(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】固体燃料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C10L 5/44 20060101AFI20221101BHJP
【FI】
C10L5/44
(21)【出願番号】P 2017052134
(22)【出願日】2017-03-17
【審査請求日】2020-02-27
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【氏名又は名称】山田 淳
(72)【発明者】
【氏名】小野 裕司
(72)【発明者】
【氏名】新倉 宏
(72)【発明者】
【氏名】松尾 久美子
(72)【発明者】
【氏名】高田 道義
【合議体】
【審判長】亀ヶ谷 明久
【審判官】関根 裕
【審判官】蔵野 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-125030号公報(JP,A)
【文献】特開2012-153790号公報(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101979478号明細書(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L5/00-11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質系バイオマスを10mm以下に破砕して破砕処理物を得る工程、
該破砕処理物を
乾燥固形分に対して3~200倍の質量の水で洗浄した後にプレス圧0.3~0.6MPaでプレス処理して脱水する工程、を含む固体燃料の製造方法。
【請求項2】
木質系バイオマスを10mm以下に破砕して破砕処理物を得る工程、
該破砕処理物を温度180~250℃、圧力1.0~4.0MPaで、5~60分間、水蒸気処理した後、瞬時に圧解放して爆砕処理することによって爆砕処理物を得る工程、
該爆砕処理物を
乾燥固形分に対して3~200倍の質量の水で洗浄した後にプレス圧0.3~0.6MPaでプレス処理して脱水する工程、を含む固体燃料の製造方法。
【請求項3】
木質系バイオマスがユーカリである請求項1ないし2記載の固体燃料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質系バイオマスを破砕処理して得られる破砕処理物を水で洗浄する、好ましくは破砕処理物を爆砕処理することによって得られる爆砕処理物を水で洗浄することによって塩素含有率が低い固体燃料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の枯渇化及びCO2排出による地球温暖化への対策として、バイオマスを原料とする燃料の利用が検討されている。一般にバイオマスとは、エネルギー源又は工業原料として利用することのできる生物体をいい、代表的なものは木材、建築廃材、農産廃棄物等である。従来よりバイオマスを有効利用する方法が各種提案されている。その中でも、バイオマスを低コストで以って高付加価値物に転換できる有用な方法として、バイオマスを炭化して固体燃料を製造する方法がある。これは、バイオマスを炭化炉に投入して酸素欠乏雰囲気下で所定時間加熱して炭化処理し、固体燃料を製造するものである。
【0003】
このようにして製造された固体燃料は、発電設備や焼却設備等の燃焼設備の燃料に用いられるが、この場合、燃焼効率を向上させるために固体燃料を細かく粉砕して微粉燃料として用いることがある。固体燃料は単独であるいは石炭と混合して粉砕されるが、バイオマスのうち木質系バイオマスは大部分が繊維質であるため、粉砕性が悪く、燃焼効率の低下、粉砕機の運転性低下等の問題があった。
【0004】
特許文献1には、材廃材、間伐材、庭木、建築廃材等の木質系バイオマスを240℃以上300℃以下の温度で、15分以上90分以下の時間で熱分解した後に粉砕する方法が開示されている。加熱温度が240℃より低い温度であると破砕性、粉砕性が向上せず、300℃よりも高い温度であると破砕、粉砕時にサブミクロンオーダーの微粉量が増大して粉体トラブルを生じ易くなるため好ましくないとしている。
【0005】
また、特許文献2には穀類、実、種子を含むバイオマスを酸素濃度1~5%、処理温度350~400℃で30~90分加熱して炭化処理することで、石炭と同等の粉砕性を有する固体燃料を製造する方法が開示されている。
【0006】
塩素化合物が含まれているバイオマスから得られる固体燃料は塩素含有率が高く、このような固体燃料は燃焼設備の腐食に対する対策や排ガス処理設備が必要となる。従って、固体燃料の塩素含有率を低減させることが求められる。特許文献3には、バイオマスを含む原料から焙焼によって製造される固体燃料の塩素含有率を低下させるために、固体燃料を水で洗浄する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-26474号公報
【文献】特開2009-191085号公報
