(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】車両の乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/09 20120101AFI20221101BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20221101BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
B60W30/09
B62D6/00
G08G1/16 C
(21)【出願番号】P 2017188381
(22)【出願日】2017-09-28
【審査請求日】2020-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【審査官】楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-188129(JP,A)
【文献】特開2003-006796(JP,A)
【文献】特開2016-203942(JP,A)
【文献】特開2004-139344(JP,A)
【文献】特開2001-122081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00~60/00
B62D 6/00~ 6/10
G08G 1/00~ 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の自動運転制御による
操舵を伴う衝突回避制御または手動制御による
操舵を伴う衝突回避操作において衝突の可能性を判断する衝突判断部と、
前記衝突判断部により衝突
が不可避であると判断された場合、
緩めた操舵を維持して前記車両の挙動を制御する制御部と、
を有する、
車両の乗員保護装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記衝突回避制御または衝突回避操作による前記車両の挙動が安定し始めた後のタイミングにおいて、
一旦緩めた操舵を維持するように
前記車両の挙動を制御する、
請求項1記載の車両の乗員保護装置。
【請求項3】
前記衝突判断部は、
予想回避進路に対して他の物体が侵入すると予想した場合または存在する場合、衝突
が不可避であると判断する、
請求項1または2記載の車両の乗員保護装置。
【請求項4】
前記衝突判断部は、前記車両の進路が
予想回避進路から逸脱すると予想した場合、衝突
が不可避であると判断する、
請求項1から3のいずれか一項記載の車両の乗員保護装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記車両の挙動制御に加えて、
シートベルト装置を
プリテンション制御する、
請求項1から4のいずれか一項記載の車両の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車といった車両の挙動を制御するなどして乗員を保護する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車といった車両において、乗員を保護する場合、シートベルトによる乗員支持、展開したエアバッグでの乗員衝撃の吸収などが実施されている。
そして、近年においては自動運転制御装置や運転支援制御装置といった運転支援技術が盛んに開発されている。
この場合、通常時の走行支援だけでなく、衝突回避などの緊急回避支援についても、自動運転制御装置や運転支援制御装置により実施させることが考えられる。
特許文献1では、自車両の周辺の状況に基づいて、危険を回避する回避方向へ自車両を進行させる。これにより、たとえば衝突直後に運転者が自車両を安全に操作できない状況下であっても、他の障害物との二次衝突を回避でき、自車両の乗員の被害を軽減できる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、自動車が衝突を回避する場合、自動車は急激に加速したり減速したり操舵されたりすることになる。この際、自動車の挙動が変化し、乗員の姿勢や位置も変動してしまう可能性がある。
特に、自動運転制御などにより衝突を回避する場合、自動車の限界性能での加減速や操舵が実行される可能性がある。この場合、手動運転による衝突回避操作の場合と比べて、乗員の姿勢や位置が大きく変動してしまう可能性がある。このことは特許文献1の場合でも、同様である。
