(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】重心移動補助具およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
A61G 1/00 20060101AFI20221101BHJP
A61G 1/048 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
A61G1/00 702
A61G1/048
(21)【出願番号】P 2021136729
(22)【出願日】2021-08-24
【審査請求日】2021-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】521374822
【氏名又は名称】有限会社ハンド
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【氏名又は名称】井川 浩文
(74)【代理人】
【識別番号】240000235
【氏名又は名称】弁護士法人柴田・中川法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕子
【審査官】黒田 正法
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3039332(JP,U)
【文献】特開2013-102830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 1/00
A61G 1/048
A61H 1/00 - 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行姿勢もしくは走行姿勢の矯正または要介護者に対する移乗を補助するために、被用者の腰部周辺に予め装着した帯体を吊り上げることによって、被用者の重心を移動させることができる補助具であって、
被用者に装着した帯体を掛止する掛止部と、この掛止部が固着されている本体部とを備え、
前記掛止部は、二枚の略平行な片部と、両片部を底部で連続する連続部を備え、全体として断面略U字状とする樋状を形成するものであり、前記本体部は、前記掛止部から適宜離れた位置に把手領域を有するものであ
り、
前記掛止部を構成する片部の一方は、前記本体部に固着される側の基片部であり、他方は、前記基片部との間に所定の間隙を有して設けられた係入片部であり、
前記本体部は、対向する一組の縦軸部および対向する一組の横軸部によって矩形の環状に形成されており、前記掛止部は、前記本体部を形成する縦軸部の任意の一方に前記基片部が固着されるとともに、前記底部を形成する連続部が該縦軸部とこれに連続する横軸部との境界近傍に配置されるものであることを特徴とする重心移動補助具。
【請求項2】
前記係入片部は、その先端縁から適宜範囲において所定幅の切り込み部を有している請求項1に記載の重心移動補助具。
【請求項3】
歩行姿勢もしくは走行姿勢の矯正または要介護者に対する移乗を補助するために、被用者の腰部周辺に予め装着した帯体を吊り上げることによって、被用者の重心を移動させることができる補助具であって、
被用者に装着した帯体を掛止する掛止部と、この掛止部が固着されている本体部とを備え、
前記掛止部は、二枚の略平行な片部と、両片部を底部で連続する連続部を備え、全体として断面略U字状とする樋状を形成するものであり、前記本体部は、前記掛止部から適宜離れた位置に把手領域を有するものであり、
前記掛止部を構成する片部の一方は、前記本体部に固着される側の基片部であり、他方は、前記基片部との間に所定の間隙を有して設けられた係入片部であり、
前記係入片部は、その先端縁から適宜範囲において所定幅の切り込み部を有していることを特徴とする重心移動補助具。
【請求項4】
前記本体部は、環状に形成されており、前記把手領域は該環状の本体部の一部によって形成され、前記掛止部は、環状に形成された前記本体部の外周部の一部に固着されるものである請求項1~3のいずれかに記載の重心移動補助具。
【請求項5】
歩行姿勢もしくは走行姿勢の矯正または要介護者に対する移乗を補助するために、被用者の腰部周辺に予め装着した帯体を吊り上げることによって、被用者の重心を移動させることができる補助具であって、
被用者に装着した帯体を掛止する掛止部と、この掛止部が固着されている本体部とを備え、
