(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】塗膜除去方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20221101BHJP
G21F 9/28 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
E04G23/02 Z
G21F9/28 511C
(21)【出願番号】P 2018154201
(22)【出願日】2018-08-20
【審査請求日】2021-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505466642
【氏名又は名称】株式会社東洋ユニオン
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】長峰 春夫
(72)【発明者】
【氏名】若山 真則
(72)【発明者】
【氏名】竹内 良平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 文雄
(72)【発明者】
【氏名】中村 弘
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3214053(JP,U)
【文献】特開2016-011579(JP,A)
【文献】特開2013-108977(JP,A)
【文献】特開2002-206328(JP,A)
【文献】特開昭57-010370(JP,A)
【文献】特開2014-079664(JP,A)
【文献】特開平10-286774(JP,A)
【文献】特許第5574354(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
G21F 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製の基材の表面に付着されている塗膜を除去する、塗膜除去方法であって、
前記塗膜に対して切れ目を入れ、その周囲の該塗膜と完全に縁切りされた切れ片を形成する切れ目加工工程と、
レーザービームを前記切れ片の内部において面的もしくは線的に照射することにより、鋼製の前記基材の表面から該切れ片の少なくとも一部を浮かせる切れ片浮かせ工程と、
前記切れ片に液化冷却ガスを提供し、該切れ片を収縮させて前記基材の表面において該切れ片を捲り上がらせながら除去する液化冷却ガス供給工程と、を有することを特徴とする、塗膜除去方法。
【請求項2】
前記切れ目加工工程において、前記塗膜に対してレーザービームを照射することにより前記切れ目を入れることを特徴とする、請求項1に記載の塗膜除去方法。
【請求項3】
前記レーザービームの面的な照射は、該レーザービームを面的に散在したドット状に照射することであり、
前記レーザービームの線的な照射は、該レーザービームを連続した線状に照射する、もしくは間欠的な線状に照射することを特徴とする、請求項1又は2に記載の塗膜除去方法。
【請求項4】
前記レーザービームとして連続波レーザービームを適用することを特徴とする、請求項2又は3に記載の塗膜除去方法。
【請求項5】
前記レーザービームの照射の際に発生するダストを集塵機により集塵しながら該レーザービームの照射を行うことを特徴とする、請求項2乃至4のいずれか一項に記載の塗膜除去方法。
【請求項6】
前記レーザービームの照射の際に、不活性ガスの提供を行うことを特徴とする、請求項2乃至5のいずれか一項に記載の塗膜除去方法。
【請求項7】
前記切れ目加工工程において、前記塗膜から複数の同寸法で矩形の切れ片を形成することを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の塗膜除去方法。
【請求項8】
前記塗膜が繊維強化プラスチック塗膜であることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の塗膜除去方法。
【請求項9】
鋼製の前記基材は、筒状本体と該筒状本体の両端に取り付けられている蓋を備えた横置きタンクであり、該横置きタンクの内面に前記繊維強化プラスチック塗膜が取り付けられており、
前記横置きタンクの前記蓋を切断する蓋切断工程を有し、
