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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】粘着剤組成物、粘着剤層及び粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/00 20060101AFI20221101BHJP
   C09J 121/00 20060101ALI20221101BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20221101BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20221101BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20221101BHJP
【FI】
C09J133/00
C09J121/00
C09J11/08
C09J11/06
C09J7/38
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017229394
(22)【出願日】2017-11-29
(65)【公開番号】P2018090793
(43)【公開日】2018-06-14
【審査請求日】2020-11-20
(31)【優先権主張番号】P 2016232749
(32)【優先日】2016-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅井 量子
(72)【発明者】
【氏名】下川 佳世
(72)【発明者】
【氏名】谷 賢輔
(72)【発明者】
【氏名】吉良 佳子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 研一
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-171460(JP,A)
【文献】特開平09-316228(JP,A)
【文献】特開2014-231586(JP,A)
【文献】特開平02-011688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースポリマーと、吸水性材料と、湿気硬化性成分とを含有し、
前記ベースポリマーは、モノマー成分として極性基含有単量体又は多官能性単量体を含むアクリル系ポリマーまたは非ジエン系合成ゴムを含み、
前記吸水性材料が、吸水性ポリマーであり、
湿気硬化性成分は、イソシアネート化合物、シアノアクリレート系化合物、及びウレタン系化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記湿気硬化性成分が未反応状態で含有されている粘着剤組成物。
【請求項2】
前記粘着剤組成物の溶媒を除く成分全体に対する前記湿気硬化性成分の含有量が0.1~50重量%である請求項1に記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
粘着剤層を形成したときの初期弾性率が400kPa以下である、請求項1または2に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
前記湿気硬化性成分が、被着体と化学結合可能である請求項1~3のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
前記湿気硬化性成分が、イソシアネート化合物である請求項1~4のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
【請求項6】
前記粘着剤組成物の溶媒を除く成分全体に対する前記吸水性材料の含有量が1~50重量%である請求項1~のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の粘着剤組成物からなる粘着剤層。
【請求項8】
前記粘着剤層の貼付面において、前記吸水性材料が表面積の0.5~80%において露出している請求項に記載の粘着剤層。
【請求項9】
請求項またはに記載の粘着剤層を備える粘着シート。
【請求項10】
前記粘着剤層が基材上に形成されている請求項に記載の粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤組成物、該粘着剤組成物からなる粘着剤層、並びに該粘着剤層を備える粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート等の防水等を目的として、プライマー組成物が用いられている。例えば、特許文献1には、特定の樹脂組成物及び特定の湿気硬化性溶液を混合してなる被覆剤組成物が、湿潤面に対する密着性に優れたプライマー組成物として使用可能であることが記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、コンクリート等の無機材や木材のような凹凸の表面を有する被着体に対して十分な接着強度を有する湿気硬化型粘接着剤を光重合により供し得る光重合性組成物、及びこの組成物を用いてなる湿気硬化型粘接着性シートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-354749号公報
【文献】特開2000-273418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の被覆剤組成物は液状のプライマー組成物として使用されるものであり、塗工作業及びその後の乾燥を必要とするため、作業効率の観点で問題があった。
【0006】
また、特許文献2では、コンクリート等の無機材や木材のような凹凸の表面を有する被着体に対する接着強度について検討がなされているが、湿潤面に対する接着強度については何ら検討されていない。
【0007】
本発明は、湿潤面、特に、凹凸を有する被着体の湿潤面に対する高い接着力を与える粘着剤組成物、該粘着剤組成物からなる粘着剤層、並びに該粘着剤層を備える粘着シートを提供することを一つの課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を鑑みて鋭意研究を行った結果、下記構成を有する粘着剤組成物、該粘着剤組成物からなる粘着剤層、並びに該粘着剤層を備える粘着シートにより前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の一態様は、ベースポリマーと、吸水性材料と、湿気硬化性成分とを含有し、当該湿気硬化性成分が未反応状態で含有されている粘着剤組成物に関する。
【0010】
上記粘着剤組成物においては、当該粘着剤組成物の溶媒を除く成分全体に対する湿気硬化性成分の含有量が0.1~50重量%であってもよい。
【0011】
上記粘着剤組成物においては、湿気硬化性成分が被着体と化学結合可能であってもよい。
【0012】
上記粘着剤組成物は、粘着剤層を形成したときの初期弾性率が400kPa以下であることが好ましい。
【0013】
上記粘着剤組成物においては、湿気硬化性成分が、イソシアネート化合物及びアルコキシシリル基含有ポリマーから選択される1種以上であってもよい。
【0014】
上記粘着剤組成物においては、ベースポリマーがアクリル系ポリマーまたはゴム系ポリマーを含んでもよい。
【0015】
上記粘着剤組成物においては、当該粘着剤組成物の溶媒を除く成分全体に対する吸水性材料の含有量が1~50重量%であってもよい。
【0016】
上記粘着剤組成物においては、前記吸水性材料が、吸水性ポリマーであってもよい。
【0017】
また、本発明の一態様は、上記の粘着剤組成物からなる粘着剤層に関する。
【0018】
上記粘着剤層においては、当該粘着剤層の貼付面において、吸水性材料が表面積の0.5~80%において露出していてもよい。
【0019】
また、本発明の一態様は、上記の粘着剤層を備える粘着シートに関する。
【0020】
上記粘着シートにおいて、粘着剤層は基材上に形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の粘着剤組成物からなる粘着剤層並びに粘着シートは、湿潤面、特に、凹凸を有する被着体の湿潤面に対しても高い接着力を有する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0023】
