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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】磁気結合型コイル部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/00 20060101AFI20221101BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20221101BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20221101BHJP
   H01F 19/00 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
H01F27/00 R
H01F17/00 D
H01F17/04 F
H01F19/00 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017209566
(22)【出願日】2017-10-30
(65)【公開番号】P2019083261
(43)【公開日】2019-05-30
【審査請求日】2020-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100140822
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 光広
(72)【発明者】
【氏名】新井 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】長野 将典
(72)【発明者】
【氏名】松田 明久
(72)【発明者】
【氏名】山口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】寺内 直也
【審査官】森岡 俊行
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-306696(JP,A)
【文献】特開2007-103477(JP,A)
【文献】特開平11-224817(JP,A)
【文献】特開2005-268603(JP,A)
【文献】特開2006-294723(JP,A)
【文献】特開平05-190363(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0049903(US,A1)
【文献】特開2013-074144(JP,A)
【文献】特開平11-016751(JP,A)
【文献】特開2008-085004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/00
H01F 17/00
H01F 17/04
H01F 19/00
H01F 27/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層と、
一端が第1外部電極に接続されるとともに他端が第2外部電極に接続されるように前記絶縁層に埋設されており、第1上側コイル面及び第1下側コイル面を有する第1コイル導体と、
第2上側コイル面及び第2下側コイル面を有し、前記絶縁層に、前記第1コイル導体とは電気的に絶縁され、一端が第3外部電極に接続されるとともに他端が第4外部電極に接続されるように、また、前記第2上側コイル面が前記第1コイル導体の前記第1下側コイル面と対向するように埋設された第2コイル導体と、
前記絶縁層の上面に前記第1上側コイル面と対向するように設けられた第1カバー層と、
前記絶縁層の下面に前記第2下側コイル面と対向するように設けられた第2カバー層と、
を備え、
前記第1カバー層及び前記第2カバー層の少なくとも一方は、前記絶縁層の透磁率よりも大きな透磁率を有し、
前記第1コイル導体は、前記絶縁層から前記第1カバー層に露出し、
前記第2コイル導体は、前記絶縁層から前記第2カバー層に露出する、
磁気結合型コイル部品。
【請求項2】
前記第1カバー層及び前記第2カバー層はいずれも前記絶縁層の透磁率よりも大きな透磁率を有する、請求項1に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項3】
前記絶縁層は、前記第1下側コイル面と前記第2上側コイル面との間に配された第1の領域と、前記第1の領域と前記第1カバー層との間に配された第2の領域と、前記第1の領域と前記第2カバー層との間に配された第3の領域と、を有し、
前記第1の領域の透磁率は、前記第2の領域の透磁率及び前記第3の領域の透磁率の少なくとも一方よりも小さい、
請求項1又は請求項2に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項4】
前記第1の領域の透磁率は、前記第2の領域の透磁率及び前記第3の領域の透磁率のいずれよりも小さい、請求項3に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項5】
前記絶縁層は、積層された複数の絶縁膜を含み、
前記複数の絶縁膜のうちの一つである第1絶縁膜には、前記第1コイル導体の一部をなす導体パターンが形成されており、
前記絶縁層は、前記第1の領域と前記第2の領域との間に配され、前記第1絶縁膜を含む第4の領域と、を有し、
前記第4の領域の透磁率は、前記第2の領域の透磁率よりも小さい、
請求項3又は請求項4に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項6】
前記絶縁層は、積層された複数の絶縁膜を含み、
前記複数の絶縁膜のうちの一つである第2絶縁膜には、前記第2コイル導体の一部をなす導体パターンが形成されており、
前記絶縁層は、前記第1の領域と前記第3の領域との間に配され、前記第2絶縁膜を含む第5の領域をさらに有し、
前記第の領域の透磁率は、前記第3の領域の透磁率よりも小さい、
請求項3から請求項5のいずれか1項に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項7】
前記第1コイル導体は、前記第1下側コイル面が前記第1の領域と接しており、
前記第2コイル導体は、前記第2上側コイル面が前記第1の領域と接している、
請求項3から請求項6のいずれか1項に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項8】
絶縁層と、
前記絶縁層に埋設されており、第1上側コイル面及び第1下側コイル面を有する第1コイル導体と、
前記絶縁層に埋設されており、第2上側コイル面及び第2下側コイル面を有する第2コイル導体と、
