(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】可撓性外歯歯車およびそれを備える波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20221101BHJP
【FI】
F16H1/32 B
(21)【出願番号】P 2018030120
(22)【出願日】2018-02-22
【審査請求日】2021-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000107147
【氏名又は名称】日本電産シンポ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【氏名又は名称】西田 隆美
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【氏名又は名称】梶原 慶
(72)【発明者】
【氏名】井上 仁
(72)【発明者】
【氏名】岡村 暉久夫
(72)【発明者】
【氏名】羽泉 喬平
(72)【発明者】
【氏名】田中 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】坪根 太平
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-109439(JP,A)
【文献】国際公開第2017/101917(WO,A1)
【文献】中国実用新案第203098757(CN,U)
【文献】米国特許出願公開第2006/0205560(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0102067(US,A1)
【文献】特開昭60-95235(JP,A)
【文献】特開平5-280593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状の剛性内歯歯車の内歯に対して部分的に噛み合う外歯をその外周面に有し、その内周面が非真円カムの回転に伴って押されることにより、前記内歯と前記外歯との噛み合い位置をその周方向に移動させながら、前記剛性内歯歯車に対して相対回転する、可撓性外歯歯車であって、
軸方向の一端部に前記外歯が形成される歯車部を含む、筒状の胴部と、
前記胴部の軸方向の他端部に接続され、前記外歯の回転中心軸に対して垂直な方向に広がるダイヤフラム部と、
を有し、
前記胴部は、複数の開口部が周方向に沿って全周に配列された変形調整部を含み、
前記開口部は、三角形状であり、前記変形調整部全体としてトラス構造をなし、
前記開口部は、軸方向に対して線対称な二等辺三角形状であり、周方向に隣り合う前記開口部の前記二等辺三角形の頂角が、周方向に沿って延びる仮想円周線に対して、互いに反対側を向いて配置される、可撓性外歯歯車。
【請求項2】
請求項1に記載の可撓性外歯歯車であって、
前記開口部は、頂点が前記ダイヤフラム部側に向けられた三角形状である、可撓性外歯歯車。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の可撓性外歯歯車であって、
前記変形調整部を前記仮想円周線に沿って見たときに、前記開口部と、前記胴部の一部である腕部とが、交互に配置される、可撓性外歯歯車。
【請求項4】
請求項1から請求項
3までのいずれか1項に記載の可撓性外歯歯車であって、
前記複数の開口部は、
軸方向に対して線対称な二等辺三角形状の第1開口部と、
第1開口部とは異なる形状の第2開口部と、
を有し、
前記第1開口部と前記第2開口部とが、周方向に交互に配置される、可撓性外歯歯車。
【請求項5】
請求項1から請求項
4までのいずれか1項に記載の可撓性外歯歯車であって、
前記変形調整部の前記開口部は、前記胴部および前記ダイヤフラム部の両方に跨る、可撓性外歯歯車。
【請求項6】
請求項
5に記載の可撓性外歯歯車であって、
前記変形調整部は、周方向に隣り合う前記開口部の間に腕部を有し、
前記腕部の周方向の幅は、径方向内側へ向かうにつれて大きくなる、可撓性外歯歯車。
【請求項7】
請求項1から請求項
6までのいずれか1項に記載の可撓性外歯歯車であって、
前記開口部は、円弧状の角部を有する、可撓性外歯歯車。
【請求項8】
請求項1から請求項
7までのいずれか1項に記載の可撓性外歯歯車であって、
前記複数の開口部は、周方向に沿って規則的に配列されている、可撓性外歯歯車。
【請求項9】
請求項1から請求項
8までのいずれか1項に記載の可撓性外歯歯車であって、
前記ダイヤフラム部は、前記胴部に対し、径方向内側に向かって延びている可撓性外歯歯車。
【請求項10】
請求項1から請求項
8までのいずれか1項に記載の可撓性外歯歯車であって、
前記ダイヤフラム部は、前記胴部に対し、径方向外側に向かって延びている可撓性外歯歯車。
【請求項11】
請求項1から請求項
10までのいずれか1項に記載の可撓性外歯歯車と、
前記剛性内歯歯車と、
前記非真円カムを含み、当該非真円カムを前記回転中心軸を中心にして回転させる波動発生器と、
を備える波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性外歯歯車およびそれを備える波動歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、可撓性外歯歯車およびそれを備える波動歯車装置が知られている。この種の波動歯車装置は、主に減速機として用いられる。従来の波動歯車装置については、例えば国際公開第2013/175531号公報に開示されている。この国際公開第2013/175531号公報に開示された波動歯車装置が備える可撓性外歯歯車は、円筒状胴部(31)と、この円筒状胴部の一方の端に連続して形成されるダイヤフラム(33)と、円筒状胴部の他方の端の側の部位における外周面部分に形成された外歯(36)とを有している。円筒状胴部のうちの外歯が形成されている外歯形成部分は、被押圧部分(38a)と、溝(38d)とを備えている。当該被押圧部分は、波動発生器によって半径方向の外方に押圧される部位である。前記溝は、被押圧部分に対してダイヤフラムの側に隣接した位置に形成される。