本発明の一実施形態の粘着剤組成物は、ベースポリマーと、吸水性材料と、湿気硬化性成分とを含有し、当該湿気硬化性成分が未反応状態で含有されている粘着剤組成物である。
【0024】
本態様に係る粘着剤組成物からなる粘着剤層あるいは粘着剤層を備える粘着シート(以下、まとめて粘着シートともいう)は、被着体の湿潤面に貼付された際、まず、被着体の湿潤面における水分が粘着剤組成物(粘着剤層)中の吸水性材料に吸収除去されるとともに、粘着剤層の粘着性により、被着体に対してズレを生じない程度の初期接着力で貼付される。このとき、吸水性材料により被着体の湿潤面の水分が吸収除去されるため、被着体が凹凸表面を有していたとしても、粘着剤層が被着体の凹凸表面に良好に追従することができる。また、粘着剤組成物(粘着剤層)中の未反応状態の湿気硬化性成分が、被着体の湿潤面から吸収された水分や、周囲の水分や湿気といった水と反応して湿気硬化することにより、被着体に対する接着力がより向上する。したがって、本態様の粘着シートは、被着体の湿潤面、特に、凹凸表面を有する湿潤状態の被着体に貼付された際にも、接着力が経時的に上昇し、高い接着力を発現することができる。なお、湿気硬化性成分が被着体と化学結合可能である場合、粘着剤組成物(粘着剤層)中に未反応状態で含有されている被着体と化学結合可能な湿気硬化性成分と、被着体表面との間の化学結合が進行することにより、被着体表面に対する接着力がさらに向上するため好ましい。
【0025】
本態様に係る粘着剤組成物において、粘着剤組成物を構成するベースポリマーとしては特に限定されず、粘着剤に用いられる公知のポリマーを用いることが可能である。例えば、アクリル系ポリマー、ゴム系ポリマー、ビニルアルキルエーテル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ウレタン系ポリマー、フッ素系ポリマー、エポキシ系ポリマーなどが挙げられる。中でも、接着性の点から、ゴム系ポリマーやアクリル系ポリマーが好ましく、耐水性の観点から、透湿度が低いゴム系ポリマーがより好ましい。なお、かかるポリマーは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
アクリル系ポリマーを構成する主たる単量体成分としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル)を好適に用いることができる。上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸ノナデシル、(メタ)アクリル酸エイコシルなどの炭素数1~20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。中でも好ましくは炭素数1~14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルであり、さらに好ましくは炭素数2~10のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルである。なお、上記「(メタ)アクリル酸エステル」とは、「アクリル酸エステル」及び/又は「メタクリル酸エステル」を表し、他も同様である。
【0027】
また、上記の(メタ)アクリル酸アルキルエステル以外の(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル、フェニル(メタ)アクリレート等の芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0028】
上記(メタ)アクリル酸エステルは、単独で、又は2種以上組み合わせて使用することができる。なお、(メタ)アクリル酸エステルはアクリル系ポリマーの単量体主成分として用いられているので、(メタ)アクリル酸エステル[特に(メタ)アクリル酸アルキルエステル]の割合は、例えば、アクリル系ポリマーを調製するためのモノマー成分全量に対して60重量%以上が好ましく、より好ましくは80重量%以上である。
【0029】
上記アクリル系ポリマーでは、モノマー成分として、極性基含有単量体や多官能性単量体などの各種共重合性単量体が用いられてもよい。モノマー成分として共重合性単量体を用いることにより、例えば、被着体への接着力を向上させたり、粘着剤の凝集力を高めたりすることができる。共重合性単量体は、単独で、又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0030】
前記極性基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イソクロトン酸などのカルボキシル基含有単量体又はその無水物(無水マレイン酸など);(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルなどの水酸基含有単量体;アクリルアミド、メタアクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド基含有単量体;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t-ブチルアミノエチルなどのアミノ基含有単量体;(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸メチルグリシジルなどのグリシジル基含有単量体;アクリロニトリルやメタアクリロニトリルなどのシアノ基含有単量体;N-ビニル-2-ピロリドン、(メタ)アクリロイルモルホリンの他、N-ビニルピリジン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルピリミジン、N-ビニルピペラジン、N-ビニルピロール、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルオキサゾール等の複素環含有ビニル系単量体;(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチルなどの(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル系モノマー;ビニルスルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸基含有単量体;2-ヒドロキシエチルアクリロイルフォスフェートなどのリン酸基含有単量体;シクロヘキシルマレイミド、イソプロピルマレイミドなどのイミド基含有単量体;2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートなどのイソシアネート基含有単量体などが挙げられる。極性基含有単量体としてはアクリル酸等のカルボキシル基含有単量体又はその無水物が好適である。
【0031】
極性基含有単量体の使用量としては、アクリル系ポリマーを形成するためのモノマー成分全量に対して30重量%以下(例えば1~30重量%)であり、好ましくは3~20重量%である。極性基含有単量体の使用量が30重量%を超えると、例えば、アクリル系粘着剤の凝集力が高くなりすぎ、粘着剤層の粘着性が低下するおそれがある。また、極性基含有単量体の使用量が少なすぎると(例えば1重量%未満であると)、これらの単量体の共重合の効果が得られなくなる場合がある。
【0032】
前記多官能性単量体としては、例えば、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレートなどが挙げられる。
【0033】
多官能性単量体の使用量としては、アクリル系ポリマーを形成するためのモノマー成分全量に対して2重量%以下(例えば、0.01~2重量%)であり、好ましくは0.02~1重量%である。多官能性単量体の使用量がアクリル系ポリマーを形成するためのモノマー成分全量に対して2重量%を超えると、例えば粘着剤の凝集力が高くなりすぎ、粘着性が低下するおそれがある。また、多官能性単量体の使用量が少なすぎると(例えば0.01重量%未満であると)、これらの単量体の共重合の効果が得られなくなる場合がある。
【0034】
また、極性基含有単量体や多官能性単量体以外の共重合性単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、スチレン、ビニルトルエンなどの芳香族ビニル化合物、エチレン、ブタジエン、イソプレン、イソブチレンなどのオレフィン又はジエン類;ビニルアルキルエーテルなどのビニルエーテル類;塩化ビニルなどが挙げられる。
