(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】側頭下顎関節の人工補綴
(51)【国際特許分類】
A61F 2/30 20060101AFI20221101BHJP
【FI】
A61F2/30
(21)【出願番号】P 2019565619
(86)(22)【出願日】2018-02-14
(86)【国際出願番号】 EP2018053619
(87)【国際公開番号】W WO2018149849
(87)【国際公開日】2018-08-23
【審査請求日】2021-02-09
(32)【優先日】2017-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511142062
【氏名又は名称】アンスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ レシェルシュ メディカル(アンセルム)
(73)【特許権者】
【識別番号】519299256
【氏名又は名称】セントレ ホスピタリエ レジオナル ユニベルシタイレ ド リール
(73)【特許権者】
【識別番号】518202367
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ド リール
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【氏名又は名称】村上 博司
(72)【発明者】
【氏名】フェリー,ジョエル
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06132466(US,A)
【文献】特表2005-526550(JP,A)
【文献】特表2009-533177(JP,A)
【文献】国際公開第2014/043452(WO,A1)
【文献】米国特許第05549680(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節窩部(12)と、使用位置において前記関節窩部に相対的に関節接合されるよう意図された顆部(14)とを備えている、側頭下顎関節の人工補綴であって、前記使用位置で前記関節窩部及び前記顆部はそれぞれ患者の側頭骨及び下顎骨に堅固に固定されており、
前記関節窩部は、
金属材料で作られた関節窩支持体(18)と、
非金属材料
で作られ、且つ前記関節接合を規定する為に前記顆部(14)のヘッド(56)の座部を規定するところの関節窩挿入体(20)と、
を備え、
前記関節窩支持体(18)は、前記関節窩挿入体(20)が開口部(28)を通じてハウジング中に挿入可能であるところの前記開口部(28)を有する前記ハウジング(26)を規定し、前記開口部(28)は、前記関節窩支持体(18)の外側(E)に開口し、前記外側とは、前記使用位置において前記患者の皮膚に向けて
かつ前記患者の口の中央から離れる方に配位される、前記関節窩支持体の側であり、
前記関節窩支持体(18)は、タブ(40)が前記関節窩挿入体(20)の前記ハウジングへの挿入及び前記ハウジングからの抜き取りをそれぞれ許容及び禁止するところの受動位置に且つ能動位置に設定可能な前記タブ(40)を備えて
おり、
前記タブ(40)が、前記受動位置と前記能動位置との間で塑性変形可能である、
前記側頭下顎関節の人工補綴。
【請求項2】
前記関節窩支持体(18)が、前記タブ(40)の前記受動位置で前記関節窩挿入体(20)の前記ハウジング内及び外へのスライドを案内するように構成されたスライドガイド(32)を備えている、請求項1に記載の人工補綴。
【請求項3】
前記スライドガイドがレールである、請求項2に記載の人工補綴。
【請求項4】
前記関節窩支持体が、前記関節窩挿入体(20)の前記ハウジング(26)への挿入を制限する底部(30)を備えている、請求項1~
3のいずれか1項に記載の人工補綴。
【請求項5】
前記関節窩挿入体(20)が挿入体ねじ穴(48)を備え、前記関節窩支持体が支持体ねじ穴(50)を備え、前記挿入体ねじ穴及び支持体ねじ穴は、前記関節窩挿入体が前記ハウジング内にあって前記底部(30)と接触しているときに、組立ねじが前記挿入体ねじ穴(48)及び前記支持体ねじ穴(50)を
通って前記関節窩挿入体と前記関節窩支持体を組み立てるように構成された、請求項
4に記載の人工補綴。
【請求項6】
前記挿入体ねじ穴(48)は、前記使用位置において前記患者の皮膚に面し
かつ前記患者の口の中央から離れる方に面する、前記挿入体の面(51)に開口する、請求項
5に記載の人工補綴。
【請求項7】
前記タブ(40)
