(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】ヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色組織画像における関心領域を調べて、多重化/高多重化蛍光組織画像で腫瘍内細胞空間的不均一性を定量化するシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20221101BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20221101BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
G01N33/53 Y
G06T7/00 630
G01N33/48 P
(21)【出願番号】P 2020186755
(22)【出願日】2020-11-09
(62)【分割の表示】P 2017563619の分割
【原出願日】2016-06-10
【審査請求日】2020-12-09
(32)【優先日】2015-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506147560
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ピッツバーグ-オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイヤー エデュケーション
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF PITTSBURGH OF THE COMMONWEALTH SYSTEM OF HIGHER EDUCATION
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】チェンヌボトラ,エス.チャクラ
(72)【発明者】
【氏名】テイラー,ディー.ランシング
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0003702(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0290692(US,A1)
【文献】特表2003-515368(JP,A)
【文献】特表2010-500571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53
G06T 7/00
G01N 33/48
G06K 9/46
G06T 7/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織画像における腫瘍内細胞空間的不均一性を定量化する方法であって、
幾つかの組織画像を表す画像データを受け取る工程と、
受け取った画像データで細胞セグメント化を行い、前記幾つかの組織画像の複数の細胞を特定する工程と、
各細胞を、複数の所定のバイオマーカー強度パターンの1つのみに割り当てる工程であって、前記複数の所定のバイオマーカー強度パターンが、細胞セグメント化されたコントロール画像のセットから得られたコントロールデータから
得た優勢バイオマーカー強度パターンのセットであり、前記コントロールデータが、各コントロール画像について、前記コントロール画像内の各細胞に関する複数の所定のバイオマーカーのそれぞれの強度レベルを含む、工程と、
割り当てられた所定のバイオマーカー強度パターンに基づいて、前記幾つかの組織画像の空間的統計を定量化する工程であって、前記幾つかの組織画像における空間的腫瘍内不均一性を定量化するための空間的統計として自己相互情報量を導き出すことを含む、工程と、
定量化された空間的統計の視覚表示を作成する工程と、を含む方法。
【請求項2】
前記定量化する工程は、空間ネットワークを構築し、前記幾つかの組織画像における前記所定のバイオマーカー強度パターンの構成を記述する工程と、前記所定のバイオマーカー強度パターンの各ペアについて、自己相互情報量をコンピュータで計算することによって前記幾つかの組織画像の不均一性を定量化する工程とを含み、
前記視覚表示は、前記所定のバイオマーカー強度パターンの各ペアについてコンピュータで計算された自己相互情報量に基づくものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記視覚表示は、複数のエントリを有するPMIマップであり、前記PMIマップは、前記所定のバイオマーカー強度パターンの間の関係を記述する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
組織画像における腫瘍内細胞空間的不均一性を定量化する方法であって、
幾つかの組織画像を表す画像データを受け取る工程と、
受け取った画像データで細胞セグメント化を行い、前記幾つかの組織画像の複数の細胞を特定する工程と、
各細胞を、複数の所定のバイオマーカー強度パターンの1つに割り当てる工程と、
割り当てられた所定のバイオマーカー強度パターンに基づいて、前記幾つかの組織画像の空間的統計を定量化する工程と、
定量化された空間的統計の視覚表示を作成する工程と、
を含み、
前記定量化する工程は、空間ネットワークを構築し、前記幾つかの組織画像における前記所定のバイオマーカー強度パターンの構成を記述する工程と、前記所定のバイオマーカー強度パターンの各ペアについて、自己相互情報量をコンピュータで計算することによって前記幾つかの組織画像の不均一性を定量化する工程とを含み、
前記視覚表示は、前記所定のバイオマーカー強度パターンの各ペアについてコンピュータで計算された自己相互情報量に基づくものであり、
前記視覚表示は、複数のエントリを有するPMIマップであり、前記PMIマップは、前記所定のバイオマーカー強度パターンの間の関係を記述し、
各エントリは、2つの前記所定のバイオマーカー強度パターンの間の特定の空間的相互関係が、全ての所定のバイオマーカー強度パターンにわたるランダム分布により予測される相互関係と比較して、画像データにおいてどの程度の頻度で起こるかを示す、
方法。
【請求項5】
1又は複数の前記エントリは、所定のバイオマーカー強度パターン間で強い空間的関連性を表す第1色で描かれ、1又は複数の前記エントリは、所定のバイオマーカー強度パターン間で弱い空間的関連性を表す第2色で描かれる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記エントリは、複数の行と複数の列に配置される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
さらに、第2の視覚表示を作成する工程を含み、前記第2の視覚表示は、複数の模式的表示を使用して前記幾つかの組織画像の細胞の間での空間依存性を示す画像を含み、各模式的表示は、前記所定のバイオマーカー強度パターンの1つに対応し、各細胞は、前記模式的表示の一つのみによって前記第2の視覚表示に表示される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記
優勢バイオマーカー強度パターンのセットは、
バイオマーカー強度レベルの閾値を用いて、前記
コントロールデータを第1のデータ区画と第2のデータ区画に区画すること、
前記第1のデータ区画について第1のスパース信号表示及びデータ復元を導き出すことにより前記第1のデータ区画から
優勢バイオマーカー強度パターンの第1のセットを
得ること、
前記第2のデータ区画について第2のスパース信号表示及びデータ復元を導き出すことにより前記第2のデータ区画から
優勢バイオマーカー強度パターンの第2のセットを
得ること、及び
前記第1のスパース信号表示及びデータ復元と前記第2のスパース信号表示及びデータ復元とのクロス検証を用いて、前記
優勢バイオマーカー強度パターンの第1のセット及び前記
優勢バイオマーカー強度パターンの第2のセットから、前記
優勢バイオマーカー強度パターンのセットを決定すること
により、前記
コントロールデータから
得たものである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
命令を含む1以上のプログラムを格納する非一時的なコンピュータ可読媒体であって、コンピュータによって実行された場合、当該コンピュータに請求項1に記載の方法を実行させる、媒体。
【請求項10】
組織画像において腫瘍内細胞空間的不均一性を定量化するコンピュータシステムであって、
処理装置を備えており、当該処理装置は、
幾つかの組織画像を表す画像データで細胞セグメント化を行い、前記幾つかの組織画像の複数の細胞を特定する工程を行うように構成された細胞セグメント化コンポーネントと、
各細胞を、複数の所定のバイオマーカー強度パターンの1つのみに割り当てる工程であって、前記複数の所定のバイオマーカー強度パターンが、細胞セグメント化されたコントロール画像のセットから得られたコントロールデータから
得た優勢バイオマーカー強度パターンのセットであり、前記コントロールデータが、各コントロール画像について、前記コントロール画像内の各細胞に関する複数の所定のバイオマーカーのそれぞれの強度レベルを含む工程を行うように構成された割当てコンポーネントと、
割り当てられた所定のバイオマーカー強度パターンに基づいて、前記幾つかの組織画像の空間的統計を定量化する工程であって、前記幾つかの組織画像における空間的腫瘍内不均一性を定量化するための空間的統計として自己相互情報量を導き出すことを含む工程を行うための定量化コンポーネントと、
定量化された空間的統計の視覚表示を作成するための視覚表示作成コンポーネントと、
を含むシステム。
【請求項11】
前記定量化コンポーネントは、空間ネットワークを構築し、前記幾つかの組織画像における前記所定のバイオマーカー強度パターンの構成を記述することにより前記空間的統計を定量化し、前記所定のバイオマーカー強度パターンの各ペアについて、自己相互情報量をコンピュータで計算することによって前記幾つかの組織画像の不均一性を定量化するために構成され、前記視覚表示は、前記所定のバイオマーカー強度パターンの各ペアについてコンピュータで計算された自己相互情報量に基づくものである、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記視覚表示は、複数のエントリを有するPMIマップであり、前記PMIマップは、前記所定のバイオマーカー強度パターンの間の関係を記述する、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
