(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】ヘテロール多量体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 307/46 20060101AFI20221101BHJP
C07D 407/14 20060101ALI20221101BHJP
C07D 409/14 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
C07D307/46
C07D407/14
C07D409/14
(21)【出願番号】P 2018125126
(22)【出願日】2018-06-29
【審査請求日】2021-06-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業ALCA「フラン環の構造特性を利用した高機能性高分子の創出」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100160945
【氏名又は名称】菅家 博英
(72)【発明者】
【氏名】橘 熊野
(72)【発明者】
【氏名】和佐野 達也
(72)【発明者】
【氏名】粕谷 健一
【審査官】伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】TORMO, J. et al.,Journal of Organic Chemistry ,1997年,Vol. 62,pp. 878-884
【文献】MORIMOTO, K. et al.,Organic Letters ,2010年,Vol. 12, No. 17,pp. 3804-3807
【文献】ZHANG, M. et al.,Journal of Polymer Science, Part A: Polymer Chemistry,2011年,Vol. 49,pp. 2746-2754
【文献】GADAKH, S. et al.,Angewandte Chemie International Edition ,2017年,Vol. 56,pp. 13601-13605
【文献】KORSHIN, E. E. et al.,Organic & Biomolecular Chemistry ,2014年,Vol. 12,pp. 6661-6671
【文献】COLLUM, D. B.,Accounts of Chemical Research ,1992年,Vol. 25,pp. 448-454
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘテロールの脱プロトン化剤及び脱プロトン化促進剤の存在下で、ヘテロールを脱プロトン化する脱プロトン化工程と、脱プロトン化したヘテロール同士で炭素-炭素結合が生成するカップリング工程とを含む、ヘテロール
二量体の製造方法
であって、
前記脱プロトン化剤が、ブチルリチウムであり、
前記脱プロトン化促進剤が、テトラメチルエチレンジアミンであり、
前記ヘテロールが、以下の式(1)で表される化合物である、製造方法。
【化1】
[式(1)中、EはOであり、
R
1
は、炭素数1~16のアルキル、炭素数2~6のアルケニル、炭素数2~6のアル
キニル、炭素数3~6のシクロアルキル、または炭素数6~14のアリールであり、
前記炭素数1~16のアルキルを構成する水素の少なくとも一つがR
2
により置換され
ていてもよく、前記アルキルを構成する-CH
2
-の少なくとも一つが、-COO-、-
CONH-、-O-、-S-、-Se-、-C=N-、または-NH-で置換されていてもよく、ただし、-COO-、-CONH-、-O-、-S-、-Se-、または-NH-が、それぞれ連続することはなく、前記R
1
のアルキルの末端を構成する-CH
3
が-NHCOO-R
3
、-CONH-R
3
、-C=N-R
3
、-Si(R
3
)
3
で置換されてもよく
、
炭素数2~8のアルケニル及び炭素数2~8のアルキニルを構成する少なくとも一つの水素が、R
2
により置換されていてもよく、
前記炭素数3~6のシクロアルキルを構成する水素の少なくとも一つがR
2
により置換
されていてもよく、シクロアルキルを構成する-CH
2
-の少なくとも一つが、-O-で
置換されていてもよく、
前記炭素数6~14のアリールを構成する水素の少なくとも一つがR
2
により置換され
ていてもよく、
前記R
2
は、炭素数1~6のアルキル、炭素数6~14のアリール、シアノ、ニトロ、
シリル、ヒドロキシ、アミノ、又はハロゲン原子を表し、
前記R
3
は、水素または炭素数1~5のアルキルを表し、
n1は0~1の整数である。]
【請求項2】
前記脱プロトン化工程と、カップリング工程の合計時間が3時間以下である、請求項
1に記載のヘテロール
二量体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘテロール多量体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロペンタジエンのメチレン部位が炭素以外の元素に置き換わった化合物はヘテロールと呼ばれ、医薬品や有機半導体材料として利用されており、その合成方法の開発が進められている。特に2個以上のヘテロールを炭素-炭素結合で連結させたヘテロール多量体はπ共役系の拡張による特性発現が数多く報告されている(非特許文献1など)。
【化1】
【0003】
ヘテロール多量体の製造方法として、以下の反応式で表されるように、予め結合を形成する部位に反応性の官能基を原料分子に導入した後に、貴金属触媒を用いてカップリングする方法が知られている(ウルマンカップリング、鈴木宮浦カップリング、酸化的カップリングなど)。
【化2】
【0004】
また、パラジウム触媒のような貴金属触媒を用いた例として、以下の反応式で示される酸化的ホモカップリングの報告もある(非特許文献2,3)
【化3】
【0005】
一方、ブチルリチウム存在下、安価な銅試薬を用いたカップリングも報告されている(非特許文献4)。
【化4】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Chem. Sci. 2015, 6(1), p.360-371.
