(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20221101BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20221101BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20221101BHJP
H01M 10/04 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/0585
H01M10/04 Z
(21)【出願番号】P 2021508927
(86)(22)【出願日】2020-03-05
(86)【国際出願番号】 JP2020009463
(87)【国際公開番号】W WO2020195684
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2019059015
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】坂東 賢一
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 充
(72)【発明者】
【氏名】近川 修
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/101379(WO,A1)
【文献】特開2018-152197(JP,A)
【文献】国際公開第2011/125482(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/176945(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 10/0562
H01M 10/0585
H01M 10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電池であって、
正極層、負極層、および該正極層と該負極層との間に介在する固体電解質を有する固体電池積層体
を有して成り、
前記正極層および前記負極層の電極層の各々は活物質を含み、
前記電極層のうちで前記固体電池積層体の最外層となる最外電極層は、該最外層よりも内側に位置する非最外電極層に対して異なる活物質量を有
し、
前記固体電池積層体が集電層レス構造を有している、固体電池。
【請求項2】
前記正極層および前記負極層の電極層の各々が、前記活物質および固体電解質のみを含む、請求項1に記載の固体電池。
【請求項3】
前記最外電極層の活物質量が、前記非最外電極層の活物質量の半分となっている、請求項1
または2に記載の固体電池。
【請求項4】
前記最外電極層の厚みが、前記非最外電極層の厚みの半分となっている、請求項1~
3のいずれか1項に記載の固体電池。
【請求項5】
前記正極層の前記最外電極層の厚さが前記非最外電極層となる全ての該正極層の各厚さの半分となっており、また、前記負極層の前記最外電極層の厚さが前記非最外電極層となる全ての該負極層の各厚さの半分となっている、請求項
4に記載の固体電池。
【請求項6】
前記最外電極層は、その平面視にて貫通部を成すように活物質が存在しない非活物質領域を有する、請求項1~
3のいずれか1項に記載の固体電池。
【請求項7】
前記最外電極層の平面視面積が前記非最外電極層の平面視面積の半分となっている、請求項
6に記載の固体電池。
【請求項8】
前記最外電極層がパターン層となっている、請求項
6または
7に記載の固体電池。
【請求項9】
前記最外電極層が対称的な平面視形状を有する、請求項
6~
8のいずれか1項に記載の固体電池。
【請求項10】
前記最外電極層は、前記固体電池積層体において局所的な前記非活物質領域を複数有する、請求項
6~
9のいずれか1項に記載の固体電池。
【請求項11】
前記非活物質領域に前記固体電解質が存在する、請求項
6~
10のいずれか1項に記載の固体電池。
【請求項12】
前記最外電極層と前記非最外電極層とは厚みが同一となっている、請求項
3および
6~
11のいずれか1項に記載の固体電池。
【請求項13】
前記最外電極層が、ポーラス構造を有する、請求項1~
3のいずれか1項に記載の固体電池。
【請求項14】
前記最外電極層の厚みが非一定である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の固体電池。
【請求項15】
前記最外電極層は、前記固体電池積層体において最上電極層および最下電極層に相当する、請求項1~
14のいずれか1項に記載の固体電池。
【請求項16】
前記固体電池積層体が焼結体から成る、請求項1~
15のいずれか1項に記載の固体電池。
【請求項17】
前記正極層および前記負極層は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な層となっている、請求項1~
16のいずれか1項に記載の固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電池に関する。より具体的には、本発明は、電池構成単位を構成する各層が積層して成る積層型固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、繰り返しの充放電が可能な二次電池は様々な用途に用いられている。例えば、二次電池は、スマートフォンおよびノートパソコン等の電子機器の電源として用いられたりする。
【0003】
二次電池においては、充放電に寄与するイオン移動のための媒体として液体の電解質が一般に使用されている。つまり、いわゆる電解液が二次電池に用いられている。しかしながら、そのような二次電池においては、電解液の漏出防止点で安全性が一般に求められる。また、電解液に用いられる有機溶媒等は可燃性物質ゆえ、その点でも安全性が求められる。
【0004】
そこで、電解液に代えて、固体電解質を用いた固体電池について研究が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-181905号公報
【文献】特許2017-183052号公報
【文献】特開2011-198692号公報
【文献】国際公開(WO)2008/099508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
固体電池は、正極層、負極層、およびそれらの間の固体電解質から成る固体電池積層体を有して成る(上記の特許文献1~4参照)。固体電池積層体では、例えば、上記の特許文献1~3で開示されるように、正極層および負極層の電極が、集電層・集電体(以下では、簡易的に「集電層」とも称する)を備えていることが多い。一方、そのような固体電池積層体において、集電層を備えていない“集電レス”の固体電池も考えられている(上記の特許文献4)。
【0007】
本願発明者は、集電レスの固体電池では克服すべき課題があることに気付き、そのための対策を取る必要性を見出した。具体的には以下の課題があることを本願発明者は見出した。
【0008】
