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特許7168273船舶用翼型帆装置及び船舶用翼型帆装置を備えた船
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】船舶用翼型帆装置及び船舶用翼型帆装置を備えた船
(51)【国際特許分類】
   B63H 9/072 20200101AFI20221101BHJP
   B63H 9/061 20200101ALI20221101BHJP
   B63H 9/067 20200101ALI20221101BHJP
   B63H 9/10 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
B63H9/06 D
B63H9/061
B63H9/06 A
B63H9/10
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022080686
(22)【出願日】2022-05-17
【審査請求日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2021203788
(32)【優先日】2021-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509334387
【氏名又は名称】有限会社エイ・シー・ティー
(74)【代理人】
【識別番号】100103137
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 滋
(74)【代理人】
【識別番号】100145838
【弁理士】
【氏名又は名称】畑添 隆人
(72)【発明者】
【氏名】金井 亮浩
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第3702559(DE,A1)
【文献】特開平1-289794(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0014683(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第19614150(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0100406(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第3516156(DE,A1)
【文献】仏国特許出願公開第2789969(FR,A1)
【文献】独国特許出願公開第2810355(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 9/06- 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マストと、
前記マストの上端に設けた上側端板と、
前記マストの下端側に設けた下側端板と、
第1ソフトセイルと、第2ソフトセイルと、からなるダブルセイルと、
前記第1ソフトセイルを巻き取り・繰り出す第1巻取装置と、
前記第2ソフトセイルを巻き取り・繰り出す第2巻取装置と、
前記ダブルセイルの後端のリーチを引っ張る引っ張り機構と、
を備えた翼型帆アセンブリと、
前記翼型帆アセンブリの作動機構と、
からなる船舶用翼型帆装置であって、
前記ダブルセイルの前端のラフは、前記マストの後側に位置して前記マストの幅方向に離間する前記第1ソフトセイルの第1ラフと前記第2ソフトセイルの第2ラフとからなり、
前記第1ソフトセイルと、前記第2ソフトセイルと、前記マストと、から翼型帆が形成されており、
前記翼型帆アセンブリは、船舶の甲板上に回転機構によって回転可能に設置されており、
前記作動機構は、
前記第1巻取装置、前記第2巻取装置、前記引っ張り機構を作動させて前記翼型帆の形状を決定する第1駆動装置と、
前記回転機構を作動させて前記船舶に対する前記翼型帆の姿勢を決定する第2駆動装置と、
相対風向に応じて、前記翼型帆により生成される力の船舶の進行方向成分である推進力が最大となるように、前記第1駆動装置及び前記第2駆動装置を制御して、前記翼型帆の形状と姿勢を決定する制御部と、
を備えている、
船舶用翼型帆装置
【請求項2】
前記ダブルセイルの前記リーチは、前記上側端板及び前記下側端板に対して、前記上側端板及び前記下側端板の幅方向に移動可能である、
請求項1に記載の船舶用翼型帆装置
【請求項3】
前記ダブルセイルの前記リーチは、前記第1巻取装置、前記第2巻取装置、前記引っ張り機構が協働して作動することで、前記上側端板及び前記下側端板の幅方向及び前記上側端板及び前記下側端板の長さ方向に移動可能となっている、
請求項2に記載の船舶用翼型帆装置
【請求項4】
前記第1巻取装置及び前記第2巻取装置は、前記マストの後方に位置しており、
前記第1ソフトセイルの前端と前記マストの間、及び、前記第2ソフトセイルの前端と前記マストの間には隙間が形成されており、前記隙間から前記翼型帆内部へ空気の流入を許容している、
請求項1に記載の船舶用翼型帆装置
【請求項5】
前記マストと、
前記上側端板と、
前記下側端板と、
から支持機構が形成されており、
前記支持機構には、前記第1ソフトセイルの前端側部位と前記第2ソフトセイルの前端側部位の間に位置して、前記第1ソフトセイルの前端側部位と前記第2ソフトセイルの前端側部位を離間させるスペーサとして機能し、前記ダブルセイルの形状を維持する1つあるいは複数のセイルサポートが設けてある、
請求項1に記載の船舶用翼型帆装置
【請求項6】
前記第1ソフトセイル及び前記第2ソフトセイルは、前端から後端に向かって高さ寸法が小さくなる台形状である、
請求項1に記載の船舶用翼型帆装置
【請求項7】
前記マストには、前記上側端板と前記下側端板の間に位置して、1つ以上の中間板が設けてあり、
前記第1ソフトセイルと、前記第2ソフトセイルと、からなるダブルセイルが高さ方向に多段に形成されている、
請求項1に記載の船舶用翼型帆装置
【請求項8】
前記ダブルセイルはメインセイルであり、
前記翼型帆アセンブリは、ジブセイルを備えており、
前記ジブセイルはソフトセイルであり、
前記ジブセイルを巻き取り・繰り出す巻取装置と、
前記ジブセイルのリーチを引っ張る引っ張り機構と、
を備え、
前記ジブセイルのリーチは、前記上側端板及び前記下側端板に対して、前記上側端板及び前記下側端板の幅方向に移動可能であり、
前記メインセイルと前記ジブセイルを備えた前記翼型帆アセンブリが前記甲板上で回転可能である、
請求項1に記載の船舶用翼型帆装置
【請求項9】
前記作動機構は、ジブセイル用の前記巻取装置、ジブセイル用の前記引っ張り機構を作動させて前記ジブセイルの形状を決定する第3駆動装置を備え、
前記制御部は、相対風向に応じて、前記第1駆動装置、前記第2駆動装置、前記第3駆動装置を制御して、前記翼型帆の形状と姿勢、及び、前記ジブセイルの形状と姿勢を決定する、
請求項8に記載の船舶用翼型帆装置
【請求項10】
請求項1~9いずれか1項に記載の船舶用翼型帆装置を備えた船舶であって、
前記翼型帆アセンブリが甲板上に回転可能に設置された船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶用翼型帆アセンブリに関するものである。
【背景技術】
【0002】
貨物船等の大型商船に帆を搭載して風力エネルギーを推進力に変える研究が行われている。風力を推進力として利用することで、船舶の石油燃料消費を削減することができ、船舶からのCO2排出量の削減に大きく寄与することになる。風力を船の推進力として利用することは、カーボンニュートラルの実現においても不可欠な技術である。
【0003】
帆によってより効率的に揚力を生成するためには、翼型帆(wing sailないしaerofoil sailと称される)が有利であるが、翼型帆の開発は、ハードセイルをベースに進展してきた。実際、従来の風力を船の推進力として利用する手法は、ハードセイルを用いている(特許文献1~4)。しかしながら、ハードセイルを用いた翼型帆においては、帆の収納やメンテナンスが課題となる。
【文献】WO2018/087649(特表2020-506114)
