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特許7168227電気外科装置用のマイクロ波エネルギー伝達構成要素
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】電気外科装置用のマイクロ波エネルギー伝達構成要素
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/18 20060101AFI20221101BHJP
【FI】
A61B18/18 100
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019515420
(86)(22)【出願日】2018-02-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-27
(86)【国際出願番号】 EP2018053098
(87)【国際公開番号】W WO2018146160
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2021-01-27
(31)【優先権主張番号】1702305.2
(32)【優先日】2017-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】512008495
【氏名又は名称】クレオ・メディカル・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CREO MEDICAL LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハンコック,クリストファー・ポール
(72)【発明者】
【氏名】ホワイト,マルコム
(72)【発明者】
【氏名】プレストン,ショーン
【審査官】槻木澤 昌司
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-505572(JP,A)
【文献】特表2014-511190(JP,A)
【文献】特表2002-532132(JP,A)
【文献】特開2012-020135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気外科装置であって、
電気外科発生装置からの周波数を有するマイクロ波電磁(EM)エネルギーを搬送するためのマイクロ波フィードラインと、
治療部位へと患者の体内に挿入するための器具ケーブルであって、
前記マイクロ波EMエネルギーを伝達するための同軸伝送線路と、
前記治療部位への接近をもたらすための内部通路とを含む、前記器具ケーブルと、
前記マイクロ波フィードラインの遠位端と前記器具ケーブルの近位端との間で前記マイクロ波EMエネルギーを伝達するように構成された接合部とを含み、
前記マイクロ波フィードラインは、前記マイクロ波EMエネルギーの前記周波数において第1のインピーダンスを有し、
前記器具ケーブルは、前記マイクロ波EMエネルギーの前記周波数で第2のインピーダンスを有し、前記第2のインピーダンスは前記第1のインピーダンスより低く、
前記接合部が、
前記第1のインピーダンスと前記第2のインピーダンスとを整合させるように構成されたマイクロストリップインピーダンス変成器と、
前記内部通路と流体連通している中空導管とを含む、前記電気外科装置。
【請求項2】
前記マイクロストリップインピーダンス変成器が、
上面とその反対側に下面を有する平面誘電基板と、
前記下面の接地導体層と、
前記上面のマイクロストリップ導体層とを備え、
前記マイクロストリップ導体層が前記上面の周縁から奥まっている、請求項1に記載の電気外科装置。
【請求項3】
前記マイクロストリップ導体層が、第1の幅(W)を有する近位マイクロストリップトラック部と、第2の幅(W)を有する遠位マイクロストリップトラック部とを含み、
前記第2の幅が前記第1の幅よりも大きい(W>W)、請求項2に記載の電気外科装置。
【請求項4】
前記遠位マイクロストリップトラック部の電気的長さは、前記マイクロストリップインピーダンス変成器によって伝達される前記マイクロ波EMエネルギーの4分の1波長の奇数倍である、請求項3に記載の電気外科装置。
【請求項5】
前記第2の幅は、前記遠位マイクロストリップトラック部の特性インピーダンスZが次式
【数1】

を満たすように選択され、
