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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】全固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20221101BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20221101BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20221101BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20221101BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20221101BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/13
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018127734
(22)【出願日】2018-07-04
(65)【公開番号】P2020009566
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】堀 哲也
(72)【発明者】
【氏名】ビスバル ヘイディ
(72)【発明者】
【氏名】北條 隆行
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-045515(JP,A)
【文献】国際公開第2018/038538(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/145108(WO,A1)
【文献】特開2011-077051(JP,A)
【文献】特開2011-142007(JP,A)
【文献】特開2004-111150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562-10/0585
H01M 4/13-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質粒子と固体電解質とを含む第1合剤を用意する工程と、
固体電解質を含む第2合剤を用意する工程と、
Si系の負極材料が含まれる負極活物質粒子を用意する工程と、
前記負極活物質粒子をプレスする工程と、
前記負極活物質粒子をプレスする工程でプレスされた負極活物質粒子と固体電解質とを含む第3合剤を用意する工程と、
前記第1合剤が成形された正極活物質層と、前記第2合剤が成形された固体電解質層と、前記第3合剤が成形された負極活物質層とが順に積層された積層体を作製する工程と、
前記積層体を積層方向にプレスする工程と
を含む、全固体電池の製造方法。
【請求項2】
前記負極活物質粒子をプレスする工程のプレス圧は、前記積層体を積層方向にプレスする工程のプレス圧よりも高い、請求項1に記載された全固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2012-226936号公報には、固体電池負極の製造方法が開示されている。ここで開示される方法は、前段工程と後段工程とを有している。前段工程は、負極を構成する固体電解質と負極電解質のそれぞれの一部を混合して得られる負極合剤を成形装置内に配置し、プレスして負極層を形成する工程である。後段工程は、前段工程で形成された負極層上に、負極を構成する残りの固体電解質および負極活物質を混合して得られる負極合剤を配置し、プレスして前段工程で形成された負極層に一体化する工程である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-226936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、固体電池では、電解質が固体であるために、充電時に生じる膨張と放電時に生じる収縮の影響が、電解液が用いられた液系の電池よりも大きい。固体電池では、充電時に生じる膨張と放電時に生じる収縮とによって、正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層との積層体に割れが生じる場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ここで提案される全固体電池の製造方法には、以下の工程が含まれている。
