(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】積雪特性を測定する方法及びその装置及びこの積雪特性を測定する方法を利用した融雪災害の予測監視方法及びその装置
(51)【国際特許分類】
G01W 1/14 20060101AFI20221101BHJP
G01S 19/39 20100101ALI20221101BHJP
G01N 22/00 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
G01W1/14 Q
G01S19/39
G01W1/14 E
G01N22/00 E
(21)【出願番号】P 2018210796
(22)【出願日】2018-11-08
【審査請求日】2021-06-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構イノベーションハブ構築支援事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】501138231
【氏名又は名称】国立研究開発法人防災科学技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100081042
【氏名又は名称】功力 妙子
(72)【発明者】
【氏名】吉原 貴之
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 享
(72)【発明者】
【氏名】毛塚 敦
(72)【発明者】
【氏名】本吉 弘岐
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-014434(JP,A)
【文献】米国特許第05930743(US,A)
【文献】吉原貴之、本吉弘岐、山口悟、毛塚敦、齋藤享,“GNSS受信信号を用いた積雪関連パラメータ計測の検討”,氷雪研究大会(2015・松本)講演要旨集,日本氷雪学会,2015年09月13日,[B2-8] p.53,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcsir/2015/0/2015_53/_pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/00 - 1/18
G01N 22/00 - 22/04
G01S 19/00 - 19/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積雪の情報である積雪特性を測定する方法であって、
積雪上部及び積雪下部にそれぞれ設置したアンテナにより航法衛星から送信される衛星信号を航法衛星毎にそれぞれ受信し、
前記積雪上部及び積雪下部で前記航法衛星毎にそれぞれ受信した衛星信号の受信信号間の時刻同期を確保出来る場合、この受信信号間の1重位相差及び受信強度低下量を前記航法衛星毎にそれぞれ求め、
2つ以上の航法衛星から送信される衛星信号について、前記衛星信号毎に得られる1重位相差を積雪による伝搬遅延量とした伝搬遅延量についての観測方程式と、前記衛星信号毎に得られる受信強度低下量を積雪による受信強度低下量とした受信強度低下量についての観測方程式とを、スネルの法則を利用して前記航法衛星毎にそれぞれ構築し、
これら前記航法衛星毎に構築した伝搬遅延量についての観測方程式により積雪深を求めるとともに、航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率実部を前記航法衛星毎にそれぞれ求め、
この求めた積雪深及び前記航法衛星毎にそれぞれ求めた航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率実部を前記航法衛星毎に構築した受信強度低下量についての観測方程式に適用することにより航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率虚部を前記航法衛星毎にそれぞれ求め、
前記航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率実部及び複素屈折率虚部から航法衛星の視線方向の積雪の複素誘電率を前記航法衛星毎にそれぞれ求め、
前記航法衛星毎の伝搬遅延量と受信強度低下量との組み合わせにより、積雪特性を航法衛星の視線方向毎に、即ち、方向別に、測定可能とするとともに、積雪特性を方向別に測定することにより積雪内の不均一性による異方性の観測を可能としたこと
を特徴とする積雪特性を測定する方法。
【請求項2】
前記積雪上部及び前記積雪下部で前記航法衛星毎にそれぞれ受信した衛星信号の受信信号間の時刻同期を確保出来ない場合、前記1重位相差を前記航法衛星毎に求める代わりに2重位相差を2つの航法衛星の組み合わせ毎にそれぞれ求めるとともに、
2つ以上の航法衛星から送信される衛星信号について、衛星信号毎に得られる1重位相差を積雪による伝搬遅延量とする代わりに、3つ以上の航法衛星から送信される衛星信号について、2つの衛星信号の組み合わせ毎に得られる2重位相差をそれぞれ積雪による伝搬遅延量とした伝搬遅延量についての観測方程式とすること
を特徴とする請求項1に記載の積雪特性を測定する方法。
【請求項3】
前記航法衛星からの衛星信号に加えて、発信位置が与えられている地上の送信局からの電波信号も含んだ信号を前記積雪上部及び積雪下部にそれぞれ設置したアンテナにより前記航法衛星及び前記送信局毎にそれぞれ受信すること
を特徴とする請求項1~請求項2の何れかに記載の積雪特性を測定する方法。
【請求項4】
前記航法衛星の視線方向の積雪の複素誘電率から前記航法衛星の視線方向の積雪密度を前記航法衛星毎にそれぞれ求めるとともに、
前記航法衛星の視線方向の積雪の含水率を前記航法衛星毎にそれぞれ求めること
を特徴とする請求項1~請求項3の何れかに記載の積雪特性を測定する方法。
【請求項5】
前記航法衛星の視線方向の積雪密度及び積雪の含水率から航法衛星の視線方向の積雪の複素誘電率を前記航法衛星毎にそれぞれ衛星信号の周波数帯とは異なる周波数帯ごとに求めること
を特徴とする請求項4に記載の積雪特性を測定する方法。
【請求項6】
前記積雪深及び前記航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率実部から求められる航法衛星の視線方向の積雪内伝搬経路長と、前記航法衛星の視線方向の積雪密度とから航法衛星の視線方向の積雪水量を前記航法衛星毎にそれぞれ求め、
前記航法衛星の視線方向の積雪の含水率及び積雪水量から航法衛星の視線方向の積雪含水量を前記航法衛星毎にそれぞれ求めること
を特徴とする請求項4~請求項5の何れかに記載の積雪特性を測定する方法。
【請求項7】
積雪の情報である積雪特性を測定する積雪特性測定装置であって、
航法衛星から送信される衛星信号を受信するとともに積雪上部に設置した積雪上部アンテナと、
前記航法衛星から送信される衛星信号を受信するとともに積雪下部に設置した積雪下部アンテナと、
複数のRF入力端子を備えるとともに前記積雪上部アンテナ及び前記積雪下部アンテナでそれぞれ受信した衛星信号のRF信号を時刻同期して受信する受信機と、
この受信機で受信した衛星信号の信号処理及び解析を行う演算部とからなり、
前記演算部は、
前記積雪上部アンテナ及び前記積雪下部アンテナでそれぞれ受信した衛星信号の受信信号間の1重位相差及び受信強度低下量を前記航法衛星毎にそれぞれ求める手段と、
2つ以上の航法衛星から送信される衛星信号について、前記衛星信号毎に得られる1重位相差を積雪による伝搬遅延量とした伝搬遅延量についての観測方程式と、前記衛星信号毎に得られる受信強度低下量を積雪による受信強度低下量とした受信強度低下量についての観測方程式とを、スネルの法則を利用して前記航法衛星毎にそれぞれ構築する手段と、
これら前記航法衛星毎に構築した伝搬遅延量についての観測方程式により積雪深を求めるとともに、航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率実部を前記航法衛星毎にそれぞれ求める手段と、
この求めた積雪深及び前記航法衛星毎にそれぞれ求めた航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率実部を前記航法衛星毎に構築した受信強度低下量についての観測方程式に適用することより航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率虚部を前記航法衛星毎にそれぞれ求める手段と、
前記航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率実部及び複素屈折率虚部から航法衛星の視線方向の積雪の複素誘電率を前記航法衛星毎にそれぞれ求める手段とを備え、
前記航法衛星毎の伝搬遅延量と受信強度低下量との組み合わせにより、積雪特性を航法衛星の視線方向毎に、即ち、方向別に、測定可能とするとともに、積雪特性を方向別に測定することにより積雪内の不均一性による異方性の観測を可能としたこと
を特徴とする積雪特性測定装置。
【請求項8】
前記複数のRF入力端子を備えるとともに前記積雪上部アンテナ及び前記積雪下部アンテナでそれぞれ受信した衛星信号のRF信号を時刻同期して受信する受信機の代わりに、前記積雪上部アンテナで受信した衛星信号のRF信号を受信する積雪上部アンテナ用の受信機と、
前記積雪下部アンテナで受信した衛星信号のRF信号を受信する積雪下部アンテナ用の受信機とからなり、
前記積雪上部アンテナ用の受信機及び前記積雪下部アンテナ用の受信機に同期信号を入力することにより前記積雪上部アンテナ及び前記積雪下部アンテナでそれぞれ受信した衛星信号のRF信号を時刻同期して受信するようにしたこと
を特徴とする請求項7に記載の積雪特性測定装置。
【請求項9】
前記複数のRF入力端子を備えるとともに前記積雪上部アンテナ及び前記積雪下部アンテナでそれぞれ受信した衛星信号のRF信号を時刻同期して受信する受信機の代わりに、前記積雪上部アンテナで受信した衛星信号のRF信号を受信する積雪上部アンテナ用の受信機と、
前記積雪下部アンテナで受信した衛星信号のRF信号を受信する積雪下部アンテナ用の受信機とからなり、
前記演算部は、さらに前記積雪上部アンテナ用の受信機及び前記積雪下部アンテナ用の受信機でそれぞれ受信した受信信号間の時刻同期を確保した信号処理及び解析を行うようにしたこと
を特徴とする請求項7に記載の積雪特性測定装置。
【請求項10】
前記積雪上部アンテナで受信した衛星信号のRF信号を前記積雪上部アンテナ用の受信機で受信する代わりに、外部システムによる積雪面より上で受信した衛星信号の受信データを利用し、
前記演算部は、前記積雪上部アンテナ用の受信機で受信した受信信号の代わりに、前記外部システムによる積雪面より上で受信した衛星信号の受信データと、前記積雪下部アンテナ用の受信機で受信した受信信号との間の時刻同期を確保した信号処理及び解析を行うようにしたこと
を特徴とする請求項9に記載の積雪特性測定装置。
【請求項11】
前記積雪上部アンテナ及び前記積雪下部アンテナでそれぞれ受信した衛星信号のRF信号を時刻同期して受信することが出来ない場合、または、前記演算部が受信信号間の時刻同期を確保した信号処理及び解析を行うことが出来ない場合、2つ以上の航法衛星から送信される衛星信号について、衛星信号毎に得られる1重位相差を積雪による伝搬遅延量とする代わりに、3つ以上の航法衛星から送信される衛星信号について、2つの衛星信号の組み合わせ毎に得られる2重位相差をそれぞれ積雪による伝搬遅延量とした伝搬遅延量についての観測方程式とすること
を特徴とする請求項8~請求項10の何れかに記載の積雪特性測定装置。
【請求項12】
前記航法衛星からの衛星信号に加えて、発信位置が与えられている地上の送信局からの電波信号も含んだ信号を前記積雪上部アンテナ及び前記積雪下部アンテナにより前記航法衛星及び前記送信局毎にそれぞれ受信すること
を特徴とする請求項7~請求項11の何れかに記載の積雪特性測定装置。
【請求項13】
前記演算部は、さらに
前記航法衛星の視線方向の積雪の複素誘電率から航法衛星の視線方向の積雪密度を前記航法衛星毎にそれぞれ求める手段と、
前記航法衛星の視線方向の積雪の複素誘電率から航法衛星の視線方向の積雪の含水率を前記航法衛星毎にそれぞれ求める手段とを備えたこと
を特徴とする請求項7~請求項12の何れかに記載の積雪特性測定装置。
【請求項14】
前記演算部は、さらに
前記航法衛星の視線方向の積雪密度及び積雪の含水率から航法衛星の視線方向の積雪の複素誘電率を前記航法衛星毎にそれぞれ衛星信号の周波数帯とは異なる周波数帯ごとに求める手段とを備えたこと
を特徴とする請求項13に記載の積雪特性測定装置。
【請求項15】
前記演算部は、さらに
