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特許7168157高耐熱樹脂硬化物用組成物、それを用いた電子部品及び半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】高耐熱樹脂硬化物用組成物、それを用いた電子部品及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/24 20060101AFI20221101BHJP
   C08G 59/50 20060101ALI20221101BHJP
   C08G 59/38 20060101ALI20221101BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20221101BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
C08G59/24
C08G59/50
C08G59/38
H01L23/30 R
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017162894
(22)【出願日】2017-08-25
(65)【公開番号】P2019038955
(43)【公開日】2019-03-14
【審査請求日】2020-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】村上 泰
(72)【発明者】
【氏名】小林 正美
(72)【発明者】
【氏名】仲俣 祐子
【審査官】吉田 早希
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-196823(JP,A)
【文献】国際公開第2013/111697(WO,A1)
【文献】特開2013-018804(JP,A)
【文献】国際公開第2015/060440(WO,A1)
【文献】特開2018-053056(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0136748(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00 - 59/72
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
H01L 23/28 - 23/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する高耐熱樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、フェノール硬化剤とアミン硬化剤(但し、「イミダゾール型硬化触媒」を除く。)のいずれも含有せず、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有し、
前記(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂が5質量%~30質量%(30質量%の場合を除く。)の割合で配合されている、ことを特徴とする高耐熱樹脂硬化物用組成物。
【請求項2】
前記(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、前記(b)ナフタレン型エポキシ樹脂が5質量%~20質量%の割合で配合されている、請求項1に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物。
【請求項3】
25℃における粘度が100000(Pa・s/25℃)以下である、請求項1又は2に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物。
【請求項4】
酸無水物を含まない、請求項1~3のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物。
【請求項5】
100℃から300℃までの貯蔵弾性率(E’)の温度特性における傾き(dlogE’/dT)の絶対値の最大値は0.05GPa/℃以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物。
【請求項6】
前記高耐熱樹脂硬化物用組成物を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃までの加熱減量測定において、その熱重量減少率が1.5%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物。
【請求項7】
前記高耐熱樹脂硬化物用組成物を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃まで加熱した際の貯蔵弾性率の減少率が92%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物を硬化させてなる樹脂硬化物が、少なくとも一部に用いられている電子部品。
【請求項9】
基板上に実装された半導体素子と金属部材とを含む部材を、請求項1~7のいずれか1項に記載の高耐熱樹脂硬化物用組成物を含む封止材により封止してなる半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐熱樹脂硬化物用組成物、それを用いた電子部品及び半導体装置に関し、さらに詳しくは、半導体パッケージ等の電子部品や半導体装置用として好ましい高耐熱の樹脂硬化物を得ることができる樹脂組成物、それを用いた電子部品及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、モータの駆動、バッテリの充電、あるいはマイコンやLSIを動作させる等、電力の制御や供給を行うパワー半導体の分野においては、半導体として長年用いられてきたシリコン(Si)では性能の限界に近づき、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)等の材料を用いた次世代型パワー半導体の開発が進められている。このようなSiCやGaN等を用いた半導体デバイスでは、オン抵抗を下げ、電力変換回路の電力損失を大幅に削減する上で、高温での動作が期待される。
【0003】
また、半導体デバイスの製造においては、半導体パッケ-ジの成形サイクルが短縮化する傾向にあり、生産性向上が求められている。また、半導体パッケージが薄型化していること、デバイスの消費電力が上がり作動中のパッケ-ジ温度が高まっていること等から、優れた流動性と耐熱性とを有する半導体封止材料が求められている。
【0004】