a)第1合剤を用意する工程
b)第2合剤を用意する工程
c)負極活物質粒子を用意する工程
d)負極活物質粒子をプレスする工程
e)第3合剤を用意する工程
f)積層体を作製する工程
g)積層体をプレスする工程
【0006】
ここで、工程aでは、正極活物質粒子と固体電解質とを含む第1合剤が用意される。工程bでは、固体電解質を含む第2合剤が用意される。工程cでは、負極活物質粒子が用意される。工程dでは、負極活物質粒子がプレスされる。工程eでは、工程dでプレスされた負極活物質粒子と固体電解質とを含む第3合剤が用意される。工程fでは、第1合剤が成形された正極活物質層と、第2合剤が成形された固体電解質層と、第3合剤が成形された負極活物質層とが順に積層された積層体が作製される。工程gでは、積層体が積層方向にプレスされる。
【0007】
かかる全固体電池の製造方法によれば、充電と放電が繰り返されても積層体に割れが生じにくい全固体電池が提供されうる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、かかる全固体電池の製造方法によって作成される全固体電池の電極100の模式図である。
図2図2は、全固体電池の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図3図3は、負極活物質粒子41をプレスする工程を模式的に示す図である。
図4図4は、プレスされた負極活物質粒子41を模式的に示す模式図である。
図5図5は、全固体電池の製造方法について試験例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、ここで提案される全固体電池の製造方法の一実施形態を説明する。ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。本発明は、特に言及されない限りにおいて、ここで説明される実施形態に限定されない。
【0010】
ところで、全固体電池は、正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とが積層された積層体を積層方向に加圧した積層電池でありうる。例えば、固体電解質にガラス系材料が用いられた硫化物系全固体電池では、積層体が成形された後でガラス転移温度以上に高温処理することによって固体電解質が密着して電池として機能する。
【0011】
負極活物質層に含まれる負極活物質粒子に用いられる多くの活物質は、充電時にLiイオンを取り込んで膨張する。放電時にはLiイオンを放出して収縮する。例えば、黒鉛材料は、満充電では4%ほど体積が膨張する。ハイブリッド車(HV),プラグインハイブリッド車(PHV),電気自動車(EV)などの電動車両向けに、高容量化が求められている。さらなる高容量化が期待できる負極活物質材料として、Si系の負極材料が提案されている。Si系の負極材料は、満充電時には充電前に比べて2~3倍に体積が膨張する傾向がある。
【0012】
Si系の負極材料が用いられると、充放電時に積層体110に作用する応力変化が特に大きくなる。積層体110に作用する応力変化が大きいと、積層体に割れが生じることがある。積層体中、例えば、正極活物質層や負極活物質層に割れが生じると、割れが生じた部位で導電パスが切れて電池抵抗が上昇するなど、電池性能が低下する要因となりうる。
【0013】
以下、ここで提案される全固体電池の製造方法を説明する。
ここで提案される全固体電池の製造方法には、以下の工程が含まれている。
a)第1合剤を用意する工程
b)第2合剤を用意する工程
c)負極活物質粒子を用意する工程
d)負極活物質粒子をプレスする工程
e)第3合剤を用意する工程
f)積層体を作製する工程
g)積層体をプレスする工程
【0014】
図1は、かかる全固体電池の製造方法によって作成される全固体電池の電極100の模式図である。かかる全固体電池の製造方法によって作成される全固体電池の電極100は、図1に示されているように、正極集電箔101と、正極活物質層102と、固体電解質層103と、負極活物質層104と、負極集電箔105とを備えている。なお、図1に示された形態では、正極集電箔101と、正極活物質層102と、固体電解質層103と、負極活物質層104と、負極集電箔105とが順に重ねられた状態であるが、かかる形態に限定されない。図2は、全固体電池の製造方法の一例を示すフローチャートである。図2に示されているように、全固体電池の製造方法の上記の工程a~gの具体的な順番は、特に言及されない限りにおいて限定されず、順番が前後してもよい。
