(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】3次元計測システム及び3次元計測方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/25 20060101AFI20221101BHJP
【FI】
G01B11/25 H
(21)【出願番号】P 2021519994
(86)(22)【出願日】2019-05-22
(86)【国際出願番号】 JP2019020355
(87)【国際公開番号】W WO2020235067
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 潤
(72)【発明者】
【氏名】松本 慎也
(72)【発明者】
【氏名】木口 哲也
【審査官】大森 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-037189(JP,A)
【文献】特開2013-224895(JP,A)
【文献】特開2015-135293(JP,A)
【文献】特開2017-032335(JP,A)
【文献】特表2006-528770(JP,A)
【文献】特表2019-519839(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0078264(US,A1)
【文献】国際公開第2011/033186(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30,
G01C 3/00,
G06T 7/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物にパターン光を投影する投光装置と、
前記対象物を撮影する第1カメラと、
前記第1カメラとは異なる視点で前記対象物を撮影する第2カメラと、
前記第1カメラから得られる第1画像及び前記第2カメラから得られる第2画像を処理することによって、前記対象物の3次元情報を取得する画像処理装置と、を備え、
前記画像処理装置は、
前記第1画像を用い、空間符号化パターン方式により、第1のデプス情報を取得する第1計測手段と、
前記第1のデプス情報から予測される前記第1画像と前記第2画像の間の視差に基づき、ステレオマッチングにおける対応点の探索範囲を設定する設定手段と、
前記第1画像と前記第2画像を用い、前記設定された探索範囲に限定したステレオマッチングを行うことにより、前記第1のデプス情報よりも空間分解能の高い第2のデプス情報を取得する第2計測手段と、を有し、
前記パターン光は、1つのデプス値に対応する領域である単位要素が規則的に配置された空間符号化パターンと、複数のランダム片が不規則に配置されたランダムパターンと、が合成された合成パターンを有する
ことを特徴とする3次元計測システム。
【請求項2】
前記単位要素の面積をS1、
前記単位要素の領域内に付加されたランダム片の合計面積をS2、
としたときに、
前記合成パターンは、
0.02<S2/S1<0.12
を満たす
ことを特徴とする請求項1に記載の3次元計測システム。
【請求項3】
前記合成パターンは、
0.04<S2/S1<0.1
を満たす
ことを特徴とする請求項2に記載の3次元計測システム。
【請求項4】
前記単位要素は、当該単位要素の値を表す構造を1つ以上含み、
前記ランダム片は、前記単位要素のうち前記構造が配置されている領域以外の領域に付加される
ことを特徴とする請求項1~3のうちいずれか一項に記載の3次元計測システム。
【請求項5】
前記単位要素は、当該単位要素の値を表す構造を1つ以上含み、
前記ランダム片は、前記単位要素のうち前記構造が配置されている領域に、前記構造と区別可能な輝度又は色で、付加される
ことを特徴とする請求項1~3にうちいずれか一項に記載の3次元計測システム。
【請求項6】
前記構造の最小面積をS3、
前記ランダム片の最大面積をS4、
としたときに、
前記合成パターンは、
S4<S3/2
を満たす
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の3次元計測システム。
【請求項7】
前記投光装置及び前記第1カメラは、前記単位要素が前記第1カメラの撮像素子上で3画素×3画素以上のサイズに結像するように設定される
ことを特徴とする請求項1~6のうちいずれか一項に記載の3次元計測システム。
【請求項8】
前記投光装置、前記第1カメラ、及び前記第2カメラは、前記構造が前記第1カメラ及び前記第2カメラそれぞれの撮像素子上で3/2画素×3/2画素以上のサイズに結像するように設定される
ことを特徴とする請求項4~6のうちいずれか一項に記載の3次元計測システム。
【請求項9】
前記投光装置、前記第1カメラ、及び前記第2カメラは、前記ランダム片が前記第1カメラ及び前記第2カメラそれぞれの撮像素子上で1/4画素×1/4画素以上のサイズに結像するように設定される
ことを特徴とする請求項1~8のうちいずれか一項に記載の3次元計測システム。
【請求項10】
対象物にパターン光を投影するステップと、
前記対象物を異なる視点から撮影して、第1画像と第2画像を取得するステップと、
前記第1画像を用い、空間符号化パターン方式により、第1のデプス情報を取得するステップと、
前記第1のデプス情報から予測される前記第1画像と前記第2画像の間の視差に基づき、ステレオマッチングにおける対応点の探索範囲を設定するステップと、
前記第1画像と前記第2画像を用い、前記設定された探索範囲に限定したステレオマッチングを行うことにより、前記第1のデプス情報よりも空間分解能の高い第2のデプス情報を取得するステップと、を有し、
前記パターン光は、1つのデプス値に対応する領域である単位要素が規則的に配置された空間符号化パターンと、複数のランダム片が不規則に配置されたランダムパターンと、が合成された合成パターンを有する
ことを特徴とする3次元計測方法。
【請求項11】
3次元計測システムが有する1つ以上のプロセッサに、請求項10に記載の3次元計測方法の各ステップを実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像を用いた3次元計測に関する。
【背景技術】
【0002】
画像を用いて対象物の3次元計測を行う手法として、アクティブ計測が知られている。アクティブ計測では、対象物にパターン光を投影した状態で撮影を行い、得られた画像上のパターンの位置から、三角測量の原理を用いて対象物の3次元情報(例えば各画素のデプス情報)を求める。
【0003】