前記蓋切断工程に次いで、前記筒状本体の内側にレーザー発振器と液化冷却ガス供給機を挿入し、該筒状本体もしくは該レーザー発振器のいずれか一方を回転させながら前記繊維強化プラスチック塗膜の切断と除去を行うことを特徴とする、請求項8に記載の塗膜除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
防水性や防錆性を目的とした塗膜を表面(例えば内面)に備えた鋼製の基材からなる貯蔵タンクの解体・撤去に当たり、収容物で汚染されている塗膜を基材から分離(除去を含む)して双方の撤去が行われる場合がある。例えば、特許文献1には、有害物質含有塗装材除去システムが開示されている。具体的には、吸引式グラインダにより、ケース内で回転する研削部で塗装材を研削しながら、研削された塗装材粉塵を、ケース外面から貫通孔を介してケース内に連通する吸引ホースの先端開口から吸引する。この吸引された塗装材粉塵を、収納室に密閉状に収納されたバグレシーバタンク及びHEPAフィルタ装置で捕集する。この捕集により満杯となったバグフィルタやHEPAフィルタを交換する際に、収納室のL字型の線ファスナを開けて入った後、閉じて閉鎖空間内で交換を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の有害物質含有塗装材除去システムでは、吸引式グラインダを作業員が操作して研削された塗装材粉塵を吸引することから、塗装材の除去効率性に課題がある。また、作業員が有害物質に長時間晒されることが許容されていることから、人体への影響が少なからず懸念される。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、効率的に基材から塗膜を除去することができ、さらには、塗膜の除去に際して人体への影響の恐れのない塗膜除去方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成すべく、本発明による塗膜除去方法の一態様は、
鋼製の基材の表面に付着されている塗膜を除去する、塗膜除去方法であって、
前記塗膜に対して切れ目を入れ、その周囲の該塗膜と完全に縁切りされた切れ片を形成する切れ目加工工程と、
前記切れ片に液化冷却ガスを提供し、該切れ片を収縮させて前記基材の表面において該切れ片を捲り上がらせながら除去する液化冷却ガス供給工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
本態様によれば、鋼製の基材の表面において、防水性や防錆性を目的として形成されている塗膜に切れ目を入れて周囲の塗膜と完全に縁切りした後、塗膜(の切れ片)に対して液化冷却ガスを提供して切れ片を急速冷却して収縮させ、捲り上がらせながら除去することにより、極めて効率的に基材から塗膜を除去することができる。塗膜は一般に鋼製の基材よりも熱膨張率が高いことから、液化冷却ガスの提供により相対的に早期に熱収縮し、効果的に捲り上がらせることができる。ここで、基材の表面に形成されている塗膜に対して、連続的に塗膜に切れ目を入れて切れ片を形成していくことにより、より一層効率的な塗膜除去を図ることができる。例えば、平面視矩形の所定寸法の塗膜に対して、その1つの隅角部から平面視矩形状に切り目を入れていき、これを横方向および上下方向に繰り返していくことにより、塗膜を複数の平面視矩形で相互に縁切りされた切れ片に分割することができる。この切れ目加工工程において、有害物質が塗膜上に付着もしくは塗膜内に浸透している場合には、作業員が塗膜を直接カッター切断する代わりに、機械加工にて切れ目加工を行う等することにより、人体への影響のない態様で塗膜への切れ目加工を行うことができる。
【0008】
また、本発明による塗膜除去方法の他の態様は、前記切れ目加工工程において、前記塗膜に対してレーザービームを照射することにより前記切れ目を入れることを特徴とする。