【文献】WO2014/001824(特表2015-525699)
【文献】WO2010/106207(特表2012-520209)
【文献】特許第5318008号(USP8413598)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ソフトセイルを用いた船舶用翼型帆を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
マストと、
前記マストの上端に設けた上側端板と、
前記マストの下端側に設けた下側端板と、
第1ソフトセイルと、第2ソフトセイルと、からなるダブルセイルと、
前記第1ソフトセイルを巻き取り・繰り出す第1巻取装置と、
前記第2ソフトセイルを巻き取り・繰り出す第2巻取装置と、
前記ダブルセイルの後端のリーチを引っ張る引っ張り機構と、
を備えた船舶用翼型帆アセンブリであって、
前記ダブルセイルの前端のラフは、前記マストの後側に位置して前記マストの幅方向に離間する前記第1ソフトセイルの第1ラフと前記第2ソフトセイルの第2ラフとからなり、
前記第1ソフトセイルと、前記第2ソフトセイルと、前記マストと、から翼型帆が形成されており、
前記翼型帆アセンブリは、船舶の甲板上に回転機構によって回転可能に設置されており、
前記翼型帆アセンブリは、
前記第1巻取装置、前記第2巻取装置、前記引っ張り機構を作動させて前記翼型帆の形状を決定する第1駆動装置(複数のアクチュエータを含む)と、
前記回転機構を作動させて前記船舶に対する前記翼型帆の姿勢を決定する第2駆動装置と、
相対風向に応じて、前記翼型帆により生成される力の船舶の進行方向成分である推進力が最大となるように、前記第1駆動装置及び前記第2駆動装置を制御して、前記翼型帆の形状と姿勢を決定する制御部と、
を備えている、
翼型帆アセンブリ、である。
ダブルセイルとマストとから翼型帆が形成され、マスト(典型的には前側部位)が前縁(leading edge)、ダブルセイルのリーチが後縁(trailing edge)となる。
1つの態様では、前記マストの前記前側部位は、流線形状を備えている。
【0006】
1つの態様では、
前記第1ソフトセイルは第1リーチを備え、
前記第2ソフトセイルは第2リーチを備え、
前記第1リーチと前記第2リーチが連結されて前記共通のリーチを形成している。
1つの態様では、
前記第1ソフトセイルは第1リーチを備え、
前記第2ソフトセイルは第2リーチを備え、
前記第1リーチと前記第2リーチは独立しており、互いに近接ないし当接することで前記共通のリーチを形成している。
このものでは、前記第1ソフトセイル及び前記第2ソフトセイルの巻取収納状態において、前記第1リーチと前記第2リーチが離間した状態となる。
1つの態様では、共通のリーチがシートの折り返し部から形成されている。すなわち、1枚ないし一体化されたシートを2つに折り返して、折り返し部が共通のリーチで、折り返した一方の半部が第1ソフトセイル、他方の半部が第2ソフトセイルとなる。
【0007】
1つの態様では、前記引っ張り機構は、前記ダブルセイルの前記リーチの上端及び下端を引っ張るものである。
1つの態様では、前記引っ張り機構は、前記ダブルセイルの前記リーチの上端を引っ張る上側引っ張り機構と、前記リーチの下端を引っ張る下側引っ張り機構と、からなる。
【0008】
1つの態様では、前記第1巻取装置及び前記第2巻取装置は、前記マストの前側部位の後方に位置して、前記マストの幅方向に対向して設けてあり、
前記第1ソフトセイルは、前端側から前記第1巻取装置に巻き取られ、
前記第2ソフトセイルは、前端側から前記第2巻取装置に巻き取られる。
1つの態様では、前記第1巻取装置及び前記第2巻取装置は、前記マストの後方に設けてある。
1つの態様では、前記第1巻取装置及び前記第2巻取装置は、前記マストの内部に位置している。
1つの態様では、前記第1巻取装置は前記マストの高さ方向に延びる第1巻取軸を備え、
前記第2巻取装置は前記マストの高さ方向に延びる第2巻取軸を備え、
前記第1巻取軸と前記第2巻取軸は、前記マストの幅方向に離間している。
【0009】
1つの態様では、
前記マストと、
前記マストの上端に設けた上側端板と、
前記マストの下端側に設けた下側端板と、
から支持機構が形成されており、
前記第1巻取装置、前記第2巻取装置、前記引っ張り機構は、前記支持機構に搭載されている。
1つの態様では、前記上側引っ張り機構は前記上側端板に搭載され、前記下側引っ張り機構は前記下側端板に搭載される。
前記支持機構は、前記回転機構によって、前記甲板上で回転可能である。すなわち、前記支持機構に搭載された前記第1巻取装置、前記第2巻取装置、前記引っ張り機構(前記上側引っ張り機構、前記下側引っ張り機構)、前記ダブルセイルは、前記支持機構と一体で前記甲板上で回転可能である。
【0010】
1つの態様では、前記支持機構には、前記第1ソフトセイルの前端側部位と前記第2ソフトセイルの前端側部位の間に位置して、前記第1ソフトセイルの前端側部位と前記第2ソフトセイルの前端側部位を離間させるスペーサとして機能し、前記ダブルセイル(特に、風下側のソフトセイル)の形状を維持する1つあるいは複数のセイルサポートが設けてある。
1つの態様では、前記セイルサポートは、前記マストに設けてある。
【0011】
1つの態様では、前記マストには、前記上側端板と前記下側端板の間に位置して、1つ以上の中間板が設けてあり、
前記第1ソフトセイルと、前記第2ソフトセイルと、からなるダブルセイルが高さ方向に多段に形成されている。
第1巻取装置、第2巻取装置、引っ張り機構は各ダブルセイルセットに対応して設けられている。
【0012】
1つの態様では、前記ダブルセイルの前記リーチは、前記上側端板及び前記下側端板に対して、前記上側端板及び前記下側端板の幅方向に移動可能である。
1つの態様では、前記ダブルセイルの前記リーチは、前記第1巻取装置、前記第2巻取装置、前記引っ張り機構が協働して作動(operatively)することで、前記上側端板及び前記下側端板の幅方向及び前記上側端板及び前記下側端板の長さ方向(端板の首尾方向)に移動可能となっている。
1つの態様では、前記引っ張り機構は、前記リーチを端板の幅方向にガイドするトラベラーを含んでいる。
1つの態様では、前記引っ張り機構は、複数のウインチを含んでいる。
【0013】
1つの態様では、前記第1ソフトセイルの前記第1巻取装置による第1巻取量と、前記第2ソフトセイルの前記第2巻取装置による第2巻取量を調整することで、前記翼型帆(ダブルメインセイル)の形状が可変である。
1つの態様では、前記第1巻取装置、前記第2巻取装置、前記引っ張り機構が協働して作動(operatively)することで、第1ソフトセイル及び第2ソフトセイルの縮帆が可能である。
【0014】
1つの態様では、前記第1ソフトセイル及び前記第2ソフトセイルは、前端から後端に向かって高さ寸法が小さくなる台形状である。
すなわち、前記第1ソフトセイルは第1ラフから第1リーチに向かって高さ寸法が小さくなる台形状であり、前記第2ソフトセイルは第2ラフから第2リーチに向かって高さ寸法が小さくなる台形状である。
第1ソフトセイル及び第2ソフトセイルを台形状とすることで、巻取時にセイルの前端側が高さ方向に多少ずれても良好な巻取を可能としている。
1つの態様では、上側端板の下面に楔状のスペーサを設けて、第1ソフトセイル及び第2ソフトセイルの傾斜状の上辺と上側端板との隙間を塞ぎ、下側端板の上面に楔状のスペーサを設けて、第1ソフトセイル及び第2ソフトセイルの傾斜状の下辺と下側端板との隙間を塞ぐ。
【0015】
1つの態様では、前記ダブルセイルはメインセイルであり、
前記翼帆型アセンブリは、ジブセイルを備えており、
前記ジブセイルはソフトセイルであり、
前記ジブセイルを巻き取り・繰り出す巻取装置と、
前記ジブセイルのリーチを引っ張る引っ張り機構と、
を備え、
前記ジブセイルのリーチは、前記上側端板及び前記下側端板に対して、前記上側端板及び前記下側端板の幅方向に移動可能であり、
前記メインセイルと前記ジブセイルを備えた前記翼帆型アセンブリが前記甲板上で回転可能である。
1つの態様では、前記ジブセイルの前記巻き取り・繰り出す巻取装置、前記ジブセイルの前記引っ張り機構は、前記支持機構に搭載されている。