前記積雪深及び前記航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率実部から求められる航法衛星の視線方向の積雪内伝搬経路長と、前記航法衛星の視線方向の積雪密度とから航法衛星毎の視線方向の積雪水量を前記航法衛星毎にそれぞれ求める手段と、
前記航法衛星の視線方向の積雪の含水率及び積雪水量から航法衛星の視線方向の積雪含水量を前記航法衛星毎にそれぞれ求める手段とを備えたこと
を特徴とする請求項13~請求項14の何れかに記載の積雪特性測定装置。
【請求項16】
請求項6に記載の積雪特性を測定する方法を利用して測定された方向別の積雪特性のうち、監視対象とする斜面積雪の方向を選択してその積雪特性により斜面の積雪の状態を監視し、
この監視している積雪の状態から融雪災害を予測し、
斜面において衛星信号の受信に影響を与える周囲の地形や障害物件の影響を受けないように監視対象とする斜面積雪の方向を選択して積雪の状態を監視可能とするとともに、融雪災害を予測可能としたこと
を特徴とする融雪災害の予測監視方法。
【請求項17】
前記方向別の積雪特性の測定に利用する積雪特性を測定する方法は、請求項6に記載の積雪特性を測定する方法の代わりに請求項2~請求項5の何れかに記載の積雪特性を測定する方法であること
を特徴とする請求項16に記載の融雪災害の予測監視方法。
【請求項18】
請求項6に記載の積雪特性を測定する方法を利用して時間的に連続
して測定された積雪特性のうち、積雪深と監視対象とする斜面積雪の方向の含水率及び積雪水量とを用いて積雪の状態を監視すること
を特徴とする請求項16に記載の融雪災害の予測監視方法。
【請求項19】
前記積雪の状態を監視する際に用いる積雪特性が、以下の(a)~(f)の何れかの場合に、全層雪崩の危険性があると判断すること
(a)積雪水量の急激な減少
(b)積雪水量の累積の減少量が高い状態
(c)積雪水量の急激な増加、含水率が高い状態、積雪深の維持または低下
(d)積雪水量の急激な増加、含水率が高い状態、積雪深の増加
(e)含水率の急激な増加
(f)含水率が高い状態の維持
を特徴とする請求項18に記載の融雪災害の予測監視方法。
【請求項20】
前記積雪の状態を監視する際に用いる積雪特性が、以下の(a)~(b)の何れかの場合に、融雪地すべりの危険性があると判断すること
(a)積雪水量の急激な減少
(b)積雪水量の累積の減少量が高い状態
を特徴とする請求項18~請求項19の何れかに記載の融雪災害の予測監視方法。
【請求項21】
請求項15に記載の積雪特性測定装置を利用して測定された方向別の積雪特性のうち、監視対象とする斜面積雪の方向を選択してその積雪特性により斜面の積雪の状態を監視する手段と、
この監視している積雪の状態から融雪災害を予測する手段とを備え、
斜面において衛星信号の受信に影響を与える周囲の地形や障害物件の影響を受けないように監視対象とする斜面積雪の方向を選択して積雪の状態を監視可能とするとともに、融雪災害を予測可能としたこと
を特徴とする融雪災害の予測監視装置。
【請求項22】
前記方向別の積雪特性の測定に利用する積雪特性測定装置は、請求項15に記載の積雪特性測定装置の代わりに請求項8~請求項14の何れかに記載の積雪特性測定装置であること
を特徴とする請求項21に記載の融雪災害の予測監視装置。
【請求項23】
請求項15に記載の積雪特性測定装置を利用して時間的に連続
して測定された積雪特性のうち、積雪深と監視対象とする斜面積雪の方向の含水率及び積雪水量とを用いて積雪の状態を監視すること
を特徴とする請求項21に記載の融雪災害の予測監視装置。
【請求項24】
前記積雪の状態を監視する際に用いる積雪特性が、以下の(a)~(f)の何れかの場合に、全層雪崩の危険性があると判断する手段を備えること
(a)積雪水量の急激な減少
(b)積雪水量の累積の減少量が高い状態
(c)積雪水量の急激な増加、含水率が高い状態、積雪深の維持または低下
(d)積雪水量の急激な増加、含水率が高い状態、積雪深の増加
(e)含水率の急激な増加
(f)含水率が高い状態の維持
を特徴とする請求項23に記載の融雪災害の予測監視装置。
【請求項25】
前記積雪の状態を監視する際に用いる積雪特性が、以下の(a)~(b)の何れかの場合に、融雪地すべりの危険性があると判断する手段を備えること
(a)積雪水量の急激な減少
(b)積雪水量の累積の減少量が高い状態
を特徴とする請求項23~請求項24の何れかに記載の融雪災害の予測監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、積雪特性を測定する方法及びその装置に関し、特に、航法衛星から送信されて積雪中を透過する衛星信号から得られる航法衛星毎の視線方向の伝搬経路における積雪による伝搬遅延量及び受信強度低下量(伝搬減衰量)を用いて、積雪深及び航法衛星毎の視線方向の積雪の複素誘電率等の積雪特性を方向別に測定可能とするとともに、積雪特性を方向別に測定することにより積雪内の不均一性による異方性の観測を可能とした積雪特性を測定する方法及びその装置に関するものである。さらに、この発明は、この積雪特性を測定する方法を利用した融雪災害の予測監視装置に関し、特に、斜面において衛星信号の受信に影響を与える周囲の地形や障害物件の影響を受けないように監視対象とする斜面積雪の方向を選択して積雪特性の状態及び時間的変化、積雪特性の空間的な不均一性を連続的に監視することにより、融雪災害を予測することの出来る融雪災害の予測監視装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本は、世界規模で見た場合でも非常に積雪の多い地域である。従って、積雪地帯では、水資源として重要な積雪量を把握することや、積雪の状態を監視して雪崩や融雪による地滑り、洪水等の災害対策が必要である。そのためには、常に積雪特性の一つである積雪深や、他の積雪特性(積雪水量(積雪重量)、積雪含水量、積雪密度、含水率等)の変化を、連続的に測定して監視する必要がある。また、積雪中には、積雪の状態を測定する電子機器やその他の用途に供するために埋もれている電子機器が多数存在する。これらの電子機器にとって、使用する電波や利用する電波の周波数帯における積雪の複素誘電率の実部及び虚部を求めることは重要である。この積雪による複素誘電率も、広義では積雪特性の一つである。
【0003】
まず、積雪特性の一つである積雪深を連続して測定するための装置(積雪深計)として一般的に用いられている装置としては、(a)レーザー式積雪深計(積雪深計測装置)(特許文献1参照)や超音波式積雪深計、(b)GNSS積雪深計(非特許文献1参照)がある。
【0004】
(a)特許文献1に記載の積雪深計測装置(レーザー式積雪深計)は、
図13に示すように、積雪の上方に設置されたセンサー(発光器101及び受光器102)からレーザー光を照射し、積雪面からの反射光を受信するまでの時間や位相の変化から空間の距離(積雪面迄の距離)を測定し、センサーの高さからこの距離を差し引くことにより、地表面からの積雪面の高さ(積雪深)を測定するものである。超音波式積雪深計は、レーザー光の代わりに超音波を用いたもので、レーザー式積雪深計と同様に距離計の原理に基づいて測定を行っているため、精度の良い測定値が得られる。これらの装置は、気象庁において採用されている。
【0005】
(b)GNSS積雪深計は、GNSS信号を利用して積雪深を測定する装置で、積雪の上方に設置したGNSSアンテナからの直接波と積雪面により反射した反射波によるマルチパス干渉によるパターンが、GNSSアンテナと積雪面迄の距離に応じて変化することを利用して積雪深を測定するように構成されており、既存のGNSSアンテナのデータから基準局周辺の積雪深を推定することが出来る利点がある。
【0006】
次に、積雪の複素誘電率を連続して測定するための装置として用いられている装置としては、(c)誘電率測定装置(特許文献2参照)がある。誘電率測定装置は、
図14に示すように、積雪403の上方に、積雪面に向けて測定用送信アンテナ401aと測定用受信アンテナ401bを設置し、積雪403の底面、即ち地面406に反射板407を敷設している。そして、送信アンテナ401aから電波を積雪403に向けて放射し、積雪403の面と反射板407とからそれぞれ反射された反射波は、受信アンテナ401bで受信される。この反射波の反射特性をネットワークアナライザー415で解析することにより、積雪403の複素誘電率を求めるように構成されている。なお、416は信号を演算処理するパソコンである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-268067号公報
【文献】特開2003-075369号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Larson, K.M., E. Gutmann, V. Zavorotny, J. Braun, M. Williams, and F. G. Nievinski, Can we measure snow depth with GPS receivers?, Geophys. Res. Lett., Vol. 36, L17502, doi: 10.1029/2009GL039430, 2009.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
積雪深を連続測定する(a)レーザー式積雪深計や超音波式積雪深計では、積雪内部の密度や含水状態等については情報を得ることは出来ない。そのため、積雪重量計やライシメータといった大掛かりな装置と組み合わせて用いる必要がある。
【0010】
(b)GNSS積雪深計は、GNSS衛星の仰角が変化していく際の干渉パターンを利用した技術であるため、GNSSアンテナの特性から概ね仰角30度以下のGNSS衛星の信号を用いる必要があり、観測点において天空の視界が開けた場所である必要があるという問題がある。また、例えば仰角10度以上のGNSS衛星のL1帯信号(後述)を積雪面からの高さが1[m]であるアンテナで受信して使用する場合には衛星信号の反射特性によりアンテナから半径15[m]程度内は均一な積雪面であることが必要であるという問題もある。
【0011】
また、(c)積雪の複素誘電率測定装置は、積雪内部の複素誘電率を非破壊計測するための手法であるが、電波を放射することにより複素誘電率を測定するように構成されていることから、屋外で測定するには、電波法の制限を受けるという問題がある。
【0012】
また、従来から行われている積雪特性や積雪の状態の測定手法で、積雪断面観測というものがある。観測地点において積雪に深い穴を掘り、積雪面から地表面まで積雪断面を露出させて、様々な積雪特性や積雪の状態を測定する手法である。この手法を用いれば、積雪深は、露出した積雪断面を雪尺等の物差しで測定することにより求めることが出来る。他の積雪特性についても、例えば積雪水量は、密度サンプラーと呼ばれる雪をサンプリングするための機材により、積雪断面からサンプリングした雪の重量を計測することにより求めることが出来、積雪含水量は、密度サンプラーによりサンプリングした雪を遠心分離器により水分量を測定したり、潜熱を利用したりすることにより求めることが出来る。
【0013】
しかしながら、積雪断面観測においては、観測地点に雪面から地面までの人が作業できる程の大きさの穴を掘ることから、測定箇所を破壊してしまうとともに、同一の観測地点において連続的に測定することが不可能である。また、人手によるものなので、測定に大変な手間がかかるという問題がある。
【0014】
一方で、積雪内の不均一性により、積雪特性に異方性が生じると考えられている。融雪時や降雨時には、積雪内を水が浸透していくが、水みち(条件により選択的に水が多く流下する場所)が積雪内にできると、この積雪内の水の浸透が一様でなくなることがある。この場合、観測地点から方位角方向に見渡すと含水量に異方性が生じる。また、谷地形や尾根地形では平坦な斜面を得ることは難しく、斜面に対して垂直な方向では積雪の堆積に不均一が生じることがある。さらに、傾斜の違いにより、雪の移動(クリープ、グライド)に差が生じる場合や、日射の入射角が変わることにより、堆積量(積雪深、積雪重量)や含水量の不均一が拡大する場合もある。積雪による複素誘電率も同様に積雪内において空間的に不均一性があると考えられている。
【0015】
しかしながら、このような積雪内の不均一性による積雪特性の異方性については、(c)積雪の複素誘電率測定装置は雪面の直上に送信アンテナ及び受信アンテナを設置する必要があるため、観測は鉛直方向のみであり積雪の方向別の不均一を検知することが出来ないという問題がある。
【0016】