【0035】
ゴム系ポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、ジエン系合成ゴム(例えば、イソプレンゴム、スチレン・イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴムなど)や非ジエン系合成ゴム(例えば、ブチルゴム、イソブチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴムなど)などの合成ゴム、天然ゴムなどが挙げられる。
また、ゴム改質剤のためのポリマーとしては、例えば、1,3-ペンタジエン系ポリマーやポリブテンといった脂肪族系炭化水素樹脂やジシクロペンタジエン系の脂環族系炭化水素樹脂、石油系軟化剤(パラフィン系油、ナフテン系油、芳香族系油)などの低極性のポリマーを用いてもよい。
【0036】
粘着剤組成物が重合開始剤を含む場合、熱重合開始剤や光重合開始剤(光開始剤)などの重合開始剤を用いた熱や活性エネルギー線による硬化反応を利用することができる。上記重合開始剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0037】
上記熱重合開始剤としては、例えば、アゾ系重合開始剤[例えば、2,2´-アゾビスイソブチロニトリル、2,2´-アゾビス-2-メチルブチロニトリル、2,2´-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、4,4´-アゾビス-4-シアノバレリアン酸、アゾビスイソバレロニトリル、2,2´-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2´-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2´-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2´-アゾビス(N,N´-ジメチレンイソブチルアミジン)ジヒドロクロライドなど]、過酸化物系重合開始剤(例えば、ジベンゾイルペルオキシド、tert-ブチルペルマレエートなど)、レドックス系重合開始剤などが挙げられる。熱重合開始剤の使用量としては、特に制限されず、従来、熱重合開始剤として利用可能な範囲であればよい。
【0038】
上記光重合開始剤としては、特に限定されず、例えば、ベンゾインエーテル系光重合開始剤、アセトフェノン系光重合開始剤、α-ケトール系光重合開始剤、芳香族スルホニルクロリド系光重合開始剤、光活性オキシム系光重合開始剤、ベンゾイン系光重合開始剤、ベンジル系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、ケタール系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤などを用いることができる。
【0039】
具体的には、ベンゾインエーテル系光重合開始剤としては、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、アニソールメチルエーテルなどが挙げられる。アセトフェノン系光重合開始剤としては、例えば、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、4-フェノキシジクロロアセトフェノン、4-(t-ブチル)ジクロロアセトフェノンなどが挙げられる。α-ケトール系光重合開始剤としては、例えば、2-メチル-2-ヒドロキシプロピオフェノン、1-[4-(2-ヒドロキシエチル)フェニル]-2-メチルプロパン-1-オンなどが挙げられる。芳香族スルホニルクロリド系光重合開始剤としては、例えば、2-ナフタレンスルホニルクロライドなどが挙げられる。光活性オキシム系光重合開始剤としては、例えば、1-フェニル-1,1-プロパンジオン-2-(o-エトキシカルボニル)-オキシムなどが挙げられる。
【0040】
また、ベンゾイン系光重合開始剤には、例えば、ベンゾインなどが含まれる。ベンジル系光重合開始剤には、例えば、ベンジルなどが含まれる。ベンゾフェノン系光重合開始剤は、例えば、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、3、3′-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、ポリビニルベンゾフェノン、α-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどが含まれる。ケタール系光重合開始剤には、例えば、ベンジルジメチルケタールなどが含まれる。チオキサントン系光重合開始剤には、例えば、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、ドデシルチオキサントンなどが含まれる。
【0041】
光重合開始剤の使用量としては、特に限定されないが、例えば、アクリル系ポリマーを形成するための全モノマー成分100重量部に対して0.01~5重量部(好ましくは0.05~3重量部)の範囲から選択することができる。
【0042】
光重合開始剤の活性化に際しては、活性エネルギー線を照射する。このような活性エネルギー線としては、例えば、α線、β線、γ線、中性子線、電子線などの電離性放射線や、紫外線などが挙げられ、特に紫外線が好適である。また、活性エネルギー線の照射エネルギーや、その照射時間などは特に限定されず、光重合開始剤を活性させて、モノマー成分の反応を生じさせることができればよい。
【0043】
本態様に係る粘着剤組成物中におけるベースポリマーの含有量は特に限定されるものではないが、初期接着力の観点からは、粘着剤組成物の溶媒を除く成分全体に対して、すなわち粘着剤組成物の溶媒を除く成分全量を100重量%として、10重量%以上であることが好ましく、15重量%以上であることがより好ましく、20重量%以上であることがさらに好ましい。また、ベースポリマーの含有量は、吸水性材料と湿気硬化性成分を含有させる観点からは、粘着剤組成物の溶媒を除く成分全体に対して70重量%以下であることが好ましく、60重量%以下であることがより好ましく、50重量%以下であることがさらに好ましい。
【0044】
本態様において、吸水性材料とは、水を吸収して保持できる材料を表す。本態様に係る粘着剤組成物においては、粘着シートが被着体の湿潤面に貼付された際に、吸水性材料が粘着シートと被着体との接着の妨げとなる湿潤面の水分を吸収保持することで、粘着シートに要求される被着体に対する初期接着力が良好に発現される。また、吸水性材料により被着体の湿潤面の水分が吸収除去されるため、凹凸表面を有する被着体に対しても粘着シートが良好に追従することができる。
【0045】
吸水性材料としては、吸水性ポリマー等の有機系の吸水性材料や、無機系の吸水性材料を用いることができる。なお、吸水性材料は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
吸水性ポリマーとしては、例えば、ポリアクリル酸類、水溶性セルロース類、ポリビニルアルコール類、ポリエチレンオキサイド類、デンプン類、アルギン酸類、キチン類、ポリスルホン酸類、ポリヒドロキシメタクリレート類、ポリビニルピロリドン類、ポリアクリルアミド類、ポリエチレンイミン類、ポリアリルアミン類、ポリビニルアミン類、無水マレイン酸類、これらの共重合体等が挙げられる。なお、吸水性ポリマーは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
なかでも、ポリアクリル酸ナトリウム塩、無水マレイン酸及びポリイソブチレンの共重合体が好ましく、無水マレイン酸及びポリイソブチレンの共重合体がより好ましい。
【0047】
吸水性ポリマーとしては、市販品を用いてもよい。吸水性ポリマーの市販品としては、例えば、KCフロック(セルロースパウダー、日本製紙ケミカル株式会社製)、サンローズ(カルボキシメチルセルロース、日本製紙ケミカル株式会社製)、アクアリックCA(アクリル酸重合体部分ナトリウム塩架橋物、株式会社日本触媒製)、アクリホープ(アクリル酸重合体部分ナトリウム塩架橋物、株式会社日本触媒製)、サンウェット(ポリアクリル酸塩架橋体、サンダイヤポリマー株式会社製)、アクアパール(ポリアクリル酸塩架橋体、サンダイヤポリマー株式会社製)、アクアキープ(アクリル酸重合体部分ナトリウム塩架橋物、住友精化株式会社製)、アクアコーク(変性ポリアルキレンオキサイド、住友精化株式会社製)、KIゲル(イソブチレン-無水マレイン酸共重合体架橋物、株式会社クラレ製)等を好適に用いることができる。