非特許文献1には、空間的な符号化がなされたパターン(「空間符号化パターン」と呼ぶ)を対象物表面に投影して撮像を行い、画像に現れるパターンを復号することでデプス情報を求める手法が開示されている。この手法は高速かつ高精度な計測が可能であるが、複数画素を利用してデプス値を算出することに起因して、空間分解能が低いという課題がある。
【0004】
一方、空間分解能が高い手法として、異なる視点から撮影された2つの画像を用いて対象物の3次元形状を計測する、いわゆるステレオマッチング(ステレオカメラ方式とも呼ばれる)が知られている。
図23にステレオマッチングの原理を示す。ステレオマッチングでは、例えば左右に配置した2台のカメラで対象物Oを同時に撮影し、2枚の画像を得る。一方を基準画像I1、他方を比較画像I2とし、基準画像I1中の画素(基準点P1)と画像特徴が最も近い画素(対応点P2)を、比較画像I2中のエピポーラ線Eに沿って探索し、基準点P1と対応点P2の間の座標の差(視差)を求める。各カメラの幾何学的な位置は既知であるので、三角測量の原理により、視差から奥行方向の距離D(デプス)を算出でき、対象物Oの3次元形状を復元することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】P. Vuylsteke and A. Oosterlinck, Range Image Acquisition with a Single Binary-Encoded Light Pattern, IEEE PAMI 12(2), pp. 148-164, 1990.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ステレオマッチングは、高解像のカメラを用いることによって、計測精度の向上を図ることができるとともに、計測点(対応点が見つかり、距離情報の取得に成功した画素)の数及び空間分解能を高めることができる、という特性をもつ。しかしその反面、カメラから取り込まれる入力画像の画素数が多くなるほど、対応点の探索に時間を要し、計測時間が著しく増大するというデメリットがある。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、ステレオマッチングによる計測において、高い精度と高速な処理を両立するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、対象物にパターン光を投影する投光装置と、前記対象物を撮影する第1カメラと、前記第1カメラとは異なる視点で前記対象物を撮影する第2カメラと、前記第1カメラから得られる第1画像及び前記第2カメラから得られる第2画像を処理することによって、前記対象物の3次元情報を取得する画像処理装置と、を備え、前記画像処理装置は、前記第1画像を用い、空間符号化パターン方式により、第1のデプス情報を取得する第1計測手段と、前記第1のデプス情報から予測される前記第1画像と前記第2画像の間の視差に基づき、ステレオマッチングにおける対応点の探索範囲を設定する設定手段と、前記第1画像と前記第2画像を用い、前記設定された探索範囲に限定したステレオマッチングを行うことにより、前記第1のデプス情報よりも空間分解能の高い第2のデプス情報を取得する第2計測手段と、を有し、前記パターン光は、1つのデプス値に対応する領域である単位要素が規則的に配置された空間符号化パターンと、複数のランダム片が不規則に配置されたランダムパターンと、が合成された合成パターンを有することを特徴とする3次元計測システムを提供する。
【0009】
従来の一般的なステレオマッチングでは、比較画像の全体から対応点の探索を行うため、高解像度の画像を用いると不可避的に処理時間が長くなってしまう。これに対し、上記構成では、予測された視差に基づき対応点の探索範囲が限定される。これにより、探索範囲を格段に狭くできるため、対応点の探索に要する時間を大幅に短縮することができる。また、ランダムパターンを合成したパターン光を用いたので、対象物表面の明暗分布の複雑さ(画像特徴の多様さ)が増す。これにより、ステレオマッチング、つまり対応点探索の成功率及び精度を向上することができる。したがって、本システムによれば、空間分解能の高い3次元計測を、高速かつ高精度に行うことができる。
【0010】
前記単位要素の面積をS1、前記単位要素の領域内に付加されたランダム片の合計面積をS2、としたときに、前記合成パターンは、
0.02<S2/S1<0.12
を満たしてもよい。この範囲に設定することで、ステレオマッチングの成功率と処理時間のバランスがとれた処理が可能となる。
【0011】
前記合成パターンは、
0.04<S2/S1<0.1
を満たしてもよい。この範囲に設定することで、ステレオマッチングの精度と速度を実質的に最大化することができると期待できる。
【0012】
前記単位要素は、当該単位要素の値を表す構造を1つ以上含み、前記ランダム片は、前記単位要素のうち前記構造が配置されている領域以外の領域に付加されてもよい。このような配置によれば、ランダム片がパターン復号に悪影響を与える可能性を小さくできる。
【0013】
前記単位要素は、当該単位要素の値を表す構造を1つ以上含み、前記ランダム片は、前記単位要素のうち前記構造が配置されている領域に、前記構造と区別可能な輝度又は色で、付加されてもよい。輝度又は色で区別可能な態様でランダム片を付加することにより、構造の上にランダム片を重ねることも可能となる。これにより、ランダム片を付加できる位置の自由度が増すので、さまざまな方式の空間符号化パターンとの組み合わせが可能となる。
【0014】
前記構造の最小面積をS3、前記ランダム片の最大面積をS4、としたときに、前記合成パターンは、
S4<S3/2
を満たしてもよい。ランダム片のサイズが構造のサイズの半分より小さければ、構造の上にランダム片が重なったとしても、空間符号化パターンの構造を変化させないので、パターンの復号率を維持することができる。
【0015】
前記投光装置及び前記第1カメラは、前記単位要素が前記第1カメラの撮像素子上で3画素×3画素以上のサイズに結像するように設定されてもよい。単位要素の一辺が3画素より小さくなると、単位要素内の構造が解像されず、パターンの復号率が低下するおそれがあるからである。
【0016】
前記投光装置、前記第1カメラ、及び前記第2カメラは、前記構造が前記第1カメラ及び前記第2カメラそれぞれの撮像素子上で3/2画素×3/2画素以上のサイズに結像するように設定されてもよい。構造の一辺が3/2画素より小さくなると、構造がうまく解像されず、パターンの復号率が低下するおそれがあるからである。
【0017】
