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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】電力変換装置及び電力変換方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/26 20160101AFI20221101BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20221101BHJP
   H02P 6/185 20160101ALI20221101BHJP
【FI】
H02P21/26
H02M7/48 E
H02P6/185
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021087179
(22)【出願日】2021-05-24
【審査請求日】2021-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006622
【氏名又は名称】株式会社安川電機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100171099
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 考弘
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/090524(WO,A1)
【文献】特表2019-537412(JP,A)
【文献】特開平6-86581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/26
H02M 7/48
H02P 6/185
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間の経過に応じて大きさが変化する検査電圧を電力変換回路から電動機に印加させる検査電圧印加部と、
前記検査電圧の印加による前記電動機の回転を規制するように、規制電圧を前記電力変換回路から前記電動機に印加させる規制制御部と、
前記検査電圧と、前記検査電圧に応じて前記電力変換回路と前記電動機との間に流れた検査電流との関係に基づいて、電流と前記電動機のインダクタンスとの関係を表すインダクタンスプロファイルを生成するプロファイル生成部と、
前記電動機に流れた電流と、前記インダクタンスプロファイルとに基づいて、前記インダクタンスを推定するインダクタンス推定部と、
前記インダクタンスの推定結果に基づいて前記電力変換回路を制御する制御部と、を備える電力変換装置。
【請求項2】
前記検査電圧印加部は、前記電動機における第一座標軸に沿い、時間の経過に応じて大きさが変化する第一検査電圧を前記電力変換回路から前記電動機に印加させ、
前記規制制御部は、前記第一検査電圧の印加による前記電動機の回転を規制するように、前記第一座標軸に垂直な第二座標軸に沿った第一規制電圧を前記電力変換回路から前記電動機に印加させ、
前記プロファイル生成部は、前記第一検査電圧と、前記第一検査電圧に応じて前記電力変換回路と前記電動機との間に流れた第一検査電流との関係に基づいて、前記第一座標軸に沿った電流と前記インダクタンスとの関係を表す第一インダクタンスプロファイルを生成し、
前記インダクタンス推定部は、前記第一座標軸に沿った電流と、前記第一インダクタンスプロファイルとに基づいて、前記第一座標軸に対応する第一インダクタンスを推定し、
前記制御部は、前記第一インダクタンスの推定結果に基づいて前記電力変換回路を制御する、請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記電動機の磁極位置を推定する磁極位置推定部を更に備え、
前記検査電圧印加部は、推定された前記磁極位置を通る方向を前記第一座標軸として、前記第一検査電圧を前記電力変換回路から前記電動機に印加させる、請求項2記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記磁極位置推定部は、交流の探索電圧を前記電力変換回路から前記電動機に印加させ、前記探索電圧に応じて前記電力変換回路と前記電動機との間に流れた探索電流に基づいて前記磁極位置を推定する、請求項3記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記磁極位置推定部は、前記第一座標軸に沿った探索電圧を前記第一検査電圧に含めて前記電力変換回路から前記電動機に印加させ、
前記プロファイル生成部は、前記探索電圧を含む前記第一検査電圧と、前記探索電流を含む前記第一検査電流との関係に基づいて、前記第一インダクタンスプロファイルを生成する、請求項4記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記磁極位置推定部は、前記探索電流の大きさが極大もしくは極小となる方向に基づき磁極位置を推定する、請求項4又は5記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記検査電圧印加部は、前記探索電圧と、時間の経過に応じて大きさが変化する直流電圧とを含む前記第一検査電圧を前記電力変換回路から前記電動機に印加させる、請求項5又は6記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記検査電圧印加部は、交流電圧と、時間の経過に応じて大きさが変化する直流電圧とを含む前記第一検査電圧を前記電力変換回路から前記電動機に印加させる、請求項2~4のいずれか一項記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記検査電圧印加部は、時間の経過に応じて振幅が変化する交流電圧を含む前記第一検査電圧を前記電力変換回路から前記電動機に印加させる、請求項2~6のいずれか一項記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記検査電圧印加部は、前記第一検査電圧を前記電動機に印加させる期間とは異なる期間に、前記第二座標軸に沿った第二検査電圧を前記電力変換回路から前記電動機に印加させ、
前記規制制御部は、前記第二検査電圧の印加による前記電動機の回転を規制するように、前記第一座標軸に沿った第二規制電圧を前記電力変換回路から前記電動機に印加させ、
前記プロファイル生成部は、前記第二検査電圧と、前記第二検査電圧に応じて前記電力変換回路と前記電動機との間に流れた第二検査電流との関係に基づいて、前記第二座標軸に沿った電流と前記インダクタンスとの関係を表す第二インダクタンスプロファイルを更に生成し、
前記インダクタンス推定部は、前記第二座標軸に沿った電流と、前記第二インダクタンスプロファイルとに基づいて、前記第二座標軸に対応する第二インダクタンスを更に推定し、
前記制御部は、前記第一インダクタンス及び前記第二インダクタンスの推定結果に基づいて前記電力変換回路を制御する、請求項2記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記電動機の磁極位置を推定する磁極位置推定部を更に備え、
前記検査電圧印加部は、推定された前記磁極位置を通る方向を前記第一座標軸として、前記第一検査電圧を前記電力変換回路から前記電動機に印加させ、前記第二検査電圧を前記電力変換回路から前記電動機に印加させる、請求項10記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記磁極位置推定部は、交流の探索電圧を前記電力変換回路から前記電動機に印加させ、前記探索電圧に応じて前記電力変換回路と前記電動機との間に流れた探索電流に基づいて前記磁極位置を推定する、請求項11記載の電力変換装置。
【請求項13】
前記第一検査電圧が前記電動機に印加される期間において、
前記磁極位置推定部は、前記第一座標軸に沿った第一探索電圧を前記第一検査電圧に含めて前記電力変換回路から前記電動機に印加させ、前記第一探索電圧に応じて前記電力変換回路と前記電動機との間に流れた第一探索電流に基づいて前記磁極位置を推定し、
前記プロファイル生成部は、前記第一探索電圧を含む前記第一検査電圧と、前記第一探索電流を含む前記第一検査電流との関係に基づいて、前記第一インダクタンスプロファイルを生成し、
前記第二検査電圧が前記電動機に印加される期間において、
前記磁極位置推定部は、前記第二座標軸に沿った第二探索電圧を前記第二検査電圧に含めて前記電力変換回路から前記電動機に印加させ、前記第二探索電圧に応じて前記電力変換回路と前記電動機との間に流れた第二探索電流に基づいて前記磁極位置を推定し、
前記プロファイル生成部は、前記第二探索電圧を含む前記第二検査電圧と、前記第二探索電流を含む前記第二検査電流との関係に基づいて、前記第二インダクタンスプロファイルを生成する、請求項12記載の電力変換装置。
【請求項14】
前記磁極位置推定部は、前記第一探索電流の大きさが極大又は極小となる方向に基づいて前記磁極位置を推定し、前記第二探索電流の大きさが極大又は極小となる方向に基づいて前記磁極位置を推定する、請求項13記載の電力変換装置。
【請求項15】
前記検査電圧印加部は、前記第一探索電圧と、時間の経過に応じて大きさが変化する第一直流電圧とを含む前記第一検査電圧を前記電力変換回路から前記電動機に印加させ、前記第二探索電圧と、時間の経過に応じて大きさが変化する第二直流電圧とを含む前記第二検査電圧を前記電力変換回路から前記電動機に印加させる、請求項13又は14記載の電力変換装置。
【請求項16】
時間の経過に応じて大きさが変化する検査電圧を電力変換回路から電動機に印加させることと、
前記検査電圧の印加による前記電動機の回転を規制するように、規制電圧を前記電力変換回路から前記電動機に印加させることと、
前記検査電圧と、前記検査電圧に応じて前記電力変換回路と前記電動機との間に流れた検査電流との関係に基づいて、電流と前記電動機のインダクタンスとの関係を表すインダクタンスプロファイルを生成することと、
前記電動機に流れた電流と、前記インダクタンスプロファイルとに基づいて、前記インダクタンスを推定することと、
前記インダクタンスの推定結果に基づいて前記電力変換回路を制御することと、を含む電力変換方法。
【請求項17】
前記検査電圧を前記電力変換回路から前記電動機に印加させることは、前記電動機における第一座標軸に沿い、時間の経過に応じて大きさが変化する第一検査電圧を前記電力変換回路から前記電動機に印加させることを含み、
前記規制電圧を前記電力変換回路から前記電動機に印加させることは、前記第一検査電圧の印加による前記電動機の回転を規制するように、前記第一座標軸に垂直な第二座標軸に沿った第一規制電圧を前記電力変換回路から前記電動機に印加させることを含み、
前記インダクタンスプロファイルを生成することは、前記第一検査電圧と、前記第一検査電圧に応じて前記電力変換回路と前記電動機との間に流れた第一検査電流との関係に基づいて、前記第一座標軸に沿った電流と前記インダクタンスとの関係を表す第一インダクタンスプロファイルを生成することを含み、
前記インダクタンスを推定することは、前記第一座標軸に沿った電流と、前記第一インダクタンスプロファイルとに基づいて、前記第一座標軸に対応する第一インダクタンスを推定することを含み、
前記電力変換回路を制御することは、前記第一インダクタンスの推定結果に基づいて前記電力変換回路を制御することを含む、請求項16記載の電力変換方法。
【請求項18】