は、手動で変形可能である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の人工補綴。
【請求項8】
前記タブ(40)が、前記能動位置で前記開口部(28)を少なくとも部分的に閉鎖する、請求項1~
7のいずれか1項に記載の人工補綴。
【請求項9】
前記関節窩支持体(18)が、骨細胞によるコロニー形成をより容易にするように、前記使用位置で前記側頭骨と接触するように構成された格子状体を備えている、請求項1~
8のいずれか1項に記載の人工補綴。
【請求項10】
前記関節窩支持体がチタン若しくはチタン合金製であり、及び/又は前記関節窩挿入体がポリエチレン製である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の人工補綴。
【請求項11】
前記顆部が、前記患者の下顎の頚状部(N)を圧迫するように構成された第1のストッパ(60)、及び/又は前記下顎骨の枝(R)を圧迫するように構成された第2のストッパ(62)を備えている、請求項1~
10のいずれか1項に記載の人工補綴。
【請求項12】
前記関節窩支持体(18)は、側頭骨に固定されることを意図された支持体アンカー板(22)を備え、上記タブ(40)は上記支持体アンカー板(22)と一体的に形成されている、請求項1~11のいずれか1項に記載の人工補綴。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側頭下顎関節の人工補綴、及びそのような人工補綴を組み立てる為の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
側頭下顎関節の人工補綴、すなわち「顎関節(TMJ:temporo-mandibular joint)」、は、従来、関節窩部と、関節窩部に関節接合された顆部とを備えている。使用位置において、上記関節窩部は患者の側頭骨に堅固に固定され、上記顆部は下顎骨に堅固に固定されている。
【0003】
金属粒子が患者に放出されるのを防ぐ為に、上記関節窩部と上記顆部との間での金属と金属の接触を避ける必要がある。しかしながら、上記関節窩部は、上記側頭骨への効率的且つコンパクトな固定の為に金属製である方が有利である。
【0004】
さらに、効率的な関節接合を確実に行う為に、上記関節窩部と顆部はそれぞれ、上記側頭骨と上記下顎骨に極めて正確に固定されなければならない。
【0005】
これらの制約に対して、少なくとも部分的に答える解決策が必要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、そのような解決策を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的の為に、本発明は、請求項1に記載の人工補綴を提供する。
【0008】
さらに詳細な説明において記載されるように、上記関節窩挿入体に非金属材料、特に高分子材料、を使用することは、上記関節窩部と上記顆部との間の摩擦による金属粒子の放出を回避する。
【0009】
さらに、上記関節窩支持体が上記側頭骨に固定され、且つ上記顆部が上記下顎骨に固定されてしまってから、上記関節窩挿入体は上記関節窩支持体に固定されうる。従って、使用位置で上記顆部に完全に適合する関節窩挿入体を選択することが可能である。
【0010】
最後に、タブの位置の簡単な変更だけで、上記関節窩挿入体は上記関節窩支持体に対して簡単に固定されうる。これは、上記関節窩挿入体の最終的な固定を容易にする。
【0011】
好ましくは、本発明に従う人工補綴は、請求項1に従属する請求項の1つ又は幾つかの任意的な特徴を備えている。
【0012】
本発明はまた、請求項11に記載の人工補綴を組み立てる方法に関する。
【0013】
好ましくは、本発明に従う方法は、請求項10に従属する請求項の1つ又は幾つかの任意の特徴を含む。
【0014】
本発明はまた、間接窩部と、該関節窩部に相対的に関節接合されるよう意図された顆部とを備えている、側頭下顎関節の人工補綴であって、使用位置で上記関節窩部及び上記顆部はそれぞれ患者の側頭骨及び下顎骨に堅固に固定されており、上記顆部は、上記患者の下顎骨の頚状部を圧迫するように構成された第1のストッパと、上記下顎骨の枝を圧迫するよう構成された第2のストッパとを備えている、上記人工補綴に関する。
【0015】
有利には、上記顆部は、極めて高い精度で上記下顎骨に相対的に容易に配置されることができる。操作者は上記下顎骨の上記頚状部に上記第1のストッパを置き、上記下顎骨の上記枝に上記第2のストッパが当接するまで上記顆部を前後方向に回転させればよい。
【0016】