この発明は、このような課題を踏まえた上で、積雪の上部及び下部にそれぞれ設置したGNSSアンテナにより受信された衛星信号の信号処理を行い、積雪中を透過する衛星信号を解析することにより、積雪深及び航法衛星毎の視線方向の伝搬経路における積雪の複素誘電率を方向別に測定可能とするとともに、積雪特性を方向別に測定することにより積雪内の不均一性による異方性の観測を可能とした測定方法及びその装置を提供することを目的とする。さらに、周囲の地形や障害物件による衛星信号の遮蔽や多重反射による影響を受けやすい斜面において、方向別に測定した積雪特性を用いることにより監視対象とする方向の積雪の状態を監視することで、融雪災害を予測するとともに監視する方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1に係る発明は、積雪の情報である積雪特性を測定する方法であって、積雪上部及び積雪下部にそれぞれ設置したアンテナにより航法衛星から送信される衛星信号を航法衛星毎にそれぞれ受信し、積雪上部及び積雪下部で航法衛星毎にそれぞれ受信した衛星信号の受信信号間の時刻同期を確保出来る場合、この受信信号間の1重位相差及び受信強度低下量を航法衛星毎にそれぞれ求め、2つ以上の航法衛星から送信される衛星信号について、衛星信号毎に得られる1重位相差を積雪による伝搬遅延量とした伝搬遅延量についての観測方程式と、衛星信号毎に得られる受信強度低下量を積雪による受信強度低下量とした受信強度低下量についての観測方程式とを、スネルの法則を利用して航法衛星毎にそれぞれ構築し、これら航法衛星毎に構築した伝搬遅延量についての観測方程式により積雪深を求めるとともに、航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率実部を航法衛星毎にそれぞれ求め、この求めた積雪深及び航法衛星毎にそれぞれ求めた航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率実部を航法衛星毎に構築した受信強度低下量についての観測方程式に適用することにより航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率虚部を航法衛星毎にそれぞれ求め、航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率実部及び複素屈折率虚部から航法衛星の視線方向の積雪の複素誘電率を航法衛星毎にそれぞれ求め、航法衛星毎の伝搬遅延量と受信強度低下量との組み合わせにより、積雪特性を航法衛星の視線方向毎に、即ち、方向別に、測定可能とするとともに、積雪特性を方向別に測定することにより積雪内の不均一性による異方性の観測を可能としたことを特徴とする積雪特性を測定する方法である。
【0018】
請求項4に係る発明は、請求項1~請求項3の何れかに係る発明において、航法衛星の視線方向の積雪の複素誘電率から航法衛星の視線方向の積雪密度を航法衛星毎にそれぞれ求めるとともに、航法衛星の視線方向の積雪の含水率を航法衛星毎にそれぞれ求めたものである。
【0019】
請求項6に係る発明は、請求項4~請求項5の何れかに係る発明において、積雪深及び航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率実部から求められる航法衛星の視線方向の積雪内伝搬経路長と、航法衛星の視線方向の積雪密度とから航法衛星の視線方向の積雪水量を航法衛星毎にそれぞれ求め、航法衛星の視線方向の積雪の含水率及び積雪水量から航法衛星の視線方向の積雪含水量を航法衛星毎にそれぞれ求めたものである。
【0020】
請求項5に係る発明は、請求項4に係る発明において、航法衛星の視線方向の積雪密度及び積雪の含水率から航法衛星の視線方向の積雪の複素誘電率を航法衛星毎にそれぞれ衛星信号の周波数帯とは異なる周波数帯ごとに求めたものである。
【0021】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、積雪上部及び積雪下部で航法衛星毎にそれぞれ受信した衛星信号の受信信号間の時刻同期を確保出来ない場合、1重位相差を航法衛星毎に求める代わりに2重位相差を2つの航法衛星の組み合わせ毎にそれぞれ求めるとともに、2つ以上の航法衛星から送信される衛星信号について、衛星信号毎に得られる1重位相差を積雪による伝搬遅延量とする代わりに、3つ以上の航法衛星から送信される衛星信号について、2つの衛星信号の組み合わせ毎に得られる2重位相差をそれぞれ積雪による伝搬遅延量とした伝搬遅延量についての観測方程式としたものである。
【0022】
請求項3に係る発明は、請求項1~請求項2の何れかに係る発明において、航法衛星からの衛星信号に加えて、発信位置が与えられている地上の送信局からの電波信号も含んだ信号を積雪上部及び積雪下部にそれぞれ設置したアンテナにより航法衛星及び送信局毎にそれぞれ受信したものである。
【0023】
請求項7に係る発明は、積雪の情報である積雪特性を測定する積雪特性測定装置であって、航法衛星から送信される衛星信号を受信するとともに積雪上部に設置した積雪上部アンテナと、航法衛星から送信される衛星信号を受信するとともに積雪下部に設置した積雪下部アンテナと、複数のRF入力端子を備えるとともに積雪上部アンテナ及び積雪下部アンテナでそれぞれ受信した衛星信号のRF信号を時刻同期して受信する受信機と、この受信機で受信した衛星信号の信号処理及び解析を行う演算部とからなり、演算部は、積雪上部アンテナ及び積雪下部アンテナでそれぞれ受信した衛星信号の受信信号間の1重位相差及び受信強度低下量を航法衛星毎にそれぞれ求める手段と、2つ以上の航法衛星から送信される衛星信号について、衛星信号毎に得られる1重位相差を積雪による伝搬遅延量とした伝搬遅延量についての観測方程式と、衛星信号毎に得られる受信強度低下量を積雪による受信強度低下量とした受信強度低下量についての観測方程式とを、スネルの法則を利用して航法衛星毎にそれぞれ構築する手段と、これら航法衛星毎に構築した伝搬遅延量についての観測方程式により積雪深を求めるとともに、航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率実部を航法衛星毎にそれぞれ求める手段と、この求めた積雪深及び航法衛星毎にそれぞれ求めた航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率実部を航法衛星毎に構築した受信強度低下量についての観測方程式に適用することより航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率虚部を航法衛星毎にそれぞれ求める手段と、航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率実部及び複素屈折率虚部から航法衛星の視線方向の積雪の複素誘電率を航法衛星毎にそれぞれ求める手段とを備え、航法衛星毎の伝搬遅延量と受信強度低下量との組み合わせにより、積雪特性を航法衛星の視線方向毎に、即ち、方向別に、測定可能とするとともに、積雪特性を方向別に測定することにより積雪内の不均一性による異方性の観測を可能としたことを特徴とする積雪特性測定装置である。
【0024】
請求項13に係る発明は、請求項7~請求項12の何れかに係る発明において、演算部は、さらに航法衛星の視線方向の積雪の複素誘電率から航法衛星の視線方向の積雪密度を航法衛星毎にそれぞれ求める手段と、航法衛星の視線方向の積雪の複素誘電率から航法衛星の視線方向の積雪の含水率を航法衛星毎にそれぞれ求める手段とを備えたものである。
【0025】
請求項15に係る発明は、請求項13~請求項14の何れかに係る発明において、演算部は、さらに積雪深及び航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率実部から求められる航法衛星の視線方向の積雪内伝搬経路長と、航法衛星の視線方向の積雪密度とから航法衛星毎の視線方向の積雪水量を航法衛星毎にそれぞれ求める手段と、航法衛星の視線方向の積雪の含水率及び積雪水量から航法衛星の視線方向の積雪含水量を航法衛星毎にそれぞれ求める手段とを備えたものである。
【0026】
請求項14に係る発明は、請求項13に係る発明において、演算部は、さらに航法衛星の視線方向の積雪密度及び積雪の含水率から航法衛星の視線方向の積雪の複素誘電率を航法衛星毎にそれぞれ衛星信号の周波数帯とは異なる周波数帯ごとに求める手段とを備えたものである。
【0027】
請求項8に係る発明は、請求項7に係る発明において、複数のRF入力端子を備えるとともに積雪上部アンテナ及び積雪下部アンテナでそれぞれ受信した衛星信号のRF信号を時刻同期して受信する受信機の代わりに、積雪上部アンテナで受信した衛星信号のRF信号を受信する積雪上部アンテナ用の受信機と、積雪下部アンテナで受信した衛星信号のRF信号を受信する積雪下部アンテナ用の受信機とからなり、積雪上部アンテナ用の受信機及び積雪下部アンテナ用の受信機に同期信号を入力することにより積雪上部アンテナ及び積雪下部アンテナでそれぞれ受信した衛星信号のRF信号を時刻同期して受信するようにしたものである。
【0028】
請求項9に係る発明は、請求項7に係る発明において、複数のRF入力端子を備えるとともに積雪上部アンテナ及び積雪下部アンテナでそれぞれ受信した衛星信号のRF信号を時刻同期して受信する受信機の代わりに、積雪上部アンテナで受信した衛星信号のRF信号を受信する積雪上部アンテナ用の受信機と、積雪下部アンテナで受信した衛星信号のRF信号を受信する積雪下部アンテナ用の受信機とからなり、演算部は、さらに積雪上部アンテナ用の受信機及び積雪下部アンテナ用の受信機でそれぞれ受信した受信信号間の時刻同期を確保した信号処理及び解析を行うようにしたものである。
【0029】
請求項10に係る発明は、請求項9に係る発明において、積雪上部アンテナで受信した衛星信号のRF信号を積雪上部アンテナ用の受信機で受信する代わりに、外部システムによる積雪面より上で受信した衛星信号の受信データを利用し、演算部は、積雪上部アンテナ用の受信機で受信した受信信号の代わりに、外部システムによる積雪面より上で受信した衛星信号の受信データと、積雪下部アンテナ用の受信機で受信した受信信号との間の時刻同期を確保した信号処理及び解析を行うようにしたものである。
【0030】
請求項11に係る発明は、請求項8~請求項10の何れかに係る発明において、積雪上部アンテナ及び積雪下部アンテナでそれぞれ受信した衛星信号のRF信号を時刻同期して受信することが出来ない場合、または、演算部が受信信号間の時刻同期を確保した信号処理及び解析を行うことが出来ない場合、2つ以上の航法衛星から送信される衛星信号について、衛星信号毎に得られる1重位相差を積雪による伝搬遅延量とする代わりに、3つ以上の航法衛星から送信される衛星信号について、2つの衛星信号の組み合わせ毎に得られる2重位相差をそれぞれ積雪による伝搬遅延量とした伝搬遅延量についての観測方程式としたものである。
【0031】
請求項12に係る発明は、請求項7~請求項11の何れかに係る発明において、航法衛星からの衛星信号に加えて、発信位置が与えられている地上の送信局からの電波信号も含んだ信号を積雪上部アンテナ及び積雪下部アンテナにより航法衛星及び送信局毎にそれぞれ受信するようにしたものである。
【0032】
請求項16に係る発明は、請求項6に記載の積雪特性を測定する方法を利用して測定された方向別の積雪特性のうち、監視対象とする斜面積雪の方向を選択してその積雪特性により斜面の積雪の状態を監視し、この監視している積雪の状態から融雪災害を予測し、斜面において衛星信号の受信に影響を与える周囲の地形や障害物件の影響を受けないように監視対象とする斜面積雪の方向を選択して積雪の状態を監視可能とするとともに、融雪災害を予測可能としたことを特徴とする融雪災害の予測監視方法である。
請求項17に係る発明は、請求項16に係る発明において、方向別の積雪特性の測定に利用する積雪特性を測定する方法は、請求項6に記載の積雪特性を測定する方法の代わりに請求項2~請求項5の何れかに記載の積雪特性を測定する方法である。
【0033】
請求項18に係る発明は、請求項16に係る発明において、請求項6に記載の積雪特性を測定する方法を利用して時間的に連続して測定された積雪特性のうち、積雪深と監視対象とする斜面積雪の方向の含水率及び積雪水量とを用いて積雪の状態を監視するようにしたものである。
【0034】
請求項19に係る発明は、請求項18に係る発明において、積雪の状態を監視する際に用いる積雪特性が、以下の(a)~(f)の何れかの場合に、全層雪崩の危険性があると判断するものである。
(a)積雪水量の急激な減少
(b)積雪水量の累積の減少量が高い状態
(c)積雪水量の急激な増加、含水率が高い状態、積雪深の維持または低下
(d)積雪水量の急激な増加、含水率が高い状態、積雪深の増加
(e)含水率の急激な増加
(f)含水率が高い状態の維持
【0035】
