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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】自動車用防音材
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/162 20060101AFI20221101BHJP
   B60R 13/08 20060101ALI20221101BHJP
   G10K 11/16 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
G10K11/162
B60R13/08
G10K11/16 110
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018136851
(22)【出願日】2018-07-20
(65)【公開番号】P2020013061
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000196107
【氏名又は名称】西川ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105175
【弁理士】
【氏名又は名称】山広 宗則
(74)【代理人】
【識別番号】100105197
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 牧子
(72)【発明者】
【氏名】山下 隆史
【審査官】岩田 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-274257(JP,A)
【文献】特開2018-047808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/00-13/00
B60J 5/00- 5/14
10/00-10/90
B60R 13/01-13/06
13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車に使用される、0.08以下の低比重でゴム又は熱可塑性エラストマー又は熱可塑性樹脂からなるシート状の防音材であって、
その断面形状は、上下二等分線に対して左右略対称で下底の長さよりも上底の長さが短い台形部が複数、隣接する下底同士が左右に連設されてなる形状であり、
前記下底の長さを、11.8±1mmとする基準値にした場合、前記基準値に対する前記上底の長さを59%以上にしたことを特徴とする自動車用防音材。
【請求項2】
自動車に使用される、0.08以下の低比重でゴム又は熱可塑性エラストマー又は熱可塑性樹脂からなるシート状の防音材であって、
その断面形状は、上下二等分線に対して左右略対称で下底の長さよりも上底の長さが短い台形部が複数、隣接する下底同士が左右に連設されてなる形状であり、
前記下底の長さを、11.8±1mmとする基準値にした場合、前記上底と前記隣接する台形部間に形成された谷の底までの距離を半分にした位置における前記谷の幅を、前記基準値の15%以上25%以下にしたことを特徴とする自動車用防音材。
【請求項3】
自動車に使用される、0.08以下の低比重でゴム又は熱可塑性エラストマー又は熱可塑性樹脂からなるシート状の防音材であって、
その断面形状は、上下二等分線に対して左右略対称で下底の長さよりも上底の長さが短い台形部が複数、隣接する下底同士が左右に連設されてなる形状であり、
前記下底の長さを、11.8±1mmとする基準値にした場合、前記隣接する台形部間に形成された谷の底と前記下底までの谷の深さを表す距離を、前記谷の底が破れない程度の深さから前記基準値の26%以下までにしたことを特徴とする自動車用防音材。
【請求項4】
前記隣接する台形部間に形成された谷の底と前記下底までの谷の深さを表す距離を、前記基準値の21%以上26%以下にしたことを特徴とする請求項3に記載の自動車用防音材。
【請求項5】
ドアインナーパネルの車内側に取付けられ、前記ドアインナーパネルに形成された開口部を覆うことを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一つに記載の自動車用防音材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車のドアなどに取付けられる自動車用防音材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図9及び図10に示すように、自動車用防音材として自動車のドア100に取付けられるドアホールシール10のシート本体部11に適用されたものが知られている(例えば、特許文献1乃至3参照)。