そして、乗員の姿勢や位置が変動している最中に車両が衝突してしまうと、乗員に対しては、その衝突直前の乗員の変動と、衝突時の衝撃入力とが相乗的に作用してしまう可能性がある。たとえば衝突前に乗員が移動する方向と衝撃の入力方向とが互いに相反する方向である場合、衝撃の入力のみが作用する場合と比べて大きな力が作用してしまう可能性がある。
【0005】
このように、車両の開発では、乗員の保護性能を更に向上させることが求められている。
特に、たとえば、自動運転制御装置や運転支援制御装置により衝突回避制御を実施した場合であっても、乗員の保護性能を高めるように努力することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両の乗員保護装置は、車両の自動運転制御による衝突回避制御または手動制御による衝突回避操作において衝突の可能性を判断する衝突判断部と、前記衝突判断部により衝突の可能性があると判断された場合、前記衝突回避制御または衝突回避操作によって生じた乗員の振れまたは移動した挙動状態を維持するように前記車両の挙動を制御する制御部と、を有する。
【0008】
好適には、前記制御部は、前記衝突回避制御または衝突回避操作による前記車両の挙動が安定し始めた後のタイミングにおいて、前記乗員の挙動状態を維持するように前記自動運転制御の衝突回避制御による前記車両の挙動を制御する、とよい。
【0009】
好適には、前記衝突判断部は、前記自動運転制御の衝突回避制御による予想回避進路に対して他の物体が侵入すると予想した場合または存在する場合、衝突の可能性があると判断する、とよい。
【0010】
好適には、前記衝突判断部は、前記車両の進路が、自動運転制御の衝突回避制御による予想回避進路から逸脱すると予想した場合、衝突の可能性があると判断する、とよい。
【0011】
好適には、前記制御部は、前記車両の挙動制御に加えて、前記自動運転制御の衝突回避制御による乗員の挙動状態を維持する乗員保護装置を制御する、とよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、車両が衝突しそうな場合に、自動運転制御による衝突回避制御または手動制御による衝突回避操作の実行が開始される。
そして、その回避状態において衝突判断部が衝突前に衝突することを判断すると、先の衝突回避制御または衝突回避操作よる乗員の挙動状態を維持するように車両を制御する。
たとえば、車両の挙動が安定し始めた後のタイミングでの、自動運転制御の衝突回避制御による乗員の挙動状態を維持するように車両を制御する。
よって、その後に実際に衝突する時点では、乗員の挙動が安定していることを期待できる。特に、この維持制御の開始時点において既に乗員が安定した状態にあれば、乗員の挙動は安定している。
衝突による衝撃が作用する時点では乗員の挙動が安定していて、乗員に対して、衝突前の移動と衝撃の入力とによる相乗的な力が作用し難くなることを期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る自動車および走行状態の一例を説明する模式的な説明図である。
【
図2】
図2は、
図1の自動車に搭載される乗員保護装置の構成の説明図である。
【
図3】
図3は、
図2の自動運転制御部による自動運転制御の一例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、自動運転制御部による衝突回避制御状態の一例を説明する模式的な説明図である。
【
図5】
図5は、
図2の衝突判断部および乗員保護制御部による衝突時制御の一例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、衝突時制御による乗員保護状態の一例を説明する模式的な説明図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態での、衝突時制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0015】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る自動車1および走行状態の一例を説明する模式的な説明図である。
図1では、自動車1は、緩く左へ曲がるカーブを走行する。カーブの前方では、他の自動車51が停車している。
図1の自動車1は、車体2を有する。車体2の車室には、乗員Mが着座する複数のシート3が設けられる。
自動車1は、乗員Mの操作により、加速し、減速し、左右へ操舵される。
【0016】
ところで、近年において自動車1では自動運転制御や運転支援制御といった運転支援技術が盛んに開発されている。
この場合、通常時の走行支援だけでなく、衝突回避などの緊急回避支援についても、自動運転制御装置や運転支援制御装置により実施させることが考えられる。