前記検査電圧を前記電力変換回路から前記電動機に印加させることは、前記第一検査電圧を前記電動機に印加させる期間とは異なる期間に、前記第二座標軸に沿った第二検査電圧を前記電力変換回路から前記電動機に印加させることを含み、
前記規制電圧を前記電力変換回路から前記電動機に印加させることは、前記第二検査電圧の印加による前記電動機の回転を規制するように、前記第一座標軸に沿った第二規制電圧を前記電力変換回路から前記電動機に印加させることを含み、
前記インダクタンスプロファイルを生成することは、前記第二検査電圧と、前記第二検査電圧に応じて前記電力変換回路と前記電動機との間に流れた第二検査電流との関係に基づいて、前記第二座標軸に沿った電流と前記インダクタンスとの関係を表す第二インダクタンスプロファイルを更に生成することを含み、
前記インダクタンスを推定することは、前記第二座標軸に沿った電流と、前記第二インダクタンスプロファイルとに基づいて、前記第二座標軸に対応する第二インダクタンスを更に推定することを含み、
前記電力変換回路を制御することは、前記第一インダクタンス及び前記第二インダクタンスの推定結果に基づいて前記電力変換回路を制御することを含む、請求項17記載の電力変換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置及び電力変換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、IPMモータの制御装置の内部信号から演算により得られる回転子磁極位置の推定信号と回転子速度推定信号を用いて、IPMモータの電機子回転磁界と回転子速度を制御する制御方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4228651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、信頼性の高いインダクタンスの推定結果に基づく制御を容易に実現可能な電力変換装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係る電力変換装置は、時間の経過に応じて大きさが変化する検査電圧を電力変換回路から電動機に印加させる検査電圧印加部と、検査電圧の印加による電動機の回転を規制するように、規制電圧を電力変換回路から電動機に印加させる規制制御部と、検査電圧と、検査電圧に応じて電力変換回路と電動機との間に流れた検査電流との関係に基づいて、電流と電動機のインダクタンスとの関係を表すインダクタンスプロファイルを生成するプロファイル生成部と、電動機に流れた電流と、インダクタンスプロファイルとに基づいて、インダクタンスを推定するインダクタンス推定部と、インダクタンスの推定結果に基づいて電力変換回路を制御する制御部と、を備える。
【0006】
本開示の他の側面に係る電力変換方法は、時間の経過に応じて大きさが変化する検査電圧を電力変換回路から電動機に印加させることと、検査電圧の印加による電動機の回転を規制するように、規制電圧を電力変換回路から電動機に印加させることと、検査電圧と、検査電圧に応じて電力変換回路と電動機との間に流れた検査電流との関係に基づいて、電流と電動機のインダクタンスとの関係を表すインダクタンスプロファイルを生成することと、電動機に流れた電流と、インダクタンスプロファイルとに基づいて、インダクタンスを推定することと、インダクタンスの推定結果に基づいて電力変換回路を制御することと、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、信頼性の高いインダクタンスの推定結果に基づく制御を容易に実現可能な電力変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】駆動システムの概略構成を例示する模式図である。
図2】制御回路の構成をより詳細に例示するブロック図である。
図3】第一インダクタンスプロファイルを生成する際における情報の入出力を例示するブロック図である。
図4】第一インダクタンスプロファイルを生成する際における磁極位置の推定原理を例示する模式図である。
図5】第一検査電流と第一検査電圧とを例示するグラフである。
図6】第一検査電流と第一検査電圧とを例示するグラフである。
図7】第一インダクタンスプロファイルを例示するグラフである。
図8】第二インダクタンスプロファイルを生成する際における情報の入出力を例示するブロック図である。
図9】第二インダクタンスプロファイルを生成する際における磁極位置の推定原理を例示する模式図である。
図10】第二検査電流と第二検査電圧とを例示するグラフである。
図11】第二インダクタンスプロファイルを例示するグラフである。
図12】制御回路のハードウェア構成を例示するブロック図である。
図13】電力変換回路の制御手順を例示するフローチャートである。
図14】第一インダクタンスプロファイルの生成手順を例示するフローチャートである。
図15】第二インダクタンスプロファイルの生成手順を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0010】
〔駆動システム〕
図1に示す駆動システム1は、電動機3により駆動対象を駆動するシステムである。駆動システム1は、電動機3と、電力変換装置2とを備える。電動機3は、同期電動機である。電動機3は、突極性を有する同期電動機であってもよい。突極性を有するとは、回転座標系の座標軸間でインダクタンスが異なることを意味する。回転座標系は、電動機3の磁極位置に同期して回転する座標系である。突極性を有する同期電動機の具体例としては、IPM(Interior Permanent Magnet)電動機又はシンクロナスリラクタンス電動機等が挙げられる。IPM電動機の磁極位置は、例えば、鉄心に埋め込まれた永久磁石が形成する界磁の磁極の位置である。シンクロナスリラクタンス電動機の磁極位置は、例えばインダクタンスが最も大きい位置である。
【0011】
電力変換装置2は、電源4(例えば電力系統)から供給される一次側電力を二次側電力に変換して電動機3に供給する。一次側電力は直流電力であってもよく、交流電力であってもよい。二次側電力は交流電力である。以下、一次側電力及び二次側電力が三相交流電力である場合の電力変換装置2の構成を例示する。
【0012】
電力変換装置2は、電力変換回路10と、制御回路100とを備える。電力変換回路10は、一次側電力を二次側電力に変換して電動機3に供給する。一例として、電力変換回路10は、整流回路11と、インバータ回路15と、電流センサ16とを有する。
【0013】
整流回路11は、例えば複数のダイオード12を含むダイオードブリッジ回路であり、一次側電力を直流電力に変換して直流母線13P,13Nに出力する。平滑コンデンサ14は、直流母線13P,13Nにおける直流電圧を平滑化する。インバータ回路15は、上記直流電力と二次側電力との間の電力変換を行う。例えばインバータ回路15は、力行状態において、直流電力を二次側電力に変換して電動機3に供給し、回生状態において、電動機3が発電する二次側電力を直流電力に変換する。例えばインバータ回路15は、複数のスイッチング素子17を有し、複数のスイッチング素子17のオン・オフを切り替えることによって上記電力変換を行う。スイッチング素子17は、例えばパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)又はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等であり、ゲート駆動信号に応じてオン・オフを切り替える。
【0014】
電流センサ16は、インバータ回路15と電力変換装置2との間に流れる電流(以下、「二次側電流」という。)を検出する。例えば電流センサ16は、二次側電力の全相(U相、V相及びW相)の電流を検出するように構成されていてもよいし、二次側電力のいずれか二相の電流を検出するように構成されていてもよい。零相電流が生じない限り、U相、V相、及びW相の電流の合計はゼロなので、二相の電流を検出する場合にも全相の電流の情報が得られる。
【0015】
以上に示した電力変換回路10の構成はあくまで一例である。電力変換回路10の構成は、一次側電力を二次側電力に変換して電動機3に供給し得る限りにおいていかようにも変更可能である。例えば、整流回路11は交流電力を直流電力に変換するPWMコンバータ回路であってもよい。電力変換回路10は、直流化を経ることなく一次側電力と二次側電力との双方向の電力変換を行うマトリクスコンバータ回路であってもよい。電源電力が直流電力である場合に、電力変換回路10は整流回路11を有していなくてもよい。
【0016】
制御回路100は、電動機3に所望の動作をさせるための制御指令を生成し、制御指令に追従する二次側電力を生成するように電力変換回路10を制御する。所望の動作の具体例としては、目標トルクに対応するトルクを発生すること、目標速度に追従した速度で回転すること等が挙げられる。制御指令は、電力変換回路10が電圧形であれば少なくとも電圧指令を含み、電力変換回路10が電流形であれば少なくとも電流指令を含む。電力変換回路10が電圧形である場合、制御回路100は、電圧指令に対応する二次側電圧を電動機3に印加するように電力変換回路10を制御する。電力変換回路10が電流形である場合、制御回路100は、電流指令に対応する二次側電流を電動機3に通流させるように電力変換回路10を制御する。
【0017】
例えば制御回路100は、機能上の構成(機能ブロック)として、駆動制御部111と、電流情報取得部112と、磁極位置推定部113と、PWM制御部114とを有する。駆動制御部111は、電動機3に所望の動作をさせるための電圧指令を生成する。例えば駆動制御部111は、電動機3のロータの磁極に同期して回転する回転座標系における電圧指令を生成する。回転座標系の具体例としては、例えば電動機3のロータの回転中心を原点とするγδ座標系が挙げられる。γδ座標系は、例えば電動機3のロータの磁極位置の方向に追従させることを目的としたγ軸と、γ軸に垂直なδ軸とを有する。磁極位置は、例えば、電動機3のステータに固定された固定座標系における磁極の回転角度(電気角)によって表される。例えば駆動制御部111は、γ軸電圧指令Vγ_refと、δ軸電圧指令Vδ_refとを生成する。γ軸電圧指令Vγ_refは、電圧指令を表す電圧指令ベクトルのγ軸成分である。δ軸電圧指令Vδ_refは、上記電圧指令ベクトルのδ軸成分である。
【0018】
電流情報取得部112は、電流センサ16による検出結果に基づいて二次側電流の情報を取得する。例えば電流情報取得部112は、電流センサ16により検出されたU相電流iu、V相電流iv及びW相電流iwに基づいて、γδ座標系におけるγ軸電流iγ及びδ軸電流iδを算出する。γ軸電流iγは、二次側電流を表す電流ベクトルのγ軸成分である。δ軸電流iδは、上記電流ベクトルのδ軸成分である。例えば電流情報取得部112は、U相電流iu、V相電流iv及びW相電流iwに対し三相二相変換を行って固定座標系における電流ベクトルを算出し、固定座標系における電流ベクトルに対し、上記磁極位置(磁極位置の推定値を含む)に基づく座標変換を行ってγ軸電流iγ及びδ軸電流iδを算出する。
【0019】