【0003】
国際公開第2013/175531号公報では、外歯の歯底強度に影響を与えない部分に溝(38d)を形成して部分的に薄くしてあるので、波動発生器の反力を低減できる、としている。
【文献】国際公開第2013/175531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、国際公開第2013/175531号公報に記載の技術を利用した場合、可撓性外歯歯車の円筒状胴部が溝(38d)を形成した部分で局所的に薄肉厚となることにより、強度不足が生じ、可撓性外歯歯車がトルクに対してねじれてしまう虞がある。その場合、波動発生器から入力される動力が速やかに可撓性外歯歯車に伝達されず、動力の伝達効率が低下してしまうことが懸念される。さらに言えば、国際公開第2013/175531号公報に記載の技術においては、外歯と内歯との歯当たり性を改善するための措置は特段講じられておらず、斯かる点においても改善の余地があった。
【0005】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、その潜在的な目的は、内歯と外歯の噛み合い位置での歯当たりを良好にするとともに、動力の伝達効率を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0007】
本発明の観点によれば、以下の構成の可撓性外歯歯車が提供される。即ち、この可撓性外歯歯車は、円環状の剛性内歯歯車の内歯に対して部分的に噛み合う外歯をその外周面に有し、その内周面が非真円カムの回転に伴って押されることにより、前記内歯と前記外歯との噛み合い位置をその周方向に移動させながら、前記剛性内歯歯車に対して相対回転する。当該可撓性外歯歯車は、筒状の胴部と、ダイヤフラム部とを有する。前記筒状の胴部は、軸方向の一端部に前記外歯が形成される歯車部を含む。前記ダイヤフラム部は、前記胴部の軸方向の他端部に接続され、前記外歯の回転中心軸に対して垂直な方向に広がる。また、前記胴部は、複数の開口部が周方向に沿って全周に配列された変形調整部を含む。前記開口部は、三角形状であり、前記変形調整部全体としてトラス構造をなす。前記開口部は、軸方向に対して線対称な二等辺三角形状であり、周方向に隣り合う前記開口部の前記二等辺三角形の頂角が、周方向に沿って延びる仮想円周線に対して、互いに反対側を向いて配置される。
本発明の観点によれば、以下の構成の可撓性外歯歯車が提供される。即ち、この可撓性外歯歯車は、円環状の剛性内歯歯車の内歯に対して部分的に噛み合う外歯をその外周面に有し、その内周面が非真円カムの回転に伴って押されることにより、前記内歯と前記外歯との噛み合い位置をその周方向に移動させながら、前記剛性内歯歯車に対して相対回転する。当該可撓性外歯歯車は、筒状の胴部と、ダイヤフラム部とを有する。前記筒状の胴部は、軸方向の一端部に前記外歯が形成される歯車部を含む。前記ダイヤフラム部は、前記胴部の軸方向の他端部に接続され、前記外歯の回転中心軸に対して垂直な方向に広がる。また、前記胴部は、複数の開口部が周方向に沿って全周に配列された変形調整部を含む。前記開口部は、軸方向に延びるスリット形状を有し、周方向に沿って等間隔に設けられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の観点によれば、内歯と外歯の噛み合い位置での歯当たりを良好にするとともに、可撓性外歯歯車の弾性変形時の変形抵抗を低下させることで、動力の伝達効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る波動歯車装置の縦断面図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る波動歯車装置における、内歯と外歯の噛み合いを説明する横断面図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る可撓性外歯歯車の筒状の胴部の展開図である。
【
図4A】
図4Aは、第1実施形態に係る可撓性外歯歯車の胴部が、ある位相角において径方向外側に撓み、それにより、外歯が径方向外側へ広がっている様子を示す断面図である。
【
図4B】
図4Bは、第1実施形態に係る可撓性外歯歯車の胴部が、
図4Aに示したのとは別の位相角において、径方向外側に撓み、それにより、外歯が径方向外側へ広がっている様子を示す断面図である。
【
図5A】
図5Aは、第1実施形態に係る可撓性外歯歯車の胴部が、ある位相角において、径方向内側に撓み、それにより、外歯が径方向内側へ狭まっている様子を示す断面図である。
【
図5B】
図5Bは、第1実施形態に係る可撓性外歯歯車の胴部が、
図5Aに示したのとは別の位相角において、径方向内側に撓み、それにより、外歯が径方向内側へ狭まっている様子を示す断面図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態の変形例1に係る可撓性外歯歯車の筒状の胴部の展開図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態の変形例2に係る可撓性外歯歯車の筒状の胴部の展開図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態に係る可撓性外歯歯車の上面図である。
【
図9A】
図9Aは、第2実施形態に係る可撓性外歯歯車のダイヤフラム部が、ある位相角において外歯の反対側へ撓み、それにより、外歯が径方向外側へ広がっている様子を示す断面図である。
