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特許7168169微粒子検出材料および該材料を使用した微粒子検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】微粒子検出材料および該材料を使用した微粒子検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20221101BHJP
   C08G 77/50 20060101ALI20221101BHJP
   C08G 77/54 20060101ALI20221101BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
C08G77/50
C08G77/54
G01N21/78 C
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019024721
(22)【出願日】2019-02-14
(65)【公開番号】P2020134200
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-08-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.平成30年3月6日 日本化学会第98春季年会(2018)予稿集、第1I2‐51頁、日本化学会 2.平成30年3月20日、日本化学会第98春季年会、日本大学理工学部船橋キャンパスにて発表された内容のコピー
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】中村 亮太
(72)【発明者】
【氏名】中條 善樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 一生
(72)【発明者】
【氏名】権 正行
(72)【発明者】
【氏名】成清 颯斗
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-167344(JP,A)
【文献】特開2018-030935(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0049473(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0052018(US,A1)
【文献】田中一生、中條善樹,かご型シルセスキオキサン(POSS)元素ブロックを基盤としたデザイナブルハイブリッドの創出と応用,高分子論文集,2017年03月06日,第74巻第3号,第145頁-第161頁,DOI:10.1295/koron.2016-0064
【文献】KAKUTA T , et al.,Journal of Materials Chemistry C,2015年,Vol.3,pp.12539-12545,DOI:10.1039/05tc03139g
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62 - G01N 21/83
C08G 77/00 - C08G 77/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
かご型シルセスキオキサン(POSS)を構成成分として含有するPOSSネットワークポリマーを含み、該POSSネットワークポリマーが、ソルバトクロミズムを示すクロミック分子を有し、かつ、POSS同士がメチレン鎖を介して架橋されてなるものであり、ソルバトクロミック分子がジアルキルアミノ基を有するクマリン誘導体であり、疎水性微粒子を検出するために使用されることを特徴とする、微粒子検出材料。
【請求項2】
ソルバトクロミック分子がカルボキシル基を有するクマリン誘導体であることを特徴とする、請求項1に記載の微粒子検出材料。
【請求項3】
メチレン鎖の炭素数が2~8であることを特徴とする、請求項1または2に記載の微粒子検出材料。
【請求項4】
POSSとメチレン鎖との架橋がアミド結合を介するものであることを特徴とする、請求項1~いずれかに記載の微粒子検出材料。
【請求項5】
POSSが頂点にアミノプロピル基を有するものであることを特徴とする、請求項1~いずれかに記載の微粒子検出材料。
【請求項6】
ソルバトクロミック分子のPOSSへの導入率が10%から30%であることを特徴とする、請求項1~いずれかに記載の微粒子検出材料。
【請求項7】
メチレン鎖によるPOSS間の架橋が10%から80%であることを特徴とする請求項1~いずれかに記載の微粒子検出材料。
【請求項8】
POSSネットワークポリマーが水溶性であることを特徴とする、請求項1~いずれかに記載の微粒子検出材料。
【請求項9】
疎水性微粒子が水接触角にして60°以上であることを特徴とする、請求項1~いずれかに記載の微粒子検出材料。
【請求項10】
前記疎水性微粒子が、ポリマー微粒子であることを特徴とする請求項1~いずれかに記載の微粒子検出材料。
【請求項11】
前記疎水性微粒子が、ポリメタクリル酸メチル、ポリ乳酸、ポリスチレン、それらの誘導体およびそれらの混合物からなるグループから選ばれる、請求項1~10いずれかに記載の微粒子検出材料。
【請求項12】
前記疎水性微粒子の大きさが、1μm未満であることを特徴とする請求項1~11いずれかに記載の微粒子検出材料。
【請求項13】
疎水性微粒子を検出する方法であって、かご型シルセスキオキサン(POSS)を構成成分として含有するPOSSネットワークポリマーを含み、該POSSネットワークポリマーが、ソルバトクロミズムを示すクロミック分子を有し、かつ、POSS同士がメチレン鎖を介して架橋されてなり、ソルバトクロミック分子がジアルキルアミノ基を有するクマリン誘導体である微粒子検出材料を使用することを特徴とする、上記疎水性微粒子を検出する方法。
【請求項14】
かご型シルセスキオキサン(POSS)を構成成分として含有するPOSSネットワークポリマーを含み、該POSSネットワークポリマーが、ソルバトクロミズムを示すクロミック分子を有し、かつ、POSS同士がメチレン鎖を介して架橋されてなり、ソルバトクロミック分子がジアルキルアミノ基を有するクマリン誘導体であることを特徴とする微粒子検出材料および水を含有する検出液を用意する検出液準備工程;
検出液準備工程で作製された検出液と、微粒子を含有するまたは微粒子を含有するか否かが判断される環境サンプル溶液とを混合して試料溶液を作製する試料溶液作製工程;
試料溶液作製工程で得られた試料溶液に光を照射する照射工程;および
照射によって試料溶液から発せられる発光を解析する発光解析工程、