磁極位置推定部113は、二次側電圧と二次側電流とに基づいて、電動機3の磁極位置θを推定する。例えば磁極位置推定部113は、γ軸電圧指令Vγ_refと、δ軸電圧指令Vδ_refと、γ軸電流iγと、δ軸電流iδとに基づいて電動機3の磁極の位置を推定する。例えば磁極位置推定部113は、γ軸電圧指令Vγ_ref及びδ軸電圧指令Vδ_refと、γ軸電流iγ及びδ軸電流iδと、電動機3の巻線抵抗Rと、電動機3の第一インダクタンスLγと、電動機3の第二インダクタンスLδとに基づき誘起電圧ベクトルの方向を算出し、誘起電圧ベクトルの方向に基づいて電動機3の磁極の位置を推定する。第一インダクタンスLγは、γ軸電流iγに対するγ軸磁束(γ軸電流iγによりγ軸方向に発生する磁束)の比例定数である。第二インダクタンスLδは、δ軸電流iδに対するδ軸磁束(δ軸電流iδによりδ軸方向に発生する磁束)の比例定数である。
【0020】
PWM制御部114は、駆動制御部111が算出した電圧指令に対応する二次側電圧を電動機3に印加するように電力変換回路10を制御する。例えばPWM制御部114は、駆動制御部111が算出したγ軸電圧指令Vγ_ref及びδ軸電圧指令Vδ_refと、磁極位置推定部113が推定した磁極位置θとに基づいて固定座標系における電圧指令ベクトルを算出し、固定座標系における電圧指令ベクトルに対し二相三相変換を行って、U相、V相及びW相の各相の電圧指令を算出する。PWM制御部114は、U相の電圧指令に対応する電圧を電動機3のU相に印加し、V相の電圧指令に対応する電圧を電動機3のV相に印加し、W相の電圧指令に対応する電圧を電動機3のW相に印加するように、複数のスイッチング素子17のオン・オフを切り替える。なお、磁極位置推定部113による磁極位置θの推定結果は、上述した電流情報取得部112によるγ軸電流iγ及びδ軸電流iδの算出に用いられる。
【0021】
以上に例示したように、電動機3に所望の動作をさせるように電力変換回路10を制御する際には、電動機3の巻線抵抗及びインダクタンス等に基づく演算が行われる。適切な制御を行うためには、電動機3の巻線抵抗及びインダクタンスに信頼性の高い値を用いることが求められる。特に、電動機3のインダクタンスは、磁束の飽和に起因して変化する。このため、磁束の飽和に起因するインダクタンス変化を加味した演算を行わない限り、演算結果の誤差に起因して電動機3の動作の安定性が低下する可能性がある。
【0022】
磁束の飽和に起因するインダクタンス変化を加味した演算を行うためには、二次側電流(電力変換回路10と電動機3との間に流れた電流)とインダクタンスとの関係を表すインダクタンスプロファイルに基づいて、現在流れている二次側電流に対応するインダクタンスを随時算出することが考えられる。電動機3の個体差も考慮すると、電動機3ごとに適切なインダクタンスプロファイルを予め生成・記憶しておくことが望まれるが、インダクタンスプロファイルを生成・記憶することは容易ではない。
【0023】
インダクタンスプロファイルを生成するためには、電動機3のロータに対する一定方向に沿って、二次側電流の大きさを変えながら、二次側電流と二次側電圧との関係に基づいてインダクタンスを算出する必要がある。二次側電流の供給により電動機3のロータが回転してしまうと、ロータに対する二次側電流の向きが変わってしまうため、上記一定方向に二次側電流を供給し続けることができない。このため、電動機3のロータを固定した状態で二次側電流を供給する等、通常の運転とは異なる条件にて試験を行うことが求められる。
【0024】
制御回路100は、時間の経過に応じて大きさが変化する検査電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させることと、検査電圧の印加による電動機3の回転を規制するように、規制電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させることと、検査電圧と、検査電圧に応じて電力変換回路10と電動機3との間に流れた検査電流との関係に基づいて、電流と電動機3のインダクタンスとの関係を表すインダクタンスプロファイルを生成することと、電動機3に流れた電流と、インダクタンスプロファイルとに基づいて、インダクタンスを推定することと、インダクタンスの推定結果に基づいて電力変換回路10を制御することと、を実行するように構成されている。
【0025】
この構成によれば、検査電圧の印加による電動機3の回転が規制電圧の印加によって規制されるので、検査電圧を容易に変化させ、幅広い電流レンジに対してインダクタンスプロファイルを生成することができる。このため、幅広い電流レンジにおいて、高い信頼性でインダクタンスを推定することができる。従って、信頼性の高いインダクタンスの推定結果に基づく制御を容易に実現することができる。
【0026】
例えば図2に示すように、制御回路100は、機能ブロックとして、検査電圧印加部115と、磁極位置推定部120と、規制制御部116と、プロファイル生成部130と、プロファイル記憶部118と、インダクタンス推定部119とを更に有する。検査電圧印加部115は、時間の経過に応じて大きさが変化する検査電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させる。検査電圧は、少なくとも交流成分を含んでもよい。この場合、検査電圧印加部115は、検査電圧の大きさとして、検査電圧の振幅を時間の経過に応じて変化させてもよい。検査電圧は、交流成分と直流成分とを含んでもよい。この場合、検査電圧印加部115は、検査電圧の大きさとして、直流成分の大きさを時間の経過に応じて変化させてもよい。
【0027】
例えば検査電圧印加部115は、検査電圧を印加させるための電圧指令を生成し、PWM制御部114に出力する。
【0028】
磁極位置推定部120は、電動機3の磁極位置θを推定する。上述した磁極位置推定部113は、電動機3のインダクタンスに基づいて磁極位置θを推定する。これに対し、磁極位置推定部120は、電動機3のインダクタンスに基づかない手法により磁極位置θを推定する。例えば磁極位置推定部120は、交流の探索電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させ、探索電圧に応じて電力変換回路10と電動機3との間に流れた探索電流に基づいて磁極位置θを推定する。探索電圧は、例えば電動機3が追従可能な周波数よりも高い周波数の高周波電圧であってもよい。磁極位置推定部120は、探索電圧を印可させるための電圧指令を生成し、PWM制御部114に出力する。
【0029】
規制制御部116は、検査電圧の印加による電動機3の回転を規制するように、規制電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させる。例えば規制制御部116は、電動機3の回転速度をゼロに保つために、γδ座標系において必要とされる規制電圧に対応した電圧指令を算出し、PWM制御部114に出力する。
【0030】
PWM制御部114は、検査電圧印加部115、磁極位置推定部120、及び規制制御部116が算出した電圧指令に対応する二次側電圧を電動機3に印加するように電力変換回路10を制御する。例えばPWM制御部114は、規制制御部116が算出した規制電圧と、磁極位置推定部120が推定した磁極位置θとに基づいて固定座標系における電圧指令ベクトルを算出し、固定座標系における電圧指令ベクトルに対し二相三相変換を行って、U相、V相及びW相の各相の電圧指令を算出する。PWM制御部114は、U相の電圧指令に対応する電圧を電動機3のU相に印加し、V相の電圧指令に対応する電圧を電動機3のV相に印加し、W相の電圧指令に対応する電圧を電動機3のW相に印加するように、複数のスイッチング素子17のオン・オフを切り替える。
【0031】
プロファイル生成部130は、検査電圧と、検査電圧に応じて電力変換回路10と電動機3との間に流れた検査電流との関係に基づいて、電流と電動機3のインダクタンスとの関係を表すインダクタンスプロファイルを生成する。例えばプロファイル生成部130は、検査電圧印加部115が時間の経過に応じて変化させる検査電圧の大きさごとに、検査電圧と検査電流とに基づいてインダクタンスを算出し、インダクタンスを検査電流の大きさに対応付けてプロファイル記憶部118に記憶させる。これにより、インダクタンスプロファイルがプロファイル記憶部118に格納される。
【0032】
検査電圧印加部115が、検査電圧の振幅を時間の経過に応じて変化させる場合、プロファイル生成部130は、インダクタンスを検査電流の振幅に対応付ける。検査電圧印加部115が、上記直流成分の大きさを時間の経過に応じて変化させる場合、プロファイル生成部130は、インダクタンスを検査電流の直流成分の大きさに対応付けてもよい。
【0033】
インダクタンス推定部119は、プロファイル記憶部118にインダクタンスプロファイルが格納された後に、電動機3に流れた電流と、プロファイル記憶部118が格納するインダクタンスプロファイルとに基づいて、電動機3のインダクタンスを推定する。
【0034】
磁極位置推定部113は、インダクタンス推定部119によるインダクタンスの推定結果に基づいて、上述した磁極位置θの推定を行う。このため、PWM制御部114(制御部)は、インダクタンス推定部119によるインダクタンスの推定結果に基づいて電力変換回路10を制御することとなる。磁極位置推定部113が、インダクタンス推定部119によるインダクタンスの推定結果に基づいて磁極位置θの推定を行うのに加え、駆動制御部111が、インダクタンス推定部119によるインダクタンスの推定結果に基づいてγ軸電圧指令Vγ_ref及びδ軸電圧指令Vδ_refを算出してもよい。
【0035】
検査電圧印加部115は、電動機3の回転座標系における第一座標軸に沿い、時間の経過に応じて大きさが変化する第一検査電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させてもよい。なお、第一座標軸に沿った電圧とは、第一座標軸に沿った磁界を生成する電流と同じ向きに印加される電圧を意味し、第一座標軸に沿ったベクトルにより表される。
【0036】
検査電圧印加部115が第一座標軸に沿った第一検査電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させる場合、規制制御部116は、第一検査電圧の印加による電動機3の回転を規制するように、第一座標軸に垂直な第二座標軸に沿った第一規制電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させてもよい。プロファイル生成部130は、第一検査電圧と、第一検査電圧に応じて電力変換回路10と電動機3との間に流れた第一検査電流との関係に基づいて、第一座標軸に沿った電流とインダクタンスとの関係を表す第一インダクタンスプロファイルを生成してもよい。インダクタンス推定部119は、第一座標軸に沿った電流と、第一インダクタンスプロファイルとに基づいて、第一座標軸に対応する第一インダクタンスを推定してもよい。
【0037】
磁極位置推定部113は、インダクタンス推定部119による第一インダクタンスの推定結果に基づいて、上述した磁極位置θの推定を行ってもよい。この場合、PWM制御部114(制御部)は、インダクタンス推定部119による第一インダクタンスの推定結果に基づいて電力変換回路10を制御することとなる。磁極位置推定部113が、インダクタンス推定部119による第一インダクタンスの推定結果に基づいて磁極位置θの推定を行うのに加え、駆動制御部111が、インダクタンス推定部119による第一インダクタンスの推定結果に基づいてγ軸電圧指令Vγ_ref及びδ軸電圧指令Vδ_refを算出してもよい。
【0038】
第一座標軸に沿った電流とインダクタンスとの関係とは、第一座標軸に沿った電流と、第一座標軸のインダクタンスとの関係を表す。第一座標軸に沿った電流とは、第一座標軸に沿った磁界を生成する電流を意味する。第一座標軸のインダクタンスは、第一座標軸に沿った電流に対する第一座標軸に沿った磁束の比例定数である。