前記絶縁層の上面に前記第1上側コイル面と対向するように設けられた第1カバー層と、
前記絶縁層の下面に前記第2下側コイル面と対向するように設けられた第2カバー層と、
を備え、
前記絶縁層は、前記第1下側コイル面と前記第2上側コイル面との間に配された第1の領域と、前記第1の領域と前記第1カバー層との間に配された第2の領域と、前記第1の領域と前記第2カバー層との間に配された第3の領域と、を有し、
前記第1の領域の透磁率は、前記第2の領域の透磁率及び前記第3の領域の透磁率の少なくとも一方よりも小さく、
前記第1コイル導体は、前記第1下側コイル面が前記第1の領域と接しており、
前記第2コイル導体は、前記第2上側コイル面が前記第1の領域と接している、
磁気結合型コイル部品。
【請求項9】
前記第1の領域の透磁率は、前記第2の領域の透磁率及び前記第3の領域の透磁率のいずれよりも小さい、請求項8に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項10】
前記絶縁層は、積層された複数の絶縁膜を含み、
前記複数の絶縁膜のうちの一つである第1絶縁膜には、前記第1コイル導体の一部をなす導体パターンが形成されており、
前記絶縁層は、前記第1の領域と前記第2の領域との間に配され、前記第1絶縁膜を含む第4の領域をさらに有し、
前記第4の領域の透磁率は、前記第2の領域の透磁率よりも小さい、
請求項8又は請求項9に記載の磁気結合型コイル部品。
【請求項11】
前記絶縁層は、積層された複数の絶縁膜を含み、
前記複数の絶縁膜のうちの一つである第2絶縁膜には、前記第1コイル導体の一部をなす導体パターンが形成されており、
前記絶縁層は、前記第1の領域と前記第2の領域との間に配され、前記第2絶縁膜を含む第5の領域をさらに有し、
前記第5の領域の透磁率は、前記第3の領域の透磁率よりも小さい、
請求項8から請求項10のいずれか1項に記載の磁気結合型コイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気結合型コイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気結合型コイル部品は、互いに磁気結合する一組のコイル導体を有する。磁気結合型コイル部品として、コモンモードチョークコイル、トランス及びカップルドインダクタがある。磁気結合型コイル部品においては、一般に、一組のコイル導体間の結合が高いことが望ましい。
【0003】
積層プロセスによって作製される磁気結合型コイル部品が特開2016-131208号公報(特許文献1)に記載されている。この結合型コイル部品は、絶縁体に埋め込まれた複数のコイルユニットを有している。この複数のコイルユニットは、各ユニットのコイル導体の巻回軸が略一致するとともに当該コイルユニット同士が密着するように互いに接合されており、これによりコイル導体間の結合が高められるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-131208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の磁気結合型コイル部品においては、コイル導体から外部空間へ流れ出す漏れ磁束や、2つのコイル導体間を通過する漏れ磁束が存在する。このような漏れ磁束は、磁気結合型コイル部品における結合を悪化させる原因となる。
【0006】
本発明の目的の一つは、結合が改善された磁気結合型コイル部品を提供することである。本発明のこれ以外の目的は、明細書全体の記載を通じて明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る磁気結合型コイル部品は、絶縁層と、前記絶縁層に埋設されており、第1上側コイル面及び第1下側コイル面を有する第1のコイル導体と、前記絶縁層に埋設されており、第2上側コイル面及び第2下側コイル面を有する第2のコイル導体と、前記絶縁層の第1の面に前記第1上側コイル面と対向するように設けられた第1のカバー層と、前記絶縁層の前記第1の面とは反対側の第2の面に前記第2下側コイル面と対向するように設けられた第2のカバー層と、を備える。当該実施形態において、前記第1カバー層及び前記第2カバー層の少なくとも一方は、前記絶縁層の透磁率よりも大きな透磁率を有する。前記第1カバー層及び前記第2カバー層はいずれも前記絶縁層の透磁率よりも大きな透磁率を有してもよい。
【0008】
当該実施形態によれば、第1カバー層が絶縁層よりも高い透磁率を有するため、絶縁層に埋設された第1のコイル導体から発生して第1カバー層に入った磁束は、この第1カバー層内を通過しやすくなる。これにより、第1カバー層から磁気結合型コイル部品の外部に出る漏れ磁束が減少する。この第1カバー層を通過した磁束は、絶縁層及び第2カバー層を経由して、第2コイル導体と鎖交する。第2カバー層も絶縁層よりも高い透磁率を有する場合には、磁束は、第2カバー層から磁気結合型コイル部品の外部に漏れ出しにくい。このように、当該実施形態においては、第1カバー層及び第2カバー層の少なくとも一方から外部に漏れ出る漏れ磁束を減少させることができるので、当該磁気結合型コイル部品の結合を改善できる。
【0009】
本発明の一実施形態において、前記絶縁層は、前記第1下側コイル面と前記第2上側コイル面との間に配された第1の領域と、前記第1の領域と前記第1のカバー層との間に配された第2の領域と、前記第1の領域と前記第2のカバー層との間に配された第3の領域と、を有する。当該実施形態において、前記第1の領域の透磁率は、前記第2の領域の透磁率及び前記第3の領域の透磁率の少なくとも一方よりも小さい。前記第1の領域の透磁率は、前記第2の領域の透磁率及び前記第3の領域の透磁率のいずれよりも小さくてもよい。
【0010】
当該実施形態によれば、第1コイル導体から発生した磁束は、当該第1コイル導体と第2コイル導体との間にある第1の領域を通りにくく、第2コイル導体と鎖交する閉磁路を通りやすくなる。これにより、第1コイル導体と第2コイル導体との間を通る漏れ磁束の発生がさらに抑制される。したがって、当該磁気結合型コイル部品においては結合がさらに改善される。
【0011】
本発明の他の実施形態による磁気結合型コイル部品は、絶縁層と、前記絶縁層に埋設されており、第1上側コイル面及び第1下側コイル面を有する第1コイル導体と、前記絶縁層に埋設されており、第2上側コイル面及び第2下側コイル面を有する第2コイル導体と、前記絶縁層の上面に前記第1上側コイル面と対向するように設けられた第1カバー層と、前記絶縁層の下面に前記第2下側コイル面と対向するように設けられた第2カバー層と、を備える。当該実施形態において、前記絶縁層は、前記第1下側コイル面と前記第2上側コイル面との間に配された第1の領域と、前記第1の領域と前記第1のカバー層との間に配された第2の領域と、前記第1の領域と前記第2のカバー層との間に配された第3の領域と、を有し、前記第1の領域の透磁率は、前記第2の領域の透磁率及び前記第3の領域の透磁率の少なくとも一方よりも小さい。前記第1の領域の透磁率は、前記第2の領域の透磁率及び前記第3の領域の透磁率のいずれよりも小さくてもよい。