を含む、疎水性微粒子を検出する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子の検出、特にマイクロ、ナノプラスチック等の疎水性微粒子の検出に適した微粒子検出材料および該材料を使用した微粒子検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境中に存在する微粒子の問題が表面化してきている。大気中においては、PM2.5に代表される微粒子状物質が、呼吸器の奥深くまで入り込みやすいことなどから、人への健康影響が懸念されており、環境基準が定められている。水域においては、プラスチックの微小片、μmサイズのマイクロプラスチックや、nmサイズのナノプラスチックの存在が明らかとなっており、生態系への影響が懸念されている。しかし、実際の水域にどの程度マイクロ・ナノプラスチックが存在しているか、それらが生態系に及ぼしている影響を科学的に評価した例は少なく、データの蓄積が必須となっている。
【0003】
そうした中、環境中のマイクロ・ナノプラスチックを検出する技術について、サブミクロン以上の比較的大きなサイズのマイクロプラスチックについては、ネットによる回収後に顕微鏡による計測、あるいは必要に応じフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による組成分析が行われるなど、その検出手法は確立しつつある(例えば、非特許文献1)。一方で、より小さな微粒子、特にナノサイズの微粒子について、その検出手法は確立されていない。
【0004】
一般的なナノ微粒子の検出方法については以下のものがある。粒径・粒度分布の測定方法としては、光学顕微鏡・電子顕微鏡を用いて直接計測する顕微鏡法、レーザー光を照射し、散乱光の揺らぎから拡散速度を算出し粒径に変換する動的光散乱法、レーザー光照射後、その角度依存散乱・回折プロファイルを解析するレーザー回折散乱法、遠心分離による沈降速度の違いから算出する遠心沈降法などがある(例えば、特許文献1、非特許文献2)。また、粒子数については、上記の顕微鏡法、遠心沈降法に加え、フローセルにレーザー光を照射し散乱光パルスの数を測定する光散乱式(例えば、特許文献2、非特許文献3)、反対に粒子による光の遮蔽を信号低下として検出する光遮蔽式が報告されている。また、上記の物理的手法以外にも、光化学的な手法による検出も試みられ、本出願人においても、粒子に吸着し、その大きさに応じて発光スペクトルを変化させる化合物を報告している(非特許文献4)。
【0005】
しかし、これらのいずれの方法も粒子の数や大きさといった一部の情報のみで、粒子成分に関する情報は得られず、環境中試料にプラスチック微粒子がどの程度存在するかを判別するものではなかった。
【0006】
この解決のために、近年、原子間力顕微鏡(AFM)と赤外分光法(IR)あるいはラマン分光法を組み合わせた手法が提唱されている(例えば、非特許文献5)。しかし、この手法は非常に高価な装置が必要となり、また、一度に処理できる試料の量も少なく、結果として測定回数が増加し、非常に繁雑な測定となる欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-39539号公報
【文献】特開昭62-255850号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Environmental Science & Technology(2012),Vol.46、3060-3075
【文献】産総研計量標準報告(2007)、Vol.6、No.4、p.185-200
【文献】産総研計量標準報告(2011)、Vol.8、No.2、p.213-243
【文献】journal of material chemistry c(2015),vol.3,12539-12545
【文献】Analytical Methods(2017)、Vol.9、1384-1391
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題点を解決するものであり、今までとは異なる新規で簡便な手法で、微粒子の粒径や量の情報に加え、粒子成分、粒子表面特性についての情報を得ることができる微粒子検出材料および該材料を使用した検出方法を提供するものであり、環境試料中における疎水性微粒子を検出する検出材料および該材料を使用した検出方法を提供する。
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、かご型シルセスキオキサン(POSS)を構成成分として含有するPOSSネットワークポリマーを含み、該POSSネットワークポリマーが、ソルバトクロミズムを示すクロミック分子を有し、かつ、POSS同士がメチレン鎖を介して架橋されてなる、微粒子検出材料が、上記課題を解決することを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明の第1の側面はかご型シルセスキオキサン(POSS)を構成成分として含有するPOSSネットワークポリマーを含み、該POSSネットワークポリマーが、ソルバトクロミズムを示すクロミック分子を有し、かつ、POSS同士がメチレン鎖を介して架橋されてなるものであり、疎水性微粒子を検出するために使用されることを特徴とする、微粒子検出材料を提供することにある。
【0012】
本発明の第2の側面は、疎水性微粒子を検出する方法であって、かご型シルセスキオキサン(POSS)を構成成分として含有するPOSSネットワークポリマーを含み、該POSSネットワークポリマーが、ソルバトクロミズムを示すクロミック分子を有し、かつ、POSS同士がメチレン鎖を介して架橋されてなる微粒子検出材料を使用することを特徴とする、上記疎水性微粒子を検出する方法を提供することにある。
【発明の効果】
【0013】
本発明の微粒子検出材料を用いることで、環境溶液中に、疎水性微粒子、特に、粒径1μm未満のナノサイズのプラスチック微粒子があるかどうか、またその含有量が、光を照射するだけで判別が可能となる。この発光色変化は大きく、分光光度計等の分光装置による測定はもちろん、目視での判別が可能であり、きわめて簡便な検出手法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1で得られた本発明のPOSSネットワークポリマーを粒径の異なる各種微粒子と混合した際の発光スペクトルの変化を示すグラフである。
【0015】
図2】比較例1で得られたクマリンPOSSを粒径の異なる各種微粒子と混合した際の発光スペクトルの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の微粒子検出材料は、かご型シルセスキオキサン(POSS)を構成成分とする。POSSは、主鎖骨格がSiO結合からなるシロキサン系の化合物で、(RSiO1.5の組成式で表されるシルセスキオキサンの1種でありn=8、10又は12のPOSSが報告されている。本発明においては、いずれのPOSSを用いることも可能である。合成が比較的容易であるという観点から、n=8を代表して以下説明する。
【0017】
かご型シルセスキオキサン(POSS)は、(RSiO1.5の組成を有しており、下記式[I]に示されているような立体構造を有し、シリカの立方体構造を中心に、頂点に有機官能基を持つ物質を総称している。