たとえば
図1に示すように自動車1が図の下から上へ向かって実線の矢印に沿って移動している場合において、道路の左側から他の自動車51が侵入しようとするとき、その状況を判断して点線の矢印のように操舵を伴う衝突回避制御を実施することが考えられる。
【0017】
しかしながら、自動車1が衝突を回避する場合、自動車1は急激に加速したり減速したり操舵されたりすることになる。この際、自動車1の挙動が変化し、乗員Mの姿勢や位置も変動してしまう可能性がある。
特に、自動運転制御などにより衝突を回避する場合、自動車1の限界性能での加減速や操舵が実行される可能性がある。この場合、手動運転による衝突回避操作の場合と比べて、乗員Mの姿勢や位置が大きく変動してしまう可能性がある。
そして、乗員Mの姿勢や位置が変動している最中に自動車1が衝突してしまうと、乗員Mに対しては、その衝突直前の乗員Mの変動と、衝突時の衝撃入力とが相乗的に作用してしまう可能性がある。
たとえば衝突前に乗員Mが移動する方向と衝撃の入力方向とが互いに相反する方向である場合、衝撃の入力のみが作用する場合と比べて大きな力が作用してしまう可能性がある。
このように、自動車1の開発では、乗員Mの保護性能を更に向上させることが求められている。
特に、たとえば、自動運転制御装置や運転支援制御装置により衝突回避制御を実施した場合であっても、乗員Mの保護性能を高めるように努力することが求められる。
【0018】
図2は、
図1の自動車1に搭載される乗員保護装置10の構成の説明図である。
図2の乗員保護装置10は、車外カメラ11、車内カメラ12、自動運転制御部13、衝突判断部14、乗員保護制御部15、操舵装置16、制動装置17、駆動装置18、エアバッグ装置19、シートベルト装置20、を有する。
自動運転制御部13、衝突判断部14、および乗員保護制御部15は、たとえばマイクロコンピュータ21において実現されてよい。この場合、車外カメラ11、車内カメラ12、操舵装置16、制動装置17、駆動装置18、エアバッグ装置19、およびシートベルト装置20は、マイクロコンピュータ21に接続されてよい。
【0019】
車外カメラ11は、自動車1の前方などの周囲を撮像するカメラである。これにより、自動車1の進路上の障害物やその周辺の他の自動車51などを撮像できる。
【0020】
車内カメラ12は、車室を撮像するカメラである。これにより、シート3に着座した乗員Mの着座位置や姿勢を撮像できる。
【0021】
操舵装置16は、乗員Mによるハンドル操作などに基づいて、自動車1のタイヤの向きを制御し、自動車1の進行方向を制御する。
【0022】
制動装置17は、乗員Mによるブレーキ操作などに基づいて、自動車1を減速または停止させる。
【0023】
駆動装置18は、乗員Mによるアクセル操作などに基づいて、自動車1を加速させる。
【0024】
エアバッグ装置19は、衝突発生時にシート3に着座した乗員Mの周囲でエアバッグを展開する。これにより、シート3に着座した乗員Mが衝突の衝撃力により着座位置から移動したり倒れたりする際に、これを支えることができる。たとえば展開したエアバッグに対して乗員Mの上体が倒れ込むことにより、乗員Mの上体の運動エネルギーを吸収することができる。また、乗員Mの上体は、エアバッグに当たった状態からさらに移動したり倒れたりし難くなる。
【0025】
シートベルト装置20は、衝突発生時またはその直前のプリテンション動作により、シート3に着座した乗員Mをベルトによりシート3から離れ難くなるように拘束する。
【0026】
自動運転制御部13は、たとえば目的地までの移動経路に基づいて、操舵装置16、制動装置17および駆動装置18を制御し、自動車1を走行させる。
また、自動運転制御部13は、車外カメラ11の撮像画像に基づいて衝突などの可能性を予測する。そして、衝突などの可能性がある場合、衝突回避制御を実行する。
【0027】
衝突判断部14は、自動運転制御部13による衝突回避制御が実行されている場合に、衝突の可能性を判断する。
【0028】
乗員保護制御部15は、自動運転制御部13が衝突回避制御を実行している場合に衝突判断部14により衝突が不可避であると判断された場合、衝突回避制御または衝突回避操作よる乗員Mの挙動を抑制するように自動車1の挙動を制御する。
【0029】
図3は、
図2の自動運転制御部13による自動運転制御の一例を示すフローチャートである。
自動運転制御部13は、たとえば乗員Mにより自動運転開始の操作が成された場合、
図3の自動運転制御を実行する。
【0030】
自動運転制御において、自動運転制御部13は、まず、自動運転の要否を判断する(ステップST1)。ここで、自動運転の可否についても判断してよい。