【
図9B】
図9Bは、第2実施形態に係る可撓性外歯歯車のダイヤフラム部が、
図9Aに示したのとは別の位相角において外歯の反対側へ撓み、それにより、外歯が径方向外側へ広がっている様子を示す断面図である。
【
図10A】
図10Aは、第2実施形態に係る可撓性外歯歯車のダイヤフラム部が、ある位相角において外歯側へ撓み、それにより、外歯が径方向内側へ狭まっている様子を示す断面図である。
【
図10B】
図10Bは、第2実施形態に係る可撓性外歯歯車のダイヤフラム部が、
図10Aに示したのとは別の位相角において外歯側へ撓み、それにより、外歯が径方向内側へ狭まっている様子を示す図である。
【
図11】
図11は、第3実施形態に係る波動歯車装置の縦断面図である。
【
図12】
図12は、第3実施形態に係る可撓性外歯歯車の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本願の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本願では、波動歯車装置の中心軸と平行な方向を「軸方向」、波動歯車装置の中心軸に直交する方向を「径方向」、波動歯車装置の中心軸を中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称する。また、本願において「平行な方向」とは、略平行な方向も含む。また、本願において「直交する方向」とは、略直交する方向も含む。また、本明細書において、軸方向を上下方向として説明を行う場合があるが、これは波動歯車装置の使用時の向き等を限定することを意図するものではない。
【0011】
<1.第1実施形態>
<1-1.波動歯車装置の構成>
以下では、
図1および
図2を参照して、本発明の第1実施形態に係る波動歯車装置100の構成について説明する。
図1は、第1実施形態に係る波動歯車装置100の縦断面図である。
図2は、
図1でII-IIと示した方向に見たときの波動歯車装置100の横断面図である。
【0012】
本実施形態の波動歯車装置100は、後述する剛性内歯歯車10と可撓性外歯歯車20との差動を利用して、入力された回転動力を変速する装置である。波動歯車装置100は、例えば、小型ロボットの関節に組み込まれ、モータから得られる動力を減速する減速機として用いられる。
図1および
図2に示すように、波動歯車装置100は、剛性内歯歯車10と、可撓性外歯歯車20と、波動発生器30とを備えている。
【0013】
剛性内歯歯車10は、
図1に示す回転中心軸Cを中心とする円環状の部材である。剛性内歯歯車10の剛性は、後述する歯車部23の剛性よりも、はるかに高い。したがって、剛性内歯歯車10は、実質的に剛体とみなすことができる。剛性内歯歯車10は、内周面に複数の内歯11を有する。複数の内歯11は、周方向に沿って、一定のピッチで配列される。剛性内歯歯車10は、波動歯車装置100が搭載される装置の枠体に固定される。
【0014】
可撓性外歯歯車20は、円筒状の胴部21と平板部22とを備える部材である。円筒状の胴部21は、その軸方向の一端部(下端部)に、複数の外歯29が外周面(外面)に形成される歯車部23を含む。胴部21は、径方向に撓み可能な部分である。筒状の胴部21の軸方向の他端部(上端部)には、歯車部23よりも撓み難い平板部22の外周端部が接続される。
【0015】
平板部22は、回転中心軸Cに対して垂直に平面状に広がる。平板部22は、円環板状の固定部25と、ダイヤフラム部24とを有する。ダイヤフラム部24は、胴部21との接続箇所に近い側に配置され、肉厚が固定部25よりも薄い部位である。ダイヤフラム部24は、胴部21に対し、径方向内側に向かって延びている。ダイヤフラム部24は、円環状の形状を有し、可撓性薄肉部23よりも小さい撓み性を有する。
【0016】
固定部25は、ダイヤフラム部24の内周側に配置される、一定の肉厚を有する部位である。固定部25の撓み性は、ダイヤフラム部24の撓み性よりもはるかに小さい。固定部25の中央には、減速後の動力を取り出すための出力軸(図示省略)が固定される。この出力軸を固定する際に、固定部25に周方向に沿って複数設けられた貫通孔25aが、ボルト等の締結具を挿入するために用いられる。
【0017】
波動発生器30は、可撓性外歯歯車20の歯車部23を径方向に非真円形状に撓み変形させるための機構である。波動発生器30は、非真円カム31と、波動ベアリング33とを有する。
【0018】
本実施形態の非真円カム31は、楕円形のカムプロフィールを有する。
図1および
図2に示すように、非真円カム31は、可撓性外歯歯車20の歯車部23の径方向内側に配置される。非真円カム31の中央には、入力軸(図示省略)が相対回転不能に固定される。この入力軸および非真円カム31は、外部のモータ(図示省略)から得られる動力によって、回転中心軸Cを中心にして、減速前の回転数で回転する。
【0019】
波動ベアリング33は、内輪331と、複数のボール332と、弾性変形可能な外輪333とを有する。内輪331は、非真円カム31の外周面に固定される。外輪333は、可撓性外歯歯車20の歯車部23の内周面に固定される。複数のボール332は、内輪331と外輪333の間に介在し、周方向に沿って配列される。外輪333は、回転される非真円カム31のカムプロフィールを反映するように、内輪331およびボール332を介して弾性変形(撓み変形)する。
【0020】
このような構成の波動歯車装置100において、上記の入力軸に動力が供給されると、入力軸および非真円カム31が一体的に回転する。また、非真円カム31の回転に伴って、波動ベアリング33を介して、可撓性外歯歯車20の歯車部23の内周面が径方向外側へ押されることにより、歯車部23が楕円状に撓み変形する。これにより、
図2のように、歯車部23がなす楕円の長軸の両端の2箇所で、外歯29と内歯11とが噛み合う。この際、前記楕円の2箇所以外の位相位置では、外歯29と内歯11とは噛み合わない。