【0048】
無機系の吸水性材料としては、例えば、シリカゲルや、クニミネ工業株式会社製のスメクトンSA等の無機高分子などが挙げられる。
【0049】
本態様に係る粘着剤組成物中における吸水性材料の含有量は特に限定されるものではないが、被着体の水分の吸水除去性の観点からは、粘着剤組成物の溶媒を除く成分全体に対して、すなわち粘着剤組成物の溶媒を除く成分全量を100重量%として、0.1重量%以上であることが好ましく、0.5重量%以上であることがより好ましく、1重量%以上であることがさらに好ましい。また、吸水性材料の含有量は、湿気硬化後の接着力の観点からは、粘着剤組成物の溶媒を除く成分全体に対して、50重量%以下であることが好ましく、40重量%以下であることがより好ましく、30重量%以下であることがさらに好ましい。
【0050】
本態様において、湿気硬化性成分とは、水(水分や湿気)の存在により硬化反応を生じる性質(湿気硬化性)を有する成分である。例えば、分子内に一つ以上の加水分解性反応基あるいは水により反応を開始する官能基を有し、空気中などの周囲の水(水分や湿気)によって硬化を開始する樹脂や化合物が包含される。
【0051】
本態様の粘着剤組成物に用いられる湿気硬化性成分は、湿気硬化性を有する。そして、湿気硬化性成分は未反応状態で粘着剤組成物に含有されている。本態様の粘着剤組成物からなる粘着剤層を備えた粘着シートが被着体に貼付されると、未反応状態の湿気硬化性成分自体が、湿潤面から吸収された水分や、周囲の水分や湿気といった水により硬化することで接着性がより向上する。また、湿気硬化性成分は、粘着シートが貼付される被着体と化学結合可能な成分であることが好ましい。そのような場合、未反応状態の湿気硬化性成分と被着体との間で化学結合が進行することで、接着性がより向上する。
【0052】
本態様に用いられる湿気硬化性成分は、イソシアネート化合物、アルコキシシリル基含有ポリマー、シアノアクリレート系化合物、ウレタン系化合物等が挙げられる。なかでも、相溶性や硬化速度の点において、イソシアネート化合物及びアルコキシシリル基含有ポリマーが好ましい。なお、湿気硬化性成分は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
イソシアネート化合物(イソシアネート)は、水の存在下で加水分解されてアミンとなり、イソシアネートとアミンが反応してウレア結合を形成することにより硬化する。また、被着体表面の水酸基や、アミノ基、カルボキシル基等との間で化学結合を形成することができる。
【0054】
イソシアネート化合物としては、例えば、第一工業製薬株式会社製のポリフレックスPRやポリグラウトM-2、ポリグラウトS-200、東ソー株式会社製のコロネートL等のトルエンジイソシアネート、三井化学株式会社製のタケネートM-605NEやタケネートD-120N等のキシリレンジイソシアネート、三井化学株式会社製のタケネートM-631N、旭化成株式会社製のデュラネートMFA-75X、東ソー株式会社製のコロネートHL等のヘキサメチレンジイソシアネート等から選ばれる1種以上を用いることができる。
【0055】
アルコキシシリル基含有ポリマーは、水の存在下で加水分解されてシラノールとなり、縮合(架橋)することで硬化する。また、被着体表面の水酸基との間で脱水縮合反応すること等で強固な化学結合を形成することができる。
【0056】
アルコキシシリル基含有ポリマーとしては、例えば、株式会社カネカ製の、サイリルSAX220やサイリルSAT350等の直鎖型ジメトキシ基両末端タイプ、サイリルSAT145等の直鎖型ジメトキシ基片末端タイプ、サイリルSAX510やサイリルSAT580等の直鎖型トリメトキシ基両末端タイプ、サイリルSAT400等の分岐型ジメトキシ基末端タイプ、サイリルMA440やサイリルMA903、サイリルMA904等のアクリル変性タイプから選ばれる1種以上を用いることができる。
【0057】
本態様に係る粘着剤組成物中における湿気硬化性成分の含有量は特に限定されるものではないが、高い接着力を得る観点からは、粘着剤組成物の溶媒を除く成分全体に対して、すなわち粘着剤組成物の溶媒を除く成分全量を100重量%として、0.1重量%以上であることが好ましく、0.2重量%以上であることがより好ましく、0.4重量%以上であることがさらに好ましい。また、湿気硬化性成分の含有量は、製品寿命やポットライフの観点からは、粘着剤組成物の溶媒を除く成分全体に対して、50重量%以下であることが好ましく、45重量%以下であることがより好ましく、40重量%以下であることがさらに好ましい。
【0058】
本態様に係る粘着剤組成物には、弾性率の調整ならびに初期接着の際のタックを与えることを目的として、タッキファイヤー(粘着付与剤)を含有させてもよい。タッキファイヤーとしては、例えば、ポリブテン類、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、石油系樹脂(例えば、石油系脂肪族炭化水素樹脂、石油系芳香族炭化水素樹脂、石油系脂肪族・芳香族共重合炭化水素樹脂、石油系脂環族炭化水素樹脂(芳香族炭化水素樹脂を水素添加したもの)等)、クマロン系樹脂等が挙げられる。相溶性の点において、好ましくは、石油系樹脂、ロジン系樹脂である。タッキファイヤーは、1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
粘着剤組成物中にタッキファイヤーを含有させる場合の含有量は、弾性率を低下させる観点からは、粘着剤組成物の溶媒を除く成分全体に対して、すなわち粘着剤組成物の溶媒を除く成分全量を100重量%として、1重量%以上であることが好ましく、5重量%以上であることがより好ましい。また、タッキファイヤーの含有量は、粘着剤に適度な凝集力を持たせる観点からは、粘着剤組成物の溶媒を除く成分全体に対して、70重量%以下であることが好ましく、65重量%以下であることがより好ましく、60重量%以下であることがさらに好ましい。
【0060】
また、本態様の粘着剤組成物には、本発明の効果が阻害されない範囲において、粘度調整剤、剥離調整剤、可塑剤、軟化剤、充填剤、着色剤(顔料、染料等)、老化防止剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、光安定剤等、粘着剤組成物に通常添加される添加剤をさらに添加してもよい。
充填剤としては、例えば、タルク、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、炭酸カルシウム、カーボン、シリカ、クレー、マイカ、硫酸バリウム、ウィスカー、水酸化マグネシウム等の無機充填剤が挙げられる。
充填剤の含有量は、粗面接着性の観点からは、粘着剤組成物の溶媒を除く成分全体に対して、80重量%以下であることが好ましく、70重量%以下であることがより好ましい。
【0061】
また、粘着剤組成物に利用される溶剤(溶媒)としては、各種の一般的な溶剤を用いることができる。前記溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n-ブチル等のエステル類;トルエン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類;n-ヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類等の有機溶剤が挙げられる。前記溶剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用されてもよい。
【0062】
本実施形態の粘着剤組成物は、粘着剤層を形成したときの(湿気硬化前の)該粘着剤層の弾性率(初期弾性率)が400kPa以下であることが好ましく、300kPa以下であることがより好ましく、200kPa以下であることがさらに好ましい。該初期弾性率が400kPa以下であれば、凹凸面を有する被着体に対しても良好な追従性を発揮することができる。また、吸水性材料が被着体の湿潤面の水分を吸収した際の膨潤が妨げられることなく、吸水性材料の吸水性が良好に発揮される。また、粘着剤層を良好に形成するためには、該初期弾性率は0.1kPa以上であることが好ましく、0.5kPa以上であることがより好ましく、1kPa以上であることがより好ましく、10kPa以上であることが特に好ましい。