組織画像において腫瘍内細胞空間的不均一性を定量化するコンピュータシステムであって、
処理装置を備えており、当該処理装置は、
幾つかの組織画像を表す画像データで細胞セグメント化を行い、前記幾つかの組織画像の複数の細胞を特定する工程を行うように構成された細胞セグメント化コンポーネントと、
各細胞を、複数の所定のバイオマーカー強度パターンの1つに割り当てる工程を行うように構成された割当てコンポーネントと、
割り当てられた所定のバイオマーカー強度パターンに基づいて、前記幾つかの組織画像の空間的統計を定量化する工程を行うように構成された定量化コンポーネントと、
定量化された空間的統計の視覚表示を作成する視覚表示作成コンポーネントと、
を含み
前記定量化コンポーネントは、空間ネットワークを構築し、前記幾つかの組織画像における前記所定のバイオマーカー強度パターンの構成を記述することにより前記空間的統計を定量化し、前記所定のバイオマーカー強度パターンの各ペアについて、自己相互情報量をコンピュータで計算することによって前記幾つかの組織画像の不均一性を定量化するために構成され、
前記視覚表示は、前記所定のバイオマーカー強度パターンの各ペアについてコンピュータで計算された自己相互情報量に基づくものであり、
前記視覚表示は、複数のエントリを有するPMIマップであり、前記PMIマップは、前記所定のバイオマーカー強度パターンの間の関係を記述し、
各エントリは、2つの前記所定のバイオマーカー強度パターンの間の特定の空間的相互関係が、全ての所定のバイオマーカー強度パターンにわたるランダム分布により予測される相互関係と比較して、画像データにおいてどの程度の頻度で起こるかを示す、
システム。
【請求項14】
1又は複数の前記エントリは、所定のバイオマーカー強度パターン間で強い空間的関連性を表す第1色で描かれ、1又は複数の前記エントリは、所定のバイオマーカー強度パターン間で弱い空間的関連性を表す第2色で描かれる、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記エントリは、複数の行と複数の列に配置される、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
さらに、第2の視覚表示を作成するための視覚表示作成コンポーネントを含み、前記第2の視覚表示は、複数の模式的表示を使用して前記幾つかの組織画像の細胞の間での空間依存性を示す画像を含み、各模式的表示は、前記所定のバイオマーカー強度パターンの1つに対応し、各細胞は、前記模式的表示の一つのみによって前記第2の視覚表示に表示される、請求項
10に記載のシステム。
【請求項17】
前記
優勢バイオマーカー強度パターンのセットは、
バイオマーカー強度レベルの閾値を用いて、前記
コントロールデータを第1のデータ区画と第2のデータ区画に区画すること、
前記第1のデータ区画について第1のスパース信号表示及びデータ復元を導き出すことにより前記第1のデータ区画から
優勢バイオマーカー強度パターンの第1のセットを
得ること、
前記第2のデータ区画について第2のスパース信号表示及びデータ復元を導き出すことにより前記第2のデータ区画から
優勢バイオマーカー強度パターンの第2のセットを
得ること、及び
前記第1のスパース信号表示及びデータ復元と前記第2のスパース信号表示及びデータ復元とのクロス検証を用いて、前記
優勢バイオマーカー強度パターンの第1のセット及び前記
優勢バイオマーカー強度パターンの第2のセットから、前記
優勢バイオマーカー強度パターンのセットを決定すること
により、前記
コントロールデータから
得たものである、請求項10に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、米国特許法第119条e項の下、2015年6月11日に出願された、発明の名称が「A Common Framework for Finding Regions of Interest in Hematoxylin and Eosin (H&E) Stained Tissue Images and Quantifying Intratumor Cellular Spatial Heterogeneity in Multiplexed/Hyperplexed Fluorescence Tissue Images」である米国仮出願第62/174,187号に基づく優先権を主張しており、その内容は引用を以て本明細書に組込まれる。
【0002】
本発明は、デジタルパソロジー(digital pathology)に関しており、特に、ヘマトキシリン・エオシン(H&E)で染色された組織画像中の関心領域を調べるための、そして、多重化/高多重化(multiplexed/hyperplexed)蛍光組織画像における腫瘍内細胞空間的不均一性を定量化するための共通のフレームワークに関する。
【背景技術】
【0003】
デジタルパソロジーとは、組織学的に染色された組織試料の取得、保存及び表示を言い、最初に、セカンドオピニオン遠隔病理診断、免疫染色判断や術中遠隔病理診断のようなニッチな用途で注目を集めつつある。通常、3~50個のスライドで構成される大量の患者データが生検標本から作られて、顕微鏡下で病理医により目視で評価されるが、デジタル技術を用いると高解像度モニターで検分される。手作業が含まれるために、現在のワークフローの実務は、時間がかかり、間違えやすく、主観的である。
【0004】
癌は不均一性疾患(heterogeneous disease)である。ヘマトキシリン・エオシン(H&E)で染色された組織画像は、不均一性は、上皮内癌、浸潤癌、脂肪組織、血管及び正常な管のような種々の組織学的構造の存在で特徴付けられている。腫瘍内不均一性及び腫瘍間不均一性の両方に対するプレシジョン・メディシンアプローチの1つは、生検組織の配列を決定し、そして、具体的には各患者について疾患関連ゲノム・シグネチャーのパネルと単一の患者の腫瘍の明確な領域とを特定することである。しかしながら、ゲノム/エピゲノム・プロファイリングには、組織の粉砕又は腫瘍から複数のコア試料の取出しの何れかをする必要があり、時間がかかり、不均一状態を理解するには解像度が低い。種々の組織学的構造間の空間的相互関係は、疾患の兆候を示す。例えば、(浸潤)血管に成長する腫瘍巣は、転移のリスクが高まっていることを示唆する。従って、組織学的構造の正確なセグメント化は、空間的相互関係マップの構築を助けることで、ディープ・モレキュラー・プロファイリングのためにタンパク質、DNA及びRNAバイオマーカーを組み合わせるプレシジョン・メディシン調査を容易にする。更に、この空間的相互関係マップは、病理医には探索ツールとして、又は、更なる分子プロファイリングには顕微解剖へのガイドとして役に立ち得る。
【0005】
正常な管や上皮内癌のような構造は明確な境界を有するが、浸潤癌やストロマのような他の多くのものは明確な境界を持たないために、組織学的構造セグメント化はかなり困難な仕事となる。また、構造形態は、組織源(例えば、胸対肺)と、組織標本手法及び染色手法とに大きく依存する。歴史的には、核は全てのより高いレベルの組織構造に関してブロックを構築しているので、生物学的画像分析の研究報告は、核をセグメント化することに注目してきた。より最近の方法は、核-内腔関連性(nuclei-lumen association)、領域成長、マルコフ確率場と組み合わせた領域ベース動的輪郭、及び深層学習に基づくアプローチを用いた、前立腺及び胸部の組織画像における腺のような他の組織学的構造のセグメント化にまで広がっている。他の幾つかのアプローチは、症状特異エクストラクタ(extractor)及び臓器特異エクストラクタを設計して、MITOS(有糸分裂像)及びGlaS(腺)のような一般に利用可能なデータセットの分析を促進する。例えば、代表的な腺のセグメント化の方法は、最初に内腔を特定する工程と、次いで細胞の周囲上皮層をサーチする工程とを含んでいる。しかしながら、この方法は、導管腔が腫瘍細胞により完全に満たされている非浸潤性乳癌の場合には使えない。基本的な数学的基礎理論は、H&E画像の管理されたセグメント化を発展させてきたが、その基礎理論は、2,3以上の例を超えて試験されてこなかった。
【0006】
さらに、多くの悪性腫瘍においては、分子細胞不均一性は、異なる患者の腫瘍の間で、1人の患者の腫瘍の異なる部位間で、及び単一の腫瘍内において、際立った特徴となる。腫瘍内不均一性は、腫瘍微小環境(TME)を含む、表現型的に異なる癌細胞クローン亜集団と他の細胞型とに影響を及ぼす。これらの癌細胞クローン亜集団及び他の細胞型には、局所的な骨髄由来ストロマ的幹細胞及び前駆細胞と、腫瘍促進又は腫瘍致死の何れかである免疫炎症性細胞のサブクラスと、癌関連線維芽細胞と、内皮細胞と、周皮細胞とがある。TMEは、発展する生態系と見ることができ、そこでは、癌細胞がこれら他の細胞型との異型相互関係にかかわり、利用可能な資源を使用して増殖し、生き延びる。この考えに則って、TME内の細胞型の間の空間的相互関係(即ち、空間的不均一性)は、疾患進行及び治療抵抗の主な駆動機構の1つと思われる。従って、TME内の空間的不均一性を明らかにして、特定の疾患サブタイプを正しく決定し、個々の患者の最適な治療コースを特定することは是非とも必要なことである。
【0007】
今日まで、腫瘍内不均一性は、3つの主要なアプローチを使用して調査されてきた。第1のアプローチは、腫瘍の特定領域からコア試料を採取し、集団平均を測定する。試料の不均一性は、全エクソーム解析、エピジェネティクス、プロテオミクス、及びメタボロミクスなどの複数の技術を使用して、腫瘍内の複数のコアを分析することにより測定される。第2のアプローチは、組織からの細胞の分離後に、上記の方法、RNASeq、画像化又はフローサイトメトリーを使用する「単一細胞分析」を含んでいる。第3のアプローチは、光学顕微鏡画像化の空間分解能を利用して空間コンテクストを維持し、分子特異的ラベルと組み合わされて生体内の細胞のバイオマーカーを測定するものである。
