(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】光触媒体試験用ホルダ
(51)【国際特許分類】
B01J 35/02 20060101AFI20221101BHJP
【FI】
B01J35/02 J
(21)【出願番号】P 2018156558
(22)【出願日】2018-08-23
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000133526
【氏名又は名称】株式会社チノー
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】宮内 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】柳橋 直毅
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0026029(US,A1)
【文献】国際公開第2018/058094(WO,A1)
【文献】特開2001-097894(JP,A)
【文献】特開平04-063115(JP,A)
【文献】特表2013-532228(JP,A)
【文献】特開2014-101550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 35/02
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化銅、酸化鉄、酸化スズ、酸化セリウム、酸化ビスマス、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化ガリウム、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化タンタル、バナジン酸ビスマス、鉄・カルシウム酸化物からなる群より選択される少なくとも一つの酸化物、硫化亜鉛、硫化カドミウム、硫化スズ、硫化銅、硫化鉛、硫化銀、硫化インジウム、硫化ビスマス、銅亜鉛スズ系硫化物からなる群より選択される少なくとも一つの硫化物、前記酸化物と前記硫化物の複合体の何れかの材料からなる板状の隔壁を境に、アノード用助触媒が担持された光触媒体が収容されるアノード側気密空間と、カソード用助触媒が担持された光触媒体が収容されるカソード側気密空間が形成される筐体と、
前記アノード側気密空間内で前記光触媒体が酸化反応するための光を透過させるアノード側透過窓と、
前記カソード側気密区間内で前記光触媒体が還元反応するための光を透過させるカソード側透過窓と、
前記アノード側気密空間に酸化ガスを供給するアノード側ガス供給部と、
前記アノード側気密空間内の酸化反応により改質されたガスを前記アノード側気密空間内から排出させるアノード側ガス排出部と、
前記カソード側気密空間内に還元ガスを供給するカソード側ガス供給部と、
前記カソード側気密空間内の還元反応により改質されたガスを前記カソード側気密空間内から排出させるカソード側ガス排出部と、
を備えることを特徴とする光触媒体試験用ホルダ。
【請求項2】
前記隔壁は、一方の面に前記アノード用助触媒が担持され、他方の面に前記カソード用助触媒が担持された板状の光触媒体からなる板状試料とし、
前記筐体は、2分割されたホルダで構成され、
前記ホルダの間に、シール部材を介在させた状態で前記板状試料を挟持保持して前記アノード側気密空間と前記カソード側気密空間を形成することを特徴とする請求項1記載の光触媒体試験用ホルダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒体を試験するための光触媒体試験用ホルダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、天然ガスやシェールガスなどの豊富なメタン源や温室効果ガスである二酸化炭素を付加価値の高い化学原料に変換する動きが着目されている。例えばメタンを合成ガスと呼ばれる混合ガスへの改質プロセスにおいては、より低温で駆動し、固体炭素析出による性能劣化が少ない高性能触媒が求められており、ドライリフォーミングなどの改質反応をより省エネルギー、低二酸化炭素排出で進行させるため、太陽光エネルギーなどの再生可能エネルギーと光触媒材料を用いた改質反応の研究が進められている。
