(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】フォーミング抑制剤
(51)【国際特許分類】
C21C 5/28 20060101AFI20221101BHJP
【FI】
C21C5/28 B
(21)【出願番号】P 2019136429
(22)【出願日】2019-07-24
【審査請求日】2022-06-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503471695
【氏名又は名称】リファインバース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134430
【氏名又は名称】加藤 卓士
(72)【発明者】
【氏名】加志村 竜彦
(72)【発明者】
【氏名】松村 順也
(72)【発明者】
【氏名】雪下 準
(72)【発明者】
【氏名】安田 有希
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-174772(JP,A)
【文献】特許第6281800(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維を含む繊維状有機材料と、粉体状無機物と、を混合して
100℃以下の非溶融圧縮により繊維形態を残しつつ
成形したフォーミング抑制剤。
【請求項2】
前記合成繊維は、アクリル、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートおよびポリプロピレンの少なくともいずれか1つの物質を含む請求項1に記載のフォーミング抑制剤。
【請求項3】
前記繊維状有機材料は、インテリア製品、衣料用製品、医療衛生用製品、自動車用製品、または土木建築用製品を粉砕した材料である請求項1に記載のフォーミング抑制剤。
【請求項4】
前記粉体状無機物は、金属酸化物及び金属炭酸塩の少なくともいずれか1つの物質である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のフォーミング抑制剤。
【請求項5】
前記粉体状無機物は、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、シリカから選ばれた少なくともいずれか1つの物質である請求項4に記載のフォーミング抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼工程の一部で用いられるフォーミング抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野において、特許文献1には、可燃性繊維が結合した繊維集合体と当該繊維集合体に分散された金属水酸化物を含む粒子から構成されるフォーミング抑制用成形体に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、製鋼技術の進化に伴い、より効果的なフォーミング抑制剤が求められており、上記文献に記載の技術では、フォーミング抑制効果が十分ではなかった。本発明の目的は、上述の課題を解決する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明のフォーミング抑制剤は、合成繊維を含む繊維状有機材料と、粉体状無機物とを混合して非溶融圧縮により繊維形態を残しつつ成型したフォーミング抑制剤である。
【発明の効果】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のフォーミング抑制剤は、合成繊維を含む繊維状有機材料と、粉体状無機物と、を混合して100℃以下の非溶融圧縮により繊維形態を残しつつ成形したフォーミング抑制剤である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態のフォーミング抑制剤のモデル構造を示した図である。
【
図2】第2実施形態のフォーミング抑制剤のモデル構造を示した図である。
【
図3】フォーミング抑制剤の製造方法において使用されるタイルカーペットの粉砕分級システムの構成を示すブロック図である。
【
図4】フォーミング抑制剤の製造システムの詳細構成を説明するためのブロック図である。
【
図5】実施例1において製造したフォーミング抑制剤のミクロ構造を示した電子写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の例示的な実施形態について、以下に詳しく説明する。ただし、以下の実施の形態に記載されている、構成、数値、工程、処理の流れ等はあくまで一例であり、本発明の技術範囲をそれらの記載のみに限定する趣旨のものではない。以下、詳細に説明する。