前記式中、Zinは前記電気外科発生装置のインピーダンスであり、Zは前記マイクロ波EMエネルギーの前記周波数における前記器具ケーブルのインピーダンスである、請求項3または4に記載の電気外科装置。
【請求項6】
前記第1の幅は、前記近位マイクロストリップトラック部の特性インピーダンスが、前記マイクロ波EMエネルギーの前記周波数における前記マイクロ波フィードラインの前記第1のインピーダンスと実質的に等しくなるように選択される、請求項3~5のいずれか一項に記載の電気外科装置。
【請求項7】
前記同軸伝送線路が、内側導体と、外側導体と、前記内側導体を前記外側導体から隔てる誘電材料とを備え、
前記同軸伝送線路の近位端において、前記内側導体は、前記誘電材料及び外側導体から近位に延びて前記遠位マイクロストリップトラック部を覆い、前記誘電材料は、前記外側導体の近位端から近位に延びて前記マイクロストリップ導体層と前記平面誘電基板の遠位縁部との間の隙間を覆う、請求項3~6のいずれか一項に記載の電気外科装置。
【請求項8】
前記外側導体が前記接地導体層に電気的に接続されている、請求項7に記載の電気外科装置。
【請求項9】
前記マイクロ波フィードラインが、前記近位マイクロストリップトラック部に電気的に接続された内側導体と、前記接地導体層に電気的に接続された外側導体とを有する同軸ケーブルを含む、請求項3~8のいずれか一項に記載の電気外科装置。
【請求項10】
前記中空導管が前記マイクロストリップ導体層に取り付けられている、請求項2~9のいずれか一項に記載の電気外科装置。
【請求項11】
前記中空導管が、前記器具ケーブルから離れて延びるにつれて前記平面誘電基板から離れるように湾曲する管である、請求項10に記載の電気外科装置。
【請求項12】
前記マイクロ波フィードライン及び前記器具ケーブルが、前記接合部において前記平面誘電基板に固定されている、請求項2~11のいずれか一項に記載の電気外科装置。
【請求項13】
前記マイクロ波フィードライン及び前記器具ケーブルが、前記接地導体層への電気的な接続をもたらす導電性取り付け要素を介して前記平面誘電基板に固定されている、請求項12に記載の電気外科装置。
【請求項14】
前記接合部が、前記マイクロストリップインピーダンス変成器を囲む導電性シールドハウジングを備える、請求項1~13のいずれか1項に記載の電気外科装置。
【請求項15】
前記シールドハウジングは、前記接合部で放出されたEM場を限定するためのファラデーケージとして機能する、請求項14に記載の電気外科装置。
【請求項16】
前記中空導管が前記シールドハウジングの開口を通って延びる、請求項14または15に記載の電気外科装置。
【請求項17】
前記マイクロ波フィードライン及び前記器具ケーブルは、前記シールドハウジングを介して前記マイクロストリップインピーダンス変成器に固定されている、請求項14~16のいずれか一項に記載の電気外科装置。
【請求項18】
前記内部通路が前記同軸伝送線路の前記内側導体内にある、請求項7~9のいずれか1項に記載の電気外科装置。
【請求項19】
前記第2のインピーダンスが12~14Ωである、請求項1~18のいずれか1項に記載の電気外科装置。
【請求項20】
前記マイクロ波EMエネルギーの前記周波数が、5.8GHz、14.5GHz、24GHz、及び31GHzから選択される安定した固定の周波数である、請求項1~19のいずれか1項に記載の電気外科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の発明は、生体組織への電磁放射線の送達を可能にする治療部位へ非侵襲的または経皮的に挿入するための電気外科器具を含む電気外科装置に関する。特に、本願は、電気外科発生装置と電気外科器具との間でエネルギーを効率的に結合するための手段に関する。
【背景技術】
【0002】
電気外科器具は、生体組織の切断及び/または焼灼などの目的のために、電磁(EM)エネルギー(特にマイクロ波及び高周波エネルギー)を生体組織に送達するために使用されている。
【0003】
典型的には、身体組織にEMエネルギーを送達するための装置は、EMエネルギー源を含む発生装置と、エネルギーを生体組織に送達するために発生装置に接続される電気外科器具とを含む。
【0004】