本態様によれば、出力や速度を調整自在なレーザービームを塗膜に照射して切れ目加工を行うことにより、鋼板に影響を与えることなく、塗膜のみを所望の速度にて切断することができる。尚、レーザービームを照射するレーザービームの出力が大きい程、また、走査速度が遅い程、レーザービームのエネルギーは大きくなる。そこで、レーザービームの出力と走査速度を所望に調整することにより、鋼製の基材に影響を与えることなく、塗膜のみを所望の速度で切断することが可能になる。レーザービームを照射する方法は遠隔操作が可能であることから、有害物質が塗膜上に付着もしくは塗膜内に浸透している場合には、人体への影響のない態様で塗膜への切れ目加工を行うことができる。さらに、レーザービームを照射する方法は無火気工法であり、安全性も高い。
【0009】
また、本発明による塗膜除去方法の他の態様は、前記切れ目加工工程に続いて、レーザービームを前記切れ片の内部において面的に照射することにより、鋼製の前記基材の表面から該切れ片の少なくとも一部を浮かせる切れ片浮かせ工程を行い、該切れ片浮かせ工程に続いて前記液化冷却ガス供給工程を行う方法において、
前記レーザービームの面的な照射は、該レーザービームを連続した線状に照射する、もしくは間欠的な線状に照射する、もしくは面的に散在したドット状に照射することを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、面的にレーザーを照射し、基材の表面に塗膜の少なくとも一部を浮かせることにより、次の液化冷却ガス供給工程において切れ片を捲り上がり易くすることができる。また、面的にレーザーを照射することにより、切れ片に含浸されている例えば汚染物質をレーザー照射によって減容化することができる。この減容化は、基材から除去される塗膜の減容化に繋がることから、塗膜の除去費用の削減にも繋がる。ここで、「レーザービームを面的に照射する」とは、レーザービームを線状に蛇行させるようにして、もしくは線状に一方向に繰り返し照射することにより(例えば、右から左への照射を上下に亘り順次行う形態)、レーザービームを切れ片の全面もしくは多くの割合に亘り供給することを意味する。より詳細には、レーザービームを連続した線状に照射する方法、レーザービームを間欠的な線状に照射する(点線状に照射する)方法、レーザービームを面的に散在したドット状に照射する方法など、様々な面的な照射形態がある。また、例えば、左右方向に線状に提供されたレーザービームを、レーザービームの焦点径が一部ラップするようにして上下に移動させて同様に左右方向に線状にレーザービームを提供することにより、切れ片の全面にレーザービームを提供することができる。また、左右方向に延びる複数の線状のレーザービームを提供した後、90度レーザービームの走査方向を代えて、上下方向に延びる複数の線状のレーザービームを提供してもよい。
【0011】
また、本発明による塗膜除去方法の他の態様は、前記レーザービームとして連続波レーザービームを適用することを特徴とする。
本態様によれば、レーザービームとして連続波レーザービームを適用することにより、よりエネルギーの大きなレーザービームを塗膜に照射することができる。ここで、レーザービームには、レーザービームの発振動作の態様により、連続波レーザービーム(CWレーザービーム、CW:Continuous Wave)と、パルス波レーザービームとがある。連続波レーザービームは一定の出力を連続して発振することから、パルス波レーザービームに比べてエネルギーの大きなレーザービームを照射することができる。上記するように、レーザービームを間欠的な線状に照射する場合や、面的に散在したドット状に照射する場合において、パルス波レーザービームの適用が好適である。
【0012】
また、本発明による塗膜除去方法の他の態様は、前記レーザービームの照射の際に発生するダストを集塵機により集塵しながら該レーザービームの照射を行うことを特徴とする。
本態様によれば、塗膜へのレーザービームの照射により発生するダストにレーザービームの焦点が形成され、ダストによる吸収や散乱によってレーザービームのエネルギーが減衰されるといった課題を解消することができる。塗膜に対してレーザービームを照射した際には、少なからずダスト(気体分子)が生じ、ダストがレーザービームのビーム経路内に存在すると、レーザービームの焦点が塗膜ではなくてダストに形成されてしまう可能性がある。レーザービームがダスト吸収されたり散乱されることにより、レーザービームのエネルギーが減衰される。そこで、集塵機によりダストを吸引し、レーザービームのビーム経路内にダストが存在しないようにしてレーザービームの塗膜への照射を行うことにより、レーザービームを塗膜に対して継続的に照射させることができる。
