(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】ターゲット物質の検出方法及びキット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/542 20060101AFI20221101BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20221101BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20221101BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20221101BHJP
C12Q 1/6818 20180101ALI20221101BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20221101BHJP
【FI】
G01N33/542 A
G01N33/543 501A
G01N33/53 M
G01N21/64 F
G01N21/64 G
C12Q1/6818 Z ZNA
C12Q1/6876 Z
(21)【出願番号】P 2021514274
(86)(22)【出願日】2019-08-28
(86)【国際出願番号】 KR2019011003
(87)【国際公開番号】W WO2020045984
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2020-11-13
(31)【優先権主張番号】10-2018-0101453
(32)【優先日】2018-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0123312
(32)【優先日】2018-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0123313
(32)【優先日】2018-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520447617
【氏名又は名称】ジェイエル メディラブズ、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】イ、ジョン ジン
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-528121(JP,A)
【文献】特表2006-500588(JP,A)
【文献】国際公開第2018/073872(WO,A1)
【文献】特表2009-520476(JP,A)
【文献】特表2018-520641(JP,A)
【文献】特許第3657556(JP,B2)
【文献】特表2012-509078(JP,A)
【文献】特開2015-073523(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0007795(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0017700(US,A1)
【文献】Jongjin Lee et al.,Accelerated super-resolution imaging with FRET-PAINT,Molecular Brain,2017年,10(1),Article number:63
【文献】Nina S,Correlative Single-Molecule FRET and DNA-PAINT Imaging,Nano Lett,2018年06月26日,Vol.18,Page.4626-4630
【文献】新野祐介,Dual FRETイメージング法による細胞内シグナルの同時可視化,生物物理,2010年,Vol.50 No.1,Page.028-029
【文献】Alexander Auer et al.,Fast, Background-Free DNA-PAINT Imaging Using FRET-Based Probes,Nano Letters,2017年,17(10),6428-6434
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/542
G01N 33/543
G01N 33/53
G01N 21/64
C12Q 1/6818
C12Q 1/6876
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ターゲット物質を含有する試料を基板上に導入すること、(b)ドッキングストランド(docking strand)と結合している検出プローブを前記ターゲット物質に特異的に結合させること、(c)前記ドッキングストランドと相補的に結合可能な1種以上の別個のストランドを導入し、前記ドッキングストランド若しくは前記別個のストランドのいずれか又は両方は、少なくとも1種のドナー蛍光物質及び少なくとも1種のアクセプター蛍光物質で標識されていること、並びに(d)前記ドナー蛍光物質と前記アクセプター蛍光物質との間のフレット(FRET)により発生した蛍光シグナルを測定して前記ターゲット物質を検知すること、を含み、前記ドッキングストランド又は少なくとも1つの前記別個のストランドが2以上の蛍光物質で標識されて
おり、
前記別個のストランドが、1種以上の前記ドナー蛍光物質で標識されている1種以上のドナーストランド及び1種以上の前記アクセプター蛍光物質で標識されている1種以上のアクセプターストランドを含み、フレットペアを形成する2種類以上の蛍光物質で前記アクセプターストランド又は前記ドッキングストランドを標識する、
ターゲット物質の検出方法。
【請求項2】
前記ドナー蛍光物質のピーク吸収波が前記アクセプター蛍光物質のピーク吸収波長よりも短く、かつ、前記ドナー蛍光物質のピーク発光波長が前記アクセプター蛍光物質のピーク発光波長よりも短い、請求項1に記載のターゲット物質の検出方法。
【請求項3】
前記ドナー蛍光物質を励起する光の波長において、前記ドナー蛍光物質の吸光係数(extinction coefficient)が前記アクセプター蛍光物質の吸光係数よりも3倍以上高い、請求項1に記載のターゲット物質の検出方法。
【請求項4】
前記ドナー蛍光物質と前記アクセプター蛍光物質との間のフェルスター(Forster)半径が0.208nm以上である、請求項1に記載のターゲット物質の検出方法。
【請求項5】
前記ドナー蛍光物質及び前記アクセプター蛍光物質は、リンカーを介して、前記ドッキングストランド上又は前記別個のストランド上に標識される、請求項1に記載のターゲット物質の検出方法。
【請求項6】
前記リンカーの長さが10nm以下である、請求項5に記載のターゲット物質の検出方法。
【請求項7】
前記蛍光シグナルのシグナルノイズ比(signal-to-noise ratio)が2以上となるように光学フィルターの波長を調整することを更に含む、請求項1に記載のターゲット物質の検出方法。
【請求項8】
前記ターゲット物質が2種以上であり、かつ、前記ドナーストランド又は前記アクセプターストランドのうちの1種以上は、前記ターゲット物質の種類に応じて異なる配列を有するか、又は、種類若しくは結合位置が異なる蛍光物質で標識される、請求項
1に記載のターゲット物質の検出方法。
【請求項9】
前記ターゲット物質の検知後に前記ドナーストランド及び/又は前記アクセプターストランドを除去し、除去した前記ドナーストランド及び/又は前記アクセプターストランドとは異なるドナーストランド及び/又はアクセプターストランドを用いて前記(d)を繰り返すことで、その他のターゲット物質を検知することを更に含む、請求項
8に記載のターゲット物質の検出方法。
【請求項10】
前記ドナーストランド及び前記アクセプターストランドが前記ドッキングストランドに対して同時に又は順次結合するときに、前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドとの間の間隔が、前記ドッキングストランドの持続長(presistance length)よりも短い、請求項
1に記載のターゲット物質の検出方法。
【請求項11】
前記蛍光シグナルのシグナルノイズ比(signal-to-noise ratio)を2以上に維持しながら、前記ドナーストランド又は前記アクセプターストランドの前記ドッキングストランドへの結合にかかる時間が10分以下であるように、前記ドナーストランド又は前記アクセプターストランドの濃度を調整することを更に含む、請求項
1に記載のターゲット物質の検出方法。
【請求項12】
前記ドナーストランド又は前記アクセプターストランドの濃度が、10nM~10μMである、請求項
11に記載のターゲット物質の検出方法。
【請求項13】
前記ドッキングストランド又は前記アクセプターストランドが核酸であるときに、前記ドッキングストランドに対して相補的な前記アクセプターストランドの塩基数が8以上である、請求項
1に記載のターゲット物質の検出方法。
【請求項14】
前記ドッキングストランドに対して相補的な前記ドナーストランドの塩基数が6~12である、請求項
13に記載のターゲット物質の検出方法。
【請求項15】
前記ドッキングストランド又は前記アクセプターストランドが核酸類縁体であるときに、前記ドッキングストランドに対して相補的な前記アクセプターストランドの塩基数が5以上である、請求項
1に記載のターゲット物質の検出方法。
【請求項16】
前記ドッキングストランドに対して相補的な前記ドナーストランドの塩基数が3~9である、請求項
15に記載のターゲット物質の検出方法。
【請求項17】
(a)ターゲット物質としての核酸又は核酸類縁体を含有する試料を基板上に導入すること、(b)前記ターゲット物質のストランドに対して相補的に結合可能な1種以上の別個のストランドを導入し、前記ターゲット物質のストランド若しくは前記別個のストランドのいずれか又は両方は、少なくとも1種のドナー蛍光物質及び少なくとも1種のアクセプター蛍光物質により標識されていること、並びに(c)前記ドナー蛍光物質と前記アクセプター蛍光物質との間のフレット(FRET)により発生した蛍光シグナルを測定して前記ターゲット物質を検知すること、を含み、前記ターゲット物質のストランド又は少なくとも1つの前記別個のストランドが2以上の蛍光物質で標識されて
おり、
前記別個のストランドは、1種以上の前記ドナー蛍光物質で標識されている1種以上のドナーストランドと、少なくとも1種のドナー蛍光物質及び少なくとも1種のアクセプター蛍光物質により標識されているフレットストランドを含む、
ターゲット物質の検出方法。
【請求項18】
前記フレットペアから発生する蛍光シグナルから下記の式で規定されるFRET効率が測定される、請求項
1に記載のターゲット物質の検出方法。
FRET効率=(アクセプターから発せられた光の強度)/(ドナーから発せられた光の強度とアクセプターから発せられた光の強度との合計)
【請求項19】
a)ターゲット物質を含有する試料を基板上に導入すること、(b)ドッキングストランド(docking strand)と結合している検出プローブを前記ターゲット物質に特異的に結合させること、(c)前記ドッキングストランドと相補的に結合可能な1種以上の別個のストランドを導入し、前記ドッキングストランド若しくは前記別個のストランドのいずれか又は両方は、少なくとも1種のドナー蛍光物質及び少なくとも1種のアクセプター蛍光物質で標識されていること、並びに(d)前記ドナー蛍光物質と前記アクセプター蛍光物質との間のフレット(FRET)により発生した蛍光シグナルを測定して前記ターゲット物質を検知すること、を含み、前記ドッキングストランド又は少なくとも1つの前記別個のストランドが2以上の蛍光物質で標識されており、
前記別個のストランドが1種以上のドナー蛍光物質で標識されている1種以上のドナーストランドを含み、かつ、前記ドッキングストランドが1種以上のアクセプター蛍光物質を含む
、
ターゲット物質の検出方法。
【請求項20】
a)ターゲット物質を含有する試料を基板上に導入すること、(b)ドッキングストランド(docking strand)と結合している検出プローブを前記ターゲット物質に特異的に結合させること、(c)前記ドッキングストランドと相補的に結合可能な1種以上の別個のストランドを導入し、前記ドッキングストランド若しくは前記別個のストランドのいずれか又は両方は、少なくとも1種のドナー蛍光物質及び少なくとも1種のアクセプター蛍光物質で標識されていること、並びに(d)前記ドナー蛍光物質と前記アクセプター蛍光物質との間のフレット(FRET)により発生した蛍光シグナルを測定して前記ターゲット物質を検知すること、を含み、前記ドッキングストランド又は少なくとも1つの前記別個のストランドが2以上の蛍光物質で標識されており、
前記別個のストランドが1種以上のアクセプター蛍光物質で標識されている1種以上のアクセプターストランドを含み、かつ、前記ドッキングストランドが1種以上のドナー蛍光物質を含む
、
ターゲット物質の検出方法。
【請求項21】
(a)ターゲット物質を含有する試料を基板上に導入すること、(b)タグストランド(tagged strand)と結合している検出プローブを前記ターゲット物質に特異的に結合させること、(c)前記タグストランドが1種以上のドナー蛍光物質及び1種以上のアクセプター蛍光物質で標識されること、並びに(d)前記ドナー蛍光物質と前記アクセプター蛍光物質との間のフレットにより発生した蛍光シグナルを測定して前記ターゲット物質を検知すること、を含み、少なくとも1つの前記タグストランドが2以上の蛍光物質で標識されて
おり、
前記タグストランドが2組以上のフレットペアを含み、
前記フレットペアの間の間隔は、各フレットペアのFRET効率に影響を与えないように調整され、
前記フレットペアの間の間隔が5nm以上である、
ターゲット物質の検出方法。
【請求項22】
前記フレットにより発生した蛍光シグナルが、下記の式で規定されるFRET効率によって測定される、請求項
21に記載のターゲット物質の検出方法。
FRET効率=(アクセプターから発せられた光の強度)/(ドナーから発せられた光の強度とアクセプターから発せられた光の強度との合計)
【請求項23】
前記FRET効率の測定が、光退色の前及び後に、前記ドナー又は前記アクセプターから発せられた光の明度値を測定すること、を含む、請求項
22に記載のターゲット物質の検出方法。
【請求項24】
前記蛍光物質間の距離に応じて識別されるフレット(FRET)効率の間の差を決定することにより、2種以上のターゲット物質が同時に検知される、請求項1~請求項
23のいずれか一項に記載のターゲット物質の検出方法。
【請求項25】
前記異なる種類の蛍光物質間のフレット(FRET)による発光スペクトルの間の差を決定することにより、2種以上のターゲット物質が同時に検知される、請求項1~請求項
23のいずれか一項に記載のターゲット物質の検出方法。
【請求項26】
前記蛍光シグナルがイメージングされた領域の単位面積当たりの前記ターゲット物質の数から、前記試料中の前記ターゲット物質の濃度を決定することをさらに含む、請求項1~請求項
23のいずれか一項に記載のターゲット物質の検出方法。
【請求項27】
(a)ターゲット物質に特異的に結合し、かつ、ドッキングストランドと結合している1種以上の検出プローブ、及び(b)前記ドッキングストランドに対して相補的に結合する1種以上の別個のストランドを含み、前記ドッキングストランド若しくは前記別個のストランドのいずれか又は両方が、少なくとも1種のドナー蛍光物質及び少なくとも1種のアクセプター蛍光物質で標識されており、かつ、前記ドナー蛍光物質が励起されると前記ドナー蛍光物質及び前記アクセプター蛍光物質の間のフレット(FRET)によって発光が起こる、ターゲット物質検出用キットであり、前記ドッキングストランド又は少なくとも1つの前記別個のストランドが2以上の蛍光物質で標識されて
おり、
前記別個のストランドが、1種以上の前記ドナー蛍光物質で標識されている1種以上のドナーストランド及び1種以上の前記アクセプター蛍光物質で標識されている1種以上のアクセプターストランドを含み、フレットペアを形成する2種類以上の蛍光物質で前記アクセプターストランド又は前記ドッキングストランドを標識するか、
前記別個のストランドが1種以上のドナー蛍光物質で標識されている1種以上のドナーストランドを含み、かつ、前記ドッキングストランドが1種以上のアクセプター蛍光物質を含むか、又は、
前記別個のストランドが1種以上のアクセプター蛍光物質で標識されている1種以上のアクセプターストランドを含み、かつ、前記ドッキングストランドが1種以上のドナー蛍光物質を含む、
ターゲット物質検出用キット。
【請求項28】
ターゲット物質としての核酸又は核酸類縁体のストランドに対して相補的に結合する1種以上の別個のストランドを含み、前記別個のストランドが少なくとも1種のドナー蛍光物質で標識されているドナーストランド及び少なくとも1種のアクセプター蛍光物質で標識されているアクセプターストランドを含み、かつ、前記ドナー蛍光物質が励起されると前記ドナー蛍光物質及び前記アクセプター蛍光物質の間のフレット(FRET)によって発光が起こる、ターゲット物質検出用キットであり、少なくとも1つの前記別個のストランドが2以上の蛍光物質で標識されて
おり、
前記別個のストランドは、1種以上の前記ドナー蛍光物質で標識されている1種以上のドナーストランドと、少なくとも1種のドナー蛍光物質及び少なくとも1種のアクセプター蛍光物質により標識されているフレットストランドを含む、
ターゲット物質検出用キット。
【請求項29】
ターゲット物質に特異的に結合し、かつ、タグストランドと結合している1種以上の検出プローブを含み、前記タグストランドが1種以上のドナー蛍光物質及び1種以上のアクセプター蛍光物質を含み、かつ、前記ドナー蛍光物質が励起されると前記ドナー蛍光物質及び前記アクセプター蛍光物質の間のフレット(FRET)によって発光が起こる、ターゲット物質検出用キットであり、少なくとも1つの前記タグストランドが2以上の蛍光物質で標識されている、ターゲット物質検出用キット。
【請求項30】
前記ターゲット物質を捕捉可能な基板をさらに含む、請求項
27又は請求項
28に記載のターゲット物質検出用キット。
【請求項31】
前記ターゲット物質を捕捉するために、前記基板上に1種以上の捕捉プローブが固定化されている、請求項
30に記載のターゲット物質検出用キット。
【請求項32】
前記ターゲット物質を捕捉可能な基板をさらに含み、
前記ターゲット物質を捕捉するために、前記基板上に1種以上の捕捉プローブが固定化されており、
前記捕捉プローブが、前記検出プローブと結合した前記タグストランド以外の前記タグストランドと結合している、請求項
29に記載のターゲット物質検出用キット。
【請求項33】
前記検出プローブのタグ付きストランド及び前記捕捉プローブのタグ付きストランドと相補的に結合してフレットペアを形成するブリッジストランドをさらに含む、請求項
32に記載のターゲット物質検出用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示された技術は、一般的にターゲット物質の検出方法及びキットに関し、より詳細にはターゲット物質の多重検出のための非常に高い感度を有する方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマーカーとは生物学的な状態又は状況を示すことが可能な生物学的指標、例えばタンパク質、DNA、RNA、代謝物等のことである。生命体に由来する特定の試料中に存在するバイオマーカーの検出に基づくことで生命体の正常な状態又は病理学的状態の判定が可能であり、かつ、薬物に対する応答の客観的な評価が可能である。近年、バイオマーカーの検出は、癌や心疾患、卒中、及び認知症などの他の不治の疾患を診断するための効果的なアプローチとして医療界で注目を浴びている。
【0003】
バイオマーカー検出のための従来の技術は主にELISAに基づいており、それらの感度に比例して数~数十pg/mlの範囲で所定のレベルを超える量の生体試料を必要とする。
【0004】
これらのELISAベースの技術の大半によると、腫瘍が成長するか否か判定するためにバイオマーカーを使用するとき、これらのバイオマーカーの1つ1つが1回の試験によって判別される。このため、試験が数回繰り返される。しかしながら、腫瘍が成長するときは1種類のみバイオマーカーのレベルが変化するのではなく、2種類以上のバイオマーカーのレベルが変化する。したがって、腫瘍が成長するか否か判定するために数種類のバイオマーカーの同時検出が必要になり、それにより疾患が存在するか否かの判定に正確性が増すことになる。
【0005】
現在の技術状況では多数のバイオマーカーの検出には、それらのバイオマーカーの数に比例して充分な量の血液と充分な数の検出キットが必要である。大量の血液の試料採取は精神的及び物理的負担を対象に課し、多数の検出キットの使用は経済的な負担になるばかりか疾患の早期診断を困難にする。このため、1種以上のバイオマーカーを同時に診断することが必要である。
【0006】
したがって、非常に少量の生体試料中の2種類以上のバイオマーカーを同時検出するために、感度が高く、かつ、多重化されている診断技術を開発する必要性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】韓国特許第1431062号、「乳癌診断用の複数のバイオマーカーのセット、乳癌の検出方法、及び乳癌に対する抗体を使用する乳癌の診断キット」(2013年9月23日公開)
【文献】韓国特許出願公開第20170096619号、「3次元タンパク質ナノ粒子プローブに基づく複数の疾患を同時検出するための方法及びキット」(2017年8月24日公開)
【発明の概要】
【0008】
本開示の一態様によれば、(a)ターゲット物質を含有する試料を基板上に導入すること、(b)ドッキングストランド(docking strand)と結合している検出プローブを前記ターゲット物質に特異的に結合させること、(c)前記ドッキングストランドと相補的に結合可能な1種以上の別個のストランドを導入し、前記ドッキングストランド若しくは前記別個のストランドのいずれか又は両方は、少なくとも1種のドナー蛍光物質及び少なくとも1種のアクセプター蛍光物質で標識されていること、並びに(d)前記ドナー蛍光物質と前記アクセプター蛍光物質との間のフレット(FRET)により発生した蛍光シグナルを測定して前記ターゲット物質を検知すること、を含む、ターゲット物質の検出方法が提供される。
【0009】
本開示の他の態様によれば、(a)ターゲット物質としての核酸又は核酸類縁体を含有する試料を基板上に導入すること、(b)前記ターゲット物質のストランドに対して相補的に結合可能な1種以上の別個のストランドを導入し、前記ターゲット物質のストランド若しくは前記別個のストランドのいずれか又は両方は、少なくとも1種のドナー蛍光物質及び少なくとも1種のアクセプター蛍光物質により標識されていること、並びに(c)前記ドナー蛍光物質と前記アクセプター蛍光物質との間のフレット(FRET)により発生した蛍光シグナルを測定して前記ターゲット物質を検知すること、を含む、ターゲット物質の検出方法が提供される。
【0010】
本開示の別の態様によれば、(a)ターゲット物質を含有する試料を基板上に導入すること、(b)タグストランド(tagged strand)と結合している検出プローブを前記ターゲット物質に特異的に結合させること、(c)前記タグストランドが1種以上のドナー蛍光物質及び1種以上のアクセプター蛍光物質で標識されること、並びに(d)前記ドナー蛍光物質と前記アクセプター蛍光物質との間のフレット(FRET)により発生した蛍光シグナルを測定して前記ターゲット物質を検知すること、を含む、ターゲット物質の検出方法が提供される。
【0011】
1つの実施形態において、前記ドナー蛍光物質のピーク吸収波長は前記アクセプター蛍光物質のピーク吸収波長よりも短くてよく、かつ、前記ドナー蛍光物質のピーク発光波長は前記アクセプター蛍光物質のピーク発光波長よりも短くてよい。
【0012】
1つの実施形態において、前記ドナー蛍光物質を励起する光の波長において、前記ドナー蛍光物質の吸光係数(extinction coefficient)は、前記アクセプター蛍光物質の吸光係数よりも3倍以上高くてよい。
【0013】
1つの実施形態において、前記ドナー蛍光物質と前記アクセプター蛍光物質との間のフェルスター(Forster)半径は0.208nm以上である。
【0014】
1つの実施形態においては、前記ドナー蛍光物質及び前記アクセプター蛍光物質は、リンカーを介して、前記ドッキングストランド上又は前記別個のストランド上に標識されてよい。
【0015】
1つの実施形態において、前記リンカーの長さは10nm以下であってよい。
【0016】
1つの実施形態において、前記方法は、前記蛍光シグナルのシグナルノイズ比(signal-to-noise ratio)が2以上になるように光学フィルターの波長を調整することをさらに含んでよい。
【0017】
1つの実施形態において、前記別個のストランドは1種以上のドナー蛍光物質で標識されている1種以上のドナーストランド及び1種以上のアクセプター蛍光物質で標識されている1種以上のアクセプターストランドを含んでよい。
【0018】
1つの実施形態において、前記ターゲット物質が2種以上であってよく、かつ、前記ドナーストランド又は前記アクセプターストランドのうちの1種以上は、前記ターゲット物質の種類に応じて異なる配列を有するか、又は、種類若しくは結合位置が異なる蛍光物質で標識されてよい。
【0019】
1つの実施形態において、前記方法は、前記ターゲット物質の検知後に前記ドナーストランド及び/又は前記アクセプターストランドを除去し、除去した前記ドナーストランド及び/又は前記アクセプターストランドとは異なるドナーストランド及び/又はアクセプターストランドを用いて前記(d)を繰り返すことで、その他のターゲット物質を検知することを更に含んでよい。
【0020】
1つの実施形態において、前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドが前記ドッキングストランドに対して同時又は連続的に結合するときに、前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドとの間の間隔は、前記ドッキングストランドの持続長(presistance length)よりも短くてよい。
【0021】
1つの実施形態において、前記方法は、前記蛍光シグナルのシグナルノイズ比(signal-to-noise ratio)を2以上に維持しながら、前記ドナーストランド又は前記アクセプターストランドの前記ドッキングストランドへの結合にかかる時間が10分以下であるように、前記ドナーストランド又は前記アクセプターストランドの濃度を調整することを更に含んでよい。この実施形態では、前記ドナーストランド又は前記アクセプターストランドの濃度は10nM~10μMであってよい。
【0022】
1つの実施形態において、前記ドッキングストランド又は前記アクセプターストランドが核酸であるときに、前記ドッキングストランドに対して相補的な前記アクセプターストランドの塩基数は、8で以上あってよい。この実施形態では、前記ドッキングストランドに対して相補的な前記ドナーストランドの塩基数は6~12であってよい。
【0023】
1つの実施形態において、前記ドッキングストランド又は前記アクセプターストランドが核酸類縁体であるときに前記ドッキングストランドに対して相補的な前記アクセプターストランドの塩基数は少なくとも5であってよい。この実施形態では、前記ドッキングストランドに対して相補的な前記ドナーストランドの塩基数は3~9であってよい。
【0024】
1つの実施形態において、前記アクセプターストランド又は前記ドッキングストランドは、フレットペアを形成する2種以上の蛍光物質で標識されてよい。
【0025】
1つの実施形態において、前記別個のストランドは1種以上のドナー蛍光物質で標識されている1種以上のドナーストランドを含んでよく、かつ、前記ドッキングストランドは1種以上のアクセプター蛍光物質を含んでよい。
【0026】
1つの実施形態において、前記別個のストランドは1種以上のアクセプター蛍光物質で標識されている1種以上のアクセプターストランドを含み、かつ、前記ドッキングストランドは1種以上のドナー蛍光物質を含む。
【0027】
1つの実施形態において、前記タグストランドは2組以上のフレットペアを含んでよい。
【0028】
1つの実施形態において、前記フレットにより発生した蛍光シグナルは、下記の式で規定されるFRET効率によって測定されてよい。
FRET効率=(アクセプターから発せられた光の強度)/(ドナーから発せられた光の強度とアクセプターから発せられた光の強度の合計)
【0029】
1つの実施形態において、前記FRET効率の測定は光退色の前と後に、前記ドナー又は前記アクセプターから発せられた光の明度値を測定することを含んでよい。
【0030】
1つの実施形態において、前記フレットペアの間の間隔は、各フレットペアのFRET効率に影響を与えないように調整されてよい。前記フレットペアの間の間隔は、5nm以上であってよい。
【0031】
1つの実施形態において、前記蛍光物質間の距離に応じて識別されるフレット(FRET)効率の間の差を決定することにより2種以上のターゲット物質が同時に検知されてよい。
【0032】
1つの実施形態において、前記異なる種類の蛍光物質間のフレット(FRET)による発光スペクトルの間の差を決定することにより2種以上のターゲット物質が同時に検知されてよい。
【0033】
1つの実施形態において、前記方法は、前記蛍光シグナルを観測する領域の単位面積当たりの前記ターゲット物質の数から、前記試料中の前記ターゲット物質の濃度を決定することをさらに含んでよい。
【0034】
本開示の別の態様によると、ターゲット物質に特異的に結合し、かつ、ドッキングストランドと結合している1種以上の検出プローブを含み、前記ドッキングストランドが1種以上のドナー蛍光物質及び1種以上のアクセプター蛍光物質を含み、かつ、前記ドナー蛍光物質が励起されると前記ドナー蛍光物質と前記アクセプター蛍光物質との間のフレット(FRET)によって発光が起こる、ターゲット物質検出用キットが提供される。
【0035】
1つの実施形態において、前記タグストランドは、前記ドナー蛍光物質と前記アクセプター蛍光物質との間で隣接して形成されたフレットペアを2種以上含んでよい。
【0036】
本開示の別の態様によれば、(a)ターゲット物質に特異的に結合し、かつ、ドッキングストランドと結合している1種以上の検出プローブ、及び(b)前記ドッキングストランドに対して相補的に結合する1種以上の別個のストランドを含み、前記ドッキングストランド若しくは前記別個のストランドのいずれか又は両方が、少なくとも1種のドナー蛍光物質及び少なくとも1種のアクセプター蛍光物質で標識されており、かつ、前記ドナー蛍光物質が励起されると前記ドナー蛍光物質及び前記アクセプター蛍光物質の間のフレット(FRET)によって発光が起こる、ターゲット物質検出用キットが提供される。
【0037】
本開示の別の態様によれば、ターゲット物質としての核酸又は核酸類縁体のストランドに対して相補的に結合する1種以上の別個のストランドを含み、前記別個のストランドが少なくとも1種のドナー蛍光物質で標識されているドナーストランド及び少なくとも1種のアクセプター蛍光物質で標識されているアクセプターストランドを含み、かつ、前記ドナー蛍光物質が励起されると前記ドナー蛍光物質及び前記アクセプター蛍光物質の間のフレット(FRET)によって発光が起こる、ターゲット物質検出用キットが提供される。