正極層および負極層の電極に集電層を備える固体電池では、集電層が電気導電体ゆえに電気を通す特性を有するものの、イオンは通さない特性を有する。よって、集電層を無くすと、イオン的な絶縁がなされなくなり、固体電池における充放電反応のバランスがくずれてしまう場合があり得る。固体電池の充放電反応では、リチウムイオンが固体電解質を介して正極~負極間を行き来することになるが、集電レスの固体電池は、かかる充放電反応の点で好適とならない場合があることを本願発明者らは見出した。
【0009】
本発明はかかる課題に鑑みて為されたものである。即ち、本発明の主たる目的は、充放電反応の点でより好適な集電レスの固体電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者は、従来技術の延長線上で対応するのではなく、新たな方向で対処することによって上記課題の解決を試みた。その結果、上記主たる目的が達成された固体電池の発明に至った。
【0011】
本発明では、固体電池であって、
正極層、負極層、およびそれらの電極間に介在する固体電解質を有する固体電池積層体
を有して成り、
正極層および負極層の電極層の各々は活物質を含み、
電極層のうち固体電池積層体の最外層となる最外電極層は、その最外層よりも内側に位置する非最外電極層に対して異なる活物質量を有する、固体電池が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る固体電池は、充放電反応の点でより好適な集電レスの固体電池となっている。
【0013】
より具体的には、本発明の固体電池では、最外電極層と非最外電極層との間で充放電深度のバランスが向上したものとなっている。その結果、放電時に規定の電圧を得やすくなり、狙いのエネルギー密度で放電することが可能となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る固体電池(特に固体電池積層体)を模式的に示した断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る固体電池(特に正極および負極を区別して表した固体電池積層体)を模式的に示した断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る固体電池を模式的に示した断面図である。
【
図4】
図4(A)~(D)は、パターン層として設けられた最外電極層の模式的平面図である。
【
図5】
図5(A)~(D)は、パターン層として設けられた最外電極層の模式的平面図である。
【
図6】
図6(A)および(B)は、パターン層として設けられた最外電極層の模式的平面図である。
【
図7】
図7は、最外電極層がポーラス構造となっている態様を有する固体電池積層体の模式的断面図を示す。
【
図8】
図8は、最外電極層の各厚みが非一定となっている態様(相対的肉厚部分および相対的肉薄部分を有する形態)を有する固体電池積層体の模式的断面図を示す。
【
図9】
図9は、最外電極層の各厚みが非一定となっている態様(厚み寸法が周期的に変動する形態)を有する固体電池積層体の模式的断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の「固体電池」を詳細に説明する。必要に応じて図面を参照して説明を行うものの、図示する内容は、本発明の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観や寸法比などは実物と異なり得る。
【0016】
本発明でいう「固体電池」は、広義にはその構成要素が固体から構成されている電池を指し、狭義にはその電池構成要素(特に好ましくは全ての電池構成要素)が固体から構成されている全固体電池を指している。ある好適な態様では、本発明における固体電池は、電池構成単位を成す各層が互いに積層するように構成された積層型固体電池であり、好ましくはそのような各層が焼結体から成っている。なお、「固体電池」は、充電および放電の繰り返しが可能な、いわゆる「二次電池」のみならず、放電のみが可能な「一次電池」をも包含する。本発明のある好適な態様に従うと「固体電池」は二次電池である。「二次電池」は、その名称に過度に拘泥されるものでなく、例えば、蓄電デバイスなども包含し得る。
【0017】
本明細書でいう「平面視」とは、固体電池を構成する各層の積層方向に基づく厚み方向に沿って対象物を上側または下側から捉えた場合の形態に基づいている。又、本明細書でいう「断面視」とは、固体電池を構成する各層の積層方向に基づく厚み方向に対して略垂直な方向から捉えた場合の形態(端的にいえば、厚み方向に平行な面で切り取った場合の形態)に基づいている。本明細書で直接的または間接的に用いる“上下方向”および“左右方向”は、それぞれ図中における上下方向および左右方向に相当する。特記しない限り、同じ符号または記号は、同じ部材・部位または同じ意味内容を示すものとする。ある好適な態様では、鉛直方向下向き(すなわち、重力が働く方向)が「下方向」に相当し、その逆向きが「上方向」に相当すると捉えることができる。
【0018】
本明細書で言及する各種の数値範囲は、特段の説明が付されない限り、下限および上限の数値そのものを含むことを意図している。つまり、例えば1~10といった数値範囲を例にとれば、特段の説明の付記がない限り、下限値の“1”を含むと共に、上限値の“10”をも含むものとして解釈され得る。
【0019】
[固体電池の基本的構成]
固体電池は、正極・負極の電極層と固体電解質とを少なくとも有して成る。具体的には固体電池は、正極層、負極層、およびそれらの間に介在する固体電解質から成る電池構成単位を含んだ固体電池積層体を有して成る。
【0020】
固体電池は、それを構成する各層が焼成によって形成されるところ、正極層、負極層および固体電解質などが焼結層を成している。好ましくは、正極層、負極層および固体電解質は、それぞれが互いに一体焼成されており、それゆえ固体電池積層体が一体焼結体を成している。
【0021】
正極層は、少なくとも正極活物質を含んで成る電極層である。正極層は、更に固体電解質を含んで成っていてよい。例えば、正極層は、正極活物質粒子と固体電解質粒子とを少なくとも含む焼結体から構成されている。好ましい1つの態様では、正極層が、正極活物質粒子および固体電解質粒子のみを実質的に含む焼結体から構成されている。一方、負極層は、少なくとも負極活物質を含んで成る電極層である。負極層は、更に固体電解質を含んで成っていてよい。例えば、負極層は、負極活物質粒子と固体電解質粒子とを少なくとも含む焼結体から構成されている。好ましい1つの態様では、負極層が、負極活物質粒子および固体電解質粒子のみを実質的に含む焼結体から構成されている。
【0022】
正極活物質および負極活物質は、固体電池において電子の受け渡しに関与する物質である。固体電解質を介してイオンは正極層と負極層との間で移動(伝導)して電子の受け渡しが行われることで充放電がなされる。正極層および負極層は特にリチウムイオンまたはナトリウムイオンを吸蔵放出可能な層であることが好ましい。つまり、固体電池は、固体電解質を介してリチウムイオンまたはナトリウムイオンが正極層と負極層との間で移動して電池の充放電が行われる全固体型二次電池であることが好ましい。
【0023】
(正極活物質)
