(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用正極活物質
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20221101BHJP
C01G 51/00 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G51/00 A
(21)【出願番号】P 2018147009
(22)【出願日】2018-08-03
【審査請求日】2021-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】由井 悠基
(72)【発明者】
【氏名】牧村 嘉也
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-089247(JP,A)
【文献】特開2005-019063(JP,A)
【文献】特開2006-164758(JP,A)
【文献】特開2020-021617(JP,A)
【文献】特開平11-073958(JP,A)
【文献】特開2016-143539(JP,A)
【文献】特開2005-149957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
C01G 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、該正極および該負極の間に配置された電解質とを備え、
正極が正極活物質として、
リチウムとコバルトとアルミニウムと酸素とを含むスピネル型結晶相を有し、
LiCo
xAl
yO
2±δ(0.85≦x<1、0<y≦0.15、0.85<x+y≦1.15
、δ≦0.2)で表される組成を有する、正極活物質のみを有する、
リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願はリチウムイオン電池に用いられる正極活物質等を開示する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1~3に開示されているように、リチウムイオン電池に用いられる正極活物質として層状岩塩型結晶相を有するコバルト酸リチウムやスピネル型結晶相を有するマンガン酸リチウム等が広く利用されている。一方、近年、非特許文献1に開示されているようなスピネル型結晶相を有するコバルト酸リチウムが開発されており、リチウムイオン電池用の新たな正極活物質として期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-001256号公報
【文献】特開2002-289175号公報
【文献】特開2016-143539号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Eungje Lee et al., ACS Appl. Mater. Interfaces 2016, 8, 27720-27729
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者の知見によれば、非特許文献1に開示されたスピネル型結晶相を有するコバルト酸リチウムは、リチウムイオンの挿入及び脱離に伴う格子定数の変化が小さいことから、リチウムイオン電池の正極活物質として適用した場合に、充放電時における正極の体積変化を小さくすることができるものと考えられる。しかしながら、スピネル型結晶相を有するコバルト酸リチウムを正極活物質としてリチウムイオン電池を構成した場合、電池の初回クーロン効率が小さくなる場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、リチウムとコバルトとアルミニウムと酸素とを含むスピネル型結晶相を有し、LiCoxAlyO2±δ(0.85≦x<1、0<y≦0.15、0.85<x+y≦1.15)で表される組成を有する、リチウムイオン電池用正極活物質を開示する。
【発明の効果】
【0007】
本発明者の新たな知見によれば、本開示の正極活物質のように、スピネル型のコバルト酸リチウムにおいて特定量のアルミニウムがドープされることで、リチウムイオン電池に適用した場合に、電池の初回クーロン効率が大きく増大する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】リチウムイオン電池10の構成を説明するための概略図である。
【
図2】リチウムイオン電池システム100の構成を説明するための概略図である。
【