前記掛止部は、二枚の略平行な片部と、両片部を底部で連続する連続部を備え、全体として断面略U字状とする樋状を形成するものであり、前記本体部は、前記掛止部から適宜離れた位置に把手領域を有するものであり、
前記本体部は、前記把手領域の一部または該把手領域から独立した位置に、さらに貫通部を備えるものであることを特徴とする重心移動補助具。
【請求項6】
前記本体部は、環状に形成されており、前記把手領域は該環状の本体部の一部によって形成され、前記掛止部は、環状に形成された前記本体部の外周部の一部に固着されるものである請求項5に記載の重心移動補助具。
【請求項7】
前記本体部は、前記把手領域の一部または該把手領域から独立した位置に、さらに貫通部を備えるものである請求項1~4のいずれかに記載の重心移動補助具。
【請求項8】
請求項
2または3に記載の重心移動補助具の使用方法であって、被用者が着用するズボンのベルト通しに通されたベルトに対し、被用者の背後から前記掛止部によって掛止させると同時に、前記切り込み部にベルト通しの一部を係入させ、前記把手領域を把持しつつ該掛止部を引き上げることにより、被用者の腰部背後を支持して重心を移動させることを特徴とする重心移動補助具の使用方法。
【請求項9】
請求項
5~7のいずれかに記載の重心移動補助具の使用方法であって、被用者の腰部周囲を包囲するように装着された帯体に対し、被用者の背後から前記掛止部によって掛止させ、前記貫通部に吊り下げロープを挿通するとともに、該吊り下げロープを操作して前記本体部を介して該掛止部を引き上げることによって、被用者の腰部背後を支持して重心を移動させることを特徴とする重心移動補助具の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行姿勢もしくは走行姿勢の矯正または要介護者に対する移乗を補助するために被用者の重心を移動させるための補助具と、その使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な歩行姿勢や走行姿勢の矯正には、歩行時または走行時の外見的姿勢を重視するものであり、歩行時または走行時の体重の移動を歩行者または走行者に体験させるものではなかった。また、要介護者の移乗を補助する場合には、介護者が全身を使用して要介護者を抱きかかえるように体重を支持して行われるものであった。
【0003】
歩行姿勢もしくは走行姿勢の矯正は、歩行者本人や走行者本人が重心の移動状態を体感できることが重要であり、歩行姿勢もしくは走行姿勢とそのための重心移動を容易に体得することができるものとなる。他方、要介護者の移乗に際しては、介護者が全面的に体重を支持するため、介護者の負担が大きいものとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-141312号公報
【文献】特開2015-107284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の歩行保護具としては、専ら歩行困難者に対する保護具であって、下腿部を足の裏から持ち上げるように補助するものであり(特許文献1参照)、歩行困難でない者に対する歩行姿勢や走行姿勢を補助するものではなかった。他方、要介護者に対する移乗を補助するものにあっては、介護者が手で持ち上げるための帯体を装着するものであり(特許文献2参照)、介助者の動作を容易にすることに留まり、介助者の負担を軽減させるような保護具ではなかった。
【0006】
本発明は、上記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、歩行姿勢もしくは走行姿勢の矯正または要介護者の移乗を補助することができる重心移動補助具と、その使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究の結果、人が歩行や走行する際の重心移動を体得し、また要介護者が自主的に移動し得るための外的補助力を作用させる場合、人の腰部背後を集中的に引き上げることで、前傾姿勢となるような重心移動を誘導させることから、大きい補助力を伴うことなく、歩行姿勢もしくは走行姿勢が矯正され、また要介護者の歩行や移動が可能となるとの結論を導くことに至った。
【0008】