本発明は、以下の詳細な説明を読み、その例示的且つ非限定的な実施形態を参照し、添付の図面を検討することにより、よりよく理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、分解された状態の、本発明に従う人工補綴を示す図である。
【
図2】
図2は、組み立てられた状態の該人工補綴を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
定義
「患者」は、本発明に従う人工補綴を受ける生体、特に人間、である。
「備えている」は、特に明記されていない限り、その広い且つ非限定的な意味で理解されるべきである。
【0019】
上記図は、関節窩部12及び顆部14を備えている人工補綴10を示す。
【0020】
上記関節窩部12は、関節窩支持体18と関節窩挿入体20とを備えている。
【0021】
上記関節窩支持体18は、金属材料で作られており、好ましくはチタン又はチタン合金で作られている。
【0022】
上記関節窩支持体18は、側頭骨に固定されることを意図された支持体アンカー板22を備えている。好ましくは、上記支持体アンカー板は、そこを通じて関節窩アンカーねじが上記側頭骨まで貫通される関節窩アンカー穴24を備えている。
【0023】
好ましい実施形態において、上記支持体アンカー板は格子状体であり、それは、骨の再成長及び細胞定着をより早くする。
【0024】
上記関節窩支持体18は、上記関節窩挿入体20を受け入れるように構成されたハウジング26を備えている。
【0025】
より正確には、上記ハウジング26は、それを通じて上記関節窩挿入体20が上記ハウジング26に挿入されることができる開口部28を備えている。
【0026】
上記ハウジング26は、上記開口部28に対向して底部30を備えている。
【0027】
上記ハウジング26はまた、引き出しがタンスの中でスライドするように、上記関節窩挿入体がその上をスライド可能な2本のガイドレール32を備えている。
【0028】
上記ハウジング26は上記関節窩支持体18の外側に開口しており、すなわち頬に向かって開口しており、上記底部30は頭蓋基底の内側部分、すなわち内側、に向けられている。
図2では、上記外側と上記内側はそれぞれ「E」と「I」で示される。この配置は、上記関節窩挿入体20の上記ハウジング26への挿入をかなり容易にする。
【0029】
好ましくは、上記外側Eは、上記関節窩支持体の上記支持体アンカー板22が延在する側である。
【0030】
本発明に従うと、上記関節窩支持体18はまた、
図1及び
図2にそれぞれ示されるように、受動位置と能動位置との間で塑性変形可能なタブ40を備えている。従って、上記タブ40は、上記受動位置及び上記能動位置でその形状を保つ。上記受動位置(
図1)では、上記タブ40は、上記関節窩挿入体20の上記ハウジング26への挿入を妨げることも、上記ハウジング26からの抜き取りを妨げることもない。
【0031】
上記能動位置(
図2)において、上記タブ40は、上記関節窩挿入体20の上記ハウジングへの挿入を妨げるか、又は
図2に示されるような使用位置において、上記ハウジングからの抜き取りを妨げる。好ましくは、上記関節窩挿入体が上記ハウジング26に挿入される場合に、上記タブは上記能動位置に保たれ、上記関節窩挿入体20は上記ハウジングの上記底部30と接触している。
【0032】
好ましい実施形態において、上記タブは、好ましくは工具なしで、上記受動位置から上記能動位置に手動で変形可能に構成されている。
【0033】
一つの実施形態において、上記タブ40は、好ましくは上記ハウジング26とともに、上記支持体アンカー板22と一体的に形成されている。
【0034】
上記タブ40の曲げを容易にするように、弱化線42が好ましくは設けられている。上記弱化線は、局所的に厚さを減少させること及び/又は穴をあけることによって形成されうる。
【0035】
上記関節窩挿入体20は好ましくは、ポリマー材料、好ましくはポリエチレン、で作られている。上記関節窩挿入体20は、上記顆部14のヘッド56を受容するよう意図された支持面44を規定する。上記支持面44は好ましくは、凹状であり、好ましくは実質的に球状である。
【0036】
上記関節窩挿入体20はまた、上記関節窩部18の上記ガイドレール32と協働するように構成された2本の横溝46を備えている。
【0037】
最後に、上記関節窩挿入体20は、挿入体ねじ穴48を備えており、それは上記関節窩挿入体が上記ハウジング26の上記底部30と接触したときに、対応する支持体ねじ穴50に面する。上記使用位置において、組立ねじが、上記挿入体ねじ穴48、上記関節窩支持体18、上記支持体ねじ穴50を通じて上記関節窩挿入体20と交差して、好ましくは上記側頭骨に貫通する。好ましくは、上記挿入体ねじ穴48は、上記挿入体の上記外面51に、すなわち上記使用位置で皮膚に面する面に、開口している。