【0016】
1つの態様では、前記翼型帆アセンブリは、ジブセイル用の前記巻取装置、ジブセイル用の前記引っ張り機構を作動させて前記ジブセイルの形状を決定する第3駆動装置(複数のアクチュエータを含む)を備え、
前記制御部は、相対風向に応じて、前記第1駆動装置、前記第2駆動装置、前記第3駆動装置を制御して、前記翼型帆の形状と姿勢、及び、前記ジブセイルの形状と姿勢を決定する。
【0017】
本発明は、上記翼型帆アセンブリが甲板上に回転可能に設置された船舶(vessel)を提供する。
船舶の種類は限定されないが、貨物船やタンカー等の大型商船を例示することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る翼型帆は巻取可能な2枚のソフトセイルから構成されているので、ハードセイルから構成された翼型帆に比べて、収納性やメンテナンス性に優れる。
2枚のソフトセイルの巻取量を適宜異ならしめることで、キャンバーの大きい非対称な翼型帆を容易に得ることができる。
本発明では、ソフトセイルを用いた翼型帆アセンブリを提供するものであり、翼型帆アセンブリは、船上に回転可能に設置されることで、船に推進力を付与し、燃費削減に寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係る翼帆型アセンブリを備えた船舶を示す図である。
図1A】本実施形態に係る翼型帆アセンブリの斜視図である。
図1B】本実施形態に係る翼型帆アセンブリの斜視図である。
図2A】他の実施形態に係る翼型帆アセンブリの斜視図である。
図2B】他の実施形態に係る翼型帆アセンブリの斜視図である。
図3】さらに他の実施形態に係る翼型帆アセンブリの斜視図である。
図4】ダブルメインセイルのリーチの引っ張り機構を説明する図である。
図5】ジブセイルのリーチの引っ張り機構を説明する図である。
図6A】本実施形態に係る翼型帆アセンブリのダブルメインセイルの全体構成を示す図である。
図6B】他の実施形態に係る翼型帆アセンブリのダブルメインセイルの全体構成を示す図である。
図6C】トラベラーのスライダの移動機構を示す図である。
図7】本実施形態に係る翼型帆アセンブリのジブセイルの全体構成を示す図である。
図8A】本実施形態に係る翼型帆アセンブリを示す平面図である。
図8B】他の実施形態に翼型帆アセンブリを示す平面図である。
図8C】さらに他の実施形態に係る翼型帆アセンブリを示す平面図である。
図9】本実施形態に係る翼型帆アセンブリのタッキングを説明する図である。
図10】本実施形態に係る翼型帆アセンブリのジブセイルの縮帆を説明する図である。
図11】本実施形態に係る翼型帆アセンブリのダブルメインセイルの縮帆を説明する図である。
図12】数値流体力学(computational fluid dynamics:CFD)による流れのシミュレーション(圧力分布と流線)を示す。上図はメインセイルのみの場合、下図はジブセイルを備えた場合である。
図13】本実施形態に係る翼型帆アセンブリの駆動装置を例示する図である。
図14】本実施形態に係る翼型帆アセンブリの操作部を例示する図である。
図15図15は、船舶に対する相対風向が20度の場合の船舶に対する翼帆型アセンブリの姿勢を示す図である。
図16図16は、船舶に対する相対風向が90度の場合の船舶に対する翼帆型アセンブリの姿勢を示す図である。
図17図17は、船舶に対する相対風向が120度の場合の船舶に対する翼帆型アセンブリの姿勢を示す図である。
図18図18は、船舶に対する相対風向が140度の場合の船舶に対する翼帆型アセンブリの姿勢を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図面に基づく以下の説明は、実施形態を例示するものであって、本発明の範囲を限定するものではなく、また、当業者において、本発明の範囲及び精神を逸脱することなく、種々の改良や変形が行われてよい。
【0021】
[A]本実施形態に係る翼型帆アセンブリの全体構成
図1A図1B図6A図8に示すように、本実施形態に係る翼型帆アセンブリは、マスト1と、第1メインセイル2と第2メインセイル3からなるダブルメインセイルと、第1メインセイル2を巻き取り・繰り出す第1巻取装置4と、第2メインセイル3を巻き取り・繰り出す第2巻取装置5と、ダブルメインセイルのリーチ20、30を引っ張るリーチ引っ張り機構6を備えている。第1メインセイル2及び第2メインセイル3は、シート状で巻取可能なソフトセイルであり、第1メインセイル2と第2メインセイル3からなるソフトセイル・セットによって、ダブルメインセイルが形成されている。ダブルメインセイルは、後端の共通のリーチ20、30と、前端のラフ21、31と、を備え、前端のラフ21、31は、マスト1の後側(第1エッジ12、第2エッジ13の近傍)に位置してマスト1の幅方向に離間している。ダブルメインセイルとマスト1とから翼型帆が形成され、マスト1が前縁(leading edge)、ダブルメインセイルのリーチが後縁(trailing edge)となる。
【0022】
図7に示すように、本実施形態に係る翼型帆アセンブリは、さらに、ジブセイル7と、ジブセイル7を巻き取り・繰り出す第3巻取装置8と、ジブセイル7のリーチ70を引っ張る引っ張り機構9と、を備えている。ジブセイル7はシート状で巻取可能なソフトセイルである。図1図15図18に示すように、本実施形態に係る翼型帆アセンブリは、船舶の甲板上に回転可能に立設されており、図1では、翼型帆アセンブリは、大型商船として例示するバルクキャリアBの甲板上に立設されている。
【0023】
ダブルメインセイルはマスト1の後方に位置しており、ジブセイル7はマスト1の前方に位置している。第1メインセイル2、第2メインセイル3、ジブセイル7を形成するシートは、所定の強度を備え、巻取可能なシートであれば、その材質は限定されない。例えば、既存の帆船のメインセイルやジブセイルに用いられる可撓性のシートを用いてもよい。
【0024】
[B] 翼型帆アセンブリの構造体
[B-1]マスト
本実施形態に係るマスト1は、船舶の甲板に垂直に立設されるようになっており、図8Aに示すように、前方に膨出状の湾曲部からなる前側部位(風上側部位を形成する)10と、後側で端板(上側端板14、下側端板15)の幅方向に延びる平面部(高さ方向に延びる垂直面を形成する)11と、からなる。本実施形態に係るマスト1の前側部位10は実質的にマスト1の側方部位を含んでいる。マスト1の前側部位10は流線形状を備えており、翼の前縁(leading edge)を形成している。マスト1の後側には、湾曲部である前側部位10と平面部10の角部に位置して、第1側の第1エッジ12と第2側の第2エッジ13が形成されている。マスト1の高さ寸法や断面寸法は限定されないが、大型商船やタンカー等の大型船舶に搭載される場合には、相応の高さ寸法、幅寸法を有することになる。マスト1は所定の強度及び剛性を備えていれば材質は限定されないが、例えば、金属やカーボンファイバから形成される。1つの態様では、マスト1は中空部を備えており、中空部に、ワイヤ、電線等の翼型帆アセンブリの構成要素の一部を収納するようにしてもよい。マスト1は伸縮可能ないし折り畳み可能、あるいは可倒式であってもよい。また、マスト1の断面形状は図8Aに示すものに限定されず、例えば、後面が後方に膨出状の湾曲部11aであってもよい(図8B参照)。
【0025】
[B-2]端板
本実施形態において、マスト1の上端には上側端板14が設けてあり、マスト1の下端側には下側端板15が設けてある。上側端板14と下側端板15は、垂直状のマスト1に対して水平状に延びる板状部材である。上側端板14は、所定の長さ寸法及び所定の幅寸法を備えており、マスト1の後方に位置する第1部位、マスト1の前方に位置する第2部位を備えている。下側端板15は、所定の長さ寸法及び所定の幅寸法を備えており、マスト1の後方に位置する第1部位、マスト1の前方に位置する第2部位を備えており、下側端板15の第2部位は、上側端板14の第2部位よりも前方に延びている。本実施形態に係る上側端板14、下側端板15において、上側端板14の前側部位(第2部位の先端部位)、下側端板15の前側部位(第2部位の先端部位)は、前方に向かって漸次細幅となっている。上側端板14及び下側端板15の形状は図示の態様に限定されない。また、上側端板14と下側端板15の幅寸法及び長さ寸法は同じであってもよい。