【0021】
非真円カム31が回転すると、前記楕円の長軸の位置が周方向に移動するので、外歯29と内歯11との噛み合い位置も周方向に移動する。ここで、剛性内歯歯車10の内歯11の数と、可撓性外歯歯車20の外歯29の数とは、僅かに相違する。このため、非真円カム31の1回転ごとに、内歯11と外歯29との噛み合い位置が僅かに変化する。その結果、剛性内歯歯車10に対して可撓性外歯歯車20および上記の出力軸が、減速された回転数で回転する。これにより、減速された動力を装置の外部に取り出すことができる。
【0022】
ここで、一般的に、可撓性外歯歯車を備える波動歯車装置においては、動力の伝達効率をより一層向上させることが望まれている。動力の伝達効率を向上させるためには、可撓性歯車の可撓性を高めることにより、内歯と外歯とをより好適に噛み合わせることを考え得る。しかしながら、単純に可撓性外歯歯車の可撓性を高めた場合、当該可撓性外歯歯車の回転中心軸に沿う断面形状は、ダイヤフラム部側から歯車部側にかけて漸増して撓むコーニングを生じる。コーニングが生じると、外歯の歯筋が軸方向に対して傾斜し、内歯に対して外歯が片当たりとなってしまうという問題が生じる。内歯に対して外歯が片当たりする場合、歯車の転がり損失が増大し、ひいては動力の伝達効力の低下を招いてしまう。そこで可撓性外歯歯車の非真円形状への撓み性を向上させつつ、内歯と外歯の歯当たりも改善できる、新たな技術が求められていた。
【0023】
この点、本実施形態の可撓性外歯歯車20は、非真円形状への撓み性を向上させつつ、内歯11と外歯29の歯当たりを良好にし、ひいては動力の伝達効率を向上させることに寄与することのできる、特徴的な構成を細部に有している。
【0024】
<1-2.可撓性外歯歯車の詳細な構成>
以下では、可撓性外歯歯車20の細部の構成、およびその機能について、
図3から
図5Bまでを参照して説明する。
図3は、可撓性外歯歯車20の胴部21を平面状に展開した様子を示している。
図4A~
図5Bは、可撓性外歯歯車20の胴部21が径方向外側または内側に撓んでいる様子を、やや誇張して示している。なお、
図4A~
図5B中の両矢印は、変形調整部26が径方向内側または外側に撓む量を示している。
【0025】
図3に示すように、本実施形態の可撓性外歯歯車20は、胴部21に変形調整部26を含んでいる。本実施形態の変形調整部26は、胴部21の軸方向において、ダイヤフラム部24に接続される側と、歯車部23が設けられる側と、の間の位置に、全周にわたって帯状に設けられる。
【0026】
変形調整部26には、複数の開口部26aが、周方向に沿って全周に規則的に配列される。本実施形態の開口部26aは、三角形状、より特定的には軸方向に対して線対称な二等辺三角形状である。当該二等辺三角形状の各角部は、滑らかな円弧状となっている。また、
図3に示すように、周方向に隣り合う開口部26aの二等辺三角形の頂角(頂点)が、周方向に沿って延びる仮想円周線L1に対して、互いに反対側を向いて配置される。これにより、隣り合う開口部26aの二等辺三角形の等辺と等辺との間に、軸方向に対して傾斜した腕部26b,26cが設けられる。より詳細には、軸方向に対して一方側に傾斜した第1腕部26bと、軸方向に対して他方側に傾斜した第2腕部26cとが、周方向に沿って交互に配置される。このように、本実施形態の変形調整部26は、全体としていわゆるトラス構造をなしている。
【0027】
ここで、トラス構造は、複数の腕部が配置される面に平行な力に対しては高い剛性を発揮する一方、当該面に垂直な力に対しは変形しやすいという性質を有する。このため、トラス構造の変形調整部26は、周方向のねじれ力に対しては高い剛性を有する一方、径方向には変形容易となる。本実施形態の可撓性外歯歯車20は、トラス構造の変形調整部26を含むことにより、非真円形状への撓み性を向上させつつ、トルクに対するねじれは抑制している。
【0028】
以下では、変形調整部26が奏する機能について、主として
図4A~
図5Bを参照して、より具体的に説明する。
【0029】
歯車部23の内周面(
図3に示した面の裏面)が、波動発生器30によって押されると、
図3の(a)の位相位置が、前記楕円の長軸の位置となるタイミングがある。その時の胴部21の様子を、
図4Aに示している。
図4Aに示すように、波動ベアリング33の外輪333に押されることにより、胴部21は、軸方向の全体について見れば径方向外側に撓む。この際、胴部21のうち、変形調整部26は、その面に対して垂直な方向、すなわち径方向外側に撓みやすい性質を有している。したがって、胴部21を軸方向に沿う断面で見たときに、この変形調整部26の部分が、他の部分と比べて、径方向外側に大きく撓む。このように、変形調整部26によって径方向の変形の大部分が吸収されるため、歯車部23の部分は、あまり径方向外側に撓まない。よって、長軸の位置での外歯29の歯筋を、概ね軸方向に平行にすることができる。別の言い方をすれば、変形調整部26が、いわゆる平行ばねのように機能するので、外歯29が内歯11に対して傾いて片当たりしてしまうことを防止することができる。
【0030】
また、
図3の(b)の位相位置が、前記楕円の長軸の位置となるタイミングもある。その時の胴部21の様子を、
図4Bに参考までに示している。
図4Bに示すように、この場合も、径方向の撓み(変形)の大部分が、トラス構造の変形調整部26に吸収されるので、外歯29の歯筋は、軸方向に平行に近い状態に保たれる。
【0031】
さらに、胴部21が、波動発生器30の非真円カム31の回転を反映して形状変化し、
図3の(c)の位相位置が、前記楕円の短軸の位置となるタイミングがある。その時の胴部21の様子を、
図5Aに示している。