【0038】
上記顆部14は、上記支持面44を圧迫するように意図されたヘッド56を支持する顆部アンカー板52を備えている。上記顆部アンカー板52は、顆部アンカーねじを用いて上記顆部アンカー板52を上記下顎骨に固定する為の顆部アンカー穴58を備えている。
【0039】
上記顆部アンカー板22はまた、第1及び第2のストッパ60、62を備えている。有利には、上記ストッパ60、62は、上記下顎骨への上記顆部の位置決めをはるかに容易にする。
【0040】
例示的な実施形態において、上記第2のストッパ62は、上記顆部アンカー板52を好ましくは口の内側に向かって曲げることにより得られる。上記第1のストッパは、上記顆部アンカー板52に溶接されている。
【0041】
本発明に従う人工補綴の上記異なるパーツの組み立ては好ましくは、以下の通りである。
【0042】
上記関節窩アンカー板52及び上記顆部アンカー板52は、上記関節窩アンカー穴24及び上記顆部アンカー穴58とそれぞれ交差する上記関節窩及び顆部アンカーねじで、患者の上記側頭骨及び上記下顎骨にそれぞれ固定されている。
【0043】
上記ストッパ60及び62は、上記下顎骨に上記顆部14を固定する前に、上記下顎骨上のちょうどよい位置を見つけるのに役立つ。より正確には、上記操作者はまず、切断された上記下顎骨の頚状部Nに上記第1のストッパ60を置く。これは、高さ方向Hに沿った上記顆部14の位置を定義する。次に、上記操作者は、上記第2のストッパ62が上記下顎骨の枝Rに当接するまで、上記顆部14を前後方向に動かして回転させる。
【0044】
次に、上記操作者は、上記関節窩挿入体20を押して、上記2本の溝46の内側の上記2本のレール32にそれぞれ係合させる。次に、上記操作者は、好ましくは上記関節窩挿入体20が上記底部30に当接するまで、上記レール32上で上記関節窩挿入体20を上記底部30に向かって押す。有利には、上記ハウジング26が上記外側Eに向かって開口しているため、上記関節窩挿入体20の挿入が容易になる。
【0045】
次に、上記操作者は、上記タブ40を上記受動位置(
図1)から上記能動位置(
図2)に曲げ、そこで上記タブ40は少なくとも部分的に上記ハウジング26の上記開口部28を横切って伸びる。上記タブ40は、上記能動位置(
図2)において、上記関節窩挿入体20を圧迫し、従って、上記関節窩挿入体20は上記底部30と上記タブ40との間に固定された状態に保たれる。横方向では、上記関節窩挿入体は、上記ガイドレール32と上記溝46の協働によって維持されている。上記操作者はこれによって、上記タブ40を用いて、上記関節窩支持体18に対して上記関節窩挿入体20を固定する。
【0046】
次に、上記操作者は、上記顆部の上記ヘッド56と上記関節窩挿入体20の上記支持面44が完璧に正しく協働しているかどうかの試験をする。
【0047】
正しく協働していない場合、上記操作者は、上記受動位置まで上記タブ40を反対方向に曲げることができる。次に、上記操作者は上記関節窩挿入体を取り出し、それを調整する、すなわち修正又は交換して、上記顆部14の上記ヘッド56に対し、より適合するようにすることができる。
【0048】
有利には、上記操作者は、どの挿入体部品も上記関節窩支持体18に最終的な固定をすることなく、異なる関節窩挿入体20を容易に試すことができる。
【0049】
結果的に、上記操作者は、上記顆部14と完全に適合する関節窩挿入体20を見つけることができる。
【0050】
上記操作者は、ちょうどよい関節窩挿入体20を見つけたら、上記挿入体ねじ穴48及び支持体ねじ穴50と交差するように、好ましくは上記側頭骨の内側で、組み立てねじを押し込む。上記組立ねじを用いての上記関節窩挿入体20の最終的な固定は、上記関節窩挿入体20を上記タブ40で動かないようにすることにより容易になる。
【0051】
最後に、上記顆部14と協働する上記関節窩挿入体20は非金属製、好ましくは高分子材料製、である故に、金属と金属の摩擦がなく、それは有利には上記患者の口の中での金属粒子の放出が回避する。
【0052】
今明らかになったように、本発明は、患者のニーズに完全に適合するまで容易に試されることができ且つ使用中に金属粒子の放出を一切引き起こさないところの人工補綴を提供する。
【0053】
当然ながら、本発明は、開示且つ提示された実施形態に限定されず、例示的且つ非限定的な例としてのみ提供される。