このようなパワー半導体等の半導体パッケージの封止用樹脂としては、成形性、流動性、密着性、機械的強度等に優れたエポキシ樹脂が従来広く用いられてきた。しかしながら、一般に、200℃を超える温度では架橋点の熱分解が進行し、SiC、GaNに期待される高温での動作環境では封止材として十分な役割を担えないおそれがある。
【0005】
特許文献1には、エポキシ樹脂(A)と硬化剤(B)とを含有する封止用樹脂組成物として、エポキシ樹脂として1,1-ビス(2,7-ジヒドロキシナフチル)アルカンとエピハロヒドリンとの反応物(a1)と、2官能エポキシ樹脂(a2)とを併用することが提案されている。これによって流動性と硬化性と耐熱性のすべてに優れた封止用材料が得られるとされている。
【0006】
特許文献2には、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂とビスフェノールA型エポキシ樹脂とを配合することにより、2核体含有量が20~30重量%で、かつDSCで測定されるガラス転移温度が10~30℃のエポキシ樹脂(A)及び硬化剤(B)を含有するものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-103941号公報
【文献】特開2001-151856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1で提案された封止用樹脂組成物は、常温での流動性という点で十分な性能を有しておらず、一方、特許文献2で提案された封止用樹脂組成物は、逆に耐熱性という面で十分な性能を有しておらず、いずれもさらなる改善が望まれるところであった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、半導体パッケージ等の電子部品や半導体装置用として好ましい高耐熱の樹脂硬化物を得ることができる樹脂組成物、それを用いた電子部品及び半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、半導体パッケージ用として好ましい高耐熱の樹脂硬化物を得ることができ且つ流動性に優れた樹脂組成物を構成するエポキシ樹脂について、必要とされる耐熱性を高めるポイントとして、(1)第1に熱重量減少があまり無いこと、すなわち昇温途中で分解しにくいことと、(2)第2にガラス転移温度前後において貯蔵弾性率の急峻な変化がないようにすることであるとの方向性に達した。すなわち、半導体パッケージ用として好ましい硬化後における高い耐熱性と、樹脂組成物の施工時における作業性や細部への均一な付き回り性等を良好なものとする上での流動性とを、双方満たす上では、常温で樹脂組成物が固体となってしまっては作業性が悪くなってしまうので、常温では液状のままで耐熱性を持たせる必要がある。このためには、硬化後のエポキシ樹脂のガラス転移温度を約160~180℃程度に保持する必要があり、ガラス転移温度を高温側にシフトさせることはできない。このような前提のもとで、硬化後の樹脂の耐熱性を高めるためには、(1)については、硬化後のエポキシ樹脂につて25℃から300℃までの加熱減量測定において、その熱重量減少率が1.5%以下とし、(2)については、25℃から300℃まで加熱した際の貯蔵弾性率の減少率が92%以下とすれば、流動性に優れた樹脂組成物を構成するエポキシ樹脂に、必要とされる耐熱性を高めることができるとの結論に達した。
【0011】
このような条件を満たすべく、樹脂組成物を構成する各成分につき、種々検討を加えた結果、エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂にナフタレン型エポキシ樹脂を配合し、また硬化剤として酸無水物のような付加反応型の硬化剤ではなく、エポキシ基の開環重合触媒となるイミダゾール系硬化触媒を用いることで、流動性を低下させることなく、樹脂硬化物の耐熱性を高く改良することを見出し、本発明に至った。
【0012】
(1)本発明に係る高耐熱樹脂硬化物用組成物は、エポキシ樹脂と重合触媒型硬化剤とを含有する高耐熱樹脂硬化物用組成物であって、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を含有することを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、流動性が高く、また、硬化させた後において熱重量減少率が小さく、ブロードなガラス転移温度を示すことで高い耐熱性を有する樹脂とすることができる。
【0014】
本発明に係る高耐熱樹脂硬化物用組成物において、(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、(b)ナフタレン型エポキシ樹脂が5質量%~30質量%の割合で配合されていることが望ましい。
【0015】
本発明に係る高耐熱樹脂硬化物用組成物において、25℃における粘度が100000(Pa・s/25℃)以下であることが望ましい。
【0016】
本発明に係る高耐熱樹脂硬化物用組成物において、酸無水物を含まないものであることが望ましい。
【0017】
本発明に係る高耐熱樹脂硬化物用組成物において、100℃から300℃までの貯蔵弾性率(E’)の温度特性における傾き(dlogE’/dT)の絶対値の最大値は0.05GPa/℃以下であることが望ましい。
【0018】
本発明に係る高耐熱樹脂硬化物用組成物において、前記高耐熱樹脂硬化物用組成物を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃までの加熱減量測定において、その熱重量減少率が1.5%以下であることが望ましい。
【0019】
本発明に係る高耐熱樹脂硬化物用組成物において、前記高耐熱樹脂硬化物用組成物を硬化させて得られる樹脂硬化物が、25℃から300℃まで加熱した際の貯蔵弾性率の減少率が92%以下であることが望ましい。
【0020】
(2)本発明に係る電子部品は、上記本発明に係る高耐熱樹脂硬化物用組成物を硬化させてなる樹脂硬化物が、少なくとも一部に用いられていることを特徴とする。
【0021】
(3)本発明に係る半導体装置は、基板上に実装された半導体素子と金属部材とを含む部材を、上記本発明に係る高耐熱樹脂硬化物用組成物を含む封止材により封止してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、エポキシ樹脂として(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を用い、重合触媒型硬化剤として(c)イミダゾール型硬化触媒を用いることによって、常温における良好な流動性を保持しつつ、硬化後の熱重量減少が少なく、かつガラス転移温度がブロードなものとなる。その結果、耐熱性に優れた樹脂硬化物となり、半導体パッケージ用として好ましい高耐熱の樹脂硬化物を得ることができ且つ流動性に優れた樹脂組成物を提供できることから、例えば、電子部品や半導体装置に好ましく適用でき、パワー半導体等の高性能化に十分対応できるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態に係る半導体装置を示す概念的な断面図である。