自動車のドア100は、ドアアウターパネル101とドアインナーパネル102で構成され、ドアホールシール10は、ドアインナーパネル102に形成された開口部Hを覆うとともに、ドア100内部の防音性対策と防水性確保のためドアインナーパネル102とドアトリム103の間に設けられている。
【0003】
このドアホールシール10は、シート本体部11にPE(ポリエチレン)フィルム12が熱溶着(溶着部T)により一体化されたもので、シート本体部11は高発泡のスポンジゴムシートからなる。また、シート本体部11の車内側には複数の山型形状の凹凸部11aが形成されている。PEフィルム12の車外側面には接着剤としてブチルゴムシール剤13が設けられ、これによってドアホールシール10はドアインナーパネル102に固着されている。
【0004】
このようなドアホールシール10のシート本体部11としてEPDM材が使用される場合があるが、EPDM材はその特性上、非通気構造であるためEPDM材の中まで音の取り込みが難しく、図11に示すように、特に1500Hz付近の吸音性能が低下するとともに、3000Hz以上の吸音性能も低下する傾向にある。また、吸音性能の優れるピーク位置は3000Hz付近であるが、これをもう少し低周波数側にしたいという要望もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-47808号公報
【文献】特開2012-121474号公報
【文献】特開2005-47377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1乃至3に記載の発明では、有効的に狙いとする周波数に対して吸音性能を向上させることはできない。
そこで、本発明者は、シート本体部の凹凸形状とその比率を変えた試行を重ねた結果、本発明に至った。
このように、シート本体部の凹凸形状とその比率に着目して狙いとする周波数に対して吸音性能を向上させるようにした従来例は一切存在しない。
【0007】
そこで、本発明の目的とするところは、極めて簡易な構造で吸音性能に優れる自動車用防音材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の自動車用防音材は、自動車に使用される、0.08以下の低比重でゴム又は熱可塑性エラストマー又は熱可塑性樹脂からなるシート状の防音材(31)であって、
その断面形状は、上下二等分線(200)に対して左右略対称で下底(42)の長さ(42L)よりも上底(41)の長さ(41L)が短い台形部(40)が複数、隣接する下底(42,42)同士が左右に連設されてなる形状であり、
前記下底(42)の長さ(42L)を、11.8±1mmとする基準値(S)にした場合、前記基準値(S)に対する前記上底(41)の長さ(41L)を59%以上にしたことを特徴とする。
【0009】
また本発明は、自動車に使用される、0.08以下の低比重でゴム又は熱可塑性エラストマー又は熱可塑性樹脂からなるシート状の防音材(31)であって、
その断面形状は、上下二等分線(200)に対して左右略対称で下底(42)の長さ(42L)よりも上底(41)の長さ(41L)が短い台形部(40)が複数、隣接する下底(42,42)同士が左右に連設されてなる形状であり、
前記下底(42)の長さ(42L)を、11.8±1mmとする基準値(S)にした場合、前記上底(41)と前記隣接する台形部(40,40)間に形成された谷(44)の底(45)までの距離(43L)を半分にした位置(P)における前記谷の幅(44W)を、前記基準値(S)の15%以上25%以下にしたことを特徴とする。
【0010】
また本発明は、自動車に使用される、0.08以下の低比重でゴム又は熱可塑性エラストマー又は熱可塑性樹脂からなるシート状の防音材(31)であって、
その断面形状は、上下二等分線(200)に対して左右略対称で下底(42)の長さ(42L)よりも上底(41)の長さ(41L)が短い台形部(40)が複数、隣接する下底(42,42)同士が左右に連設されてなる形状であり、
前記下底(42)の長さ(42L)を、11.8±1mmとする基準値(S)にした場合、前記隣接する台形部(40,40)間に形成された谷(44)の底(45)と前記下底(42)までの谷の深さを表す距離(44L)を、前記谷(44)の底(45)が破れない程度の深さから前記基準値(S)の26%以下までにしたことを特徴とする。
【0011】
また本発明は、前記隣接する台形部(40,40)間に形成された谷(44)の底(45)と前記下底(42)までの谷の深さを表す距離(44L)を、前記基準値(S)の21%以上26%以下にしたことを特徴とする
【0013】