正極層に含まれる正極活物質としては、例えば、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、リチウム含有層状酸化物、および、スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも一種が挙げられる。ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、Li3V2(PO4)3等が挙げられる。オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、LiFePO4、および/またはLiMnPO4等が挙げられる。リチウム含有層状酸化物の一例としては、LiCoO2、および/またはLiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2等が挙げられる。スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物の一例としては、LiMn2O4、および/またはLiNi0.5Mn1.5O4等が挙げられる。
【0024】
また、ナトリウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質としては、ナシコン型構造を有するナトリウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するナトリウム含有リン酸化合物、ナトリウム含有層状酸化物およびスピネル型構造を有するナトリウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0025】
(負極活物質)
負極層に含まれる負極活物質としては、例えば、Ti、Si、Sn、Cr、Fe、NbおよびMoから成る群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む酸化物、黒鉛-リチウム化合物、リチウム合金、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、ならびに、スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも一種が挙げられる。リチウム合金の一例としては、Li-Al等が挙げられる。ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、Li3V2(PO4)3、および/またはLiTi2(PO4)3等が挙げられる。オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、LiCuPO4等が挙げられる。スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物の一例としては、Li4Ti5O12等が挙げられる。
【0026】
また、ナトリウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質としては、ナシコン型構造を有するナトリウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するナトリウム含有リン酸化合物およびスピネル型構造を有するナトリウム含有酸化物等から成る群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0027】
正極層および/または負極層は、導電助剤を含んでいてもよい。正極層および負極層に含まれる導電助剤として、銀、パラジウム、金、プラチナ、アルミニウム、銅およびニッケル等の金属材料、ならびに炭素などから成る少なくとも1種を挙げることができる。
【0028】
さらに、正極層および/または負極層は、焼結助剤を含んでいてもよい。焼結助剤としては、リチウム酸化物、ナトリウム酸化物、カリウム酸化物、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化ビスマスおよび酸化リンから成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0029】
なお、ある好適な態様の本発明の固体電池では、正極層と負極層とが同一材料から成っている。本発明の固体電池は、後述するように集電体・集電層を備えていない“集電レス”であるところ、そのような集電レスにおける正極層および負極層が同一材料から成っていてよい(例えば、そのような場合、正極層に含まれる正極活物質と負極層に含まれる負極活物質とが同一種類となり得る)。
【0030】
(固体電解質)
固体電解質は、リチウムイオンまたはナトリウムイオンが伝導可能な材質である。特に固体電池で電池構成単位を成す固体電解質は、正極層と負極層との間においてリチウムイオンが伝導可能な層を成している。固体電池ゆえ、固体電解質は、好ましくはゲル状および液体状の電解質・電解液を含まない。なお、固体電解質は、正極層と負極層との間に少なくとも設けられていればよい。つまり、固体電解質は、正極層と負極層との間からはみ出すように当該正極層および/または負極層の周囲においても存在していてもよい。具体的な固体電解質としては、例えば、ナシコン構造を有するリチウム含有リン酸化合物、ペロブスカイト構造を有する酸化物、ガーネット型またはガーネット型類似構造を有する酸化物等が挙げられる。ナシコン構造を有するリチウム含有リン酸化合物としては、LixMy(PO4)3(1≦x≦2、1≦y≦2、Mは、Ti、Ge、Al、GaおよびZrから成る群より選ばれる少なくとも一種)が挙げられる。ナシコン構造を有するリチウム含有リン酸化合物の一例としては、例えば、Li1.2Al0.2Ti1.8(PO4)3等が挙げられる。ペロブスカイト構造を有する酸化物の一例としては、La0.55Li0.35TiO3等が挙げられる。ガーネット型またはガーネット型類似構造を有する酸化物の一例としては、Li7La3Zr2O12等が挙げられる。
【0031】
なお、ナトリウムイオンが伝導可能な固体電解質としては、例えば、ナシコン構造を有するナトリウム含有リン酸化合物、ペロブスカイト構造を有する酸化物、ガーネット型またはガーネット型類似構造を有する酸化物等が挙げられる。ナシコン構造を有するナトリウム含有リン酸化合物としては、NaxMy(PO4)3(1≦x≦2、1≦y≦2、Mは、Ti、Ge、Al、GaおよびZrから成る群より選ばれた少なくとも一種)が挙げられる。
【0032】
固体電解質は、焼結助剤を含んでいてもよい。固体電解質に含まれる焼結助剤は、例えば、正極層・負極層に含まれ得る焼結助剤と同様の材料から選択されてよい。
【0033】
(保護層)
保護層は、一般に固体電池の最外側に形成され得るもので、電気的、物理的および/または化学的に保護するためのものである。保護層を構成する材料としては絶縁性、耐久性および/または耐湿性に優れ、環境的に安全であることが好ましい。例えば、ガラス、セラミックス、熱硬化性樹脂および/または光硬化性樹脂等を用いることが好ましい。
【0034】
(端子)