【0039】
検査電圧印加部115は、磁極位置θを通る方向に追従させることを目的としたγ軸の方向を第一座標軸として、第一検査電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させてもよい。例えば検査電圧印加部115は、γδ座標系において、γ軸に沿うように第一検査電圧を算出し、PWM制御部114に出力する。この場合、規制制御部116は、γδ座標系において、δ軸に沿うように第一規制電圧を算出し、PWM制御部114に出力する。
【0040】
例えばPWM制御部114は、検査電圧印加部115が算出した第一検査電圧と、規制制御部116が算出した第一規制電圧と、磁極位置推定部120が推定した磁極位置θとに基づいて固定座標系における電圧指令ベクトルを算出し、固定座標系における電圧指令ベクトルに対し二相三相変換を行って、U相、V相及びW相の各相の電圧指令を算出する。PWM制御部114は、U相の電圧指令に対応する電圧を電動機3のU相に印加し、V相の電圧指令に対応する電圧を電動機3のV相に印加し、W相の電圧指令に対応する電圧を電動機3のW相に印加するように、複数のスイッチング素子17のオン・オフを切り替える。
【0041】
図3は、第一インダクタンスプロファイルを生成する際における情報の入出力を例示するブロック図である。検査電圧印加部115は、交流電圧と、時間の経過に応じて大きさが変化する直流電圧とを含む第一検査電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させる。
【0042】
例えば検査電圧印加部115は、時間の経過に応じて大きくなる第一直流電流idc1と、電流情報取得部112が算出したγ軸電流iγとの偏差に基づき第一直流電圧Vdc1を算出する。時間の経過に応じて第一直流電流idc1が大きくなるのに対応し、第一直流電圧Vdc1も時間の経過に応じて大きくなる。検査電圧印加部115は、磁極位置推定部120が生成する第一探索電圧Vinj1と、第一直流電圧Vdc1とを含む第一検査電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させる。例えば検査電圧印加部115は、第一探索電圧Vinj1と第一直流電圧Vdc1とを加算して、γ軸に沿う第一検査電圧V11を算出する。検査電圧印加部115は、、第一検査電圧V11をγ軸電圧指令Vγ_refとしてPWM制御部114に出力する。
【0043】
検査電圧印加部115は、例えば第一直流電流idc1とγ軸電流iγとの偏差を用いて比例演算、積分演算、比例・積分演算、比例・積分・微分演算、積分-比例(I-P)演算等を行って第一直流電圧Vdc1を算出する。
【0044】
規制制御部116は、ゼロと、電動機3のロータの回転角周波数ωとの偏差に基づき第一規制電流i12を算出し、第一規制電流i12と電流情報取得部112が算出したδ軸電流iδとの偏差に基づき、δ軸に沿う第一規制電圧V12を算出する。規制制御部116は、第一規制電圧V12をδ軸電圧指令Vδ_refとしてPWM制御部114に出力する。
【0045】
規制制御部116は、例えばゼロと回転角周波数ωとの偏差を用いて比例演算、積分演算、比例・積分演算、比例・積分・微分演算、積分-比例(I-P)演算等を行って第一規制電流i12を算出する。規制制御部116は、例えば第一規制電流i12とδ軸電流iδとの偏差を用いて比例演算、積分演算、比例・積分演算、比例・積分・微分演算、積分-比例(I-P)演算等を行って第一規制電圧V12を算出する。
【0046】
磁極位置推定部120は、交流の第一探索電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させ、第一探索電圧に応じて電力変換回路10と電動機3との間に流れた第一探索電流に基づいて磁極位置を推定する。磁極位置推定部120は、γ軸に沿った第一探索電圧Vinj1を第一検査電圧V11に含めて電力変換回路10から電動機3に印加させ、第一探索電流の大きさが極大又は極小となる方向に基づき磁極位置を推定してもよい。例えば磁極位置推定部120は、探索電圧重畳部121と、座標変換部122と、探索電流抽出部123,124とを有する。
【0047】
探索電圧重畳部121は、第一探索電圧Vinj1を検査電圧印加部115に出力する。これに応じ、検査電圧印加部115が、上述したように、第一探索電圧Vinj1と第一直流電圧Vdc1とを加算して、第一検査電圧V11を算出する。これにより、第一検査電圧V11に、第一探索電圧Vinj1が含められる。
【0048】
座標変換部122は、電流情報取得部112が算出したγ軸電流iγ及びδ軸電流iδに対してγδ座標系を-45°回転させた座標系への変換を行って、電流iγ11,iγ12を算出する。電流iγ11は、第一検査電圧V11の印加により、電力変換回路10と電動機3との間に流れる電流のうち、γ軸に対して+45°の方向に沿った成分である。電流iγ12は、第一検査電圧V11の印加により、電力変換回路10と電動機3との間に流れる電流のうち、γ軸に対して-45°の方向に沿った成分である。
【0049】
探索電流抽出部123は、バンドパスフィルタ処理等により、電流iγ11のうち第一探索電圧Vinj1に対応する成分である第一探索電流ih11を抽出し、その振幅を算出する。探索電流抽出部123は、バンドパスフィルタ処理等により、電流iγ12のうち第一探索電圧Vinj1に対応する成分である第一探索電流ih12を抽出し、その振幅を算出する。
【0050】
磁極位置推定部120は、第一探索電流ih11の振幅と第一探索電流ih12の振幅との偏差を縮小するようにγ軸の回転角周波数ωを算出し、回転角周波数ωを積分して磁極位置θを算出する。例えば磁極位置推定部120は、第一探索電流ih11の振幅と第一探索電流ih12の振幅との偏差を用いて積分演算、比例・積分演算、比例・積分・微分演算、積分-比例(I-P)演算等を行って回転角周波数ωを算出する。
【0051】
γ軸が磁極位置を通る場合、磁極位置の方向に対してインダクタンスの値が線対称に変化することから、第一探索電流ih11の振幅と第一探索電流ih12の振幅との偏差はゼロとなり、第一探索電流ih11と第一探索電流ih12とを合成した第一探索電流ih10の大きさが極大又は極小となる。γ軸が磁極位置からずれている場合、第一探索電流ih11の振幅と第一探索電流ih12の振幅との間に差が生じる。図4は、第一インダクタンスプロファイルを生成する際における磁極位置の推定原理を例示する模式図である。図4において、d軸は、磁極位置を通る座標軸であり、q軸は、電気角にてd軸に垂直な座標軸である。例えば図4の(a)に示すように、γ軸が磁極位置(d軸)に対して正方向(q軸に向かう方向)にずれている場合、d軸のインダクタンスLdがq軸のインダクタンスLqより小さければ、第一探索電流ih12の振幅が第一探索電流ih11の振幅よりも大きくなる。第一探索電流ih11の振幅と第一探索電流ih12の振幅との偏差を縮小するようにγ軸の回転角周波数ωを算出することによって、回転角周波数ωを積分して算出されるγ軸の位置が磁極位置を通るd軸の位置に近付くこととなる。
【0052】
図4の(b)に示すように、γ軸がd軸に一致すると、第一探索電流ih11の振幅と第一探索電流ih12の振幅とが等しくなる。この状態において、γ軸の回転角周波数ωは、磁極の回転角周波数ωの推定結果となり、回転角周波数ωの積分結果は磁極位置θの推定結果となる。
【0053】
図3に戻り、PWM制御部114は、検査電圧印加部115が出力したγ軸電圧指令Vγ_refと、規制制御部116が出力したδ軸電圧指令Vδ_refと、磁極位置推定部120が推定した磁極位置θとに基づいて固定座標系における電圧指令ベクトルを算出し、固定座標系における電圧指令ベクトルに対し二相三相変換を行って、U相、V相及びW相の各相の電圧指令を算出する。PWM制御部114は、U相の電圧指令に対応する電圧を電動機3のU相に印加し、V相の電圧指令に対応する電圧を電動機3のV相に印加し、W相の電圧指令に対応する電圧を電動機3のW相に印加するように、複数のスイッチング素子17のオン・オフを切り替える。
【0054】
プロファイル生成部130は、第一検査電圧V11と、第一検査電圧V11に応じて電力変換回路10と電動機3との間に流れた第一検査電流i11(図4参照)との関係に基づいて、γ軸(第一座標軸)に沿った電流とインダクタンスとの関係を表す第一インダクタンスプロファイルPLγを生成する。例えばプロファイル生成部130は、上記第一探索電圧Vinj1を含む第一検査電圧V11と、第一探索電流ih10を含む第一検査電流i11との関係に基づいて、第一インダクタンスプロファイルPLγを生成する。
【0055】
例えばプロファイル生成部130は、インダクタンス算出部131と、対応付け処理部132とを有する。インダクタンス算出部131は、第一探索電圧Vinj1の振幅である探索電圧振幅Vh1と、第一探索電流ih10の振幅と、第一探索電圧の周波数fh1とに基づいて第一インダクタンスLγを算出する。上述のように、γ軸がd軸に一致した状態において算出される第一インダクタンスLγは、d軸のインダクタンスLdに相当する。対応付け処理部132は、第一インダクタンスLγと、第一検査電流i11の大きさに相当する第一直流電流idc1とを対応付けてプロファイル記憶部118に記憶させる。時間の経過に応じて大きくなる第一直流電流idc1の値ごとに、第一インダクタンスLγと第一直流電流idc1とを対応付けたレコードがプロファイル記憶部118に蓄積されることによって、プロファイル記憶部118に第一インダクタンスプロファイルPLγが格納される。
【0056】
検査電圧印加部115は、時間の経過に応じて第一直流電流idc1を大きくすることを、正方向及び負方向の両方に対して行ってもよい。図5は、時間の経過に応じて第一直流電流idc1が正方向に大きくなる場合の第一検査電流と第一検査電圧とを例示するグラフである。図5の(a)の横軸は時間の経過を表し、縦軸は第一検査電流の瞬時値を表す。図5の(b)の横軸は時間の経過を表し、縦軸は第一検査電圧の瞬時値を表す。図5の(b)は、時間の経過に応じて正方向に増加する第一直流電圧Vdc1と、第一探索電圧Vinj1とを含む第一検査電圧V11の時間変化を示している。図5の(a)は、第一検査電圧V11の時間変化に対応する第一検査電流i11の時間変化を示している。第一直流電流idc1が正方向に大きくなるにつれて、第一探索電圧Vinj1に対応する第一探索電流ih10の振幅が大きくなる。
【0057】
図6は、時間の経過に応じて第一直流電流idc1が負方向に大きくなる場合の第一検査電流と第一検査電圧とを例示するグラフである。図6の(a)の横軸は時間の経過を表し、縦軸は第一検査電流の瞬時値を表す。図6の(b)の横軸は時間の経過を表し、縦軸は第一検査電圧の瞬時値を表す。図6の(b)は、時間の経過に応じて正方向に増加する第一直流電圧Vdc1と、第一探索電圧Vinj1とを含む第一検査電圧V11の時間変化を示している。図6の(a)は、第一検査電圧V11の時間変化に対応する第一検査電流i11の時間変化を示している。第一直流電流idc1が負方向に大きくなるにつれて、第一探索電圧Vinj1に対応する第一探索電流ih10の振幅が小さくなる。
【0058】