【0038】
本開示のさらに別の態様によれば、ターゲット物質に特異的に結合し、かつ、タグストランドと結合している1種以上の検出プローブを含み、前記タグストランドが1種以上のドナー蛍光物質及び1種以上のアクセプター蛍光物質を含み、かつ、前記ドナー蛍光物質が励起されると前記ドナー蛍光物質及び前記アクセプター蛍光物質の間のフレット(FRET)によって発光が起こる、ターゲット物質検出用キットが提供される。
【0039】
1つの実施形態において、前記ターゲット物質を捕捉可能な基板をさらに含んでよい。1種以上の捕捉プローブは、前記ターゲット物質を捕捉するために前記基板上に固定化されていてよい。前記捕捉プローブは、前記タグストランドと結合していてよい。
【0040】
1つの実施形態において、前記ターゲット物質検出用キットは、前記検出プローブのタグストランド及び前記捕捉プローブのタグストランドと相補的に結合してフレットペアを形成するブリッジストランドをさらに含んでよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1a】FRET-PAINTの原理及び特性を示したのである。
【
図1b】FRET-PAINTの原理及び特性を示したのである。
【
図1c】FRET-PAINTの原理及び特性を示したのである。
【
図1d】FRET-PAINTの原理及び特性を示したのである。
【
図1e】FRET-PAINTの原理及び特性を示したのである。
【
図1f】FRET-PAINTの原理及び特性を示したのである。
【
図1g】FRET-PAINTの原理及び特性を示したのである。
【
図1h】FRET-PAINTの原理及び特性を示したのである
【
図1i】FRET-PAINTの原理及び特性を示したのである。
【
図1j】FRET-PAINTの原理及び特性を示したのである。
【
図1k】FRET-PAINTの原理及び特性を示したのである。
【0042】
【
図2a】DNA-PAINTとFRET-PAINTのイメージング速度を比較した結果を示す。
【
図2b】DNA-PAINTとFRET-PAINTのイメージング速度を比較した結果を示す。
【
図2c】DNA-PAINTとFRET-PAINTのイメージング速度を比較した結果を示す。
【
図2d】DNA-PAINTとFRET-PAINTのイメージング速度を比較した結果を示す。
【
図2e】DNA-PAINTとFRET-PAINTのイメージング速度を比較した結果を示す。
【0043】
【
図3a】FRET-PAINTの多重化性能を示す。
【
図3b】FRET-PAINTの多重化性能を示す。
【
図3c】FRET-PAINTの多重化性能を示す。
【
図3d】FRET-PAINTの多重化性能を示す。
【
図3e】FRET-PAINTの多重化性能を示す。
【
図3f】FRET-PAINTの多重化性能を示す。
【
図3g】FRET-PAINTの多重化性能を示す。
【
図3h】FRET-PAINTの多重化性能を示す。
【0044】
【
図4a】様々な濃度範囲のバイオマーカーを定量化した結果を示す。
【
図4b】様々な濃度範囲のバイオマーカーを定量化した結果を示す。
【
図4c】様々な濃度範囲のバイオマーカーを定量化した結果を示す。
【0045】
【
図5】ドナー及びアクセプターの各スペクトルの重複を示す。
【
図6】ドッキングストランドに結合したドナーストランド及びアクセプターストランドを示す。
【
図7】ドナー蛍光物質の発光スペクトル(実線)及びアクセプター蛍光物質の発光スペクトル(破線)を示す。
【
図8a】カメラで撮影されたアクセプター蛍光シグナルを示す。
【
図8b】シグナルの強度とノイズの強度とを比較したグラフである。
【
図9】本開示の1つの実施形態に係る複数のバイオマーカーの同時検出のためのキットを模式的に示す。
【0046】
【
図10】本開示の1つの実施形態に係るタグストランドに標識されたドナー及びアクセプターを模式的に示す。
【
図11】本開示の1つの実施形態に係る単分子顕微鏡を使用してイメージングする過程を示す。
【
図12】本開示の1つの実施形態に係るドナー及びアクセプターのFRET効率の測定を示す。
【
図13】本開示の1つの実施形態に係る2以上のドナー-アクセプターFRETペアで標識されているタグストランドを示す。
【
図14a】本開示の1つの実施形態に係る2以上のドナー-アクセプターFRETペアにおけるドナーとアクセプターの組合せを示す。
【
図14b】本開示の1つの実施形態に係る2以上のドナー-アクセプターFRETペアにおけるドナーとアクセプターの組合せを示す。
【
図14c】本開示の1つの実施形態に係る2以上のドナー-アクセプターFRETペアにおけるドナーとアクセプターの組合せを示す。
【
図15】本開示の1つの実施形態に係る異なる種類のバイオマーカーの検出を模式的に示す。
【0047】
【
図16】本開示の1つの実施形態に係る複数のバイオマーカーの同時検出のためのキットを模式的に示す。
【
図17】本開示の1つの実施形態による複数のバイオマーカーの同時検出のためのキットを模式的に示す。
【
図18】本開示の1つの実施形態による複数のバイオマーカーの同時検出のためのキットを模式的に示す。
【
図19】本開示の様々な実施形態による複数のバイオマーカーの同時検出のためのキットを模式的に示す。
【
図20】本開示の様々な実施形態による複数のバイオマーカーの同時検出のためのキットを模式的に示す。
【
図21】本開示の様々な実施形態による複数のバイオマーカーの同時検出のためのキットを模式的に示す。
【0048】
【
図22】本開示の1つの実施形態に係るN種類のバイオマーカーの同時検出のためのキットを模式的に示す。
【
図23】本開示の1つの実施形態に係るN種類のバイオマーカーの同時検出のためのキットを模式的に示す。
【
図24】本開示の1つの実施形態に係る複数のバイオマーカーの同時検出のためのキットを模式的に示す。
【
図25】本開示の1つの実施形態に係る複数のバイオマーカーの同時検出のためのキットを模式的に示す。
【0049】
【
図26】本開示の1つの実施形態に係るバイオマーカーの同時検出のためのキットを模式的に示す。
【
図27】本開示の1つの実施形態に係るマイクロRNAの検出のためのキットを模式的に示す。
【
図28】本開示の1つの実施形態に係る吸収スペクトル及び発光スペクトルのデータを示す。
【
図29】本開示の1つの実施形態に係る複数のバイオマーカーの同時検出の原理を模式的に示す。
【0050】
【
図30】本開示の1つの実施形態に係るドナーストランドが様々な濃度で記録された蛍光画像を示す。
【
図31】本開示の1つの実施形態に係る複数のバイオマーカーの同時検出のためのキットを例示的に示す。
【
図32】ドナーとアクセプターとの間の距離に応じた発光スペクトルの違いを測定した結果を示す。
【
図33】本開示の1つの実施形態に係る複数のバイオマーカーの同時検出のためのキットを例示的に示す。
【0051】
【
図34a】2種以上のアクセプターで標識されているドッキングストランドの発光スペクトルを測定した結果を示す。
【
図34b】2種以上のアクセプターで標識されているドッキングストランドの発光スペクトルを測定した結果を示す・
【
図34c】2種以上のアクセプターで標識されているドッキングストランドの発光スペクトルを測定した結果を示す
【
図35a】本開示の1つの実施形態に係る複数のバイオマーカーの同時検出のための方法を例示する。
【
図35b】本開示の1つの実施形態に係る複数のバイオマーカーの同時検出のための方法を例示的に示す。
【
図36a】本開示の幾つかの実施形態による複数のバイオマーカーの同時検出のためのキットを例示する。
【
図36b】本開示の幾つかの実施形態による複数のバイオマーカーの同時検出のためのキットを例示する。
【0052】
【
図37】
図36bに示されるドナーストランド及びアクセプターストランドを含む検出キットを使用して、バイオマーカーの種類を判別するための方法を例示する。
【
図38a】本開示の幾つかの実施形態に係る複数のバイオマーカーの同時検出のためのキットを例示する。
【
図38b】本開示の幾つかの実施形態に係る複数のバイオマーカーの同時検出のためのキットを例示する。
【
図39】本開示の1つの実施形態に係るマイクロRNAの検出のためのキットを例示する。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本明細書において使用される用語を以下に簡単に説明する。
【0054】
本明細書において「バイオマーカー」は、生命体の正常な状態又は病気の状態を判定するために使用可能な全ての生体物質を含むものとする。
【0055】
本明細書において「フレット」は、隣接する2つの蛍光物質の共鳴によってエネルギーが伝達されるメカニズムを意味する。具体的には、光によって励起(excited)された蛍光物質のエネルギーが隣接する別の蛍光物質に伝達される現象を指す用語であり、当業者が認識する通常のフレットの意味を含むものとする。
【0056】
本明細書において「FRET効率」は、光により励起(excited)された蛍光物質から別の隣接する蛍光物質へ移動したエネルギーの値を指す。FRET効率はこれらの蛍光物質間の距離に応じて変化する。この用語は当業者が理解するFRET効率の一般的な意味を含み得る。
本明細書において「フレット効率」は、光によって励起(excited)された蛍光物質のエネルギーが隣接する別の蛍光物質に伝達される現象を利用して、蛍光物質との間の距離に応じて異なるエネルギー伝達効率を値として示したことを意味し、当業者が認識する一般的なフレット効率の意味を含み得る。
【0057】
本明細書において「ドナー」は、光により励起されるとエネルギーを移転させる蛍光物質を指す。2種類以上の蛍光物質がお互いに対して隣接しているとき、比較的に短波長の光を吸収又は発光する蛍光物質を意味する。
【0058】
本明細書において「アクセプター」は、励起されたドナーから移転されたエネルギーを受け取る蛍光物質を指す。2種類以上の蛍光物質がお互いに対して隣接しているとき、比較的に長波長の光を吸収又は発光する蛍光物質を意味する。
【0059】
本明細書において「ストランド」は、生体高分子の鎖、又は生体高分子に似ている高分子の鎖を指す。生体高分子は、一本鎖構造又は二本鎖構造を有してよく、かつ、核酸、核酸類縁体、ポリペプチド、及び炭水化物を含むものとする。核酸はデオキシリボ核酸(DNA)及びリボ核酸(RNA)を含む。核酸類縁体はペプチド核酸(PNA)、ロックド核酸(LNA)、モルホリノ核酸(MNA)、グリコール核酸(GNA)、及びトレオース核酸(TNA)を含む。
【0060】
以下、添付図面を参照して、様々な実施形態を詳細に説明する。しかしながら、これらの実施形態を改変することができ、本出願の範囲はこれらの実施形態によって限定又は制限されない。全ての変更、等価物、及び代用物は、添付されている特許請求の範囲内に包含されることを理解されたい。
【0061】
本明細書において使用される用語は、単に説明を目的としており、限定として解釈されてはならない。本明細書において使用される場合、単数形の表現は、文脈から明確に別途指示されない限り複数形を同様に含むものとする。「含む」又は「有する」などの表現は、明細書に言及された特徴、数字、工程、動作、構成要素、成分、及び/又はそれらの組合せの存在を明示するが、1又は複数の他の特徴、数字、工程、動作、構成要素、成分、及び/又はそれらの組合せの存在又は付加を排除していないことをさらに理解されたい。
【0062】
別途定義されない限り、技術用語又は科学用語を含む本明細書において使用される全ての用語は、本技術分野の当業者が一般に理解するものと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書の中で定義されるこのような用語は、関連する技術分野での文脈上の意味と等しい意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書中で明確に定義されない限り、理想的的な意味又は過度に形式的な意味を有すると解釈されてはならない。
【0063】
別途言及されない限り、添付図面を参照しながら様々な実施形態を説明する中で同じ要素の説明の反復は省かれる。
【0064】
近年の単分子蛍光顕微鏡法の発展により個々の分子の観察が可能になってきた。単分子蛍光顕微鏡法は、バイオマーカー検出に適用されるとfg/ml範囲の感度を有し、その感度は既存の蛍光イメージング法の感度よりも約1000倍高い(Nature誌、第473巻、484~488頁、2011年)。一般的な蛍光イメージング法によると、蛍光シグナルを用いて異なる種類のバイオマーカーが識別されるように、観察予定の分子に蛍光物質が固定化される。それらの蛍光物質の色の違いに基づいて異なる種類のバイオマーカーが識別されるが、わずかに3~4種類の蛍光物質が一般的なイメージセンサで識別及び観察可能である。その結果、既存の技術の感度の約1000倍に相当するfg/ml範囲の感度を有する単分子蛍光顕微鏡法を使用することでわずかに3~4種類のバイオマーカーの検出が可能になる。
【0065】
DNA-PAINT法(Nature Methods誌、第11巻、313~318頁、2014年)を単分子蛍光顕微鏡法に適用することにより、この単分子蛍光顕微鏡法の高い感度を維持したまま様々なバイオマーカーの同時分析が可能になる。この集合技術によれば、蛍光物質以外のドッキングストランドと結合している検出抗体を分析物バイオマーカーに結合させ、しばらくの間(数秒以内)これらのドッキングストランドに結合し、かつ、解離するイメージャーストランド上に蛍光物質を標識として導入し、そしてそれらのイメージャーストランドがこれらのドッキングストランドに結合すると発生する蛍光シグナルを検出する。この様にして高い感度を維持したまま単色の蛍光物質で多くの種類のバイオマーカーを検出できる。
【0066】
しかしながら、DNA-PAINT法を使用する場合、イメージャーストランドがドッキングストランドに結合しているか否かに関係なく、全てのイメージャーストランドが蛍光シグナルを発するため、高いバックグラウンドノイズが生成される。したがって、これらのイメージャーストランドの濃度は数nM~数十nMに限定され、不都合なことに検出率が低くなる。
【0067】
そこで、本明細書に開示された一実施形態によると、単分子蛍光顕微鏡の高い感度を維持しながら、さまざまなターゲット物質を同時検出する方法であって、FRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer)に基づいたDNA-PAINT技術であるFRET-PAINT技術が提供される。FRETは、最初に励起されたドナー(doner)のエネルギーがアクセプター(acceptor)に移転される現象である。一般的に、前記ドナー物質は前記アクセプター物質と比較して短波長の光を発光する。この発光波長のスペクトルは前記アクセプターの吸収波長のスペクトルと重複(spectral overlap)する。エネルギー移動速度と移動効率は、前記ドナーの発光波長と前記アクセプターの吸収波長との間の重複の程度、前記ドナーの量子効率、前記ドナー及び前記アクセプターの遷移双極子の相対的配置、及び前記ドナーと前記アクセプターとの間の距離に依存する。
【0068】
例えば、FRET-PAINT技術によると、前記ドッキングストランドは、2つのDNA結合部位を有しており、1つはドナーストランドのためのものであり、他方はアクセプターストランドのためのものである。単分子の位置特定(single-molecule localization)のためには、前記アクセプターのFRETシグナルが使用される。前記アクセプターは直接的に励起されるのではなく、FRETにより励起されるため、数十倍~数百倍高いイメージャー(ドナー及びアクセプター)濃度の使用が可能であり、これによりDNA-PAINTと比較して数十倍~数百倍速いFRET-PAINTのイメージング速度が実証される。
【0069】
本開示の1つの態様によれば、ターゲット物質の検出方法が提供される。このターゲット物質の検出方法は、(a)ターゲット物質を含有する試料を基板上に導入すること、(b)ドッキングストランドと結合している検出プローブを前記ターゲット物質に特異的に結合させること、(c)前記ドッキングストランドと相補的に結合可能な1種以上の別個のストランドを導入し、前記ドッキングストランド若しくは前記別個のストランドのいずれか又は両方は、少なくとも1種のドナー蛍光物質及び少なくとも1種のアクセプター蛍光物質で標識されていること、及び(d)前記ドナー蛍光物質と前記アクセプター蛍光物質との間のフレット(FRET)により発生した蛍光シグナルを測定して前記ターゲット物質を検知すること、を含む。
【0070】
この方法の個々の工程を、以下に説明する。
【0071】
先ず、工程(a)ではターゲット物質を含有する試料を基板上に導入する。この基板は前記ターゲット物質を捕捉及び観察するための領域を提供する。この基板の構造は限定されない。例えば、この基板は平面状、球状、又は棒状の構造であってよい。あるいは、この基板は不規則な形状であってよい。この基板の材料は例えばガラス、石英、又はプラスチックであってよい。この基板はスライドグラス又はカバースリップであってよい。この基板は1番又は1.5番のカバースリップであることが好ましい。
【0072】
前記試料は、ターゲット物質を含有している限り特定の種類に限定されない。前記試料は、疾患を有することが疑われている動物又はヒトの個体から単離され、前記試料は、特に限定されないが、組織、血液、血清、血漿、唾液、粘液、及び尿からなる群より選択可能である。
【0073】
前記ターゲット物質は、目的の検出対象であれば特に制限されず、例えば、前記ターゲット物質は金属(Ca、Mg、Pb等)、金属イオン又は生体物質であってよい。これらの生体物質は、バイオマーカー、血液、血漿、血清、体液、タンパク質、ペプチド、核酸、細菌、ウイルス、小胞体、miRNA、エクソソーム、及び循環腫瘍細胞であってよい。前記ターゲット物質は、バイオマーカーであることが好ましい。
【0074】
本開示の技術は、細胞、組織、器官、及び他の生物試料の観察のために使用できる。特に、本開示の技術は、一回の検査で複数種の生体物質を検出し、迅速に病気を早期診断することができるという点で、バイオマーカー検出用に非常に有用に使用することができる。
【0075】
前記バイオマーカーは、特に限定されない。例えば、前記バイオマーカーは、生物学的処理過程、発病過程、及び治療用途のための薬理学的過程の測定又は評価を含む科学分野及び医療分野で通常使用されるバイオマーカーであってよい。
【0076】
前記バイオマーカーは、体液、例えば血液、唾液、及び尿から検出可能なポリペプチド、ペプチド、核酸、タンパク質、又は代謝物であってよく、具体的には、
AFP(alpha fetoprotein)、CA15-3、CA27-29、CA19-9、CA-125、カルシトニン(calcitonin)、カルレチニン(calretinin)、CEA(carcinoembryonic antigen)、CD34、CD99、MIC-2、CD117、クラモグラニン(chromogranin)、サイトケラチン(cytokeratin、various types:TPA、TPS、Cyfra21-1)、デスミン(desmin)、EMA(epithelial membrane antigen)、Factor VIII、CD31、FL1、GFAP(glial fibrillary acidic protein)、GCDFP-15(gross cystic disease fluid protein)、HMB-45、hCG(human chorionic gonadotropin)、免疫グロブリン(immunoglobulin)、インヒビン(inhibin)、ケラチン(keratin、various types of keratin)、白血球マーカー(lymphocyte marker)、MART-1(Melan-A)、 Myo D1、MSA(muscle-specific actin)、ニューロフィラメント(neurofilament)、NSE(neuron-specific enolase)、PLAP(placental alkaline phosphatase)、PSA(prostate-specific antigen)、PTPRC(CD45)、S100 protein、SMA(smooth muscle actin)、シナプトフィシン(synaptophysin)、TK(thymidine kinase)、Tg(thyroglobulin)、TTF-1(thyroid transcription factor-1)、M2-PK、ビメンチン(vimentin)、インターロイキン(interleukin)、CD24、CD40、インテグリン(integrin)、シスタチン(cystatin)、インターフェロン(interferon)、TNF(tumor necrosis factor)、MCP、VEGF、GLP、ICA、HLA-DR、ICAM、EGFR、FGF、BRAF、GFEB、FRS、LZTS、CCN、ムチン(mucin)、レクチン(lectin)、アポリポタンパク質、チロシン、神経細胞接着分子様タンパク質、ファイブロネクチン、ブドウ糖、尿酸、炭酸脱水酵素、又はコレステロールなどであってよい。
【0077】
前記試料は、バイオマーカー非含有溶液で希釈されてよい。前記試料中の前記バイオマーカーの濃度はバイオマーカーの種類に応じてfg/mlからmg/mlまで大きく変化してよい。正確な数のバイオマーカー分子がイメージセンサによって検出されるように様々な比率で前記試料を希釈することが好ましい。同試料を様々な比率で希釈することが好ましく、1:10~1000の重量比率で希釈することが最も好ましい。
【0078】
前記ターゲット物質を前記基板に直接的に付着させてよい。あるいは、前記基板に付着している捕捉プローブを介して前記ターゲット物質を前記基板上に導入してもよい。この基板は抗原、抗体、及び蛍光物質などの望ましくない物質が基板表面に付着しないように適切な重合体で被覆されてよい。この重合体は例えばポリエチレングリコール(PEG)又はアクリルアミドであってよい。
【0079】
前記捕捉プローブは、前記ターゲット物質に特異的に結合して前記ターゲット物質を前記基板上に固定化する。前記捕捉プローブは、抗体又はアプタマーであってよい。例えば、前記捕捉プローブはバイオマーカーに特異的に結合可能である前記バイオマーカーの捕捉用の捕捉抗体であってよい。これらの捕捉抗体の表面にビオチン(biotin)を導入し、かつ、ビオチンに結合可能なアビジン(avidin)、ニュートラアビジン(neutravidin)又はストレプトアビジン(strepavidin)を前記基板上に導入することにより、これらの捕捉抗体を前記基板に付着させることができる。
【0080】
例えば、短時間で簡便な測定のために、捕捉抗体の使用を必要とせずに、前記検出対象のバイオマーカーを基板表面に直接的に付着させてよい。あるいは、測定結果の正確性をさらに高めるために、基板表面上に固定化された捕捉抗体に抗原抗体反応を介して前記バイオマーカー分子を付着させてもよい。
【0081】
前記バイオマーカーを基板表面に直接的に付着させる場合、例えば、カバースリップにビーズ溶液を塗布し、かつ、前記試料に相当する細胞をその基板の表面上で培養及び固定化する。捕捉抗体をpH9.5で0.06Mの炭酸緩衝溶液又は重炭酸緩衝溶液で希釈し、かつ、この希釈物を前記基板と所定の温度、所定の時間にわたって接触させることによりこれらの捕捉抗体を前記基板に付着させてよい。その後、前記基板を生試料又は処理済み試料で処理する。前記基板に吸着した捕捉抗体は前記試料中の前記バイオマーカーと複合体を形成する。これらの複合体をツイーン20などの緩衝液又は蒸留水などの洗浄剤で洗浄して非特異的に結合した抗体又は混入汚染物質を除去する。
【0082】
工程(b)では、ドッキングストランド(docking strand)と結合している検出プローブを前記ターゲット物質に特異的に結合させる。これらの検出プローブは、抗体又はアプタマーであってよい。例えば、前記分析物バイオマーカーに特異的に結合可能な検出抗体に前記ドッキングストランドをタグ付けしてよい。
【0083】
特に、前記捕捉抗体及び前記検出抗体について言及するために、本明細書において使用される「抗体」という用語は、モノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二特異性抗体)、及び抗体断片(例えば所望の生物活性を示す抗体の可変領域及び他の領域)を含み得る。これらの抗体は両方のモノクローナル抗体とポリクローナル抗体の両方、キメラ抗体、ヒト化抗体、及びヒト抗体を含むものとされる。これらの抗体はFab、F(ab)2、Fab’、F(ab’)2、Fv、ディアボディ(diabody)、ナノボディ(nanobody)、及びscFvを含むことが好ましい。これらの抗体は、scFv、Fab、ナノボディ、又は免疫グロブリン分子であることがより好ましい。
【0084】
タンパク質分子を核酸分子に結合させるための当技術分野において知られている一般的な方法、例えば2つの異なる反応基を有する化合物、例えばNHSエステル基がアミン(amin)と反応し、かつ、マレイミド(maleimide)基がチオールと反応するSMCC(succinimidyl 4-(N-maleimidomethyl)cyclohexane-1-carboxylate)を使用する核酸分子とタンパク質分子との間の結合反応に基づく方法によって前記ドッキングストランドを前記検出プローブとしての抗体又はアプタマーに結合させることができる。チオール基含有ドッキングストランドをSMCCと反応させ、かつ、生じた産物を前記検出抗体のN末端アミン基又はリシンのアミン基と反応させることにより前記ドッキングストランドを前記検出抗体に結合させることができる。
【0085】
測定の精度面では、前記検出抗体は一次抗体であることができ、前記ドッキングストランドがこれらの一次抗体に結合することができる。一方、測定速度の迅速性の面では、前記検出抗体は、一次抗体と二次抗体との組合せであることができ、前記ドッキングストランドがこれらの二次抗体に結合することができる。
【0086】
前記一次抗体は、バイオマーカーに特異的に結合する免疫グロブリン分子であってよく、それらの種類は限定されない。以下の実施例では、抗チューブリン(anti-tubulin)抗体、抗-Tom20(anti-Tom20)又は抗-Th20(anti-Th20)抗体を前記一次抗体として使用した。
【0087】
前記二次抗体は、バイオマーカーに結合した前記一次抗体に結合する抗体のことであり、それらの種類は限定されない。以下の実施例では、ロバ抗ウサギIgG(Donkey anti-rabbit IgG)抗体又はロバ抗ラットIgG(donkey anti-rat IgG)抗体を前記二次抗体として使用した。
【0088】
工程(c)では前記ドッキングストランドに対して相補的に結合可能な少なくとも1つの別個のストランドを前記ドッキングストランドに導入する。
【0089】
前記ドッキングストランドか前記別個のストランドのどちらか、又は両方を、少なくとも1種類のドナー蛍光物質及び少なくとも1種類のアクセプター蛍光物質で標識する。
【0090】
前記別個のストランドは、前記ドッキングストランドに対して相補的に結合可能であり、かつ、それらのストランドに結合している蛍光物質の種類に応じて、ドナーストランド、アクセプターストランド(acceptor strand)、及びフレットストランド(fret strand)
に分類可能である。前記ドナーストランドは、ドナーとして作用する少なくとも1種類の蛍光物質で標識されてよく、前記アクセプターストランドは前記ドナー蛍光物質から移転されたエネルギーによって励起され得るアクセプターとして作用する少なくとも1種類の蛍光物質で標識されてよい。前記フレットストランドはフレットペアを形成するドナー蛍光物質とアクセプター蛍光物質の両方を含んでよい。
【0091】
1つの実施形態において、前記別個のストランドは1種以上のドナー蛍光物質で標識されている1種以上のドナーストランド及び1種以上のアクセプター蛍光物質で標識されている1種以上のアクセプターストランドを含んでよい。
【0092】
FRETは、2種類の異なる蛍光物質がお互いに対して非常に近い位置にあるときに一方の蛍光物質(ドナー)のエネルギーが他方の蛍光物質(アクセプター)に移転される現象である。この現象に基づいてターゲット物質を効果的に検出することが可能である。前記アクセプターが発光するためには前記アクセプターは前記ドナーから移転されたエネルギーを受け取る必要がある。このエネルギー移動は前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドが前記ドッキングストランドに対して同時に結合しているときにだけ起こる。したがって、前記アクセプター由来の蛍光シグナルは前記ターゲット物質の位置を反映する。
【0093】
図1bは
図1aに示されるドナーストランドとアクセプターストランドを使用するFRET-PAINT技術に基づくターゲット物質検出の原理を示している。フレット(FRET)が起こるとエネルギーが前記ドナーから前記アクセプターに移転され、その結果として前記アクセプターが発光して明るく見える一方で前記ドナーが暗くなる。
【0094】
この技法によると、DNA-PAINTのイメージャーストランドは、ドナーストランドとアクセプターストランドに分けられる。前記ドナーストランド上に標識として導入されている蛍光物質がλexの光により励起(excitation)されると観察される前記ドナー由来の蛍光シグナルは光学フィルターによって除去され、結果として前記アクセプター由来の蛍光シグナルが観察可能になる。すなわち、全てのドナー蛍光物質が光を発光し、その光が光学フィルターによって除去され、そしてアクセプター蛍光物質が直接的にλexの光により励起されるのではないことでバックグラウンドノイズが非常に低くなる。前記ドナーが原因のバックグラウンドノイズは無視できるほど低いのでDNA-PAINTと異なり前記ドナーストランドの濃度を数百nMもの高い濃度にまで上昇させることができ、数百倍速く測定が達成される。
【0095】
1つの実施形態において、前記別個のストランドは1種以上のアクセプター蛍光物質で標識されている1種以上のアクセプターストランドを含み、前記ドッキングストランドは1種以上のドナー蛍光物質を含んでよい。蛍光物質としての量子ドットが前記ドッキングストランド内に導入されることが好ましい。この場合、蛍光タンパク質(fluorescent protein)、有機フルオロフォア(organic fluorophore)等が導入されたときと違って光退色(photobleaching)が起こらない。したがって、ドナー蛍光物質が原因の光退色の問題を解決するためにドナーストランドを導入する必要が無く、ドナーストランドの使用が原因のバックグラウンドノイズが低減し、結果としてシグナルノイズ比が高くなる。さらに、構成が簡単になり、これは経済的な視点から利点であり、分析過程を簡単にすることができる。
【0096】
前記ドッキングストランド(docking strand)及び前記別個のストランドを含むこれらの鎖は核酸、ポリペプチド、又は炭水化物であってよい。これらの鎖は前記ドッキングストランドが前記別個のストランドに対して相補的に結合し得る核酸であり、容易に合成され、高価格ではなく、かつ、蛍光物質の取り付けが容易な所望の部位を提供することが好ましい。これらの核酸は前記別個のストランドに対して相補的に結合可能なDNA、RNA、PNA、LNA、MNA、GNA、及びTNAからなる群より選択可能である。これらの核酸は一本鎖(single strand)でも二本鎖(double strand)でもよい。