そこで、重心移動補助具に係る第1の発明は、歩行姿勢もしくは走行姿勢の矯正または要介護者に対する移乗を補助するために、被用者の腰部周辺に予め装着した帯体を吊り上げることによって、被用者の重心を移動させることができる補助具であって、被用者に装着した帯体を掛止する掛止部と、この掛止部が固着されている本体部とを備え、前記掛止部は、二枚の略平行な片部と、両片部を底部で連続する連続部を備え、全体として断面略U字状とする樋状を形成するものであり、前記本体部は、前記掛止部から適宜離れた位置に把手領域を有するものであることを特徴とする。
【0009】
このような構成の重心移動補助具によれば、被用者の腰部に装着した帯体に対し、背後から掛止部を掛止させることにより、被用者の腰部背後に重心移動補助具を連結させることができる。この状態において、使用者(補助者)が本体部の把手領域を把持して引き上げることにより、使用者(補助者)によって被用者の重心移動を補助し、被用者の姿勢を前傾に誘導することができる。すなわち、被用者に対して背後から特に腰部において上方へ引き上げることにより、被用者の重心は、全体として上へ移動し、また前後方向においては前方へ移動することとなり、歩行姿勢や走行姿勢を矯正しつつ当該姿勢の体得を補助することができる。また、要介護者に対する移乗時の補助に際しては、重心の全体移動に伴って歩行や移動を誘導させることができる。このように、使用者(補助者)は、自らの身体全体で被用者を支える必要はなく、片手で本体部の把手領域を把持しつつ被用者の重心を移動させることができることから、他方の手を使用して、指導や介助に必要な他の用途に供することができるものとなる。
【0010】
ここで、帯体とは、武道着や和服などの帯のほか、ズボンに着用するベルトなどがあり、要介護者に対する入浴介助のように被用者が裸である場合には、ベルトの代用として腰部周囲を包囲するように装着される紐状部材も含まれるものである。
【0011】
重心移動補助具に係る第2の発明は、前記第1の発明において、前記本体部が、環状に形成されており、前記把手領域は該環状の本体部の一部によって形成され、前記掛止部が、環状に形成された前記本体部の外周部の一部に固着されるものである。
【0012】
上記のような構成によれば、環状に形成された本体部の任意な部分を把手領域として使用することができ、掛止部が本体部の外周部を部分的に使用して固着されることから、把持領域として使用する範囲は、当該掛止部との位置関係および距離等を考慮して任意に選択し得ることとなる。従って、使用者(補助者)が掛止部を帯体に掛止した状態で、被用者の腰部背後を引き上げやすい任意の領域を把手領域として把持し、引き上げ力を作用することができるものとなる。
【0013】
重心移動補助具に係る第3の発明は、前記第1または第2の発明において、前記掛止部を構成する片部の一方が、前記本体部に固着される側の基片部としたものであり、他方が、前記基片部との間に所定の間隙を有して設けられた係入片部としたものである。
【0014】
上記のような構成によれば、基片部は本体部との固着のために用いられることから、基本的には係入片部が被用者に接触する部分となり、係入片部は、基片部とは異なる形状に構成することができることから、帯体に対する係入が容易となる形状としつつ、被用者との接触時における接触部分の形状および範囲を任意なものに調整することが可能となる。
【0015】
重心移動補助具に係る第4の発明は、前記第3の発明において、前記本体部が、対向する一組の縦軸部および対向する一組の横軸部によって矩形の環状に形成されており、前記掛止部が、前記本体部を形成する縦軸部の任意の一方に前記基片部が固着されるとともに、前記底部を形成する連続部が該縦軸部とこれに連続する横軸部との境界近傍に配置されるものである。
【0016】
上記のような構成によれば、本体部は、一組の縦軸部と一組の横軸部とによって、矩形の環状を形成することとなり、掛止部は、その縦軸部の一方において環状外周部表面に基片部を固着することによって設けられるものとなる。このような構成により、他方の縦軸部は、その全体が把手領域として使用することができ、また、横軸部も把手領域として使用することができることとなり、被用者の重心移動のために引き上げ力を作用させる際の使用者(補助者)の都合に応じた好適な状態で重心移動補助具を使用することができる、さらに、掛止部は、その連続部が縦軸部と横軸部との境界近傍に位置するように設けられていることから、当該掛止部によって係止される帯体は、当該連続部によって支持される状態となり、そこに作用する重量は、結果として縦軸部の一端近傍によって支持されることとなるから、他方の縦軸部等を把手領域として使用する際、掛止部に対して偶力を付加して作用させることができる。このような偶力の付加により、被用者の腰部背後を引き上げる際に、係入片部先端縁が被用者に接触することを回避させることができる。