EMエネルギーは通常、発生装置から器具まで延びるケーブルを使用して、EM発生装置から電気外科器具に供給する。この目的のために使用される通例のケーブルは、中実の円筒形の内側導体と、内側導体の周りの誘電材料の管状層と、この誘電材料の周りの管状外側導体とを含む同軸伝送線路構造を有する。そのような同軸伝送線路は、通常50Ωまたは75Ωの公称特性インピーダンス(Z)を有する。
【0005】
電気外科器具は、例えば遠位先端部に位置する放射部を含み得る。EMエネルギーは、同軸ケーブルに沿って伝送され、放射部から放射される。放射部から放出されたエネルギーは、治療部位の生体組織に送達され、例えば局所的な加熱、組織の切断、または焼灼/凝固を引き起こす。
【0006】
EMエネルギーが電気外科器具装置を横切るとき、それはインピーダンス、すなわちエネルギーの流れに対する妨害または抵抗を経る。インピーダンスの変化は、装置内での電力損失及び多重反射を引き起こす可能性がある。そのような反射は装置の望ましくない加熱を引き起こす可能性がある。
【0007】
電力損失、反射及び加熱の作用を最小限に抑えるために、装置内のエネルギー送達経路に沿ってインピーダンスを整合させることが望ましい。一例では、インピーダンス整合は、エネルギー伝達経路内にインピーダンス変成器構造を導入することによって達成することができる。
【0008】
US6,190,382では、患者の心臓の心房内の生体組織を焼灼するための電気外科器具を開示している。器具は、高周波放射アンテナを正確な治療部位に正確に誘導する展開可能なモノレールガイドを含む。マイクロストリップ部が、高周波数をアンテナに伝達する2本の同軸ケーブルの間に含まれている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
最も一般的には、本発明は、器具ケーブルへのマイクロ波フィードライン(例えば通例の50Ω同軸ケーブル)の効率的な(すなわち低損失の)結合を可能にするマイクロストリップインピーダンス変成器を提供するものであり、器具ケーブルがより低インピーダンスを有し(例えば、12~14Ωの範囲)、内部通路を含み得る。マイクロストリップインピーダンス変換器は、内部通路への個別の給電に悪影響を及ぼさないような方法で、マイクロ波フィードラインと器具ケーブルとの間のインピーダンス整合を実行するように構成される。
【0010】
本発明によれば、電気外科装置であって、電気外科発生装置からの周波数を有するマイクロ波電磁(EM)エネルギーを搬送するためのマイクロ波フィードライン;治療部位へと患者の体内に挿入するための器具ケーブルであって、マイクロ波EMエネルギーを伝達するための同軸伝送線路と、治療部位への接近をもたらすための内部通路とを含む器具ケーブル;及び、マイクロ波フィードラインの遠位端と器具ケーブルの近位端との間でマイクロ波EMエネルギーを伝達するように構成された接合部とを含み、マイクロ波フィードラインは、マイクロ波EMエネルギーの周波数において第1のインピーダンスを有し、器具ケーブルは、マイクロ波EMエネルギーの周波数で第2のインピーダンスを有し、第2のインピーダンスは第1のインピーダンスより低く、接合部が、第1のインピーダンスと第2のインピーダンスとを整合させるように構成されたマイクロストリップインピーダンス変成器と、内部通路と流体連通している中空導管とを含む、電気外科装置が提供できる。マイクロストリップインピーダンス変成器は、例えば下記の構成を採用することにより、マイクロ波EMエネルギーが接合部で中空導管内部に結合されないことを確実にするように構成してもよい。
【0011】
「導電性」という用語は、文脈上別段の指示がない限り、本明細書では電気の伝導性を意味するために使用する。
【0012】
本明細書では、「近位」及び「遠位」という用語は、それぞれ、相対的に治療部位からより離れている場所、及び相対的に治療部位により近い場所を示す。したがって、使用時に、近位端はマイクロ波EMエネルギーを供給するための発生装置に相対的により近く、一方で、遠位端は治療部位、すなわち患者に相対的により近い。
【0013】
電気外科器具は、外科手術中に使用され、治療中にマイクロ波EMエネルギーを利用する任意の器具またはツールであり得る。本明細書では、マイクロ波EMエネルギーは、300MHz~100GHzの範囲の安定した固定の周波数を有する電磁エネルギーを意味し得る。マイクロ波エネルギーのための好ましいスポット周波数は、915MHz、2.45GHz、5.8GHz、14.5GHz、24GHz、及び31GHzを含む。1GHzを超える周波数が好ましい。5.8GHzが最も好ましい周波数である場合がある。