【化1】
式中、RはH(水素原子)または有機官能基(R’)を有するリンカーであり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。なお、有機官能基(R’)を有するリンカーは1つ以上、好ましくは2つ以上、より好ましくは3つ以上、最も好ましくは8である。
【0018】
本発明においては、かご型シルセスキオキサン(POSS)分子が、他のPOSS分子と有機官能基(R’)を介して結びついていない化合物を「POSS」と表記し、POSSが有機官能基(R’)を介して他のPOSS分子と三次元的に化学結合で結びつきあっている形態の化合物(ポリマー)を、「ネットワークPOSSポリマー」あるいは「POSSネットワークポリマー」と表記する。なお、ネットワークPOSSポリマーは、Rが互いに同一の1種のPOSS分子同士が有機官能基(R’)を介して結びつく化合物に限られず、Rが互いに異なる2種以上のPOSS分子同士が有機官能基(R’)を介して結びつく化合物であってもよい。
【0019】
本発明のPOSSネットワークポリマーは、ソルバトクロミズムを示すクロミック分子(以下、単に、「クロミック分子」ということもある。)を有し、該ソルバトクロミズムを示すクロミック分子はリンカー(L)を介してPOSSに結合している。
【0020】
クロミック分子は、外部からの刺激により色が変わる現象であるクロミズムの性質を有する分子である。「ソルバトクロミズム」とは、クロミズムの現象に加え、さらに溶媒の極性に応じて色が変化するという現象を示す性質を意味している。
【0021】
リンカー(L)は、式[I]における有機官能基(R’)を有するリンカー(R)に代えて表現したものである。リンカーとしては、種々の有機官能基、好ましくは末端に有機官能基を有する基、例えば、アミノ基、ビニル基、グリシジル基等が挙げられ、それらのリンカーが、POSSの8頂点に導入される。それらの中でも水溶性を保持するために、極性基を有し、かつ、下記する架橋剤と結合するための末端官能基を有していることが好ましく、比較的合成が容易なことから、アミノアルキル基が最も好ましく例示される。アミノアルキル基のアルキル基としては、炭素数1~5、好ましくは2~4、最も好ましくは3である。また、末端のアミノ基はアンモニウムイオンの形態でも良く、その場合、対の陰イオンとしては、特に限定されないが、塩酸塩、硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩等が例示される。それらのリンカーの導入は、すでに知られている方法により導入される。例えば、リンカーとして、3-アミノプロピルを導入するには、3-アミノプロピルトリエトキシシランをメタノールに溶解し、塩酸により縮合することにより行うことができる。
【0022】
本発明においては、微粒子表面の極性、特に、疎水性を認識し、溶媒の極性に応じて変化を示すソルバトクロミック分子が使用される。
【0023】
該ソルバトクロミック分子としては、分子内電荷移動遷移(ICT)性の分子が好ましく例示される。ICTとは、電子供与基と電子求引基を有する共役系化合物に見られる現象で、分子内で電荷の偏りを生じるために、溶媒分子の極性によって基底状態や励起状態のエネルギー準位が変化し、結果として発色や蛍光色も変化する現象である。本発明においては、その検出感度の高さから、発光性ソルバトクロミック分子が好ましい。なお、クロミズムの概念は厳密には環境の変化に色の変化が伴う現象であるが、発光性ソルバトクロミック分子の場合、一般的に発光色の変化に伴い発光強度が変化することが知られており、本発明においては色変化には、無色から発色への変化およびその逆も含まれることとする。
【0024】
該ICT性分子はさらに、色変化が大きくなるという観点から、ねじれ型分子内電荷移動(TICT)性であることが望ましい。TICTは、電子供与基からの電子移動が生じた後、電子供与基が捩れることで共役から外れるため、より大きな発光波長変化を示す。本発明におけるTICT性分子の構造は特に限定されないが、電子供与基としては、(ジ)アルキルアミノ基(モノアルキルアミノ基およびジアルキルアミノ基の両者を表す。)、フェニル基等の他、アルキル基、アルコキシ基に嵩高い置換基が導入された官能基が例示される。電子求引基としては、カルボキシル基、シアノ基、シアナト基、チオシアナト基、アルデヒド基、ニトロ基、ニトロソ基、アミノカルボニル基、チオカルボキシル基及びその塩、ジチオカルボキシル基、チオカルボニル基、アシル基、チオアシル基、スルフィン酸基、スルホン酸基、スルフィニル基、スルホニル基、オキシスルホニル基、チオスルホニル基、アミノスルホニル基などが例示される。電子供与基あるいは電子求引基そのものが共役系である場合は、両者が直接結合されていてもよいが、共役系でない場合は、芳香族化合物等の共役系化合物を介して結合されている必要がある。
【0025】
この内、電子供与基はその供与性の強さからジアルキルアミノ基が、電子求引基は、上述したアルキルアミノ基を頂点に有するPOSSと結合させる観点から、カルボキシル基が好ましい。そして、電子供与基と電子求引基が結合されている芳香族化合物としては、置換位置と置換基によって、吸収、発光波長、発光輝度を調節することが可能なものが好ましく、ベンゼン環、クマリン骨格、ピロメテン骨格、キサンテン骨格等を有する化合物(誘導体)が例示される。この内、可視光領域の幅広い波長での調節が可能なこと、適度に疎水性を有していること、比較的安価であるといった観点から、クマリン骨格の化合物(クマリン誘導体)が好ましい。クマリン誘導体の中でも、好ましくはジアルキルアミノ基およびカルボキシル基を有するクマリン誘導体、例えば、ジエチルアミノ基およびカルボキシル基を有するクマリン化合物、特に、7-ジエチルアミノクマリン-3-カルボン酸が最も好ましく例示される。
【0026】
POSSへのクロミック分子の導入方法は、POSSの頂点の末端基(リンカー)に応じて既知の手法に従って行えばよい。例えば、リンカー末端のアミノ基とクロミック分子内のカルボキシル基の縮合、即ち、アミド結合を形成させる既知の方法が挙げられる。この方法は、カルボジイミド系、イミダゾール系縮合剤、トリアジン系縮合剤、ウロニウム系縮合剤、ハロウロニウム系縮合剤などを用いて縮合が行われる。これらの縮合剤の中でも、極性の高い溶媒でも使用可能な点、温和な条件での反応が可能である点から、トリアジン系縮合剤が最も好ましく、市販されている4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリドn水和物(DMT-MM)が好まれる。
【0027】