【0003】
下記非特許文献1には、紫外線による光触媒反応の試験装置について記載されている。この文献に記載の手法は、まず化学還元法を用いてCuCl2 及びZnCl2 のNaBH4 との還元反応により調製されたCu NP(ナノ粒子)及びZn NP(ナノ粒子)をインク法で調製した助触媒となるCu-Zn NPsを光触媒体であるSrTiO3 (ナノ粉末)に担持させる。次に、助触媒が担持されたSrTiO3 粉末を多孔質セラミック容器内に載せ、このセラミック容器を透光性を有する石英窓が設けられた加熱機能付き反応器にセットする。そして、前処理としてArガスを温度573K、1時間100ml/minの流速で導入し、室温での触媒反応の間は水バブラーを通過させた湿潤ArガスとCO2 ガスを容器内に導入し、波長240~300nmのUV光を光源から照射した状態でガスフロー下において触媒反応を実施している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】G.Yin,H.Sako,G.V.Ramesh,S.Ueda,A.Yamaguchi,H.AbeM.Miyauchi,"Cu-Zn nanoparticles promoter for selective carbon dioxide reduction and its application for visible-light-active Z-scheme system using water as electron donor";Chem.Commun.,54,3947(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、非特許文献1に開示される手法は、酸化反応を促進させる助触媒と還元反応を促進させる助触媒とを粉末状の光触媒体に担持させた状態でセラミック容器内に収容し、この容器を反応器内にセットした状態で光触媒反応に必要な光や反応ガス(酸化ガスや還元ガス)を反応器内に供給している。
【0006】
しかしながら、この手法ではセラミック容器内に収容された光触媒体に対し2種類の反応ガスが同一空間内に供給されるため、酸化反応と還元反応が同一容器内で起こってしまい、光触媒反応によって改質されたガスが混合された状態で排気されるという問題があった。
【0007】
そのため、助触媒と光触媒体との新規の組み合わせを研究する上で、流入させた各反応ガスの流量に対する反応効率を正確に把握するために酸化反応と還元反応が個別に実施可能な装置の開発が望まれている。
【0008】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、助触媒が担持された光触媒体の光触媒反応において、酸化反応と還元反応を同時に個別に試験することができる光触媒体試験用ホルダを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る第1の態様は、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化銅、酸化鉄、酸化スズ、酸化セリウム、酸化ビスマス、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化ガリウム、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化タンタル、バナジン酸ビスマス、鉄・カルシウム酸化物からなる群より選択される少なくとも一つの酸化物、硫化亜鉛、硫化カドミウム、硫化スズ、硫化銅、硫化鉛、硫化銀、硫化インジウム、硫化ビスマス、銅亜鉛スズ系硫化物からなる群より選択される少なくとも一つの硫化物、前記酸化物と前記硫化物の複合体の何れかの材料からなる板状の隔壁を境に、アノード用助触媒が担持された光触媒体が収容されるアノード側気密空間と、カソード用助触媒が担持された光触媒体が収容されるカソード側気密空間が形成される筐体と、
前記アノード側気密空間内で前記光触媒体が酸化反応するための光を透過させるアノード側透過窓と、
前記カソード側気密区間内で前記光触媒体が還元反応するための光を透過させるカソード側透過窓と、