【0013】
また、本発明による塗膜除去方法の他の態様は、前記レーザービームの照射の際に、不活性ガスの提供を行うことを特徴とする。
本態様によれば、レーザービームの照射の際に不活性ガスの提供を行うことにより、塗膜の延焼を防止することができる。また、例えば、集塵機の反対側からビーム経路に対して不活性ガスを照射することにより、既述するダストの吸引にも寄与する。
【0014】
また、本発明による塗膜除去方法の他の態様は、前記切れ目加工工程において、前記塗膜から複数の同寸法で矩形の切れ片を形成することを特徴とする。
本態様によれば、例えば、レーザー発振器を制御するコントローラに対して一定の形状(正方形を含む矩形など)を入力し、その寸法を入力することにより、一律の形状及び寸法の切れ片を効率的に加工し、基材から除去することができる。所定寸法の収容口を備える収容缶等に対して、この収容口よりも小寸法で一律の形状の複数の切れ片を収容することにより、切れ片を収容缶に収容するまでの撤去効率性に優れた除去方法となる。
【0015】
また、本発明による塗膜除去方法の他の態様は、前記塗膜が繊維強化プラスチック塗膜であることを特徴とする。
本態様によれば、防水性と防錆性に優れ、鋼製の基材からの除去が困難な繊維強化プラスチック(FRP:Fiberglass Reinforced Plastics)塗膜を効率的に基材から除去することができる。
【0016】
また、本発明による塗膜除去方法の他の態様において、鋼製の前記基材は、筒状本体と該筒状本体の両端に取り付けられている蓋を備えた横置きタンクであり、該横置きタンクの内面に前記繊維強化プラスチック塗膜が取り付けられており、
前記横置きタンクの前記蓋を切断する蓋切断工程を有し、
前記蓋切断工程に次いで、前記筒状本体の内側にレーザー発振器と液化冷却ガス供給機を挿入し、該筒状本体もしくは該レーザー発振器のいずれか一方を回転させながら前記繊維強化プラスチック塗膜の切断と除去を行うことを特徴とする。
横置きタンクの一例として、放射性物質による汚染水を収容する鋼製貯蔵タンクが挙げられる。汚染水の浄化除去後、不要となった鋼製貯蔵タンクの解体・撤去に当たり、鋼製の横置きタンクの内面に形成されている繊維強化プラスチック塗膜を鋼製タンクから除去することを要する。その際に、本態様の除去方法を適用することにより、作業員の人体への影響の恐れのない態様の下で、鋼製タンクから繊維強化プラスチック塗膜を効率的に除去することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の塗膜除去方法によれば、効率的に基材から塗膜を除去することができ、さらには、塗膜の除去に際して人体への影響の恐れのない塗膜除去方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態に係る塗膜除去方法が適用される塗膜除去装置の一例を示す平面図である。
【
図3】実施形態に係る塗膜除去方法の切れ目加工工程を説明する工程図である。
【
図4】実施形態に係る塗膜除去方法の切れ片浮かせ工程を説明する工程図である。
【
図5】実施形態に係る塗膜除去方法の液化冷却ガス供給工程を説明する工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施形態に係る塗膜除去方法について、当該塗膜除去方法が適用される塗膜除去装置とともに添付の図面を参照しながら説明する。
【0020】
[実施形態に係る塗膜除去方法が適用される塗膜除去装置]
はじめに、
図1及び
図2を参照して、実施形態に係る塗膜除去方法が適用される塗膜除去装置の一例を説明する。ここで、
図1は、実施形態に係る塗膜除去方法が適用される塗膜除去装置の一例を示す平面図であり、
図2は、
図1のII方向矢視図である。
図2において、筒状本体の一部を破断することによりその内部を視認可能としている。尚、以下の説明では、鋼製の基材として鋼製の横置きタンクを例示して説明し、この横置きタンクの内側に形成されている繊維強化プラスチック塗膜を除去する方法を説明するが、基材や塗膜は図示例以外の多様な形態がある。
【0021】
図1及び