【0014】
マイクロストリップインピーダンス変成器は、上面とその反対側に下面を有する平面誘電基板、下面の接地導体層、及び上面のマイクロストリップ導体層を備えることができる。誘電基板は、任意の適切な低損失材料から形成することができる。接合を簡素にすることを可能にするために、高い誘電率(例えば、5超)を有する材料が好ましい場合がある。マイクロストリップ導体層は、誘電基板の上面の周縁から奥まるようにして、マイクロ波EM場を、実質的に上面によって画定される領域内に限定することができる。
【0015】
マイクロストリップ導体層は、第1の幅(W)を有する近位マイクロストリップトラック部と、第2の幅(W)を有する遠位マイクロストリップトラック部とを含むことができ、第2の幅は第1の幅よりも大きい(W>W)。
【0016】
遠位マイクロストリップトラック部は、4分の1波長インピーダンス変成器として機能するように構成してもよく、器具ケーブルに直接繋げてもよい。遠位マイクロストリップトラック部の電気的長さは、4分の1波長マイクロストリップインピーダンス変成器によって伝達されるマイクロ波EMエネルギーの4分の1波長の奇数倍であってよい。この部分の物理的長さは、実効誘電率、及び誘電基板内及び空気中の両方における場の広がりに依存し得る。第2の幅は、遠位のマイクロストリップトラック部の特性インピーダンスZが次式を満たすように選択でき、
【0017】
【数1】
【0018】
式中、Zinは遠位マイクロストリップトラック部のインピーダンスであり、Zはマイクロ波EMエネルギーの周波数における器具ケーブルのインピーダンスである。
【0019】
誘電基板及び接地導体層の寸法は、近位マイクロストリップトラック部及び遠位マイクロストリップトラック部の両方に対して同一であり得る。マイクロストリップ導体層は、2つのマイクロストリップトラック部のみに限定される必要はない。
【0020】
近位マイクロストリップトラック部は、マイクロ波フィードラインに効果的に繋がるように構成してもよい。したがって、第1の幅は、遠位マイクロストリップトラック部の特性インピーダンスが、マイクロ波EMエネルギーの周波数におけるマイクロ波フィードラインのインピーダンスと実質的に等しくなるように選択し得る。
【0021】
器具ケーブルの同軸伝送線路は、内側導体と、外側導体と、内側導体を外側導体から隔てる誘電材料とを含むことができる。同軸伝送線路の近位端において、内側導体は、誘電材料及び外側導体から近位に延びて遠位マイクロストリップトラック部を覆い(また好ましくは物理的に接触する)、それと電気的に接続するようにできる。誘電材料は、外側導体の近位端から近位に延びてマイクロストリップ導体層と平面誘電基板の遠位縁部との間の隙間を覆うようにしてもよい。好ましくは、誘電材料はこの領域で誘電基板と物理的に接触して、この領域での著しいマイクロ波EM場の発生を防ぐ。外側導体は、接地導体層に電気的に接続されていてもよい。
【0022】
同様に、マイクロ波フィードラインは、近位マイクロストリップトラック部に電気的に接続された一次内側導体と、接地導体層に電気的に接続された一次外側導体とを有する同軸ケーブルを含んでもよい。これらの接続は、適切なコネクタ、例えばSMAコネクタなどを介して行うことができる。
【0023】
中空導管は、マイクロストリップ導体層に取り付けることができる。例えば、中空導管は、それが器具ケーブルから離れる方向に延びるにつれて平面誘電基板から離れるように湾曲する管であり得る。この構成は、内部通路が同軸伝送線路の内側導体内に形成される場合に特に有用であり、またそのため、内部通路への接近が、エネルギーがまた同軸伝送線路内部に繋げられるか同軸伝送線路によって伝達される領域で本質的に生じる。
【0024】
マイクロ波フィードライン及び器具ケーブルは、接合部で平面誘電基板に固定させてもよい。例えば、マイクロ波フィードライン及び器具ケーブルは、接地導体層への電気的な接続をもたらす導電性取り付け要素を介して平面誘電基板に固定してもよい。
【0025】
一例では、接合部は、4分の1波長マイクロストリップインピーダンス変成器を囲む導電性シールドハウジングを含み得る。シールドハウジングは、接合部を包む箱またはメッシュとすることができる。シールドハウジングは接地してもよい。例えば、マイクロストリップインピーダンス変成器の接地層に電気的に接続させる。マイクロ波フィードライン及び器具ケーブルは、シールドハウジングを介して4分の1波長マイクロストリップインピーダンス変成器に固定してもよい。中空導管は、内部通路への接近をもたらすためにシールドハウジングの開口を通って延びることができる。