前記アノード側気密空間に酸化ガスを供給するアノード側ガス供給部と、
前記アノード側気密空間内の酸化反応により改質されたガスを前記アノード側気密空間内から排出させるアノード側ガス排出部と、
前記カソード側気密空間内に還元ガスを供給するカソード側ガス供給部と、
前記カソード側気密空間内の還元反応により改質されたガスを前記カソード側気密空間内から排出させるカソード側ガス排出部と、
を備えることを特徴とする、光触媒体試験用ホルダである。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係る光触媒体試験用ホルダにおいて、前記隔壁は、一方の面に前記アノード用助触媒が担持され、他方の面に前記カソード用助触媒が担持された板状の光触媒体からなる板状試料とし、
前記筐体は、2分割されたホルダで構成され、
前記ホルダの間に、シール部材を介在させた状態で前記板状試料を挟持保持して前記アノード側気密空間と前記カソード側気密空間を形成することを特徴とする、光触媒体試験用ホルダである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、筐体内に隔壁を境界として形成されたアノード側気密空間,カソード側気密空間内に酸化反応又は還元反応を促進させる異なる助触媒が担持された光触媒体が個別に収容されるため、各空間に酸化ガス又は還元ガスを個別に供給しながら光触媒反応により改質されたガスの回収を空間毎に行うことができる。このため、供給した酸化ガスや還元ガスのガス流量に対する光触媒体の反応効率を正確に把握できるとともに、助触媒と光触媒体の新規の組み合わせに関する研究も効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る光触媒体試験用ホルダの概略構成を示す分解斜視図である。
【
図3】同試験用ホルダを電気炉に収容した状態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
なお、本明細書に添付する図面は、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺、縦横の寸法比、形状などについて、実物から変更し模式的に表現される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。従って、添付した図面を用いて説明する実施の形態により、本発明が限定されず、この形態に基づいて当業者などにより考え得る実施可能な他の形態、実施例及び運用技術などは全て本発明の範疇に含まれるものとする。
【0015】
また、本明細書において、添付する各図を参照した以下の説明において、方向乃至位置を示すために上、下、左、右の語を使用した場合、これはユーザが各図を図示の通りに見た場合の上、下、左、右に一致する。
【0016】
本発明の光触媒体試験用ホルダ1(以下、単に「試験用ホルダ1」ともいう)は、筐体内に形成された2つの気密空間のうち酸化反応が起こるアノード側気密空間E1内に被試験体としてアノード側助触媒C1が担持された光触媒体Pを収容し、還元反応が起こるカソード側気密空間E2内に被試験体としてカソード側助触媒C2が担持された光触媒体Pを収容し、各気密空間E1、E2にそれぞれ酸化ガス又は還元ガスを供給しつつ所定波長の光を照射して起こる光触媒反応(酸化反応、還元反応)によって得られたガスを各気密空間E1,E2毎に回収するための装置である。
【0017】
[被試験体について]
本実施形態の試験用ホルダ1に収容される被試験体は、板材の光触媒体Pの上面(表面)側にアノード側助触媒C1を、光触媒体の下面(裏面)側にカソード側助触媒C2をそれぞれ担持させた板状試料Sである。しかし、本発明の基本概念としては、2つの気密空間を設け、各空間にアノード側助触媒C1が担持された光触媒体P1と、カソード側助触媒C2が担持された光触媒体P2を独立して収容可能な装置形態であればよい。
【0018】
よって、本実施形態において、被試験体は隔壁としての機能を果たす板状試料Sを使用し、形状を円盤形状としているが、例えば矩形形状や多角形形状など隔壁としての機能を有する板状であれば外形は特に限定されない。また、各気密空間を隔てる隔壁を他の部材を用いれば、光触媒体Pや助触媒Cが粉体や粒体であってもよい。