図2】ナフタレン型エポキシ樹脂を用いた樹脂組成物の調製及びその硬化物の作製手順を説明するフロー図である。
図3】ナフタレン型エポキシ樹脂を用いない樹脂組成物の調製及びその硬化物の作製手順を説明するフロー図である。
図4】エポキシ樹脂の組成が及ぼす熱重量減少率の結果を示すグラフである。
図5】エポキシ樹脂の組成が及ぼすガラス転移温度(貯蔵弾性率の温度変化)の結果を示すグラフである。
図6】ビスフェノールA型エポキシの種類が及ぼす熱重量減少率の結果を示すグラフである。
図7】ビスフェノールA型エポキシの種類が及ぼすガラス転移温度(貯蔵弾性率の温度変化)の結果を示すグラフである。
図8】ナフタレン型エポキシの種類が及ぼす熱重量減少率の結果を示すグラフである。
図9】ナフタレン型エポキシの種類が及ぼすガラス転移温度(貯蔵弾性率の温度変化)の結果を示すグラフである。
図10】ナフタレン型エポキシの割合が及ぼす熱重量減少率の結果を示すグラフである。
図11】ナフタレン型エポキシの割合が及ぼすガラス転移温度(貯蔵弾性率の温度変化)の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る高耐熱樹脂硬化物用組成物(以下「樹脂組成物」と略することがある。)、それを用いた電子部品及び半導体装置について詳しく説明する。以下に説明する高耐熱樹脂硬化物用組成物、電子部品及び半導体装置は、本発明の一実施形態であり、本発明の要旨の範囲である限り以下の実施形態に限定されない。
【0025】
[高耐熱樹脂硬化物用組成物]
本発明に係る高耐熱樹脂硬化物用組成物は、主剤であるエポキシ樹脂と、重合触媒型硬化剤とを含有する高耐熱樹脂硬化物用組成物である。エポキシ樹脂としては、(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を含有し、重合触媒型硬化剤としては、(c)イミダゾール型硬化触媒を含有することを特徴とする。この樹脂組成物は、常温(25℃±5℃)において液状のものであり、特に限定されるものではないが、例えば、25℃における粘度が100000(Pa・s/25℃)以下、さらに好ましくは5000~50000(Pa・s/25℃)程度のものとされることで、常温での施工性が良好なものとなる。
【0026】
以下、高耐熱樹脂硬化物用組成物の構成について説明する。
【0027】
(主剤)
主剤であるエポキシ樹脂は、(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂と、(b)ナフタレン型エポキシ樹脂との混合物である。
【0028】
(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂:
(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂とは、ビスフェノールA(2,2’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン)をベースとし、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの縮合反応により製造されるものを指す。本発明で用いられるビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、常温(25℃±5℃)で液状のものであることが、最終的に得られる樹脂組成物が常温で液状を呈する上で必要とされる。
【0029】
(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ当量は、特に限定されるものではないが、例えば、100~300(g/eq)、より好ましくは130~250(g/eq)、さらに好ましくは150~200(g/eq)程度のものが望ましい。また、25℃における粘度も特に限定されるものではないが、例えば、1~30(Pa・s/25℃)、より好ましくは、2~25(Pa・s/25℃)程度のものであることが望ましい。
【0030】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の具体例としては、エポキシ樹脂jER(登録商標)825、827、828(いずれも三菱ケミカル株式会社製)、アデカレジンEP-4100、EP-4100G、EP-4300E(いずれも株式会社ADEKA製)、EPRICON840、850、EXA-850CRP、850-LC(いずれもDIC株式会社製)等が市販のものとして挙げられるが、これらに何ら限定されるものではない。
【0031】
(b)ナフタレン型エポキシ樹脂:
(b)ナフタレン型エポキシ樹脂とは、1分子内に少なくとも1個以上のナフタレン環を含んだ骨格を有するエポキシ樹脂を指し、例えば、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂、ビナフチル型エポキシ樹脂、ナフタレンアラルキル型エポキシ樹脂、2官能ないし4官能エポキシ型ナフタレン樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂等が含まれる。これらを単独又は複数組み合わせて用いることができる。これらのうち、特に2官能ないし4官能エポキシ型ナフタレン樹脂等が好ましい。
【0032】
(b)ナフタレン型エポキシ樹脂のエポキシ当量は、特に限定されるものではないが、例えば、50~350(g/eq)、より好ましくは100~300(g/eq)、さらに好ましくは120~270(g/eq)程度のものが望ましい。(b)ナフタレン型エポキシ樹脂それ自体でのガラス転移温度としては、特に限定されるものではないが、例えば、100~500℃程度、より好ましくは200~400℃程度のものであることが望ましい。
【0033】
ナフタレン型エポキシ樹脂の具体例としては、2官能ナフタレン型エポキシ樹脂としてのEPICLON HP4032D、4官能ナフタレン型エポキシ樹脂としてのEPICLON HP4700、EPICLON HP4710、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂としてのEPICLON HP6000(いずれもDIC株式会社製)等が市販のものとして挙げられるが、これらに何ら限定されるものではない。