【0009】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態のフォーミング抑制剤100のモデル構造を示した図である。
図1に示されるように、フォーミング抑制剤100は、合成繊維101を含む繊維状有機材料102と粉体状無機物103とが混合され、非溶融圧縮により合成繊維101の繊維形態を残しつつ成型されている。このフォーミング抑制剤100はスラグのフォーミング現象を抑制するために投入される。
【0010】
合成繊維101は、複数の合成繊維101が相互に絡み合うことによって、複数の合成繊維101の間に空隙104を形成している。すなわち、フォーミング抑制剤100は、合成繊維101の間に形成された空隙104を有する多孔質体である。
【0011】
さらに、合成繊維101の表面には、粉体状無機物103の粒子が物理的に吸着している。すなわち、フォーミング抑制剤100は、合成繊維101を含む繊維状有機材料102に分散された粉体状無機物103を備えている。
【0012】
フォーミング抑制剤100は、合成繊維101を含む繊維状有機材料102と粉体状無機物103とが混合され、非溶融圧縮により成型されている。このため、フォーミング抑制剤100は、合成繊維101を含む繊維状有機材料102が溶融することなく、合成繊維101が有する繊維形態をそのまま維持している。
【0013】
フォーミング抑制剤100は、合成繊維101の間に形成された空隙104を有する多孔質体であるので、所定の気孔率及び比表面積を有している。フォーミング抑制剤100の気孔率は、例えば、JIS K 2249に規定されている開気孔率の測定方法により測定した値が20~70%であることが好ましい。
【0014】
フォーミング抑制剤100の気孔率が20%以上であれば、スラグがフォーミング抑制剤100の空隙104からフォーミング抑制剤100の内部へ侵入し、熱分解、燃焼反応が進行するため好ましい。一方、フォーミング抑制剤100の気孔率が70%以下であれば、フォーミング抑制剤100が保管中や搬送中に圧潰され難い程度の取り扱い上に必要な十分な強度を有するため好ましい。
【0015】
粉体状無機物103の含有率は、フォーミング抑制剤100の重量全体に対して、30~90重量%であることが好ましく、特に、50~70重量%であることが好ましい。粉体状無機物103の含有率がフォーミング抑制剤100の重量全体に対して、90重量%以下であれば、フォーミング抑制剤100の比重を1.5~2.5に調整することができ、発生しているスラグを突き抜けることができるため好ましい。一方、粉体状無機物103の含有率がフォーミング抑制剤100の重量全体に対して、30重量%以上であれば、繊維状有機材料の燃焼分解により発生する黒煙を抑制することができるため好ましい。
【0016】
フォーミング抑制剤100は、粉体状無機物103を含んでいるので、1.5~2.5の比重を有する。このため、フォーミング抑制剤100は、スラグに投入されると、スラグの表面に浮遊することなく、速やかに沈降を開始する。沈降を開始したフォーミング抑制剤100は、スラグ内のある程度の深さにおいて、繊維状有機材料102と粉体状無機物103とに分離する。分離した繊維状有機材料102は、スラグ内において燃焼する。
【0017】
一方、分離した合成繊維101および合成繊維101に付着していた粉体状無機物103は、一酸化炭素によるスラグ中の気泡の発生を抑制する。合成繊維101は、転炉またはスラグ鍋に投入されると、燃焼、分解により爆発的にガス化し、付着していた粉体状無機物103がスラグ内に広範囲に拡散する。これによりフォーミング抑制剤100は、優れたフォーミング抑制効果を発揮する。
【0018】
フォーミング抑制剤100の形態は、特に制限されるものではないが、例えば、円柱形状のペレット状、多角柱体または軸心方向の貫通孔を有する多角形体であってもよい。
【0019】
このように、本実施形態のフォーミング抑制剤によれば、消泡成分が広範囲に拡散し、スラグの溢出を十分に抑制することができる。
【0020】
[第2実施形態]
本実施形態に係るフォーミング抑制剤は、上記実施形態と比べると、合成繊維を含む繊維状有機材料として産業廃棄物を原料とし、粉体状無機物として、金属酸化物又は炭酸金属塩等の無水物を用いた点で異なる。その他の構成および工程は、上記実施形態と同様であるためその詳しい説明を省略する。