【0019】
光触媒体Pは、所定波長の光の照射によって光触媒活性を示す触媒材料である。具体的には、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化銅、酸化鉄、酸化スズ、酸化セリウム、酸化ビスマス、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化ガリウム、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化タンタル、バナジン酸ビスマス、鉄・カルシウム酸化物からなる群より選択される少なくとも一つの酸化物;硫化亜鉛、硫化カドミウム、硫化スズ、硫化銅、硫化鉛、硫化銀、硫化インジウム、硫化ビスマス、銅亜鉛スズ系硫化物からなる群より選択される少なくとも一つの硫化物などが挙げられる。また、前記酸化物と前記硫化物の複合体も好適に使用することができる。
【0020】
光触媒体Pに担持される助触媒C(アノード側助触媒C1,カソード側助触媒C2)は、光触媒体Pの表面に担持され、光触媒体Pの光触媒活性を高める効果を奏する電子吸引性を有する金属又は金属化合物から構成される。具体的には、例えば白金、金、銀、ニッケル、コバルト、銅、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、レニウム、鉄、マンガン、クロム、バナジウムなどの元素からなる金属乃至は金属酸化物などが挙げられる。
【0021】
[装置構成について]
図1や
図2に示すように、試験用ホルダ1は、アノード側ホルダ2と、カソード側ホルダ3と、シール部材4と、収容容器5と、弾性部材6と、蓋部材7と、固定部材8と、アノード側透過窓9と、アノード側ガス供給管10と、アノード側ガス排出管11と、カソード側透過窓12と、カソード側ガス供給管13と、カソード側ガス排出管14と、集電体15とで概略構成される。
【0022】
なお、以下の実施形態では、各図においてアノードを上側、カソードを下側として規定しているため、板状試料Sの上面(表面)にアノード側助触媒C1が担持され、下面(裏面)にカソード側助触媒C2が担持され、アノード/カソードに合わせて各部品を配置した状態であるが、板状試料Sの上下面(表裏面)を逆転させた場合は、当然のことながら各部品の配置が逆になる。
【0023】
本発明の試験用ホルダ1においてアノード側透過窓9やカソード側透過窓12を介してアノード側気密空間E1又はカソード側気密空間E2に照射される光は、被照射物となる光触媒体Pが光触媒反応時に吸収して光励起するためのものである。例えば、光触媒体Pとしてバンドギャップが3eV程度の酸化チタンを用いる場合、その励起光として400nm以下の紫外光が選択され、バンドギャップが2.0eVの鉄・カルシウム系酸化物を使用する場合、波長600nm以下の可視光と紫外光が選択される。
【0024】
このような光を照射する光源Lとしては、使用する光触媒体Pのバンドギャップのエネルギーに応じて紫外光や可視光が好適なため、例えば、LED、水銀灯、蛍光灯、白熱電球、水銀・キセノンランプ、メタルハライドランプ、レーザーなどを、使用する光触媒体Pの種類に応じて適宜選択することができる。
【0025】
アノード側ホルダ2は、試験時に高温加熱した際でも耐性を有するアルミナから成り、略中央部分には光を透過させる透過孔2aが形成されている。また、アノード側ホルダ2における板状試料Sと対向する面には、光触媒反応における酸化反応に必要な光を透過させるアノード側透過窓9が配置される。
【0026】
アノード側透過窓9は、アノード側ホルダ2の透過孔2aにおける板状試料S側を塞ぐように配置される板材であり、光源Lから照射された光を透過させる。また、アノード側透過窓9は、改質されたガスの漏洩を防ぐため、アノード側ホルダ2との間に光透過用孔9bが形成された窓用シール9aが介在されている。この窓用シール9aには、アノード側ホルダ2の供給ガス流路2bや排気ガス流路2cの開口と相対する位置に開口孔9cが設けられている。
【0027】