固体電池には、一般に端子(例えば外部端子)が設けられている。特に、固体電池の側面に端子が設けられている。より具体的には、正極層と接続された正極側の端子と、負極層と接続された負極側の端子とが設けられている。そのような端子は、導電率が大きい材料を含んで成ることが好ましい。端子の具体的な材質としては、特に制限されるわけではないが、銀、金、プラチナ、アルミニウム、銅、スズおよびニッケルから成る群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。
【0035】
[本発明の固体電池の特徴]
本発明の固体電池は、その正極層および負極層の各々が活物質を含んでおり、その活物質量の点で特徴を有している。より具体的には、複数の電極層のうち最外電極層と、それよりも内側に位置する非最外電極層(すなわち、内層部電極)とが電極量の点で互いに異なっている。
【0036】
これにつき、その正極層および負極層の各々は、好ましくは集電体または集電層を備えていない“集電レス”の電池であり(簡易的には「集電レスの固体電池」、「集電レス電池」または「集電層レスの固体電池」などとも称すことができる)、かかる集電レス電池の電極量の点で特徴を有する。本発明の固体電池では、“集電レス”ゆえ、固体電池積層体において電極層と直接的に接するように設けられた集電体・集電層が設けられておらず、電極層の内部にて延在するような集電体・集電層も設けられていない。例えば金属体または金属焼結体から主に成る層を有しておらず、それゆえ、そのような導電性層を固体電池積層体が備えていない。つまり、本発明の電池、特に固体電池積層体は、集電体レス構造または集電層レス構造を有している。ここで、本発明に係る“集電レス”の固体電池では、複数の電極層のうち最外電極層と、それよりも内側に位置する非最外電極層(すなわち、内層部電極)とが電極量の点で互いに異なっている。なお、“集電レス”なる表現で意図されている本発明で備えられない集電体/集電層は、内部抵抗低減などの観点から「活物質を含む層」と別個に設けられる「活物質を含まない導電性層(例えば、金属箔層、あるいは、導電助剤および焼結助剤から形成された焼結体層)」のことを意味している。したがって、本発明の固体電池は、そのような内部抵抗低減のために専ら設けられる「活物質を含まない導電性層」(特に、「活物質を含む層」に接して設けられる又はそのような活物質を含む層の内部に設けられる「活物質を含まない導電性層」)などを備えていない。
【0037】
電極層が集電層を備えていない“集電レス”である点に鑑みれば、正極層および負極層の電極層の各々が、活物質のみを含んでいてよく、あるいは、正極層および負極層の電極層の各々が、活物質および固体電解質のみを含んでいてよい。つまり、正極層であれば、上述の正極活物質のみを実質的に含んでいるか、あるいは、上述の正極活物質および固体電解質のみを実質的に含んでいる。そして、負極層であれば、上述の負極活物質のみを実質的に含んでいるか、あるいは、上述の負極活物質および固体電解質のみを実質的に含んでいる。ここでいう「含んでいる」または「実質的に含んでいる」とは、必要に応じて導電助剤および/または焼結助剤などの補助成分(固体電池における電極副成分)は含まれていてもよいことを意味しており(例えば、導電助剤および/または焼結助剤の各々が、電極層の全基準で30体積%以下、好ましくは15体積%以下含まれていてよく)、さらには、電極層の形成時に不可避的または偶発的に混入し得る極微量成分の存在は許容され得る(例えば、そのような不可避的または偶発的な成分が電極層の全基準で5重量%以下、好ましくは2重量%以下、更に好ましくは1重量%以下含まれることは許容され得る)ことを意味している。端的にいえば、正極層および負極層の電極層の各々では集電体/集電層が備えられていなくても固体電池が電池として機能するように固体電池活物質および固体電池電解質が主成分となっている(例えば各電極層においてそれら電極主成分の体積が各電極層の総体積の少なくとも半分を超えるような値、好ましくは当該総体積の3/4を超えるような値となっている)。
【0038】
より具体的には、複数の電極層のうちで固体電池積層体の最外層となる最外電極層は、その最外層よりも内側に位置する非最外電極層に対して異なる活物質量を有している。つまり、集電レスの固体電池において、最も外側に位置する電極層の活物質量と、それよりも内側に位置する電極層の活物質量とが互いに異なっている。ここでいう「活物質量」とは、各電極層に含まれる正極活物質または負極活物質の質量のことを実質的に意味している。
【0039】
このように最外電極層と非最外電極層との活物質量が互いに異なることによって、充放電反応の点でより望ましい集電レスの固体電池がもたらされる。特に、最外電極層と非最外電極層との間で充放電深度のバランスが良くなる。よって、放電時に規定の電圧を得やすくなり、狙いのエネルギー密度で放電することが可能となる。換言すれば、そのような所望の放電に起因して長期的な観点で電池劣化が抑制されることになり、結果として、長期的信頼性が向上した固体電池がもたされ得る。
【0040】
本明細書において「最外電極層」とは、広義には、固体電池積層体の積層を成す電極層のなかで最も外側に位置している電極層のことを指しており、狭義には、固体電池積層体の電池構成単位を構成する複数の電極層(正極層および/または負極層)のなかで積層方向で捉えて最も外側に位置する電極層(正極層および/または負極層)のことを指している。
【0041】
一方、本明細書において「非最外電極層」とは、広義には、固体電池積層体の積層を成す電極層のなかで最も外側に位置する電極層よりも内側に位置している電極層のことを指しており、狭義には、固体電池積層体の電池構成単位を構成する複数の電極層(正極層および/または負極層)のなかで積層方向で捉えて最も外側に位置する電極層(正極層および/または負極層)よりも当該積層方向で内側に位置する電極層(正極層および/または負極層)のことを指している。
【0042】
なお、非最外電極層が複数存在する場合において、対象となる最外電極層に対して内側(固体電池積層体の積層方向に沿って内側)に存在し、その最外電極層と同極(同一の極性)となる電極層を本発明における「非最外電極層」とみなしてよい。より具体的には、非最外電極層は、対象となる最外電極層と同極であって、かつ、その最外電極層に最も近接して存在する内層部電極であってよい。そして、固体電池積層体において非最外電極層が複数存在する場合、後述する“非最外電極層に関する質量や厚さ”などの各種の物理量は、その複数の非最外電極層における平均(例えば、相加平均)として考えてよい。
【0043】
本発明の固体電池において、複数の電極層のうちで固体電池積層体の最外層となる最外電極層は、その最外層よりも内側に位置する非最外電極層に対して異なる活物質量を有している。好ましくは、最外電極層の活物質量が、非最外電極層の活物質量の半分となっている。つまり、固体電池積層体の積層を成す電極層のなかで最も外側に位置する電極層の活物質量が、それよりも内側に位置する非最外電極層(すなわち、内層部電極)の活物質量の半分となっている。
【0044】
例えば、固体電池積層体の積層要素となる複数の非最外電極層がそれぞれ互いに同じ活物質量を有するのに対して、固体電池積層体の積層要素の最外電極層が、当該活物質量の半分の活物質量を有している。
【0045】