【0017】
重心移動補助具に係る第5の発明は、前記第3または第4の発明において、前記係入片部が、その先端縁から適宜範囲において所定幅の切り込み部を有するものである。
【0018】
上記のような構成によれば、例えば、ズボンに着用したベルトを帯体として使用する際、ズボンのベルト通しを、切り込み部に係入させることができる。このとき、掛止部によって掛止されるベルトは、基片部と係入片部との間に係入された状態となるものであるが、切り込み部にベルト通しを係入することにより、このベルト通しを境界として、その両側に分かれて係入片部(切り込み部両側部分)をベルトの内側(ベルトとズボンの間)に挿入することができる。これにより、掛止部(重心移動補助具全体)が、ベルト通しによって側方への位置決めがなされることとなり、重心移動時の補助具の位置を安定させることとなる。
【0019】
重心移動補助具に係る第6の発明は、前記第1~第5の発明のいずれかにおいて、前記本体部が、前記把手領域の一部または該把手領域から独立した位置に、さらに貫通部を備えるものである。
【0020】
上記のような構成によれば、貫通部を使用してロープその他の紐状部材を使用して、本体部を引き上げることができる。この場合、紐状部材を片手で操作すると同時に、他方の手で把手領域を使用ことにより、引き上げ力の作用と同時に、本体部(重心移動補助具全体)の姿勢をコントロールすることができる。なお、貫通部が掛止部の基片部の上方に配置される場合は、本体部の状態が安定するため、把手領域による姿勢のコントロールが不要となり得る。
【0021】
重心移動補助具の使用方法に係る第1の発明は、重心移動補助具に係る第1~第6の発明のいずれかの使用方法であって、被用者の腰部周囲を包囲するように装着された帯体に対し、被用者の背後から前記掛止部によって掛止させ、前記把手領域を把持しつつ該掛止部を引き上げることにより、被用者の腰部背後を支持して重心を移動させることを特徴とする。
【0022】
上記のような使用方法によれば、使用者(補助者)は、把手部を把持した状態で本体部を操作できるから、歩行者または走行者に対する歩行姿勢または走行姿勢における重心の移動の状態を確認させ、体得させ得ることができる。また、要介護者に対しては、立位、歩行および移動に必要となる重心の移動を誘導することができる。
【0023】
重心移動補助具の使用方法に係る第2の発明は、重心移動補助具に係る第5の発明の使用方法であって、被用者が着用するズボンのベルト通しに通されたベルトに対し、被用者の背後から前記掛止部によって掛止させると同時に、前記切り込み部にベルト通しの一部を係入させ、前記把手領域を把持しつつ該掛止部を引き上げることにより、被用者の腰部背後を支持して重心を移動させることを特徴とする。
【0024】
上記のような使用方法によれば、掛止部は、ベルトを掛止する状態においてベルト通しによって側方への位置決めがなされるため、被用者の腰部背後の特定位置に対して継続的に誘導力を作用させることができる。また、ベルト通しを目印として被用者の腰部背後の帯体(ベルト)を掛止させることができる。
【0025】
重心移動補助具の使用方法に係る第3の発明は、重心移動補助具に係る第6の発明の使用方法であって、被用者の腰部周囲を包囲するように装着された帯体に対し、被用者の背後から前記掛止部によって掛止させ、前記貫通部に吊り下げロープを挿通するとともに、該吊り下げロープを操作して前記本体部を介して該掛止部を引き上げることによって、被用者の腰部背後を支持して重心を移動させることを特徴とする。
【0026】
上記のような使用方法によれば、例えば、要介護者に対する移乗を補助する場合のように、強力に外力を作用させる必要があるときにおいても、把手領域を使用せずに重心移動を誘導させることができる。このとき、同時に把手領域を把持して本体部の姿勢をコントロールすることも可能である。
【発明の効果】
【0027】
重心移動補助具に係る本発明によれば、歩行姿勢または走行姿勢の矯正のために使用するときには、理想的な歩行姿勢または走行姿勢を実現できるような体重移動(重心移動)となるように姿勢を誘導させることができる。また、要介護者の移乗を補助するために使用するときには、使用者(補助者)が要介護者の体重を全体で支えることなく、立位、歩行または移動のための重心移動を可能とする。
