(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池用電解質シート、固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法及び固体酸化物形燃料電池用単セル
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1253 20160101AFI20221101BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20221101BHJP
C04B 35/622 20060101ALI20221101BHJP
C04B 35/486 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
H01M8/1253
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
C04B35/622
C04B35/486
(21)【出願番号】P 2021537340
(86)(22)【出願日】2020-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2020029972
(87)【国際公開番号】W WO2021025051
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2022-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2019144728
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】大家 裕史
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-191943(JP,A)
【文献】特開2003-022821(JP,A)
【文献】特開平07-073891(JP,A)
【文献】特開2001-247373(JP,A)
【文献】特表2007-510255(JP,A)
【文献】特開2018-199598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶ジルコニアの焼結体を含むセラミック板状体からなり、
外周部及び中央部を含む9箇所でセラミックグレインのメジアン径D
50を測定したとき、前記セラミックグレインのメジアン径D
50が前記9箇所の各々において1.0μm以上、4.0μm以下であり、かつ、前記9箇所における前記セラミックグレインのメジアン径D
50の最大値が最小値の1.0倍以上、1.3倍以下である、ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池用電解質シート。
【請求項2】
前記9箇所で前記セラミック板状体の密度を測定したとき、前記9箇所における前記セラミック板状体の密度の最大値が最小値の1.0倍以上、1.3倍以下である、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シート。
【請求項3】
立方晶ジルコニアの焼結体を含むセラミック板状体からなり、
外周部及び中央部を含む9箇所で前記セラミック板状体の密度を測定したとき、前記9箇所における前記セラミック板状体の密度の最大値が最小値の1.0倍以上、1.3倍以下である、ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池用電解質シート。
【請求項4】
立方晶ジルコニア粉末を含有するセラミック材料粉末を含む未焼結板状体の少なくとも一方主面上に、樹脂粉末を含む樹脂層を設ける工程と、
前記樹脂層が前記少なくとも一方主面上に設けられた前記未焼結板状体を加圧し、未焼結体を作製する工程と、
前記未焼結体を焼成することにより、前記樹脂層を焼失させるとともに前記未焼結板状体を焼結させてセラミック板状体を作製する工程と、を備え、
前記樹脂層を設ける工程では、前記未焼結板状体の前記少なくとも一方主面において、中央領域と前記中央領域を囲む外周領域との両領域上に、厚みが前記外周領域上で前記中央領域上の2倍以上、4倍以下となるように前記樹脂層を設け、
前記未焼結板状体を厚み方向から平面視したとき、前記未焼結板状体の前記外周領域の幅は、前記未焼結板状体の外縁及び中心の最短距離の10%以上、40%以下である、ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法。
【請求項5】
前記樹脂層を設ける工程では、前記樹脂粉末を含有する樹脂スラリーを前記未焼結板状体の前記中央領域及び前記外周領域の両領域上に塗工する、請求項4に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法。
【請求項6】
前記樹脂スラリーを前記未焼結板状体の前記中央領域及び前記外周領域の両領域上に厚みT
1で塗工した後、前記樹脂スラリーを前記未焼結板状体の前記外周領域上に前記厚みT
1の1倍以上、3倍以下の厚みで塗工する、請求項5に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法。
【請求項7】
燃料極と、
空気極と、
前記燃料極と前記空気極との間に配置された請求項1~3のいずれかに記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シートと、を備える、ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池用単セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池用電解質シート、固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法及び固体酸化物形燃料電池用単セルに関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、燃料極:H2+O2-→H2O+2e-、空気極:(1/2)O2+2e-→O2-の反応により、電気エネルギーを取り出す装置である。固体酸化物形燃料電池は、セラミック板状体からなる固体酸化物形燃料電池用電解質シート上に燃料極及び空気極が設けられた単セルを複数積み重ねて、積層構造にして使用される。