【0008】
光学顕微鏡画像化を利用する空間分析によれば、細胞レベル及び細胞下レベルで、大領域の組織セクション及び/又は複数の腫瘍マイクロアレイセクションの分析が容易になる。例えば、細胞下レベルの分解能により、特定のバイオマーカーの活性化状態(例えば、転写因子の核への転移)の特定が可能になる。加えて、質量分析画像化における近年の発展によれば、多くの細胞構成要素の組織セクションに亘る測定を光学顕微鏡よりも低い分解能で行うことができる。
【0009】
透過光及び蛍光発光を含む腫瘍内の細胞バイオマーカー発現レベルを特徴付けるために、数種の光学顕微鏡画像化プラットフォームが開発されている。DNA、RNA及びタンパク質バイオマーカー、通常同じ試料内に1~7個までの蛍光標識された(多重化蛍光発光として知られる)バイオマーカーに基づく大領域組織セクション及び組織マイクロアレイ(TMA)の画像から、蛍光発光に基づく多変量情報が取得されている。現在、幾つかの市販のプラットフォームを使用して、取得し、処理し、セグメント化し、組織試料のバイオマーカーの信号レベルの幾つかの基本的な分析を行うことができる。近年、標識化、画像化及び蛍光発光のクエンチの反復サイクルにおいて、60種までの蛍光標識された抗体と、数種のDNA又はRNA交雑プローブとを取得可能なプラットフォームが実証されている。また、現在、組織セクション及びTMAにおける細胞外構成要素だけでなく、特異的細胞型の位置、細胞活性化の状態、細胞バイオマーカー発現レベル及び部位を「マップする」ことも可能である。
【0010】
主たる課題は、バイオマーカーのパネルに基づいてTME内の重要な空間的関係(相互関係及びその欠落)を定量化できるアルゴリズムを開発することである。組織セクションの不均一性の測定における初期の試みは、シャノンエントロピーやラオの二次エントロピーのような生態学的研究からのダイバーシティメトリック(diversity metrics)を適用した。しかしながら、これらの方法は、多重化(7種までのバイオマーカー)又は高多重化(7種を超えるバイオマーカー)免疫蛍光(IF)データには適切でなかった。高次元データを説明する他の方法には、各バイオマーカーを「オン」又は「オフ」のみにする精巧な細胞表現型方法がないかもしれない。さらに、これらの方法が、不均一性スコアにおいてバイオマーカー・パターン間に空間的関係を組み入れることはほとんどない。実際、TMEの空間組織は、癌細胞及び非癌細胞から選択されたバイオマーカーの発現レベルに加えて、重要な診断バイオマーカーであると仮定されてきた。
【0011】
他の不均一性特徴化方法は、(i)ネットワークベースのアプローチの使用や多重化の利点を得ることなく、関心領域のサンプリングにより空間情報を組み入れており、(ii)非線形関連性や空間情報を考慮せずに、多重化/高多重化IFデータでバイオマーカー間の線形関係を分析しており、(iii)腫瘍内の空間構成の特徴付けをすることなく、多重化細胞表現型の関連性を特徴付けてきた。さらに、他の方法の大半は、腫瘍内不均一性を単一のスコアとして報告しており、従って、TMEの2つの空間的に異なる構成を誤って同じスコアにマッピングすることもあり得る。
【0012】
故に、多重化/高多重化蛍光組織画像における、H&E画像のセグメント化及び腫瘍内細胞空間的不均一性の定量化の分野には、改良の余地がある。
【発明の概要】
【0013】
ある実施形態では、H&E染色組織画像において関心領域を特定する方法が提供される。その方法は、H&E染色組織画像を表す画像データを受け取る工程と、受け取った画像データに基づいて、H&E染色組織画像について局所的空間的統計を定量化する工程と、局所的空間的統計に基づいて、H&E染色組織画像内の組織学的構造を特定する工程と、受け取った画像データ及び特定した組織学的構造を使用して、セグメント化H&E染色組織画像を生成する工程とを含んでいる。
【0014】
別の実施形態では、コンピュータによって実行された場合、コンピュータに上記の方法を行わせる命令を含む1以上のプログラムを格納する非一時的なコンピュータ可読媒体が提供される。
【0015】
さらに別の実施形態では、H&E染色組織画像において関心領域を特定するコンピュータシステムが提供される。そのシステムは処理装置を含んでおり、当該処理装置は、(i)H&E染色組織画像を表す受け取った画像データに基づいて、H&E染色組織画像に関する局所的空間的統計を定量化するように構成された定量化コンポーネントと、(ii)局所的空間的統計に基づいて、H&E染色組織画像の組織学的構造を特定するように構成された特定コンポーネントと、(iii)受け取った画像データ及び特定した組織学的構造を使用して、セグメント化H&E染色組織画像を生成するように構成されたセグメント化組織画像生成コンポーネントとを含む。
【0016】
さらに別の実施形態では、蛍光組織画像にて腫瘍内細胞空間的不均一性を定量化する方法が提供される。その方法は、幾つかの蛍光組織画像を表す画像データを受け取る工程と、受け取った画像データで細胞セグメント化を行い、幾つかの蛍光組織画像にて幾つかの細胞を特定する工程と、各細胞を複数の所定のバイオマーカー強度パターンの1つに割り当てる工程と、割り当てられた所定のバイオマーカー強度パターンに基づいて、幾つかの蛍光組織画像の空間的統計を定量化する工程と、定量化された空間的統計の視覚表示を作成する工程とを含む。
【0017】
別の実施形態では、コンピュータによって実行された場合、当該コンピュータに上記の方法を行わせる命令を含む1以上のプログラムを格納する非一時的なコンピュータ可読媒体が提供される。
【0018】
さらに別の実施形態では、蛍光組織画像にて腫瘍内細胞空間的不均一性を定量化するコンピュータシステムが提供される。そのシステムは処理装置を含んでおり、当該処理装置は、(i)幾つかの蛍光組織画像を表す画像データで細胞セグメント化を行い、幾つかの蛍光組織画像における幾つかの細胞を特定するように構成された細胞セグメント化コンポーネントと、(ii)各細胞を複数の所定のバイオマーカー強度パターンの1つに割り当てるように構成された割当てコンポーネントと、(iii)割り当てられた所定のバイオマーカー強度パターンに基づいて、前記幾つかの蛍光組織画像の空間的統計を定量化する定量化コンポーネントと、(iv)定量化された空間的統計の視覚表示を作成する視覚表示作成コンポーネントとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】
図2は、H&E色相空間に変換した
図1のH&E画像であって、ヒートマップ(左)及び角度ヒストグラム(右)として示されている。
【
図3】
図3は、本開示概念の一態様による第1のセグメント化方法を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、本開示概念の一態様による第2のセグメント化方法を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、本開示概念の一態様による一組の
優勢バイオマーカー強度パターンを構築する方法を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、バイオマーカー強度分布グラフを示しており、縦軸は、本明細書で記載される方法で使用される例示的なバイオマーカーについて2つの異なるレジームL1及びL2を示している。
【
図7】
図7は、
図6に示す2つのバイオマーカー強度レジームL1及びL2について、それぞれ得られたパターン辞書を示す。
【
図8】
図8は、L1レジームの細胞集団からのバイオマーカー・データの3D表示を示しており、各細胞は、辞書中の唯一のパターンに属するようにフェノタイプ化されており(phenotyped)、別々の色で示されている。
【
図9】
図9は、バイオマーカー強度レジームL1及びL2のパターン辞書の最適寸法の決定を示す。
【
図10】
図10は、レジームL1及びL2のパターン辞書の統合を示す。
【
図11】
図11は、例示的な実施形態による多重化/高多重化蛍光組織画像の空間的不均一性を定量化する方法のステップを示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、例示的な実施形態により使用される所定の
優勢バイオマーカー強度パターンの模式的表示を示す。
【
図13】
図13は、例示的な実施形態による細胞空間依存画像を示す。
【
図14】
図14は、例示的な実施形態によるPMIマップを示す。
【
図15】
図15は、代表的な細胞空間依存画像及びPMIマップを示す。
【
図16】
図16は、代表的な細胞空間依存画像及びPMIマップを示す。
【
図17】
図17は、代表的な細胞空間依存画像及びPMIマップを示す。
【
図18】
図18は、本明細書に記載したH&E画像をセグメント化する手順を実施するシステムの概略図である。
【
図19】
図19は、本明細書に記載する腫瘍内空間的不均一性を定量化する手順を実施するシステムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書で使用されるように、単数形「1つ」及び「その」は、別段の明確な記載がない限り、複数形態も述べている。
【0021】
本明細書で使用されるように、2つ以上の部分又は要素を「結合する」という記載は、1つ以上の中間部分又は要素を介して、それらの部分が、直接又は間接的に、繋げられる又は共に動作することを意味する。
【0022】
本明細書で使用されるように、用語「幾つか」は、1又は2以上の整数(即ち、複数)を意味する。
【0023】