また本発明は、ドアインナーパネル(102)の車内側に取付けられ、前記ドアインナーパネル(102)に形成された開口部(H)を覆うことを特徴とする。
【0014】
なお、括弧内の記号は、図面および後述する発明を実施するための形態に記載された対応要素または対応事項を示す。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、0.08以下の低比重でゴム又は熱可塑性エラストマー又は熱可塑性樹脂からなるシート状の防音材の断面形状を、左右略対称の台形部が複数、左右に連設されてなるものとし、しかも下底の長さを基準値(11.8±1mm)にした場合、その基準値に対する上底の長さを59%以上にすることによって、吸音性能の優れるピーク位置を低周波数側に移動することができる。
例えば、ドアインナーパネルの車内側に取付けられ、ドアインナーパネルに形成された開口部を覆うドアホールシールのシート本体部に適用した場合、ドライバーの耳の位置において吸音性能の優れるピーク位置を3000Hz付近から2500Hz付近に下げることができる。
【0016】
本発明によれば、0.08以下の低比重でゴム又は熱可塑性エラストマー又は熱可塑性樹脂からなるシート状の防音材の断面形状を、左右略対称の台形部が複数、左右に連設されてなるものとし、しかも下底の長さを基準値(11.8±1mm)にした場合、上底と隣接する台形部間に形成された谷の底までの距離を半分にした位置における谷の幅を、基準値の15%以上25%以下にすることによって、吸音性能の優れるピーク位置よりも低周波数側の吸音性能を上げることができる。
例えば、ドアインナーパネルの車内側に取付けられ、ドアインナーパネルに形成された開口部を覆うドアホールシールのシート本体部に適用した場合、ドライバーの耳の位置において、吸音性能の優れるピーク位置よりも低周波数側となる、特に1500Hz付近よりも低周波数側の吸音性能を上げることができる。
【0017】
本発明によれば、0.08以下の低比重でゴム又は熱可塑性エラストマー又は熱可塑性樹脂からなるシート状の防音材の断面形状を、左右略対称の台形部が複数、左右に連設されてなるものとし、しかも下底の長さを基準値(11.8±1mm)にした場合、前記隣接する台形部間に形成された谷の底と下底までの谷の深さを表す距離を、谷の底が破れない程度の深さ、例えば、基準値の21%以上から基準値の26%以下までにすることによって、吸音性能の優れるピーク位置よりも高周波数側の吸音性能を上げることができる。
例えば、ドアインナーパネルの車内側に取付けられ、ドアインナーパネルに形成された開口部を覆うドアホールシールのシート本体部に適用した場合、ドライバーの耳の位置において吸音性能の優れるピーク位置よりも高周波数側、特に3500Hz~4500Hzの吸音性能を飛躍的に上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る自動車用防音材が取付けられた状態を示す図9のA-A線拡大断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る自動車用防音材の要部を示す拡大断面図である。
図3図2に示す台形部形状において上底の長さを変化させた態様を示す要部断面図であり、(a),(b),(c)の順に上底の長さを長くしたものである。
図4図2に示す台形部形状において隣接する台形部間に形成された谷の幅を変化させた態様を示す要部断面図であり、(a),(b),(c)の順に谷の幅を大きくしたものである。
図5図2に示す台形部形状において隣接する台形部間に形成された谷の底と下底までの谷の深さを変化させた態様を示す要部断面図であり、(a),(b),(c),(d)の順に谷の深さを大きくしたものである。
図6】本発明の実施形態に係る自動車用防音材が取付けられた場合で、図2に示す台形部形状において上底の長さを変化させた態様に応じた、周波数に対する吸音性能を示すグラフである。
図7】本発明の実施形態に係る自動車用防音材が取付けられた場合で、図2に示す台形部形状において隣接する台形部間に形成された谷の幅を変化させた態様に応じた、周波数に対する吸音性能を示すグラフである。
図8】本発明の実施形態に係る自動車用防音材が取付けられた場合で、図2に示す台形部形状において隣接する台形部間に形成された谷の底と下底までの谷の深さを変化させた態様に応じた、周波数に対する吸音性能を示すグラフである。
図9】自動車の外観側面図である。
図10】従来例に係る自動車用防音材が取付けられた状態を示す図9のA-A線拡大断面図である。