図2に示すように、塗膜除去装置100は、解体ブース10と塗膜除去ブース20が隔壁で隔てられて構成されている。不図示のトレーラにて鋼製の横置きタンクTが搬送され、解体ブース10のシートシャッター11を介して解体ブース10内に収容される。ここで、横置きタンクTは、筒状本体T1と、その両端の蓋T2とを有し、筒状本体T1の内側には、防水性と防錆性に優れ、鋼製の横置きタンクTよりも熱膨張率の高い繊維強化プラスチック塗膜Fが取り付けられている。尚、繊維強化プラスチックには、FRPの他、ガラス繊維強化プラスチック(Fiberglass Reinforced Plastics)も含まれる。横置きタンクTは、例えば放射性物質による汚染水を収容していた鋼製貯蔵タンクであり、汚染水の浄化除去後、不要となった鋼製貯蔵タンクの解体・撤去に当たり、鋼製の横置きタンクTの筒状本体T1の内側に形成されている繊維強化プラスチック塗膜Fを筒状本体T1から除去することを要する。
【0022】
図2に示すように、解体ブース10において、横置きタンクTが複数のローラ架台13上に載置される。横置きタンクTの側方にはニブラーカッター12が装備されており、不図示の回転機構によって横置きタンクTをX4方向に回転させながら、ニブラーカッター12により両端の蓋12が切断撤去される。
【0023】
塗膜除去装置100では、解体ブース10と塗膜除去ブース20を跨ぐ態様で、門型クレーン30が配設されている。門型クレーン30は、門型架構31と、門型架構31の両脚部に取り付けられている走行架台32と、走行架台32の下面に配設されている自走式の車輪34と、門型架構31のX1方向の走行を案内するレール35と、門型架構31の上フレームに沿って解体ブース10と塗膜除去ブース20の間をX2方向に移動自在な吊持装置33と、を有する。
【0024】
解体ブース10において横置きタンクTの蓋T2が切断撤去された後、
図2に示すように筒状本体T1に装備されている吊り治具T1aに吊持装置33から垂下されるワイヤ36を係止させることにより筒状本体T1を吊り上げ、吊持装置33を門型架構31の上フレームに沿ってX2方向に移動させながら、隔壁を跨ぐようにしてX3方向で塗膜除去ブース20に移載する。
図2に示すように、塗膜除去ブース20においても、筒状本体T1が複数のローラ架台23上に載置され、不図示の回転機構により筒状本体T1をX4方向に回転自在とされている。
【0025】
図1及び
図2に示すように、塗膜除去ブース20には、集塵機40と集塵機40から延設する集塵ホース41、多段の伸縮機構51とその先端に装備されているレーザー発振器50が配設されている。レーザー発振器50が取り付けられている多段の伸縮機構51が所定の速度で伸縮することにより、塗膜Fに対するレーザー発振器50の筒状本体T1の長手方向への相対移動を可能にする。さらに、伸縮機構51は床上を伸縮機構51の伸縮方向と直交する方向にスライド自在に構成でき、このスライドにより塗膜Fに対するレーザー発振器50の筒状本体T1の長手方向に直交する方向(周方向)への相対移動を可能にする。塗膜除去ブース20にはさらに、不活性ガス供給機60と不活性ガス供給機60から延設する不活性ガス供給ホース61、液化冷却ガス供給機70と液化冷却ガス供給機70から延設する冷却ガス供給管71が配設されている。また、集塵機40やレーザー発振器50等の各機器の作動や停止、レーザー発振器50から照射されるレーザー出力や塗膜Fに対するレーザー発振器50の相対移動やその移動速度等を制御するコントローラ80が、塗膜除去ブース20に搭載されている。尚、コントローラ80は、塗膜除去ブース20から離れた不図示の管理棟に搭載されてもよい。また、冷却ガス供給管71は冷却ガス供給ホースであってもよい。
【0026】
塗膜除去ブース20において、筒状本体T1から繊維強化プラスチック塗膜Fを除去するに当たり、筒状本体T1の内部を不活性ガス雰囲気とするべく、不活性ガス供給機60を作動して不活性ガス供給ホース61から不活性ガスを筒状本体T1内に供給する。ここで、適用される不活性ガスには、N2ガスやCO2ガスの他、ヘリウム(He)ガスやアルゴン(Ar)ガスといった希ガスも含まれる。中でも、材料コストの安価なCO2ガスが好適に用いられる。筒状本体T1内が不活性ガス雰囲気とされることにより、レーザービームを繊維強化プラスチック塗膜Fに照射した際に、繊維強化プラスチック塗膜Fが延焼することを効果的に防止することができる。