【0026】
力線(E及びH)は(構造が非対称であり、したがって力線が自由空間内へと繋がるという事実に起因して)構造から放射されるので、変成器の周りのシールドは、この構造にとって特に有利であり得る。シールドは、これらの場が他の対象に結合したり、手術室などにある他の設備に対する干渉を生じたりするのを防ぐべく、ファラデーケージとして機能することができる。シールドは、接合部の場が影響を受けない、すなわち「ボックスモード」のような望ましくないモードを構成しないのを確実にするように構成できる。
【0027】
本発明の例は、添付の図面を参照して以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施形態である電気外科装置の概略図である。
図2図2Aは、本発明での使用に適したマイクロストリップインピーダンス変成器構造の概略側面図である。図2Bは、図2Aのマイクロストリップインピーダンス変成器構造の概略上面図である。
図3】本発明の実施形態である電気外科装置に接続されたマイクロストリップインピーダンス変成器の概略側面図である。
図4図3のマイクロストリップインピーダンス変成器の概略上面図である。
図5図3及び図4の電気外科器具装置の電場を示すシミュレーションのプロットである。
図6図3及び図4の電気外科器具装置における電力損失密度を示すシミュレーションのプロットである。
図7】周波数のある範囲にわたる図3及び図4の器具装置のシミュレーションのリターンロス特性を示すグラフである。
図8】周波数のある範囲にわたる図3及び図4の器具装置のシミュレーションの挿入損失特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、本発明の背景を提示する電気外科装置10の概略図である。
電気外科装置10は、EMエネルギー(マイクロ波及び/または高周波エネルギー)を発生するEM発生装置12を備える。発生装置12は変成器20に接続されている。変成器20はマイクロストリップインピーダンス変成器100であり、これは図2図4を参照して、後により詳細に説明される。変成器20は、発生装置12とエネルギー伝達ケーブル30との間の接合部に配置されている。
【0030】
この例では、エネルギー伝達ケーブル30は同軸伝送線路14である。同軸伝送線路14は内側導体を備え、これは内側導体を外側導体から隔てる誘電材料によって囲まれている。同軸伝送線路14は、例えば、食塩水などの物質または器具をケーブル30に沿って輸送するための、例えば、内部導体内の内部通路を含む。中空導管18は、変成器20との接合部でケーブル30の近位端に接続されている。中空導管18は、通路と流体連通しており、そのため通路に物質または器具を入れる手段として作用する。
【0031】
エネルギー伝達ケーブル30は、同軸伝送線路14と通路とを備える可撓性で操縦可能なシャフトである。ケーブル30は、手術中に患者の体内に挿入可能である。ケーブル30は、体内への非侵襲的または経皮的な挿入に適するように構成することができる。ケーブル30は、可撓性の生体適合性材料から作られた外側シースを有することができる。
【0032】
ケーブル30は、発生装置12から延びて遠位端40で終端する。電気外科器具80は、遠位端40で取り付けられても、通路から突出してもよい。伝送線路14は、遠位端40で器具80に接続される。電磁(EM)エネルギー(例えばマイクロ波EMエネルギー)は、発生装置12から変成器20を通って伝送され、伝送線路14によって器具80に送達される。器具は、周囲の生体組織が吸収するためのEMエネルギーを放出するように構成される放射先端部を含み得る。放射先端部から放出されたエネルギーは、組織を除去及び/または焼灼し得る。
【0033】
器具80はまた、同軸伝送線路14の内部通路と流体連通する開口部を含むことができる。したがって、操作者が中空導管18に導入した物質は、ケーブル30内の通路を通って患者の体内に運ばれ、開口部を通して遠位治療ゾーンに接近することができる。
【0034】