請求項20に係る発明は、請求項18~請求項19の何れかに係る発明において、積雪の状態を監視する際に用いる積雪特性が、以下の(a)~(b)の何れかの場合に、融雪地すべりの危険性があると判断するものである。
(a)積雪水量の急激な減少
(b)積雪水量の累積の減少量が高い状態
【0036】
請求項21に係る発明は、請求項15に記載の積雪特性測定装置を利用して測定された方向別の積雪特性のうち、監視対象とする斜面積雪の方向を選択してその積雪特性により斜面の積雪の状態を監視する手段と、この監視している積雪の状態から融雪災害を予測する手段とを備え、斜面において衛星信号の受信に影響を与える周囲の地形や障害物件の影響を受けないように監視対象とする斜面積雪の方向を選択して積雪の状態を監視可能とするとともに、融雪災害を予測可能としたことを特徴とする融雪災害の予測監視装置である。
請求項22に係る発明は、請求項21に係る発明において、方向別の積雪特性の測定に利用する積雪特性測定装置は、請求項15に記載の積雪特性測定装置の代わりに請求項8~請求項14の何れかに記載の積雪特性測定装置である。
【0037】
請求項23に係る発明は、請求項21に係る発明において、請求項15に記載の積雪特性測定装置を利用して時間的に連続して測定された積雪特性のうち、積雪深と監視対象とする斜面積雪の方向の含水率及び積雪水量とを用いて積雪の状態を監視するものである。
【0038】
請求項24に係る発明は、請求項23に係る発明において、積雪の状態を監視する際に用いる積雪特性が、以下の(a)~(f)の何れかの場合に、全層雪崩の危険性があると判断する手段を備えるものである。
(a)積雪水量の急激な減少
(b)積雪水量の累積の減少量が高い状態
(c)積雪水量の急激な増加、含水率が高い状態、積雪深の維持または低下
(d)積雪水量の急激な増加、含水率が高い状態、積雪深の増加
(e)含水率の急激な増加
(f)含水率が高い状態の維持
【0039】
請求項25に係る発明は、請求項23~請求項24の何れかに係る発明において、積雪の状態を監視する際に用いる積雪特性が、以下の(a)~(b)の何れかの場合に、融雪地すべりの危険性があると判断する手段を備えるものである。
(a)積雪水量の急激な減少
(b)積雪水量の累積の減少量が高い状態
【発明の効果】
【0040】
請求項1及び請求項7に係る発明は、上記のように構成したので、積雪深や、積雪の複素誘電率等の積雪特性を、方向別に、積雪箇所を破壊することなく、受動的且つ連続的にすべて同時に測定可能であるとともに、積雪特性を方向別に測定することにより積雪内の不均一性による異方性の観測が可能である。また、設置や撤収が比較的容易な機材であるので、従来ほとんど観察が困難であった山岳地帯や未開発地帯等でも積雪特性を把握することが出来るとともに、本格的な運用の前に実験的な運用等する場合に、設置や撤収が簡便である。また、積雪特性及び、衛星信号の周波数帯やその他の希望する周波数帯における積雪の複素誘電率を、1つの装置で測定できるので、従来のように広い設置面積も大型の装置も必要なく、コストを大きく削減可能である。さらに、GNSS衛星の信号を用いた技術であるが、受動的リモートセンシング技術であるため、電波法の制限を受けることもない。
【0041】
請求項4及び請求項13に係る発明は、上記のように構成したので、請求項1~請求項3及び請求項7~請求項12と同様の効果がある。その上、ハード的な構成を追加や変更することなく、さらに他の積雪特性である積雪密度や含水率を方向別に求めることが可能である。
【0042】
請求項6及び請求項15に係る発明は、上記のように構成したので、請求項1、請求項4及び請求項7、請求項13と同様の効果がある。その上、ハード的な構成を追加や変更することなく、さらに他の積雪特性である積雪水量や積雪含水量を方向別に求めることが可能である。
【0043】
請求項5及び請求項14に係る発明は、上記のように構成したので、請求項1~請求項4及び請求項7~請求項13と同様の効果がある。その上、ハード的な構成を追加や変更することなく、さらに希望する任意の周波数帯の積雪の複素誘電率を方向別に求めることが可能である。
【0044】
請求項8に係る発明は、上記のように構成したので、請求項7と同様の効果がある。その上、ソフト的な構成を追加や変更することなく、さらに使用する受信機の選択の幅を拡げることが可能である。
【0045】
請求項9に係る発明は、上記のように構成したので、請求項7と同様の効果がある。その上、請求項8に係る発明よりさらに使用する受信機の選択の幅を拡げることが可能である。
【0046】
請求項10に係る発明は、上記のように構成したので、請求項7~請求項9と同様の効果がある。その上、積雪上部アンテナ用の受信機を用いる代わりに、GNSS基準局やGEONETなどの既にある外部システムのデータを利用することで、装置を簡略化出来、コストダウンを図ることが出来る。
【0047】
請求項2及び請求項11に係る発明は、上記のように構成したので、請求項1及び請求項7~請求項10と同様の効果がある。
【0048】
請求項3及び請求項12に係る発明は、上記のように構成したので、請求項1~請求項2及び請求項7~請求項11と同様の効果がある。その上、積雪特性を方向別に測定するために利用する信号の選択の幅を拡げることが可能である。
【0049】
請求項16~請求項17及び請求項21~請求項22に係る発明は、上記のように構成したので、請求項1及び請求項7と同様の効果がある。その上、比較的容易な装置構成で、融雪災害の危険性の予測を行うことが出来るとともに、装置の設置や撤収が比較的容易な機材であるので、低コストで広い設置面積も大型の装置も必要なく、従来、監視や予測が困難であった山岳地帯や未開発地帯等を含めて、全国の積雪地帯に設置することが容易である。また、積雪特性を方向別に測定することができるので、斜面において積雪の堆積が不均一である積雪特性を測定することが可能であり、衛星信号の受信に影響を与える周囲の地形や障害物件が存在する場合においてもそれらの影響を受けにくい方向を監視対象に選択して積雪特性の状態及び時間的変化、積雪特性の空間的な不均一性を連続的に監視することが出来る。
【0050】
請求項18及び請求項23に係る発明は、上記のように構成したので、請求項16~請求項17及び請求項21~請求項22と同様の効果がある。
【0051】
請求項19及び請求項24に係る発明は、上記のように構成したので、請求項16~請求項18及び請求項21~請求項23と同様の効果がある。その上、全層雪崩の危険性が高い積雪の状態を判断可能である。
【0052】
請求項20及び請求項25に係る発明は、上記のように構成したので、請求項16~請求項19及び請求項21~請求項24と同様の効果がある。その上、融雪地すべりの危険性が高い積雪の状態を判断可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】この発明の第1~第3の実施例を示すもので、この発明の積雪特性測定装置を示す模式図であり、(a)は積雪上部及び下部でそれぞれ受信した衛星信号のRF信号を複数RF入力端子のある受信機で受信する場合、(b)は積雪上部で受信した衛星信号のRF信号と、積雪下部で受信した衛星信号のRF信号とをそれぞれ個別に受信機で受信する場合、(c)は積雪下部で受信した衛星信号のRF信号は個別の受信機で受信し、積雪上部の衛星信号の受信データについては外部システムのデータを利用する場合の模式図である。
【
図2】この発明の第1の実施例を示すもので、この発明の積雪特性測定装置の演算部における積雪特性の測定の際の処理を示すフローチャートである。
【
図3】この発明の第1の実施例を示すもので、積雪による伝搬遅延量の求め方を説明するための模式図である。
【
図4】この発明の第1の実施例を示すもので、積雪による受信強度低下量の求め方を説明するための模式図である。
【
図5】この発明の第2の実施例を示すもので、この発明の積雪特性測定装置の演算部における積雪特性を求める際の処理を示すフローチャートである。
【
図6】この発明の第4の実施例を示すもので、積雪による伝搬遅延量(1重位相差(SD))及びその変化を示す図である。
【
図7】この発明の第4の実施例を示すもので、積雪による伝搬遅延量(1重位相差(SD))及びその変化を示す図であり、(a)は航法衛星2(2a、2b・・・)について、3つの仰角区分(30±0.5度、40±0.5度、65±0.5度)に分類して示した積雪による伝搬遅延量及びその変化、(b)はある1日について静止衛星である1つの航法衛星2(2a、2b・・・)の積雪による伝搬遅延量を示す1重位相差(SD)の変化を示した図である。
【
図8】この発明の第4の実施例を示すもので、積雪による伝搬遅延量(1重位相差(SD))から積雪深と複素屈折率実部を求めた結果を示す図であり、(a)は積雪深を求めた結果、(b)は複素屈折率実部を求めた結果である。
【
図9】この発明の第4の実施例を示すもので、積雪による伝搬遅延量(2重位相差(DD))から積雪深と複素屈折率実部を求めた結果を示す図であり、(a)は積雪深を求めた結果、(b)は複素屈折率実部を求めた結果である。
【
図10】この発明の第4の実施例を示すもので、衛星信号の積雪による受信強度低下量及びその変化を示す図であり、(a)は積雪上部アンテナ4、(b)は積雪下部アンテナ5でそれぞれ受信した衛星信号の受信強度のある1日における変化を示す図である。
【
図11】この発明の第4の実施例を示すもので、衛星信号の単位長さあたりの減衰率αに関連する受信強度低下量及びその変化を示す図である。
【
図12】この発明の第4の実施例を示すもので、積雪密度及び含水率を求めた結果を示す図であり、(a)は積雪密度を求めた結果、(b)は含水率を求めた結果である。
【
図13】従来例を示すもので、積雪深計測装置(レーザー式積雪深計)のブロック図である。
【
図14】従来例を示すもので、誘電率測定装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
積雪の情報である積雪特性を測定する方法であって、積雪上部及び積雪下部にそれぞれ設置したアンテナにより航法衛星から送信される衛星信号を航法衛星毎にそれぞれ受信し、積雪上部及び積雪下部で航法衛星毎にそれぞれ受信した衛星信号の受信信号間の時刻同期を確保出来る場合、この受信信号間の1重位相差及び受信強度低下量を航法衛星毎にそれぞれ求め、2つ以上の航法衛星から送信される衛星信号について、衛星信号毎に得られる1重位相差を積雪による伝搬遅延量とした伝搬遅延量についての観測方程式と、衛星信号毎に得られる受信強度低下量を積雪による受信強度低下量とした受信強度低下量についての観測方程式とを、スネルの法則を利用して航法衛星毎にそれぞれ構築し、これら航法衛星毎に構築した伝搬遅延量についての観測方程式により積雪深を求めるとともに、航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率実部を航法衛星毎にそれぞれ求め、この求めた積雪深及び航法衛星毎にそれぞれ求めた航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率実部を航法衛星毎に構築した受信強度低下量についての観測方程式に適用することにより航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率虚部を航法衛星毎にそれぞれ求め、航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率実部及び複素屈折率虚部から航法衛星の視線方向の積雪の複素誘電率を航法衛星毎にそれぞれ求め、航法衛星毎の伝搬遅延量と受信強度低下量との組み合わせにより、積雪特性を航法衛星の視線方向毎に、即ち、方向別に、測定可能とするとともに、積雪特性を方向別に測定することにより積雪内の不均一性による異方性の観測を可能とする。さらに、航法衛星の視線方向の積雪の複素誘電率から航法衛星の視線方向の積雪密度を航法衛星毎にそれぞれ求めるとともに、航法衛星の視線方向の積雪の含水率を航法衛星毎にそれぞれ求め、積雪深及び航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率実部から求められる航法衛星の視線方向の積雪内伝搬経路長と、航法衛星の視線方向の積雪密度とから航法衛星の視線方向の積雪水量を航法衛星毎にそれぞれ求め、航法衛星の視線方向の積雪の含水率及び積雪水量から航法衛星の視線方向の積雪含水量を航法衛星毎にそれぞれ求め、航法衛星の視線方向の積雪密度及び積雪の含水率から航法衛星の視線方向の積雪の複素誘電率を航法衛星毎にそれぞれ衛星信号の周波数帯とは異なる周波数帯ごとに求める。
このようにして、測定した方向別の積雪特性を利用して、積雪の状態や時間的変化を監視するとともに、融雪災害の予測を行う。
【実施例1】
【0055】