前記投光装置、前記第1カメラ、及び前記第2カメラは、前記ランダム片が前記第1カメラ及び前記第2カメラそれぞれの撮像素子上で1/4画素×1/4画素以上のサイズに結像するように設定されてもよい。ランダム片の最小サイズをこのように設定することにより、ランダムパターンの効果を担保することができる。
【0018】
本発明の一側面は、対象物にパターン光を投影するステップと、前記対象物を異なる視点から撮影して、第1画像と第2画像を取得するステップと、前記第1画像を用い、空間符号化パターン方式により、第1のデプス情報を取得するステップと、前記第1のデプス情報から予測される前記第1画像と前記第2画像の間の視差に基づき、ステレオマッチングにおける対応点の探索範囲を設定するステップと、前記第1画像と前記第2画像を用い、前記設定された探索範囲に限定したステレオマッチングを行うことにより、前記第1のデプス情報よりも空間分解能の高い第2のデプス情報を取得するステップと、を有し、前記パターン光は、1つのデプス値に対応する領域である単位要素が規則的に配置された空間符号化パターンと、複数のランダム片が不規則に配置されたランダムパターンと、が合成された合成パターンを有することを特徴とする3次元計測方法を提供する。
【0019】
本発明は、上記手段の少なくとも一部を有する画像処理装置又は3次元計測システムとして捉えてもよい。また、本発明は、上記処理の少なくとも一部を含む画像処理方法、3次元計測方法、測距方法、画像処理装置の制御方法、3次元計測システムの制御方法などとして捉えてもよく、または、かかる方法を実現するためのプログラムやそのプログラムを非一時的に記録した記録媒体として捉えてもよい。なお、上記手段および処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ステレオマッチングによる計測において、高い精度と高速な処理を両立することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の適用例の一つである3次元計測システムの構成例を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、3次元計測システムの機能及び処理の概要を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、空間符号化パターンとランダムパターンが合成された合成パターンの例を示す図である。
【
図4】
図4は、空間符号化パターンを構成する単位要素の例を示す図である。
【
図5】
図5は、ランダムパターンの付加量を変えた場合の、低コントラスト条件下でのステレオマッチングの成功率の変化を示す図である。
【
図6】
図6は、ランダムパターンが合成された単位要素の例を示す図である。
【
図7】
図7A及び
図7Bは、
図6の単位要素を対象物に投影し、低コントラスト条件下で撮影した場合に得られる画像のシミュレーションを示す図である。
【
図8】
図8は、ランダムパターンの付加量を変えた場合の、低コントラスト条件下での空間符号化パターン方式のパターン復号の成功率の変化を示す図である。
【
図9】
図9A~
図9Cは、黒色の構造に白色のランダム片が重なる例を示す図である。
【
図10】
図10は、ランダムパターンのコントラストが最も小さくなる場合を示す図である。
【
図17】
図17は、本発明の実施形態に係る3次元計測システムの機能ブロック図である。
【
図20】
図20は、パターン投光部の他の構成例を示す図である。
【
図21】
図21は、パターン投光部の他の構成例を示す図である。
【
図22】
図22は、パターン投光部の他の構成例を示す図である。
【
図23】
図23は、ステレオマッチングの原理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<適用例>
図1は、本発明の適用例の一つである3次元計測システムの構成例を模式的に示す図である。3次元計測システム1は、画像センシングによって対象物12の3次元形状を計測するためのシステムであり、概略、センサユニット10と画像処理装置11から構成される。センサユニット10は、少なくとも、パターン光を投影する投光装置と1つ以上のカメラ(イメージセンサや撮像装置とも呼ばれる)を備えており、必要に応じて他のセンサや照明を備える場合もある。センサユニット10の出力は画像処理装置11に取り込まれる。画像処理装置11は、センサユニット10から取り込まれたデータを用いて各種の処理を行うデバイスである。画像処理装置11の処理としては、例えば、距離計測(測距)、3次元形状認識、物体認識、シーン認識などが含まれてもよい。画像処理装置11の処理結果は、例えば、ディスプレイなどの出力装置に出力されたり、外部に転送されて検査や他の装置の制御等に利用される。このような3次元計測システム1は、例えば、コンピュータビジョン、ロボットビジョン、マシンビジョンをはじめとして、幅広い分野に適用される。
【0023】
図1の構成はあくまで一例であり、3次元計測システム1の用途に応じてそのハードウェア構成は適宜設計すればよい。例えば、センサユニット10と画像処理装置11は無線で接続されてもよいし、センサユニット10と画像処理装置11が一体の装置で構成されていてもよい。また、センサユニット10と画像処理装置11をLAN又はインターネット等の広域ネットワークを介して接続してもよい。また、1つの画像処理装置11に対し複数のセンサユニット10を設けてもよいし、逆に、1つのセンサユニット10の出力を複数の画像処理装置11に提供してもよい。さらに、センサユニット10をロボットや移動体に取り付けるなどしてセンサユニット10の視点を移動可能にしてもよい。
【0024】
図2は、3次元計測システム1の機能及び処理の概要を模式的に示す図である。3次元計測システム1は、対象物12の距離を計測するための計測系として、第1の計測系21と第2の計測系22の2つを備えている。各計測系21、22の機能及び処理は、センサユニット10と画像処理装置11とが協働して実現されるものである。
【0025】
第1の計測系21は、空間符号化パターン方式によって対象物12までの奥行距離(デプス)を計測する、第1の測距手段である。第2の計測系22は、ステレオマッチング(ステレオカメラ方式とも呼ばれる)によって対象物12までの奥行距離(デプス)を計測する、第2の測距手段である。第1の計測系21と第2の計測系22で同じカメラ(つまり、同じ解像度の画像)を用いる場合、空間符号化パターン方式により得られる距離情報(第1のデプス情報)に比べて、ステレオマッチングで得られる距離情報(第2のデプス情報)の方が空間分解能が高い。したがって、本システム1は、第1の計測系21で得られる距離情報を、第2の計測系22で観測される視差を大まかに予測しステレオマッチングにおける探索範囲を絞り込む目的で補助的に利用し、第2の計測系22によって生成される距離情報を最終的な出力とする。