【0034】
ナフタレン型エポキシ樹脂は、ベンゼン環に比べてナフタレン環のπ-πスタッキング効果が高いため、特に、低熱膨張性、低熱収縮性に優れ、さらに、多環構造のため剛直効果が高く、ガラス転移温度が特に高いため、リフロー前後の熱収縮変化が小さい。したがって、ビスフェノールA型エポキシ樹脂に加えて、このようなナフタレン型エポキシ樹脂を含有させることで、熱重量減少が少なくなり、ガラス転移温度前後での貯蔵弾性率の変化もゆるやかなものとなり、所期の高い耐熱性を得ることができる。
【0035】
(配合割合)
樹脂組成物において、エポキシ樹脂としての(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂と(b)ナフタレン型エポキシ樹脂との配合比は、樹脂組成物が常温(25℃±5℃)で液状を呈し、かつ高い耐熱性を発揮できるものとなる限り特に限定されるものではないが、概して(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の配合割合が増える程熱重量減少率は小さく、ガラス転移温度は高まりブロードになる。一方で、ナフタレン型エポキシ樹脂の割合が多いほど粘度が高まり、流動性がなくなって施工が困難となってくる。そのため、ナフタレン型エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、30質量%以下であることが好ましい。一方、ナフタレン型エポキシ樹脂の配合量が極端に少なくなると、熱重量減少率やガラス転移温度に関する改善効果が十分なものとはならなくなる。そのため、ナフタレン型エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、5質量%以上含まれていることが好ましい。さらに望ましくは、ナフタレン型エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、8~35質量%程度の範囲内で配合されてことが好ましい。
【0036】
(重合触媒型硬化剤)
樹脂組成物は、重合触媒型硬化剤(硬化触媒ともいう。)として、(c)イミダゾール型硬化触媒が用いられる。イミダゾール型硬化触媒を用いることによって、硬化性及び耐熱性に優れ、流動性及び成形性が良好であるという観点が達成される。
【0037】
エポキシ樹脂に対する硬化剤を大きく別けると、(A)エポキシ基に付加反応するものと、(B)エポキシ基の開環重合触媒となるものがある。(A)の代表的なものとしては、第一アミン(求核的)と酸無水物(求電子的)があり、(B)の代表的なものとしては、第三アミン(求核的)と三フッ化ホウ素(BF3)のアミン錯体(求電子的)がある。本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、エポキシ系樹脂組成物の硬化剤として、一般的な付加反応型の酸無水物を用いた場合、硬化反応性には優れるものの、得られる樹脂硬化物のガラス転移温度が低く、ガラス転移温度前後での貯蔵弾性率の減少率が急峻となり、また300℃付近での熱重量減少率も大きくなって、高耐熱樹脂硬化物用組成物としては望ましくないものとなることがわかった。このため、本発明に係る樹脂組成物においては、硬化剤として、付加反応型のもの、特に、酸無水物を含まないものとした。
【0038】
一方、本発明に係る樹脂組成物において、硬化触媒として用いられるイミダゾール型硬化触媒は、(B)エポキシ基の開環重合触媒となるものであって、求核的な第三アミンに分類される。しかし、一般的な第三アミンである脂肪族第三アミンとは異なり、同じ第三アミンでも同一分子内に第二アミンを持つイミダゾールは、エポキシ樹脂に対する硬化触媒として低温では比較的反応が遅く、高温で激しく反応する。そして、脂肪族第三アミンによる硬化と異なり、このような高温でのイミダゾールの硬化は、分子内コンプレックスとなり、停止反応や連鎖移動が起り難いと考えられ、その硬化物の重合度が大きくなるために橋架け密度が大きく、高い荷重撓み温度(HDT)が得られる。そのため、高耐熱樹脂硬化物用組成物の硬化剤として望ましいものである。
【0039】
イミダゾール型硬化触媒として、具体的には、例えば、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-イソプロピルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-へプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-イソブチル-2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-メチルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾリン、1-シアノエチル-2-フェニル-4,5-ジ(2-シアノエトキシ)メチルイミダゾール、1-ドデシル-2-メチル-3-ベンジルイミダゾリウムクロライド、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール塩酸塩及び1-ベンジル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト等を挙げることができるが、これらに何ら限定されない。これらイミダゾール類は、単独又は2種以上混合して使用することができる。
【0040】
イミダゾール型硬化触媒の中では、特に、1-イソブチル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール等が好ましい。1-イソブチル-2-メチルイミダゾールの硬化触媒としては、IBMI12(三菱ケミカル株式会社製)等が市販されている。
【0041】
硬化触媒としての(c)イミダゾール型硬化触媒の使用量は、特に限定されるものではなく、また使用されるエポキシ樹脂のエポキシ当量等を考慮して適宜調整することが可能である。例えば、エポキシ樹脂の総量((a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂と(b)ナフタレン型エポキシ樹脂との合計量)を100質量部とした場合において、(c)イミダゾール型硬化触媒は0.2~10質量部、より好ましくは0.5~5質量部程度とされる。
【0042】
(その他の成分)
本発明の高耐熱樹脂硬化物用組成物は、上記各必須成分に加えて、その特性を阻害しない範囲において、その他の成分を任意に含むことができる。このような任意成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、無機充填材、あるいはその他、着色剤、難燃剤、離型剤、又はカップリング剤等の公知慣用の各種の添加剤成分も適宜配合することができる。無機充填材としては、特に限定されるものではないが、例えば、シリカ、アルミナ、タルク、クレー、ガラス繊維等が挙げられ、特にコロイダルシリカ、溶融シリカ、破砕シリカ等のシリカ類が好ましく例示できる。