この発明の第1の実施例を、
図1~
図4に基づいて詳細に説明する。
図1~
図4は、この発明の第1の実施例を示すもので、
図1はこの発明の積雪特性測定装置を示す模式図で、(a)は積雪上部及び下部でそれぞれ受信した衛星信号のRF信号を複数RF入力端子のある受信機で受信する場合、(b)は積雪上部で受信した衛星信号のRF信号と、積雪下部で受信した衛星信号のRF信号とをそれぞれ個別に受信機で受信する場合、(c)は積雪下部で受信した衛星信号のRF信号は個別の受信機で受信し、積雪上部の衛星信号の受信データについては外部システムのデータを利用する場合の模式図である。
図2はこの発明の積雪特性測定装置の演算部における積雪特性の測定の際の処理を示すフローチャートである。
図3は積雪による伝搬遅延量の求め方を説明するための模式図で、積雪上部アンテナ4と積雪下部アンテナ5に入射する衛星信号の積雪による伝搬遅延を無視した場合の2つのアンテナ間の伝搬経路の幾何学的距離差を説明するための模式図であるとともに、積雪下部アンテナ5に入射する衛星信号について積雪伝搬遅延量を求める際に使用する積雪内の伝搬経路を考慮した積雪による伝搬遅延モデルである。
図4は積雪による受信強度低下量の求め方を説明するための模式図で、受信強度低下量を求める際に使用する積雪内の伝搬経路を考慮した積雪による減衰モデルである。
【0056】
図1に示すように、この発明の積雪特性測定装置1は、航法衛星2(2a、2b・・・)からの測位信号、即ち、衛星信号を利用して、被測定物である積雪3の積雪特性を測定する装置である。積雪特性測定装置1は、積雪3の積雪特性を測定する観測地点において積雪3に埋設するように地面上に設置された、即ち、積雪面3aの下部に位置するように設置された積雪下部アンテナ5と、この積雪下部アンテナ5の近傍に設置されるとともに積雪面3aの上部に位置するように設置された積雪上部アンテナ4と、受信機6と、演算部7とから構成されている。
【0057】
航法衛星2(2a、2b・・・)は、GPSをはじめとするGNSSで用いられる航法衛星である。航法衛星2(2a、2b・・・)は、この実施例では3つの周波数(L1:1.57542GHz/L2:1.22760GHz/L5:1.117645GHz)で運用されているGPS衛星であり、それぞれのGPS衛星は自身の軌道情報を含めて測位に必要な信号を送信している。この航法衛星2(2a、2b・・・)から送信される信号が、衛星信号である。衛星信号は、この実施例では、L1帯の信号、即ち、L1の信号を用いており、衛星信号の信号処理・解析に用いる衛星信号の受信データは、L1信号の搬送波位相観測値を用いているが、L1信号以外の周波数帯も利用可能である。なお、航法衛星2(2a、2b・・・)は、L1帯、L2帯及びL5帯の3つの周波数帯の信号を送信しているアメリカのGPS衛星以外にも、L1帯、L2帯のみを送信し、L5帯の信号を送信していないGPS衛星や、ロシアのGLONASS衛星、日本の準天頂衛星、欧州のGalileo、中国の北斗、インドのGAGANなど、航法に利用可能な信号を伝送している衛星が利用可能である。また、航法衛星2(2a、2b・・・)から送信される衛星信号だけでなく、位置が既知で発信位置が与えられている地上基準局等の地上の送信局から送信される電波信号も併せて利用可能である。
【0058】
通常、積雪上部アンテナ4と積雪下部アンテナ5とは、同じアンテナ特性を有するアンテナを使用するが、異なる場合には積雪がない状態で両者の差分を算出し、この差分を補正することにより同等のアンテナ特性を有するアンテナとしている。また、観測地点の積雪3に埋設するように設置された積雪下部アンテナ5に入射する衛星信号に対し、積雪上部アンテナ4に入射した衛星信号を参照信号として、衛星信号の共通誤差(衛星時計誤差、衛星位置誤差、電離圏遅延、対流圏遅延)を除去できるように、積雪上部アンテナ4は、積雪下部アンテナ5の近傍に配置されている。しかしながら、大気遅延等の補正を適切に行うことにより、積雪上部アンテナ4を設置する場所は、積雪下部アンテナ5の近傍に限定されることなく、積雪下部アンテナ5から10[km]程度以内にすることも可能である。
【0059】
受信機6は、積雪上部アンテナ4や積雪下部アンテナ5で受信した衛星信号のRF信号を同時に受信処理可能な受信機であり、この受信信号、即ち、受信した衛星信号の受信データを演算部7に、有線、無線、オフラインの何れかの方法で送信している。
図1(a)に示すように、この実施例では、受信機6は、2つ以上のRF信号を同時に受信処理可能な複数RF入力端子のある受信機を用いている。それぞれのRF入力端子から入力されるRF信号の信号処理に関わる受信機時計は同一となっており、受信機6は、これら複数のRF入力端子から入力されるRF信号を時刻同期して受信可能である。この受信機6は、積雪下部アンテナ5の近傍に配置されるのが望ましいが、光ファイバ無線(RoF:Radio over Fiber)技術を利用することにより、積雪下部アンテナ5から10[km]程度以内に設置することも可能である。
【0060】
なお、受信機6の代わりに、
図1(b)に示すように、受信機16(16a、16b)を用いて、積雪上部アンテナ4や積雪下部アンテナ5で受信した衛星信号のRF信号を、積雪上部アンテナ4用の受信機16a、積雪下部アンテナ5用の受信機16bでそれぞれ個別に受信するようにしても良い。また、
図1(c)に示すように、積雪上部アンテナ4で受信した衛星信号のRF信号を積雪上部アンテナ4用の受信機(16a)で受信する代わりに、国土地理院が整備するGNSS基準局網であるGEONETをはじめとした他のGNSS基準局等の外部システムによって積雪面より上で受信した衛星信号の受信データを利用するようにしても良い。このときに利用する外部システムの受信データは、大気遅延等の補正を適切に行うことにより、積雪下部アンテナ5が設置されている地点からアンテナ間距離10[km]程度迄の観測地点のデータを利用することが可能である。
【0061】
演算部7は、入力された衛星信号の受信データの信号処理及び解析を行い、積雪3の積雪特性の測定を行う機能を有している。なお、演算部7は、入力される受信データから、受信信号を用いた信号処理及び解析における時計差(同期誤差)(以下、受信機時計差と記す。)を推定して補正する機能を、さらに有しても良い。この様に構成することで、受信機と演算部とを含めて、積雪上部及び積雪下部でそれぞれ受信した衛星信号の受信信号間の時刻同期を確保した信号処理及び解析を行うことが可能である。
【0062】
次に、作用動作について、
図1~
図2に基づいて説明する。
まず、航法衛星2(2a、2b・・・)からの衛星信号を、積雪上部アンテナ4及び積雪下部アンテナ5でそれぞれ受信する。積雪上部アンテナ4では、積雪3の影響を受けない衛星信号を受信し、積雪下部アンテナ5では、積雪3内を透過することにより、航法衛星の視線方向の伝搬経路において伝搬遅延及び減衰効果を受けた衛星信号をそれぞれ受信する。積雪上部アンテナ4及び積雪下部アンテナ5でそれぞれ受信した衛星信号のRF信号が受信機6に入力され、これらの受信データは演算部7に送信される。この演算部7に入力された衛星信号の受信データをもとに、積雪3の「積雪深」及び衛星信号の周波数帯における航法衛星毎の「積雪の複素誘電率(積雪の複素誘電率の実部及び虚部)」等の測定を演算部7で行い、積雪3の積雪特性の測定を行う。
【0063】
次に、演算部7で行う積雪特性の測定について、
図2に基づいて説明する。
まず、同じ航法衛星2(2a、2b・・・)からの衛星信号を、積雪上部アンテナ4及び積雪下部アンテナ5でそれぞれ受信した衛星信号の受信データをもとに、衛星信号の信号処理・解析を航法衛星毎にそれぞれ行って(ステップ50)、積雪による伝搬遅延量(ステップ51)及び受信強度低下量(ステップ52)を求める。次に、求めた積雪による伝搬遅延量及び受信強度低下量を用いて、スネルの法則を利用して、伝搬遅延量についての観測方程式及び受信強度低下量についての観測方程式を航法衛星毎にそれぞれ構築する。伝搬遅延量についての観測方程式において、積雪深とともに、一旦、異方性を考慮しない(方位角に依らない)平均的な(以後、単に「平均的な」と記す。)積雪の複素屈折率の実部を未知数として解くことにより、平均的な積雪の複素屈折率の実部を推定するとともに、積雪深を求める(ステップ54)。この求めた積雪深を、航法衛星毎に構築した伝搬遅延量についての観測方程式に適用することにより、航法衛星の視線方向の伝搬経路における衛星信号の周波数帯の積雪の複素屈折率の実部(以後、単に「航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率実部」と記す。)を航法衛星毎にそれぞれ求める(ステップ53)。さらに、航法衛星毎にそれぞれ求めた航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率実部及び積雪深から、各航法衛星2(2a、2b・・・)からの衛星信号の積雪内伝搬経路長を航法衛星毎にそれぞれ求める(ステップ55)。
【0064】
一方、航法衛星毎に構築した受信強度低下量についての観測方程式において、航法衛星毎の衛星信号の積雪内伝搬経路長を適用して解くことにより、航法衛星の視線方向の伝搬経路における衛星信号の周波数帯の積雪の複素屈折率の虚部(以後、単に「航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率虚部」と記す。)を航法衛星毎にそれぞれ求める(ステップ56)。
【0065】
次に、航法衛星毎にそれぞれ求めた航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率実部と複素屈折率虚部とから複素屈折率を求めて、この複素屈折率により航法衛星の視線方向の伝搬経路における積雪の衛星信号の周波数帯の積雪の複素誘電率の実部及び虚部(以後、単に「航法衛星の視線方向の積雪の複素誘電率」と記す。)を求める(ステップ57)。
【0066】
このようにして、積雪特性測定装置1は、積雪箇所を破壊することなく、受動的且つ連続的に、積雪深及び航法衛星の視線方向の積雪の複素誘電率等の積雪3の積雪特性を、すべて同時に測定を行っており、積雪特性を航法衛星の視線方向毎に、即ち、方向別に測定することにより積雪内の不均一性による異方性の観測を可能としている。
【0067】
次に、
図2に示す演算部7で行う積雪特性の測定の一連の処理の詳細について、以下に説明する。なお、この発明では、積雪特性の測定にあたり、積雪3を航法衛星の視線方向の伝搬経路毎にそれぞれ一様な誘電体と見なして、衛星信号の伝搬遅延及び減衰をモデル化し、衛星信号の伝搬遅延量及び受信強度低下量を求めている。また、特に断りがない限り、積雪面が地面と平行とした場合について説明する。
【0068】
まず、衛星信号の受信データから積雪による伝搬遅延量を求める方法(ステップ51)について、
図3に基づいて詳細に説明する。
図3において、14は、航法衛星2(2a、2b・・・)から積雪上部アンテナ4に入射する衛星信号及びその伝搬経路を示したもの(以下、単に衛星信号14と記す。)であり、15は、積雪がない場合に航法衛星2(2a、2b・・・)から積雪下部アンテナ5に入射する衛星信号及びその伝搬経路を示したもの(以下、単に衛星信号15と記す。)である。衛星信号14及び衛星信号15の幾何学的な伝搬距離差15aは、航法衛星2(2a、2b・・・)、積雪上部アンテナ4及び積雪下部アンテナ5の位置関係に依存するが、何れも既知として求めることが出来る。したがって、積雪下部アンテナ5に入射する衛星信号15から幾何学的な伝搬距離差15aを差し引くことで、幾何学的距離差は除去可能である。また、積雪上部アンテナ4に入射する衛星信号14を参照信号として衛星信号15から差し引くことにより、衛星信号14及び衛星信号15に含まれる共通誤差(衛星時計誤差、衛星位置誤差、電離圏遅延、対流圏遅延)が除去される。
【0069】
さらに、積雪がある場合に、積雪面3aにおける衛星信号の屈折を考慮して、
図3に示すような積雪による伝搬遅延モデルを用いて、積雪による伝搬遅延量を求める。この伝搬遅延モデルは、数式1に示すスネルの法則により積雪面3aで屈折する伝搬遅延モデルである。数式1において、n
rは複素屈折率実部、θは衛星信号の積雪面3aへの入射角、θ’は衛星信号の積雪面3aにおける屈折角である。また、
図3において、15は、航法衛星2(2a、2b・・・)から積雪下部アンテナ5に入射する衛星信号及び積雪がない時の伝搬経路を示したものであり、15’は、航法衛星2(2a、2b・・・)から積雪下部アンテナ5に入射する衛星信号及び積雪時の伝搬経路を示したものである。
【0070】
【0071】
積雪深をh、積雪時の伝搬経路15’における積雪内伝搬経路長をa、このaについて積雪がない時の伝搬経路15に相当する伝搬経路長をbとすると、