【0026】
続いて、
図2及び
図3を参照して、3次元計測システム1による計測処理の大まかな流れを説明する。
【0027】
(1)センサユニット10が、投光装置から対象物12にパターン光を投影する。
図3に示すように、本システム1では、空間符号化パターン30とランダムパターン31とが合成された合成パターン32が用いられる。空間符号化パターン30は、空間符号化パターン方式による距離計測のためのパターンであり、所定サイズの単位要素300が規則的に配置されたものである。単位要素300は、1つのデプス値に対応する最小領域である。ランダムパターン31は、複数の小片(ランダム片と呼ぶ)が不規則に配置されたパターンである。
【0028】
(2)センサユニット10が、パターン光が投影された対象物12を撮影し、2枚の画像(第1画像、第2画像と呼ぶ)からなるステレオ画像ペアを取得する。この2枚の画像は、対象物12に対する視差が生ずるように、対象物12を異なる視点(視線方向)から撮影したものである。センサユニット10が複数のカメラを備えている場合には、2台のカメラで第1画像と第2画像を同時に撮影してもよい。あるいは、カメラを移動させながら連続的に撮影することで、単一のカメラで第1画像と第2画像を取得してもよい。
【0029】
(3)第1の計測系21が、第1画像を用い、空間符号化パターン方式により、対象物12の第1のデプス情報を取得する。第1の計測系21は、第1のデプス情報に基づき第1画像と第2画像の間の視差を予測し、その予測した視差の2次元空間分布を視差マップとして出力する。本明細書では、第2の計測系22のステレオマッチングで生成される視差マップと区別するため、第1の計測系21で生成される視差マップを「参考視差マップ」と呼ぶ。第1のデプス情報及び参考視差マップの空間分解能は、空間符号化パターン30の単位要素300のサイズに依存して決まる。例えば、単位要素300が第1画像において4画素×4画素のサイズとなる場合、第1のデプス情報及び参考視差マップの空間分解能は、第1画像の解像度の1/4となる。
【0030】
(4)第2の計測系22が、第1の計測系21から取得した参考視差マップを用いて、ステレオマッチングにおける対応点の探索範囲を設定する。予測視差がある程度の誤差を含むことは避けられないため、対応点の探索範囲は、その誤差範囲を包含するように設定するとよい。例えば、予測視差の値がd[画素]であり、誤差が±derr[画素]である場合には、探索範囲をd-derr-c~d+derr+cのように設定してもよい。cはマージンである。なお、画像内のすべての画素に対し個別に探索範囲を設定してもよいし、画像内での局所的な視差の変化が大きくない場合などは、画像を複数のエリアに分割してエリア単位で探索範囲を設定してもよい。
【0031】
(5)第2の計測系22が、設定された探索範囲の中から、第1画像と第2画像の間の各画素の対応点を探索する。例えば、第1画像を基準画像、第2画像を比較画像とした場合、第1画像中の画素(基準点)に画像特徴が最も近い第2画像中の画素が対応点として選ばれ、基準点と対応点の座標の差が、当該基準点における視差として求まる。第1画像中のすべての画素について対応点の探索が行われ、その探索結果から視差マップが生成される。視差マップは、各画素の座標に視差情報が関連付けられたデータである。
【0032】
(6)第2の計測系22は、三角測量の原理を用いて、視差マップの視差情報を距離情報に変換し、デプスマップ(第2のデプス情報)を生成する。第2の計測系22により得られる第2のデプス情報の空間分解能は、第1画像及び第2画像の解像度により決まる。したがって、第1の計測系21に比べて、空間分解能が高いデプス情報を得ることができる。
【0033】
従来の一般的なステレオマッチングでは、比較画像の全体から対応点の探索を行うため、高解像度の画像を用いると不可避的に処理時間が長くなってしまう。これに対し、上記構成では、予測された視差に基づき対応点の探索範囲が限定される。これにより、探索範囲を格段に狭くできるため、対応点の探索に要する時間を大幅に短縮することができる。また、ランダムパターンを合成したパターン光を用いたので、対象物表面の明暗分布の複雑さ(画像特徴の多様さ)が増す。これにより、ステレオマッチング、つまり対応点探索の成功率及び精度を向上することができる。したがって、本システム1によれば、空間分解能の高い3次元計測を、高速かつ高精度に行うことができる。
【0034】
<パターン光の説明>
次に、
図3の合成パターン32について詳しく説明する。合成パターン32は、ベースとなる空間符号化パターン30に対しランダムパターン31が重畳(合成)されたものである。1つの投光装置から合成パターン32を投影してもよいし、2つの投光装置から空間符号化パターン30とランダムパターン31を個別に投影し、対象物表面上で2つのパターン30、31を重ね合せてもよい。
図3等においてパターンを白黒で描いているが、白色の部分が明部(光が照射される領域)、黒色の部分が暗部(光が照射されない領域)を表すものとする。なお、パターンは白黒(明暗)の二値である必要はなく、多値のパターンでもよい。
【0035】
(空間符号化パターン)
図4は、空間符号化パターン30を構成する単位要素300の例を示している。単位要素300は、1つのデプス値に対応する最小領域であり、「プリミティブ」とも呼ばれる。
図4に示す単位要素300は、「グリッド」と呼ばれる2×2の格子の中央に、「ビット」と呼ばれる矩形が配置された構造を有している。グリッドの種類が2つ、ビットの種類が2つであるため、グリッドとビットの組合せにより、単位要素300は4種類の値をとることができる。
【0036】
(ランダムパターン)
ランダムパターン31は、複数のランダム片が不規則に配置されたパターンである。「不規則に配置」とは、全く規則性も再現性も無い完全にランダムな配置であってもよいし、擬似乱数を用いて決定した配置であってもよい。各ランダム片は、1つのドット(画素)又は連続する複数のドット(画素)から構成され、その形状及びサイズは固定でも可変でもよく、また1種類でも複数種類でもよい。単位要素300の領域内に、1つ以上のランダム片が付加されるとよく、各ランダム片は単位要素300内の構造(ビット、グリッド)と区別可能な輝度又は色をもつとよい。
図3の例では、ランダム片と単位要素300内の構造との明暗(白黒)が反転するように、各ランダム片の輝度が設定されている。
【0037】