【0043】
本発明においては、上記した(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂に加え、本発明の優れた耐熱性と流動性等の特性を損なわない限りにおいて、必要に応じ適宜その他のエポキシ樹脂を配合することは可能である。この際に用いられるエポキシ樹脂としては、公知慣用のものが何れも使用でき、例えば、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂やテトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂等の難燃型エポキシ樹脂や、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラヒドロキシフェニルエタン型エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
(調製方法)
本発明に係る樹脂組成物の調製方法は特に限定されるものではないが、例えば、(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂と(b)ナフタレン型エポキシ樹脂とを、それぞれ所定量ずつ計量して、加熱機構と攪拌機構を備えた容器内入れ、これら2種のエポキシ樹脂を一旦加熱して、ナフタレン型エポキシ樹脂をビスフェノールA型エポキシ樹脂に溶解する。この際の温度条件としては、使用する(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び(b)ナフタレン型エポキシ樹脂の種類等にも左右されるので特に限定されるものではないが、例えば、100~200℃程度の範囲であることが好ましい。このように、一旦加温してフタレン型エポキシ樹脂をビスフェノールA型エポキシ樹脂に溶解した後、攪拌しながら室温(常温)付近まで冷却する(例えば、50~100℃で、200~600rpm程度で1~5時間攪拌して、25℃±5℃の常温に冷却する)ことで均一な液状エポキシ樹脂混合物を得る。次いで、この液状エポキシ樹脂混合物に、イミダゾール系硬化触媒を所定量添加し、500~3000rpm程度で1~5分程度軽く攪拌、好ましくはさらに1~2分程度脱泡処理することにより、本発明に係る樹脂組成物を調製することができる。
【0045】
また、本発明に係る樹脂組成物の硬化焼成温度としては、150~200℃程度の温度とすることができる。
【0046】
本発明に係る樹脂組成物を上記のようにして硬化させて得られる樹脂硬化物は、特に限定されるわけではないが、25℃から300℃までの加熱減量測定において、その熱重量減少率が1.5%以下であり、より好ましくは1.0%以下である。また、25℃から300℃まで加熱した際の貯蔵弾性率の減少率が92%以下、より好ましくは90%以下である。この熱重量減少率の温度特性と、貯蔵弾性率の減少率の温度特性とは、いずれか一方の特性を有すればよいし、両方の特性を備えていてもよく、両方備えている場合はより好ましいといえる。なお、「減少率」とは、貯蔵弾性率の温度特性を示すもので、25℃における貯蔵弾性率を基準とした場合の300℃における貯蔵弾性率の減少率を示す。例えば、300℃の貯蔵弾性率の減少率が88.6%(実施例1)ということは、25℃の貯蔵弾性率に比べて88.6%減少していることを意味する。つまり、この「減少率」が少ないと温度変化に対する貯蔵弾性率の変動が急峻ではなく、緩やかであるといえる。このような特性を満たすことで、高い耐熱性が達成され、半導体パッケージの封止用樹脂として好適に使用されることができる。
【0047】
樹脂組成物を上記組成のエポキシ樹脂で構成することで、ガラス転移温度の前後において貯蔵弾性率の急峻な変化がないようにすることができる。具体的には、図5等に示すように、100℃から300℃までの貯蔵弾性率(E’)の温度特性における傾き(dlogE’/dT)の絶対値の最大値(S)は0.05GPa/℃以下である。上記傾きがこの範囲であると、300℃までの熱ストレスに対しても熱応力の変化が緩やかとなり、樹脂組成物の劣化を無くす又は抑制することができる。最大値とした意味は、貯蔵弾性率の変化曲線のなかで最も大きな傾き部分を測定することが、耐熱性を比較するのに好都合であるためである。なお、貯蔵弾性率の温度特性を示す貯蔵弾性率(E’)の傾き(dlogE’/dT)は、図5等の片対数グラフから得ることができ、片対数グラフ(X軸は温度Tで、Y軸がE‘の常用対数)の直線上の2点(x1,y1)、(x2,y2)から、傾きS=(log10y1-log10y2)/(x1-x2)の式で得られる。
【0048】
[電子部品]
本発明に係る電子部品は、先に説明した樹脂組成物を硬化させてなる樹脂硬化物が、少なくとも一部に用いられている、すなわち構成要素の一部として含んでいる。電子部品としては、環境管理の難しい、屋外で使用される、自動車、車両、航空機、船舶、自動販売機、空調機、発電機等の電気機器や電力機器が挙げられる。具体的には、半導体モジュール、モールドトランス、ガス絶縁開閉装置等があるが、特に限定されない。典型的には、電子部品は、上記した本発明の実施形態に係る樹脂組成物を含んでなる封止材により封止された半導体装置である。こうした半導体装置は、基板上に実装された半導体素子と金属部材とを含む部材を、上記本発明に係る樹脂組成物を含む封止材により封止してなるものである。
【0049】
以下、電子部品として半導体装置について説明するが、本発明に係る電子部品は半導体装置には限定されず、樹脂硬化物と金属やセラミックス等との異素材界面が存在し、樹脂硬化物の機械的強度、及び耐熱性、界面での剥離が課題となりうる電子部品について、同様に機能するものである。
【0050】