【0012】
当該実施形態によれば、第1コイル導体と第2コイル導体との間を通る漏れ磁束の発生が抑制される。したがって、上記実施形態による磁気結合型コイル部品においては結合が改善される。
【0013】
本発明の一実施形態において、前記第1コイル導体は、前記第1下側コイル面が前記第1の領域と接しており、前記第2コイル導体は、前記第2上側コイル面が前記第1の領域と接している。
【0014】
当該実施形態によれば、第1のコイル導体及び第2のコイル導体がいずれも透磁率の低い第1の領域に接しているため、第1コイル導体と第1の領域との間及び第2コイル導体と第1の領域との間に透磁率が高い部材が介在しない。これにより、第1コイル導体と第2コイル導体との間を通る漏れ磁束の発生がさらに抑制される。
【0015】
本発明の一実施形態において、前記第前記絶縁層は、積層された複数の絶縁膜を含み、前記複数の絶縁膜のうちの一つである第1絶縁膜には、前記第1コイル導体の一部をなす導体パターンが形成されており、前記絶縁層は、前記第1の領域と前記第2の領域との間に配され、前記第1絶縁膜を含む第4の領域をさらに有し、前記第4の領域の透磁率は、前記第2の領域の透磁率よりも小さい。本発明の一実施形態において、前記複数の絶縁膜のうちの一つである第2絶縁膜には、前記第2コイル導体の一部をなす導体パターンが形成されており、前記絶縁層は、前記第1の領域と前記第3の領域との間に配され、前記第2絶縁膜を含む第5の領域をさらに有し、前記第5の領域の透磁率は、前記第3の領域の透磁率よりも小さい。
【0016】
絶縁層を構成する複数の絶縁膜の各々に形成された導体パターンは、1ターンよりも少ないターン数を有する。よって、第2の領域よりも第1の領域の近くに配されている第4の領域にある第1絶縁膜においては、当該第1絶縁膜のうち導体パターンが形成されていない部位から、第1コイル導体と第2コイル導体との間を通る磁束が漏れ出しやすい。上記実施形態によれば、第1絶縁膜が含まれる第4の領域の透磁率が第2の領域の透磁率よりも小さいため、第1コイル導体と第2コイル導体との間を通る漏れ磁束の発生が抑制される。第3の領域よりも第1の領域の近くに配されている第4の領域にある第2絶縁膜においても同様に、当該第2絶縁膜のうち導体パターンが形成されていない部位から、第1コイル導体と第2コイル導体との間を通る磁束が漏れ出しやすい。よって、当該実施形態によれば、第2絶縁膜が含まれる第5の領域の透磁率が第3の領域の透磁率よりも小さいため、第1コイル導体と第2コイル導体との間を通る漏れ磁束の発生が抑制される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一実施形態によれば、結合が改善された磁気結合型コイル部品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係るコイル部品の斜視図である。
図2図1のコイル部品に含まれる2つのコイルユニットのうち一方の分解斜視図である。
図3図1のコイル部品に含まれる2つのコイルユニットのうち他方の分解斜視図である。
図4図1のコイル部品をI-I線で切断した断面を模式的に示す図である。
図5】本発明の他の実施形態に係るコイル部品の断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、適宜図面を参照し、本発明の様々な実施形態を説明する。なお、複数の図面において共通する構成要素には当該複数の図面を通じて同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。
【0020】
図1から図4を参照して本発明の一実施形態に係るコイル部品1について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るコイル部品1の斜視図であり、図2は、図1のコイル部品1に含まれるコイルユニット1aの分解斜視図であり、図3は、図1のコイル部品1に含まれるコイルユニット1bの分解斜視図であり、図4は、図1のコイル部品1をI-I線で切断した断面を模式的に示す図である。図2ないし図4においては、説明の便宜のために、外部電極の図示が省略されている。
【0021】
本明細書においては、文脈上別に解される場合を除き、コイル部品1の「長さ」方向、「幅」方向、及び「厚さ」方向はそれぞれ、図1の「L」方向、「W」方向、及び「T」方向とする。
【0022】
これらの図には、コイル部品1の一例として、差動信号を伝送する差動伝送回路からコモンモードノイズを除去するためのコモンモードチョークコイルが示されている。コモンモードチョークコイルは、本発明を適用可能な磁気結合型コイル部品の一例である。コモンモードチョークコイルは、後述するように積層プロセス又は薄膜プロセスによって作製される。本発明は、コモンモードチョークコイル以外にも、トランス、カップルドインダクタ及びこれら以外の様々なコイル部品に適用することができる。
【0023】
図示のように、本発明の一実施形態におけるコイル部品1は、コイルユニット1aとコイルユニット1bとを備える。
【0024】
コイルユニット1aは、絶縁性に優れた材料から直方体形状に形成された絶縁層11aと、当該絶縁層11aの上面に設けられた絶縁材料からなる上部カバー層18aと、当該絶縁層11aに埋設されたコイル導体25aと、当該コイル導体25aの一端と電気的に接続された外部電極21と、当該コイル導体25aの他端と電気的に接続された外部電極22と、を備える。絶縁層11aと上部カバー層18aとの境界は、コイルユニット1aの製法によっては、明瞭に確認できないことがある。
【0025】
コイルユニット1bは、コイルユニット1aと同様に構成される。具体的には、コイルユニット1bは、絶縁性に優れた材料から直方体形状に形成された絶縁層11bと、当該絶縁層11bの下面に設けられた絶縁材料からなる下部カバー層18bと、当該絶縁層11bに埋設されたコイル導体25bと、当該コイル導体25bの一端と電気的に接続された外部電極23と、当該コイル導体25bの他端と電気的に接続された外部電極24と、を備える。絶縁層11bと下部カバー層18bとの境界は、コイルユニット1bの製法によっては、明瞭に確認できないことがある。
【0026】
絶縁層11aは、その下面において絶縁層11bの上面と接合されている。この絶縁層11a及び絶縁層11bが、絶縁層11を構成する。