【0021】
図2は、本実施形態のフォーミング抑制剤200のモデル構造を示した図である。本実施形態のフォーミング抑制剤200は、タイルカーペット由来の合成繊維201を含む繊維状有機材料202に粉末状無機無水物203が混合され、非溶融圧縮により繊維形態を残しつつ成型されている。以下、本実施形態のフォーミング抑制剤200について説明する。
【0022】
<繊維状有機材料の原料>
フォーミング抑制剤200に含まれる繊維状有機材料202は、合成繊維201を含む有機材料であれば、特に制限されるものではないが、例えば、インテリア用製品、衣料用製品、医療衛生用製品、自動車用製品、または土木建築用製品の廃材を粉砕した材料を挙げることができる。
【0023】
インテリア用製品としては、特に制限されるものではないが、例えば、タイルカーペット、ロールカーペット、絨毯、カーテン等を挙げることができる。
【0024】
衣料用製品としては、特に制限されるものではないが、例えばエラストマー、ナイロン、ポリエステル、レーヨン、リヨセル、スパンデックス、アクリル繊維等を素材とする衣料用製品を挙げることができる。
【0025】
医療衛生用製品としては、特に制限されるものではないが、例えば、ガーゼ、脱脂綿、包帯、吸収性縫合糸、非吸収性縫合糸、医療用覆い布(ドレープ)、医療用ガウン(サージカルガウン/アイソレーションガウン・患者衣)、不織布製品、医療用シーツ、ギプス包帯、医療用副木、医療用サポーター、ウェットティッシュ、大人用紙おむつ、失禁関連布製品、滅菌包材等を挙げることができる。
【0026】
自動車用製品としては、特に制限されるものではないが、例えば、フロアマット、座席シート張り生地、座席シートビニールレザー、座席シートカバー、座席シートスポンジ、エアーバック等を挙げることができる。
【0027】
土木建築用製品としては、特に制限されるものではないが、例えば、法面保護シート、建築用断熱材、建築用壁紙、FRP用不織布、空調フィルター、液体フィルター等を挙げることができる。
【0028】
<合成繊維>
合成繊維201としては、粉末状無機無水物203を吸着することができ、完全燃焼することができるものであれば、特に制限されるものではないが、例えば、以下の合成樹脂から製造される繊維を挙げることができる。
【0029】
合成繊維201を製造することができる樹脂として、アクリル樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、アルキッド樹脂、ブチラール樹脂、アセタール樹脂、ポリアミド樹脂、スチレン-アクリル樹脂、スチレン樹脂、ニトロセルロース、ベンジルセルロース、セルロース(トリ)アセテート、カゼイン、シェラック、ギルソナイト、ゼラチン、スチレン-無水マレイン酸樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル/マレイン酸共重合体樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、マレイン酸樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ケトン樹脂、石油樹脂、ロジン、ロジンエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルニトロセルロース、エチレン/ビニルアルコール樹脂等が挙げられる。
【0030】
合成繊維201の繊維長は、0.5mm以上2.5mm以下であることが好ましい。合成繊維201の繊維長が0.5mm以上であると、繊維同士が絡まるため、成形体の強度を維持するために好ましい。一方、合成繊維201の繊維長が2.5mm以下であると、合成繊維201が拡散しやすくなるため好ましい。
【0031】
合成繊維201の繊維形態は、粉末状無機無水物を吸着することができる形状であれば特に制限されるものではないが、例えば、直線形状であっても、屈曲形状であってもよい。また、合成繊維201は、繊維長方向に捩じれていてもよい。合成繊維201の断面形状は、円形形状、楕円形状、三角形状、四角形状、その他多角形状であってもよい。
【0032】
<粉体状無機無水物>
粉体状無機無水物203は、スラグと反応することができ、フォーミング抑制剤200の比重を1.5~2.5にすることができる粉体状無機無水物であれば、特に制限されない。合成繊維201を含む繊維状有機材料202の比重が1.5未満であるので、粉体状無機無水物203の比重は、2.0~8.0であることが好ましい。粉体状無機無水物203の比重が、2.0以上であれば、フォーミング抑制剤200の比重を1.5以上に調整することができるので好ましい。粉体状無機無水物203の比重が8.0以下であれば、フォーミング抑制剤200の比重を2.5以下とすることができるので好ましい。