【0026】
[B-3]支持機構
マスト1と、上側端板14と、下側端板15と、から支持機構が形成されている。第1メインセイル2、第2メインセイル3、ジブセイル7、第1巻取装置4、第2巻取装置5、ダブルメインセイルのリーチ引っ張り機構6、第3巻取装置8、ジブセイル7のリーチ引っ張り機構9は、上記支持機構に搭載されている。マスト1の下端には、下側端板15の下方に位置して円柱状の回転支持部16が設けてある。支持機構、すなわち、翼型帆アセンブリは甲板上で回転可能となっている。回転支持部16は回転機構によって回転可能となっており、翼型帆アセンブリは、マスト1、上側端板14、下側端板15、第1メインセイル2、第2メインセイル3、ジブセイル7、第1巻取装置4、第2巻取装置5、ダブルメインセイルのリーチ引っ張り機構6、第3巻取装置8、ジブセイル7のリーチ引っ張り機構9を含む全体が、船舶の甲板上に回転機構によって360°回転可能に設置されている。
【0027】
第1メインセイル2、第2メインセイル3、第1巻取装置4、第2巻取装置5、ダブルメインセイル用のリーチ引っ張り機構6は、上側端板14及び下側端板15の第1部位に搭載されており、第1メインセイル2及び第2メインセイル3は、上側端板14と下側端板15の第1部位間で、展帆するようになっている。ジブセイル7、第3巻取装置8、ジブ用リーチ引っ張り機構9は、上側端板14及び下側端板15の第2部位間に搭載されている。ジブセイル7は、上側端板14と下側端板15の第2部位間で展帆するようになっている。
【0028】
[C]翼型帆アセンブリの詳細
[C-1]ダブルメインセイル
本実施形態では、第1メインセイル2と第2メインセイル3とからダブルメインセイルが形成されており、ダブルメインセイルはソフトセイルである。第1メインセイル2は、前端側から第1巻取装置4に巻き取られるようになっており、第1巻取装置4から繰り出された展帆状態において、リーチ20と、ラフ21と、上辺22と、下辺(フット)23と、を備えている。第2メインセイル3は、前端側から第2巻取装置5に巻き取られるようになっており、第2巻取装置5から繰り出された展帆状態において、リーチ30と、ラフ31と、上辺32と、下辺(フット)33と、を備えている。図1A図1B図6A図6Bに示す態様では、第1メインセイル2の上辺22、下辺(フット)23は水平辺であり、第1メインセイル3の上辺32、下辺(フット)33は水平辺であり、展帆状態において、ダブルメインセイルの上辺は、上側端板14の下面に近接しており、ダブルメインセイルの下辺(フット)は、下側端板15の上面に近接している。
【0029】
第1メインセイル2のリーチ20と第2メインセイル3のリーチ30は連結ないし近接しており、ダブルメインセイルのリーチを形成している。第1メインセイル2のラフ21はマスト1の第1エッジ12の後側に位置し、第2メインセイル3のラフ31はマスト1の第2エッジ13の後側に位置しており、第1メインセイル2のラフ21と第2メインセイル3のラフ31は、マスト1の幅方向(端板の幅方向)に離間している。本実施形態において、第1メインセイル2のリーチ20と第2メインセイル3のリーチ30とからダブルメインセイルの共通のリーチが形成される一方、第1メインセイル2のラフ21と第2メインセイル3のラフ31はマスト1の幅方向に離間して対向している。第1メインセイル2と第2メインセイル3とからなるダブルメインセイルと、マスト1と、から翼型帆が形成され、マスト1が前縁(leading edge)、ダブルメインセイルのリーチが後縁(trailing edge)となる。
【0030】
1つの態様では、ダブルメインセイルのリーチは、第1メインセイル2のリーチ20と第2メインセイル3のリーチ30を連結することで形成される。連結手段としては、縫着やリング等の連結要素を用いた連結を例示することができる。他の態様では、第1メインセイル2のリーチ20と第2メインセイル3のリーチ30は連結されずに、リーチ20とリーチ30が近接した状態で展帆、縮帆するように制御される。なお、1枚ないし一体化されたシートを2つに折り返して、折り返し部が共通のリーチで、折り返した一方の半部が第1メインセイル、他方の半部が第2メインセイルとしてもよい。
【0031】
図2A図2Bに示す態様では、第1メインセイル2の上辺は、ラフ21からリーチ20に向かって下向き傾斜状に延びる傾斜辺であり、下辺は、ラフ21からリーチ20に向かって上向き傾斜状に延びる傾斜辺である。第2メインセイル3の上辺は、ラフ31からリーチ30に向かって下向き傾斜状に延びる傾斜辺であり、下辺は、ラフ31からリーチ30に向かって上向き傾斜状に延びる傾斜辺である。すなわち、第1メインセイル2及び第2メインセイル3はリーチ20、30が上底、ラフ21、31が下底とする台形である。上側端板14の下面には、第1メインセイル2の上辺、第2メインセイル3の上辺との隙間を塞ぐように楔型のスペーサ18aが設けてある。下側端板15の上面には、第1メインセイル2の下辺、第2メインセイル3の下辺との隙間を塞ぐように楔型のスペーサ18bが設けてある。
【0032】
本実施形態に係るダブルメインセイルは、シングルメインセイルに比べて、以下のような利点を備えている。セイルを利用してタンカーや大型船舶に推進力を付与する場合には、セイルが大きく、船のスタビリティがヨットに比べ大きいため、発生する力も大きくなり、構造的にマストの断面寸法が大きくなる。大きい断面寸法を備えたマストの後方に従来の1枚のメインセイルを設けた場合には、マストとラフの間に空気流のギャップが生じ、大きな剥離が発生し、抵抗増、揚力の減少をもたらす。本実施形態では、マスト1の後面の2つのエッジ部分12、13にそれぞれ第1メインセイル2のラフ21、第2メインセイル3のラフ31を位置させることで、空気流がスムースになることで剥離が抑制され、1つの翼として厚みができることでより大きな揚力を発生させることができる。それぞれのメインセイル2、3の一方が風下側の翼面、他方が風上側の翼面の働きをする。
【0033】
[C-2]ダブルメインセイルの巻取装置
マスト1の後側(風下側)には、第1巻取装置4と第2巻取装置5が、マスト1の幅方向に離間して設けてある。第1巻取装置4は、第1エッジ12の近傍に設けてあり、第2巻取装置5は、第2エッジ13の近傍に設けてある。第1巻取装置4及び第2巻取装置5は、平面視において、マスト1の幅寸法内に納まっている。第1巻取装置4、第2巻取装置5は、第1メインセイル2の前端すなわちラフ21、第2メインセイル3の前端すなわちラフ31が、第1エッジ12、第2エッジ13の近傍に位置するように設置され、第1メインセイル2のラフ21、第2メインセイル3のラフ31と、マスト1の第1エッジ12、第2エッジ13との間に空気流に影響を与えるようなズレが生じないようにしている。1つの態様では、第1エッジ12を通る接線方向にラフ21が位置しており、第2エッジ13を通る接線方向にラフ31が位置している。第1エッジ12と第1メインセイル2のラフ21との間、第2エッジ13と第2メインセイル3のラフ31との間には隙間21´、31´が存在していてもよく、隙間21´、31´から翼型帆内部へ空気の流入を許容してもよい。あるいは、このような隙間が存在する場合に、隙間を塞ぐようにしてもよい。なお、第1メインセイル2及び第2メインセイル3の「前端」は、第1巻取装置4及び第2巻取装置5から引き出された部位における前端を意味するものである。
【0034】
第1巻取装置4は、マスト1の第1エッジ12の後側の近傍に設けられ、垂直方向に延びる第1巻取軸40を備え、第1巻取軸40には、第1メインセイル2を形成するシートの前端が連結されている。第1巻取軸40は、電動あるいは手動で回転可能となっており、第1巻取軸40を一方の方向に回転させることで、第1メインセイル2が第1巻取軸40から繰り出され、第1巻取軸40を他方の方向に回転させることで、第1メインセイル2が第1巻取軸40に巻き取られるようになっている。1つの態様では、第1メインセイル2は第1巻取装置4に対して脱着可能である。
【0035】
