(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】銅基合金
(51)【国際特許分類】
C22C 9/06 20060101AFI20221101BHJP
【FI】
C22C9/06
(21)【出願番号】P 2018043018
(22)【出願日】2018-03-09
【審査請求日】2020-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河崎 稔
(72)【発明者】
【氏名】杉山 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】福原 久雄
(72)【発明者】
【氏名】大島 正
(72)【発明者】
【氏名】加藤 元
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩司
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 卓
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-240924(JP,A)
【文献】特開平06-041660(JP,A)
【文献】特開2003-306732(JP,A)
【文献】特開2004-003036(JP,A)
【文献】特開昭63-313844(JP,A)
【文献】特開平08-225868(JP,A)
【文献】特開2002-194462(JP,A)
【文献】特開2017-036470(JP,A)
【文献】特開2017-155316(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0155011(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Ni:10.0~20.0%;Si:1.0~3.0%;Fe:5.0~10.0%;Mo、W及びVからなる群から選択される少なくとも1種
の合計含有量:8.0~10.0%;Mg:0.02~2.0%を含み、残部がCu及び
不可避不純物である銅基合金。
【請求項2】
質量%で、Ni:10.0~20.0%;Si:1.0~3.0%;Fe:5.0~10.0%;Mo、W及びVからなる群から選択される少なくとも1種の合計含有量:5.0~10.0%;Mg:0.02~2.0%;NbC:0.01~5.0%を含み、残部がCu及び不可避不純物である銅基合金。
【請求項3】
質量%で、Ni:10.0~20.0%;Si:0.5~3.0%;Fe:5.0~10.0%;Mo、W及びVからなる群から選択される少なくとも1種
の合計含有量:5.0~10.0%;Mg:0.02~1.0%;S:0.05~0.5%;Ti:0.1~1.0%を含み、残部がCu及び
不可避不純物である銅基合金。
【請求項4】
肉盛用合金として用いられる、請求項1~
3のいずれか1項に記載の銅基合金。
【請求項5】
肉盛部を構成している、請求項1~
3のいずれか1項に記載の銅基合金。
【請求項6】
内燃機関用の動弁系部材又は摺動部材に用いられる、請求項1~
5のいずれか1項に記載の銅基合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅基合金に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材の表面加工処理として、耐摩耗性、耐熱性、耐食性等を向上させる目的で、これらの特性に優れた材料をアルミニウム系等の基材表面に肉盛する技術が利用されている。機械部材は、部位によって要求される機械的特性が異なる。例えば、内燃機関(以下、エンジンともいう)のシリンダーヘッドやエンジンブロックは、摺動部において高耐摩耗性等が要求される。ここで、シリンダーヘッドの吸排気ポート周縁部に設けられ、緩やかに回転する吸排気バルブの傘部外局縁部と当接を繰り返すバルブシートがある。吸気側バルブシートは、高速で流入する空気や多様な燃料成分を含む混合気に曝され、排気側バルブシートは高速で流出する高温燃焼ガスに曝される。このような過酷な環境下でも、バルブシートには、高い耐摩耗性(特に耐凝着摩耗性)や潤滑性等が要求される。レーザークラッド法を用いた肉盛により形成される肉盛り式バルブシートによれば、吸排気ポート径の拡大等のみならず、バルブシート自体の熱伝導性向上やシリンダーヘッド側のウォータージャケットとの距離短縮等による動弁系周辺の冷却性向上も可能となる。
【0003】