図3に示す伝搬遅延モデルにおける積雪による伝搬遅延量は、下記の数式2のよう表わすことができる。
【0072】
【0073】
ここで、受信機と演算部とを含めて、積雪上部及び積雪下部でそれぞれ受信した衛星信号の受信信号間(受信した積雪上部アンテナ4に入射する衛星信号14と積雪下部アンテナ5に入射する衛星信号15’との受信信号間)の時刻同期を確保できる場合、例えば、受信機において同期信号を用いて受信する等により時刻同期して受信している場合や、演算部7に入力される受信データから、受信機時計差を推定して補正する等により演算部7において時刻同期を確保した信号処理及び解析を行う場合には、衛星信号15の搬送波位相観測値から衛星信号14の搬送波位相観測値を差し引き、さらに積雪が無い場合の幾何学的な距離差を補正した1重位相差(SD:Single Difference)が積雪による伝搬遅延量として使用出来る。この実施例では、上記したように、受信機6は、2つ以上のRF信号を同時に受信処理可能な複数RF入力端子のある受信機を用いているので、受信した積雪上部アンテナ4に入射する衛星信号14と積雪下部アンテナ5に入射する衛星信号15(15’)との受信信号処理に関わる受信機時計は同一であるため時刻同期がとれており、積雪上部及び積雪下部でそれぞれ受信した衛星信号の受信信号間の時刻同期が確保されている。
【0074】
また、
図1(b)に示すように、積雪上部アンテナ4及び積雪下部アンテナ5で受信した衛星信号のRF信号を受信機16a、16bでそれぞれ受信するように構成した場合であっても、例えば、同期用の安定クロック(同期信号)を受信機16a、16bにそれぞれ入力することにより積雪上部アンテナ4及び積雪下部アンテナ5でそれぞれ受信した衛星信号のRF信号を時刻同期して受信している場合や、受信機16a、16bでそれぞれ受信した積雪上部アンテナ4に入射する衛星信号や積雪下部アンテナ5に入射する衛星信号の受信データから受信機16a、16b間の受信機時計差を推定して受信機時計差を補正する等により演算部7において時刻同期を確保した信号処理及び解析を行う場合には、積雪上部及び積雪下部でそれぞれ受信した衛星信号の受信信号間の時刻同期が確保されており、同様に1重位相差(SD)を積雪による伝搬遅延量として使用出来る。また、
図1(c)に示すように、積雪上部アンテナ4で受信した衛星信号のRF信号を受信機で受信する代わりに、外部システムによる積雪面より上で受信した衛星信号の受信データを利用する場合であっても、受信機16bで受信した積雪下部アンテナ5に入射する衛星信号の受信データと外部システムによる受信データとから、外部システムと受信機16bとの間の受信機時計差を推定して受信機時計差を補正する等により演算部7において時刻同期を確保した信号処理及び解析を行う場合には、積雪上部及び積雪下部でそれぞれ受信した衛星信号の受信信号間の時刻同期が確保されており、同様に1重位相差(SD)を積雪による伝搬遅延量として使用出来る。
【0075】
一方で、積雪上部アンテナ4に入射する衛星信号14と積雪下部アンテナ5に入射する衛星信号15(15’)の1重位相差(SD)に受信機時計差成分が残っている場合、即ち、積雪上部及び積雪下部でそれぞれ受信した衛星信号の受信信号間の時刻同期を確保できない場合であっても、2重位相差(DD)を用いることにより積雪による伝搬遅延量として使用できる。ただし、この場合は2つの航法衛星2(2a、2b・・・)のそれぞれについての伝搬経路に対応した積雪による伝搬遅延量の差として表現される。
図1(b)に示すように、積雪上部アンテナ4及び積雪下部アンテナ5で受信した衛星信号のRF信号を受信機16a、16bでそれぞれ受信するように構成した場合や、
図1(c)に示すように、積雪上部アンテナ4で受信した衛星信号のRF信号を受信機で受信する代わりに、外部システムによる積雪面より上で受信した衛星信号の受信データを利用する場合であって、積雪上部及び積雪下部でそれぞれ受信した衛星信号の受信信号間の時刻同期を確保できない場合には、2重位相差(DD)を積雪による伝搬遅延量として用いる。なお、積雪上部及び積雪下部でそれぞれ受信した衛星信号の受信信号間(受信した積雪上部アンテナ4に入射する衛星信号14と積雪下部アンテナ5に入射する衛星信号15’との受信信号間)の時刻同期を確保できる場合でも2重位相差(DD)を積雪による伝搬遅延量として使用出来る。
【0076】
次に、求めた積雪による伝搬遅延量から、複素屈折率の実部nr(ステップ53)及び積雪深h(ステップ54)を求める方法、及びこの求めた複素屈折率の実部nr及び積雪深hから、各航法衛星2(2a、2b・・・)の積雪内伝搬経路長a(ステップ55)を求める方法について詳細に説明する。
【0077】
上述したように、積雪上部及び積雪下部でそれぞれ受信した衛星信号の受信信号間の時刻同期を確保できる場合は、1重位相差(SD)が積雪による伝搬遅延量として使用できる。航法衛星2(2a、2b・・・)について、航法衛星毎にそれぞれ数式2を用いて伝搬遅延量についての観測方程式を構築した場合、例えば航法衛星2aの視線方向の伝搬経路における1重位相差をSD1、衛星信号の周波数帯の積雪の複素屈折率実部をnr_1、積雪面3aにおける入射角をθ1とし、航法衛星2bの視線方向の伝搬経路における1重位相差をSD2、衛星信号の周波数帯の積雪の複素屈折率実部をnr_2、積雪面3aにおける入射角をθ2とし・・・とすると、以下の数式3のようになる。なお、観測方程式は、伝搬遅延量についての観測方程式も、後述する受信強度低下量についての観測方程式も、積雪上部アンテナ4に入射する衛星信号14と積雪下部アンテナ5に入射する衛星信号15の両者が受信できた航法衛星の数だけ構築することが出来る。
【0078】
【0079】
しかしながら、例えばn個の航法衛星について、上記数式3に示す伝搬遅延量についての観測方程式を構築した場合、数式3における観測方程式の数がn個に対し、観測方程式における未知数の数はn+1個である。従って、このままでは観測方程式を解くことが出来ない。
【0080】
そこで、一旦伝搬遅延量についての観測方程式における航法衛星毎の積雪の複素屈折率実部nr_1、nr_2・・・を方位角に依らない平均的な積雪の複素屈折率実部nrとして、積雪深hとともに推定する。例えば、n個の航法衛星のうち、任意の2つの航法衛星について観測方程式を構築すると、以下の数式4のようになる。
【0081】
【0082】
上記数式4において、平均的な積雪の複素屈折率実部nr及び積雪深hを未知数としたこの2つの連立方程式を解くことで、平均的な積雪の複素屈折率実部nr及び積雪深hを求めることが出来る。このとき、まず積雪深hを消去して平均的な積雪の複素屈折率実部nrを推定し、その後、この推定した平均的な積雪の複素屈折率実部nrを用いて積雪深hを求める。さらに、例えば航法衛星の数が3つ以上ある場合には、前記とは異なる組み合わせの2つの航法衛星について観測方程式を構築し、同様に平均的な積雪の複素屈折率実部nr及び積雪深hを求めることが出来る。したがって、これら複数の異なる組み合わせの2つの航法衛星についての観測方程式により求められる複数の積雪深から平均的な積雪深を求めて積雪深hとすることが出来る。なお、この平均的な積雪深の求め方は、この方法に限定されない。
【0083】
このように、観測方程式が3つ以上ある場合には、それら観測方程式における平均的な積雪深を求めてこれを積雪深hとして数式3に適用することで、航法衛星毎の視線方向の伝搬経路における積雪の複素屈折率実部nr_1、nr_2・・・、即ち、方向別の積雪の複素屈折率実部を求めることが出来る。また、航法衛星2(2a、2b・・・)の積雪内伝搬経路長a1、a2・・・は、方向別の積雪の複素屈折率実部と積雪深とを用いて、以下の数式5により航法衛星毎にそれぞれ求められる。
【0084】
【0085】
一方で、上述したように、1重位相差(SD)に受信機時計差成分が残っている場合、即ち、積雪上部及び積雪下部でそれぞれ受信した衛星信号の受信信号間の時刻同期を確保できない場合は、2つの航法衛星についての1重位相差(SD)の差を計算する2重位相差(DD:Double Difference)を用いて計算することにより伝搬遅延量の差を求めることが可能である。2重位相差(DD)を用いる場合、3つの航法衛星2(2a、2b、2c)について、1重位相差(SD)を用いる場合と同様に、数式2を用いて観測方程式を構築する。このとき、航法衛星2aを基準として、航法衛星2aの入射角をθ0、航法衛星2bの入射角をθ1、航法衛星2cの入射角をθ2、航法衛星2aと航法衛星2bとの2重位相差をDD1、航法衛星2aと航法衛星2cとの2重位相差をDD2とし、平均的な積雪の複素屈折率実部nrとすると、以下の数式6のようになる。
【0086】
【0087】
上記数式6において、1重位相差(SD)を用いる場合と同様に、複素屈折率実部nr及び積雪深hを未知数としたこの2つの連立方程式を解くことで、複素屈折率実部nr及び積雪深hを求めることが出来る。このときの積雪深hと複素屈折率実部nrの求め方は、1重位相差(SD)を用いる場合と同様である。また、同様に、求めた積雪深と複素屈折率実部を用いて、航法衛星2の衛星信号の入射角をθとして、以下の数式7から、積雪内伝搬経路長aを求められる。
【0088】
【0089】
次に、衛星信号の受信データから積雪による受信強度低下量を求める方法(ステップ52)と、この受信強度低下量及び積雪内伝搬経路長から複素屈折率の虚部を求める方法(ステップ56)について、
図4に基づいて詳細に説明する。
【0090】
図4において、15’aは、積雪面3aにおける衛星信号15’の反射波である。積雪による受信強度低下量は、積雪3の影響を受けない積雪上部アンテナ4で受信した衛星信号14と、積雪3内を透過した積雪下部アンテナ5で受信した衛星信号15’との受信強度差から航法衛星毎に求める。ここで、積雪面3aにおける伝搬経路の屈折によってアンテナへの入射角に対して、積雪が無い場合と異なる影響が生じるが、アンテナ利得パターン(入射角依存性)を考慮した補正を行うことにより、この影響を除去可能である。このように受信強度差を求めることで、積雪3を透過する際の受信強度低下量が求められるとともに、衛星信号14及び衛星信号15’に含まれる受信強度に関する共通誤差(衛星側のアンテナ特性、大気による減衰)が除去される。受信強度に関する誤差である受信側のアンテナ特性による誤差については、積雪上部アンテナ4及び積雪下部アンテナ5で同一のアンテナ特性をもつアンテナを使用するか、アンテナ特性の違いについて補正をする必要がある。
【0091】
なお、この実施例では、積雪による受信強度低下量の測定は、積雪面3aにおける透過率を1として、即ち、積雪面3aにおける衛星信号の反射はなく、100%透過したものとして行っている。また、1巡目の計算により求められる方向別の積雪の複素誘電率の実部と虚部(後述するステップ57)を用いて、積雪面3aにおける反射の影響を考慮した計算を繰り返し行うことにより、2巡目以降の計算では積雪面3aにおける反射の影響を除去可能である。
【0092】
複素屈折率虚部niは、以下の数式8の様に表される。
【0093】
【0094】
上記の数式8において、λは衛星信号の波長、αは単位長さあたりの減衰率である。単位長さあたりの減衰率αは、航法衛星の視線方向の伝搬経路における衛星信号の周波数帯の積雪による受信強度低下量(以後、単に「航法衛星の視線方向の積雪の受信強度低下量」と記す。)ACN[dB-Hz](ただし、受信強度が低下した場合を負とする)と積雪内伝搬経路長aを用いて以下の数式9の様に表される。
【0095】
【0096】
積雪内伝搬経路長aは、複素屈折率実部nrと積雪深hと用いて、数式7(数式5)により求められるので、伝搬遅延量についての観測方程式と同様に、スネルの法則を利用して、受信強度低下量についての観測方程式を航法衛星毎に構築すると、以下の数式10のようになる。
【0097】
【0098】
上記の数式10において、ACN1は航法衛星2aの視線方向の積雪の受信強度低下量、ACN2は航法衛星2bの積雪の受信強度低下量・・・である。同様に、上記の数式10において、ni_1は航法衛星2aの視線方向の積雪の複素屈折率虚部、ni_2は航法衛星2bの視線方向の積雪の複素屈折率虚部・・・である。
【0099】
この数式10について、伝搬遅延量についての観測方程式である数式3で求めた積雪深h(ステップ54)及び航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率実部nr_1、nr_2・・・(ステップ53)を数式5に適用して航法衛星の視線方向の積雪内伝搬経路長a1、a2・・・(ステップ55)を航法衛星毎にそれぞれ求め、それらを数式10に適用することで、航法衛星毎の視線方向の積雪の複素屈折率虚部ni_1、ni_2・・・、即ち、方向別の積雪の複素屈折率虚部を求めることが出来る。
