IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東海旅客鉄道株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-鉄道車両の制御装置 図1
  • 特許-鉄道車両の制御装置 図2
  • 特許-鉄道車両の制御装置 図3
  • 特許-鉄道車両の制御装置 図4
  • 特許-鉄道車両の制御装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】鉄道車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/40 20060101AFI20221101BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20221101BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
B60L15/40 D
B60L15/20 G
B60L9/18 L
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018173599
(22)【出願日】2018-09-18
(65)【公開番号】P2020048279
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 宏和
(72)【発明者】
【氏名】加藤 友哉
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-011377(JP,A)
【文献】特開2003-164004(JP,A)
【文献】特開2012-245835(JP,A)
【文献】特開2014-133473(JP,A)
【文献】特開2001-037015(JP,A)
【文献】特開2003-274516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動ユニットを備える鉄道車両の制御装置であって、
目標地点に到達するまでの鉄道車両の走行速度を規定するランカーブを作成するランカーブ作成部と、
前記ランカーブに対し、前記走行速度が予め定められた速度制御幅以内となるようにノッチを選択するノッチ選択部と、
前記ノッチ及び前記走行速度と前記鉄道車両の駆動ユニットのエネルギー効率との関係を表す効率データを記憶した記憶部と、
を備え、
前記ノッチ選択部は、前記効率データを参照して前記駆動ユニットのエネルギー効率が高くなるように前記ノッチを選択する高効率化処理を行い、
前記高効率化処理は、
選択可能な全てのノッチに対し、そのノッチを選択した際の単位時間後又は単位距離走行後の前記走行速度を予測する処理と、
予測した前記走行速度が前記速度制御幅以内となるノッチのうち、前記効率データに基づくエネルギー効率が最も高いノッチを選択する処理と、
を含む、鉄道車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両の制御装置であって、
前記ノッチ選択部は、選択したノッチに基づき、前記鉄道車両が備える複数の主変換装置に同一のトルク指令を出力する処理を行う、鉄道車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄道車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両において、予め定められたランカーブに沿って走行する自動運転での消費電力の低減方法として、駆動ユニット(例えば主電動機)を駆動させない惰行を活用する方法が知られている。
【0003】
しかし、駅間距離が長い高速鉄道では、高速走行時における走行抵抗が大きくなるため、惰行を活用することは容易ではない。そこで、駆動ユニットのエネルギー効率を考慮して、複数の主変換装置に対し個別にトルクを指定する制御が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-236547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記公報のように主変換装置ごとにトルクを指定する制御は、主変換装置間の稼働率(つまり負荷)の平均化、空転滑走の低減等の制御と両立される必要がある。しかし、これらの両立は困難であるか、両立できたとしても制御における処理負荷が大きくなる。また、追加の制御機構が必要となる場合がある。
【0006】
本開示の一局面は、比較的シンプルな制御によって、走行時の消費電力を低減できる鉄道車両の制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、駆動ユニットを備える鉄道車両の制御装置である。鉄道車両の制御装置は、目標地点に到達するまでの鉄道車両の走行速度を規定するランカーブを作成するランカーブ作成部と、ランカーブに対し、走行速度が予め定められた速度制御幅以内となるようにノッチを選択するノッチ選択部と、ノッチ及び走行速度と鉄道車両の駆動ユニットのエネルギー効率との関係を表す効率データを記憶した記憶部と、を備える。ノッチ選択部は、効率データを参照して駆動ユニットのエネルギー効率が高くなるようにノッチを選択する高効率化処理を行う。
【0008】
このような構成によれば、効率データにしたがってノッチが選択されることで、鉄道車両をランカーブに沿って走行させつつ、駆動ユニットのエネルギー効率を高められる。その結果、比較的シンプルな制御によって、消費電力の大きい高速鉄道に対し、自動運転での消費電力を効果的に低減できる。また、既存の車両への適用も容易に行なえる。