【文献】React. Kinet. Catal. Lett. 1976, 5(4), p.415-419.
【文献】Synthesis. 1984, (3), 255-256.
【文献】Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 1974, 13, 291.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ヘテロール多量体の合成において、予め、結合を形成するヘテロールの所定の部位に反応性の官能基を導入する必要がある方法は、安価な大量合成に向かないという問題点があった。また、導入した官能基は最終的に副生成物として廃棄処理が必要であり、アトムエコノミー的にも不利である。
また、パラジウム触媒を用いた酸化的ホモカップリング(非特許文献2、3)では、酸化分解物が大量に生じるために収率は60%程度が限界であり、精製に難があること、また、貴金属試薬を用いる必要があるなど課題がある。
さらに、ブチルリチウムの存在下、安価な銅試薬を用いたカップリング法(非特許文献4)では、収率が40%程度に留まっている。
これらのことから、本発明では、安価かつ高収率でヘテロール多量体を製造する方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、原料分子であるヘテロールの脱プロトン化の工程において、ヘテロールの脱プロトン化促進剤を用いることによって、安価、かつ高収率でヘテロール多量体の製造が可能になることを見出し、本発明を完成させた。
本明細書において、ヘテロールとは、シクロペンタジエンのメチレン部位が炭素以外の元素に置き換わった化合物の総称であり(これをヘテロール骨格ともいう)、その化合物を構成する一部の水素が他の置換基に置き換わったもの(誘導体)も含むものである。また、ヘテロール多量体とは、一分子のヘテロールのα位の炭素と、別の一分子のヘテロールのα位の炭素の間で、炭素-炭素結合を有して結合している、少なくとも2個以上のヘテロール骨格を有するものをいう。
【0009】
本発明は、ヘテロールの脱プロトン化剤及び脱プロトン化促進剤の存在下で、ヘテロールを脱プロトン化する工程と、脱プロトン化したヘテロール同士で炭素-炭素結合が生成するカップリング工程とを含む、ヘテロール多量体の製造方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、一実施形態として、ヘテロールが、以下の式(1)または(2)で表される化合物もしくはこれらの多量体である、ヘテロール多量体の製造方法を提供する。
【化5】
[式(1)及び(2)中、EはO、S、Se、またはTeであり、
式(1)中、
R
1は、炭素数1~16のアルキル、炭素数2~6のアルケニル、炭素数2~6のアルキニル、炭素数3~6のシクロアルキル、または炭素数6~14のアリールであり、
前記炭素数1~16のアルキルを構成する水素の少なくとも一つがR
2により置換されていてもよく、前記アルキルを構成する-CH
2-の少なくとも一つが、-COO-、-CONH-、-O-、-S-、-Se-、-C=N-、または-NH-で置換されていてもよく、ただし、-COO-、-CONH-、-O-、-S-、-Se-、または-NH-が、それぞれ連続することはなく、前記R
1のアルキルの末端を構成する-CH
3が-NHCOO-R
3、-CONH-R
3、-C=N-R
3、-Si(R
3)
3で置換されてもよく、
炭素数2~8のアルケニル及び炭素数2~8のアルキニルを構成する少なくとも一つの水素が、R
2により置換されていてもよく、
前記炭素数3~6のシクロアルキルを構成する水素の少なくとも一つがR
2により置換されていてもよく、シクロアルキルを構成する-CH
2-の少なくとも一つが、-O-で置換されていてもよく、
前記炭素数6~14のアリールを構成する水素の少なくとも一つがR
2により置換されていてもよく、
前記R
2は、炭素数1~6のアルキル、炭素数6~14のアリール、シアノ、ニトロ、シリル、ヒドロキシル、アミノ、又はハロゲン原子を表し、
前記R
3は、水素または炭素数1~5のアルキルを表し、
n1は0~3の整数であり、
式(2)中、
前記R
4は式(1)のR
1と同じであり、
前記R
5は、脂肪族環または芳香族環を表し、脂肪族環または芳香族環を構成する水素の少なくとも一つが、炭素数1~6のアルキル、炭素数6~14のアリール、シアノ、ニトロ、アミド、シリル、エステル、又はハロゲン原子により置換されていてもよく、該脂肪族環を構成する-CH
2-の少なくとも一つが、-O-で置換されてもよく、ただし、-O-が連続することはなく、
n2は0~2の整数である。]
【0011】