発生装置12とケーブル30の同軸伝送線路14との間のインピーダンス変成器20は、発生装置12のインピーダンスと同軸伝送線路14のインピーダンスとの間の整合を取る、または整合を改善するように機能する。これにより、エネルギーが同軸伝送線路14に導入されるときに、電力損失及び多重反射が防止され、したがって装置10内の望ましくない加熱作用を防ぐことができる。
【0035】
図2A及び図2Bはそれぞれ、側面及び上面から得たマイクロストリップインピーダンス変成器構造100の概略図である。マイクロストリップインピーダンス変成器100は、プリント回路基板の技術を使用して製造することができる電気伝送線路である。マイクロストリップ変成器構造100は3つの層を含む。第1層は、接地面110を備える導電層である。第2層は、接地面110の上にある誘電基板115である。第3層は、誘電基板115の上に製造される導電層である。第3層は活性層であり、本明細書ではマイクロストリップ導体層120と称する。
【0036】
誘電基板115は任意の誘電体用の材料とすることができる。例として、Rogers Corporation TMM10の高周波材料を使用することができる。他の基板の材料には、エポキシで強化されたガラス(一般にFR-4と呼ばれている)、及びセラミック、例えば、アルミナが挙げられる。接地面110及びマイクロストリップ導体120は、任意の導電材料、例えば銀、金などから製造することができる。
【0037】
マイクロストリップ導体層120は、発生装置12からのEMエネルギーの進行方向に対して垂直な方向、すなわち同軸伝送線路14の軸方向に対して横方向に測定される幅(W)を有する。この幅に応じてマイクロストリップ導体層120のインピーダンスは変化する。マイクロストリップ変成器100の特性インピーダンスは、マイクロストリップ導体の幅と共に変化する。
【0038】
図2Bの上面図に示しているように、マイクロストリップ導体層120は、異なる幅を有する2つのトラック部を含む。この例では、第1の(近位の、発生装置側の)マイクロストリップトラック122は幅(W)を有し、それは第2の(遠位の、ケーブル側の)マイクロストリップトラック124の幅(W)よりも狭い。誘電基板115及び接地面の幾何学形状は各トラック部について同一であるので、第1のマイクロストリップトラック122は第2のマイクロストリップトラック124よりも高いインピーダンスの値を有する。一実施形態では、第1のマイクロストリップトラック122は2.5mmの幅(W)を有し、第2のマイクロストリップトラック124は、例えば6mmの幅(W)を有する。以下に説明するように、幅(W)は、第1のマイクロストリップトラックが発生装置と実質的に同じインピーダンスを有することを確実にするように選択でき、幅(W)は、第2のマイクロ波トラックが、それが4分の1波長インピーダンス変成器として動作するのを可能にするインピーダンスを確実に有するように選択され得る。別の例では、第2のマイクロストリップトラックの幅は、第1のマイクロストリップトラックよりも狭くてよい。器具ケーブルが発生装置よりも高いインピーダンスを有する場合、この構成が使用されるであろう。
【0039】
マイクロストリップ導体120の各トラック部はまた、EMエネルギーの進行方向に平行に、すなわち同軸伝送線路14の軸方向に沿って測定される長さを有する。第1のマイクロストリップトラック122は、長さ(L)を有し、それは第2のマイクロストリップトラック124の長さ(L)よりも長い。一例では、長さLは10mmであり、長さLは2.5mmである。長さ(L)は、EMエネルギーがマイクロストリップ構造内を伝播するときのEMエネルギーの4分の1波長の奇数倍に実質的に等しくてもよい。長さ(L)は、変成器の電場の形状がEMエネルギーを効率的に送達することを確実にするように、シミュレーションなどによって選択してもよい。
【0040】
誘電基板115は、EMエネルギーの進行方向に対して垂直に測定される幅と、平行に測定される長さとを有する。誘電基板は、20mmの幅を有してよく、また15mmの長さを有することができる。したがって、マイクロストリップ導体層120は、誘電基板115の周囲から奥まっているようにすることができる。この実施形態では、ケーブル及びSMAコネクタは、半田を使用して取り付けられる。このような理由で、導体層が奥まっているようにして、変成器の近位端で導電層と接地層を接続する半田の流れの断絶/可能性がないことを確実にする。この小さな隙間のないSMAコネクタの幾何学形状に起因して、コネクタの外側は導電層と接触して短絡を生じる。