特定の理論に拘束されるわけではないが、最外電極層の活物質量が非最外電極層の活物質量の半分となると、充放電深度が最外電極層と非最外電極層とで一致し易くなり、固体電池の放電時にて規定の電圧(放電電圧)を得ることが可能となる。これは、本発明の固体電池は実質的に狙いのエネルギー密度で放電できることを意味している。また、このように規定の電圧を得ることができれば、固体電池が回路基板に実装された際に他の素子の動作への影響が低減されることにもなる。なお、本明細書でいう「充放電深度」とは、充電深度と放電深度を組み合わせた用語であることを意味している。「充電深度」とは定格容量に対する充電量の比を、「放電深度」とは定格容量に対する放電量の比を意味している。
【0046】
なお、本明細書でいう「半分」とは、必ずしも完全な“半分”でなくてよく、それから僅かにずれた態様であってもよいことを意味している。例えば、最外電極層の活物質量をQAとし、非最外電極層の活物質量をQBとすると、QA=0.5×QBであることが最も好ましいものの、QA=0.4×QB~0.6×QBの範囲であってもよく、例えばQA=0.45×QB~0.55×QBの範囲、あるいは、QA=0.48×QB~0.52×QBの範囲であってもよい。
【0047】
必ずしも質量の観点に限るものでなく、最外電極層と非最外電極層とが体積の点でそのような関係を有している場合もあり得る。それゆえ、ある1つ態様では、固体電池積層体を成す電極層のなかで最も外側に位置する電極層(すなわち、最外電極層)の体積が、それよりも内側に位置する非最外電極層(すなわち、非最外電極層)の体積の半分となっている場合も考えられ得る。
【0048】
ある好適な態様では、最外電極層の厚みが、非最外電極層の厚みの半分となっている。例えば
図1に示すように、固体電池積層体100’の積層を成す複数の電極層10のなかで最も外側に位置する最外電極層10Aの厚さが、それよりも内側に位置する非最外電極層10B(好ましくは、最外電極層10Aと同極の非最外電極層10B)の厚さの半分となっている。このような厚さでは、充放電深度を最外電極層と非最外電極層とで一致させ易くなり、固体電池の放電時において規定の電圧(放電電圧)を得やすくなる。
【0049】
より具体的には、特に実質的に一定厚さの最外電極層10Aが、同様に実質的に一定厚さの非最外電極層10Bの半分の厚さを有すると、最外電極層の活物質量が非最外電極層の活物質量の半分になりやすく、それゆえ、充放電深度を最外電極層と非最外電極層(特に、ここでいう“非最外電極層”は、例えば、対象となる最外電極層に対して内側に存在する該最外電極層と同極の非最外電極層)とで一致させ易くなる。その結果、固体電池の放電時において規定の放電電圧を得やすくなる。このようなことは、最外電極層と非最外電極層とで活物質密度が同一または略同一の場合に特にいえることである。なお、かかる態様でいう“厚さ”は、固体電池積層体の断面視にて電極の幅方向(図面でいえば“左右方向”)の中間ポイントにおける厚さ寸法を実質的に意味している。
【0050】
例えば、固体電池積層体の積層要素となる複数の非最外電極層がそれぞれ互いに同じ厚さを有するのに対して、固体電池積層体の積層要素の最外電極層が、当該非最外電極層の半分の厚さを有していてよい。より具体的な1つの態様を挙げれば、最外電極層が正極層の場合、その最外正極層の厚さ(最外部に位置する正極の電極合材膜厚)が非最外電極層となる正極層の厚さ(内層部に位置する正極の電極合材膜厚)の半分となっていてよく、そのような非最外電極層となる全ての正極層の各厚さの半分となってよい。同様にして、最外電極層が負極層の場合、その最外負極層の厚さ(最外部に位置する負極の電極合材膜厚)が非最外電極層となる負極層(内層部に位置する負極の電極合材膜厚)の厚さの半分となっていてよく、そのような非最外電極層となる全ての負極層の各厚さの半分となってよい。このような態様であっても最外電極層と非最外電極層との間で充放電深度のバランスを取ることができるので、放電時に規定の電圧を得やすくなり、狙いのエネルギー密度で放電することが可能となる。
【0051】
ここでいう「半分」も、必ずしも完全な“半分”でなくてよく、それから僅かにずれた態様であってもよいことを意味している。例えば、最外電極層の厚さをTAとし、非最外電極層の厚さをTBとすると、TA=0.5×TBであることが最も好ましいものの、TA=0.4×TB~0.6×TBの範囲であってもよく、例えばTA=0.45×TB~0.55×TBの範囲、あるいは、TA=0.48×TB~0.52×TBの範囲であってもよい。
【0052】
別のある好適な態様では、最外電極層は、その平面視にて貫通部を成すように活物質が存在しない非活物質領域を有する。つまり、かかる態様では、最外電極層に穴が空いているかのように貫通して非活物質が存在しない領域が最外電極層に設けられている。換言すれば、最外電極層では、実質全ての領域に満遍なく活物質が存在しているといったものでなく、その一部に活物質が無い部分(巨視的にとらえて活物質が無い部分)が存在していてもよい。かかる非活物質領域によって最外電極層の活物質量を調整し易くなり、最外電極層と非最外電極層との活物質量を互いに異ならせることがより容易となる。好ましくは、そのような非活物質領域を通じて、最外電極層の活物質量を非最外電極層の活物質量の半分とする。
【0053】
上記説明から分かるように、本明細書において「平面視にて貫通部を成すように活物質が存在しない非活物質領域」とは、対象の電極層の平面視として捉えてみると、電極層に穴が空いて当該層を貫通しているかの如く実質的に活物質が存在していない部分のこと、すなわち、活物質が非所望または偶発的に残留する例外的な場合を除き、中実の電極層を成すようには活物質が存在していない部分のことを指している。
【0054】
1つの例示にすぎないが、最外電極層の平面視面積が非最外電極層の平面視面積の半分となっていてもよい。つまり、非活物質領域は、最外電極層の平面視面積の低減につながるところ、減じられた最外電極層の平面視面積が非最外電極層の平面視面積の半分となっていてよい。上述したように、「非最外電極層」は、好ましくは、対象となる最外電極層に対して内側(固体電池積層体の積層方向に沿って内側)に存在し、その最外電極層と同極(同一の極性)の電極層に相当し得る。よって、そのような最外電極層と非最外電極層との間では厚さおよび/または活物質密度などが好ましくは同一又は略同一となり得るが、上記のような平面視面積の関係では、最外電極層の活物質量を非最外電極層の活物質量の半分の量にし易くなる。
【0055】
非活物質領域が存在する場合、最外電極層は中空部を有していてよい。これにつき、最外電極層は、固体電池積層体において局所的または部分的に非活物質領域を有してよい。非活物質領域は、対象となる最外電極層においてその一部分(単一又は複数の当該一部分)に活物質が設けられていない領域に相当する。ある好適な態様では、最外電極層は、固体電池積層体において局所的な非活物質領域を複数有する。このような複数の局所的な非活物質領域によって最外電極層と非最外電極層との間で活物質量を異なるようにした場合であっても、最外電極層と非最外電極層との間で充放電深度のバランスを取ることができ、放電時に規定の電圧を得やすくなる。なお、最外電極層は、固体電池積層体において非活物質領域に起因して設けられる局所的な中空部を含んでいてよい。単一または複数の非活物質領域は、活物質が存在していない箇所(巨視的にとらえて活物質が無い部分)であるところ、その箇所を固体電池積層体の中空部として設けてよい。