【0100】
最後に、方向別の積雪の複素屈折率実部と複素屈折率虚部とから航法衛星毎の視線方向の積雪の複素誘電率を求める方法(ステップ57)について詳細に説明する。
【0101】
複素屈折率は、複素屈折率実部nrと複素屈折率虚部niとから以下の数式11に示すように表される。
【0102】
【0103】
また、複素誘電率εは複素屈折率の2乗で表現されるため、以下の数式12により方向別の積雪の複素屈折率実部と複素屈折率虚部とから航法衛星毎の視線方向の積雪の複素誘電率、即ち、方向別の衛星信号の周波数帯の積雪の複素誘電率が求められる。
【0104】
【0105】
なお、この実施例に記載された伝搬遅延量についての観測方程式や受信強度低下量についての観測方程式の解法は単なる一例であり、この実施例に記載された解法に限定されない。例えば、この実施例では、航法衛星の視線方向の積雪の受信強度低下量ACN(ACN1、ACN2・・・)と航法衛星毎の積雪内伝搬経路長a(a1、a2・・・)とから複素屈折率虚部niを求めているが、数式5と数式9により積雪内伝搬経路長a(a1、a2・・・)を消去すれば、積雪内伝搬経路長aを求めない解法でも航法衛星の視線方向の積雪の受信強度低下量ACN(ACN1、ACN2・・・)から複素屈折率虚部niを求めることが可能である。
【実施例2】
【0106】
この発明の第2の実施例を、
図5に基づいて詳細に説明する。
図5はこの発明の積雪特性測定装置の演算部における積雪特性を求める際の処理を示すフローチャートである。
【0107】
この発明の第2の実施例は、この発明の第1の実施例の積雪特性測定装置を用いて連続的に測定した積雪深と、航法衛星毎にそれぞれ求めた方向別の積雪の複素誘電率及びこれらの積雪特性を求める過程において求められる積雪特性や他のパラメータ(方向別の積雪の複素屈折率や航法衛星毎の積雪内伝搬経路長等)を利用して、方向別の他の積雪特性(積雪水量(積雪重量)、積雪含水量、含水率、積雪密度等)を求める方法について説明する実施例である。
なお、第1の実施例と同じ部分については、同一名称、同一番号を用い、その説明を省略する。
【0108】
この発明の第1の実施例の積雪特性測定装置を用いて連続的に測定した積雪深及び航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率実部から求められる航法衛星毎の積雪内伝搬経路長と、航法衛星毎に求めた方向別の積雪の複素誘電率を利用して、方向別の他の積雪特性を求める際に、演算部7で行う方向別の他の積雪特性を求める方法について、
図5に基づいて説明する。
【0109】
まず、この発明の第1の実施例の積雪特性測定装置を用いて連続的に測定するとともに、航法衛星毎に求めた方向別の積雪の複素誘電率から、方向別の積雪密度(ステップ58)及び含水率(ステップ59)を求めることが出来る。さらに、求めた方向別の積雪密度及び含水率から、衛星信号の周波数帯以外の周波数帯について、希望する周波数帯ごとに方向別の積雪の複素誘電率(ステップ60)を求めることが出来る。また、この発明の第1の実施例の積雪特性測定装置を用いて連続的に測定した積雪深及び航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率実部から求められる航法衛星毎の積雪内伝搬経路長と、求めた方向別の積雪密度から方向別の積雪水量を求め(ステップ61)、この方向別の積雪水量と含水率から方向別の積雪含水量(ステップ62)を求めることが出来る。
【0110】
次に、
図5に示す演算部7で行う方向別の他の積雪特性を求める方法の詳細について、以下に説明する。
【0111】
まず、この発明の第1の実施例の積雪特性測定装置を用いて連続的に測定するとともに、航法衛星毎に求めた方向別の積雪の複素誘電率から、方向別の積雪密度を求める方法(ステップ58)及び方向別の含水率を求める方法(ステップ59)について詳細に説明する。さらに、方向別の積雪密度及び含水率から、衛星信号の周波数帯以外の周波数帯について、希望する周波数帯ごとに方向別の積雪の複素誘電率を求める方法(ステップ60)と、方向別の積雪水量を求める方法(ステップ61)、方向別の積雪含水量を求める方法(ステップ62)について詳細に説明する。
【0112】
積雪の複素誘電率の実部及び虚部と、積雪密度及び含水率との関係式は、Debyeモデルと実験結果によって、以下の数式13の(a)~(c)に示す近似式が知られている。数式13(b)は、数式13(a)で表される積雪の複素誘電率の実部についての関係式、数式13(c)は、数式13(a)で表される積雪の複素誘電率の虚部についての関係式である。
【0113】
【0114】
上記数式13において、f0=9.07[GHz]、ρsは積雪密度[g/cm3]、mvは含水率[%]である。さらに、上記数式13において、fは積雪の複素誘電率の対象となる周波数であり、この実施例では、衛星信号の周波数である。上述したように、この実施例における衛星信号の周波数はf=1575.42[MHz]である。
【0115】
上記数式13により、この発明の第1の実施例の積雪特性測定装置を用いて連続的に測定するとともに、航法衛星毎に求めた方向別の衛星信号の周波数帯における積雪の複素誘電率から方向別の積雪密度及び方向別の含水率を求めることが出来る。このとき、まず上記数式13(c)により方向別の含水率を求める。この求めた方向別の含水率を用いて、上記数式13(b)により方向別の積雪密度を求める。
【0116】
さらに、上記数式13において今度は周波数fを変数とすることにより、衛星信号の周波数以外の周波数帯について、求めた方向別の積雪密度及び方向別の含水率を用いて、上記数式13により希望する周波数帯ごとに方向別の積雪の複素誘電率を求めることが出来る。このとき、この実施例のように、上記数式13を用いて求めるのではなく、例えば、周波数と複素誘電率との特性図から変換するようにして求めても良い。
【0117】
最後に、方向別の積雪水量は、この発明の第1の実施例の積雪特性測定装置を用いて連続的に積雪特性を測定する過程において求められる航法衛星毎の積雪内伝搬経路長(積雪深及び航法衛星の視線方向の積雪の複素屈折率実部から求められる。
図2(ステップ55)参照。)と求めた方向別の積雪密度との積算で求め、方向別の積雪含水量は、方向別の積雪水量と方向別の含水率とを積算することにより求めることが出来る。
【実施例3】
【0118】
この発明の第3の実施例を、
図1及び表1~表2に基づいて詳細に説明する。
【0119】
この発明の第3の実施例は、この発明の積雪特性測定装置を用いて連続的に測定した積雪特性を利用して、積雪の状態を監視するとともに、雪崩、地滑りなどの融雪災害を予測する融雪災害の予測監視装置について説明する実施例である。
なお、第1の実施例及び第2の実施例と同じ部分については、同一名称、同一番号を用い、その説明を省略する。
【0120】
図1において、21は、積雪特性測定装置1を用いて連続的に測定した積雪特性を利用して、積雪3の状態を監視するとともに、雪崩などの融雪災害を予測する融雪災害の予測監視装置である。この融雪災害の予測監視装置21の監視対象となる主な融雪災害は、全層雪崩と融雪地すべりであり、融雪災害の予測監視装置21は、このような融雪災害が発生しやすい斜面に積雪した斜面積雪を主な監視対象としている。積雪下部アンテナ5は、監視したい斜面の積雪下部に設置され、融雪災害の予測監視装置21は、例えば、受信機6(受信機16a、16b)と演算部7との間の受信データのデータ通信に光通信回線網を利用することにより、全世界どこでも設置可能である。また、融雪災害の予測監視装置21をはじめとした全ての構成において、コンパクトに形成することにより、監視対象とする斜面に融雪災害の予測監視装置21を設置することも可能である。
【0121】
全層雪崩は、地面から上の積雪が滑り落ちる現象で、地面と接する積雪層の含水状態が高まる状態となることにより、地面と積雪層の底面とが接している面、即ち、滑り面での摩擦力(剪断強度)が低下することで発生する。
【0122】
融雪地すべりは、積雪層からの底面流出により土壌(地盤)への多量の融雪水が供給されることにより、土壌(地盤)が不安定になることで発生する。
【0123】
次に、融雪災害の予測監視装置21の作用動作について、
図1及び表1~表2を用いて説明する。表1は、全層雪崩の警戒基準を示すもので、表2は、融雪地すべりの警戒基準を示すものである。
【0124】
まず、融雪災害の予測監視装置21は、積雪特性測定装置1により連続的に測定された方向別の積雪水量、含水率及び積雪深により、積雪3の状態及びその時間的な変化を監視する。このとき、融雪災害の予測監視装置21が異方性を生じる斜面の監視をする場合には、斜面において衛星信号の受信に影響を与える周囲の地形や障害物件の影響を受けないように監視対象とする斜面積雪の方向を選択して測定し、積雪3の状態及びその時間的な変化を監視する。
【0125】
次に、融雪災害の予測監視装置21は、監視している積雪3の状態が表1における(a)~(f)の場合に全層雪崩の危険性があると判断し、表2における(a)~(b)の場合には融雪地すべりの危険性があると判断することで、融雪災害発生の危険性を判断するとともに、その予測を行う。
【0126】
【0127】
表1において、(a)は、積雪水量の時間的変化において、積雪水量が急激に減少した場合である。この急激な積雪水量の減少により、急激な低面流出が発生するため、積雪層の底面、即ち、積雪底面が不安定化するので、全層雪崩が発生する恐れがある。(b)は、積雪水量の時間的変化において、累積の減少量が高水準、即ち、多量である場合である。累積的に多量の底面流出が発生するため、積雪層の下層が定常的に不安定な状態となるので、全層雪崩が発生する恐れがある。
【0128】
(c)は、積雪水量と積雪深の時間的変化及び含水率の状態において、積雪水量が急激に増加し、積雪深が維持または低下し、含水率が高い場合である。この場合は、多量の降雨が発生している状態を示しており、急激に雨の水が積雪内を浸透していくので、積雪底面が不安定化するので、全層雪崩が発生する恐れがある。(d)は、積雪水量と積雪深の時間的変化及び含水率の状態において、積雪水量が急激に増加し、積雪深が増加し、含水率が高含水率の状態の場合である。この場合は、多量の降雪が発生している状態を示しており、地面と積雪底面との摩擦力に拮抗する力である積雪にかかる重力の斜面方向成分について、多量の降雪により積雪重量(積雪水量)が増加するので、積雪底面が不安定化し、全層雪崩が発生する恐れがある。
【0129】
(e)は、含水率の時間的な変化において、含水率が急激に増加した場合である。急激な含水率の増加に伴って積雪底面が急激に不安定化するので、全層雪崩が発生する恐れがある。(f)は、含水率の時間的な変化において、含水率が高水準を維持している場合である。この場合は、融雪期にみられる状態であり、雪崩の危険度が高まっている。
【0130】
【0131】
表2において、(a)は、積雪水量の時間的変化において、積雪水量が急激に減少した場合である。この急激な積雪水量の減少により、急激な低面流出が発生するため、土壌水分が急激に増加するので、融雪地すべりが発生する恐れがある。(b)は、積雪水量の時間的変化において、累積の減少量が高水準、即ち、多量である場合である。累積的に多量の底面流出が発生するため、土壌水分が定常的に高水準の状態となるので、融雪地すべりが発生する恐れがある。
【0132】
このようにして、融雪災害の予測監視装置21は、監視対象とする斜面積雪の方向を選択的に測定することで、斜面において衛星信号の受信に影響を与える周囲の地形や障害物件の影響を受けないように積雪特性を測定することが出来るとともに、効果的に積雪3の状態の監視を行って融雪災害発生の危険性を判断し、融雪災害の予測を行っている。さらに、融雪災害の予測監視装置21は、この融雪災害発生の危険度が一定の閾値を超えた場合には、警報を発する。
【実施例4】
【0133】
この発明の第4の実施例を、
図2、
図5及び
図6~
図12に基づいて詳細に説明する。
図6は、67日間程度の積雪による伝搬遅延量(1重位相差(SD))及びその変化を示す図で、航法衛星2(2a、2b・・・)について、3つの仰角区分(30±0.5度、40±0.5度、65±0.5度)に分類して示した積雪による伝搬遅延量及びその変化を示す図である。
図7は、一部欠損はあるが120日間の積雪による伝搬遅延量(1重位相差(SD))及びその変化を示す図で、(a)は航法衛星2(2a、2b・・・)について、3つの仰角区分(30±0.5度、40±0.5度、65±0.5度)に分類して示した積雪による伝搬遅延量及びその変化、(b)はある1日について静止衛星である1つの航法衛星2(2a、2b・・・)の積雪による伝搬遅延量を示す1重位相差(SD)の変化を示した図である。