【0027】
上述した絶縁層11a、絶縁層11b、上部カバー層18a、及び下部カバー層18bが、絶縁本体10を構成する。図示の実施形態において、絶縁本体10は、下部カバー層18b、絶縁層11b、絶縁層11a、及び上部カバー層18aがT軸方向の負方向側から正方向側に向かって積層されることで構成されている。
【0028】
絶縁本体10は、第1の主面10a、第2の主面10b、第1の端面10c、第2の端面10d、第1の側面10e、及び第2の側面10fを有する。絶縁本体10は、これらの6つの面によってその外面が画定される。第1の主面10aと第2の主面10bとは互いに対向し、第1の端面10cと第2の端面10dとは互いに対向し、第1の側面10eと第2の側面10fとは互いに対向している。
【0029】
図1において第1の主面10aは絶縁本体10の上側にあるため、第1の主面10aを「上面」と呼ぶことがある。同様に、第2の主面10bを「下面」と呼ぶことがある。コイル部品1は、第2の主面10bが回路基板(不図示)と対向するように配置されるので、第2の主面10bを「実装面」と呼ぶこともある。また、コイル部品1の上下方向に言及する際には、図1の上下方向を基準とする。
【0030】
外部電極21及び外部電極23は、絶縁本体10の第1の端面10cに設けられる。外部電極22及び外部電極24は、絶縁本体10の第2の端面10dに設けられる。各外部電極は、図示のように、絶縁本体10の上面及び下面まで延伸する。各外部電極の形状及び配置は、図示された例には限定されない。例えば、外部電極21~外部電極24はすべて絶縁本体10の下面10bに設けられてもよい。この場合、コイル導体25a及びコイル導体25bは、ビア導体を介して、絶縁本体10の下面10bに設けられた外部電極21~外部電極24と接続される。
【0031】
次に、主に図2を参照して、コイルユニット1aについてさらに説明する。図2に示すように、コイルユニット1aに備えられる絶縁層11aは、絶縁膜11a1~11a7及び絶縁積層体11a8を備える。絶縁層11aにおいては、T軸方向の正方向側から負方向側に向かって、絶縁膜11a1、絶縁膜11a2、絶縁膜11a3、絶縁膜11a4、絶縁膜11a5、絶縁膜11a6、絶縁膜11a7、絶縁積層体11a8の順に積層されている。
【0032】
絶縁膜11a1~11a7は、絶縁性に優れた材料からなる。絶縁膜11a1~11a7用の磁性材料として、フェライト材料、軟磁性合金、樹脂に多数のフィラー粒子を分散させた複合材料、又はこれら以外の任意の公知の磁性材料を用いることができる。絶縁膜11a1~11a7用の非磁性材料としては、SiO2やAl23などの無機材料粒子(ガラス系粒子)、樹脂にSiO2やAl23などの無機材料粒子(ガラス系粒子)、を分散させた複合材料、樹脂、又はガラス材料を用いることができる。
【0033】
絶縁膜11a1~11a7用の材料となるフェライトには、Ni-Zn系フェライト、Ni-Zn-Cu系フェライト、Mn-Zn系フェライト、又はこれら以外の任意のフェライトが含まれる。
【0034】
絶縁膜11a1~11a7用の材料となる軟磁性合金には、Fe-Si系合金、Fe-Ni系合金、Fe-Co系合金、Fe-Cr-Si系合金、Fe-Si-Al系合金、Fe-Si-B-Cr系合金、又はこれら以外の任意の軟磁性合金が含まれる。
【0035】
絶縁膜11a1~11a7が樹脂に多数のフィラー粒子を分散させた複合材料からなる場合、当該樹脂として、絶縁性に優れた熱硬化性樹脂、例えばエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)樹脂、フェノール(Phenolic)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、又はポリベンゾオキサゾール(PBO)樹脂を用いることができる。当該フィラー粒子として、フェライト材料の粒子、金属磁性粒子、SiO2やAl23などの無機材料粒子、ガラス系粒子、又はこれら以外の任意の公知のフィラー粒子を用いることができる。本発明に適用可能なフェライト材料の粒子は、例えば、Ni-Znフェライトの粒子またはNi-Zn-Cuフェライトの粒子である。本発明に適用可能な金属磁性粒子は、例えば、(1)金属系のFeもしくはNi、(2)合金系のFe-Si-Cr、Fe-Si-Al、もしくはFe-Ni、(3)非晶質のFe―Si-Cr-B-C、もしくはFe-Si-B-Cr、またはこれらの混合材料の粒子である。
【0036】
絶縁膜11a1~11a7の各々の上面には、導体パターン25a1~25a7が形成される。導体パターン25a1~25a7は、導電性に優れた金属又は合金から成る導電ペーストを、スクリーン印刷法により印刷することにより形成される。この導電ペーストの材料としては、Ag、Pd、Cu、Al又はこれらの合金を用いることができる。導体パターン25a1~25a7は、これ以外の材料及び方法により形成されてもよい。導体パターン25a1~25a7は、例えば、スパッタ法、インクジェット法、又はこれら以外の公知の方法で形成されてもよい。
【0037】
絶縁膜11a1~絶縁膜11a6の所定の位置には、ビアVa1~Va6がそれぞれ形成される。ビアVa1~Va6は、絶縁膜11a1~絶縁膜11a6の所定の位置に、絶縁膜11a1~絶縁膜11a6をT軸方向に貫く貫通孔を形成し、当該貫通孔に導電材料を埋め込むことにより形成される。
【0038】
導体パターン25a1~25a7の各々は、隣接する導体パターンとビアVa1~Va6を介して電気的に接続される。このようにして接続された導体パターン25a1~25a7が、スパイラル状のコイル導体25aを形成する。すなわち、コイル導体25aは、導体パターン25a1~25a7及びビアVa1~Va6を有する。
【0039】
導体パターン25a1のビアVa1に接続されている端部と反対側の端部は、外部電極22に接続される。導体パターン25a7のビアVa6に接続されている端部と反対側の端部は、外部電極21に接続される。
【0040】
コイル導体25aは、T軸方向の一方の端部である上側コイル面26aと、T軸方向の他方の端部である下側コイル面27aと、を有する。
【0041】
絶縁積層体11a8は、複数の絶縁膜が積層された積層体であってもよい。絶縁積層体11a8を構成する絶縁膜の各々は、絶縁膜11a1~11a7と同様に、様々な磁性材料又は非磁性材料から形成される。絶縁積層体11a8を構成する絶縁膜に用いられる磁性材料には、フェライト、軟磁性合金、樹脂に多数のフィラー粒子を分散させた複合材料、又はこれら以外の任意の公知の磁性材料が含まれる。絶縁積層体11a8を構成する絶縁膜に用いられる非磁性材料には、SiO2やAl23などの無機材料粒子(ガラス系粒子)、樹脂にSiO2やAl23などの無機材料粒子(ガラス系粒子)、を分散させた複合材料、樹脂、又はガラス材料が含まれる。