第2巻取装置5は、マスト1の第2エッジ13の後側の近傍に設けられ、垂直方向に延びる第2巻取軸50を備え、第2巻取軸50には、第2メインセイル3を形成するシートの前端が連結されている。第2巻取軸50は、電動あるいは手動で回転可能となっており、第2巻取軸50を一方の方向に回転させることで、第2メインセイル3が第2巻取軸50から繰り出され、第2巻取軸50を他方の方向に回転させることで、第2メインセイル3が第2巻取軸50に巻き取られるようになっている。1つの態様では、第2メインセイル3は第2巻取装置5に対して脱着可能である。
【0036】
第1巻取装置4の第1巻取軸40と第2巻取装置5の第2巻取軸50は、上側端板14と下側端板15との間で回転可能に支持されている。第1巻取装置4の第1巻取軸40と第2巻取装置5の第2巻取軸50は、マスト1の幅方向(端板の幅方向)に離間しており、第1メインセイル2のラフ21と第2メインセイル3のラフ31は、マスト1の後側(風下側)に隣接して、端板の幅方向に離間している。展帆時に、第1メインセイル2の前端側部位と第2メインセイル3の前端側部位は端板の幅方向に離間して後方に延び、第1メインセイル2と第2メインセイル3の間に空間が形成され、ダブルメインセイルは所定の厚みを備えるようになっている。
【0037】
第1巻取装置4及び第2巻取装置5は、マスト1と上下の端板14、15からなる支持構造に対して着脱可能であってもよい。また、図8Aに示す態様では、第1巻取装置4及び第2巻取装置5は、マスト1の後方に位置しているが、図8Bに示すように、マスト1の内部に第1巻取装置4a、第2巻取装置5bを配置し、マスト1の前側部位10の後端(マスト1の側方部位)に形成した高さ方向に延びるスリットから第1メインセイル2、第2メインセイル3を引き出すようにしてもよい。第1メインセイル2のラフ20、第2メインセイル3のラフ30は、マスト1の前側部位10の後端(マスト1の側方部位)に位置している。
【0038】
[C-3]ダブルメインセイルのリーチ引っ張り機構
本実施形態では、第1メインセイル2のリーチ20と第2メインセイル3のリーチ30は当接ないし近接させた状態で連結されてダブルメインセイルのリーチを形成している。ダブルメインセイルのリーチをリーチ引っ張り機構6で引っ張ることで、第1メインセイル2及び第2メインセイル3にテンションを付与するようになっている。ダブルメインセイルのリーチは、第1巻取装置4、第2巻取装置5、リーチ引っ張り機構6が協働して作動(operatively)することで、上側端板14及び下側端板15の幅方向及び長さ方向(端板の首尾方向)に移動可能となっている。
【0039】
図6Aに示すように、本実施形態に係るダブルメインセイルのリーチ引っ張り機構6は、上側端板14に搭載され、ダブルメインセイルのリーチの上端部位を引っ張る上側引っ張り機構6Aと、下側端板15に搭載され、ダブルメインセイルのリーチの下端部位を引っ張る下側引っ張り機構6Bと、からなる。上側引っ張り機構6Aと下側引っ張り機構6Bは、実質的に同じ構成を備えており、それぞれ、第1ウインチ60と、第2ウインチ61と、基端側が第1ウインチ60に連結されており、第1ウインチ60に巻き取られる第1ロープ62と、基端側が第2ウインチ61に連結されており、第2ウインチに巻き取られる第2ロープ63と、トラベラー64と、複数のプーリ65と、を備えている。図4に示すように、第1ロープ62及び第2ロープ63は、トラベラー64を介して、先端側がダブルメインセイルのリーチ(第1メインセイル2のリーチ20及び第2メインセイル3のリーチ30)に連結されている。
【0040】
上側引っ張り機構6Aの第1ウインチ60、第2ウインチ61、トラベラー64は上側端板14に搭載されており、第1ロープ62及び第2ロープ63の先端は、ダブルメインセイルのリーチの上端部位に連結されている。トラベラー64は、上側端板14の後側端部に設けてある。下側引っ張り機構6Bの第1ウインチ60、第2ウインチ61、トラベラー64は下側端板15に搭載されており、第1ロープ62及び第2ロープ63の先端は、ダブルメインセイルのリーチの下端部位に連結されている。トラベラー64は、下側端板15の後側端部に設けてある。
【0041】
第1ロープ62の先端側部位(リーチ20に近い部位)及び第2ロープ63の先端側部位(リーチ30に近い部位)は近接した状態で、トラベラー64に沿って端板の幅方向に移動可能となっている。本実施形態に係るトラベラー64は、端板の幅方向に延びるガイド640と、ガイド640上を移動自在のスライダ641と、を備え、スライダ641上のリング642に、第1ロープ62の先端側部位及び第2ロープ62の先端側部位が挿通することでリング642内に拘束されており、ダブルメインセイルのリーチは、トラベラー64に沿って端板の幅方向に移動可能となっている。ダブルメインセイルのリーチがトラベラー64に沿って移動する時には、同時に第1メインセイル2の第1巻取装置4、第2メインセイル3の第2巻取装置5も作動し、2枚のメインセイルセイル2、3の出し入れ量が調節される。また、ダブルメインセイルの縮帆や収納時には、ダブルメインセイルのリーチのマスト1に向かう移動に合わせて、第1ロープ62及び第2ロープ63が引き出されるようになっている。
【0042】
第1ロープ62、第2ロープ63は、所定位置に配置された複数のプーリ65によって案内されるようになっている。プーリ65の数や設置位置や向き、ウインチ60、61の設置位置や向きは限定されず、当業者によって適宜設定し得るものであり、また、第1ロープ62、第2ロープ63の延びる方向は、プーリ65の数や設置位置や向き、ウインチ60、61の設置位置や向きよって変わり得ることに留意されたい。図6Aに示す態様では、第1ウインチ60、第2ウインチ61は、トラベラー64よりも船首側に位置しており、第1ロープ62、第2ロープ63は、トラベラー64から後方に引き出されて、プーリ65を介して前方(マスト1側)に引き出されているが、第1ウインチ60、第2ウインチ61の位置は限定されない。例えば、第1ウインチ60、第2ウインチ61を、トラベラー64の後方(船尾側)に配置してもよい。リーチ引っ張り機構6については、既存の帆船で用いられている技術を適宜採用し得るものである。
【0043】
図6Aでは、連結されて一体化されたリーチ20、30を、第1ウインチ60、第1ロープ62によって第1側に引っ張り、あるいは、第2ウインチ61、第2ロープ63によって第2側へ引っ張るようにしているが、第1メインセイル2のリーチ20と第2メインセイル3のリーチ30を留めない態様もあり得る。この場合、第1メインセイル2のリーチ20と第2メインセイル3のリーチ30を連結されておらず、それぞれのセイルのリーチ20、30にロープが連結されて、各リーチ20、30を独立に引くことになるが、2つのリーチ20、30がなるべく同じ位置になるように、2枚のメインセイル2、3のリーチ20、30が近接した状態を維持するように制御する。
【0044】
より具体的には、図6Bに示すように、2つの第1ウインチ600、601と、2つの第2ウインチ610、611を用意し、第1メインセイル2のリーチ20に第1ロープ620、第2ロープ630を連結し、第2メインセイル3のリーチ30に第1ロープ621、第2ロープ631を連結し、第1ロープ620、621をそれぞれ第1ウインチ600、601で第1側に引っ張り、第2ロープ630、631をそれぞれ第2ウインチ610、611で第2側に引っ張るようにしてもよい。
【0045】
図6Bの態様では、マスト1の後面には、第1メインセイル2のラフ21と第2メインセイル3のラフ31との間に位置して、セイル形状保持装置としてのセイルサポート17が設けてある。図6Bでは、1つのセイルサポート17を示しているが、マスト1の高さ方向に間隔を存して複数のセイルサポートを設けてもよい。上側端板14の下面、下側端板15の上面にセイルサポートを設けてもよい。また、セイルサポートをマスト1に対して可動(例えば、作動姿勢と収納姿勢をとることができる)としてもよい。
【0046】