【0003】
例えば、特許文献1には、球状の樹脂粉末を含む樹脂スラリーを用いて未焼結板状体の表面上に樹脂シート又は樹脂層を積層させた後に圧着することにより、未焼結板状体の表面に凹部を形成する、セラミック板状体の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固体酸化物形燃料電池用電解質シートとしては、例えば、ジルコニアの焼結体を含むセラミック板状体が用いられる。このようなジルコニアの結晶構造としては、例えば、正方晶、立方晶等が知られている。正方晶ジルコニアは、部分安定化ジルコニアであり、焼結時に正方晶から菱面体晶に相転移することで高強度となるセラミック材料として知られている。一方、立方晶ジルコニアは、焼結体の状態でのイオン導電率が高いセラミック材料として知られている。
【0006】
立方晶ジルコニアは、正方晶ジルコニアと比較して低温で焼結が始まり、粒成長が早い。そのため、立方晶ジルコニアを焼結させる場合、ポア(空孔)の排出が進みにくく粒内にポアが残りやすくなり、緻密化するのが困難となる。よって、立方晶ジルコニアの焼結体を含むセラミック板状体からなる固体酸化物形燃料電池用電解質シートにおいては、その強度を向上させるために、立方晶ジルコニアの焼結体を緻密化することが大きな課題となっている。
【0007】
また、固体酸化物形燃料電池の発電効率を向上させるために、固体酸化物形燃料電池用電解質シートには大判化、薄型化が求められている。しかしながら、固体酸化物形燃料電池用電解質シートが薄くなると、強度低下に加えて、反り、バリ等の不具合が発生しやすくなる。このことからも、固体酸化物形燃料電池用電解質シートの緻密化が求められている。
【0008】
特許文献1には、未焼結板状体の表面上に樹脂シート又は樹脂層を積層させた後圧着することが記載されている。このような方法であれば、樹脂シート又は樹脂層が比較的低温(例えば、200℃以上、500℃以下)で焼失するため、未焼結板状体の収縮が始まる温度(例えば、800℃以上)ではその収縮を阻害する要因がなく、一見すると、得られる固体酸化物形燃料電池用電解質シートが緻密化しやすいと考えられる。しかしながら、本発明者が検討したところ、樹脂シート又は樹脂層は外周領域から焼失し始めるため、外周領域及び中央領域の間で樹脂シート又は樹脂層の焼失時間に差が生じてしまうことが判明した。このような樹脂シート又は樹脂層の焼失時間のばらつきは、固体酸化物形燃料電池用電解質シートの緻密化に悪影響を及ぼすため、改善の余地があった。
【0009】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、強度が高く、反り及びバリが抑制された固体酸化物形燃料電池用電解質シートを提供することを目的とするものである。また、本発明は、上記固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法を提供することを目的とするものである。更に、本発明は、上記固体酸化物形燃料電池用電解質シートを有する固体酸化物形燃料電池用単セルを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートは、第1の態様において、立方晶ジルコニアの焼結体を含むセラミック板状体からなり、外周部及び中央部を含む9箇所でセラミックグレインのメジアン径D50を測定したとき、上記セラミックグレインのメジアン径D50が上記9箇所の各々において1.0μm以上、4.0μm以下であり、かつ、上記9箇所における上記セラミックグレインのメジアン径D50の最大値が最小値の1.0倍以上、1.3倍以下である、ことを特徴とする。
【0011】
本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートは、第2の態様において、立方晶ジルコニアの焼結体を含むセラミック板状体からなり、外周部及び中央部を含む9箇所で上記セラミック板状体の密度を測定したとき、上記9箇所における上記セラミック板状体の密度の最大値が最小値の1.0倍以上、1.3倍以下である、ことを特徴とする。
【0012】
本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法は、立方晶ジルコニア粉末を含有するセラミック材料粉末を含む未焼結板状体の少なくとも一方主面上に、樹脂粉末を含む樹脂層を設ける工程と、上記樹脂層が上記少なくとも一方主面上に設けられた上記未焼結板状体を加圧し、未焼結体を作製する工程と、上記未焼結体を焼成することにより、上記樹脂層を焼失させるとともに上記未焼結板状体を焼結させてセラミック板状体を作製する工程と、を備え、上記樹脂層を設ける工程では、上記未焼結板状体の上記少なくとも一方主面において、中央領域と上記中央領域を囲む外周領域との両領域上に、厚みが上記外周領域上で上記中央領域上の2倍以上、4倍以下となるように上記樹脂層を設け、上記未焼結板状体を厚み方向から平面視したとき、上記未焼結板状体の上記外周領域の幅は、上記未焼結板状体の外縁及び中心の最短距離の10%以上、40%以下である、ことを特徴とする。
【0013】