本発明のPOSSネットワークポリマーは、クロミック分子を有しており、その含有量はPOSSへのクロミック分子を導入の割合(導入率)で示される。該導入率は、特に限定されないが、平均してPOSS頂点(8頂点)の5%から50%が好ましく、10%から30%が最も好ましい。導入率がこの範囲を下回る場合、蛍光色素としての効果が期待できず、また、この範囲を上回る場合、下記するPOSSの架橋が困難となる。なお、本発明における導入率とは、POSS全分子に存在するクロミック分子が導入可能な総官能基に対して、実際にクロミック分子が導入された割合(平均)であり、必ずしもPOSS1分子に対し、クロミック分子が上記導入率で導入されている必要はない。
【0028】
クロミック分子の導入率は、核磁気共鳴装置(NMR)を用いて算出できる。具体的には、H-NMRスペクトルを測定し、POSSの有機官能基に由来するピークのうち、最も高磁場側のピーク面積(A)と最も低磁場側のピーク面積(A)を比較すればよい。これは、最も高磁場側のピークはクロミック分子導入によるピークシフトがほとんど起こらないのに対し、最も低磁場側のピークはピークシフトを起こし、面積が減少するためである。例えば、アミノプロピル基(リンカー)を官能基とするPOSSにクロミック分子を導入し、重溶媒としてDMSO-d6を用いた場合、0.7ppm付近のピーク面積(A)と2.8ppm付近のピーク面積(A)から算出可能である。
具体的には、次の式より算出する。ただし、この式はPOSSネットワークポリマーとする前のPOSSにおける式である。
[導入率(%)]=[A-A]×100/A
【0029】
本発明のPOSSネットワークポリマーは、POSS同士がメチレン鎖を介して結合、架橋されてなるものであり、より具体的には、リンカー(L)を介してPOSS同士がメチレン鎖を有する架橋剤によって結合・架橋されてなるものである。メチレン鎖は直鎖状でも、分岐鎖を有していても良い。該メチレン鎖の長さは特に規定されないが、1~18が好ましく、より好ましくは2~12、最も好ましいのは2~8である。炭素数がこれ以上長いと、POSSネットワークポリマーの水溶性が低下し、好ましくない。
【0030】
メチレン鎖を有する架橋剤のメチレン鎖末端官能基は特に限定されるものではないが、POSSの頂点のリンカーの官能基、好ましくは末端官能基に応じて適宜選択すれば良い。
【0031】
本発明に適用できる具体的架橋剤としては、炭素数2~10、好ましくは炭素数3~10、より好ましくは4~10のジカルボン酸、特に、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、3-エチル-3-メチルグルタル酸等、好ましくはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、3-エチル-3-メチルグルタル酸等、より好ましくは、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が例示される。
【0032】
POSS同士をメチレン鎖によって架橋するには、リンカーの有する官能基と、架橋剤の有する官能基を反応させ結合させればよい。例えば、リンカーとしてアミノアルキル基を頂点に有するPOSSを結合、架橋させる場合、架橋剤のメチレン鎖末端基はカルボキシル基であることが好ましい。この場合、POSSを架橋剤で結合、架橋させるには、上記したアミド結合を形成させる方法に従えば良い。
【0033】
POSSの架橋度は、10~80%、好ましくは20~70%程度である。架橋度が大きすぎると、水溶性を得るのが困難であり、小さすぎると、ネットワークによるクロミック分子導入POSSの凝集抑制効果は見込めない。架橋度の調整は、POSS1分子に対して作用させる架橋剤の量を調整することにより行うことができる。また、架橋度は、前述したクロミック分子の導入率と同じくH-NMRスペクトルにより算出できる。具体的には、H NMRスペクトルを測定し、POSSの有機官能基に由来するピークのうち、最も高磁場側のピーク面積(A)と最も低磁場側のピーク面積(A)を比較し、クロミック分子の導入率を差し引けばよい。具体的には、次の式より算出する。
[架橋度(%)]=[A-A]×100/A-クロミック分子導入率
なお、本発明における架橋度とは、POSS全分子に存在する架橋可能な総官能基に対して、実際にメチレン鎖によって架橋された平均割合であり、必ずしもPOSS1分子に対し、該架橋度で架橋されている必要はない。
【0034】
クロミック分子の導入と、架橋を行う順序は、特に限定されるものではないが、クロミック分子の導入を先に行うほうが好ましい。先に架橋を行うと、有機官能基とクロミック分子の接触確率が低下し、クロミック分子の導入が困難となるからである。
【0035】
本発明のPOSSネットワークポリマーは、水溶性である。ここで、「水溶性」とは、POSSネットワークポリマーが、水1リットルに対して、乾燥重量において少なくとも0.1g以上、好ましくは0.5g以上、より好ましくは0.8g以上、さらにより好ましくは1.0g以上溶解する場合をいう。
【0036】
水溶性のPOSSネットワークポリマーを得るには、上記方法に従って合成した固体状のネットワークポリマーに水を加え、攪拌や静置、超音波処理等により水溶性成分を水に溶解させた後、濾過や遠心分離等の分離操作により水溶性画分のみを分離すれば良い。このようにして得られた水溶性画分は、そのまま微粒子の検出に用いても良いし、保存のために公知の手法により適宜濃縮、希釈、乾燥し、所望の濃度の水溶液、あるいは固体状態にしても良い。
【0037】
本発明のPOSSネットワークポリマーは、疎水性微粒子を検出することができ、該POSSネットワークポリマーを含む微粒子検出材料は、疎水性微粒子を検出するために使用することが可能となる。
しかして、かご型シルセスキオキサン(POSS)を構成成分として含有するPOSSネットワークポリマーを含み、該POSSネットワークポリマーが、ソルバトクロミズムを示すクロミック分子を有し、かつ、POSS同士がメチレン鎖によって架橋されてなるものであり、疎水性微粒子を検出するために使用されることを特徴とする、微粒子検出材料が提供される。
本発明のPOSSネットワークポリマーは、水溶性であるため、該微粒子検出材料は、水域の環境サンプルの測定を行うことができる。
【0038】
本発明の微粒子検出材料が検出対象として特に適した微粒子は、表面が一定の疎水性を有する微粒子である。具体的には、バルク時の水接触角にして60°以上を示す成分からなる微粒子である。そのような微粒子であれば、有機物でも、無機物でもよく、また、粒子の表面が疎水性を有する成分により、加工、コーティングされている粒子も検出対象粒子である。
接触角は、液体の固体の表面上での濡れ広がりやすさを示す指標である。液体が水の場合、水接触角といい、値が小さいほど親水性であり、大きいほど疎水性であることを示す。本発明における水接触角は、静止した固体表面上での接触角である「静的接触角」を意味する。水接触角(θ)を求める方法とは、対象の物質の固体表面に、重力の影響を無視できる程度の少量の水を滴下し、形成された水滴の接触半径(r)と高さ(h)から次式によって算出される。
θ=2arctan(h/r)