【0097】
前記ドッキングストランドは、前記検出プローブに結合しており、前記イメージャーストランド、前記ドナーストランド、及び前記アクセプターストランドは、前記ドッキングストランドに対して相補的に結合できる。DNA-PAINT技術が用いられるときに、前記イメージャーストランドが使用される。FRET-PAINT法が用いられるときに、前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドが使用される。
【0098】
前記イメージャーストランドは、バイオマーカーの種類に応じて異なる配列を有することができる。例えば、2本のイメージャーストランドが2種類の異なるバイオマーカーに結合する場合、それらの鎖の配列は少なくとも1つの塩基について異なっており、これはそれらの異なる種類のバイオマーカーに結合したイメージャーストランドの配列がそれらのバイオマーカーの種類の数と無関係に異なっていることを意味している。
【0099】
1つの実施形態において、前記ドナーストランド及び前記アクセプターストランドはバイオマーカーの種類に応じて異なる配列を有する。例えば、異なる配列を有するN本のドナーストランドとN本のアクセプターストランドを使用することが、N種類の異なるバイオマーカーの検出に必要である。すなわち、前記ドナーストランドの配列は少なくとも1つの塩基について異なっており、前記異なる種類のバイオマーカーに結合する前記アクセプターストランドの配列も少なくとも1つの塩基について異なっており、そして全てのドナーストランドとアクセプターストランドが異なる配列を有している。
【0100】
1つの実施形態において、前記アクセプターストランドは前記バイオマーカーの一部又は全てと同じ配列を有していてよく、前記ドナーストランドの配列は前記アクセプターストランドの配列と異なっていてよく、かつ、バイオマーカーの種類に応じて互いに異なっていてよい。例えば、2種類の異なるバイオマーカーを検出しようとするとき、それらの異なるバイオマーカーに結合するドナーストランドの配列は少なくとも1つの塩基について異なっていてよく、それらのバイオマーカーの検出に同じ配列を有するアクセプターストランドを使用してよい。
【0101】
1つの実施形態において、前記ドナーストランドは前記バイオマーカーの一部又は全てと同じ配列を有していてよく、前記アクセプターストランドの配列は前記ドナーストランドの配列と異なっていてよく、かつ、バイオマーカーの種類に応じて互いに異なっていてよい。例えば、2種類の異なるバイオマーカーを検出しようとするとき、それらの異なるバイオマーカーに結合するアクセプターストランドの配列は少なくとも1つの塩基について異なっていてよく、それらのバイオマーカーの検出に同じ配列を有するドナーストランドを使用してよい。
【0102】
前記ドッキングストランドは前記ドナーストランドの配列と前記アクセプターストランドの配列に対して相補的な配列を含んでよい。
【0103】
これらのストランドは、様々な構造を有してよい。例えば、これらのストランドは、当技術分野において知られている構造を有してよい。あるいは、これらのストランドに前記蛍光物質を取り付けられるように官能基が導入されてもよい。これらのストランドに前記蛍光物質を前もって付着させてもよい。これらのストランドに官能基が導入されると、これらのストランドの所望の部位に所望の蛍光物質を付着させることが可能になる。それぞれのストランドに同じ官能基でも異なる官能基でも結合させてよい。前記ドナーと前記アクセプターとの間の距離及びFRET効率は、前記ドナーと前記アクセプターが結合するこれらの鎖の部位に応じて変化し得る。これらの性質から前記ターゲット物質の多重検出が可能になる。
【0104】
前記蛍光物質はUV、可視又は赤外光、電気エネルギー、又は熱エネルギーなどの外部エネルギーによって励起され、そのエネルギーが光に変換される。前記蛍光物質の例には有機及び無機フルオロフォアが挙げられる。これらの有機フルオロフォアの例にはローダミン(Rhodamine)、アレクサ(Alexa)フルオロ色素、フルオレセイン(fluorescein)、FITC(fluorescein isothiocyanate)、FAM(5-carboxy fluorescein)、ATTO色素、BODIPY、CF色素、シアニン(Cy)色素、DyLightフルオロ、及びテキサスレッド(Texas Red)が挙げられる。前記無機フルオロフォアは、例えば量子ドットであってよい。
【0105】
前記ドナーストランド(donor strand)に結合されている前記蛍光物質の発光スペクトルのピーク波長は、前記アクセプターストランド(acceptor strand)に結合されている前記蛍光物質の吸収スペクトルのピーク波長よりも短い。
【0106】
ドナーアクセプター間の関係における2種類の蛍光物質間のFRETシグナルの強度はそれらの2種類の蛍光物質間の距離と相関する。例えば、各DNA鎖は、各々がA、T、G、及びCを含む4種類の異なる塩基のうちの1つ、1つの糖、及び1つのリン酸から構成されているヌクレオチドが直鎖状に配置されたものである。2本の鎖の塩基はお互いに対して相補的に結合する。各ヌクレオチドの塩基、糖、及びリン酸のうちのいずれか1つに所望の官能基又は蛍光物質を結合させてよい。DNA二重鎖中のこれらの2つの隣接する塩基の間の距離は0.34nmであるので、フレットペアの距離は非所に精密に制御可能である。間にM塩基が存在する2種類の異なる蛍光物質で一本鎖DNAを標識することが望ましいとき、特定の塩基上にアミン基がタグ付けされ、その特定の塩基からM塩基離れている位置にある塩基上にチオール(sulfhydryl;SH)基がタグ付けされる。その後、前記アミン基と反応するNHSエステル基が付いた蛍光物質A及び前記チオール基と反応するマレイミド基が付いた蛍光物質BとそのDNAを反応させてそのフレットペアを標識する。異なる反応基の使用により3種類以上の蛍光物質を用いる標識が可能になる。例えば、DNAの特定の位置にアルデヒド基が取り付けられ、そのアルデヒド基と反応するヒドラジド基が付いた蛍光物質CがそのDNAに取り付けられる。
【0107】
前記ターゲット物質と前記検出又は捕捉プローブとの間の特異的な結合反応は、サンドイッチELISA又は特異的アプタマー(aptamer)結合などの免疫反応に基づく結合により進行し得る。
【0108】
後続の工程(d)では、前記ドナー蛍光物質と前記アクセプター蛍光物質との間のフレット(FRET)により発生した蛍光シグナルを測定することで前記ターゲット物質を検知する。フレット(FRET)による前記蛍光シグナルの測定は、発光スペクトルの全体又は一部を測定する方法であることができる。例えば、前記ターゲット物質がFRET効率によって識別されるときには、各蛍光物質のスペクトルの一部(主にピーク)だけが測定される。前記ターゲット物質がスペクトル形状によって識別されるときにはスペクトルの全体が測定されてよい。
【0109】
工程(d)は、工程(c)において発生した前記蛍光シグナルを検出することを含む。前記蛍光シグナルは前記イメージャーストランドが前記ドッキングストランドに結合したとき、又は前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドが前記ドッキングストランドに対して同時に結合したときに発生し得る。具体的には、前記蛍光シグナルは前記イメージャーストランドが所定の時間にわたって前記ドッキングストランドに結合したままであるとき、又は前記ドッキングストランドのために前記アクセプターストランドに結合されている前記アクセプター蛍光物質に対して前記ドナーストランドに結合されている前記ドナー蛍光物質が所定の時間にわたって非常に近い位置にあるときに発生し得る。前記蛍光シグナルは高感度イメージセンサ(例えばEMCCD、sCMOS、又はiCMOS)を使用して検出され得る。
【0110】
1つの実施形態において、ターゲット物質の検出方法は、前記ターゲット物質の検知後に前記ドナーストランド及び/又は前記アクセプターストランドを取り除き、取り除かれた前記ドナーストランド及び/又は前記アクセプターストランドとは異なるドナーストランド及び/又はアクセプターストランドを使用して工程(d)を繰り返すことで、その他のターゲット物質を検知することをさらに含んでよい。前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドとを完全に取り除いた後に、異なるストランドの組合せを使用してよい。あるいは、前記ドナーストランドか前記アクセプターストランドのどちらかが安定的に前記ドッキングストランドに結合し、除去されずに残っていてもよい。それらの除去されていないドナーストランド又はアクセプターストランドは、共通のストランドとして使用され、他方の不安定に結合しているストランドは取り除かれる。
【0111】
前記方法は、多重検出用に異なる配列のストランドの使用に基づいている。したがって、ドッキングストランドに対して相補的に結合するドナーストランド(又はアクセプターストランド又はドナーストランドとアクセプターストランドの両方)をN回付加し、続いて反復洗浄することによりN種類の標的が検出可能である。例えば、前記複数のバイオマーカーは、それらのバイオマーカーの種類の数と同じ回数だけ工程(c)と工程(d)とを繰り返すことにより検出され得る。蛍光物質が結合しているドナーストランド(donor strand)とアクセプターストランド(acceptor strand)がドッキングストランドに結合すると発生する前記蛍光シグナルを検出する。その後、結合したストランドを除去し、異なるストランドを使用して同じ手順を繰り返し、それにより生じた蛍光シグナルを検出する。この手順を数回、好ましくはバイオマーカーの種類の数と同じ回数だけ繰り返す。例えば、9塩基からなるドナーストランドは49(=262144)通りの配列を有し得る。これは、人体内のすべてのタンパク質の数よりも多いため、すべてのバイオマーカーの異なる塩基配列のドッキングストランドとアクセプターストランドとを割り当てることにより、すべてのバイオマーカーを順次測定することができる。
【0112】
ドナー蛍光物質とアクセプター蛍光物質との間のFRET反応は様々な技術によって測定可能である。
【0113】
蛍光シグナルが発生するとその蛍光シグナルは回折現象のために実際の大きさよりもずっと大きく見える。したがって、2つのターゲット物質が基板上でお互いに対して非常に近い位置にあり、かつ、蛍光シグナルを同時に発光するとき、点状の発光領域が重なり合い、蛍光シグナルの正確な測定が不可能になる。
【0114】
1つの実施形態において、前記ドッキングストランドは前記アクセプター蛍光物質で標識されても前記アクセプターストランドと結合してもよい。この実施形態では、前記バイオマーカーは、前記ドナーストランドが前記ドッキングストランドに結合したときに発生した前記蛍光シグナルのFRET効率又は発光スペクトルを測定することにより検出され得る。前記ドナーストランドは全てのドッキングストランドに1回又は複数回結合する。したがって、前記ドナーストランドが前記ドッキングストランドに結合するときはいつでもFRET効率又は発光スペクトルが測定される必要がある。したがって、比較的に全てのバイオマーカーを検出するために長い時間(数十秒~数分)が必要になるが、2種類のバイオマーカーはお互いに対して非常に近くに存在するにも関わらず識別可能である。お互いに対して非常に近い位置にある2種類の蛍光物質が同時に発光するとき、輝点が二重になっている1つの光点だけがカメラで観察され、前記蛍光物質のFRET効率の識別が不可能になる。対照的に、2種類の蛍光物質が時間的に間隔を空けて連続的に発光するとき、各光点の正確な位置及びFRET効率を測定することが可能であり、その結果として2種類のバイオマーカーが検知可能である。さらに、1本のドッキングストランドにおいて幾つかのFRET効率が測定可能であり、このことは多重検出にとって有利である。幾つかのFRET効率を有する蛍光物質が同時に発光する場合、それらのFRET効率を個々に決定することはできない。
【0115】
1つの実施形態において、前記ドッキングストランド上に前記ドナー蛍光物質と前記アクセプター蛍光物質を標識として導入している状態、又は前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドの両方が前記ドッキングストランドに結合している状態で、前記ドナーストランドが励起された後に蛍光シグナルを測定してよい。前記ドナーが励起されるとすぐに全てのフルオロフォアが発光するため、短い時間で蛍光シグナルを測定することが可能である。しかしながら、前記バイオマーカーの濃度が上昇すると共に前記フルオロフォア間の距離が減少するときに点状の発光領域が重なり合い、蛍光シグナルを正確に測定することが困難になる。さらに、1種類のバイオマーカーについて幾つかのFRET効率を測定することはできず、検出され得る前記バイオマーカーの数が減少する。しかしながら、前記バイオマーカーは発光スペクトルの形状によって識別されるため、前記バイオマーカーの多重検出には問題が無い場合がある。
【0116】
本開示のその他の態様は、(a)ターゲット物質に特異的に結合し、かつ、ドッキングストランドと結合している1種以上の検出プローブ、及び(b)前記ドッキングストランドに対して相補的に結合する1種以上の別の巣津ランドを含むターゲット物質検出用キットを提供する。前記ドッキングストランド若しくは前記別個のストランドのいずれか又は両方が、少なくとも1種のドナー蛍光物質及び少なくとも1種のアクセプター蛍光物質で標識されており、前記ドナー蛍光物質が励起されると前記ドナー蛍光物質と前記アクセプター蛍光物質との間のフレット(FRET)によって発光が起こる。
【0117】
1つの実施形態において、前記キットは、前記ターゲット物質を捕捉できる基板をさらに含んでよい。前記ターゲット物質以外の物質の前記基板への非特異的結合を防止するため、又は前記基板上への前記ターゲット物質の付着を促進するために適切な被覆層を前記基板上に導入してもよいし、前記基板の表面を改変してもよい。前記ターゲット物質を前記基板上に直接的に付着させてよい。あるいは、前記基板に前もって付着させた捕捉プローブを用いた捕捉により前記ターゲット物質を導入してもよい。
【0118】
1つの実施形態において、前記キットは、(a)1種以上のドッキングストランドと結合している検出抗体、及び(b)1種以上の蛍光物質標識ドナーストランドと蛍光物質標識アクセプターストランドを含む。前記キットは、これらのドッキングストランドと結合している検出抗体がバイオマーカーに結合し、かつ、これらのドッキングストランドがこれらのドナーストランドとアクセプターストランドに結合すると発生するシグナルを検出する。
【0119】
前記キットは、(i)基板、(ii)捕捉抗体、(iii)ドッキングストランドと結合している、又は結合していない一次検出抗体、及びドッキングストランドと結合している二次検出抗体、並びに(iv)ドナーストランド及びアクセプターストランドを含んでよい。前記キットは、基板、捕捉抗体、ドッキングストランドと結合している一次検出抗体、ドナーストランド、及びアクセプターストランドから構成されることが好ましい。
【0120】
前記キットはバイオマーカー検出用のインビトロ診断用製品であってよい。例えば、前記キットは学術研究使用限定(RUO)キット、臨床研究使用限定(IUO)キット、又はインビトロ診断用(IVD)キットであってよい。
【0121】
本開示の別の態様は、試料中の前記ターゲット物質としての核酸又は核酸類縁体を検出するための方法を提供する。この方法は(a)ターゲット物質としての核酸又は核酸類縁体を含有する試料を基板上に導入すること、(b)前記ターゲット物質のストランドに対して相補的に結合可能な1種以上の別個のストランドを導入し、前記ターゲット物質のストランド若しくは前記別個のストランドのいずれか又は両方は、少なくとも1種のドナー蛍光物質及び少なくとも1種のアクセプター蛍光物質により標識されていること、及び(c)前記ドナー蛍光物質と前記アクセプター蛍光物質との間のフレット(FRET)により発生した蛍光シグナルを測定して、前記ターゲット物質を検知することを含む。
【0122】
この態様では、ターゲット物質として核酸又は核酸類縁体を使用することにより、上述の態様と異なり、ドッキングストランドの必要性が回避されている。これらのターゲット物質は、RNA、マイクロRNA(miRNA)、無細胞性DNA(cfDNA)若しくは循環性遊離DNA、又は循環性腫瘍DNA(ctDNA)であることが好ましく、これらのターゲット物質は生物の正常な状態又は病気の状態を判定するために使用可能である。
【0123】
1つの実施形態において、ターゲット物質の検出方法は、(a)対象由来の試料中に存在する1種以上の核酸を基板表面に付着させること、(b)前記核酸をドナーストランド及びアクセプターストランドに結合させること、及び(c)工程(b)において発生した蛍光シグナルを検出することを含んでよい。
【0124】
1つの実施形態において、蛍光シグナルの検出後に、結合されたドナーストランド及びアクセプターストランドが取り除かれ、異なるイメージャーストランド又は異なる組合せのドナーストランドとアクセプターストランドを、核酸に結合させて、そして検出しようとする核酸の種類数と同じ回数だけ工程(b)と工程(c)が繰り返される。
【0125】
前記各工程を具体的に説明する。
工程a)では、対象から採取された試料中に存在する1種以上の核酸を基板表面に付着させる。前記核酸は、バイオマーカーとして機能することができ、検出対象となり得る核酸を示す。これらの核酸は、ノンコーディングRNA(Non-cording RNA)であることが好ましい。ノンコーディングRNAは、特定のタンパク質のアミノ酸をコードしていない種類のRNAである。遺伝子配列の翻訳に関わるmRNAと異なり、ノンコーディングRNAは様々な形態で存在し、mRNAの副産物若しくは分解産物から、又は別個の転写過程を介して産生され得る。ノンコーディングRNAは染色体の活性又はタンパク質の発現の制御に役割を果たすことが知られている。これらの検出対象となるRNAは、miRNA、snRNA、snoRNA、aRNA、siRNA、piRNA、exRNA、及びscaRNAなどの低分子RNAを含み、マイクロRNAであることが好ましい。
【0126】
マイクロRNA(Micro RNA, miRNA)は、約22塩基から成る非発現性小RNA分子である。miRNAはRNAサイレンシング及び転写の後の遺伝子発現の制御に関与している。miRNAは血液及び尿などの多くの体液中に見られ、それらのレベルは様々な疾患によって変化する。これらの理由のため、miRNAはバイオマーカーとして注目を浴びている。
【0127】
ターゲット物質が核酸である場合、核酸は抗原抗体反応による捕捉が不可能であるため、本開示では、これらの検出しようとする核酸の一部分に対して相補的な配列を有する捕捉プローブを基板上に固定化し、そしてこれらの捕捉プローブに対して前記核酸を相補的に結合させることにより、これらの検出しようとする核酸を基板表面に付着させる。前記試料は核酸が含まれていない溶液で希釈されてよい。前記試料中の前記核酸の濃度は前記核酸の種類に応じて大きく変化してよい。したがって、前記試料はイメージセンサによって適切な数の前記核酸分子が検出されるように様々な比率で希釈されてよい。
【0128】
次の工程b)では、前記核酸にドナーストランド(donor strand)及びアクセプターストランド(acceptor strand)を結合させる。前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドは、前記捕捉プローブに対して相補的に結合していない前記核酸の一本鎖部分に対して相補的に結合できるようにデザインされている。前記捕捉プローブ、前記ドナーストランド、及び前記アクセプターストランドは、DNA鎖、RNA鎖、PNA鎖、及びLNA鎖からなる群より各々選択される。
【0129】
次の工程(c)では、工程(b)において発生した蛍光シグナルを検出する。前記蛍光シグナルは、前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドが、前記捕捉プローブに対して相補的に結合していない前記核酸の一本鎖部分に対して同時に結合すると発生する。より具体的には、前記蛍光シグナルは前記イメージャーストランドが所定の時間にわたって前記捕捉プローブに対して相補的に結合していない前記核酸の一本鎖部分に結合したままであるとき、又は前記核酸のために前記アクセプターストランド上に標識として導入されている前記アクセプター蛍光物質に対して前記ドナーストランド上に標識として導入されている前記ドナー蛍光物質が所定の時間にわたって非常に近い位置にあるときに発生し得る。前記蛍光シグナルは、高感度イメージセンサ(例えばEMCCD、sCMOS、又はiCMOS)を使用して検出され得る。
【0130】
本開示の別の態様は、試料中のターゲット物質としての核酸又は核酸類縁体を検出するためのターゲット物質検出用キットを提供する。このターゲット物質検出用キットは、ターゲット物質としての核酸又は核酸類縁体のストランドに対して相補的に結合する1種以上の別個のストランドを含む。これらの別個のストランドは、少なくとも1種類のドナー蛍光物質で標識されているドナーストランド及び少なくとも1種類のアクセプター蛍光物質で標識されているアクセプターストランドを含む。このドナー蛍光物質が励起されるとこれらのドナー蛍光物質とアクセプター蛍光物質との間のフレット(FRET)によって発光が起こる。
【0131】
1つの実施形態において、ターゲット物質検出用キットは、蛍光物質が結合されている、ドナーストランド及びアクセプターストランドを1種以上含み、かつ、前記イメージャーストランド、又は前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドがターゲット物質に結合すると発生するシグナルを検出する。
【0132】
1つの実施形態において、前記キットは板上で前記核酸を捕捉できる基板をさらに含んでよい。
【0133】
1つの実施形態において、検出対象核酸の一部分に対して相補的な配列を有する捕捉プローブが基板上に固定化されてよい。あるいは、捕捉プローブを基板表面に取り付けられるように基板を表面修飾してよい。
【0134】
以下の実施例では、FRET-PAINTが、従来のDNA-PAINTよりも有利であることが分かった。
【0135】
FRET-PAINTの顕微鏡観察が可能かを確認するために、石英の表面にドッキングストランドを固定した後、蛍光物質が結合されたドナーストランドとアクセプターストランドを注入し、その後で単分子像を記録し、その結果として明確な蛍光強度を確認した(実施例1-1及び
図1c参照)。
【0136】
また、2組のFRETペア(Cy3-Cy5とAlexa488-Cy5)を使用して同じ実験を実施した。その結果、Alexa488-Cy5のFRETペア(FRET pair)はドナーストランドとアクセプターストランドとの間の間隔が2ヌクレオチドであるときに、Cy3-Cy5のFRETペアはドナーストランドとアクセプターストランドとの間の間隔が6ヌクレオチドであるときに、蛍光シグナルが最も高いことを確認した(実施例1-1及び
図1d参照)。
【0137】
以下の実施例では、超高解像度蛍光像を評価し、様々なDNA濃度でのDNA-PAINTとFRET-PAINTのシグナルノイズ比(SNR)を比較した。その結果、DNA-PAINTについてはDNA濃度が5nM以上のとき、FRET-PAINTについてはDNA濃度が100nM以上のときにノイズが単分子像に発生し、FRET-PAINTについてはDNA-PAINTと比較してより高いイメージャー濃度で同じSNRが得られることを確認した(実施例1-1及び
図1e~
図1k参照)。
【0138】
ドッキングストランドと結合している抗チューブリン抗体を用いて細胞を免疫染色し、DNA-PAINTを用いて微小管を観察し、そしてFRET-PAINTを用いて同じ領域中の微小管を画像撮影した。また、DNA-PAINTとFRET-PAINTのイメージング速度を定量及び比較し、その結果としてDNA-PAINTについては合計30分のイメージング時間の間に10Hzの速度で画像が記録され、かつ、FRET-PAINTについては合計60秒のイメージング時間の間に10Hzの速度で画像が記録され、FRET-PAINTのイメージング速度がDNA-PAINTのイメージング速度よりも速いことが確認された(実施例1-2及び
図2a~
図2e参照)。
【0139】
一方、ドッキングストランドと結合している抗チューブリン抗体及び抗Tom20抗体を用いて細胞を免疫染色し、ドナーストランドとアクセプターストランドを用いて連続的又は同時にそれらの細胞を処理し、そして画像を記録し、その結果として前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドを用いる連続処理が多重イメージングにより効果的であることを確認した(実施例1-3及び
図3a~
図3h参照)。
【0140】
様々なバイオマーカー濃度で画像中に見られる分子の数を測定した。その結果、それらの個々の分子は10pg/mg~400pg/mlの範囲内ではよく識別され、これによりバイオマーカー濃度の測定が可能になった。対照的に、それらの分子は1000pg/mlを超える濃度では重なり合い始め、それにより正確な濃度の測定が不可能になった。濃度が約100pg/mlになるように、試料を適切な比率で希釈した後にそれらの分子の数を測定し、その希釈率で除算して元のバイオマーカー濃度と正確に一致するバイオマーカー濃度を計算した。現在広範に使用されているバイオマーカーの濃度範囲(数pg/ml~数十ng/ml)では正確な測定が可能であることを確認した(実施例1-4及び
図4a~
図4c参照)。
【0141】
上記のように、単分子蛍光顕微鏡及びFRET-PAINTシステムの使用は、従来の方法よりも1000倍高い感度で、非常に少量の体液からの様々なバイオマーカーの検出を可能にするため、バイオマーカーを使用する従来の診断方法の課題を解決し、癌を含む様々な疾患の早期診断に有用である。
【0142】
本開示の方法とキットによるターゲット物質の効率的な検出のために、ドナーとアクセプターとの間のFRET効果を最大にする必要がある。この目的のため、前記ドナーのスペクトルと前記アクセプターのスペクトルが効果的に重複して最適なエネルギー移動を誘発するように適切なドナー及びアクセプターを選択することが好ましい。
【0143】
図5は、ドナー及びアクセプターのスペクトルの重複を示している。
【0144】
1つの実施形態において、前記ドナーのピーク吸収波長が前記アクセプターのピーク吸収波長よりも短く、かつ、前記ドナーのピーク発光波長が前記アクセプターのピーク発光波長よりも短いように前記ドナーと前記アクセプターを選択してよい。その結果、前記ドナーから前記アクセプターへエネルギーが移転可能であり、前記ドナーのピーク吸収波長が前記アクセプターのピーク吸収波長よりも短いので特定の波長の励起光によって前記ドナーだけが選択的に励起可能である。前記ドナー由来の蛍光シグナルはダイクロイックミラー、プリズム、又は回折格子などの適切なツールで除去可能であり、前記アクセプター由来の蛍光シグナルは前記ドナーのピーク発光波長が前記アクセプターのピーク発光波長よりも短いので選択的に検出可能である。
【0145】
前記ドナーと前記アクセプターとの間のFRET効率(EFRET)は式1によって計算される。
【0146】
【0147】
式1中、Rはドナーアクセプター間の距離であり、R0(Forster radius:フェルスター半径)はFRET効率が0.5であるドナーアクセプター間の距離であって、下記の式2によって定義される。
【0148】
【0149】
式2中、κは双極子配向(dipole orientation)の影響を表す定数であり、nは媒体の屈折率(reflective index)を表す定数であり、ΦDは前記ドナー蛍光物質の量子収量(quantum yeild)であって、前記ドナー蛍光物質の種類に応じて変化し、JDAはスペクトル重なり積分(spectral overlap integral)であって、下記の式3によって定義される。
【0150】
【0151】
式3中、εAは前記アクセプター蛍光物質の吸光係数であり、そしてFDは前記ドナー蛍光分子の蛍光発光強度(fluorescence emission intensity)である。JDAは前記ドナー蛍光物質の発光スペクトルと前記アクセプター蛍光物質の吸収スペクトルとの間のスペクトルの重なりに応じて変化し、したがってΦDと共にR0の決定に重要な因子である。
【0152】
例えば、励起光波長での前記ドナーの吸光係数(extinction coefficient)が前記アクセプターの吸光係数(extinction coefficient)よりも3倍以上、好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上高くなるように前記ドナー及び前記アクセプターを選択してよい。この場合、励起光(excitation light)よりもむしろフレットによってエネルギーが前記ドナーから移転されると前記アクセプターの大半が励起し得る。前記アクセプターが励起光よりもむしろフレットによって励起されるので、前記アクセプターの吸光係数に対する前記ドナーの吸光係数の比率が上昇するにつれてシグナルノイズ比も上昇する。したがって、前記アクセプターの吸光係数に対する前記ドナーの吸光係数の比率が高いほどより好ましい。
【0153】
ターゲット物質の検出を容易するため、前記ドナーと前記アクセプターとの間のFRET効率は、蛍光シグナルがバックグラウンドノイズから識別可能であるように0.05以上であることが好ましい。
【0154】
そのため、ターゲット物質検出のためのこれまでの方法のように前記アクセプターのシグナルを観察するときには、前記ドナーと前記アクセプターのフェルスター半径(又は、Forster distance:フェルスター距離)が、例えば0.208nm以上であるように、前記ドナー蛍光物質と前記アクセプター蛍光物質を選択することが好ましい。別例として、ターゲット物質の多重検出のためにFRET効率を測定するときには、以下で説明するように、前記ドナーと前記アクセプターのフェルスター半径が、例えば0.83nm以上であるように、前記ドナー蛍光物質と前記アクセプター蛍光物質を選択することが好ましい。核酸を使用してドナーアクセプター間距離を調節する場合、それらの2種類の蛍光物質の間の最短の距離は1bp(base pair)、すなわち0.34nmである。したがって、フェルスター半径が0.208nm以上であるとき、FRET効率は0.34nmの距離では0.05以上であってよい。フェルスター半径が0.208nm未満である場合、FRET効率は1bpの距離では0に近づき、それにより前記アクセプターシグナルの観察が困難になる。フェルスター半径が大きくなるほど同じ距離ではFRET効率が高くなり、これにより前記アクセプターがより明るくなる。したがって、フェルスター半径が大きいほどより好ましい。
【0155】