【0009】
本開示の一態様では、高効率化処理は、選択可能な全てのノッチに対し、そのノッチを選択した際の単位時間後又は単位距離走行後の走行速度を予測する処理と、予測した走行速度が速度制御幅以内となるノッチのうち、効率データに基づくエネルギー効率が最も高いノッチを選択する処理と、を含んでもよい。このような構成によれば、容易かつ確実に、鉄道車両をランカーブに沿って走行させつつ、消費電力の低減を図ることができる。
【0010】
本開示の一態様は、ノッチ選択部は、選択したノッチに基づき、鉄道車両が備える複数の主変換装置に同一のトルク指令を出力する処理を行ってもよい。このような構成によれば、複数の主変換装置に対する稼働率の平均化、空転滑走の低減等の制御が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態における鉄道車両の制御装置の構成を概略的に示すブロック図である。
図2図2Aは、図1のランカーブ作成部が設定するランカーブの一例を示すグラフであり、図2Bは、図2Aのランカーブにおける速度制御幅の一例を示すグラフである。
図3図3Aは、図1の記憶部に記憶される各ノッチにおける速度-引張力の関係の一例を示すグラフ、図3Bは、図1の記憶部に記憶される各ノッチにおける速度-エネルギー効率の関係の一例を示すグラフである。
図4図4は、図1のノッチ選択部が実行する予測処理の概念を示すグラフである。
図5図5は、図1のノッチ選択部が実行する処理を概略的に示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
図1に示す鉄道車両の制御装置(以下、単に「制御装置」ともいう。)1は、複数の主変換装置11と、複数の主電動機12Aを含む駆動ユニット12と、ATC装置13とを備える鉄道車両に設置される。
【0013】
<主変換装置>
複数の主変換装置11は、それぞれ、集電装置(図示省略)から供給される電力を対応する主電動機12Aに供給することで、主電動機12Aを駆動させる。
【0014】
各主変換装置11は、制御装置1からのトルク指令TCに応じて、主電動機12Aに供給する電力の電流、電圧、及び周波数の制御を行う。これにより、鉄道車両の速度が制御される。
【0015】
<駆動ユニット>
駆動ユニット12は、複数の主電動機12Aによって構成されている。各主電動機12Aは、鉄道車両の走行用の動力源となるモーターである。
【0016】
<ATC装置>
ATC装置13は、自動列車制御(ATC)を行う装置である。ATC装置13は、規定の速度を鉄道車両が超えた場合に、ブレーキ制御を自動で行う。
【0017】
ATC装置13は、地上に設置された地上子によって鉄道車両の現在位置を特定する。またATC装置13は、例えば速度発電機によって鉄道車両の現在の速度を取得する。ATC装置13は、現在の鉄道車両の位置及び速度の情報Iを制御装置1に出力する。
【0018】
<制御装置>
制御装置1は、鉄道車両の自動運転を制御するための装置であり、複数の主変換装置11に対し、力行ノッチ又はブレーキノッチに基づくトルク指令TCを出力する。制御装置1は、ランカーブ作成部2と、ノッチ選択部3と、記憶部4とを備える。
【0019】
(ランカーブ作成部)
ランカーブ作成部2は、目標地点に到達するまでの鉄道車両の走行速度を規定するランカーブ(つまり運転曲線)を作成する。図2Aに示すように、ランカーブRは、出発地点(つまり出発駅)Sから目標地点(つまり到達駅)Gまでの区間において、鉄道列車の位置Xと走行速度Vとの関係を示すグラフである。
【0020】
ランカーブ作成部2は、ダイヤ情報D、現在時刻C、並びに現在の鉄道車両の位置及び速度の情報Iを鉄道車両から受け取る。ランカーブ作成部2は、これらの情報を元にランカーブRを作成する。
【0021】
図2Bに示すように、ランカーブRには、鉄道車両が実際に走行する前に速度制御幅Wが予め定められる。速度制御幅Wは、目標地点Gに一定時間内に到達するために設定された速度の許容幅である。速度制御幅Wは、例えば、制御装置1の速度制御性能、目標地点Gの到着時刻の許容誤差等を勘案して決定される。後述するノッチ選択部3は、走行実績Pが速度制御幅Wからはみ出さないようにノッチを選択する。
【0022】
(記憶部)
記憶部4は、図3Aに例示されるノッチ及び走行速度Vと駆動ユニット12の引張力(つまり、トルク)Tとの関係を示すトルクデータと、図3Bに例示されるノッチ及び走行速度Vと駆動ユニット12のエネルギー効率Eとの関係を表す効率データとを記憶している。
【0023】
図3Aに示す各曲線は、ノッチごとの走行速度Vと引張力Tとの関係を表しており、高い段数のノッチほど右上に示されている。同様に、図3Bに示す各曲線は、ノッチごとの走行速度Vとエネルギー効率Eとの関係を表しており、高い段数のノッチほど右上に示されている。
【0024】
なお、トルクデータ及び効率データは、それぞれ、図3A,3Bのようなグラフを縦横に分割することによって得られるテーブルであってもよい。このテーブルには、ノッチと、走行速度と、トルク又はエネルギー効率との関係が記述される。また、記憶部4は、トルクデータと効率データとを重ねた多次元グラフの形で、これらのデータを格納していてもよい。
【0025】
本実施形態では、駆動ユニット12に含まれる複数の主電動機12Aは同一の特性を有する(つまり、同一の型式である)。そのため、トルクデータ及び効率データは、駆動ユニット12に含まれる複数の主電動機12Aのうち、1つの主電動機12Aに対する実測又はパラメータ計算によって予め算出される。
【0026】