微粒子表面の接触角を求める手法は、簡便な手法では困難であるため、微粒子を形成する物質のバルク(一般的な大きさの固体)状態の水接触角を適用する。ポリマーを始めとするバルク状態の水接触角は各種文献で報告されており、本発明で例示されるポリマーはそれらに基づく。本発明で例示されるポリマーで、水接触角が未知の場合は、試験片を作製し上記の方法で測定すればよい。また、本発明においては、バルク時の水接触角にして60°以上を示す特性を「疎水性」ということにする。
【0039】
バルク時の水接触角(以下、単に、「水接触角」という(「バルク接触角」ということもある。)にして60°以上を有する成分として、より具体的には、各種の有機ポリマー、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)(水接触角:66~67°)、ポリ乳酸(PLA)(水接触角:76~88°)、ポリスチレン(PS)(水接触角:81~91°)、ポリプロピレン(PP)(水接触角:104°)、ポリエチレン(PE)(水接触角:94°)、ポリアミド(PA)(水接触角:70°)、フッ素樹脂(水接触角:82~108°)、ポリエチレンテレフタレート(PET)(水接触角:81°)、ポリ塩化ビニル(PVC)(水接触角:87°)、ポリイミド(PI)(水接触角:68~76°)、ポリカーボネート(水接触角:80°)(非特許文献6~13参照)などが例示される。水接触角が、ある範囲の値を有する場合、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)(水接触角(バルク接触角):66~67°)のような場合、本発明においては、その下限値の水接触角が60°以上を有する場合を「疎水性」という。
非特許文献6:日本レオロジー学会誌(2012)、Vol.40、No.3、143-149
非特許文献7:高分子論文集(2014)、Vol.71、No.8、343-351
非特許文献8:Progress in Polymer Science(2010)、Vol.35、338-356
非特許文献9:日本ゴム協会誌(1987)、Vol.60、No.5、246-255
非特許文献10:Langmuir(2007)、vol.23、9785-9793
非特許文献11:表面技術(1995)、Vol.46、No.11、1050-1053
非特許文献12:ポリイミドの最近の進歩(1995)、70-73
非特許文献13:秋田高専研究紀要(2000)、Vol.35、42-46
【0040】
本発明の第2の側面は、疎水性微粒子を検出する方法であって、かご型シルセスキオキサン(POSS)を構成成分として含有するPOSSネットワークポリマーを含み、該POSSネットワークポリマーが、ソルバトクロミズムを示すクロミック分子を有し、かつ、POSS同士がメチレン鎖によって架橋されてなることを特徴とする微粒子検出材料を使用することを特徴とする、上記疎水性微粒子を検出する方法に関する。
【0041】
本方法で使用する微粒子検出材料は、上記したものを使用する。該微粒子検出材料は、POSS化合物をメチレン鎖で架橋したPOSSネットワークポリマー構造を有しており、微粒子への吸着能を有する。また、該POSSネットワークポリマーは、特定のクロミック分子が導入されており、微粒子に吸着している場合と、それ以外の場合で発光色を変化させることができる。特に、ねじれ型分子内電荷移動を示すソルバトクロミック分子を導入した場合、ネットワーク内の凝集部位とそれ以外の部分で異なる発光色を示すため二峰性の発光スペクトルを持つようになる。さらに、その両者の比を、微粒子に吸着している場合と、それ以外の場合で変化させることが可能となる。その変化は、微粒子表面の疎水性に起因し、粒径が小さく、一定以上の水接触角を示す疎水性微粒子のみに応答する。ある程度の精度で検出可能な疎水性微粒子は、その粒径が1μm未満、特に、粒径1μm未満~約20nm、中でも約600nm~約20nmの疎水性微粒子である。それらの粒子を検出するメカニズムは、明らかではないが、粒径により見かけの接触角が変化し、より小さい粒子で疎水性が高くなっているためと考えている。なお、本発明において、「粒径」とは、光散乱強度基準の平均粒子径を意味している。
【0042】
上記疎水性微粒子を検出する方法は、より詳細には、
かご型シルセスキオキサン(POSS)を構成成分として含有するPOSSネットワークポリマーを含み、該POSSネットワークポリマーが、ソルバトクロミズムを示すクロミック分子を有し、かつ、POSS同士がメチレン鎖を介して架橋されてなることを特徴とする微粒子検出材料および水を含有する検出液を用意する検出液準備工程;
検出液準備工程で作製された検出液と、微粒子を含有する環境サンプル溶液とを混合して試料溶液を作製する試料溶液作製工程;
試料溶液作製工程で得られた試料溶液に励起光を照射する照射工程、および
照射工程によって試料溶液から発せられる発光を解析する発光解析工程;
を含む。
【0043】
検出液準備工程
検出液準備工程で使用する「かご型シルセスキオキサン(POSS)を構成成分として含有するPOSSネットワークポリマーを含み、該POSSネットワークポリマーが、ソルバトクロミズムを示すクロミック分子を有し、かつ、POSS同士がメチレン鎖によって架橋されてなることを特徴とする微粒子検出材料」は、上記したものを使用する。
【0044】
上記微粒子検出材料は、水と混合され、POSSネットワークポリマー中のクロミック分子換算で、0.1mM~10mM、より好ましくは0.5mM~5mMとなるように混合する。この濃度を上回っても下回っても、発光色変化を伴うような凝集が起こらないか、あるいは、凝集が強すぎるため、プラスチック微粒子等の表面が疎水性微粒子との相互作用が困難となる。
【0045】
検出液は、下記試料溶液作製工程に供する前に、上記水溶液濃度で一定時間保管することが好ましい。この操作を行うことで、ネットワークポリマーが凝集体を形成し、疎水性微粒子存在時とは異なる発光色を示すようになる。保管する時間としては、3時間以上が好ましく、12時間以上がより好ましい。この時間より短いと、凝集が不十分である場合がある。
【0046】
上記濃度の検出液は、下記試料溶液作製工程において使用に供されるに際して希釈されるが、検出液準備工程において、下記希釈後の濃度に希釈調整し保管してもよい。
【0047】
試料溶液作製工程
次に、上記で得られた検出液を、環境サンプル溶液(水溶液)と混合する。
該混合に先立って上記検出液準備工程で得られた検出液を希釈することが好ましい。
希釈は、POSSネットワークポリマー中のクロミック分子換算で、0.1μM~100μMであり、より好ましくは0.5μM~50μMであり、最も好ましくは1.0μM~20μMとなるような量で水で希釈する。この範囲を下回ると、色変化の検出限界以下となり、この範囲を上回ると、疎水性微粒子と未接触のネットワークポリマーの比率が高くなる結果、変化した発光色の発光強度が元の発光色の発光強度と比して弱くなり、その変化の識別が困難となる。
【0048】
検出液と環境サンプル溶液(水溶液)との混合は、1:1(検出液:環境サンプル溶液)(体積比)の割合で行う。