【0027】
筒状本体T1内が不活性ガス雰囲気とされた後、
図2に示すように、レーザー発振器50より繊維強化プラスチック塗膜Fに対してZ2方向にレーザー照射を行う。このレーザー照射により、繊維強化プラスチック塗膜Fに対して切れ目を入れ、相互に縁切りされた複数の切れ片を形成する。さらに、形成された切れ片に対してレーザーを面的に照射することにより、切れ片の少なくとも一部を浮かせて除去し易くする。ここで、レーザービームには、連続波レーザービームとパルス波レーザービームがあるが、コントローラ80により、好適なレーザービームの選定が可能となっている。尚、パルス波レーザービームと比べて連続波レーザービームはエネルギーが高いことから、連続波レーザービームを適用することにより処理速度が速くなる。
【0028】
また、レーザービームの照射の際に発生するダストを回収するべく、集塵機40を作動させ、
図2に示すように集塵ホース41にてダストをZ1方向に集塵しながらレーザービームの照射を行う。繊維強化プラスチック塗膜Fにレーザービームを照射した際に少なからずダストが発生するが、このダストにレーザービームの焦点が形成され、ダストによる吸収や散乱によってレーザービームのエネルギーが減衰され得る。そこで、レーザービームの経路内にダストが存在しないように、レーザービームの照射方向であるZ2方向とは異なる方向のZ1方向にダストを集塵し、レーザービームのビーム経路内にダストが存在しないようにしてレーザービームの繊維強化プラスチック塗膜Fへの照射を行うことにより、レーザービームを繊維強化プラスチック塗膜Fに対して継続的に照射させることができる。
【0029】
切れ片の少なくとも一部が浮かされて除去し易くされた後、
図2に示すように、液化冷却ガス供給機を作動して、冷却ガス供給管71から切れ片に対して液化冷却ガスをZ3方向に供給する。ここで、切れ片に提供される液化冷却ガスとしては、液化窒素(液体窒素)や液化炭酸ガス、液化アルゴン、ドライアイス等が含まれる。
【0030】
繊維強化プラスチック塗膜Fの切れ片に対して液化冷却ガスが提供されると、筒状本体T1の表面において、相対的に熱膨張率の高い切れ片が熱収縮し、この熱収縮により切れ片が筒状本体T1の表面から捲り上がりながら除去される。筒状本体T1をX4方向に回転させることにより、及び/または、冷却ガス供給管71を移動させることにより、各切れ片に対して順次液化冷却ガスを提供して各切れ片の除去を実行する。
【0031】
図示する塗膜除去装置100では、各機器の動作制御をコントローラ80により自動制御しながら、筒状本体T1の表面から繊維強化プラスチック塗膜Fを除去することが可能になる。そのため、有害物質を含み得る繊維強化プラスチック塗膜Fに作業員が近接して除去作業を行うことを解消でき、有害物質による作業員の人体への影響のない態様で繊維強化プラスチック塗膜Fを除去することができる。
【0032】
尚、コントローラ80はコンピュータにて構成されており、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、NVRAM(Non-Volatile RAM)、HDD(Hard Disc Drive)、I/Oポート等を有する。そして、各部は、情報伝達可能にバスにて接続されている。ROMには、各種のプログラムやプログラムによって利用されるデータ等が記憶されている。RAMは、プログラムをロードするための記憶領域や、ロードされたプログラムのワーク領域として用いられる。CPUは、RAMにロードされたプログラムを処理することにより、各種の機能を実現する。HDDには、プログラムやプログラムが利用する各種のデータ等が記憶される。NVRAMには、各種の設定情報等が記憶される。HDDには、例えば、繊維強化プラスチック塗膜Fに対してレーザービームを照射して切れ目を入れたり、切れ片に対してレーザービームを面的に照射して筒状本体T1の表面から切れ片を浮かせる際のレーザービームの出力値(例えば2kwなど)や、伸縮機構51の伸縮速度(レーザー発振器50の走査速度で、例えば1m/秒乃至50m/秒など)、不活性ガス濃度等が記憶されている。また、不活性ガス供給機60の作動、集塵機40の作動、レーザー発振器50の作動といった一連のシーケンスが記憶されている。