なお、効率データが示すエネルギー効率は、主電動機12Aの効率のみで構成されてもよいが、主変換装置11に含まれるインバータ等の駆動系機器の効率を考慮したものであってもよい。
【0027】
(ノッチ選択部)
ノッチ選択部3は、ランカーブ作成部2が作成したランカーブRに対し、鉄道車両の走行速度が速度制御幅W以内となるようにノッチを選択する。ノッチ選択部3は、例えば、CPU(中央演算装置)と、RAM、ROM等の記憶媒体と、入出力部とを備えるコンピュータにより構成される。
【0028】
ノッチ選択部3は、走行速度が100km/h以上のとき、記憶部4に記憶されたトルクデータTD及び効率データEDを参照して駆動ユニット12のエネルギー効率が高くなるようにノッチを選択する高効率化処理を行う。
【0029】
高効率化処理では、ノッチ選択部3は、まず、その時点で選択可能な全てのノッチに対し、そのノッチを選択した際の単位時間後又は単位距離走行後の走行速度を予測する予測処理を行う。
【0030】
例えば、図4に示すように、現在位置X1で選択可能なノッチが、惰行ノッチ(N0)、力行1ノッチ(N1)、力行2ノッチ(N2)、及び力行3ノッチ(N3)の場合、それぞれのノッチを選択し単位距離ΔX走行した後の予測位置X2における走行速度(つまり予測速度)を演算により予測する。
【0031】
ここで、図3Bに示すように、駆動ユニット12のエネルギー効率は、速度の上昇に伴って低下する傾向にあるため、各ノッチの使用可能速度帯(つまり、使用可能な速度の上限)を予め定めてもよい。これにより、選択可能なノッチを予め絞ることができる。
【0032】
次に、予測した走行速度Vが速度制御幅W以内となるノッチのうち、効率データEDに基づくエネルギー効率が最も高いノッチを選択する選択処理を行う。図4に示す例では、予測位置X2における走行速度Vが速度制御幅Wよりも外になる惰行ノッチ(N0)及び力行3ノッチ(N3)を除いたノッチのうち、効率データEDを参照したときのエネルギー効率が最も高いノッチが選択される。
【0033】
高効率化処理の後、ノッチ選択部3は、選択したノッチに基づき、鉄道車両が備える複数の主変換装置11に同一のトルク指令TCを出力する出力処理を行う。トルク指令TCは、トルクデータTDを参照して決定される。
【0034】
出力処理により、複数の主変換装置11によって、複数の主電動機12Aのトルクが一律に制御される。その結果、複数の主変換装置11間における負荷の均一化を図ることができる。
【0035】
[1-2.処理]
以下、図5のフロー図を参照しつつ、ノッチ選択部3が実行する高効率化処理について説明する。
【0036】
まず、ノッチ選択部3は、ランカーブR、並びに現在の鉄道車両の位置及び速度の情報Iを取得する(ステップS10)。
【0037】
次に、ノッチ選択部3は、現時点で選択可能なノッチN0に対して、ノッチN0を選択した際の単位時間後又は単位距離走行後の走行速度を予測する予測処理を実行する(ステップS20)。
【0038】
その後、ノッチ選択部3は、予測速度が速度制御幅W以内か判定する(ステップS30)。予測速度が速度制御幅W以内の場合(S30:YES)、ノッチ選択部3は、ノッチN0を選択候補とする(ステップS40)。予測速度が速度制御幅W外の場合(S30:NO)、ノッチ選択部3は、ノッチN0を選択候補から除外する(ステップS50)。
【0039】
ノッチ選択部3は、これらのステップS20からステップS40又はステップS50までの処理を、現時点で選択可能なすべてのノッチに対してそれぞれ実行し、選択候補のノッチを決定する。なお、図5では、選択可能なノッチ数が3つの場合が例示されているが、選択可能なノッチ数は鉄道車両の状況に応じて適宜変化する。
【0040】
選択候補のノッチが決定された後、ノッチ選択部3は、効率データEDを参照したときのエネルギー効率が最も高いノッチを選択候補の中から選択する(ステップS60)。さらに、ノッチ選択部3は、選択したノッチに基づくトルク指令TCを複数の主変換装置11に出力する(ステップS70)。
【0041】
[1-3.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)100km/h以上の高速走行時において、効率データEDにしたがってノッチが選択されることで、鉄道車両をランカーブRに沿って走行させつつ、駆動ユニット12のエネルギー効率を高められる。その結果、比較的シンプルな制御によって、消費電力の大きい高速鉄道に対し、自動運転での消費電力を効果的に低減できる。また、既存の車両への適用も容易に行なえる。
【0042】
(1b)ノッチ選択部3が予測速度とエネルギー効率とに基づいてノッチを選択することで、容易かつ確実に、鉄道車両をランカーブRに沿って走行させつつ、消費電力の低減を図ることができる。
【0043】
(1c)ノッチ選択部3が選択したノッチに基づいて複数の主変換装置11に同一のトルク指令を出力することで、複数の主変換装置11に対する稼働率の平均化、空転滑走の低減等の制御が容易になる。
【0044】
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0045】
(2a)上記実施形態の鉄道車両の制御装置1は、1つの主変換装置11を備える鉄道車両にも適用可能である。また、制御装置1は、ATC装置13以外の機器から現在の鉄道車両の位置及び速度の情報Iを取得してもよい。
【0046】
(2b)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0047】
1…鉄道車両の制御装置、2…ランカーブ作成部、3…ノッチ選択部、4…記憶部、
11…主変換装置、12…駆動ユニット、12A…主電動機、13…ATC装置。
図1
図2
図3
図4
図5