【0049】
照射工程
試料溶液作製工程で得られた試料溶液に励起光を照射する。
照射する光は、POSSネットワークポリマー中のクロミック分子を励起することのできる光を含んでいればよい。例えば、クロミック分子として、7-ジエチルアミノクマリン-3-カルボン酸を使用している場合、波長330~480nmの励起光を照射すればよい。簡便には、市販のブラックライト等で照射してもよい。
【0050】
発光解析工程
照射工程によって試料溶液から発せられる光、すなわち、発光(以下、「試料溶液発光」という。)を解析する。
【0051】
定性的に測定解析するのであれば、試料溶液に光を照射後、試料溶液発光と、検出液に同様に照射することで発せられる光(以下、「検出液発光」という。)とを目視観察で比較することが可能である。
【0052】
試料溶液発光が、検出液発光と異なる色の発光が目視観察されれば、試料溶液に粒径が1μm未満、顕著には1μm未満~約20nm、より顕著には約600nm~約20nm、さらにより顕著には、約500nm~約20nmの疎水性微粒子が含まれていることを示している。その発光色の変化が大きいほど、より疎水性の高い微粒子、あるいは乃至かつ、より小さなナノ微粒子が含まれていることを示している。なお、本発明において、「発光色変化」とは、可視光線のスペクトル上での波長の差に相当する。例えば、クロミック分子として、7-ジエチルアミノクマリン-3-カルボン酸を使用している場合、含まれる疎水性微粒子の粒径が小さくなるにつれ、あるいは乃至かつ、微粒子表面の疎水性が高くなるにつれ試料溶液発光が、黄色→黄緑→青緑→青となって観察される。この目視観察により、粒径1μm未満の疎水性微粒子の存在を確認できる。また、目視観察される場合は、その発光色変化が大きいほど粒径1μm未満の疎水性微粒子の存在が多い、あるいは乃至かつ、微粒子表面の疎水性が高いことを示している。
【0053】
定量的に測定解析するのであれば、分光光度計を用いて、検出液発光と、試料溶液発光との発光強度やスペクトル分布を測定比較する。TICT性のクロミック分子を使用した場合、通常、検出液発光のスペクトル分布においては、長波長側ピークと短波長側ピークの2つのピークが観察される。検出液発光と、試料溶液発光とのスペクトル分布を比べ、試料溶液発光のスペクトル分布に、短波長側ピークの強度増大が観察されれば、粒径1μm未満疎水性粒子が含まれていることを示しており、その強度変化が大きいほど、より粒子サイズの小さい微粒子の存在が多いこと、あるいは乃至かつ、微粒子表面の疎水性が高いことを示している。例えば、クロミック分子として、7-ジエチルアミノクマリン-3-カルボン酸を使用している場合、微粒子を含有しない検出液の場合、約470nmと約560nmに2つのピークが観察され、約560nmのピークが大部分を占める。それと比して、微粒子を含有する試料溶液の場合、約470nmのピーク強度が増大する。そして、粒径が小さい粒子が多い程、あるいは乃至かつ、微粒子表面の疎水性が高いほど、その強度の変化は大きくなる。
【0054】
POSSネットワークポリマーを形成する架橋メチレン鎖の長さを変えることによって、検出可能な粒径の範囲を調節することが可能である。具体的には、メチレン鎖の長さが長いほど、より粒径の大きなナノプラスチックを高感度に検出することが可能となる。
【実施例
【0055】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
[原料およびその調整]
(1)POSS化合物:
・オクタアンモニウムPOSSを、以下の手順により合成した。
3-アミノプロピルトリエトキシシラン(東京化成工業社製)50gをメタノール(富士フィルム和光純薬社製)400mLに添加し、攪拌しながら徐々に濃塩酸65mLを添加した。
室温で5日間反応後、析出した白色沈殿をろ紙(桐山製作所社製、No.5A)でろ過し、濾過物を冷メタノールで洗浄した後、真空乾燥し、アミノPOSS(オクタアンモニウムPOSS)10.3gを得た。
アミノPOSSであることの確認は、NMRスペクトル、高分解能MSスペクトルを確認することにより行った。
(2)クロミック分子
・7-ジエチルアミノクマリン-3-カルボン酸(クマリンD1421)(東京化成工業社製)
(3)ジカルボン酸(メチレン鎖ユニット)
・A.コハク酸(東京化成工業社製)
・B.アジピン酸(東京化成工業社製)
・C.セバシン酸(東京化成工業社製)
【0057】
[比較例1]
500mgのクマリンD1421をDMSO(富士フィルム和光純薬社製)25mLに溶解し、DMT-MM(富士フィルム和光純薬社製)1.1gを加え、攪拌しながら室温で1時間反応を行った。その後、オクタアンモニウムPOSS1.2g、トリエチルアミン(富士フィルム和光純薬社製)0.43mLを加え24時間室温で反応を行った。反応液を、0.1v/v%の濃塩酸を含むアセトニトリル(富士フィルム和光純薬社製)250mLにゆっくりと滴下し、1時間室温で攪拌した。析出した沈殿を孔径0.45μmの疎水性PVDFフィルター(ミリポア社製)でろ過し、アセトニトリルで洗浄した後、真空乾燥し、1.2gの黄色粉末(以下、「クマリンPOSS」と記載する。)を得た。クマリンPOSSのH-NMRスペクトル分析から、クマリンD1421のアミノPOSSへの導入率は26%であった。得られたクマリンPOSS16mgを水10mLに溶解し、1mM濃度になるようにクマリンPOSS水溶液を得た。すなわち、得られたクマリンPOSSは少なくとも1.6g/Lの水溶性を有している。
【0058】
[実施例1]
コハク酸22mgをDMSO5mLに溶解し、DMT-MM120mgを加え、攪拌しながら室温で1時間反応を行った。その後、比較例1で得られたクマリンPOSS100mg、トリエチルアミン62μLを加え48時間室温で反応を行った。反応液を、0.1v/v%の濃塩酸を含むアセトニトリル50mLにゆっくりと滴下し、1時間室温で攪拌した。析出物を含む懸濁液を2,000×gで30分間遠心分離を行い、上澄みを捨てた後、得られた沈殿にアセトニトリルを加え懸濁し、再度遠心分離し沈殿を洗浄した。この操作を再度繰り返し、得られた沈殿を真空乾燥した。ここで得られた沈殿は、POSSネットワークポリマーであり、水溶性のものと、そうでないものとが含まれている。次に、得られた沈殿を、水に懸濁し超音波により抽出した後、孔径0.45μmの親水性PVDFフィルター(ミリポア社製)で濾過を行った。得られた濾液には、水溶性のPOSSネットワークポリマーが含まれている。得られた濾液を凍結乾燥し乾燥重量を測定したところ、この水溶性のPOSSネットワークポリマーは、少なくとも1.5g/Lの水溶性を有していることが分かった。また、凍結乾燥固体のH-NMRスペクトルを測定したところ、架橋度は55%であった。この結果に基づき、濾液をクマリンD1421換算で1mMになるように希釈し、黄色の液体22mLを得た。
【0059】
[実施例2]