【0041】
変成器構造のインピーダンスを制御するために使用することができる他のパラメータは、誘電基板115の厚さまたは高さ(H)である。厚さの範囲は、マイクロストリップ導体層120の幅(W)及び長さ(L)の範囲に垂直である。
【0042】
図3及び図4は、それぞれ発生装置(図示せず)とエネルギー伝達ケーブル30との間の接合部200の概略的な側面図及び上面図である。接合部は、発生装置側コネクタ150と、ケーブル30により伝達される同軸伝送線路の近位端との間に接続された上述のマイクロストリップ変成器100を含む。同じ参照番号が対応する特徴に使用されており、それらについて再度説明はしない。
【0043】
発生装置側コネクタ150は、マイクロストリップ変成器100の近位側で第1のマイクロストリップトラック122に接続されている。発生装置側コネクタ150は、EMエネルギー発生装置12をマイクロストリップインピーダンス変成器100に接続することができる任意のコネクタであり得る。例えば、コネクタ150は標準SMA(サブミニチュアバージョンA)コネクタであり得る。コネクタ150は、マイクロストリップインピーダンス変成器100の第1のマイクロストリップトラック122に電気的に接続される(例えば、半田付けされる)中心導体ピン154を有する。
【0044】
コネクタ150の外側部分(接地)は、マイクロストリップインピーダンス変成器100の接地面110に接続されている。これを行う1つの方法は、コネクタ150の外側を囲み、接地面110に直接接着されているコネクタプレート156を使用することであり、これにより、コネクタ150の外側とマイクロストリップインピーダンス変成器100の接地面110との間に接続部が形成される。コネクタプレート156は、接地面110に半田付けまたはネジ止めしてもよい。
【0045】
ケーブル30は、発生装置12の端部とは反対側の端部でマイクロストリップインピーダンス変成器100に接続されている。同軸伝送線路の内側導体144及び誘電材料146は、外側導体(図示せず)の近位端を越えて近位側に突き出している。内側導体144及び誘電材料146は、マイクロストリップ変成器100の上面を覆う。内側導体144は、マイクロストリップインピーダンス変成器100の第2のマイクロストリップトラック124に電気的に接続される(例えば、接着または半田付けされる)。内側導体が確実に分離されるように、第2のマイクロストリップトラック124と基板115の遠位端との間の隙間に誘電材料146を覆う。
【0046】
同軸伝送線路の外側導体は、マイクロストリップインピーダンス変成器100の接地面110に接続されている。これは、ケーブルを取り囲んで外側導体と電気的に接触しているケーブル端子プレート136を用いて、行うことができる。プレート136は、例えば接地面110に直接半田付けさせて接着し、伝送ケーブルの外側導体とマイクロストリップインピーダンス変成器100の接地面110との間に接続部を形成することができる。
【0047】
一方、中空導管18は、内側導体144の近位端から突出し、マイクロストリップ変成器100の上面から離れる方向に湾曲している。
【0048】
図3及び図4の電気外科器具装置は、以下のように動作する。EMエネルギーは発生装置12によって発生させ、コネクタ150によってマイクロストリップインピーダンス変成器100に流れ込む。EMエネルギーは、コネクタ150のコネクタピン154から第1のマイクロストリップトラック122内に移動する。第1のマイクロストリップトラック122の幅は、そのインピーダンスが発生装置のインピーダンスと同様になるように選択される。発生装置のインピーダンスは約50Ωであり得る。次いでEMエネルギーは、第2のマイクロストリップトラック124へと移動する。第2のマイクロストリップトラック124は、第1のマイクロストリップトラック122よりも広い。第2のマイクロストリップトラック124の幅は、4分の1波長のインピーダンス変成器として作用するのに正確なインピーダンスを有するように選択される。上述のように、その長さは、発生装置インピーダンスのインピーダンスをケーブル30の(より低い)インピーダンスに整合させるために、4分の1波長の奇数倍になるように選択される。
【0049】