【0028】
他方、重心移動補助具の使用方法に係る本発明によれば、使用者(補助者)が本体部の把手領域を把持して操作することができることから、片手で把手領域を把持する場合、他方の手を別の目的に使用することができる。また、貫通部に紐状部材を通して使用する場合には、本体部を把持して操作するよりも強力な引き上げ力を作用させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】重心移動補助具に係る実施形態の概略を示す説明図である。
【
図2】重心移動補助具に係る実施形態の形状的特徴を示す説明図である。
【
図3】重心移動補助具に係る実施形態の形状的特徴を示す説明図である。
【
図4】重心移動補助具に係る実施形態の第1の使用態様を示す説明図である。
【
図5】重心移動補助具に係る実施形態の第1の使用態様を示す説明図である。
【
図6】重心移動補助具に係る実施形態の第1の使用態様を示す説明図である。
【
図7】重心移動補助具に係る実施形態の第1の使用態様における他の使用方法を示す説明図である。
【
図8】重心移動補助具に係る実施形態の第1の使用態様における他の使用方法を示す説明図である。
【
図9】重心移動補助具に係る実施形態の第2の使用態様を示す説明図である。
【
図10】重心移動補助具に係る実施形態の第2の使用態様を示す説明図である。
【
図11】重心移動補助具に係る実施形態による掛止の状態を示す説明図である。
【
図12】重心移動補助具に係る実施形態による掛止の状態を示す説明図である。
【
図13】重心移動補助具に係る実施形態による掛止の状態を示す説明図である。
【
図14】重心移動補助具に係る実施形態の変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。重心移動補助具に係る実施形態と、その使用方法に係る実施形態を説明する便宜上、まずは重心移動補助具に係る実施形態について説明し、その使用形態の説明において使用方法に係る実施形態を説明することとする。
【0031】
<重心移動補助具>
図1は、重心移動補助具に係る実施形態を示す図である。なお、
図1中の(a)と(b)は同じ構成の実施形態を異なる方向から示したものである。これらの図に示されるように、本実施形態の重心移動補助具Aは、概略、本体部1と掛止部2とで構成される。本体部1は、概略矩形の環状に形成されており、対向する2つの縦軸部11,12と、横軸部13,14とで構成されるものを例示している。また、掛止部2は、上記本体部1の片方の縦軸部11に固着されるものであり、基片部21と、係入片部22と、連続部23とで樋状に形成されたものである。本実施形態は、この樋状に形成された掛止部2によって帯体を引き上げるように使用するため、補助具Aの上下方向は、樋状が上向きに開口する状態となるものである。
【0032】
本体部1を構成する縦軸部11,12および横軸部13,14は、同じ程度の肉厚と幅寸法で構成され、これらの任意の部分を使用者(補助者)が把持できる程度の形状と大きさに構成されている。現実的には掛止部2が固着されている領域は把持できないことから、当該掛止部2が固着される範囲を除く部分が把手領域として使用され得るものとなっている。把手領域として使用可能な縦軸部11,12および横軸部13,14の具体的な形状としては、幅寸法を約15mmとし、肉厚を約8.5mmとする断面矩形状とするものであり、矩形断面とすることにより、把持した際の軸心を中心とする回転力に抗することができる。肉厚寸法を幅寸法の1/2以上とすることにより、板状よりもグリップ感を得られることができる。また、上記のような寸法を基準として断面積が120mm2~140mm2の範囲内となるように設けることで、把持した際の握力によるハンドリング性を良くするものである。
【0033】
掛止部2は、当該掛止部2を構成する基片部21によって本体部1に固着されるものである。掛止部2は、全体として2mm程度の肉厚を有する幅寸法約45mmの平板状部材を折り曲げて構成されたものであり、本体部1の縦軸部11の外側表面との間で当接する領域で固着するものである。この掛止部2および前述の本体部1は、ともにステンレススチール鋼を用いる場合、上記の固着は、溶接によって接合されるものである。また、掛止部2は、基片部21の中央において固着されることから、掛止部2の全体は、縦軸部11を中心に両側に張り出した状態となっている。