セイルサポート17は、展帆時に、第1メインセイル2の前端側部位と第2メインセイル3の前端側部位の間に位置して、第1メインセイル2の前端側部位と第2メインセイル3の前端側部位を離間させるスペーサとして機能する。本実施形態に係るセイルサポート17は風下側のセイル形状の断面に沿う形をしている。風下側のメインセイルは負圧により形状ができるが、うまく膨れない場合にセイルサポートに沿う形で形状が保持される。第1メインセイル2のリーチ20と第2メインセイル3のリーチ30を連結しない態様とすることで、ダブルメインセイルのラフ側にセイルサポート17が位置する場合であっても、第1メインセイル2と第3メインセイル3を巻き取る時に、リーチ20とリーチ30の間が離間して、第1メインセイル2と第2メインセイル3の巻き取りが可能となっている。
【0047】
1つの態様では、トラベラー64のスライダ641は、第1ウインチ60、第2ウインチ61の作動に連動してガイド640に沿ってスライド移動するが、スライダ641をスライド移動させるための機構を備えていてもよい。図6Cに示すように、この機構は、スライダ641を第1側に移動させるための第1ウインチ66と、スライダ641を第2側に移動させるための第2ウインチ67と、第1ウインチ66とスライダ641を連結する第1ロープ68と、第2ウインチ67とスライダ641を連結する第2ロープ69と、第1ロープ68、第2ロープ69をそれぞれ案内するプーリ65と、を備えている。第1ウインチ66は第1ウインチ60の作動と同期して作動し、第2ウインチ67は第2ウインチ61の作動と同期して作動するように制御されるであろう。
【0048】
図8Cに示すように、ダブルメインセイルは、リーチ(リーチ20、リーチ30)が端板の幅方向の中央に位置する姿勢であっても、風を受けることによって、非対称形状に変形し得る。したがって、1つの態様では、メインセイルのリーチ引っ張り機構6がトラベラー64を備えなくてもよい。この場合、リーチ引っ張り機構6は、リーチを後方に引っ張るようになっている。リーチ引っ張り機構6がトラベラー64を備える場合であっても、第1ウインチ60と第2ウインチ61でダブルメインセイルのリーチを同時に引っ張ることで、図8Cに示す非対称形状を得ることができる。また、スライダ641をガイド640上の任意の位置で固定可能としてもよい。
【0049】
[C―4] ダブルメインセイル(ソフトセイル)の利点
本実施形態に係る第1メインセイル2と第2メインセー3からなるダブルメインセイルの利点としては、
(i)第1巻取装置4、第2巻取装置5によって、第1メインセイル2及び第2メインセイル3の巻取量を調整することで、非対称な翼帆形状を作り出すことができること;
(ii)巻き取るという簡単な方法で第1メインセイル2、第2メインセイル3を収納できること;
(iii)第1メインセイル2、第2メインセイル3の収納時にトラブルが起きにくいこと;
(iv)翼型帆のメンテナンスが容易であること(大型のハードセイルからなる翼型帆の場合、ハードセイル内部を高所まで人が入って点検する必要がある);
(v)高負荷になった場合にはセイルが破けることでフェイルセーフとなり、マスト1を含めた構造を破壊しにくいこと;
を例示することができる。
【0050】
[C-5]ジブセイル
本実施形態に係るジブセイル7は、リーチ70とラフ71を備えたソフトセイルである。ジブセイル7は第3巻取装置8に巻き取られ、繰り出されるようになっており、リーチ70は、ジブ用引っ張り機構9によって引っ張られるようになっている。第3巻取装置8は、マスト1の前方に離間した位置に設けられ、高さ方向に傾斜状に延びる第3巻取軸80を備え、第3巻取軸80には、ジブセイル7の基端側が連結されている。第3巻取軸80は、電動あるいは手動で回転可能となっており、第3巻取軸80を一方の方向に回転させることで、ジブセイル7が第3巻取軸80から繰り出され、第3巻取軸80を他方の方向に回転させることで、ジブセイル7が第3巻取軸80に巻き取られるようになっている。上側端板14の前側端部には、ジブセイル7の第3巻取装置8の巻取軸80の上端部位が支持されている。下側端板15の前側端部には、ジブセイル7の第3巻取装置8の巻取軸80の下端部位が支持されている。第3巻取装置8の第3巻取軸80は、上側端板14の前端部位(第2部位の先端部位)と下側端板15の前端部位(第2部位の先端部位)との間で回転可能に支持されている。本実施形態に係る第3巻取軸80は、高さ方向に傾斜状に延びているが、第3巻取軸80はマスト1と同様に垂直に延びるものでもよい。
【0051】
ジブセイル7のリーチ引っ張り機構9について説明する。本実施形態に係るジブセイル7のリーチ70は、ダブルメインセイルと同様に、上端部位及び下端部位を引っ張るようになっている。本実施形態に係るジブセイル7のリーチ引っ張り機構9は、上側端板14に搭載された上側引っ張り機構9Aと、下側端板15に搭載された下側引っ張り機構9Bと、からなる。上側引っ張り機構9Aと下側引っ張り機構9Bは、実質的に同じ構成を備えており、それぞれ、第3ウインチ90と、第4ウインチ91と、先端がジブセイル7のリーチ70に連結され、基端が第3ウインチ90に連結された第1ロープ92と、先端がジブセイル7のリーチ70に連結され、基端が第4ウインチ91に連結された第2ロープ93と、を備えている。
【0052】
上側引っ張り機構9Aの第3ウインチ90、第4ウインチ91は上側端板14に搭載されており、第1ロープ92及び第2ロープ93の先端は、ジブセイル7のリーチ70の上端部位に連結されている。下側引っ張り機構9Bの第3ウインチ90、第4ウインチ91は下側端板15に搭載されており、第1ロープ92及び第2ロープ93の先端は、ジブセイル7のリーチ70の下端部位に連結されている。
【0053】
本実施形態に係るジブセイル7はシート状のソフトセイルであり、セイル収納等において有利であるが、ジブセイルは、ソフトセイルに限定されず、硬帆であってもよい。また、メインセイルと同様に、ジブセイルをダブルセイルとしてもよい。ダブルジブセイルの構成としては、ダブルメインセイルの構成を参照することができる。
【0054】
[C-6] 高揚力装置としてのソフトセイルシステム
本実施形態に係るダブルメインセイルは、2枚のメインセイル2、3の巻取量を調整することで、左右非対称な形状となり、キャンバーの大きな翼断面形状を作ることができ、これにより大きな揚力が得られる。いわばフラップと同じ効果を奏する。
【0055】
ダブルセイルのみからなる翼型帆アセンブリも船に十分な推進力を与えることができるが、本実施形態に係る翼型帆アセンブリは、マスト1の後側のダブルメインセイルと、マスト1の前側のジブセイル7と、を備えることで、ダブルメインセイルとジブセイル7が組み合わさることで相乗的な作用効果を奏するようになっている。
【0056】
ダブルメインセイルの前側にジブセイル7を配置することで、ダブルメインセイルの風下側に新しい流れを入れることができ、ジブセイル7がない場合にダブルメインセイルの風下側で起こり得る剥離現象を抑えることができ、また同時に、ジブセイル7も揚力を発生し、相乗効果でより大きな揚力を得ることができる。いわばスラットと同じ効果を奏する。図12に、CFDによる流れのシミュレーション(圧力分布と流線)を示す。上図はメインセイルのみの場合、下図はジブセイルを備えた場合で、メインセイル風下側、後端付近で流れの剥離がなくなっていることが分かる。図12の各図において、上側の濃度の高い部位は負圧領域を示しており、下側の濃度の低い部位は正圧領域である。
【0057】
本実施形態に係る翼帆型アセンブリは、マスト1の下端の回転支持部16によって、甲板上で回転可能に支持されている。したがって、風の方向に合わせて、前記翼型帆により生成される力の船舶の進行方向成分である推進力が最大となるように、システム全体が回転可能となっている。
【0058】
[D]本実施形態に係る翼型帆アセンブリの動作
図8Aは、本実施形態に係る翼型帆アセンブリの展帆状態を示している。第1メインセイル2が第1巻取装置4から引き出されており、第2メインセイル3が第2巻取装置5から引き出されており、ダブルメインセイルのリーチ(第1メインセイル2のリーチ20と第2メインセイル3のリーチ30)は、第1ウインチ60又は/及び第2ウインチ61により引っ張られている。本実施形態では、第1巻取装置4、第2巻取装置5、引っ張り機構6が協働して作動することで、展帆状態において、ダブルメインセイルの非対称な形状を作り出すことができる点に特徴を備えている。図8Aでは、第2メインセイル3の巻取量が第1メインセイル2の巻取量よりも大きく、ダブルメインセイルのリーチはトラベラー64を介して第2ウインチ61によって、第2側に引っ張られた位置にある。ジブセイル7は第3巻取装置8から引き出されており、リーチ70が第3ウインチ90によって、第1側に引っ張られている。