また、本発明は、一実施形態として、脱プロトン化剤が、有機アルカリ金属であるヘテロール多量体の製造方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、一実施形態として、脱プロトン化促進剤が、アルカリ金属イオンに対して配位能を有する化合物である、ヘテロール多量体の製造方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、一実施形態として、前記脱プロトン化工程と、カップリング工程の合計時間が3時間以下である、ヘテロール多量体の製造方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態にかかる製造方法は、脱プロトン化剤及び脱プロトン化促進剤の存在下で、ヘテロールを脱プロトン化する脱プロトン化工程を含む。
脱プロトン化剤と脱プロトン化促進剤の具体例は後述する。
脱プロトン化工程は、窒素のような不活性気体の存在下で、適当な溶媒にヘテロールと脱プロトン化促進剤とを加え、さらに脱プロトン化剤を添加して反応させる工程である。
脱プロトン化剤を添加するときの温度は、一例として-100~-20℃を挙げることができる。温度の別の例として-80~-20℃を挙げることができ、さらに別の例として-30~-10℃を挙げることができる。本発明の実施形態では、脱プロトン化促進剤を用いることにより、反応が高効率で進むことにより、従来では低温で行わなければならないと考えられていた当該工程の反応を、従来よりも高温で行うことができることが見出された。
【0015】
なお、本発明の実施形態に係るヘテロール多量体の製造方法では、多量体を合成する際の原料物質として、ヘテロールの単量体だけでなく、ヘテロールの多量体を原料物質として用いることもできる。例えば、ヘテロールの二量体を原料物質として用いた場合には、ヘテロールの四量体を合成できる。また、ヘテロールの単量体とヘテロールの二量体を原料物質として用いることで、ヘテロールの二量体、三量体、四量体の混合物を得ることもできる。
【0016】
<ヘテロールの脱プロトン化剤>
本発明の実施形態に用いられるヘテロールの脱プロトン化剤は、ヘテロールのα位の炭素の脱プロトン化を生じさせるものである。
ヘテロールの脱プロトン化剤の具体例として、有機アルカリ金属を挙げることができる。有機アルカリ金属として、アルキルリチウムを挙げることができる。
アルキルリチウムとしては、例えばエチルリチウム、n-プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n-ブチルリチウム、s-ブチルリチウム、t-ブチルリチウムなどが使用できる。これらの中でもn-ブチルリチウムを用いることが好ましい。
ヘテロールの脱プロトン化工程において、基質となるヘテロールと、ヘテロールの脱プロトン化剤の使用比率については、モル比で1:1~1:10を挙げることができ、1:1~1:3であることが好ましく、1:1~1:1.5であることがより好ましい。
【0017】
<ヘテロールの脱プロトン化促進剤>
本発明の実施形態にかかる製造方法に用いる、ヘテロールの脱プロトン化促進剤は、アルキル金属を配位する配位能を有する化合物である。そのような化合物として、多座配位子であるアミンまたはポリエーテルを挙げることができ、より具体的には3級アミンまたはクラウンエーテルを挙げることができる。
前記3級アミンとして、テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン及びトリエチルアミンからなる群より選ばれる少なくとも一つを挙げることができる。これらの中でもテトラメチルエチレンジアミンを用いることが好ましい。
前記クラウンエーテルとして、ジベンゾ24-クラウン-8-エーテル、ジシクロヘキシル24-クラウン-8-エーテル、24-クラウン-8-エーテル、ジベンゾ18-クラウン-6-エーテル、ジシクロヘキシル18-クラウン-6-エーテル、18-クラウン-6-エーテルおよびベンゾ12-クラウン-4-エーテル、シクロヘキシル12-クラウン-4-エーテル、12-クラウン-4-エーテルからなる群より選ばれる少なくとも1つを上げることができる。これらの中でも12-クラウン-4-エーテルを用いることが好ましい。
本発明の実施形態にかかる製造方法において、ヘテロールの脱プロトン化促進剤を用いることにより、ヘテロールの脱プロトン化剤の反応時に会合することを防止でき、それに
よって、ヘテロールの脱プロトン化反応を促進することができる。
ヘテロールの脱プロトン化工程における、ヘテロールの脱プロトン化剤と、ヘテロールの脱プロトン化促進剤との比率は、モル比で1:0.5~1:5を挙げることができ、1:
0.9~1:1であることが好ましい。
【0018】
本発明の実施形態にかかる製造方法は、上記の脱プロトン化工程の後に、プロトン化したヘテロール同士で炭素-炭素結合が生成するカップリング工程を含む。
当該カップリング工程は、脱プロトン化されたヘテロール同士を、炭素-炭素結合が生成するように、カップリングを行う工程である。
カップリングの際には適当なカップリング試薬を用いる。カップリング試薬としては、例えば、銅を含有する試薬を挙げることができる。銅を含有する試薬として、塩化銅(II)、塩化銅(I)、臭化銅(II)、臭化銅(I)、ヨウ化銅(II)、ヨウ化銅(I)、酢酸銅(II)を挙げることができる。銅を含むこれらの試薬は安価なので、ヘテロール多量体を安価に製造するために好ましく用いることができる。