【0042】
上部カバー層18aは、絶縁積層体11a8と同様に、複数の絶縁膜が積層された積層体であってもよい。上部カバー層18aを構成する絶縁膜は、絶縁膜11a1~11a7と同様に、様々な磁性材料又は非磁性材料から形成される。絶縁積層体11a8を構成する絶縁膜に用いられる磁性材料には、フェライト、樹脂に多数のフィラー粒子を分散させた複合材料、又はこれら以外の任意の公知の磁性材料が含まれる。上部カバー層18aを構成する絶縁膜に用いられる非磁性材料には、SiO2やAl23などの無機材料粒子(ガラス系粒子)、樹脂にSiO2やAl23などの無機材料粒子(ガラス系粒子)、を分散させた複合材料、樹脂、又はガラス材料が含まれる。
【0043】
上部カバー層18aは、絶縁層11aの上面に、コイル導体25aの上側コイル面26aと対向するように設けられる。
【0044】
次に、主に図3を参照して、コイルユニット1bについてさらに説明する。図3に示すように、コイルユニット1bに備えられる絶縁層11bは、積層された絶縁膜11b1~11b7及び絶縁積層体11b8を備える。絶縁層11bにおいては、T軸方向の正方向側から負方向側に向かって、絶縁膜11b1、絶縁膜11b2、絶縁膜11b3、絶縁膜11b4、絶縁膜11b5、絶縁膜11b6、絶縁膜11b7、絶縁積層体11b8の順に積層されている。
【0045】
絶縁膜11b1~11b7の各々の上面には、導体パターン25b1~25b7が形成される。導体パターン25b1~25b7は、導電性に優れた金属又は合金から成る導電ペーストを、スクリーン印刷法により印刷することにより形成される。この導電ペーストの材料としては、Ag、Pd、Cu、Al又はこれらの合金を用いることができる。導体パターン25b1~25b7は、これ以外の材料及び方法により形成されてもよい。導体パターン25b1~25b7は、例えば、スパッタ法、インクジェット法、又はこれら以外の公知の方法で形成されてもよい。
【0046】
絶縁膜11b1~絶縁膜11b6の所定の位置には、ビアVb1~Vb6がそれぞれ形成される。ビアVb1~Vb6は、絶縁膜11b1~絶縁膜11b6の所定の位置に、絶縁膜11b1~絶縁膜11b6をT軸方向に貫く貫通孔を形成し、当該貫通孔に導電材料を埋め込むことにより形成される。
【0047】
導体パターン25b1~25b7の各々は、隣接する導体パターンとビアVb1~Vb6を介して電気的に接続される。このようにして接続された導体パターン25b1~25b7が、スパイラル状のコイル導体25bを形成する。すなわち、コイル導体25bは、導体パターン25b1~25b7及びビアVb1~Vb6を有する。
【0048】
導体パターン25b1のビアVb1に接続されている端部と反対側の端部は、外部電極24に接続される。導体パターン25b7のビアVb6に接続されている端部と反対側の端部は、外部電極23に接続される。
【0049】
絶縁積層体11b8は、複数の絶縁膜が積層された積層体であってもよい。
【0050】
下部カバー層18bは、絶縁積層体11a8と同様に、複数の絶縁膜が積層された積層体であってもよい。下部カバー層18bは、絶縁層11bの下面に、コイル導体25bの下側コイル面27bと対向するように設けられる。
【0051】
絶縁膜11b1~絶縁膜11b7、絶縁積層体11b8、下部カバー層18bを構成する絶縁膜は、絶縁膜11a1~11a7と同様に、様々な磁性材料又は非磁性材料から形成される。絶縁積層体11a8を構成する絶縁膜に用いられる磁性材料には、フェライト、軟磁性合金、樹脂に多数のフィラー粒子を分散させた複合材料、又はこれら以外の任意の公知の磁性材料が含まれる。絶縁積層体11a8を構成する絶縁膜に用いられる非磁性材料には、SiO2やAl23などの無機材料粒子(ガラス系粒子)、樹脂にSiO2やAl23などの無機材料粒子(ガラス系粒子)、を分散させた複合材料、樹脂、又はガラス材料が含まれる。
【0052】
絶縁膜11a1~絶縁膜11a7、絶縁積層体11a8、上部カバー層18a、絶縁膜11b1~絶縁膜11b7、絶縁積層体11a8、下部カバー層18bを構成する絶縁膜は、その全てがフェライト材料から形成されてもよく、その全てが軟磁性合金材料から形成されてもよく、その全てが樹脂に多数のフィラー粒子を分散させた複合材料から形成されてもよい。絶縁膜11a1~絶縁膜11a7、絶縁積層体11a8、上部カバー層18a、絶縁膜11b1~絶縁膜11b7、絶縁積層体11a8、下部カバー層18bを構成する絶縁膜は、その一部の絶縁膜が他の絶縁膜と異なる材料から形成されてもよい。
【0053】
コイル導体25bは、T軸方向の一方の端部である上側コイル面26bと、T軸方向の他方の端部である下面27bと、を有する。コイル導体25aは、その下側コイル面27aがコイル導体25bの上側コイル面26bと対向するように設けられている。
【0054】
コイル部品1は、上記のコイルユニット1aとコイルユニット1bとを接合することにより得られる。このコイル部品1は、外部電極21と外部電極22との間に配されている第1コイル導体(コイル導体25a)と、外部電極23と外部電極24との間に配されている第2コイル導体(コイル導体25b)と、を有する。この2つのコイルの各々は、例えば、差動伝送回路における2本の信号線とそれぞれ接続される。このようにして、コイル部品1は、コモンモードチョークコイルとして動作することができる。
【0055】
コイル部品1は、第3のコイル(不図示)を含むことができる。第3のコイルを備えるコイル部品1は、コイルユニット1aと同様に構成されたもう1つのコイルユニットを追加的に備える。当該追加のコイルユニットには、コイルユニット1a及びコイルユニット1bと同様にコイル導体が設けられ、当該コイル導体が追加的な外部電極と接続される。このような3つのコイルを含むコイル部品は、例えば、3本の信号線を有する差動伝送回路用のコモンモードチョークコイルとして用いられる。
【0056】
次に、図4を参照して、コイル部品1お異なる領域における透磁率について説明する。図4は、図1のコイル部品をI-I線で切断した断面を模式的に示す図である。図4においては、コイル導体から発生する磁束(磁力線)が矢印で記載されている。また、図4においては、説明の便宜のために、個別の絶縁体層間の境界の図示は省略されている。
【0057】
図示のように、コイル導体25aは、上側コイル面26aが絶縁層11aから上部カバー層18a側に露出するように絶縁層11aに埋設されている。コイル導体25aは、絶縁層11a内においてコイル軸CLの周りに巻回されている。コイル軸CLは、図1のT軸と平行に延伸している仮想的な軸線である。コイル軸CLは、T軸と垂直に配されてもよい。コイル導体25bは、下側コイル面27bが絶縁層1bから下部カバー層18b側に露出するように絶縁層11bに埋設されている。コイル導体25bは、絶縁層11aと同様にコイル軸CLの周りに巻回されている。