アジピン酸28mgをDMSO5mLに溶解し、DMT-MM120mgを加え、攪拌しながら室温で1時間反応を行った。その後、比較例1で得られたクマリンPOSS100mg、トリエチルアミン62μLを加え48時間室温で反応を行った。反応液を、0.1v/v%の濃塩酸を含むアセトニトリル50mLにゆっくりと滴下し、1時間室温で攪拌した。析出物を含む懸濁液を2,000×gで30分間遠心分離を行い、上澄みを捨てた後、得られた沈殿にアセトニトリルを加え懸濁し、再度遠心分離し沈殿を洗浄した。この操作を再度繰り返し、得られた沈殿を真空乾燥した。ここで得られた沈殿は、POSSネットワークポリマーであり、水溶性のものと、そうでないものとが含まれている。次に、得られた沈殿を、水に懸濁し超音波により抽出した後、孔径0.45μmの親水性PVDFフィルター(ミリポア社製)で濾過を行った。得られた濾液には、水溶性のPOSSネットワークポリマーが含まれている。得られた濾液を凍結乾燥し乾燥重量を測定したところ、この水溶性のPOSSネットワークポリマーは、少なくとも2.3g/Lの水溶性を有していることが分かった。また、凍結乾燥固体のH-NMRスペクトルを測定したところ、架橋度は45%であった。この結果に基づき、濾液をクマリンD1421換算で1mMになるように希釈し、黄色の液体34mLを得た。
【0060】
[実施例3]
セバシン酸38mをDMSO5mLに溶解し、DMT-MM120mgを加え、攪拌しながら室温で1時間反応を行った。その後、比較例1で得られたクマリンPOSS100mg、トリエチルアミン62μLを加え48時間室温で反応を行った。反応液を、0.1v/v%の濃塩酸を含むアセトニトリル50mLにゆっくりと滴下し、1時間室温で攪拌した。析出物を含む懸濁液を2,000×gで30分間遠心分離を行い、上澄みを捨てた後、得られた沈殿にアセトニトリルを加え懸濁し、再度遠心分離し沈殿を洗浄した。この操作を再度繰り返し、得られた沈殿を真空乾燥した。ここで得られた沈殿は、POSSネットワークポリマーであり、水溶性のものと、そうでないものとが含まれている。次に、得られた沈殿を、水に懸濁し超音波により抽出した後、孔径0.45μmの親水性PVDFフィルター(ミリポア社製)で濾過を行った。得られた濾液には、水溶性のPOSSネットワークポリマーが含まれている。得られた濾液を凍結乾燥し乾燥重量を測定したところ、この水溶性のPOSSネットワークポリマーは、少なくとも1.1g/Lの水溶性を有していることが分かった。また、凍結乾燥固体のH-NMRスペクトルを測定したところ、架橋度は34%であった。この結果に基づき、濾液をクマリンD1421換算で1mMになるように希釈し、黄色の液体15mLを得た。
【0061】
以下、実施例および比較例について、ポリマー微粒子検出能について評価した結果を示す。なお、評価に用いた材料・装置・測定条件は下記の通りである。
(1)微粒子
A:PS微粒子(粒子サイズ:50nm、100nm、200nm、500nm、1μm)(micromod社製)
B:PMMA微粒子(粒子サイズ:25nm)(micromod社製)
C:PLA微粒子(粒子サイズ:250nm、2μm)(micromod社製)
D:シリカ微粒子(粒子サイズ:40nm、460nm、950nm(非特許文献14、15に従い作製))
非特許文献14:JOURNAL OF COLLOID AND INTERFACE SCIENCE(1968)、vol.26、62-69
非特許文献15:Journal of Material Research(2002)、vol.18、No.3、649-653
【0062】
上記微粒子のバルク接触角は、以下の通りである。
A:PS微粒子(粒子サイズ:50nm):バルク接触角(81~90度)
PS微粒子(粒子サイズ:100nm:バルク接触角(81~90度)
PS微粒子(粒子サイズ:200nm:バルク接触角(81~90度)
PS微粒子(粒子サイズ:500nm:バルク接触角(81~90度)
PS微粒子(粒子サイズ:1μm):バルク接触角(81~90度)
B:PMMA微粒子(粒子サイズ:25nm):バルク接触角(66~67度)
C:PLA微粒子(粒子サイズ:250nm):バルク接触角(76~80度)
PLA微粒子(粒子サイズ:2μm):バルク接触角(76~80度)
D:シリカ微粒子(粒子サイズ:40nm):バルク接触角(0~42度)
シリカ微粒子(粒子サイズ:460nm):バルク接触角(0~42度)
シリカ微粒子(粒子サイズ:950nm):バルク接触角(0~42度)
シリカ微粒子のバルク接触角は非特許文献16~17に基づく。
非特許文献16:UNITED STATES DEPARTMENT OF THE INTERIOR GEOLOGICAL SURVEY(1990)
非特許文献17:計測自動制御学会論文集(1996)、Vol.32、No.5、617-645
【0063】
(2)発光スペクトル測定
蛍光分光光度計:FluoroMax-4(堀場製作所社製)
励起波長:427nm
(3)目視観察
UVランプ:Compact UV Lamp UVGL-25(UVP社製)
励起波長:365nm
【0064】
[試験例]
実施例1~3、比較例1で得られた液体を2日間室温で静置し、凝集を進行させた。これらの検出液を各々純水で100倍希釈してクマリンD1421換算で10μMの濃度とし、上記微粒子を表面積換算で58cm/mLとなるように調整した純水懸濁液と、体積比で1:1になるよう混合した。
得られた混合液に、UVランプを照射し、目視による色変化の観察、ならびに、発光スペクトルの測定を行った。発光色の目視観察の評価結果を表1に、代表的な発光スペクトルの変化を図1~2に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示すように、クマリンD1421や比較例1では微粒子が存在する場合と存在しない場合とで発光色の目視変化が見られなかったのに対し、実施例1~3では特定の種類かつ特定の大きさの微粒子が存在する場合に発光色が変化していることがわかる。
具体的には、500nm以下のPS微粒子、25nmのPMMA微粒子、250nmのPLA微粒子存在時には発光色が変化し、大きいサイズのPS微粒子(1000nm)、PLA微粒子(2000nm)、全てのサイズのシリカ微粒子では発光色の変化が見られない。
発光色の変化は、本発明のネットワークPOSSが微粒子に吸着し、微粒子表面の親疎水性に応じて発光強度を変化させているためと考えられている。バルク接触角が、本発明に規定する60°以上のものは、そのような発光色の変化がみられるが、60°未満のものは、そのような発光色の変化はみられない。
【0067】
発光スペクトルの測定により、より詳細な分析が可能である。
図2に示すように、比較例1のクマリンPOSSを用いた場合では、いずれの微粒子を添加した場合においても発光スペクトルの変化が見られなかったのに対し、図1に示す実施例1で得られたネットワークPOSSを用いたでは、PS微粒子、PLA微粒子、PMMA微粒子を添加した場合に470nm付近の青色を示す発光ピークが上昇していることがわかり、これらの変化が表1の結果につながっている。
