IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人東北大学の特許一覧 ▶ 株式会社豊田中央研究所の特許一覧

<>
  • 特許-希土類磁石及びその製造方法 図1
  • 特許-希土類磁石及びその製造方法 図2
  • 特許-希土類磁石及びその製造方法 図3
  • 特許-希土類磁石及びその製造方法 図4
  • 特許-希土類磁石及びその製造方法 図5
  • 特許-希土類磁石及びその製造方法 図6
  • 特許-希土類磁石及びその製造方法 図7
  • 特許-希土類磁石及びその製造方法 図8
  • 特許-希土類磁石及びその製造方法 図9
  • 特許-希土類磁石及びその製造方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】希土類磁石及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/059 20060101AFI20221101BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20221101BHJP
   B22F 1/16 20220101ALI20221101BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20221101BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20221101BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
H01F1/059 160
H01F41/02 G
B22F1/16
B22F1/14 200
B22F3/00 F
C22C38/00 303D
C22C38/00 304
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2018178106
(22)【出願日】2018-09-21
(65)【公開番号】P2020053437
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100186912
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 淳浩
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 紀次
(72)【発明者】
【氏名】庄司 哲也
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 一昭
(72)【発明者】
【氏名】一期崎 大輔
(72)【発明者】
【氏名】木下 昭人
(72)【発明者】
【氏名】杉本 諭
(72)【発明者】
【氏名】松浦 昌志
(72)【発明者】
【氏名】高田 幸生
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/125887(WO,A1)
【文献】特開2015-201628(JP,A)
【文献】特開2016-194140(JP,A)
【文献】国際公開第2017/033266(WO,A1)
【文献】特開2005-325450(JP,A)
【文献】特開2017-055072(JP,A)
【文献】Kenji Hiraga et al.,Microstructure of Zinc-Bonded Sm2Fe17N3 permanent magnet studied by transmission and analytical electron microscopy,Materials Transactions, JIM,日本,社団法人 日本金属学会,1993年06月,Vol.34,pp.569-571
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/00- 1/177
H01F 41/00-41/10
B22F 1/00-12/90
C22C 1/04- 1/05
C22C 18/00-18/04
C22C 33/02
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sm、Fe、及びNを含有し、少なくとも一部がThZn17型又はThNi17型の結晶構造を有する主相と、
Zn及びFeを含有し、前記主相の周囲に存在する副相と、
Sm、Fe、及びN、並びにZnを含有し、前記主相と前記副相との間に存在する中間相と、
を備え、
Znの含有量が、0.89原子%以上、15.20原子%以下であり、かつ、
前記副相のFeの平均含有量が、前記副相全体に対して、30原子%以下である、
希土類磁石。
【請求項2】
前記副相のFeの平均含有量が、前記副相全体に対して、1~30原子%である、請求項1に記載の希土類磁石。
【請求項3】
前記副相が、Γ相、Γ相、δ1k相、δ1p相、及びζ相からなる群より選ばれる一種以上のZn-Fe合金相を含む、請求項1又は2に記載の希土類磁石。
【請求項4】
前記主相が、(Sm(1-i) (Fe(1-j)Co17(ただし、RはSm以外の希土類元素並びにY及びZrからなる群より選ばれる一種以上の元素、iは0~0.50、jは0~0.52、かつ、hは1.5~4.5)で表される相を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の希土類磁石。
【請求項5】
前記主相が、SmFe17(ただし、hは1.5~4.5)で表される相を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の希土類磁石。
【請求項6】
前記主相が、SmFe17で表される相を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の希土類磁石。
【請求項7】
Sm、Fe、及びNを含有し、少なくとも一部がThZn17型又はThNi17型の結晶構造を有する主相を含む磁性粉末の粒子の表面に、Si、P、Al、S、Ti、V、Ge、Y、La、Ce、Zr、Nb、Mo、Sn、Ta、Sm、及びWからなる群より選ばれる一種以上の元素を含有する被膜を形成し、被覆粉末を得ること、及び
不活性ガス雰囲気中又は真空中で、Znを含有する粉末と前記被覆粉末との混合粉末を、Znが前記主相の表面の酸化相に拡散する温度以上、前記主相の分解温度未満で熱処理すること、
含み、
前記混合粉末全体に対して、Znが、0.89原子%以上、15.20原子%以下になるように、前記Znを含有する粉末を配合する
希土類磁石の製造方法。
【請求項8】
前記被膜が、1~10nmの厚さを有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記被膜が、リン酸系被膜、リン酸亜鉛系被膜、シリカ系被膜、及びアルコキシ珪素系被膜からなる群より選ばれる一種以上の被膜を含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記被膜が、Si及びPを含有する、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項11】