図11】従来例に係る自動車用防音材が取付けられた場合の、周波数に対する吸音性能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図面を参照して、本発明の実施形態に係る自動車用防音材の構造について説明する。これは、自動車のドア100に取付けられるドアホールシール30のシート本体部31に適用したものである。なお、従来例と同一部分には同一符号を付した。
【0020】
図1及び図9に示すように、このドアホールシール30は、ドアアウターパネル101とともに、ドア100を構成するドアインナーパネル102とドアトリム103の間に設けられ、ドアインナーパネル102に形成された開口部Hを覆っている。
ドアホールシール30は、遮音性及び吸音性に優れたシート本体部31とそのシート本体部31に熱溶着(溶着部T)によって固着一体化され、シート本体部31をドアインナーパネル102の車内側に取付ける合成樹脂フィルム(PEフィルム)32からなる。合成樹脂フィルム32の車外側面には接着剤としてブチルゴムシール剤33が設けられ、これによってドアホールシール30はドアインナーパネル102に固着されている。
【0021】
防音材として機能するシート本体部31は0.08以下の低比重で高発泡のゴム様弾性体からなり、車内側には複数の凹凸部が形成されている。なお、0.06以下の低比重で高発泡のものがより好ましい。
また、シート本体部31には、図示は省略するが、各種ケーブルを貫通させたり作業者が作業時に手を挿入したりするための穴や切欠き部が形成されている。
【0022】
そして、シート本体部31は後述するようにその断面形状に吸音性能を向上させるための特徴を有している。
シート本体部31の断面形状は、図2に示すように、上下二等分線200に対して左右略対称で下底42の長さ42Lよりも上底41の長さ41Lが短い台形部40が複数、隣接する下底42,42同士が左右に連設されてなる形状である。なお、図2の紙面上では、上下二等分線200は左右に延びるものであり、台形部40が左右に連設されているとは、上下に連設されたものとなっている。
【0023】
サイズ的には、台形部40の下底42の長さ42Lを基準値Sにした場合、基準値Sに対する上底41の長さ41Lを59%以上にするとともに、上底41と隣接する台形部40,40間に形成された谷44の底45までの距離43Lを半分にした位置Pにおける谷44の幅44Wを、基準値Sの15%以上25%以下にし、さらに、谷44の底45と下底42までの谷の深さを表す距離44Lを、谷44の底45が破れない程度の深さ、ここでは、基準値Sの21%以上、から基準値Sの26%以下までにしたものである。
基準値Sについては、11.8±1mmとした。また、台形部40の高さ40Tについては、30mm以下であることが好ましい。
【0024】
より具体的には、台形部40の下底42の長さL42を基準値Sとして11.8mm,上底41の長さ41Lを7.0mm,谷の幅44Wを1.8mm,谷の深さ距離44Lを3.1mm,台形部40の高さ40Tを7.4mmとした。
【0025】
また、シート本体部31の材質としては、例えばゴムや熱可塑性エラストマー、あるいは熱可塑性樹脂等の原料を所定の厚さのシート状をなすように押出成形してなるものであり、空気を含む吸音材である。ゴムとしては、例えばエチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM),クロロプレンゴム(CR),スチレン・ブタジエンゴム(SBR),アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)等の合成ゴムをあげることができる。また、熱可塑性エラストマーとしては、例えばオレフィン系(TPO)やスチレン系(TPS)のものなどをあげることができる。また、熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP),ポリエチレンテレフタレート(PET)またはエチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)等をあげることができる。
ここでは、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)を使用した。
【0026】
このように、台形部40のサイズを決定したのは、以下のように、試行を重ねた結果得られたものである。
【0027】
(試行1)
試行1では、台形部40の下底42の長さ42Lを基準値Sにした場合、上底41側の長さ41Lを、図2の場合から図3に示すように変化させて、防音効果について調査した。
これは、実際に自動車のドア100内部に対象となるシール本体部31を取付けた後に、ドライバーの耳の位置において周波数に対する吸音率の変化を測定したものである。吸音率については、ドライバーの耳の位置に車外側から車内側に垂直に入射する音源に対するものとした。以下、測定方法は、試行2,試行3においても同様である。