そして、自動運転が不要である場合または適さない場合、自動運転制御部13は、
図3の自動運転制御を終了する。
自動運転が必要である場合または適している場合、自動運転制御部13は、実際に自動運転制御を開始する(ステップST2)。
自動運転制御では、自動運転制御部13は、たとえば車外カメラ11の撮像画像や目的地までの経路情報に基づいて、自動車1の操舵装置16、制動装置17および駆動装置18を制御する。
また、自動運転制御を開始した後、自動運転制御部13は、衝突の可能性を判断する(ステップST3)。車外カメラ11の撮像画像において、自車の予定進路上に障害物があるが否かを判断する。また、他の自動車51などの移動体が、自車の予定進路に侵入する可能性について判断する。
そして、危険性が無い場合、自動運転制御部13は、通常の自動運転を継続する(ステップST2)。
逆に、自車の予定進路上に障害物があって衝突する可能性がある場合、または他の自動車51が自車の予定進路に侵入する可能性がある場合、自動運転制御部13は、自動的にそれらを避ける衝突回避制御を実行する(ステップST4)。
衝突回避制御では、障害物や他の自動車51を避けて走行するように、自動車1の操舵装置16、制動装置17および駆動装置18を制御する。
また、自動運転制御部13は、衝突回避制御により衝突が解消されたか否かを判断する(ステップST5)。衝突が解消されていない場合、衝突回避制御を継続する(ステップST4)。
衝突が解消された場合、自動運転制御部13は、衝突回避制御から通常の自動運転制御へ戻る(ステップST2)。
【0031】
これにより、自動車1は、自動運転制御により道路上の障害物や他の自動車51を避けながら走行し、たとえば所望の目的地まで移動することができる。
たとえば
図1に実矢印線で示す緩い左曲がりの予定進路により自動車1が自動運転制御により走行している場合において、曲がった先に他の自動車51が停車していると、衝突回避制御により、右側の車線へ移動して追い越し進行する破線矢印の進路に自車の走行が切り替え制御される。これにより、自車の予定進路上にいる他の自動車51との衝突を避けて進行することができる。
【0032】
図4は、自動運転制御部13による衝突回避制御状態の一例を説明する模式的な説明図である。
しかしながら、他の自動車51の実際の動きは、自動運転制御により予想した動きと一致するとは限らない。
たとえば
図4に実矢印線で示すように、他の自動車51が、停車しているのではなく、ゆっくりと右側車線へ進行しようとしている可能性もある。
そして、自車も他の自動車51を避けて追い越すために右側車線へ移動して進行しているので、他の自動車51と衝突してしまう。
しかも、車内では、左曲がりのカーブでの右側車線への変更をしたために、乗員Mの上体は不安定に大きく右側へ振られている。特に、その後に左側の車線へ戻るタイミングであれば、一旦ゆるめられた操舵角度が増して制御されるため、乗員Mの上体はより一層不安定に左右に大きく振られることになる。そして、その左右に不安定に触れている状態で、他の自動車51と衝突することになる。
このような事態は、極力避けることが望ましい。
【0033】
図5は、
図2の衝突判断部14および乗員保護制御部15による衝突時制御の一例を示すフローチャートである。
図5は、たとえば自動運転制御中に繰り返し実行される。
【0034】
衝突判断部14は、まず、自動運転制御部13が自動回避制御中であるか否かを判断する(ステップST11)。そして、自動回避制御中でない場合、
図5の処理を終了する。
自動回避制御中である場合、衝突判断部14は、さらに自動回避制御によっても衝突が不可避であるか否か(ステップST12)と、自動回避制御から逸脱したか否か(ステップST13)と、を判断する。
たとえば、衝突判断部14は、車外カメラ11の撮像画像中の他の自動車51と、自動回避制御による予定回避進路の情報とに基づいて、予定回避進路に他の自動車51が侵入してくるか否かを判断する。そして、予定回避進路に他の自動車51が侵入してくる場合、衝突判断部14は、自動回避制御によっても衝突が不可避であると判断する。
また、衝突判断部14は、車外カメラ11により時間的に連続して撮像される複数の撮像画像の差により判断可能な自車の実進路と、自動回避制御による予定回避進路とを比較する。そして、実進路と予定回避進路との間に所定の差が生じた場合、衝突判断部14は、自動回避制御による予定回避進路から逸脱したと判断する。
衝突が不可避でない場合、かつ自動回避制御から逸脱していない場合、衝突判断部14は、以上の処理を繰り返し実行する(ステップST11~ST13)。自動回避制御が終了すると、