本発明の固体酸化物形燃料電池用単セルは、燃料極と、空気極と、上記燃料極と上記空気極との間に配置された本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートと、を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、強度が高く、反り及びバリが抑制された固体酸化物形燃料電池用電解質シートを提供できる。また、本発明によれば、上記固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法を提供できる。更に、本発明によれば、上記固体酸化物形燃料電池用電解質シートを有する固体酸化物形燃料電池用単セルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの一例を示す平面模式図である。
【
図2】
図1中の線分A1-A2に対応する部分を示す断面模式図である。
【
図3】電解質シートにおけるセラミックグレインのメジアン径D
50の測定箇所を示す平面模式図である。
【
図4】セラミックグリーンシートを作製する工程の一例を示す平面模式図である。
【
図5】セラミックグリーンシートを作製する工程の一例を示す平面模式図である。
【
図6】セラミックグリーンシートを作製する工程の一例を示す平面模式図である。
【
図7】未焼結板状体を作製する工程の一例を示す断面模式図である。
【
図8】樹脂層を設ける工程の一例を示す平面模式図である。
【
図9】
図8中の線分B1-B2に対応する部分を示す断面模式図である。
【
図10】未焼結体を作製する工程の一例を示す断面模式図である。
【
図11】セラミック板状体を作製する工程の一例を示す断面模式図である。
【
図12】本発明の固体酸化物形燃料電池用単セルの一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シート(以下、電解質シートとも言う)と、本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法(以下、電解質シートの製造方法とも言う)と、本発明の固体酸化物形燃料電池用単セル(以下、単セルとも言う)とについて説明する。なお、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更されてもよい。また、以下において記載する個々の好ましい構成を複数組み合わせたものもまた本発明である。
【0017】
以下に示す図面は模式図であり、その寸法、縦横比の縮尺等は実際の製品とは異なる場合がある。
【0018】
[固体酸化物形燃料電池用電解質シート]
本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの一例について、以下に説明する。
図1は、本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの一例を示す平面模式図である。
図2は、
図1中の線分A1-A2に対応する部分を示す断面模式図である。
【0019】
図1及び
図2に示すような固体酸化物形燃料電池用電解質シート10は、セラミック板状体からなる。
【0020】
セラミック板状体は、立方晶ジルコニアの焼結体を含む。これにより、電解質シート10は、イオン導電率が高くなる。
【0021】
立方晶ジルコニアとしては、例えば、スカンジウム、イットリウム等の希土類元素の酸化物で安定化された立方晶ジルコニアが挙げられ、具体的には、スカンジアで安定化された立方晶ジルコニア、イットリアで安定化された立方晶ジルコニア等が挙げられる。中でも、立方晶ジルコニアは、スカンジアで安定化された立方晶ジルコニアであることが好ましい。ジルコニアの結晶構造は、例えば、X線回折(XRD)等の結晶構造解析によって確認される。
【0022】
図2に示すように、電解質シート10の一方主面及び他方主面には、凹部10rが散在していることが好ましい。電解質シート10の一方主面及び他方主面に凹部10rが散在していることにより、電解質シート10が固体酸化物形燃料電池に組み込まれたとき、電極とガスとの接触面積が大きくなり、結果的に、固体酸化物形燃料電池の発電効率が向上する。凹部10rは、電解質シート10の一方主面のみに散在していてもよい。
【0023】
厚み方向(
図2での上下方向)から平面視したとき、電解質シート10は、
図1に示すような正方形である。
【0024】
厚み方向から平面視したとき、電解質シート10は、図示しないが、角部に丸みを有する略矩形状であることが好ましく、角部に丸みを有する略正方形状であることがより好ましい。この場合、すべての角部に丸みが付けられていてもよく、一部の角部に丸みが付けられていてもよい。
【0025】
電解質シート10には、図示しないが、厚み方向に貫通する貫通孔が設けられていることが好ましい。貫通孔は、固体酸化物形燃料電池において、ガスの流路として機能する。
【0026】
貫通孔の数は、1つのみであってもよく、2つ以上であってもよい。
【0027】
厚み方向から平面視したとき、貫通孔は、円形状であってもよく、それ以外の形状であってもよい。
【0028】
貫通孔の位置は、特に限定されない。
【0029】
電解質シート10の厚みは、好ましくは200μm以下であり、より好ましくは130μm以下である。また、電解質シート10の厚みは、好ましくは30μm以上であり、より好ましくは50μm以上である。
【0030】
電解質シート10の厚みは、下記のようにして定められる。まず、電解質シート10の周縁端から5mmより内側の領域の任意の9箇所の厚みを、ミツトヨ社製のU字形鋼板マイクロメータ「PMU-MX」で測定する。そして、9箇所の厚みの測定値から算出された平均値を、電解質シート10の厚みと定める。
【0031】
本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの第1の態様では、外周部及び中央部を含む9箇所でセラミックグレインのメジアン径D50を測定したとき、セラミックグレインのメジアン径D50が上記9箇所の各々において1.0μm以上、4.0μm以下であり、かつ、上記9箇所におけるセラミックグレインのメジアン径D50の最大値が最小値の1.0倍以上、1.3倍以下である、ことを特徴とする。
【0032】