特許文献1-4には、そのような肉盛部又はその原料粉末に適した特性を有する銅基合金が開示されている。例えば特許文献1には、モリブデン等と炭化ニオブを含み、クロムの含有量が重量%で1.0%未満であり、マトリックスとマトリックスに分散した硬質粒子とを備えており、硬質粒子が炭化ニオブとその周辺にNb-C-Mo等とを含む、耐摩耗性銅基合金が記載され、特許文献1によれば、クロムの含有量を特定量未満とすることにより金属表面に炭化ニオブとモリブデン等から形成される酸化膜が形成されやすくなり、優れた耐摩耗性が得られることが記載されている。しかしながら、アルミニウム合金基材等に対してレーザー肉盛を行った際に肉盛部の基材への溶着性が低い場合、溶着性を上げるため、レーザークラッド条件の高出力及び低速化が生じるという問題があった。よって、レーザーにより肉盛部を形成する原料粉末は、優れた耐摩耗性を維持しつつ、さらにアルミニウム合金等の基材への溶着性を向上させることが望ましい。
【0004】
このように、従来の銅基合金は耐摩耗性を維持しつつ基材への溶着性を向上させるという観点から十分な特性を有しておらず、よってさらなる改良が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-36470号公報
【文献】特開平4-297536号公報
【文献】特開平8-225868号公報
【文献】特許第4114922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、基材に対して優れた溶着性を有し、かつ十分な耐摩耗性を有する銅基合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、Cu(銅)、Ni(ニッケル)、Si(シリコン)、Fe(鉄)、Mg(マグネシウム)、並びにMo(モリブデン)、W(タングステン)及びV(バナジウム)からなる群から選択される少なくとも1種(以下、Mo等ともいう)を含む銅基合金において、Mgを特定量以上で添加することにより、耐摩耗性を維持しつつ、さらに基材への溶着性を向上させることができることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]Cu、Ni、Si、Fe、Mg、並びにMo、W及びVからなる群から選択される少なくとも1種を含む銅基合金であって、
Mgの含有量が0.02質量%以上である、上記銅基合金。
[2]質量%で、Ni:5.0~30.0%;Si:0.5~5.0%;Fe:2.0~20.0%;Mo、W及びVからなる群から選択される少なくとも1種:3.0~20.0%;Mg:0.02~5.0%を含み、残部がCu及び不可避不純物である、上記[1]に記載の銅基合金。
[3]質量%で、Ni:5.0~30.0%;Si:0.5~5.0%;Fe:3.0~20.0%;Mo、W及びVからなる群から選択される少なくとも1種:3.0~20.0%;Mg:0.02~2.0%を含み、残部がCu及び不可避不純物である、上記[1]又は上記[2]に記載の銅基合金。
[4]質量%で、Ni:10.0~20.0%;Si:1.0~5.0%;Fe:2.0~15.0%;Mo、W及びVからなる群から選択される少なくとも1種:8.0~10.0%;Mg:0.02~5.0%を含み、残部がCu及び不可避不純物である、上記[1]又は上記[2]に記載の銅基合金。
[5]質量%で、Ni:5.0~20.0%;Si:0.5~5.0%;Fe:3.0~20.0%;Mo、W及びVからなる群から選択される少なくとも1種:3.0~20.0%;Mg:0.02~5.0%を含み、残部がCu及び不可避不純物である、上記[1]又は上記[2]に記載の銅基合金。
[6]肉盛用合金として用いられる、上記[1]~[5]のいずれかに記載の銅基合金。
[7]肉盛部を構成している、上記[1]~[5]のいずれかに記載の銅基合金。
[8]内燃機関用の動弁系部材又は摺動部材に用いられる、上記[1]~[7]のいずれかに記載の銅基合金。
【発明の効果】
【0009】
本発明の銅基合金は、基材に対して優れた溶着性を有し、かつ十分な耐摩耗性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、基材と肉盛層との間の界面近傍に生じた未溶着部を示す縦断面図である。
【
図2A】
図2Aは、実施例1-4及び比較例1の銅基合金の溶着性試験の結果を示すグラフである。
【
図2B】
図2Bは、実施例5-8及び比較例2の銅基合金の溶着性試験の結果を示すグラフである。
【
図2C】