【0034】
なお、本実施形態においては、本体部1を構成する一方の縦軸部11と、これに連続する横軸部13と中間位置には貫通部3が設けられており、また、掛止部2の係入片部22には、その上端縁20の略中央から適宜長さの切り込み部24が設けられているものであるが、これらの構成および用途について後述する。
【0035】
また、本体部1および掛止部2の各寸法によるバランスの理解のため、6面図を
図2および
図3に示す。
図2中の(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は底面図であり、
図3中の(a)は左側面図、(b)は右側面図である。この6面図において明らかなとおり、本実施形態における掛止部2は、一方の縦軸部11の下方に固着されており、掛止部2の連続部23は、当該縦軸部11と、これに連続する下方の横軸部14との境界近傍に配置された状態としている。詳細には、連続部23の下部端面は、下方の横軸部14の下部端縁の延長線上に位置させているのである。その結果として、補助具Aの全体的な底面は、下方の横軸部14の下面と、掛止部2を構成する連続部23の下面とによって形成されることとなり、補助具Aの全体は、当該底面を接地させることにより、本体部1を立てた状態で安定的に置くことができるものとなっている。
【0036】
このような本体部1の立位状態での設置を可能にすることにより、他方の縦軸部12や上方の横軸部13は設置状態において何らかに遮られる状態ではないことから、設置状態から速やかに使用に供することが可能となる。
【0037】
<第1の使用形態(第1の使用方法)>
本実施形態は、上記のような構成であるから、本体部1における把持領域を把持することにより使用することができる。その際の把持状態の一例を
図4に示す。
【0038】
図4は、縦軸部12に形成される把持領域を把持した状態を示す。この図に示されるように、使用者(補助者)は、片手Xによって、縦軸部12を把持することにより、掛止部2を自身よりも前方(被用者側)に向けて使用に供することができる。
【0039】
例えば、
図5に示すように、使用者(補助者)Yは、立位の被用者Zの後方に立ち、縦軸部12を把持した状態で、掛止部2を被用者Zの腰部Z1に装着した帯体4に掛止させるのである。このとき、掛止部2は、被用者Zの腰部Z1の背後Z1aに掛止させることにより、使用者(補助者)Yは、被用者Zの腰部背後Z1aを引き上げることができるものとなるのである。また、補助具Aを片手X1で把持する場合には、他方の手X2は自由に使用することができる。
【0040】
このように、立位の被用者Zの腰部背後Z1aを引き上げることにより、
図6に示すように、被用者Zは、徐々に重心が移動し(
図6(b)および(c)参照)、前傾姿勢となり、最終的には片足を前に出すように歩行を開始する(
図6(d)参照)こことなり、この一連の動作を誘発させることができる。このときの重心の移動の状況や歩行時(
図6(d)参照)における姿勢は、被用者Zの背筋が伸びた理想的な歩行姿勢であり、このような姿勢を実体験できることから、その姿勢の体得に寄与することとなる。
【0041】
上記は走行時においても同様であり、歩行時においては、使用者(補助者)Yは、被用者Zの移動に伴って歩行することとなるが、走行時にあっては、使用者(補助者)Yも被用者Zの走行速度に合わせて走行することとなるものである。
【0042】
次に、他の把持状態の一例を
図7に示す。
図7は、上部の横軸部13に形成される把持領域を把持した状態を示している。この図に示されているように、使用者(補助者)は、片手Xによって、上部の横軸部13を把持することにより、掛止部2を自身よりも前方(被用者側)に向けつつ、大きく上方へ引き上げる際に使用できるものである。
【0043】
例えば、
図8に示すように、座位の被用者Zを立位に誘導しようとする場合、被用者の腰部Z1に装着した帯体4のうち、腰部背後Z1aの部分に掛止部2を掛止させ、使用者(補助者)Yが中腰または屈んだ姿勢になることで、上部の横軸部13を把持することができる。この状態で、補助具Aを持ち上げるように操作すれば、被用者Zの腰部背後Z1aを引き上げることができるものとなる。この場合においても、補助具Aを片手X1で把持する場合には、他方の手X2は自由に使用することができる状態となるものである。被用者Zが立位まで姿勢を変えた後は、前述の