図5Aに示すように、波動ベアリング33の外輪333の位置が径方向内側に沈み込むのに従って、胴部21は、軸方向の全体について見れば径方向内側に撓む。ここで、胴部21のうち、変形調整部26は、径方向内側に撓みやすい性質を有している。したがって、胴部21を軸方向に見たときに、この変形調整部26の部分が、他の部分と比べて、径方向内側に大きく撓む。このように、変形調整部26によって径方向の変形の大部分が吸収されるため、歯車部23の部分は、あまり径方向内側に撓まない。
【0032】
同様に、
図3の(d)の位相位置が、前記楕円の短軸の位置となるタイミングもある。その時の胴部21の様子を、
図5Bに参考までに示している。
図5Bに示すように、この場合も、径方向の撓み(変形)の大部分が、トラス構造の変形調整部26に吸収されるので、歯車部23の部分は、あまり径方向内側に撓まない。
【0033】
このように、本実施形態の可撓性外歯歯車20においては、軸方向において歯車部23から離れた箇所にある変形調整部26で、径方向内側・外側への撓みが吸収されることで、全ての位相位置において、外歯29の歯筋を軸方向に平行に近い状態に保つことができる。よって、内歯11との歯当たりを、良好にすることができる。
【0034】
その一方で、変形調整部26は、その面に対して平行な方向には、高い剛性を有している。よって、本実施形態のように可撓性外歯歯車20に変形調整部26を設けても、当該可撓性外歯歯車20のねじれ方向に対する剛性は損なわれない。よって、波動発生器30から入力される動力を遅延なく伝達することができる。
【0035】
以上に示したように、本実施形態に係る可撓性外歯歯車20は、筒状の胴部21と、ダイヤフラム部24とを有する。胴部21は、その軸方向の一端部に、外歯29が形成される歯車部23を含む。ダイヤフラム部24は、胴部21の軸方向の他端部に接続され、回転中心軸Cに対して垂直な方向に円環状に広がる。そして、胴部21には、複数の開口部26aが周方向に沿って全周に規則的に配列された変形調整部26が含まれる。
【0036】
これにより、開口部26aを適宜に設けることで、変形調整部26を、径方向には変形しやすく、かつ、周方向には変形し難いものとすることができる。すなわち、可撓性外歯歯車20の径方向の撓み性を向上できるので、内歯11と外歯29の噛み合い位置での歯当たりを良好にすることができる。同時に、可撓性外歯歯車20の周方向の剛性を確保できるので、非真円カム31から入力される動力を精度よく伝達することができる。結果として、動力の伝達効率を向上させることができる。
【0037】
加えて、本実施形態では、上述したように内歯11と外歯29との噛み合い位置での歯当たりが良好となるので、従来のように、歯当たりを改善するために歯型に適宜の修正を加える等の、設計上の手間が省ける。さらに言えば、可撓性外歯歯車20の胴部21が非真円形状に変形する際の抵抗が小さくなるので、減速機を高効率で運転することが可能となる。また、剛性内歯歯車10と可撓性外歯歯車20との間の転がり損失を低下させることができるので、斯かる点においても、高効率での運転が可能となる。
【0038】
また、本実施形態に係る可撓性外歯歯車20では、開口部26aは三角形状であり、変形調整部26全体としてトラス構造をなしている。これにより、変形調整部26を、径方向には変形しやすく、かつ、周方向には変形し難いものとすることができる。よって、可撓性外歯歯車20の非真円形状への撓み性を向上させつつ、トルクに対するねじれは抑制することができる。その結果、内歯11と外歯29との噛み合い位置での歯当たりをより良好にすることができ、かつ、動力の伝達効率を向上することができる。
【0039】
また、本実施形態に係る可撓性外歯歯車20では、開口部26aは、軸方向に対して線対称な二等辺三角形状である。また、周方向に隣り合う開口部26aの二等辺三角形の頂角(頂点)が、周方向に沿って延びる仮想円周線L1に対して、互いに反対側を向いて配置される。これにより、胴部21が径方向に伸びる変位力と、胴部21が径方向に縮む変位力とを、略均等にすることができる。別の言い方をすれば、開口部26aの二等辺三角形を千鳥状に配置することにより、胴部21の径方向外側への変位力と、径方向内側への変位力とのバランスを取ることができる。その結果、可撓性外歯歯車20の胴部21の非真円形状への撓み性を向上させることができる。
【0040】
また、本実施形態では、
図3に示すように、変形調整部26を仮想円周線L1に沿って見たときに、開口部26aが設けられる部位と、径方向の厚み(肉厚)を有する腕部21が設けられる部位とが、交互に配置されている。これにより、開口部26a(変形調整部26)が無い構成とした場合と比べて、小さい力で胴部21が径方向に撓むこととなる。よって、胴部21の撓み性が向上する。
【0041】
また、本実施形態の可撓性外歯歯車20の変形調整部26は、胴部21に含まれている。これにより、開口部26aを胴部21に適宜に、例えば本実施形態のようにトラス構造を構成するように設けることで、変形調整部26を、径方向には変形しやすく、かつ、周方向には変形し難いものとすることができる。別の言い方をすれば、可撓性外歯歯車20を、非真円形状に撓みやすく、かつ、ねじれ方向には剛性を有するものとすることができる。よって、内歯11と外歯29との噛み合い位置での歯当たりを良好にするとともに、非真円カム31から入力される動力を精度よく伝達することができる。
【0042】
また、本実施形態の可撓性外歯歯車20では、ダイヤフラム部24は、胴部21に対し、径方向内側に向かって延びている。これにより、歯当たりを良好にするとともに動力の伝達効率を向上させることが可能な、いわゆるカップ型の可撓性外歯歯車20を、実現することができる。
【0043】
<1-3.第1実施形態の変形例1>
以下では、第1実施形態の変形例1に係る可撓性外歯歯車40について、