前記被膜中に、前記被覆粉末に対して、0.040~0.100質量%のSiを含有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記混合粉末を、加圧しながら熱処理する、請求項7~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記混合粉末を圧縮成形して圧粉体を得て、前記圧粉体を熱処理する、請求項7~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記圧縮成形を磁場中で行う、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
記圧粉体を、加圧しながら熱処理する、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記主相が、(Sm(1-i) (Fe(1-j)Co17(ただし、RはSm以外の希土類元素並びにY及びZrからなる群より選ばれる一種以上の元素、iは0~0.50、jは0~0.52、かつ、hは1.5~4.5)で表される相を含む、請求項7~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記主相が、SmFe17(ただし、hは1.5~4.5)で表される相を含む、請求項7~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記主相が、SmFe17で表される相を含む、請求項7~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記熱処理を350~500℃で行う、請求項7~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記熱処理を420~500℃で行う、請求項7~18のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、希土類磁石、特に、Sm、Fe、及びNを含有し、少なくとも一部がThZn17型又はThNi17型の結晶構造を有する相を備える希土類磁石及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高性能希土類磁石としては、Sm-Co系希土類磁石及びNd-Fe-B系希土類磁石が実用化されているが、近年、これら以外の希土類磁石が検討されている。
【0003】
例えば、Sm、Fe、及びNを含有する希土類磁石(以下、「Sm-Fe-N系希土類磁石」ということがある。)が検討されている。Sm-Fe-N系希土類磁石は、Sm-Fe結晶に、Nが侵入型で固溶していると考えられている。
【0004】
Sm-Fe-N系希土類磁石は、例えば、Sm、Fe、及びNを含有する磁性粉末(以下、「SmFeN粉末」ということがある。)を用いて製造される。SmFeN粉末は、熱によってNが乖離して分解され易い。そのため、Sm-Fe-N系希土類磁石は、SmFeN粉末を樹脂及び/又はゴム等を用いて成形して製造されることが多い。
【0005】
それ以外のSm-Fe-N系希土類磁石の製造方法としては、例えば、特許文献1には、SmFeN粉末とZnを含有する粉末(以下、「Zn粉末」ということがある。)を混合して成形し、その成形体を熱処理する製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-201628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された希土類磁石の製造方法においては、SmFeN粉末のNが乖離して分解する温度よりも低い温度で、SmFeN粉末をZn粉末と共に熱処理することによって、ZnがSmFeN粉末の粒子を結合するボンドの働きをする。しかし、特許文献1に開示された希土類磁石は、磁場が0付近でM-H曲線にクニックが生じて、残留磁束密度Brが低下するという課題を、本発明者らは見出した。なお、クニックとは、M-H曲線(磁化-磁場曲線)の保磁力を示す領域以外の領域において、磁場の僅かな減少に対して、磁化が急激に低下することをいう。
【0008】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものである。すなわち、本開示は、Zn粉末を用いてSmFeN粉末の粒子を結合する希土類磁石において、磁場が0付近でクニックが生じることを抑制することによって、残留磁束密度Brの高い希土類磁石及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討を重ね、本開示の希土類磁石及びその製造方法を完成させた。本開示の希土類磁石及びその製造方法は、次の態様を含む。
〈1〉Sm、Fe、及びNを含有し、少なくとも一部がThZn17型又はThNi17型の結晶構造を有する主相と、
Zn及びFeを含有し、前記主相の周囲に存在する副相と、
Sm、Fe、及びN、並びにZnを含有し、前記主相と前記副相との間に存在する中間相と、
を備え、
前記副相のFeの平均含有量が、前記副相全体に対して、33原子%以下である、
希土類磁石。
〈2〉前記副相のFeの平均含有量が、前記副相全体に対して、1~33原子%である、〈1〉項に記載の希土類磁石。
〈3〉前記副相が、Γ相、Γ相、δ1k相、δ1p相、及びζ相からなる群より選ばれる一種以上のZn-Fe合金相を含む、〈1〉又は〈2〉項に記載の希土類磁石。
〈4〉前記主相が、(Sm(1-i) (Fe(1-j)Co17(ただし、RはSm以外の希土類元素並びにY及びZrからなる群より選ばれる一種以上の元素、iは0~0.50、jは0~0.52、かつ、hは1.5~4.5)で表される相を含む、〈1〉~〈3〉項のいずれか一項に記載の希土類磁石。
〈5〉前記主相が、SmFe17(ただし、hは1.5~4.5)で表される相を含む、〈1〉~〈3〉項のいずれか一項に記載の希土類磁石。
〈6〉前記主相が、SmFe17で表される相を含む、〈1〉~〈3〉項のいずれか一項に記載の希土類磁石。
〈7〉Sm、Fe、及びNを含有し、少なくとも一部がThZn17型又はThNi17型の結晶構造を有する主相を含む磁性粉末の粒子の表面に、Si、P、Al、S、Ti、V、Ge、Y、La、Ce、Zr、Nb、Mo、Sn、Ta、Sm、及びWからなる群より選ばれる一種以上の元素を含有する被膜を形成し、被覆粉末を得ること、及び
不活性ガス雰囲気中又は真空中で、Znを含有する粉末と前記被覆粉末との混合粉末を、Znが前記主相の表面の酸化相に拡散する温度以上、前記主相の分解温度未満で熱処理すること、
を含む、
希土類磁石の製造方法。
〈8〉前記被膜が、1~10nmの厚さを有する、〈7〉項に記載の方法。
〈9〉前記被膜が、リン酸系被膜、リン酸亜鉛系被膜、シリカ系被膜、及びアルコキシ珪素系被膜からなる群より選ばれる一種以上の被膜を含む、〈7〉又は〈8〉項に記載の方法。
〈10〉前記被膜が、Si及びPを含有する、〈7〉又は〈8〉項に記載の方法。
〈11〉前記被膜中に、前記被覆粉末に対して、0.040~0.100質量%のSiを含有する、〈10〉項に記載の方法。
〈12〉前記混合粉末を圧縮成形して圧粉体を得て、前記圧粉体を熱処理する、〈7〉~〈11〉項のいずれか一項に記載の方法。
〈13〉前記圧縮成形を磁場中で行う、〈12〉項に記載の方法。
〈14〉前記混合粉末又は前記圧粉体を、加圧しながら熱処理する、〈7〉~〈13〉項のいずれか一項に記載の方法。