図6に示すように、縦軸部12を把持することで歩行を誘導させることも可能である。
【0044】
<第2の使用形態(第2の使用方法)>
上述の重心移動補助具に係る実施形態(
図1)の説明において、本体部1を構成する一方の縦軸部11と、これに連続する横軸部13と中間位置に、貫通部3を設けるものであることを示した。そこで、第2の使用形態については、当該貫通部3を用いた場合の使用態様を説明する。
【0045】
貫通部3は、本体部1に一体的に構成され、任意の位置に設けることができるが、
図1に示されているように、本体部1を構成する一方の縦軸部11と、これに連続する横軸部13と中間位置に設けることが好ましい。これは、一方の縦軸部11の下方には掛止部2が固着されることから、その上方に貫通部3を設置することが目的である。貫通部3は、専らロープ等の紐状部材を挿通させるためのものであり、当該紐状部材は、補助具A(本体部1)を引き上げる際に使用するものであり、当該紐状部材によって上向きの引張力を補助具A(本体部1)に作用させるとき、当該補助具A(本体部1)に偶力(回転モーメント)を生じさせないように、可能な限り掛止部2の直上に配置しているのである。
【0046】
このような構成により、紐状部材によって付与される引張力は、貫通部3を介して一方の縦軸部11に伝達され、さらに掛止部2に集中して作用することとなる。なお、貫通部3の中心位置を掛止部2の樋状中央(二片21,22の中間)直上に設ける構成としてもよいが、その場合には、貫通部3を形成する本体部1の一部が突出することとなり、被用者の背後に接触することを回避するため、前掲の実施形態では、本体部1の一部を突出させない状態としている。
【0047】
このような貫通部3を使用する形態を
図9に示す。この図に示される使用形態は、貫通部3に紐状部材5を結束固定し、上方に配置される支持軸6に当該紐状部材5を懸架した状態とするものである。座位の被用者Zに装着された帯体4に対し、腰部背後Z1aにおいて掛止部2を掛止し、上記紐状部材5の先端付近を引き下げれば、支持軸6に懸架された紐状部材5は、貫通部3を引き上げることとなる。この引き上げ力を利用して、被用者Zの腰部背後Z1aを持ち上げるように誘導するのである。
【0048】
すなわち、
図10に示すように、座位の被用者Zに対し、腰部背後Z1aを持ち上げる(
図10(a)参照)ことにより、立位に近い状態まで腰部Z1の位置を上昇させ、立位に近い状態とすることができる(
図10(b)参照)。そして、その状態から被用者Zの腰部背後Z1aを支えることにより、被用者Zの自力によって立位を保持することができる(
図10(c)参照)。このとき、立位に近い状態(
図10(b)参照)となったときからは、
図5に示すように、使用者(補助者)Yが手で補助具Aを操作することができ、また、立位を維持した状態(
図10(c)参照)からは、
図6に示すように、歩行を誘導することも可能となる。
【0049】
上記の使用態様は、被用者Zが要介護者であるような場合であって、使用者(補助者)の介助があれば歩行できるような場合に好適である。要介護者に対する介助場所には各種の介護用機器が設けられることから、支持軸6として使用可能な介護用支柱などが予め設置されていることが想定されるからである。特に、軸線が横向きに設置されたものであればよく、介護用リフトなどの基材の一部を代用することも可能である。
【0050】
なお、上記使用態様において、紐状部材5は、一端を貫通部3に結束固定し支持軸6に懸架したものとしたが、この紐状部材5の先端を支持軸6に結束固定し、当該紐状部材5を貫通部3に挿通させた状態で使用してもよい。この場合、紐状部材4の他端側は引き上げるように操作することとなる。
【0051】
<掛止部の掛止状態>
掛止部2は、被用者Zの腰部Z1に装着した帯体4に掛止するものであるが、ここで、その掛止の状態について詳述する。
図11は、一端的な帯状の紐によって形成される帯体4に対して掛止部2を形成された状態を示す。この図に示されているように、帯体4は、基片部21と係入片部22の間に挿入され、底部の連続部23に到達する状態で停止した状態で係止されるものである。
【0052】
ところで、重心移動補助具に係る実施形態(
図1)において例示した係入片部22には、その上端縁20の略中央から適宜長さの切り込み部24が設けられているものである。上記のような帯状の紐による帯体4を掛止する場合には、当該切り込み部24を使用するものではないが、帯体4がズボンに装着するベルトの場合には、この切り込み部24を使用することができる。