セラミックグレインのメジアン径D50を上述した範囲とすることにより、立方晶ジルコニアの焼結体を含むセラミック板状体からなる電解質シート10において、セラミックグレインのサイズを均一化できる。その結果、電解質シート10が緻密化されることになり、強度が高く、反り及びバリが抑制された電解質シート10を実現できる。
【0033】
以下、
図1及び
図2に示すような電解質シート10において、セラミックグレインのメジアン径D
50を測定する方法の一例を説明する。
図3は、電解質シートにおけるセラミックグレインのメジアン径D
50の測定箇所を示す平面模式図である。
【0034】
まず、
図3に示すように、電解質シート10を9つの分割片P
1~P
9に等間隔に分割し、各分割片の中心Q
1~Q
9(
図3中の黒点で示す位置:各分割片P
1~P
9の対角線の交点)において、日立ハイテクノロジーズ社製の卓上顕微鏡「TM3000」を用いて3000倍のSEM像を取得する。なお、分割片P
1~P
8は電解質シート10の外周部であり、分割片P
9は電解質シート10の中央部である。そして、各SEM像に対して、三谷商事社製の画像解析計測システム「WinROOF2018粒界抽出モジュール」を用いて画像解析を行い、100個以上のセラミックグレインの粒径の測定結果からメジアン径D
50を算出する。
【0035】
本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの第1の態様では、上記9箇所でセラミック板状体の密度を測定したとき、上記9箇所におけるセラミック板状体の密度の最大値が最小値の1.0倍以上、1.3倍以下であることが好ましい。
【0036】
本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートの第2の態様では、外周部及び中央部を含む9箇所でセラミック板状体の密度を測定したとき、上記9箇所におけるセラミック板状体の密度の最大値が最小値の1.0倍以上、1.3倍以下である、ことを特徴とする。
【0037】
セラミック板状体の密度を上述した範囲とすることにより、立方晶ジルコニアの焼結体を含むセラミック板状体からなる電解質シート10において、セラミック板状体の密度を均一化できる。その結果、電解質シート10が緻密化されることになり、強度が高く、反り及びバリが抑制された電解質シート10を実現できる。
【0038】
以下、
図1及び
図2に示すような電解質シート10において、セラミック板状体の密度を測定する方法の一例を説明する。
【0039】
まず、
図3を参照して説明した電解質シート10の9つの分割片P
1~P
9の各々について、面積及び重量を測定する。そして、各分割片P
1~P
9について、電解質シート10の厚みから体積を求めた上で、重量/体積から密度を算出する。
【0040】
[固体酸化物形燃料電池用電解質シートの製造方法]
本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートは、例えば、以下の方法で製造される。
【0041】
<セラミックグリーンシートを作製する工程>
図4、
図5、及び、
図6は、セラミックグリーンシートを作製する工程の一例を示す平面模式図である。
【0042】
まず、セラミック材料粉末、バインダー、分散剤、有機溶媒等を適宜調合し、セラミックスラリーを調製する。そして、得られたセラミックスラリーをキャリアフィルムの一方主面上に塗工することにより、
図4に示すようなセラミックグリーンテープ1tを作製する。
【0043】
セラミックグリーンテープ1tの作製方法としては、テープ成形法が好ましく用いられ、ドクターブレード法又はカレンダー法が特に好ましく用いられる。
図4では、テープ成形法を用いた場合の、キャスティング方向をX、キャスティング方向と垂直な方向をYで示している。
【0044】
セラミック材料粉末は、立方晶ジルコニア粉末を含有する。立方晶ジルコニア粉末としては、例えば、スカンジウム、イットリウム等の希土類元素の酸化物で安定化された立方晶ジルコニア粉末が挙げられ、具体的には、スカンジアで安定化された立方晶ジルコニア粉末、イットリアで安定化された立方晶ジルコニア粉末等が挙げられる。中でも、立方晶ジルコニア粉末は、スカンジアで安定化された立方晶ジルコニア粉末であることが好ましい。
【0045】
次に、セラミックグリーンテープ1tを、
図5に示すように所定の大きさになるように既知の手法により打ち抜き、キャリアフィルムを剥離することにより、
図6に示すようなセラミックグリーンシート1gを作製する。セラミックグリーンテープ1tの打ち抜きとキャリアフィルムの剥離とについては、その順序を問わない。
【0046】
<未焼結板状体を作製する工程>
図7は、未焼結板状体を作製する工程の一例を示す断面模式図である。
【0047】
図7に示すように、2枚のセラミックグリーンシート1gを積層、圧着することにより、未焼結板状体1sを作製する。未焼結板状体1sは、立方晶ジルコニア粉末を含有するセラミック材料粉末を含んでいる。
【0048】
未焼結板状体1sを作製する際のセラミックグリーンシート1gの枚数は、
図7に示すように2枚であってもよく、3枚以上であってもよい。このような複数のセラミックグリーンシート1gは、圧着されていてもよく、圧着されずに単に積層されていてもよい。複数のセラミックグリーンシート1gから未焼結板状体1sを作製する場合、後に得られるセラミック板状体の厚みを適切かつ容易に制御できる。
【0049】
なお、1枚のセラミックグリーンシート1gから未焼結板状体1sを作製してもよい。この場合、
図7に示す工程は省略される。
【0050】
<樹脂層を設ける工程>
図8は、樹脂層を設ける工程の一例を示す平面模式図である。
図9は、
図8中の線分B1-B2に対応する部分を示す断面模式図である。
【0051】
まず、樹脂粉末2b、バインダー、分散剤、有機溶媒等を適宜調合し、樹脂スラリーを調製する。
【0052】