図2Cは、実施例10-11及び比較例3の銅基合金の溶着性試験の結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、肉盛層を有する試験片に対して耐摩耗性試験を行っている状態を模式的に示す図である。
【
図4A】
図4Aは、実施例1-3及び比較例1の銅基合金の引張り強度試験の結果を示すグラフである。
【
図4B】
図4Bは、実施例5-7及び比較例2の銅基合金の引張り強度試験の結果を示すグラフである。
【
図4C】
図4Cは、実施例10-11及び比較例3の銅基合金の引張り強度試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、Cu、Ni、Si、Fe、Mg、並びにMo、W及びVからなる群から選択される少なくとも1種を含む銅基合金に関し、Mgの含有量が0.02質量%以上であることを特徴とする(以下、本発明の銅基合金ともいう)。本発明の銅基合金は、Cu、Ni、Si、Fe、Mg、並びにMo等を含む銅基合金において、特定量のMgが添加されているため、肉盛中のMgによる基材表面の酸化膜破壊作用により、基材に対して優れた溶着性を有し、かつ十分な耐摩耗性を有する。
【0012】
本発明の銅基合金は、特定の必須元素を含むと共に特定量のMgが添加されており、これによりアルミニウム合金等の基材表面に存在する表面酸化膜が破壊されて基材への溶着性が向上し、同時に、Mgが銅基マトリックス強化元素として有効に作用することから耐摩耗性が維持されると考えられる。溶着性の向上又は摩耗特性の向上のために以下のような手段を採用することも考えられるが、いずれにおいても基材に対する溶着性の向上と摩耗特性の向上はむしろ相反し、基材に対する溶着性の向上を図ると摩耗特性は低下してしまうため、Mgの添加により優れた溶着性を有し、かつ十分な耐摩耗性を維持できるという本発明の効果は驚くべきものであるといえる。具体的には、NiSi及びNiB等の低融点共晶を用いて基材の表面酸化物を破壊することにより溶着性の向上又は確保を行う場合、このような共晶のみで表面酸化物を十分に破壊するには限界がある。一方、摩耗特性向上には、潤滑特性や耐すべり特性の向上が必要である。潤滑特性向上のためにP、BやS等の元素を添加した場合、ヒューム発生や毒性の問題からレーザー肉盛に用いるには適しておらず、また粉末とすることが困難である。また耐すべり摩耗特性の向上のために硬質粒子のサイズを大きくした場合、銅基合金の被削性やクラッド性(ワレ性)が低下するという問題が生じる。このため、銅基マトリックス強化元素としてMn、Al等を添加することも検討されてきたが、いずれの元素もクラッド性とトレードオフの関係にある。また、これらの元素はいずれも銅基合金粉末の微細化効果を有し、よって摩耗特性はむしろ低下してしまう。
【0013】
Mgは、本発明の銅基合金に、必須成分として0.02質量%以上の含有量で含まれる。Mgの含有量は、耐摩耗性の維持及び基材に対する溶着性の向上を両立させる観点から、例えば、5.0質量%以下、2.0質量%以下、1.6質量%以下、1.0質量%以下、0.50質量%以下、0.30質量%以下又は0.25質量%以下であることができる。
【0014】
本明細書でいう「銅基合金」は、その合金全体中でCuが他の元素よりも多いことを意味する。また銅基マトリックスは、そのマトリックス全体中でCuが他の元素よりも多いことを意味する。
【0015】
本明細書でいう「x~y」は下限値x及び上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値又は数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値又は上限値として「a~b」のような範囲を新設することができる。
【0016】
本発明の銅基合金は、種々の改質元素(例えば、合計で5質量%以下、さらには2質量%以下、特には1質量%以下)や技術的又はコスト的に除去困難な元素を不可避不純物として含む。尚、本明細書でいう成分組成に関する「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
【0017】
本発明の銅基合金は、肉盛前と肉盛後の両方を含む。例えば、肉盛用合金は、肉盛に供される原料粉末でもよいし、肉盛されて銅基マトリックス中に硬質粒子が分散した金属組織を有する肉盛部でもよい。
【0018】
本明細書でいう「硬質粒子」は、銅基マトリックスよりも硬さが高い粒子という意味であるが、適宜、分散粒子と換言してもよい。