図7は、図5及び図6に示された第一検査電圧及び第一検査電流に基づき生成される第一インダクタンスプロファイルを例示するグラフである。図7の横軸は、第一検査電流の大きさを示す。図5及び図6に示された第一検査電圧及び第一検査電流に基づけば、第一直流電流idc1が負方向に大きくなるにつれて第一インダクタンスLγが大きくなり、第一直流電流idc1が正方向に大きくなるにつれて第一インダクタンスLγが小さくなる第一インダクタンスプロファイルPLγが生成される。上述したインダクタンス推定部119は、プロファイル記憶部118に第一インダクタンスプロファイルPLγが格納された後に、電流情報取得部112が算出したγ軸電流iγと、第一インダクタンスプロファイルPLγとに基づいて、第一インダクタンスLγを推定する。
【0059】
検査電圧印加部115は、第一検査電圧を電動機3に印加させる期間とは異なる期間に、第二座標軸に沿った第二検査電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させてもよい。この場合、規制制御部116は、第二検査電圧の印加による電動機3の回転を規制するように、第一座標軸に沿った第二規制電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させてもよい。プロファイル生成部130は、第二検査電圧と、第二検査電圧に応じて電力変換回路10と電動機3との間に流れた第二検査電流との関係に基づいて、第二座標軸に沿った電流とインダクタンスとの関係を表す第二インダクタンスプロファイルを更に生成してもよい。インダクタンス推定部119は、第二座標軸に沿った電流と、第二インダクタンスプロファイルとに基づいて、第二座標軸に対応する第二インダクタンスを更に推定してもよい。
【0060】
磁極位置推定部113は、インダクタンス推定部119による第一インダクタンス及び第二インダクタンスの推定結果に基づいて、上述した磁極位置θの推定を行ってもよい。この場合、PWM制御部114(制御部)は、インダクタンス推定部119による第一インダクタンス及び第二インダクタンスの推定結果に基づいて電力変換回路10を制御することとなる。磁極位置推定部113が、インダクタンス推定部119による第一インダクタンス及び第二インダクタンスの推定結果に基づいて磁極位置θの推定を行うのに加え、駆動制御部111が、インダクタンス推定部119による第一インダクタンス及び第二インダクタンスの推定結果に基づいてγ軸電圧指令Vγ_ref及びδ軸電圧指令Vδ_refを算出してもよい。
【0061】
第一検査電圧が電動機3に印加される期間において、磁極位置推定部120は、上述したように、第一座標軸に沿った第一探索電圧を第一検査電圧に含めて電力変換回路10から電動機3に印加させ、第一探索電圧に応じて電力変換回路10と電動機3との間に流れた第一探索電流に基づいて磁極位置を推定してもよい。プロファイル生成部130は、第一探索電圧を含む第一検査電圧と、第一探索電流を含む第一検査電流との関係に基づいて、第一インダクタンスプロファイルを生成してもよい。
【0062】
第二検査電圧が電動機3に印加される期間において、磁極位置推定部120は、第二座標軸に沿った第二探索電圧を第二検査電圧に含めて電力変換回路10から電動機3に印加させ、第二探索電圧に応じて電力変換回路10と電動機3との間に流れた第二探索電流に基づいて磁極位置を推定してもよい。プロファイル生成部130は、第二探索電圧を含む第二検査電圧と、第二探索電流を含む第二検査電流との関係に基づいて、第二インダクタンスプロファイルを生成してもよい。
【0063】
図8は、第二インダクタンスプロファイルを生成する際における情報の入出力を例示するブロック図である。検査電圧印加部115は、交流電圧と、時間の経過に応じて大きさが変化する直流電圧とを含む第二検査電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させる。
【0064】
例えば検査電圧印加部115は、時間の経過に応じて大きくなる第二直流電流idc2と、電流情報取得部112が算出したδ軸電流iδとの偏差に基づき第二直流電圧Vdc2を算出する。時間の経過に応じて第二直流電流idc2が大きくなるのに対応し、第二直流電圧Vdc2も時間の経過に応じて大きくなる。検査電圧印加部115は、磁極位置推定部120が生成する第二探索電圧Vinj2と、第二直流電圧Vdc2とを含む第二検査電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させる。例えば検査電圧印加部115は、第二探索電圧Vinj2と第二直流電圧Vdc2とを加算して、δ軸に沿う第二検査電圧V22を算出する。検査電圧印加部115は、、第二検査電圧V22をδ軸電圧指令Vδ_refとしてPWM制御部114に出力する。
【0065】
検査電圧印加部115は、例えば第二直流電流idc2とδ軸電流iδとの偏差を用いて比例演算、積分演算、比例・積分演算、比例・積分・微分演算、積分-比例(I-P)演算等を行って第二直流電圧Vdc2を算出してもよく、第二直流電流idc2とδ軸電流iδとの偏差に比例演算を行って第二直流電圧Vdc2を算出する。
【0066】
規制制御部116は、ゼロと、電動機3のロータの回転角周波数ωとの偏差に基づき第二規制電流i21を算出し、第二規制電流i21と電流情報取得部112が算出したγ軸電流iγとの偏差に基づき、γ軸に沿う第二規制電圧V21を算出する。規制制御部116は、第二規制電圧V21をγ軸電圧指令Vγ_refとしてPWM制御部114に出力する。
【0067】
規制制御部116は、例えばゼロと回転角周波数ωとの偏差を用いて比例演算、積分演算、比例・積分演算、比例・積分・微分演算、積分-比例(I-P)演算等を行って第二規制電流i21を算出する。規制制御部116は、例えば第二規制電流i21とγ軸電流iγとの偏差を用いて比例演算、積分演算、比例・積分演算、比例・積分・微分演算、積分-比例(I-P)演算等を行って第二規制電圧V21を算出する。
【0068】
磁極位置推定部120は、交流の第二探索電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させ、第二探索電圧に応じて電力変換回路10と電動機3との間に流れた第二探索電流に基づいて磁極位置を推定する。磁極位置推定部120は、δ軸に沿った第二探索電圧Vinj2を第二検査電圧V22に含めて電力変換回路10から電動機3に印加させ、第二探索電流の大きさが極大又は極小となる方向に基づき磁極位置を推定してもよい。
【0069】
例えば探索電圧重畳部121は、第二探索電圧Vinj2を検査電圧印加部115に出力する。これに応じ、検査電圧印加部115が、上述したように、第二探索電圧Vinj2と第二直流電圧Vdc2とを加算して、第二検査電圧V22を算出する。これにより、第二検査電圧V22に、第二探索電圧Vinj2が含められる。
【0070】
座標変換部122は、電流情報取得部112が算出したγ軸電流iγ及びδ軸電流iδに対してγδ座標系を+45°回転させた座標系への変換を行って、電流iδ21,電流iδ22を算出する。電流iδ21は、第二検査電圧V22の印加により、電力変換回路10と電動機3との間に流れる電流のうち、δ軸に対して-45°の方向に沿った成分である。電流iδ22は、第二検査電圧V22の印加により、電力変換回路10と電動機3との間に流れる電流のうち、δ軸に対して+45°の方向に沿った成分である。なお、δ軸に対して-45°の方向は、γ軸に対して+45°の方向に相当する。また、δ軸に対して+45°の方向は、γ軸に対して-45°の方向を反転した方向に相当する。このため、上述のiγ11及びiγ12を算出した場合と同じく、γδ座標系を-45°回転させた座標系への変換を行って、電流iδ21,iδ22の代わりに電流iδ11(γ軸に対して-45°方向の成分),iδ12(γ軸に対して+45°方向の成分)を算出し、電流iδ21,iδ22に基づく後述の演算を、電流iδ11,iδ12に基づき行うことも可能である。
【0071】
探索電流抽出部123は、バンドパスフィルタ処理等により、電流iδ21のうち第二探索電圧Vinj2に対応する成分である第二探索電流ih21を抽出し、その振幅を算出する。探索電流抽出部123は、バンドパスフィルタ処理等により、電流iδ22のうち第二探索電圧Vinj2に対応する成分である第二探索電流ih22を抽出し、その振幅を算出する。
【0072】
磁極位置推定部120は、第二探索電流ih21の振幅と第二探索電流ih22の振幅との偏差を縮小するようにγ軸の回転角周波数ωを算出し、回転角周波数ωを積分して磁極位置θを算出する。例えば磁極位置推定部120は、第二探索電流ih21の振幅と第二探索電流ih22の振幅との偏差を用いて積分演算、比例・積分演算、比例・積分・微分演算、積分-比例(I-P)演算等を行って回転角周波数ωを算出する。
【0073】
δ軸に沿った第二探索電圧Vinj2を第二検査電圧V22に含める場合においても、γ軸が磁極位置を通る場合には、磁極位置対して±90°の方向に対してインダクタンスの値が線対称に変化することから、第二探索電流ih21の振幅と第二探索電流ih22の振幅との偏差がゼロとなり、第二探索電流ih21と第二探索電流ih22とを合成した第二探索電流ih20の大きさが極大又は極小となる。図9は、第二インダクタンスプロファイルを生成する際における磁極位置の推定原理を例示する模式図である。γ軸が磁極位置からずれている場合(δ軸がq軸からずれている場合)、第二探索電流ih21の振幅と第二探索電流ih22の振幅との間に差が生じる。例えば図9の(a)に示すように、γ軸が磁極位置(図中のd軸)に対して正方向(図中のq軸に向かう方向)にずれている場合、d軸のインダクタンスLdがq軸のインダクタンスLqより小さければ、第二探索電流ih22の振幅が第二探索電流ih21の振幅よりも大きくなる。第二探索電流ih21の振幅と第二探索電流ih22の振幅との偏差を縮小するようにγ軸の回転角周波数ωを算出することによって、回転角周波数ωを積分して算出されるγ軸の位置が磁極位置を通るd軸の位置に近付くこととなる。
【0074】
図9の(b)に示すように、γ軸がd軸に一致すると、第二探索電流ih21の振幅と第二探索電流ih22の振幅とが等しくなる。この状態において、γ軸の回転角周波数ωは、磁極の回転角周波数ωの推定結果となり、回転角周波数ωの積分結果は磁極位置θの推定結果となる。
【0075】
このように、δ軸に沿った第二探索電圧Vinj2を第二検査電圧V22に含める場合においても、γ軸に沿った第一探索電圧Vinj1を第一検査電圧V11に含める場合と同様に、磁極の回転角周波数ωと磁極位置θとを推定することができる。
【0076】
図8に戻り、PWM制御部114は、検査電圧印加部115が出力したδ軸電圧指令Vδ_refと、規制制御部116が出力したγ軸電圧指令Vγ_refと、磁極位置推定部120が推定した磁極位置θとに基づいて固定座標系における電圧指令ベクトルを算出し、固定座標系における電圧指令ベクトルに対し二相三相変換を行って、U相、V相及びW相の各相の電圧指令を算出する。PWM制御部114は、U相の電圧指令に対応する電圧を電動機3のU相に印加し、V相の電圧指令に対応する電圧を電動機3のV相に印加し、W相の電圧指令に対応する電圧を電動機3のW相に印加するように、複数のスイッチング素子17のオン・オフを切り替える。
【0077】
プロファイル生成部130は、第二検査電圧V22と、第二検査電圧V22に応じて電力変換回路10と電動機3との間に流れた第二検査電流i22(図4参照)との関係に基づいて、δ軸(第二座標軸)に沿った電流とインダクタンスとの関係を表す第二インダクタンスプロファイルPLδを生成する。例えばプロファイル生成部130は、上記第二探索電圧Vinj2を含む第二検査電圧V22と、第二探索電流ih20を含む第二検査電流i22との関係に基づいて、第二インダクタンスプロファイルPLδを生成する。