本明細書で使用されるように、用語「コンポーネント」及び用語「システム」は、ハードウェア、ハードウェアとソフトウェアの組合せ、ソフトウェア、又は実行されているソフトウェアのようなコンピュータに関連したエンティティを意味する。例えば、コンポーネントは、プロセッサ上で作動するプロセス、プロセッサ、オブジェクト、実行可能なファイル、実行の脈絡、プログラム及び/又はコンピュータであり得るが、これらに限定されない。例としては、サーバで作動するアプリケーション及びサーバはどちらもコンポーネントであり得る。1つ以上のコンポーネントが、実行プロセス及び/又はスレッド内に存在してよく、1つのコンポーネントが、1つのコンピュータに局在してよく及び/又は2つ以上のコンピュータに配置されてよい。本明細書では、ユーザに情報を表示する幾つかの方法は、幾つかの図又はグラフについてスクリーン又はスクリーンショットとして示されて、説明されているが、当業者は、種々の他の代替法を使用できることを理解するだろう。スクリーン又はスクリーンショットは、表示記述として、グラフィカル・ユーザ・インターフェースとして、又はスクリーン(例えば、パーソナル・コンピュータ、PDA、携帯電話、又は他の適切なデバイスのどれか)に情報を描写するその他の方法によって保存及び/又は転送され、ここで、ページに表示されるレイアウト及び情報又はコンテンツは、メモリ、データベース、又は別の格納場所に保存される。また、スクリーン又はスクリーンショットは、必要に応じて、プリントされてもよい。
【0024】
本明細書で使用されるように、用語「スーパーピクセル」は、同様な画像統計を有するピクセルのコヒーレントパッチ又はグループを意味する。
【0025】
本明細書で使用する方向を示す表現は、例えば、上、底、左、右、上部、下部、前、後、及びこれらの派生語であってこれらに限定されないが、図に示された要素の方向を示しており、明示的に述べられていない限り、特許請求の範囲を限定するものではない。
【0026】
<A.H&E染色組織画像のセグメント化>
開示されている概念の第1態様は、特に、浸潤癌のような胸部組織、上皮内癌、非定型及び正常管、脂肪組織及び/又はリンパ球のような組織のH&E染色画像における組織学的構造のセグメント化でのデジタル・パソロジー・システムの機能及び動作の改良(例えば、処理能力の改良)に焦点を当てている。本発明者らは、空間画像統計は、組織学的構造の広範なクラスをセグメント化するための判別可能なフィンガープリントを与えると仮定した。本明細書においてより詳しく記載する本開示概念のこの態様は、2つのグラフ理論的セグメント化方法を提供しており、各々は、局所的空間的統計の特徴付けに依存している。
【0027】
第1の方法では、グラフの各ノードは画像のピクセルに対応しており、エッジは2つのノードが同じグループに属する強さに対応している。エッジの強さは、H&E画像におけるピンクと紫の染色の間の分離を強調するように作られた反対色空間において、二変量フォン・ミーゼス混合分布の形で、ペアをなすピクセル統計を測定することによって決定される。スペクトル法がグラフを区分化するのに使用される。第1の方法は、はっきりした境界を有する構造(例えば、脂肪組織及び血管)のセグメント化においてより成功することが期待される。
【0028】
第2の方法は、無定型な空間範囲を有する組織学的構造(例えば、腫瘍巣)を抽出するのに好適に設計されている。この策では、仮想の核中心が、H&E画像における核の空間分布を取得するために作成されるグラフのノードとなる。核間空間距離にデータ駆動閾値(data-driven thresholds)を適用することにより、ネットワークは、均質な画像パッチに区分される。
【0029】
本明細書で記載する2つのセグメント化方法は、2つの共通エレメント、即ち、反対色表示及び外見正規化(appearance normalization)を有しており、これらはそれぞれ、以下に詳細に記載される。セグメント化方法は、これらが画像統計をどのようにして取得し、及び方法を区画するグラフにこれらをどのようにしてはめ込むかで相違する。その方法のこれらの態様は、本明細書で個別に記載される。
【0030】
公知の典型的な反対色(反対色軸として赤-緑、黄-青を有する)色相-彩度-明度(HSV)変換が、H&Eからの赤-緑-青(RGB)画像に適用される場合、ピンクと紫の範囲は、色環の青-赤四分円に限定される。本開示概念のこの態様の目的は、下流の空間分析パイプラインがより強固になるように、ピンクと紫の色の間の分離を強調することである。このために、色空間の構築が最適化されて、ピンク及び紫の色が反対に配置される。具体的には、例示的な実施例では、専門家は、ピンク及び紫のピクセルの集まりを選択することを許された。次いで、特異値分解がデータのこの集まりで行われて、サイズ3×3の直交射影行列が得られた。本開示概念のこの態様は、反対空間HSVのように、投影座標に特定の解釈をもたらす。具体的には、第1の特異ベクトル(非負の値を有するように強制されている)上への投影は、H&E-輝度値bを得る。残り2つの投影座標c2及びc3は、H&E-彩度s=sqrt(c
2
2+c
3
2)と、H&E-色相θ=tan
-1(c
2+ic
3)である複素面を形成する。この構成から、紫及びピンクのピクセルの色相値は、複素色面において最大限に分離されると予測される。例として、ここで、試料H&E染色画像である
図1のピンク及び紫のピクセルの平均色相値における角度差は、
図2に示すように、1:7ラジアンであって、
図1のH&E画像をH&E色相空間に変換したものであって、
図2は、ヒートマップ(左)及び角度ヒストグラム(右)を示している。この広がりは、標準HSV反対色空間から得られる約0:4ラジアンの値を超えている。彩度が低い場合、色相値は不安定である。これは、複素面の基点にマップされたピクセルに関して正しい(c
2;c
3≒0)。典型的なHSV表示においては、全ての白のピクセルは、低い彩度値を持ち、従って不安定な色相角を有するだろう。ここで留意すべきは、脂肪組織、内腔、組織の裂け目、及び収縮のため、白のピクセルはH&E画像の重要な部分を形成できることである。本開示概念のこの態様の反対色表示では、専門家が選択したピンク/紫のピクセルの集まりからの回転行列を知得することで、白のピクセルに、より高い彩度値及びより安定な色相角を与えることができる。しかしながら、複素面の基点にマップする、低い彩度値(例えば、<0:005)を有するピクセルの集団があるだろう。この集団は、使用されたサイズ2K×2KのH&E画像については約0:3%と経験的に推定される。
【0031】
加えて、区分化、染色及び画像化におけるばらつきは、H&E画像のカラーアピアランスの変化となる。従って、例示的な実施形態では、データは正規化される。従来の正規化方法は、非負値行列因子分解のような染色ベクター評価法(stain vector estimation methods)を利用していた。これらの方法は、幾つか画像の色分布がほとんど紫又はほとんどピンクにひどく傾くので、本開示概念のこの態様については効果がないことが分かった。本発明者らは、2つの画像のカラーアピアランスは、これらの色統計量がマッチするならば、類似すると仮定した。しかしながら、ソース画像及びターゲット画像における全ピクセル集団の統計量をマッチングさせることは、意図しないアーチファクトをもたらす可能性がある。例えば、もしソース画像が主としてピンクのピクセル(ストロマ)を有しており、ターゲット画像が主として紫のピクセル(浸潤癌)を有するならば、ソース画像統計量のターゲット画像統計量へのマッチングは、ソース画像中の多くのピンクのピクセルを紫に変えてしまい、ストロマから核へとこれらのピクセルの細胞要素の素性を間違って変化させるだろう。この問題に対処するために、ピンク(エオシン)、紫(ヘマトキシリン)、及び白(例えば、脂肪、収縮)である3つのクラスのピクセルが最初に特定されて、統計量は、これらのクラスの各々について、別々にマッチングされる。3つのクラスを特定するため、H&E画像は、説明したように、H&E-色相チャネル、H&E-彩度チャネル、及びH&E-明度チャネルに変換される。H&E-色相空間は角度があり、この空間のピンク、紫及び白のピクセルのクラウドの間に分離が与えられると、色相値は、一変量フォン・ミーゼス分布の混合を用いてモデル化される。角統計の一変量フォン・ミーゼス分布は、線形統計の一変量正規分布の等価相対物である。フォン・ミーゼス分布は、2つのパラメータ、つまり、平均 -π<μ≦πと、濃度パラメータ κ>0とを特徴とし、f(x)={2κI
0(κ)}
-1expκcos(x-μ)(式中、I
0(κ)は、0次の第1種変形ベッセル関数である)で表される。K一変量フォン・ミーゼス分布の混合は、下式で表される。
【数1】
ここで、m
kは、事前確率であり、μ
k及びκ
kは、平均パラメータ及び濃度パラメータである。低い彩度値及び不安定な色相角を有するピクセルを明示的に構成するために、均一な角ノイズが、事前確率が約0.3%である追加の混合要素として加えられる。一変量フォン・ミーゼス混合のパラメータを、期待値最大化(EM)アルゴリズムを用いて求めることができる。分布の統計は、モーメントの無限集合を特徴とし得る。しかしながら、例示的な実施形態においては、分析の便宜のため、モーメントは、4次(平均、標準偏差、歪度、尖度)までのみをコンピュータで計算される。各チャネルにおいて、ソース画像からの各ピクセルクラスのモーメントが、ターゲット画像にマッチされる。例えば、ソース画像における紫のピクセルのモーメントは、全3チャネル中のターゲット画像における紫のピクセルのモーメントにマッチされる。H&E反対色空間中の統計量を正規化した後、得られたピクセル値は、上記の回転行列の逆関数を使用して、(正規化RGBデータを生成するために)RGB空間に変換される。
【0032】
2つのセグメント化方法の2つの共通エレメント、即ち、反対色表示及びアピアランスの正規化を説明した。次に、各セグメント化方法の残りを詳細に記載する。各セグメント化方法においては、正規化画像データが入力として使われる。具体的には、正規化H&E-色相データは、第1の方法において入力として使用され、正規化RGBデータは、第2の方法において入力として使用される。
【0033】