【0063】
ここで、粘着剤層を形成したときの該粘着剤層の初期弾性率は、該粘着剤層をひも状に丸めた試料を作製し、引張試験機(株式会社島津製作所製のAG-IS)を用いて50mm/minの速度で引張ったときに測定される応力-ひずみ曲線から算出することができる。
【0064】
また、本発明の一実施形態の粘着剤組成物は、下記測定条件で測定したときの90度ピール接着力が5N/25mm以上である粘着剤組成物である。
(測定条件)
ポリエチレンテレフタレートからなる厚み25μm、幅25mmの基材の片面に前記粘着剤組成物からなる厚み150μmの粘着剤層を形成して、幅25mmの粘着シートを作製し、含水率25%のスレート板の表面に2kgローラーで1往復して圧着して貼付した後に、水中に浸漬し、23℃で24時間静置する。その後、前記粘着シートが貼付されたスレート板を水中から取り出し、スレート板に対する、剥離温度23℃、剥離速度100mm/minでの90度ピール接着力(N/25mm)を測定する。
【0065】
以下において、上記した90度ピール接着力の測定条件について、より詳細に説明する。
まず、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる厚み25μm、幅25mmの基材の片面に、測定対象となる粘着剤組成物からなる厚み150μmの粘着剤層を形成して、幅25mmの粘着シート(試験片)を用意する。
【0066】
また、日本テストパネル株式会社製のスレート標準板、製品名「JIS A5430(FB)」(以下、スレート板ともいう)で、厚み3mm、幅30mm、長さ125mmのサイズのものを用意する。このスレート板の光沢面を使用する。このスレート板を130℃で1時間乾燥させ、この時点でのスレート板の重量を、「水中に浸漬前のスレート板の重量」と規定する。つづいて、用意したスレート板を水中に浸漬させた状態で、超音波脱気装置(ヤマト科学株式会社製のBRANSON3510)で1時間脱気し、1晩静置して、水中から取り出す。この時点でのスレート板の重量を、「水中に浸漬、脱気後のスレート板の重量」と規定する。このようにして、含水率を25%(重量%)としたスレート板を用意する。
ここで、スレート板の含水率は、下記のようにして算出することができる。
スレート板の含水率(重量%)=〔{(水中に浸漬、脱気後のスレート板の重量)-(水中に浸漬前のスレート板の重量)}/(水中に浸漬前のスレート板の重量)〕×100
【0067】
つづいて、含水率25%のスレート板の表面(湿潤面)に、用意した幅25mmの粘着シート(試験片)を2kgローラーで1往復して圧着して貼付した直後に、水中に浸漬し、23℃で24時間静置する。その後、粘着シート(試験片)が貼着されたスレート板を水中から取り出し、引張試験機(ミネベア株式会社製のテクノグラフTG-1kN)を用いて、スレート板に対する、剥離温度23℃、剥離速度100mm/minでの90度ピール接着力(N/25mm)を測定する。
【0068】
上記した90度ピール接着力は、好ましくは5N/25mm以上であり、より好ましくは6N/25mm以上であり、さらに好ましくは8N/25mm以上である。該90度ピール接着力が5N/25mm以下であると、接着力が低い可能性がある。したがって、粘着剤を被着体に貼付後、水中での湿気硬化が完了するまでの間に、被着体側から浸入してきた水や気泡により、被着体と粘着剤との間に隙間が生じる可能性があり、また粘着剤が被着体から剥離する可能性がある。
【0069】
また、本発明の一実施形態の粘着剤組成物は、下記測定条件で測定したときの90度ピール接着力が5N/25mm以上である粘着剤組成物である。
(測定条件)
ポリエチレンテレフタレートからなる厚み25μm、幅25mmの基材の片面に前記粘着剤組成物からなる厚み150μmの粘着剤層を形成して、幅25mmの粘着シートを作製し、含水率12%のスレート板の表面に2kgローラーで1往復して圧着して貼付した後に、水中に浸漬し、23℃で24時間静置する。その後、前記粘着シートが貼付されたスレート板を水中から取り出し、スレート板に対する、剥離温度23℃、剥離速度100mm/minでの90度ピール接着力(N/25mm)を測定する。
【0070】
以下において、上記した90度ピール接着力の測定条件について、より詳細に説明する。
まず、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる厚み25μm、幅25mmの基材の片面に、測定対象となる粘着剤組成物からなる厚み150μmの粘着剤層を形成して、幅25mmの粘着シート(試験片)を用意する。
【0071】
また、日本テストパネル株式会社製のスレート標準板、製品名「JIS A5430(FB)」(以下、スレート板ともいう)で、厚み3mm、幅30mm、長さ125mmのサイズのものを用意する。このスレート板の光沢面を使用する。このスレート板の重量を、「水中に浸漬前のスレート板の重量」と規定する。つづいて、用意したスレート板を水中に浸漬させた状態で、超音波脱気装置(ヤマト科学株式会社製のBRANSON3510)で1時間脱気し、1晩静置して、水中から取り出す。この時点でのスレート板の重量を、「水中に浸漬、脱気後のスレート板の重量」と規定する。このようにして、含水率を12%(重量%)としたスレート板を用意する。
ここで、スレート板の含水率は、下記のようにして算出することができる。
スレート板の含水率(重量%)=〔{(水中に浸漬、脱気後のスレート板の重量)-(水中に浸漬前のスレート板の重量)}/(水中に浸漬前のスレート板の重量)〕×100
【0072】
つづいて、含水率12%のスレート板の表面(湿潤面)に、用意した幅25mmの粘着シート(試験片)を2kgローラーで1往復して圧着して貼付した直後に、水中に浸漬し、23℃で24時間静置する。その後、粘着シート(試験片)が貼着されたスレート板を水中から取り出し、引張試験機(ミネベア株式会社製のテクノグラフTG-1kN)を用いて、スレート板に対する、剥離温度23℃、剥離速度100mm/minでの90度ピール接着力(N/25mm)を測定する。
【0073】
上記した90度ピール接着力は、好ましくは5N/25mm以上であり、より好ましくは6N/25mm以上であり、さらに好ましくは8N/25mm以上である。該90度ピール接着力が5N/25mm以下であると、接着力が低い可能性がある。したがって、粘着剤を被着体に貼付後、水中での湿気硬化が完了するまでの間に、被着体側から浸入してきた水や気泡により、被着体と粘着剤との間に隙間が生じる可能性があり、また粘着剤が被着体から剥離する可能性がある。
【0074】
本実施形態の粘着剤層は、上記の粘着剤組成物を用いて形成される。形成方法としては、特に限定されるものではなく、公知の方法を採用することができるが、下記の粘着シートの製造方法に準じて行うことができる。なお、粘着剤層中における各成分量の好ましい範囲は、粘着剤組成物中の溶媒を除いた各成分量の好ましい範囲と同様である。
【0075】
粘着剤層は、例えば、粘着剤組成物を公知の塗工方法を用いて後述する基材に塗布し、乾燥させて、粘着シートの形態として得ることができる。また、剥離性を有する表面に粘着剤組成物を塗布して乾燥または硬化させることにより該表面上に粘着剤層を形成した後、その粘着剤層を非剥離性の基材に貼り合わせて転写させてもよい。粘着剤組成物を基材に塗布する方法は、特に制限されず、例えば、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター、ファウンテンダイコーター、クローズドエッジダイコーター等を用いて行うことができる。また、混練・押出塗工などの無溶剤塗工法を適用してもよい。
【0076】
また、粘着剤層は、粘着剤組成物を剥離シート(剥離面を備えるシート状基材であってもよい。)に塗布して粘着剤層を形成してもよい。
【0077】
乾燥後の粘着剤層の厚みは特に制限されないが、凹凸面を有する被着体に対して良好な追従性を発揮させる観点からは、5~1000μmであることが好ましく、10~500μmであることがより好ましい。乾燥温度は、例えば、50~150℃とすることができる。
【0078】