図1は、本実施形態に係る半導体装置の一例を示す概念的な断面図である。この半導体装置は、大電流を通電させる用途に用いられるパワーモジュール等であってもよいが、特に限定されない。半導体モジュールにおいては、図1に示すように、絶縁基板22の一方の面である下面に第1導電性板23が配置され、絶縁基板22の他方の面である上面に第2導電性板21が配置されて積層基板2が構成される。積層基板2の第1導電性板23側の面である下面には、はんだ等の接合層により、ヒートスプレッダ3が取り付けられる。積層基板2の第2導電性板21側の面である上面には、図示しない導電接合層を介して、SiC半導体素子4が複数個搭載され取り付けられている。SiC半導体素子4は、RC-IGBT素子等であってよいが、特定の素子には限定されない。さらに、半導体素子4の上面には、接合層5によりインプラントピン6を備えたインプラント方式プリント基板11が取り付けられている。第2導電性板21の上面には、制御端子7が取り付けられ、半導体モジュールの外部との電気的接続が可能に構成されている。また、第2導電性板21の上面には、主端子N8、P9、U10の一方の端部が取り付けられ、他方の端部は半導体モジュールの外側に露出される。そして、これらの部材は、本発明の実施形態に係る樹脂組成物から構成された封止材1で封止され、半導体モジュールを構成している。なお、本明細書において、上面、下面とは、説明の目的で、図中の上下を指す相対的な用語であって、半導体モジュールの使用態様等との関係で上下を限定するものではない。
【0051】
このような半導体モジュールの製造方法は、従来技術に従って、ヒートスプレッダ3にはんだ等を用いて積層基板2を接合し、さらに積層基板2に半導体素子4を実装する。次いで、インプラントピン6、制御端子7、インプラント方式プリント基板11、主端子N8、P9、U10を取り付ける。その後、これらを、封止材1によりポッティングあるいはトランスファー成形等の方法により封止し、加熱硬化させることにより、半導体モジュールを製造することができる。
【0052】
図1の実施形態においては、半導体モジュールの全体が、本発明の実施形態に係る樹脂組成物から構成された封止材で封止されているが、封止の態様は図示するものには限定されない。例えば、積層基板の周辺部や、半導体素子の周辺部のみが、本発明に係る樹脂組成物の硬化物で封止されており、その他の部分はその樹脂組成物の硬化物を含まない従来技術の他の封止樹脂で封止されていてもよい。そして、本発明に係る樹脂組成物を封止材として用いた半導体モジュールは、175℃以上での耐熱性を有することができる。なお、この場合の耐熱性の温度とは、モジュール周囲の環境温度及び半導体動作時のモジュールの温度である。
【実施例
【0053】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。なお、以下の実施例は本発明の内容の理解を容易とする目的のためだけに例示したものであって、これらの実施例により本発明が何ら限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]
図2に示した手順にしたがい、樹脂組成物を調製し、得られた樹脂組成物を焼成して樹脂硬化物を作製した。まず、(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER(登録商標)828、三菱ケミカル株式会社製)と、(b)ナフタレン型エポキシ樹脂(EPICLON HP4700、DIC株式会社製)とを、計量装置(CPA-3245、サルトリウス・ジャパン株式会社製)を用いて計量し、表1に示す所定の配合割合にて配合し、有機合成装置(CP-160、柴田科学株式会社製)内にて、120℃で2時間加熱して、(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂に(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を溶解し、その後さらに60℃で500rpmにて3時間攪拌して、均一な液状エポキシ樹脂混合物とした。次いで、この液状エポキシ樹脂混合物に、イミダゾール系硬化触媒(IBMI12、三菱ケミカル株式会社製)(1-イソブチル-2-メチルイミダゾール)を、表1に示す所定量添加し、自転・公転ミキサー(あわとり練太郎 ARE-200、株式会社シンキー製)にて、2000rpmで2分間遊星攪拌した後、2000rpmで1分間脱泡処理して、実施例1の樹脂組成物を調製した。
【0055】
次いで、得られた樹脂組成物をテフロン(登録商標)シャーレに硬化後の厚さが約2mmとなるように展開し、定温乾燥器(DOV-300、アズワン株式会社製)を用いて、200℃にて2時間焼成して、実施例1の樹脂組成物を加熱硬化させた。得られた樹脂組成物の加熱硬化物の評価は、以下の方法により行った。得られた結果を、表1及び図4,5に示す。
【0056】
(評価)
(1)熱重量減少率:
得られた樹脂組成物の加熱硬化物の熱重量減少率は、示差熱分析装置(TG-8120、リガク株式会社)製を用いて、昇温速度5℃/分で加熱して測定し、25℃から300℃まで加熱した際の熱重量減少率を測定した。
【0057】
(2)ガラス転移温度及び貯蔵弾性率の温度特性:
得られた樹脂組成物の加熱硬化物のガラス転移温度は、動的粘弾性測定装置(DVA-200、アイティー計測制御株式会社製)を用い、昇温速度5℃/分で加熱して測定し、25℃から300℃まで加熱した際の貯蔵弾性率の変化を測定した。
【0058】
[比較例1~3]
図3に示した手順にしたがい、樹脂組成物を調製し、得られた樹脂組成物を焼成して樹脂硬化物を作製した。まず、(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER(登録商標)828、三菱ケミカル株式会社製)と、(x)脂環式エポキシ樹脂(セロキサイド2021P、株式会社ダイセル化学製)と、(y)酸無水物硬化剤(HN-5500、日立化成株式会社製)と、イミダゾール系硬化触媒(IBMI12、三菱ケミカル株式会社製)(1-イソブチル-2-メチルイミダゾール)とを、計量装置(CPA-3245、サルトリウス・ジャパン株式会社製)を用いて計量し、それぞれ表1に示す所定の配合割合にて配合した。これらの成分がいずれも常温(25℃±5℃)で液状であるので、そのまま自転・公転ミキサー(あわとり練太郎 ARE-200、株式会社シンキー製)にて、2000rpmで2分間遊星攪拌した後、2000rpmで1分間脱泡処理して、比較例1~3の樹脂組成物を調製した。
【0059】
次いで、得られた樹脂組成物をテフロン(登録商標)シャーレに硬化後の厚さが約2mmとなるように展開し、定温乾燥器(DOV-300、アズワン株式会社製)を用いて、200℃にて2時間焼成して、比較例1~3の樹脂組成物を加熱硬化させた。得られた樹脂組成物の加熱硬化物の(1)熱重量減少率及び(2)ガラス転移温度及び貯蔵弾性率に関する評価を、実施例1と同様の手法により行った。得られた結果を、表1及び図4,5に示す。
【0060】
[比較例4]