カップリング反応を行わせる際の条件としては、-100℃~室温を挙げることができ、-80℃~-30℃であることが好ましい。
【0019】
上記の脱プロトン化工程と、カップリング工程は、同一系内で連続的に行うことが、ヘテロール多量体を安価に製造する観点から好ましい。
また、上記の脱プロトン化工程とカップリング工程の合計の反応時間は、本発明によれば、例えば0.5~3時間という短時間で行うことができ、別の態様では、例えば1~2時間というという時間で行うこともできる。従前の方法では、12時間という長時間の反応時間でも収率が40%程度という結果しか得られていなかった。本発明の実施形態では、従前の方法(脱プロトン化促進剤を用いない)に比べて、反応時間を75%以上も短縮できる。
【0020】
上記の脱プロトン化工程と、カップリング工程は有機溶媒中で行うことができる。有機溶媒としてはジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロアルカン、フェニル安息香酸などカルボニルのαプロトンを持たないエステル、トルエンなどのアルキルベンゼン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル、ヘキサン、ヘプタンなどのアルカン系溶媒、またはこれらの混合溶媒を用いることができる。有機溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、通常、ヘテロールの重量に対して、0.5~30倍程度の量で使用できる。
反応終了後、通常であれば、例えば、濾過、濃縮などに加えて、洗浄(水洗、酸又はアルカリ洗浄等)、抽出、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどによる分離精製手段を用いて目的のヘテロール多量体を得るが、本発明の実施形態にかかる製造方法では、高収率でヘテロール誘導体を得ることができ、副生成物が少ないので、ろ過や濃縮、あるいは沈殿の分離精製のみで精製可能である。
【0021】
以下、本発明の実施形態において、ヘテロール多量体の製造に用いることができるヘテロールについて説明する。上記式(1)及び(2)中、EはO、S、Se、またはTeである。
【0022】
上記式(1)中、R1は、炭素数1~16のアルキル、または炭素数3~6のシクロアルキルであることが好ましい。
R1が炭素数1~16のアルキルである場合、直鎖、分岐又は環状の炭素数1~6のアルキルを挙げることができる。前記アルキルを構成する-CH2-の少なくとも一つが、-COO-、-CONH-、-O-、-S-、-Se-、または-NH-で置換されていてもよく、ただし、-O-、-S-、-Se-、-C=N-、または-NH-が、それぞれ連続することはない。-COO-、-CONH-、-O-、-S-、-Se-、または
-NH-で置換されるアルキルの-CH2-は、ヘテロールを構成する炭素と結合するものであってもよい。
具体的には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシルなどを挙げることができる。これらを構成する水素の少なくとも一つは、シアノ、ニトロ、シリル、ヒドロキシ、アミノ、又はハロゲン原子により置換されていてもよい。
R1が炭素数1~16のアルキルである場合、前記アルキルの末端を構成する-CH3が-NHCOO-R3、-CONH-R3、-C=N-R3、または-O-Si(R3)3で置換されていることが好ましい。アルキルの末端を構成する-CH3が-NHCOO-R3、-CONH-R3、または-C=N-R3で置換されている場合、R3はメチル、エチル、プロピル、tert-ブチルであることが好ましく、tert-ブチルであることがより好ましい。
アルキルの末端を構成する-CH3が-O-Si(R3)3で置換されている場合、R3は、独立して、メチル、エチル、プロピル、tert-ブチルであることが好ましく、2つのR3がメチル、一つのR3がtert-ブチルであることがより好ましい。
【0023】
R1が炭素数3~6のシクロアルキルである場合、例えばシクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルを挙げることができる。また、R1が炭素数3~6のシクロアルキルである場合、該シクロアルキルを構成する-CH2-の少なくとも一つが、-O-で置換されていることが好ましく、2つの-CH2-が-O-で置換されていることがより好ましい。具体的には、-CH2-の一つが-O-で置換されている場合、グリシジルを挙げることができ、二つが-O-で置換されている場合、1,4-ジオキサニル、1,3-ジオキサニル、1,3-ジオキソラニルを挙げることができ、1,3-ジオキソラニルであることが好ましい。
【0024】
R1が、炭素数2~8のアルケニルである場合、ビニル、アリル、ブタジエニル、ヘキサトリエニル、オクタテトラエニル、シクロヘキセニル、シクロヘキサジエニル等が挙げられ、これらを構成する水素の少なくとも一つが、炭素数1~6のアルキル、炭素数6~14のアリール、シアノ、ニトロ、アミド、シリル、エステル、又はハロゲン原子により置換されていてもよい。