樹脂粉末2bとしては、樹脂スラリーを調製する際の有機溶媒に対して難溶な樹脂材料が用いられることが好ましい。樹脂粉末が有機溶媒に対して難溶であるとは、樹脂粉末0.1gと有機溶媒100gとが室温(25℃)下で24時間混合された場合に、目視で溶け残りがあることを意味する。樹脂スラリーを調製する際の有機溶媒は、例えば、トルエン、エタノール、イソプロパノール、酢酸ブチル、酢酸エチル、テルピネオール、及び、水からなる群より選択される少なくとも1種類(単体又は混合物)である。この場合、樹脂粉末2bの材料としては、例えば、架橋アクリル樹脂が用いられる。
【0053】
樹脂粉末2bは、
図9に示すような球状であることが好ましい。樹脂粉末2bが球状である場合、そのメジアン径D
50は、例えば、0.5μm以上、10μm以下である。
【0054】
樹脂粉末2bが球状である場合、そのメジアン径D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置により樹脂粉末2bの粒度分布を測定し、それを粒子径スケールに対する積算%で表したものにおいて、積算値が50%となる粒径として定められる。なお、樹脂粉末2bの形状は、製造工程において生じる歪み等を含んだものであり、メジアン径D50は等価円相当径を表す。
【0055】
次に、
図8及び
図9に示すように、得られた樹脂スラリーを未焼結板状体1sの一方主面(
図9では、上面)上に塗工することにより、未焼結板状体1sの一方主面上に樹脂層2eを設ける。この際、
図8及び
図9に示すように、未焼結板状体1sの一方主面において、中央領域R
1と中央領域R
1を囲む外周領域R
2との両領域上に、厚みが外周領域R
2上で中央領域R
1上の2倍以上、4倍以下となるように樹脂層2eを設ける。すなわち、
図9に示すように、樹脂層2eの外周領域R
2上での厚みT
2を、樹脂層2eの中央領域R
1上での厚みT
1の2倍以上、4倍以下とする。樹脂層2eの外周領域R
2上での厚みT
2は、樹脂層2eの中央領域R
1上での厚みT
1の2倍以上、3倍以下とされることが好ましい。
【0056】
樹脂スラリーの塗工方法としては、樹脂層2eの厚みが上述した状態となるように、樹脂スラリーを未焼結板状体1sの中央領域R1及び外周領域R2の両領域上に塗工してもよい。例えば、樹脂スラリーを未焼結板状体1sの中央領域R1及び外周領域R2の両領域上に厚みT1で塗工した後、樹脂スラリーを未焼結板状体1sの外周領域R2上に厚みT1の1倍以上、3倍以下の厚みで塗工してもよい。このように樹脂スラリーを塗工することにより、得られる樹脂層2eの外周領域R2上での厚みT2は、樹脂層2eの中央領域R1上での厚みT1の2倍以上、4倍以下となる。
【0057】
樹脂層2eの中央領域R1上での厚みT1は、下記のようにして定められる。まず、未焼結板状体1sの周縁端から5mmより内側の領域の任意の9箇所の厚みを、ミツトヨ社製のU字形鋼板マイクロメータ「PMU-MX」で測定する。そして、未焼結板状体1sの一方主面上に樹脂層2eを設けた後で上記9箇所の厚みを再度測定し、上記9箇所で得られた差分の平均値を、樹脂層2eの中央領域R1上での厚みT1と定める。
【0058】
樹脂層2eの外周領域R2上での厚みT2は、下記のようにして定められる。まず、未焼結板状体1sの周縁端から5mm内側までの領域における任意の9箇所の厚みを、ミツトヨ社製のU字形鋼板マイクロメータ「PMU-MX」で測定する。そして、未焼結板状体1sの一方主面上に樹脂層2eを設けた後で上記9箇所の厚みを再度測定し、上記9箇所で得られた差分の平均値を、樹脂層2eの外周領域R2上での厚みT2と定める。
【0059】
未焼結板状体1sを厚み方向(
図9での上下方向)から平面視したとき、
図8に示すように、未焼結板状体1sの外周領域R
2の幅W
2は、未焼結板状体1sの外縁E及び中心Ceの最短距離W
1の10%以上、40%以下である。未焼結板状体1sの外周領域R
2の幅W
2は、未焼結板状体1sの外縁E及び中心Ceの最短距離W
1の好ましくは20%以上、40%以下である。
【0060】
未焼結板状体1sの外周領域R
2は、
図8に示すように未焼結板状体1sの外縁Eのすべてを含むように設けられていてもよい、すなわち、外周領域R
2が中央領域R
1を全体的に囲んでいてもよい。また、未焼結板状体1sの外周領域R
2は、未焼結板状体1sの外縁Eの一部を含むように設けられていてもよい、すなわち、外周領域R
2が中央領域R
1を部分的に囲んでいてもよい。
【0061】
未焼結板状体1sの外周領域R
2の幅W
2は、未焼結板状体1sの外縁E及び中心Ceの最短距離W
1の10%以上、40%以下であれば、
図8に示すように外周領域R
2内で一定であってもよく、外周領域R
2内で一定でなくてもよい。
【0062】
樹脂層2eを設ける際、樹脂スラリーを塗工する代わりに、樹脂シートを配置してもよい。樹脂シートは、樹脂粉末2b、バインダー、分散剤、有機溶媒等を適宜調合して調製される樹脂スラリーがキャリアフィルムの一方主面上に塗工されることにより得られる。樹脂シートの厚みは、未焼結板状体1sの一方主面において、外周領域R2上で中央領域R1上での2倍以上、4倍以下であればよい。
【0063】
樹脂層2eの厚みは、好ましくは3μm以上、40μm以下である。樹脂層2eの厚みが上述した範囲である場合、後述するセラミック板状体を作製する工程における樹脂層2eの焼失に必要な熱エネルギーが小さくなるため、焼成時間を短縮できる。
【0064】
本工程では、更に、
図9に示すように、樹脂スラリーを未焼結板状体1sの他方主面(
図9では、下面)上に塗工することにより、未焼結板状体1sの他方主面上に樹脂層2eを設けてもよい。この際、未焼結板状体1sの一方主面と同様に、未焼結板状体1sの他方主面においても、中央領域R
1と外周領域R
2との両領域上に、厚みが外周領域R
2上で中央領域R
1上の2倍以上、4倍以下となるように樹脂層2eを設けることが好ましく、厚みが外周領域R
2上で中央領域R
