(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】焼却炉に付設された過給機のサージ回避方法及びその装置
(51)【国際特許分類】
F23G 5/50 20060101AFI20221101BHJP
【FI】
F23G5/50 H ZAB
(21)【出願番号】P 2017062379
(22)【出願日】2017-03-28
【審査請求日】2019-11-08
【審判番号】
【審判請求日】2021-08-13
(73)【特許権者】
【識別番号】507214083
【氏名又は名称】メタウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中出 貴大
(72)【発明者】
【氏名】服部 修策
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 直人
(72)【発明者】
【氏名】小関 泰志
【合議体】
【審判長】間中 耕治
【審判官】丹治 和幸
【審判官】松下 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-137576(JP,A)
【文献】特開2015-227748(JP,A)
【文献】特開2013-204926(JP,A)
【文献】特開2015-227748(JP,A)
【文献】特開2013-79586(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23G 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンと、前記タービンにより駆動されるコンプレッサと、焼却炉からの排ガスから熱回収する熱交換器とを備え、前記焼却炉に付設された過給機のサージ回避方法であって、
前記過給機の作動点がサージラインに接近したとき、前記コンプレッサの入口側に送風を行うとともにタービンへの入熱量を低下させて前記焼却炉に供給する空気量を一定に制御し、
前記コンプレッサの圧縮比が所定値まで低下したとき、前記送風を停止するとともに、前記タービンへの入熱量を上昇させることを特徴とする焼却炉に付設された過給機のサージ回避方法。
【請求項2】
前記タービンへの入熱量の低下を、前記コンプレッサからの吐出空気の一部をタービン出口側に供給するか、前記コンプレッサからの吐出空気を前記熱交換器の中間位置に供給するか、あるいは前記熱交換器で予熱された空気の一部を前記タービン出口側に供給することにより行うことを特徴とする請求項1に記載の焼却炉に付設された過給機のサージ回避方法。
【請求項3】
タービンと、前記タービンにより駆動されるコンプレッサと、焼却炉からの排ガスから熱回収する熱交換器とを備え、前記焼却炉に空気を吹き込む過給機のサージ回避装置であって、
前記コンプレッサの吐出空気量または入口空気量と、圧縮比とを計測する計測器と、前記コンプレッサの入口側に接続された送風機と、前記タービンへの入熱量を低下させるバイパスラインと、制御装置とを備え、
前記制御装置は、過給機の作動点がサージラインに接近したとき、前記コンプレッサの入口側に送風を行うとともに前記タービンへの入熱量を低下させて前記焼却炉に供給する空気量を一定に制御し、
前記コンプレッサの圧縮比が所定値まで低下したとき、前記送風を停止するとともに、前記タービンへの入熱量を上昇させることを特徴とする焼却炉に付設された過給機のサージ回避装置。
【請求項4】
前記バイパスラインは、前記コンプレッサの出口と
前記タービンの出口とを接続する第1のバイパスラインと、前記コンプレッサの出口と前記熱交換器の中間位置とを接続する第2のバイパスラインと、前記熱交換器の出口と前記タービンの出口を連結する第3のバイパスラインの少なくとも一つであることを特徴とする請求項3に記載の焼却炉に付設された過給機のサージ回避装置。
【請求項5】
前記コンプレッサからの吐出空気が前記熱交換器により昇温され、昇温された前記吐出空気が前記タービンを通過して前記焼却炉に供給されることを特徴とする請求項1に記載の過給機のサージ回避方法。
【請求項6】
前記コンプレッサからの吐出空気が前記熱交換器により昇温され、昇温された前記吐出空気が前記タービンを通過して前記焼却炉に供給されることを特徴とする請求項3に記載の過給機のサージ回避装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼却炉に付設された過給機のサージ回避方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流動焼却炉などの焼却炉においては、空気を炉内に供給して砂層部を流動させているが、流動用の空気の生成のために多くの電力を必要としている。そこで過給機付き焼却炉が開発されている。
【0003】
過給機付き焼却炉は、焼却炉から排出される高温の排ガスとの熱交換により昇温した空気を利用してタービンを回転させ、その回転動力によりコンプレッサを駆動して圧縮空気を生成する過給機を備えている。コンプレッサで圧縮された空気は熱交換器において焼却炉の排ガスとの熱交換により予熱され、エンタルピを増加させた状態でタービンに供給される。このためコンプレッサの圧縮仕事量よりもタービンの膨張仕事量が大きくなり、過給機の自立運転が可能となる。タービンを出た空気は焼却炉に供給される。
【0004】