図3(a)は、台形部40の下底42の長さ42Lを基準値Sとして11.8mmにした場合、上底41の長さ41Lを5.0mm(基準値Sに対する上底41の長さ41Lの比率=42%)にしたもの,
図3(b)は、上底41の長さ41Lを6.0mm(基準値Sに対する上底41の長さ41Lの比率=51%)にしたもの,
図3(c)は、上底41の長さ41Lを11.0mm(基準値Sに対する上底41の長さ41Lの比率=93%)にしたものであり、
これらを、図2に示した、上底41の長さ41Lを7.0mm(基準値Sに対する上底41の長さ41Lの比率=59%)にしたものとともに、従来例(図10図11)のように山型形状の凹凸部11aをシール本体部11としたものと比較した。
なお、上底41の長さ41Lが変化すると隣接する台形部40,40間に形成される谷44の幅44Wは必然的に変化する。
その結果を表1及び図6に示した。
【0028】
【表1】
【0029】
これによると、吸音性能の優れるピーク位置は3000Hz付近であるが、ドライバーの耳の位置において吸音性能の優れるピーク位置を3000Hz付近から、図2に示したもの(上底41の長さ41Lを7.0mm(基準値Sに対する上底41の長さ41Lの比率=59%))では、2500Hz付近に下げることができ、図3(c)に示したもの(上底41の長さ41Lを11.0mm(基準値Sに対する上底41の長さ41Lの比率=93%))では、さらに2000Hz付近に下げることができた。
これに対して、図3(a)に示したもの(上底41の長さ41Lを5.0mm(基準値Sに対する上底41の長さ41Lの比率=42%))は、3000Hz以上でかつ3000Hz付近であり、図3(b)に示したもの(上底41の長さ41Lを6.0mm(基準値Sに対する上底41の長さ41Lの比率=51%))は、3000Hz以下であるが3000Hz付近であるので、吸音性能の優れるピーク位置を低周波数側するといった狙いに沿うものではないため生産性はNGとした。
【0030】
この結果、吸音性能の優れるピーク位置を低周波数側するには、台形部40の下底42の長さ42Lを基準値Sにした場合、基準値Sに対する上底41の長さ41Lをより大きくした方がよく、特に59%以上にすることが有効であることがわかった。
【0031】
(試行2)
次に、試行2では、台形部40の下底42の長さ42Lを基準値Sにした場合、上底41と、隣接する台形部40,40間に形成された谷44の底45までの距離43Lを半分にした位置Pにおける谷44の幅44Wを、図2の場合から図4に示すように変化させて、防音効果について調査した。
図4(a)は、台形部40の下底42の長さ42Lを基準値Sとして11.8mmにした場合、谷44の幅44Wを1.5mm(基準値Sに対する谷幅44Wの比率=13%)にしたもの,
図4(b)は、谷幅44Wを3.0mm(基準値Sに対する谷幅44Wの比率=25%)にしたもの,
図4(c)は、谷幅44Wを3.6mm(基準値Sに対する谷幅44Wの比率=31%)にしたものであり、
これらを、図2に示した、谷幅44Wを1.8mm(基準値Sに対する谷幅44Wの比率=15%)にしたものとともに、従来例(図10図11)のように山型形状の凹凸部11aをシール本体部11としたものと比較した。
なお、この場合、上底41の長さ41Lは同一で、7.0mmとした。
その結果を表2及び図7に示した。
【0032】
【表2】
【0033】
これによると、吸音性能の優れるピーク位置(3000Hz付近)よりも低周波数側となる、特に1500Hz付近よりも低周波数側の吸音性能を従来例のものと比較して上げることができる。
しかし、図4(a)に示したもの(谷幅44Wを1.5mm(基準値Sに対する谷幅44Wの比率=13%))と、図4(c)に示したもの(谷幅44Wを3.6mm(基準値Sに対する谷幅44Wの比率=31%))とは、吸音性能の優れるピーク位置(3000Hz付近)よりも高周波数側の吸音性能が、従来例のものと比較して劣るため生産性はNGとした。
【0034】
この結果、吸音性能の優れるピーク位置よりも低周波数側の吸音性能を上げるには、台形部40の下底42の長さ42Lを基準値Sにした場合、谷幅Wを、基準値Sの15%以上25%以下にすることが有効であることがわかった。
【0035】
(試行3)
次に、試行3では、台形部40の下底42の長さ42Lを基準値Sにした場合、隣接する台形部40,40間に形成された谷44の底45と下底42までの谷44の深さを表す距離44Lを、図2の場合から図5に示すように変化させて、防音効果について調査した。
図5(a)は、台形部40の下底42の長さ42Lを基準値Sとして11.8mmにした場合、谷44の深さ44Lを2.1mm(基準値Sに対する谷44の深さ44Lの比率=18%)にしたもの,