アノード側透過窓9は、板状試料Sの試験時の雰囲気に対して安定性があり、熱膨張係数がアノード側ホルダ2と近く、気密性が維持できる材料(例えば、サファイア、透光性アルミナ、石英などを主成分とする材料)で形成される。また、アノード側透過窓9には、アノード側ホルダ2の供給ガス流路2bや排気ガス流路2cの開口と相対する位置に開口孔9dが設けられている。
【0028】
図1や
図2に示すように、アノード側ホルダ2の一側面には、酸化反応に必要な酸化ガスをアノード側気密空間E1内に供給するアノード側ガス供給管10と、アノード側気密空間E1内で酸化ガスから改質されたガスを排出するアノード側ガス排出管11とが並設されている。
【0029】
アノード側ガス供給管10は、その一端がアノード側ホルダ2と接合され、アノード側ホルダ2内部に形成される供給ガス流路2bを介して酸化ガスをアノード側気密空間E1内に供給する。アノード側ガス供給管10は、酸化ガスのガス流量が制御可能な流量調整手段を備えた酸化ガス供給部(図示せず)と接続される。
【0030】
アノード側ガス供給管10から供給される酸化ガスは、光触媒反応において光励起で生成した正孔によって酸化されるガスであり、例えば炭化水素系ガス(メタンなど)、水素などが挙げられる。また、酸化ガスは、他のガスで希釈したものを用いてもよく、露点制御された加湿ガスでもよい。
【0031】
アノード側ガス排出管11は、その一端がアノード側ホルダ2と接合され、アノード側気密空間E1内で酸化ガスから改質されたガスをアノード側ホルダ2内に形成される排気ガス流路2cを介して排出する。改質されたガスは、アノード側ガス排出管11を介して吸引ポンプのような排気手段(図示せず)を用いて吸引し回収される。
【0032】
カソード側ホルダ3は、アノード側ホルダ2と同様、試験時に高温加熱した際でも耐性を有するアルミナから成り、アノード側ホルダ2と略同一形状を成している。また、カソード側ホルダ3の略中央部分には光を透過させる透過孔3aが形成されている。さらに、カソード側ホルダ3における板状試料Sと対向する面には、光触媒反応における還元反応に必要な光を透過させるカソード側透過窓12が配置される。
【0033】
カソード側透過窓12は、カソード側ホルダ3の透過孔3aにおける板状試料S側を塞ぐように配置される板材であり、光源Lから照射された光を透過させる。また、カソード側透過窓12は、改質されたガスの漏洩を防ぐため、カソード側ホルダ3との間に光透過用孔12bが形成された窓用シール12aが介在されている。この窓用シール12aには、カソード側ホルダ3の供給ガス流路3bや排気ガス流路3cの開口と相対する位置に開口孔12cが設けられている。
【0034】
カソード側透過窓12は、板状試料Sの試験時の雰囲気に対して安定性があり、熱膨張係数がカソード側ホルダ3と近く気密性が維持できる材料(例えば、サファイア、透光性アルミナ、石英などを主成分とする材料)で形成される。また、カソード側透過窓12には、カソード側ホルダ3の供給ガス流路3bや排気ガス流路3cの開口と相対する位置に開口孔12dが設けられている。
【0035】
図1や
図2に示すように、カソード側ホルダ3の一側面には、還元反応に必要な還元ガスをカソード側気密空間E2内に供給するカソード側ガス供給管13と、カソード側気密空間E2内で還元ガスから改質されたガスを排出するカソード側ガス排出管14とが並設されている。
【0036】
カソード側ガス供給管13は、その一端がカソード側ホルダ3と接合され、カソード側ホルダ3内部に形成される供給ガス流路3bを介して還元ガスをカソード側気密空間E2内に供給する。カソード側ガス供給管13は、還元ガスのガス流量が制御可能な流量調整手段を備えた還元ガス供給部(図示せず)と接続される。
【0037】
カソード側ガス供給管13から供給される還元ガスは、光触媒反応において光励起で生成した電子によって還元されるガスであり、例えば二酸化炭素、酸素などが挙げられる。また、還元ガスは、他のガスで希釈したものを用いてもよく、露点制御された加湿ガスでもよい。
【0038】
カソード側ガス排出管14は、その一端がカソード側ホルダ3と接合され、カソード側気密空間E2内で還元ガスから改質されたガスをカソード側ホルダ3内に形成される排気ガス流路3cを介して排出する。改質されたガスは、カソード側ガス排出管14を介して吸引ポンプのような排気手段(図示せず)を用いて吸引し回収される。