【文献】特表2009-540097号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、塩素化合物が含まれているバイオマスから得られる固体燃料は、塩素含有率が高く、ボイラーの燃料として使用することが困難である。従って、塩素含有率を低減するための後処理や、燃焼設備の腐食に対する対策や排ガス処理設備が必要となるが、コストアップなる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、木質系バイオマスから簡便かつ効率的に塩素含有率が低減された固体燃料を製造する技術を検討したところ、木質系バイオマスを破砕処理し、得られた破砕処理物を水で洗浄して脱水することによって、塩素含有率が低減された固体燃料を効率的に製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
これに限定されるものではないが、本発明は、以下の態様を包含する。
(1) 木質系バイオマスを10mm以下に破砕して破砕処理物を得る工程、該破砕処理物を水で洗浄した後に脱水する工程を含む固体燃料の製造方法。
(2) 木質系バイオマスを10mm以下に破砕して破砕処理物を得る工程、破砕処理物を温度180~250℃、圧力1.0~4.0MPaで、5~60分間、水蒸気処理した後、瞬時に圧解放して爆砕処理することによって爆砕処理物を得る工程、
爆砕処理物を水で洗浄した後に脱水する工程を、含む固体燃料の製造方法。
(3) 木質系バイオマスの破砕処理物あるいは木質系バイオマスの爆砕処理物の乾燥固形分に対して3~200倍の質量の水で洗浄する(1)ないし(2)に記載の固体燃料の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、木質系バイオマスを破砕処理した後に、水で洗浄して脱水することにより塩素含有率が低減された固体燃料を製造できる。本発明による塩素含有率の低減のメカニズムは、破砕処理により木質バイオマスのヘミセルロースが分解され、更に繊維壁が破壊されるため、塩素イオンが水溶液側に移動し、その塩素イオンを含む水溶液がプレスや洗浄により除去されるので、木質バイオマスの塩素含有率が減少するものと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、木質系バイオマスを10mm以下に破砕した後に、水で洗浄した後に脱水する工程を含む、固体燃料の製造方法である。
【0013】
また、本発明の好ましい態様としては、木質系バイオマスを10mm以下に破砕して破砕処理物を得る工程、該破砕処理物を温度180~250℃、圧力1.0~4.0MPaで、5~60分間、水蒸気処理した後、瞬時に圧解放して爆砕処理することによって爆砕処理物を得る工程、該爆砕処理物を水で洗浄した後に脱水する工程を含む、固体燃料の製造方法である。
【0014】
本発明の爆砕処理は、木材を温度180~250℃、圧力1.0~4.0MPaで、保持時間5~60分間水蒸気処理した後、瞬時に圧解放するものである。このような条件で爆砕処理を行うことにより、木材中のリグニンやヘミセルロースが部分的に分解及び/または変性することによって、粉砕性が向上し、結果的に微粒子化が容易となるので、固体燃料として好適となる。
【0015】
水蒸気処理の温度が180℃未満であると繊維壁の破壊が不十分となり、爆砕処理物の塩素含有率が十分に低減しない。また、250℃を超えるとセルロースの分解が過度になり収率が低下する。
【0016】
水蒸気処理の保持時間が5分以内であると繊維壁の破壊が不十分となり、爆砕処理物の塩素含有率が十分に低減しない。また、60分を超えるとリグニンが縮合するため繊維壁の破壊が不十分となり、爆砕処理物の塩素含有率が十分に低減しない。
【0017】
本発明において、木質バイオマス1質量部に対して水を1~1000質量部添加して水蒸気処理を行うことが好ましい。
【0018】
原料の木材としては、例えば、広葉樹、針葉樹、のいずれもが使用できる。具体的には、広葉樹としては、ブナ、シナ、シラカバ、ポプラ、ユーカリ、アカシア、ナラ、イタヤカエデ、センノキ、ニレ、キリ、ホオノキ、ヤナギ、セン、ウバメガシ、コナラ、クヌギ、トチノキ、ケヤキ、ミズメ、ミズキ、アオダモ等が例示される。針葉樹としては、スギ、エゾマツ、カラマツ、クロマツ、トドマツ、ヒメコマツ、イチイ、ネズコ、ハリモミ、イラモミ、イヌマキ、モミ、サワラ、トガサワラ、アスナロ、ヒバ、ツガ、コメツガ、ヒノキ、イチイ、イヌガヤ、トウヒ、イエローシーダー(ベイヒバ)、ロウソンヒノキ(ベイヒ)、ダグラスファー(ベイマツ)、シトカスプルース(ベイトウヒ)、ラジアータマツ、イースタンスプルース、イースタンホワイトパイン、ウェスタンラーチ、ウェスタンファー、ウェスタンヘムロック、タマラック等が例示される。
【0019】
本発明において、木質系バイオマスは10mm以下のサイズに粉砕された粉砕物を使用することが必要で、0.1~10mmのサイズのものを使用することがさらに好ましい。なお、本発明において、木質系バイオマス粉砕物のサイズとは、篩い分け器の円形の穴の大きさによって篩い分けされたものである。木質系バイオマスを粉砕するための装置としては、ナイフ切削型バイオマス燃料用チッパーで粉砕処理することが好ましい。