【0053】
すなわち、
図12に示すように、ズボン7には、ベルト通し71が設けられ、ベルト(帯体)4は、ズボン7の複数箇所に設けられるベルト通し71を挿通することにより、ズボン7と一体的に装着し得るものである。そして、このベルト通し71の両側を掛止部2で係入する際に、切り込み部24はベルト通し71の係入溝として機能させることとなるのである。
【0054】
要するに、ベルト通し71を切り込み部24に係入させつつ、ベルト通し71の両側に形成されるベルト(帯体)の掛止領域4a,4bに対し、切り込み部24の両側に形成される係入片構成部22a,22bによって掛止させるのである。
【0055】
このとき、
図12の反対側からの状態を示す
図13(a)のように、ベルト通し71は、係入片部22の切り込み部24を通過することとなるため、掛止部2は、係入片構成部22a,22bが、ベルト(帯体)4の裏側に係入され、ベルト(帯体)の掛止領域4a,4bを掛止することとなるのである。このベルト通し71が切り込み部24に係入されることにより、切り込み部24の両側に位置する係入片構成部22a,22bは、ベルト通し71の存在によって、ベルト(帯体)4の長手方向へ自在に移動することが阻害されることとなるから、掛止部2による掛止位置が安定することとなるのである。
【0056】
なお、
図13(b)に示すように、ベルト通し71は、ズボン7と同じ材質の布製であるため自在に変形することから、ベルト(帯体)4を掛止部2によって十分に掛止させた状態において、当該ベルト(帯体)4を吊り上げる際においても、ズボン7との一体性は保持され、ベルト(帯体)4は、ズボン7とともに吊り上げられるものとなる。
【0057】
<変形例>
本発明の実施形態は上記のとおりであるが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。従って、一部の構成を変形したものであってもよい。
【0058】
例えば、
図14(a)に示すような重心移動補助具Bとしてもよい。この重心移動補助具Bは、実施形態において例示した補助具A(
図1参照)の構成要素である貫通部3を設けないものとしたものである。貫通部3は、上述のとおり、紐状部材5を用いる場合に使用される要素であるが、そのような使用の予定がない場合には、貫通部3を設けなくてもよいのである。
【0059】
また、
図14(b)に示す重心移動補助具Cのように、本体部1を環状に形成せず、略U字状に形成したものであってもよい。本体部1には把手領域が形成されていればよいことから、適宜な長さの縦軸部12および上部の横軸部13を備えていれば、これらを把手領域として機能させることができる。この場合、環状に形成した本体部1よりも強度不足が懸念されるものの、肉厚寸法を増加させるなどにより、強度を増大させることで使用に耐えるものとすることができる。
【符号の説明】
【0060】
1 本体部
2 掛止部
3 貫通部
4 帯体(ベルト)
4a,4b 掛止領域
5 紐状部材
6 支持軸
7 ズボン
11,12 縦軸部
13,14 横軸部
20 係止片部の上端縁
21 基片部
22 係入片部
22a,22b 係入片構成部
23 連続部(底部)
24 切り込み部
71 ベルト通し
X,X1,X2 手
Y 使用者(補助者)
Z 被用者
Z1 被用者の腰部
Z1a 被用者の腰部背後
A,B,C 重心移動補助具
【要約】
【課題】 歩行姿勢もしくは走行姿勢の矯正または要介護者の移乗を補助することができる重心移動補助具と、その使用方法を提供する。
【解決手段】 重心移動補助具Aは、歩行姿勢もしくは走行姿勢の矯正または要介護者に対する移乗を補助するために、被用者の腰部周辺に予め装着した帯体を吊り上げることによって、被用者の重心を移動させることができる補助具である。重心移動補助具は、被用者に装着した帯体を掛止する掛止部2と、この掛止部が固着されている本体部1とを備え、 掛止部は、二枚の略平行な片部21,22と、両片部を底部で連続する連続部23を備え、全体として断面略U字状とする樋状を形成するものであり、本体部は、掛止部から適宜離れた位置に把手領域を有するものである。重心移動補助具の使用方法は、掛止部を被用者の腰部に装着した紐体に掛止させ、本体部1の把手領域を把持して重心を移動させるように操作する。
【選択図】
図1