粘着剤層の被着体に貼付する面(貼付面)においては、吸水性材料が、貼付面の表面積の0.5~80%(より好ましくは1~70%)において露出していることが好ましい。粘着剤層の貼付面の表面積に占める吸水性材料の割合が0.5%以上であれば、被着体の湿潤面の水分を良好に吸水することができる。また、粘着剤層の貼付面の表面積に占める吸水性材料の割合が80%以下であれば、粘着剤層が被着体に対して良好に接着できる。
【0079】
本実施形態の粘着シートは、上記の粘着剤層を有する。
【0080】
本実施形態の粘着シートは、粘着剤層をシート状基材(支持体)の片面又は両面に有する形態の基材付き粘着シートであってもよく、粘着剤層が剥離シートに保持された形態等の基材レスの粘着シートであってもよい。ここでいう粘着シートの概念には、粘着テープ、粘着ラベル、粘着フィルム等と称されるものが包含され得る。
【0081】
なお、粘着剤層は典型的には連続的に形成されるが、かかる形態に限定されるものではなく、例えば、点状、ストライプ状等の規則的あるいはランダムなパターンに形成された粘着剤層であってもよい。また、本実施形態の粘着シートは、ロール状であってもよく、枚葉状であってもよい。あるいは、さらに種々の形状に加工された形態の粘着シートであってもよい。
【0082】
基材を形成する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体等のポリオレフィン系フィルム;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系フィルム;ポリ塩化ビニル等のプラスチックフィルム;クラフト紙、和紙等の紙類;綿布、スフ布等の布類;ポリエステル不織布、ビニロン布織布等の布織布類;金属箔が挙げられる。また、基材の厚みは特に限定されない。
【0083】
前記プラスチックフィルム類は、無延伸フィルムであってもよいし、延伸(一軸延伸又は二軸延伸)フィルムであってもよい。また、基材の粘着剤層が設けられる面には、下塗り剤の塗布、コロナ放電処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0084】
本実施形態においては、粘着シートに穿孔して貫通孔を設けてもよい。このようにすれば、粘着シートを被着体に張り付けた際に、被着体の湿潤面の水分が貫通孔を通じて粘着シートの背面側(貼付面とは反対側)に抜けることができるため、被着体の湿潤面における水分をより多く除去することができる。
【0085】
本実施形態の粘着シートにおいては、使用時まで粘着剤層が剥離ライナー(セパレータ、剥離フィルム)により保護されていてもよい。また、剥離ライナーによる保護は、粘着剤組成物(粘着剤層)中の未反応状態の湿気硬化性成分の未反応状態を維持するためにも有用である。
【0086】
剥離ライナーとしては、慣用の剥離紙などを使用でき、特に限定されないが、例えば、剥離処理層を有する基材、フッ素系ポリマーからなる低接着性基材、無極性ポリマーからなる低接着性基材などを用いることができる。剥離処理層を有する基材としては、例えば、シリコーン系、長鎖アルキル系、フッ素系、硫化モリブデン等の剥離処理剤により表面処理されたプラスチックフィルムや紙等が挙げられる。フッ素系ポリマーからなる低接着性基材のフッ素系ポリマーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、クロロフルオロエチレン・フッ化ビニリデン共重合体等が挙げられる。無極性ポリマーからなる低接着性基材の無極性ポリマーとしては、例えば、オレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなど)等が挙げられる。なお、剥離ライナーは公知乃至慣用の方法により形成することができる。また、剥離ライナーの厚さ等も特に制限されない。
【0087】
本態様に係る粘着剤組成物、該粘着剤組成物からなる粘着剤層または該粘着剤層を備える粘着シート中において、湿気硬化性成分は未反応状態で含有されている。ここで、未反応状態とは、水(水分や湿気)による硬化反応を生じていない状態を表す。なお、本態様において、湿気硬化性成分は、その全部が未反応状態であることが好ましいが、本発明の効果を奏する限りにおいて、その一部が反応状態となっていてもよく、この場合も、本態様における湿気硬化性成分が未反応状態で含有されていることに包含される。
【0088】
湿気硬化成分の粘着剤組成における未反応状態の湿気硬化成分の割合(未反応率)は、例えば、湿気硬化性成分としてイソシアネート化合物を用いる場合であれば、以下のようにして測定できる。
まず、作製直後の粘着シート(粘着剤層)の赤外分光測定から得られるイソシアネート基由来の2275cm-1における吸光度とベースポリマーのメチレン基由来の2250-2255cm-1における吸光度の比を算出する。ここで、吸光度比とは、上記メチレン基由来の吸光度に対する上記イソシアネート基由来の吸光度の比(イソシアネート基由来の吸光度/メチレン基由来の吸光度)である。また、貼付け直前の粘着シート(粘着剤層)の赤外分光測定から得られる吸光度比を同様にして算出し、これらの変化率から、湿気硬化性成分(イソシアネート化合物)の未反応率を算出する。具体的には、以下の関係式から算出される。
湿気硬化性成分(イソシアネート化合物)の未反応率(%)={(貼付直前の粘着シートの吸光度比)/(作製直後の粘着シートの吸光度比)}×100
【0089】
なお、湿気硬化性成分として、イソシアネート化合物を用いる場合、イソシアネート化合物とベースポリマーの組み合わせによっては、イソシアネート化合物の一部でベースポリマーを予め架橋させてもよい。このようにすれば、接着力を向上できる場合がある。
【0090】
本実施形態の粘着剤組成物、粘着剤層並びに粘着シート(粘着剤組成物等)は、粘着剤組成物等の中の未反応状態の湿気硬化性成分の未反応状態を保持するために、周囲の水(水分や湿気)の影響を低減ないし遮断しておくことが好ましい。例えば、本実施形態の粘着シートは、適宜な包装体で包装されていてもよい。包装体の材料としては、アルミニウム製の防湿袋等が例示されるが、これに限定されるものではない。また、包装体内部の雰囲気は、空気であってもよいが、窒素やアルゴン等の不活性ガス等で置換されていてもよい。また、包装体内部にはシリカゲル等の乾燥剤を同梱してもよい。
【0091】
本実施形態の粘着シートが貼付される被着体としては、特に限定されないが、粘着剤組成物(粘着剤層)中の未反応状態の湿気硬化性成分と化学結合しうるものが好ましい。例えば、コンクリート、モルタル、アスファルト、金属、木材、タイル、塗膜面や浴室の内壁等のプラスチック材などの他、皮膚、骨、歯、生体内部などが挙げられる。
【実施例
【0092】
以下、本発明の実施の形態について、実施例を用いてより詳細に説明する。
【0093】
[実施例1~6及び比較例1~3]
<粘着シートの作製>
(実施例1)
アクリル酸2-エチルヘキシル98重量部とアクリル酸2重量部の共重合体(アクリル系ポリマー1)を溶媒としての酢酸エチルで希釈した溶液を用意した。
このアクリル系ポリマー1の溶液に、湿気硬化性成分としての未反応状態のイソシアネート化合物(三井化学株式会社製のタケネートM-631N)、吸水性材料(クラレトレーディング株式会社製のKIゲル 201K-F2)、及びタッキファイヤー(液状完全水添ロジンメチルエステル樹脂、丸善石油化学株式会社製のM-HDR)を、粘着剤組成物中の溶媒を除く成分の全量に対する各成分割合が表1に記載された割合となるように配合して、粘着剤組成物の塗工液を作製した。
剥離ライナーとして、片面が剥離処理された剥離面となっているポリエステル製剥離フィルム(商品名「ダイアホイルMRF」、厚さ38μm、三菱ポリエステル株式会社製)を用意した。この剥離ライナーの剥離面に、粘着剤組成物の塗工液を塗布し、80℃で5分間乾燥させたのち、130℃でさらに30分乾燥させ、厚さ150μmの粘着剤層を形成した。上記の剥離ライナー上に形成された粘着剤層の他面を、厚さ25μmの基材フィルムに貼り合わせて、片面粘着シートを作製した。基材フィルムとしては、東レ株式会社製のPETフィルム(樹脂フィルム)、商品名「ルミラーS-10」を使用した。このようにして作製した粘着シートを幅25mm、長さ10cmになるように切断し、後述する90°ピール接着力測定を行った。なお、実施例1で作製した粘着シートは、湿気硬化性成分の未反応状態を維持するために、後述する接着力測定の前まで、アルミニウム製の防湿袋にシリカゲルと共に封入しておいた。