第1の方法に関して、正常な胸部組織は、それぞれが細胞の集合体である小領域の管を取り囲む、ピンクで染色された大領域の結合組織(CT)を有する。これらの細胞の核は暗い紫に染色されるであろうが、核からの紫の染色が細胞質に波及し得るので、核を取り巻く細胞質は、ピンク及び紫の混合を示す。統計学的に言えば、これらの核の何れかにあるならば、核を表す紫のピクセルと細胞質を表すピンク-紫のピクセルとに囲まれると予測されるであろう。これらの細胞が管構造物を構成するならば、各細胞の特定の近隣において、類似の特性を発揮する他の細胞が見つかるはずである。一方、通常は結合組織中に散乱するのが見られるものが線維芽細胞核にあるなれば、その近隣で、ほとんどピンクのピクセルを見つけるであろう。管のような構造内の統計的関連性はその境界のところより高いと仮定すれば、結合組織のあちこちに散乱した線維芽細胞を無視して、管をセグメント化できるはずである。
【0034】
一変量フォン・ミーゼス分布の混合を使用することで、画像ピクセルを、ピンク、紫及び白のクラスに分離することができるが、腺/管のような組織学的構造の輪郭を描くには、これらの構造は3つのクラスの全てからのピクセルを含むので、不充分である。本開示概念のこの態様では、これらの構造をセグメント化するために、管のような構造内における統計的関連性はその境界にわたるよりも高いと仮定され、この統計的関連性が、二変量フォン・ミーゼス分布の混合を使用して、本開示概念のこの態様によってモデル化される。H&E-色相は角変数なので、2つの隣接ピクセルからの色相値の同時分布P(A,B)は、トーラス上にある。この同時密度は、二変量フォン・ミーゼス分布の混合としてモデル化される。H&E-色相空間におけるピクセルA及びBの値を、それぞれφ及びψとする。2つの角変数-π<φ≦π及び-π<ψ≦πの二変量分布は、fc(φ,ψ)=Ccexp[κ1cos(φ-μ)+κ2cos(ψ-ν)-κ3cos(φ-μ-ψ+ν)]となる。ここで、μ、υは平均であり、κ1、κ2>0は、それぞれ、φ及びψの濃度であり、κ3は相関係数であり、Ccは正規化定数である。完全な二変量フォン・ミーゼスモデルは8つのパラメータを有するが、例示的な実施形態では、正の相互関係を有する縮小された5パラメータ・コサイン・モデルを使用する。周辺密度は、fc(ψ)=Cc2πI0(κ13)(ψ)exp{κ2cos(ψ-ν)}である。κ3の値は、分布が単峰性であるか二峰性であるかを示す。具体的には、κ1>κ3>0及びκ2>κ3>0である場合において、κ3<κ1κ2/(κ1+κ2)であれば、同時密度は単峰性であり、κ3>κ1κ2/(κ1+κ2)であれば二峰性である。
【0035】
H&E-色相空間におけるH&E画像の隣接ピクセルの値を考慮する場合、トーラス上塊には最大で6つの可能性、即ち、紫-紫、ピンク-ピンク、白-白、及び3つの異なる対相互関係がある。この同時分布をモデル化するために、6個の単峰性二変量フォン・ミーゼス分布の混合を使用する。K個の二変量フォン・ミーゼス分布の混合モデルは、下式によってパラメータで表すことができる。
【数2】
μ
i、ν
i、κ
1i及びκ
2iの初期値は、画像の全ピクセルに関する一変量フォン・ミーゼスの混合から作成される。濃度パラメータκ
1i及びκ
2iと、相関パラメータκ
3iとは、f
iに関する単峰性条件を満たす。κ
3iは、楕円形パターン(試料化されたデータで観察される)の歪みを回避するために、-1と1の間の値を有するよう拘束される。上記の制約と合わせて、混合のパラメータは、EMアルゴリズムによって推定される。先に論じた様に、混合モデルの多くても6つの要素が存在するので、明確なモデル選択のステップは、混合モデルに関して保障されない。H&E画像が3つの基本色、つまり、紫、ピンク及び白の何れか1つを欠く場合、その色に関連した事前確率又はクラスターの混合比は、0に近くなるであろう。
【0036】
H&E反対色空間における隣接ピクセルの色相角間の統計的依存性をモデル化することを考える。同時確率を統計的関連性の尺度として使用する場合、結合組織におけるピンク-ピンクのピクセルペアは、管内部の紫-紫のピクセルペア又はCT-管の境界にわたったピンク-紫のピクセルペアよりも高い確率を有することが分かるかも知れない。しかしながら、幾つかのH&E画像ではピンクが過剰であるために、CT-管境界にわたったピンク-紫のピクセルペアの組合せは、管内部の紫-紫のピクセルペアと同じ又はそれより高い確率を有することもある。ピンク-ピンクのペアは最も高い同時確率を持ち、紫-紫ペアは紫-ピンクペアと同様な同時確率を有することもある。換言すれば、同時確率は正しい境界を探知するには十分ではないかもしれない。これは、相互情報量(MI)を使用して、相対的存在量を修正することで改善できる。MIをコンピュータで計算するために、下式の特徴
【数3】
(例えば、H&E-色相角)を有する複数のピクセルペア(A,B)を、閾値未満の距離内にある画像の全ての場所から無作為に選択する。距離dだけ離れた特徴A及びBの同時確率は、P(A,B;d)で表される。全体的な同時確率は、下式で規定される。
【数4】
dの値は、パラメータσに依存しており、具体的には、d=2+2|r|であり、ここで、r~Ν(0,σ)である。核は、10倍の倍率で直径が約15ピクセルである。セグメント化アルゴリズムは核の集合体をターゲットとするので、サンプルのピクセルペアの間の距離は、少なくとも核の直径をカバーすべきである。故に、σは3に設定される。自己相互情報量(pointwise mutual information)(PMI)は、二変量フォン・ミーゼス分布の混合によってモデル化された同時確率と、一変量フォン・ミーゼス分布の混合によってモデル化された周辺確率P(A)及びP(B)とによって計算される。具体的には、下式となる。
【数5】
例示的な実施形態では、log[P(A,B)
ρ/{P(A)P(B)}]の上限について正規化するために、ρ=2とされる。
【0037】
さらに、親和性関数が、PMIから規定されて、2つのピクセルを同じ組織学的構造にグループ化する尤度を示す。エレメントw
i,jを有する親和性行列Wは、ピクセルi及びjの間の類似性を表す。ここで、
【数6】
である。親和性関数は、標準スペクトルグラフセグメント化方法に対して入力として使用される。当該方法は、自然画像をセグメント化する現状技術であって、例えば、Arbelaez, P.らの「Contour Detection and Hierarchical Image Segmentation」、IEEE TPAMI、33(5)、898-916(20122)に記載されている。親和性行列Wから、一般化システムの固有対
【数7】
は、下式とわかる。
【数8】
主固有ベクトルマップ(小さい固有値)は、潜在的な組織学的構造の境界位置を示す。周知のように、単一固有ベクトルは、複素画像における全ての可能性のある境界を取得できないだろう。従って、通常の実施では、多数の主固有ベクトルの方向空間微分からエッジ強さマップが計算される。後処理ステップが、擬似境界ピクセルを削除するために使用される。
【0038】
図3は、詳細に説明した第1セグメント化方法をまとめたフローチャートである。その方法は、対象スライドに関する正規化H&E-色相データを受け取るステップ5で始まる。次に、ステップ10で、H&E-色相データにおける複数の隣接ピクセル間の正規化H&E-色相値の同時分布が推定される。次いで、ステップ15で、正規化H&E-色相データに関するPMIが、推定された同時分布に基づいて計算される。ステップ20にて、親和性関数が、計算されたPMIから規定される。最後に、ステップ25で、対象スライドにおける組織が、親和性関数及びスペクトルグラフセグメント化方法(スペクトラルクラスタリングとしても知られている)を使用してセグメント化される。
【0039】
第2セグメント化方法に関して、局所的空間的統計は、胸部組織における種々の組織学的構造間で変化する。例えば、腺管上皮内癌の細胞の凝集は、それらの境界が互いに極めて近接するように集まる傾向にある。これは、生体内腫瘍が増殖するが、管内部に留まるからである。一方、浸潤癌における上皮細胞は、空間的に遠く離れている。それらはまた、増殖するが、胸部ストロマに自由に侵入できて、管内に制限されない。正常な管の局所統計はより規則正しく、特に正常な上皮(内部)及び筋上皮細胞(外側)は、空洞(内腔)を取り囲む2つの層を形成する。
【0040】
脂肪組織では、核は小さくて細胞の片側にある。脂肪組織の大半は、脂肪滴で構成される。本発明の発明者は、異なる組織学的構造は、核間距離(局所統計量)の異なる分布を有すると仮定した。以下に説明するように、本開示概念のこの態様の第2セグメント化方法は、この仮説に基づいている。
【0041】
組織病理学的及び細胞病理学的画像における核のセグメント化は、詳しく研究されている課題である。しかしながら、乳癌における上皮細胞の近接と、有糸核分裂像(分裂細胞)の広まりとは、核の境界を正確に検出することを困難にし、これはヒトの眼でも困難である。この問題を避けるため、第2セグメント化方法では、推定核位置をスーパーピクセル形式で特定することで、核を近似的に示し、スーパーピクセルを接続するグラフを構築することで、各スーパーピクセル対に関する隣接・距離情報が得られる。より具体的に言うと、例示的な実施形態では、H&E画像からスーパーピクセルを作成するために、先ず、ピクセル色が先に記載したように正規化される。次いで、Tosun,A.B.及びGunduz-Demir,C.「Graph Run-length Matrices for Histopathological Image Segmentation」IEEE TMI、30(3)、721-732(2011)で提案されているアルゴリズムが実行されて、円状にスーパーピクセルが合わせられる。簡単に言うと、このアルゴリズムは、先ず、k-平均アルゴリズムを用いて強度に基づいて3つのクラスにピクセルをクラスター化する。クラスター中心は、主要素分析を使用して、無作為に選択されたトレーニング画像にわたって決定される。これらの3つのクラスは、紫領域、ピンク領域及び白領域を示し、これらは、それぞれ、核領域、ストロマ領域及び内腔/白領域に相当する。次に、このアルゴリズムは、円状のスーパーピクセルを、核、ストロマ及び内腔/白要素に関するクラスター化ピクセルに合わせる。スーパーピクセル分解後、スーパーピクセルの中心座標に基づいてデローニの三角分割が形成され、各スーパーピクセルの近隣が決定される。各スーパーピクセル・ペアに関する距離情報があれば、グリーディ法でこのグラフを区画し、特定のタイプのセグメントについてマージ規則(merging rules)を適用することによって、組織学的構造の最終的なセグメント化が達成される。これは以下の部分で詳述される。提案方法は、核間距離分布を動機とするが、紫及び白のピクセルクラスの両方からのスーパーピクセルは、管、血管及び脂肪組織のような複合体組織学的構造を占めると考えられる。例えば、正常な管は、白の内腔領域を囲む2つの細胞層を形成する紫の核を有する。一方、ストロマ(ピンク)クラスは、バックグラウンドであると考えられ、グラフ分割ステップに含まれない。