〈15〉前記主相が、(Sm(1-i) (Fe(1-j)Co17(ただし、RはSm以外の希土類元素並びにY及びZrからなる群より選ばれる一種以上の元素、iは0~0.50、jは0~0.52、かつ、hは1.5~4.5)で表される相を含む、〈7〉~〈14〉項のいずれか一項に記載の方法。
〈16〉前記主相が、SmFe17(ただし、hは1.5~4.5)で表される相を含む、〈7〉~〈14〉項のいずれか一項に記載の方法。
〈17〉前記主相が、SmFe17で表される相を含む、〈7〉~〈14〉項のいずれか一項に記載の方法。
〈18〉前記熱処理を350~500℃で行う、〈7〉~〈17〉項のいずれか一項に記載の方法。
〈19〉前記熱処理を420~500℃で行う、〈7〉~〈17〉項のいずれか一項に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、主相の周囲に存在する副相中のFe含有量が所定量以下であることによって、磁場が0付近でのクニックを抑制して、高い残留磁束密度Brを有する希土類磁石を提供することができる。また、本開示によれば、SmFeN粉末の粒子の表面に、Si等の元素を含有する被膜を形成して、副相に主相の表面のFeが拡散することを抑制することによって、Feの含有量が所定量以下の副相を有する希土類磁石の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示の希土類磁石について組織の一部分を示す模式図である。
図2図2は、本開示の希土類磁石の製造方法において、熱処理前の混合粉末の組織の一部分を示す模式図である。
図3図3は、Fe-Znの二元系平衡状態図である。
図4図4は、実施例1及び比較例1~3についてのM-H曲線である。
図5図5は、実施例3の試料について、TEM観察結果を示す図である。
図6図6は、図5において「3」で示す領域の電子線回折図形を示す図である。
図7図7は、比較例3の試料について、TEM観察結果及びTEM-EDXライン分析結果を示す図である。
図8図8は、従来の希土類磁石の製造方法において、SmFeN粉末の粒子の表面にZnが被覆された状態を示す模式図である。
図9図9は、図8において四角で囲まれた部分を拡大した模式図である。
図10図10は、従来の希土類磁石について組織の一部分を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の希土類磁石及びその製造方法の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は、本開示の希土類磁石及びその製造方法を限定するものではない。
【0013】
SmFeN粉末とZn粉末の混合粉末を熱処理して得られる従来の希土類磁石には、その製造方法に起因して次のような問題がある。その問題について、図面を用いて説明する。SmFeN粉末とZn粉末を混合すると、SmFeN粉末の粒子に比べて、Zn粉末の粒子は軟らかいため、SmFeN粉末の粒子の外周は、Zn被膜で被覆される。
【0014】
図8は、従来の希土類磁石の製造方法において、SmFeN粉末の粒子の表面にZnが被覆された状態を示す模式図である。図8において、主相10は、SmFeN粉末の粒子に由来し、Zn相20aはZn粉末の粒子に由来する。主相10は、磁性相である。
【0015】
図9は、図8において四角で囲まれた部分を拡大した模式図である。主相10とZn相20aは界面50で接している。主相10は酸化され易いため、主相10の表面は少なくとも一部が酸化相10aを有している。図9において、破線は酸化相10aが存在する領域を示している。SmFeN粉末とZn粉末の混合粉末を熱処理すると、Zn相20aから酸化相10aにZnが拡散し、そのZnと酸化相10aの酸素が結合して中間相を形成する。中間相については、後述する。また、酸化相10aには主相10を構成しなかったFeが存在するため、SmFeN粉末とZn粉末の混合粉末を熱処理すると、主相10からZn相20aへFeが拡散する。このようにして、従来の希土類磁石が得られる。
【0016】
図10は、従来の希土類磁石900について組織の一部分を示す模式図である。Zn相20aから酸化相10aへのZnの拡散によって(図9、参照)、酸化相10aの位置には中間相30が形成される(図10、参照)。また、酸化相10aからZn相20aへのFeの拡散によって(図9、参照)、Zn相20aの界面50の側にはZn-Fe合金相20bが形成される(図10、参照)。このとき、酸化相10aからZn-Fe合金相20bへのFeの拡散量が多いと、Zn-Fe合金相20bの内部にα-Fe相20cが生成する。
【0017】
主相10は硬磁性であり、α-Fe相20cは軟磁性であるが、図10に示すように、主相10とα-Fe相20cは隣接して存在しておらず、交換結合が作用しない。そのため、α-Fe相20cはクニックの原因となる。
【0018】
酸化相10aはZn相20aからのZnの拡散によって中間相30となり、隣接する主相10同士を磁気分断して保磁力の向上に寄与する。FeはZnとの親和性が高いため、酸化相10aに存在するFeはZn相20aに拡散し易く、多量のFeの拡散は、Zn-Fe合金相20bの内部にα-Fe相20cの生成を招く。酸化相10aに存在するFeの拡散を抑制して、Znの拡散によって生成した中間相30の内部にFeが残留しても、主相10(硬磁性)と中間相30の内部のFe(軟磁性)とは隣接しているため、交換結合が作用し、磁化の向上に寄与し、クニックが発生しない。
【0019】
そこで、本発明者らは、このような多量のFeの拡散を抑制するには、SmFeN粉末の粒子の表面にSi等を含有する被膜を形成した被覆粉末を用い、被覆粉末とZn粉末の混合粉末を熱処理すればよいことを知見した。また、本発明者らは、多量のFeの拡散を抑制すると、Zn-Fe合金相20bの内部にα-Fe相20cが生成することを抑制でき、その結果、クニックの発生を抑制できることを知見した。
【0020】
これらの知見を、さらに図面を追加して説明する。図1は、本開示の希土類磁石について組織の一部分を示す模式図である。本開示の希土類磁石100の製造においては、SmFeN粉末とZn粉末を混合する前に、予め、SmFeN粉末の粒子の表面に、Si等を含有する被膜を形成しておく。図2は、本開示の希土類磁石の製造方法において、熱処理前の混合粉末の組織の一部分を示す模式図である。
【0021】
図2に示すように、主相10とZn相20aの間に被膜60を形成する。主相10の表面には酸化相10aが存在する。被膜60は、Si等、Feとの親和性が高い元素を含有する。被膜60が形成されたSmFeN粉末(被覆粉末)とZn粉末を混合して、混合粉末を得る。そして、混合粉末を熱処理すると、Zn相20aから酸化相10aへZnが拡散し(図2、参照)、そのZnが酸化相10aの酸素と結合して中間相30が形成される(図1、参照)。また、主相10からZn相20aへFeが拡散し(図2、参照)、Zn相20aの界面50の側にはZn-Fe合金相20bが形成される(図1、参照)。このとき、理論に拘束されないが、Feが被膜60のSi等と結合して、酸化相10aからZn相20aへのFeの拡散量が抑制され、その結果、Zn-Fe合金相20bの内部において、Feの含有量が過剰にならないため、α-Fe相20c(図10、参照)の生成が抑制される。
【0022】