【0039】
シール部材4は、弾力性を有するセラミックス(例えば、バーミキュライト、マイカ、アルミナファイバーなど)からなる環状部材であり、板状試料Sの周縁部分と一部が重なるように配置される。シール部材4は、アノード側ホルダ2と板状試料Sとの間に一つ、カソード側ホルダ3と板状試料Sとの間に一つ配置した状態で挟持されることで、その厚みによりアノード側気密空間E1及びカソード側気密空間E2が形成されるとともに、各空間の気密性を確保することができる。
【0040】
収容容器5は、アノード側ホルダ2やカソード側ホルダ3でシール部材4を介在させた状態で板状試料Sを挟持保持したまま収容可能な凹形状を有する略方形状の筐体である。収容容器5は、アノード側ホルダ2やカソード側ホルダ3と同様、試験時の高温に耐え得るアルミナで形成されている。収容容器5の内寸は、収容容器5に対する着脱容易性を考慮すると、各ホルダ2,3の外寸よりも1~2mm程度大きく成形されている。
【0041】
また、収容容器5は、アノード側ホルダ2に設けられたアノード側ガス供給管10やアノード側ガス排出管11,カソード側ガス供給管13やカソード側ガス排出管14を外部に引き出すため、周壁の一部に収容容器5の内部と連通する切欠部5aが形成されている。
【0042】
さらに、収容容器5には、固定部材8による締結固定を行うための複数の締結孔5bが形成されている。本実施形態では、収容容器5の上端面における4隅にそれぞれ形成され、その内表面に固定部材8の雄ネジと対応する雌ネジが形成されている。
【0043】
また、収容容器5の底部における略中央部分には、光源Lから照射された光をカソード側ホルダ3のカソード側透過窓12を介してカソード側気密空間E2内に透過させるための開口孔5cが設けられている。なお、開口孔5cは、光の入射の妨げとならないようにその中心がカソード側透過窓12の中心と一致するように形成されている。
【0044】
弾性部材6は、圧縮の荷重により弾性変形(伸縮)する部材で構成される。本実施形態では、電気炉20による高温加熱にも耐え得るように、セラミック製(例えば窒化珪素)の圧縮バネを使用する。弾性部材6は、蓋部材7に形成された収容凹部7aに一部が突出した状態で収容され、蓋部材7で収容容器5の開口部分を閉塞したときに押し込まれることで弾性的に付勢して板状試料Sとシール部材4に荷重が加わる。これにより、シール部材4が圧縮されてアノード側気密空間E1及びカソード側気密空間E2の気密性が確保される。弾性部材6の外径は、収容凹部7aの天井面やアノード側ホルダ2の表面と当接する径サイズで設計される。
【0045】
蓋部材7は、アノード側ホルダ2、カソード側ホルダ3及び収容容器5と同様、試験時の高温に耐え得るアルミナで形成され、外寸が収容容器5と略同一となっている。また、蓋部材7の表面略中央部分には、弾性部材6を収容する収容凹部7aが立設されている。
【0046】
収容凹部7aは弾性部材6が収容される部分であり、その内寸は弾性部材6の着脱容易性を考慮しつつ収容した弾性部材6が内側で暴れない程度の隙間が生じるように、弾性部材6の外寸よりも1~2mm程度大きく形成されている。
【0047】
また、収容凹部7aの天井面には、光源Lから照射された光をアノード側気密空間E1内に透過させるための開口孔7bが設けられている。この開口孔7bは、光の入射の妨げとならないように、その中心がアノード側透過窓9の中心と一致するように形成されている。
【0048】
また、蓋部材7の四隅には、固定部材8を挿通するためのネジ挿通孔7cが形成されている。このネジ挿通孔7cは、蓋部材7で収容容器5の開口部分を閉塞したときに、対向する締結孔5bと一直線上に重なる位置に形成される。
【0049】
固定部材8は、電気炉20による高温加熱にも耐え得るようにセラミック製のボルトで構成され、軸部の外周面には締結孔5bの雌ネジと対応する雄ネジが形成されている。
【0050】