【0059】
図9を参照しつつ、本実施形態に係る翼型帆アセンブリのタッキングを説明する。図9上図の状態では、第2メインセイル3の巻取量が第1メインセイル2の巻取量よりも大きく、ダブルメインセイルのリーチは、第2ウインチ61によって第2側に引っ張られ、第2側に寄った位置にある。この状態からタッキングを行う時には、第2巻取装置5から第2メインセイル3を繰り出し、第1巻取装置4によって第1メインセイル4を巻き取り、ダブルメインセイルのリーチを第1ウインチ60によって第1側に引っ張ることで、対称形状(図9中図)を経て、セイル形状を反転させて非対称形状(図9下図)のダブルメインセイルとする。ジブセイル7については、図9上図の状態から第3ウインチ90の引っ張りを緩めて、第4ウインチ91によってリーチ70を第2側に引っ張ることで、ジブセイル7の平面視における湾曲形状を反転させる。
【0060】
図10図11を参照しつつ、本実施形態に係るダブルメインセイル及びジブセイル7の縮帆(リーフ)について説明する。図10上図は、ジブセイル7をリーフした状態を示す。ジブセイル7のリーフは、リーチ引っ張り機構9の第3ウインチ90によるリーチ70の引っ張りを緩めると共に、第3巻取装置8でジブセイル7を所定量巻き取ることで行われる。図10下図は、ジブセイル7を完全に巻き取った状態(収納姿勢)を示している。
【0061】
図11上図は、第2巻取装置5から第2メインセイル3を繰り出し、第1巻取装置4によって第1メインセイル4を巻き取り、ダブルメインセイルのリーチを第1ウインチ60によって第1側に引っ張ることで、ダブルメインセイルを対称形状とした状態を示す。ダブルメインセイルのリーチ(後端)を中央へ移動し、左右非対称(キャンバー)を小さくする。
【0062】
この状態から、第1巻取装置4、第2巻取装置5によって、第1メインセイル2、第2メインセイル3を所定量巻き取って、ダブルメインセイルをリーフしていく。図11中図は、ダブルメインセイルのリーフ状態を示している。図11下図は、第1メインセイル2及び第2メインセイル3を完全に巻き取った状態(収納姿勢)を示している。
【0063】
[E] 電動駆動及び制御
第1巻取装置4、第2巻取装置5、第3巻取装置8、第1ウインチ~第4ウインチは、電動でも手動でもよいが、翼型帆アセンブリが大型の場合には電動が有利である。また、主として電動駆動する場合であっても、緊急時等に対応するべく手動操作に切り替え可能となっている。また、第1巻取装置4、第2巻取装置5、第3巻取装置8、第1ウインチ~第4ウインチの作動のタイミングは風速(相対風速)、風向(相対風向)によりコンピュータで自動制御可能である。相対風速や相対風向は、船舶に搭載された風向風速計により取得することができる。
【0064】
[E-1]駆動装置
図13に示すように、本実施形態に係る翼型帆アセンブリは、第1アクチュエータ~第8アクチュエータを備えている。第1巻取装置は、第1アクチュエータによって作動して、第1メインセイル2を巻き取り、あるいは、繰り出すようになっている。第2巻取装置は、第2アクチュエータによって作動して、第2メインセイル3を巻き取り、あるいは、繰り出すようになっている。第1ウインチ60は、第3アクチュエータによって作動して、ダブルメインセイルのリーチを第1側に引っ張り、あるいは、引っ張りを緩めるようになっている。第2ウインチ61は、第4アクチュエータによって作動して、ダブルメインセイルのリーチを第2側に引っ張り、あるいは、引っ張りを緩めるようになっている。第1アクチュエータ~第4アクチュエータから翼型帆(ダブルメインセイル)の形状を決定する第1駆動装置が構成されている。
【0065】
第3巻取装置8は、第5アクチュエータによって作動して、ジブセイル7を巻き取り、あるいは、繰り出すようになっている。第3ウインチ90は、第6アクチュエータによって作動して、ジブセイル7のリーチ70を第1側に引っ張り、あるいは、引っ張りを緩めるようになっている。第4ウインチ91は、第7アクチュエータによって作動して、ジブセイル7のリーチ70を第2側に引っ張り、あるいは、引っ張りを緩めるようになっている。第5アクチュエータ~第7アクチュエータからジブセイルの形状を決定する第3駆動装置が構成されている。翼型帆アセンブリは、第8アクチュエータによって回転可能となっている。第8アクチュエータは、翼型帆アセンブリの回転機構を作動させて船舶に対する翼型帆アセンブリ(ダブルメインセイル、ジブセイル)の姿勢(向き)を決定する第駆動装置を構成している。より具体的な例では、第駆動装置は、第8アクチュエータとしてのモータと、モータによって回転する駆動ギアと、前記駆動ギアと噛合しており、前記駆動ギアの回転に連動して回転する被駆動ギアと、を備え、被駆動ギアが回転することによって回転支持部16が回転するようになっている。駆動ギアの回転が停止している状態では、回転支持部16の回転が規制され、翼型帆アセンブリは所定の姿勢(向き)を維持するようになっている。アクチュエータの数は例示であって、図示のものに限定されない。アクチュエータの典型例はモータであるが、1つのアクチュエータに複数のモータが含まれ得ることが当業者に理解される。また、アクチュエータはモータに限定されるものではない。
【0066】
[E-2]制御装置
本実施形態に係る翼型帆アセンブリの動作は、コンピュータによって自動制御される。コンピュータは、少なくとも、コントローラと、メモリと、を備えている。コントローラは、操作部からの入力、あるいは、船舶の進行方向及び風向や風速の入力に応答して、メモリに格納された帆走プログラムに従って、第1アクチュエータ~第8アクチュエータから選択された1つあるいは複数に指令を出力して、選択されたアクチュエータを作動させて、翼型帆アセンブリを作動させる。また、コンピュータはディスプレイを備えていてもよく、例えば、翼型帆アセンブリの形状をディスプレイに表示するようにしてもよい。
【0067】
図14に、操作部の操作スイッチを例示する。ダブルメインセイルが展帆状態にある時に、「Furling(Main)」を押すと、第1メインセイル2及び第2メインセイル3が巻き取られて、収納状態となる。ダブルメインセイルが収納状態にある時に、「Unfurling (Main)」を押すと、第1メインセイル2及び第2メインセイル3が繰り出され、風向の入力に応じて、第1巻取装置、第2巻取装置、第1ウインチ60、第2ウインチ61が協働して、リーチを、トラベラー64に沿って第1側あるいは第2側に移動させて、ダブルメインセイルが展帆状態となる。展帆状態において、ダブルメインセイルが所定の非対称形状となる。
【0068】
自動帆走時には、風向に応じて、タッキングプログラムにしたがって、第1巻取装置、第2巻取装置、第1ウインチ60、第2ウインチ61が協働して、リーチを、トラベラー64に沿って反対側に移動させて、タッキングが実行され、非対称形のダブルメインセイルを形成する。自動帆走時には、風力に応じて、リーフィングプログラムにしたがって、第1巻取装置、第2巻取装置、第1ウインチ60、第2ウインチ61が協働して、リーフィングが実行される。
【0069】
ジブセイル7が展帆状態にある時に、「Furling(Jib)」を押すと、ジブセイル7が巻き取られて、収納状態となる。ジブセイル7が収納状態にある時に、「Unfurling (Jib)」を押すと、ジブセイル7が繰り出され、風向の入力に応じて、リーチ70が第1側あるいは第2側に引っ張られて展帆状態となる。
【0070】
自動帆走時には、風向に応じて、タッキングプログラムにしたがって、第3ウインチ90あるいは第4ウインチ91によってリーチ70の引っ張りを緩め、さらに、反対側に引っ張ることで、タッキングが実行される。自動帆走時には、風力に応じて、リーフィングプログラムにしたがって、第3巻取装置8、第3ウインチ90、第4ウインチ91が協働することで、リーフィングが実行される。
【0071】