図3】リチウムイオン電池システム100における制御フローの一例を説明するための図である。
【
図4】実施例1~5及び比較例1~5に係る正極活物質のX線回折ピークを示す図である。
【
図5】実施例1及び比較例1に係る正極活物質のSEM画像を示す図である。
【
図6】実施例1及び比較例1に係る正極活物質を用いたリチウムイオン電池の1回目充放電曲線(4.45V-2.5V)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.正極活物質
本開示の正極活物質は、リチウムイオン電池に用いられる正極活物質であって、リチウムとコバルトとアルミニウムと酸素とを含むスピネル型結晶相を有し、LiCoxAlyO2±δ(0.85≦x<1、0<y≦0.15、0.85<x+y≦1.15)で表される組成を有することを特徴とする。
【0010】
1.1.結晶相
本開示の正極活物質は、リチウムとコバルトとアルミニウムと酸素とを含むスピネル型結晶相を有する。「スピネル型結晶相を有する」とは、X線回折において少なくともスピネル型結晶相に由来する回折ピークが確認されることを意味する。例えば、本開示の正極活物質は、CuKαを線源とするX線回折測定において、2θ=19.8±0.4°、37.3±0.4°、39.0±0.4°、45.3±0.4°、49.7±0.4°、60.1±0.4°、66.1±0.4°及び69.5±0.4°の位置にスピネル型結晶相に由来する回折ピークが確認されることが好ましい。尚、スピネル型のコバルト酸リチウムと、本開示の正極活物質とでは、スピネル型結晶相における結晶格子定数が異なるものと考えられる。すなわち、X線回折や元素分析によって正極活物質の組成を確認したうえで、X線回折によってスピネル型結晶相の結晶格子定数を確認することで、正極活物質における「リチウムとコバルトとアルミニウムと酸素とを含むスピネル型結晶相」の有無を確認することができるものと考えられる。
【0011】
本開示の正極活物質において、スピネル型結晶相は、リチウムとコバルトとアルミニウムと酸素とを含む。言い換えれば、本開示の正極活物質は、スピネル型のコバルト酸リチウムの一部の元素をアルミニウムで置換したものともいえる。これにより、スピネル型結晶相が安定化されるものと考えられる。
【0012】
本開示の正極活物質は上記の特定のスピネル型結晶相を有する。一方で、本開示の正極活物質は、上記課題を解決できる範囲で、スピネル型結晶相に加えて、これ以外の結晶相が含まれていてもよい。例えば、リチウムとコバルトとを含む複合酸化物を合成する場合、スピネル型結晶相とともに熱的に安定な層状岩塩型結晶相する場合があるが、このような場合でもスピネル型結晶相の存在により所望の効果を発揮できる。この点、本開示の正極活物質は、スピネル型結晶相に加えて、層状岩塩型結晶相が含まれていてもよい。好ましくは、本開示の正極活物質は、X線回折測定においてスピネル型結晶相に由来する回折ピークのみが確認される。
【0013】
1.2.組成
本開示の正極活物質は、LiCoxAlyO2±δ(0.85≦x<1、0<y≦0.15、0.85<x+y≦1.15)で表される組成を有する。本発明者の知見では、スピネル型コバルト酸リチウムにおけるアルミニウムの置換量(ドープ量)が、上記組成式で示される特定の範囲の場合に、電池の初回クーロン効率が顕著に増大する。
【0014】
クーロン効率のさらなる増大の観点からは、上記組成式におけるxは、より好ましくは0.85≦x≦0.975であり、さらに好ましくは0.85≦x≦0.95であり、特に好ましくは0.85≦x≦0.93である。yはより好ましくは0.025≦y≦0.15であり、さらに好ましくは0.05≦y≦0.15であり、特に好ましくは0.07≦y≦0.15である。
【0015】
本開示の正極活物質においては、Liに対するCo及びAlの合計のモル比が1(x+y=1)であることが好ましいが、Liが多少過剰であったとしても、或いは、Liが多少不足していたとしても、スピネル型結晶相を生成・維持することは可能であり、所望の効果を発揮できる。この点、上記の組成式で示されるように、Liに対するCo及びAlのモル比が0.85超1.15以下(0.85<x+y≦1.15)であればよい。下限が好ましくは0.9以上、より好ましくは0.95以上、上限が好ましくは1.1以下、より好ましくは1.05以下である。
【0016】
本開示の正極活物質においては、スピネル型のコバルト酸リチウムの化学両論比からすると、Liに対するOのモル比(O/Li)が2であることが好ましいが、スピネル型結晶相としての化学両論比よりも酸素が過剰となっていても酸素が一部欠損していても、スピネル型結晶相を生成・維持することは可能であり、所望の効果を発揮できる。この点、Liに対するOのモル比(O/Li)は、例えば1.8以上2.2以下とすることが好ましい。或いは、上記の組成式においてδは0.2以下であることが好ましい。