別例として、多重検出のためにFRET効率を測定するときには0.83nm未満のフェルスター半径によって距離依存的なFRET効率の著しい低下が引き起こされる。ドナーアクセプター間距離がわずかに3bpになったときでもFRET効率が0.05未満にまで低下し、これにより前記アクセプターシグナルの観察及びFRET効率の測定が困難になる。したがって、0.83nm以上のフェルスター半径が3種類以上の異なるターゲット物質の検出に好ましい。フェルスター半径が大きいほど大きな距離範囲でFRET効率の差分検出が可能になる。
【0156】
最適なエネルギー移動の誘発のためには、前記ドナーアクセプター間相互作用を考慮して適切なドナーアクセプター間距離を決定することが必要である。
【0157】
図6はドッキングストランドに結合したドナーストランド及びアクセプターストランドを示している。
図6を参照すると、ドナー蛍光物質とアクセプター蛍光物質との間の実際の間隔は例えばこれらの蛍光物質で標識されている鎖の塩基と塩基の間の距離に相当してよく、かつ、その間隔はこのドナー蛍光物質とこのアクセプター蛍光物質が標識として導入されているこれらの鎖の位置、又はこのドッキングストランドに結合したこれらのドナーストランドとアクセプターストランドとの間の間隔に応じて変化してよい。
【0158】
1つの実施形態において、前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドが前記ドッキングストランドに対して同時に結合するときに前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドとの間の間隔(一本鎖部分)は、前記ドッキングストランドの持続長(persistence length)よりも短い。
【0159】
例えば、二本鎖(double strand)DNAの塩基間距離が0.34nmであり、かつ、持続長が50nmである一方で一本鎖(single strand)の塩基間距離は0.5nm以上であり、かつ、持続長はわずかに数nmである。本明細書において使用される「持続長((persistence length))」という用語は、DNAなどの高分子鎖がその直線性を維持しているときの距離を意味し、持続長はその高分子鎖の構造及び荷電、並びに緩衝液の塩濃度などの様々な因子に応じて変化し得る。前記一本鎖ドッキングストランドの持続長が前記間隔(gap)よりも長い場合、前記ドッキングストランドはその間隔のどこかで折り曲げられる可能性がある。この場合、ドナーアクセプター間距離は意図した距離よりもずっと短い可能性があり、結果として所望の蛍光シグナルを得られず、問題となる場合がある。したがって、前記ドッキングストランドがその直線性を維持するように前記間隔は前記ドッキングストランドの持続長よりも短いことが好ましい。
【0160】
1つの実施形態において、蛍光物質をストランド上に付着するときに、可撓性リンカーをこれらのストランドと蛍光物質との間に挿入してよい。これらのリンカーによってフルオロフォアは自由に回転するようになるので観察者が見る方向と無関係に明度が一定に維持され得る。これらのリンカーの各々は-CH2-及び-CH2CH2O-などの1以上の可撓性又は回転可能反復単位を含んでよい。これらのリンカーは0.1nm~最大で10nmの長さであってよい。これらのリンカーの長さが大きいとき、前記フルオロフォアの観察される位置は大きく変化する。これらのリンカーが過度に長い場合、前記ターゲット物質を識別することが困難であり得る。したがって、これらのリンカーの長さを10nm以下に限定することが好ましい。
【0161】
前記ドナー蛍光物質と前記アクセプター蛍光物質はアレクサ及びCFなどの親水性蛍光物質、並びにCy及び量子ドットなどの疎水性蛍光物質であってよい。しかしながら、前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドが相互に作用するほど充分に近くに存在する場合、親水性蛍光物質のみ、又は親水性蛍光物質と疎水性蛍光物質の組合せとすることが好ましい。お互いに対して非常に近くに存在する2種類の疎水性蛍光物質の間での疎水性相互作用が蛍光シグナルを不安定にする場合がある(
図1(d)のCy3-Cy5)。
【0162】
1つの実施形態において、前記蛍光シグナルを安定化するために、シクロオクタテトラエン(COT)、ニトロベンジルアルコール(NBA)、又はトロロックスなどの安定化剤を、蛍光物質又は蛍光物質の近傍に付着してよく、又はそのような安定化剤が緩衝液中に存在してよい。
【0163】
1つの実施形態において、酸素によって前記蛍光物質が光退色(hotobleachimg)することを防止するために酸素捕集剤(例えば、グルコース+グルコースオキシダーゼ+カタラーゼ又はPCA+PCD)が緩衝液中に存在してよい。
【0164】
ターゲット物質の検出の正確性を向上させるために前記蛍光シグナルのノイズを最小にする必要がある。この必要性を満たすため、前記ドナーに由来する前記蛍光シグナルを最小にするための光学フィルターを使用して前記ドナーの発光波長を適切に除去できる。
【0165】
1つの実施形態において、前記光学フィルターの波長は、前記蛍光シグナルのシグナルノイズ比(SNR)が2以上であるように調整されてよい。例えば、ロングパス(long-pas)フィルターのカットオン波長、ショートパス(short-pass)フィルターのカットオフ波長、又はバンドパス(band-pass)若しくはバンドリジェクション(band-rejection)フィルターの開始波長は前記アクセプターの発光スペクトルが0.01であるときの波長以上であってよく、かつ、前記ドナーの発光スペクトルが0.01のときの波長以下であってよい。
【0166】
図7は、前記ドナー蛍光物質の発光スペクトル(実線)及び前記アクセプター蛍光物質の発光スペクトル(破線)を示している。λ
minは前記アクセプターの発光スペクトルが0.01であるときの波長を表し、λ
maxは前記ドナーの発光スペクトルが0.01であるときの波長を表す。
【0167】
所定の波長より上の波長を通過させるロングパスダイクロイックミラー(long-pass dichroic mirror)若しくはロングパスダイロイックフィルター(long-pass dichroic filter)、所定の波長より下の波長を通過させるショートパスダイクロイックミラー(short-pass dichroic mirror)若しくはショートパスダイロイックフィルター(short-pass dichroic filter)、又は所定の波長帯を透過/反射させるバンドパスダイクロイックミラー(band-pass dichroic mirror)若しくはバンドパスダイロイックフィルター(band-pass dichroic filter)を使用して前記ドナーシグナルを除去でき、かつ、前記アクセプターシグナルを検出できる。
【0168】
カットオン(cut on)波長よりも長い波長を通過させるロングパスダイロイックフィルター(以下、単純に「フィルター」と呼ぶ)について、そのフィルターのカットオン波長がλminよりも短いときにドナーシグナルが増加しても光学フィルターを通過するアクセプターシグナルは同じままであり、結果としてシグナルノイズ比が低くなる。したがって、前記カットオン波長はλmin以上であることが好ましい。一方、前記カットオン波長がλmax以上であるときにアクセプターシグナルが減少してもダイクロイックミラーを通過するドナーシグナルは同じままであり、結果としてシグナルノイズ比が低くなる。したがって、前記カットオン波長はλmax以下であることが好ましい。
【0169】
本明細書においてシグナルノイズ比を以下のように定義できる。
図8aはカメラで撮影されたアクセプター蛍光シグナルを示している。シグナルの強度をノイズの強度と比較するために白い破線に沿って断面情報が得られている。この断面情報は
図8bに示されている。このグラフはガウス関数によって近似されている。このガウス関数の振幅(amplitude)が「シグナル」として定義される。アクセプター蛍光シグナルを含まないその他の画素の値は正規分布のヒストグラムとして表現されている。この正規分布の半値全幅(full width at half maximum:FWHM)が「ノイズ」として定義される。このノイズに対するこのシグナルの比率がシグナルノイズ比(signal-to-noise ratio: SNR)として定義される。
【0170】
他方、前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドの濃度の上昇はノイズ発生の原因になる。したがって、ノイズを低減させて前記アクセプターシグナルを正確に決定することが好ましい。前記SNRを考慮して、標的シグナルが最もよく検出される前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドの濃度が選択可能である。
【0171】
1つの実施形態において、所定の組合せの前記ドナー/アクセプター蛍光物質と光学フィルターを使用するときに前記ドナーストランドが前記ドッキングストランドに結合するために必要な時間が平均で50~100秒であるように前記ドナーストランドの濃度を10nM以上に調節してよく、又は前記シグナルノイズ(signal-to-noise ratio)比が2以上であるように10μM以下に調節してよい。
【0172】
前記ドッキングストランドへの前記ドナーストランドの結合は前記アクセプターからシグナルが発生するための前提条件である。前記ドナーストランドが前記ドッキングストランドに結合するために必要な平均時間は、式4によって提示されるように前記ドッキングストランドの周囲にある前記ドナーストランドの濃度に反比例する。
【0173】
(式4)
ドナーストランドがドッキングストランドに結合するために必要な平均時間=(500~1000秒×nM)/[ドナーストランド濃度(nM)]
【0174】
この平均時間はこの濃度が1nMであるときに500~1000秒であり、この濃度が10nMであるときに50~100秒であり、そしてこの濃度が100nMであるときに5~10秒である。ターゲット物質の正確な検出のために前記ドナーストランドは対応するドッキングストランドに対して5倍以上結合する必要がある。全測定を10秒以内に完了させるために前記ドナーストランドの濃度は10nM以上であることが好ましく、これは経済効率の点で好ましい。
【0175】
前記ドナーストランドの濃度が上昇するとノイズの強度が上昇しても前記アクセプターシグナルの強度は同じままであり、結果としてシグナルノイズ比が低くなる。前記ドナーストランドの濃度が10μM以下、好ましくは5μM以下であるときに前記シグナルノイズ比は2以上である。前記アクセプターストランドが前記ドッキングストランドへの結合後に長い時間にわたって維持されるので、1μM以下の濃度は前記ドナーストランドと異なり前記アクセプターストランドには充分である。
【0176】
他方、前記ドッキングストランドに結合した前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドの維持時間は、前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドの長さに応じて調節可能である。前記ドッキングストランドに対して安定的に結合している前記アクセプターストランドが長期に維持されることで前記ドナーストランドの導入後に短時間でのイメージングが可能になり、このことが検出時間の減少に寄与している。バイオマーカーは前記ドナーストランドが低濃度で使用されるときでも同じイメージング時間で容易に検出可能である。
【0177】
1つの実施形態において、これらの鎖がDNA鎖又はRNA鎖であるときに前記ドッキングストランドに対して相補的なヌクレオチドの数は前記ドナーストランドについては6~12であることが好ましく、前記アクセプターストランドについては8以上であることが好ましい。以下の実施例ではドッキングストランドに対して相補的に結合する7~9ヌクレオチド長のドナーストランドを普通に使用した。しかしながら、前記ドナーストランドの長さは緩衝液中の陽イオンの濃度が高いときには短くされてよく、緩衝液中の陽イオンの濃度が低いときには長くされてよい。前記ドッキングストランドに対して相補的な前記ドナーストランドの実際の長さが7ヌクレオチドであるとき、前記ドッキングストランドに対して相補的ではないミスマッチ(mismatch)配列を組み込むことにより前記ドナーストランドの全長が望み通りの長さにまで増加することになる。したがって、全長よりもむしろ相補的なヌクレオチドの数によって前記ドナーストランドを表すほうが好ましい。
【0178】
1つの実施形態において、これらのストランドがDNA又はRNAよりもむしろPNA、LNA、又はGNAであってよいときに、前記ドッキングストランドに対して相補的なヌクレオチドの数は前記ドナーストランドについては3~9であることが好ましく、前記アクセプターストランドについては5以上であることが好ましい。XNAは前記ドッキングストランドに対する結合親和性がDNA又はRNAよりも高いので前記ドッキングストランドに対して相補的なヌクレオチドの数が少なくてよい。
【0179】
前記ドッキングストランドの長さは意図されている前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドの相補的結合にとっての最小レベルよりも上であることが好ましい。ミスマッチ配列又は間隔(一本鎖DNA断片)を組み込むことにより上で説明したように望み通りの長さにまで前記ドッキングストランドの長さを増加させることができ、このことが前記ドッキングストランドをそれらの最小の長さによって表す理由である。
【0180】
前記アクセプターストランドは長い時間にわたって前記ドッキングストランドに結合したままでいるように、又は前記ドッキングストランドから解離しないように長い形状を有してよい。前記アクセプター蛍光物質も前記ドッキングストランドに対して直接的に結合してよい。励起光によってのみ励起されて発光する前記ドナーと異なり、前記アクセプターは前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドが前記ドッキングストランドに対して同時に結合したときにのみ発光し、結果として光退色のリスクが低下する。
【0181】
前記アクセプターストランドは前記ドナーストランドが前記ドッキングストランドに結合する前に既に前記ドッキングストランドに結合していてよい。この場合、前記アクセプターストランドは比較的に長くてよく、前記ドナーストランドは前記アクセプターがFRETによって発光する確率を上昇させるために短い長さであってよい。
【0182】
前記アクセプターストランドが前記ドッキングストランドに結合したままでいる時間を「a」として定義し、かつ、前記アクセプターストランドが前記ドッキングストランドに結合するためにかかる時間を「b」として定義するとき、前記アクセプターストランドが前記ドッキングストランドに結合したままでいる確率は「a/(a+b)」によって表される。前記アクセプターストランドの長さの増加と塩の濃度の上昇によってaは増加し、一方で前記アクセプターストランドの濃度の上昇によってbが減少する。1という確率は前記ドナーストランドが前記ドッキングストランドに結合するときは常に前記アクセプターがシグナルを発することを意味している。0.5という確率は前記ドナーストランドが前記ドッキングストランドに結合するときに0.5の確率で前記アクセプターがシグナルを発することを意味する。すなわち、前記ドッキングストランドに結合する前記ドナーストランドの数が二倍になったときに同じアクセプターシグナルを得られる。まとめると、この確率が高くなる(すなわち、aが高くなる、又はbが低くなる)ことで検出時間が短くなる。
【0183】
既存の細胞イメージングアプローチにはアクセプターの光退色の懸念があるが、バイオマーカー検出では光退色の可能性は低い。好ましい実施形態では前記アクセプターストランドの長さを増加させるか、又は前記アクセプター蛍光物質を前記ドッキングストランド上に直接的に標識として導入することでaを増加させる。前記アクセプターストランドの濃度が上昇するとbが減少することがあり、これはシグナルノイズ比の点で望ましくない。
【0184】
DNA鎖は負に帯電しており、互いに反発する傾向がある。したがって、負に帯電しているDNA鎖を中和するために緩衝液に正の荷電を導入することが好ましい。DNA鎖がお互いに対して相補的に結合するとき、2本又は3本の水素結合(引力)が塩基毎に形成される。したがって、配列が長くなるほど結合が安定する。Na+の濃度が500mMであり、かつ、前記アクセプターストランドの長さが10ヌクレオチドであるときに平均で40秒間にわたって結合が維持される。長いアクセプターストランドの方が長い時間にわたって結合が維持される。
【0185】
例えば、PNA鎖は負に帯電していないのでDNA鎖と異なりPNA-PNA間結合とPNA-DNA間結合はDNA-DNA間結合よりもずっと安定している。したがって、PNA鎖又はLNA鎖を前記アクセプターストランドとして使用でき、かつ、DNA鎖を前記ドッキングストランド及びドナーストランドとして使用できる。
【0186】
他方、検出時に試料中のターゲット物質の濃度が過度に高いことがシグナルの重複の原因になる場合があり、これにより前記ターゲット物質を正確に定量することが困難になる。
【0187】
大半のターゲット物質の血液中濃度が知られているが、対象の状態に応じて大きく変化する場合がある。それらの濃度は前記ターゲット物質の種類に応じて10-15g/mlから10-3g/mlまで約1012倍の範囲で変化することがある。
【0188】
したがって、例えば以下の手法によって検出画像中に正確な数の前記ターゲット物質が表示されるように前記試料を希釈する必要がある。先ず、ウェル1、ウェル2、ウェル3などを備えるウェルプレート(well plate)又はラブテック(Lab-Tek)を用意する。濃度が低いことが予期されるターゲット物質に対する捕捉抗体と検出抗体をウェル1とウェル2に添加する。濃度が高いことが予期されるターゲット物質に対する捕捉抗体と検出抗体をウェル2とウェル3に添加する。
【0189】
血液を標準的な濃度にまで希釈し、ウェル1に添加する。この標準希釈液をさらに希釈し、ウェル2に添加する。結果生じた溶液をさらに希釈し、ウェル3に添加する。ターゲット物質を基板上に固定化する。濃度が低いことが予期されるターゲット物質はウェル1において検出される。正確な数の前記ターゲット物質が観察されるまで測定を続ける。前記ターゲット物質の数が測定するには少なすぎる場合、ウェル1を幾つかの領域に分割し、それらの分割された領域中の前記ターゲット物質の数を合計する。一方、前記ターゲット物質の数が分析するには多すぎる場合、前記ターゲット物質を検出する試みはウェル2においてなされる。
【0190】
濃度が高いことが予期されるターゲット物質はウェル2において検出される。正確な数の前記ターゲット物質が観察されるまで測定を続ける。前記ターゲット物質の数が測定するには少なすぎる場合、ウェル2を幾つかの領域に分割し、それらの分割された領域中の前記ターゲット物質の数を合計する。一方、前記ターゲット物質の数が分析するには多すぎる場合、前記ターゲット物質を検出する試みはウェル3においてなされてよい。過剰に多数の前記ターゲット物質が見られるときでは分子間の重複が問題である。この問題は、前記ドナーストランドの濃度を低下させること、緩衝液中の塩の濃度を低下させること、又は多数のミスマッチを有するか、若しくは長さがより短い代わりのドナーストランドであって、元のドナーストランドよりも前記ドッキングストランドとの相補的結合の数が少ないことを意味する前記ドナーストランドを組み込むことによって解決可能である。
【0191】
以上説明したように、本開示に記載のターゲット物質の検出方法とキットの使用は、従来の方法とキットよりも1000倍高い感度により非常に少量の体液からの様々なバイオマーカーの検出を可能にする。したがって、本開示の方法とキットは癌を含む様々な疾患の早期診断に有用である。
【0192】
アクセプター蛍光シグナルを観察するための上記の方法に加え、本開示は様々なフレットペアがターゲット物質の種類に応じて導入されている鎖を使用してFRET効率を測定することにより複数のターゲット物質を多重検出するための方法を提供する。
【0193】
本開示の別の態様は、蛍光物質で標識されているタグストランド(tagged strand)と結合している検出プローブを使用するターゲット物質検出のためのキットを提供する。このキットはターゲット物質に特異的に結合し、かつ、タグストランドと結合している1種以上の検出プローブを含む。これらのタグストランドは1種以上のドナー蛍光物質及び1種以上のアクセプター蛍光物質を含む。これらのドナー蛍光物質が励起されるとこれらのドナー蛍光物質とアクセプター蛍光物質との間のフレット(FRET)によって発光が起こる。
【0194】
1つの実施形態において、前記タグストランドは2組以上のフレットペアを有してよい。
【0195】
1つの実施形態において、前記キットは基板、蛍光物質で標識されている2種類以上のタグストランド、及びこれらのタグストランドと結合している2種類以上の検出抗体を含んでよく、このキットはそれらの蛍光物質によるFRET効率を利用して2種類以上のバイオマーカーを同時に検知する。前記蛍光物質は前記タグストランドの特定の塩基(base)、3’末端若しくは5’末端(end)、又は基本骨格(backbone)の上でドナー又はアクセプターとして作用してよい。前記タグストランド上に標識として導入されている前記ドナーと前記アクセプターとの間の距離に応じて測定された異なるFRET効率を利用して2種類以上のバイオマーカーを同時に検出できる。
【0196】
前記検出抗体は、抗原抗体反応を介するバイオマーカー検出用の検出プローブである。前記検出抗体の種類の数は標的バイオマーカーの種類の数と同じであることが好ましい。検出時にFRET効率を測定するためには前記蛍光物質で標識されている前記タグストランドと結合している前記検出抗体を使用することが好ましい。本開示の1つの実施形態において、前記タグストランドはDNA鎖であることが典型的であるが、必ずしもDNA鎖に限定されない。前記タグストランドは核酸又は核酸類縁体又は生体高分子であることが好ましい。これらの核酸はDNA、RNA、PNA、LNA、MNA、GNA、及びTNAからなる群より選択可能である。これらの生体高分子はポリペプチド及び炭水化物からなる群より選択可能である。
【0197】
本明細書において使用される「FRET効率」という用語は、光により励起された蛍光物質から別の隣接する蛍光物質へ移動したエネルギーの値を指す。FRET効率はこれらの蛍光物質間の距離に応じて変化する。具体的にはFRET効率は、下記の式5によって計算される値を意味する。
(式5)
FRET効率=(アクセプターから発せられた光の強度)/(ドナーから発せられた光の強度とアクセプターから発せられた光の強度の合計)
【0198】
前記ドナー又はアクセプターから発せられた光の強度は、ドナーアクセプター間距離の影響を受けることがあるが、FRET効率は、特定の塩基、3’末端若しくは5’末端、又は骨格上に前記ドナー又はアクセプターを標識し、かつ、ドナーアクセプター間の距離を変えることにより制御可能である。
【0199】
ここでFRET効率は、前記ドナーの励起用の光により励起された前記アクセプターから発せられた光、光学要素(例えば、ダイクロイックミラー:dichroic mirror)によって完全には分離されない前記ドナー及び前記アクセプター由来の一部の光、又は前記ドナー及び前記アクセプターから発せられる光の波長の差から生じるイメージセンサの検出効率の差を補正することにより取得可能である。
【0200】
以下の手法によって、FRET効率を利用してターゲット物質を検出することが可能である。ドナーとアクセプターとの間に1塩基が存在するとき、このドナーとこのアクセプターとの間の間隔を「1」として定義する。ドナーとアクセプターを1、2、3、...nの間隔によってお互いから分離する2種類以上のタグストランドを構築する。データベースの構築のためにこれらの異なる間隔についてFRET効率を測定する。同じ種類のタグストランドは同じ種類の検出抗体に結合しており、異なる種類のタグストランドは異なる種類の検出抗体に結合している。その後、前記バイオマーカーを含有する試料との反応を進行させると前記バイオマーカーは特定の検出抗体と結合する。この時点で前記ドナーと前記アクセプターから発せられた光の強度を測定してFRET効率を計算する。この計算されたFRET効率を前記データベースに保存されている値と比較することにより前記検出抗体の種類を決定でき、かつ、前記バイオマーカーの種類を最終的に検知できる。
【0201】
例えば、これまでの説明に基づいて、FRET効率を区別できる前記間隔が4~20までの整数であると仮定すると1種類のドナーと1種類のアクセプターを使用して17種類のタグストランドを構築することが可能である。2組のドナーアクセプターペアが存在する場合、同じ条件下で289種類のタグストランドを構築することが可能である。3組のドナーアクセプターペアが存在する場合、同じ条件下で4913種類のタグストランドを構築することが可能である。したがって、様々な種類のバイオマーカーの検出に必要な前記蛍光物質の種類の数を最小限にすることができる。
【0202】
1つの実施形態において、前記タグストランドを2種類以上の異なる蛍光物質で標識してもよい。
図9は本開示の1つの実施形態による複数のバイオマーカーの同時検出のためのキットを模式的に示している。
図9に示されているようにバイオマーカーは基板上に固定化されており、タグストランド(検出抗体タグ)と結合している検出抗体が前記バイオマーカーに結合している。
図9に示されているキットはN種類のバイオマーカーに対して特異的に結合するN種類の検出抗体、及び前記検出抗体に結合しているN種類のタグストランドを含む。
【0203】
前記異なるバイオマーカーに結合した前記異なる検出抗体に結合している前記異なるタグストランドから同じFRET効率が測定されるときにはこれらの検出されたバイオマーカーの種類を特定できないことがこの構成にする理由である。したがって、前記標的バイオマーカーの数と同じ数の異なるタグストランドを使用して区別できるFRET効率を取得することが好ましい。
【0204】
具体的には、前記2種類以上のタグストランド上に標識として導入されているドナーとアクセプターとの間に異なる数の塩基が存在してよい。より具体的には、前記タグストランド上に標識として導入されているドナー及びアクセプターの位置に応じて異なるFRET効率が得られてよい。前記タグストランドは複数のドナー又はアクセプターで標識されてよい。この場合、これらの2種類以上のドナーは前記アクセプターと異なる蛍光物質であってよく、かつ、様々な種類のものであってよい。あるいは、これらの2種類以上のアクセプターは前記ドナーと異なる蛍光物質であってよく、かつ、様々な種類のものであってよい。例えば、前記タグストランドは、
図10に示されているように、1つのアクセプターと複数のドナーによって標識されてよい。ここで、前記ドナーは、前記アクセプターと異なる蛍光物質であることが好ましく、かつ、様々な種類のものであることが好ましい。例えば、これまでの説明に基づいてFRET効率を区別できる前記間隔が4~20までの整数であると仮定すると理論的には1組のFRET効率を有する17種類のタグストランドを構築することが可能である。すなわち、理論的にはドナー1ドナー2の間、ドナー2ドナー3の間、ドナー3ドナー4の間、及びドナー4アクセプターの間の合計4組のFRET効率を有する4種類のドナーと1種類のアクセプターで標識されている83521(17×17×17×17)種類のタグストランドを構築することが可能である。
【0205】
図11は
図10に示されているタグストランド上に標識として導入されている蛍光物質からFRET効率を測定するための方法を示しており、かつ、単分子顕微鏡を使用する蛍光物質のイメージングの原理を模式的に示している。
【0206】
先ず、蛍光物質で標識されているタグストランドを基板上に固定化する。次に
図11に示されている単分子蛍光顕微鏡を用いて各蛍光物質の明度を観察する。光の回折に基づくと、約300nm以内でお互いに対して近く存在する分子は識別されず、1つの光点として観察される。したがって、1本のタグストランド上に標識として導入されており、かつ、300nm以下の距離で配置されている蛍光物質は1つの光点として現れる。対照的に、異なる蛍光物質が異なる波長の光線を発光するので特定の波長帯の光を反射/透過させる光学要素(例えば、ダイクロイックミラー:dichroic mirror)を使用して波長に応じてそれらの発光した光線を分離して特定の蛍光物質から発せられた光の明度を測定できる。
【0207】
図11の左側の図は1つの画像の中の4種類の蛍光物質(Cy2、Cy3、Cy5、及びCy7)から発せられた光をカメラで出力するための処理を模式的に示している。
図11の右側の図は蛍光物質の種類に応じた異なるカメラによる画像処理を模式的に示している。上記の処理を用いてドナーとアクセプターとの間のFRET効率を計算できるが、特に限定せずに他の処理を用いてもよい。具体的には、それぞれドナーカメラ及びアクセプターカメラを介してドナー及びアクセプターから発せられた光の強度をイメージングするための処理が分析時間の点で好ましい。
【0208】
図12はドナーとしてのCy3とCy5及びアクセプターとしてのCy7で標識されているタグストランドを使用する上記の方法によるイメージングの結果を示している。
図12を参照すると、
図11の左側の図に示されている方法によって明度値を測定したときに1つのモニター上で左から右に向かってCy3、Cy5、及びCy7の順序でこれらのイメージングの結果が提示された。前記タグストランド上に赤色レーザーを照射すると最初にCy5が励起され、エネルギーがFRETによってCy7に移転され、そして光がCy7から発光した。その結果、Cy3領域では何も観察されず、Cy5領域とCy7領域でのみ明るい光点が観察された。ここでこれらの光点の明度比からCy5とCy7との間のFRET効率を測定してそれらの間の距離を決定した。さらに、緑色レーザーを照射するとCy3が励起され、エネルギーがFRETによってCy5とCy7に移転され、そして光がCy3、Cy5、及びCy7から発光した。この場合、前記の測定されたCy5とCy7との間のFRET効率に基づいてCy3とCy5との間の距離を決定した。
【0209】
1つの実施形態において、前記タグストランドの各々を
図13及び
図14に示されているように2組のドナーアクセプターFRETペアで標識してよい。
【0210】
この実施形態では、これらのFRETペアは隣接するFRETペアのFRET効率に対する各FRETペアの影響を最小限にするために、お互いに距離が空いていることが好ましい。具体的には、これらの標識されているFRETペアは、お互いに5nm以上離れていることがより好ましい。
【0211】
前記タグストランドの各々は異なる間隔でドナーとアクセプターがお互いに離れている2組以上のドナーアクセプターFRETペアを含んでよい。測定時に生じる可能性がある誤差の範囲とノイズを考慮すると、測定されたFRET効率が充分に識別可能であるようにこれらの間隔は異なることが好ましい。
【0212】
別例として、前記2組以上のFRETペアに同じ種類のドナーが使用される。この場合、標識されているアクセプターは同じ種類でも異なる種類でもよいが、前記アクセプターの種類は前記ドナーの種類とは異なることが好ましい。
【0213】
別例として、前記2組以上のFRETペアに同じ種類のアクセプターが使用される。この場合、標識されているドナーは同じ種類でも異なる種類でもよいが、前記ドナーの種類は前記アクセプターの種類とは異なることが好ましい。