【0058】
絶縁層11aは、コイル導体25aの下側コイル面27aとコイル導体25bの上側コイル面26bとの間に配された第1の領域30と、当該第1の領域30と上部カバー層18aとの間に配された第2の領域40aと、当該第1の領域30と下部カバー層18bとの間に配された第3の領域40bと、を有する。
【0059】
本発明の一実施形態において、第1の領域30は、絶縁積層体11a8及び絶縁積層体11b8を含む。第1の領域30は、絶縁積層体11a8及び絶縁積層体11a8のみから構成されてもよい。第1の領域30は、絶縁積層体11a8及び絶縁積層体11b8に加えて、磁性材料からなる追加絶縁膜を含んでもよい。この追加絶縁膜は、例えば、絶縁積層体11a8と絶縁積層体11b8との間、絶縁積層体11a8と絶縁膜11a7との間、又は絶縁積層体11b8と絶縁膜11b1との間に設けられてもよい。
【0060】
本発明の一実施形態において、第2の領域40aは、絶縁膜11a1~絶縁膜11a7を含む。第2の領域40aは、絶縁膜11a1~絶縁膜11a7のみから構成されてもよい。第2の領域40aは、絶縁膜11a1~絶縁膜11a7に加えて、磁性材料からなる追加絶縁膜を含んでもよい。
【0061】
本発明の一実施形態において、第3の領域40bは、絶縁膜11b1~絶縁膜11b7を含む。第3の領域40bは、絶縁膜11b1~絶縁膜11b7のみから構成されてもよい。第3の領域40bは、絶縁膜11b1~絶縁膜11b7に加えて、磁性材料からなる追加絶縁膜を含んでもよい。
【0062】
第2の領域40aは、第1の領域30と直接に接していてもよい。第3の領域40bは、第1の領域30と直接に接していてもよい。
【0063】
本発明の一実施形態において、第1の領域30は透磁率μ1を有し、第2の領域40aは透磁率μ2を有し、第3の領域40bは透磁率μ3を有し、上部カバー層18aは透磁率μ4を有し、下部カバー層18bは透磁率μ5を有する。
【0064】
本発明の一実施形態において、上部カバー層18aの透磁率μ4及び下部カバー層18bの透磁率μ5の少なくとも一方は、絶縁層11の透磁率よりも大きい。上記のように、絶縁層11には、第1の領域30、第2領域40a、及び第3の領域40bが含まれるので、上部カバー層18aの透磁率μ4及び下部カバー層18bの透磁率μ5の少なくとも一方は、第1の領域30の透磁率μ1、第2の領域40aの透磁率μ2、及び第3の領域40bの透磁率μ3のいずれよりも大きい。上部カバー層18aの透磁率μ4及び下部カバー層18bの透磁率μ5の両方が絶縁層11の透磁率より大きくてもよい。
【0065】
上部カバー層18aの透磁率μ4と下部カバー層18bの透磁率μ5とは同じ値であってもよいし異なる値であってもよい。
【0066】
当該実施形態によれば、上部カバー層18a及び下部カバー層18bの少なくとも一方が絶縁層11よりも高い透磁率を有する。上部カバー層18aが絶縁層11よりも高い透磁率を有する場合には、絶縁層11に埋設されたコイル導体25aから発生して上部カバー層18aに入った磁束は、この上部カバー層18a内を通過しやすくなる。これにより、上部カバー層18aからコイル部品1の外部に出る漏れ磁束が減少する。下部カバー層18bが絶縁層11よりも高い透磁率を有する場合には、コイル導体25aから発生した磁束が下部カバー層18b内を通過してコイル導体25bのコア部へ戻りやすくなる。これにより、下部カバー層18bからコイル部品1の外部に出る漏れ磁束が減少する。上部カバー層18a及び下部カバー層18bのいずれもが絶縁層11よりも高い透磁率を有する場合には、コイル部品1の外部に出る漏れ磁束をより少なくすることができる。このように、上記の実施形態においては、上部カバー層18a及び下部カバー層18bから外部に漏れ出る漏れ磁束を減少させることができるので、コイル部品1の結合を改善できる。
【0067】
本発明の別の一実施形態において、第1の領域30の透磁率μ1は、第2の領域40aの透磁率μ2及び第3の領域40bの透磁率μ3の少なくとも一方よりも小さい。第1の領域30の透磁率μ1は、第2の領域40aの透磁率μ2及び第3の領域40bの透磁率μ3のいずれよりも小さいてもよい。当該実施形態において、第2の領域40aの透磁率μ2と第3の領域40bの透磁率μ3とは同じ値であってもよいし異なる値であってもよい。当該実施形態において、透磁率μ2及び透磁率μ3は、透磁率μ4と同じ値を有していてもよいし、透磁率μ4より小さな値を有していても良いし、透磁率μ4より大きな値を有していてもよい。同様に、透磁率μ2及び透磁率μ3は、透磁率μ5と同じ値を有していてもよいし、透磁率μ5より小さな値を有していても良いし、透磁率μ5より大きな値を有していてもよい。つまり、透磁率μ1~μ3に関しては、μ2>μ1又はμ3>μ1のいずれか一方又は両方が成立している。
【0068】
上記のμ2>μ1又はμ3>μ1が満たされている実施形態においては、図4に示されているように、コイル導体25aの下側コイル面27a及びコイル導体25bの上側コイル面26bがいずれも第1の領域30と接していてもよい。
【0069】
上記のμ2>μ1又はμ3>μ1が満たされている実施形態によれば、第1コイル導体25aから発生した磁束は、当該第1コイル導体25aと第2コイル導体25bとの間にある第1の領域を通りにくくなる。これにより、第1コイル導体25aと第2コイル導体25bとの間を通る漏れ磁束の発生が抑制される。μ2>μ1とμ3>μ1が両方とも満たされていれば、第1コイル導体25aと第2コイル導体25bとの間にある第1の領域を通る漏れ磁束はさらに抑制される。したがって、磁気結合型コイル部品1における結合が改善される。
【0070】
コイル導体25aの下側コイル面27a及びコイル導体25bの上側コイル面26bがいずれも第1の領域30と接している場合には、コイル導体25a及びコイル導体25bがいずれも透磁率の低い第1の領域30に接しているため、コイル導体25aと第1の領域30との間及びコイル導体25b第1の領域30bとの間に透磁率が高い部材が介在しない。これにより、コイル導体25aとコイル導体25bとの間を通る漏れ磁束の発生がさらに抑制される。
【0071】
上記の実施形態は、適宜組み合わせ可能である。例えば、上部カバー層18aの透磁率μ4及び下部カバー層18bの透磁率μ5の少なくとも一方が絶縁層11の透磁率よりも大きくなり、且つ、第1の領域30の透磁率μ1が第2の領域40aの透磁率μ2及び第3の領域40bの透磁率μ3の少なくとも一方よりも小さいくなるようにしてもよい。この場合、例えば、μ4>μ2>μ1、μ5>μ3>μ1といった関係が成り立つ。