【0017】
1.3.形状
本開示の正極活物質の形状や大きさは特に限定されるものではなく、リチウムイオン電池の正極に適用可能なものであればよい。好ましくは粒子状である。
【0018】
1.4.効果
本開示の正極活物質は、スピネル型のコバルト酸リチウムにおいて特定量のアルミニウムがドープされることで、アルミニウムを含まない場合と比較して、リチウムイオン電池に適用した場合における電池の初回クーロン効率が大きく増大する。アルミニウムによってスピネル型結晶相が安定化されたためと考えられる。
【0019】
2.正極活物質の製造方法
本開示の正極活物質は、例えば、リチウム源と、コバルト源と、アルミニウム源とを混合して混合物を得る第1工程と、前記混合物を加熱してスピネル型結晶相を有する複合酸化物を得る第2工程とを経て製造することができる。
【0020】
2.1.第1工程
第1工程においては、リチウム源とコバルト源とアルミニウム源とを混合して混合物を得る。リチウム源としてはリチウム化合物や金属リチウムが挙げられる。リチウム化合物としては、炭酸リチウム、酸化リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウム等が挙げられる。固相法による場合、炭酸リチウムが好ましい。液相法(蒸発乾固法)による場合、酢酸リチウムが好ましい。コバルト源としてはコバルト化合物や金属コバルトが挙げられる。コバルト化合物としては、炭酸コバルト、酸化コバルト、水酸化コバルト、酢酸コバルト等が挙げられる。固相法による場合、酸化コバルトが好ましく、Co3O4がより好ましい。液相法(蒸発乾固法)による場合、酢酸コバルトが好ましい。アルミニウム源としてはアルミニウム化合物や金属アルミニウムが挙げられる。アルミニウム化合物としては、炭酸アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酢酸アルミニウム等が挙げられる。固相法による場合、酸化アルミニウムが好ましい。液相法(蒸発乾固法)による場合、酢酸アルミニウムが好ましい。尚、上記の各種化合物は水和物であってもよい。
【0021】
混合物におけるリチウムとコバルトとアルミニウムとのモル比は上記の本開示の正極活物質における組成を満たす比率であればよい。
【0022】
リチウム源とコバルト源等との混合方法は特に限定されるものではなく、溶媒を用いない乾式混合や溶媒を用いた湿式混合等、種々の方法を採用可能である。第1工程においては、原料を溶解させて溶液からなる混合物(混合溶液)としてもよいし、粉体同士を混ぜ合わせて粉体混合物としてもよい。混合は乳鉢等を用いて人力で行ってもよいし、ボールミル等を用いて機械的に行ってもよい。
【0023】
特に、第1工程においては、液相法(蒸発乾固法)により、原料を溶媒に溶解させて混合溶液を得て、その後、当該混合溶液を蒸発乾固させて固体状の前駆体を得ることが好ましい。この場合に用いられる溶媒としては、水やアルコール等のプロトン性極性溶媒が挙げられる。蒸発乾固後に得られる前駆体は、リチウムとコバルトとアルミニウムとが原子レベルで均一に混ざり合った状態であり、且つ、細かな微粒子状で比表面積が大きい。このような前駆体を後述の第2工程にて加熱・焼成することで、短時間でスピネル型結晶相を生成させることができる。
【0024】
2.2.第2工程
第2工程においては、第1工程により得られた混合物を加熱してスピネル型結晶相を有する複合酸化物を得る。通常、リチウムとコバルトとの複合酸化物においては、スピネル型結晶相よりも層状岩塩型結晶相のほうが熱に対して安定であることから、第2工程における加熱温度が高過ぎると、スピネル型結晶相よりも層状岩塩型結晶相が生成してしまう。すなわち、上記の混合物において所望のスピネル型結晶相を得る場合は、第2工程における加熱温度を低温とし、また、加熱時間を長時間とすることが好ましい。特に、本発明者の知見では、第2工程における加熱温度を250℃以上600℃以下とすることで、所望のスピネル型結晶相が得られ易い。加熱温度の下限はより好ましくは280℃、さらに好ましくは300℃以上であり、上限がより好ましくは550℃以下、さらに好ましくは510℃以下である。第2工程における加熱時間は、加熱温度によって調整すればよい。例えば、固相法による場合は、1週間以上加熱することで、スピネル型結晶相の結晶性を高めることができる。一方、液相法(蒸発乾固法)による場合は、加熱時間が120時間以下であっても、スピネル型結晶相の結晶性を高めることができる。第2工程における加熱雰囲気は、複合酸化物を生成可能な雰囲気であればよい。例えば、大気雰囲気や酸素雰囲気等とすることができる。