被膜60は薄く、被膜60に存在するSi等のFeと結合する元素の含有量は少量であるため、Si等の元素とFeとの結合物も薄く(小さく)、その含有量も少量であると考えられる。実際、この結合物を組織観察及び成分分析等で確認することは難しい。このように、Si等の元素とFeとの結合物が薄く(小さく)、その含有量も少量であるにもかかわらず、多量のFeの拡散を抑制できている理由について、発明者らは次のように考えている。理論に拘束されないが、Si等の元素とFeとの結合物は、Feの拡散のバリアになっているか、Feの拡散を遅延させていると考えられる。
【0023】
Si等の元素とFeとの結合物は、組織観察及び成分分析等で確認することが難しいほどに微小かつ微量であるため、この結合物が、本開示の希土類磁石100の磁気特性等に対して悪影響を及ぼすことは、実用上、少ないと考えられる。
【0024】
酸化相10aからZn相20aへのFeの拡散量が抑制されると、Zn-Fe合金相20bの内部にα-Fe相の生成が抑制できる理由について、平衡状態図を用いて説明する。図3は、Fe-Znの二元系平衡状態図である。出典は、Binary Alloy Phase Diagrams, II Ed., Ed. T.B. Massalski,1990,2,, 1795-1797,Okamoto H.である。
【0025】
図3において、「(Fe)rt」で表される領域は、α-Fe相を示す。「Zn10Fe」で表される領域はΓ相を示す。「Zn40Fe11rt」で表される領域はΓ相を示す。「ZnFe」で表される領域はδ1k相又はδ1p相を示す。「Zn13Fe」で表される領域はζ相を示す。なお、図3から、α-Fe相は、300℃以下で、僅かなZnを固溶する。したがって、本明細書において、特に断りがない限り、α-Fe相には、僅かなZnを固溶しているα-(Fe、Zn)相を含むものとする。
【0026】
図3から理解できるように、Fe-Znの二元系で、Feの含有量が33原子%以下であるとき、Γ相、Γ相、δ1k相、δ1p相、及びζ相が安定である。このことから、Feの含有量が33原子%以下であれば、α-Fe相が生成し難いことが理解できる。これを、図2(熱処理前の状態を示す図)及び図1(熱処理後の状態を示す図)で説明すると、次のようになる。熱処理することによって、酸化相10aからZn相20aにFeが拡散して(図2、参照)、Zn-Fe合金相20bが形成されても(図1、参照)、図2の被膜60が存在するため、Feの拡散量は、それほど多量ではない。このことから、図2において、Zn-Fe合金相20bとZn相20aとの合計で、Feの含有量が33原子%以下となり、Zn-Fe合金相20bの内部に、α-Fe相が生成し難いと考えられる。
【0027】
一方、従来の希土類磁石の製造方法においては、図2の被膜60が存在しないため(図9、参照)、熱処理することによって、酸化相10aからZn相20aに多量のFeが拡散する。これにより、Zn-Fe合金相20bとZn相20aとの合計で、Feの含有量が33原子%を超えるため、図10に示したように、α-Fe相20cが生成し易くなると考えられる。
【0028】
図1(本開示の希土類磁石100)及び図10(従来の希土類磁石900)において、これらの希土類磁石の製造時のZn粉末に由来するZn相20a及びZn-Fe合金相20bを、便宜的に副相20と呼ぶ。そうすると、図1の本開示の希土類磁石100は、主相10、副相20、及び中間相30を備え、中間相30は主相10と副相20との間に存在し、副相20のFeの平均含有量は、副相20全体に対して、33原子%以下である。一方、図10の従来の希土類磁石は、主相10、副相20、及び中間相30を備え、中間相30は主相10と副相20との間に存在し、副相20のFeの平均含有量は、副相20全体に対して、33原子%を超える。そのため、従来の希土類磁石900においては、Zn-Fe合金相20bの内部にα-Fe相20cが存在する。
【0029】
これまで述べてきた知見等によって完成された、本開示の希土類磁石及びその製造方法の構成要件を、次に説明する。
【0030】
《希土類磁石》
本開示の希土類磁石100は、図1に示すように、主相10、副相20、及び中間相30を備える。図1は、本開示の希土類磁石100の組織の一部分を示している。本開示の希土類磁石100は、主相10とその周囲の中間相30が複数存在し、これらが副相20で連結されている。以下、主相10、副相20、及び中間相30それぞれについて説明する。
【0031】
〈主相〉
本開示の希土類磁石100は、主相10によって、磁性を発現する。主相10は、Sm、Fe、及びNを含有する。主相10には、本開示の希土類磁石100及びその製造方法の効果を阻害しない範囲で、Rを含有していてもよい。Rは、Sm以外の希土類元素並びにY及びZrからなる群より選ばれる一種以上の元素である。また、Feの一部はCoで置換されていてもよい。このような主相10を、Sm、R、Fe、Co、及びNのモル比で表すと、(Sm(1-i) (Fe(1-j)Co17である。ここで、hは、1.5以上が好ましく、2.0以上がより好ましく、2.5以上がより一層好ましい。一方、hは、4.5以下が好ましく、4.0以下がより好ましく、3.5以下がより一層好ましい。また、iは、0以上、0.10以上、又は0.20以上であってよく、0.50以下、0.40以下、又は0.30以下であってよい。そして、jは、0以上、0.10以上、又は0.20以上であってよく、0.52以下、0.40以下、又は0.30以下であってよい。
【0032】
(Sm(1-i) (Fe(1-j)Co17については、典型的には、Sm(Fe(1-j)Co17のSmの位置にRが置換しているが、これに限られない。例えば、Sm(Fe(1-j)Co17に、侵入型でRが配置されていてもよい。
【0033】
また、(Sm(1-i) (Fe(1-j)Co17については、典型的には、(Sm(1-i) Fe17のFeの位置にCoが置換しているが、これに限られない。例えば、(Sm(1-i) Fe17に、侵入型でCoが配置されていてもよい。
【0034】
さらに、(Sm(1-i) (Fe(1-j)Co17については、hは1.5~4.5をとり得るが、典型的には、(Sm(1-i) (Fe(1-j)Co17である。(Sm(1-i) (Fe(1-j)Co17全体に対する(Sm(1-i) (Fe(1-j)Co17の含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%がより一層好ましい。一方、(Sm(1-i) (Fe(1-j)Co17のすべてが(Sm(1-i) (Fe(1-j)Co17でなくてもよい。(Sm(1-i) (Fe(1-j)Co17全体に対する(Sm(1-i) (Fe(1-j)Co17の含有量は、98質量%以下、95質量%以下、又は92質量%以下であってよい。
【0035】
本開示の希土類磁石100全体に対する主相10の含有量は、70質量%以上が好ましく、75質量%以上が好ましく、80質量%以上が好ましい。本開示の希土類磁石100全体に対する主相10の含有量が100質量%でないのは、本開示の希土類磁石100中には、副相20及び中間相30を含有するためである。一方、適正量の副相20及び中間相30を確保するため、本開示の希土類磁石100全体に対する主相10の含有量は、99質量%以下、95質量%以下、又は90質量%以下であってよい。
【0036】
また、主相10全体に対するSm(Fe(1-i)Co17の含有量は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上がより一層好ましい。主相10全体に対するSm(Fe(1-i)Co17の含有量が100質量%でないのは、主相10として、Sm(Fe(1-i)Co17以外を含み得るためである。