ランダムパターン31を付加することによって、空間符号化パターン30のみを投影した場合に比べ、ステレオマッチングの成功率及び精度の向上が期待できる。空間符号化パターン30のみでは対象物表面上に現れる明暗分布が規則性をもつため、対応点探索において不正解の対応点を選んでしまうおそれが高いのに対し、ランダムパターン31の付加により明暗分布の複雑さ(画像特徴の多様さ)が増すと、正解の対応点を検出することが容易になるからである。特に、対象物表面の画像特徴が不明りょうとなる低コントラスト条件下で、その効果が顕著となる。
【0038】
(ランダムパターンの付加量)
図5は、ランダムパターンの付加量を変えた場合の、低コントラスト条件下でのステレオマッチングの成功率の変化を示している。横軸が、空間符号化パターン30に対するランダムパターン31の割合であり、縦軸が、ステレオマッチングの成功率(対応点探索の成功率)である。
【0039】
本明細書では、空間符号化パターン30に対するランダムパターン31の割合を指標S2/S1で表す。ここで、S1は、空間符号化パターン30の単位要素300の面積であり、S2は、単位要素300の領域内に付加されているランダム片の合計面積である。
図6の例であれば、単位要素300が64画素(8画素×8画素)の正方形からなり、その中に、4つのランダム片60(1画素のランダム片が3つと、3画素のランダム片が1つ。)が付加されているので、S1=64、S2=6であり、S2/S1=0.09375となる。
【0040】
図5のグラフ50は、単位要素300がカメラの撮像素子上で4画素×4画素のサイズに結像するように設定した場合の実験結果であり、グラフ51は、単位要素300が撮像素子上で10画素×10画素のサイズに結像するように設定した場合の実験結果である。単位要素300の結像サイズは、投光装置の投影倍率、カメラのレンズ倍率、投光装置やカメラの配置(対象物からの距離)などを調整することで任意に設定することができる。
図7A及び
図7Bは、
図6の単位要素300を対象物に投影し、低コントラスト条件下で撮影した場合に得られる画像のシミュレーションである。
図7Aが4画素×4画素の結像サイズの画像であり、
図7Bが10画素×10画素の結像サイズの画像である。
【0041】
図5のグラフ50、51からわかるように、ランダムパターンが付加されていない場合(S2/S1=0)にステレオマッチングの成功率は最も低く、ランダムパターンの付加量が増加するほどステレオマッチングの成功率が上昇する。本発明者らの実験によると、ランダムパターンの付加量S2/S1は、0.02より大きいとよく、0.04より大きいとさらに好ましい。
【0042】
図8は、ランダムパターンの付加量を変えた場合の、低コントラスト条件下での空間符号化パターン方式のパターン復号の成功率の変化を示している。横軸が、空間符号化パターン30に対するランダムパターン31の割合であり、縦軸が、パターン復号の成功率である。
図8のグラフ80は、単位要素300がカメラの撮像素子上で4画素×4画素のサイズに結像するように設定した場合の実験結果であり、グラフ81は、単位要素300が撮像素子上で10画素×10画素のサイズに結像するように設定した場合の実験結果である。
【0043】
図8のグラフ80、81からわかるように、ランダムパターンが付加されていない場合(S2/S1=0)にパターン復号の成功率が最も高く、ランダムパターンの付加量がある閾値を超えるとパターン復号の成功率が急激に低下する。パターン復号の成功率が低いと、デプスを計算できる点、すなわち視差を予測できる点の数が少なくなる。そうなると、ステレオマッチングにおいて、対応点探索の範囲を限定できる箇所が少なくなり、その結果として、ステレオマッチングの処理時間が増大してしまう。本発明者らの実験によると、ランダムパターンの付加量S2/S1は、0.12より小さいとよく、0.1より小さいとさらに好ましい。
【0044】
以上のことから、ランダムパターンの付加量S2/S1は、少なくとも、
0.02<S2/S1<0.12
を満足することが好ましい。この範囲に設定することで、ステレオマッチングの成功率と処理時間のバランスがとれた処理が可能となる。
【0045】
さらに、ランダムパターンの付加量S2/S1は、
0.04<S2/S1<0.1
であることがより好ましい。この範囲に設定することで、ステレオマッチングの成功率とパターン復号の成功率の両方を実質的に最大化できる。すなわち、ステレオマッチングの精度と速度を実質的に最大化することができる。
【0046】
(ランダムパターンのサイズ)
ランダムパターンのサイズは、空間符号化パターンの構造を変化させない程度の大きさに設定するとよい。「構造を変化させる」とは、カメラで撮影した画像からパターンを復号したときに間違った値が得られてしまうこと、又は、復号そのものに失敗すること、を意味する。
【0047】
例えば、本実施形態のような白黒の二値のパターンの場合において、単位要素300の値を表す構造(ビット、グリッドなど)のうち最も小さいものの面積をS3、単位要素300内に付加されたランダム片のうち最も大きいものの面積をS4としたときに、
S4<S3/2
を満足するように、ランダムパターンのサイズを設定するとよい。
【0048】
図9A~
図9Cに、黒色の構造90に白色のランダム片91が重なる例を示す。
図9Aは構造90の例である。
図9Bのように、もしランダム片91が構造90の面積の半分以上(S4≧S3/2)を占めると、白色の面積の方が広くなるため、「黒」と解釈されるべき構造90が「白」と誤って解釈されてしまう。これに対し、
図9Cのように、ランダム片91のサイズが構造90のサイズの半分より小さければ(S4<S3/2)、構造90にランダム片91が重なったとしても、依然として黒色の面積の方が広いため、この構造90は「黒」と正しく判定される。
【0049】
(結像サイズ)
本発明者らの実験によると、単位要素300の結像サイズは3画素×3画素以上であることが好ましい。単位要素300の一辺が3画素より小さくなると、単位要素300内の構造(ビット、グリッド)が解像されず、構造の明暗(白黒)が正確に判別できなくなり、パターンの復号率が著しく低下するからである。パターンの復号率の観点では、単位要素300の結像サイズはできるだけ大きい方がよい。ただし、結像サイズが大きくなるほど、空間符号化パターン方式で得られるデプス情報の空間解像度が低下するため、実用上は、3画素×3画素~10画素×10画素程度が好ましい。
【0050】