図5の処理を終了する。
【0035】
衝突判断部14により衝突が不可避であると判断された場合または自動回避制御から逸脱したと判断された場合、乗員保護制御部15は、エアバッグ装置19およびシートベルト装置20を用いた衝突発生時の通常の乗員保護制御に先立つ乗員保護制御を開始する(ステップST14)。
乗員保護制御部15は、まず、自動車1の走行を制御するために、操舵装置16、制動装置17および駆動装置18の制御を、自動運転制御部13から取得する(ステップST15)。
自動車1の走行制御をオーバライドした後、乗員保護制御部15は、操舵装置16、制動装置17および駆動装置18の制御を開始する。
具体的には、乗員保護制御部15は、自動回避制御により生じた乗員Mの挙動状態をそれ以上に変化させないように維持するように自動車1の挙動を制御する(ステップST16)。
【0036】
図6は、衝突時制御による乗員保護状態の一例を説明する模式的な説明図である。
図6に破線矢印で示すように、自動車1は、自動回避制御により右側の車線へ移動している。そして、他の自動車51を追い越す位置から、元の左側の車線へ戻ろうとするように操舵される。
この場合、衝突時制御において乗員保護制御部15は、操舵装置16へ一旦緩めた左への操舵を維持するように指示する。これにより、自動回避制御により右外側の車線へ移動して右側へ安定的に傾斜していた自動車1は、安定した姿勢を維持したまま、実矢印線に沿って進行するようになる。
自動回避制御により右側へ傾いた乗員Mの上体の姿勢は、それによって生じた前後左右への振れまたは移動した挙動状態に安定的に維持される。その結果、乗員Mは、それ以上に動かさないようになる。
【0037】
乗員Mの安定した姿勢を維持するように自動車1の挙動を制御した後、乗員保護制御部15は、衝突発生時の通常の乗員保護制御を実行する。
乗員保護制御部15は、衝突発生時またはその直前に、シートベルト装置20へプリテンション制御を指示する(ステップST17)。これにより、シートベルトが引き込まれ、乗員Mはそれ以上に移動し難くなるように拘束され得る。
その後、実際に衝突発生を検出すると(ステップST18)、乗員保護制御部15は、シートベルト装置20およびエアバック装置を制御して作動させる(ステップST19、ST20)。シートベルト装置20は、シートベルトを瞬時的に強く引き込んで保持する。エアバック装置は、シート3の周囲でエアバッグを展開する。これにより、衝突の衝撃により乗員Mが前方などへ移動して倒れようとしても、それを抑制するように衝突エネルギーを吸収できる。
【0038】
ここで、
図4の自動運転中の衝突回避制御のまま衝突した場合と、さらに
図6の衝突回避制御を実行して衝突した場合とでの乗員Mの状態を比較する。
図4の自動運転中の衝突回避制御では、左車線へ戻るように移動する制御において、他の自動車51と衝突する。この場合、乗員Mは左車線へ戻る際の車体2の動きで姿勢が変動した状態になり、その変動する状態において衝突の衝撃力が作用し得る。その結果、乗員Mには、変動による力と衝突の衝撃力とが相乗的に作用し得る。
これに対し、
図6の衝突回避制御では、自動運転中の衝突回避制御により右側へ安定的に傾いた乗員Mの姿勢を維持するように制御された状態で、他の自動車51と衝突する。乗員Mは、安定した姿勢の状態で衝突の衝撃力が作用し得る。その結果、乗員Mには、衝突の衝撃力のみが作用し得る。
【0039】
以上のように、本実施形態では、自動車1が衝突しそうな場合に、自動運転制御による衝突回避制御または手動制御による衝突回避操作の実行が開始される。そして、その回避状態において衝突判断部14が衝突前に衝突することを判断すると、先の衝突回避制御または衝突回避操作よる乗員Mの挙動状態をそれ以上に変化させないように維持するように自動車1を制御する。たとえば、自動車1の挙動が安定し始めた後のタイミングでの、自動運転制御の衝突回避制御による乗員Mの挙動状態を維持するように自動車1を制御する。よって、その後に実際に衝突する時点では、乗員Mの挙動が安定していることを期待できる。特に、この維持制御の開始時点において既に乗員Mが安定した状態にあれば、乗員Mの挙動は安定している。衝突による衝撃が作用する時点では乗員Mの挙動が安定していて、乗員Mに対して、衝突前の移動と衝撃の入力とによる相乗的な力が作用し難くなることを期待できる。
【0040】