このような過給機は、運転状態によってはサージング現象を生ずることがある。一般にサージング現象はコンプレッサの吐出空気量と圧縮比との関係がサージラインと呼ばれる境界線を越えたときに発生する共振現象であり、設備損傷に至ることがある。そこで特許文献1に示されるように、送風機によってコンプレッサの入口に強制的に空気を供給し、コンプレッサの吐出空気量の低下を防止するとともに圧縮比を適正に保ち、サージを回避している。
【0005】
しかしこのような運転方法では、過給機から焼却炉に供給される空気量まで変動してしまい、焼却炉の燃焼空気比や炉内温度が不安定になるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、サージング現象が発生しそうになったときに、焼却炉に供給する空気量を一定に保ちながら、圧縮比を適正に調整してサージング現象の発生を防止することができる、焼却炉に付設された過給機のサージ回避方法及びその装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するためになされた本発明の焼却炉に付設された過給機のサージ回避方法は、タービンと、前記タービンにより駆動されるコンプレッサと、焼却炉からの排ガスから熱回収する熱交換器とを備え、前記焼却炉に付設された過給機のサージ回避方法であって、前記過給機の作動点がサージラインに接近したとき、前記コンプレッサの入口側に送風を行うとともにタービンへの入熱量を低下させて前記焼却炉に供給する空気量を一定に制御し、前記コンプレッサの圧縮比が所定値まで低下したとき、前記送風を停止するとともに、前記タービンへの入熱量を上昇させることを特徴とするものである。
【0009】
なお、前記タービンへの入熱量の低下を、前記コンプレッサからの吐出空気の一部をタービン出口側に供給するか、前記コンプレッサからの吐出空気を前記熱交換器の中間位置に供給するか、あるいは前記熱交換器で予熱された空気の一部を前記タービン出口側に供給することにより行うことにより行うことができる。
【0010】
また上記の課題を解決するためになされた本発明の焼却炉に付設された過給機のサージ回避装置は、タービンと、前記タービンにより駆動されるコンプレッサと、焼却炉からの排ガスから熱回収する熱交換器とを備え、前記焼却炉に空気を吹き込む過給機のサージ回避装置であって、前記コンプレッサの吐出空気量または入口空気量と、圧縮比とを計測する計測器と、前記コンプレッサの入口側に接続された送風機と、前記タービンへの入熱量を低下させるバイパスラインと、制御装置とを備え、前記制御装置は、過給機の作動点がサージラインに接近したとき、前記コンプレッサの入口側に送風を行うとともに前記タービンへの入熱量を低下させて前記焼却炉に供給する空気量を一定に制御し、前記コンプレッサの圧縮比が所定値まで低下したとき、前記送風を停止するとともに、前記タービンへの入熱量を上昇させることを特徴とするものである。
【0011】
なお前記バイパスラインは、前記バイパスラインは、前記コンプレッサの出口と前記タービンの出口とを接続する第1のバイパスラインと、前記コンプレッサの出口と前記熱交換器の中間位置とを接続する第2のバイパスラインと、前記熱交換器の出口と前記タービンの出口を連結する第3のバイパスラインの少なくとも一つとすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の過給機のサージ回避方法及び装置によれば、過給機がサージラインに接近したとき、コンプレッサの入口側に送風を行うとともにタービンへの入熱量を低下させ、コンプレッサ吐出空気量を一定に制御する。これによりコンプレッサの圧縮比を低下させてサージラインから離すことができるので、サージ発生を回避することができるとともに、焼却炉に供給する空気量を一定に制御することができる。また、コンプレッサの圧縮比が所定値まで低下したとき、前記送風を停止するとともに、タービンへの入熱量を上昇させ、コンプレッサ吐出空気量を一定に制御しながら、コンプレッサの圧縮比を元の状態に戻す。このようにして、サージング現象が発生しそうになったときに、焼却炉に供給する空気量を一定に保ちながら、圧縮比を適正に調整してサージング現象の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1の実施形態を示す説明図である。
【
図2】コンプレッサの吐出空気量と圧縮比とサージラインとの関係を示すグラフである。
【
図3】本発明の第2の実施形態を示す説明図である。
【
図4】本発明の第3の実施形態を示す説明図である。
【
図5】本発明の第4の実施形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施形態を説明する。
図1において、1は下水脱水汚泥、都市ごみなどを焼却する焼却炉であり、ここでは砂層部2とその上方のフリーボード部3とを備えた流動焼却炉である。しかし本発明においては焼却炉の種類は特に限定されるものではない。焼却炉1から排出される850℃程度の高温の排ガスは、熱交換器7を通過したうえ、集塵機に送られて処理され、最終的に煙突から放出される。
【0015】