【0025】
3.リチウムイオン電池
本開示の技術は、リチウムイオン電池としての側面も有する。
図1に本開示のリチウムイオン電池の構成の一例を示す。
図1に示すリチウムイオン電池10は、正極1と、負極2と、正極1及び負極2の間に配置された電解質3とを備え、正極1が上記本開示の正極活物質を備えることを特徴とする。
【0026】
3.1.正極1
正極1は、上記本開示の正極活物質を備えることを除き、従来と同様の構成とすればよい。例えば、正極1は、正極集電体1aと、上記本開示の正極活物質を含む正極活物質層1bとを備える。正極集電体1aは、例えば、各種金属により構成すればよい。正極活物質層1bは正極活物質のほかに任意にバインダーや導電助剤が含まれていてもよい。尚、正極活物質層1bは、上記本開示の正極活物質のほか、上記課題を解決できる範囲で、本開示の正極活物質以外の正極活物質が含まれていてもよい。例えば、層状岩塩型結晶相を有するリチウム金属複合酸化物やオリビン型結晶相を有するリチウム金属リン酸化合物等が挙げられる。本開示の正極活物質は、充放電に伴う活物質の膨張収縮率が小さく、粒子間の界面接触が重要となる固体電池において特に有利である。言い換えれば、本開示のリチウムイオン電池は全固体電池であることが好ましい。リチウムイオン電池として全固体電池を採用する場合、正極活物質層1bには固体電解質が含まれていることが好ましい。固体電解質としては、酸化物固体電解質や硫化物固体電解質等の無機固体電解質が好ましく、硫化物固体電解質がより好ましい。硫化物固体電解質としては、例えば、構成元素としてLi、P及びSを含む固体電解質を用いることができる。具体的には、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Si2S-P2S5、LiI-LiBr-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2O-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5-GeS2等が挙げられる。これらの中でも、特に、Li2S-P2S5を含む硫化物固体電解質がより好ましい。固体電解質は1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。正極1中に硫化物固体電解質を含ませる場合、正極活物質と硫化物固体電解質との界面における高抵抗層の形成等を抑制する観点から、正極活物質の表面にニオブ酸リチウム層等の被覆層が設けられていてもよい。正極活物質以外の構成については、技術常識から自明であることから、これ以上の説明を省略する。
【0027】
3.2.負極2
負極2は、リチウムイオン電池の負極として公知のものを採用可能である。例えば、負極2は、負極集電体2aと、負極活物質を含む負極活物質層2bとを備える。負極集電体2aは、例えば、各種金属により構成すればよい。負極活物質は、上記本開示の正極活物質よりもリチウムイオンの充放電電位が卑である物質を採用すればよい。負極活物質層2bは負極活物質のほかに任意にバインダーや導電助剤が含まれていてもよい。また、リチウムイオン電池として固体電池を採用する場合、負極活物質層2bには上記した固体電解質が含まれていることが好ましい。負極の構成は、技術常識から自明であることから、これ以上の説明を省略する。
【0028】
3.3.電解質層3
電解質層3は、上記の正極1と負極2との間でリチウムイオンを伝導するためのものである。電解質層3においては電解液や固体電解質のいずれを採用してもよい。電解液を採用する場合、正極と負極との間にセパレータを配置し、これを電解液に含浸させればよい。一方、固体電解質を採用する場合、正極と負極との間に固体電解質層を配置すればよい。固体電解質層には上記した固体電解質と任意にバインダーとが含まれる。上述の通り、本開示の正極活物質は、充放電に伴う活物質の膨張収縮率が小さく、粒子間の界面接触が重要となる固体電池において特に有利である。この点、上記の電解質層3は酸化物固体電解質や硫化物固体電解質等の無機固体電解質を含む固体電解質層であることが好ましく、硫化物固体電解質を含む層であることがより好ましい。電解質層3の構成は、技術常識から自明であることから、これ以上の説明を省略する。
【0029】
3.4.その他の構成
リチウムイオン電池10は、上記の正極1、負極2及び電解質層3を備えていればよく、これ以外に必要に応じて端子や電池ケース等が備えられる。これらの構成については技術常識から自明であることから、これ以上の説明を省略する。