ケーブル30のインピーダンスは、約12~14Ωであり得る。EMエネルギーが第1のマイクロストリップトラック122から第2のマイクロストリップトラック124に移動するとき、それが受けるインピーダンスは、例えば約50Ωから約12~14Ωに減少する。したがって、マイクロストリップインピーダンス変成器100は、発生装置12のインピーダンスを、スーパーケーブル30を通って延びる伝送ケーブル14のインピーダンスと整合させる。
【0050】
したがって、発生装置から供給されるエネルギーの周波数がfである場合、第2のマイクロストリップトラックの長さLは、次のように計算できる。
【0051】
【数2】
【0052】
式中、cは光速であり、εeffは接合部における実効誘電率であり、これは、既知の方法で、マイクロストリップ線路の幾何学形状、ならびに誘電基板及び周囲の物質(例えば空気)の比誘電率εに依存する。
【0053】
また、第2のマイクロストリップトラックが4分の1波長インピーダンス変成器として動作することを確実にするために、その幅を、特性インピーダンスZが次式を満たすようにして選択される。
【0054】
【数3】
【0055】
式中、Zinは発生装置のインピーダンス(上記の例では50Ω)、Zはケーブルのインピーダンス(上記の例では約12Ω)である。一例では、第2のマイクロストリップトラックの幅は、Zが約24.5Ωになるように選択される。
【0056】
別の実施形態で、コネクタプレート156及びケーブル端子プレート136は、マイクロストリップインピーダンス変成器100を完全に囲む導電性シールドハウジング101に一体化させてもよい。シールドは銅から作ることができる。例えば、EMエネルギーが漏れ出るのを防ぐためにファラデーケージとして機能する厚さ1mmの銅板である。シールドは、EMエネルギーの進行方向に対して平行に測定される長さ、EMエネルギーの進行方向に対して垂直に測定される幅、及びその幅及び長さに対して垂直に測定される高さを有する中空直方体であり得る。シールドは、例えば、長さ25mm、幅22mm、及び高さ22mmを有することができる。
【0057】
本発明者は、本明細書に開示されたマイクロストリップ変成器の構成が、それが同軸伝送線路と接続するときに中空導管18に対して極めて効果的な絶縁を提供することを見出した。これは、中空導管18を通る器具及び/または液体の望ましくない加熱を防ぐことができるので、特に有利である。
【0058】
図5は装置内の電場を示すシミュレーションのプロットである。明るい色合いほど強い電場を示し、一方で暗い色合いほど弱い電場を示す。ケーブル30及びマイクロストリップインピーダンス変成器100内には強い電場があるが、中空導管18に存在している電場は最小限である。これにより、中空導管18に存在する器具及び/または液体が、電場による望ましくない加熱効果を確実に受けないようにする。例として、中空導管18は生理食塩水などの流体を含むことができる。生理食塩水は優れた熱伝導体であり、そのため、加熱を誘発する可能性がある電場から中空導管を隔てることが重要である。
【0059】
図6は、装置内の電力損失密度を示すシミュレーションのプロットである。明るい色合いほど高い電力損失を示し、暗い色合いほど低い電力損失を示す。ケーブル30及びマイクロストリップインピーダンス変成器100からの電力損失は中程度であるが、中空導管18からの電力損失は最小限である。
【0060】
図7は、範囲の周波数にわたる図3及び図4の電気外科器具装置のシミュレーションでのリターンロスの特性を示すグラフである。使用に望ましい周波数であり、かつ変成器が4分の1波長変成器として機能する周波数である5.8GHz付近で、低いリターンロスがあることが見て取れる。5.8GHzでのリターンロスは-15dBである。これは、電力の約96%が供給されることを意味する。
【0061】
図8は、範囲の周波数にわたる図3及び図4の電気外科器具装置のシミュレーションでの挿入損失特性を示すグラフである。使用に望ましい周波数である5.8GHz付近での低い挿入損失があることが見て取れる。5.8GHzでの挿入損失は約0.4dBで、これは約8.8%の損失があることを意味する。
【0062】
図7及び図8は、変成器とケーブルとの間の接合部での反射に対して最小限のエネルギー損失であり、それによって他の構成要素の不要な局所の加熱を引き起こすことなくエネルギーを同軸伝送路に効率的に送ることができることを実証している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8