【0056】
かかる中空部は、非活物質領域ゆえ、最外電極層の活物質量の調整に寄与し、好ましくは応力低減の効果をも奏し得る。具体的には、固体電池の充放電では電極層の膨張・収縮に起因して固体電池積層体にクラック発生の応力が生じることがあるが、そのような不都合な応力を中空部の存在で減じることが可能となる。
【0057】
また、非活物質領域の場合、その非活物質領域を非中空部として供してもよい。例えば、非活物質領域に固体電解質部分が含まれているような態様であってもよい。かかる場合、非活物質領域の全てが固体電解質で埋まっている必要はなく、中空部が部分的に残されたような態様であってもよい。換言すれば、最外電極層の非活物質領域の少なくとも一部に固体電解質が存在する態様であってもよい。
【0058】
非活物質領域は、あくまでも活物質を含まないので最外電極層の活物質量の調整に寄与するとともに、その領域に固体電解質が設けられている場合においては、固体電解質層部分と最外電極層との接触面積が増加することとなる。接触面積が増加すると反応面積も増加するので素子抵抗が減少するといった効果も奏し得る。
【0059】
本発明に係る固体電池は、電池構成単位を構成する各層が積層して成る積層型固体電池であり、スクリーン印刷法等の印刷法、グリーンシートを用いるグリーンシート法、またはそれらの複合法により製造することができる。それゆえ、電池構成単位を構成する各層は焼結体から成っている。好ましくは、正極層、負極層および固体電解質のそれぞれが互いに一体焼結されている。つまり、固体電池積層体は、焼成一体化物を成しているといえる。そのような焼成一体化物において、最外電極層が非最外電極に対して活物質量が異なっている。
【0060】
例えば、
図1に示す態様を例にとると、最外電極層10Aは、固体電池積層体100’における最上電極層10A1および最下電極層10A2に相当する。本発明では、かかる最上電極層および最下電極層のそれぞれについて、その内側の電極層に対して活物質量が異なっていてよいし、あるいは、最上電極層または最下電極層のいずれか一方において、その内側の電極層に対して活物質量が異なっていてもよい。固体電池の放電時に規定の電圧が得られ易くなることをより重視するならば、最上電極層および最下電極層の双方が、その内側の電極層に対して活物質量が異なっていることが好ましい。
【0061】
また、最外電極層は、より具体的に最外正極層または最外負極層に相当し得る。最上電極層または最下電極層として設けられている最外電極層が最外正極層である場合、その最外正極層は、それよりも内側に位置する非最外正極層に対して異なる活物質量を有することが好ましく、例えば非最外正極層の活物質量または厚みの半分となっていることがより好ましい。同様にして、最上電極層または最下電極層として設けられている最外電極層が最外負極層である場合、その最外負極層は、それよりも内側に位置する非最外負極層に対して異なる活物質量を有することが好ましく、例えば非最外負極層の活物質量または厚みの半分となっていることがより好ましい。
図2に示す例示態様でいえば、最外電極層としての最外正極層12Aの厚みが、それよりも内側の非最外正極層12Bの厚みの半分となっている。このような説明から分かるように、本発明において最外電極層の比較対象となる非最外電極層は、好ましくは、その最外電極層と同一の極性のもの(ある好適な態様では特に同じ電極材質のもの、換言すれば同じ活物質密度を有するもの)である。また、非最外電極層として同一の極性の電極が複数存在するときは、それらの平均(特に相加平均)が用いられる。
【0062】
固体電池のより現実的な態様を説明しておく。固体電池は保護層および/または端子(外部端子)を更に備えるものであってよい。あくまでも1つの例示であるが、
図3に示す並列積層型全固体電池は、固体電池積層体の一方の端部にて正極層と電気的接続された正極端子42と、固体電池積層体の他方の端部にて負極層と電気的接続された負極端子44とを備えていてよい。また、最外電極層の外側には固体電池積層体と一体積層化するように保護層50などが設けられていてもよい。なお、単位体積当たりのエネルギー密度の向上につながることになり得るが、最外電極層(
図3に示す態様では、最外正極層12A)が固体電池積層体の固体電解質部分と面一になっていてもよい。
【0063】
また、固体電池積層体における複数の非最外正極層は、全てが同一または同様の形態(例えば、厚み寸法などの形態)を有していてよい。ある好適な態様では、互いに同極となる複数の非最外正極層は、全てが同一または同様の形態を有している。
【0064】
本発明は、種々の態様で具現化することができる。以下これについて説明する。
【0065】
(パターン層を有する最外電極層)
本態様は、最外電極層がパターン層となっている態様である。より具体的には、
図4(A)~(D)、
図5(A)~(D)および
図6(A)~(B)に示すように、非活物質領域に起因して、最外電極層10Aの平面視がパターン形状を有している。
【0066】
図示される形態から分かるように、最外電極層10Aの平面視において、活物質存在領域10Aaまたは活物質非存在領域10Abが成す全体形状が“パターン形状”となっている。かかるパターン形状を有するがゆえ、最外電極層がパターン層となっている。
【0067】
本明細書において「パターン層」とは、広義には、対象となる電極層の平面視形状が、ある所定の形状を有することを意味し、狭義には、かかる平面視形状が、ある規則的な形状または幾何学的な形状を有することを意味している。
【0068】
パターン層は、非活物質領域から成るので、最外電極層の活物質量の調整をもたらしつつも、好ましくは応力低減を図ることもできる。つまり、充放電時の固体電池積層体に生じ得るクラック発生の応力などの不都合な応力をパターン層でもって減じることも可能である。また、パターン層は、ある規則的な形状または幾何学的な形状を好ましくは有するので、固体電池の充放電反応がより均一になり、充放電におけるサイクル劣化が抑えられるといった効果も奏され得る。また規則的な形状の方が、例えばリチウムイオンが固体電解質層中を伝導する距離が短くなるため、レート特性の向上が見込まれる。
【0069】
なお、応力低減および/または正極・負極間の充放電反応がより均一になり得る点に関していえば、最外電極層が対称的な平面視形状を有することが好ましい。例えば、最外電極層の平面視形状が線対称および/または点対称となっていてよい。より具体的には、平面視において最外電極層の活物質存在領域10Aaまたは活物質非存在領域10Abが成す形状が線対称または点対称となっていてよい。
【0070】
図示される例示態様でいえば、線対称の平面視形状を有する最外電極層10Aは、例えば
図4(A)~4(C)および
図5(A)~5(D)に示されるようなものであってよい。同様にして、点対称の平面視形状を有する最外電極層10Aは、例えば
図4(A)~4(B)ならびに