1上の2倍以上、3倍以下となるように樹脂層2eを設けることがより好ましい。
【0065】
<未焼結体を作製する工程>
図10は、未焼結体を作製する工程の一例を示す断面模式図である。
【0066】
図10に示すように、樹脂層2eが一方主面及び他方主面の両主面上に設けられた未焼結板状体1sを加圧することにより、未焼結体10gを作製する。
【0067】
樹脂層2eが一方主面及び他方主面の両主面上に設けられた未焼結板状体1sを加圧すると、樹脂層2eが未焼結板状体1sの一方主面及び他方主面に押し付けられる。その結果、樹脂粉末2bの形状に由来する凹部が、未焼結板状体1sの一方主面及び他方主面に散在するように形成される。
【0068】
未焼結体10gにおいては、上述した樹脂層2eを設ける工程のように、樹脂層2eの厚みが未焼結板状体1sの外周領域R2上で中央領域R1上の2倍以上、4倍以下である必要はないが、樹脂層2eの厚みが未焼結板状体1sの外周領域R2上で中央領域R1上の2倍以上、4倍以下であることが好ましい。
【0069】
<未焼結体に貫通孔を形成する工程>
図示しないが、未焼結体10gを積層方向に貫通する貫通孔を形成してもよい。
【0070】
貫通孔は、ドリルにより形成されることが好ましい。この場合、ドリルが未焼結体10gの一方主面から他方主面に向けて進行することにより、未焼結体10gを積層方向に貫通する貫通孔が形成される。ドリルによる加工条件は、特に限定されない。
【0071】
貫通孔の位置は、未焼結板状体1sの中央領域R1と重なる位置であってもよく、未焼結板状体1sの外周領域R2と重なる位置であってもよく、未焼結板状体1sの中央領域R1及び外周領域R2の両領域にまたがる位置であってもよい。
【0072】
貫通孔の数は、1つのみであってもよく、2つ以上であってもよい。
【0073】
なお、貫通孔は形成されなくてもよい。この場合、本工程は省略される。
【0074】
<セラミック板状体を作製する工程>
図11は、セラミック板状体を作製する工程の一例を示す断面模式図である。
【0075】
未焼結体10gを焼成することにより、
図11に示すように、樹脂層2eを焼失させるとともに、未焼結板状体1sを焼結させてセラミック板状体10pを作製する。なお、未焼結体10gに貫通孔を形成した場合、セラミック板状体10pには、厚み方向に貫通する貫通孔が設けられることになる。
【0076】
未焼結体10gを焼成する際、樹脂層2eは、未焼結板状体1sの外周領域R2上の部分から焼失し始めることになる。ここで、上述したように、樹脂層2eを設ける工程において、樹脂層2eの厚みを未焼結板状体1sの外周領域R2上で中央領域R1上の2倍以上、4倍以下となるように制御すると、未焼結体10gにおいては、樹脂層2eが未焼結板状体1sの外周領域R2上で中央領域R1上よりも適度に厚くなる。この場合、樹脂層2eにおいて、外周領域R2上の部分は厚い分だけ焼失時間が長くなるため、外周領域R2上の部分の焼失時間と中央領域R1上の部分の焼失時間との差が縮まる。そのため、樹脂層2eが中央領域R1及び外周領域R2の両領域上で一様な厚みとなっている場合と比較して、両領域上での樹脂層2eの焼失時間が均一となる。その結果、得られるセラミック板状体10pが緻密化し、具体的には、セラミックグレインのサイズ(例えば、メジアン径D50)が均一化する。また、未焼結板状体1sの焼結時に発生するポアの量も均一化するため、セラミック板状体10pの密度が均一化する。
【0077】
なお、樹脂層2eを設ける工程で、樹脂層2eの厚みが未焼結板状体1sの外周領域R2上で中央領域R1上の2倍よりも小さい又は4倍よりも大きい場合、未焼結体10gを焼成する際に、中央領域R1及び外周領域R2の両領域上での樹脂層2eの焼失時間が均一とならない。また、未焼結板状体1sの外周領域R2の幅W2が、未焼結板状体1sの外縁E及び中心Ceの最短距離W1の10%よりも小さい又は40%よりも大きい場合も、未焼結体10gを焼成する際に、中央領域R1及び外周領域R2の両領域上での樹脂層2eの焼失時間が均一とならない。
【0078】
未焼結体10gを焼成する際、脱脂処理及び焼結処理を行うことが好ましい。
【0079】
以上により、一方主面及び他方主面に凹部が散在したセラミック板状体10pが作製される。また、上述した電解質シートの製造方法では、セラミック板状体10pを緻密化できる。具体的には、セラミック板状体10pにおいて、上述した方法でセラミックグレインのメジアン径D
50を測定したとき、セラミックグレインのメジアン径D
50が1.0μm以上、4.0μm以下であり、かつ、セラミックグレインのメジアン径D
50の最大値が最小値の1.0倍以上、1.3倍以下となる。また、上述した方法でセラミック板状体10pの密度を測定したとき、セラミック板状体10pの密度の最大値が最小値の1.0倍以上、1.3倍以下となる。つまり、上述した電解質シートの製造方法によれば、セラミック板状体10pからなる本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シート(例えば、
図1及び
図2中の電解質シート10)が得られる。
【0080】
[固体酸化物形燃料電池用単セル]
本発明の固体酸化物形燃料電池用単セルの一例について、以下に説明する。
図12は、本発明の固体酸化物形燃料電池用単セルの一例を示す断面模式図である。
【0081】
図12に示すように、固体酸化物形燃料電池用単セル100は、燃料極110と、空気極120と、電解質シート130と、を有している。電解質シート130は、燃料極110と空気極120との間に配置されている。
【0082】
燃料極110としては、公知の固体酸化物形燃料電池用の燃料極が使用可能である。
【0083】
空気極120としては、公知の固体酸化物形燃料電池用の空気極が使用可能である。
【0084】
電解質シート130としては、本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シート(例えば、