【0020】
爆砕処理を行うための装置としては、バルメット、日東高圧(株)、日本電熱(株)、(株)ヤスジマ、日本化学機械製造(株)のバッチ式の爆砕処理装置、あるいはバルメット、アンドリッツの連続式の爆砕処理装置等が挙げられる。
【0021】
破砕処理物あるいは爆砕処理物を水で洗浄する工程が必要である。水で洗浄することにより、破砕処理物あるいは爆砕処理物の塩素含有率を低下させることが可能となる。この際、破砕処理物あるいは爆砕処理物の乾燥固形分に対して3~200倍の質量の水で洗浄することが好ましい。洗浄する水の質量が3倍未満では破砕処理物あるいは爆砕処理物の塩素含有率の低下は不十分であり、洗浄する水の質量が200倍を超えても頭打ちとなる。
【0022】
破砕処理物あるいは爆砕処理物を脱水する工程においてはプレス処理して脱水することが好ましい。破砕処理物あるいは爆砕処理物を水で洗浄後にプレス処理して脱水する工程では、プレス圧が0.3~0.6MPaであることが好ましい。プレス圧が0.2MPa未満では十分な脱水が行われないので、破砕処理物あるいは爆砕処理物の塩素含有率の低減が不十分である。プレス圧が0.6MPaを超えても脱水率は向上しないので、結果的に爆砕処理物の塩素含有率の低減は頭打ちとなる。プレス処理して脱水する装置としては、加圧式の固液分離装置であるスクリュープレスやフィルタープレス、ベルトプレス、レシプロ型プレス機などを好ましく用いることができる。
【0023】
本発明で得られる爆砕処理を行った固体燃料は、原料の木質バイオマスに対して物質収率で60~95%、熱量収率で70~95%である。また、粉砕性の指標であるJIS M 8801:2004に規定のハードグローブ粉砕性指数(HGI)は30以上が好ましく、40以上がさらに好ましい。HGIが高くなるほど、粉砕され易いことを示している。HGIが30~70の範囲であれば、石炭と混合して粉砕処理することが可能となる。石炭のHGIは通常40~70であるので、本発明で得られた固体燃料は石炭と同等の粉砕性を有している。
【実施例】
【0024】
以下に実施例にて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
[実施例1]
ユーカリ ユーログランディスの50mmアンダーチップ(水分40%)をカッティングミル(商品名:P-15、フリッチュ社製)で6mm以下に破砕した。破砕物の絶乾固形分100gに対して水を10kg加えて5分間洗浄し、ブフナー漏斗で脱水した。その後、シートマシンプレス(熊谷理機械工製)を用いて、プレス圧0.41MPaで5分間プレス処理して脱水した。この脱水物を後乾燥機により105℃で乾燥した後、常温雰囲気下で風乾し、固体燃料を得た。
【0026】
[実施例2]
ユーカリ ユーログランディスの50mmアンダーチップ(水分40%)をカッティングミル(商品名:P-15、フリッチュ社製)で6mm以下に破砕した。破砕物の絶乾固形分100gに対して水を200g加え、蒸気爆砕装置(日東高圧(株)製)を用いて200℃まで加温し、圧力1.6MPa、10分間保持して水蒸気処理した後、瞬時に圧解放して爆砕処理を行った。
得られた爆砕処理物を10kgの水で5分間洗浄し、ブフナー漏斗で脱水した。その後、シートマシンプレス(熊谷理機械工製)を用いて、プレス圧0.41MPaで5分間プレス処理して脱水した。この脱水物を乾燥機により105℃で乾燥した後、常温雰囲気下で風乾し、固体燃料を得た。
【0027】
[実施例3]
爆砕処理条件を230℃まで加温し、圧力2.8MPa、10分間保持した以外は、実施例2と同様にして固体燃料を得た。
【0028】
[実施例4]
爆砕処理条件を200℃まで加温し、圧力1.6Mpa、30分間保持した以外は、実施例2と同様にして固体燃料を得た。
【0029】
[比較例1]
ユーカリ ユーログランディスの50mmアンダーチップ(水分40%)を6mmアンダーに破砕しなかったこと以外は、実施例1と同様にして固形燃料を得た。
【0030】
[比較例2]
実施例2のユーカリ ユーログランディスの6mmアンダー粉砕物を105℃で乾燥機で乾燥した後、常温雰囲気下で風乾し、固体燃料を得た。
【0031】
[比較例3]
実施例3の爆砕処理物を、105℃で乾燥機で乾燥した後、常温雰囲気下で風乾し、固体燃料を得た。
【0032】
実施例1~4、比較例1~3で得られた固体燃料について下記の項目について評価し、結果を表1に示した。
・塩素含有率:JIS Z 7302-6に従い、塩素濃度をイオンクロマトグラフィーで測定し、これを基に算出した。
・物質収率:原料前後の試料の重量から計算した。
【0033】
【0034】
表1に示されるように、実施例1~4の固体燃料は、塩素含有率が低減され、0.01%未満であった。特に、実施例2~4は塩素含有率が0.005%未満であった。これに対して、比較例1~3では塩素含有率が0.02%を超えていた。