操作部には、手動でタッキング、リーフィングを指示するためのスイッチが設けてある。ダブルメインセイルの展帆状態において、「Tacking(Main)」を押すと、ダブルメインセイルのリーチを反対側に移動させるように、第1巻取装置4、第2巻取装置5、リーチ引っ張り機構6が作動してタッキングが実行される。ジブセイル7の展帆状態において「Tacking(Jib)」を押すと、ジブセイル7のリーチ70を反対側に移動させるように、リーチ引っ張り機構9が作動してタッキングが実行される。
【0072】
ダブルメインセイルの展帆状態において、「Reefing(Mail)」を押すと、第1メインセイル2及び第2メインセイル3の面積を縮小するように、第1巻取装置4、第2巻取装置5、リーチ引っ張り機構6が作動してリーフィングが実行される。ジブセイル7が展帆状態において、「Reefing(Jib)」押すと、ジブセイル7の面積を縮小するように、リーチ引っ張り機構9、第3巻取装置8が作動してリーフィングが実行される。「Reefing」は、例えば、押している間は縮帆するスイッチ、あるいは、1回の押操作毎に段階的に縮帆するスイッチである。
【0073】
図14に示す各スイッチは例示に過ぎない。例えば、収納状態からのダブルメインセイルとジブセイルの繰り出しを行う共通のUnfurlingスイッチ(いわば、スタートボタン)を設けてもよい。展帆状態からのダブルメインセイルとジブセイルの巻き取りを行う共通のFurlingスイッチ(いわば、収納ボタン)を設けてもよい。操作方法を異ならしめることによって、Furlingスイッチがリーフィングスイッチを兼用するようにしてもよい。翼帆型アセンブリの回転させる回転スイッチを設けてもよい。自動帆走とマニュアル帆走を切り替えるスイッチを設けてもよい。
【0074】
[F]ダブルメインセイルの他の実施形態
図3に示すように、ダブルメインセイルを上下2段構成としてもよい。マスト1の高さ方向の中間部位には、中間板19が設けられ、上側ダブルメインセイル(図3では上側の第2メインセイル3Aのみ示す)は、上端板14と中間板19の間に位置し、下側ダブルメインセイル(図3では上側の第2メインセイル3Bのみ示す)は、中間板19と下端板15との間に位置する。上側ダブルメインセイル、下側ダブルメインセイルの構成の詳細については、既述のダブルメインセイルの構成を参照することができる。上側ダブルメインセイルについては、中間板19が下端板として機能し、下側ダブルメインセイルについては、中間板19が上端板として機能する。
【0075】
上側のダブルメインセイルと下側のダブルメインセイルは常に同時に展帆され、上側のダブルメインセイルのリーチと下側のダブルメインセイルのリーチは同じ位置に制御される。展帆状態から縮帆する場合には、上側のダブルメインセイルを先に縮帆させてもよい。
【0076】
[G] 翼型帆アセンブリの回転制御
図15図18を参照しつつ、翼型帆アセンブリの回転制御について説明する。本実施形態に係る翼型帆アセンブリが搭載された船舶(例えば、貨物船やタンカー等の大型商船)は、石油やLNG等を動力源としたエンジンによって、所定の進路に従って所定の方向に進行する。本実施形態では翼型帆アセンブリが船体の進行方向とは独立して回転可能であり、船体の進む方向に対する翼型帆(メインセイル)及びジブセイルの向きを、相対風向に応じて、メインセイル及びジブセイルによって生成される力の船舶の進行方向成分である推進力が最大となるように、任意に設定することができる。本実施形態に係る翼型帆アセンブリは、甲板上で360度回転可能であるため、相対風向に応じて帆が持つ最大の推進力を得ることができる。すなわち、通常の帆船(ブームが外側へ出せる範囲のみでメインセイルが外側へ張り出すことができる)よりも大きな推進力を得ることができる。
【0077】
図15図18において、船舶に対する翼帆型アセンブリの姿勢を、船舶の首尾方向に延びる軸aに対する翼帆型アセンブリの首尾方向に延びる軸bに対する角度で表し、この角度を回転角とする。図15図18において、翼帆型アセンブリの翼型帆に生成される揚力、抗力、推進力のベクトルを矢印で示しており、推進力を示すベクトルは、船舶の進行方向と一致している。
【0078】
船舶の甲板上で観測される相対風向が、船体の前方から120度付近(斜め後方)までの風向においては、セイルに対する迎角(風向とセイルとの間の角度、すなわちセイルに風が当たる角度)は20度付近がもっとも大きな推進力が得られるため、迎角が20度となるように翼帆型アセンブリを回転させることで、前記翼型帆アセンブリにより生成される力の船舶の進行方向成分である推進力が最大となるようにしている。図15図18において、迎角は相対風向と軸bの角度で表されている。
【0079】
図15に示すように、船舶に対する相対風向が20度の場合には、船舶に対する翼帆型アセンブリの姿勢を回転角0度とすることで、迎角20度を得るようにしている。図15に示す翼帆型アセンブリの姿勢ないし向きにおいて、揚力による推進力は抗力による推進力よりも大きい。
【0080】
図16に示すように、船舶に対する相対風向が90度の場合には、船舶に対する翼帆型アセンブリの姿勢を回転角70度とすることで、迎角20度を得るようにしている。図16に示す翼帆型アセンブリの姿勢ないし向きにおいて、揚力による推進力は抗力による推進力よりも大きい。
【0081】
図17に示すように、船舶に対する相対風向が120度の場合には、船舶に対する翼帆型アセンブリの姿勢を回転角100度とすることで、迎角20度を得るようにしている。図17に示す翼帆型アセンブリの姿勢ないし向きにおいて、揚力による推進力は抗力による推進力よりも大きい。
【0082】
図18に示すように、船舶に対する相対風向が140度の場合には、船舶に対する翼帆型アセンブリの姿勢を回転角95度とすることで、迎角55度を得るようにしている。図18に示す翼帆型アセンブリの姿勢ないし向きにおいて、揚力による推進力は抗力による推進力よりも小さい。
【0083】
コントローラは、相対風向に応じて、翼帆型アセンブリの翼帆(ダブルメインセイルとマストの前側部位)及びジブセイルによって生成される力の船舶の進行方向成分である推進力が最大となるように、第8アクチュエータを作動させて、翼帆型アセンブリを所定角度回転させるようになっている。
【0084】
図15図18に示す態様では、船舶の右舷から風が来るようになっており、コントローラは、相対風向に応じて、第1アクチュエータ~第7アクチュエータを作動させて、翼帆型アセンブリのダブルメインセイルとジブセイルが所定形状を形成するようにしている。相対風向が左舷側に変わった場合には、コントローラは、相対風向に応じて、第1アクチュエータ~第7アクチュエータを作動させて、翼帆型アセンブリのダブルメインセイルとジブセイルのタッキングを実行して、ダブルメインセイルとジブセイルが所定形状を形成するようにしている。
【符号の説明】
【0085】
1 マスト
14 上側端板
15 下側端板
16 回転支持部
17 セイルサポート
18a 楔型スペーサ
18b 楔型スペーサ
19 中間板
2 第1メインセイル
20 第1リーチ
21 ラフ
3 第2メインセイル
30 第2リーチ
31 ラフ
4 第1巻取装置
5 第2巻取装置
6 リーチ引っ張り機構(ダブルメインセイル)
60 第1ウインチ
61 第2ウインチ
62 第1ロープ
63 第2ロープ
64 トラベラー
7 ジブセイル
8 第3巻取装置
9 リーチ引っ張り機構(ジブセイル)
【要約】
【課題】ソフトセイルを用いた船舶用翼型帆を提供する。
【解決手段】
マスト1と、第1メインセイル2と、第2メインセイル3と、からなるダブルセイルと、第1メインセイル2を巻き取り・繰り出す第1巻取装置4と、第2メインセイル3を巻き取り・繰り出す第2巻取装置5と、ダブルセイルの後端のリーチ20、30を引っ張る引っ張り機構6と、を備え、ダブルセイルの前端のラフは、マスト1の後側に位置してマスト1の幅方向に離間する第1メインセイル2の第1ラフ21と第2メインセイル3の第2ラフ31とからなり、第1メインセイル2と、第2メインセイル3と、マスト1と、から翼型帆が形成される。
【選択図】図8A
図1
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18