【0033】
粉体状無機無水物203を構成する分子は、分子内に水酸基を含んでおらず、結晶水も含んでいないため、粉体状無機無水物は、スラグに投入された後であっても水を生成しない。
【0034】
このように、本実施形態のフォーミング抑制剤200は、水を生成することがないため、スラグ内の温度が下がらず、フォーミング抑制効果の効率が低下しない。
【0035】
粉体状無機無水物203の粒径は、10μm以上500μm以下であることが好ましい。粉体状無機無水物の粒径が10μm以上であれば、粉体状無機無水物の粒子が相互に固着することがないため好ましい。一方、粉体状無機無水物の粒径が500μm以下であれば、スラグと反応する粉体状無機無水物の表面積が大きくなり反応性が向上するため好ましい。また、粉体状無機無水物203の粒径が10μm以上であれば、粉体状無機無水物203が合成繊維201同士の空隙に分散しやすくなるため好ましい。一方、粉体状無機無水物203の粒径が500μm以下であれば、スラグと粉体状無機無水物203との反応性が向上するため好ましい。
【0036】
粉体状無機無水物203は、金属酸化物又は金属炭酸塩である。金属酸化物としては、特に制限されるものではないが、例えば、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、結晶性シリカ、非結晶性シリカ、酸化ゲルマニウム、酸化スズ、酸化鉛、酸化ガリウム、酸化インジウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化鉄、酸化ナトリウム、酸化カリウム等を挙げることができる。なお、粉体状無機無水物203は、金属酸化物又は金属炭酸塩を主成分とするものであれば、窒化アルミニウム等の金属窒化物、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、炭化ケイ素等の金属炭化物、ケイ酸カルシウム等のケイ酸金属塩、水和金属化合物、及びこれらの組合せを含んでいてもよい。
【0037】
炭酸金属塩としては、特に制限されるものではないが、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸アルミニウム、炭酸ナトリウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸リチウム、炭酸銅、炭酸鉄、炭酸銀、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等を挙げることができる。これらの炭酸金属塩は、転炉内の溶銑中において、二酸化炭素を放出し、金属酸化物となる。金属酸化物は、スラグの塩基性を低下させてスラグの流動性を向上させる機能を有するので好ましい。
【0038】
これらの金酸化物及び炭酸金属塩の中でも溶銑との反応性及びコストの観点から、粉体状無機無水物203は、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、又はシリカ若しくはその混合物であることが好ましい。
【0039】
<非溶融圧縮>
フォーミング抑制剤200は、合成繊維201を含む繊維状有機材料202と粉体状無機無水物203と水とを混練した後、非溶融圧縮をすることによって製造される。非溶融圧縮は、繊維状有機材料202が溶融しない温度で行なわれる。非溶融圧縮を行なう温度は、50~100℃であることが好ましい。非溶融圧縮を行なう圧力は、合成繊維201を含む繊維状有機材料202と粉体状無機無水物203と水との混合物に含まれる水分量を1.0~3.0重量%とすることができる範囲に設定されていればよい。
【0040】
非溶融圧縮は、合成繊維201を含む繊維状有機材料202と粉体状無機無水物203と水との混合物を圧縮して成型することができる方法であれば、特に制限されるものではないが、例えば、押出成型、加圧成型等を挙げることができる。非溶融圧縮方法は、合成繊維201を含む繊維状有機材料202及び粉体状無機無水物203の材質、製品としてのフォーミング抑制剤200の形態に応じて、適宜採択することができる。例えば、押出成型は、原料に圧力をかけて金型(口金)から押出すことによって行なう成型である。押出成型は、フォーミング抑制剤200の断面積を一定にすることができるので、棒状形状、パイプ形状のフォーミング抑制剤200を製造するのに適している。なお、押出成型では、フォーミング抑制剤200が曲がったり、押出成型の途中で切れたりしないようにするために原料の押出速度を一定の速度にする必要がある。なお、非溶融圧縮によるフォーミング抑制剤の生産性を向上させるためには、押出速度を大きくする必要がある。