図2に示した手順にしたがい、樹脂組成物を調製し、得られた樹脂組成物を焼成して樹脂硬化物を作製した。まず、(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER(登録商標)828、三菱ケミカル株式会社製)と(b)ビフェニル型エポキシ樹脂(jER(登録商標)YX-4000、三菱ケミカル株式会社製)とを、計量装置(CPA-3245、サルトリウス・ジャパン株式会社製)を用いて計量し、表1に示す所定の配合割合にて配合し、有機合成装置(CP-160、柴田科学株式会社製)内にて120℃で2時間加熱して、(a)ビスフェノールA型エポキシ樹脂に(b)ナフタレン型エポキシ樹脂を溶解し、その後さらに60℃で500rpmにて3時間攪拌して、均一な液状エポキシ樹脂混合物とした。次いで、この液状エポキシ樹脂混合物に、イミダゾール系硬化触媒(IBMI12、三菱ケミカル株式会社製)(1-イソブチル-2-メチルイミダゾール)を、表1に示す所定量添加し、自転・公転ミキサー(あわとり練太郎 ARE-200、株式会社シンキー製)にて、2000rpmで2分間遊星攪拌した後、2000rpmで1分間脱泡処理して、比較例4の樹脂組成物を調製した。
【0061】
次いで、得られた樹脂組成物をテフロン(登録商標)シャーレに硬化後厚さが約2mmとなるように展開し、定温乾燥器(DOV-300、アズワン株式会社製)を用いて、200℃にて2時間焼成して、比較例4の樹脂組成物を加熱硬化させた。得られた樹脂組成物の加熱硬化物の(1)熱重量減少率及び(2)ガラス転移温度に関する評価を、実施例1におけると同様の手法により行った。得られた結果を、表1及び図4,5に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1及び図4,5に示した結果のように、実施例1は、ビスフェノールA型エポキシとナフタレン型エポキシとイミダゾール系硬化触媒の組み合わせからなる樹脂組成物であり、熱重量減少率が小さく、ガラス転移温度はブロードになった。具体的には、100℃から300℃までの貯蔵弾性率(E’)の温度特性における傾き(dlogE’/dT)の絶対値の最大値(S)は、実施例1では0.033GPa/℃であった。
【0064】
これに対して、比較例1は、ビスフェノールA型エポキシと脂環式エポキシ、及び酸無水物硬化剤からなる樹脂組成物であり、熱重量減少率が大きく、ガラス転移温度が低いものであった。比較例2は、脂環式エポキシを用いず、ビスフェノールA型エポキシと酸無水物硬化剤からなる樹脂組成物であり、比較例1よりも熱重量減少率は小さく、ガラス転移温度は高まるが、実施例1よりは劣るものであった。比較例3は、脂環式エポキシと酸無水物硬化剤を用いず、ビスフェノールA型エポキシだけをイミダゾール系硬化触媒により重合させた樹脂であり、比較例1、2と比べて熱重量減少率は小さく、ガラス転移温度は高まるが、実施例1よりは劣るものであった。さらに、比較例4は、ビスフェノールA型エポキシとビフェニル型エポキシの組み合わせからなるエポキシ樹脂組成物であり、比較例1、2、3と比べて熱重量減少率は小さく、ガラス転移温度は高まるが、実施例1よりは劣るものであった。また、100℃から300℃までの貯蔵弾性率(E’)の温度特性における傾き(dlogE’/dT)の絶対値の最大値(S)は、比較例1では0.867GPa/℃、比較例2では0.202GPa/℃、比較例3では0.072GPa/℃、比較例4では0.058GPa/℃であった。
【0065】
これらの点から、ビスフェノールA型エポキシとナフタレン型エポキシとイミダゾール系硬化触媒との組み合わせからなる実施例1の樹脂組成物は、熱重量減少率及びガラス転移温度の点で優れた特性を示すことが明らかとなった。
【0066】
[実施例2,3]
図2に示した手順にしたがい、樹脂組成物を調製し、得られた樹脂組成物を焼成して樹脂硬化物を作製した。ここでは、実施例1のビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER(登録商標)828、三菱ケミカル株式会社製)に代えて、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER(登録商標)825、三菱ケミカル株式会社製)(実施例2)、又はビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER(登録商標)827、三菱ケミカル株式会社製)(実施例3)を用いる以外は、実施例1と同様にして、実施例2,3の樹脂組成物を調製し、その後実施例1と同様にして実施例2,3の樹脂組成物を加熱硬化させた。得られた樹脂組成物の加熱硬化物の(1)熱重量減少率及び(2)ガラス転移温度に関する評価を、実施例1と同様の手法により行った。得られた結果を、表2及び図6,7に実施例1及び比較例1の結果と共に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
表2及び図6,7の結果に示すように、比較例1は、ビスフェノールA型エポキシと脂環式エポキシ、及び酸無水物硬化剤からなる樹脂組成物であり、熱重量減少率が大きく、ガラス転移温度が低く、貯蔵弾性率の温度特性も悪いものであった。
【0069】
これに対し、実施例1は、エポキシ当量が189である2官能ビスフェノールA型エポキシ(828)と、ナフタレン型エポキシと、イミダゾール系硬化触媒との組み合わせからなる樹脂組成物であり、比較例1よりも熱重量減少率が小さく、ガラス転移温度ブロードであった。実施例2は、エポキシ当量が175である2官能ビスフェノールA型エポキシ(825)と、ナフタレン型エポキシと、イミダゾール系硬化触媒との組み合わせからなる樹脂組成物であり、熱重量減少率及びガラス転移温度は実施例1よりは劣るが、比較例1には優るものであった。実施例3は、官能基当量が185である2官能ビスフェノールA型エポキシ(827)と、ナフタレン型エポキシと、イミダゾール系硬化触媒との組み合わせからなる樹脂組成物であり、熱重量減少率及びガラス転移温度は実施例1よりは劣るが、比較例1には優るものであった。また、100℃から300℃までの貯蔵弾性率(E’)の温度特性における傾き(dlogE’/dT)の絶対値の最大値(S)は、実施例2では0.038GPa/℃、実施例3では0.037GPa/℃であった。
【0070】
これらの点から、官能基当量が異なるビスフェノールA型エポキシにおいても、ナフタレン型エポキシとイミダゾール系硬化触媒と組み合わせてなる樹脂組成物は、熱重量減少率とガラス転移温度の点で優れた特性を示すことが明らかとなった。
【0071】
[実施例4~6]