図1及び
図2中の電解質シート10)が用いられる。
【0085】
[固体酸化物形燃料電池用単セルの製造方法]
本発明の固体酸化物形燃料電池用単セルは、例えば、以下の方法で製造される。
【0086】
まず、燃料極用スラリー及び空気極用スラリーを調製する。燃料極用スラリーは、燃料極の材料の粉体にバインダー、分散剤、溶媒等を適宜添加することにより調製される。空気極用スラリーは、空気極の材料の粉体にバインダー、分散剤、溶媒等を適宜添加することにより調製される。
【0087】
燃料極の材料としては、固体酸化物形燃料電池用の燃料極の公知の材料が使用可能である。
【0088】
空気極の材料としては、固体酸化物形燃料電池用の空気極の公知の材料が使用可能である。
【0089】
燃料極用スラリー及び空気極用スラリーに含まれるバインダー、分散剤、溶媒等としては、固体酸化物形燃料電池用の燃料極及び空気極の形成方法で公知となっているものが使用可能である。
【0090】
次に、燃料極用スラリーを電解質シートの一方主面上に、空気極用スラリーを電解質シートの他方主面上に、各々所定の厚みで塗工する。そして、これらの塗膜を乾燥させることにより、燃料極用グリーン層及び空気極用グリーン層を形成する。
【0091】
その後、燃料極用グリーン層及び空気極用グリーン層を焼成することにより、燃料極及び空気極を形成する。焼成温度等の焼成条件については、燃料極及び空気極の材料の種類等に応じて適宜決定すればよい。
【実施例】
【0092】
以下、本発明の固体酸化物形燃料電池用電解質シートをより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0093】
[実施例1]
実施例1の電解質シートを、以下の方法で製造した。
【0094】
<セラミックグリーンシートを作製する工程>
まず、スカンジアで安定化された立方晶ジルコニア粉末、バインダー、分散剤、及び、有機溶媒を所定の割合で調合した。有機溶媒としては、トルエン及びエタノール(重量比7:3)の混合物を用いた。そして、得られた調合物を、部分安定化ジルコニアからなるメディアとともに1000回転/分で3時間撹拌し、セラミックスラリーを調製した。
【0095】
次に、得られたセラミックスラリーを、ポリエチレンテレフタレートからなるキャリアフィルムの一方主面上に既知の手法によりテープ成形し、セラミックグリーンテープを作製した。
【0096】
その後、セラミックグリーンテープを、所定の大きさになるように既知の手法により打ち抜き、キャリアフィルムを剥離することにより、セラミックグリーンシートを作製した。
【0097】
<未焼結板状体を作製する工程>
2枚のセラミックグリーンシートを積層、圧着することにより、未焼結板状体を作製した。
【0098】
<樹脂層を設ける工程>
まず、樹脂粉末、バインダー、分散剤、及び、有機溶媒を所定の割合で調合した。樹脂粉末としては、架橋アクリル樹脂からなる球状の樹脂粉末を用いた。有機溶媒としては、トルエン及びエタノール(重量比7:3)の混合物を用いた。そして、得られた調合物を、部分安定化ジルコニアからなるメディアとともに1000回転/分で3時間撹拌し、樹脂スラリーを調製した。
【0099】
次に、
図8及び
図9に示すような未焼結板状体の一方主面及び他方主面であって、中央領域と中央領域を全体的に囲む外周領域との両領域上に、得られた樹脂スラリーを10μmの厚みで印刷した。その後、樹脂スラリーを未焼結板状体の外周領域上のみに20μmの厚みで印刷した。ここで、未焼結板状体を厚み方向から平面視したとき、未焼結板状体の外周領域の幅を、未焼結板状体の外縁及び中心の最短距離の40%とした。そして、印刷された樹脂スラリーを乾燥させることにより、未焼結板状体の一方主面及び他方主面の両主面上に樹脂層を設けた。樹脂層の厚みは、未焼結板状体の一方主面及び他方主面の両主面において、中央領域上で10μmであり、外周領域上で30μmであった。
【0100】
<未焼結体を作製する工程>
樹脂層が一方主面及び他方主面の両主面上に設けられた未焼結板状体を加圧することにより、未焼結体を作製した。加圧条件としては、加熱温度を60℃、押圧力を1500kgf/cm2とした。
【0101】
<セラミック板状体を作製する工程>
未焼結体を、以下のように焼成炉で焼成した。まず、未焼結体に対して、400℃で所定の時間保持する脱脂処理を行った。そして、脱脂処理後の未焼結体に対して、1400℃で5時間保持する焼結処理を行った。以上のように未焼結体を焼成することにより、樹脂層を焼失させるとともに、未焼結板状体を焼結させてセラミック板状体を作製した。得られたセラミック板状体の厚みは、100μmであった。
【0102】
以上により、実施例1の電解質シート(セラミック板状体)を製造した。
【0103】
[実施例2]
下記条件に変更したこと以外、実施例1の電解質シートと同様にして、実施例2の電解質シートを製造した。
・未焼結板状体の外周領域の幅:未焼結板状体の外縁及び中心の最短距離の10%
・樹脂層を設ける工程における、樹脂層の外周領域上での厚み:40μm
・セラミック板状体を作製する工程における、未焼結体の焼結処理時の温度:1200℃
【0104】
[実施例3]
下記条件に変更したこと以外、実施例1の電解質シートと同様にして、実施例3の電解質シートを製造した。
・未焼結板状体の外周領域の幅:未焼結板状体の外縁及び中心の最短距離の20%
・セラミック板状体を作製する工程における、未焼結体の焼結処理時の温度:1600℃
【0105】
[実施例4]
下記条件に変更したこと以外、実施例1の電解質シートと同様にして、実施例4の電解質シートを製造した。
・未焼結板状体の外周領域の幅:未焼結板状体の外縁及び中心の最短距離の30%
【0106】
[実施例5]
下記条件に変更したこと以外、実施例1の電解質シートと同様にして、実施例5の電解質シートを製造した。
・未焼結板状体の外周領域の幅:未焼結板状体の外縁及び中心の最短距離の20%
・樹脂層を設ける工程における、樹脂層の外周領域上での厚み:20μm