【0015】
(a)第1合剤を用意する工程
第1合剤を用意する工程では、正極活物質粒子と固体電解質とを含む第1合剤が用意される。第1合剤は、正極活物質層102を形成するための合剤である。
【0016】
正極活物質粒子は、正極活物質には、例えば、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物に代表されるNMC系の正極活物質が適宜に用いられうる。ここで用意される正極活物質粒子は、平均粒子径は、例えば、2μm以上5μm以下である。本明細書において、平均粒子径は、典型的には、レーザ回折・散乱法に基づいて測定される平均粒子径(D50)で定義される。なお、正極活物質粒子は異なる複数の材料が混合されてもよい。
【0017】
第1合剤に含まれる固体電解質としては、硫化物系固体電解質、特にガラス系材料が好適に使用されうる。ガラス系材料としては、例えば、LiSとPとの混合物(混合質量比LiS:P=50:50~100:0、特に、好ましくはLiS:P=70:30)が挙げられる。なお、第1合剤に含まれる固体電解質は、これに限定されない。
【0018】
第1合剤中の正極活物質粒子と固体電解質との割合は、正極活物質層102中の正極活物質粒子と固体電解質との割合に応じて設定されるとよい。つまり、正極活物質層102中には、Liイオンの伝導性が確保される程度において、適当な割合で固体電解質が分散しているとよい。かかる観点において、第1合剤中の正極活物質粒子と固体電解質との重量比は、70:30であるとよい。
【0019】
第1合剤には、正極活物質粒子と固体電解質の他、バインダーや導電材が含まれていてもよい。第1合剤に含まれるバインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)に代表されるフッ素原子含有樹脂を使用することができる。なお、バインダーは、これに限定されない。第1合剤に含まれる導電材としては、例えば、カーボンナノファイバー(例えば、昭和電工株式会社製のVGCF)、アセチレンブラックなどの公知の導電材を挙げることができる。導電材は、第1合剤を成形して形成される正極活物質層102において、正極活物質と正極集電箔101との導電パスを形成するための材料である。
【0020】
第1合剤を用意する工程では、例えば、溶媒に、正極活物質粒子と固体電解質の他、バインダーや導電材などの固形分を予め定められた割合で混合され、混練されるとよい。これにより、上述した固形分が予め定められた割合で分散した合剤が得られる。第1合剤の溶媒には、例えば、酪酸ブチルが用いられる。なお、第1溶媒に含まれる溶媒は、正極活物質層102が形成される工程において気化し、正極活物質層102からは消失する。
【0021】
(b)第2合剤を用意する工程
第2合剤を用意する工程では、固体電解質を含む第2合剤が用意される。
第2合剤は、固体電解質層103を形成するための合剤である。第2合剤に含まれる固体電解質は、第1合剤で用いられるもの、この実施形態では、正極活物質層に使用できるものとして上述した材料を用いることができる。なお、第2合剤に含まれる固体電解質は、第1合剤でもちいられる固体電解質と異なる材料からなる固体電解質が用いられてもよい。固体電解質層103には、導電材は含まれていない。固体電解質層103には、固体電解質の他、バインダーが含まれうる。バインダーとしては、例えば、ブタジエンゴム(BR)が好適である。
【0022】
第2合剤を用意する工程では、溶媒に、固体電解質の他、バインダーなどの固形分が予め定められた割合で混合され、混練されるとよい。これにより、上述した固形分が、予め定められた割合で分散した合剤が得られる。第2合剤の溶媒には、例えば、酪酸ブチルが用いられる。なお、第2合剤に含まれる溶媒は、固体電解質層103が形成される工程において気化し、固体電解質層103からは消失する。
【0023】
(c)負極活物質粒子を用意する工程
負極活物質粒子を用意する工程では、負極活物質層104に含まれうる負極活物質粒子41が用意される。
ここで用意される負極活物質粒子41には、例えば、LiSi(例えば、Li4.4Si)などに代表される公知のSiを含有するSi系の負極材料が用いられる。Si系の負極材料が用いられていることによって電池の高容量化が図られる。なお、ここで用意される負極活物質粒子は、Si系の負極材料に限定されず、その他の公知の負極活物質も適宜選択して使用してもよい。また、負極活物質粒子41は異なる複数の材料が混合されてもよい。ここで用意される負極活物質粒子の平均粒子径は、例えば、5μm以下である。