【0214】
具体的には、前記タグストランドの各々を2組のFRETペアで標識するときに以下の4通りの組合せでそれらのFRETペアのドナーとアクセプターを使用できる。
i)前記ドナーは同じ蛍光物質であってよく、前記アクセプターも同じ蛍光物質であってよい。
ii)前記ドナーは異なる蛍光物質であってよく、前記アクセプターは同じ蛍光物質であってよい。
iii)前記ドナーは同じ蛍光物質であってよく、前記アクセプターは異なる蛍光物質であってよい。
iv)前記ドナーは異なる蛍光物質であってよく、前記アクセプターも異なる蛍光物質であってよい。
【0215】
組合せi)は、
図13に例示されている。
図13を参照すると、ドナー1とドナー2が蛍光物質Aで標識されており、アクセプター1とアクセプター2が蛍光物質Bで標識されている。この同じ蛍光物質で標識されているこれらの2種類のドナーとこの同じ蛍光物質で標識されているこれらの2種類のアクセプターがお互いに対して隣接している場合、これらのドナーとアクセプターはこれらのドナーアクセプターFRETペアのFRET効率に影響する。したがって、1本のタグストランドが
図13に示されているようにこの同じ蛍光物質で標識されている2種類以上のドナーとこの同じ蛍光物質で標識されている2種類以上のアクセプターで標識されるとき、これらのFRETペアはお互いに5nm以上離れていることが好ましい。
【0216】
組合せii)~iv)はそれぞれ
図14a~
図14cに例示されている。
【0217】
図14aは組合せii)を示している。
図14aに示されているようにドナー1は蛍光物質Aで標識されており、ドナー2は蛍光物質Bで標識されており、及びアクセプター1とアクセプター2は同じ蛍光物質Cで標識されている。すなわち、1本のタグストランド上に標識として導入されているこれらの2組のFRETペアは同じ種類のアクセプターで標識されている。
【0218】
図14bは組合せiii)を示している。
図14bに示されているようにドナー1とドナー2は同じ蛍光物質Aで標識されており、アクセプター1は蛍光物質Bで標識されており、そしてアクセプター2は蛍光物質Cで標識されている。
図14cは組合せiv)を示している。
図14cに示されているようにドナー1は蛍光物質Aで標識されており、ドナー2は蛍光物質Bで標識されており、アクセプター1は蛍光物質Cで標識されており、そしてアクセプター2は蛍光物質Dで標識されている。すなわち、1本のタグストランドが異なる種類の蛍光物質で標識されている。
【0219】
図14a~
図14cに示されているように第1のドナー1アクセプター1FRETペアと第2のドナー2アクセプター2FRETペアはお互いに距離を空けている。これにより
図13において説明したようにお互いに対する隣接するFRETペアの影響が最小になる。これらの第1と第2のFRETペアにおけるドナーとアクセプターとの間の間隔はお互いに同じでも異なっていてもよい。第1と第2のFRETペアに同じ種類のドナー及び同じ種類のアクセプターを使用する場合、i)FRET効率がa及びbであるこれらの第1と第2のFRETペアで標識されているタグストランドは、ii)FRET効率がa及びbであるこれらの第1と第2のFRETペアで標識されているタグストランドと識別できない。したがって、前記タグストランドi)及びii)のうちの1本だけが使用可能である。
【0220】
1つの実施形態において、前記タグストランドの各々は2組以上のFRETペアを含んでよい。前記タグストランドの構造は上記の構造と同じものであってよい。すなわち、前記タグストランドは
図13に示されるタグストランドと類似していてよく、又は
図14a、
図14b、又は
図14cに示される構造と同じものを有してよい。
【0221】
前記キットを使用するFRET効率の測定のため、前記ドナーが最初に励起される。励起から所定の時間の後では、前記蛍光物質はそれ以上発光せず、これを「光退色」と呼ぶ。一旦光退色が起こると光の強度が変化する。また、この場合に光退色の前後の光の強度を測定及び比較して各ドナーアクセプターペアのFRET効率を決定する。
【0222】
光退色の前後の光の明度値の比較によるFRET効率の測定は以下の基本原理に基づいている。光退色が起こると前記ドナーはそれ以上発光しないか、又はエネルギーを前記アクセプターに移転しない。前記アクセプターは前記ドナーからエネルギーを受け取れず、結果として前記ドナーと前記アクセプターから発せられた光の強度が低下する。対照的に、前記アクセプターに光退色が起こると前記ドナーはエネルギーを前記アクセプターに移転せず、かつ、全てのエネルギーを発光に使用し、結果として前記ドナーから発せられた光の明度が上昇し、かつ、前記アクセプターから発せられた光の明度が低下する。実施例2-3を参照してさらに詳細にこの原理を説明する。
【0223】
1つの実施形態において、前記キットは捕捉抗体をさらに含んでよい。
【0224】
図16は本開示の1つの実施形態による捕捉抗体を含むキットを模式的に示している。これらの捕捉抗体を前もって基板に付着させても検出時に基板に付着させてもよい。これらの捕捉抗体はタグストランドと結合していてよい。
【0225】
前記捕捉抗体に結合している前記タグストランド(以下、「捕捉抗体タグ」と呼ぶ)は前記検出抗体に結合している前記タグストランド(以下、「検出抗体タグ」と呼ぶ)と同一又は類似の骨格を有してよい。具体的には、前記タグストランドはDNA鎖、RNA鎖、PNA鎖、LNA鎖、MNA鎖、GNA鎖、若しくはTNA鎖などの核酸又は核酸の類縁体、又はポリペプチド若しくは炭水化物などの生体高分子であってよい。前記タグストランドは
図17に示される構造を有してよいが、その構造に特に限定されない。
【0226】
1つの実施形態において、前記キットはブリッジストランドをさらに含んでよい。
【0227】
これらのブリッジストランドは前記検出抗体タグ及び前記捕捉抗体タグと同一又は類似の基本骨格を有することが好ましい。これらのブリッジストランドは特定の配列を有する一本鎖核酸であることがより好ましい。1つの実施形態において、これらのブリッジストランドは前記検出抗体タグ及び前記捕捉抗体タグに対して相補的に結合してよい。
【0228】
前記ブリッジストランドが一本鎖核酸であるとき、前記ブリッジストランドの配列の一部分は前記捕捉抗体タグの配列の一部分に対して相補的であり、前記ブリッジストランドのその他の配列は前記検出抗体タグの配列の一部分に対して相補的である。すなわち、前記ブリッジストランドの一部分が前記検出抗体タグ及び前記捕捉抗体タグに相補的に結合して2種類の異なる二本鎖核酸を形成する。この構造が
図18に示されている。
【0229】
バイオマーカーを識別するために必要な前記FRETペアの一部分は、前記検出抗体タグが前記ブリッジストランドに対して相補的に結合したときにのみ形成される。その他のFRETペアは前記捕捉抗体タグが前記ブリッジストランドに対して相補的に結合したときにのみ形成される。バイオマーカー検出時の全てのFRETペアの観察は前記ブリッジストランドが相補的に前記検出抗体タグ及び前記捕捉抗体タグに結合していることを示す。この観察は前記バイオマーカーが捕捉抗体及び前記検出抗体と結合していることも示す。対照的に、前記複数のFRETペアの一部分だけの観察はバイオマーカーよりもむしろ基板への前記検出抗体の非特異的(non-specific)結合を示す。この非特異的結合は偽陽性(false-positive)シグナルを生成し、測定誤差の原因になる。すなわち、前記検出抗体タグ及び前記捕捉抗体タグに対して相補的に結合する前記ブリッジストランドを使用することがこの偽陽性シグナルの排除を可能にし、これにより分析結果の正確性の改善が達成される。
【0230】
1つの実施形態において、各ブリッジストランドの特定の塩基(base)、3’末端若しくは5’末端(end)、又は基本骨格(backbone)の上にドナー又はアクセプターを標識として導入してよい。前記ブリッジストランドの特定の塩基上にドナー又はアクセプターとして作用する蛍光物質を標識として導入することによりFRET効率を測定することが好ましい。
【0231】
前記捕捉抗体タグ、前記検出抗体タグ、及び前記ブリッジストランドの結合と以下のようなドナー又はアクセプターによる標識の後にFRET効率を測定できる。
【0232】
1)前記検出抗体タグが前記ブリッジストランドに対して相補的に結合して1又は複数の組のFRETペアを形成する。
a)ドナーだけを前記検出抗体タグ上に標識として導入し、アクセプターを前記ブリッジストランド上に標識として導入する。
b)アクセプターだけを前記検出抗体タグ上に標識として導入し、ドナーを前記ブリッジストランド上に標識として導入する。
c)ドナーかアクセプターのどちらか、又は両方を前記検出抗体タグ上に標識として導入し、ドナーかアクセプターのどちらか、又は両方を前記ブリッジストランド上に標識として導入する。
【0233】
2)前記捕捉抗体タグが前記ブリッジストランドに対して相補的に結合して1又は複数の組のFRETペアを形成する。
a)ドナーだけを前記捕捉抗体タグ上に標識として導入し、アクセプターを前記ブリッジストランド上に標識として導入する。
b)アクセプターだけを前記捕捉抗体タグ上に標識として導入し、ドナーを前記ブリッジストランド上に標識として導入する。
(c)ドナーかアクセプターのどちらか、又は両方を前記捕捉抗体タグ上に標識として導入し、ドナーかアクセプターのどちらか、又は両方を前記ブリッジストランド上に標識として導入する。
【0234】
上記の原理を1)及び2)に適用してもよい。同じ種類のドナーと同じ種類のアクセプターで標識されているFRETペアについて、i)FRET効率がa及びbである第1と第2のFRETペアは、ii)FRET効率がb及びaである第1と第2のFRETペアと識別できない。したがって、i)及びii)のどちらかのみが使用可能であるように前記捕捉抗体タグ、前記検出抗体タグ、及び前記ブリッジストランドを構築することが好ましい。測定されたFRET効率が識別可能であるような間隔で前記捕捉抗体タグ、前記検出抗体タグ、及び前記ブリッジストランドにドナー及びアクセプターを標識として導入することが好ましい。
【0235】
1)及び2)について、ドナー及びアクセプターは異なる蛍光物質で標識されていることが好ましい。複数のドナー又は複数のアクセプターを使用するとき、前記捕捉抗体タグ、前記検出抗体タグ、又は前記ブリッジストランド上に同じ種類又は異なる種類のドナーを標識として導入してよく、かつ、前記捕捉抗体タグ、前記検出抗体タグ、又は前記ブリッジストランド上に同じ種類又は異なる種類のアクセプターを標識として導入してよい。
【0236】
例えば、前記キットを使用してバイオマーカー1を検出するとき、捕捉抗体1、検出抗体1、及びブリッジストランド1が使用され、捕捉抗体タグ1及び検出抗体タグ1がブリッジストランド1に結合する。この場合、ドナー1が捕捉抗体タグ1の塩基のうちの1塩基の上に標識として導入されているとき、所望のFRET効率が得られるように捕捉抗体タグ1と結合しているブリッジストランド1の複数の部位の塩基のうちの1塩基の上にアクセプター1を標識として導入する。同時に、所望のFRET効率が得られるように検出抗体タグ1、及び検出抗体タグ1と結合しているブリッジストランド1の複数の部位を異なる蛍光物質としてのドナー1とアクセプター1又はドナー2とアクセプター2で標識してよい。あるいは、ドナー1とアクセプター2又はドナー2とアクセプター1を標識として導入してよい。ここでドナー1とアクセプター1は異なる蛍光物質であるほうがよく、ドナー2とアクセプター2も異なる蛍光物質であるほうがよい。
【0237】
本開示の別の態様は蛍光物質で標識されているタグストランド(tagged strand)と結合している検出プローブを使用するターゲット物質の検出方法を提供する。この方法は、a)ターゲット物質を含有する試料を基板上に導入すること、b)タグストランドと結合している検出プローブを前記ターゲット物質に特異的に結合させること、c)前記タグストランドを1種以上のドナー蛍光物質及び1種以上のアクセプター蛍光物質で標識すること、及び、d)前記ドナー蛍光物質と前記アクセプター蛍光物質との間のフレット(FRET)により発生した蛍光シグナルを測定して前記ターゲット物質を特定することを含む。
【0238】
1つの実施形態において、前記タグストランドは2組フレットペアを有してよい。
【0239】
FRETによって発生する前記蛍光シグナルは前記FRET効率の決定によって評価され得る。これらのFRET効率は前記ドナー又はアクセプターの光退色の前後の光の明度値を測定することにより決定されてよい。
【0240】
前記FRETペアのFRET効率に影響を及ぼさないように前記フレットペアの間の間隔が制御される。前記フレットペアの間の間隔は5nm以上であることが好ましい。
【0241】
1つの実施形態において、複数のバイオマーカーの同時検出のための方法が提供される。この方法は2種類以上のバイオマーカーを基板に付着させること、蛍光物質で標識されているタグストランド(検出抗体タグ)と結合している2種類以上の検出抗体を前記2種類以上のバイオマーカーに結合させること、及びこの結合により発生した蛍光シグナルを測定してFRET効率を決定することを含む。この方法によると、前記蛍光物質のFRET効率を利用して前記バイオマーカーの種類を同時に検知し、かつ、単位面積当たりの前記バイオマーカーの数から試料中の前記バイオマーカーの濃度を決定することが可能である。
【0242】
前記蛍光物質は前記タグストランドの特定の塩基、3’末端(base)若しくは5’末端(end)、又は基本骨格(backbone)の上でドナー又はアクセプターとして作用してよい。ドナー又はアクセプターとして作用する前記蛍光物質はFRET効率を測定するために前記タグストランドの特定の塩基の上に標識として導入されることが好ましい。
【0243】
以下の手法によって、複数のバイオマーカーの同時検出のための前記キットを使用して前記方法を実施できる。
【0244】
前記方法を実施する前にFRET効率についてのデータベースを構築してよい。以下にこのデータベース構築を説明する。例えば、識別可能なFRET効率の基準値を前もって測定してデータベースを構築し、かつ、反応後に測定されたFRET効率と比較してバイオマーカーの種類を特定する。
【0245】
以下の手法によってFRET効率についてのデータベースを構築することが可能である。
【0246】
先ず、異なる蛍光物質A及びBをそれぞれドナー及びアクセプターとして使用し、かつ、DNA骨格の特定の塩基の上に標識として導入して必要なだけ多くの種類の異なるDNA鎖を構築する。例えば、データベースに50種類が必要なときに様々な距離でA及びBによって標識されている50種類のDNA鎖を調製する。ある物質を基板に塗布し、その塗布された物質に対する結合親和性を有する物質を各DNA鎖の一方の末端に付着させ、かつ、固定化する。あるいは、前記DNA鎖を直接的に構築する必要はなく、ドナー及びアクセプターとしての蛍光物質で標識されている市販のDNA鎖を使用してもよい。前記ドナー及び前記アクセプターとしての前記蛍光物質の決定では前記ドナー蛍光物質のピーク発光波長が前記アクセプター蛍光物質のピーク発光波長よりも短いことが好ましい。
【0247】
2種類以上のDNA鎖の調製後、距離1においてA及びBで標識されているDNA鎖を基板上に固定化し、FRET効率を測定する。その後、距離2においてA及びBで標識されているDNA鎖から始めてそれらの標識されているDNA鎖に対して同じ手順を繰り返してFRET効率の基準値を取得し、それらの基準値をデータベースに構築する。
【0248】
その後、バイオマーカー検出時に測定されたFRET効率をこれらのFRET効率の基準値と比較する。この比較から検出に使用されるタグストランドのドナーとアクセプターとの間の距離を決定でき、結果としてこれらの検出されたバイオマーカーの種類を直接的に特定できる。
【0249】
しかしながら、FRET効率の測定においてノイズが誤差の原因になる可能性がある。この可能性のため、異なる距離における全てのFRET効率が識別可能であるわけではない。例えば、距離1におけるFRET効率が0.95(平均値)±0.05(偏差)であり、かつ、距離2におけるFRET効率が0.94±0.05であるときにそれらの距離1及び2はこれらのFRET効率によって識別可能ではない。したがって、実際のバイオマーカー検出のために前記データベースに保存されている値の中でもFRET効率が明確に識別される値に相当する距離だけを使用することが好ましい。
【0250】
FRET効率の基準値を得た後に、標的バイオマーカーを含有する試料を基板上に導入し、前記バイオマーカーを基板上に付着させる。
【0251】
1つの実施形態において、前記検出方法は、捕捉抗体を前記基板に付着させることをさらに含んでよい。これらの捕捉抗体はタグストランド(捕捉抗体タグ)と結合していてよい。
【0252】
例えば、捕捉抗体をpH9.5で0.06Mの炭酸緩衝溶液又は重炭酸緩衝溶液で希釈し、かつ、この希釈物を前記基板と所定の温度、所定の時間にわたって接触させることによりこれらの捕捉抗体を前記基板に吸着させてよい。あるいは、前記基板の表面をビオチン(biotin)化PEG(polyethylene glycol)又はBSA(bovine serum albumin)で被覆し、この被覆基板にストレプトアビジン(streptavidi)を結合し、そしてこのストレプトアビジン結合基板にビオチン化捕捉抗体を結合することにより捕捉抗体を前記基板に吸着させてもよい。その後、前記基板を生試料又は処理済み試料で処理する。前記基板に吸着した捕捉抗体は前記試料中の前記バイオマーカーと複合体を形成する。さらに、非特異的に結合した抗体又は混入汚染物質の除去のためにツイーン20又はトリトンX-100などの洗浄緩衝液でこれらの複合体を洗浄することが好ましい。
【0253】
1つの実施形態において、前記検出方法は、前記捕捉抗体タグをブリッジストランドに結合させること、及び前記検出抗体タグをブリッジストランドに結合させることをさらに含んでよい。
【0254】
前記ブリッジストランドは前記タグストランド及び前記捕捉抗体タグの配列に対して相補的な配列を含んでよい。前記ブリッジストランドは一本鎖核酸である。この場合、前記ブリッジストランドの配列の一部分は前記タグストランドの配列に対して相補的であり、前記ブリッジストランドのその他の配列は前記捕捉抗体タグの配列に対して相補的である。この相補的結合はこれらの範囲に特に限定されない。
【0255】
前記検出抗体タグに関する全ての説明が前記捕捉抗体タグに適用可能であり、捕捉抗体を含む前記キット及び前記検出方法にも同等又は同様に適用可能である。
【0256】
前記方法とキットの使用によってFRET効率を利用する2種類以上のバイオマーカーの同時検出、及び少量の試料からの低濃度のバイオマーカーの検知が可能になる。具体的には、本開示の方法は1fg/mlのレベルの極少量で存在するバイオマーカーを含む最大で約1000種類のバイオマーカーの同時検出に効果的であり、検出及び分析に非常に短い時間しか必要としない。
【0257】
本開示の方法を用いる2種類以上のバイオマーカーの検出について以下の実施例を参照してさらに詳細に説明する。
【0258】
本開示の別の態様は、蛍光物質のFRET効率に基づくN種類のバイオマーカーの同時検出及び同時特定のためのキット及び検出方法を提供する。
【0259】
前記キットは、ドナーストランド、及びフレットペアを形成する2種類以上のアクセプター蛍光物質で標識されているアクセプターストランドを含んでよい。これらの2種類のアクセプター蛍光物質はドナー及びアクセプターとして作用し、したがって、これらのアクセプターストランドは「フレットストランド」と呼ばれる。
【0260】
具体的には、前記キット及び検出方法はドッキングストランド又はフレットストランド上に標識として導入されている2種類以上の蛍光物質のFRET効率、及びN種類のバイオマーカーを同時に検出するためのドナーストランド上に標識として導入されているドナーを利用する。
【0261】
前記キットは基板、N種類の検出抗体に結合しているN種類のドッキングストランド(docking strand)、及びこれらのN種類のドッキングストランドに対して相補的に結合するドナーストランド(donor strand)を含む。これらのドッキングストランド又はドナーストランドは蛍光物質を含む。これらの蛍光物質のFRET効率を測定してN種類のバイオマーカーを同時に検知する。
【0262】
1つの実施形態において、前記キットは蛍光物質で標識されているフレットストランド(FRET strand)をさらに含んでよい。これらのフレットストランドは前記N種類のドッキングストランドに対して相補的に結合してよい。
【0263】
前記蛍光物質は前記ドッキングストランド、前記ドナーストランド、又は前記フレットストランドの特定の塩基(base)、3’末端若しくは5’末端(end)、又は基本骨格(backbone)の上でドナー(donor)又はアクセプター(acceptor)として作用し得る。
【0264】
1つの実施形態において、前記キットは捕捉抗体をさらに含んでよい。
【0265】
本開示の1つの実施形態は、複数のバイオマーカーの同時検出のための方法であって、N種類のバイオマーカーを基板に付着させること、N種類のドッキングストランド(docking strand)と結合しているN種類の検出抗体をこれらのN種類のバイオマーカーに結合させること、ドナーストランド(donor strand)をこれらのN種類のドッキングストランドに結合させること、及びこれらのドッキングストランド又はドナーストランド上に標識として導入されている蛍光物質のFRET効率を測定することを含む前記方法を提供する。これらのFRET効率を利用して前記N種類のバイオマーカーを検知した後に単位面積当たりの前記バイオマーカーの数から前記バイオマーカーの濃度を測定する。
【0266】
1つの実施形態において、前記方法は蛍光物質で標識されているフレットストランド(FRET strand)を前記N種類のドッキングストランドに結合させることをさらに含んでよい。これらのフレットストランドは前記N種類のドッキングストランドに対して相補的であってよい。
【0267】
1つの実施形態において、前記方法は捕捉抗体を前記基板に付着させることをさらに含んでよい。
【0268】
例えば、以下の手法によってFRET効率を利用してターゲット物質を検出することが可能である。ドナーとアクセプターとの間に1塩基が存在するとき、このドナーとこのアクセプターとの間の間隔を「1」として定義する。ドナーとアクセプターを1、2、3、...nの間隔によってお互いから分離する2組以上のフレットペア(FRET pair)を形成する。データベースの構築のためにこれらの異なる間隔についてFRET効率を測定する。同じ種類のドッキングストランドは同じ種類の検出抗体に結合しており、異なる種類のドッキングストランドは異なる種類の検出抗体に結合している。N種類のFRETペアが、これらのドッキングストランド上に直接的に標識として導入されてもよい。その後、バイオマーカーを含有する試料との反応を進行させると特定のバイオマーカーが特定の検出抗体に結合する。この時点で前記ドナーと前記アクセプターから発せられた光の強度を測定してFRET効率を計算する。例えば、ドナー1として作用する蛍光物質で標識されている前記ドナーストランドが前記ドッキングストランドに結合するとき、励起されたドナー1から発せられた光を吸収するドナー2とアクセプターから成るFRETペアのFRET効率を測定できる。
【0269】
加えて、前記FRETペアは前記ドッキングストランド上ではなく前記フレットストランド上に標識として導入される。この場合、前記ドナーストランドと前記フレットストランドが前記ドッキングストランドに結合した時点でFRET効率を測定できる。これらの測定値を前記データベースに保存されている値と比較することにより検出に使用される前記検出抗体の種類を決定でき、かつ、前記バイオマーカーの種類を最終的に特定できる。
【0270】
図19~
図21は本開示の様々な実施形態による複数のバイオマーカーの同時検出のためのキットを模式的に示している。
【0271】
先ず、
図19に例示されているようにこのキットは、検出抗体、これらの検出抗体に結合しているN種類のドッキングストランド、及びこれらのドッキングストランドに対して相補的に結合するドナーストランドを含む構成を有する。このドナーストランド上に蛍光物質としてのドナー1が標識として導入されており、前記ドッキングストランド上にドナー2とアクセプター蛍光物質から成るFRETペアが標識として導入されている。このドナーストランドがこのドッキングストランドに結合した時点でFRET効率を測定できる。
【0272】
1つの実施形態において、前記キットはフレットストランド(FRET strand)をさらに含んでよい。この実施形態では光退色せずに残っている前記蛍光物質で標識されている前記ドナーとフレットストランドが繰り返し前記ドッキングストランドに結合及び解離し、この繰り返しの結合と解離の間にFRET効率を測定できる。
【0273】
図20に例示されているようにこのキットは、検出抗体、これらの検出抗体に結合しているN種類のドッキングストランド、これらのドッキングストランドに対して相補的に結合するドナーストランド、及びこれらのドッキングストランドのうちの特定のものに対して相補的に結合するフレットストランドを含む構成を有する。このドナーストランド上に蛍光物質としてのドナー1が標識として導入されており、このフレットストランド上にドナー2とアクセプター蛍光物質から成るFRETペアが標識として導入されている。このドナーストランドとこのフレットストランドの両方がこのドッキングストランドに結合した時点でFRET効率を測定できる。
【0274】
図21に例示されているようにこのキットは、検出抗体、これらの検出抗体に結合しているN種類のドッキングストランド、これらのドッキングストランドに対して相補的に結合するドナーストランド、及びこれらのドッキングストランドのうちの特定のものに対して相補的に結合するフレットストランドを含む構成を有する。このドナーストランド上に蛍光物質としてのドナー1が標識として導入されており、このフレットストランド上にドナー2、ドナー3、及びアクセプター蛍光物質から成るFRETペアが標識として導入されている。2種類以上の蛍光物質を使用するこのフレットストランドの標識により最も少ない可能な数の種類の蛍光物質を使用する複数のバイオマーカーの検出が可能になる。
【0275】
図22は本開示の1つの実施形態によるN種類のバイオマーカーの同時検出のためのキットを模式的に示している。
【0276】
図22に示されているようにこのキットは、検出抗体、これらの検出抗体に結合しているN種類のドッキングストランド、及びこれらのドッキングストランドに対して相補的に結合するドナーストランドを含む構成を有する。このドナーストランド上に蛍光物質としてのドナー1が標識として導入されており、前記ドッキングストランド上にドナー2とアクセプター蛍光物質から成るFRETペアが標識として導入されている。検出抗体1に結合している前記ドッキングストランド上に標識として導入されているドナー2と前記アクセプターはそれらの低いFRET効率からお互いに離れて位置している。検出抗体Nに結合している前記ドッキングストランド上に標識として導入されているドナー2と前記アクセプターはそれらの高いFRET効率からお互いに対して近くに位置している。
【0277】
前記N種類のバイオマーカーに結合した前記N種類の検出抗体に結合している前記ドッキングストランドから測定されたFRET効率が同じであることによって、これらの検出されたバイオマーカーの種類の特定が不可能になることが、この構成にする理由である。
【0278】
したがって、識別可能なFRET効率を取得するためには、標的バイオマーカーの数に相当するN種類の異なるドッキングストランドとN種類の異なるFRETペアを使用することが好ましい。これらのN種類のドッキングストランドに結合する前記ドナーストランドは、同じ種類であることが好ましい。
【0279】
具体的には、2種類以上の蛍光物質が前記ドッキングストランド上に直接的に標識として導入されているときに、これらの2種類以上の標識として導入されている蛍光物質の間に異なる数の塩基が存在してよい。より具体的には、異なるFRET効率を有しているFRETペアで、前記N種類のドッキングストランドを標識してよい。2種類以上の蛍光物質がフレットストランド上に標識として導入されているときに、これらの2種類以上の標識として導入されている蛍光物質の間に異なる数の塩基が存在してよい。より具体的には、異なるFRET効率を有しているFRETペアで前記N種類のフレットストランドを標識してよい。ここで前記ドッキングストランド又は前記フレットストランド上に標識として導入されている前記2種類以上の蛍光物質は、ドナー又はアクセプターとして作用してよい。
【0280】
図23は、本開示のその他の実施形態によるN種類のバイオマーカーの同時検出のためのキットを模式的に示している。
図23に例示されているように、このキットは、検出抗体、これらの検出抗体に結合しているN種類のドッキングストランド、これらのドッキングストランドに対して相補的に結合するドナーストランド、及びこれらのドッキングストランドのうちの特定のものに対して相補的に結合するフレットストランドを含む構成を有する。蛍光物質としてのドナー1が、このドナーストランド上に標識として導入されている。前記ドッキングストランドに対して相補的に結合したフレットストランド1上に標識として導入されているドナー2とアクセプターは、それらの低いFRET効率からお互いに離れて位置している。検出抗体Nに結合している前記ドッキングストランドに対して相補的に結合したフレットストランドN上に標識として導入されているドナー2と前記アクセプターは、それらの高いFRET効率からお互いに対して近くに位置している。この構成及び原理は、これらのFRETペアが前記ドッキングストランド上よりも、むしろ前記フレットストランド上に標識として導入されていることを除いて、
図22に示されている構成及び原理と同じである。
【0281】
図24は、本開示のその他の実施形態による複数のバイオマーカーの同時検出のためのキットを模式的に示している。
図24に例示されているように、このキットは、検出抗体、これらの検出抗体に結合しているN種類のドッキングストランド、これらのドッキングストランドに対して相補的に結合するドナーストランド、及びこれらのドッキングストランドのうちの特定のものに対して相補的に結合するフレットストランドを含む構成を有する。
図24に示されているように、2本のフレットストランド1-1及び1-2が1本のドッキングストランドに結合する。これらのドナーストランド上に蛍光物質としてのドナー1が標識として導入されており、前記検出抗体に結合している前記ドッキングストランドに対して相補的に結合したフレットストランド1-1及び1-2の各々の上に、ドナー2とアクセプターから成るFRETペアが標識として導入されている。これらのFRETペアは、異なるFRET効率を有するように標識として導入されることが好ましい。
【0282】