【0078】
例えばインダクタンス算出部131は、第二探索電圧Vinj2の振幅である探索電圧振幅Vh2と、第二探索電流ih20の振幅と、第二探索電圧の周波数fh2とに基づいて第二インダクタンスLδを算出する。上述のように、γ軸がd軸に一致した状態において算出される第二インダクタンスLδは、q軸のインダクタンスLqに相当する。対応付け処理部132は、第二インダクタンスLδと、第二検査電流i22の大きさに相当する第二直流電流idc2とを対応付けてプロファイル記憶部118に記憶させる。時間の経過に応じて大きくなる第二直流電流idc2の値ごとに、第二インダクタンスLδと第二直流電流idc2とを対応付けたレコードがプロファイル記憶部118に蓄積されることによって、プロファイル記憶部118に第二インダクタンスプロファイルPLδが格納される。
【0079】
時間の経過に応じて第二直流電流idc2が正方向に大きくなる場合と、時間の経過に応じて第二直流電流idc2が負方向に大きくなる場合とで、第二直流電流idc2の大きさと第二インダクタンスLδとの関係は等しいとみなし得る。そこで、検査電圧印加部115は、時間の経過に応じて第二直流電流idc2を大きくすることを、正方向及び負方向のいずれか一方に対して行ってもよい。図10は、時間の経過に応じて第二直流電流idc2が正方向に大きくなる場合の第二検査電流と第二検査電圧とを例示するグラフである。図10の(a)の横軸は時間の経過を表し、縦軸は第二検査電流の瞬時値を表す。図10の(b)の横軸は時間の経過を表し、縦軸は第二検査電圧の瞬時値を表す。図10の(b)は、時間の経過に応じて正方向に増加する第二直流電圧Vdc2と、第二探索電圧Vinj2とを含む第二検査電圧V22の時間変化を示している。図10の(a)は、第二検査電圧V22の時間変化に対応する第二検査電流i22の時間変化を示している。第二直流電流idc2が正方向に大きくなるにつれて、第二探索電圧Vinj2に対応する第二探索電流ih20の振幅が大きくなる。
【0080】
図11は、図10に示された第二検査電圧及び第二検査電流に基づき生成される第二インダクタンスプロファイルを例示するグラフである。図11の横軸は、第二検査電流の大きさを示す。図10に示された第二検査電圧及び第二検査電流に基づけば、第二直流電流idc2が正方向に大きくなるにつれて第二インダクタンスLδが小さくなる第二インダクタンスプロファイルPLδが生成される。以下、これを正方向の第二インダクタンスプロファイルPLδという。上述のように、時間の経過に応じて第二直流電流idc2が負方向に大きくなる場合とで、第二直流電流idc2の大きさと第二インダクタンスLδとの関係は等しいとみなし得る。このため、縦軸まわりに正方向の第二インダクタンスプロファイルPLδを反転させることによって、第二直流電流idc2が負方向に大きくなる場合の第二インダクタンスプロファイルPLδ(負方向の第二インダクタンスプロファイルPLδ)が生成される(図中の破線参照)。上述したインダクタンス推定部119は、プロファイル記憶部118に第二インダクタンスプロファイルPLδが格納された後に、電流情報取得部112が算出したδ軸電流iδと、第二インダクタンスプロファイルPLδとに基づいて、第二インダクタンスLδを推定する。
【0081】
インダクタンス推定部119は、正方向の第二インダクタンスプロファイルPLδに代えて負方向の第二インダクタンスプロファイルPLδを生成し、これを反転させて正方向の第二インダクタンスプロファイルPLδを生成してもよい。また、インダクタンス推定部119は、第一インダクタンスプロファイルPLγの生成と同様に、正方向の第二インダクタンスプロファイルPLδ及び負方向の第二インダクタンスプロファイルPLδの両方を、実際に第二直流電流idc2を変化させて生成してもよい。
【0082】
なお、検査電圧印加部115は、第一直流電圧Vdc1の大きさを変化させるのに代えて、第一検査電圧V11が含む交流成分の振幅を変化させてもよい。また、検査電圧印加部115は、第一直流電圧Vdc1の大きさを変化させるのに加えて、第一検査電圧V11が含む交流成分の振幅を変化させてもよい。同様に、検査電圧印加部115は、第二直流電圧Vdc2の大きさを変化させるのに代えて、第二検査電圧V22が含む交流成分の振幅を変化させてもよい。また、検査電圧印加部115は、第二直流電圧Vdc2の大きさを変化させるのに加えて、第二検査電圧V22が含む交流成分の振幅を変化させてもよい。
【0083】
図12は、制御回路100のハードウェア構成を例示する図である。例えば制御回路100は、回路190を備える。回路190は、一以上のプロセッサ191と、メモリ192と、ストレージ193と、入出力ポート194と、スイッチング制御回路195とを有する。
【0084】
ストレージ193は、フラッシュメモリ又はハードディスク等の不揮発性の記憶媒体を含む。ストレージ193は、時間の経過に応じて大きさが変化する検査電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させることと、検査電圧の印加による電動機3の回転を規制するように、規制電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させることと、検査電圧と、検査電圧に応じて電力変換回路10と電動機3との間に流れた検査電流との関係に基づいて、電流と電動機3のインダクタンスとの関係を表すインダクタンスプロファイルを生成することと、電動機3に流れた電流と、インダクタンスプロファイルとに基づいて、インダクタンスを推定することと、インダクタンスの推定結果に基づいて電力変換回路10を制御することと、を制御回路100に実行させるためのプログラムを記憶している。例えばストレージ193は、上述した各機能ブロックを制御回路100に構成させるためのプログラムを記憶している。
【0085】
メモリ192は、ストレージ193からロードされたプログラムと、当該プログラムの実行過程で生成されるデータとを一時的に記憶する。プロセッサ191は、メモリ192が記憶するプログラムを実行することで、各機能ブロックとして制御回路100を機能させる。入出力ポート194は、プロセッサ191からの指令に応じて、電流センサ16との間で電気信号の入出力を行う。スイッチング制御回路195は、プロセッサ191からの指令に応じて、複数のスイッチング素子17のオン・オフを切り替える。以上のハードウェア構成はあくまで一例であり、適宜変更可能である。例えば、各機能ブロックの少なくともいずれかが、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の専用の回路素子により構成されていてもよい。
【0086】
〔制御手順〕
続いて、電力変換方法の一例として、制御回路100が実行する制御手順を例示する。この制御手順は、時間の経過に応じて大きさが変化する検査電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させることと、検査電圧の印加による電動機3の回転を規制するように、規制電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させることと、検査電圧と、検査電圧に応じて電力変換回路10と電動機3との間に流れた検査電流との関係に基づいて、電流と電動機3のインダクタンスとの関係を表すインダクタンスプロファイルを生成することと、電動機3に流れた電流と、インダクタンスプロファイルとに基づいて、インダクタンスを推定することと、インダクタンスの推定結果に基づいて電力変換回路10を制御することと、を含む。
【0087】
検査電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させることは、電動機3における第一座標軸に沿い、時間の経過に応じて大きさが変化する第一検査電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させることを含んでもよい。規制電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させることは、第一検査電圧の印加による電動機3の回転を規制するように、第一座標軸に垂直な第二座標軸に沿った第一規制電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させることを含んでもよい。インダクタンスプロファイルを生成することは、第一検査電圧と、第一検査電圧に応じて電力変換回路10と電動機3との間に流れた第一検査電流との関係に基づいて、第一座標軸に沿った電流とインダクタンスとの関係を表す第一インダクタンスプロファイルを生成することを含んでもよい。インダクタンスを推定することは、第一座標軸に沿った電流と、第一インダクタンスプロファイルとに基づいて、第一座標軸に対応する第一インダクタンスを推定することを含んでもよい。電力変換回路10を制御することは、第一インダクタンスの推定結果に基づいて電力変換回路10を制御することを含んでもよい。
【0088】
検査電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させることは、第一検査電圧を電動機3に印加させる期間とは異なる期間に、第二座標軸に沿った第二検査電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させることを含んでもよい。規制電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させることは、第二検査電圧の印加による電動機3の回転を規制するように、第一座標軸に沿った第二規制電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させることを含んでもよい。インダクタンスプロファイルを生成することは、第二検査電圧と、第二検査電圧に応じて電力変換回路10と電動機3との間に流れた第二検査電流との関係に基づいて、第二座標軸に沿った電流とインダクタンスとの関係を表す第二インダクタンスプロファイルを更に生成することを含んでもよい。インダクタンスを推定することは、第二座標軸に沿った電流と、第二インダクタンスプロファイルとに基づいて、第二座標軸に対応する第二インダクタンスを更に推定することを含んでもよい。電力変換回路10を制御することは、第一インダクタンス及び第二インダクタンスの推定結果に基づいて電力変換回路10を制御することを含んでもよい。
【0089】
例えば図13に示すように、制御回路100は、ステップS01にて第一インダクタンスプロファイルを生成し、ステップS02にて第二インダクタンスプロファイルを生成する。ステップS01,S02の具体的内容は後述する。
【0090】
次に、制御回路100は、ステップS03,ステップS04を実行する。ステップS03では、電流情報取得部112が、電流センサ16による検出結果に基づいて二次側電流の情報を取得する。例えば電流情報取得部112は、電流センサ16により検出されたU相電流iu、V相電流iv及びW相電流iwに基づいて、γδ座標系におけるγ軸電流iγ及びδ軸電流iδを算出する。ステップS04では、インダクタンス推定部119が、電動機3に流れた電流と、プロファイル記憶部118が格納するインダクタンスプロファイルとに基づいて、電動機3のインダクタンスを推定する。例えばインダクタンス推定部119は、γ軸電流iγと第一インダクタンスプロファイルPLγとに基づいて第一インダクタンスLγを推定し、δ軸電流iδと第二インダクタンスプロファイルPLδとに基づいて第二インダクタンスLδを推定する。