図6を参照して説明する。なお、以下の説明においては、第1実施形態で示したのと同様の構成・機能の部材については、同一の符号を付し、重複説明を省略する場合がある。これ以降に説明する他の実施形態および変形例についても、同様とする。
図6は、本変形例に係る可撓性外歯歯車40の胴部21を平面状に展開した様子を示している。
【0044】
第1実施形態の変形例1に係る可撓性外歯歯車40は、変形調整部26に代えて、変形調整部46を備えている点で、第1実施形態に係る可撓性外歯歯車20とは異なっている。
図6に示すように、本変形例の変形調整部46は、胴部21の軸方向において、歯車部23が設けられる側に隣接して、全周にわたって帯状に設けられる。
【0045】
変形調整部46には、複数の開口部46aが周方向に沿って全周に等間隔に配列される。本実施形態の開口部46aは、軸方向に対して線対称な二等辺三角形状である。本変形例に係る開口部46aの二等辺三角形の頂角は、第1実施形態に係る開口部26aの二等辺三角形の頂角と比べて、大きい。開口部の二等辺三角形の頂角の大きさは、様々に設定し得るが、例えば胴部21の軸方向の長さが短いほど、当該二等辺三角形の頂角が大きくなるように設定してもよい。別の言い方をすれば、胴部21の軸方向の長さに反比例するように、頂角の大きさを設定してもよい。これによれば、胴部21の軸方向の長さに関わらず、適宜のトラス構造を設けることができる。よって、可撓性外歯歯車40を小型化することが容易となる。
【0046】
<1-4.第1実施形態の変形例2>
以下では、第1実施形態の変形例2に係る可撓性外歯歯車50について、
図7を参照して説明する。
図7は、本変形例に係る可撓性外歯歯車50の胴部21を平面状に展開した様子を示している。
【0047】
第1実施形態の変形例2に係る可撓性外歯歯車50は、変形調整部26に代えて、変形調整部56を備えている点で、第1実施形態に係る可撓性外歯歯車20とは異なっている。
図7に示すように、本変形例の変形調整部56は、胴部21の軸方向において、歯車部23が設けられる側に近い位置に、全周にわたって帯状に設けられる。
【0048】
変形調整部56には、複数の開口部56a,56bがそれぞれ、周方向に沿って全周に等間隔に配列される。より詳細には、変形調整部56は、胴部21の軸方向の第1位置に配置された第1開口部56aと、胴部21の軸方向の第2位置に配置された第2開口部56bとを、それぞれ複数個ずつ有する。第1開口部56aと第2開口部56bとは、周方向に交互に配置される。第1開口部56aおよび第2開口部56bは、いずれも、周方向にスリット状に延びる形状を有する。
【0049】
本実施形態の構成によれば、可撓性外歯歯車50の剛性が、周方向の一部の位相位置において極度に弱くなってしまうことを防止することができる。よって、可撓性外歯歯車50を、トルクに対するねじれに強い形状とすることができる。
【0050】
<2.第2実施形態>
以下では、第2実施形態に係る可撓性外歯歯車60の細部の構成、およびその機能について、
図8から
図10Bまでを参照して説明する。
図8は、第2実施形態に係る可撓性外歯歯車60の平面図を示している。
【0051】
第2実施形態に係る可撓性外歯歯車60は、変形調整部26に代えて、変形調整部66を備えている点で、第1実施形態に係る可撓性外歯歯車20とは異なっている。
図8に示すように、本実施形態の可撓性外歯歯車60は、ダイヤフラム部24に変形調整部66を含んでいる。本実施形態の変形調整部66は、ダイヤフラム部24の全周にわたって、円環状に設けられる。
【0052】
変形調整部66には、複数の開口部66a,66bが、周方向に沿って全周に規則的に配列される。より詳細には、本実施形態の変形調整部66には、二等辺三角形状の第1開口部66aと、当該第1開口部66aの二等辺三角形よりも頂角が小さい二等辺三角形状の第2開口部66bとが、それぞれ周方向に沿って等間隔に設けられる。また、本実施形態においては、第1開口部66aと第2開口部66bとが、周方向に沿って交互に間隔をあけて配置される。
【0053】
第1開口部66aの二等辺三角形は、径方向に対して線対称、かつ、頂角が回転中心軸C側(径方向内側)に向けられている。第2開口部66bの二等辺三角形は、径方向に対して線対称、かつ、頂角が径方向外側に向けられている。別の言い方をすれば、第1開口部66aがなす二等辺三角形と、第2開口部66bがなす二等辺三角形とが、周方向に沿って延びる仮想円周線L2に対して、互いに径方向の反対側を向くように、交互に配置される。これにより、隣り合う開口部66a,66bの二等辺三角形の等辺と等辺との間に、径方向に対して若干傾斜した腕部66cが、周方向に間隔をあけて設けられる。このように、本実施形態の変形調整部66は、全体としていわゆるトラス構造をなしている。
【0054】
本実施形態の可撓性外歯歯車60は、トラス構造の変形調整部66を含むことにより、ダイヤフラム部24を軸方向に変形しやすく、かつ周方向には変形し難くしている。なお、
図8の例では、径方向の位置に拘わらず、腕部66cの周方向の幅が一定である。しかしながら、腕部66cの周方向の幅を、径方向内側へ向かうにつれて大きくしてもよい。
【0055】
以下では、変形調整部66が奏する機能について、主として
図9A~
図10Bを参照して、より具体的に説明する。
図9A~
図10Bは、可撓性外歯歯車60の胴部21が径方向外側または内側に撓んでいる様子を、やや誇張して示している。なお、
図9A~
図10Bの両矢印は、変形調整部66が伸縮する方向を示している。
【0056】
歯車部23の内周面が、波動発生器30によって押されると、ある位相位置において、胴部21の外径が、前記楕円の長軸の長さと概ね一致するタイミングがある。その時の胴部21の一部の様子を、
図9Aに示している。