【0041】
このように、本実施形態のフォーミング抑制剤は、合成繊維を含む繊維状有機材料と粉体状無機無水物とが混合され、非溶融圧縮により成型されている。このため、本実施形態のフォーミング抑制剤は、合成繊維を含む繊維状有機材料が有する繊維形態をそのまま残しつつ成型される。従って、本実施形態のフォーミング抑制剤は、消泡成分が広範囲に拡散するので、気泡の発生を抑制し、スラグの溢出を効果的に抑制することができる。
【0042】
[第3実施形態]
本実施形態に係るフォーミング抑制剤は、上記実施形態と比べると、繊維状有機材料として、タイルカーペット由来の繊維状有機材料を用い、粉体状無機無水物として炭酸カルシウムを組合わせて用いた点で異なる。その他の構成は、上記実施形態と同様であるためその詳しい説明を省略する。
【0043】
<繊維状有機材料の原料>
本実施形態のフォーミング抑制剤は、繊維状有機材料の原料として、タイルカーペットの廃材を用いている。オフィスビルが立ち並ぶ都市部では、タイルカーペットが大量に消費され、使用された後のタイルカーペットが廃材としてそのまま廃棄されている。本実施形態のフォーミング抑制剤は、廃材となったタイルカーペットを再利用しているので、資源の有効活用の観点からも技術的意義がきわめて大きい。
【0044】
<合成繊維>
本実施形態のフォーミング抑制剤は、タイルカーペットの廃材を原料としている。タイルカーペットのパイル部分が合成繊維となる。合成繊維としては、石油を原料とする合成樹脂から製造される合成繊維であれば、特に制限されるものではないが、アクリル、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、およびポリプロピレンを挙げることができる。
【0045】
<炭酸カルシウム>
本実施形態のフォーミング抑制剤に含まれる炭酸カルシウムは、汎用性が高い無機材料であり、取り扱い易く、安価であるため最も好適に用いることができる。炭酸カルシウムとしては、石灰石を粉砕・分級した重質炭酸カルシウムであってもよいし、化学反応で微細な結晶を液中で析出させた軽質炭酸カルシウムであってもよい。
【0046】
炭酸カルシウムの粒径は、10μm以上200μm以下であることが好ましい。炭酸カルシウムの粒径が10μm以上であれば、炭酸カルシウムの粒子が相互に固着することがないため好ましい。一方、炭酸カルシウムの粒径が200μm以下であれば、スラグと反応する炭酸カルシウムの表面積が大きくなり反応性が向上するため好ましい。
【0047】
本実施形態のフォーミング抑制剤に含まれる炭酸カルシウムは、スラグ内において、酸化カルシウムと二酸化炭素に熱分解される。炭酸カルシウムから発生した二酸化炭素は、スラグ内に発生している泡を破壊する。さらに、炭酸カルシウムの熱分解は、吸熱反応である。このため、炭酸カルシウムは、スラグ内に発生している熱を奪うことによって、フォーミング抑制効果を発揮する。
【0048】
[第4実施形態]
本実施形態は、第1~第3実施形態のフォーミング抑制剤の製造方法である。フォーミング抑制剤は、繊維状有機材料と粉体状無機無水物とを混合した後、非溶融圧縮して成型される。以下、本実施形態のフォーミング抑制剤の製造方法を繊維状有機材料を製造する工程と、繊維状有機材料と粉体状無機無水物とを混合した後、非溶融圧縮する工程とに分けて説明する。
【0049】
<繊維状有機材料を製造する工程>
図3は、本実施形態のフォーミング抑制剤の製造方法において使用されるタイルカーペットの粉砕分級システム300の構成を示すブロック図である。第1~第3の実施形態のフォーミング抑制剤に含まれる合成繊維を含む繊維状有機材料は、例えば、インテリア製品であるタイルカーペットの廃材を粉砕して製造される。
【0050】
図3に示されるように、本実施形態のフォーミング抑制剤の製造方法において使用されるタイルカーペットの粉砕分級システム300は、タイルカーペットを粉砕分級し、フォーミング抑制剤に含まれる合成繊維を含む繊維状有機材料を製造するためのシステムである。
【0051】
図3に示すように、タイルカーペットの粉砕分級システム300は、粗粉砕機301と、微粉砕機302と、分級機303とを含む。