本実施形態では、自動運転制御の衝突回避制御による予想回避進路に対して他の自動車51などの物体が侵入すると予想した場合または存在する場合、衝突の可能性があると判断する。よって、衝突回避制御により衝突を回避できない場合には、その可能性の判断に基づいて、衝突回避制御または衝突回避操作よる乗員Mの挙動状態を維持するように自動車1を制御できる。その結果、たとえば自動運転制御により自動車1の性能を発揮した衝突回避制御が実行され、それにより乗員Mの位置や姿勢が大きく変化し始めるとしても、衝突前に乗員Mの位置や姿勢を安定化させた状態に維持して、衝突前の移動と衝撃の入力とによる相乗的な力が作用し難くできる。自動運転制御による自動車1の性能を発揮した衝突回避制御と、乗員Mの保護性能との、両立化を図ることができる。
【0041】
本実施形態では、自動車1の進路が、自動運転制御の衝突回避制御による予想回避進路から逸脱すると予想した場合、衝突の可能性を判断する。よって、衝突回避制御の通りに自動車1が進行できない場合には、その可能性の判断に基づいて、衝突回避制御または衝突回避操作よる乗員挙動を維持するように自動車1を制御できる。その結果、たとえば自動運転制御により自動車1の性能を発揮した衝突回避制御が実行され、それにより乗員Mの位置や姿勢が大きく変化し始めるとしても、衝突前に乗員Mの位置や姿勢を安定化させた状態に維持して、衝突前の移動と衝撃の入力とによる相乗的な力が作用し難くできる。自動運転制御による自動車1の性能を発揮した衝突回避制御と、乗員Mの保護性能との、両立化を図ることができる。
【0042】
なお、本実施形態と異なり、衝突判断部14により衝突の可能性が判断されたタイミングまたはそれに基づいて制御を開始する時点での、自動運転制御の衝突回避制御による乗員Mの挙動状態を維持するように自動車1を制御してもよい。この時点でも、先の衝突回避制御または衝突回避操作のタイミングからは時間が経過しているはずであり、その間に自動車1の挙動が安定し始めてきていることを期待できる。実質的に、安定し始めた自動車1の挙動を維持するように自動車1を制御することを期待できる。
【0043】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る自動車1を説明する。以下の説明では、第1実施形態と同一の符号を使用し、主に第1実施形態との相違点について説明する。
【0044】
図7は、第2実施形態での、衝突時制御の一例を示すフローチャートである。
【0045】
乗員保護制御部15は、ステップST16において乗員Mの挙動を維持する自動車1の挙動制御を実行した後、さらにシートベルトを用いたプリテンション制御を実行する。シートベルト装置20は、シートベルトを引き込む(ステップST31)。
これにより、乗員Mの上体は、シートベルトにより緩く拘束され、それ以上に移動しないように安定化する。
【0046】
その後、実際に衝突発生を検出すると(ステップST18)、乗員保護制御部15は、シートベルト装置20およびエアバック装置を制御して作動させる(ステップST32、ST20)。
この際、乗員保護制御部15は、シートベルトを通常よりも弱く引き込む。
また、乗員保護制御部15は、エアバッグを通常の圧力で展開させる。
これにより、衝突前に安定化されていた乗員Mは、衝突後にも安定化され得る。衝撃が吸収される。
【0047】
以上のように、本実施形態では、自動車1の挙動制御に加えてさらに乗員Mの挙動状態をそれ以上に変化させないように維持するように乗員保護装置10を制御する。よって、自動車1の挙動制御のみで乗員Mの挙動を安定した状態に維持する場合よりも、より効果的に乗員Mの挙動を安定した状態に維持できる。自動運転制御による自動車1の性能を発揮した衝突回避制御と、乗員Mの保護性能との、両立化を更に高度に図ることができる。
【0048】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明は、これに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
【0049】
たとえば上記実施形態では、衝突判断部14は、自動運転制御による衝突回避制御によっても衝突が不可避であることを判断し、乗員保護制御部15は、衝突時制御を実行している。
この他にもたとえば、衝突判断部14は、乗員Mの手動運転による衝突回避操作においても衝突が不可避であることを判断し、乗員保護制御部15は、衝突時制御を実行してもよい。この際、衝突判断部14は、判断時までの乗員Mの手動運転に基づいて、今後の予定回避進路を推定すればよい。
【符号の説明】
【0050】
1…自動車(車両)、2…車体、3…シート、10…乗員保護装置、11…車外カメラ、12…車内カメラ、13…自動運転制御部、14…衝突判断部、15…乗員保護制御部(制御部)、16…操舵装置、17…制動装置、18…駆動装置、19…エアバッグ装置、20…シートベルト装置、21…マイクロコンピュータ、51…他の自動車、M…乗員