図9Aに示した位相位置では、胴部21の内面が波動ベアリング33の外輪333に押されることにより、可撓性外歯歯車60の外径が径方向外側に広がっている。この際、可撓性外歯歯車60の各部位のうち、変形調整部66は、その面に対して垂直な方向、すなわち軸方向に撓みやすい性質を有している。したがって、可撓性外歯歯車60の外径が相対的に大きくなる位相位置においては、この変形調整部66の外周部が、径方向外側、かつ、若干だけ軸方向の波動発生器30とは反対側へ変位するように延びた姿勢となる。すなわち、可撓性外歯歯車60の径方向外側への変形(撓み)の大部分が、変形調整部66に吸収される。これにより、当該位相位置における可撓性外歯歯車60の外径が、外歯29の歯筋を概ね軸方向に平行に保ったまま、広げられた状態となる。別の言い方をすれば、変形調整部66が、いわゆる平行ばねのように機能するので、外歯29が内歯11に対して片当たりすることなく、良好な歯当たりが実現する。
【0057】
なお、胴部21の外径が、前記楕円の長軸の長さと概ね一致したタイミングの様子であって、別の位相位置における様子を、
図9Bに示している。
図9Bに示すように、この場合も、可撓性外歯歯車60の径方向および軸方向の変形(撓み)の大部分が、トラス構造の変形調整部66に吸収されるので、外歯29の歯筋は、軸方向に平行に近い状態に保たれる。
【0058】
さらに、胴部21が、波動発生器30の非真円カム31の回転を反映して形状変化し、ある位相位置において、胴部21の外径が、前記楕円の短軸の長さと概ね一致するタイミングがある。その時の胴部21の一部の様子を、
図10Aに示している。
図10Aに示した位相位置では、胴部21の内面が波動ベアリング33の外輪333の形状変化に伴って回転中心軸C側に沈み込むことにより、可撓性外歯歯車60の外径が径方向内側に狭まった状態となる。この際、可撓性外歯歯車60の各部のうち、変形調整部66は、その面に対して垂直な方向、すなわち軸方向に撓み易い性質を有している。したがって、可撓性外歯歯車60の外径が相対的に小さくなる位相位置においては、この変形調整部66の外周部が、径方向内側、かつ、軸方向の外歯29側に位置するように縮小した姿勢となる。すなわち、可撓性外歯歯車60の径方向内側への変形(撓み)の大部分が、変形調整部66に吸収されて、当該変形調整部66が、
図10Aに示すように緩やかなS字状に湾曲する。これにより、当該位相位置における可撓性外歯歯車60の外径が、外歯29の歯筋を概ね軸方向に平行に保ったまま、縮小する。別の言い方をすれば、変形調整部66が、いわゆる平行ばねのように機能するので、外歯29が内歯11に対して略平行な状態に保たれたまま、外歯29が内歯11から離間する。
【0059】
なお、胴部21の外径が、前記楕円の短軸の長さを概ね一致したタイミングの様子であって、別の位相位置における様子を、
図10Bに示している。
図10Bに示すように、この場合も可撓性外歯歯車60の径方向および軸方向の変形(撓み)の大部分が、トラス構造の変形調整部66に吸収されるので、外歯29の歯筋は、軸方向に平行に近い状態に保たれる。
【0060】
このように、本実施形態の可撓性外歯歯車60においては、軸方向において歯車部23から離れた箇所にある変形調整部66で、径方向および軸方向への撓みを吸収することで、全ての位相位置において、外歯29の歯筋を軸方向に平行に近い状態に保つことができる。よって、内歯11との歯当たりを、良好にすることができる。
【0061】
その一方で、変形調整部66は、その面に対して平行な方向には、高い剛性を有している。よって、本実施形態のように可撓性外歯歯車60のダイヤフラム部24に変形調整部66を設けても、当該可撓性外歯歯車60のねじれ方向に対する剛性は損なわれない。よって、波動発生器30から入力される動力を遅滞なく伝達することができる。
【0062】
以上に示したように、本実施形態に係る可撓性外歯歯車60は、筒状の胴部21と、ダイヤフラム部24とを有する。胴部21は、その軸方向の一端部に、外歯29が形成される歯車部23を含む。ダイヤフラム部24は、胴部21の軸方向の他端部に接続され、回転中心軸Cに対して垂直な方向に円環状に広がる。そして、ダイヤフラム部24には、複数の開口部66a,66bが周方向に沿って全周に規則的に配列された変形調整部66が含まれる。
【0063】
これにより、開口部66a,66bを適宜に設けることで、変形調整部66を、軸方向には変形しやすく、かつ、周方向には変形し難いものとすることができる。すなわち、可撓性外歯歯車60(変形調整部66)の軸方向への変位性を向上することにより、可撓性外歯歯車60(胴部21)の径方向への撓み性を向上できるので、内歯11と外歯29の噛み合い位置での歯当たりを良好にすることができる。同時に、可撓性外歯歯車60の周方向の剛性を確保できるので、非真円カム31から入力される動力を精度よく伝達することができる。結果として、動力の伝達効率を向上させることができる。
【0064】
なお、本実施形態のダイヤフラム部24は、変形調整部26に代えて変形調整部66を含んでいる点以外においては、第1実施形態に係るダイヤフラム部24と同様である。ここで、一般的に、ダイヤフラム部24に連続する固定部25の軸方向の厚みを大きく設定したい事情がある場合が想定される。すなわち、固定部25に、ボルト等の締結具を挿入するために用いる貫通孔25aを穿つために、平板部22の軸方向の肉厚を厚くしなければならない場合等である。斯かる場合も、本実施形態のような変形調整部66を適用すれば、固定部25の軸方向の厚みを確保しつつ、可撓性外歯歯車20に要求される撓み性を容易に実現することができる。
【0065】
<3.第3実施形態>
以下では、第3実施形態に係る可撓性外歯歯車70の細部の構成について、
図11および
図12を参照して説明する。
図11は、本実施形態に係る可撓性外歯歯車70を備える波動歯車装置200の縦断面図を示している。
図12は、本実施形態に係る可撓性外歯歯車70の平面図を示している。
【0066】