【0091】
次に、制御回路100は、ステップS05,ステップS06を実行する。ステップS05では、駆動制御部111が、電動機3に所望の動作をさせるための電圧指令を生成する。例えば駆動制御部111は、上記γ軸電圧指令Vγ_ref及びδ軸電圧指令Vδ_refを生成する。ステップS06では、磁極位置推定部113が、γ軸電圧指令Vγ_ref及びδ軸電圧指令Vδ_refと、γ軸電流iγ及びδ軸電流iδと、電動機3の巻線抵抗Rと、電動機3の第一インダクタンスLγと、電動機3の第二インダクタンスLδとに基づき誘起電圧ベクトルの方向を算出し、誘起電圧ベクトルの方向に基づいて電動機3の磁極の位置を推定する。
【0092】
次に、制御回路100は、ステップS07を実行する。ステップS07では、PWM制御部114は、駆動制御部111が算出したγ軸電圧指令Vγ_ref及びδ軸電圧指令Vδ_refと、磁極位置推定部113が推定した電動機3の磁極の位置とに基づいて、γ軸電圧指令Vγ_ref及びδ軸電圧指令Vδ_refに対応する二次側電圧を電動機3に印加するように、複数のスイッチング素子17をオン・オフさせることを開始する。その後、制御回路100は処理をステップS03に戻す。以後、電動機3の動作の停止指令が入力されるまで、制御回路100はステップS03~ステップS07を所定の制御周期で繰り返し実行する。
【0093】
図14は、ステップS01における第一インダクタンスプロファイルの生成手順を例示するフローチャートである。図14に示すように、制御回路100は、ステップS11,ステップS12を実行する。ステップS11では、検査電圧印加部115が、時間の経過に応じて大きくなる第一直流電流idc1を生成する。ステップS12では、規制制御部116が、ゼロと、電動機3のロータの回転角周波数ωとの偏差に比例・積分演算を行って第一規制電流i12を生成する。
【0094】
次に、制御回路100はステップS13,ステップS14を実行する。ステップS13では、電流情報取得部112が、電流センサ16による検出結果に基づいて二次側電流の情報を取得する。例えば電流情報取得部112は、電流センサ16により検出されたU相電流iu、V相電流iv及びW相電流iwに基づいて、γδ座標系におけるγ軸電流iγ及びδ軸電流iδを算出する。ステップS14では、検査電圧印加部115が、第一直流電流idc1とγ軸電流iγとの偏差に比例・積分演算を行って第一直流電圧Vdc1を算出する。規制制御部116が、第一規制電流i12とδ軸電流iδとの偏差に比例・積分演算を行って第一規制電圧V12を算出する。
【0095】
次に、制御回路100はステップS15を実行する。ステップS15では、磁極位置推定部120が、第一探索電圧Vinj1を検査電圧印加部115に出力する。検査電圧印加部115は、第一探索電圧Vinj1と第一直流電圧Vdc1とを加算して、第一検査電圧V11を算出する。
【0096】
次に、制御回路100はステップS17を実行する。ステップS17では、検査電圧印加部115が第一検査電圧V11をγ軸電圧指令Vγ_refとしてPWM制御部114に出力し、規制制御部116が第一規制電圧V12をδ軸電圧指令Vδ_refとしてPWM制御部114に出力する。PWM制御部114は、γ軸電圧指令Vγ_ref及びδ軸電圧指令Vδ_refに対応する二次側電圧を電動機3に印加するように、複数のスイッチング素子17をオン・オフさせることを開始する。
【0097】
次に、制御回路100はステップS18,ステップS19,ステップS21を実行する。ステップS18では、磁極位置推定部120が、γ軸電流iγ及びδ軸電流iδに基づいて上述した第一探索電流ih11の振幅及び第一探索電流ih12の振幅を算出する。ステップS19では、磁極位置推定部120が、第一探索電流ih11の振幅と第一探索電流ih12の振幅との偏差を縮小するようにγ軸の回転角周波数ωを算出する。ステップS21では、磁極位置推定部120が、γ軸の回転角周波数ωを積分して磁極位置θを算出する。
【0098】
次に、制御回路100はステップS22,ステップS23を実行する。ステップS22では、プロファイル生成部130が、第一検査電圧V11と、第一検査電圧V11に応じて電力変換回路10と電動機3との間に流れた第一検査電流i11との関係に基づいて、第一インダクタンスLγを算出する。ステップS23では、プロファイル生成部130が、第一インダクタンスLγと第一直流電流idc1とを対応付けてプロファイル記憶部118に記憶させる。
【0099】
次に、制御回路100はステップS24を実行する。ステップS24では、プロファイル生成部130が、第一直流電流idc1を変化させるように予め定められた全帯域に亘って、第一インダクタンスLγと第一直流電流idc1との対応付けが完了したか否かを確認する。ステップS24において、第一インダクタンスLγと第一直流電流idc1との対応付けが完了していない帯域が残っていると判定した場合、制御回路100は処理をステップS11に戻す。以後、第一直流電流idc1の全帯域に亘って、第一インダクタンスLγと第一直流電流idc1との対応付けが完了するまで、制御回路100はステップS11~ステップS24を繰り返す。ステップS24において、第一直流電流idc1の全帯域に亘って、第一インダクタンスLγと第一直流電流idc1との対応付けが完了したと判定した場合、制御回路100は処理を完了する。
【0100】
制御回路100は、第一直流電流idc1を正方向に大きくする場合と、第一直流電流idc1を負方向に大きくする場合の両方に対して、以上の手順を実行する。これにより、プロファイル記憶部118に第一インダクタンスプロファイルPLγが格納される。
【0101】
図15は、ステップS02における第二インダクタンスプロファイルの生成手順を例示するフローチャートである。図14に示すように、制御回路100は、ステップS31,ステップS32を実行する。ステップS31では、検査電圧印加部115が、時間の経過に応じて大きくなる第二直流電流idc2を生成する。ステップS32では、規制制御部116が、ゼロと、電動機3のロータの回転角周波数ωとの偏差に比例・積分演算を行って第二規制電流i21を生成する。
【0102】
次に、制御回路100はステップS33,ステップS34を実行する。ステップS33では、電流情報取得部112が、電流センサ16による検出結果に基づいて二次側電流の情報を取得する。例えば電流情報取得部112は、電流センサ16により検出されたU相電流iu、V相電流iv及びW相電流iwに基づいて、γδ座標系におけるγ軸電流iγ及びδ軸電流iδを算出する。ステップS34では、検査電圧印加部115が、第二直流電流idc2とδ軸電流iδとの偏差に比例・積分演算を行って第二直流電圧Vdc2を算出する。規制制御部116が、第二規制電流i21とγ軸電流iγとの偏差に比例・積分演算を行って第二規制電圧V21を算出する。
【0103】
次に、制御回路100はステップS35を実行する。ステップS35では、磁極位置推定部120が、第二探索電圧Vinj2を検査電圧印加部115に出力する。検査電圧印加部115は、第二探索電圧Vinj2と第二直流電圧Vdc2とを加算して、第二検査電圧V22を算出する。
【0104】
次に、制御回路100はステップS37を実行する。ステップS37では、検査電圧印加部115が第二検査電圧V22をδ軸電圧指令Vδ_refとしてPWM制御部114に出力し、規制制御部116が第二規制電圧V21をγ軸電圧指令Vγ_refとしてPWM制御部114に出力する。PWM制御部114は、γ軸電圧指令Vγ_ref及びδ軸電圧指令Vδ_refに対応する二次側電圧を電動機3に印加するように、複数のスイッチング素子17をオン・オフさせることを開始する。
【0105】
次に、制御回路100はステップS38,ステップS39,ステップS41を実行する。ステップS38では、磁極位置推定部120が、γ軸電流iγ及びδ軸電流iδに基づいて上述した第二探索電流ih21の振幅及び第二探索電流ih22の振幅を算出する。ステップS39では、磁極位置推定部120が、第二探索電流ih21の振幅と第二探索電流ih22の振幅との偏差を縮小するようにγ軸の回転角周波数ωを算出する。ステップS41では、磁極位置推定部120が、γ軸の回転角周波数ωを積分して磁極位置θを算出する。
【0106】
次に、制御回路100はステップS42,ステップS43を実行する。ステップS42では、プロファイル生成部130が、第二検査電圧V22と、第二検査電圧V22に応じて電力変換回路10と電動機3との間に流れた第二検査電流i22との関係に基づいて、第二インダクタンスLδを算出する。ステップS43では、プロファイル生成部130が、第二インダクタンスLδと第二直流電流idc2とを対応付けてプロファイル記憶部118に記憶させる。
【0107】
次に、制御回路100はステップS44を実行する。ステップS44では、プロファイル生成部130が、第二直流電流idc2を変化させるように予め定められた全帯域に亘って、第二インダクタンスLδと第二直流電流idc2との対応付けが完了したか否かを確認する。ステップS44において、第二インダクタンスLδと第二直流電流idc2との対応付けが完了していない帯域が残っていると判定した場合、制御回路100は処理をステップS31に戻す。以後、第二直流電流idc2の全帯域に亘って、第二インダクタンスLδと第二直流電流idc2との対応付けが完了するまで、制御回路100はステップS31~ステップS44を繰り返す。ステップS44において、第二直流電流idc2の全帯域に亘って、第二インダクタンスLδと第二直流電流idc2との対応付けが完了したと判定した場合、制御回路100は処理を完了する。
【0108】
上述したように、制御回路100は、第二直流電流idc2を正方向に大きくする場合について以上の手順を実行して正方向の第二インダクタンスプロファイルPLδを生成し、正方向の第二インダクタンスプロファイルPLδを反転させて負方向の第二インダクタンスプロファイルPLδを生成してもよい。
【0109】
〔実施形態の効果〕
以上に説明したように、電力変換装置2は、時間の経過に応じて大きさが変化する検査電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させる検査電圧印加部115と、検査電圧の印加による電動機3の回転を規制するように、規制電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させる規制制御部116と、検査電圧と、検査電圧に応じて電力変換回路10と電動機3との間に流れた検査電流との関係に基づいて、電流と電動機3のインダクタンスとの関係を表すインダクタンスプロファイルを生成するプロファイル生成部130と、電動機3に流れた電流と、インダクタンスプロファイルとに基づいて、インダクタンスを推定するインダクタンス推定部119と、インダクタンスの推定結果に基づいて電力変換回路10を制御する制御部と、を備える。
【0110】
電動機3に所望の動作をさせるように電力変換回路10を制御する際には、電動機3のインダクタンスに基づく演算が行われる。電動機3のインダクタンスは、磁束の飽和に起因して変化する。このため、磁束の飽和に起因するインダクタンス変化を加味した演算を行わない限り、演算結果の誤差に起因して電動機3の動作の安定性が低下する可能性がある。これに対し、本電力変換装置2によれば、検査電圧の印加による電動機3の回転が規制電圧の印加によって規制されるので、停止状態のまま目的の方向に沿った検査電圧を容易に変化させ、幅広い電流レンジに対してインダクタンスプロファイルを生成することができる。このため、幅広い電流レンジにおいて、高い信頼性でインダクタンスを推定することができる。従って、信頼性の高いインダクタンスの推定結果に基づく制御を容易に実現することができる。