【0042】
より具体的には、各スーパーピクセルは、グラフにおけるノードと考えられ、グラフの接続性は、距離閾値により決定される。各クラスについて、スーパーピクセルの中心とそれに最も近い15個の隣りのもの(デローニの三角分割により特定される)の間の対距離(pairwise distance)を計算する。距離閾値τは、距離分布の中央値(δ)に比例するとして設定される。比例定数は、全データベースに関するアルゴリズムのパフォーマンスを極大化するように設定される。スーパーピクセル・グラフを作った後、貪欲接続要素分析アルゴリズム(greedy connected component analysis)を使用して、スーパーピクセルを標識セグメントへとクラスター化する。例示的な実施形態では、組織領域に関する最も大きな15個のセグメントが選択される。例示的な実施形態における組織画像のサイズは2K×2Kなので、管、腫瘍巣、脂肪滴の一握りだけが、与えられた任意の画像にて予測される。この点で、標識セグメントの2つのセットは、紫及び白のスーパーピクセルから得られている。
【0043】
紫のセグメントと白のセグメントを最終的な組織学的構造へとマージするため、数種の簡単なルールに従い、核クラスターによって形成された重要な構造が見過ごされていないことを確かめる。白のセグメントが、紫のセグメントによって完全にカバーされている場合、紫の全領域は、紫のセグメントのラベルを得る。白のセグメントが紫のセグメントと重なっている場合、重なった領域に関わらず、重なった部分は紫のセグメントのラベルを得、重なっていない部分は白のセグメントのラベルを得る。紫のセグメントが白のセグメントにより完全にカバーされている場合、紫の領域は、紫のセグメントのラベルを取り、残りの白の領域は、白のセグメントのラベルを保持する。これは、血管内に存在する核凝集を見過ごさないためである。紫及び白のセグメントがマージされた後、残りのラベル化されていない領域は、バックグラウンド又はストロマと考えられる。
【0044】
図4は、詳細に記載した第2セグメント化方法をまとめたフローチャートである。その方法は、対象スライドに関する正規化RGBデータを受け取るステップ30で始まる。次に、ステップ35で、RGBデータから、推定核位置をスーパーピクセル形式で特定する。次いで、ステップ40で、各スーパーピクセルとその最も近い隣接したものの幾つかとの間の対距離に基づいて、スーパーピクセル・グラフを作る。次に、ステップ45で、スーパーピクセル・グラフを使用して、スーパーピクセルを標識セグメントにクラスター化又はグループ分けする。最後に、ステップ50で、標識セグメントを最終的な組織学的構造へとマージする。次いで、決定された最終的な組織学的構造を、対象スライドをセグメント化(即ち、対象スライドがセグメント化されている画像を作る)ために使用する。
【0045】
<B.腫瘍内空間的不均一性の定量化>
本明細書でより詳しく説明されるように、本開示概念の別の態様は、デジタル・パソロジー・システムの機能及び動作における改善(例えば、処理の改善)を提供する。特に、この態様は、腫瘍内空間的不均一性を定量化する方法を提供し、これは、単一のバイオマーカー、多重化、又は高多重化免疫蛍光(IF)データを処理する。その方法は、アプローチが全体論的であり、TMAにおける全腫瘍組織セクション及び/又はスポットの発現及び空間情報の両方を使用して、空間的関連性を特徴付ける。本明細書で詳細に記載する例示的な実施形態では、本方法は、主要な及びマイナーな亜集団の両方の空間的関連性を明示的に解明する2次元不均一性マップを生成する。腫瘍内空間的不均一性の特徴化は、癌の進行、増殖及び治療に対する反応について重要な診断バイオマーカーとなり、従って、本開示概念のこの態様の方法及びシステムは、価値のある診断及び治療ツールとなると信じられる。
【0046】
本開示概念のこの態様によれば、特定のバイオマーカーの所定のセットを使用して、多重化/高多重化蛍光組織画像における空間的不均一性が定量化される。目的の明確化のため、本開示概念のこの態様が、限定でない例示的な実施形態において実施される。当該実施形態では、3種の乳癌バイオマーカー(エストロゲン受容体(ER)、ヒト上皮成長因子2(HER2)及びプロゲステロン受容体(PR))が、核、細胞膜、細胞質及び上皮細胞を含むセグメントについてバイオマーカーと組み合わせて使用されて、空間的不均一性が定量化される。しかしながら、本開示概念のこの態様において、異なる及び/又は追加のバイオマーカーが使用されてよいことは理解されるだろう。また、空間的腫瘍内不均一性を定量化するために自己相互情報量(PMI)を用いる本開示概念のこの態様の効果は、本明細書に記載する特定の例示的な実施形態を超えて広がりうることも理解されるだろう。例えば、本開示概念のこの態様は、数多くの癌及びストロマバイオマーカーで標識化された全体スライド(whole-slide)IF画像の分析に広げてもよく、これに限定されない。
【0047】
さらに、本開示概念のこの態様は、本明細書では表現型とも言う、
優勢のバイオマーカー強度パターン(使用される特定のバイオマーカーの所定のセットに基づいている)の所定のセットを使用して、細胞空間的不均一性を測定して定量化する。従って、
図5を参照しながら、最初に、
優勢バイオマーカー強度パターンを構築する、限定ではない代表的な方法を以下に説明する。その後、
優勢バイオマーカー強度パターンを使用して空間的不均一性を定量化することを説明する。
【0048】
図5を参照すると、先ず、ステップ105にて、既に細胞セグメント化されたデジタル・バイオマーカー画像を各コントロール・スライドが含むような一組のデジタル・コントロール・スライドを得る(即ち、ここでは細胞セグメント化方法が行われる)。例示を目的として、本明細書に記載する例示的な実施形態では、少なくとも前記3種のバイオマーカー(ER、PR及びHER2)を使用して、コントロール・スライドのバイオマーカー画像が作成される。次に、ステップ110で、コントロール・スライドについて、免疫蛍光(IF)データが作成される。具体的には、ステップ110では、各バイオマーカー画像について、バイオマーカー画像における各セグメント化細胞の所定のバイオマーカーの強度レベルを得ることによって、IFデータが作成される。従って、本明細書の記載から理解できるように、IFデータは、コントロール・スライドの各バイオマーカー画像の各セグメント化細胞に関するバイオマーカー強度レベル・データを含むだろう。
【0049】
次に、ステップ115で、信号強度が真のバイオマーカー発現を示すと仮定して、各バイオマーカーの信号強度の分布に基づいて、IFデータからの細胞が、(以下に記載する閾値を用いて)2つの区画に分離される。
図6は、代表的なバイオマーカー(ER、PR、HER2)のそれぞれについて、バイオマーカー強度分布グラフを示している。
図6で示すLog-発生分布は、それぞれ、2つ以上の線形方程式によってモデル化できる。これらの2つの異なるモデルが出くわすであろうノッチが、特定のバイオマーカー・チャネルにおいて閾値として設定され、
図6のバイオマーカー強度分布グラフでは、垂直線で描かれている。任意の所与の細胞について、そのバイオマーカー強度の1又は複数が閾値を超える場合、その細胞はレベル1(L1)に属する。任意の所与の細胞のバイオマーカー強度の全てが、それらに対応するバイオマーカー・チャネルにおける閾値未満であれば、その細胞はレベル2(L2)に属する。これらの2つの区画は、それらの信号雑音比で解釈することができ、比較すると、L1はより高い信号雑音比を有し、L2はより低い信号雑音比を有する。細胞の各区画を使用して、バイオマーカー強度パターンの固有のセットがわかる。L1及びL2データに関するパターン係数の分布は、一般的に異なるガウス的性質を有することを考えると、このアプローチは、特に賢明である。
図6で示すように、調べたバイオマーカー強度は、長い尾の形をした分布を有しているので、数的に安定したパターン認識アルゴリズムを導くためにLog強度表示が選択される。
【0050】
次に、
図5のステップ120で、本明細書では表現型とも称する
優勢バイオマーカー強度パターンのセットを、以下のようにして区画IFデータから
得る。先ず、
図7に示すように、IFデータの各区画、L1及びL2について、スパース信号表示を導き出す。より具体的には、
図7を参照すると、列はIFデータにおける各細胞を示し、行は各細胞のログ・バイオマーカー強度を示している(それぞれ、上から下にER、HER2、PR)所与のデータ行列Xは、行列D及びWの積により近似できる。Dは、データセットXにおける細胞の集合から得られる潜在的なバイオマーカー強度パターンの辞書を示しており、各列は、データから得られるパターンの1つを示し、各行は、各パターンの個々のバイオマーカー強度を示す。Wはスパース行列であり、Xにおける各細胞を、特定のスケーリング係数で、Dにおける特異的パターンにフェノタイプ化する。従って、各細胞(Wにおける列)は、スパース・コードがあるバイオマーカー・パターン(Dにおける列)に相当するただ1つの細胞表現型により示される。各行列の色スペクトルは、1つの色、例えば、青(低強度)から他の色、例えば黄(高強度)まで変化する。行列DWは、実際のデータ行列とその復元との間の類似性を表すために示されている。行列X及びDWは、それらが最も一致する辞書エレメントによってカラムソートされており、列である行列X及びDWを視察することによって、バイオマーカー強度パターンの各々がデータに存在していることが観察できる。データのこの復元の利益は、少数の解釈可能なバイオマーカー強度パターンで、大きなアレイの細胞レベル・データを示して、