【0037】
本開示の希土類磁石100の主相10としては、Sm-Fe-N系希土類磁石の磁性相として含み得る相を含む。このような相としては、ThZn17型の結晶構造を有する相、ThNi17型の結晶構造を有する相、及びTbCu型の結晶構造を有する相等が挙げられる。
【0038】
主相10の粒径は、特に制限されない。主相10の粒径は、例えば、1μm以上、5μm以上、又は10μm以上であってよく、50μm以下、30μm以下、又は20μm以下であってよい。本明細書で、特に断りがない限り、粒径は、投影面積円相当径を意味し、粒径が範囲で記載されている場合には、すべての主相10の80%以上がその範囲内に分布しているものとする。
【0039】
〈副相〉
副相20は、主相10の周囲に存在する。後述するように、主相10と副相20との間には中間相30が存在するため、副相20は中間相30の外周に存在する。
【0040】
図1に示すように、副相20は、Zn相20aとZn-Fe合金相20bを有する。すなわち、副相20の中間相30の側は、ZnがFeで合金化されている。このことから、副相20は、Zn及びFeを含有する。上述したように、副相20のFeの平均含有量が、副相20全体に対して、33原子%以下であれば、Zn-Fe合金相20bの内部にα-Fe相20cが生成すること(図10、参照)を抑制できる。その結果、磁場が0付近でのクニックを抑制することができる。α-Fe相20cの生成を抑制する観点からは、副相20のFeの平均含有量は、30原子%以下が好ましく、20原子%以下がより好ましく、15原子%以下がより一層好ましい。
【0041】
一方、Zn-Fe合金相20bの内部にα-Fe相20cが生成することを抑制するという観点からは、副相20のFeの平均含有量は、33原子%以下において、少ない方が好ましいが、0でなくても実質的に問題ない。そのため、副相20のFeの平均含有量は、1原子%以上、3原子%以上、又は5原子%以上であってもよい。
【0042】
図3の状態図から理解できるように、副相20のFeの含有量は33原子%以下であるため、副相20が含み得る相は、Zn相20aと、Zn-Fe合金相20bとして、Γ相(Zn10Fe)、Γ相(Zn40Fe11rt)、δ1k相及びδ1p相(ZnFe)、並びにζ相(Zn13Fe)である。表1に、これらの相それぞれの飽和磁化を示す。なお、表1は、各相の状態図上の組成を有する溶湯を急冷して作製した薄帯の飽和磁化を測定した結果を示すものである。
【0043】
【表1】
【0044】
Γ相、δ1k相、δ1p相、及びζ相の飽和磁化は著しく小さく、Γ相の飽和磁化は、α-Fe相と比べて、非常に小さい。このことから、磁場が0付近でのクニックを抑制するためには、副相20が、Γ相、Γ相、δ1k相、δ1p相、及びζ相からなる群より選ばれる一種以上のZn-Fe合金相を含んでよい。特に、副相20は、Γ相、δ1k相、δ1p相、及びζ相からなる群より選ばれる一種以上のZn-Fe合金相を含んでよい。なお、Γ相、Γ相、δ1k相、δ1p相、及びζ相にそれぞれには、Zn-Fe合金相のほかに、金属間化合物も含むものとする。
【0045】
図3から理解できるように、Γ相、Γ相、δ1k相、δ1p相、及びζ相は、この順で、Feの含有量が減少していく(Feの含有量は、Γ相が最も多い)。そのため、副相20のFe含有量が減少するほど、Γ相が存在しにくくなり、磁場が0付近でのクニックを抑制し易くなる。
【0046】
副相20の厚さは、Feの平均含有量が上述した範囲になり、α-Fe相の生成が抑制できる限り、特に制限されない。副相20の厚さは、典型的には、1nm以上、10nm以上、50nm以上、100nm以上、250nm、又は500nm以上であってよく、100μm以下、50μm以下、又は1μm以下であってよい。
【0047】
〈中間相〉
図1に示したように、中間相30は、主相10と副相20との間に存在する。中間相30は、図2に示した主相10の酸化相10aに、Znが拡散して形成される。そのため、中間相は、Sm、Fe、及びN、並びにZnを含有する。Znの拡散により、主相10を磁気分断し、保磁力向上に寄与する。
【0048】
中間相30におけるZnの含有量は、中間相30全体に対して、5原子%以上であれば、中間相30による保磁力向上を明瞭に認識できる。保磁力向上観点からは、中間相30におけるZnの含有量は、10原子%以上がより好ましく、15原子%以上がより一層好ましい。一方、中間相30におけるZnの含有量が、中間相30全体に対して、50原子%以下であれば、磁化の低下を抑制できる。磁化の低下を抑制する観点からは、中間相30におけるZnの含有量は、本開示の希土類磁石100全体に対して、30原子%以下がより好ましく、20原子%以下がより一層好ましい。
【0049】
〈全体組成〉
本開示の希土類磁石100は、これまでに説明した主相10、副相20、及び中間相30を備えていればよく、その全体組成は、例えば、次のとおりであってよい。
【0050】
本開示の希土類磁石100の組成は、例えば、Sm Fe(100-x-y-z-w-p-q)Co ・(Zn(1-s-t) で表される。Sm Fe(100-x-y-z-w-p-q)Co は被覆粉末に由来し、(Zn(1-s-t) はZn粉末(Znを含有する粉末)に由来する。
【0051】
はSm以外の希土類元素並びにY及びZrから選ばれる1種以上である。Mは、図2の被膜60に由来する、Si、P、Al、S、Ti、V、Ge、Y、La、Ce、Zr、Nb、Mo、Sn、Ta、Sm、及びWからなる群より選ばれる一種以上の元素と、磁性粉末(図2の被膜60を被覆する前のSmFeN粉末)に由来する、Ga、Ti、Cr、Zn、Mn、V、Mo、W、Si、Re、Cu、Al、Ca、B、Ni、及びCから選ばれる1種以上並びに不可避的不純物元素の合計である。Mは、Zn粉末(Znを含有する粉末)に由来する元素で、Zn粉末(Znを含有する粉末)が不可避的に含有するZn以外の不純物元素である。x、y、z、w、p、q、及びrは原子%であり、s及びtは割合(モル比)である。
【0052】
本明細書で、希土類元素とは、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuである。
【0053】
Smは、本開示の希土類磁石100の主要元素であり、その含有量は、本開示の希土類磁石100がこれまでに説明した主相10になるように、適宜決定される。Smの含有量xは、例えば、4.5原子%以上、5.0原子%以上、又は5.5原子%以上であってよく、10.0原子%以下、9.0原子%以下、又は8.0原子%以下であってよい。
【0054】
本開示の希土類磁石100に含まれる希土類元素は、主としてSmであるが、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を阻害しない範囲で、主相10は、Rを含有してもよい。Rの含有量yは、例えば、0原子%以上、0.5原子%以上、又は1.0原子%以上であってよく、5.0原子%以下、4.0原子%以下、又は3.0原子%以下であってよい。
【0055】
Feは、本開示の希土類磁石100の主要元素であり、Sm及びNとともに主相10を形成する。その含有量は、Sm Fe(100-x-y-z-w-p-q)Co 式において、Sm、R、Co、M、N、及びOの残部である。