図5(A)、5(B)および5(D)に示されるようなものであってよい。かかる説明から分かるように、ある1つの好適な態様では、最外電極層の平面視形状は線対称および点対称の双方を兼ねている。
【0071】
かかる“パターン層”の最外電極層の場合、図示する形態から分かるように、活物質存在領域10A
aは、その一部が当該層の周辺エッジにまで至る形態を有していることが好ましい。固体電池積層体の端部から電極取出しを好適に行えるからである。つまり、
図4(A)~(D)、
図5(A)~(D)および
図6(A)~(B)で示される最外電極層の平面視形状において、その形状を成している辺に対して活物質存在領域10A
aが接するようになっていることが好ましい。
【0072】
(ポーラス構造を有する最外電極層)
本態様は、最外電極層がポーラス構造となっている態様である。より具体的には、
図7に示すように、最外電極層10Aが、多孔質などの微小空隙18を有する層となっている。最外電極層がポーラス構造を有する場合、微小空隙に起因して活物質密度が低減するので最外電極層の活物質量の調整が可能となる。また、かかるポーラス構造は応力低減にも寄与する。つまり、ポーラス構造を有する最外電極層は、最外電極層の活物質量の調整が可能となるだけでなく、充放電時にて固体電池積層体に生じ得るクラック発生の応力などの不都合な応力の低減も可能である。
【0073】
(厚み非一定の最外電極層)
本態様は、最外電極層の厚さが非一定となっている態様である。具体的には、
図8および
図9に示すように、ある最外電極層10Aにつき、そのなかで厚みが一定でなく、局所的に変わっている。最外電極層の各厚みを局所的に変えることによって、最外電極層の活物質量の調整が可能となる。よって、“非一定の厚み”によって、最外電極層と非最外電極層との活物質量を互いに異ならせることでき、好ましくは、最外電極層の活物質量を非最外電極層の活物質量の半分にすることができる。
【0074】
図8に示される態様では、相対的に肉厚な部分10A
iと、相対的に肉薄な部分10A
iiとを有している。最外電極層における相対的肉厚部分10A
iの割合い又は相対的肉薄部分10A
iiの割合いを調整することよって、最外電極層の活物質量を適宜調整することができる。また、
図9に示される態様では、断面視にて最外電極層の厚み寸法が周期的(又は規則的)に変動する形態を有している。同様にして厚み変動周期におけるピッチおよび振幅を変更することによって、最外電極層の活物質量を適宜調整できる。また、このような態様では、最外電極層と固体電解質層との接触面積が増大するため充放電の反応面積も増大し、素子抵抗の低減が見込まれ得る。
【0075】
(最外電極層と非最外電極層との厚み同一)
本態様では、最外電極層と非最外電極層とは厚みが同一となっている。これは、例えば最外電極層が非活物質領域を有する場合に特にいえることである。つまり、最外電極層の平面視面積が非最外電極層の平面視面積の半分となっていたり、あるいは、最外電極層がパターン層となっていたりする場合においては、最外電極層と非最外電極層との厚みが互いに同一となっていてよい。これは、平面視では最外電極層と非最外電極層とが異なる形態を有しつつも、断面視で捉えれば、電極層の中実部分の厚みが最外電極層と非最外電極層との間で同一となっていてよいことを意味している。電極層の厚み(特に電極の中実部分の厚み)が同一であるといえども、最外電極層には非活物質領域が存在するので、最外電極層と非最外電極層との活物質量が互いに異なることになり得る。
【0076】
ここでいう「同一」も、必ずしも完全な“同一”でなくてよく、それから僅かにずれた態様であってもよいことを意味している。例えば、最外電極層の中実部分の厚さをtAとし、中実の非最外電極層の厚さをtBとすると、tA=tBであることが最も好ましいものの、tA=0.9×tB~1.1×tBの範囲であってもよく、例えばtA=0.95×tB~1.05×tBの範囲、あるいは、tA=0.98×tB~1.02×tBの範囲であってもよい。
【0077】
[固体電池の製造方法]
本発明の固体電池は、上述したように、スクリーン印刷法等の印刷法、グリーンシートを用いるグリーンシート法、またはそれらの複合法により製造することができる。以下、本発明の理解のために印刷法を採用する場合について詳述するが、本発明は当該方法に限定されない。
【0078】
本発明の固体電池の製造方法は、
未焼成積層体を印刷法により形成する工程;および
未焼成積層体を焼成する工程
を少なくとも含む。
【0079】
(未焼成積層体の形成工程)
本工程では、正極層用ペースト、負極層用ペースト、固体電解質用ペーストおよび保護層用ペースト等の数種類のペーストをインクとして用いてよい。つまり、ペーストを印刷法で塗布することを通じて支持基材上に所定構造の未焼成積層体を形成することができる。
【0080】
ペーストは、正極活物質、負極活物質、電子伝導性材料(例えば、導電助剤としての電子伝導性材料)、固体電解質材料、絶縁性物質、および焼結助剤から成る群から適宜選択される各層の所定の構成材料と、有機材料を溶剤に溶解した有機ビヒクルとを湿式混合することによって作製することができる。正極層用ペーストは、例えば、正極活物質、電子伝導性材料、固体電解質材料、有機材料および溶剤を含む。負極層用ペーストは、例えば、負極活物質、電子伝導性材料、固体電解質材料、有機材料および溶剤を含む。固体電解質層用ペーストは、例えば、固体電解質材料、焼結助剤、有機材料および溶剤を含む。保護層用ペーストは、例えば、絶縁性物質、有機材料および溶剤を含む。
【0081】
ペーストに含まれる有機材料は特に限定されないが、ポリビニルアセタール樹脂、セルロース樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂およびポリビニルアルコール樹脂などから成る群から選択される少なくとも1種の高分子材料を用いることができる。溶剤は上記有機材料を溶解可能な限り特に限定されず、例えば、トルエンおよび/またはエタノールなどを用いることができる。
【0082】
湿式混合ではメディアを用いることができ、具体的には、ボールミル法またはビスコミル法等を用いることができる。一方、メディアを用いない湿式混合方法を用いてもよく、サンドミル法、高圧ホモジナイザー法またはニーダー分散法等を用いることができる。
【0083】
支持基材は、未焼成積層体を支持可能な限り特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート等の高分子材料から成る基材を用いることができる。未焼成積層体を基材上に保持したまま焼成工程に供する場合には、基材は焼成温度に対して耐熱性を呈するものを使用してよい。
【0084】
印刷に際しては、所定の厚みおよびパターン形状で印刷層を順次、積層することによって、所定の固体電池の構造に対応する未焼成積層体を基材上に形成することができる。各印刷層の形成に際しては、乾燥処理が行われる。乾燥処理では、未焼成積層体から溶剤が蒸発することになる。未焼成積層体を形成した後、未焼成積層体を基材から剥離して、焼成工程に供してもよいし、あるいは、未焼成積層体を支持基材上に保持したまま焼成工程に供してもよい。
【0085】