同じFRET効率を有するこれらのフレットストランドは、同じ配列を有してよい。したがって、1種類のフレットストランドが多くの種類のドッキングストランドに対して相補的に結合してよい。例えば、3種類のフレットストランドが0.25、0.5、及び0.75のFRET効率を有するようにデザインされている場合、バイオマーカー1が0.25及び0.5のFRET効率を有するようにデザインされており、バイオマーカー2が0.25及び0.75のFRET効率を有するようにデザインされており、そしてバイオマーカー3が0.5及び0.75のFRET効率を有するようにデザインされており、0.25のFRET効率を有する前記フレットストランドはバイオマーカー1及びバイオマーカー2に結合している前記ドッキングストランドに対して相補的に結合し、0.5のFRET効率を有する前記フレットストランドはバイオマーカー1及びバイオマーカー3に結合している前記ドッキングストランドに対して相補的に結合し、そして0.75のFRET効率を有する前記フレットストランドはバイオマーカー2及びバイオマーカー3に結合している前記ドッキングストランドに対して相補的に結合する。ここで前記N種類のドッキングストランドに対して相補的に結合する前記フレットストランドの種類の数はNよりも大きくなくてよい。
【0283】
図25は、本開示の別の実施形態による複数のバイオマーカーの同時検出のためのキット模式的に示している。
図25に例示されているように、このキットは、検出抗体、これらの検出抗体に結合しているN種類のドッキングストランド、これらのドッキングストランドに対して相補的に結合するドナーストランド、及びこれらのドッキングストランドのうちの特定のものに対して相補的に結合するフレットストランドを含む構成を有する。このドナーストランド上に蛍光物質としてのドナー1が標識として導入されており、前記検出抗体に結合している前記ドッキングストランドに対して相補的に結合したフレットストランド1の上に、ドナー2とアクセプターから成るFRETペアが標識として導入されている。ここでは、このドナーストランドとこのフレットストランドが相補的に結合する2か所以上の結合部位を前記ドッキングストランドの各々が有するように、前記ドッキングストランドを構築する。このドナーストランドとこのフレットストランドが1か所以上の結合部位に対して同時に結合するときにFRET効率を測定できるので、
図23の構造よりも少なくとも2倍速い急速分析がこの構造により可能になる。
【0284】
フレットペアが前記フレットストランド上よりも、むしろ前記ドッキングストランド上に標識として導入されているときでも同じ効果を実現することが可能である。
【0285】
前記ドッキングストランド又は前記フレットストランドは、複数のドナー又はアクセプターで標識されてよい。ここで、これらの2種類以上のドナーは前記アクセプターと異なる種類の蛍光物質であってよく、かつ、様々な種類の蛍光物質であってよい。あるいは、これらの2種類以上のアクセプターは、前記ドナーと異なる種類の蛍光物質であってよく、かつ、様々な種類の蛍光物質であってよい。
【0286】
一例として、1つの検出抗体に複数のドッキングストランドが付着する場合がある。これらのドッキングストランドは、同じ種類である。同じ種類のドナーストランドと同じ種類のフレットストランドが、各ドッキングストランドに結合する。この構造を
図26において模式的に示す。
【0287】
図26は、検出抗体、これらの検出抗体に結合しているN種類のドッキングストランド、これらのドッキングストランドに対して相補的に結合するドナーストランド、及びこれらのドッキングストランドのうちの特定のものに対して相補的に結合するフレットストランドを含むキットを示している。具体的には、2本以上のドッキングストランドが1つの検出抗体に結合していてよい。このドナーストランド上に蛍光物質としてのドナー1が標識として導入されており、検出抗体1に結合している前記ドッキングストランドに対して相補的に結合したフレットストランド1の上にドナー2とアクセプターから成るFRETペアが標識として導入されている。このドナーストランドとこのフレットストランドがこれらの2本以上のドッキングストランドのうちの1本に対して同時に結合するときにFRET効率を測定できるので、
図23の構造よりも2倍以上速い急速分析がこの構造により可能になる。すなわち、このキットが
図26に示されているときに達成される効果は、このキットが
図25に示されているときに達成される効果に類似している。フレットペアが前記フレットストランド上よりも、むしろ前記ドッキングストランド上に標識として導入されているときでも同じ効果を実現することが可能である。
【0288】
その他の例として、複数のバイオマーカーの同時検出のためのキットを提供するために
図25に示されている構造を
図26に示されている構造と組み合わせる場合がある。
【0289】
図27は、本開示の別の実施形態による複数のバイオマーカーの同時検出のためのキットを示している。このキットは、マイクロRNAの検出に適切である。このキットは、マイクロRNAを含むDNA及びRNAなどの核酸を検出する。各標的核酸の一方の末端に、基板上に塗布されている物質に対する結合親和性を有する物質を取り付けた後、又は各標的核酸の一部分に対して相補的な核酸を基板に前もって塗布した後にN種類の標的核酸を前記基板上に固定化する。これらのN種類の標的核酸の配列は既知であるため、これらの標的核酸に対して相補的なN種類のドナーストランドとフレットストランドを使用してこれらの核酸を特定できる。
【0290】
図28は、本開示の1つの実施形態に係るドナー1(Alexa Fluor 488)、ドナー2(Cy5)、及びアクセプター(Cy7)の吸収スペクトルと発光スペクトルを示している。
図28(a)は、これらの蛍光物質の吸収スペクトルを示している。例えば、
図28(a)中の黒色で垂直の破線は、ドナー1を励起するために使用される波長(488nm)を示している。ここでドナー1は励起されるが、ドナー2と前記アクセプターは励起されない。この場合、フレットによってエネルギーをドナー1から受け取ったときにのみドナー2と前記アクセプターが発光可能であるので、ドナー1で標識されている前記ドナーストランドが前記ドッキングストランドに結合したときにのみこれらのフレットペアのFRET効率が測定可能である。フレットストランドを使用するときでは前記ドナーストランドと前記フレットストランドが前記ドッキングストランドに対して同時に結合したときにのみこれらのフレットペアのFRET効率が測定可能である。
【0291】
図28(b)は、前記蛍光物質の発光スペクトルを示している。例えば、光学フィルター(dichroic mirror)を使用して、左と右の黒色で垂直の破線の間に規定される波長帯の中にある光の強度を統合することによりドナー2から発せられた光の明度を測定し、かつ、右の破線よりも長い波長帯の中にある光の強度を統合することにより、前記アクセプターから発せられた光の明度を測定する。このフレットペアのFRET効率は、ドナー2から発せられた光の明度と前記アクセプターから発せられた光の明度から計算可能である。ここで、ドナー1とドナー2との間のFRET効率が1に到達するようにし、そしてドナー1に由来するシグナルを光学フィルターによって除去した後に、ドナー2と前記アクセプターから発せられた光の強度だけを測定することが好ましい。
【0292】
加えて、前記ドナーストランド上に標識として導入されているドナー1と前記フレットストランド上に標識として導入されているドナー2との間の距離を変えることによりドナー1とドナー2との間のFRET効率を制御でき、ドナー1とドナー2から発せられた光の強度を測定することによりFRET効率を計算できる。この様にして複数のバイオマーカーを検出できる。
【0293】
図29は、本開示の1つの実施形態による複数のバイオマーカーの同時検出の原理を模式的に示している。
【0294】
N種類のバイオマーカーを基板の上にあるウェルに付着させ、N種類のドッキングストランドと結合しているN種類の検出抗体をこれらのN種類のバイオマーカーに結合させ、そしてドナーストランドを含有する緩衝液(buffer)でこれらのウェルを満たす。これらのドナーストランドはこれらのウェルの中で前記ドッキングストランドに対して相補的に結合する。これらのフレットペアから発せられた光の強度を測定してFRET効率を決定し、かつ、前記複数のバイオマーカーを判別する。光学フィルター(dichroic mirror)を使用して異なる波長の光の強度を測定することにより、又はプリズム若しくは格子を使用して蛍光物質の相対スペクトル強度を測定することにより、これらのFRET効率を計算できる。
【0295】
図29は、光学フィルター(dichroic mirror)を使用して、ドナー2とアクセプターから発せられた光の強度を測定するための手法を示している。
【0296】
図29(a)では、2種類のバイオマーカー1及び2が基板上に固定化されている。ドッキングストランド1と結合している検出抗体1がバイオマーカー1に結合しており、ドッキングストランド2と結合している検出抗体2はバイオマーカー2に結合している。
図29(b)は、ドナーストランドがドッキングストランド2に結合し、結果としてFRETペアが発光する状態を示している。ドナー2と前記アクセプターから発せられた光の明度値を測定してバイオマーカー2に対するFRET効率を計算する。
図29(c)は、前記ドナーストランドがドッキングストランド2から解離し、結果として前記フレットペアが発光しない状態を示している。
図29(d)は、前記ドナーストランドがドッキングストランド1に結合し、結果として前記FRETペアが発光する状態を示している。ドナー2と前記アクセプターから発せられた光の明度値を測定して、バイオマーカー1に対するFRET効率を計算する。
図29(e)は、前記ドナーストランドがドッキングストランド1から解離し、結果として前記フレットペアが発光しない状態を示している。
図29(f)は、前記ドナーストランドが再びドッキングストランド1に結合し、結果として前記フレットペアが発光する状態を示している。この場合もまた、ドナー2と前記アクセプターから発せられた光の明度値を測定して、バイオマーカー1に対するFRET効率を計算する。この観察領域中の全てのバイオマーカーに対するFRET効率が、各々1回又は複数回測定されるまでこの手順を継続する。その後、これらのFRET効率を利用して、前記バイオマーカーの種類を判別し、かつ、単位面積当たりの前記バイオマーカーの数から前記バイオマーカーの濃度を決定する。
【0297】
前記ドナーストランドの前記ドッキングストランドへの結合と前記ドッキングストランドからの解離にかかる時間は、前記ドナーストランドの種類(DNA、RNA、PNA等)、前記ドッキングストランドに結合する前記ドナーストランドの長さ、及び前記緩衝液のイオン濃度の変更により制御可能である。前記ドナーストランドが前記ドッキングストランドの大半に結合するように時間を延長することができ、これが測定時間の減少に寄与する。一方、この時間を短縮すると前記ドナーストランドは、前記ドッキングストランドの大半に結合しない。フレットペアが発光するように、前記ドナーストランドが前記ドッキングストランドのうちの1つに一時的に結合する場合、隣接するドッキングストランドの大半は発光しない。したがって、他のフレットペアに干渉されずにFRET効率を測定でき、結果として10nm未満の高い精度でこのフレットペアの位置を測定できる。さらに、1つの画像の中で多数のバイオマーカーを同時に測定でき、これにより高ダイナミックレンジ(dynamic range)が確保される。同じことがフレットストランドにも当てはまる。前記ドナーストランドの解離にかかる時間は数秒ほどの短い時間にまで短縮されることが好ましく、前記フレットストランドの解離にかかる時間は、数秒ほどの長い時間にまで延長されることが好ましい。
【0298】
前記ドッキングストランドへの前記ドナーストランド又はフレットストランドの結合速度が比例する前記ドナーストランド又はフレットストランドの濃度を上昇させることにより分析速度を上昇させることができる。
【0299】
図30は、本開示の1つの実施形態に係るドナーストランドが、様々な濃度で記録された蛍光像を示している。
図28(b)に示されているように、ドナー1のスペクトルはドナー2のスペクトルと部分的に重なり合っている。この重複領域はドナー2から発せられた光の明度の測定に影響を及ぼす。画像カメラを使用してドナー2から発せられた光の明度を測定した。これが
図30に示されている。
図30の(a)、(b)、及び(c)は、それぞれ緩衝液中に、100nM、500nM、及び1000nMの濃度で前記ドナーストランドが存在するときに記録された画像である。
図30に示されているように、ドナー2の画像中のバックグラウンドノイズは前記ドナーストランドの濃度が上昇すると共に増加し、ドナー2から発せられた光の明度の測定の正確性を悪化させた。すなわち、前記ドナーストランドの濃度が上昇すると共に分析速度が上昇したが、FRET効率の測定の正確性が低下した。速度と正確性に関する必要条件を満たすために緩衝液中の前記ドナーストランドの濃度を1nM~1μMに調節することが好ましい。
【0300】
別例として、複数のフレットストランドが、1本のドッキングストランドに結合する場合がある。この場合、このドッキングストランドに結合するドナーストランドの数はこれらのフレットストランドの数と同じであってよい。これらの複数のフレットストランドの上に標識として導入されているアクセプターが同じ種類であるとき、同じ種類又は異なる種類のドナーを標識として導入してよい。ここでこれらのドナーの種類は、これらのアクセプターの種類とは異なることが好ましい。
【0301】
具体的には、複数のフレットストランドが1本のドッキングストランドに結合するときにこれらのフレットストランド上に標識として導入されているドナー及びアクセプターは以下の4通りの組合せでこれらのフレットストランド上に標識として導入されている場合がある。
i)前記複数のフレットストランド上に標識として導入されているドナーは同じ蛍光物質であってよく、前記複数のフレットストランド上に標識として導入されているアクセプタも同じ蛍光物質であってよい。
(ii)前記複数のフレットストランド上に標識として導入されているドナーは異なる蛍光物質であってよく、前記複数のフレットストランド上に標識として導入されているアクセプターは同じ蛍光物質であってよい。
iii)前記複数のフレットストランド上に標識として導入されているドナーは同じ蛍光物質であってよく、前記複数のフレットストランド上に標識として導入されているアクセプターは異なる蛍光物質であってよい。
iv)前記複数のフレットストランド上に標識として導入されているドナーは異なる蛍光物質であってよく、前記複数のフレットストランド上に標識として導入されているアクセプターも異なる蛍光物質であってよい。
【0302】
前記蛍光物質は前記鎖の特定の塩基(base)、3’末端若しくは5’末端(end)、又は基本骨格(backbone)の上で、ドナー又はアクセプターとして作用してよい。ドナー又はアクセプターとして作用する前記蛍光物質は、FRET効率の測定のために、前記ドッキングストランド、前記ドナーストランド、又は前記フレットストランドの特定の塩基の上に標識として導入されていることが好ましい。
【0303】
本開示において使用される前記試料は、血液、血清、血漿、唾液、組織液、及び尿からなる群より選択可能であるが、診断の種類又は性質に応じて標的バイオマーカーを含んでいる限り特に限定されない。
【0304】
アクセプターシグナルの観察により2種類以上のバイオマーカーを検出するためのFRET-PAINTでは、1種類のドナーストランドが導入され、このドナーストランドに対して相補的なドッキングストランドが発見及び洗浄され、そしてこの処理がN回繰り返される。全測定時間はN分程度である(一種当たり1分程度であり、Nは数百から数千である)。数百nMの濃度のドナーストランドがN回使用され、これは経済効率の点で不利である。
【0305】
対照的に、上述した本開示の方法によると、アクセプターストランドの配列よりもむしろアクセプターストランドのFRET効率を利用してターゲット物質が識別されるので、同じ種類のドナーストランドの使用が可能であり、新しいドナーストランドの導入と洗浄の必要性が回避される。全測定時間は約1分まで短縮可能であり、数百nMの濃度のドナーストランドが1回だけ消費される。
【0306】
1本のアクセプターストランドによって、10のFRET効率が識別可能であるので、ターゲットの数に応じてアクセプターストランドの数を増やすことができる。しかしながら、1本のアクセプターストランドで識別可能なターゲットの数が10であるとき、2本のアクセプターストランドで識別可能なターゲットの数は100ではなく55である。この様に3本のアクセプターストランドで識別可能なターゲットの数は220ではなく1000であり、4本のアクセプターストランドで識別可能なターゲットの数は715ではなく10000である。これの理由は、0.1及び0.2のFRET効率に適合するターゲット1と0.1及び0.3のFRET効率に適合するターゲット2は互いに識別可能であるが、0.1及び0.2のFRET効率に適合するターゲット1と0.2及び0.1のFRET効率に適合するターゲット2はお互いに識別可能ではないことである。
【0307】
N種類の共通ドナーストランドを使用することにより上記の問題が解決可能である。例えば、共通ドナーストランドが使用される場合、0.1及び0.2のFRET効率に適合するターゲット1は0.2及び0.1のFRET効率に適合するターゲット2と識別できない。対照的に、主ドナーストランドが導入されるとターゲット1及びターゲット2についてそれぞれ0.1及び0.2が測定される。副ドナーストランドが導入されるとターゲット1及びターゲット2についてそれぞれ0.2及び0.1が測定される。したがって、ターゲット1及びターゲット2はお互いに識別可能である。すなわち、N種類の共通ドナーストランドが使用されるときにドナーストランドがN回だけ導入され、測定後に洗浄が繰り返され、そして10N種類のターゲット物質、例えば、100種類(N=2)、1000種類(N=3)、及び10000種類(N=4)のターゲット物質が測定され得る。
【0308】
上記のように、FRET効率を使用して2種類以上のバイオマーカーを同時に検出し、かつ、少量の試料の中に低濃度で存在するバイオマーカーの種類を識別することが可能である。蛍光物質で標識されているこれらの鎖はお互いに一時的に結合する傾向がある。したがって、ドナー又はアクセプターとして作用する蛍光物質に光退色が起きたときでも光退色せずに残っている蛍光物質で標識されているドナーストランド又はフレットストランドがドッキングストランドに結合し、結合と解離を繰り返している間にFRET効率を測定でき、これにより光退色が起こるか否かに関係なくN種類のバイオマーカーの同時検出が可能になる。
【0309】
前記フレットストランド上に標識として導入されている前記蛍光物質は、前記ドナーストランドと前記フレットストランドが前記ドッキングストランドに対して同時に結合したときにのみ発光する。一方、フレットストランドを使用しないときに前記ドッキングストランド上に標識として導入されている前記蛍光物質は、このドナーストランドがこのドッキングストランドに結合したときにのみ発光する。したがって、隣接する蛍光物質に干渉されずにこの一時的に発光する蛍光物質を測定でき、結果として10nm未満の高い精度で前記蛍光物質の位置を測定できる。さらに、1つの画像の中で多数のバイオマーカーを同時に測定でき、これにより高ダイナミックレンジ(dynamic range)が確保される。
【0310】
本開示の方法を用いるN種類のバイオマーカーの検出について、以下の実施例を参照してさらに詳細に説明する。
【0311】
本開示の別の態様は、異なる種類の蛍光物質間のフレット(FRET)による発光スペクトルの測定に基づく、N種類のバイオマーカーの同時検出及び同時特定のためのキット及び方法を提供する。
【0312】
本開示によると、同じ組合せのアクセプター蛍光物質が種々のアクセプターストランド上に標識として導入されているが、これらのアクセプターストランド間の距離が異なるのでこれらのアクセプターストランドのFRET効率によってターゲットを識別できると判断されている。
【0313】
対照的に、異なる組合せのアクセプター蛍光物質が種々のアクセプターストランド上に標識として導入されており、これらのアクセプターストランドのFRET効率によってターゲットを識別できると判断されている。例えば、ターゲット1がアクセプター1とアクセプター2で標識されており、かつ、ターゲット2がアクセプター1とアクセプター5で標識されている場合、ターゲット1のスペクトルはターゲット2のスペクトルから識別される。したがって、種々のアクセプターが同時に発光し得るので全てのドナーとアクセプターをドッキングストランド上に標識として導入してよい。これらのドナーが励起されると全てのアクセプターが蛍光シグナルを発するので全測定時間をわずか数秒にまで短縮でき、かつ、これらのドナーストランドを使用する必要を回避でき、これは経済的に望ましい。
【0314】
1つの実施形態において、前記キットは基板、2種類以上の蛍光物質で標識されているN種類のドッキングストランド(docking strand)、及びこれらのドッキングストランドと結合しているN種類の検出抗体を含む。
【0315】
その他の実施形態では、前記キットは基板、1種以上の蛍光物質で標識されているN種類のドッキングストランド(docking strand)、これらのドッキングストランドと結合しているN種類の検出抗体、及び1種以上の蛍光物質で標識されているドナーストランド(donor strand)を含む。
【0316】
別の実施形態では前記キットは基板、N種類のドッキングストランド(docking strand)、これらのドッキングストランドと結合しているN種類の検出抗体、1種以上の蛍光物質で標識されているドナーストランド(donor strand)、及び1種以上の蛍光物質で標識されているアクセプターストランド(acceptor strand)を含む。
【0317】
上記の実施形態の各々において、前記蛍光物質は、前記ドッキングストランド、前記ドナーストランド、又は前記アクセプターストランドの特定の塩基(base)、3’末端若しくは5’末端(end)、又は基本骨格(backbone)の上でドナー(donor)又はアクセプター(acceptor)として作用してよい。
【0318】
前記実施形態によるキットは、異なる種類の蛍光物質間のフレット(FRET)による発光スペクトルを測定して、N種類のバイオマーカーを同時に判別できる。
【0319】
前記ドッキングストランドは、前記ドナーストランド又は前記アクセプターストランドと相補的に結合可能である。
【0320】
1つの実施形態において、前記キットの各々は捕捉抗体をさらに含んでよい。
【0321】
本開示の1つの実施形態による複数のバイオマーカーの同時検出のための方法は、N種類のバイオマーカーを基板に付着させること、N種類のドッキングストランドと結合しているN種類の検出抗体をこれらのN種類のバイオマーカーに結合させること、及びこれらのドッキングストランドの発光スペクトルを測定することを含む。ここで異なる蛍光物質間のFRETにより発光スペクトルを測定して前記N種類のバイオマーカーを同時に判別し、その後で単位面積当たりの前記バイオマーカーの数から試料中の前記バイオマーカーの濃度を測定する。
【0322】
本開示の1つの実施形態による複数のバイオマーカーの同時検出のための方法は、N種類のバイオマーカーを基板に付着させること、N種類のドッキングストランド(docking strand)と結合しているN種類の検出抗体をこれらのN種類のバイオマーカーに結合させること、ドナーストランドをこれらのN種類のドッキングストランドに結合させること、及び発光スペクトルを測定することを含む。ここで異なる蛍光物質間のフレット(FRET)により発光スペクトルを測定して前記N種類のバイオマーカーを同時に判別し、その後で単位面積当たりの前記バイオマーカーの数から試料中の前記バイオマーカーの濃度を測定する。
【0323】
1つの実施形態において、前記検出方法は、前記蛍光物質で標識されているアクセプターストランドを、前記ドッキングストランドに結合させることをさらに含んでよい。
【0324】
1つの実施形態において、前記検出方法は、捕捉抗体を前記基板に付着させることをさらに含んでよい。
【0325】
本開示に係るキットと検出方法によると、前記ドッキングストランド又は前記ドナーストランド又は前記アクセプターストランド上に標識として導入されている2種類以上の蛍光物質の共鳴により誘導されるFRETに基づいて発光スペクトルを測定して、複数のバイオマーカーを同時に検出することができる。
【0326】
前記検出抗体は、抗原抗体反応に基づく検出に使用される。前記検出抗体の種類の数は、検出対象とするバイオマーカーの種類の数と同じであることが好ましい。前記N種類のドッキングストランド上に標識として導入されている前記ドナーか前記アクセプターのどちらかは同じ種類であり、これは検出キットの構成を簡単にするために好ましい。具体的には、前記N種類のドッキングストランド上に標識として導入されている前記ドナーが同じ種類であるときに、N種類のバイオマーカーを特定するために他の光源を使用せずに、わずかに1つの光源と光学フィルターを使用して前記ドッキングストランドの発光スペクトルを測定できる。より具体的には、前記ドナーとしての蛍光物質の発光スペクトルが前記アクセプターとして作用する蛍光物質の吸収スペクトルと所定の波長域において重複(overlap)するときにフレット(FRET)が起こる。
【0327】
例えば、
図31に示されているように、同じ種類のドナーで標識されている前記ドッキングストランドが検出抗体1~Nに結合しており、かつ、アクセプター1~Nが前記ドッキングストランド上に標識として導入されているとき、同じ種類のドナーは初回の照射のためにわずかに1つの光源を励起する。発光スペクトルは前記アクセプターとして作用する前記蛍光物質の種類に応じて変化するので、光の測定スペクトルの決定により前記アクセプターの種類を特定できる。検出抗体Nに結合しているドッキングストランドNのアクセプターNによる標識が前記アクセプターで標識されている前記検出抗体の特定、及び前記検出抗体に対する結合親和性を有するバイオマーカーの種類の特定を可能にする。
【0328】
図32に示されているように、検出抗体1~Nに結合しているドッキングストランドが同じ種類のドナーと同じ種類のアクセプターで標識されていてよい。これらのドナーとこれらのアクセプターとの間の距離は、
図32の(a)、(b)、及び(c)に示されているように変化する。これらのドナーとこれらの前記アクセプターを使用することにより
図32の右のスペクトルに示されているようにFRET効率によるスペクトルの差に基づく複数のバイオマーカーの同時検出が可能になる。
【0329】
あるいは、
図33に示されているように、同じ種類のアクセプターと2種類以上のドナーを、検出抗体に結合しているドッキングストランド上に標識として導入してもよい。前記ドナーとして作用する2種類以上の蛍光物質のスペクトル(破線)が重複する(
図33の右のスペクトル参照)ので、これらの2種類以上の蛍光物質は1つの光源によって励起可能である。さらに、発光スペクトル(実線)は明確に識別可能である。まとめると、同じ種類のドナーを使用するよりも2種類以上のドナーを使用するほうが、より多種類のバイオマーカーの検出が可能になる(
図31又は
図32参照)。
【0330】
その他の例として、
図34a~
図34cに示されているように、検出抗体に結合しているドッキングストランド上に同じ種類のドナーと2種類以上のアクセプターを標識として導入する場合がある。
【0331】
これらの標識された2種類以上のアクセプターは、
図34aに示されているようにお互いに隣接してアクセプターアクセプターフレットペアを形成してよく、又は
図34bに示されているようにお互いに隣接してドナーアクセプターフレットTペアを形成してよい。これらのアクセプターアクセプターフレットペア内のこれらの標識されたアクセプター間の距離を変えることにより、バイオマーカーの種類を特定できる。
図34cは
図34aに示されるような同じ種類のドナーと5種類のアクセプターで前記アクセプターアクセプターフレットペアを標識することによる多重検出の結果を示している。具体的には、
図34cは、下から順に(アクセプター1、アクセプター2)、(アクセプター1、アクセプター3)、(アクセプター1、アクセプター4)、(アクセプター1、アクセプター5)、(アクセプター2、アクセプター3)、(アクセプター2、アクセプター4)、(アクセプター2、アクセプター5)、(アクセプター3、アクセプター4)、(アクセプター3、アクセプター5)、及び(アクセプター4、アクセプター5)というフレットペアで標識されているドッキングストランドから発光した光のスペクトルを示している。すなわち、測定されたスペクトルに基づいて、これらのドッキングストランドの種類を明確に識別でき、結果としてこれらのドッキングストランドに使用されている前記アクセプターアクセプターフレットペアの種類を決定してこれらの検出されたバイオマーカーの種類を特定できる。
【0332】
本開示に係る前記実施形態によるキットは、単独で使用してもよく、約1000種類のバイオマーカーの多重検出及び多重特定のためにそれらのキットを組み合わせて使用してもよい。
【0333】
1本のドッキングストランドに対して同じ2種類以上の蛍光物質を2組以上組み合わせることで、シグナル強度が2倍以上増強し得る。
【0334】
図35a及び
図35bは、本開示の例となる実施形態による複数のバイオマーカーの同時検出のための方法を示している。これらの方法によるとN種類の検出しようとするバイオマーカーは、これらのバイオマーカーに特異的に結合するN種類の検出抗体に結合しているN種類のドッキングストランドの様々な発光スペクトルの測定によって特定可能である。
【0335】
先ず、バイオマーカーを基板上に固定化し、検出抗体と結合させる。N種類の捕捉抗体をこの基板に前もって取り付けてもよい。この場合、N種類の捕捉抗体が対応するバイオマーカーに特異的に結合することが好ましい。しかしながら、これは単に例示であり、急速で、経済的、かつ、簡便な測定のために、前記基板にこれらのバイオマーカーが直接的に付着してもよい。必要であれば測定結果の正確性をさらに高めるために、前記基板に取り付けられた捕捉抗体を使用して抗原抗体反応を介してこれらのバイオマーカーを検出してもよい。
【0336】
基板表面に、検出しようとするバイオマーカーを直接的に付着させてよい。あるいは、前記捕捉抗体がバイオマーカーを捕捉するために基板表面に取り付けられるように前記基板を表面修飾してよい。前記基板を前記捕捉抗体に特異的に結合可能な物質で被覆することが好ましい。具体的には、前記捕捉抗体に対して特異的であり、かつ、前記検出抗体又は鎖に対して非特異的である物質で前記基板を被覆することが好ましい。
【0337】
前記捕捉抗体をpH9.5で0.06Mの炭酸緩衝溶液又は重炭酸緩衝溶液で希釈し、かつ、この希釈物を前記基板と所定の温度、所定の時間にわたって接触させることによりこれらの捕捉抗体を前記基板に付着させてよい。前記基板の表面をビオチン(biotin)化PEG(polyethylene glycol)又はBSA(bovine serum albumin)で被覆し、この被覆基板にストレプトアビジン(streptavidin)を結合し、そしてこのストレプトアビジン結合基板にビオチン化捕捉抗体を結合することにより前記捕捉抗体を前記基板に吸着させてもよい。その後、前記基板を生試料又は処理済み試料で処理する。前記基板に吸着した捕捉抗体は前記試料中の前記バイオマーカーと複合体を形成する。さらに、非特異的に結合した抗体又は混入汚染物質の除去のためにツイーン20又はトリトンX-100などの洗浄緩衝液でこれらの複合体を洗浄することが好ましい。