また、単位要素300内の構造の結像サイズは3/2画素×3/2画素以上であることが好ましい。構造の一辺が3/2画素より小さくなると、(例えば、構造がちょうど2つの画素にまたがる位置に結像した場合などに)構造がうまく解像されず、構造の明暗(白黒)が正確に判別できなくなり、パターンの復号率が低下するからである。なお、構造のサイズの上限は、単位要素300のサイズとの関係で決まる。例えば、単位要素300の面積をS1、構造の面積をS3としたとき、S3≦S1/4に設定するとよい。
【0051】
一方で、ランダム片の結像サイズは1/4画素×1/4画素以上であることが好ましい。ランダムパターンを画像上で認識できる信号値で撮像するには、ランダム片とその周辺の画素との信号値の差を少なくとも2digit以上にするとよい。
図10のようにランダム片95が撮像素子96の画素にまたがる場合が最もパターンのコントラストが小さくなる(つまり、パターンの効果が失われる)場合である。例えば、信号値を8bit(=256digit)で出力するカメラの場合、白画素の信号値を128digitとすると、画素97に含まれるランダム片95の面積は1/64画素相当かそれより大きくする必要がある。そのためには、撮像素子96上で1/16画素(=1/4画素×1/4画素)以上にする必要がある。なお、ここでは8bit出力のカメラにおける結像サイズを例示したが、好ましい結像サイズは、カメラ(撮像素子)の仕様や性能に応じ、ランダム片とその周辺画素との信号値の差が認識可能となるように適宜設定すればよい。
【0052】
(他のパターン)
合成パターンの他の例を説明する。
図11Aは、ビットの形状を円形にした例であり、
図11Bは、ビットの形状をひし形にした例である(グリッドの形状は
図3の例と同じ)。いずれの場合も、これまで説明したものと同じランダムパターンを付すとよい。なお、ビットの形状は、正方形、円形、ひし形以外の任意の形状を用いてもよい。
【0053】
図12A~
図12Dは、単位要素300内に存在する構造の数の違いを示している。
図12Aが1個の例、
図12Bが2個の例、
図12Cが3個の例、
図12Dが4個の例である。各図において左側が空間符号化パターンの単位要素300を示し、右側がランダムパターンが付加された合成パターンを示している。ランダムパターンの付加方法は、これまで説明したものと同じでよい。
【0054】
図13A~
図13Dは、ライン(破線、ドットラインなど)を利用したパターンの例である。
図13Aは、ラインが1本の例、
図13Bは、ラインが2本の例、
図13Cは、ラインが3本の例、
図13Dは、ラインが4本の例である。各図において左側が空間符号化パターンの単位要素300を示し、右側がランダムパターンが付加された合成パターンを示している。ランダムパターンの付加方法は、これまで説明したものと同じでよい。
【0055】
図14A~
図14Dは、グリッドを利用したパターンの例である。
図14Aは、グリッドラインが1本の例、
図14Bは、グリッドラインが2本の例、
図14Cは、グリッドラインが3本の例、
図14Dは、グリッドラインが4本の例である。各図において左側が空間符号化パターンの単位要素300を示し、右側がランダムパターンが付加された合成パターンを示している。ランダムパターンの付加方法は、これまで説明したものと同じでよい。
【0056】
図12A~
図12D、
図13A~
図13D、
図14A~
図14Dでは、構造が配置されている領域以外の領域(背景領域とも呼ぶ)にランダム片が付加されている。このような配置によれば、ランダム片がパターン復号に悪影響を与える可能性を小さくできるという利点がある。もちろん、前述の例と同様、構造の上にランダム片が重なるように配置してもよい。
【0057】
図15Aは、濃淡を利用したパターンの例である。このパターンは、1周期の輝度変化からなり、輝度変化の位相によって値を表している。ランダム片は単位要素内の任意の位置に付加してよい。ただし、カメラで撮影した画像において、ランダム片が周囲の輝度変化パターンから区別可能である必要がある。そこで、例えば、ランダム片とその周囲との明暗差が2digit以上になるように、ランダム片の輝度を設定するとよい。
【0058】
図15Bは、波長(色)を利用したパターンの例である。図示の関係で
図15Bは白黒で描画しているが、実際には、カラフルなパターンである。このパターンは、1周期の波長変化からなり、波長変化の位相によって値を表している。ランダム片は単位要素内の任意の位置に付加してよい。ただし、カメラで撮影した画像において、ランダム片が周囲の波長変化パターンから区別可能である必要がある。そこで、例えば、ランダム片とその周囲との明暗差が2digit以上になるように、ランダム片の輝度を設定するとよい。あるいは、所定の波長差がつくように、ランダム片の波長(色)を設定してもよい。
【0059】
図16Aは、偏光を利用したパターンの例である。このパターンは、明暗(白黒)の代わりに、縦方向の直線偏光160と横方向の直線偏光161とを組み合わせたものである。例えば、縦方向の直線偏光を透過する偏光子162をもったカメラで
図16Aのパターンを撮影すると、
図16Bのような画像が得られる。すなわち、縦方向の偏光成分は透過され画像上は白画素になり、横方向の偏光成分はカットされ画像上は黒画素になる。ランダムパターンを付加する場合には、ランダム片とその周囲との偏光方向が相違するように、ランダム片の偏光方向を設定するとよい。
【0060】
<実施形態>
図17を参照して、本発明の実施形態に係る3次元計測システム1の構成例について説明する。
図17は、3次元計測システム1の機能ブロック図である。
【0061】
(センサユニット)
センサユニット10は、第1カメラ101、第2カメラ102、パターン投光部103、照明部104、画像転送部105、駆動制御部106を有する。
【0062】
第1カメラ101と第2カメラ102は、いわゆるステレオカメラを構成するカメラ対であり、所定の距離だけ離れて配置されている。2つのカメラ101、102で同時に撮影を行うことで、異なる視点から撮影した画像ペアを得ることができる(第1カメラ101の画像を第1画像、第2カメラ102の画像を第2画像と呼ぶ)。2つのカメラ101、102は、互いの光軸が交差し、且つ、水平ライン(又は垂直ライン)が同一平面上にくるように、配置されるとよい。このような配置をとることで、エピポーラ線が画像の水平ライン(又は垂直ライン)と平行になるため、ステレオマッチングにおける対応点を同じ位置の水平ライン(又は垂直ライン)内から探索すればよく、探索処理の簡易化が図れるからである。なお、カメラ101、102としては、モノクロのカメラを用いてもよいし、カラーのカメラを用いてもよい。
【0063】
パターン投光部103は、空間符号化パターン方式の測距で用いるパターン光を対象物12に投影するための投光装置であり、プロジェクタとも呼ばれる。