【0094】
なお、上記と同様の粘着シートは、PETフィルムに粘着剤組成物の塗工液を乾燥後の厚みが150μmとなるように塗布、乾燥させて粘着剤層を形成した後、粘着剤層上に剥離ライナーを積層することでも形成しうる。
【0095】
(実施例2)
湿気硬化性成分として、未反応状態のイソシアネート化合物(三井化学株式会社製のタケネートD120)を使用し、粘着剤組成物中の溶媒を除く成分の全量に対する各成分割合が表1に記載された割合となるように配合比率を変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2の粘着シートを作製した。なお、実施例2で作製した粘着シートは、湿気硬化性成分の未反応状態を維持するために、後述する接着力測定の前まで、アルミニウム製の防湿袋にシリカゲルと共に封入しておいた。
【0096】
(実施例3)
湿気硬化性成分として、未反応状態のイソシアネート化合物(東ソー株式会社製のコロネートHL)を使用し、粘着剤組成物中の溶媒を除く成分全量に対する各成分割合が表1に記載された割合となるように配合比率を変更した以外は実施例1と同様にして、実施例3の粘着シートを作製した。なお、実施例3で作製した粘着シートは、湿気硬化性成分の未反応状態を維持するために、後述する接着力測定の前まで、アルミニウム製の防湿袋にシリカゲルと共に封入しておいた。
【0097】
(実施例4)
湿気硬化性成分として未反応状態のイソシアネート化合物(旭化成株式会社製のデュラネートMFA-75)を使用し、粘着剤組成物中の溶媒を除く成分全量に対する各成分割合が表1に記載された割合となるように配合比率を変更した以外は実施例1と同様にして、実施例4の粘着シートを作製した。なお、実施例4で作製した粘着シートは、湿気硬化性成分の未反応状態を維持するために、後述する接着力測定の前まで、アルミニウム製の防湿袋にシリカゲルと共に封入しておいた。
【0098】
(実施例5)
湿気硬化性成分として未反応状態のイソシアネート化合物(東ソー株式会社製のコロネートL)を使用し、粘着剤組成物中の溶媒を除く成分全量に対する各成分割合が表1に記載された割合となるように配合比率を変更した以外は実施例1と同様にして、実施例5の粘着シートを作製した。なお、実施例5で作製した粘着シートは、湿気硬化性成分の未反応状態を維持するために、後述する接着力測定の前まで、アルミニウム製の防湿袋にシリカゲルと共に封入しておいた。
【0099】
(実施例6)
ベースポリマーを含む溶液として、アクリル酸ブチル100重量部とアクリル酸5重量部の共重合体を溶媒としての酢酸エチルで希釈したアクリル系ポリマー2を含む溶液を用意し、湿気硬化性成分として、未反応状態のアルコキシシリル基含有ポリマー(株式会社カネカ製のサイリルSAX510及びサイリルSAT145)及び未反応状態のイソシアネート化合物(東ソー株式会社製のコロネートL)を使用し、また、タッキファイヤーとしてハリタックPCJ(重合ロジンエステル、ハリマ化成株式会社製)を使用し、粘着剤組成物中の溶媒を除く成分全量に対する各成分割合が表1に記載された割合となるように配合比率を変更した以外は実施例1と同様にして、実施例6の粘着シートを作製した。なお、実施例6で作製した粘着シートは、湿気硬化性成分の未反応状態を維持するために、後述する接着力測定の前まで、アルミニウム製の防湿袋にシリカゲルと共に封入しておいた。
【0100】
(比較例1)
ベースポリマーを含む溶液として、アクリル酸ブチル100重量部とアクリル酸5重量部の共重合体を酢酸エチルで希釈したアクリル系ポリマー2を含む溶液を用意した。
この溶液に、湿気硬化性成分としての未反応状態のイソシアネート化合物(東ソー株式会社製のコロネートL)を、粘着剤組成物中の固形分全量に対する各成分割合が表1に記載された割合となるように配合して、粘着剤組成物の塗工液を作製した。なお、本比較例の粘着剤組成物には、吸水性材料及びタッキファイヤーは使用しなかった。
剥離ライナーとして、片面が剥離処理された剥離面となっているポリエステル製剥離フィルム(商品名「ダイアホイルMRF」、厚さ38μm、三菱ポリエステル株式会社製)を用意した。この剥離ライナーの剥離面に、粘着剤組成物の塗工液を塗布し、80℃で5分間乾燥させたのち、130℃でさらに30分乾燥させ、厚さ150μmの粘着剤層を形成した。上記の剥離ライナー上に形成された粘着剤層の他面を、厚さ25μmの基材フィルムに貼り合わせて、片面粘着シートを作製した。基材フィルムとしては、東レ株式会社製のPETフィルム(樹脂フィルム)、商品名「ルミラーS-10」を使用した。このようにして作製した粘着シートを幅25mm、長さ10cmになるように切断した。さらに、作製した粘着シートを40℃/90%RH環境下で防湿梱包をせずに48時間エージングすることにより、粘着剤組成物(粘着剤層)中の湿気硬化性成分を全て反応状態とさせた後に、後述する90°ピール接着力測定を行った。
【0101】
(比較例2)
湿気硬化性成分として未反応状態のイソシアネート化合物(三井化学株式会社製のタケネートM-631)を使用し、粘着剤組成物中の溶媒を除く成分全量に対する各成分割合が表1に記載された割合となるように配合比率を変更した以外は実施例1と同様にして、比較例2の粘着シートを作製した。さらに、作製した粘着シートを40℃/90%RH環境下で防湿梱包をせずに48時間エージングすることにより、粘着剤組成物(粘着剤層)中の湿気硬化性成分を全て反応状態とさせた後に、後述する90°ピール接着力測定を行った。
【0102】
(比較例3)
湿気硬化性成分として未反応状態のイソシアネート化合物(三井化学株式会社製のタケネートM-631)を使用し、粘着剤組成物中の溶媒を除く成分全量に対する各成分割合が表1に記載された割合となるように配合比率を変更した以外は実施例1と同様にして、比較例3の粘着シートを作製した。なお、本比較例の粘着剤組成物には、吸水性材料は使用しなかった。また、比較例3で作製した粘着シートは、湿気硬化性成分の未反応状態を維持するために、後述する90度ピール接着力測定の前まで、アルミニウム製の防湿袋にシリカゲルと共に封入しておいた。
【0103】
<湿潤面に対する90度ピール接着力の測定>
日本テストパネル株式会社製のスレート標準板、製品名「JIS A5430(FB)」(以下、スレート板ともいう)で、厚み3mm、幅30mm、長さ125mmのサイズのスレート板を用意した。このスレート板の光沢面を使用した。このスレート板の重量を測定し、「水中に浸漬前のスレート板の重量」と規定した。
つづいて、用意したスレート板を水中に浸漬させた状態で、超音波脱気装置(ヤマト科学株式会社製のBRANSON3510)で1時間脱気し、1晩静置して、水中から取り出した。この時点でのスレート板の重量を測定し、「水中に浸漬、脱気後のスレート板の重量」と規定した。
測定した「水中に浸漬前のスレート板の重量」及び「水中に浸漬、脱気後のスレート板の重量」に基づき、以下の式よりスレート板の含水率を算出したところ、12%(重量%)であった。
スレート板の含水率(重量%)=〔{(水中に浸漬、脱気後のスレート板の重量)-(水中に浸漬前のスレート板の重量)}/(水中に浸漬前のスレート板の重量)〕×100
【0104】
つづいて、含水率12%のスレート板の表面(湿潤面)に、剥離ライナーを剥離した粘着シート(試験片)を2kgローラーで1往復して圧着して貼付した直後に、水中に浸漬し、23℃で24時間静置した。その後、粘着シート(試験片)が貼着されたスレート板を水中から取り出し、引張試験機(ミネベア株式会社製のテクノグラフTG-1kN)を用いて、スレート板に対する、剥離温度23℃、剥離速度100mm/minでの90度ピール接着力(N/25mm)を測定した。これらの結果を表1に示す。
なお、測定された90度ピール接着力(N/25mm)の値が5N/25mm以上であれば、湿潤面に対する接着力が高いと評価できる。
【0105】
(初期弾性率の測定)
粘着剤組成物からなる粘着剤層をひも状に丸めた試料を作製し、この試料に対して引張試験機(株式会社島津製作所製のAG-IS)を用いて50mm/minの速度で引張ったときに測定される応力-ひずみ曲線から、粘着剤層の初期弾性率を算出した。より詳細には、以下のような手法により算出した。これらの結果を表1に示す。
【0106】
