膜と、を有してもよい。
【0072】
これにより、基板が単層構造および積層構造のいずれの構造の弾性波デバイスであっても、メインモードの周波数特性を実質的に変えることなく、レイリー波レスポンスが発生する周波数を変えることができる弾性波デバイスが得られる。
【0073】
また、前記保護膜の最大の厚みが、前記IDT電極の厚みの半分以下であるとしてもよい。
【0074】
これにより、保護膜が過度に厚くならないので、保護膜が厚い場合に生じるQ値の劣化が抑えられる。その結果、特性に優れた弾性波デバイスが得られる。
【0075】
本発明の一態様に係るマルチプレクサは、一端同士が互いに接続された複数のフィルタを備え、前記複数のフィルタのうち少なくとも1つのフィルタは、前記弾性波デバイスを用いて構成されている。
【0076】
これにより、前述した弾性波デバイスの効果に基づき、通過特性に優れたマルチプレクサが得られる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、弾性波デバイスおよび弾性波デバイスを用いたマルチプレクサとして、携帯電話などの通信機器に広く利用できる。
【符号の説明】
【0078】
1、70、71、80~85 共振子
2 基板
3 IDT電極
3a、3b 櫛歯状電極
4、4a、4b 電極指
5a、5b バスバー電極
6 保護膜
21 高音速支持基板
22 低音速膜
23 圧電体層
31、33 密着層
32 主電極層
90 マルチプレクサ
91、92 フィルタ