【0019】
本発明の銅基合金の組成について、各元素の選択及び割合は、肉盛部に要求される特性又は組織に応じて調整されるが、例えば、下記のような組成が好ましい。尚、ここで述べる組成は、銅基合金全体を100質量%とする。
【0020】
本発明の銅基合金は、耐摩耗性の維持及び基材に対する溶着性の向上を両立させる観点から、質量%で、Ni:5.0~30.0%;Si:0.5~5.0%;Fe:2.0~20.0%;Mo、W及びVからなる群から選択される少なくとも1種:3.0~20.0%;Mg:0.02~5.0%を含み、残部がCu及び不可避不純物であることが好ましい。本発明の銅基合金は、同様の観点から、質量%で、Ni:5.0~20.0%;Si:1.0~3.5%;Fe:4.0~15.0%;Mo、W及びVからなる群から選択される少なくとも1種:3.0~15.0%;Mg:0.02~2.0%を含み、残部がCu及び不可避不純物であることがさらに好ましい。
【0021】
Niは、好ましくは5.0~30.0%、さらに好ましくは5.0~20.0%、特に好ましくは10.0~18.0%である。Niは一部が銅に固溶して銅基のマトリックスの靱性を高め、他の一部はNiを主要成分とする硬質なシリサイド(珪化物)を形成して分散され、耐摩耗性を高める。Niは、Fe、Mo等と共に硬質粒子の硬質相を形成する。Niは、銅-ニッケル系合金の有する特性、特に良好な耐食性、耐熱性及び耐摩耗性を確保し、また十分な硬質粒子を生成させることにより靱性を確保し、肉盛部としたときにワレを発生しにくくし、さらに肉盛する場合に対象物に対する肉盛性を維持する。Niが過少ではマトリックス強度向上の効果が乏しく、Niが過多になると硬質粒子が微細化するため耐摩耗性が低下する。
【0022】
Siは、好ましくは0.5~5.0%、さらに好ましくは1.0~3.5%、特に好ましくは1.5~3.0%である。Siはシリサイド(珪化物)を形成する元素であり、Niを主要成分とするシリサイド、又は、Mo(又はW、V)を主要成分とするシリサイドを形成し、さらに銅基のマトリックスの強化に寄与する。ニッケルシリサイドが少ない場合、基材への溶着性が低下する。また、Mo(又はW、V)を主要成分とするシリサイドは、本発明の銅基合金の高温潤滑性を維持する働きがある。Siは、十分な硬質粒子を生成させることにより靱性を確保し、肉盛部としたときにワレを発生しにくくし、さらに肉盛する場合に対象物に対する肉盛性を維持する。Siが過少ではこれらの効果が乏しく、Siが過多になると硬質粒子の靭性が低下し、割れ発生を誘発する。
【0023】
Feは、好ましくは2.0~20.0%、さらに好ましくは4.0~15.0%、特に好ましくは5.0~10.0%である。Feは銅基のマトリックスにはほとんど固溶せず、主に、Fe-Mo系、Fe-W系又はFe-V系のシリサイドとして硬質粒子の形成に寄与する。Feが過少では硬質粒子の生成が不十分となり耐摩耗性が低下し、Feが過多になると硬質粒子は粗大化し、肉盛り性、被削性が低下する。
【0024】
Mo、W及びVからなる群から選択される少なくとも1種は、好ましくは3.0~20.0%、さらに好ましくは3.0~15.0%、特に好ましくは5.0~10.0%である。Mo等はSiと結合してシリサイド(靱性を有するFe-Mo系のシリサイド)を硬質粒子内に生成し、高温における耐摩耗性と潤滑性とを高める。このシリサイドはCo-Mo系のシリサイドよりも硬さが低く、靱性が高い。このようなシリサイドは硬質粒子内に生成し、高温における耐摩耗性と潤滑性とを高める。硬質粒子が過剰となり、靱性が損なわれ、耐割れ性が低下し、ワレが発生し易くなる。Mo等が過少ではこれらの効果が乏しく、Mo等が過多になると硬質粒子は粗大化し、肉盛り性、破削性が低下する。
【0025】
本発明の銅基合金は、Cr(クロム)を1.0~15.0%、さらには1.0~10.0%含んでよい。Crは、酸化膜形成により銅基合金の耐酸化性を高める。但し、Crは環境負荷の高い元素であるため、本発明の銅基合金はCrを実質的に含まないことも好ましく、例えばCr≦1%、さらにはCr<0.01%であることも好ましい。
【0026】
本発明の銅基合金は、Co(コバルト)を1.0~15.0%、さらには2.0~15.0%含んでよい。CoはNi、Fe、Cr等と固溶体を形成し、靱性を向上させる。Coの含有量が多い場合、ニッケルシリサイド組織にCoが入りこむことにより耐割れ性が低下する。またCoを含有することにより、耐熱性の向上を図ることができる。但し、Coは稀少元素で高価であり、資源リスクを伴うため、本発明の銅基合金はCoを実質的に含まないことも好ましく、例えばCo≦1%(例えば0.01~0.94%)、さらにはCo<0.01%であることも好ましい。