【0056】
Feの一部をCoで置換してもよい。本開示の希土類磁石100がCoを含有すると、本開示の希土類磁石100のキュリー温度が向上する。Coの含有量zは、例えば、0原子%以上、5原子%以上、又は10原子%以上であってよく、31原子%以下、20原子%以下、又は15原子%以下であってよい。
【0057】
は、図2の被膜60に由来する元素と、本開示の希土類磁石100の磁気特性を阻害しない範囲で、特定の特性、例えば、耐熱性、及び耐食性等を向上させるために添加される元素と、不可避的不純物元素の合計である。Mの含有量wは、例えば、0.001原子%以上、0.005原子%以上、0.010原子%以上、0.050原子%以上、0.100原子%以上、0.500原子%以上、又は1.000原子%以上であってよく、3.000原子%以下、2.500原子%以下、又は2.000原子%以下であってよい。
【0058】
Nは、本開示の希土類磁石100の主要元素であり、その含有量は、本開示の希土類磁石100がこれまでに説明した主相10になるように適宜決定される。Nの含有量pは、例えば、11.6原子%以上、12.5原子%以上、又は13.0原子%以上であってよく、15.6原子%以下、14.5原子%以下、又は14.0原子%以下であってよい。
【0059】
Znは、被覆粉末(Si等を被覆したSmFeN粉末)の粒子を結合するとともに、中間相30を形成して本開示の希土類磁石100の保磁力を向上させる。Znの含有量は、本開示の希土類磁石100の製造時のZn粉末(Znを含有する粉末)の配合量に由来する。Znの含有量は、本開示の希土類磁石100全体に対して、0.89原子%(1質量%)以上が好ましく、2.60原子%(3質量%)以上がより好ましく、4.30原子%(5質量%)以上がより一層好ましい。一方、磁化を低下させない観点からは、Znの含有量は、本開示の希土類磁石100全体に対して、15.20原子%(20質量%)以下が好ましく、11.90原子%(15質量%)以下がより好ましく、8.20原子%(10質量%)以下がより一層好ましい。なお、Znの含有量は、本開示の希土類磁石100全体に対して、(1-s-t)r原子%で表される。
【0060】
は、Zn粉末(Znを含有する粉末)に由来する元素で、Zn粉末(Znを含有する粉末)が不可避的に含有するZn以外の不純物元素である。Zn粉末(Znを含有する粉末)全体に対するMの割合(モル比)sは、例えば、0以上、0.05以上、又は0.10以上であってよく、0.90以下、0.80以下、又は0.70以下であってよい。また、粉末は金属Zn粉末でもよく、このとき、Mの割合(モル比)sは0である。なお、Zn粉末(Znを含有する粉末)は、典型的には、金属Zn粉末である。なお、本明細書において、Zn粉末とは、金属Zn粉末を意味する。金属Znは、Zn以外の元素と合金化していない、純度の高いZnを意味する。金属Znの純度は、例えば、90質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、又は99質量%以上であってよい。
【0061】
O(酸素)は、磁性粉末及びZn粉末(Znを含有する粉末)に由来して、本開示の希土類磁石100中に残留(含有)する。酸素は中間相30に濃化されているため、本開示の希土類磁石100全体の酸素含有量が比較的高くても、優れた保磁力を確保することができる。本開示の希土類磁石100全体に対する酸素含有量は、例えば、5.5原子%以上、6.2原子%以上、又は7.1原子%以上であってよく、10.3原子%以下、8.7原子%以下、又は7.9原子%以下であってよい。なお、本開示の希土類磁石100全体に対する酸素含有量は、q+tr原子%である。本開示の希土類磁石100全体に対する酸素含有量を、質量%に換算すると、酸素含有量は、1.55質量%以上、1.75質量%以上、又は2.00質量%以上であってよく、3.00質量%以下、2.50質量%以下、又は2.25質量%以下であってよい。
【0062】
《製造方法》
次に、本開示の希土類磁石の製造方法について説明する。本開示の希土類磁石は、これまで説明した構成要件を満たしていれば、次に説明する製造方法以外の製造方法で製造されてもよい。本開示の希土類磁石の製造方法(以下、「本開示の製造方法」ということがある。)は、被覆粉末準備工程と熱処理工程を含む。以下、それぞれの工程について説明する。
【0063】
〈被覆粉末準備工程〉
主相10を含む磁性粉末の粒子の表面に、Si、P、Al、S、Ti、V、Ge、Y、La、Ce、Zr、Nb、Mo、Sn、Ta、Sm、及びWからなる群より選ばれる一種以上の元素を含有する被膜60(図2、参照)を形成し、被覆粉末を得る。主相10については、本開示の希土類磁石100で説明した内容と同様のことがいえる。
【0064】
磁性粉末の粒子の表面に形成する被膜60は、Feとの親和性が高い元素を含有する。Feと被膜60が含有する元素が結合することによって、後述する熱処理工程で、主相10からZn相20aへ拡散することを抑制する。
【0065】
被膜60が含有する元素としては、Si、P、Al、S、Ti、V、Ge、Y、La、Ce、Zr、Nb、Mo、Sn、Ta、Sm、及びW並びにこれらの組合せが挙げられる。これらの元素は、Feとの二元系平衡状態図で、合金又は金属間化合物を生成し得るが、Feとの結合は、合金又は金属間化合物に限られず、例えば、吸着等であってもよい。被膜60は、これらの元素を一種以上含有していればよく、被膜60はこれらの元素以外の元素を含有していてもよい。被膜60としては、例えば、リン酸系被膜、リン酸亜鉛系被膜、シリカ系被膜、及びアルコキシ珪素系被膜からなる群より選ばれる一種以上の被膜を含んでよい。
【0066】
被膜60は、薄くてもFeの拡散を抑制する効果を享受できるが、その効果を明瞭に認識するには、被膜60の厚さは、1nm以上が好ましく、2nm以上がより好ましい。一方、被膜60が厚いと、被膜60の含有元素とFeとの結合物が、本開示の希土類磁石100の磁気特性に悪影響を与えるおそれがある。この観点からは、被膜60の厚さは、10nm以下が好ましく、5nm以下がより好ましい。
【0067】
被膜60中のFeと結合する元素の含有量は、Feの拡散抑制、本開示の希土類磁石100の磁気特性への悪影響、及び被膜60の厚さ等を考慮して、Feと結合する元素の種類ごとに適宜決定すればよい。しかし、Siの含有量範囲は、他の元素の含有量範囲として、概ねそのまま適用することができる。Siの含有量は、被覆粉末に対して、0.040質量%以上(0.084原子%以上)、0.050質量%以上(0.105原子%以上)、又は0.060質量%以上(0.126%以上)であってよく、0.100質量%以下(0.211原子%以下)、0.090質量%以下(0.190原子%以下)、又は0.080質量%以下(0.169原子%以下)であってよい。Feと複数元素が結合する場合には、それぞれの元素が、上述した含有量範囲をとり得る。
【0068】
被膜60の形成方法は、特に制限されない。被膜60の形成方法としては、例えば、有機錯体を形成する方法、ナノ粒子を吸着させる方法、及び気相法等が挙げられる。気相法としては、蒸着法、PVD法、及びCVD法等が挙げられる。蒸着法には、アークプラズマデポジション法等が含まれる。
【0069】