【0024】
(d)負極活物質粒子をプレスする工程
図3は、負極活物質粒子41をプレスする工程を模式的に示す図である。
負極活物質粒子41をプレスする工程では、負極活物質粒子41がプレスされる。負極活物質粒子41をプレスする工程では、例えば、図3に示されているように、プレス機の一対のダイ121,122に負極活物質粒子41の粉末を入れて、負極活物質粒子41に予め定められたプレス圧を付与する。
【0025】
負極活物質粒子41をプレスする工程のプレス圧は、積層体をプレスする工程のプレス圧よりも高くなるとよい。つまり、負極活物質粒子41をプレスする工程で負極活物質粒子41に作用するプレス圧が、積層体を積層方向にプレスする工程において負極活物質粒子41に作用するプレス圧よりも高くなるようにプレス機が付与する荷重が設定されている。例えば、負極活物質粒子41をプレスする工程で負極活物質粒子41に作用するプレス圧が、積層体を積層方向にプレスする工程において負極活物質粒子41に作用するプレス圧よりも明確に高いとよく。例えば、プレス機のダイの単位面積当たりにおいて、負極活物質粒子41をプレスする工程では、積層体をプレスする工程よりも2倍以上のプレス圧で作用するようにプレス機の荷重が設定されるとよい。
【0026】
図4は、プレスされた負極活物質粒子41を模式的に示す模式図である。負極活物質粒子41をプレスする工程によってプレスされた負極活物質粒子41は、図4に示されているように、プレスされる工程において、負極活物質粒子41の内部には圧縮される方向P1に概ね直交する方向に微小な亀裂42が生じる。かかる微小な亀裂42は、充放電時においてLiイオンが出入りする経路になりうる。
【0027】
(e)第3合剤を用意する工程
第3合剤を用意する工程では、工程d)でプレスされた負極活物質粒子41と、固体電解質とを含む第3合剤が用意される。第3合剤は、負極活物質層104を形成するための合剤である。第3合剤に含まれる負極活物質粒子は、工程d)でプレスされた負極活物質粒子であり、プレスにより圧縮された方向に直交するように内部に微小な亀裂が生じている。固体電解質は、第1合剤で用いられるもの上述した材料を用いることができる。第3合剤には、第1合剤と同様に、導電材やバインダーが含まれているとよい。なお、第3合剤に含まれる固体電解質には、第1合剤で用いられる固体電解質や第2合剤で用いられる固体電解質とは異なる材料が用いられてもよい。
【0028】
負極活物質層104には、負極活物質粒子41と固体電解質の他、導電材やバインダーが含まれうる。導電材としては、アセチレンブラック等の公知の導電材を挙げることができる。導電材は、負極活物質層104において、負極活物質と負極集電箔105との導電パスを形成する。バインダーとしては、例えば、ブタジエンゴム(BR)などが好適である。
【0029】
第3合剤を用意する工程では、例えば、溶媒に、負極活物質粒子41と固体電解質の他、バインダーや導電材などの固形分が予め定められた割合で混合され、混練されるとよい。これにより、上述した固形分が、予め定められた割合で分散した合剤が得られる。第3合剤の溶媒には、例えば、酪酸ブチルが用いられる。なお、第3合剤に含まれる溶媒は、負極活物質層104が形成される工程において気化し、負極活物質粒子41からは消失する。
【0030】
(f)積層体を作製する工程
積層体を作製する工程では、図1に示されているように、第1合剤が成形された正極活物質層102と、第2合剤が成形された固体電解質層103と、第3合剤が成形された負極活物質層104とが順に積層された積層体が作製される。例えば、図2に示されているように、第2合剤から固体電解質層103が成形される。次に、成形された固体電解質層103に重ねられて正極活物質層102が成形される。さらに、固体電解質層103の正極活物質層102とは反対側に、負極活物質層104が重ねられて成形される。なお、積層体110が作製される過程において、正極活物質層102と、固体電解質層103と、負極活物質層104とが成形される順番は、特に言及されない限りにおいて限定されない。例えば、正極活物質層102が成形されてから、固体電解質層103と負極活物質層104が順に成形されてもよい。また、負極活物質層104が成形されてから固体電解質層103と正極活物質層102が順に成形されてもよい。