【0025】
R1が、炭素数2~8のアルキニルである場合、エチニル、プロパルギル、ブタジイニル、ヘキサトリイニル等が挙げられ、これらを構成する水素の少なくとも一つが、炭素数1~6のアルキル、炭素数6~14のアリール、シアノ、ニトロ、アミド、シリル、エステル、又はハロゲン原子により置換されていてもよい。
【0026】
式(1)中、n1は0~3の整数である。n1は0または1であることが好ましい。
【0027】
式(2)中、R4は、R1と同じである。
式(2)中、R5は、脂肪族環又は芳香族環であり、R5が脂肪族環である場合、単環又は2環以上のシクロアルカンを挙げることができ、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサンなどを挙げることができる。また、脂肪族環を構成する水素の少なくとも1つが、シアノ、ニトロ、アミド、シリル、エステル、又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
R5が、芳香族環である場合、単環又は2環以上の芳香族環が挙げられ、具体的には、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレンなどを挙げることができる。また、芳香族環を構成する水素の少なくとも1つが、シアノ、ニトロ、アミド、シリル、エステル、又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
式(2)中、n2は0~2の整数である。n1は0または1であることが好ましい。
【0028】
多量体の合成時に用いることができるヘテロールは、上記で説明したヘテロールの1種のみでもよく、2種以上を用いることもできる。また、上記で説明したように、多量体の合成時には、上記で説明したヘテロールの単量体だけでなく、二量体以上の多量体を用いてもよい。例えば、上記の式(1)で表される化合物のうち、同一又は異なる構造を有する二つ以上のヘテロールが結合した多量体を原料とすることもできる。そのような多量体として、具体的には以下の(3)で表される構造を有するものを挙げることができる。
【化6】
(式(3)中のEおよびR
1は式(1)の説明(好ましい例示も含む)と同じである。n
3及びn
5は、独立して0~2の整数であり、n
4は、0または1である。xは0以上の整数である。式(3)において、R
1はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
上記式(3)で表される化合物の具体例として、以下の式(4)で表される化合物を挙げることもできる。
【化6】
(式(4)中のR
1は式(1)の説明と同じである。n
1は0~2の整数である。式(4)において、R
1とn
1は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
もちろん、上記の(3)や(4)で表されるヘテロールにさらに別のヘテロール(例えば式(2)で表されるヘテロールなど)が結合した多量体を、本発明の製造方法の原料として用いることもできる。また、式(2)で表されるヘテロールのみから構成される多量体も原料として用いることができる。
【実施例】
【0029】
本発明の実施形態にかかるヘテロール多量体の製造方法について以下に説明するが、本発明はこれら実施例によっては制限されない。
【0030】
<実施例1>
[2,2’-ビフラン]-5,5’-ジ(1,3-ジオキソラン)の合成
【化6】
窒素気流下でシュレンクチューブに2-(2-フリル)-1,3-ジオキソラン(0.5mL、4.25mmol)、THF(20mL)、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(0.7mL、4.32mmol)を加えた。その後、-78℃に冷却し、n-BuLi(2.9mL、1.6M、4.64mmol)を添加し、-78℃で30分撹拌した。-78℃を保持したまま、CuCl
2(0.688g、5.12mmol)を添加した。温度を室温までゆっくりと上昇させた後、1時間還流を行った。反応終了後、溶液を室温に戻したら飽和NH
4Cl水溶液を添加し、有機層をジクロロメタンで抽出した。得られた有機層を飽和NH
4Cl水溶液と蒸留水で洗浄し、MgSO
4で乾燥を行った後、濾過を行い、溶液を濃縮することでオレンジ色の固体と油状物質の混合物を得た。この混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で精製することで[2,2’-ビフラン]-5,5’-ジ(1,3-ジオキソラン)を淡黄色固体して得た(0.558 g、2.01mmol、95%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): 6.54 (d, J = 3.2 Hz, 2H), 6.49 (d, J = 3.2 Hz, 2H), 5.96 (s, 1H), 4.16-4.10 (m, 2H), 4.07-4.01 (m, 2H).