被膜60を形成する前の磁性粉末は、本開示の希土類磁石100の主相10を含有していれば、特に制限はない。後述する熱処理工程において、Znを含有する粉末の酸素含有量が少なければ、熱処理時に磁性粉末中の酸素が、酸化相10aに拡散するZnと結合して、中間相30に濃化するため、比較的酸素含有量の多い磁性粉末を用いることができる。これらのことから、磁性粉末の酸素含有量の上限は、磁性粉末全体に対して、比較的高くてもよい。磁性粉末の酸素含有量は、例えば、磁性材原料粉末全体に対して、3.0質量%以下、2.5質量%以下、又は2.0質量%以下であってよい。一方、磁性粉末中の酸素含有量は少ない方が好ましいが、磁性粉末中の酸素量を極度に低減することは、製造コストの増大を招く。このことから、磁性粉末の酸素含有量は、磁性粉末全体に対して、0.1質量%以上、0.2質量%以上、又は0.3質量%以上であってよい。
【0070】
磁性粉末の粒径は、特に制限されない。磁性粉末の粒径は、例えば、1μm以上、5μm以上、又は10μm以上であってよく、50μm以下、30μm以下、又は20μm以下であってよい。
【0071】
〈熱処理工程〉
被覆粉末とZnを含有する粉末との混合粉末を熱処理する。上述したように、Znを含有する粉末は軟らかいため、被覆粉末とZnを含有する粉末を混合すると、被覆粉末の粒子の表面にZnが被覆されたようになる(図2、参照)。Znが被覆粉末の粒子に拡散するとは、図2に示したように、Zn相20aから主相10にZnが拡散することを意味する。そして、図1に示したように、中間相30を形成する。このとき、図2に示したように、主相10からZn相20aにFeが拡散して、図1に示したように、Zn-Fe合金相20bが形成される。しかし、被膜60によって、主相10からZn相20aにFeが過剰に拡散することはないため、従来の希土類磁石900のように、Zn-Fe合金相20bの内部に、α-Fe相20cが生成されることがないこと(図10、参照)は、上述したとおりである。
【0072】
被覆粉末は、磁性粉末に由来する主相10を含有するため、熱処理は、主相10の分解温度未満で行う。この観点からは、熱処理温度は、500℃以下、490℃以下、又は480℃以下であってよい。一方、熱処理は、Znが主相10の表面の酸化相10aに拡散する温度以上で行う。Znが主相10の表面の酸化相10aに拡散する態様としては、固相拡散及び液相拡散のいずれでもよい。液相拡散は、液相のZnが固相の酸化相10aに拡散することを意味する。主相10の表面の少なくとも一部に酸化相10aが存在するが、酸化相10aが存在しない部分については、主相10の表面にZnが拡散してもよい。
【0073】
固相のZnが主相10の表面の酸化相10aに固相拡散する観点からは、熱処理温度は350℃以上、370℃以上、390℃以上、又は410℃以上であってよい。液相のZnが主相10の表面の酸化相10aに拡散する観点からは、熱処理温度は、420℃以上、440℃以上、又は460℃以上であってよい。
【0074】
Znを含有する粉末は、主として金属Znを含有するが、金属Zn以外を含んでもよい。金属Zn以外で主たるものは酸素である。Znを含有する粉末中の酸素含有量が、Znを含有する粉末全体に対し、1.0質量%以下であれば、中間相30に酸素を濃化させて、保磁力を向上させ易い。酸素濃化の観点からは、Znを含有する粉末の酸素含有量は、Znを含有する粉末全体に対し、少ない方が好ましい。Znを含有する粉末の酸素含有量は、Znを含有する粉末全体に対し、0.8質量%以下、0.6質量%以下、0.4質量%以下、又は0.2質量%以下であってよい。一方、Znを含有する粉末の酸素含有量を、Znを含有する粉末全体に対し、過剰に低くすることは、製造コストの増大を招く。この観点から、Znを含有する粉末の酸素含有量は、Znを含有する粉末全体に対し、0.01質量%以上、0.05質量%以上、又は0.09質量%以上であってよい。
【0075】
Znを含有する粉末の粒径は、中間相30が形成されるように、磁性粉末の粒径との関係で適宜決めればよい。Zn粉末の粒径は、例えば、10nm以上、100nm以上、1μm以上、3μm以上、又は10μm以上であってよく、500μm以下、300μm以下、100μm以下、50μm以下、又は20μm以下であってよい。磁性粉末の粒径が1~10μmの場合には、磁性粉末へのZnの被覆を確実にするため、Znを含有する粉末の粒径は、200μm以下、100μm以下、50μm以下、又は20μm以下であってよい。
【0076】
Znを含有する粉末を配合することによって、被覆粉末の粒子が結合される。しかし、Znを含有する粉末は磁化に寄与しないため、Znを含有する粉末の配合量が過剰であると磁化が低下する。被覆粉末の粒子の結合の観点から、混合粉末全体に対して、Zn成分が、1質量%以上、3質量%以上、6質量%以上、又は9質量%以上になるように、Znを含有する粉末を配合してよい。磁化の低下を抑制する観点から、混合粉末全体に対して、Zn成分が、20質量%以下、18質量%以下、又は16質量%以下になるように、Znを含有する粉末を配合してよい。
【0077】
被覆粉末とZnを含有する粉末との混合方法に、特に制限はない。「混合」には、両粉末の混合時に、Zn粉末の粒子が変形して、被覆粉末の粒子の表面にZnが被覆される態様を含む。すなわち、「混合」には、被覆粉末にZnを含有する粉末を混合しつつ、被覆粉末の表面にZnを被覆する態様を含む。混合方法としては、乳鉢、マラーホイール式ミキサー、アジテータ式ミキサー、メカノフュージョン、V型混合器、及びボールミル等を用いて混合する方法が挙げられる。被覆粉末の粒子の外周を、Znで被覆しやすくする観点からは、乳鉢及びボールミルを用いることが好ましい。なお、V型混合器は、2つの筒型容器をV型に連結した容器を備え、その容器を回転することによって、容器中の粉末が、重力と遠心力で集合と分離が繰り返され、混合される装置である。
【0078】
また、混合には、被覆粉末の表面に、Znを堆積させる堆積混合が含まれる。Znの堆積の方法は、磁性粉末の粒子の表面に被膜を形成する方法に準拠するが、磁性粉末の粒子の表面に被膜を形成するときよりも、被覆粉末の表面に堆積するZnの堆積厚さの方が厚いことはもちろんである。
【0079】
また、ロータリーキルンに、磁性粉末とZnを含有する粉末とを装入し、混合と熱処理を同時に行ってもよい。
【0080】
熱処理時間は、混合粉末の量などによって、適宜決定すればよい。熱処理時間には、熱処理温度に達するまでの昇温時間は含まない。熱処理時間は、例えば、5分以上、10分以上、30分以上、又は50分以上であってよく、600分以下、240分以下、又は120分以下であってよい。
【0081】
熱処理時間が経過したら、熱処理対象物を急冷して、熱処理を終了する。急冷により、本開示の希土類磁石100の酸化等を抑制することができる。また、急冷速度は、例えば、2~200℃/秒であってよい。
【0082】
混合粉末の酸化を抑制するため、熱処理は、不活性ガス雰囲気中又は真空中で行うことが好ましい。不活性ガス雰囲気には、窒素ガス雰囲気を含む。
【0083】
これまでに説明した被覆粉末準備工程及び熱処理工程のほかに、次の工程を加えてもよい。
【0084】
〈圧縮成形工程〉
熱処理の前に、混合粉末を圧縮成形して圧粉体を得て、その圧粉体を熱処理してもよい。混合粉末を圧縮成形することによって、混合粉末の個々の粒子が相互に密着するため、良好な中間相30を形成することができ、保磁力を向上させることができる。圧縮成形方法は、金型を用いたプレス等の常法でよい。プレス圧力は、例えば、50MPa以上、100MPa以上、又は150MPa以上であってよく、1500MPa以下、1000MPa以下、又は500MPa以下であってよい。