この焼却炉1に付設された過給機4は、タービン6とその回転動力により直接駆動されるコンプレッサ5とを備えている。コンプレッサ5は空気を吸引して圧縮し、圧縮された空気は熱交換器7に送られ、焼却炉1から排出される高温の排ガスとの熱交換によってコンプレッサ5で圧縮した空気を昇温する。このようにコンプレッサ5で圧縮された空気は熱交換器7で加熱されて保有エネルギが増加した状態で圧縮空気供給ラインを通じてタービン6に供給されるので、コンプレッサ5が空気を圧縮するために要するエネルギ以上の回転動力を得ることができ、過給機3の自立運転が可能となる。タービン6の出口側は空気吹き込みライン8を介して焼却炉1の砂層部2に接続されており、タービン6を通過した空気は砂層部2の流動用空気などとして使用される
【0016】
コンプレッサ5には、その吐出空気量または入口空気量と、圧縮比とを計測する計測器9が取り付けられている。
図2に示すように、サージラインは吐出空気量と圧縮比とを両軸としたグラフ上で直線として描くことができるので、計測器9の計測結果を制御装置10に入力すれば、サージ発生の危険性を判断することができる。なお、制御装置10はコンプレッサ5の吐出空気量を一定に制御している。
【0017】
コンプレッサ5の入口側には、送風機11が接続されている。この送風機11は常時は停止しているが、過給機4がサージラインに接近したとき、コンプレッサ5の入口側に送風を行い、コンプレッサ5の圧縮比を低下させることによってサージラインから離すための装置である。
【0018】
またコンプレッサ5の出口側には、コンプレッサ5の出口と焼却炉1の入口とを接続する第1のバイパスライン12が設けられている。バイパスライン12にはバルブ13が設けられており、制御装置10により開閉される。
【0019】
次に、
図1、
図2を参照しつつサージ回避の手順を説明する。
図2において、Aは定常運転状態における過給機4の作動点を示している。この定常運転状態から何らかの原因でコンプレッサ5の圧縮比が高まり、過給機4の作動点がBに示すようにサージラインに近づくと、計測器9がこの変化を検出し、制御装置10が送風機11を起動してコンプレッサ5の入口側に送風を行い、圧縮比を低下させるとともに、この送風によるコンプレッサ5の吐出空気量の増加を相殺するために、タービン6への入熱量を低下させる。
【0020】
タービン6への入熱量を低下させるために、この実施形態では制御装置10が第1のバイパスライン12のバルブ13を開き、コンプレッサ5の吐出空気の一部を焼却炉1に逃がす。これによってコンプレッサ5の吐出空気の一部がタービン6に供給されなくなり、タービン6への入熱量が低下する。このためタービン6により駆動されているコンプレッサ5の出力も低下して行く。このようにしてコンプレッサ5の出口風量を一定に維持したまま、コンプレッサ5の圧縮比を低下させることができ、作動点が
図2において下方に移動してサージラインから離れることとなる。したがって送風機11を起動してコンプレッサ5の入口側に送風を行うにもかかわらず、焼却炉1に供給する空気量はほぼ一定に保たれる。
【0021】
コンプレッサ5の圧縮比をAからBの状態へと上昇させた原因が消失すると、作動点はCの状態となり圧縮比は所定値まで低下する。計測器9がこの変化を検出すると制御装置10が送風機11を停止し、第1のバイパスライン12のバルブ13を閉じる。これによりタービン6への入熱量を上昇させながらコンプレッサ5の吐出空気量を一定に制御して、Aの定常運転状態に戻す。このようにして、焼却炉1に供給する空気量の変動を抑制しつつ、サージ発生を回避することができる。
【0022】
図3は本発明の第2の実施形態を示す図である。この第2の実施形態では、コンプレッサ5の出口と熱交換器7の中間位置とを接続する第2のバイパスライン14が設けられている。第2の実施形態でもサージ回避の手順は第1の実施形態と同様であるが、タービン6への入熱量を低下させるために、第2のバイパスライン14のバルブ15を開く点のみが相違する。
【0023】
このように第2のバイパスライン14のバルブ15を開いてコンプレッサ5の吐出空気の一部を熱交換器7の中間位置に放出すれば、タービン6への入熱量が低下する。
【0024】
図4は本発明の第3の実施形態を示す図である。この第3の実施形態では、熱交換器7の出口とタービン6の出口を連結する第3のバイパスライン16が設けられている。タービン6への入熱量を低下させるために、第3のバイパスライン16のバルブ17を開き、予熱された圧縮空気の一部を空気吹き込みライン8を通じて焼却炉1に供給すれば、タービン6への入熱量が低下し、上記と同様にコンプレッサ5の圧縮比も低下する。
【0025】
なおこれらの第1、第2、第3のバイパスラインは、複数を併用しても差し支えない。また、
図5に示すように、第1のバイパスライン12の他端を大気開放としておき、コンプレッサ5の吐出空気の一部を系外に放出するようにしてもよい。同様に、第3のバイパスライン16の他端を大気開放とすることもできる。
【0026】
以上に説明したように、本発明によれば、サージング現象が発生しそうになったときに、焼却炉に供給する空気量を一定に保ちながら、コンプレッサ5の圧縮比を適正に調整してサージング現象の発生を防止することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 焼却炉
2 砂層部
3 フリーボード部
4 過給機
5 コンプレッサ
6 タービン
7 熱交換器
8 空気吹き込みライン
9 計測器
10 制御装置
11 送風機
12 第1のバイパスライン
13 バルブ
14 第2のバイパスライン
15 バルブ
16 第3のバイパスライン
17 バルブ