図8は、積雪による伝搬遅延量(1重位相差(SD))から積雪深と複素屈折率実部を求めた結果を示す図で、(a)は積雪深を求めた結果、(b)は複素屈折率実部を求めた結果である。
図9は、積雪による伝搬遅延量(2重位相差(DD))から積雪深と複素屈折率実部を求めた結果を示す図で、(a)は積雪深を求めた結果、(b)は複素屈折率実部を求めた結果である。
図10は、減衰量、即ち、衛星信号の積雪による受信強度低下量のある1日における変化を示す図で、(a)は積雪上部アンテナ4、(b)は積雪下部アンテナ5でそれぞれ受信した衛星信号の受信強度のある1日における変化を示す図である。
図11は、衛星信号の単位長さあたり減衰率αに関連する受信強度低下量、即ち、航法衛星2(2a、2b・・・)からそれぞれ送信される衛星信号について積雪内伝搬経路上の単位長さあたりの受信強度低下量(前述の数式9における受信強度低下量ACNを積雪内伝搬経路長aで除したもの)を求めてそれらを平均した値及びその変化を示す図である。
図12は、積雪密度及び含水率を求めた結果を示す図で、(a)は積雪密度を求めた結果、(b)は含水率を求めた結果である。なお、これらの図における1重位相差及び2重位相差は、航法衛星2(2a、2b・・・)と積雪上部アンテナ4及び積雪下部アンテナ5の幾何学的関係から求めることが出来る幾何学的距離を差し引いて幾何学補正済みの結果を示している。
【0134】
この発明の第4の実施例は、この発明の積雪特性測定装置を用いて行った実験について説明する実施例である。
なお、第1の実施例及び第2の実施例と同じ部分については、同一名称、同一番号を用い、その説明を省略する。
【0135】
まず、実験で、
図2の(ステップ51)において衛星信号から積雪による伝搬遅延量を求めた結果が
図6及び
図7に示されている。
図6及び
図7(a)は、衛星の仰角が30±0.5度、40±0.5度、65±0.5度の区間にそれぞれある航法衛星2(2a、2b・・・)について、積雪上部及び積雪下部でそれぞれ受信した衛星信号の受信信号間の時刻同期を確保できる場合の積雪による伝搬遅延量として用いる1重位相差(SD)及びその変化を示した結果であり、縦軸が相対的な位相差[m]、横軸が実験の経過日数[日]である。
図6及び
図7(a)において、Aは仰角が30±0.5度の区間にある航法衛星、Bは仰角が40±0.5度の区間にある航法衛星、Cは仰角が65±0.5度の区間にある航法衛星の積雪による伝搬遅延量(1重位相差(SD))を2時間毎に平均した値である。なお、これらの伝搬遅延量(1重位相差(SD))は、積雪が無い時を基準値としてバイアス誤差成分を補正した結果を示している。この
図6及び
図7(a)から、各航法衛星2(2a、2b・・・)から送信される衛星信号の積雪による伝搬遅延量が連続的に示されているのが分かるとともに、仰角が低い航法衛星の衛星信号ほど伝搬遅延量が大きくなっていることが分かる。
【0136】
ここで、
図6及び
図7(a)は共に、3つの仰角区分(30±0.5度、40±0.5度、65±0.5度)に分類して示した積雪による伝搬遅延量(1重位相差(SD))及びその変化を示す図であるが、
図6は複数RF入力端子のある受信機6、
図7(a)は同期用の安定クロック(同期信号)をそれぞれ入力することにより積雪上部アンテナ4及び積雪下部アンテナ5でそれぞれ受信した衛星信号のRF信号を時刻同期して受信する2台の受信機16a、16bでそれぞれ取得した観測データをもとにして求めたものである。これら
図6及び
図7(a)の結果を比較すると、受信機の構成の差に伴う結果に大きな差異は認められないことが分かる。また、後述する
図8以降の実験結果を示す図においては、
図7と同様に、同期信号を入力した2台の受信機16a、16bを用いた結果である。
【0137】
また、
図7(b)は、航法衛星2(2a、2b・・・)のうち、静止衛星である仰角47度の1つの航法衛星2(2a、2b・・・)の積雪による伝搬遅延量を示す1重位相差(SD)のある1日の変化を示した結果であり、縦軸が1重位相差(SD)[m]、横軸が実験を行った1日における経過時間[GPS時間(hr.)]である。
図7(b)にはまた、比較のために外部システムのデータである気象観測データから降水量(雪または雨)のデータと、実験において観測地点に設置したライシメータによる底面流出量のデータが併せて示してある。この
図7(b)から、降水に伴い、伝搬遅延量である1重位相差(SD)が増加しているのが分かる。また、
図7(b)の縦の破線で示した時刻の直後に、底面流出量が増え、増加した1重位相差(SD)も減少していることから、この時刻には雪ではなく雨が降って底面から抜けたことが分かる。
【0138】
次に、積雪による伝搬遅延量(1重位相差(SD))から積雪深(
図2(ステップ54)参照。)と複素屈折率実部(
図2(ステップ53)参照。)を求めた結果を
図8に示している。
図8(a)には、この発明の積雪特性測定装置により、衛星信号の積雪による伝搬遅延量である1重位相差(SD)から2時間毎に求めた積雪深のデータが小さい“■”印で示されており、比較のために気象観測データで提供されている積雪深のデータ(レーザー式積雪深計で測定された積雪深のデータ)が実線で示されている。
図8(a)において、縦軸は積雪深[m]、横軸は実験の経過日数[日]である。また、
図8(b)には、この発明の積雪特性測定装置により、(a)と同様に1重位相差(SD)から2時間毎に求めた複素屈折率実部のデータが小さい“■”印で示されている。
図8(b)において、大きい“□”印で示されているのは、比較のために1週間ごとに積雪断面観測で測定された複素屈折率実部であり、縦軸は複素屈折率実部、横軸は実験の経過日数[日]である。この
図8から、この発明の積雪特性測定装置により、衛星信号の積雪による伝搬遅延量である1重位相差(SD)から求めた積雪深と複素屈折率実部は、それほどの誤差なく概ね良好な結果が求められているのが分かる。
【0139】
図9は、2重位相差(DD)から6時間毎に積雪深と複素屈折率実部を求めた結果である。
図8と同様に、
図9(a)には、2重位相差(DD)から求めた積雪深のデータが小さい“■”印で示されるとともに、比較のために気象観測データで提供されている積雪深のデータが実線で示されており、
図9(b)には、2重位相差(DD)から求めた複素屈折率実部のデータが小さい“■”印で示されるとともに、比較のために1週間ごとに積雪断面観測で測定された複素屈折率実部のデータが大きい“□”印で示されている。この
図9からも、この発明の積雪特性測定装置により、衛星信号の積雪による伝搬遅延量である2重位相差(DD)から求めた積雪深と複素屈折率実部は、それほどの誤差なく概ね良好な結果が求められているのが分かる。
【0140】
次に、実験で、
図2の(ステップ52)において衛星信号から積雪による受信強度低下量を求めた結果が
図10に示されている。
図10は、衛星信号の減衰量、即ち、衛星信号の積雪による受信強度低下量及びその24時間における変化を示した結果であり、縦軸が受信した衛星信号のC/N0比[dB-Hz]、横軸が実験を行った1日における経過時間[GPS時間(hr.)]である。
図10において、(a)は積雪上部アンテナ4で、(b)は積雪下部アンテナ5でそれぞれ受信した衛星信号の受信強度及びその24時間における変化を示しており、
図7と同様に、比較のために外部システムのデータである気象観測データから降水量(雪または雨)のデータと、実験において観測地点に設置したライシメータによる底面流出量のデータが併せて示してある。
図10において、(a)積雪上部アンテナ4と、(b)積雪下部アンテナ5との受信強度の差が大きく変化する縦の破線で示した時刻は、
図7と同様に雨が降り、積雪下部アンテナ5での受信強度が大幅に低下して、受信強度低下量が大幅に増加しているのが分かるとともに、底面流出量が増えて雨による水分が積雪底面から抜けた後は、大幅に低下した積雪下部アンテナ5での受信強度が再び増加し受信強度低下量がある程度戻っているのが分かる。
【0141】
次に、実験で、
図2の(ステップ56)において複素屈折率虚部を求めるために必要な衛星信号の単位長さあたり減衰率αに関連する受信強度低下量(前述の数式9における受信強度低下量ACNを積雪内伝搬経路長aで除したもの)を求めた結果を
図11に示している。
図11は、1つの航法衛星2(2a、2b・・・)から送信される衛星信号のそれぞれについて積雪内伝搬経路上の単位長さあたりの受信強度低下量を求めてそれらを2時間毎に平均した値及びその変化を示しており、縦軸は単位長さあたりの受信強度低下量[dB/m]、横軸は実験の経過日数[日]である。
【0142】
最後に、実験で、
図5の(ステップ58)、(ステップ59)において積雪密度及び含水率を求めた結果を
図12に示している。
図12(a)には、この発明の積雪特性測定装置により、積雪の複素誘電率を用いて2時間毎に求められた積雪密度のデータが小さい“■”印で示されており、気象観測データで提供されている積雪重量(積雪水量)のデータと積雪深のデータを用いて求めた積雪密度のデータが実線で示されている。
図12(a)において、縦軸は積雪密度[g/cm
3]、横軸は実験の経過日数[日]である。また、
図12(b)には、この発明の積雪特性測定装置により、(a)と同様に積雪の複素誘電率を用いて2時間毎に求められた含水率のデータが小さい“■”印で示されている。
図12(b)において、大きな“□”印で示されているのは、1週間ごとに積雪断面観測で測定された含水率であり、縦軸は含水率[%]、横軸は実験の経過日数[日]である。この
図12から、この発明の積雪特性測定装置により、積雪の複素誘電率を用いて求められた積雪密度と含水率は、それほどの誤差なく概ね良好な結果が求められているのが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0143】
この発明による積雪特性測定装置を、多雪地域のダムや水源付近の斜面に設置し、積雪水量の変化を監視することにより、本装置近傍の積雪を中心とする水資源の管理に利用することが出来る。又、積雪水量や積雪含水量の変化から本装置近傍の気候変動も監視可能であり、環境計測システムへも応用可能である。
【0144】
また、この発明による積雪特性測定装置を、屋根に設置することにより、屋根に積もった雪の積雪水量を監視し、雪降ろし等による屋根上の積雪を処理する適切なタイミングを判断するためのシステムに利用可能である。又、既存のインフラ(例えば、斜面に設置されているGNSS連続観測点等)に対して積雪監視機能を付加するなどの活用により、ユーザシステム(融雪災害、屋根幸災害警報装置)の簡易化を図ることが可能となる。
【0145】
さらに、この発明による積雪特性測定装置は、気象庁の提供する地域気象観測システム(アメダス)のような自動気象観測装置への組み込みに利用可能である。
【0146】
また、この発明による積雪特性測定装置は、高い安全性が要求される航空機の着陸誘導装置であるILS(Instrument Landing System)や、GNSSを用いた地上型補強システム(GBAS)について、地域毎の積雪特性に対応した積雪による航法性能への影響評価、監視に利用することが出来るとともに、長期間データを蓄積することにより安全性の数値化にも利用可能である。又、
図6~
図12に示す実験データの解析例ではオフライン解析を行っているが、将来的には、リアルタイム監視へと発展可能である。又、このような高い安全性が要求されるILSやGBAS等の設置基準及び除雪基準の作成及び見直し等にも利用可能である。
【0147】
さらに、この発明による積雪特性測定装置を、ILSの反射板近傍に設置して、ILSの航法性能維持のための反射板上における除雪の必要性の有無をリアルタイムで判断するシステムを構築することも可能である。
【0148】
また、太陽光発電の分野における太陽光発電予測では、晴天か曇りかは最も重要であるが、太陽光パネルにおける積雪の有無は、その次に重要である。そこで、この太陽光パネルに、この発明による積雪特性測定装置を組み込んで一体型に形成し、太陽光パネルへの積雪を監視することが可能である。さらに、太陽光パネルの上空は太陽の方向、即ち、南側に開けているので、静止衛星軌道にあるSBAS衛星等を利用して、常時同一方向の積雪内の伝搬経路を監視することにより、積雪深をはじめとした積雪特性について時間分解能を向上したリアルタイム監視システムを構成することも可能である。
【0149】
この発明による融雪災害の予測監視装置は、光ファイバ無線(RoF)技術を活用した遠隔地監視にも利用することが出来る。
【符号の説明】
【0150】
1 積雪特性測定装置
2(2a、2b・・・) 航法衛星
3 積雪
3a 積雪面
4 積雪上部アンテナ
5 積雪下部アンテナ
6、16(16a、16b) 受信機
7 演算部
21 融雪災害の予測監視装置