【0085】
混合粉末の圧縮成形は、磁場中で行ってもよい。これにより、圧粉体に配向性をもたせることができ、磁化を向上させることができる。磁場中で圧縮成形する方法としては、磁石製造時に一般的に行われている方法でよい。印加する磁場は、例えば、0.3T以上、0.5T以上、又は1.0T以上であってよく、5.0T以下、4.0T以下、又は3.0T以下であってよい。
【0086】
〈焼結〉
熱処理の一態様として、加圧しながら熱処理すること、例えば、焼結が挙げられる。本開示の製造方法においては、混合粉末又は圧粉体を加圧しながら熱処理、すなわち、焼結してもよい。焼結においては、混合粉末又は圧粉体に圧力が加わるため、熱処理による効果を短時間かつ確実に得られる。焼結には、焼結対象物の一部が液相になる液相焼結が含まれる。
【0087】
次に焼結条件について説明する。焼結温度は、上述した熱処理温度に準拠して決めればよい。焼結圧力は、希土類磁石の焼結工程で行われる圧力でよい。焼結圧力は、典型的には、50MPa以上、100MPa以上、200MPa以上、又は400MPa以上であってよく、2GPa以下、1.5GPa以下、1.0GPa以下、又は700MPa以下であってよい。焼結は混合粉末又は圧粉体に圧力が加わるため、上述した熱処理時間に比べて短時間でもよい。焼結時間は、典型的には、1分以上、3分以上、又は5分以上であってよく、120分以下、60分以下、又は40分以下であってよい。焼結においては、所望の温度になるまでは加圧せず、所望の温度になってから加圧を開始してもよい。その場合の焼結時間は、加圧開始からの時間とすることが好ましい。
【0088】
焼結時間が経過したら、焼結対象物を金型から取り出して、焼結を終了する。被覆粉末及びZnを含有する粉末の酸化を抑制するため、焼結は、不活性ガス雰囲気中又は真空中で行うことが好ましい。不活性ガス雰囲気には、窒素ガス雰囲気を含む。
【0089】
焼結方法は、常法でよく、例えば、放電プラズマ焼結法(SPS:Spark Plasma Sintering)、及びホットプレス等が挙げられる。焼結対象物が所望の温度に達してから加圧したい場合には、ホットプレスが好ましい。
【0090】
焼結時には、超硬合金製及び鉄鋼材料製の金型を用いるのが典型的であるが、これに限られない。なお、超硬合金とは、炭化タングステンと結合剤であるコバルトとを焼結して得られる合金である。金型に用いる鉄鋼材料としては、例えば、炭素鋼、合金鋼、工具鋼、及び高速度鋼等が挙げられる。炭素鋼としては、例えば、日本工業規格のSS540、S45C、及びS15CK等が挙げられる。合金鋼としては、例えば、日本工業規格のSCr445、SCM445、又はSNCM447等が挙げられる。工具鋼としては、例えば、日本工業規格のSKD5、SKD61、又はSKT4等が挙げられる。高速度鋼としては、例えば、日本工業規格のSKH40、SKH55、又はSKH59等が挙げられる。
【実施例
【0091】
以下、本開示の希土類磁石及びその製造方法を実施例及び比較例により、さらに具体的に説明する。なお、本開示の希土類磁石及びその製造方法は、以下の実施例で用いた条件に限定されるものではない。
【0092】
《試料の準備》
希土類磁石の試料を次の要領で準備した。
【0093】
〈実施例1~3〉
主としてSmFe17を含有する磁性粉末を準備した。磁性粉末の酸素含有量は1.05質量%であった。磁性粉末の粒子の表面に、アルコキシ珪素、及び、リン酸混合法で、Si及びPを含有する厚さ2nmの被膜を形成し、被覆粉末を得た。なお、被膜の厚さはXPSで確認した。また、水素プラズマ反応法(HPMR法)で生成したZn粉末を準備した。Zn粉末の粒径は0.6μm、酸素含有量は0.05質量%であった。そして、メカノフュージョンを用いて、被覆粉末とZn粉末を混合して、混合粉末を得た。
【0094】
混合粉末を磁場中で圧縮成形し圧粉体を得た。圧縮成形の圧力は400MPaであった。印加した磁場は2Tであった。そして、圧粉体を超硬合金製の金型に装入し、アルゴンガス雰囲気中で焼結して、焼結体を得た。この焼結体を、実施例1~3の試料とした。焼結条件としては、金型中の圧粉体を所定温度まで加熱し、所定温度で5分間保持したあと、所定温度のまま、300MPaの圧力を圧粉体に加えて5分間保持した。この所定温度を焼結温度とする。
【0095】
〈比較例1~3〉
磁性粉末の粒子の表面に被膜を形成しなかったことを除き、実施例1~3と同様に、比較例1~3の試料を作製した。
【0096】
《評価》
各試料について、磁化曲線及び保磁力Hcはパルス励磁型磁気特性測定装置(TPM)を用い、残留磁束密度Brは振動試料型磁力計(VSM)を用いて、評価した。測定は室温で行った。また、各試料について、Zn-Fe合金相20bについて、STEM-EDX、電子線回折、及びXRDを用いて生成相の同定を行った。なお、生成相の同定は、STEM-EDX、電子線回折、及びXRDで行い、それぞれの結果に相違がないことを確認した。そして、各試料について、SEM-EDX及びSTEM-EDXを用いて、副相20のFeの平均含有量を測定した。なお、副相20のFeの平均含有量については、SEM-EDX及びSTEM-EDXで測定を行い、それぞれの結果について相違がないことを確認した。
【0097】
評価結果を表2に示す。表2には、被覆粉末の性状と焼結温度を併記した。なお、表2の「Si含有量」は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置を用いて測定した、被覆粉末に対するSi含有量の測定結果である。
【0098】
【表2】
【0099】
図4は、実施例1及び比較例1~3についてのM-H曲線である。なお、図4には、比較例3について、表2で示した「クニック割合」の算出方法を併記した。図5は、実施例3の試料について、TEM観察結果を示す図である。図6は、図5において「3」で示す領域の電子線回折図形を示す図である。図7は、比較例3の試料について、TEM観察結果及びTEM-EDXライン分析結果を示す図である。
【0100】
表2から、磁性粉末の粒子の表面にSi及びPを含有する被膜を施した実施例1~3の試料は、クニックが発生していないことが確認できた。また、実施例1~3の試料の副相には、α-Fe相が生成していないことが確認できた。そして、実施例1~3の試料については、副相のFeの含有量が33質量%以下であることが確認できた。なお、比較例1~3の試料のSi含有量は、磁性粉末が含有する不可避的不純物と考えられる。
【0101】
また、図5及び図6から、実施例3の試料では、主相(SmFe17)に中間相が隣接しており、中間相にはΓ相が隣接していることが確認できた。そして、図7から、比較例3の試料には、α-Fe相が生成していることが確認でき、これによって、クニックが発生していることを理解できた。
【0102】
これらの結果から、本開示の希土類磁石及びその製造方法の効果を確認できた。
【符号の説明】
【0103】
10 主相
10a 酸化相
20a Zn相
20b Zn-Fe合金相
20c α-Fe相
20 副相
30 中間相
50 界面
60 被膜
100 本開示の希土類磁石
900 従来の希土類磁石
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10