剥離ライナーとして、片面が剥離処理された剥離面となっているポリエステル製剥離フィルム(商品名「ダイアホイルMRF」、厚さ38μm、三菱ポリエステル株式会社社製)を用意した。剥離ライナーの剥離面に、粘着剤組成物の塗工液を塗布し、70℃で5分間乾燥後、120℃で10分間乾燥させ、厚さ150μmの粘着剤層を形成した。上記の剥離ライナー上に形成されたポリマー層の他面を、既に貼り合わせた剥離ライナーと同じ剥離ライナーの剥離面に貼り合わせて、両面が剥離ライナーにより保護された粘着剤層のシートを作製した。
得られた粘着剤層のシートを幅30mm、長さ20mmに切り出し、粘着剤層のみを長手方向に丸めてひも状に形成し、初期断面積3mmの試料を作製し、引張試験機(株式会社島津製作所製のAG-IS)を用いて、初期長さ10mmでセットし、引張速度50mm/minで引張ったときに測定される応力-ひずみ曲線から初期弾性率を算出した。
【0107】
【表1】
【0108】
粘着剤組成物(粘着剤層)中の湿気硬化性成分が貼付前から反応状態であり、かつ粘着剤組成物(粘着剤層)中に吸水性材料を含有していなかった比較例1の粘着シートでは、上記測定試験により測定された90度ピール接着力が0.3N/25mmと低かった。
また、粘着剤組成物(粘着剤層)中の湿気硬化性成分が貼付前から反応状態であった比較例2の粘着シートでは、上記測定試験により測定された90度ピール接着力が0.4N/25mmと低かった。
また、粘着剤組成物(粘着剤層)中に吸水性材料を含有していなかった比較例3の粘着シートでは、上記測定試験により測定された90度ピール接着力が3.9N/25mmと低かった。
【0109】
一方、実施例1-6の粘着シートは、上記測定試験により測定された90度ピール接着力がいずれも5N/25mm以上であり、湿潤面に対する高い接着力を有していた。
【0110】
なお、実施例5の粘着シートについて、防湿梱包をした上で常温で30日間エージングした後、上記測定試験と同様の手順で90度ピール接着力(N/25mm)を測定したところ、13.1N/25mmと、エージング前の90度ピール接着力(N/25mm)よりも接着力が向上していることが確認された。なお、30日間エージングした後の粘着シートにおける粘着剤組成物(粘着剤層)中のイソシアネート化合物の一部が未反応状態であることを、イソシアネート化合物の反応率の測定結果より別途確認した。
また、実施例5の粘着剤組成物からなる粘着剤層について、防湿梱包をした上で常温で30日間エージングしたものの弾性率を測定したところ、14.9kPaであった。
これは、粘着剤中に含まれていた水によってイソシアネート化合物の湿気硬化反応が進行したが、湿潤接着に好ましい弾性率の範囲であり、また、一部の未反応状態であるイソシアネート化合物が存在するために湿潤接着効果が得られたと考えられる。
【0111】
[実施例7~9]
<粘着シートの作製>
(実施例7)
ベースポリマーとしての高分子量のポリイソブチレン重合体(BASF社製のオパノールN80、以下においてゴム系ポリマー1ともいう)、低分子量のポリイソブチレン重合体(JXTGエネルギー株式会社製テトラックス5T、以下においてゴム系ポリマー2ともいう)及び液状ポリブテン(JXTGエネルギー株式会社製HV-300、ゴム改質成分)を溶媒としてのトルエンに溶解させた。
この溶液に、湿気硬化性成分としての未反応状態のヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)(BASF社製のバソナットHA2000)、吸水性材料(クラレトレーディング株式会社製のKIゲル 201K-F2)、タッキファイヤー(石油樹脂、EMGマーケティング合同会社製のエスコレッツ1202U)及び充填剤としての重質炭酸カルシウム(丸尾カルシウム株式会社製)を、粘着剤組成物中の溶媒を除く成分全量に対する各成分割合が表2に記載された割合となるように配合して、粘着剤組成物の塗工液を作製した。
剥離ライナーとして、片面が剥離処理された剥離面となっているポリエステル製剥離フィルム(商品名「ダイアホイルMRF」、厚さ38μm、三菱ポリエステル株式会社製)を用意した。この剥離ライナーの剥離面に、粘着剤組成物の塗工液を塗布し、80℃で5分間乾燥させたのち、130℃でさらに30分乾燥させ、厚さ150μmの粘着剤層を形成した。上記の剥離ライナー上に形成された粘着剤層の他面を、厚さ25μmの基材フィルムに貼り合わせて、片面粘着シートを作製した。基材フィルムとしては、東レ株式会社製のPETフィルム(樹脂フィルム)、商品名「ルミラーS-10」を使用した。このようにして作製した粘着シートを幅25mm、長さ10cmになるように切断し、後述する90°ピール接着力測定を行った。
なお、実施例7で作製した粘着シートは、湿気硬化性成分の未反応状態を維持するために、後述する接着力測定の前まで、アルミニウム製の防湿袋にシリカゲルと共に封入しておいた。
【0112】
(実施例8)
粘着剤組成物中の溶媒を除く成分全量に対する各成分割合が表2に記載された割合となるように配合比率を変更した以外は実施例7と同様にして、実施例8の粘着シートを作製した。なお、実施例8で作製した粘着シートは、湿気硬化性成分の未反応状態を維持するために、後述する接着力測定の前まで、アルミニウム製の防湿袋にシリカゲルと共に封入しておいた。
【0113】
(実施例9)
ベースポリマーとしてゴム系ポリマー1を用い、粘着剤組成物中の溶媒を除く成分全量に対する各成分割合が表2に記載された割合となるように配合比率を変更した以外は実施例7と同様にして、実施例9の粘着シートを作製した。なお、実施例9で作製した粘着シートは、湿気硬化性成分の未反応状態を維持するために、後述する接着力測定の前まで、アルミニウム製の防湿袋にシリカゲルと共に封入しておいた。
【0114】
<湿潤面に対する90度ピール接着力の測定>
日本テストパネル株式会社製のスレート標準板、製品名「JIS A5430(FB)」(以下、スレート板ともいう)で、厚み3mm、幅30mm、長さ125mmのサイズのものを用意した。このスレート板の光沢面を使用した。このスレート板を130℃で1時間乾燥させ、この時点でのスレート板の重量を測定し、「水中に浸漬前のスレート板の重量」と規定した。
つづいて、用意したスレート板を水中に浸漬させた状態で、超音波脱気装置(ヤマト科学株式会社製のBRANSON3510)で1時間脱気し、1晩静置して、水中から取り出した。この時点でのスレート板の重量を測定し、「水中に浸漬、脱気後のスレート板の重量」と規定した。
測定した「水中に浸漬前のスレート板の重量」及び「水中に浸漬、脱気後のスレート板の重量」に基づき、以下の式よりスレート板の含水率を算出したところ、25%(重量%)であった。
スレート板の含水率(重量%)=〔{(水中に浸漬、脱気後のスレート板の重量)-(水中に浸漬前のスレート板の重量)}/(水中に浸漬前のスレート板の重量)〕×100
【0115】
つづいて、含水率25%のスレート板の表面(湿潤面)に、剥離ライナーを剥離した粘着シート(試験片)を2kgローラーで1往復して圧着して貼付した直後に、水中に浸漬し、23℃で24時間静置した。その後、粘着シート(試験片)が貼着されたスレート板を水中から取り出し、引張試験機(ミネベア株式会社製のテクノグラフTG-1kN)を用いて、スレート板に対する、剥離温度23℃、剥離速度100mm/minでの90度ピール接着力(N/25mm)を測定した。これらの結果を表2に示す。
なお、測定された90度ピール接着力(N/25mm)の値が5N/25mm以上であれば、湿潤面に対する接着力が高いと評価できる。
【0116】
(初期弾性率の測定)
粘着剤組成物からなる粘着剤層をひも状に丸めた試料を作製し、この試料に対して引張試験機(株式会社島津製作所製のAG-IS)を用いて50mm/minの速度で引張ったときに測定される応力-ひずみ曲線から、粘着剤層の初期弾性率を算出した。より詳細には、実施例1~6及び比較例1~3と同様の手法により算出した。これらの結果を表2に示す。
【0117】
【表2】
【0118】
実施例7-9の粘着シートは、上記測定試験により測定された90度ピール接着力がいずれも5N/25mm以上であり、湿潤面に対する高い接着力を有していた。
【0119】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明は、上述した実施の形態に制限されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲において、上述した実施の形態に種々の変形及び置換を加えることができる。