【0072】
第1の領域30の透磁率μ1は、第1の領域30がフェライトからなる場合には、そのフェライトの組成を通じて適宜調整することができる。例えば、第1の領域30の素材としてNi-Zn-Cu系フェライトを用いる場合、NiとZnとの組成比を調整することにより、第1の領域30の透磁率μ1を適宜調整することができる。同様に、フェライトからなる第2の領域40aの透磁率、フェライトからなる第3の領域40bの透磁率、フェライトからなる上部カバー層18aの透磁率、及びフェライトからなる下部カバー層18bの透磁率は、そのフェライトの組成を通じて適宜調整することができる。
【0073】
第1の領域30の透磁率μ1は、第1の領域30が軟磁性金属からなる場合には、その軟磁性金属に含まれる鉄の含有比率を通じて適宜調整することができる。同様に、軟磁性金属からなる第2の領域40aの透磁率、軟磁性金属からなる第3の領域40bの透磁率、軟磁性金属からなる上部カバー層18aの透磁率、及び軟磁性金属からなる下部カバー層18bの透磁率は、その軟磁性金属における鉄の含有比率を通じて適宜調整することができる。
【0074】
第1の領域30の透磁率μ1は、第1の領域30がフィラー粒子を分散させた樹脂からなる場合には、第1の領域30における当該フィラー粒子の含有率や当該フィラー粒子の材料を通じて適宜調整することができる。例えば、第1の領域30におけるフィラー粒子の含有率を高めることにより透磁率を高くすることができ、逆に、第1の領域30におけるフィラー粒子の含有率を低くすることにより透磁率を低くすることができる。また、フィラー粒子を高透磁率の素材から形成することにより透磁率を高くすることができ、逆に、フィラー粒子を低透磁率の素材から形成することにより透磁率を低くすることができる。同様に、フィラー粒子を分散させた樹脂からなる第2の領域40aの透磁率、フィラー粒子を分散させた樹脂からなる第3の領域40bの透磁率、フィラー粒子を分散させた樹脂からなる上部カバー層18aの透磁率、及びフィラー粒子を分散させた樹脂からなる下部カバー層18bの透磁率は、当該フィラー粒子の含有率や当該フィラー粒子の材料を通じて適宜調整することができる。
【0075】
本発明の一実施形態において、第1の領域30は、第2の領域40a及び第3の領域40bよりも大きな抵抗値を有してもよい。これにより、第1の領域30を薄くしても、コイル導体25aとコイル導体25bとの間の電気的絶縁を確保することができる。その結果、低背のコイル部品1を得ることができる。
【0076】
続いて、図5を参照して、本発明のさらに別の一実施形態について説明する。図5は、本発明の一実施形態によるコイル部品101の断面を模式的に示している。図5に示されているコイル部品101においては、第1の領域30と第2の領域40aとの間に第4の領域50が配され、第1の領域30と第3の領域40bとの間に第5の領域60が配されている。第2の領域40aは、この第4の領域50と上部カバー層18aとの間に配されている。第3の領域40bは、この第5の領域60と下部カバー層18bとの間に配されている。コイル部品101は、第4の領域50と第5の領域60の両方を有して良いし、一方のみを有しても良い。
【0077】
第4の領域50には、絶縁膜11a7が含まれる。第4の領域50は、絶縁膜11a7のみから構成されてもよい。絶縁膜11a7には、第1コイル導体25aの一部をなす導体パターン25a7が形成されている。第4の領域50は、絶縁膜11a7の全部を含んでもよいし、絶縁膜11a7の一部のみを含んでもよい。例えば、絶縁膜11a7のうち、平面視において、コイル軸CLと絶縁膜11a7の周縁との間に導体パターン25a7が存在しない領域を第4の領域とすることができる。
【0078】
第5の領域60には、絶縁膜11b1が含まれる。第5の領域60は、絶縁膜11b1のみから構成されてもよい。絶縁膜11b1には、第2コイル導体25bの一部をなす導体パターン25b1が形成されている。第5の領域60は、絶縁膜11b1の全部を含んでもよいし、絶縁膜11b1の一部のみを含んでもよい。例えば、絶縁膜11b1のうち、平面視において、コイル軸CLと絶縁膜11b1の周縁との間に導体パターン25b1が存在しない領域を第5の領域とすることができる。
【0079】
第4の領域50は、透磁率μ6を有する。本発明の一実施形態において、第4の領域50の透磁率μ6は、第2の領域40aの透磁率μ2よりも小さい。本発明の一実施形態において、第4の領域50の透磁率μ6は、第3の領域40bの透磁率μ3よりも小さい。第4の領域50の透磁率μ6は、第1の領域30の透磁率μ1と同じ値を有していてもよいし、透磁率μ1より小さな値を有していても良いし、透磁率μ1より大きな値を有していてもよい。
【0080】
第5の領域60は、透磁率μ7を有する。本発明の一実施形態において、第5の領域60の透磁率μ7は、第3の領域40bの透磁率μ3よりも小さい。本発明の一実施形態において、第5の領域60の透磁率μ7は、第2の領域40aの透磁率μ2よりも小さい。第5の領域60の透磁率μ7は、第1の領域30の透磁率μ1と同じ値を有していてもよいし、透磁率μ1より小さな値を有していても良いし、透磁率μ1より大きな値を有していてもよい。
【0081】
導体パターン25a7は、1ターンよりも少ないターン数だけコイル軸CLの周りに巻回されているため、第4の領域50の透磁率μ6を第2の領域40aの透磁率μ2と同じかそれよりも小さくすると、第1コイル導体25a及び第2コイル導体25bのコアを通過する磁束は、絶縁膜11a7のうち導体パターン25a7が形成されていない部位を通過する漏れ磁束となりやすい。図示の実施形態においては、導体パターン25a7は、外部電極21への接続のため、導体パターン25a1~導体パターン25a6と比べて少ないターン数だけ巻回されている。例えば、図2に示されている態様においては、導体パターン25a1~導体パターン25a6の各々は概ね5/6ターンずつ巻回されている一方、導体パターン25a7は概ね2/5だけ巻回されている。このように導体パターン25a7のターン数が少ないため、磁束は、絶縁膜11a1~絶縁膜11a6に比べて、絶縁膜11a7においてコイル軸CLと垂直な方向への通過が容易になっている。上記のコイル部品101においては、絶縁膜11a7を含む第4の領域50の透磁率μ6を第2の領域40aの透磁率μ2よりも小さくすることにより、コイル導体25aとコイル導体25bとの間を通過する漏れ磁束をさらに減少させることができる。
【0082】