【0031】
例えば、正極活物質層102と、固体電解質層103と、負極活物質層104とが順に成形される場合を説明する。ここでは、正極活物質層102と、固体電解質層103と、負極活物質層104とが積層された積層体が、成形型においてプレス成形される工程が例示されている。
【0032】
例えば、成形型に予め定められた厚さで第1合剤が充電されてプレス成形されることによって、正極活物質層102が成形されるとよい。成形された正極活物質層102に重ねて第2合剤が成形型に充電されてプレス成形されることによって、固体電解質層103が成形されるとよい。さらに、正極活物質層102に重ねて成型された固体電解質層103に重ねて第3合剤が成形型に充電されてプレス成形されることによって、負極活物質層104が成形されるとよい。この際、第3合剤には、既にプレスされた負極活物質粒子41が分散している。負極活物質粒子41にプレスによって生じた亀裂42(図4参照)は、成形型に充電された第3合剤においてに任意の方向にばらついている。
【0033】
正極活物質層102と固体電解質層103と負極活物質層104とは、それぞれプレス成形するが、正極活物質層102と固体電解質層103と負極活物質層104とをそれぞれ形作る程度のプレス荷重でよい。後述する積層体を全体としてプレスする工程よりも低いプレス荷重が設定される。
【0034】
(g)積層体をプレスする工程
正極活物質層102と固体電解質層103と負極活物質層104とが積層された積層体110は、正極活物質層102と固体電解質層103と負極活物質層104の積層方向にプレスされる。この際、正極活物質層102と固体電解質層103と負極活物質層104とが積層された積層体110をそれぞれプレス成形するときよりも大きいプレス荷重が設定されるとよい。
【0035】
なお、負極活物質粒子41には、負極活物質層104が成形される際や、積層体110がプレスされる際にプレス圧が作用するが、負極活物質粒子41には既にプレスによって亀裂が生じている。このため、成形された負極活物質層104において、負極活物質粒子41の亀裂の方向は維持される。
【0036】
負極活物質粒子41の亀裂は、Liイオンが出入りする入口となり、また、充電や放電において生じる負極活物質粒子41の膨張や収縮は、亀裂に直交する方向に生じ易くなる。ここで提案される全固体電池の製造方法によれば、負極活物質層104が成形される前に、予め負極活物質粒子41がプレスされている。このため、成形された負極活物質層104において負極活物質粒子41の亀裂の方向がばらつく。したがって、充電や放電において生じる負極活物質層104の膨張や収縮は、等方的に生じる。また、負極活物質粒子をプレスする工程dでは、積層体を作製する工程fや積層体をプレスする工程gなど後工程で掛けられるよりも高いプレス圧が、負極活物質粒子41に作用するようにプレス荷重が設定されているとよい。これにより、成形された負極活物質層104において負極活物質粒子41の亀裂の方向が、負極活物質粒子をプレスする工程dで生じた亀裂の方向に起因し、維持されやすい。このため、充電や放電において生じる負極活物質層104の膨張や収縮は、等方的に生じやすくなる。
【0037】
つまり、ここで提案される全固体電池の製造方法では、用意された負極活物質粒子41を予めプレスする工程(工程d)を有している。そして、負極活物質粒子41を含む第3合剤を用意して負極活物質層104を含む積層体110が形成されている(工程eおよび工程f)。これにより、充電や放電において生じる負極活物質層104の膨張や収縮は、等方的に生じやすくなる。そして、負極活物質層104の膨張や収縮が等方的に生じやすくなるため、積層体に生じる割れが大幅に低減される。
【0038】
ここで、図5は、全固体電池の製造方法について試験例を示すグラフである。
図5に示された試験では、2つの全固体電池A,Bのサンプルが用意されている。
全固体電池Aは、ここで提案される全固体電池の製造方法によって製造された全固体電池である。
全固体電池Bは、ここで提案される全固体電池の製造方法のうち負極活物質粒子41を予めプレスする工程(工程d)を有さず、用意された負極活物質粒子41をそのまま用いて負極活物質粒子41を含む第3合剤を用意した。
図5のグラフCでは、充電開始からの電池電圧の推移が示されている。グラフAでは、サンプルAの積層体110の積層方向の応力変化が示されている。グラフBでは、サンプルBの積層体110の積層方向の応力変化が示されている。
【0039】