【0030】
3.5.効果
本開示のリチウムイオン電池は、正極において上記本開示の正極活物質が採用されており、初回クーロン効率が高く、且つ、充放電時における正極の体積変化が小さい。本開示のリチウムイオン電池は、一次電池としてだけでなく、二次電池としても好適に用いられる。
【0031】
4.リチウムイオン電池システム
本開示の正極活物質は、従来の正極活物質よりもスピネル型結晶相の安定性に優れ、例えば高電圧型の活物質として機能することができる。この点、本開示の正極活物質を備えるリチウムイオン電池の充放電を行う場合、充放電制御部によって当該リチウムイオン電池の充放電を制御して、放電開始電圧や充電のカットオフ電圧を高電圧とすることが好ましい。
【0032】
図2にリチウムイオン電池システム100の構成例を概略的に示す。また、
図3にリチウムイオン電池システム100における制御フローの一例を示す。
図2、3に示すように、リチウムイオン電池システム100は、上記本開示の正極活物質を備えるリチウムイオン電池10と、リチウムイオン電池10の充電及び放電を制御する充放電制御部20と、を備え、充放電制御部20は、リチウムイオン電池10の正極の放電の開始電位又は充電のカットオフ電位を4.0V(vs.Li
+/Li)以上、好ましくは4.2V(vs.Li
+/Li)以上、より好ましくは4.3V(vs.Li
+/Li)以上とすることを特徴とする。
【0033】
充放電制御部20は、上記の通りにリチウムイオン電池10の充電及び放電を制御可能なものであればよい。例えば、電源を用いてリチウムイオン電池10の充電を行う場合、リチウムイオン電池1の正極の電位を逐次測定し、測定した正極の電位が所定の電圧未満の場合は充電を継続し、測定した正極の電位が所定の電圧以上の場合は電源からの電気の供給を停止して、充電を停止するようにすればよい。
【0034】
放電の開始電位についても同様である。すなわち、リチウムイオン電池10の充電後、1回目の放電を行う場合、当該1回目の放電を行う前に正極の電位を測定し、測定した正極の電位が所定の電圧未満の場合は、リチウムイオン電池10の放電を行わずにリチウムイオン電池10の充電を行い、リチウムイオン電池10の充電によって正極の電位が所定の電圧以上となった場合に、1回目の放電を行うようにすればよい。
【0035】
充放電制御部20によってリチウムイオン電池10の充電及び放電を制御する場合、リチウムイオン電池10の放電の開始電位又は充電のカットオフ電位の上限は特に限定されるものではないが、当該電位をあまりに高電位としても効果が小さい。むしろ、電池材料の劣化や分解等が懸念される。この点、充放電制御部20は、リチウムイオン電池10の正極の放電の開始電位又は充電のカットオフ電位を5.3V(vs.Li+/Li)以下とすることが好ましい。より好ましくは、5.1V(vs.Li+/Li)以下、さらに好ましくは5.0V(vs.Li+/Li)以下とする。
【実施例】
【0036】
1.正極活物質(スピネル型複合酸化物)の合成
(実施例1)
リチウム源として酢酸リチウムと、コバルト源として酢酸コバルトと、アルミニウム源として酢酸アルミニウムとを、プロトン性極性溶媒であるイオン交換水中に溶解させて、混合溶液を得た。得られた混合溶液をスターラーで攪拌しながら、ホットプレートにて250℃に加熱し、蒸発乾固させて、固体状の前駆体を得た。得られた前駆体を大気雰囲気下にて400℃で2時間焼成することで、実施例1に係る正極活物質(LiCo0.9Al0.1O2±δ)を得た。
【0037】
(実施例2)
前駆体の焼成温度を450℃としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2に係る正極活物質(LiCo0.9Cr0.1O2±δ)を得た。
【0038】
(実施例3)
前駆体の焼成温度を500℃としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3に係る正極活物質(LiCo0.9Cr0.1O2±δ)を得た。
【0039】
(実施例4)
原料組成比をLi:Co:Al=1:0.85:0.15としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4に係る正極活物質(LiCo0.85Al0.15O2±δ)を得た。
【0040】
(実施例5)
原料組成比をLi:Co:Al=1:0.95:0.05としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例5に係る正極活物質(LiCo0.95Al0.05O2±δ)を得た。