導体パターン25b1も導体パターン25a7と同様に、1ターンよりも少ないターン数だけコイル軸CLの周りに巻回されているため、第5の領域60の透磁率μ7を第3の領域40bの透磁率μ3と同じかそれよりも小さくすると、第1コイル導体25a及び第2コイル導体25bのコアを通過する磁束は、絶縁膜11b1のうち導体パターン25b1が形成されていない部位を通過する漏れ磁束となりやすい。上記のコイル部品101においては、絶縁膜11b1を含む第5の領域60の透磁率μ7を第3の領域40bの透磁率μ3よりも小さくすることにより、コイル導体25aとコイル導体25bとの間を通過する漏れ磁束をさらに減少させることができる。
【0083】
次に、コイル部品1の製造方法の一例を説明する。コイル部品1は、例えば積層プロセスによって製造することができる。まず、コイルユニット1a及びコイルユニット1bをそれぞれ作成する。
【0084】
まず、絶縁膜11a1~絶縁膜11a7、絶縁膜11b1~絶縁膜11b7、絶縁積層体11a8を構成する各絶縁膜、絶縁積層体11b8を構成する各絶縁膜、上部カバー層18aを構成する各絶縁膜、及び下部カバー層18bを構成する各絶縁膜となるグリーンシートを作成する。これらのグリーンシートは、例えば、フェライト、軟磁性合金、又はこれら以外の磁性材料から形成される。以下では、磁性体シートは、軟磁性合金から形成されるものとする。
【0085】
まず、Fe-Si系合金、Fe-Ni系合金、Fe-Co系合金、Fe-Cr-Si系合金、Fe-Si-Al系合金、Fe-Si-B-Cr系合金、又はこれら以外の任意の軟磁性合金から成る軟磁性金属粒子にバインダ樹脂及び溶剤を加えてスラリーを作成し、このスラリーをプラスチック製のベースフィルムの表面に塗布する。この塗布されたスラリーを乾燥させることでグリーンシートが作成される。
【0086】
次に、絶縁膜11a1~絶縁膜11a6となる各グリーンシート及び絶縁膜11b1~絶縁膜11b6となる各グリーンシートの所定の位置に、各グリーンシートをT軸方向に貫く貫通孔を形成する。
【0087】
次に、絶縁膜11a1~絶縁膜11a7となる各グリーンシートの上面及び絶縁膜11b1~絶縁膜11b7となる各グリーンシートの上面の各々に、導電ペーストをスクリーン印刷法により印刷することで、当該各磁性体シートに導体パターンを形成する。また、各磁性体シートに形成された各貫通孔に導電ペーストを埋め込む。このようにして絶縁膜11a1~絶縁膜11a7となるグリーンシートに形成された導体パターンは、それぞれ導体パターン25a1~導体パターン25a7となり、各貫通孔に埋め込まれた金属がビアVa1~Va6となる。また、絶縁膜11b1~絶縁膜11b7となるグリーンシートに形成された導体パターンは、それぞれ導体パターン25b1~導体パターン25b7となり、各貫通孔に埋め込まれた金属がビアVb1~Vb6となる。各導体パターン及び各ビアは、スクリーン印刷法以外にも公知の様々な方法で形成され得る。
【0088】
次に、絶縁膜11a1~絶縁膜11a7となる各グリーンシートを積層して第1コイル積層体を得る。絶縁膜11a1~絶縁膜11a7となる各グリーンシートは、当該各グリーンシートに形成されている導体パターン25a1~25a7の各々が隣接する導体パターンとビアVa1~Va16を介して電気的に接続されるように積層される。同様に、絶縁膜11b1~絶縁膜11b7となる各グリーンシートを積層して第2コイル積層体を得る。絶縁膜11b1~絶縁膜11b7となる各グリーンシートは、当該各グリーンシートに形成されている導体パターン25b1~25b7の各々が隣接する導体パターンとビアVb1~Vb16を介して電気的に接続されるように積層される。
【0089】
次に、絶縁積層体11a8用の各グリーンシートを積層して第1下部積層体を形成し、上部カバー層18a用の各グリーンシートを積層して第1上部積層体を形成し、絶縁積層体11b8用の各グリーンシートを積層して第2上部積層体を形成し、下部カバー層18b用の各グリーンシートを積層して第2下部積層体を形成する。
【0090】
次に、第2下部積層体、第2コイル積層体、第2上部積層体、第1下部積層体、第1コイル積層体、及び第1上部積層体をT軸方向の負方向側から正方向側に向かってこの順序で積層し、この積層された各積層体をプレス機により熱圧着することで本体積層体が得られる。本体積層体は、2下部積層体、第2コイル積層体、第2上部積層体、第1下部積層体、第1コイル積層体、及び第1上部積層体を形成せずに、準備したグリーンシート全てを順番に積層して、この積層されたグリーンシートを一括して熱圧着することにより形成しても良い。
【0091】
次に、ダイシング機やレーザ加工機等の切断機を用いて上記本体積層体を所望のサイズに個片化することで、チップ積層体が得られる。次に、このチップ積層体を脱脂し、脱脂されたチップ積層体を加熱処理する。このチップ積層体の端部に対して、必要に応じて、バレル研磨等の研磨処理を行う。
【0092】
次に、このチップ積層体の両端部に導体ペーストを塗布することにより、外部電極21、外部電極22、外部電極23、及び外部電極24を形成する。外部電極21、外部電極22、外部電極23、及び外部電極24には、必要に応じて、半田バリア層及び半田濡れ層の少なくとも一方が形成されてもよい。以上により、コイル部品1が得られる。
【0093】
上記の製造方法に含まれる工程の一部は、適宜省略可能である。コイル部品1の製造方法においては、本明細書において明示的に説明されていない工程が必要に応じて実行され得る。上記のコイル部品1の製造方法に含まれる各工程の一部は、本発明の趣旨から逸脱しない限り、随時順番を入れ替えて実行され得る。上記のコイル部品1の製造方法に含まれる各工程の一部は、可能であれば、同時に又は並行して実行され得る。
【0094】
コイル部品1に含まれる各絶縁膜は、各種のフィラー粒子を分散させた樹脂を仮硬化させた絶縁シートから形成されてもよい。かかる絶縁シートについては、脱脂を行う必要がない。
【0095】
コイル部品1は、スラリービルド法又はこれ以外の任意の公知の方法により製造されてもよい。
【0096】
コイル部品1は、積層プロセスによって形成されるので、従来の組立型のカップルドインダクタよりも小型化が容易である。
【0097】
本明細書で説明された各構成要素の寸法、材料、及び配置は、実施形態中で明示的に説明されたものに限定されず、この各構成要素は、本発明の範囲に含まれうる任意の寸法、材料、及び配置を有するように変形することができる。また、本明細書において明示的に説明していない構成要素を、説明した実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【符号の説明】
【0098】
1、101 コイル部品
11 絶縁層
18a 上部カバー層
18b 下部カバー層
30 第1の領域
40a 第2の領域
40b 第3の領域
50 第4の領域
60 第5の領域
図1
図2
図3
図4
図5