ここで、2つの全固体電池A,Bのサンプルでは、正極活物質には、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物が用いられている。固体電解質には、硫化物系固体電解質のガラス系材料が用いられている。負極活物質粒子には、Si系の負極材料が用いられている。サンプルAにおいて、負極活物質粒子41を含む第3合剤を用意する前に、負極活物質粒子41を予めプレスする工程(工程d)を有すること除いて、2つの全固体電池A,Bのサンプルの製造方法を同じとした。
【0040】
また、ここでは、上述したように正極活物質層102と、固体電解質層103と、負極活物質層104とが積層された積層体110が、成形型でプレス成形された。積層体110は、固体電解質層103、正極活物質層102、負極活物質層104が順に重ねられている。そして、正極活物質層102に正極集電箔101が重ねられ、負極活物質層104に負極集電箔105が重ねられて加圧されて一体化された電極が形成されている。ここで、正極活物質層102と、固体電解質層103と、負極活物質層104とがそれぞれ成形される際に、正極活物質層102と、固体電解質層103と、負極活物質層104とはそれぞれプレスされる。この際、プレス機に設定されるプレス荷重は、それぞれ1tに設定した。また、正極活物質層102に正極集電箔101を重ね、負極活物質層104に負極集電箔105を重ねて加圧して一体化する際のプレス機のプレス荷重は、4tに設定した。つまり、積層体110をプレスする工程(工程g)におけるプレス機のプレス荷重は、4tに設定した。これに対して、負極活物質粒子41を予めプレスする工程(工程d)では、プレス機のプレス荷重は10tに設定した。このため、負極活物質粒子41を予めプレスする工程(工程d)では、積層体110をプレスする工程(工程g)よりも、大凡2.5倍のプレス圧が負極活物質粒子41に付与した。このように負極活物質粒子41をプレスする工程(工程d)のプレス圧は、積層体を積層方向にプレスする工程(工程g)のプレス圧よりも高く設定した。
【0041】
そして、かかる積層体110を含む全固体電池の電極100に、積層体110の積層方向に圧力を掛けつつ充電していき、充電開始前からの経過時間と積層方向の応力変化(圧力変化)を測定した。その結果、図5に示されているように、全固体電池の製造方法によって製造された全固体電池Aのサンプルでは、充電開始前からの経過時間と積層方向の応力変化がサンプルBに比べて小さく抑えられた。つまり、用意された負極活物質粒子41を予めプレスする工程(工程d)を有し、プレスされた負極活物質粒子41を用いて負極活物質層104が形成されることによって、積層体110の積層方向の応力変化が抑制される。また、予め定められたサイクルで充電と放電を繰り返すサイクル試験を行った後で全固体電池A,Bのサンプルを分解して電極に生じた大きな割れを観察した。その結果、用意された負極活物質粒子41を予めプレスする工程(工程d)を含む製造方法によって製造された全固体電池Aのサンプルでは、当該工程dを含まない製造方法によって製造された全固体電池Bのサンプルに比べて、電極に生じた割れは大幅に少なかった。
【0042】
このようなことから、用意された負極活物質粒子41を予めプレスする工程(工程d)を含む製造方法は、予め定められた充電と放電を繰り返す前後での容量維持率や抵抗増加率が高く維持されるとの観点で全固体電池の性能を向上させることができると考えられる。
【0043】
ここで提案される全固体電池の製造方法は、上述した形態に限定されない。
例えば、積層体を作製する工程では、正極活物質層102と固体電解質層103と負極活物質層104をそれぞれプレス成形する方法を例示したが、かかる方法に限定されない。正極活物質層102と固体電解質層103と負極活物質層104は、第1合剤、第2合剤、第3合剤をそれぞれ塗工して形成されてもよい。また、正極活物質粒子や固体電解質や負極活物質粒子やバインダーや導電材などの材料も適宜に変更されうる。
【0044】
以上、ここで提案される全固体電池の製造方法について、種々説明した。特に言及されない限りにおいて、ここで挙げられた全固体電池の製造方法の実施形態などは、本発明を限定しない。
【符号の説明】
【0045】
41 負極活物質粒子
42 亀裂
100 電極
101 正極集電箔
102 正極活物質層
103 固体電解質層
104 負極活物質層
105 負極集電箔
110 積層体
121,122 ダイ
図1
図2
図3
図4
図5