なお、
1H NMRの測定は、JEOL製 JNM-ACX400を用いて行った。以下の実施例も同様である。
【0031】
<実施例2>
[2,2’-ビチオフェン]-5,5’-ジ(1,3-ジオキソラン)の合成
【化7】
窒素気流下でシュレンクチューブに2-(2-チエニル)-1,3-ジオキソラン(0.50mL、3.97mmol)、THF(20mL)、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(0.60mL、4.02mmol)を加えた。その後、-78℃に冷却し、n-BuLi(2.7mL、1.6M、4.37mmol)を添加し、-78℃で1時間撹拌した。-78℃を保持したまま、CuCl
2(0.643g、4.77mmol)を添加した。温度を室温までゆっくりと上昇させた後、1時間還流を行った。反応終了後、溶液を室温に戻したら飽和NH
4Cl水溶液を添加し、有機層をジクロロメタンで抽出した。得られた有機層を飽和NH
4Cl水溶液と蒸留水で洗浄し、MgSO
4で乾燥を行った後、濾過を行い、溶液を濃縮することでオレンジ色の固体油状物質の混合物を得た。この混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で精製することで[2,2’-ビフラン]-5,5’-ジ(1,3-ジオキソラン)を淡黄色固体して得た(0.594g、1.92mmol、96%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): 7.06 (d, J = 3.6 Hz, 2H), 7.03 (d, J = 3.6 Hz, 2H), 6.07 (s, 1H), 4.17-4.11 (m, 2H), 4.07-4.01 (m, 2H).
【0032】
<実施例3>
[2,2’-ビフラン]-4,4’-ジ(1,3-ジオキソラン)の合成
【化8】
窒素気流下でシュレンクチューブに2-(3-フリル)-1,3-ジオキソラン(0.5 mL,4.25mmol)、THF(20mL)、N,N,N’,N’-テトラメチ
ルエチレンジアミン(0.7mL、4.32mmol)を加えた。その後、-78℃に冷却し、n-BuLi(3.0mL、1.6M、4.80mmol)を添加し、-78℃で1時間撹拌した。-78℃を保持したまま、CuCl
2(0.74g、5.50mmol)を添加した。温度を室温までゆっくりと上昇させた後、1時間還流を行った。反応終了後、溶液を室温に戻したら飽和NH
4Cl水溶液を添加し、有機層をジクロロメタンで抽出した。得られた有機層を飽和NH
4Cl水溶液と蒸留水で洗浄し、MgSO
4で乾燥を行った後、濾過を行い、溶液を濃縮することでオレンジ色の固体油状物質の混合物を得た。この混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で精製することで[2,2’-ビフラン]-4,4’-ジ(1,3-ジオキソラン)を淡黄色固体して得た(0.559g、2.01mmol、95%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): 6.54 (d, J = 3.2 Hz, 2H), 6.49 (d, J = 3.2 Hz, 2H), 5.96 (s, 1H), 4.16-4.10 (m, 2H), 4.07-4.01 (m, 2H).