【0338】
上記のように、前記捕捉抗体、又は前記基板に塗布された前記物質を介して、前記基板にN種類のバイオマーカーが固定化され、前記検出抗体を前記バイオマーカーに結合させる。その後、ドッキングストランドの発光スペクトルを測定し、データベースに保存されている以前に測定された発光スペクトルと比較して対応するバイオマーカーを特定する。画像中の単位面積当たりの前記バイオマーカーの数を様々な濃度で以前に測定された単位面積当たりの前記バイオマーカーの数と比較することにより、前記バイオマーカーの濃度を測定できる。光源からの光の照射によりドナーを励起すると、
図35aに示されているように各分子の発光スペクトルを画像中に観察し、データベースに保存されている以前に測定された発光スペクトル(A、B、C等)と比較してどのバイオマーカーがこの画像中に観察された各分子に対応するか特定する(例えば、スペクトル形状がAのときはバイオマーカー1、スペクトル形状がBのときはバイオマーカー2、そしてスペクトル形状がCのときはバイオマーカー3)。その後、画像中の単位面積当たりの前記バイオマーカーの数を測定し、その数を様々な濃度で以前に測定された単位面積当たりの前記バイオマーカーの数と比較することにより、前記試料中の各バイオマーカーの濃度を測定できる。例えば、所定の濃度(ng/ml)における以前に測定された単位面積当たりのバイオマーカー1の数が10であり、かつ、実際に測定された単位面積当たりのバイオマーカー1の数が5であるとき、前記試料中のバイオマーカー1の濃度は0.5ng/mlである。
【0339】
図35bは、発光スペクトルを測定するための例となる方法を示している。例えば、一般的な顕微鏡を使用して様々な種類の蛍光物質を観察すると、左側の図に示されているように、発光スペクトルと無関係に円形の点像強度分布(point spread function;PSF)が観察される。しかしながら、光路(optical path)上に、プリズム(prism)又は格子(grating)等の波長依存的な光路差を引き起こす光学要素を使用することによって、各蛍光物質の円形の点像強度分布を楕円形の点像強度分布に変形できる。元の円の中心をこの楕円の中心と比較し、かつ、この楕円の長軸に沿ってプロファイル分析することにより発光スペクトルを測定できる。この測定された発光スペクトルをデータベースに保存されている以前に測定された発光スペクトルと比較して、対応する分子の構成蛍光物質を決定する(「Ultrahigh-throughput single-molecule spectroscopy and spectrally resolved super-resolution microscopy」、Zhengyang Zhang, Samuel J Kenny、Margaret Hauser、Wan Li & Ke Xu著、Nature Methods誌、第12巻(2015年)、935~938頁を参照)。
【0340】
1つの実施形態において、前記検出抗体に結合している前記ドッキングストランドがドナーストランド又はアクセプターストランドに対して相補的に結合してよい。
【0341】
この実施形態では前記ドナーストランドはドナーで標識されており、前記アクセプターストランドは、1種以上のアクセプター又はアクセプターアクセプターフレットペアで標識されている。前記ドッキングストランドが2種類以上のアクセプターで直接的に標識されているとき、
図36aに示されているように前記ドナーストランドはそれらの標識領域に隣接する部位に対して相補的に結合できる。その結合時にフレットが起こり、結果として前記アクセプターが発光できる。前記ドッキングストランドが蛍光物質で標識されていないとき、
図36bに示されているように前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドが繰り返し前記ドッキングストランドに結合及び解離する。したがって、前記アクセプターは前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドが前記ドッキングストランドに対して同時に結合したときにのみ発光し、それらの発光スペクトルが測定され得る。この理由から、幾つかの蛍光物質で光退色が起こっているときでも所定の反応時間が許されるとすれば、光退色していない蛍光物質で標識されている前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドが前記ドッキングストランド同時に結合した時点で発光スペクトルを測定できる。さらに、前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドが前記ドッキングストランドに対して同時に結合した時点で、発光スペクトルを測定及び記録できる。これにより、前記バイオマーカーの種類に対応する多くの像が1つの画像の中に同時に出力され、前記バイオマーカーの特定を困難にするという問題に対する解決策を提供できる。
【0342】
図37は
図36bに示されているドナーストランドとアクセプターストランドを含む前記検出キットを使用してバイオマーカーの種類を特定するための例となる方法を示している。
【0343】
先ず、N種類のバイオマーカーを検出しようとするとき、N種類のドッキングストランド及びこれらのドッキングストランドに対して相補的に結合するドナーストランドとアクセプターストランドをデザインし、これらのストランドの発光スペクトルを前もって測定してデータベースを構築する。検出抗体1~Nをそれぞれバイオマーカー1~Nに結合させ、ドッキングストランド1~Nをそれぞれ検出抗体1~Nに結合させる。
【0344】
前記データベースの記録完了後に、前記バイオマーカーを基板上に固定化する。以下のように、前記検出しようとするバイオマーカーの種類に適した前記ドッキングストランドを使用して前記バイオマーカーを特定する。対応するバイオマーカーに前記検出抗体を結合させ、そして前もって構築した前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドを所定の時間にわたって繰り返し前記ドッキングストランドに結合及び解離させる。前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドが1本のドッキングストランドに対して同時に結合すると、
図37に示されているように画像中にシグナルが表示される。対応するシグナルのスペクトルを分析し、前記データベースに記録されている以前に測定されたスペクトルと比較してバイオマーカーの種類を特定する。これらのシグナルが各画像上で検出される位置が累積的に表示され、1つのバイオマーカー分子によって繰り返し発せられるシグナルがガウス関数(Gaussian function)の形態で、特定の位置の周りに集団を形成する。1集団を1バイオマーカー分子とみなすことによって、単位面積当たりの前記バイオマーカーの数を計算し、様々な濃度で以前に測定された単位面積当たりの前記バイオマーカーの数との比較によって、前記試料中の前記バイオマーカーの濃度を測定できる。
【0345】
図31~
図34に示されている構造のうちの1つ、又はそれらのうちの2つ以上から成る組合せについて、前記ドナーストランド上にドナーを標識として導入し、かつ、前記ドッキングストランド又は前記アクセプターストランド上にアクセプターを標識として導入することにより約1000種類のバイオマーカーを判別できる。例えば、
図38aに示されているように複数のドナーストランドと複数のアクセプターストランドが、1本のドッキングストランドに対して相補的に結合する。この組合せによって、
図36bの構造によって検出されるバイオマーカーと同じ種類のバイオマーカーの検出が可能になる。前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドに対して相補的に結合する2か所以上の部位が前記ドッキングストランドに存在するため、前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドがそれらの部位のうちのいずれか1つに対して同時に結合する限り発光スペクトルが測定可能である。したがって、前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドの結合と解離が繰り返されることが、前記ドッキングストランドへ結合する確率を上げ、これにより2倍以上速い検出が達成される。
【0346】
この場合、前記複数のドナーストランド上に種々のドナーを標識として導入してよい。隣接するアクセプター又はアクセプターアクセプターフレットペアが異なるFRET効率のために種々の距離で存在するように、前記複数のドナーストランドの各々をドナーで標識してよい。前記アクセプター又は前記アクセプターアクセプターフレットペアは異なる蛍光物質から構成されてよい。異なるFRET効率のために、前記ドナーから種々の距離で存在するように、前記複数のアクセプター又はアクセプターアクセプターフレットペアを標識として導入してよい。前記アクセプターが異なるFRET効率のために種々の距離で存在するように、前記アクセプターアクセプターフレットペアを標識として導入してよい。
【0347】
図38aに示されている効果と類似する効果を得る方法として、
図38bに示されているように、同じ構造を有するドッキングストランドがバイオマーカーのより短時間での検出のために1つの検出抗体に結合していてよい。
【0348】
図38a及び
図38bに示される構造の組合せとして、複数のドナーストランドと複数のアクセプターストランドが相補的に結合し得る2種類以上のドッキングストランドが1つの検出抗体に結合していてよい。この組合せによってバイオマーカーの検出率がさらに上昇し得る。
【0349】
本開示に係る1つの実施形態による複数のバイオマーカーの同時検出のためのキットを、
図39に示されているように使用してマイクロRNAを検出できる。
【0350】
図39は、マイクロRNAを含むDNA及びRNAなどの核酸を検出するための例となるキットを示している。各標的核酸の一方の末端に、基板上に塗布されている物質に対する結合親和性を有する物質を取り付けた後、又は各標的核酸の一部分に対して相補的な核酸を基板に前もって塗布した後にN種類の標的核酸を前記基板上に固定化する。これらのN種類の標的核酸の配列は既知であるため、これらの標的核酸に対して相補的なN種類のドナーストランドとアクセプターストランドを使用してこれらの核酸を特定できる。
【0351】
DNA、RNA、PNA、LNA、MNA、GNA、若しくはTNAなどの核酸又は核酸の類縁体を、ドッキングストランド、ドナーストランド、又はアクセプターストランドとして使用できる。さらに、
図31~
図34に示されているようなドナーストランドとアクセプターストランドの使用を省いてもよい。この場合、前記ドッキングストランドはポリペプチド又は炭水化物であってよい。
【0352】
ドナー又はアクセプターから発せられた光の強度は前記ドナーと前記アクセプターとの間の距離によって影響されることがあるが、所望の特定の塩基、3’末端若しくは5’末端、又は骨格の上に前記ドナーと前記アクセプターの各々を標識として導入してドナーアクセプター間距離又はアクセプターアクセプター間距離を制御することにより異なるFRET効率を有するドッキングストランドを構築できる。
【0353】
例えば、異なるFRET効率を有する蛍光物質がN種類のドッキングストランド上に標識として導入されており、これらのドッキングストランドの発光スペクトルをデータベース構築のために前もって測定し、これらの発光スペクトルをバイオマーカー検出のための反応時に生成した発光スペクトルと比較し、その結果としてこれらのバイオマーカーの種類を検出できる。異なるFRET効率を有する前記蛍光物質は(ドナー1、アクセプター1)、(ドナー1、アクセプター2)、...、(ドナー1、アクセプターN)、...、(ドナー1、アクセプター1)、(ドナー2、アクセプター1)、...、(ドナーN、アクセプター1)から成ってよい。異なるFRET効率を有する前記蛍光物質は同じドナーで標識されているドッキングストランド上の(アクセプター1、アクセプター2)、(アクセプター1、アクセプター3)、(アクセプター2、アクセプター3)、...などの2種類以上の異なるアクセプターから成ってよい。
【0354】
異なるFRET効率を有する前記蛍光物質の前記組合せは単に例示であり、検出時にFRET効率が識別されるほど充分に異なる限り、それらの組合せは特に限定されない。
【0355】
本開示に係る1つの実施形態によると、前記方法の各々は前記N種類のドッキングストランドの発光スペクトルを測定してデータベースを構築することをさらに含んでよい。検出するための反応の前に上記の構造のうちの1又は複数の構造を有するようにドッキングストランドをデザインし、データベースを構築するためにそれらのドッキングストランドの発光スペクトルを測定、かつ、検出に使用される検出抗体の種類を決定するための反応時に測定された値と比較し、そして最終的に前記バイオマーカーの種類を特定できる。
【0356】
N種類のバイオマーカーの検出のためには、発光スペクトルを同時又は連続的に測定してよい。例えば、3種類のバイオマーカーを検出しようとするとき、ドナーストランドは検出抗体1、2、及び3に結合しているドッキングストランド1、2、及び3に対して同時又は連続的に相補的結合を行う。アクセプターがこれらのドッキングストランド上に直接的に標識として導入されているとき、これらのドナーストランドが、前記ドッキングストランドに対して一時的に結合したときにのみ発光スペクトルが測定可能である。アクセプターストランド1、2、及び3をさらに使用するとき、これらのドナーストランドは、繰り返しアクセプターストランド1、2、及び3に対して同時又は連続的に結合及び解離を行う。結合と解離を繰り返している間は、これらのドナーストランドが前記ドッキングストランドのうちのいずれか1つに対して同時に結合したときにのみ発光スペクトルが測定可能である。換言すると、これらのドナーストランドとアクセプターストランド1がドッキングストランド1に対して同時に結合したときにのみ、ドッキングストランド1の発光スペクトルが測定可能である。対照的に、アクセプターストランド1がドッキングストランド1に結合した時点でこれらのドナーストランドがドッキングストランド2又は3にのみ結合する場合、ドッキングストランド1の発光スペクトルを測定できない。すなわち、N種類のバイオマーカーの検出のために発光スペクトルが同時又は連続的に測定可能であり、それらの測定値を前記データベースに保存されている値と比較して前記N種類のバイオマーカーを同時に判別する。
【0357】
本開示によるとフレットに基づいて、N種類のバイオマーカーを同時に検出でき、かつ、少量の試料の中に低濃度で存在するバイオマーカーの種類を先に説明したように識別できる。具体的には、本開示によれば、蛍光物質で標識されている鎖の発光スペクトルをエネルギー共鳴に基づいて測定してバイオマーカーの種類を特定できる。さらに、ドナーとして作用する複数の蛍光物質を等しく標識として導入することにより、1つの光源で複数のバイオマーカーを特定でき、これにより追加の光源及び光学フィルターの必要性が回避される。このことは簡単な構成に貢献し、かつ、測定する必要がある発光スペクトルが追加の光学フィルターのために失われることを防止する。
【0358】
さらに、ドナー及びアクセプターで標識されている鎖がお互いに一時的に結合する傾向がある。したがって、ドナー又はアクセプターとして作用する蛍光物質に光退色が起きたときでも結合と解離を繰り返している間に光退色せずに残っている蛍光物質で標識されているドナーストランド(donor strand)又はアクセプターストランド(acceptor strand)がドッキングストランド(docking strand)に結合した時点で発光スペクトルが測定可能であり、これにより光退色が起こるか否かに関係なくN種類のバイオマーカーの同時検出が可能になる。また、隣接する蛍光物質に干渉されずにこの一時的に発光する蛍光物質を測定でき、結果として10nm未満の高い精度前記蛍光物質の位置を測定でき、これにより高ダイナミックレンジ(dynamic range)が確保される。
【0359】
本開示の一実施形態に係るターゲット物質の検出方法を用いるN種類のバイオマーカーの検出について、以下の実施例を参照してさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0360】
1.異なる配列を有するドナーストランドを使用するバイオマーカーの多重検出
実験方法
1)試薬及び材料の準備
インテグレーテッドDNAテクノロジーズ社から修飾DNAオリゴヌクレオチド(Modynamic rang)を購入した。サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社からAlexa488(アレクサフルオロ488NHSエステル、カタログ番号:A20000)を購入した。GEヘルスケア・ライフサイエンス社からCy3(Cy3NHSエステル、カタログ番号:PA13101)及びCy5(Cy5NHSエステル、カタログ番号:PA15101)を購入した。韓国細胞株バンクからCOS-7細胞を購入した。Abcam社から抗チューブリン抗体(anti-tubulin antibody;カタログ番号:ab6160)を購入した。サンタクルーズ・バイオテクノロジー社から抗Tom20抗体(sc-11415)を購入した。ジャクソン・イムノリサーチラボラトリーズ社からロバ抗ウサギIgG抗体(Donkey anti-rabbit IgG antibody;カタログ番号:711-005-152)及びロバ抗ラットIgG抗体(donkey anti-rat IgG antibody;カタログ番号:712-005-153)を購入した。サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社からカルボキシルラテックスビーズ(Carboxyl latex beads;カタログ番号:C37281)を購入し、メルク社からパラホルムアルデヒド(paraformaldehyde;カタログ番号:1.04005.1000)を購入した。シグマ・アルドリッチ社からグルタルアルデヒド(Glutaraldehyde;カタログ番号:G5882)、トリトンX-100(Triton X-100;カタログ番号:T9284)、及びBSA(Bovine Serum Albumin;カタログ番号:A4919)を購入した。Solulink社から購入した抗体オリゴヌクレオチド・オールインワン・コンジュゲーションキット(Antibody-Oligonucleotide All-in-One Conjugation Kit;カタログ番号:A-9202-001)を使用して、二次抗体にドッキングストランドを結合した。
【0361】
2)DNA蛍光標識
NHSエステル基を有するフルオロフォアでアミン修飾DNAオリゴヌクレオチドを標識した。5μlの1mMのDNAを25μlの100mM四ホウ酸ナトリウム緩衝液(pH8.5)と混合した。その後、5μlのDMSO中の20mMフルオロフォアを添加した。この混合物を4℃で一晩にわたって培養した。265μlの蒸留水、900μlのエタノール、及び30μlの3M酢酸ナトリウム(pH5.2)を添加し、混合した。この混合物を-20℃で1時間にわたってインキュベートした後、2時間にわたって遠心分離した。次に、上澄みを捨て、DNAペレットを冷エタノールで洗浄した。エタノールを完全に蒸発させた後に、このDNAペレットを50μlの蒸留水中に再懸濁し、そして蛍光標識効率を測定した。
【0362】
3)細胞培養と固定
DNA-PAINTイメージングのドリフト補正のために、ガラスカバースリップをカルボキシルラテックスビーズでコーティングした。
【0363】
蒸留水中に1:10の割合で希釈したビーズ溶液をカバースリップに塗布し、100℃のホットプレート上で10分間加熱した後、蒸留水で洗浄し、そしてN2ガスで乾燥させた。COS-7細胞をビーズ被覆カバースリップ上にて培養し、その後10分間固定した。微小管の撮像には2%グルタルアルデヒドを使用し、微小管とミトコンドリアの撮像にはPBS緩衝液中の3%パラホルムアルデヒドと0.1%グルタルアルデヒドの混合物を使用した。固定された試料を必要になるまでPBS緩衝液中において4℃で保存した。
【0364】
4)免疫染色
カバースリップにて細胞を培養して固定した後、微小管をブロッキング溶液(PBS緩衝液中の5%BSA及び0.25%トリトンX-100)中の1:100希釈抗チューブリン抗体で処理し、4℃で一晩にわたってインキュベートし、そして免疫染色した。PBS緩衝液で遊離抗チューブリン抗体を徹底的に洗い落とした後に細胞を100nMのドッキングストランドと結合している二次抗体(Docking_P1)と1時間にわたって培養した。ミトコンドリアを1:100希釈抗Tom20抗体で処理し、4℃で一晩にわたって培養し、そして免疫染色した。PBS緩衝液で遊離抗Tom20抗体を徹底的に洗い落とした後に細胞を100nMのドッキングストランドと結合している二次抗体(Docking_P2)と1時間にわたってインキュベートした。
【0365】
5)単分子イメージング
単分子イメージングのため、プリズム型TIRF(total internal reflection fluorescence)顕微鏡法及び薄層斜光照明法(highly inclined and laminated optical sheet;HILO)顕微鏡法を使用した。市販の倒立顕微鏡(IX71、オリンパス社)を改変して組み立て、これに100倍の1.4NA油浸対物レンズ(UPlanSApo、オリンパス社)を装着した。
【0366】
ストレプトアビジン-ビオチン間の相互作用を使用することにより、高分子被覆石英スライドグラスの表面にドッキングストランドを固定化し、イメージングチャネル内にドナーストラン及びとアクセプターストランドを添加した。Alexa 488、Cy3、及びCy5をそれぞれ青色レーザー(473nm、100mW、MBL-III-473-100mW、CNI社)、緑色レーザー(532nm、50mW、Compass 215M-50、コーヘレント社)、及び赤色レーザー(642nm、60mW、Excelsior-642-60、スペクトラ・フィジクス社)によって励起した。640dcxrダイクロイックミラー(dichroic mirror、Chroma社)を使用してCy3シグナルをフィルタリングし、ダイクロイックミラー(740dcxr、Chroma社)を使用してCy5シグナルをフィルタリングした。EMCCD(Electron multiplying charge-coupled devic)カメラ(iXon Ultra DU-897UCS0-#BV、Andor社)を使用して10Hzのフレーム速度で単分子イメージを記録した。
【0367】
6)FRETペアの特性
図1dのフレーム毎に検出された検出光子(photon)の特徴を分析するため、2ヌクレオチド、4ヌクレオチド、6ヌクレオチド、及び11ヌクレオチドのCy3-Cy5(Alexa488-Cy5)間距離のFRETペア(FRET pair)について、それぞれ13997(8096)、11021(5100、11208(3451)、及び17051(3980)の単分子スポット(single-molecule spot)を収集した。
図1j~
図1kのSNRの特徴を分析するため、Cy3、Cy3-Cy5ペア、及びAlexa 488-Cy5ペアについて、それぞれ795、2322、及び742の単分子スポット(single-molecule spot)を収集した。
【0368】
7)ドリフト補正(Drift correction)
DNA-PAINTを用いる超高解像イメージングのため、画像補正法に基づく自作のオートフォーカス・ドリフト補正システムを使用した。フィルム撮影の前に1枚の焦点内の明視野画像と2枚の焦点外の画像を撮影した。これらの3枚の基準画像を使用してx軸、y軸、及びz軸のずれを抑制した。ピエゾステージ(PZ-2000、アプライド・サイエンティフィック・インスツルメンテーション社)を使用してz方向のずれをリアルタイムで補正し、一方で画像分析中にxy平面のずれを補正した。
【0369】
実施例1-1:FRET-PAINTの特性分析
表面に固定化されたDNAストランドとTIRF顕微鏡を使用して、FRET-PAINT顕微鏡法の実行可能性を試験した。
【0370】
図1a~
図1kはFRET-PAINTの原理と性質を示している。
【0371】
具体的には、
図1aは、FRET-PAINTの特徴を分析するために使用されたドッキングストランド(黒色)、ドナーストランド(暗灰色)、及びアクセプターストランド(明灰色)を示しており、
図1bはFRET-PAINTの模式図であり、
図1cは代表的なCy5蛍光強度の時間トレース(1000nM Donor_P1_Alexa 488と100nM Acceptor_P11_Cy5)を示しており、
図1dはCy3-Cy5ペア及びAlexa488-Cy5ペアのドナーアクセプター間距離の関数としてのアクセプターの明度を示している。
【0372】
図1eは、Acceptor_P11_Cy3の表示濃度における表面に固定化されたドッキングストランド(Docking_P0)のDNA-PAINTイメージを示しており、
図1fは10nMに固定されたAcceptor_P6_Cy5とDonor_P1_Cy3の表示濃度におけるDocking_P0のFRET-PAINTイメージを示しており、
図1gは10nMに固定されたDonor_P1_Cy3とAccepotor_P6_Cy5の表示濃度におけるDocking_P0のFRET-PAINTイメージを示しており、
図1hは10nMに固定されたAcceptor_P2_Cy5とDonor_P1_Alexa488の表示濃度におけるDockng_P0のFRET-PAINTイメージを示しており、
図1iは10nMに固定されたDonor_P1_Alexa488Acceptor_P2_Cy5の表示濃度におけるDocking_P0のFRET-PAINTイメージを示している(スケールバー:1μm)。
【0373】
図1jは様々なCy3イメージャー(Cy3 imager)ストランド濃度におけるDNA-PAINTのSNR及び様々なCy3ドナー(Cy3 donor)ストランドとCy5アクセプター(Cy3 acceptor)ストランドの濃度におけるFRET-PAINTのSNRを比較しており、
図1kは様々なCy3イメージャー(Cy3 imager)ストランド濃度におけるDNA-PAINTのSNR及び様々なAlexa 488ドナー(donor)ストランドとCy5アクセプター(acceptor)ストランドの濃度におけるFRET-PAINTのSNRを比較している。
【0374】
図1aに示されるように、FRET-PAINTは3本のDNA鎖(ドッキングストランド、ドナーストランド、及びアクセプターストランド)を使用した。5’末端においてビオチンで標識されているこのドッキングストランド(Docking_PO)は2か所のドッキング部位を有し、これらの部位の各々がドナーストランド又はアクセプターストランドと塩基対合する。FRET確率を上昇させるためにアクセプターストランドよりもドナーストランドについて短い長さを選択し、一方で比較的に長いアクセプターストランドを使用した。前記ドナーストランドの3’末端をAlexa488で標識し(Donor_P1_Alexa 488)、一方で前記アクセプターストランドの3’末端をCy5で標識した(Acceptor_P11_Cy5)。
【0375】
各ストランドの配列は、以下の通りである。
Docking_P0 = 5’-Biotin-TTGATCTACATATTCTTCATTA-3’(配列番号1)
Donor_P1_Cy3=5’-TAATGAAGA-Cy3-3’(配列番号2)
Donor_P1_Alexa488= 5’-TAATGAAGA-Alexa488-3’(配列番号2)
Acceptor_P2_Cy5= 5’-Cy5-TATGTAGATC-3’(配列番号3)
Acceptor_P6_Cy5= 5’-TATG-Cy5-TAGATC-3’(配列番号3)
Acceptor_P11_Cy5= 5’-TATGTAGATC-Cy5-3’(配列番号3)
【0376】
その後、ストレプトアビジン-ビオチン(streptavidin-biotin)間の相互作用を用いてポリマー被覆した石英(quartz)の表面に、前記ドッキングストランドを固定化し、前記ドナーストランド(1000nM)及び前記アクセプターストランド(100nM)の注入後に青色レーザーを使用してAlexa488を励起することによりCy5の単分子像を撮影した(
図1b)。
【0377】
その結果、
図1cに示されているように、高ドナー濃度及び高アクセプター濃度で明確なCy5蛍光強度の時間トレースが得られた。
【0378】
同じスキームを実施して2組のFRETペア(Cy3-Cy5及びAlexa488-Cy5)について最大のFRETシグナルを生じるFRETプローブの最適な標識位置を見出した。この目的のため、ドナーストランドの3’末端をCy3(Donor_P1_Cy3)又はAlex488(Donor_P1_Alexa488)で標識し、アクセプターストランドの様々な位置をCy5で標識した(Acceptor_P2_Cy5、P4_Cy5、P6_Cy5、及びP11_Cy5)。
【0379】
その結果、
図1dに示されているように、ドナーストランドとアクセプターストランドとの間の間隔が6ヌクレオチドのときにはCy3-Cy5のFRETペアが最も高いCy5シグナルを発生し、一方でドナーストランドとアクセプターストランドとの間の間隔が2ヌクレオチドのときにはAlexa488-Cy5のFRETペアが最も高いCy5シグナルを発生した。
【0380】
その後、HILO((Highly Inclined and Laminated Optical sheet)顕微鏡法を用いて超高解像度蛍光像を記録した。様々なDNA濃度におけるDNA-PAINTとFRET-PAINTのシグナルノイズ比(SNR)を比較した。
【0381】
結果を
図1e~
図1iにした。DNA-PAINTについてはDNA濃度が5nMを超えると単分子像にノイズが生成した(
図1e)。Cy3-Cy5ペアのFRET-PAINTについてはDNA濃度が100nMを超えるとノイズが生成した(
図1f及び
図1g)。Alexa488-Cy5ペアのFRET-PAINTについてはDNA濃度が150nMを超えるとノイズが生成した(
図1h及び
図1i)。
【0382】
これらの画像はDNA-PAINTと比較してFRET-PAINTではより高いイメージャー濃度で同じSNRを得られることを示している。例えば、
図1j及び
図1kに示されているように、DNA-PAINTについては、3.3のSNRを得るために5nMのイメージャー濃度を使用した。同じSNRのために、Cy3-Cy5ペアのFRET-PAINTについては180nMのドナーと120nMのアクセプター濃度を使用し、Alexa488-C5ペアのFRET-PAINTについては250nMのドナーと90nMのアクセプター濃度を使用した。
【0383】
実施例1-2:DNA-PAINT及びFRET-PAINT超高解像度の画像確認
従来のDNA-PAINTとFRET-PAINTの超高解像度イメージングの速度を比較しために、以下の実験を行った。
【0384】
先ず、Docking_P1で標識されている前記抗チューブリン抗体(anti-tubulin antibody)を用いてCOS-7細胞の微小管を免疫染色した。
【0385】