図8で示すようなデータベースに固有の高度にクラスター化されたクラウドを記述できる能力である。3DLog・バイオマーカー強度空間の各細胞は、その表現型でコード化されている色である。辞書D及び辞書係数行列Wへの所定のデータセットXの線形表示の復元エラーは、Dの次元に、即ち、データセットXを記述するために使用されるパターンの数に非常に依存する。
【0051】
Dの理想的な次元を選ぶために、
図9に示すように、データ復元の10倍クロス検証が実行される。これらの分析において典型的であるように、次元が増加するにつれて、エラー分散が次元とともに増加し始めるある点まで、復元エラー及びエラーの分散は減少する。例示的な実施形態では、11個のパターンの辞書サイズが、データ区画L1及びL2の両方について、復元エラー及びエラーの分散の両方を最適化することが分かっている。データL1及びL2の重なり合わない区画の各々について11個パターンのセットを
得ることで、2つの辞書を、全データセットを記述できる1つの大きなバイオマーカー強度パターンの辞書にマージすることができた。しかしながら、これらのパターンは、同じ実験条件下で取得された同じデータセットに由来する区画から別々に得られたので、L1データから得た辞書とL2データから得た辞書との間に幾つかの重複があることが分かった。故に、例示的な実施形態では、k-平均クラスター化を使用して、大きな22パターン辞書(各区画からの11個のパターンを有する)を、本明細書に記載するアプローチから発見された特有のパターンのみを含むようなより小さな最終辞書に集約する。
図10は、L1から得た11個のパターンと、L2から得た11個のパターンとを示している。各バイオマーカー・パターンは、そのER、HER2及びPR強度のステムプロットとしてそれぞれ示されている便宜上、ステムプロットの強度パターンは、高、中、低として記述されるであろう。例えば、L1辞書(左に示している)のパターン8は、ER高、HER2中、及びPR低と記述できる。
【0052】
図10において右側に示されたk-平均クラスター化の結果は、8個のバイオマーカー強度パターンの最終辞書次元となる。例示的な実施形態では、最終次元は、クラスター評価についてのシルエット基準の結果に基づいて選ばれた。なお、1個のパターンは、区画L2に特有であり、最終パターン・セットのパターン7が、ER低発現、HER2中発現、及びPR高発現であった。これは、データを2つのグループ、L1及びL2に区分することの価値を実証しており、1つの区画では優勢であるが他の区画では優勢ではないパターンが解明され得る。
【0053】
一組の
優勢バイオマーカー強度パターンを得る代表的な手順を説明してきたが、議論は、次に、この
優勢バイオマーカー強度パターンを使用して空間的不均一性を定量化する方法に移る。具体的には、
図11は、例示的な実施形態による、多重化/高多重化蛍光組織画像の空間的不均一性を定量化する方法のステップを示すフローチャートである。
【0054】
図11を参照すると、その方法は、分析すべき複数のデジタル多重化蛍光スライドを得るステップ125から始まる。ステップ125で得られるスライドの数は、1個のスライドでも、1人の患者からの複数のスライドでも、又は全患者群の複数のスライドでもよい。本明細書から理解できるように、ステップ125で得られたスライドの各々は、関心腫瘍のセクションを含んでおり、そのセクションのバイオマーカー画像となる。本明細書の他の部分で述べたように、例示的な実施形態で使用されるバイオマーカーは、ER、PR及びHER2である。次に、ステップ130で、細胞セグメント化が、対象スライド(複数を含む)のデジタル・スライド・データ上で実行される。ステップ130では、数多くの公知の又は後で開発される適切な細胞セグメント化アルゴリズムの何れかが使用されてよい。次いで、ステップ135で、対象スライド(複数を含む)における各細胞について空間位置及びバイオマーカー強度データが得られる。次に、ステップ140で、対象スライド(複数を含む)の各細胞を、細胞のバイオマーカー強度構成に基づいて、所定の
優勢バイオマーカー強度パターン(即ち表現型の1つ)の1つに割り当てる。
図12は、1~8と付された所定の
優勢バイオマーカー強度パターンの各々の模式的表示160を示す。例示的な実施形態では、各模式的表示160は、その模式的表示を他のものから容易に区別できるように、固有の色(複数を含む)で表されている。次に、ステップ145で、細胞割当てと
図12に示す模式的表示とを利用して、対象組織試料(複数を含む)の不均一性を目に見えるように表示する細胞空間依存画像(cell spatial dependency image)が生成される。
図13は、本開示概念の1つの特定の例示的な実施形態による細胞空間依存画像165を示す。
図13でわかるように、細胞空間依存画像165は、模式的表示160を使用して、対象スライド(複数を含む)の細胞の間の空間依存性を示す。例示的な実施形態では、細胞空間依存画像165は、以下ケースの確率を記録する:(i)免疫細胞が癌細胞の近くで発生する場合、(ii)免疫細胞及び癌細胞が互いを抑制する場合、及び(iii)免疫細胞及び癌細胞は互いに非依存性である場合。細胞空間依存画像165は、特定の組織構造を示してはいない。
【0055】
次に、ステップ150で、空間ネットワークを構築して、対象スライド(複数を含む)における優勢バイオマーカー強度パターンの構成を記述する。次いで、ステップ155で、対象スライド(複数を含む)の不均一性を、本明細書で記載したように、スライド(複数を含む)のPMIマップを生成することによって、定量化する。例示的な実施形態では、ステップ150及び155は、以下に述べるようにして実行される。
【0056】
対象スライドのバイオマーカー画像(即ち、組織/腫瘍試料)におけるバイオマーカー・パターンの空間構成を示すために、ネットワークを、対象スライドについて構築する。腫瘍試料に関する空間ネットワークの構築により、細胞バイオマーカー強度データ(ネットワークのノードで)は、空間データ(ネットワークのエッジで)に固有に結合される。ネットワーク構築における仮定は、細胞は、ある限界、例えば250μmまで、近くの細胞とのコミュニケーション機能を有しており、その限界内での細胞のコミュニケーション機能は、細胞の距離に依存するということである。従って、例示的な実施形態の確率分布は、対象スライドにおける細胞とそれに最も近い10個の隣接物との間の距離についてコンピュータで計算される。ハード限界は、(標準偏差を検出するため)この分布の中央値の1.5倍で選択されて、ネットワーク内の細胞は、この限界内でのみ接続された。次いで、ネットワークにおける細胞間のエッジは、隣り合う細胞間の距離により重み付けられる。
【0057】
次に、自己相互情報量(PMI)を使用して、対象スライドについて、辞書におけるバイオマーカー・パターン、つまり異なる細胞表現型の各ペアの間の関連性を測る。この測定手法は、線形及び非線形の両方の一般的統計的関連性を取得し、従来の研究はスピアマンのロー係数のような線形計量法を使用していた。バイオマーカー・パターンの各ペアについて、PMがコンピュータで計算されると、対象スライドのデータにおける全ての関連性の測定値がPMIマップに表示される。典型的なPMIマップ170を
図14に示す。
【0058】
PMIマップ170は、対象スライドの微小環境内における異なる細胞表現型の間の関係を記述する。特に、PMIマップ170におけるエントリ172は、全ての表現型にわたるランダム(又はバックグラウンド)分布により予測される相互関係と比べた場合に、データセットにおいて、2つの表現型(行及び列の番号で表される)の間の特定の空間的相互関係がどの程度の頻度で起こるかを示す。赤のような第1色におけるエントリは、表現型の間の強い空間的関連性を表しており、黒のような第2色におけるエントリは、共局在化がないこと(表現型の間の弱い空間的関連性)を表す。他の色は、他の関連性を表すために使用されてもよい。例えば、緑のような第3色に色付けされたPMIエントリ172は、全データセットにわたる細胞表現型のランダム分布にすきないという関連性を表す。また、PMIマップ170は、エントリ172が青のような第4色で示されると、反関連性を表してよい(例えば、表現型1がほとんど現れなければ、空間的に近い表現型3)。
【0059】
従って、PMIマップ170は、強い対角エントリ及び弱い非対角エントリを有しており、全体的には不均質であるが局所的には均質な腫瘍を記述する。そのようなPMIマップ170Aの例を
図15に示す。この例では、表現型2、4及び8に関する対角エントリにおける関連性が強い。このことは、
図15で示す腫瘍試料画像の個々の微小ドメインの構成によって示されるように、これらの表現型が、同じ表現型の細胞と空間的に関連していることを示唆している。逆に、強い非対角エントリを有するPMIマップ170Bは、局所的に不均質な腫瘍を記述することができる。そのようなPMIマップ170Bの例を
図16に示す。この例では、細胞表現型1及び6、細胞表現型2及び4、ならびに細胞表現型3及び8の間の関連性が空間的に局在化している。さらに、PMIマップ170Bは、表現型7の細胞とそれ自身とのただ1つの関連性を示している。
図17で示す例示的なPMIマップ170Cは、腫瘍画像における全ての表現型の間の関連性を示し、従って、PMIマップ170Cは、色が完全に混在している。既存の測定にわたったPMIマップの利益は、そのマップが表現型間の空間的関係を再現することである。それらは、細胞構成の概要だけでなく、腫瘍トポロジーの近似も提供する。簡単にするため、より複雑なPMIマップの例は含んでいないが、全てのPMIマップ170は、これらの単純な相互関係で成り立っていることは理解されるだろう。
【0060】
例示的な実施形態では、対象スライドのPMIは、以下のように計算される。過完備辞書D(Dの各列は別個のパターンd
iである)へのIFデータセットX(Xの各列は、細胞x
kである)の線形脱構築(linear deconstruction)と、各細胞をただ1つの単一バイオマーカー強度パターンに割り当てるスパースコーディング行列Wとが与えられると、本明細書で説明したように(ステップ140)、各細胞は、表現型f