なお、上記では、全ての層をペースト化して印刷する方法を説明したが、本発明では必ずしもそれに限定されない。例えば、スラリー原料をシート状に成形することを通じて未焼成積層体を構成する層を形成してもよい。これにつき、1つ例示すると、固体電解質のスラリーをシート状に成形し、正極用または負極用のペーストを固体電解質のシート上にスクリーン印刷してよく、かかる手法を通じて未焼成積層体を得てよい。
【0086】
(焼成工程)
焼成工程では、未焼成積層体を焼成に付す。あくまでも例示にすぎないが、焼成は、酸素ガスを含む窒素ガス雰囲気中または大気中で、例えば500℃にて有機材料を除去した後、窒素ガス雰囲気中または大気中で例えば550℃~1000℃で加熱することで実施してよい。焼成は、積層方向(場合によっては積層方向および当該積層方向に対する垂直方向)で未焼成積層体を加圧しながら行ってよい。
【0087】
このような焼成を経ることによって、未焼成積層体から固体電池積層体が形成され、最終的には所望の固体電池が得られることになる。
【0088】
(本発明における特徴部分の作製について)
本発明の固体電池は、最外電極層と非最外電極層との間で活物質量が互いに異っているが、これは、そのように活物質量が互いに異なるように未焼成積層体を予め作製しておけばよい。例えば、原料ペーストに仕込む活物質含量および/または塗布回数などを調整することによって、未焼成積層体の最外電極層前駆体と非最外電極層前駆体とで活物質量を互いに異ならせておけばよい。
【0089】
例えば、原料ペーストに仕込む活物質含量および/または塗布回数などを調整することによって、最外電極層の活物質量を非最外電極層の活物質量の半分としてよい。つまり、未焼成積層体において最外電極層前駆体の活物質量を非最外電極層前駆体の活物質量の半分になるようにしておけば、焼成後に得られる固体電池積層体にて最外電極層の活物質量を非最外電極層の活物質量の半分にすることができる。
【0090】
また、最外電極層の厚みを非最外電極層の厚みの半分にする場合では、例えば、原料ペーストの塗布量および/または塗布回数などを調整することによって、未焼成積層体の最外電極層前駆体の厚さを非最外電極層前駆体の厚さの半分にしておくことが好ましい。このような未焼成積層体を焼成すると、最外電極層の厚みが非最外電極層の厚みの半分となった所望の固体電池積層体を得ることができ、最外電極層の活物質量を非最外電極層の活物質量の半分にできる(特には、最外電極層と非最外電極層とで同一の活物質を用い、活物質密度が同一または略同一の場合に当てはまり得る)。同様して、未焼成積層体の最外電極層前駆体のペーストおよびその塗布法などを局所的に調整することによって、“厚み非一定”の最外電極層等も得ることができる。
【0091】
最外電極層がパターン層となる場合では、例えば、スクリーン印刷などを利用して未焼成積層体の最外電極層前駆体をパターン印刷しておけばよい。このような最外電極層前駆体を焼成すると、最外電極層がパターン層となった所望の固体電池積層体を得ることができる。なお、パターン層などに代表されるような“非活物質領域”を備える最外電極層は、スクリーン印刷を通じて得ることができるが、焼成後に消失するような樹脂原料ペーストを用いても得ることができる。例えば、活物質を含まない有機ビヒクルから成るペーストを“非活物質領域”の形成に用いてよい。かかる場合、そのようなペーストが塗布された部分が焼成時に消失し得るので、最外電極層に非活物質領域を含んだ所望の固体電池積層体を得ることができる。例えば、そのような非活物質領域の存在によって、最外電極層の平面視面積を非最外電極層の平面視面積の半分にすることによって、最外電極層の活物質量を非最外電極層の活物質量の半分にできる(特には、最外電極層と非最外電極層とで同一の活物質を用い、活物質密度および厚みが互いに同一または略同一の場合に当てはまり得る)。同様にして、焼成時に消失し得る樹脂フィラーを含有する原料ペーストを用いることによって、“ポーラス構造”の最外電極層等も得ることができる。
【0092】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、あくまでも典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の態様が考えられることを当業者は容易に理解されよう。
【0093】
例えば、上記説明においては例えば
図2および
図3などで例示される個数の電極層(正極層・負極層)を中心にして説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されない。本発明では非最外電極層が少なくとも1つ設けられる固体電池積層体(集電レス電池の固体電池積層体)であれば、どのようなものであっても同様に適用することができる。
【0094】
また、上記説明では「非最外電極層」は対象となる最外電極層に対して内側に存在する同極の電極層であることを中心にして説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されない。例えば、正極層と負極層との厚みが同一である場合などにおいては、対象となる最外電極層に対して内側で直接的に対向する電極層を本発明における「非最外電極層」とみなすこともできる。よって、例えば、そのような場合、最外電極層の内側でそれと直接的に対向する電極層の厚みを、当該最外電極層の厚みの半分としてよい。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の固体電池は、蓄電が想定される様々な分野に利用することができる。あくまでも例示にすぎないが、本発明の固体電池は、電気・電子機器などが使用される電気・情報・通信分野(例えば、携帯電話、スマートフォン、ノートパソコンおよびデジタルカメラ、活動量計、アームコンピューター、電子ペーパー、RFIDタグ、カード型電子マネー、スマートウォッチなどの小型電子機などを含む電気・電子機器分野あるいはモバイル機器分野)、家庭・小型産業用途(例えば、電動工具、ゴルフカート、家庭用・介護用・産業用ロボットの分野)、大型産業用途(例えば、フォークリフト、エレベーター、湾港クレーンの分野)、交通システム分野(例えば、ハイブリッド車、電気自動車、バス、電車、電動アシスト自転車、電動二輪車などの分野)、電力系統用途(例えば、各種発電、ロードコンディショナー、スマートグリッド、一般家庭設置型蓄電システムなどの分野)、医療用途(イヤホン補聴器などの医療用機器分野)、医薬用途(服用管理システムなどの分野)、ならびに、IoT分野、宇宙・深海用途(例えば、宇宙探査機、潜水調査船などの分野)などに利用することができる。
【符号の説明】
【0096】
10 電極層
10A 最外電極層
10A1 最上電極層
10A2 最下電極層
10Ai 最外電極層の相対的肉厚部分
10Aii 最外電極層の相対的肉薄部分
10B 非最外電極層
10Aa 最外電極層の活物質存在領域
10Ab 最外電極層の活物質非存在領域
12A 最外正極層
12B 非最外正極層
14B 非最外負極層
20 固体電解質部分
42 端子(正極端子)
44 端子(負極端子)
50 保護層
100’ 固体電池積層体
100 固体電池