図18にパターン投光部103の構成例を模式的に示す。パターン投光部103は、例えば、光源部180、導光レンズ181、パターン生成部182、投写レンズ183などから構成される。光源部180としては、LED、レーザー、VCSEL(Vertical cavity Surface-emitting Laser)などを用いることができる。導光レンズ181は光源部180からパターン生成部182に光を導くための光学素子であり、レンズ又はガラスロッドなどを用いることができる。パターン生成部182は、合成パターンを生成する部材ないし装置であり、フォトマスク、回折光学素子(例えばDOE(Diffractive Optical Element))、光変調素子(例えば、DLP(Digital Light Processing)、LCD(Liquid Crystal Display)、LCoS(Liquid Crystal on Silicon)、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems))などを用いることができる。投写レンズ183は生成されたパターンを拡大し投写する光学素子である。
【0064】
照明部104は、一般的な可視光画像を撮影するために用いられる均一照明である。例えば白色LED照明などが用いられる。もしくはアクティブ投光と同じ波長帯の照明でもよい。
【0065】
画像転送部105は、第1カメラ101で撮影された第1画像のデータ、及び、第2カメラ102で撮影された第2画像のデータを、画像処理装置11へ転送する。画像転送部105は、第1画像と第2画像を別々の画像データとして転送してもよいし、第1画像と第2画像を繋ぎ合わせてサイドバイサイド画像を生成し単一の画像データとして転送してもよい。駆動制御部106は、第1カメラ101、第2カメラ102、パターン投光部103、及び、照明部104を制御するユニットである。なお、画像転送部105と駆動制御部106は、センサユニット10側ではなく、画像処理装置11側に設けてもよい。
【0066】
(画像処理装置)
画像処理装置11は、画像取得部110、パターン復号部111、視差予測部112、前処理部113、探索範囲設定部115、対応点探索部116、視差マップ後処理部117、デプスマップ生成部118を有する。
【0067】
画像取得部110は、センサユニット10から必要な画像データを取り込む機能を有する。画像取得部110は、パターン復号部111に第1画像を送り、前処理部113に第1画像と第2画像からなるステレオ画像ペアを送る。
【0068】
パターン復号部111は、空間符号化パターン方式によって、第1画像から距離情報(第1のデプス情報)を取得する機能をもつ。空間符号化パターン方式は、用いる単位要素のサイズに依存して空間分解能が決まる。例えば、5画素×5画素の単位要素を用いる場合、距離情報の空間分解能は入力画像の1/25となる。視差予測部112は、パターン復号部111で得られた距離情報に基づき第1画像と第2画像の間の視差を予測し参考視差マップを出力する機能を有する。
【0069】
前処理部113は、第1画像と第2画像に対して、必要な前処理を行う機能を有する。探索範囲設定部115は、予測視差に基づいて対応点の探索範囲を設定する機能を有する。対応点探索部116は、第1画像と第2画像の間の対応点を探索し、その探索結果に基づき視差マップ(第2のデプス情報)を生成する機能を有する。視差マップ後処理部117は、視差マップに対して必要な後処理を行う機能を有する。デプスマップ生成部118は、視差マップの視差情報を距離情報に変換し、デプスマップを生成する機能を有する。
【0070】
画像処理装置11は、例えば、CPU(プロセッサ)、RAM(メモリ)、不揮発性記憶装置(ハードディスク、SSDなど)、入力装置、出力装置などを備えるコンピュータにより構成される。この場合、CPUが、不揮発性記憶装置に格納されたプログラムをRAMに展開し、当該プログラムを実行することによって、上述した各種の機能が実現される。ただし、画像処理装置11の構成はこれに限られず、上述した機能のうちの全部又は一部を、FPGAやASICなどの専用回路で実現してもよいし、クラウドコンピューティングや分散コンピューティングにより実現してもよい。
【0071】
本例では、第1カメラ101、パターン投光部103、画像転送部105、画像取得部110、駆動制御部106、パターン復号部111、視差予測部112によって、
図2の第1の計測系21が構成されており、第1カメラ101、第2カメラ102、パターン投光部103、画像転送部105、駆動制御部106、前処理部113、探索範囲設定部115、対応点探索部116、視差マップ後処理部117、デプスマップ生成部118によって、
図2の第2の計測系22が構成されている。
【0072】
(計測処理)
図19を参照して、本実施形態の計測処理の流れを説明する。
図19は、画像処理装置11により実行される処理の流れを示すフロー図である。
【0073】
ステップS400、S401において、画像取得部110が、センサユニット10から第1画像と第2画像を取得する。第1画像及び第2画像はそれぞれ、パターン投光部103から対象物12にパターン光を投影した状態で、第1カメラ101及び第2カメラ102で撮影された画像である。なお、センサユニット10からサイドバイサイド画像形式のデータが取り込まれた場合は、画像取得部110がサイドバイサイド画像を第1画像と第2画像に分割する。画像取得部110は、パターン復号部111に第1画像を送り、前処理部113に第1画像と第2画像を送る。
【0074】
ステップS402において、前処理部113が、第1画像及び第2画像に対し平行化処理(レクティフィケーション)を行う。平行化処理とは、2つの画像の間の対応点が画像中の同じ水平ライン(又は垂直ライン)上に存在するように、一方又は両方の画像を幾何変換する処理である。平行化処理によりエピポーラ線が画像の水平ライン(又は垂直ライン)と平行になるため、後段の対応点探索の処理が簡単になる。なお、センサユニット10から取り込まれる画像の平行度が十分高い場合には、ステップS402の平行化処理は省略してもよい。
【0075】
ステップS403において、前処理部113が、平行化された第1画像及び第2画像の各画素についてハッシュ特徴量を計算し、各画素の値をハッシュ特徴量に置き換える。ハッシュ特徴量は、注目画素を中心とする局所領域の輝度特徴を表すものであり、ここでは、8要素のビット列からなるハッシュ特徴量を用いる。このように、各画像の輝度値をハッシュ特徴量に変換しておくことで、後段の対応点探索における局所的な輝度特徴の類似度計算が極めて効率化される。