i(iは、Wの列w
kにおけるゼロ以外のインデックスである)を有するように割り当てられる。アルゴリズムの潜在的な落とし穴は、信号強度が高い及び低い細胞が、同じ細胞表現型に割当てられる可能性があることである。所与のネットワーク又はネットワークセットsについての1組のバイオマーカー表現型(f
i,f
j)の間のPMIは、下式で与えられる。
【数9】
ここで、P(f
is)は、表現型fiがネットワークセットsで起こる確率であり、P(f
it)は、表現型f
iがネットワークの完全集合から得られるバックグラウンド確率分布である。個々のネットワークを全体として組織スライドの分布と比較するために、バックグラウンド分布は、全データセットに基づいていることに留意のこと。この構成は、DNA又はタンパク質配列について位置特異的スコア行列(PSSM)に類似しており、バックグラウンド分布は、任意の所与の位置について、配列のデータセットにわたる任意の特定のヌクレオチド又はアミノ酸を見出す確率を示す。PMIマップは、所与のネットワークセットsについて、単語集のパターンの可能なペア毎にPMIスコアで構成される。不均一性を充分に理解するために、二次元PMIマップの解釈を唱道してきたが、文献にある他の一次元スコアとの比較に関心のある読者の便宜のため、PMIマップから一次元不均一性スコア値も導き出すことにする。情報不十分な一次元不均一性スコアは、下式で規定される。
【数10】
ここで、より高いスコアは、バックグラウンド分布からのより大きな差異を表す。一次元スコアは、それらのPMIマップによって示されるように、TMEの2つの空間的に異なる構成を同じスコアに間違ってマップする可能性がある。
【0061】
対象スライドについてPMIマップ170をコンピュータで計算し、有意な相互関係又は相互関係モチーフを特定した後で、この有意な関連性に寄与した細胞を調べる必要がある。有意な相互関係は、PMI値が±1に近い場合に考慮される。1に近いPMI値は、バイオマーカー・パターンのこの特定の空間的相互関係が、バックグラウンド分布において観察されるよりも頻繁に起こることを意味する。-1に近いPMI値は、1つのパターンがネットワークにおいて観察される場合、他のパターンが、バックグラウンド分布から予測されるよりも数少なく観察されることが見られることを意味する。0に近いPMI値は、バックグラウンド分布によって適切に記述され得る相互関係を意味する。
【0062】
<C.システムの実施>
図18は、本明細書で記載するH&E染色組織画像セグメント化する手順を実施可能な例示的なシステム・デジタル・パソロジー(pathology)200の概略図である。
図18に示すように、システム200は、本明細書で説明されているように、H&E染色組織画像を表すデジタル画像データを受け取って、これらの画像を処理するように構成されたコンピューティング・デバイスである。システム200は、例えば、PC、ラップトップ・コンピュータ、タブレット・コンピュータ、スマートフォン、又は本明細書に記載した機能を行うように構成された任意の他の適切なデバイスであってよく、これらに限定されない。システム200は、入力装置202(例えば、キーボード)、ディスプレイ204(例えば、LCD)、及び処理装置206を含む。ユーザは入力装置202を使用して処理装置206に入力することができ、処理装置206は、出力信号をディスプレイ204に提供し、本明細書で詳細に記載するように、ディスプレイ204にユーザに対して情報(例えば、セグメント化組織画像)を表示するようにする。処理装置206は、プロセッサとメモリとを含む。プロセッサは、例えば、マイクロプロセッサ(μP)、マイクロコントローラ、又はメモリとインターフェイスで接続する他の適切なプロセッシング・デバイスでもよく、これらに限定されない。メモリは、限定ではないが、コンピュータの内部記憶領域の形をしたデータ記憶のためのRAM、ROM、EPROM(複数を含む)、EEPROM(複数を含む)、FLASH、記憶レジスタをもたらすものような、種々のタイプの内部及び/又は外部記憶媒体の任意の1種又は複数であってよく、例えば、機械読み取り可能媒体であり、揮発性メモリ又は不揮発性メモリであってもよい。メモリは、本明細書に記載された開示概念を実施するためのルーチンを含む、プロセッサによって実行可能な数多くのルーチンをそこに格納している。特に、処理装置206は、H&E染色組織画像を表す、受け取った画像データに基づいて、本明細書で記載されているように、H&E染色組織画像に関する局所的空間的統計を定量化するように構成された定量化コンポーネント208と、本明細書に記載されているように、局所的空間的統計に基づいて、H&E染色組織画像内で組織学的構造を特定するように構成された特定コンポーネント210と、受け取った画像データ及び特定した組織学的構造を使用して、セグメント化H&E染色組織画像を生成するように構成されており、次いで、画像をディスプレイ204に提供してもよいセグメント化組織画像生成コンポーネント212とを含んでいる。定量化コンポーネント208は、H&E画像データにおける隣接ピクセル間の統計的関連性を示す相互情報量データの決定によって局所的空間的統計を定量化するように構成された1つ以上のコンポーネントを含んでよく、特定コンポーネント210は、本明細書に記載された、相互情報量データ及びグラフに基づくスペクトル・セグメント化アルゴリズムを使用して組織学的構造を特定するように構成された1つ以上のコンポーネントを含んでもよい。或いは、定量化コンポーネント208は、RGBデータから推定核位置をスーパーピクセル形式で特定し、各スーパーピクセルと複数のそれに最も近い隣接ものとの間の点別距離(pointwise distance)に基づいてスーパーピクセル・グラフを作成して、スーパーピクセルを標識セグメントにクラスター化する1つ以上のコンポーネントを含んでもよく、特定コンポーネント210は、本明細書に記載されているように、標識セグメントを組織学的構造にマージして特定するように構成された1つ以上のコンポーネントを含んでもよい。
【0063】
図19は、本明細書で記載する空間的腫瘍内不均一性を定量化する手順を実施してもよい代表的なデジタル・パソロジー・システム300の概略図である。
図19で示すように、システム300は、本明細書に記載されているように、蛍光組織画像を表すデジタル画像データを受け取り、これらの画像を処理するように構成されたコンピューティング・デバイスである。システム300は、例えば、PC、ラップトップ・コンピュータ、タブレット・コンピュータ、スマートフォン、又は任意の他の本明細書で記載する機能性を行うように構成された適切なデバイスであってもよく、これらに限定されない。システム300は、入力装置302(例えば、キーボード)、ディスプレイ304(例えば、LCD)、及び処理装置306を含む。ユーザは、入力装置302を使用して処理装置106に入力することができ、処理装置306は、出力信号をディスプレイ304に提供し、本明細書で詳細に記載されているように、ディスプレイ304にユーザに対して情報(例えば、空間依存画像及びPMIマップ)を表示するようにする。処理装置306はプロセッサとメモリとを含む。プロセッサは、例えば、マイクロプロセッサ(μP)、マイクロコントローラ、又はメモリとインターフェイスで接続する他の適切なプロセッシング・デバイスでもよく、これらに限定されない。メモリは、限定ではないが、コンピュータの内部記憶領域の形をしたデータ記憶のためのRAM、ROM、EPROM(複数を含む)、EEPROM(複数を含む)、FLASH、記憶レジスタをもたらすものような、種々のタイプの内部及び/又は外部記憶媒体の任意の1種又は複数であってよく、例えば、機械読み取り可能媒体であり、揮発性メモリ又は不揮発性メモリであってもよい。メモリは、本明細書に記載された開示概念を実施するためのルーチンを含む、プロセッサによって実行可能な数多くのルーチンをそこに格納している。具体的には、処理装置306は、幾つかの蛍光組織画像を表す画像データで細胞セグメント化を行い、該幾つかの蛍光組織画像の幾つかの細胞を特定するように構成された細胞セグメント化コンポーネント308と、細胞の各々を複数の所定のバイオマーカー強度パターンの1つに割り当てるように構成された割当てコンポーネント310と、割り当てられた所定のバイオマーカー強度パターンに基づいて、蛍光組織画像の空間的統計を定量化する定量化コンポーネント312と、細胞空間依存画像165又はPMIマップ170のような、定量化された空間的統計の視覚表示を作成する視覚表示作成コンポーネント314とを含む。定量化コンポーネント312は、空間ネットワークを構築して空間的統計を定量化し、幾つかの蛍光組織画像における所定のバイオマーカー強度パターンの構成を記述し、所定のバイオマーカー強度パターンのペア毎に自己相互情報量をコンピュータで計算して幾つかの蛍光組織画像の不均一性を定量化するように構成された1つ以上のコンポーネントを含んでもよい。
【0064】
請求項において、括弧の間に置かれている符号は、請求項を限定するように解釈されるべきではない。用語「備える」又は「含む」は、特許請求の範囲に挙げているもの以外の要素や工程の存在を排除しない。幾つかの手段を列挙する装置の請求項において、これら手段の幾つかは、ハードウェアの1つ及び同じアイテムによって具体化されてよい。要素の前にある用語「1つ」は、そのような要素が複数あることを排除しない。幾つかの手段を列挙する装置の任意の請求項において、これら手段の幾つかは、ハードウェアの1つ及び同じアイテムによって具体化されてよい。ある要素が互いに異なる従属請求項において列挙されるという単なる事実は、これらの要素を組み合わせて使用できないことを示してはいない。
【0065】
説明の目的で、現在、最も実用的で好ましい実施形態であると考えられることに基づいて本発明を詳細に記載してきたが、そのような詳細は、単に、その目的のためだけであって、本発明は、開示した実施形態に限定されることなく、逆に、添付の請求項の精神及び範囲内にある変更及び等価な構成を含むものと理解される。例えば、本発明は、可能な範囲で、任意の実施形態の1以上の特徴を任意の別の実施形態の1以上の特徴と組み合わせることができることを意図しているものと理解される。