その後、DNA-PAINTについては、1nMのCy5標識イメージャーストランド(imager strand;Acceptor_P2’_Cy5)を注入した後に微小管を撮像した。FRET-PAINTについては30nMのドナーストランド(Donor_P1_Alexa488)と20nMのアクセプターストランド(Acceptor_P2_Cy5)の注入後に同じ領域の微小管を撮像した。ドナーストランドとアクセプターストランドの結合を確実に検出するために充分速い速度である10Hzのフレーム速度で単分子イメージを記録した。
【0386】
DNA-PAINTとFRET-PAINTのイメージング速度を定量的に比較するために、
図2a及び
図2bに示されたスポットの数を測定した。9つの箇所で同様に測定して、平均速度を比較した。また、次の式6を用いて、畳み込み解像度(convolved resolutions)を定量して、DNA-PAINTとFRET-PAINTのイメージング速度を比較した。DNA-PAINTとFRET-PAINTの位置決定精度は、それぞれ6.9nm及び11.1nmであった。
(式6)
((位置決定精度(localization precision))
2+(ナイキスト分解能(Nyquist resolution))
2)
1/2
【0387】
結果を
図2a~
図2eに示した。
図2a~
図2e、はDNA-PAINTとFRET-PAINTの結像速度を比較している。
【0388】
図2aは、特定の収集時間において再構成されたDNA-PAINTイメージを示す。
図2bは、特定の収集時間において再構成された
図2aと同じ領域のFRET-PAINTイメージを示す。
図2cは、
図2aのDNA-PAINTイメージと
図2bのFRET-PAINTイメージの時間の関数としての位置決定された光点(locarized spot)の累積数を示す。
図2dは、FRET-PAINT及びDNA-PAINTの位置決定された単分子スポット数/秒を比較した結果を示す。
図2eは、結像時間の関数としてのDNA-PAINTとFRET-PAINTの空間分解能を比較た結果を示す。エラーバーは、標準偏差を表す。
【0389】
合計で18000フレームが10Hzのフレーム速度で記録されるため、DNA-PAINTについては合計の結像時間は30分であった(
図2a)。他方、合計で600フレームが10Hzのフレーム速度で記録されるため、FRET-PAINTについては合計の結像時間は60秒であった(
図2b)。FRET-PAINTのイメージング速度はDNA-PAINTと比較して29倍上昇した(
図2c)。前記の異なる領域について測定された平均値はイメージング速度の平均で32倍の上昇を示した(
図2d)。DNA-PAINTとFRET-PAINTのイメージング速度をそれらの畳み込み解像度に基づいて比較し、結果としてFRET-PAINTでイメージング速度の36倍の上昇が得られた(
図2e)。
【0390】
実施例1-3:FRET-PAINT多重イメージング(Multiplexed imaging)
FRET-PAINT顕微鏡法の多重化能を、以下の実験手法により評価した。
【0391】
前記抗チューブリン抗体(anti-tubulin antibody)と前記抗Tom20抗体(anti-Tom20 antibody)を使用してCOS-7細胞の微小管とミトコンドリアをそれぞれ免疫染色した。前記抗チューブリン抗体と前記抗Tom20抗体をそれぞれDocking_P1及びDocking_P2と直交的に結合させた。ここでは、2通りのアプローチを用いて多重イメージングに使用した。
【0392】
【0393】
図3a~
図3hは、FRET-PAINTの多重化能力を示している。具体的には、
図3aはドナーストランドとアクセプターストランドの交換スキームを用いる多重イメージングを模式的に示しており、
図3b~
図3dはこのスキーム(
図3a)を用いて得られた微小管(microtubule、
図3b)とミトコンドリア(mitochondria、
図3c)のFRET-PAINTイメージ、及び(
図3d)
図3bと
図3cの重ね撮り像を示しており、
図3eは緩衝液の交換を伴わない多重イメージングを模式的に示しており、
図3f~
図3hはこのスキーム(
図3e)を用いて得られた微小管(
図3f)とミトコンドリア(
図3g)のFRET-PAINTイメージ、及び
図3fと
図3gの重ね撮り像(
図3h)を示している(MT:微小管(microtubule);MC:ミトコンドリア(mitochondria)、DS:ドナーストランド(donor strand)、AS:アクセプターストランド(acceptor strand)。スケールバー:5μm)。
【0394】
図3aに示されている(ドナーストランドとアクセプターストランドを使用する連続処理による)1つのアプローチでは、20nMのDonor_P1_AlexAF488と10nMのAcceptor_P2_Cy5を注入することにより微小管を先ず撮像し(
図3b)、10nMのDonor_P2_AF488と10nMのAcceptor_P2_Cy5を注入することによりミトコンドリアを次に撮像した(
図3c)。
図3eに示されている(ドナーストランドとアクセプターストランドを使用する同時処理による)2つ目のアプローチでは、全てのDNAプローブ(微小管には10nMのDonor_P1_Cy3、ミトコンドリアには20nMのDonor_P2_Alexa488、及び微小管とミトコンドリアの両方には10nMのAcceptor_P2’_Cy5)を同時に注射した後にCy3励起(exicitation)により微小管を先ず撮像し(
図3f)、Alexa488励起によりミトコンドリアを次に撮像した(
図3g)。
【0395】
これらの2つのアプローチの間ではイメージング時間に差が無かったが、微小管像とミトコンドリア像との間の相互干渉が(ドナーストランドとアクセプターストランドを使用する同時処理による)この2つ目のアプローチの不利な点である。したがって、ドナーストランドとアクセプターストランドを使用するこの連続処理の方が多重イメージングを行う良い方法であることが確認された。
【0396】
実施例1-4:広い濃度範囲におけるバイオマーカーの測定
広い濃度範囲のバイオマーカーを測定する能力を、以下の実験手法により評価した。
【0397】
図4a~
図4cは、様々な濃度範囲においてバイオマーカーを定量化した結果を示している。
【0398】
図4aは、異なるウェル中に固定化され、かつ、ドナーストランドとアクセプターストランドを使用して測定された10pg/ml、40pg/ml、100pg/ml、400pg/ml、1000pg/ml、及び10000pg/mlの濃度のバイオマーカーを示している。
図4bは、それぞれ使用前に1/10及び1/100に希釈された後の1000pg/ml及び10000pg/mlの濃度のバイオマーカーを示している。
図4cは、
図4a及び
図4bに表示される濃度で測定された光点の数をグラフで示している。
図4cでは、この1000pg/mlでのデータは1/10の希釈後に光点の数を計数し、その数を10倍することにより得られ、この10000pg/mlのデータは1/100の希釈後に光点の数を計数し、この数を100倍することにより得られた。
【0399】
図4aは、10pg/ml、40pg/ml、100pg/ml、400pg/ml、1000pg/ml、及び10000pg/mlの濃度のバイオマーカーを異なるウェル中に固定化し、そしてドナーストランドとアクセプターストランドを使用して画像中の光点(個々のバイオマーカー分子)の数を測定した結果である。画像中の光点の数は濃度に比例して増加した。1000pg/ml以上の濃度ではこれらの光点は重なり合い始め、これによりそれらの光点の数の正確な計数が不可能になった。
【0400】
図4bは、1000pg/ml及び10000pg/mlの濃度のバイオマーカーを1/10及び1/100に希釈し、かつ、異なるウェル中に固定化し、そしてドナーストランドとアクセプターストランドを使用して画像中の光点の数を測定した結果である。
【0401】
図4cは、表示濃度において光点を数えて、グラフで表したものである。この1000pg/mlのデータは、1/10の希釈後に光点の数を計数し、その数を10倍することにより得られ、この10000pg/mlのデータは1/100の希釈後に光点の数を計数し、その数を100倍することにより得られた。
【0402】
このデータを線形関数に近似させるとその相関係数は0.99997であると計算された。この相関係数から、高濃度のバイオマーカーを希釈した後でも正確な測定結果が得るられることを確認した。
【0403】
2.ドナー蛍光物質又はアクセプター蛍光物質で標識されている2種類以上のタグストランドを使用するバイオマーカーの多重検出
【0404】
実施例2-1:FRET効率についてのデータベースの構築
これまでに説明したようにFRET効率についてのデータベースを構築するため、ドナーとしてのCy3とアクセプターとしてのCy5をDNA鎖上に標識として導入してタグストランドを構築した。
【0405】
DNAの一方の末端をビオチン化し、ドナーアクセプター間距離が1~50であるように前記ドナーと前記アクセプターを特定の塩基の上に取り付けて標識した。合計で50種類のタグストランドを調製した。
【0406】
ストレプトアビジンビオチン間相互作用を用いて基板上にDNAを固定化することが、このビオチン化の理由である。同様の役割を果たすためにジゴキシゲニン(digoxigenin)とその抗体との間、又はSNAPタグ、CLIPタグ、FLAGタグ、及びHisタグなどのタグと、それぞれのリガンドとの間の相互作用を用いて基板上にDNAを固定化してもよい。
【0407】
ストレプトアビジンで前記基板を被覆した後にドナーアクセプター間の距離が1であるDNA鎖を固定化し、距離が1であるときのFRET効率を測定して基準値を確定した。このFRET効率は、1)前記ドナーが光により励起されるときに励起された前記アクセプターから発せられる光、2)光学部材(ダイクロイックミラー:dichroic mirror)によって完全には分離されない前記ドナー及び前記アクセプターから発せられる光の一部、及び、3)前記ドナー及び前記アクセプターから発せられる光の波長の差に左右されるイメージセンサの検出効率の差を補正することにより得られる値であってよい。
【0408】
同様にして、その他の2~50の距離に当てはめてそれらの距離での基準値を得た。測定時に生成したノイズが原因の誤差を計算し、FRET効率が実際に明確に識別可能である距離だけを使用した。以下の実施例は、FRET効率の基準値のうちの10が1~50の距離で明確に識別可能であるという前提に基づいている。
【0409】
実施例2-2:タグストランドの構築
実際に検出しようとするバイオマーカーの種類の数と同じ数のタグストランドを構築した。実施例2-1において使用されたこれらのDNA鎖は修飾せずに使用可能であったが、DNAの一方の末端に標識されたビオチンの代わりに検出抗体に結合可能な官能基をこれらのDNA鎖に使用前に取り付けた。DNA上に蛍光物質を標識として導入するための公知の方法に従ってこの官能基を結合させた。
【0410】
実施例2-1の1組のドナーアクセプターペアを使用して10のFRET効率が明確に識別可能であるという前提に基づくと、たった1組のドナーアクセプターペアを使用して10種類のバイオマーカーを充分に検出できる。
【0411】
2組以上のドナーアクセプターペアを使用して10種類を超えるバイオマーカーを検出できる。例えば、2組のドナーアクセプターペアを使用するとき、最大で55のFRET効率が明確に識別可能になる。3組のドナーアクセプターペアを使用するとき、最大で205のFRET効率が明確に識別可能になる。1組のドナーアクセプターペアを使用して最大で10のFRET効率が識別可能である場合、理論的に計算すると2組のドナーアクセプターペアを使用して識別可能なFRET効率の数は100である。しかしながら、FRETペア1とFRETペア2のFRET効率が、それぞれ、i)a及びbである場合と、ii)b及びaである場合が存在する場合、FRET効率がa及びbであるFRETペア1は、FRET効率がb及びaであるFRETペア2と識別できない。したがって、タグストランドがFRETペア1又は2のどちらかで標識されているとき、総計で55のFRET効率を実質的に識別できる。FRETペア1及び2の両方における前記ドナー、前記アクセプター、又は全ての蛍光物質の種類が異なっているとき、これらの2組のペアを使用して100のFRET効率が識別可能である。3組のペアを使用して1000のFRET効率が識別可能である。
【0412】
実施例2-3:光退色の前後のFRET効率の変化
この実施例ではお互いに距離を空けているDonor1アクセプター1及びDonor2アクセプター2で標識されているDNA鎖を使用した。これらのドナーとアクセプターから発せられた光の明度値及びこれらのドナーアクセプターペアのFRET効率を光退色の前に測定した(表1)。各FRET効率は、1)前記ドナーが光により励起されるときに励起された前記アクセプターから発せられる光、2)ダイクロイックミラーによって完全には分離されない前記ドナー及び前記アクセプターから発せられる光の一部、及び、3)前記ドナー及び前記アクセプターから発せられる光の波長の差に左右されるイメージセンサの検出効率の差を補正することにより得られる値であってよい。
【0413】
FRETペア1のFRET効率は0.5であり、FRETペア2のFRET効率は0.7であるが、実際に観察されたFRET効率は0.6であり、それはこれらの2組のFRETペアのFRET効率の平均である。これらの2組のFRETペアのFRET効率はこの観察値から決定できない。
【0414】
【0415】
表1に示されている合計4種類のドナーとアクセプターには、光退色が起こる場合がある。FRET効率の補正のため、各FRETペアの前記ドナー及び前記アクセプターから発せられた光の明度値の合計は光退色の前後で一定である。本実施例ではその合計は100である。以下のようにFRET効率を測定する。
【0416】
1)ドナー1に光退色が起こる場合
ドナー1とアクセプター1の両方が発光しないため、前記ドナーから発せられた光の明度値の合計が80から30に変化し、かつ、前記アクセプターから発せられた光の明度値の合計が120から70に変化し、その結果として光退色の前後の明度の変化が前記ドナーについては50であり、前記アクセプターについても50である。すなわち、光退色の前後の明度の差から測定されるFRET効率は0.5であり、光退色後に観察された明度から測定されるFRET効率は0.7である。したがって、対応するタグストランドのFRET効率は0.5及び0.7である。
【0417】
2)ドナー2に光退色が起こる場合
ドナー2とアクセプター2の両方が発光しないため、前記ドナーから発せられた光の明度値の合計が80から50に変化し、かつ、前記アクセプターから発せられた光の明度値の合計が120から50に変化し、その結果として光退色の前後の明度の変化が前記ドナーについては30であり、前記アクセプターについては70である。すなわち、光退色の前後の明度の差から測定されるFRET効率は0.7であり、光退色後に観察された明度から測定されるFRET効率は0.5である。したがって、対応するタグストランドのFRET効率は0.5及び0.7である。
【0418】
3)アクセプター1に光退色が起こる場合
アクセプター1の代わりにドナー1が発光するため、前記ドナーから発せられた光の明度値の合計が80から130に変化し、かつ、前記アクセプターから発せられた光の明度値の合計が120から70に変化し、その結果として光退色の前後の明度の変化が前記ドナーについては50であり、前記アクセプターについても50である。前記FRETペアのドナーとアクセプターから発せられた光の明度値の合計は光退色の前後で一定(100)に維持され、その結果として前記アクセプターの明度変化(50)からFRET効率は0.5である。光退色後の前記ドナーから発せられた光の明度値の合計(130)からドナー1から発せられた光の明度(100)を除いて測定されたFRET効率は0.7である。したがって、対応するタグストランドのFRET効率は0.5及び0.7である。
【0419】
4)アクセプター2に光退色が起こる場合
アクセプター2の代わりにドナー2が発光するため、前記ドナーから発せられた光の明度値の合計が80から150に変化し、かつ、前記アクセプターから発せられた光の明度値の合計が120から50に変化し、その結果として光退色の前後の明度の変化が前記ドナーについては70であり、前記アクセプターについても70である。前記FRETペアのドナーとアクセプターから発せられた光の明度値の合計は光退色の前後で一定(100)に維持され、その結果として前記アクセプターの明度変化(70)からFRET効率は0.7である。光退色後の前記ドナーから発せられた光の明度値の合計(150)からドナー2から発せられた光の明度(100)を除いて測定されたFRET効率は0.5である。したがって、対応するタグストランドのFRET効率は0.5及び0.7である。
【0420】
一方の蛍光物質に光退色が起こるまで明度を測定し、かつ、他方の蛍光物質についてこの手法を繰り返し、これによって対応するタグストランドのFRET効率が0.5及び0.7であることが明らかになる。
【0421】
実施例2-4:FRET効率の測定とバイオマーカーの種類の特定
バイオマーカー1及び2を検出するためのキットを以下の手法によって操作した。タグストランド1をバイオマーカー1に結合した検出抗体1に結合し、かつ、タグストランド2をバイオマーカー2に結合した検出抗体2に結合した。前記タグストランド1及び2の各々を2組のドナーアクセプターFRETペアで標識した。検出抗体1のFRET効率の基準値はFRETペア1については0.1であり、FRETペア2については0.5であった。検出抗体2のFRET効率の基準値は、FRETペア1=0.2であり、FRETペア2=0.4であった。
【0422】
その後、実施例2-3のように光退色の前後の明度の差を測定してFRET効率を分析した。明度観察のために画像カメラを使用して分子Aと分子Bを観察した。分子AのFRET効率は0.1及び0.5であると測定され、これにより分子Aがバイオマーカー1であることが示された。同じ原理に基づいて分子BのFRET効率は0.2及び0.4であると測定され、これにより分子Bはバイオマーカー2であることが示された(
図15)。
【0423】
試料中のバイオマーカーの濃度は、バイオマーカーの種類に応じてfg/ml~mg/mlまで大きく変化する。過度に高濃度のバイオマーカーを基板上に固定化すると非常に多数の光点が1つの画像の中に観察され、かつ、お互いに重複する。この重複のためにそれらの個々の分子のFRET効率の測定が不可能になる。したがって、正確な数の前記バイオマーカー分子が1つの画像の中に検出されるように様々な比率で前記試料を希釈してよい。
【0424】
似たような濃度範囲内のバイオマーカーを検出しようとするとき、分析のために同じ比率でそれらのバイオマーカーを希釈する。例えば、通常では約1ng/mlの濃度のバイオマーカーを1:100の割合で希釈し、かつ、正確な数の前記バイオマーカー分子が1つの画像の中に検出される場合、通常では約100ng/mlの濃度のバイオマーカーを分析のために1:10000の割合で希釈する。
【0425】
3.N種類のドッキングストランドとN種類のフレットストランドを使用するバイオマーカーの多重検出
実施例3-1:FRET効率についてのデータベースの構築
異なる蛍光物質A、B、及びCをそれぞれドナー1、ドナー2、及びアクセプターとして使用した。ドナー1をドナーストランド上に標識として導入し、ドナー2と前記アクセプターをフレットストランド上に標識として導入した。
【0426】
ドナー1及び2のFRET効率が最大になるように2種類の蛍光物質A及びBの間の距離を設定した。これらのフレットストランド上に標識として導入されている蛍光物質B及びCがFRETペアを構成した。これらのフレットストランドを必要なだけ多くの種類の異なるFRETペアで標識した。
【0427】
例えば、データベースに50種類が必要なときに様々な距離で蛍光物質B及びCによって標識されている50種類のフレットストランドを調製した。市販の蛍光物質をドナー1、ドナー2、及び前記アクセプターとして使用するときには上記の手法を実行せずにドナー1、ドナー2、及び前記アクセプターで標識されている市販のフレットストランドを使用できる。
【0428】
ドナー1、ドナー2、及び前記アクセプターとしての前記蛍光物質の決定ではドナー1のピーク発光波長が最も短く、かつ、前記アクセプターのピーク発光波長が最も長いことが好ましい。
【0429】
前記2種類以上のフレットストランドを調製した後にドナー2アクセプター間の距離が1である前記フレットストランドと前記ドナーストランドをドッキングストランドに結合させ、対応する距離におけるFRET効率を測定した。その後、同じ手法を前記ドナー2アクセプターFRETペア間の距離が2である前記フレットストランドから繰り返してFRET効率の基準値を取得し、それらの基準値をデータベースに構築した。
【0430】
その後、バイオマーカー検出時に測定されたFRET効率値を、これらのFRET効率の基準値と比較した。この比較から前記FRETペアのドナー2アクセプター間距離を決定してこれらの検出されたバイオマーカーの種類を特定した。
【0431】
しかしながら、FRET効率測定時に生成したノイズによって誤差が生じる場合があるため、全ての距離におけるFRET効率は識別できない。例えば、FRET効率が距離1において0.95(平均値)±0.05(誤差)であり、かつ、距離2において0.94±0.05であるとき、これらのFRET効率によってそれらの距離(1及び2)を識別できない。したがって、実際のバイオマーカーの検出時には前記データベースに保存されている値の中でもFRET効率を明確に識別する距離を使用することが好ましい。以下の実施例はFRET効率の基準値のうちの10が1~50の距離で明確に識別可能であるという前提に基づいている。
【0432】
実施例3-2:N種類のドッキングストランドとN種類のフレットストランドの構築
実際の標的バイオマーカーの種類の数と同じ数のドッキングストランドを構築した。
【0433】
実施例3-1の1組のドナー2アクセプターFRETペアを使用して10のFRET効率が明確に識別可能であるという前提に基づくと、たった1組のドナー2アクセプターFRETペアを使用して10種類のバイオマーカーを充分に検出できる。したがって、1本のフレットストランドを各ドッキングストランドに結合させた。
【0434】
2組以上のドナー2アクセプターペアを使用して10種類を超える標的バイオマーカーを検出できる。したがって、2本以上のフレットストランドを各ドッキングストランドに結合させた。例えば、2組のFRETペアを使用するとき、最大で55のFRET効率が明確に識別可能になる。3組のFRETペアを使用するとき、最大で205のFRET効率が明確に識別可能になる。1組のFRETペアを使用して最大で10のFRET効率が識別可能である場合、理論的に計算すると2組のFRETペアを使用して識別可能なFRET効率の数は100である。しかしながら、FRETペア1とFRETペア2のFRET効率が、それぞれ、i)a及びbである場合と、ii)b及びaである場合が存在する場合、FRET効率がa及びbであるFRETペア1は、FRET効率がb及びaであるFRETペア2と識別できない。したがって、ドッキングストランドがFRETペア1又は2のどちらかで標識されているとき、総計で55のFRET効率を実質的に識別できる。FRETペア1及び2の両方における前記ドナー2、前記アクセプター、又は全ての蛍光物質の種類が異なっているとき、これらの2組のペアを使用して100のFRET効率が識別可能である。3組のペアを使用して1000のFRET効率が識別可能である。
【0435】
実施例3-3:FRET効率の測定とバイオマーカーの特定
バイオマーカー1及び2を検出するためのキットを、以下の手法によって操作した。
【0436】
ドッキングストランド1をバイオマーカー1に結合した検出抗体1に結合し、かつ、ドッキングストランド2をバイオマーカー2に結合した検出抗体2に結合した。前記ドッキングストランド1及び2の各々を2種類のフレットストランドと結合させた。具体的には、FRET効率が0.2及び0.4であるフレットストランドをドッキングストランド1に結合させ、FRET効率が0.6及び0.8である別のフレットストランドをドッキングストランド2に結合させた。
【0437】
バイオマーカー1及び2を基板上に固定化し、それぞれ検出抗体1及び2と結合させた。ドナーストランドと0.2、0.4、0.6、及び0.8というFRET効率を有する4種類のフレットストランドを含有する緩衝液をウェルに添加し、前記ドッキングストランドに結合した前記フレットストランドのFRET効率を測定した。
図29に関して説明したように、ドナー2と前記アクセプターの明度値を観察するための画像カメラを使用して分子1と分子2の位置を断続的な蛍光シグナルとして観察した。ドナー2と前記アクセプターの明度値を測定してFRET効率を分析した。その結果、これらのFRET効率は分子1の位置では0.2及び0.4であると測定され、これにより分子1はバイオマーカー1であることが示された。同じ原理に基づいてこれらのFRET効率は分子2の位置0.2及び0.4であると測定され、これにより分子2がバイオマーカー2であることが示された。
【0438】
試料中のバイオマーカーの濃度はバイオマーカーの種類に応じてfg/ml~mg/mlまで大きく変化する。過度に高濃度のバイオマーカーを基板上に固定化すると非常に多数の光点が1つの画像の中に観察され、かつ、お互いに重複する。この重複のためにそれらの個々の分子のFRET効率の測定が不可能になる。したがって、正確な数の前記バイオマーカー分子が1つの画像の中に検出されるように様々な比率で前記試料を希釈してよい。
【0439】
似たような濃度範囲内のバイオマーカーを検出しようとするとき、分析のために同じ比率でそれらのバイオマーカーを希釈する。例えば、通常では約1ng/mlの濃度のバイオマーカーを1:100の割合で希釈し、かつ、正確な数の前記バイオマーカー分子が1つの画像の中に検出される場合、通常では約100ng/mlの濃度のバイオマーカーを分析のために1:10000の割合で希釈する。
【0440】
4.N種類のドッキングストランド、ドナーストランド、及びアクセプターストランドを使用するバイオマーカーの多重検出
【0441】
実施例4-1:発光スペクトルについてのデータベースの構築
1つの光源により励起されるA種類のドナーで標識されているA種類(Aは1以上の整数)のドナーストランドを構築した。これらのA種類のドナーとFRETペアを形成するB種類のアクセプターで標識されているB種類(Bは1以上の整数)のアクセプターストランドを構築した。これらのA種類のドナーストランド及びこれらのB種類のアクセプターストランドと相補的に結合可能な合計でA×B種類のドッキングストランドを構築した。
【0442】
ドナーストランド1、アクセプターストランド1、及びこれらの鎖に相補的なドッキングストランド1を使用して前記ドナーと前記アクセプターの発光スペクトルを測定した。同じことをその他のドナーストランド及びアクセプターストランドの発光スペクトルに当てはめた。
【0443】
これらの測定されたA×B種類の発光スペクトルの中のノイズが原因の誤差を考慮すると、これらの発光スペクトルのうちの明確に識別可能なものだけをデータベース構築のために使用し、かつ、対応する発光スペクトルを生じる前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドの組合せだけをバイオマーカー検出のために使用した。
【0444】
上で説明した方法は、
図31及び
図33に示されている方法と組み合わせて
図36bに示されている構造を説明するためのものである。前記データベースに保存されている発光スペクトルの数が標的バイオマーカーの数よりも少ないとき、前記ドナーと前記アクセプターとの間のFRET効率が異なるように構築された
図32の構造をさらに適用し、
図36bに示されているように1本のアクセプターストランド上に2種類以上のアクセプターを標識として導入し、又は2種類以上の異なるアクセプターストランドを1本のドッキングストランドに結合させ、その結果として標的バイオマーカーの数よりも多い数の発光スペクトルが前記データベースに保存される。
【0445】
実施例4-2:N種類のドッキングストランド、ドナーストランド、及びアクセプターストランドの構築
N種類のドッキングストランドを構築してN種類のバイオマーカーを検出する。これらのN種類のドッキングストランドはデータベースに発光スペクトルを提供するドナーストランドとアクセプターストランドの配列に対して相補的な配列を有した。
【0446】
実施例4-3:発光スペクトルの測定とバイオマーカーの特定
2種類のバイオマーカーを検出するためのキットを以下の手法によって操作した。
【0447】
ドッキングストランド1をバイオマーカー1に結合した検出抗体1に結合し、かつ、ドッキングストランド2をバイオマーカー2に結合した検出抗体2に結合した。ドナーストランド1とアクセプターストランド1をドッキングストランド1に結合させ、ドナーストランド2とアクセプターストランド2をドッキングストランド2に結合させた。
【0448】
バイオマーカー1及び2を基板上に固定化し、それぞれ検出抗体1及び2と結合させた。ドナーストランド1、アクセプターストランド1、ドナーストランド2、及びアクセプターストランド2を含有する緩衝液をウェルに添加し、前記ドナーストランドと前記アクセプターストランドを前記ドッキングストランドに対して同時に結合させたときに発せられる光のスペクトルを観察した。
図37に示されているように画像カメラを使用して撮影された画像中の分子1と分子2の位置に断続的な蛍光シグナルが観察された。対応する位置におけるこれらの発光スペクトルをデータベースに保存されている発光スペクトルと比較して前記バイオマーカーの種類を特定した。
【0449】
試料中のバイオマーカーの濃度はバイオマーカーの種類に応じてfg/ml~mg/mlまで大きく変化する。過度に高濃度のバイオマーカーを基板上に固定化すると非常に多数の光点が1つの画像の中に観察され、かつ、お互いに重複する。この重複のためにそれらの個々の分子のFRET効率の測定が不可能になる。したがって、正確な数の前記バイオマーカー分子が1つの画像の中に検出されるように様々な比率で前記試料を希釈してよい。
【0450】
似たような濃度範囲内のバイオマーカーを検出しようとするとき、分析のために同じ比率でそれらのバイオマーカーを希釈する。例えば、通常では約1ng/mlの濃度のバイオマーカーを1:100の割合で希釈し、かつ、正確な数の前記バイオマーカー分子が1つの画像の中に検出される場合、通常では約100ng/mlの濃度のバイオマーカーを分析のために1:10000の割合で希釈する。
【0451】
限定的な図面を参照しながら例となる実施形態を説明してきたが、当業者はこれらの実施形態に対して上記の説明に基づく様々な技術的な変更と改変を行えることを理解する。例えば、本記載の技術を記載された方法とは異なる順序で実施してよいとき、及び/又は本記載の構成要素を記載された方法とは異なる形で結合若しくは合同させる、若しくは他の構成要素若しくは同等物によって交換若しくは置換するときであっても適切な結果が達成可能である。したがって、添付されている特許請求の範囲内に他の実施形態、他の実施例、及び特許請求の均等物が包含される。
【配列表】