【0052】
粗粉砕機301は、表面を被覆する合成繊維部351と、裏面において合成繊維部351を支持する樹脂製の板状部352と、を含むタイルカーペット350を、第1サイズのタイルカーペット片311に粉砕する。
【0053】
微粉砕機302は、粗粉砕機301で粉砕された第1サイズのタイルカーペット片311を、第1サイズよりも小さい第2サイズの粉体321に粉砕する。
【0054】
分級機303は、第2サイズの粉体321を網状部材331に載せて振動を加え、合成繊維部由来の粉体332と板状部由来の粉体333とに分離する。分級機303は、合成繊維部由来の粉体332を吸引する。このように、分級機303によって得られた合成繊維部由来の粉体332を合成繊維を含む繊維状有機材料とすることができる。なお、本実施形態のフォーミング抑制剤の製造方法においては、1つの分級機を備えたタイルカーペットの粉砕分級システムを採用しているが、これに限定されることなく、複数の分級機を備えたタイルカーペットの粉砕分級システムを採用してもよい。
【0055】
このように、本実施形態のフォーミング抑制剤の製造方法において使用されるタイルカーペットの粉砕分級システム300は、フォーミング抑制剤に含まれる合成繊維を含む繊維状有機材料を効率的かつ高精度に製造することができる。製造された合成繊維部由来の粉体342は、フォーミング抑制剤の製造システム400のスクリューフィーダー付きの繊維貯留タンク401に移送される。
【0056】
<非溶融圧縮する工程>
図4は、フォーミング抑制剤の製造システム400の詳細構成を説明するためのブロック図である。繊維貯蔵タンク401は、タイルカーペットの粉砕分級システムから移送された合成繊維を含む繊維状有機材料を貯蔵する。無機物貯蔵タンク402は、粉体状無機無水物を貯蔵する。
【0057】
スクリューフィーダー付き繊維貯蔵タンク401に貯蔵された繊維状有機材料は、バケット式搬送コンベア403によって、計量機付き混合ミキサー405に投入される。スクリューフィーダー付き無機物貯蔵タンク402に貯蔵された粉体状無機無水物は、バケット式搬送コンベア404によって、計量機付き混合ミキサー405に投入される。計量機付き混合ミキサー405は、バケット式搬送コンベア403によって、投入された繊維状有機材料の重量を計量する。計量機付き混合ミキサー405は、バケット式搬送コンベア404によって、投入された粉末状無機無水物の重量を計量する。
【0058】
このように計量機付き混合ミキサー405は、フォーミング抑制剤を構成する合成繊維を含む繊維状有機材料と粉体状無機無水物の重量割合を調整する。計量機付き混合ミキサー405によって、非溶融圧縮される前の混合物が製造される。製造された混合物は、スクリューフィーダー付き混合物貯蔵タンク406に貯蔵される。
【0059】
混合物貯蔵タンク406に貯蔵された混合物は、約二等分される。二等分された混合物は、バケット式搬送コンベア407によって造粒機408に搬送される。二等分された別の混合物は、バケット式搬送コンベア409によって造粒機410に搬送される。
【0060】
造粒機408は、バケット式搬送コンベア407から搬送された合成繊維を含む繊維状有機材料と粉末状無機無水物との混合物から造粒を行なって、粒形状のフォーミング抑制剤を製造する。造粒は、合成繊維を含む繊維状有機材料と粉末状無機無水物との混合物に水を加えて行なってもよい。混合物に水を加えることによって、造粒が容易となるため好ましい。混合物に水を加えた場合の水の配合は、混合物と水との全体の重量に対して、5~20%であることが好ましい。
【0061】
合成繊維を含む繊維状有機材料と粉末状無機無水物との混合物を非溶融圧縮するときの温度は、100℃以下であることが好ましい。非溶融圧縮するときの温度が100℃以下であれば、合成繊維を含む繊維状有機材料が溶融しないので好ましい。
【0062】
造粒機410は、造粒機408と同様に非溶融圧縮を行ない、粒形状のフォーミング抑制剤を製造する。造粒機408及び造粒機410により製造されたされた所定の大きさ、形状を有するフォーミング抑制剤は、ベルト式製品搬送コンベアによって搬送され、篩機412によって篩いに掛けられる。篩機412によって、フォーミング抑制剤の形態は均一化され、製品として出荷される。
【0063】
このように製造したフォーミング抑制剤の形態は、特に限定されるものではないが、例えば、直径が5~20mmのペレット形状であってもよい。フォーミング抑制剤がペレット形状であれば、ハンドリング性に優れ、袋詰めし易く、使用時の取り扱い性にも優れるため好ましい。