PS微粒子やPLA微粒子では粒径が大きくなるにしたがって青色発光ピークの増大は小さくなっていることが分かり、スペクトル分析により粒径の判別も可能である。
また、小さい微粒子であってもPMMA微粒子では青色発光の増大は小さく、シリカ微粒子においては変化が見られず、表面疎水性に応じて青色発光の増大程度を変化させているのがわかる。
これらの特徴は、本発明が水中にプラスチックの微粒子が存在しているかの判別する材料にとして有用であるだけでなく、その微粒子を構成するプラスチックの種類(表面特性)、粒子の粒径、粒子の量の判定にも有用であることを示している。
【0068】
以上開示事項から、本発明の第1の側面に係る発明のより具体的な態様として、例えば、下記のものが提供される。
(1)かご型シルセスキオキサン(POSS)を構成成分として含有するPOSSネットワークポリマーを含み、該POSSネットワークポリマーが、ソルバトクロミズムを示すクロミック分子を有し、かつ、POSS同士がメチレン鎖を介して架橋されてなるものであり、疎水性微粒子を検出するために使用されることを特徴とする、微粒子検出材料。
(2)ソルバトクロミック分子がねじれ型分子内電荷移動を示す分子であることを特徴とする、上記(1)に記載の微粒子検出材料。
(3)ソルバトクロミック分子がジアルキルアミノ基を有するクマリン誘導体であることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の微粒子検出材料。
(4)ソルバトクロミック分子がカルボキシル基を有するクマリン誘導体であることを特徴とする、上記(1)~(3)いずれかに記載の微粒子検出材料。
(5)チレン鎖の炭素数が2~8であることを特徴とする、上記(1)~(4)いずれかに記載の微粒子検出材料。
(6)POSSとメチレン鎖との架橋がアミド結合を介するものであることを特徴とする、上記(1)~(5)いずれかに記載の微粒子検出材料。
(7)POSSが頂点にアミノプロピル基を有するものであることを特徴とする、上記(1)~(6)いずれかに記載の微粒子検出材料。
(8)ソルバトクロミック分子のPOSSへの導入率が10%から30%であることを特徴とする、上記(1)~(7)いずれかに記載の微粒子検出材料。
(9)メチレン鎖によるPOSS間の架橋が10%から80%であることを特徴とする上記(1)~(8)いずれかに記載の微粒子検出材料。
(10)POSSネットワークポリマーが水溶性であることを特徴とする、上記(1)~(9)いずれかに記載の微粒子検出材料。
(11)疎水性微粒子が水接触角にして60°以上であることを特徴とする、上記(1)~(10)いずれかに記載の微粒子検出材料。
(12)前記疎水性微粒子が、ポリマー微粒子であることを特徴とする上記(1)~(11)いずれかに記載の微粒子検出材料。
(13)前記疎水性微粒子が、ポリメタクリル酸メチル、ポリ乳酸、ポリスチレン、それらの誘導体およびそれらの混合物からなるグループから選ばれる、上記(1)~(12)いずれかに記載の微粒子検出材料。
(14)前記疎水性微粒子の大きさが、1μm未満であることを特徴とする上記(1)~(13)いずれかに記載の微粒子検出材料。
【0069】
また、本発明の第2の側面に係る発明のより具体的な態様として、例えば、下記のものが提供される。
(1)疎水性微粒子を検出する方法であって、かご型シルセスキオキサン(POSS)を構成成分として含有するPOSSネットワークポリマーを含み、該POSSネットワークポリマーが、ソルバトクロミズムを示すクロミック分子を有し、かつ、POSS同士がメチレン鎖を介して架橋されてなる微粒子検出材料を使用することを特徴とする、上記疎水性微粒子を検出する方法。
(2)かご型シルセスキオキサン(POSS)を構成成分として含有するPOSSネットワークポリマーを含み、該POSSネットワークポリマーが、ソルバトクロミズムを示すクロミック分子を有し、かつ、POSS同士がメチレン鎖を介して架橋されてなることを特徴とする微粒子検出材料および水を含有する検出液を用意する検出液準備工程;
検出液準備工程で作製された検出液と、微粒子を含有するまたは微粒子を含有するか否かが判断される環境サンプル溶液とを混合して試料溶液を作製する試料溶液作製工程;
試料溶液作製工程で得られた試料溶液に光を照射する照射工程;および
照射工程によって、試料溶液から発せられる発光を解析する発光解析工程、
を含む、疎水性微粒子を検出する方法。
(3)ソルバトクロミック分子がねじれ型分子内電荷移動を示す分子であることを特徴とする、上記(1)または(2)記載の疎水性微粒子を検出する方法。
(4)ソルバトクロミック分子がジアルキルアミノ基を有するクマリン誘導体であることを特徴とする、請求項~3いずれかに記載の疎水性微粒子を検出する方法。
(5)ソルバトクロミック分子がカルボキシル基を有するクマリン誘導体であることを特徴とする、上記(1)~(4)いずれかに記載の疎水性微粒子を検出する方法。
(6)メチレン鎖の炭素数が2~8であることを特徴とする、上記(1)~(5)いずれかに記載の疎水性微粒子を検出する方法。
(7)POSSとメチレン鎖との架橋がアミド結合を介するものであることを特徴とする、上記(1)~(6)いずれかに記載の疎水性微粒子を検出する方法。
(8)POSSが頂点にアミノプロピル基を有するものであることを特徴とする、上記(1)~(7)いずれかに記載の疎水性微粒子を検出する方法。
(9)ソルバトクロミック分子のPOSSへの導入数が10%から30%であることを特徴とする、上記(1)~(8)いずれかに記載の疎水性微粒子を検出する方法。
(10)メチレン鎖によるPOSS間の架橋が10%から80%であることを特徴とする、上記(1)~(9)いずれかに記載の疎水性微粒子を検出する方法。
(11)POSSネットワークポリマーが水溶性であることを特徴とする、上記(1)~(10)いずれかに記載の疎水性微粒子を検出する方法。
(12)疎水性微粒子が水接触角にして60°以上であることを特徴とする、上記(1)~(11)いずれかに記載の疎水性微粒子を検出する方法。
(13)前記疎水性微粒子が、ポリマー微粒子であることを特徴とする、上記(1)~(12)いずれかに記載の疎水性微粒子を検出する方法。
(14)前記疎水性微粒子が、ポリメタクリル酸メチル、ポリ乳酸、ポリスチレン、それらの誘導体およびそれらの混合物からなるグループから選ばれる、上記(1)~(13)いずれかに記載の疎水性微粒子を検出する方法。
(15)前記疎水性微粒子の大きさが、1μm未満であることを特徴とする、上記(1)~(14)いずれかに記載の疎水性微粒子を検出する方法。
(16)発光解析を、上記検出液発光と上記試料溶液発光の光を比較して行うことを特徴とする、上記(2)~(15)いずれかに記載の疎水性微粒子を検出する方法。
(17)発光解析を目視で行うことを特徴とする、上記(2)~(16)いずれかに記載の疎水性微粒子を検出する方法。
(18)発光解析を分光光度計で行うことを特徴とする、上記(2)~(16)いずれかに記載の疎水性微粒子を検出する方法。
図1
図2