【0111】
検査電圧印加部115は、電動機3における第一座標軸に沿い、時間の経過に応じて大きさが変化する第一検査電圧V11を電力変換回路10から電動機3に印加させ、規制制御部116は、第一検査電圧V11の印加による電動機3の回転を規制するように、第一座標軸に垂直な第二座標軸に沿った第一規制電圧V12を電力変換回路10から電動機3に印加させ、プロファイル生成部130は、第一検査電圧V11と、第一検査電圧V11に応じて電力変換回路10と電動機3との間に流れた第一検査電流i11との関係に基づいて、第一座標軸に沿った電流とインダクタンスとの関係を表す第一インダクタンスプロファイルPLγを生成し、インダクタンス推定部119は、第一座標軸に沿った電流と、第一インダクタンスプロファイルPLγとに基づいて、第一座標軸に対応する第一インダクタンスLγを推定し、制御部は、第一インダクタンスLγの推定結果に基づいて電力変換回路10を制御してもよい。この場合、第一規制電圧V12と、第一検査電圧V11との印加方向を互いに垂直にすることで、第一規制電圧V12の影響を受けることなく第一検査電圧V11を大きく変化させることができる。従って、より幅広い電流レンジに対してインダクタンスプロファイルを生成することができる。
【0112】
電動機3の磁極位置θを推定する磁極位置推定部113を更に備え、検査電圧印加部115は、推定された磁極位置θを通る方向を第一座標軸として、第一検査電圧V11を電力変換回路10から電動機3に印加させてもよい。この場合、磁極位置θを通る方向に対応するインダクタンスを高い信頼性で推定することができる。これにより、電動機3の動作の安定性を更に向上させることができる。
【0113】
磁極位置推定部113は、交流の探索電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させ、探索電圧に応じて電力変換回路10と電動機3との間に流れた探索電流に基づいて磁極位置θを推定してもよい。この場合、磁極位置θを高い信頼性で容易に推定することができるので、磁極位置θを通る方向に対応するインダクタンスをより高い信頼性で推定することができる。
【0114】
磁極位置推定部113は、第一座標軸に沿った探索電圧を第一検査電圧V11に含めて電力変換回路10から電動機3に印加させ、プロファイル生成部130は、探索電圧を含む第一検査電圧V11と、探索電流を含む第一検査電流i11との関係に基づいて、第一インダクタンスプロファイルPLγを生成してもよい。この場合、探索電圧を、第一検査電圧V11の一部として有効活用することができる。
【0115】
磁極位置推定部113は、探索電流の大きさが極大もしくは極小となる方向に基づき磁極位置θを推定してもよい。この場合、磁極位置θを更に容易に推定することができる。
【0116】
検査電圧印加部115は、探索電圧と、時間の経過に応じて大きさが変化する直流電圧とを含む第一検査電圧V11を電力変換回路10から電動機3に印加させてもよい。この場合、探索電圧を有効に活用しつつ、第一検査電圧V11の大きさを容易に変化させることができる。
【0117】
検査電圧印加部115は、交流電圧と、時間の経過に応じて大きさが変化する直流電圧とを含む第一検査電圧V11を電力変換回路10から電動機3に印加させてもよい。この場合、交流電圧に起因する電動機3の振動を抑制しつつ、第一検査電圧V11の大きさを容易に変化させることができる。
【0118】
検査電圧印加部115は、時間の経過に応じて振幅が変化する交流電圧を含む第一検査電圧V11を電力変換回路10から電動機3に印加させてもよい。この場合、第一検査電圧V11の大きさを容易に変化させることができる。
【0119】
検査電圧印加部115は、第一検査電圧V11を電動機3に印加させる期間とは異なる期間に、第二座標軸に沿った第二検査電圧V22を電力変換回路10から電動機3に印加させ、規制制御部116は、第二検査電圧V22の印加による電動機3の回転を規制するように、第一座標軸に沿った第二規制電圧V21を電力変換回路10から電動機3に印加させ、プロファイル生成部130は、第二検査電圧V22と、第二検査電圧V22に応じて電力変換回路10と電動機3との間に流れた第二検査電流i22との関係に基づいて、第二座標軸に沿った電流とインダクタンスとの関係を表す第二インダクタンスプロファイルPLδを更に生成し、インダクタンス推定部119は、第二座標軸に沿った電流と、第二インダクタンスプロファイルPLδとに基づいて、第二座標軸に対応する第二インダクタンスLδを更に推定し、制御部は、第一インダクタンスLγ及び第二インダクタンスLδの推定結果に基づいて電力変換回路10を制御してもよい。この場合、第一インダクタンスLγ及び第二インダクタンスLδの両方を、幅広い電流レンジにおいて高い信頼性で推定することができる。従って、より信頼性の高いインダクタンスの推定結果に基づく制御を容易に実現することができる。
【0120】
電動機3の磁極位置θを推定する磁極位置推定部113を更に備え、検査電圧印加部115は、推定された磁極位置θを通る方向を第一座標軸として、第一検査電圧V11を電力変換回路10から電動機3に印加させ、第二検査電圧V22を電力変換回路10から電動機3に印加させてもよい。この場合、磁極位置θを通る方向に対応するインダクタンスと、磁極位置θを通る方向に垂直な方向に対応するインダクタンスとを高い信頼性で推定することができる。これにより、電動機3の動作の安定性を更に向上させることができる。
【0121】
磁極位置推定部113は、交流の探索電圧を電力変換回路10から電動機3に印加させ、探索電圧に応じて電力変換回路10と電動機3との間に流れた探索電流に基づいて磁極位置θを推定してもよい。この場合、磁極位置θを高い信頼性で容易に推定することができるので、磁極位置θを通る方向に対応するインダクタンスをより高い信頼性で推定することができる。
【0122】
第一検査電圧V11が電動機3に印加される期間において、磁極位置推定部113は、第一座標軸に沿った第一探索電圧Vinj1を第一検査電圧V11に含めて電力変換回路10から電動機3に印加させ、第一探索電圧Vinj1に応じて電力変換回路10と電動機3との間に流れた第一探索電流ih12に基づいて磁極位置θを推定し、プロファイル生成部130は、第一探索電圧Vinj1を含む第一検査電圧V11と、第一探索電流ih12を含む第一検査電流i11との関係に基づいて、第一インダクタンスプロファイルPLγを生成し、第二検査電圧V22が電動機3に印加される期間において、磁極位置推定部113は、第二座標軸に沿った第二探索電圧Vinj2を第二検査電圧V22に含めて電力変換回路10から電動機3に印加させ、第二探索電圧Vinj2に応じて電力変換回路10と電動機3との間に流れた第二探索電流ih22に基づいて磁極位置θを推定し、プロファイル生成部130は、第二探索電圧Vinj2を含む第二検査電圧V22と、第二探索電流ih22を含む第二検査電流i22との関係に基づいて、第二インダクタンスプロファイルPLδを生成してもよい。この場合、第一探索電圧Vinj1を、第一検査電圧V11の一部として有効活用し、第二探索電圧Vinj2を、第二検査電圧V22の一部として有効活用することができる。
【0123】
磁極位置推定部113は、第一探索電流ih12の大きさが極大又は極小となる方向に基づいて磁極位置θを推定し、第二探索電流ih22の大きさが極大又は極小となる方向に基づいて磁極位置θを推定してもよい。この場合、磁極位置θを更に容易に推定することができる。
【0124】
検査電圧印加部115は、第一探索電圧Vinj1と、時間の経過に応じて大きさが変化する第一直流電圧Vdc1とを含む第一検査電圧V11を電力変換回路10から電動機3に印加させ、第二探索電圧Vinj2と、時間の経過に応じて大きさが変化する第二直流電圧Vdc2とを含む第二検査電圧V22を電力変換回路10から電動機3に印加させてもよい。この場合、第一探索電圧Vinj1及び第二探索電圧Vinj2を有効に活用しつつ、第一検査電圧V11及び第二検査電圧V22の大きさを容易に変化させることができる。
【0125】
以上、実施形態について説明したが、本発明は必ずしも例示した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、電動機3が、磁極位置に関する情報を出力するセンサを備えていてもよい。センサの具体例としては、パルスジェネレータ等が挙げられる。センサがアブソリュート型のパルスジェネレータである場合には、パルスジェネレータの出力に基づいて磁極位置を検出し、磁極位置の検出結果に基づいて回転角周波数ωを算出し、磁極位置の検出結果と回転角周波数ωの算出結果とに基づいて規制電圧を生成することが可能である。センサがインクリメンタル型のパルスジェネレータである場合、探索電圧及び探索電流に基づいて初期磁極位置を推定する。初期磁極位置の推定結果とパルスジェネレータの出力であるインクリメンタルパルスの積算とに基づいて磁極位置を検出し、インクリメンタルパルスの所定時間毎のカウント値に基づいて回転角周波数ωを算出し、磁極位置の検出結果と回転角周波数ωの算出結果とに基づいて規制電圧を生成することが可能である。
【符号の説明】
【0126】
3…電動機、2…電力変換装置、10…電力変換回路、111…駆動制御部、113…磁極位置推定部、114…PWM制御部、119…インダクタンス推定部、115…検査電圧印加部、116…規制制御部、130…プロファイル生成部、V11…第一検査電圧、V12…第一規制電圧、PLγ…第一インダクタンスプロファイル、Lγ…第一インダクタンス、Vinj1…第一探索電圧、Vdc1…第一直流電圧、i11…第一検査電流、V12…第一規制電圧、ih11…第一探索電流、ih12…第一探索電流、θ…磁極位置、V22…第二検査電圧、PLδ…第二インダクタンスプロファイル、Lδ…第二インダクタンス、Vinj2…第二探索電圧、Vdc2…第二直流電圧、i22…第二検査電流、V21…第二規制電圧、ih21…第二探索電流、ih22…第二探索電流。
【要約】
【課題】信頼性の高いインダクタンスの推定結果に基づく制御を容易に実現可能な電力変換装置を提供する。
【解決手段】電力変換装置2は、時間の経過に応じて大きさが変化する検査電圧を電力変換回路10から電動機に印加させる検査電圧印加部115と、検査電圧の印加による電動機の回転を規制するように、規制電圧を電力変換回路10から電動機に印加させる規制制御部116と、検査電圧と、検査電圧に応じて電力変換回路10と電動機との間に流れた検査電流との関係に基づいて、電流と電動機のインダクタンスとの関係を表すインダクタンスプロファイルを生成するプロファイル生成部130と、電動機に流れた電流と、インダクタンスプロファイルとに基づいて、インダクタンスを推定するインダクタンス推定部119と、インダクタンスの推定結果に基づいて電力変換回路10を制御するPWM制御部114と、を備える。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
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図10
図11
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図15