また、本実施形態の試験用ホルダ1では、光触媒体Pの電流量(電子の流れ)を計測して光触媒反応によって改質されたガスを定量化するため、光触媒体Pに担持されるアノード側助触媒C1とカソード側助触媒C2の表面にそれぞれ集電体15を介在させた状態で挟持保持させている。集電体15は、アノード側にアノード側集電体15a、カソード側にカソード側集電体15bが配置される。
【0051】
アノード側集電体15aとカソード側集電体15bは、光源Lからの光を妨げないように光照射孔径よりも内径が大きなメッシュ状の環状部材が採用される。また、アノード側集電体15aには酸化反応の影響を受けない金属を採用し、カソード側集電体15bには還元反応の影響を受けない金属を採用する。例えばドライリフォーミングによる二酸化炭素の合成ガスへの化学変換を行う場合、アノード側にはメタンガスが供給され、カソード側には二酸化炭素が供給されるため、アノード側集電体15aにはAu、カソード側集電体15bにはPtが使用される。
【0052】
また、集電体15の電流量を計測する場合、アノード側集電体15aはアノード側ガス供給管10又はアノード側ガス排出管11、カソード側集電体15bはカソード側ガス供給管13又はカソード側ガス排出管14から挿通したリード線(図示せず)を介して計測される。
【0053】
なお、集電体15の形状は、板状試料Sの形状に合わせて環状を成しているが、例えば矩形形状や多角形形状など、光の照射を妨げないように透過用の孔が形成されていればその外形は特に限定されない。
【0054】
以上のように、本実施形態の試験用ホルダ1は、アノード側ホルダ2とカソード側ホルダ3とを突き合わせ、その間に板状試料Sを隔壁としてシール部材4、集電体15を所定位置に介在させた状態で挟持保持したまま収容容器5に収容し、弾性部材6を介在させた状態で蓋部材7により収容容器5の開口部分を閉塞し、ネジ挿通孔7c側から固定部材8を挿通して締結固定される。
【0055】
このような構成とすることで、アノード側ホルダ2とカソード側ホルダ3との間の板状試料Sを境界としてアノード側気密空間E1とカソード側気密空間E2が形成され、アノード側気密空間E1内にはアノード側助触媒C1が担持された光触媒体Pが収容され、カソード側気密空間E2内にはカソード側助触媒C2が担持された光触媒体Pが収容される。よって、各気密空間内で別々に光触媒反応が起こるため、酸化ガスや還元ガスから改質されたガスを個別に回収して分析することが可能となる。
【0056】
[電気炉について]
上述した試験用ホルダ1による光触媒反応試験を実施する際に、光触媒反応を促進させるための加熱が必要なときは下記構成を有する電気炉20を使用する。
【0057】
なお、
図3は、電気炉20内に試験用ホルダ1は横向きに傾倒した状態で収容し、水平方向に切断した下部分を上方から見た図である。また、試験用ホルダ1を構成する各部の符号は図面の見易さを考慮して省略し、主に電気炉20の符号を付す。
【0058】
図3に示すように、本実施形態の電気炉20は、筐体の内壁として使用されるセラミックファイバー製の断熱材の内周面を覆うように温度制御可能なヒータ20aが設けられ、断熱材の底部における略中央部分には試験用ホルダ1を載置する台座21が配置されている。
【0059】
また、試験用ホルダ1は光触媒体Pからなる板状試料Sを被試験体とするため、電気炉20にも光源Lからの光をホルダ内に入射させる構成が必要となる。そのため、本実施形態で使用する電気炉20は、その筐体の側面に内部まで貫通する貫通孔22が形成され、この貫通孔22に光源Lからの光を入射させるための光路23が形成されている。
【0060】
光路23は、電気炉20内に設置されるため、例えばアルミナなどの耐熱性を有し、且つ光を吸収しない材質で構成されている。また、入射される光の乱反射を防止するため、内面に平滑処理が施されている。本実施形態において、光路23は、円筒形状の2つの光路(第1光路23a、第2光路23b)で構成される。第1光路23aは、アノード側透過窓9を介してアノード側気密空間E1内に光を入射させ、第2光路23bは、カソード側透過窓12を介してカソード側気密空間E2内に光を入射させる。
【0061】
台座21は、試験用ホルダ1の高さ寸法に合わせて高さ調整が適宜可能となっており、収容容器5のサイズに応じて、アノード側透過窓9の中心と第1光路23aの開口中心及びカソード側透過窓12と第2光路23bの開口中心がそれぞれ一致するように高さを合わせることができる。