図2に示した手順にしたがい、樹脂組成物を調製し、得られた樹脂組成物を焼成して樹脂硬化物を作製した。ここでは、実施例1のナフタレン型エポキシ樹脂(EPICLON HP4700、DIC株式会社製)に代えて、ナフタレン型エポキシ樹脂(EPICLON HP4710、DIC株式会社製)(実施例4)、ナフタレン型エポキシ樹脂(EPICLON HP4032D、DIC株式会社製)(実施例5)、又はナフタレン型エポキシ樹脂(EPICLON HP6000、DIC株式会社製)(実施例6)を用いる以外は、実施例1と同様にして、実施例4~6の樹脂組成物を調製し、その後実施例1と同様にして実施例4~6の樹脂組成物を加熱硬化させた。得られた樹脂組成物の加熱硬化物の(1)熱重量減少率及び(2)ガラス転移温度に関する評価を、実施例1におけると同様の手法により行った。得られた結果を、表3及び図8,9に実施例1及び比較例1の結果と共に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
表3及び図8,9の結果に示すように、実施例1は、ビスフェノールA型エポキシと、ガラス転移温度が326℃のナフタレン型エポキシ(HP-4700)と、イミダゾール系硬化触媒との組み合わせからなる樹脂組成物であり、熱重量減少率が小さく、ガラス転移温度がブロードであった。実施例4は、ビスフェノールA型エポキシと、ガラス転移温度が350℃のナフタレン型エポキシ(HP-4710)と、イミダゾール系硬化触媒との組み合わせからなる樹脂組成物であり、熱重量減少率が小さく、ガラス転移温度が実施例1よりも優り、ブロードであった。実施例5は、ビスフェノールA型エポキシと、ガラス転移温度が220℃のナフタレン型エポキシ(HP-4032D)と、イミダゾール系硬化触媒との組み合わせからなる樹脂組成物であり、熱重量減少率が小さく、ガラス転移温度がブロードであるが、実施例1、4よりは劣るものであった。実施例6は、ビスフェノールA型エポキシと、ナフタレン型エポキシ(HP-6000)と、イミダゾール系硬化触媒との組み合わせからなる樹脂組成物であり、熱重量減少率が小さく、ガラス転移温度がブロードであるが、実施例1、4よりは劣るものであった。また、100℃から300℃までの貯蔵弾性率(E’)の温度特性における傾き(dlogE’/dT)の絶対値の最大値(S)は、実施例4では0.031GPa/℃、実施例5では0.044GPa/℃、実施例6では0.048GPa/℃であった。
【0074】
一方、比較例1は、上述したように、ビスフェノールA型エポキシと脂環式エポキシ、及び酸無水物硬化剤からなる樹脂組成物であり、熱重量減少率が大きく、ガラス転移温度が低く、貯蔵弾性率の温度特性も悪く、実施例1,4,5,6と比べると劣るものであった。
【0075】
これらの点から、ビスフェノールA型エポキシと組み合わせるナフタレン型エポキシとして各種のものを用いても、ビスフェノールA型エポキシとナフタレン型エポキシとイミダゾール系硬化触媒との組み合わせからなる樹脂組成物は、熱重量減少率とガラス転移温度の点で優れた特性を示すことが明らかとなった。特に、ナフタレン型エポキシとしては、4官能の構造のナフタレン型エポキシが好適であることが明らかとなった。
【0076】
[実施例7~11]
図2に示す手順にしたがい、樹脂組成物を調製し、得られた樹脂組成物を焼成して樹脂硬化物を作製した。ここでは、実施例1のビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER(登録商標)828、三菱ケミカル株式会社製)と(b)ナフタレン型エポキシ樹脂(EPICLON HP4700、DIC株式会社製)との配合割合を、表4に示すように変更する以外は、実施例1と同様にして、実施例7~11の樹脂組成物を調製した。その後実施例1と同様にして、高粘度で試料の作製が困難であった実施例7を除く実施例8~11の樹脂組成物を加熱硬化させた。得られた樹脂組成物の加熱硬化物の(1)熱重量減少率及び(2)ガラス転移温度に関する評価を、実施例1と同様の手法により行った。得られた結果を、表4及び図10,11に比較例1,3の結果と共に示す。
【0077】
【表4】
【0078】
表4及び図10,11の結果に示したように、実施例7~11は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とナフタレン型エポキシ樹脂とイミダゾール系硬化触媒との組み合わせからなる樹脂組成物であり、ナフタレン型エポキシ樹脂の割合が高いほど、熱重量減少率は小さく、ガラス転移温度は高まりブロードになった。一方で、ナフタレン型エポキシ樹脂の割合が多いほど粘度が高まり、流動性がなくなって施工が困難となった。このことから、ナフタレン型エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とナフタレン型エポキシ樹脂の総量に対して、30質量%以下であることが実用上の観点では好ましい。
【0079】
比較例1は、上述したようにビスフェノールA型エポキシと脂環式エポキシ、及び酸無水物硬化剤からなる樹脂組成物であり、熱重量減少率が大きく、ガラス転移温度が低くなった。比較例3は、ナフタレン型エポキシ樹脂を加えずビスフェノールA型エポキシだけをイミダゾール系硬化触媒により重合させた樹脂であり、熱重量減少率は小さいが、ガラス転移温度はナフタレン型エポキシ樹脂を加えた組成のものよりも低くなった。また、100℃から300℃までの貯蔵弾性率(E’)の温度特性における傾き(dlogE’/dT)の絶対値の最大値(S)は、実施例8では0.021GPa/℃、実施例9では0.025GPa/℃、実施例10では0.031GPa/℃、実施例11では0.040GPa/℃であった。
【0080】
これらの点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とナフタレン型エポキシ樹脂とイミダゾール系硬化触媒との組み合わせからなる樹脂組成物は、熱重量減少率及びガラス転移温度の点で優れた特性を示すが、組成物の粘度の点からナフタレン型エポキシの割合は30質量%以下が好ましいことが示された。

これらの点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とナフタレン型エポキシ樹脂とイミダゾール系硬化触媒との組み合わせからなる樹脂組成物は、熱重量減少率及びガラス転移温度及び貯蔵弾性率の温度特性(変化率、傾き)の点で優れた特性を示す。そして、本発明に係る高耐熱樹脂硬化物用組成物は、半導体モジュールにおける封止材としての175℃以上の高温での耐熱性を満たすことができる。また、組成物の粘度の点からナフタレン型エポキシの割合は30質量%以下が好ましいことが示された。
【符号の説明】
【0081】
1 封止材
2 積層基板
3 ヒートスプレッダ
4 半導体素子
5 接合層
6 インプラントピン
7 制御端子
8 主端子N
9 主端子P
10 主端子U
11 インプラント方式プリント基板
21 第2導電性板
22 絶縁基板
23 第1導電性板


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11