【0041】
(比較例1)
原料組成比をLi:Co:Al=1:1:0としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1に係る正極活物質(LiCoO2±δ)を得た。
【0042】
(比較例2)
アルミニウム源に替えてニッケル源として酢酸ニッケルを用い、原料組成をLi:Co:Ni=1:0.9:0.1としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2に係る正極活物質(LiCo0.9Ni0.1O2±δ)を得た。
【0043】
(比較例3)
アルミニウム源に替えてクロム源として酢酸クロムを用い、原料組成をLi:Co:Cr=1:0.9:0.1としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例3に係る正極活物質(LiCo0.9Cr0.1O2±δ)を得た。
【0044】
2.結晶相の確認
実施例1~5及び比較例1~4に係る正極活物質に対してCuKαを線源とするX線回折測定を行い、回折ピークを確認した。
図4にX線回折測定結果を示す。
図4に示す結果から明らかなように、実施例1~5及び比較例1~4のいずれについてもスピネル型結晶相に由来する回折ピークが確認できた。
【0045】
3.SEM観察
実施例1及び比較例1に係る正極活物質について、その形態をSEMにて観察した。結果を
図5に示す。
図5に示すように、実施例1のほうが比較例1に比べて粒子が大きく、結晶性が高いものと考えられる。
【0046】
4.電極の作製
得られた正極活物質と導電助剤とバインダーとを、質量比で、正極活物質:導電助剤:バインダー=85:10:5となるように秤量し、NMPとともに湿式混合してスラリーを得た。得られたスラリーをアルミニウム箔上に塗工し、120℃で一晩乾燥させ、正極を得た。
【0047】
5.リチウムイオン電池の作製
上記の正極、負極(リチウム箔)、電解液にF置換カーボネート系電解液を用い、正極と負極との間にセパレータを配置し、電解液とともにコイン型電池内に封入して評価用のリチウムイオン電池(CR2032コインセル)を得た。
【0048】
6.充放電試験
作製したリチウムイオン電池に対して以下の条件で充放電試験を行い、4.45V充電後の充放電1サイクル目におけるクーロン効率を確認した。
CC充電:電流0.1C、終了条件4.45V
CC放電:電流0.1C、終了条件2.5V
【0049】
結果を下記表1に示す。また、参考までに、
図6に実施例1及び比較例1についての充放電曲線を示す。
【0050】
【0051】
表1に示す結果から明らかなように、実施例1~5は、比較例1~3よりも初回クーロン効率が顕著に増大した。
図4及び5に示すように、アルミニウムドープにより、スピネル型結晶相の結晶性が高まるとともに、スピネル型結晶相が安定化したためと考えられる。尚、
図6に示すように、実施例1は、比較例1よりも平均電圧が約0.13V高かった。アルミニウムドープにより、スピネル型結晶相の結晶性が高まり、電子伝導度が高くなったためと考えられる。
【0052】
以上の結果から、スピネル型のコバルト酸リチウムよりも、スピネル型のコバルト酸リチウムの一部の元素を特定量のアルミニウムで置換したほうが、リチウムイオン電池の正極活物質として優れた性能を発揮できることが分かった。
【0053】
尚、上記実施例では、アルミニウム置換量が0.05~0.15である実施例1~5を示したが、本開示の正極活物質はこの形態に限定されるものではない。上記したように、本開示の技術は、スピネル型のコバルト酸リチウムの一部の元素をアルミニウムで置換することの有効性を見出したものであり、アルミニウム置換量が0.05未満であっても、アルミニウム置換量が0である場合と比較して、所望の効果を発揮できるものと考えられる。
【0054】
また、上記実施例では、リチウムとその他金属とのモル比が1になるように調整したが、リチウムに対するその他金属のモル比は、スピネル型結晶相が得られる限りにおいて、これに限定されるものではない。本発明者の知見では、Liに対するその他金属のモル比が0.85超1.15以下であれば、十分な効果を発揮できる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る正極活物質を用いたリチウムイオン電池は、例えば、携帯機器用の小型電源から車搭載用の大型電源まで、広く利用できる。
【符号の説明】
【0056】
1 正極
2 負極
3 電解質層
10 リチウムイオン電池