【0107】
[比較例1]
下記条件に変更したこと以外、実施例1の電解質シートと同様にして、比較例1の電解質シートを製造した。
・未焼結板状体の外周領域の幅:未焼結板状体の外縁及び中心の最短距離の20%
・樹脂層を設ける工程における、樹脂層の外周領域上での厚み:15μm
・セラミック板状体を作製する工程における、未焼結体の焼結処理時の温度:1200℃
【0108】
[比較例2]
下記条件に変更したこと以外、実施例1の電解質シートと同様にして、比較例2の電解質シートを製造した。
・未焼結板状体の外周領域の幅:未焼結板状体の外縁及び中心の最短距離の20%
・樹脂層を設ける工程における、樹脂層の外周領域上での厚み:50μm
・セラミック板状体を作製する工程における、未焼結体の焼結処理時の温度:1600℃
【0109】
[比較例3]
下記条件に変更したこと以外、実施例1の電解質シートと同様にして、比較例3の電解質シートを製造した。
・未焼結板状体の外周領域の幅:未焼結板状体の外縁及び中心の最短距離の50%
・樹脂層を設ける工程における、樹脂層の外周領域上での厚み:50μm
・セラミック板状体を作製する工程における、未焼結体の焼結処理時の温度:1600℃
【0110】
[比較例4]
下記条件に変更したこと以外、実施例1の電解質シートと同様にして、比較例4の電解質シートを製造した。
・未焼結板状体の外周領域の幅:未焼結板状体の外縁及び中心の最短距離の5%
【0111】
[比較例5]
下記条件に変更したこと以外、実施例1の電解質シートと同様にして、比較例5の電解質シートを製造した。
・未焼結板状体の外周領域の幅:未焼結板状体の外縁及び中心の最短距離の0%(外周領域無し)
【0112】
[評価]
実施例1~5及び比較例1~5の電解質シートについて、以下の評価を行った。
【0113】
実施例1~5及び比較例1~5の電解質シートについて、上述した方法により、セラミックグレインのメジアン径D50の最大値及び最小値を測定し、両者の比(最大値/最小値)を算出した。結果を表1及び表2に示す。
【0114】
実施例1~5及び比較例1~5の電解質シートについて、上述した方法により、セラミック板状体の密度の最大値及び最小値を測定し、両者の比(最大値/最小値)を算出した。結果を表1及び表2に示す。なお、表1及び表2には、セラミック板状体の密度について、最大値及び最小値の比(最大値/最小値)のみを示している。
【0115】
実施例1~5及び比較例1~5の電解質シートについて、反り高さを測定した。具体的には、まず、ニコンインステック社製の画像測定システム「NEXIV VMZ-R6555」を用いて、電解質シートの16点の高さを測定して仮想平面出しを行った。その後、電解質シートの外縁における仮想平面からの高さを、反り高さとして算出した。結果を表1及び表2に示す。なお、判定基準は、下記の通りとした。
○:反り高さが300μm以下であった。
×:反り高さが300μmよりも大きかった。
【0116】
実施例1~5及び比較例1~5の電解質シートについて、バリ高さを測定した。具体的には、まず、ミツトヨ社製の接触式測定器「SJ-400」(スタイラス:先端60°)を用いて、電解質シートの外縁から内側に向かって4mmの範囲を速度0.5mm/秒でスキャンして仮想平面出しを行った。その後、電解質シートの周縁端から3mm内側の位置までの範囲における仮想平面からの高さを、バリ高さとして測定した。結果を表1及び表2に示す。なお、判定基準は、下記の通りとした。
○:バリ高さが30μm以下であった。
×:バリ高さが30μmよりも大きかった。
【0117】
実施例1~5及び比較例1~5の電解質シートについて、島津製作所製の精密万能試験機「AGS-X」で4点曲げ試験を行い、強度を測定した。具体的には、まず、電解質シートを中心にセットし、下部の治具を32.5mmの間隔でセットし、上部の治具を65mmの間隔でセットした。そして、上部の治具を5mm/分の速度で下降させ、電解質シートの強度を測定した。結果を表1及び表2に示す。なお、判定基準は、下記の通りとした。
○:強度が160MPa以上であった。
×:強度が160MPa未満であった。
【0118】
なお、表1及び表2では、未焼結板状体の外縁及び中心の最短距離に対する未焼結板状体の外周領域の幅の比率を、「外周領域の幅の比率」と表記している。
【0119】
【0120】
【0121】
表1に示すように、実施例1~5の電解質シートは、セラミックグレインのメジアン径D50が1.0μm以上、4.0μm以下であり、かつ、セラミックグレインのメジアン径D50の最大値が最小値の1.0倍以上、1.3倍以下であった。また、実施例1~5の電解質シートは、セラミック板状体の密度の最大値が最小値の1.0倍以上、1.3倍以下であった。よって、実施例1~5の電解質シートは、強度が高く、反り及びバリが抑制されていた。
【0122】
表2に示すように、比較例1~5の電解質シートは、反り及びバリの少なくとも一方が抑制されていなかった。また、比較例3~5の電解質シートは、強度も低かった。
【符号の説明】
【0123】
1g セラミックグリーンシート
1s 未焼結板状体
1t セラミックグリーンテープ
2b 樹脂粉末
2e 樹脂層
10、130 固体酸化物形燃料電池用電解質シート(電解質シート)
10g 未焼結体
10p セラミック板状体
10r 凹部
100 固体酸化物形燃料電池用単セル(単セル)
110 燃料極
120 空気極
Ce 未焼結板状体の中心
E 未焼結板状体の外縁
P1、P2、P3、P4、P5、P6、P7、P8、P9 電解質シートの分割片
Q1、Q2、Q3、Q4、Q5、Q6、Q7、Q8、Q9 電解質シートの分割片の中心
R1 未焼結板状体の中央領域
R2 未焼結板状体の外周領域
T1 樹脂層の中央領域上での厚み
T2 樹脂層の外周領域上での厚み
W1 未焼結板状体の外縁及び中心の最短距離
W2 未焼結板状体の外周領域の幅
X キャスティング方向
Y キャスティング方向と垂直な方向