本実施形態の可撓性外歯歯車70は、第1実施形態におけるダイヤフラム部24に代えて、ダイヤフラム部74を備える点等において、第1実施形態に係る可撓性外歯歯車20とは主として異なっている。
【0067】
ダイヤフラム部74は、胴部21との接続箇所に近い側に配置され、肉厚が固定部25よりも薄い部位である。ダイヤフラム部74は、胴部21に対し、径方向外側に向かって延びている。ダイヤフラム部74は、円環状の形状を有し、歯車部23よりも小さい撓み性を有する。ダイヤフラム部74の外周部には、円環状の固定部25が接続されている。
【0068】
また、本実施形態の可撓性外歯歯車70は、第1実施形態における変形調整部26に代えて、
図12に示す変形調整部76を備えている。本実施形態の変形調整部76は、上述のダイヤフラム部74に含まれている。本実施形態の変形調整部76は、ダイヤフラム部24の全周にわたって、円環状に設けられる。
【0069】
変形調整部76には、複数の開口部76a,76bが、周方向に沿って全周に規則的に配置される。より詳細には、本実施形態の変形調整部76には、径方向の第1位置に配置された複数の第1開口部76aと、径方向の第2位置に配置された複数の第2開口部76bとが含まれる。第1開口部76aと第2開口部76bとはそれぞれ、周方向に等間隔で配置される。第1開口部76aと第2開口部76bとは、周方向に交互に配置される。
【0070】
本実施形態の可撓性外歯歯車70は、径方向の位置が互いに異なる第1開口部76aと第2開口部76bとが、周方向に交互に配置された構造の変形調整部76を含むことにより、ダイヤフラム部74を軸方向に変位しやすくしつつ、周方向には変位し難くしている。
【0071】
本実施形態に係る可撓性外歯歯車70においても、上述した第1実施形態および第2実施形態に係る可撓性外歯歯車20,60と同様に、外歯29と内歯11との歯当たりを良好にできるとともに、動力の伝達効率を向上できる。
【0072】
以上に示したように、本実施形態に係る可撓性外歯歯車70では、ダイヤフラム部74は、胴部21に対し、径方向外側に向かって延びている。これにより、歯当たりを良好にするとともに、動力の伝達効率を向上させることが可能な、いわゆるシルクハット型の可撓性外歯歯車70を、実現することができる。
【0073】
また、上述した実施形態および変形例のいずれかに係る可撓性外歯歯車を備える波動歯車装置100,200は、いずれも、剛性内歯歯車10と、波動発生器30とを備える。波動発生器30は、非真円カム31を含み、この非真円カム31を回転中心軸Cを中心にして回転させる。これにより、可撓性外歯歯車の径方向または軸方向の撓み性を向上できるので、内歯11と外歯29との噛み合い位置での歯当たりを良好にすることができる。同時に、可撓性外歯歯車の周方向の剛性を確保できるので、非真円カム31から入力される動力を精度よく伝達して外部に出力することができる。
【0074】
<4.その他の変形例>
以上、本発明の例示的な実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、上述したものに対し種々の変更を加えることが可能である。
【0075】
上記の実施形態では、変形調整部の開口部の形状をいくつか例示した。しかしながら、開口部の形状を、上記に代えて、径方向または軸方向の少なくともいずれかに延びるスリット形状としてもよい。その場合、この開口部を、周方向に沿って等間隔に、例えば放射状に設けるものとしてもよい。斯かる構成とした場合、各開口部を、周方向には細い形状に形成することができる。よって、可撓性外歯歯車を、周方向の一部の箇所に応力が集中し難い、安定した構造とすることができる。
【0076】
上記の実施形態では、変形調整部の開口部は、胴部21またはダイヤフラム部24(74)のいずれかに設けられるものとした。しかしながら、これに代えて、各開口部を、胴部21およびダイヤフラム部24(74)の両方に跨るものとしてもよい。斯かる構成とした場合、開口部をレイアウトする際の自由度が増す。よって、より容易に適宜の開口部を設けることが可能となる。
【0077】
上記の実施形態では、変形調整部の開口部が、三角形状に、より特定的には二等辺三角形状に形成されている例を示した。しかしながら、これに代えて、開口部を直角三角形状としてもよい。その場合、隣り合う向きの異なる直角三角形同士を長方形状に配置し、かつ、周方向の全周にこの長方形が等間隔に並ぶようにレイアウトしてもよい。あるいは、開口部の形状を、円形状、楕円形状、矩形状、あるいは長孔形状等としてもよい。また、変形調整部に、形状の異なる複数種類の開口部が混在していてもよい。例えば、軸方向に対して線対称な二等辺三角形状の第1開口部と、当該第1開口部とは異なる形状(例えば矩形状)の第2開口部とを、周方向に交互に配置してもよい。
【0078】
あるいは、変形調整部の開口部を、頂点がダイヤフラム部24(平板部22)側に向けられた三角形状とし、この開口部が周方向に沿って1列に配列されるものとしてもよい。
【0079】
変形調整部が、胴部21およびダイヤフラム部24(74)の両方に、跨らずに離間して配置されていてもよい。
【0080】
また、上記の実施形態および変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。例えば、シルクハット型の可撓性外歯歯車の筒状の胴部に、変形調整部を設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本願は、可撓性外歯歯車およびそれを備える波動歯車装置に利用できる。
【符号の説明】
【0082】
10 剛性内歯歯車
11 内歯
20 可撓性外歯歯車
21 胴部
22 平板部
23 歯車部
24 ダイヤフラム部
25 固定部
26 変形調整部
26a 開口部
26b 腕部
26c 腕部
29 外歯
30 波動発生器
31 非真円カム