【0064】
以上、本実施形態によれば、より一層、効率的かつ高精度にフォーミング抑制剤を製造することができる。
【0065】
[他の実施形態]
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。また、それぞれの実施形態に含まれる別々の特徴を如何様に組み合わせた組成物も、本発明の範疇に含まれる。
【0066】
<実施例>
以下、本発明の実施例を説明する。ただし、本発明は、この実施例に限定されるものではない。以下の実施例1~5および比較例1~2のフォーミング抑制剤を製造し、精錬工程の脱燐精錬時のスラグの膨れ具合を観測することによりフォーミング抑制剤のフォーミング抑制効果を評価した。
【0067】
<フォーミング抑制剤の製造>
(実施例1)
繊維状有機材料の原材料として廃棄されたタイルカーペットを用いた。上記タイルカーペットの廃材(リファインバース株式会社回収)を粗粉砕した後、微粉砕を行い、繊維状有機材料を製造した。粉体状無機無水物として炭酸カルシウムを用いた。繊維状有機材料100kgと粉体状無機無水物である炭酸カルシウム100kg、水20kgとを計量機付き混合ミキサーを用いて混合した後、十分攪拌した。十分に攪拌された繊維状有機材料と炭酸カルシウムとの混合物を造粒機を用いて、口径10φ(mm)のダイから非溶融圧縮による押出成型を行ない、実施例1のフォーミング抑制剤とした。
【0068】
実施例1で製造されたフォーミング抑制剤が繊維形態を含んでいるか否かを電子顕微鏡により確認した。実施例1で製造したフォーミング抑制剤の断面構造を
図5に示した。
図5は、実施例1において製造したフォーミング抑制剤のミクロ構造を示した電子写真である。
【0069】
(実施例2~5)
繊維状有機材料の原材料、粉体状無機無水物及び押出成型の条件を変えた以外は、実施例1と同様にしてフォーミング抑制剤を製造した。
【0070】
(比較例1~2)
繊維状有機材料のみを用い、非溶融圧縮による押出成型を行なうことにより、比較例1のフォーミング抑制剤を製造した。また、粉体状無機無水物のみを用い、非溶融圧縮による押出成型を行なうことにより、比較例2のフォーミング抑制剤を製造した。実施例1~5、及び比較例1~2において製造したフォーミング抑制剤の組成、フォーミング抑制剤を製造する際に用いたダイの口径、繊維形態の有無を表1に示す。
【0071】
【0072】
(フォーミング抑制剤の評価)
実施例1~5、比較例1~2において製造したフォーミング抑制剤を評価した。精錬工程の脱燐精錬時のフォーミングの程度を測定することによりフォーミング抑制剤を評価した。
【0073】
具体的にフォーミング抑制剤の評価は、以下の手順により行なった。転炉内の溶銑に実施例1~5、及び比較例1~2において製造したフォーミング抑制剤を転炉の炉頂から転炉内に約15~20kg/ton(フォーミング抑制剤/溶銑)の割合で投入した。
【0074】
フォーミング抑制剤を転炉内に投入した後、約60秒経過後に転炉内のスラグの膨れ具合を目視により評価した。なお、転炉内の溶銑の組成は、C:4.5%以上、Si:0.35~0.4%、P:0.11~0.13%であり、溶銑温度1300~1400℃であった。
【0075】
目視による溢出したスラグの膨れ具合をを以下のように評価した。
【0076】
「スラグの膨れ具合 大」:転炉の炉頂からスラグが大量に膨れて、精錬工程の操業を中断しなければならない場合
「スラグの膨れ具合 中」:転炉の炉頂からスラグが膨れているが、精錬工程の操業を中断を要しないような場合
「スラグの膨れ具合 無」:転炉の炉頂からスラグが膨れていることが認められない場合
各10ヒートの脱燐精錬において、スラグの膨れ具合に基づいて、フォーミング剤のフォーミング抑制効果を評価した。結果を表2に示した。なお、フォーミング抑制効果の評価基準は以下の通りである。
【0077】
◎:フォーミング抑制効果にきわめて優れる(スラグの膨れ 無)
○:フォーミング抑制効果がある(スラグの膨れ 中)
×:フォーミング抑制効果が十分ではない(スラグの膨れ 大)
【0078】
【0079】
図5からも明らかなように、実施例1において製造したフォーミング抑制剤は、繊維形態をそのまま維持しつつ、成型されていることが判明した。また、実施例1~5と比較例1~2との比較からも明らかなように、合成繊維を含む繊維状有機材料と粉体状無機無水物とを混合して非溶融圧縮により繊維形態を残しつつ成型することによって、スラグ量の溢出量を抑制することができるフォーミング抑制剤を提供することができる。