【0033】
<実施例4>
[2,2’-ビフラン]の合成
【化9】
窒素気流下でシュレンクチューブにフラン(0.5mL、6.88mmol)、TH
F(20mL)、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(1.1mL、7.38mmol)を加えた。その後、-78℃に冷却し、n-BuLi(4.8mL、1.6M、7.68mmol)を添加し、-78℃で30分撹拌した。-78℃を保持したまま、CuCl
2(1.11g、8.26mmol)を添加した。温度を室温までゆっくりと上昇させた後、12時間撹拌を行った。反応終了後、溶液を室温に戻したら飽和NH
4Cl水溶液を添加し、有機層をジクロロメタンで抽出した。得られた有機層を飽和NH
4Cl水溶液と蒸留水で洗浄し、MgSO
4で乾燥を行った後、濾過を行い、溶液を濃縮することでオレンジ色の固体油状物質の混合物をオレンジ色油状物質として得た(0.4
42g、3.30mmol、83%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): 7.41 (d, J = 1.6 Hz, 2H), 6.56 (d, J = 3.6 Hz, 2H), 6.46 (dd, J = 4.8 Hz, J = 1.6 Hz,2H).
【0034】
<実施例5>
5,5’-ジメチル-2,2’-ビフランの合成
【化10】
窒素気流下でシュレンクチューブに2-メチル-フラン(0.5mL、5.65mmol)、THF(20mL)、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(0.9 mL、6.04mmol)を加えた。その後、-78℃に冷却し、n-BuLi(5
.4mL、1.6M、8.64mmol)を添加し、-78℃で1時間撹拌した。-78℃を保持したまま、CuCl
2(0.764g、5.68mmol)を添加した。温度を室温までゆっくりと上昇させた後、12時間撹拌を行った。反応終了後、溶液を室温に戻したら飽和NH
4Cl水溶液を添加し、有機層をジクロロメタンで抽出した。得られた有機層を飽和NH
4Cl水溶液と蒸留水で洗浄し、MgSO
4で乾燥を行った後、濾過を行い、溶液を濃縮することでオレンジ色の固体油状物質の混合物をオレンジ色油状物質として得た(0.455g、2.33mmol、82%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): 6.36 (d, J = 3.2 Hz, 2H), 6.56 (d, J = 2.8 Hz, 2H), 2.34 (s, 6H).
【0035】
<比較例1>
N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンを加えなかったこと以外は、実施例1と同様の材料及び手順により、[2,2’-ビフラン]-5,5’-ジ(1,3-ジオキソラン)を合成した(収率53%)。本比較例の合成法は、非特許文献4に記載された方法に準ずるものである。
【0036】
実施例1~5と比較例1の結果を表1にまとめた。本発明の製造方法を使用した場合には、短時間の反応時間でヘテロール多量体を高収率で得ることができた。特に、実施例1と比較例1の結果から、本発明で用いる脱プロトン化促進剤を使用することが非常に重要であることが分かる。比較例1では、反応時間が20時間以上であったにも関わらず、低い収率しか得られていない。また、本発明では、鈴木宮浦カップリングで用いるパラジウム触媒を用いずに銅を含む化合物に代表される脱プロトン化剤を用いて反応を起こさせるので、安価にヘテロール多量体を得ることができる。
また、本発明のヘテロール多量体の製造方法では、副反応がほとんど起こらないことが分かった。
さらに、実施例1と2から明らかなように、高収率で多量体を得られるヘテロールはフランだけではない(チオフェンなどでも実施可能)ことが分かった。このことから、本発明のヘテロール多量体の製造方法は、様々なヘテロールに適用可能である。
また、実施例1と3から明らかなように、本発明の製造方法によれば、ヘテロールの結合する置換基の位置が異なっていても、高収率でヘテロール多量体を得ることができる。
さらに実施例4と5からも示されるように、本発明の製造方法によれば、ヘテロールが無置換であっても、また、ヘテロールの置換基が実施例1とは異なっていても、高収率で
ヘテロール多量体を得ることができる。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の製造方法によって製造されるヘテロール多量体は、DNAへのインターカレーション効果が見込めるため、医薬品への適用が期待される。また、本発明の製造方法によって製造されるヘテロール多量体は、有機半導体材料、例えば有機薄膜太陽電池、有機EL、有機トランジスタへの適用が期待できる。また、本発明の製造方法によって製造されるヘテロール多量体は、エンジニアリングプラスチック、例えばポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネートへの適用も期待できる。