図5(b)は、谷44の深さ44Lを2.5mm(基準値Sに対する谷44の深さ44Lの比率=21%)にしたもの,
図5(c)は、谷44の深さ44Lを3.5mm(基準値Sに対する谷44の深さ44Lの比率=30%)にしたもの,
図5(d)は、谷44の深さ44Lを4.0mm(基準値Sに対する谷44の深さ44Lの比率=34%)にしたものであり、
これらを、図2に示した、谷44の深さ44Lを3.1mm(基準値Sに対する谷44の深さ44Lの比率=26%)にしたものとともに、従来例(図10図11)のように山型形状の凹凸部11aをシール本体部11としたものと比較した。
なお、この場合、上底41の長さ41Lは同一で、7.0mmとした。
その結果を表3及び図8に示した。
【0036】
【表3】
【0037】
これによると、吸音性能の優れるピーク位置(3000Hz付近)よりも高周波数側の吸音性能を従来例のものと比較して上げることができる。
しかし、図5(a)に示したもの(谷44の深さ44Lを2.1mm(基準値Sに対する谷44の深さ44Lの比率=18%))にしたものは、谷44の深さ44Lが僅かでその間に破れが発生する恐れがあるので使用することはできない。
また、図5(c)に示したもの(谷44の深さ44Lを3.5mm(基準値Sに対する谷44の深さ44Lの比率=30%))と、図5(d)に示したもの(谷44の深さ44Lを4.0mm(基準値Sに対する谷44の深さ44Lの比率=34%))は、従来例のものと比較して大差なく、図5(b)に示したもの(谷44の深さ44Lを2.5mm(基準値Sに対する谷44の深さ44Lの比率=21%))や、図2に示したもの(谷44の深さ44Lを3.1mm(基準値Sに対する谷44の深さ44Lの比率=26%))のように吸音性能の優れるピーク位置(3000Hz付近)よりも高周波数側の吸音性能が、従来例のものと比較して飛躍的に向上するものではないため生産性はNGとした。
【0038】
この結果、吸音性能の優れるピーク位置よりも高周波数側の吸音性能を上げるには、台形部40の下底42の長さ42Lを基準値Sにした場合、隣接する台形部40,40間に形成された谷44の底45と下底42までの谷の深さを表す距離44Lを、基準値(S)の21%以上26%以下にすることが有効であることがわかった。
【0039】
なお、台形部40の高さ40Tについては、30mm以下であればよくこれが変化しても試行1乃至3の結果は特に変わるものではなかった。
【0040】
本実施形態では、試行1により、台形部40の下底42の長さ42Lを基準値Sにした場合、基準値Sに対する上底41の長さ41Lを59%以上にしたこと(条件1)が好ましいことが判明し、試行2により、上底41と隣接する台形部40,40間に形成された谷44の底45までの距離43Lを半分にした位置Pにおける谷44の幅44Wを、基準値Sの15%以上25%以下にしたこと(条件2)が好ましいことが判明し、さらに、試行3により、谷44の底45と下底42までの谷の深さを表す距離44Lを、谷44の底45が破れない程度の深さ、ここでは、基準値Sの21%以上、から基準値Sの26%以下までにしたこと(条件3)が好ましいことが判明し、図2に示したものでは、条件1から条件3のすべてを兼ね備えるようにして、極めて簡易な構造で吸音性能に優れる自動車用防音材を提供するようにしたが、条件1乃至条件3の一つだけを満足するものであっても、これらのうち二つの条件を満足するものであっても極めて簡易な構造で吸音性能に優れる自動車用防音材が得られる。
【0041】
また、本実施形態では、発明の実施形態に係る自動車用防音材の構造について自動車のドア100に取付けられるドアホールシール30のシート本体部31に適用した場合について説明したが、自動車のドア100以外の部品として設けることもできる。
【符号の説明】
【0042】
10 ドアホールシール
11 シート本体部
11a 凹凸部
12 PEフィルム(合成樹脂フィルム)
13 ブチルゴムシール剤
30 ドアホールシール
31 シート本体部(防音材)
32 PEフィルム(合成樹脂フィルム)
33 ブチルゴムシール剤
40 台形部
40T 台形部の高さ
41 上底
41L 上底の長さ
42 下底
42L 下底の長さ
43L 上底と谷の底までの距離
44 谷
44L 谷の深さを表す距離
44W 谷の幅
45 谷の底
100 ドア
101 ドアアウターパネル
102 ドアインナーパネル
103 ドアトリム
200 上下二等分線
H 開口部
P 上底と谷の底までの距離を半分にした位置
S 基準値
T 溶着部
図1
図2
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図11