【0062】
また、電気炉20の貫通孔22における外壁面側の開口を塞ぐように透過窓24がそれぞれ設けられている。この透過窓24は、光源Lからの光の波長を変えることなく透過させ、さらに電気炉20を駆動したときの高温に耐え得る材質(例えば、サファイア、透光性アルミナ、石英などを主成分とする材料)で形成されている。
【0063】
[組み立て・設置手順について]
次に、上述した構成の試験用ホルダ1の組み立て手順及び電気炉20への設置手順について一例を挙げて説明する。
まず、筐体下部を構成するカソード側ホルダ3を収容容器5に収容し、窓用シール12a、カソード側透過窓12の順で載置し、その上にシール部材4、板状試料S、シール部材4の順に載置し、最後にアノード側透過窓9、窓用シール9a、アノード側ホルダ2の順で載置する。これにより、アノード側ホルダ2とカソード側ホルダ3とでシール部材4を介在させた状態で板状試料Sが挟持される。
【0064】
次に、弾性部材6をアノード側ホルダ2表面の略中央部分に載置し、弾性部材6が収容凹部7aに収容されるように蓋部材7で収容容器5の開口部分を閉塞する。閉塞後は、固定部材8をネジ挿通孔7cに挿通させながら収容容器5の締結孔5bにネジ込んで試験用ホルダ1を収容容器5に収容する。これにより、収容容器5内で弾性部材6の付勢力が作用してアノード側ホルダ2及びカソード側ホルダ3に荷重がかかるため、板状試料Sを境界としてアノード側気密空間E1とカソード側気密空間E2が形成される。
【0065】
そして、試験用ホルダ1を収容した収容容器5を電気炉20の台座21に載置し、収容凹部7aの開口孔7bの中心と第1光路23aの中心とが一致するとともに、収容容器5の開口孔5cの中心と第2光路23bの中心とが一致するように、収容容器5の向きや台座21の高さ調製を行って電気炉20への設置が完了する。
【0066】
以降は、電気炉20による試験用ホルダ1の加熱や酸化ガス又は還元ガスの供給制御や改質されたガスの排気制御を適宜行い、光触媒体Pの光触媒反応により改質されたガスの各種分析が行われる。
【0067】
以上のように、上述した試験用ホルダ1は、板状の光触媒体Pのおける一方の面にアノード側助触媒C1が担持され、他方の面にカソード側助触媒が担持される板状試料Sを被試験体とし、この板状試料Sを筐体となるアノード側ホルダ2とカソード側ホルダ3との間にシール部材4を介在させ挟持保持することでアノード側気密空間E1とカソード側気密空間E2が形成される。
【0068】
これにより、筐体内に板状試料Sを境界としてアノード側気密空間E1,カソード側気密空間E2内に酸化反応又は還元反応を促進させる異なる助触媒Cが担持された光触媒体Pが個別に収容されるため、各空間に酸化ガス又は還元ガスを個別に供給して光触媒反応により改質されたガスの回収を空間毎に行うことができる。よって、供給した酸化ガスや還元ガスのガス流量に対する反応効率を正確に把握することができるため、助触媒Cと光触媒体Pの新規の組み合わせに関する研究を効率よく行うことができる。
【0069】
ところで、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、使用環境等に応じて適宜変更して実施することもできる。
【符号の説明】
【0070】
1…光触媒体試験用ホルダ
2…アノード側ホルダ
3…カソード側ホルダ
4…シール部材
5…収容容器(5a…切欠部、5b…締結孔、5c…窓部)
6…弾性部材
7…蓋部材(7a…収容凹部、7b…窓部、7c…ネジ挿通孔)
8…固定部材
9…アノード側透過窓(9a…窓用シール)
10…アノード側ガス供給管
11…アノード側ガス排出管
12…カソード側透過窓(12a…窓用シール)
13…カソード側ガス供給管
14…カソード側ガス排出管
15…集電体(15a…アノード側集電体、15b…カソード側集電体)
20…電気炉
21…台座
22…貫通孔
23…光路(23a…第1光路、23b…第2 光路)
C…助触媒(C1…アノード用助触媒、C2…カソード用助触媒)
E1…アノード側気密空間
E2…カソード側気密空間
P(P1,P2)…光触媒体
S…板状試料