また、コントローラ80が適用するプログラムは、例えば、ハードディスクやコンパクトディスク、光磁気ディスク等に記憶されてもよい。また、プロセスシーケンス等は、CD-ROM、DVD、メモリカード等の可搬性のコンピュータによる読み取りが可能な記憶媒体に収容された状態でコントローラ80にセットされ、読み出される形態であってもよい。コントローラ80はその他、コマンドの入力操作等を行うキーボードやマウス等の入力装置、各機器の作動状況を可視化して表示するディスプレイ等の表示装置、及びプリンタ等の出力装置といったユーザーインターフェイスを有していてもよい。ユーザーインターフェイスを介して切れ片の形状(正方形を含む矩形など)や寸法(例えば、150mm×150mmの正方形)を入力することにより、一律の形状及び寸法の切れ片を効率的に加工し、筒状本体T1の表面から除去することができる。
【0033】
[実施形態に係る塗膜除去方法]
次に、
図3乃至
図5を参照して、実施形態に係る塗膜除去方法の一例を説明する。ここで、
図3は、塗膜除去方法の切れ目加工工程を説明する工程図であり、
図4は、塗膜除去方法の切れ片浮かせ工程を説明する工程図であり、
図5は、塗膜除去方法の液化冷却ガス供給工程を説明する工程図である。
【0034】
まず、
図1に示す解体ブース10において横置きタンクTの蓋T2を切断撤去した後(蓋切断工程)、筒状本体T1を塗膜除去ブース20に移載する。次に、
図3に示すように、筒状本体T1の内部を不活性ガス雰囲気とした後、集塵ホース41からZ1方向(レーザー照射方向であるZ2方向とは異なる方向)にダストを吸引しながら、繊維強化プラスチック塗膜Fに対してレーザービームを照射することにより、繊維強化プラスチック塗膜Fに矩形状の切れ目CLを入れる。矩形状の切れ目CLを入れる方法は多様であり、例えば、最初に筒状本体T1の長手方向に延設する切れ目CLを周方向に所定の間隔で加工した後、次に筒状本体T1の周方向への切れ目を長手方向に所定の間隔を置いて順次加工することにより、多数の矩形状(無端状)の切れ目CLによって複数の切れ片F'を効率的に形成する方法がある。また、矩形状の切れ目CLを加工して1つの切れ片F'を形成した後、同様の方法で隣接する切れ片F'を形成し、これを繰り返していく方法もある(以上、切れ目加工工程)。
【0035】
次に、
図4に示すように、切れ目加工工程に続いて、レーザービームを切れ片F'の内部において面的に照射することにより、筒状本体T1の表面から切れ片F'の少なくとも一部を浮かせて、切れ片F'を除去し易くする。ここで、レーザービームの面的な照射形態には多様な形態があり、その一例を
図4に示している。タイプIは、連続波レーザービームを適用し、連続波レーザービームを連続的に蛇行させながら蛇行ラインL1を形成し、切れ片F'の全面に照射する方法である。また、タイプIIは、タイプIと同様に連続波レーザービームを適用し、連続波レーザービームを連続的に蛇行させながら蛇行ラインL1を形成して切れ片F'の全面に照射した後、90度ずらした方向で、再度連続波レーザービームを連続的に蛇行させながら蛇行ラインL2を形成して切れ片F'の全面に照射する方法である。また、タイプIIIは、連続波レーザービームを適用し、連続波レーザービームにて直線ラインL3を形成し、これを上下交互(もしくは左右交互)に行うことにより切れ片F'の全面に照射する方法である。また、タイプIVは、パルス波レーザービームを適用し、パルス波レーザービームを連続的に蛇行させながら間欠的な線状ラインL4を形成し、切れ片F'の全面に照射する方法である。さらに、タイプVは、パルス波レーザービームを適用し、パルス波レーザービームを切れ片F'に対して面的に散在した多数のドットDとして照射する方法である。
【0036】
また、レーザービームの面的な照射においては、焦点径と照射ピッチを所望に調整することができる。例えば、レーザービームの焦点径は一般に0.5mm(0.1mm乃至1.0mmの範囲)程度であるが、焦点ピッチを0.3mm程度に設定して隣接するレーザー線を一部ラップさせながら照射することにより、切れ片F'の全面に対して隙間なくレーザービームを照射することができる。また、このようにレーザー線同士をラップさせることなく照射ピッチを焦点径よりも大きく設定することにより(例えば焦点径0.5mmに対して照射ピッチを0.6乃至1.0mm程度に設定)、照射時間を短縮することができる(以上、切れ片浮かせ工程)。