【0076】
ステップS404において、パターン復号部111が、第1画像を解析しパターンを復号することによって、第1画像上の複数の点における奥行方向の距離情報を取得する。
【0077】
ステップS405において、視差予測部112が、ステップS405で得られた各点の距離情報に基づき、各点を平行化された第1画像の画像座標系に射影したときの2次元座標と、同じ点を平行化された第2画像の画像座標系に射影したときの2次元座標とを計算し、2つの画像の間での座標の差を計算する。この差が予測視差である。視差予測部112は、ステップS404で距離情報が得られたすべての点についての予測視差を求め、そのデータを参考視差マップとして出力する。
【0078】
ステップS406において、探索範囲設定部115が、予測視差に基づいて、第1画像及び第2画像に対し、対応点の探索範囲を設定する。探索範囲の大きさは、予測の誤差を考慮して決定される。例えば、予測の誤差が±10画素である場合には、マージンを含めても、予測視差を中心とした±20画素程度を探索範囲に設定すれば十分と考えられる。仮に水平ラインが640画素である場合に、探索範囲を±20画素(つまり40画素)に絞り込むことができれば、水平ライン全体を探索するのに比べて探索処理を単純に1/16に削減することができる。
【0079】
ステップS407において、対応点探索部116が、画素削減後の第1画像と第2画像の間で対応点の探索を行い、各画素の視差を求める。対応点探索部116は、対応点の検出に成功した点(画素の座標)に視差情報を関連付けた視差データを生成する。この情報が視差マップである。
【0080】
ステップS408において、視差マップ後処理部117が、視差マップの修正を行う。対応点探索によって推定された視差マップには誤計測点や計測抜けなどが含まれるため、周囲の画素の視差情報に基づき誤計測点の修正や計測抜けの補完を行う。
【0081】
ステップS409において、デプスマップ生成部118が、視差マップの各画素の視差情報を3次元情報(奥行方向の距離情報)に変換し、デプスマップを生成する。このデプスマップ(3次元点群データ)は、例えば、対象物12の形状認識、物体認識などに利用される。
【0082】
<変形例>
上記実施形態は、本発明の構成例を例示的に説明するものに過ぎない。本発明は上記の具体的な形態には限定されることはなく、その技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。
【0083】
図20は、パターン投光部の他の構成例を示している。
図20の構成では、空間符号化パターン30を投射するための空間符号化パターン投光部200と、ランダムパターン31を投射するためのランダムパターン投光部201の2種類の投光部が設けられている。各投光部200、201から投射された2つのパターン30、31が対象物表面上で重ね合わされ、合成パターン32が形成される。このような構成でも上述した実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0084】
図21は、パターン投光部の他の構成例を示している。
図21の構成では、空間符号化パターン30用の光源210、導光レンズ211、パターン生成部212と、ランダムパターン31用の光源213、導光レンズ214、パターン生成部215とが設けられる。そして、ビームコンバイナー216によって2つのパターン光が合成され、投写レンズ217から合成パターン32が投影される。このような構成でも上述した実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0085】
図22は、パターン投光部の他の構成例を示している。
図22の構成では、第1の光源220及び第1の導光レンズ221と、第2の光源222及び第2の導光レンズ223とが設けられる。そして、ビームコンバイナー224によって2種類の光が合成され、パターン生成部225を介して投写レンズ226から合成パターン32が投影される。2種類の光源220、222としては、例えば、波長の異なる光源、偏光方向の異なる光源などを用いることができる。
【0086】
上記実施形態では、第1カメラと第2カメラの2つのカメラを用いたが、センサユニットに3つ以上のカメラを設けてもよい。ペアリングするカメラの組合せを変えて、ステレオマッチングを行い、各組合せで得られた複数の計測結果を用いて計測結果の信頼性を向上させてもよい。その結果、精度を向上させることができる。
【0087】
上記実施形態では、ステレオマッチングにハッシュ特徴量を利用したが、対応点の類似度評価には他の手法を用いてもよい。例えば、類似度の評価指標としてはSAD(Sum of Absolute Difference)、SSD(Sum of Squared Difference)、NC(Normalized Correlation)などによる左右画像の画素の類似度計算法がある。また、上記実施形態では、参考デプスマップの生成(視差の予測)とステレオマッチングとで共通するカメラの画像を用いたが、それぞれ異なる三次元計測用のカメラ画像を用いてもよい。
【0088】
<付記>
(1)対象物(12)にパターン光を投影する投光装置(103)と、
前記対象物(12)を撮影する第1カメラ(101)と、
前記第1カメラ(101)とは異なる視点で前記対象物(12)を撮影する第2カメラ(102)と、
前記第1カメラ(101)から得られる第1画像及び前記第2カメラ(102)から得られる第2画像を処理することによって、前記対象物(12)の3次元情報を取得する画像処理装置(11)と、を備え、
前記画像処理装置(11)は、
前記第1画像を用い、空間符号化パターン方式により、第1のデプス情報を取得する第1計測手段(21、111)と、
前記第1のデプス情報から予測される前記第1画像と前記第2画像の間の視差に基づき、ステレオマッチングにおける対応点の探索範囲を設定する設定手段(115)と、
前記第1画像と前記第2画像を用い、前記設定された探索範囲に限定したステレオマッチングを行うことにより、前記第1のデプス情報よりも空間分解能の高い第2のデプス情報を取得する第2計測手段(22、116)と、を有し、
前記パターン光は、1つのデプス値に対応する領域である単位要素が規則的に配置された空間符号化パターン(30)と、複数のランダム片が不規則に配置されたランダムパターン(31)と、が合成された合成パターン(32)を有する
ことを特徴とする3次元計測システム(1)。
【符号の説明】
【0089】
1:3次元計測システム
10:センサユニット
11:画像処理装置
12:対象物
21:第1の計測系
22:第2の計測系