【0027】
本発明の銅基合金は、NbC(ニオブ炭化物)を0.01~5.0%、さらには0.3~3.0%含んでよい。NbCは、硬質粒子の核生成作用を有し、硬質粒子の微細化を図り、耐割れ性及び耐摩耗性を両立させるのに貢献できる。
【0028】
本発明の銅基合金の一実施形態は、質量%で、Ni:5.0~30.0%;Si:0.5~5.0%;Fe:3.0~20.0%;Mo、W及びVからなる群から選択される少なくとも1種:3.0~20.0%;Mg:0.02~2.0%を含み、残部がCu及び不可避不純物である(実施形態1)。本実施形態は、好ましくは、質量%で、Ni:10.0~20.0%;Si:1.0~3.0%;Fe:5.0~10.0%;Mo、W及びVからなる群から選択される少なくとも1種:5.0~10.0%;Mg:0.02~2.0%を含み、残部がCu及び不可避不純物である。本実施形態において、Cr:1.0%以下及びNbC:0.01~5.0%をさらに含んでいてもよい。
【0029】
本発明の銅基合金の別の一実施形態は、質量%で、Ni:10.0~20.0%;Si:1.0~5.0%;Fe:2.0~15.0%;Mo、W及びVからなる群から選択される少なくとも1種:8.0~10.0%;Mg:0.02~5.0%を含み、残部がCu及び不可避不純物である(実施形態2)。本実施形態は、好ましくは、質量%で、Ni:10.0~20.0%;Si:1.0~3.0%;Fe:5.0~10.0%;Mo、W及びVからなる群から選択される少なくとも1種:8.0~10.0%;Mg:0.02~2.0%を含み、残部がCu及び不可避不純物である。本実施形態において、Cr:1.0~10.0%及びCo:2.0~15.0%をさらに含んでいてもよい。
【0030】
本発明の銅基合金の別の一実施形態は、質量%で、Ni:5.0~20.0%;Si:0.5~5.0%;Fe:3.0~20.0%;Mo、W及びVからなる群から選択される少なくとも1種:3.0~20.0%;Mg:0.02~5.0%を含み、残部がCu及び不可避不純物である(実施形態3)。本実施形態は、好ましくは、質量%で、Ni:10.0~20.0%;Si:0.5~3.0%;Fe:5.0~10.0%;Mo、W及びVからなる群から選択される少なくとも1種:5.0~10.0%;Mg:0.02~1.0%を含み、残部がCu及び不可避不純物である。本実施形態において、肉盛部の被削性を向上させる観点から、S(硫黄):0.05~0.5%:Ti(チタン):0.1~1.0%をさらに含むことが好ましい。本実施形態において、Cr:1.0~15.0%及びCo:0.01~0.94%をさらに含んでいてもよい。
【0031】
本発明の銅基合金は、対象物に肉盛される肉盛用合金として用いることができる。本発明では肉盛部の形成過程を問わないが、例えば、レーザークラッド法により、所望の金属組織又は特性を有する肉盛部を形成することが可能となる。
【0032】
レーザークラッド法は、レーザービーム又は電子ビーム等の高密度エネルギー熱源を用いて、供給された肉盛合金素材(原料)を所定温度域で溶融し、その溶融液を基材表面で急冷凝固させて、所定の金属組織(急冷凝固組織)からなる肉盛部を形成する方法である。
【0033】
原斜として、ワイヤ材又は捧材を用いることも考えられるが、所望する金属組織を均一的又は安定的に形成する観点から、粉末を用いることが好ましい。このような原料粉末は、例えば、(ガス)アトマイズ法により得られる。アトマイズ粉末の構成粒子も本発明の肉盛用合金の一形態である。
【0034】
肉盛される対象物の材質としてはアルミニウム、アルミニウム系合金、鉄又は鉄系合金、銅又は銅系合金等が例示される。対象物を構成するアルミニウム合金の基本組成としては鋳造用のアルミニウム合金、例えば、Al-Si系、Al-Cu系、Al-Mg系、Al-Zn系等のいずれかを例示できる。対象物としては内燃機関等の機関が例示される。内燃機関の場合には動弁系材料が例示される。この場合には、排気ポートを構成するバルブシートに適用してもよく、また吸気ポートを構成するバルブシートに適用してもよい。この場合には、本発明の銅基合金でバルブシート自体を構成してもよく、また本発明の銅基合金をバルブシートに肉盛することにしてもよい。ただし、本発明の銅基合金は、内燃機関等の機関の動弁系材料に限定されるものではなく、耐摩耗性が要請される他の系統の摺動材料、摺動部材、焼結品にも使用できるものである。