【0037】
切れ片浮かせ工程にて面的にレーザービームを照射することにより、切れ片F'に含浸されている汚染物質をレーザー照射によって減容化することができる。この減容化は、筒状本体T1から除去される繊維強化プラスチック塗膜Fの減容化に繋がることから、繊維強化プラスチック塗膜Fの除去費用を大幅に削減することが可能になる。
【0038】
切れ目加工工程と切れ片浮かせ工程では、いずれもレーザービームを照射する方法を適用しているが、このレーザービームを照射する方法は無火気工法であることから、安全性が極めて高い。また、コントローラ80により、レーザー発振器50の走行やレーザービームの照射を遠隔操作できることから、作業員が繊維強化プラスチック塗膜Fを直接切断する際に人体に影響を受けるといった問題は生じ得ない。
【0039】
次に、
図5に示すように、切れ片浮かせ工程に続いて、切れ片F'に対して液化冷却ガスをZ3方向に提供することにより、切れ片F'を熱収縮させ、筒状本体T1の表面から切れ片F'をZ4方向に捲り上がらせながら除去する。そして、これを全ての切れ片F'に対して実行することにより、筒状本体T1の全表面から繊維強化プラスチック塗膜Fを除去することができる(以上、液化冷却ガス供給工程)。この液化冷却ガスの提供も、コントローラ80によって遠隔操作できることから、放射性物質を含有し得る繊維強化プラスチック塗膜Fにより作業員が人体的影響を受ける問題は生じ得ない。
【0040】
液化冷却ガス供給工程では、一律の形状及び寸法にての切れ片F'が形成される。そして、所定寸法の収容口を備える収容缶等に対して、このように一律の形状及び寸法にて除去された各切れ片F'を収容することにより、優れた撤去効率性の下で除去された切れ片F'を収容缶に収容することができる。
【0041】
上記する実施形態に係る塗膜除去方法によれば、防水性と防錆性に優れ、鋼製の横置きタンクTからの除去が困難な繊維強化プラスチック塗膜Fを効率的に基材から除去することができる。繊維強化プラスチック塗膜Fを横置きタンクTから剥離して除去する際には、一般に離型剤(剥離剤)を用いて剥がす方法と、誘導加熱により剥がす方法が適用される。離型剤(剥離剤)として、FRPを剥がせるようなエコタイプ(ジクロロメタンを含有しないタイプ)の既製品は存在せず、一方で、ジクロロメタンを含有する剥離剤はFRPを剥がす能力はあるものの、剥離スピードが遅く、剥離した除去物が乾き難く、従って剥がし難いことから除去処理が困難であるといった課題を有する。
【0042】
一方、IHヒータ(IH:Induction Heating)に代表される誘導加熱による除去方法も除去スピードが遅いこと(繊維強化プラスチック塗膜1m2当たり約16分を要する)と、さらには電力が大きいこと(約40kWを要する)から、大掛かりな設備(発電機や冷却装置等)が必要となり、除去効率性と設備コストの双方に課題がある。
【0043】
それに対して、実施形態に係る塗膜除去方法によれば、繊維強化プラスチック塗膜1m2当たり約3分で除去ができ、誘導加熱方式の5倍程度の極めて速い除去速度での除去が可能になる。さらに、レーザービームは小電力(例えば2kW程度)ゆえに小さな設備(発電機とレーザー発振器)でよいため、除去効率性と設備コストの双方に優れている。さらに、本態様によれば、繊維強化プラスチック塗膜を乾いた状態で回収することができる。
【0044】
なお、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、また、本発明はここで示した構成に何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0045】
10:解体ブース、20:塗膜除去ブース、30:門型クレーン、31:門型架構、32:走行架台、33:吊持装置、34:レール、40:集塵機、50:レーザー発振器、60:不活性ガス供給機、70:液化冷却ガス供給機、100:塗膜除去装置、T:横置きタンク(鋼製の基材)、T1:筒状本体、T2:蓋、F:繊維強化プラスチック塗膜(塗膜)、CL:切れ目、F':切れ片