【0035】
本発明の銅基合金は、基材に対する溶着性に優れ、下記「(1)溶着性試験」に記載される方法にて測定した溶着下限レーザー出力が、Mgを含まない場合を1として、好ましくは0.86以下である。
【0036】
本発明の銅基合金は、Mgを含有しない従来の銅基合金の耐摩耗性が維持されているか、又は改善されており、下記「(2)耐摩耗性試験」に記載される方法にて測定した摩耗量が、好ましくは6.5mg以下、さらに好ましくは4.5mg以下、特に好ましくは4.0mg以下である。
【0037】
本発明の銅基合金は、特に肉盛に用いるために十分な強度を有することができ、「(3)引張り強度試験」に記載される方法にて測定した破断強さが、Mgを含まない場合を1として、好ましくは1.05~1.45である。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例の範囲に限定されない。
【0039】
《試料の製造》
(1)基材
肉盛する基材として、アルミニウム合金(JIS AC2C)を用意した。基材の形状は、耐摩耗性試験及び溶着性試験については、リング状:(外径φ80mm×内径φ20mm×高さ50mm)とした。引張り強度試験はJIS Z2201(試験片形状13B号)及びJIS Z2241に準拠した。
【0040】
(2)原料粉末
原料粉末には、表1に示す成分組成(配合組成)を有するガスアトマイズ粉末を用意した。入手したガスアトマイズ粉末を節い分けにより分級した。こうして粒度:32~180μmに調整した粉末を肉盛に供した。
【0041】
【0042】
(3)肉盛
下記耐摩耗性試験及び引張り強度試験に用いる試料として、肉盛は、半導体レーザービーム(LD)を熱源とするレーザークラッド装置を用いて行った。
【0043】
《試験》
(1)溶着性試験
基材に対して、半導体レーザービーム(LD)を熱源とするレーザークラッド装置を用い、溶着率80%以上となる溶着下限レーザー出力を測定した。溶着率は以下のように算出した。
図1における各基材1及び肉盛層2を肉盛層の中央部に沿って長手方向に切断し、その断面を光学顕微鏡にて観察することにより、基材の断面の長手方向の長さL
0及び基材と肉盛層との間の界面3に存在する各未溶着部4の長手方向の長さL
1、L
2・・・を測定し、下記式に従って溶着率(%)を演算した。
溶着率=(L
0-ΣL
i)/L
0×100
【0044】
結果を以下の表2-4及び
図2A-Cに示す。尚、表中のMgの含有量はおおよその値であり、正確な値は上記表1に示す通りである。
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
試験結果より、本発明の銅基合金は、Mgを含まない比較例1-3の銅基合金と比較して溶着性に優れることがわかる。
【0049】
(2)耐摩耗性試験
図3に示す試験装置を用いて以下の条件で行い、摩耗減量(mg)を評価した。
雰囲気:大気
荷重:9MPa
試験温度473K
相手材:SUH(耐熱鋼)
回転速度:0.3m/秒
【0050】
シート側(試料側)とバルブ側(相手材側)とについて、試験後の摩耗深さを摩耗減量として測定した。結果を以下の表5に示す。尚、表中のMg添加量はおおよその値であり、正確な値は上記表1に示す通りである。
【0051】
【0052】
試験結果より、本発明の銅基合金は、Mgを含まない比較例1-3の銅基合金と比較して同等又は優れた耐摩耗性を有することがわかる。
【0053】
(3)引張り強度試験
引張り強度試験は、JIS Z2201(試験片形状13B号)及びJIS Z2241に準拠して行った。
【0054】
結果を以下の表6及び
図4A-Cに示す。尚、表中のMg添加量はおおよその値であり、正確な値は上記表1に示す通りである。
【0055】
【0056】
試験結果より、本発明の銅基合金は、Mgを含まない比較例1-3の銅基合金と比較して同等又は優れた強度を有することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の銅基合金は、内燃機関のバルブシートやバルブ等の動弁系部材に代表される摺動部材の摺動部分を構成する銅基合金に適用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1・・基材
2・・肉盛層
3・・基材と肉盛層との間の界面
4・・未溶着部
L0・・基材の断面の長手方向の長さ
L1及びL2・・未溶着部の断面の長手方向の長さ